(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039866
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/931 20200101AFI20240315BHJP
【FI】
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144560
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】李 明宇
(72)【発明者】
【氏名】二宮 光莉
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AF03
5J070AF05
5J070AF06
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】レーダセンサを用いた物体の検出精度を向上する。
【解決手段】レーダセンサ(11)により検出される測定点に基づいて物体を検出する物体検出装置(50)は、前記測定点に基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域(73)の所定の基準位置を示す基準点(P)の位置を仮定した初期基準点(P_e)を設定し、過去の時刻に記録された記録済基準点(Pi)の履歴を参照し、所定方向へ前記物体領域(81)及び前記基準点(P)を移動させ、前記物体領域(81)内に含まれる前記記録済基準点(Pi)が所定の条件を満たす前記基準点(P)の移動量(dr_bst)を求め、原点(O)を中心とする前記基準点(P)の方位角(θ)を変化させて一回前の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記記録済基準点(Pi)と前記基準点(P)との距離が最短となる前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)を求め、前記物体領域(83)の位置を決定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダセンサ(11)により検出される測定点に基づいて移動体の周囲の物体を検出する物体検出装置(50)において、
前記測定点に基づいて所定の演算処理を実行する物体検出処理部(63)を備え、
前記物体検出処理部(63)は、
前記測定点に基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域(73)の所定の基準位置を示す基準点(P)の位置を仮定した初期基準点(P_e)を設定し、
過去の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記基準点(P)である記録済基準点(Pi)の履歴を参照し、前記移動体の所定の基準位置を示す原点(O)と前記初期基準点(P_e)とを結ぶ直線に沿って前記物体領域(81)及び前記基準点(P)を移動させ、前記物体領域(81)内に含まれる前記記録済基準点(Pi)が所定の条件を満たす前記基準点(P)の移動量(dr_bst)を求め、
前記原点(O)と移動後の前記基準点(P)との距離(r_bst)を維持したまま前記原点(O)を中心とする前記基準点(P)の方位角(θ)を変化させ、一回前の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記記録済基準点(Pi)と前記基準点(P)との距離が最短となる前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)を求め、
前記初期基準点(P_e)の位置(x_e,y_e)、前記基準点(P)の移動量(dr_bst)及び前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)に基づいて前記物体領域(83)の位置を決定する、
物体検出装置。
【請求項2】
前記物体検出処理部(63)は、
過去に遡るほど小さい値となる重み(Wi)を前記記録済基準点(Pi)に対してそれぞれ設定し、前記物体領域(81)内に含まれる前記記録済基準点(Pi)と前記重み(Wi)とに基づいて算出される所定の評価値(Sc)が最大となる前記基準点(P)の移動量(dr_bst)を求める、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記物体検出処理部(63)は、
前記物体領域(73)の所定方向の長さ(L)を拡大した拡大物体領域(81)を設定し、前記拡大物体領域(81)を用いて前記基準点(P)の移動量(dr_bst)及び前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)を求める、
請求項2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記物体検出処理部(63)は、
前記移動体の前後方向に沿って前記物体領域(73)の長さを拡大して前記拡大物体領域(81)を設定する、
請求項3に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記物体検出処理部(63)は、
過去の所定回数分の時刻に記録された前記記録済基準点(Pi)を用いて前記基準点(P)の移動量(dr_bst)を求める、
請求項3に記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記物体検出処理部(63)は、
検出された前記測定点のうち前記レーダセンサ(11)から最も近い位置にある測定点(D)が、前記所定の物体における前記レーダセンサ(11)から最も近い部位による反射点と仮定して前記物体領域(71)の前記初期基準点(P_e)を設定する、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項7】
レーダセンサ(11)により検出される測定点に基づいて移動体の周囲の物体を検出する物体検出方法において、
前記測定点に基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域(73)の所定の基準位置を示す基準点(P)の位置を仮定した初期基準点(P_e)を設定することと、
過去の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記基準点(P)である記録済基準点(Pi)の履歴を参照し、前記移動体の所定の基準位置を示す原点(O)と前記初期基準点(P_e)とを結ぶ直線に沿って前記物体領域(81)及び前記基準点(P)を移動させ、前記物体領域(81)内に含まれる前記記録済基準点(Pi)が所定の条件を満たす前記基準点(P)の移動量(dr_bst)を求めることと、
前記原点(O)と移動後の前記基準点(P)との距離(r_bst)を維持したまま前記原点(O)を中心とする前記基準点(P)の方位角(θ)を変化させ、一回前の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記記録済基準点(Pi)と前記基準点(P)との距離が最短となる前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)を求めることと、
前記初期基準点(P_e)の位置(x_e,y_e)、前記基準点(P)の移動量(dr_bst)及び前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)に基づいて前記物体領域(83)の位置を決定することと、
を含む処理をコンピュータが実行する、物体検出方法。
【請求項8】
レーダセンサ(11)により検出される測定点に基づいて、移動体の周囲の所定の物体の存在を表す物体領域(73)の所定の基準位置を示す基準点(P)の位置を仮定した初期基準点(P_e)を設定することと、
過去の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記基準点(P)である記録済基準点(Pi)の履歴を参照し、前記移動体の所定の基準位置を示す原点(O)と前記初期基準点(P_e)とを結ぶ直線に沿って前記物体領域(81)及び前記基準点(P)を移動させ、前記物体領域(81)内に含まれる前記記録済基準点(Pi)が所定の条件を満たす前記基準点(P)の移動量(dr_bst)を求めることと、
前記原点(O)と移動後の前記基準点(P)との距離(r_bst)を維持したまま前記原点(O)を中心とする前記基準点(P)の方位角(θ)を変化させ、一回前の時刻に記録された前記物体領域(83)の前記記録済基準点(Pi)と前記基準点(P)との距離が最短となる前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)を求めることと、
前記初期基準点(P_e)の位置(x_e,y_e)、前記基準点(P)の移動量(dr_bst)及び前記方位角(θ)の変化量(dθ_bst)に基づいて前記物体領域(83)の位置を決定することと、
を含む処理をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体に搭載される物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の移動体には、移動体の周囲環境を検出する測距センサを用いた物体検出装置が備えられている。例えば車両では、検出される周囲環境の情報に基づいて、先行車両との車間距離を目標車間距離に維持しながら自車両を自動で走行させるためのクルーズコントロール制御(ACC:Adaptive Cruise Control)や、先行車両を含む障害物等との衝突を回避あるいは衝突時の衝撃を軽減するための衝突安全機能が実行される。このような物体検出装置に用いられる測距センサの一つとして、電磁波を送信するとともに反射波を受信し、反射波に基づいて反射点の位置及び反射点までの距離を計測するレーダセンサが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーダセンサから送信される電磁波の照射密度が低い場合には、レーダセンサの計測データに基づく物体の検出精度が低下して、物体の検出結果に基づく移動体の運転制御の精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、レーダセンサを用いた物体の検出精度を向上可能な物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
レーダセンサにより検出される測定点に基づいて移動体の周囲の物体を検出する物体検出装置であって、
前記測定点に基づいて所定の演算処理を実行する物体検出処理部を備え、
前記物体検出処理部は、
前記測定点に基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域の所定の基準位置を示す基準点の位置を仮定した初期基準点を設定し、
過去の時刻に記録された前記物体領域の前記基準点である記録済基準点の履歴を参照し、前記移動体の所定の基準位置を示す原点と前記初期基準点とを結ぶ直線に沿って前記物体領域及び前記基準点を移動させ、前記物体領域内に含まれる前記記録済基準点が所定の条件を満たす前記基準点の移動量を求め、
前記原点と移動後の前記基準点との距離を維持したまま前記原点を中心とする前記基準点の方位角を変化させ、一回前の時刻に記録された前記物体領域の前記記録済基準点と前記基準点との距離が最短となる前記方位角の変化量を求め、
前記初期基準点の位置、前記基準点の移動量及び前記方位角の変化量に基づいて前記物体領域の位置を決定する、物体検出装置が提供される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、
レーダセンサにより検出される測定点に基づいて移動体の周囲の物体を検出する物体検出方法であって、
前記測定点に基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域の所定の基準位置を示す基準点の位置を仮定した初期基準点を設定することと、
過去の時刻に記録された前記物体領域の前記基準点である記録済基準点の履歴を参照し、前記移動体の所定の基準位置を示す原点と前記初期基準点とを結ぶ直線に沿って前記物体領域及び前記基準点を移動させ、前記物体領域内に含まれる前記記録済基準点が所定の条件を満たす前記基準点の移動量を求めることと、
前記原点と移動後の前記基準点との距離を維持したまま前記原点を中心とする前記基準点の方位角を変化させ、一回前の時刻に記録された前記物体領域の前記記録済基準点と前記基準点との距離が最短となる前記方位角の変化量を求めることと、
前記初期基準点の位置、前記基準点の移動量及び前記方位角の変化量に基づいて前記物体領域の位置を決定することと、
を含む処理をコンピュータが実行する、物体検出方法が提供される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、
レーダセンサにより検出される測定点に基づいて、移動体の周囲の所定の物体の存在を表す物体領域の所定の基準位置を示す基準点の位置を仮定した初期基準点を設定することと、
過去の時刻に記録された前記物体領域の前記基準点である記録済基準点の履歴を参照し、前記移動体の所定の基準位置を示す原点と前記初期基準点とを結ぶ直線に沿って前記物体領域及び前記基準点を移動させ、前記物体領域内に含まれる前記記録済基準点が所定の条件を満たす前記基準点の移動量を求めることと、
前記原点と移動後の前記基準点との距離を維持したまま前記原点を中心とする前記基準点の方位角を変化させ、一回前の時刻に記録された前記物体領域の前記記録済基準点と前記基準点との距離が最短となる前記方位角の変化量を求めることと、
前記初期基準点の位置、前記基準点の移動量及び前記方位角の変化量に基づいて前記物体領域の位置を決定することと、
を含む処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、レーダセンサを用いた物体の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る移動体の一例としての車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】物体検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】物体検出装置による処理動作を示すフローチャートである。
【
図4】物体検出装置による各ステップの処理における物体領域を示す説明図である。
【
図5】最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理を説明するために示す図である。
【
図6】最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理により設定される物体領域の位置と実際の物体の位置とのずれを示す説明図である。
【
図7】物体検出装置による移動量算出処理のフローチャートである。
【
図8】物体検出装置による方位角変化量算出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.移動体の構成例>
まず、本実施形態に係る物体検出装置を搭載した移動体の構成例を説明する。
【0013】
本実施形態に係る物体検出装置は、四輪自動車や自動二輪車等の車両の他、船舶、航空機又はロボット等の種々の移動体に適用することができる。本実施形態では、移動体として四輪自動車(車両)に物体検出装置を適用する例を説明する。
【0014】
図1は、車両1の構成例を示す図である。
図1に示した車両1は、内燃機関や駆動用モータ等の駆動力源20から出力される駆動トルクを左右の前輪へ伝達する二輪駆動の車両1として構成されている。車両1は、前後左右の車輪へ駆動力を伝達する四輪駆動の車両であってもよい。また、車両1が電気自動車やハイブリッド電気自動車の場合、車両1には、駆動用モータへ供給される電力を蓄積する二次電池や、駆動用モータへ供給される電力及びバッテリに充電される電力を発電する発電機、駆動用モータの駆動を制御するインバータ装置等が搭載される。
【0015】
車両1は、車両1の走行を制御する機器として、駆動力源20、電動ステアリング装置25及びブレーキ液圧制御ユニット30を備えている。駆動力源20は、図示しない変速機や差動機構を介して車輪に伝達される駆動トルクを出力する。駆動力源20や変速機の駆動は車両制御装置40により制御される。
【0016】
電動ステアリング装置25は図示しない電動モータやギヤ機構を含み、車両制御装置40により制御されることによって左右の前輪の操舵角を調節する。車両制御装置40は、手動運転中には、ドライバによるステアリングホイールの操舵角に基づいて電動ステアリング装置25を制御する。また、車両制御装置40は、自動運転中には、演算により設定される目標操舵角に基づいて電動ステアリング装置25を制御する。
【0017】
ブレーキ液圧制御ユニット30は、それぞれの車輪に設けられたブレーキキャリパに供給する油圧を調節し、制動力を発生させる。ブレーキ液圧制御ユニット30の駆動は、車両制御装置40により制御される。車両1が電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の場合、ブレーキ液圧制御ユニット30は、駆動用モータによる回生ブレーキと併用される。
【0018】
車両制御装置40は、駆動力源20、電動ステアリング装置25及びブレーキ液圧制御ユニット30の駆動を制御する一つ又は複数の電子制御装置を含む。車両制御装置40は、物体検出装置50から送信される信号を取得可能に構成され、車両1の自動運転制御を実行可能に構成されている。なお、自動運転制御には、緊急ブレーキ制御やACC(Adaptive Cruise Control)を含むものとする。また、車両制御装置40は、車両1の手動運転時においては、ドライバの運転操作量の情報を取得し、駆動力源20、電動ステアリング装置25及びブレーキ液圧制御ユニット30の駆動を制御する。
【0019】
車両1は、レーダセンサ11及び位置検出センサ13を備えている。
図1に示した車両1では、レーダセンサ11は車両1のフロント部分の中央に設置されている。レーダセンサ11は、照射軸を車長方向前方に向けて設置されている。レーダセンサ11は、例えば照射軸と照射軸に直交する軸の2軸が成す平面が車高方向に直交するようにアライメントされた状態で設置される。ただし、レーダセンサ11の設置位置及び照射軸の軸方向はこの例に限定されるものではなく、任意の位置に任意の方向へ向けて設置されてよい。また、車両1に搭載されるレーダセンサ11の数は一つに限られず、それぞれ所定の方向へ照射軸を向けて設置される。
【0020】
レーダセンサ11は、所定の角度範囲(角度解像度)に向けてレーダ波を送信するとともに当該レーダ波の反射波を受信し、送信波及び反射波の情報に基づいて反射点(以下「測定点」ともいう)の位置及び速度を算出する。レーダセンサ11としては、例えばミリ波を照射するミリ波レーダセンサが例示されるが、レーダ波の波長はミリ波に限定されない。測定点の位置の情報は、レーダセンサ11から測定点までの距離の情報、及び、レーダセンサ11の照射軸に対して測定点の位置する方向が成す角度(以下「方位角」ともいう)の情報を含む。
【0021】
具体的に、レーダセンサ11は、所定の時間間隔に設定された処理サイクルごとに、照射軸を中心とする所定の角度範囲に対してレーダ波を照射するとともに反射波を受信する。レーダセンサ11は、レーダ波を送信してから反射波を受信するまでの時間に基づいて、測定点までの距離を算出する。また、レーダセンサ11は、測定点の受信方向に基づいて、測定点の方位角を算出する。レーダセンサ11は、各処理サイクルにおいて受信したすべての反射波について、従来公知の処理を実行して測定点の距離及び方位角を算出し、各測定点の位置情報を取得する。測定点の位置情報は、レーダセンサ11の位置を原点とする二次元直交座標系であるセンサ座標系上での位置座標として現わされる。センサ座標系は、レーダセンサ11の照射軸をX軸、車幅方向に沿った軸をY軸とする二次元直交座標系として示される。
【0022】
また、レーダセンサ11は、送信波と反射波との位相差に基づいて、測定点の速度を算出する。レーダセンサ11は、各測定点の位置座標の情報(以下「測定点のデータ」ともいう)を物体検出装置50へ送信する。
【0023】
なお、レーダセンサ11は、レーダセンサ11の位置を原点とする三次元直交座標系上での測定点の位置座標を計測可能な三次元レーダセンサであってもよい。
【0024】
位置検出センサ13は、例えばGPS(Global Positioning System)センサに代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System)センサであり、衛星から送信される衛星信号を受信し、世界座標系上での位置検出センサ13の経度及び緯度の位置情報を取得する。位置検出センサ13は、取得した位置情報と、位置検出センサ13に設定されている基準方向の情報とを位置データとして物体検出装置50へ送信する。基準方向は、位置検出センサ13の設置位置を原点とする車両座標系の一つの軸を規定する方向であり、例えば車両1の車長方向前方に一致する方向に設定されている。
【0025】
物体検出装置50は、レーダセンサ11から送信される測定点のデータに基づいて車両1の周囲に存在する物体を検出する処理を実行する。以下、本実施形態に係る物体検出装置50について詳細に説明する。
【0026】
<2.物体検出装置>
(2-1.構成例)
図2は、物体検出装置50の構成例を示すブロック図である。物体検出装置50は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を含むマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等として構成されている。これらの装置の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0027】
物体検出装置50は、通信部51、処理部53及び記憶部55を備える。通信部51は、レーダセンサ11、位置検出センサ13及び車両制御装置40との間で信号あるいはメッセージを送受信するためのインタフェースであり、CAN(Controller Area Network)又はLIN(Local Inter Net)等の一つ又は複数の通信プロトコルの規格に適合する構成を有する。処理部53は、演算処理装置を含んで構成され、種々の演算処理を実行する。
【0028】
記憶部55は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記録媒体を含んで構成される。記憶部55は、処理部53により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータ、レーダセンサ11及び位置検出センサ13から取得された情報、処理部53による演算処理結果等のデータを記憶する。
【0029】
以下、処理部53の機能を簡単に説明した後に処理部53の具体的な動作例を説明する。
【0030】
処理部53は、取得部61及び物体検出処理部63を備える。取得部61及び物体検出処理部63の一部又は全部は、演算処理装置によるプログラムの実行により実現される機能である。
【0031】
取得部61は、レーダセンサ11及び位置検出センサ13から送信される計測データを取得する。具体的に、取得部61は、所定の時間間隔に設定された処理サイクルごとにレーダセンサ11から送信される測定点のデータと、位置検出センサ13から送信される位置情報のデータを取得する。
【0032】
物体検出処理部63は、取得部61により取得された測定点のデータに基づいて車両1の周囲の物体の位置を検出する処理を実行する。具体的に、物体検出処理部63は、測定点に基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域の所定の基準位置を示す基準点の位置を仮定した初期基準点を設定する処理と、過去の時刻に記録された物体領域の基準点である記録済基準点の履歴を参照し、車両1の所定の基準位置を示す原点と初期基準点とを結ぶ直線に沿って物体領域及び基準点を移動させ、物体領域内に含まれる記録済基準点が所定の条件を満たす基準点の移動量dr_bstを求める処理と、原点と移動後の基準点との距離r_bstを維持したまま原点を中心とする基準点の方位角を変化させ、一回前の時刻に記録された物体領域の記録済基準点と基準点との距離が最短となる方位角の変化量dθ_bstを求める処理と、初期基準点の位置、基準点の移動量dr_bst及び方位角の変化量dθ_bstに基づいて物体領域の位置を決定する処理と、を実行する。
【0033】
物体検出処理部63は、検出した物体領域の位置情報を車両制御装置40へ送信する。車両制御装置40は、受信した物体領域の位置の情報に基づいて車両1の自動運転制御を実行し、物体との衝突を回避し、あるいは、衝突時の衝撃を緩和する。
【0034】
(2-2.動作例)
続いて、本実施形態に係る物体検出装置50により実行される制御処理の具体的な動作例を説明する。
【0035】
図3は、物体検出装置50による処理動作のフローチャートを示す。なお、以下説明する処理は、車両1のシステム起動中に常時実行されてもよく、運転開始から運転終了までの間に常時実行されてもよい。
【0036】
まず、取得部61は、レーダセンサ11及び位置検出センサ13から送信されるデータを取得する(ステップS1)。具体的に、取得部61は、レーダセンサ11から送信される測定点の位置情報及び速度情報、並びに、位置検出センサ13から送信される位置情報を取得する。測定点の位置情報は、レーダセンサ11の位置を原点とするセンサ座標系CR(0R,XR,YR)上での測定点の位置座標(xr,yr)の情報を含む。また、位置検出センサ13から送信される位置情報は、固定座標系Cw(0W,XW,YW)上での位置検出センサ13の位置座標(xw,yw)、及び、車両座標系上で位置検出センサ13の基準方向Laの情報を含む。
【0037】
例えば固定座標系CW(0W,XW,YW)は、車両1のシステム起動時に位置検出センサ13から取得される、システム起動時の位置検出センサ13の位置を原点(xw,yw =0W)とし、世界地図上の経度に沿う方向をXW軸、緯度に沿う方向をYW軸とする二次元直交座標系として設定されている。ただし、固定座標系CW(0W,XW,YW)は、緯度に沿う方向をXW軸、経度に沿う方向をYW軸とするものであってもよい。また、XW軸及びYW軸は、車両1の移動にかかわらず不変とできるものであれば経度及び緯度に関連付けられることなく任意に設定されてよい。例えば車両1のシステム起動時の位置検出センサ13の基準方向Laで示される車両1の車長方向をXW軸とし、車幅方向をYW軸としてもよい。
【0038】
次いで、物体検出処理部63は、レーダセンサ11から取得した測定点のそれぞれの測定点の位置座標(xr,yr)を、固定座標系CW(0W,XW,YW)の位置座標(xw,yw)に変換する処理を実行する(ステップS3)。つまり、車両1とともに移動するレーダセンサ11の位置を原点とするセンサ座標系CR(0R,XR,YR)の位置座標(xr,yr)を、レーダセンサ11の位置にかかわらず原点が維持される固定座標系CW(0W,XW,YW)の位置座標(xw,yw)に変換する。
【0039】
物体検出装置50の記憶部55には、あらかじめ位置検出センサ13の設置位置とレーダセンサ11の設置位置との相対関係を示す情報が記録されている。本実施形態では、位置検出センサ13の設置位置を原点とし、車長方向及び車幅方向を直交二軸とする車両座標系CC(0C,XC,YC)上での、レーダセンサ11の設置位置の座標(xc,yc)の情報が記憶部55に記録されている。また、記憶部55には、レーダセンサ11の照射軸(XR軸)と車両座標系CC(0C,XC,YC)の一軸との成す角度の情報が記録されている。
【0040】
また、固定座標系CW(0W,XW,YW)上での位置検出センサ13の位置座標(xw,yw)及び基準方向Laは、常時位置検出センサ13から取得される。したがって、物体検出処理部63は、レーダセンサ11により測定された測定点のセンサ座標系CR(0R,XR,YR)上での位置座標(xr,yr)を車両座標系CC(0C,XC,YC)上の位置座標(xc,yc)に変換した上で、さらにCC(0C,XC,YC)上の位置座標(xc,yc)を固定座標系CW(0W,XW,YW)上の位置座標(xw,yw)に変換することができる。これにより、所定の処理サイクルでレーダセンサ11により計測される測定点を、共通の固定座標系CW(0W,XW,YW)での位置座標として用いることができる。
【0041】
なお、レーダセンサ11による測定点の位置を共通の座標系上の位置座標に変換する処理は、上記の例に限定されるものではなく、他の適宜の処理により行われてよい。
【0042】
次いで、物体検出処理部63は、測定点のデータに基づいて移動体を検出する処理を実行する。本実施形態に係る物体検出装置50は、移動体を検出する処理として、初期基準点設定処理(ステップSS3)、拡大物体領域設定処理(ステップS4)、移動量算出処理(ステップS5)、方位角変化量算出処理(ステップS6)及び位置決定処理(ステップS7)を順次実行する。以下、
図4を参照しつつ各ステップの処理を詳しく説明する。
図4は、各ステップの処理における物体領域を示す説明図であって、固定座標系のX-Y平面上の物体領域を平面視した説明図である。
【0043】
(初期基準点設定処理)
まず、物体検出処理部63は、測定点のデータに基づいて、所定の物体の存在を表す物体領域73の所定の基準位置を示す基準点の位置を仮定した初期基準点P_eを設定する処理を実行する(ステップS4)。本実施形態において、物体検出処理部63は、検出された測定点のうちレーダセンサ11から最も近い位置にある測定点が、所定の物体におけるレーダセンサ11から最も近い部位による反射点と仮定して物体領域の初期基準点を設定する(以下「最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理」ともいう)。
【0044】
「最接近レーダ反射モデル」は、物体の外形を、レーダセンサにより計測されると予測される測定点の情報に変換した公知のモデルであり、レーダセンサから最も近い距離にある反射点が存在する部位の対象物体の表面は円弧状であると仮定されている。最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理では、最接近レーダ反射モデルの逆数を用いて、所定の物体の存在を表す物体領域73の所定の基準位置を示す基準点の位置を仮定した初期基準点P_eを設定する。
【0045】
図5は、最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理を説明するために示す図であり、固定座標系のX-Y平面を平面視した図に相当する。計測された測定点のうち、レーダセンサ11からの距離が最も近い測定点Dが特定されると、当該測定点Dが存在する部位は、所定の物体のうちレーダセンサ11に最も近い部位であると仮定される。また、当該測定点Dが存在する部位の対象物体の表面は円弧状であると仮定される。
図5に示したように、物体の外形を表す四辺71はそれぞれ円弧状に仮定され、当該物体の外形を包含する物体領域73が設定される。また、物体領域73の重心位置(中心点)が基準点Pとして設定される。
【0046】
なお、物体領域73として、物体の外形の境界を表す矩形領域(bounding box)が用いられているが、物体領域73の形態は矩形に限られない。また、基準点Pは、物体領域73における任意の位置を示す点として特定されるものであれば、重心位置に限定されない。
【0047】
ここで、最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理では、設定される物体領域73の位置が、実際の物体の位置とずれるおそれがある。例えばレーダセンサ11により計測される測定点が、物体のうちレーダセンサ11に最も近い部位から反射されていない場合、設定される物体領域73の位置が、実際の物体の位置とずれることとなる。このずれは、レーダセンサ11と検出対象物体との距離が長いほど大きくなり得る。
【0048】
図6は、最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理により設定される物体領域73の位置と、実際の物体の位置とのずれを示す説明図である。レーダセンサ11による測定点のうちのレーダセンサ11からの距離が最も近い測定点Dが、実際の物体(点線)75のうちのレーダセンサ11に最も近い部位に位置していないとする。この場合であっても、最接近レーダ反射モデルを利用した演算処理では、測定点Dが存在する位置が、検出対象物体のうちレーダセンサ11に最も近い部位であると仮定して、物体領域73が設定される。このため、設定される基準点(初期基準点)P_eと本来設定されるべき基準点P_actとにずれが生じる。本実施形態による物体検出処理では、当該ずれを低減して物体領域73の位置を決定する処理が実行される。
【0049】
(拡大物体領域設定処理)
物体領域及び初期基準点を設定した後、物体検出処理部63は、物体領域73の所定方向の長さLを拡大した拡大物体領域81を設定する処理を実行する(ステップS4)。このステップS4では、以降のステップS5及びステップS6における、過去の時刻に記録された記録済基準点に基づく処理の演算結果の精度を高めるために、物体領域のサイズが拡大される。過去の時刻に記録された記録済基準点は、それぞれの処理サイクルより前の複数回の処理サイクルにおいて特定された物体領域83の基準点Piであり(
図4のS7を参照)、記憶部55に記録されている。
【0050】
具体的に、物体検出処理部63は、車両1の前後方向に沿って物体領域73の長さLを拡大する。拡大後の拡大物体領域81の長さLは、あらかじめ任意の適切な長さに設定されてよく、例えば現実空間上での4mの長さに相当するサイズであってよい。これにより、車両1の走行により検出対象物体と車両1との距離が変化する場合であっても拡大物体領域81に含まれる記録済基準点Piの数が多くなり、以降のステップS5及びステップS6における演算結果の精度を高めることができる。
【0051】
(移動量算出処理)
次いで、物体検出処理部63は、記録済基準点Piの履歴を参照し、車両1の所定の基準位置を示す原点Oと初期基準点P_eとを結ぶ直線に沿って拡大物体領域81及び基準点Pを移動させ、拡大物体領域81内に含まれる記録済基準点Piが所定の条件を満たす基準点Pの移動量(以下「最適移動量」:dr_bst)を求める処理を実行する(ステップS5)。このステップS5では、記録済基準点Piの位置の時系列変化を考慮して、現在の検出対象物体が存在する可能性が高い位置へ拡大物体領域81が移動される。本実施形態では、物体検出処理部63は、過去に遡るほど小さい値となる重みWを記録済基準点Piに対してそれぞれ設定し、拡大物体領域81内に含まれる記録済基準点Piと重みWとに基づいて算出される所定の評価値Scが最大となる基準点Pの最適移動量dr_bstを求める。
【0052】
図7は、移動量算出処理のフローチャートを示す。
物体検出処理部63は、ステップS3で設定した初期基準点P_eの位置座標、及び、記録済基準点Piの位置座標のデータを読み出す(ステップS11)。次いで、物体検出処理部63は、現在設定されている基準点Pの移動量drが、あらかじめ設定された最大移動量dr_max未満であるか否かを判定する(ステップS13)。最大移動量dr_maxは、拡大物体領域81及び基準点Pを移動させる最大の移動範囲を規定した値であり、固定値であってもよく、車両1あるいは検出対象物体の速度に応じて設定される可変値であってもよい。
【0053】
現在設定されている基準点Pの移動量drが最大移動量dr_max未満である場合(S13/Yes)、物体検出処理部63は、評価値Scを算出する(ステップS15)。移動量drがゼロの場合、つまり、基準点Pの位置が初期基準点P_eの位置から変化していない場合、当然ながら評価値Scを算出する処理が行われる。以降も、移動量drが最大移動量drに到達するまで、それぞれの移動量drでの評価値Scが算出される。なお、移動量drは、正の値及び負の値をともに含み得る。つまり、検出対象物体と車両1との相対速度によって検出対象物体と車両1との距離が拡大する場合もあれば縮小する場合もあるため、移動量drは、相対速度に応じて決定されてよい。本実施形態では、下記式(1)を用いて評価値Scを算出する。
【0054】
【0055】
i:記録済基準点の番号(i=1,2,…,N)
δi:記録済基準点が拡大物体領域内に位置するか否かを示す状態値(位置する場合δi=1、位置しない場合δi=0)
Wi:重み係数
【0056】
重み係数Wiは、下記式(2)により示される。当該重み係数Wiは、記録済基準点Piが記録された時刻が新しいほど大きい値に設定される。また、任意に設定された所定の時間T以前に記録された記録済基準点Piの重み係数Wiはゼロになり、所定の時間T以前に記録された記録済基準点Piは、評価値Scに影響しないこととなる。
【0057】
【0058】
したがって、上記式(1)に示す評価値Scの計算式では、記録された時刻が新しい記録済基準点Piが多いほど、高い評価値Scとして算出される。
【0059】
物体検出処理部63は、算出した評価値Scが、最大評価値Sc_bstを超えたか否かを判定する(ステップS17)。基準点Pの位置を初期基準点P_eの位置から変化させていない状態で最初に算出される評価値Scである場合、物体検出処理部63は、算出した評価値Scが、最大評価値Sc_bstを超えたものと判定する。また、基準点Pの位置を変化させた状態で算出される評価値Scである場合、物体検出処理部63は、算出した評価値Scが、ここまでに記録されている最大評価値Sc_bstを超えているか否かを判定する。
【0060】
算出した評価値Scが、最大評価値Sc_bstを超えている場合(S17/Yes)、物体検出処理部63は、当該評価値Scを最大評価値Sc_bstとして記録を更新する(ステップS19)。また、物体検出処理部63は、現在の移動量drを、最適移動量dr_bstとして記録を更新する(ステップS21)。
【0061】
一方、算出した評価値Scが、最大評価値Sc_bstを超えていない場合(S17/No)、物体検出処理部63は、算出した評価値Scが、記録されている最大評価値Sc_bstと同じ値であるか否かを判定する(ステップS23)。算出した評価値Scが、記録されている最大評価値Sc_bstと同じ値である場合(S23/Yes)、物体検出処理部63は、現在の移動後の基準点Pの位置と、一回前の処理サイクルで特定されて記録された基準点Piの位置との距離を算出する(ステップS25)。当該距離は、固定座標系上での基準点間の距離として算出することができる。
【0062】
次いで、物体検出処理部63は、算出した距離が、ここまでに記録されている最短距離を下回ったか否かを判定する(ステップS27)。算出した距離が最短距離を下回っている場合(S27/Yes)、物体検出処理部63は、現在の移動量drを、最適移動量dr_bstとして記録を更新する(ステップS29)。
【0063】
ステップS21あるいはステップS29で最適移動量dr_bstの記録が更新された後、あるいは、ステップS23又はステップS27で否定判定されて最適移動量dr_bstの記録が維持された後、物体検出処理部63は、現在の移動量drに対してあらかじめ設定された補正移動量Δdrを加算し(ステップS31)、ステップS13に戻る。補正移動量Δdrは、移動量drを微調整する量を規定した値であり、固定値であってもよく、車両1の速度に応じて設定される可変値であってもよい。
【0064】
ステップS13において、現在設定されている基準点Pの移動量drが、あらかじめ設定された最大移動量dr_max未満と判定される間(S13/Yes)、補正移動量Δdrの加算、評価値Scの算出及び最適移動量dr_bstの更新が繰り返される。一方、現在設定されている基準点Pの移動量drが、あらかじめ設定された最大移動量dr_maxに到達したと判定された場合(S13/No)、物体検出処理部63は、移動量算出処理を終了する。これにより、今回の処理サイクルでの最適移動量dr_bstが確定される。
【0065】
なお、
図4においては、車両1の所定の基準位置を示す原点Oと初期基準点P_eとを結ぶ直線が車両1の前後方向と平行である状態で図示されているが、車両1の所定の基準位置を示す原点Oと初期基準点P_eとを結ぶ直線が車両1の前後方向と平行でない場合であっても、原点Oと初期基準点P_eとを結ぶ直線に沿って拡大物体領域81及び基準点Pを移動させて最適移動量dr_bstが求められる。この場合、車両1の前後方向に対して、原点Oと初期基準点P_eとを結ぶ直線が成す方位角をθとすると、移動後の基準点Pの位置座標(x_r,y_r)は下記式(3)で示される。
【0066】
【0067】
(方位角変化量算出処理)
次いで、物体検出処理部63は、原点Oと移動後の基準点Pとの距離r_bstを維持したまま、原点Oを中心とする基準点Pの方位角θを変化させ、一回前の時刻に記録された物体領域83の記録済基準点Piと基準点Pとの距離が最短となる方位角の変化量dθ_bstを求める処理を実行する(ステップS6)。このステップS6では、現在の検出対象物体が存在する可能性がより高い位置へ拡大物体領域81が移動される。
【0068】
図8は、方位角変化量算出処理のフローチャートを示す。
物体検出処理部63は、ステップS3で設定した初期基準点P_eの位置座標、記録済基準点Piの位置座標、及び、ステップS5で求められた最適移動量dr_bstのデータを読み出す(ステップS41)。初期基準点P_eの位置座標及び最適移動量dr_bstのデータは、原点Oと、初期基準点P_eの位置から最適移動量dr_bstの分移動させた基準点Pとの距離を求めるために用いられる。
【0069】
次いで、物体検出処理部63は、現在設定されている方位角θの変化量dθが、あらかじめ設定された最大変化量dθ_max未満であるか否かを判定する(ステップS43)。最大変化量dθ_maxは、方位角θを変化させる最大の変化範囲を規定した値であり、固定値であってもよく、車両1あるいは検出対象物体の速度に応じて設定される可変値であってもよい。
【0070】
現在設定されている方位角θの変化量dθが最大変化量dθ_max未満である場合(S43/Yes)、物体検出処理部63は、現在の移動後の基準点Pの位置と、一回前の処理サイクルで特定されて記録された基準点Piの位置との距離を算出する(ステップS45)。当該距離は、固定座標系上での基準点間の距離として算出することができる。
【0071】
次いで、物体検出処理部63は、算出した距離が、ここまでに記録されている最短距離を下回ったか否かを判定する(ステップS47)。算出した距離が最短距離を下回っている場合(S47/Yes)、物体検出処理部63は、現在の方位角θの変化量dθを、最適変化量dθ_bstとして記録を更新する(ステップS49)。
【0072】
ステップS49で最適変化量dθ_bstを更新した後、あるいは、ステップS47で算出した距離が最短距離以上と判定した場合(S47/No)、物体検出処理部63は、現在の変化量dθに対してあらかじめ設定された補正変化量Δdθを加算し(ステップS51)、ステップS43に戻る。補正変化量Δdθは、方位角θを微調整する量を規定した値であり、固定値であってもよく、車両1の速度に応じて設定される可変値であってもよい。
【0073】
ステップS43において、現在設定されている方位角θの変化量dθが、あらかじめ設定された最大変化量dθ_max未満と判定される間(S43/Yes)、補正変化量Δdθの加算、距離の算出及び最適変化量dθ_bstの更新が繰り返される。一方、現在設定されている方位角θの変化量dθが、あらかじめ設定された最大変化量dθ_maxに到達したと判定された場合(S43/No)、物体検出処理部63は、方位角変化量算出処理を終了する。これにより、今回の処理サイクルでの最適変化量dθ_bstが確定される。
【0074】
なお、方位角θを補正変化量dθの分変化させた後の基準点Pの二軸方向の変化量(dx,dy)は下記式(4)示される。
【0075】
【0076】
つまり、方位角θを変化させた後の基準点Pの位置座標(x_p,y_p)は下記式(5)で示される。
【0077】
【0078】
(位置決定処理)
次いで、物体検出処理部63は、初期基準点P_eの位置(x_e,y_e)、基準点Pの最適移動量dr_bst及び方位角θの最適変化量dθ_bstに基づいて物体領域83の位置を決定する処理を実行する(ステップS7)。具体的に、物体検出処理部63は、ステップS3で設定した初期基準点P_eの位置から、ステップS5で算出された最適移動量dr_bstの分所定方向へ移動させるとともに、ステップS6で算出された最適変化量dθ_bstの分方位角θを変化させた位置(x_p,y_p)で基準点Pを確定し、今回の処理サイクルで得られた基準点Piとして記録する。また、物体検出処理部63は、設定する物体領域の基準点を、確定した基準点Pに一致させて、物体領域83を確定する。
【0079】
物体検出処理部63は、ステップS1~ステップS7までの処理を各処理サイクルごとに繰り返し、レーダセンサ11により検出された測定点のデータに基づいて検出対象物体の位置を決定する。そして、物体検出処理部63は、演算処理の結果の情報を車両制御装置40へ送信する。これにより、車両制御装置40では、取得した情報に基づいて、物体との衝突を回避したり、衝突時の衝撃を軽減したりするための自動運転制御が実行される。
【0080】
このように、本実施形態では、物体検出処理部は、レーダセンサにより検出される測定点に基づいて検出対象物体が存在する物体領域の位置を決定する際に、過去の時刻に記録された記録済基準点の履歴を用いて物体領域の位置を修正する。これにより、レーダ波の照射密度が低い場合であっても、物体領域の位置の推定精度を高めることができ、レーダセンサを用いた物体の検出精度を向上させることができる。
【0081】
また、本実施形態では、物体検出処理部は、物体領域の所定方向の長さを拡大した拡大物体領域を設定し、拡大物体領域を用いて基準点の移動量及び方位角の変化量を求める。このため、自車両と検出対象物体との距離が変化する場合であっても、拡大物体領域に含まれる記録済基準点の数を多くして、最適移動量及び最適変化量の演算精度を高めることができる。その際に、車両の前後方向に沿って物体領域の長さを拡大して拡大物体領域を設定することにより、自車両と検出対象物体との相対速度が異なる場合であっても、拡大物体領域に含まれる記録済基準点の数を多くして、最適移動量及び最適変化量の演算精度を高めることができる。
【0082】
また、本実施形態では、物体検出処理部は、過去の時刻に記録された記録済基準点の履歴を用いる際に、過去に遡るほど小さい値となる重みをそれぞれの記録済基準点に対して設定し、物体領域内に含まれる記録済基準点と重みとに基づいて算出される所定の評価値が最大となる基準点の移動量(dr_bst)を求める。これにより、現在時刻に近い位置に物体領域の位置が設定されやすくなり、物体領域の位置の推定精度を高めることができる。
【0083】
また、本実施形態では、物体検出処理部は、過去の所定回数分の時刻に記録された記録済基準点を用いて基準点の最適移動量を求める。これにより、現在時刻に近い位置に物体領域の位置が設定されやすくなり、物体領域の位置の推定精度を高めることができる。
【0084】
物体検出装置による上記効果は、物体検出方法及び物体検出処理を実行させるコンピュータプログラムによっても同様の効果を奏することができる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが本発明はこのような例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
1:車両、11:レーダセンサ、13:位置検出センサ、40:車両制御装置、50:物体検出装置、51:通信部、53:処理部、55:記憶部、61:取得部、63:物体検出処理部