(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039840
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】水ジェット推進艇および水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法
(51)【国際特許分類】
B63H 11/113 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
B63H11/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144505
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正吉
(57)【要約】
【課題】バウアップ姿勢に関する船体の操作性を向上させる。
【解決手段】水ジェット推進艇は、船体と、船体に配置される駆動源と、駆動源からの駆動力により噴流を噴射して船体の推進力を発生させるジェット推進機構と、ジェット推進機構からの噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更する噴流変更部と、船体の傾斜角度に応じた検知信号を出力する傾斜検知部と、コントローラと、を備え、コントローラは、傾斜検知部からの検知信号に基づき、船体の傾斜角度と、船体のバウアップ姿勢時の目標角度との角度差を特定する角度差特定処理と、噴流変更部によって噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させて角度差を小さくするフィードバック処理と、を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
前記船体に配置される駆動源と、
前記駆動源からの駆動力により噴流を噴射して前記船体の推進力を発生させるジェット推進機構と、
前記ジェット推進機構からの噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更する噴流変更部と、
前記船体の傾斜角度に応じた検知信号を出力する傾斜検知部と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記傾斜検知部からの前記検知信号に基づき、前記船体の傾斜角度と、前記船体のバウアップ姿勢時の目標角度との角度差を特定する角度差特定処理と、
前記噴流変更部によって前記噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させて前記角度差を小さくするフィードバック処理と、を実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項2】
請求項1に記載の水ジェット推進艇であって、
前記コントローラは、更に、
前記傾斜検知部からの前記検知信号に基づき、前記船体の傾斜角度の角速度を特定する角速度特定処理を実行し、
前記フィードバック処理において、特定された前記傾斜角度の角速度に応じて、前記噴流変更部によって前記噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させる、
水ジェット推進艇。
【請求項3】
請求項2に記載の水ジェット推進艇であって、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、特定された前記傾斜角度の角速度が大きいほど、前記噴流変更部による前記噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方の変更速度を速くする、
水ジェット推進艇。
【請求項4】
請求項1に記載の水ジェット推進艇であって、
前記噴流変更部は、前記ジェット推進機構からの噴流の噴射方向を変更する方向変更部材を有し、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記方向変更部材によって前記噴流の噴射方向を変更させて前記角度差を小さくする噴射方向制御モードを実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項5】
請求項4に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置される操船装置を備え、
前記噴流変更部は、前記操船装置による前記噴射力を変更するための操作に応じて噴流の噴射力を変更可能に構成され、
前記噴射方向制御モードは、前記操船装置による操作に応じた噴射力の変更を許容しつつ、前記角度差を小さくする第1噴射方向制御モードを含む、
水ジェット推進艇。
【請求項6】
請求項5に記載の水ジェット推進艇であって、
前記噴射方向制御モードは、さらに、前記操船装置による操作に応じた噴射力の変更を禁止しつつ、前記角度差を小さくする第2噴射方向制御モードを含み、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記第1噴射方向制御モードと前記第2噴射方向制御モードとを選択的に実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項7】
請求項4に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置される操船装置を備え、
前記方向変更部材は、前記操船装置による前記噴射方向を変更するための操作に応じて噴流の噴射方向を変更可能に構成され、
前記噴射方向制御モードは、前記操船装置による操作に応じた噴射方向の変更を許容しつつ、前記角度差を小さくする第3噴射方向制御モードと、前記操船装置による操作に応じた噴射方向の変更を禁止しつつ、前記角度差を小さくする第4噴射方向制御モードとを含み、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記第3噴射方向制御モードと前記第4噴射方向制御モードとを選択的に実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項8】
請求項1に記載の水ジェット推進艇であって、
前記噴流変更部は、前記ジェット推進機構からの噴流の噴射力を変更する噴射力変更部を有し、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記噴射力変更部によって前記噴流の噴射力を変更させて前記角度差を小さくする噴射力制御モードを実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項9】
請求項8に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置される操船装置を備え、
前記噴射力変更部は、前記操船装置による前記噴射力を変更するための操作に応じて噴流の噴射力を変更可能に構成され、
前記噴射力制御モードは、前記操船装置による操作に応じた噴射力の変更を許容しつつ、前記角度差を小さくする第1噴射力制御モードを含む、
水ジェット推進艇。
【請求項10】
請求項9に記載の水ジェット推進艇であって、
前記噴射力制御モードは、さらに、前記操船装置による操作に応じた噴射力の変更を禁止しつつ、前記角度差を小さくする第2噴射力制御モードを含み、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記第1噴射力制御モードと前記第2噴射力制御モードとを選択的に実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項11】
請求項8に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置される操船装置を備え、
前記噴流変更部は、さらに、前記ジェット推進機構からの噴流の噴射方向を変更する方向変更部材を有し、
前記方向変更部材は、前記操船装置による前記噴射方向を変更するための操作に応じて噴流の噴射方向を変更可能に構成され、
前記噴射力制御モードは、前記操船装置による操作に応じた噴射方向の変更を許容しつつ、前記角度差を小さくする第3噴射力制御モードと、前記操船装置による操作に応じた噴射方向の変更を禁止しつつ、前記角度差を小さくする第4噴射力制御モードとを含み、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記第3噴射力制御モードと前記第4噴射力制御モードとを選択的に実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項12】
請求項1に記載の水ジェット推進艇であって、
前記噴流変更部は、前記ジェット推進機構からの噴流の噴射方向を変更する方向変更部材と、前記ジェット推進機構からの噴流の噴射力を変更する噴射力変更部とを有し、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記噴射力変更部によって前記噴流の噴射方向と噴射力とを変更させて前記角度差を小さくする複合制御モードを実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項13】
請求項12に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置される操船装置を備え、
前記噴射力変更部は、前記操船装置による前記噴射力を変更するための操作に応じて噴流の噴射力を変更可能に構成され、
前記複合制御モードは、前記操船装置による操作に応じた噴射力の変更を許容しつつ、前記角度差を小さくする第1複合制御モードを含む、
水ジェット推進艇。
【請求項14】
請求項13に記載の水ジェット推進艇であって、
前記複合制御モードは、さらに、前記操船装置による操作に応じた噴射力の変更を禁止しつつ、前記角度差を小さくする第2複合制御モードを含み、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記第1複合制御モードと前記第2複合制御モードとを選択的に実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項15】
請求項12に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置される操船装置を備え、
前記方向変更部材は、前記操船装置による前記噴射方向を変更するための操作に応じて噴流の噴射方向を変更可能に構成され、
前記複合制御モードは、前記操船装置による操作に応じた噴射方向の変更を許容しつつ、前記角度差を小さくする第3複合制御モードと、前記操船装置による操作に応じた噴射方向の変更を禁止しつつ、前記角度差を小さくする第4複合制御モードとを含み、
前記コントローラは、
前記フィードバック処理において、前記第3複合制御モードと前記第4複合制御モードとを選択的に実行する、
水ジェット推進艇。
【請求項16】
請求項1に記載の水ジェット推進艇であって、
前記コントローラは、
前記傾斜検知部からの前記検知信号に基づき、前記船体の傾斜角度が、前記目標角度よりも小さいトリガー角度に達したことを条件に、前記フィードバック処理を開始する、
水ジェット推進艇。
【請求項17】
請求項1に記載の水ジェット推進艇であって、
さらに、前記船体に配置され、表示部を有する操船装置を備え、
前記コントローラは、
前記傾斜検知部からの前記検知信号に基づき、前記船体の傾斜角度に応じた傾斜関連情報を前記表示部に表示させる、
水ジェット推進艇。
【請求項18】
船体と、噴流を噴射して前記船体の推進力を発生させるジェット推進機構とを備える水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法であって、
前記船体の上下方向の傾斜角度と、前記船体のバウアップ姿勢時の目標角度との角度差を特定する角度差特定工程と、
前記ジェット推進機構から噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させて前記角度差を小さくするフィードバック工程と、を含む、
水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法。
【請求項19】
請求項18に記載の水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法であって、
前記船体の傾斜角度の角速度を特定する角速度特定工程を含み、
前記フィードバック工程において、特定された前記傾斜角度の角速度に応じて、前記噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させる、
水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法。
【請求項20】
請求項19に記載の水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法であって、
前記フィードバック工程において、特定された前記傾斜角度の角速度が大きいほど、前記噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方の変更速度を速くする、
水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、水ジェット推進艇に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、噴流発生装置と方向変更部材とを備える水ジェット推進艇が知られている。噴流発生装置は、エンジン等の駆動源によって駆動され、船体の外部から吸い込んだ水を噴出口から船体の後方に噴出することにより噴流を発生させる。方向変更部材は、例えばデフレクタであり、噴流発生装置が生成した噴流の噴射方向を変更可能に設けられている。方向変更部材は、船体に配置された操船装置による操作に応じて変位する。このような水ジェット推進艇のオペレータ(乗員)は、船体をバウアップ姿勢にしたい場合がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10864972号明細書
【特許文献2】実開平01-099798号公報
【特許文献3】特開2005-324716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の水ジェット推進艇では、船体のバウアップ姿勢時において、船体の傾斜角度に関係なく、デフレクタは固定の位置に配置されている。そのため、例えば船体のバウバップ姿勢への円滑な移行やバウアップ姿勢の維持など、バウアップ姿勢に関する船体の操作性において改善の余地があった。
【0005】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示される水ジェット推進艇は、船体と、前記船体に配置される駆動源と、前記駆動源からの駆動力により噴流を噴射して前記船体の推進力を発生させるジェット推進機構と、前記ジェット推進機構からの噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更する噴流変更部と、前記船体の傾斜角度に応じた検知信号を出力する傾斜検知部と、コントローラと、を備え、前記コントローラは、前記傾斜検知部からの前記検知信号に基づき、前記船体の傾斜角度と、前記船体のバウアップ姿勢時の目標角度との角度差を特定する角度差特定処理と、前記噴流変更部によって前記噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させて前記角度差を小さくするフィードバック処理と、を実行する。
【0008】
(2)本明細書に開示される水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法は、船体と、噴流を噴射して前記船体の推進力を発生させるジェット推進機構とを備える水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法であって、前記船体の上下方向の傾斜角度と、前記船体のバウアップ姿勢時の目標角度との角度差を特定する角度差特定工程と、前記ジェット推進機構から噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方を変更させて前記角度差を小さくするフィードバック工程と、を含む。
【0009】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、水ジェット推進艇、水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の制御装置、水ジェット推進艇のバウアップ姿勢の維持方法、それらの装置の機能または方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示される水ジェット推進艇によれば、バウアップ姿勢に関する船体の操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の水ジェット推進艇10の構成を概略的に示す側面図
【
図2】ノズル47とデフレクタ51との側面構成を示す説明図
【
図4】水ジェット推進艇10の制御構成を示すブロック図
【
図6】船体20のバウアップ姿勢の一例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.実施形態:
A-1.水ジェット推進艇10の構成:
図1は、本実施形態の水ジェット推進艇10の構成を概略的に示す側面図である。
図1および後述する他の図面には、水ジェット推進艇10の位置を基準とした各方向を表す矢印を示している。より具体的には、各図には、前方(FRONT)、後方(REAR)、上方(UPPER)および下方(LOWER)のそれぞれを表す矢印を示している。前後方向、左右方向(各図の紙面奥行き方向 図示しない)および上下方向(鉛直方向)は、それぞれ互いに直交する方向である。
【0013】
水ジェット推進艇10は、船体20と、駆動装置30と、噴流発生装置40と、噴流調整機構50と、変位機構60と、操船装置70と、制御装置(ECU)80とを備える。
【0014】
(船体20の構成)
船体20は、ハル21と、デッキ22と、シート23とを有する。ハル21は、船体20の船底を構成し、デッキ22は、船体20の上部を構成する。シート23は、船体20の前後方向の略中央に配置されており、図示しないオペレータ(乗員)が着座することができるようになっている。
【0015】
(駆動装置30の構成)
駆動装置30は、エンジン31と、クランクシャフト32と、カップリング33とを有する。駆動装置30は、船体20内において、ハル21とデッキ22との間に区画された空間内に配置されている。エンジン31は、火花点火式の多気筒内燃機関である。エンジン31は、シート23の下方に配置されている。エンジン31は、特許請求の範囲における駆動源の一例である。クランクシャフト32は、エンジン31にて発生した駆動トルクを出力する回転軸である。クランクシャフト32は、駆動装置30から後方に延出するように設けられている。カップリング33は、クランクシャフト32と後述するインペラシャフト45とを連結し、クランクシャフト32の駆動トルクをインペラシャフト45に伝達可能とされている。
【0016】
(噴流発生装置40の構成)
噴流発生装置(水ジェット推進機構)40は、船体20のハル21の後方部分に設けられている。噴流発生装置40は、流路41と、インペラハウジング43と、インペラ44と、インペラシャフト45と、静翼46と、ノズル47とを有する。
【0017】
流路41は、船体20のハル21の後方部分であって、かつ、左右方向の中央部分に形成される。流路41の一端は、水を吸い込むための吸水口42としてハル21から下方に開口している。流路41は、吸水口42から後方に延び、流路41の他端41aは、ハル21から後方に開口している。
【0018】
インペラハウジング43は、前後方向に延びる略筒状体であり、流路41の他端41aからハル21の後方に突出するように設けられている。インペラ44は、インペラハウジング43内に収容されており、上記インペラシャフト45の後端部に連結されている。これにより、インペラ44は、インペラシャフト45の中心軸線周りにインペラシャフト45と一体的に回転するようになっている。静翼46は、インペラハウジング43内において、インペラ44の後方に配置されている。ノズル47は、円筒形の部材であり、インペラハウジング43の後方端43aに固定されている。ノズル47の後方端は水を噴出するための噴出口48として開口している。
【0019】
このような構成により、エンジン31による駆動トルクがインペラシャフト45に伝達され、それに伴ってインペラ44が回転すると、船体20の外部(ハル21の下方)から水が吸水口42を介して流路41に吸い込まれる。流路41に吸い込まれた水は、インペラ44から静翼46に供給される。インペラ44により供給された水は静翼46を通過することにより整流される。整流された水がノズル47を通過して噴出口48から船体20の後方に噴出される。このようにして、噴流発生装置40は、船体20の後方に噴流を発生させることができる。この構成によれば、エンジン31の回転速度が高いほど、噴流発生装置40から噴出される噴流の流量が増加する。従って、エンジン31の運転状態(回転速度)を変更することによって噴流発生装置40から噴出される噴流の量(噴射力)が調整される。駆動装置30および噴流発生装置40は、特許請求の範囲における噴射力変更部の一例である。
【0020】
(噴流調整機構50の構成)
噴流調整機構50は、デフレクタ51とリバースバケット52とを有する。デフレクタ51は、特許請求の範囲における方向変更部材の一例である。
【0021】
図2は、ノズル47とデフレクタ51との側面構成を示す説明図である。
図2(A)~(C)では、デフレクタ51による噴流の噴射方向Fが互いに異なっている。
図2に示すように、デフレクタ51は、噴流発生装置40が生成した噴流の噴射方向Fを上下方向に変更するように設けられている。
【0022】
具体的には、
図1および
図2に示すように、デフレクタ51は、略円筒状(円錐台状)の部材であって、船体20の後進方向に向かうほど内径が小さくなるように形成されている。デフレクタ51は、ノズル47の後方に配置され、ノズル47の噴出口48を覆っている(
図1参照)。従って、ノズル47の噴出口48から噴出した噴流はデフレクタ51内を通って排出口51aから噴出する。
【0023】
デフレクタ51は、船体20に対して、上下方向(鉛直方向)に沿った回動軸(図示しない)を中心に回動可能であり、かつ、左右方向(水平方向)に沿った回動軸(図示しない)を中心に回動可能に設けられている。デフレクタ51の左右の側部のそれぞれには連結部51bが設けられており、連結部51bに連結された操作ケーブル(図示しない)が後述のステアリングハンドル71によって操作されることによりデフレクタ51が左右(上下方向に沿った回動軸を中心)に回動するようになっている。
【0024】
デフレクタ51の上部には連結部51cが設けられており、連結部51cがデフレクタ移動機構61によって移動されることにより、デフレクタ51が左右方向に沿った回動軸を中心に回動するようになっている。
【0025】
リバースバケット52は、デフレクタ51の後方側に配置されており(
図1参照)、噴流発生装置40に対して、前進位置とニュートラル位置と後進位置とに変位可能に設けられている。前進位置は、デフレクタ51の排出口51aを覆わない位置(
図1参照)であり、ニュートラル位置は、デフレクタ51の排出口51aの一部を覆っている位置であり、後進位置は、デフレクタ51の排出口51aの全体を覆っている位置である。
【0026】
(変位機構60の構成)
変位機構60は、デフレクタ移動機構61とリバースバケット移動機構65とを有する(
図1参照)。
【0027】
デフレクタ移動機構61は、操船装置70による操作に応じてデフレクタ51を変位させる。具体的には、
図2に示すように、デフレクタ移動機構61は、トリムアクチュエータ62と、トリムアーム67と、リンク64とを有している。トリムアクチュエータ62は、周知のサーボモータである。トリムアクチュエータ62は、出力軸62aを有している。トリムアクチュエータ62は、出力軸62aの中心軸線が船体20の左右方向と平行となるように配置されている。トリムアーム67は、出力軸62aから鉛直上方向に延びるアームである。トリムアーム67は、その下端において出力軸62aと一体回転可能に固定されている。リンク64は、トリムアーム67とデフレクタ51(連結部51c)とを連結する。
【0028】
図2(A)に示したように、トリムアーム67の長手方向が船体20の水平線Lに対して垂直となるとき(即ち、トリムアーム67が基準位置Pb1にあるとき)、デフレクタ51の中心軸の方向は水平線Lに対して略平行に設定される。このとき、ノズル47の噴出口48から噴出した噴流(以下、単に「ノズル噴流」という場合がある。)はデフレクタ51を通過した後に排出口51aから船体20の後方に水平線Lに対して略平行に噴出される。このときのデフレクタ51の回動位置は「中立位置」と称呼される。
【0029】
図2(B)に示したように、トリムアーム67が基準位置Pb1から側面視において時計回り(右回り)に所定角度α1だけ回転した位置Pdにあるとき、デフレクタ51の中心軸の方向は水平線Lに対して下向きに設定される。このとき、ノズル噴流はデフレクタ51を通過した後に排出口51aから船体20の後方に水平線Lに対して斜め下方に噴出される。このときのデフレクタ51の回動位置は「下向き位置」と称呼される。
【0030】
図2(C)に示したように、トリムアーム67が基準位置Pb1から側面視において反時計回り(左回り)に所定角度α2だけ回転した位置Puにあるとき、デフレクタ51の中心軸の方向は水平線Lに対して上向きに設定される。このとき、ノズル噴流はデフレクタ51を通過した後に排出口51aから船体20の後方に水平線Lに対して斜め上方に噴出される。このときのデフレクタ51の回動位置は「上向き位置」と称呼される。更に、デフレクタ移動機構61は、トリムアーム67の回転位置を位置Puと位置Pdとの間の任意の位置(位置Puと位置Pdとを含む。)に例えば無段階で変更することができる。
【0031】
このような構成により、デフレクタ51は、噴出口48の後方において垂直軸周り及び水平軸周りに回動可能に配置される。従って、デフレクタ51は、その回動位置に応じて噴出口48から船体20の後方に噴出される噴流の左右方向の向き及び上下方向の向きを変更可能である。
【0032】
リバースバケット移動機構65は、シフトアクチュエータ66を有する。シフトアクチュエータ66は、リバースバケット52を変位させる。
【0033】
変位機構60では、さらに、操船装置70による操作が、電気制御によりトリムアクチュエータ62とシフトアクチュエータ66とに伝達される。例えば、操船装置70は、後述する各種の操作を検知するセンサ81,82等を有し、操船装置70が有する各種の操作を検知するセンサ81,82からの出力信号に基づき、操船装置70による操作に応じてトリムアクチュエータ62とシフトアクチュエータ66とが制御される。
【0034】
(操船装置70の構成)
図3は、操船装置70の外観構成を示す説明図である。
図3には、シート23に着座したオペレータから見たステアリングハンドル71の周辺の外観構成が示されている。
図3に示すように、操船装置70は、ステアリングハンドル71と、右グリップ部72Rと、左グリップ部72Lと、第1の操作子73と、第2の操作子74と、第3の操作子75と、スタートスイッチ76と、ストップスイッチ77と、表示部78とを有する。
【0035】
ステアリングハンドル71は、船体20に対して左右方向に延びた一対のバー状の部分を有し、上下方向に沿った回動軸を中心に回動可能に支持されている。右グリップ部72Rは、ステアリングハンドル71の右側に設けられ、左グリップ部72Lは、ステアリングハンドル71の左側に設けられている。水ジェット推進艇10のオペレータは、右グリップ部72Rと左グリップ部72Lとを把持してステアリングハンドル71を回動させることができる。ステアリングハンドル71を回動させると、変位機構60を介して、デフレクタ51を左右方向に回動させることができる。
【0036】
第1の操作子73は、操作量(運転操作量)を変更するためにオペレータが所定の第1範囲内において移動させることができるレバーを含んでいる。第1の操作子73のレバーは右グリップ部72Rの基端部の近傍において回動可能に軸支されている。第1の操作子73の操作量(即ち、レバーの移動量)は、第1の操作子73の上部に配置された第1のポジションセンサ81によって検出されるようになっている。第1のポジションセンサ81は、周知のポテンショメータである。第1の操作子73のレバーに対して所定の前進用操作がなされた状態において、第1の操作子73の操作量に応じてエンジン31の出力(回転速度)が変更される。このように第1の操作子73は、操作量が変更可能な操作子であって、主として水ジェット推進艇10を前進させる際に操作される操作子である。
【0037】
第2の操作子74は、操作量(運転操作量)を変更するためにオペレータが所定の第2範囲内において移動させることができるレバーを含んでいる。第2の操作子74のレバーは左グリップ部72Lの基端部の近傍において回動可能に軸支されている。第2の操作子74の操作量(即ち、レバーの移動量)は、第2の操作子74の上部に配置された第2のポジションセンサ82によって検出されるようになっている。第2のポジションセンサ82は、周知のポテンショメータである。第2の操作子74のレバーに対して後述する所定の後進用操作がなされた状態において、第2の操作子74の操作量に応じてエンジン31の出力(回転速度)が変更される。このように第2の操作子74は、操作量が変更可能な操作子であって、主として水ジェット推進艇10を後進させる際に操作される操作子である。
【0038】
第3の操作子75は、例えば押しボタン式スイッチであり、アップスイッチ75aと、ダウンスイッチ75bとを含んでいる(後述の
図4参照)。第3の操作子75は、例えば左グリップ部72Lの近傍であって左グリップ部72Lの左右方向内側に配置されている。このため、オペレータは、左グリップ部72Lを左手で把持した状態にて左手親指にて第3の操作子75を容易に操作することができる。第3の操作子75が操作されると、その操作に応じて噴流調整機構50(デフレクタ51、リバースバケット52)の位置が変更される。以下、デフレクタ51の回動位置を変更するための第3の操作子75の操作を「トリム操作」という。
【0039】
スタートスイッチ76は、ステアリングハンドル71の前方側の面であって第3の操作子75の近傍に配置されている。スタートスイッチ76は、エンジン31を始動させるためのスイッチであり、例えば押しボタン式スイッチである。
【0040】
ストップスイッチ77は、ステアリングハンドル71の後方側の面であって第3の操作子75の右側に配置されている。ストップスイッチ77は、エンジン31を停止させるためのスイッチであり、例えば押しボタン式スイッチである。
【0041】
ステアリングハンドル71の中央には、表示部78が設けられている。表示部78は、例えば液晶ディスプレイ等により構成され、図面等を表示する。表示部78は、例えばタッチパネルを有し、ユーザによる操作を受け付ける操作受付部として機能してもよい。
図3には、表示部78のX1部が拡大して示されている。
【0042】
(水ジェット推進艇10の制御構成)
図4は、水ジェット推進艇10の制御構成を示すブロック図である。
図4に示すように、駆動装置30は、燃料噴射装置34と、スロットルアクチュエータ35と、スロットルバルブ36と、点火装置37とを含んでいる。燃料噴射装置34は、エンジン31の図示しない燃焼室に燃料を供給する。スロットルアクチュエータ35は、スロットルバルブ36の開度(以下、「スロットル開度」という)を変更する。スロットルバルブ36は、エンジン31の吸気量を調整する。スロットルバルブ36は、エンジン31の複数の気筒に対して共通に備えられている。点火装置37は、燃焼室内の燃料(混合気)に点火する。燃料噴射装置34と点火装置37とはエンジン31の各気筒にそれぞれ備えられている。なお、スロットルバルブ36は、エンジン31の各気筒にそれぞれ備えられていてもよい。
【0043】
ECU80は、エレクトロニックコントロールユニットの略称であり、CPU80aと、ROM80bと、RAM80cと、バックアップRAM(又は不揮発性メモリ 図示しない)と、インタフェースI/F(図示しない)とを含む。CPU80aは、メモリ(ROM80b)に格納されたインストラクション(ルーチン)を実行することにより各種機能を実現する。ECU80は、特許請求の範囲におけるコントローラの一例である。
【0044】
ECU80は、燃料噴射装置34と、スロットルアクチュエータ35と、点火装置37と電気的に接続されている。ECU80は、第3の操作子75と、スタートスイッチ76と、ストップスイッチ77と、第1のポジションセンサ81と、第2のポジションセンサ82と、第3のポジションセンサ83と、第4のポジションセンサ84と、回転速度センサ85と、表示部78と、ジャイロセンサ86と電気的に接続されている。ECU80は、これらスイッチ及びセンサからの出力信号を受信するようになっている。
【0045】
第1のポジションセンサ81は、第1の操作子73の操作量(第1アクセル操作量)Am1を表す出力信号を発生するようになっている。第2のポジションセンサ82は、第2の操作子74の操作量(第2アクセル操作量)Am2を表す出力信号を発生するようになっている。第3のポジションセンサ83は、トリムアクチュエータ62の回転角度αを表す出力信号を発生するようになっている。第4のポジションセンサ84は、シフトアクチュエータ66の回転角度βを表す出力信号を発生するようになっている。回転速度センサ85は、クランクシャフト32の回転速度Neを表す出力信号を発生するようになっている。ジャイロセンサ86は、船体20の姿勢に応じた検知信号を発生し、ECU80は、ジャイロセンサ86からの検知信号に基づき、船体20の上下方向の傾斜角度θ(姿勢)および角速度V(傾斜角度θの単位時間あたりの変化量および角度の変化方向(バウアップ方向またはバウダウン方向))を特定することができる。ジャイロセンサ86は、特許請求の範囲における傾斜検知部の一例である。
【0046】
ECU80は、エンジン31が停止されると、リバースバケット52を前進位置に移動させるようになっている。更に、ECU80は、エンジン31が始動されると、リバースバケット52を前進位置からニュートラル位置に移動させるようになっている。リバースバケット52が前進位置からニュートラル位置に移動させられている航走モードはニュートラルモードと称呼される場合がある。
【0047】
ECU80は、リバースバケット52がニュートラル位置に位置しているとき、第1の操作子73が操作され、第1の操作量Am1が所定の操作量以上となると、リバースバケット52を前進位置に移動させるとともに第1操作量Am1の大きさに応じてスロットルバルブ36の開度を増加させる。このような航走モードは前進モードと称呼される場合がある。
【0048】
ECU80は、リバースバケット52がニュートラル位置に位置しているとき、第2の操作子74が操作され、第2の操作量Am2が所定の操作量以上となると、リバースバケット52を後進位置に移動させるとともに第2の操作量Am2の大きさに応じてスロットルバルブ36の開度を増加させる。このような航走モードは後進モードと称呼される場合がある。
【0049】
A-2.バウアップ制御処理:
図5は、バウアップ制御処理を示すフローチャートである。バウアップ制御処理は、船体20のバウバップ姿勢への円滑な移行やバウアップ姿勢の維持など、バウアップ姿勢に関する船体20の操作性を向上させるための処理である。バウアップ姿勢は、船体20の船首が船尾よりも上方に位置するように船体20が傾斜した姿勢である。
【0050】
図6は、船体20のバウアップ姿勢の一例を示す説明図である。
図6中の符号「θ」は、上下方向において、基準となる水平線Lに対する船体20の傾斜角度であり、船体20がバウアップ姿勢であるとき、傾斜角度θは正の値を示すものとする。符号「θt」は、バウアップ姿勢時の船体20の傾斜角度の目標範囲である。符号「Δθ」は、目標範囲θt(例えば目標範囲θtの中心角度等でもよい)に対する傾斜角度θの相対角度差であり、符号「θs」は、後述のフィードバック処理のトリガーとなるトリガー角度である。トリガー角度θsは、目標範囲θtの下限角度よりも小さい。なお、バウアップ姿勢時の船体20の傾斜角度θは、例えば15度以上でもよいし、さらには30度以上でもよい。なお、目標範囲θtは、特許請求の範囲における目標角度の一例である。なお、目標角度は、所定の角度でもよい。
【0051】
後述するように、バウアップ制御処理は、フィードバック処理(
図5のS150,S160参照)を含む。本実施形態では、フィードバック処理において、デフレクタ51の変位によるノズル噴流の噴射方向Fと、駆動装置30等によるノズル噴流の噴射力(推進力)との両方を変更させて、目標範囲θtに対する傾斜角度θの相対角度差Δθを小さくする複合制御モードが実行される。
【0052】
例えば、船体20の傾斜角度θが目標範囲θtよりも小さい場合(
図6参照)、ECU80が、デフレクタ51の回動位置(以下、「トリム位置」という)を上向き位置側にさらに変位させると、船体20の船首を更に上方に移動させる回転力が船体20に働き、角度差Δθが小さくなる。また、ECU80が、スロットル開度を大きくすると、トリム位置が例えばスタート位置にあれば、船体20の船首を更に上方に移動させる推進力が船体20に働き、角度差Δθが小さくなる。一方、船体20の傾斜角度θが目標範囲θtよりも大きい場合、ECU80が、トリム位置を中立位置側に変位させると、船体20の船首を下方に移動させる回転力が働き、角度差Δθが小さくなる。また、ECU80が、スロットル開度を小さくすると、トリム位置が例えばスタート位置にあれば、船体20の船首を上方に移動させる推力が低下し、角度差Δθが小さくなる。
【0053】
オペレータは、例えば操船装置70にて所定の操作(例えば上記表示部78でのタッチパネル操作)を行うことにより、バウアップモードを設定することができる。この際、オペレータは、バウアップモードについて、フルアシストモードとセミアシストモードとを選択することができる。バウアップモードが設定されると、ECU80は、
図5に示すバウアップ制御処理を実行する。
【0054】
図5に示すように、ECU80は、まず、トリムアクチュエータ62を制御して、トリム位置をスタート位置に配置する(S110)。スタート位置は、上記中立位置よりも上向き位置側の位置(
図6参照)であり、例えば、非バウアップ姿勢(例えば船体20が水平線Lに略平行な通常姿勢(
図1参照))からバウアップ姿勢に移行し易い位置でもよいし、バウアップ姿勢を維持し易い位置でもよい。
【0055】
また、ECU80は、ジャイロセンサ86からの検知信号に基づき、船体20の傾斜角度θに応じた傾斜関連情報を表示部78に表示させる(S110)。傾斜関連情報は、例えば
図3のX1部に示すように、船体20の上下方向の傾斜状態をグラフィカルに表示する情報である。具体的には、表示部78に、船体20の模式
図20aと、水平線Lに対する上下方向の傾斜角度の値が所定角度間隔(例えば10度)ごとに表示されている。船体20の傾斜角度θに連動して、模式
図20aが上下方向に傾動する。そのため、オペレータは、表示部78の表示を見て、船体20の傾斜状態を視覚的に把握できるため、例えば、その表示に応じて体重移動をするなど、バウアップ姿勢に関する船体20の操作性がさらに向上する。
【0056】
次に、ECU80は、船体20の傾斜角度θを検知し(S120)、船体20の傾斜角度θがトリガー角度θs以上であるか否かを判断する(S130)。オペレータは、例えば第1の操作子73の操作(以下、「スロットル操作」という)を行いつつ、自分の体重を船体20の船尾側に移動させるバウアップ動作を試みることにより、船体20の傾斜角度θをトリガー角度θs以上にすることができる。オペレータがバウアップ動作を試みたが、船体20の傾斜角度θがトリガー角度θs未満であれば(S130:No)、再び、S120に戻る。一方、オペレータがバウアップ動作を試みた結果、船体20の傾斜角度θがトリガー角度θs以上になれば(S130:Yes)、S140に進み、フィードバック処理等が開始される。すなわち、ECU80は、船体20の傾斜角度θがトリガー角度θsに達したことを条件に、フィードバック処理を開始する。そのため、船体20が非バウアップ姿勢時に不用意にフィードバック処理が実行されることが抑制される。
【0057】
S140では、ECU80は、ジャイロセンサ86からの検知信号に基づき、船体20の傾斜角度θおよび角速度Vを特定する(S140)。このS140の処理は、特許請求の範囲における角速度特定処理および角速度特定工程の一例である。そして、ECU80は、特定された傾斜角度θに基づき、目標範囲θtに対する傾斜角度θの相対的な角度差Δθを特定し、特定された角速度V(の正負)に基づき、船体20の上下方向の傾斜の移動方向(以下、「傾動方向R」という。
図6参照)を特定する(S150)。このS150の処理は、特許請求の範囲における角度差特定処理および角度差特定工程の一例である。
【0058】
次に、ECU80は、フィードバック処理を実行する(S160,S170)。この処理は、フィードバック工程の一例である。フィードバック処理では、船体20の傾斜角度θに加えて角速度Vに基づき、上記複合制御モードが実行される。このように、船体20の傾動方向Rを示す傾斜角度θの角速度Vに応じて、ノズル噴流の噴射方向Fと噴射力とが変更される。そのため、角速度Vを加味しない構成に比べて、バウアップ姿勢時における上記角度差Δθを効率良く小さくすることができる。
【0059】
本実施形態では、フルアシストモードとセミアシストモードとでは、フォードバック処理の内容が異なる。フルアシストモードは、特許請求の範囲における第2複合制御モードおよび第4複合制御モードの一例であり、セミアシストモードは、特許請求の範囲における第1複合制御モードおよび第3複合制御モードの一例である。
【0060】
フルアシストモードが選択された場合(S160)、オペレータによる操船装置70の操作(スロットル操作、トリム操作)が無効化された状態で、ECU80によるフィードバック処理が実行される。
【0061】
具体的には、ECU80は、特定された角度差Δθおよび角速度Vに基づき、「トリム制御による変更角度」と「スロットル開度による変更角度」とを特定する。トリム制御による変更角度は、トリム位置(デフレクタ51の回動位量)の変更に伴う船体20の傾斜角度θの変更角度の予測値である。スロットル開度による変更角度は、スロットル開度の変更に伴う船体20の傾斜角度θの変更角度の予測値である。トリム制御による変更角度とスロットル開度による変更角度とについては、それぞれ、船体20の角度差Δθを小さくするのに必要な最適値が特定される。フルアシストモードでは、角度差Δθとトリム制御による変更角度とスロットル開度による変更角度とは、例えば次の式1で表すことができる。
<式1>
|角度差Δθ|-|K・(K1・(トリム制御による変更角度)+K2・(スロットル開度による変更角度))|=0
【0062】
なお、例えばフィードバック制御処理の追従遅れ等の制御誤差を考慮して、トリム制御による変更角度とスロットル開度による変更角度との合算角度に係数Kを乗算してもよい。また、リム制御による変更角度とスロットル開度による変更角度とに対して、それぞれ互いに異なる係数K1,K2を乗算して重み付けを異ならせてもよい。フルアシストモードによれば、オペレータによる操作に頼ることなく、例えば船体20のバウバップ姿勢への円滑な移行やバウアップ姿勢の維持など、バウアップ姿勢に関する船体20の操作性が向上する。
【0063】
セミアシストモードが選択された場合(S170)、オペレータによる操船装置70の操作(スロットル操作、トリム操作)が有効化された状態で、ECU80によるフィードバック処理が実行される。
【0064】
具体的には、ECU80は、特定された角度差Δθおよび角速度Vに加えて、「操作による変更角度」に基づき、トリム制御による変更角度とスロットル開度による変更角度とを特定する。操作による変更角度は、オペレータによる操船装置70の操作(スロットル操作、トリム操作)に伴う船体20の傾斜角度θの変更角度の予測値である。セミアシストモードでは、角度差Δθとトリム制御による変更角度とスロットル開度による変更角度と操作による変更角度とは、例えば次の式2で表すことができる。
<式2>
|角度差Δθ|-|K・(K1・(トリム制御による変更角度)+K2・(スロットル開度による変更角度))+K3(操作による変更角度)|=0
【0065】
なお、例えば操船装置70の操作に対する変位機構60の追従遅れ等の制御誤差を考慮して、変更による変更角度に係数K3を乗算してもよい。セミアシストモードによれば、オペレータによる操作を許容してノズル噴流の噴射方向Fや噴射力の変更に反映しつつ、例えば船体20のバウバップ姿勢への円滑な移行やバウアップ姿勢の維持など、バウアップ姿勢に関する船体20の操作性が向上する。
【0066】
S140からS160,S170までの処理は、バウアップ解除になるまで継続される。バウアップ解除は、例えば、操船装置70にてバウアップモードの設定を解除する操作が行われたことでもよいし、オペレータが船体20の船首側に体重移動して船体20を非バウアップ姿勢(例えば傾斜角度θがトリガー角度θs以下)にしたことでもよい。ECU80は、フィードバック処理(S160,S170)の実行後、バウアップ解除になっていない場合(S180:No)、S140に戻る。一方、ECU80は、バウアップ解除になった場合(S180:Yes)、フィードバック処理を中止し、本バウアップ制御処理を終了する。
【0067】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
上記実施形態の水ジェット推進艇10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、駆動装置30の駆動源として、エンジン31を例示したが、これに限らず、例えば電動モータ等でもよい。上記実施形態では、方向変更部材として、デフレクタ51を例示したが、例えばリバースバケット52に本発明を適用してもよい。
【0069】
上記実施形態では、サーボモータを動力源とするトリムアクチュエータ62を例示したが、トリムアクチュエータ62は、他の駆動源(例えばソレノイドや電動機等)を利用する電気式アクチュエータでもよい。さらに、トリムアクチュエータ62は、他の駆動源を利用するアクチュエータ(磁性流体アクチュエータ、電気粘性流体アクチュエータ、油圧アクチュエータなど)でもよい。
【0070】
上記実施形態では、操船装置70による操作を、トリムアクチュエータ62等に伝達する伝達機構として、有線通信による電気制御を挙げたが、これに限らず、無線通信による電気制御でもよい。また、伝達機構は、ステアリングハンドル71とトリムアクチュエータ62等とを操作ケーブルで機械的に連結し、ステアリングハンドル71の移動量に応じた移動量にてデフレクタ51を上下方向に変位させる構成でもよい。
【0071】
上記実施形態におけるバウアップ制御処理(
図5)の内容は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、フィードバック処理において、複合制御モードが実行されたが、噴射方向制御モードが実行されてもよいし、噴射力制御モードが実行されてもよい。噴射方向制御モードは、デフレクタ51の変位によるノズル噴流の噴射方向Fを変更させて、駆動装置30等によるノズル噴流の噴射力を変更させずに目標範囲θtに対する傾斜角度θの相対角度差Δθを小さくするモードである。噴射力制御モードは、デフレクタ51の変位によるノズル噴流の噴射方向Fを変更させずに、駆動装置30等によるノズル噴流の噴射力を変更させて相対角度差Δθを小さくするモードである。
【0072】
上記実施形態のバウアップ制御処理(
図5)において、船体20の傾斜角度θに応じた傾斜関連情報を表示部78に表示させなくてもよい。また、ECU80は、船体20の傾斜角度θがトリガー角度θsに達したことを条件とせずに、フィードバック処理を開始してもよい。また、ECU80は、船体20の角速度Vを特定せずに、例えばジャイロセンサ86からの検知信号に基づき傾動方向Rを特定してもよい。
【0073】
上記実施形態のバウアップ制御処理(
図5)において、ECU80は、特定された角速度Vが大きいほど、噴流変更部による噴流の噴射方向と噴射力との少なくとも一方の変更速度を速くしてもよい。このとき、ECU80は、例えば、角度差Δθに応じて噴流の噴射方向を変更し、変更速度に応じて噴射力を変更してもよい。また、ECU80は、フルアシストモード(S160)とセミアシストモード(S170)とのいずれか一方が実行可能でもよい。また、セミアシストモード(S170)では、スロットル操作とトリム操作とのいずれか一方が有効化されてもよい。また、噴流変更部は、ジェット推進機構からの噴流の噴射方向と噴射力とのいずれか一方を変更してフィードバック処理を行う構成でもよい。
【符号の説明】
【0074】
10:水ジェット推進艇 20:船体 21:ハル 22:デッキ 23:シート 30:駆動装置 31:エンジン 32:クランクシャフト 33:カップリング 34:燃料噴射装置 35:スロットルアクチュエータ 36:スロットルバルブ 37:点火装置 40:噴流発生装置 41:流路 41a:他端 42:吸水口 43:インペラハウジング 43a:後方端 44:インペラ 45:インペラシャフト 46:静翼 47:ノズル 48:噴出口 50:噴流調整機構 51:デフレクタ 51a:排出口 51b,51c:連結部 52:リバースバケット 57L:左側連結部分 57R:右側連結部分 60:変位機構 61:デフレクタ移動機構 62:トリムアクチュエータ 62a:出力軸 64:リンク 65:リバースバケット移動機構 66:シフトアクチュエータ 67:トリムアーム 70:操船装置 71:ステアリングハンドル 72L:左グリップ部 72R:右グリップ部 73:第1の操作子 74:第2の操作子 75:第3の操作子 75a:アップスイッチ 75b:ダウンスイッチ 76:スタートスイッチ 77:ストップスイッチ 78:表示部 80:ECU 80a:CPU 80b:ROM 80c:RAM 81:第1のポジションセンサ 82:第2のポジションセンサ 83:第3のポジションセンサ 84:第4のポジションセンサ 85:回転速度センサ 86:ジャイロセンサ