IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-NOx発生量制御装置 図1
  • 特開-NOx発生量制御装置 図2
  • 特開-NOx発生量制御装置 図3
  • 特開-NOx発生量制御装置 図4
  • 特開-NOx発生量制御装置 図5
  • 特開-NOx発生量制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039851
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】NOx発生量制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240315BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20240315BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20240315BHJP
   F02M 26/46 20160101ALI20240315BHJP
   F02M 26/47 20160101ALI20240315BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20240315BHJP
   F02B 33/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
F02D45/00 360Z
F02D21/08 Z
F02D23/00 Z
F02D45/00 369
F02M26/46 C
F02M26/47 C
F02M26/05
F02B33/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144525
(22)【出願日】2022-09-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】石井 大貴
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】花村 良文
(72)【発明者】
【氏名】山浦 和隆
(72)【発明者】
【氏名】塙 哲史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 穂高
【テーマコード(参考)】
3G005
3G062
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G005EA04
3G005EA16
3G005FA37
3G005JA35
3G005JA39
3G062AA05
3G062GA06
3G062GA15
3G092AA17
3G092AA18
3G092DB03
3G092DC09
3G092EB03
3G092FA24
3G092HB01Z
3G092HD07Z
3G092HE01Z
3G384BA08
3G384BA27
3G384DA02
3G384ED04
3G384FA14Z
3G384FA39Z
3G384FA47Z
3G384FA56Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】走行状態に適した量のNOxを排出するように制御する。
【解決手段】NOx発生量制御装置60は、所定の時間間隔ごとに、SCR装置の下流側で検出されたNOx濃度とエンジンの排気量とに基づいてNOx排出量を算出する排出量算出部631と、複数のNOx排出量を加算したNOx積算量を算出する積算量算出部632と、エンジンを備える移動体の移動距離又はエンジンの出力値に関連付けられたNOx積算量の目標値を特定する特定部633と、エンジンの回転数と燃料噴射量とに基づいて、NOxの予測積算量を示すNOx予測量を推定する推定部634と、NOx予測量とNOx積算量との合計が目標値を超えるか否かを判定する判定部635と、所定の時間間隔ごとのNOx排出予定量を決定し、EGRバルブ30の開度及びターボチャージャー20の開度の少なくともいずれかを決定する決定部と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の時間間隔ごとに、エンジンの排気ガスが流れる排気通路に設けられた浄化装置の下流側で検出されたNOx濃度と、前記エンジンの排気量と、に基づいてNOx排出量を算出する排出量算出部と、
複数の前記NOx排出量を加算したNOx積算量を算出する積算量算出部と、
前記エンジンを備える移動体の移動距離又は前記エンジンの出力値に関連付けられたNOx積算量の目標値を特定する特定部と、
前記エンジンの回転数と燃料噴射量とに基づいて、所定の時間又は所定の前記移動距離におけるNOxの予測積算量を示すNOx予測量を推定する推定部と、
前記NOx予測量と前記NOx積算量との合計が前記目標値を超えるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果と、NOxの排出上限値と、前記目標値と前記NOx積算量との差とに基づいて、前記所定の時間間隔ごとのNOx排出予定量を決定し、当該NOx排出予定量に対応する、前記排気ガスを前記エンジンへ再循環させる通路に設けられたバルブの開度及びターボチャージャーの開度の少なくともいずれかを決定する決定部と、
を有するNOx発生量制御装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記判定部が、前記NOx積算量と前記NOx予測量との合計が前記目標値を超えると判定した場合、NOxの排出下限値に対応する前記NOx排出予定量を決定する、
請求項1に記載のNOx発生量制御装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記判定部が、前記NOx積算量と前記NOx予測量との合計が前記目標値を超えないと判定した場合、前記目標値と前記NOx積算量との差よりも小さい値の前記NOx排出予定量であって、前記排出上限値を上限として前記NOx予測量よりも大きい前記NOx排出予定量を決定する、
請求項1に記載のNOx発生量制御装置。
【請求項4】
前記排出量算出部は、前記浄化装置の上流側で検出されたNOx濃度、及び前記浄化装置の下流側で検出されたNOx濃度に基づいて、前記浄化装置によるNOxの浄化率を算出し、
前記推定部は、前記浄化率にさらに基づいて、前記浄化装置の下流側の前記NOx予測量を決定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のNOx発生量制御装置。
【請求項5】
前記決定部は、前記浄化率が閾値未満である場合、前回決定した前記NOx排出予定量以下の前記NOx排出予定量を決定する、
請求項4に記載のNOx発生量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOx発生量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の排出ガス試験測定において運転モードに応じたエンジンの制御パラメータを設定し、NOx排出量の総量の目標値を超えないようにエンジンを動作させる、制御パラメータ設定装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-138864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の制御パラメータ設定装置においては、車両が特定の運転パターンで所定の走行距離を走行する間に排出されたNOxの排出総量が目標値を超えないようにエンジンを動作させることができる。しかしながら、昨今の排出ガス試験測定においては、複数の運転パターンで走行する車両の走行距離ごとにNOxの排出総量の目標値が定められている。その結果、走行状態に適したNOx排出量よりも低いNOx排出量を排出するようにエンジンを制御する場合があるため、燃費が向上しないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、走行状態に適した量のNOxを排出するように制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係るNOx発生量制御装置は、所定の時間間隔ごとに、エンジンの排気ガスが流れる排気通路に設けられた浄化装置の下流側で検出されたNOx濃度と、前記エンジンの排気量と、に基づいてNOx排出量を算出する排出量算出部と、複数の前記NOx排出量を加算したNOx積算量を算出する積算量算出部と、前記エンジンを備える移動体の移動距離又は前記エンジンの出力値に関連付けられたNOx積算量の目標値を特定する特定部と、前記エンジンの回転数と燃料噴射量とに基づいて、所定の時間又は所定の前記移動距離におけるNOxの予測積算量を示すNOx予測量を推定する推定部と、前記NOx予測量と前記NOx積算量との合計が前記目標値を超えるか否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果と、NOxの排出上限値と、前記目標値と前記NOx積算量との差とに基づいて、前記所定の時間間隔ごとのNOx排出予定量を決定し、当該NOx排出予定量に対応する、前記排気ガスを前記エンジンへ再循環させる通路に設けられたバルブの開度及びターボチャージャーの開度の少なくともいずれかを決定する決定部と、を有する。
【0007】
前記決定部は、前記判定部が、前記NOx積算量と前記NOx予測量との合計が前記目標値を超えると判定した場合、NOxの排出下限値に対応する前記NOx排出予定量を決定してもよい。
【0008】
前記決定部は、前記判定部が、前記NOx積算量と前記NOx予測量との合計が前記目標値を超えないと判定した場合、前記目標値と前記NOx積算量との差よりも小さい値の前記NOx排出予定量であって、前記排出上限値を上限として前記NOx予測量よりも大きい前記NOx排出予定量を決定してもよい。
【0009】
前記排出量算出部は、前記浄化装置の上流側で検出されたNOx濃度、及び前記浄化装置の下流側で検出されたNOx濃度に基づいて、前記浄化装置によるNOxの浄化率を算出し、前記推定部は、前記浄化率にさらに基づいて、前記浄化装置の下流側の前記NOx予測量を決定してもよい。
【0010】
前記決定部は、前記浄化率が閾値未満である場合、前回決定した前記NOx排出予定量以下の前記NOx排出予定量を決定してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走行状態に適した量のNOxを排出するように制御するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一の実施形態に係るNOx発生量制御システム1の構成を示す模式図である。
図2】NOx発生量制御装置60の構成を示す図である。
図3】NOx予測量を推定する動作を説明するための図である。
図4】NOx予測量R2とNOx積算量R1との合計が目標値Sを超えない場合を示す図である。
図5】NOx排出予定量を決定する動作を説明するための図である。
図6】NOx発生量制御装置60における処理シーケンスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<NOx発生量制御システム1の構成>
図1は、一の実施形態に係るNOx発生量制御システム1の構成を示す模式図である。図1に示すように、NOx発生量制御システム1は、エンジン10と、ターボチャージャー20と、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブ30と、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択還元触媒)装置40と、NOxセンサ50aと、NOxセンサ50bと、NOx発生量制御装置60とを備える。NOx発生量制御システム1は、車両に搭載されており、エンジン10の排気ガスに含まれるNOxの発生量を制御する。
【0014】
エンジン10は、燃料と吸気(空気)の混合気を燃焼、膨張させて、動力を発生させる内燃機関である。
【0015】
ターボチャージャー20は、排気ガスの流れを利用して吸気の密度を高くする過給機である。ターボチャージャー20は、排気通路12に設けられたタービン21と、吸気通路11に設けられたコンプレッサ22とを有する。タービン21は、排気ガスのエネルギーを受けて回転する。コンプレッサ22は、タービン21に連結軸を介して連結されている。コンプレッサ22がタービン21とともに回転することで、吸気が圧縮される。ターボチャージャー20は、NOx発生量制御装置60によりタービン21及びコンプレッサ22の開度が制御されることにより、排気ガス量及び吸気量が調整される。
【0016】
EGRバルブ30は、EGR装置31が有するバルブである。EGR装置31は、NOx発生量制御装置60によりEGRバルブ30の開度が制御されることにより、EGRガス量が調整される。
【0017】
SCR装置40は、排気ガス中のNOxを還元反応によって無害な窒素に変換する浄化装置である。SCR装置40は、アンモニアとNOxの還元反応を促進させる還元触媒を有する。還元触媒には、尿素水から生成されたアンモニアが吸着される。還元触媒は、吸着したアンモニアによってNOxを窒素と水に還元し、NOxの排出を低減させる。
【0018】
NOxセンサ50a、NOxセンサ50bは、排気ガス中のNOxの濃度を検出する。NOxセンサ50aは、排気通路12においてSCR装置40の下流側に設けられており、NOxセンサ50bは、排気通路12においてSCR装置40の上流側に設けられている。例えば、NOxセンサ50a、NOxセンサ50bは、内部のチャンバーに取り込まれた排気ガス中のNOxから分解された酸素を検出することで、NOxの濃度を検出する。
【0019】
NOx発生量制御装置60は、NOxセンサ50a、NOxセンサ50bが検出したNOx濃度に基づいてNOx発生量を制御する装置である。NOx発生量制御装置60は、タービン21の開度、コンプレッサ22の開度、EGRバルブ30の開度の少なくともいずれかを大きくしたり小さくしたりすることによりNOxの発生量を制御する。例えば、NOx発生量制御装置60は、NOx発生量を少なくする場合はEGRバルブ30の開度を大きくし、NOx発生量を多くする場合はEGRバルブ30の開度を小さくする。
【0020】
ところで、RDE(Real Driving Emission)試験においては、複数の走行パターンで走行する車両の走行距離又はエンジン出力ごとにNOxの排出総量の規制値が定められている。走行パターンには、NOx排出量が少ない走行パターン(例えば、一定の速度で走行するパターン)とNOx排出量が多い走行パターン(例えば、発進、停止の頻度が高いパターン)とが含まれるため、車両は、走行パターンに適したNOx排出量よりも低いNOx排出量を排出するように制御される。その結果、車両は、走行距離又はエンジン出力ごとのNOx排出総量の規制値を超えないように走行するが、燃費が向上しないという問題が発生する。
【0021】
これに対して、NOx発生量制御装置60は、所定の時間間隔ごとに、NOxセンサ50a、NOxセンサ50bから取得したNOx濃度に基づいて、規制値とNOx排出総量との差を算出し、規制値を超えないNOx排出量(以下、「NOx排出予定量」という)を決定する。そして、NOx発生量制御装置60は、決定したNOx排出予定量に対応するタービン21の開度、コンプレッサ22の開度、EGRバルブ30の開度の少なくともいずれかを決定する。これにより、車両は、走行パターンに適したNOx排出量を排出するとともに燃費が向上する。
以下、NOx発生量制御装置60の構成及び動作を詳細に説明する。
【0022】
<NOx発生量制御装置60の構成>
図2は、NOx発生量制御装置60の構成を示す図である。NOx発生量制御装置60は、通信部61と、記憶部62と、制御部63と、を有する。
【0023】
通信部61は、ネットワーク又はデジタル信号伝送バスを介して情報を送受信するための通信デバイスを含む。通信デバイスは、例えば、CAN(Controller Area Network)コントローラである。
【0024】
記憶部62は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体を有する。記憶部62は、制御部63が実行するプログラムを記憶している。記憶部62は、NOx発生量制御装置60がタービン21の開度とコンプレッサ22の開度とEGRバルブ30の開度とを決定するために必要な各種の情報を記憶している。
【0025】
制御部63は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はECU(Electronic Control Unit)である。制御部63は、記憶部62に記憶されたプログラムを実行することにより、排出量算出部631、積算量算出部632、特定部633、推定部634、判定部635及び決定部636として機能する。
以下、制御部63により実現される各部の構成を説明する。
【0026】
排出量算出部631は、所定の時間間隔ごとに、エンジン10の排気ガスが流れる排気通路12に設けられたSCR装置40の下流側で検出されたNOx濃度とエンジン10の排気量とに基づいてNOx排出量を算出する。所定の時間間隔は、ECU等の制御ユニットが、EGRバルブ30、タービン21又はコンプレッサ22に開度を変化させるための指示を出力してから当該開度が変化するまでの時間よりも小さい間隔であり、例えば0.1秒未満の間隔である。
【0027】
例えば、排出量算出部631は、所定の時間間隔ごとにNOxセンサ50aが検出したNOx濃度と記憶部62に記憶されたエンジン10の排気量とに基づいてNOx排出量を算出する。排出量算出部631は、NOxセンサ50a、NOxセンサ50bが検出したNOx濃度と、車両に設けられた排気流量計測器(不図示)が特定した、排気通路12の排気流量とに基づいて、NOx排出量及びNOx浄化率を算出してもよい。
【0028】
また、排出量算出部631は、SCR装置40の上流側で検出されたNOx濃度、及びSCR装置40の下流側で検出されたNOx濃度に基づいて、SCR装置40によるNOxの浄化率を算出する。例えば、排出量算出部631は、NOxセンサ50a及びNOxセンサ50bそれぞれが検出したNOx濃度の差に基づいてNOxの浄化率を算出する。
【0029】
積算量算出部632は、排出量算出部631が算出した複数のNOx排出量を加算したNOx積算量を算出する。積算量算出部632は、時刻ごとのNOx積算量、車両の走行距離ごとのNOx積載量、エンジン10の出力値ごとのNOx積載量の少なくともいずれかを記憶部62に記憶させる。
【0030】
特定部633は、エンジン10を備える車両の走行距離又はエンジン10の出力値に関連付けられたNOx積算量の目標値を特定する。目標値は、例えば、RDE試験等の排出ガス試験において定められた規制値に対応する目標値であり、規制値と同じ値又は規制値の90%の値である。
【0031】
例えば、特定部633は、所定の時間間隔ごとに記憶部62に記憶された走行距離又はエンジン10の出力値を取得する。そして、特定部633は、記憶部62に記憶された、車両の走行距離又はエンジン10の出力値と目標値とが関連付けられた目標値テーブルを参照することにより、目標値を特定する。
【0032】
推定部634は、エンジン10の回転数と燃料噴射量とに基づいて、所定の時間又は所定の走行距離におけるNOxの予測積算量を示すNOx予測量を推定する。所定の時間は、ECU等の制御ユニットがEGRバルブ30、タービン21又はコンプレッサ22に開度を変化させるための指示を出力してから当該開度が変化するまでの時間であり、例えば0.1秒である。所定の走行距離は、所定の時間に車両が走行する距離であり、例えば0.1秒間に車両が走行する距離である。本実施例においては、所定の時間におけるNOx予測量を推定する動作を説明する。
【0033】
図3は、NOx予測量を推定する動作を説明するための図である。図3の横軸は時刻を示す。時刻T11は、現在の時刻である。図3の縦軸はNOx積算量を示す。図3においては、時刻に関連付けられた目標値S、NOx積算量R1(実線)及びNOx予測量R2(一点鎖線)を示す。時刻T11より前の時刻の目標値Sは、特定部633が所定の時間間隔ごとに特定した目標値Sであり、時刻T11より後の時刻の目標値Sは、推定部634が時刻T10から時刻T11までの目標値Sから算出した単位時間あたりの目標値Sに基づいて推定した目標値Sである。
【0034】
例えば、推定部634は、記憶部62を参照することにより、現在の時刻T11から所定の時間間隔前の時刻T10までのエンジン回転数及び燃料噴射量を取得し、所定の時間間隔におけるNOx排出量の積算値(積算量N11-積算量N10)を算出する。そして、推定部634は、積算値と所定の時間間隔とに基づいて単位時間あたりのNOx排出量を特定し、所定の時間(時刻T11から時刻T12までの時間)におけるNOx予測量R2(積算量N12-積算量N11)を推定する。
【0035】
なお、推定部634は、記憶部62に記憶されたNOx排出量を参照することにより、時刻T10から時刻T11までのNOx排出量の積算値(積算量N11-積算量N10)を算出し、単位時間あたりのNOx排出量を特定してもよい。また、推定部634は、現在の時刻(時刻T11)のエンジン回転数及び燃料噴射量から算出したNOx排出量、又は現在の時刻に関連付けて記憶部62に記憶されたNOx排出量を単位時間あたりのNOx排出量に特定してもよい。
【0036】
推定部634は、排出量算出部631が算出した浄化率にさらに基づいて、SCR装置40の下流側のNOx予測量R2を決定してもよい。例えば、推定部634は、エンジン回転数及び燃料噴射量から算出したNOx排出量と浄化率が示す割合とを積算することによりNOx予測量R2を決定する。推定部634がこのように動作することで、精度が高いNOx予測量R2を算出することができる。
【0037】
判定部635は、NOx予測量R2とNOx積算量R1との合計が目標値Sを超えるか否かを判定する。判定部635は、例えば、現在の時刻から所定の時間が経過した時刻において目標値Sを超えるか否かを判定する。例えば図3においては、判定部635は、時刻T12におけるNOx積算量R1とNOx予測量R2との合計(積算量N12)が時刻T12における目標値S(積算量M12)を超えると判定する。
【0038】
図4は、NOx予測量R2とNOx積算量R1との合計が目標値Sを超えない場合を示す図である。このような場合、判定部635は、時刻T12におけるNOx積算量R1とNOx予測量R2との合計(積算量N12)が、時刻T12における目標値S(積算量M12)を超えないと判定する。
【0039】
決定部636は、判定部635の判定結果と、NOxの排出上限値と、目標値SとNOx積算量R1との差とに基づいて、所定の時間間隔ごとのNOx排出予定量を決定する。決定部636は、判定部635が、NOx積算量R1とNOx予測量R2との合計が目標値Sを超えないと判定した場合、目標値SとNOx積算量R1との差よりも小さい値のNOx排出予定量であって、排出上限値を上限としてNOx予測量R2よりも大きいNOx排出予定量を決定する。
【0040】
図5は、NOx排出予定量を決定する動作を説明するための図である。図5の横軸はNOx排出予定量を示し、縦軸は燃料消費率を示す。図5の横軸には、NOx排出下限値NLとNOx排出上限値NUとを示す。燃料消費率は、単位距離又は単位仕事量あたりの燃料消費量であり、図5においては、燃費F2は、燃費F1よりも消費する燃料の量が大きい。排出上限値NUは、燃料消費率が最も小さい場合のNOx排出量に対応する。排出下限値NLは、エンジン10が車両を動作させるために排出するNOxの下限値である。判定部635は、例えば、図4に示す時刻T11において、時刻T12におけるNOx積算量R1とNOx予測量R2との合計(すなわち積算量N12)が、目標値S(すなわち積算量M12)を超えないと判定する。続いて、決定部636は、図5に示すNOx排出予定量R2よりも大きくて、且つ目標値SとNOx積算値S1との差(図5に示すNOx排出予定量S-R1)よりも小さいNOx排出予定量を決定する。
【0041】
決定部636がこのように動作することで、NOx発生量制御装置60は、走行距離又はエンジン10の出力値ごとのNOx排出量の規制値を超えないように、NOx発生予定量を決定できる。さらに、NOx排出量の規制値を超えない範囲でNOx排出量が大きくなる(すなわち燃料消費率が低くなる)ようにNOx排出量を決定できるので、車両の燃費を向上させることができる。
【0042】
決定部636は、判定部635が、NOx積算量R1とNOx予測量R2との合計が目標値Sを超えると判定した場合、NOxの排出下限値NLに対応するNOx排出予定量を決定する。排出下限値NLに対応するNOx排出予定量は、排出下限値NLと同じNOx排出予定量、又はエンジン10が動作を開始した後に決定した複数のNOx排出予定量のうち、もっとも小さいNOx排出予定量である。
【0043】
具体的には、判定部635は、図3に示す時刻T11において、時刻T12におけるNOx積算量R1とNOx予測量R2との合計(すなわち積算量N12)が、目標値S(すなわち積算量M12)を超えると判定する。続いて、決定部636は、図5に示す排出下限値NLをNOx排出予定量に決定する。決定部636がこのように動作することで、NOx排出量が規制値を超える蓋然性を低くすることができる。
【0044】
ところで、SCR装置40は、還元触媒が活性化する活性化温度において、NOxを窒素に変換する機能を発揮する。しかしながら、還元触媒の温度が活性化温度未満の場合は、NOxを窒素に変換する機能が低下(すなわち、浄化率が低下)している。そこで、決定部636は、浄化率が閾値未満である場合、前回決定したNOx排出予定量以下のNOx排出予定量を決定する。閾値は、活性化温度に対応する浄化率であり、記憶部62に記憶されている。決定部636がこのように動作することで、SCR装置40を昇温している際にNOx排出量が大きくなることを抑制できる。
【0045】
NOx排出予定量を決定した後に、決定部636は、当該NOx排出予定量に対応する、排気ガスをエンジン10へ再循環させる通路に設けられたバルブの開度及びターボチャージャーの開度の少なくともいずれかを決定する。バルブの開度は、EGRバルブ30の開度であり、ターボチャージャーの開度は、例えばタービン21、コンプレッサ22の少なくともいずれかの開度である。例えば、決定部636は、記憶部62を参照することにより、NOx排出予定量に関連付けられたEGRバルブ30の開度、タービン21の開度、コンプレッサ22の開度の少なくともいずれかを決定する。一例として、決定部636は、NOx排出予定量が大きければ大きいほど、EGRバルブ30の開度を小さくするように決定する。
【0046】
<NOx発生量制御装置60における処理シーケンス>
図6は、NOx発生量制御装置60における処理シーケンスの例を示す図である。図6に示す処理シーケンスは、一例として、所定の時間間隔が経過した時刻においてEGRバルブ30の開度及びコンプレッサ22の開度を決定する動作を示している。
【0047】
排出量算出部631は、NOxセンサ50aが検出したNOx濃度とエンジン10の排気量とに基づいてNOx排気量を算出する。また、排出量算出部631は、NOxセンサ50a及びNOxセンサ50bそれぞれが検出したNOx濃度の差に基づいてSCR装置40の浄化率を算出する(S11)。積算量算出部632は、排出量算出部631が算出した複数のNOx排気量を加算したNOx積算量R1を算出する(S12)。
【0048】
推定部634は、記憶部62に記憶されたエンジン10の回転数と燃料噴射量とに基づいて、所定の時間におけるNOx予測量R2を推定する(S13)。特定部633は、記憶部62を参照することにより、車両の走行距離又はエンジン10の出力値に関連付けられたNOx積算量の目標値Sを特定する(S14)。
【0049】
判定部635が、NOx積算量R1とNOx予測量R2との合計が目標値Sを超えないと判定した場合(S15のYES)、決定部636は、NOx予測量R2よりも大きいNOx排出予定量を決定する(S16)。一方、判定部635が、NOx積算量R1とNOx予測量R2との合計が目標値Sを超えると判定した場合(S15のNO)、決定部636は、NOxの排出下限値NLをNOx排出予定量に決定する(S17)。そして、決定部636は、記憶部62を参照することにより、NOx排出予定量に関連付けられたEGRバルブ30の開度とコンプレッサ22の開度とを決定する(S18)。
【0050】
<NOx発生量制御装置60による効果>
以上説明したように、NOx発生量制御装置60は、NOxセンサ50aが検出したNOx濃度とエンジン10の排気量とに基づいてNOx排出量を算出する排出量算出部631と、複数のNOx排出量を加算したNOx積算量を算出する積算量算出部632と、エンジン10を備える移動体の移動距離又はエンジン10の出力値に関連付けられたNOx積算量の目標値を特定する特定部633と、エンジン10の回転数と燃料噴射量とに基づいて、所定の時間又は所定の移動距離におけるNOxの予測積算量を示すNOx予測量を推定する推定部634と、NOx予測量とNOx積算量との合計が目標値を超えるか否かを判定する判定部635と、判定部635の判定結果と、NOxの排出上限値と、目標値とNOx積算量との差とに基づいて、NOx排出予定量を決定し、当該NOx排出予定量に対応する、EGRバルブ30の開度及びターボチャージャー20の開度の少なくともいずれかを決定する決定部636と、を有する。
【0051】
NOx発生量制御装置60がこのように構成されることで、NOx発生量制御装置60は、移動距離又はエンジン10の出力値に関連付けられた複数の目標値それぞれを超えないようにエンジン10のNOx発生量を制御することができる。また、NOx発生量制御装置60は、所定の時間間隔ごとに、エンジン10の回転数及び燃料噴射量に基づいて所定の時間が経過した時刻におけるNOx積算量を予測するため、時刻により走行パターンが異なる場合であっても走行パターンに適した量のNOxを排出するように制御できる。
【0052】
さらに、NOx発生量制御装置60は、所定の時間が経過した時刻においてNOx積算量が目標値を超えないと判定した場合は、当該目標値を超えない範囲でNOx排出量を大きくすることにより、燃料消費率を低く(すなわち燃費を向上)できる。すなわち、NOx発生量制御装置60は、NOx発生量の積算値が目標値を超えないように制御するとともに、エンジン10の燃費を向上させることができる。
【0053】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0054】
1 NOx発生量制御システム
10 エンジン
11 吸気通路
12 排気通路
20 ターボチャージャー
21 タービン
22 コンプレッサ
30 EGRバルブ
31 EGR装置
40 SCR装置
50a NOxセンサ
50b NOxセンサ
60 NOx発生量制御装置
61 通信部
62 記憶部
63 制御部
631 排出量算出部
632 積算量算出部
633 特定部
634 推定部
635 判定部
636 決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-07-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の時間間隔ごとに、エンジンの排気ガスが流れる排気通路に設けられた浄化装置の下流側で検出されたNOx濃度と、前記エンジンの排気量と、に基づいてNOx排出量を算出する排出量算出部と、
現在の時刻までに前記排出量算出部が前記所定の時間間隔ごとに算出した複数の前記NOx排出量を加算したNOx積算量を算出する積算量算出部と、
前記所定の時間間隔ごとに、記憶部に記憶された前記エンジンを備える移動体の移動距離又は前記エンジンの出力値を取得し、前記記憶部に記憶された、前記移動距離又は前記エンジンの出力値と前記NOx積算量の目標値とが関連付けられた目標値テーブルを参照することにより、前記所定の時間間隔ごとの前記目標値を特定する特定部と、
現在の時刻から前記所定の時間間隔前の時刻までの前記エンジンの回転数と燃料噴射量とに基づく前記NOx排出量の積算値を算出し、算出した前記積算値と前記所定の時間間隔とに基づいて単位時間あたりのNOx排出量を特定することにより、前記現在の時刻から所定の時間が経過した時刻までのNOxの予測積算量を示すNOx予測量を推定する推定部と、
前記現在の時刻から前記所定の時間が経過した時刻において、前記現在の時刻から前記所定の時間が経過した時刻における前記NOx予測量と前記現在の時刻における前記NOx積算量との合計が、前記現在の時刻から前記所定の時間が経過した時刻における前記目標値を超えるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果と、NOxの排出上限値と、前記目標値と前記NOx積算量との差とに基づいて、前記所定の時間間隔ごとのNOx排出予定量を決定し、当該NOx排出予定量に対応する、前記排気ガスを前記エンジンへ再循環させる通路に設けられたバルブの開度を決定する決定部と、
を有し、
前記目標値は、排出ガス量の規制値に対応する、所定の時刻における前記NOx予測量と前記所定の時刻における前記NOx積算量との合計の上限値であり、
前記決定部は、前記判定部が、前記NOx積算量と前記NOx予測量との合計が前記目標値を超えると判定した場合、NOxの排出下限値に対応する前記NOx排出予定量を決定し、前記判定部が、前記NOx積算量と前記NOx予測量との合計が前記目標値を超えないと判定した場合、前記目標値と前記NOx積算量との差よりも小さい値の前記NOx排出予定量であって、前記排出上限値を上限として前記NOx予測量よりも大きい前記NOx排出予定量を決定する、
Ox発生量制御装置。
【請求項2】
前記排出量算出部は、前記浄化装置の上流側で検出されたNOx濃度、及び前記浄化装置の下流側で検出されたNOx濃度に基づいて、前記浄化装置によるNOxの浄化率を算出し、
前記推定部は、前記浄化率にさらに基づいて、前記浄化装置の下流側の前記NOx予測量を決定する、
請求項1に記載のNOx発生量制御装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記浄化率が閾値未満である場合、前回決定した前記NOx排出予定量以下の前記NOx排出予定量を決定する、
請求項に記載のNOx発生量制御装置。