(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039890
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】不織布、マスク用口元材およびマスク
(51)【国際特許分類】
D04H 1/541 20120101AFI20240315BHJP
D04H 1/485 20120101ALI20240315BHJP
D04H 1/49 20120101ALI20240315BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
D04H1/541
D04H1/485
D04H1/49
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144609
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】松尾 章弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB03
4L047AB07
4L047BA01
4L047BA04
4L047BA09
4L047BB01
4L047BB09
4L047CB01
4L047CC03
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】不織布およびこれを用いたマスク用口元材ならびにマスクを提供する。
【解決手段】不織布は、マスク用口元材などとして有用であり、第1の繊維と第2の繊維とを含んでおり、前記第1の繊維の平均断面積が5~100μm2であり、前記第2の繊維は、熱融着性芯鞘繊維であって、前記第1の繊維の割合が55~95%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の繊維と第2の繊維とを含んでおり、
前記第1の繊維の平均断面積が5~100μm2であり、
前記第2の繊維は、熱融着性芯鞘繊維であって、
前記第1の繊維の割合が55~95%である、不織布。
【請求項2】
請求項1に記載の不織布であって、前記熱融着性芯鞘繊維の鞘成分が互いに融着する融着率が、不織布単体の切断面0.12mm2当たりにおいて、15%以下である不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不織布であって、繊維が絡合する構造を有している不織布。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の不織布であって、前記熱融着性芯鞘繊維の芯成分および鞘成分が、それぞれ、融点の異なる2種類のオレフィン樹脂で構成され、鞘成分を構成するオレフィン樹脂が、芯成分を構成するオレフィン樹脂より低い融点を有している、不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の不織布であって、水流交絡不織布である、不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の不織布であって、第1の繊維が、分割型複合繊維および/または親水性繊維で構成される、不織布。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の不織布であって、カンチレバー法におけるMDおよびCDの剛軟度の平均が7.0cm以下である、不織布。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の不織布であって、マスク用口元材またはハイジーン製品用表面材またはコスメティク用表面材として用いられる、不織布。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の不織布で構成されたマスク用口元材。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の不織布を口元材として用いる、マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛羽立ちの少ない不織布、およびそれを用いたマスク用口元材ならびにマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
花粉、ホコリなどの粒子や、病原体の侵入を防ぐ用途などのために、マスクの重要性が高まっている。特に感染症予防の観点からは、長時間にわたりマスクを装着するに当たり、より快適な付け心地が求められている。例えば、特許文献1(国際公開WO2018/221381号公報)には、長時間の使用において内部のべたつきを低減するマスクとして、人体の少なくとも口元、鼻元、または双方を被覆する被覆部を備えるマスクであって、前記被覆部は、人体側の層として親水性繊維を含む呼気側シートを少なくとも備え、前記呼気側シートが、線状部で構成されたメッシュ状不織布であるマスクが開示されている。このメッシュ状不織布は、ヒートシール性を有しており、マスクの他の部材との間でヒートシールにより一体化されている。
【0003】
また、特許文献2では、少なくとも2種類以上の短繊維から構成され、このうち1種類が繊維径1.0μm未満の極細繊維であって、平均ポアサイズが10.0~50.0μmの繊維シートをエレクトレット化したフィルターが開示されており、当該繊維シートを防塵マスク等のマスクとして適用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2018/221381号公報
【特許文献2】特開2016-176173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のマスクでは、メッシュ構造におけるマスク用口元材で用いられている親水性繊維の繊維径が制御されていないため、肌に対するチクチク感を引き起こす可能性がある。
【0006】
また、特許文献2では、ナノファイバーを極細繊維として混和することで静電気力を失った後においても捕集効率を高めている。しかし、このようなナノファイバーを使う場合、極細繊維の割合を高くすると、保湿性が高まる半面、べたつく可能性がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ヒートシール可能であり、毛羽立ちの発生を抑えつつ、べたつきを軽減できる不織布およびそれを用いたマスク用口元材、ならびにマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ヒートシール可能な繊維を芯鞘型複合繊維とするとともに、特定の小さな平均断面積を有する繊維を主として用いて不織布を構成する場合、主とする繊維が小さな平均断面積を有するために、不織布に大きな毛羽立ちが発生するのを抑制しつつ、べたつきを軽減できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
第1の繊維と第2の繊維とを含んでおり、
前記第1の繊維の平均断面積が5~100μm2、好ましくは5~96μm2、より好ましくは10~90μm2(例えば、直接紡糸繊維の場合、好ましくは40~100μm2、より好ましくは40~96μm2、さらに好ましくは50~90μm2、分割型複合繊維や海島型複合繊維に由来する場合、好ましくは5~40μm2であってもよく、より好ましくは5~35μm2、さらに好ましくは10~30μm2)であり、
前記第2の繊維は、熱融着性芯鞘繊維であって、
前記第1の繊維の割合が55~95%(好ましくは60~90%)である、不織布。
〔態様2〕
態様1に記載の不織布であって、前記熱融着性芯鞘繊維の鞘成分が互いに融着する融着率が、不織布単体の切断面0.12mm2当たりにおいて、15%以下である不織布。
〔態様3〕
態様1または2に記載の不織布であって、繊維が絡合する構造を有している不織布。
〔態様4〕
態様1~3のいずれかに記載の不織布であって、前記熱融着性芯鞘繊維の芯成分および鞘成分が、それぞれ、融点の異なる2種類のオレフィン樹脂で構成され、鞘成分を構成するオレフィン樹脂が、芯成分を構成するオレフィン樹脂より低い融点を有している、不織布。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の不織布であって、水流交絡不織布である、不織布。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の不織布であって、第1の繊維が、分割型複合繊維および/または親水性繊維で構成される、不織布。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の不織布であって、カンチレバー法におけるMDおよびCDの剛軟度の平均が7.0cm以下である、不織布。
〔態様8〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の不織布であって、マスク用口元材またはハイジーン製品用表面材またはコスメティク用表面材として用いられる、不織布。
〔態様9〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の不織布で構成されたマスク用口元材。
〔態様10〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の不織布を口元材として用いる、マスク。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不織布によれば、特定の小さな断面積を有する第1の繊維を特定の割合で含むとともに、熱融着性芯鞘繊維を第2の繊維として含むため、不織布はヒートシールなどの後加工を行うことができる。さらに、本発明の不織布は、毛羽立ちの発生を抑制できるだけでなく、不織布をマスク口元材等として用いる場合に、使用時のべたつきの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。なお、以下の図面は説明のための模式図であり、各部のサイズは、実際のサイズ比を反映するものではない。異なる図面において、共通する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【
図1A】不織布の厚さ方向の切断面において、第2の繊維の鞘成分間が融着している状態を示す拡大写真である。
【
図1B】不織布の厚さ方向の切断面において、第2の繊維の鞘成分が変形しつつも、第1の繊維とは融着せず、両者間に隙間が生じてしている状態を示す拡大写真である。
【
図2】不織布における第2の繊維の鞘成分間の融着点を説明するための、概略拡大断面図を示す。
【
図3】本発明で行われる毛羽立ち試験後の不織布の拡大写真である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係るマスクを示す概略正面図である。
【
図4B】
図4Aに係るマスクに用いられる被覆部の一例を示す概略断面図である。
【
図5A】本発明の別の実施形態に係るマスクを示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(不織布)
本発明の一態様の不織布は、特定の小さな平均断面積を有する第1の繊維と、熱融着性芯鞘繊維である第2の繊維とを含む不織布である。特定の小さな平均断面積を有する第1の繊維が主として不織布を構成しており、第2の繊維は、第1の繊維とともに不織布を構成している。第2の繊維が存在することにより、不織布の後加工において他の部材と不織布との熱接着性を確保することが可能となる。第2の繊維は、不織布に対して熱接着性を付与することができる限り、不織布において適宜存在することが可能であるが、通常、第2の繊維は、不織布において均一に分散していることが多い。ここで、繊維の平均断面積は、不織布の厚み方向に対して平行に、かつ機械方向(MD)方向に対して垂直となるように、剃刀を用いて不織布を切断した際に、無作為に選んだ第1の繊維50本の断面積の平均値を意味し、詳細は後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0013】
特定の小さな平均断面積を有する第1の繊維が主として不織布を構成することにより、不織布の剛性を低減することができる。ここで、主として不織布を構成するとは、不織布中における第1の繊維の割合が55~95%であることを意味しており、この割合は、好ましくは60~90%であってもよい。
【0014】
その一方で、第2の繊維は、第1の繊維とともに不織布を構成している。第2の繊維である熱融着性芯鞘繊維であり、この繊維が存在することで、不織布を更に加工する場合、必要な部分についてのヒートシール加工が可能となる。
【0015】
第2の繊維では、鞘成分が互いに融着する箇所を特定の範囲に制御することにより、不織布の剛性が上がるのを抑制することができる。この観点から、不織布中、熱融着性芯鞘繊維の鞘成分が互いに融着する融着率は、不織布単体の任意の個所から選択した0.12cm2当たりにおいて、15%以下に制御されていることが好ましい。
【0016】
第2の繊維の融着点の有無については、断面写真において、ある第2の繊維が他の第2の繊維と接触しているか否かにより融着の有無を判断し、撮像された断面における、第2の繊維全体の本数に対する、他の第2の繊維と接触している第2の繊維の本数により、第2の繊維の鞘成分が互いに融着する融着率(%)として判断する。
【0017】
具体的には、熱融着性芯鞘繊維の鞘成分が互いに融着することを示す融着率は、不織布を厚さ方向に切断し、切断面において縦300μm×横400μm(0.12cm2)のサイズで無作為に選択した5か所の断面写真の撮像から判断される。
【0018】
例えば、
図1Aには、不織布の厚さ方向の切断面において、鞘成分が互いに融着する状態の拡大写真が示されている。
図1Aでは鞘成分が互いに融着し合って、一体化し、全体として変形する様子が示されている。変形した鞘成分の内部には、破線で示すように、それぞれの芯成分の存在を確認することができる。
図1Aの場合、3本の第2の繊維が互いに融着している。
【0019】
一方、
図1Bに示すように、第2の繊維の鞘成分と第1の繊維とは、一体化せず、両者が重なり合った場合であっても、鞘成分が第1の繊維の形状に応じて変形し、鞘成分と第1の繊維との間には隙間が発生する。
【0020】
なお、不織布単体とは、不織布において、ヒートシール等により他の部材と接合していない部位を指しており、例えば、不織布がマスクなどの加工品において存在する場合は、ヒートシールされていない部分の不織布を取り出して、不織布単体として使用することができる。
【0021】
例えば、
図2は、不織布切断面における第2の繊維間の融着点を説明するための、概略拡大断面図を示す。
図2では、第2の繊維の切断面を芯鞘型複合繊維としてダブルサークルで示しており、第1の繊維の切断面をシングルサークルで示して、それぞれの繊維を区別している。また、第2の繊維の鞘成分が互いに融着している場合については、鞘成分を変形させ、複数の芯成分を内在させて一体化した形状で示している。
図2において第2の繊維は全部で18本存在しており、そのうち、他の第2の繊維と接触せずに単独で存在している繊維は16本、他の第2の繊維と接触している繊維は2本であり、この場合融着率は2/18×100=11.1%となる。そして、融着率の測定を、撮像した10か所の断面写真において行い、切断面0.12mm
2当たりの平均値により不織布の融着率を把握する。
【0022】
不織布では、このようにして把握された融着率が好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、さらにより好ましくは7%以下、特に好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下であってもよい。融着点の数を少なくすることにより、不織布が硬くなるのを抑制することができる。
【0023】
不織布単体における熱融着性芯鞘繊維の鞘成分の融着点は、不織布の製造工程における乾燥条件によって制御することができる。乾燥温度によるが、短時間(例えば、3分以下)であれば、鞘成分の融点以上の温度で乾燥しても融着の発生割合を制御できる。但し、鞘成分の融点以上で長時間乾燥すると鞘成分の融着が進行するため、鞘成分の融点以下で乾燥することが好ましい。また、鞘成分の融点から10℃以上低い温度で乾燥した際には、通常融着率は0%である。このような場合、後加工(例えばマスクを製造する工程)の中で偶発的に発生する融着を考慮したとしても、融着率が15%以下である。
【0024】
第1の繊維および第2の繊維を含む不織布を形成することができる限り、不織布の構造は特に限定されず、湿式不織布であっても、乾式不織布であってもよく、乾式不織布の場合はニードルパンチ不織布であっても、流体により交絡された不織布であってもよく、前記流体としては、水流、気流、水蒸気流などが挙げられる。これらの不織布のうち、第1の繊維に対する交絡処理が良好である観点から、水流交絡不織布が好ましい。
【0025】
第1の繊維と第2の繊維とは、毛羽立ちの抑制効果を高める観点から繊維が絡合する構造を有しているのが好ましい。ここで、繊維が絡合するとは、不織布を構成する繊維が互いに絡み合う状態をいい、第1の繊維間での絡合、第1の繊維と第2の繊維との間での絡合、第2の繊維間での絡合が含まれる。このように繊維が互いに絡み合っていることによって繊維が毛羽として発生するのを抑制することができる。これらの絡合は、繊維の割合により適宜調節することができ、第1の繊維が主として不織布を構成する場合、第1の繊維間での絡合が主として形成される。これらの絡合は、不織布の厚み方向に繊維同士が押し込まれることにより、互いに絡み合うのが好ましい。
【0026】
さらに、第1の繊維は特定の小さな断面積を有しているため、交絡処理により、繊維同士の絡み合いを多く発生することができ、その結果、第1の繊維の絡み合いによる毛細管現象を効率よく発生することができるためか、不織布にべたつきが発生するのを低減することができる。
【0027】
不織布の目付は、不織布の風合いを良好にする観点から、例えば25~70g/m2であってもよく、好ましくは30~65g/m2、より好ましくは35~60g/m2であってもよい。ここで目付は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0028】
不織布の厚さは、不織布の取り扱い性の観点から、例えば0.05~1mmであってもよく、好ましくは0.1~0.9mm、より好ましくは0.2~0.8mmであってもよい。ここで厚さは、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0029】
不織布の嵩密度は、柔軟性の観点から、例えば0.050~0.500g/cm3であってもよく、好ましくは0.080~0.400g/cm3、より好ましくは0.100~0.300g/cm3であってもよい。ここで嵩密度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0030】
本発明の不織布では、特定の小さな断面積を有する第1の繊維を特定の割合で第2の繊維と組み合わせているためか、繊維が毛羽として発生するのを抑制することができる。
図3は、不織布を5往復、後述する実施例で記載する方法によりこすった後における不織布表面の拡大写真である。通常、不織布をこすると、融着点により固定されない繊維は毛羽立ちを起こし、毛羽立ちにより、
図3に示すようなループ状構造や、直立構造を形成する。
図3に示す上下は同じ写真であり、下の写真は、ループ面積を斜線でハッチングすることにより明確化している。
【0031】
不織布の毛羽立ち発生の指標として、不織布の所定の面積に存在する最も大きなループ状構造により囲まれる面積を画像解析により測定し、当該面積を不織布のループ面積として評価した場合、ループ面積は、例えば、MDおよびCDの平均として、5.0mm2以下(例えば、0.1~5.0mm2)であってもよく、好ましくは4.0mm2以下、より好ましくは3.0mm2以下であってもよい。MDのループ面積は、CDから不織布表面を撮影した際に観察されるループ面積であり、CDのループ面積は、MDから不織布表面を撮影した際に観察されるループ面積である。MD(Machine Direction)は機械進行方向を意味し、CD(Cross Direction)は機械進行方向に対して直交する方向を示す。
【0032】
不織布は柔軟であるのが好ましく、例えば、柔軟性の指標であるカンチレバー法におけるMDおよびCDの剛軟度の平均が7.0cm以下(例えば、1.0~7.0cm)であってもよく、好ましくは6.0cm以下、より好ましくは5.0cm以下であってもよい。不織布の柔軟性に異方性が存在する場合、MDおよびCDの平均で評価することにより、不織布全体の柔軟性をより正確に評価することが可能となる。なお、カンチレバー法による剛軟度は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0033】
不織布はべたつきを生じさせないのが好ましく、その指標として、不織布の吸水性を利用してもよい。例えば、吸水性の指標であるウィッキングは、例えば、60秒以下が好ましく、より好ましくは40秒以下であってもよい。ここでウィッキングは、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0034】
不織布を後加工する観点からは、不織布に対して被着対象としてのポリプロピレンメルトブローン不織布を135℃においてヒートシールした場合におけるヒートシール強力(または剥離強力)が、例えば0.3N/5cm以上であってもよく、好ましくは0.5N/5cm以上、より好ましくは1.0N/5cm以上であってもよい。ヒートシール強力の上限は特に限定されないが、例えば、10N/5cm程度であってもよい。ここでヒートシール強力は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。
【0035】
(第1の繊維)
第1の繊維の平均断面積が5~100μm2であり、特定の小さな平均断面性を有している。前記平均断面積は、好ましくは5~96μm2、より好ましくは10~90μm2であってもよい。このような小さな平均断面積を有する繊維は、通常非芯鞘型繊維であり、直接紡糸繊維であってもよいし、海島型繊維に由来した繊維、分割型繊維に由来した繊維などとして得てもよい。なお、第1の繊維が、分割型繊維の場合、分割状態は特に限定されず、分割していない状態の繊維、一部が分割している状態の繊維、完全に分割した状態の繊維、これらの状態が繊維の長さ方向に混在する繊維も含まれる。これらの繊維は、公知または慣用の方法により製造することができる。
【0036】
直接紡糸繊維は、例えば、紡糸液の粘度を調節して小さい繊維径を有する繊維を得ることができ、例えば、親水性繊維である観点から、再生セルロース系繊維や溶剤紡糸セルロース系繊維(または精製セルロース系繊維)などが好ましく用いられる。再生セルロース系繊維は、ビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨンなどのセルロース誘導体に一旦変換した後に、再度セルロースに戻すことにより得られる。一方、溶剤紡糸セルロース系繊維では、セルロースを溶剤に溶解して紡糸液を調製し、このような繊維の代表例としてリヨセルが挙げられ、オーストリアのレンチング社より「テンセル」(登録商標)の商品名で販売されている。このような繊維は、汎用的に使用されている再生セルロース系繊維と異なり、丸あるいは楕円の断面形状を有しているため、対人に使用時に肌をいためる危険性が低いため非常に好ましい。
【0037】
海島型繊維に由来する繊維の場合、海成分として溶解性ポリマーを用い、多数の島成分が配列された海島型複合繊維を一旦得て、この複合繊維から海成分を溶解除去することにより、所望の断面積を有する第1の繊維を得ることができる。
【0038】
例えば、島成分として用いられるポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,芳香族ポリアミド,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;オレフィン系樹脂等の繊維形成能を有する合成樹脂が挙げられる。
【0039】
また、海成分として用いられるポリマーは、島成分に応じて、島成分を溶解せず海成分のみを溶解除去する観点から選択することができ、例えば、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマー、スルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などの弱アルカリ溶解性ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの有機溶媒溶解性ポリマーなどが挙げられる。
【0040】
分割型繊維に由来する繊維の場合、相溶性が乏しい2種類のポリマーを用いて所定の形状の多分割型複合繊維を一旦得て、この複合繊維に物理な力(例えば、交絡処理など)を与えることにより、互いを分離して、所望の断面積を有する第1の繊維を得ることができる。
例えば、相溶性が乏しい2種類のポリマーとしては、上述したポリエステル系樹脂/ポリアミド系樹脂の組み合わせ、プロピレン系重合体/エチレン系重合体の組み合わせ、ポリエステル系樹脂/エチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。
【0041】
これらの繊維のうち、不織布の製造方法の簡便性から直接紡糸繊維および分割型繊維が好ましく、繊維の平均断面積を小さくする観点からは分割型繊維が好ましい。
第1の繊維の平均断面積は、例えば、直接紡糸繊維の場合、好ましくは40~100μm2であってもよく、より好ましくは40~96μm2、さらに好ましくは50~90μm2であってもよい。
また、分割型複合繊維や海島型複合繊維に由来する場合、第1の繊維の平均断面積は、好ましくは5~40μm2であってもよく、より好ましくは5~35μm2、さらに好ましくは10~30μm2であってもよい。
【0042】
また、べたつきを抑える観点から第1の繊維は親水性繊維で構成されることが好ましい。親水性繊維としては、再生セルロース系繊維や溶剤紡糸セルロース系繊維、ポリアミド系繊維等が挙げられる。
【0043】
(第2の繊維)
第2の繊維は、芯部を形成する樹脂成分と、鞘部を形成する樹脂成分とで構成され、鞘部分が熱融着性を有している。
例えば、鞘部としては、熱融着性を有するポリエチレン、ポリプロピレン、これらの変性ポリマー、ブレンド、共重合体などのポリオレフィン系樹脂、リン変性ポリエステル以外の変性ポリエステル系樹脂(例えば、イソフタル酸により変性した変性ポリエチレンテレフタレート)などが挙げられ、好ましくはポリエチレンおよびポリエチレンの変性ポリマー、ブレンド、共重合体、変性ポリエチレンテレフタレートなどである。熱融着性樹脂の融点は、例えば、80~150℃であってもよく、好ましくは100~140℃であってもよい。
【0044】
一方、芯部としては、鞘部の樹脂成分に応じて、繊維化可能である樹脂成分が選択される。好ましい芯部としては、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂などが挙げられる。芯部の樹脂成分の融点は、鞘部樹脂成分の融点と比べて、例えば10℃以上であってもよく、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上高い温度であってもよい。
【0045】
例えば、芯成分/鞘成分の組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/変性ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/変性ポリプロピレンなどの組み合わせが好適である。
これらのうち、剛性を低くすることができる観点から、芯成分および鞘成分が、それぞれ、融点の異なる2種類のオレフィン樹脂で構成され、鞘成分を構成するオレフィン樹脂が、芯成分を構成するオレフィン樹脂より低い融点を有しているのが好ましく、特に、芯成分/鞘成分の組み合わせとしてポリプロピレン/ポリエチレンが好ましい。
【0046】
第2の繊維において、芯部と鞘部の構成比率は、質量比で、例えば、90/10~10/90であってもよく、好ましくは80/20~20/80、より好ましくは70/30~30/70であってもよい。
【0047】
第2の繊維の断面形状は特に制限はなく、丸型芯鞘、偏心型芯鞘、異形断面型芯鞘など、どのような形態でもよい。第2の繊維は、例えば、平均断面積が19~2000μm2であってもよく、好ましくは19~1300μm2、より好ましくは50~750μm2であっても良い。ここで、平均断面積は、後述する実施例に記載された方法により測定される値である。また、第2の繊維の平均繊維径を平均断面積に代わる指標として用いても良く、例えば、平均繊維径が5~50μmであってもよく、好ましくは5~40μm、より好ましくは8~30μmであってもよい。この場合の平均繊維径は、無作為に選択した100本程度の繊維径を測定した平均値を採用することができる。なお、円形でない繊維の場合、繊維断面に対して外接円と、内接円を取り、それぞれの直径の平均値を繊維径として用いればよい。
【0048】
(不織布の製造方法)
不織布は、湿式不織布であってもよいが、繊維の絡み合いを促進する観点から、乾式不織布であるのが好ましい。なお、乾式不織布は、例えば、構成繊維の繊維長が20~70mm程度、好ましくは25~65mm程度であってもよく、より好ましくは30~60mm程度であり、さらに好ましくは35~55mm程度であり、湿式不織布の構成繊維の繊維長は、通常、10mm以下である。
【0049】
例えば、乾式不織布は、所定の繊維集合体から、カード法またはエアレイド法により、ウェブを形成する。ここで、繊維集合体は、第1の繊維(または第1の繊維を形成可能な複合繊維)及び第2の繊維を少なくとも備えており、必要に応じてその他の繊維(機能性繊維など)を含んでいてもよい。第1の繊維を形成可能な複合繊維としては、上述した海島型複合繊維、分割型複合繊維が挙げられる。
【0050】
ウェブの形状としては、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ等が挙げられる。これらのうち、不織布の異方性を抑制しつつ、生産性を良好にする観点から、セミランダムウェブが好ましい。
【0051】
得られたウェブは、次いで、実用的な強度を付与するために、繊維同士を結合させる。第2の繊維が融着するのを抑制するため、結合方法としては、機械的結合(例えば、水流交絡法、ニードルパンチ法)が好ましく、特に水流絡合処理により交絡させる水流交絡法を用いることが好ましい。ウェブにおいて分割型複合繊維が用いられている場合、機械的結合の際に、複合繊維の剥離により繊維が分割され、分割片により第1の繊維が形成されてもよい。
【0052】
水流交絡法では、ウェブを戴置した多孔支持体に対して、微細な孔をあけたノズルから高圧の水流をジェット噴射し、ウェブを貫通した水流がスチール板にあたって反射し、そのエネルギーで繊維同士を絡みあわせて結合させ、不織布が得られる。
【0053】
複数の多孔支持体を利用してもよく、例えば、第1の多孔支持体を通過させて3次元形状を有する繊維同士の絡み合いを行い、第2の多孔支持体を通過させて、不織布に対して所望のメッシュ形状を与えてもよい。
【0054】
なお、ウェブにおいて海島型複合繊維が用いられている場合、水流交絡において海成分が溶解除去されてもよいし、得られた不織布に対して、更に海成分の溶解除去工程を行ってもよい。
【0055】
(不織布の用途)
得られた不織布は、第1の繊維で主として構成されるため柔らかさを有しており、その一方で熱融着性芯鞘繊維を含むため、後加工において、熱接着を行うことが可能であり様々な用途に用いることが可能である。
【0056】
例えば、本発明の不織布は、毛羽立ちの発生によるチクチク感を低減することができるとともに、接触時の肌への刺激性を低減することができるため、必要に応じて他の部材と組み合わせて、人体に適用されてもよい。
【0057】
本発明の不織布が用いられる用途としては、例えば、マスク、衣料(ディスポ下着)、寝具(枕カバー、シーツ)、医療用製品(例えば、手術着、帽子、手袋)、衛生製品(例えば、おむつ、生理用品、お産用パッドなどのハイジーン製品、ガーゼなどの清浄用品、母乳パッドなど)、コスメティック製品(美容用アイマスク、化粧パフなど)などの肌側材が挙げられる。
これらのうち、不織布は、マスク用口元材、ハイジーン製品用表面材またはコスメティク用表面材などに用いられるのが好ましい。
【0058】
例えば、不織布をマスク用口元材として用いる場合、不織布は、人体の口元及び鼻元(特に鼻孔部)の双方もしくはいずれか一方を少なくとも被覆していてもよい。
例えば、
図4Aは、本発明の一実施形態に係るマスクを示す概略正面図であり、
図4Bは、
図4Aに係るマスクに用いられる積層材の一例を示す概略断面図である。
【0059】
図4Aに示すように、プリーツマスク100は、口元および鼻元を被覆可能な大きさの横長形状の被覆部110と、被覆部の横方向の両端部に設けられた固定部150とを備えている。被覆部110には、横方向に延びる折り目によって、少なくとも1つのプリーツ130を形成することができる。プリーツ130により、被覆部110が縦方向に伸張するので、被覆部110を種々の顔の大きさに対応させることができる。固定部150は、例えば、紐状の伸縮性材料で構成することができ、被覆部110の両側の端部において超音波等により取り付けられている。
【0060】
さらに、被覆部110には、例えばその上辺に沿って、ワイヤー140を内蔵することができる。ワイヤー140を適宜変形させることにより、マスクの被覆部と人体の適用部分とのフィット性を向上させることができる。なお、図中、破線はヒートシール部分を示している。また、
図4Aには一点鎖線で示すワイヤー140が記載されているが、実際には、ワイヤー140を、マスク100の正面(外層側)から見ることはできない。
【0061】
また、被覆部110には、例えば、被覆部の略中央部分においてプリーツと平行に、弾性補強部160を内蔵することができる。弾性補強部160を設けることにより、マスクの被覆部が外側方向に放射形状を有することが可能となり、口元における中空空間を広げて、マスク着用者の快適度を向上させることができる。
【0062】
被覆部110は、少なくとも本発明の不織布を口元材として備えている。例えば、
図4Bに示すように、口元材である呼気側材121として用いられる本発明の不織布と、他の部材(例えば、中間層を形成するフィルター材122、呼気側とは反対側の外層を形成する表面材123など)とを組み合わせた積層材120により、被覆部110を構成してもよい。または、本発明の不織布は、特定の小さな断面積を有する第1の繊維で主として構成されているため、フィルター性も期待することができるため、上の積層材においてフィルター材122を省略し、被覆部110を、口元材である呼気側材121と表面材123で構成してもよい。本発明の不織布は、熱圧着成形が可能であるため、呼気側材121と他の部材(例えば、フィルター材122、表面材123)とを熱融着により一体化することができる。
【0063】
本発明の不織布は、不織布が肌との接触によりこすれた場合でも、不織布に毛羽立ちが発生しにくく、毛羽によるチクチク感が発生するのを抑制することができる。
【0064】
中間層は、必要に応じて設ければよく、設ける場合、マスクの目的に従ってさまざまな機能を付与することができる。例えば、防塵性を高める観点からは、マスクは中間層としてフィルター材を備えているのが好ましい。
【0065】
フィルター材は、花粉や粉塵をろ過する性能があればよく、特に限定されるものではなく、上記種々の方法により製造された多孔膜(例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜)や不織布が挙げられる。防塵性を向上する観点から、帯電処理(またはエレクトレット処理)されたフィルター材が好ましい。フィルター材の帯電処理は、公知又は慣用の方法により行うことができる。
【0066】
不織布としては、好ましくは、スパンボンド法、サーマルボンド法、スパンレース法又はニードルパンチ法による不織布、メルトブロー法またはエレクトロスピニング法による不織布(好ましくはナノファイバー不織布)などを用いることができ、さらに好ましくは、不織布は、帯電処理したメルトブローン不織布、または摩擦帯電したニードルパンチ不織布であってもよい。
【0067】
表面材は、呼気側材の補強層や支持層などとして用いられる。表面材は、目的や構成に応じて、公知又は慣用の不織布などを利用することが可能である。好ましくは、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、スパンレース法又はケミカルボンド法による不織布を用いることができる。
【0068】
マスク100の製造は、特に限定されるものではないが、生産性、製造コスト等の点から連続生産で行うことが好ましい。例えば、呼気側材121、フィルター材122、表面材123をそれぞれロールで巻き出し、この順序で積層し、その後、折板でのプリーツ加工や、上下左右の端部の熱融着シール(例えば超音波シールまたは熱シール)、固定部150の熱融着シールによる取り付け等を連続的に行い、マスク100を製造してもよい。
【0069】
また、不織布は、顎部分などへのフィット性も良好であり、例えば、マスクの口元材として用いられる場合、肌への刺激を低減することができるとともに、不織布と顎部分が接触する際に隙間が生じるのを抑制することができるため、花粉、ホコリなどの粒子や病原体などがマスクの隙間から侵入するのを抑制できる。
【0070】
図5Aは、本発明の別の実施形態に係るマスクを示す概略正面図であり、
図5Bは、
図5Aに係るマスクの正面からの概略展開図である。
図5Aに示すように、本発明の別の実施形態に係る立体型マスク200は、口元および鼻元を被覆するように着用される立体形状のマスクであって、被覆部210と、被覆部210とは別の伸縮性のある不織布などから形成された固定部250とを備えている。
【0071】
マスク200は、
図5Bに示すように、一対のマスク用片203、204の先端の接合部位261、262同士を、
図5Aに示すようにヒートシール等により接合して接合部260とすることによって形成することができる。
図5Bに示す1対のマスク用片203、204は、被覆部210と固定部250を接合したものを、
図5Bに示す形状に裁断したものである。なお、
図5Aにおいて、251は固定部250を形成するために設けた切れ目(耳を通すための孔部)である。
【0072】
被覆部210は、上記第1の実施形態で用いられる積層材120と同様の積層材を備えることができる。すなわち、最外層として表面材123、中間層としてフィルター材122、および最内層として呼気側材121を備えている。被覆部210は、少なくとも本発明の不織布を口元材、すなわち、呼気側材121として備えている。
【0073】
本発明の不織布は、上述したような、プリーツ型マスク、立体型マスク以外にも、平型マスクにおいて利用することができ、例えばこのようなマスクは、例えば、花粉対策、風邪・ウイルス対策、PM2.5対策等の家庭用マスク、機能性マスク(加湿マスクなど)、サージカルマスク等の医療用マスク、米国のNIOSHの認定によるN95マスクといった防塵マスク等の産業用マスクなどとして使用することができる。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0075】
[繊維の平均断面積]
不織布の厚み方向に対して平行に、かつ機械方向(MD)方向に対して垂直となるように、剃刀(「フェザー剃刀S片刃」、フェザー安全剃刀(株)社製)を用いて不織布を切断し、切断面において、縦225μm×横300μmのサイズで、無作為に選択した断面写真を走査型電子顕微鏡にて撮像した。断面画像の横方向左右どちらかの端より100μm、150μm、200μmの位置に縦方向に直線を引き、その3本の直線と重なった繊維断面を第1の繊維と第2の繊維を分別し、複数枚の写真より、それぞれ50本選択した。そして、パソコンソフトAdobe Photoshop CS6 Extendedの「計測ツール」を用いて各50本の平均断面積を求めた。第2の繊維が
図1Aで示すように融着し合っている場合は、下記のように算出した。
1本あたりの断面積=芯成分および鞘成分の総断面積/融着繊維本数
【0076】
[鞘成分間融着率]
不織布の厚み方向に対して平行に、かつ機械方向(MD)方向に対して垂直となるように、剃刀(「フェザー剃刀S片刃」、フェザー安全剃刀(株)社製)を用いて不織布の任意の1カ所を切断し、切断面において、縦300μm×横400μmのサイズにおいて、無作為に選択した10か所の断面写真を走査型電子顕微鏡にて撮像した。各断面写真に存在する全ての第2の繊維の数(T)をカウントするとともに、いずれの第2の繊維に対しても接触していない単独で存在する繊維の数(S)についてもカウントし、各写真における第2の繊維の融着率は下記式から算出した。
融着率(写真)=(T-S)/T×100
そして、10か所の各断面写真から得られた融着率から平均値を算出し、得られた平均値を不織布の融着率とした。
【0077】
[目付および嵩密度]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.2に準じて、不織布の目付(g/m2)を測定した。また、見かけ密度(g/cm3)は、目付を厚さで除することにより、算出した。
【0078】
[厚さ]
JIS L 1913「一般不織布試験方法」の6.1に準じて、不織布の厚さを測定した。具体的には、不織布の厚み方向に対して平行に、かつ機械方向(MD)に対して垂直となるように、剃刀(「フェザー剃刀S片刃」、フェザー安全剃刀(株)社製)を用いて不織布の任意の10カ所を切断し、デジタル顕微鏡にてそれぞれの断面を観察して各断面の厚さを測定し、これらの平均値を算出することにより、厚さ(mm)を求めた。
【0079】
[ループ面積]
JIS L 0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の9.2を参考に、摩擦試験機II型を用い、試験片台に230mm×30mmのJIS L 0803準拠 試験用白綿布(カナキン3号)を取り付けた。70mm×70mmのサンプルを摩擦子の先端に取り付け、2Nの荷重で、白綿布の中央部100mmの間を毎分30回往復の速度で5往復摩擦した。サンプルの摩擦面に毛羽立ちとして発現したループ状の繊維の高さと長さを、摩擦方向と直交する方向からデジタル顕微鏡で撮像し、パソコンソフトAdobe Photoshop CS6 Extendedの「計測ツール」を用いて1ループずつ面積を求めた。MD方向CD方向それぞれ5枚のサンプルから計測した面積の中から各最大値をループ面積とした。
【0080】
[剛軟度]
JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の8.21.1 A法(45°カンチレバー法)に準じて、剛軟度(mm)を測定した。MD方向CD方向それぞれ表と裏とで5回ずつ測定し、各平均値をDRY剛軟度とした。また、サンプル全体に蒸留水(富士フィルム和光製薬(株)製 品番042-16973)を250質量%含浸させ、DRY剛軟度と同じ方法で測定し、各平均値をWET剛軟度とした。
【0081】
[ウィッキング]
JIS L 1907「繊維製品の吸水性試験法」の7.1.1滴下法に準じて、吸水速度を測定した。サンプル上に、0.05g/滴の水滴を10mmの高さから1滴滴下し、その水滴がサンプルに染み込むまでの時間を測定した。
【0082】
[ヒートシール強力]
MD方向75mm×CD方向50mmにカットしたサンプルと同サイズにカットした目付20g/m2のポリプロピレンメルトブローン不織布を準備した。テスター産業(株)製「ヒートシールテスター(TP-701S)」を用い、同方向に2枚重ね合わせたサンプルのMD方向どちらか一方の端から5mm内側を、上下135℃、圧力4kgf/cm2、加圧時間3秒の条件で、MD方向10mm×CD方向50mmのサイズを熱接着させた。JIS L 1086「接着芯地及び接着布試験方法」7.10を参考に、精密万能試験機((株)島津製作所製「オートグラフAGS-D型」)を用いて、2枚の層間剥離強力を測定した。具体的には、2枚の不織布を接着させたサンプルの非接着部分より展開し、それぞれの端部をオートグラフAGS-D型のつかみ部分で固定し、200mm/minの速度で引っ張り、その際の試験力の平均値を剥離強力とした。
【0083】
[官能評価(毛羽立ち、刺激、ベタつき感)]
マスク(クラレクラフレックス(株)製「ストレッチマスクEF」)の口元材表面にMD15.5cm、CD17.0cmのサイズにカットしたサンプルのMD方向をマスクの横方向に向けて重ね合わせ、超音波ホッチキス(スズキ(株)製SUH-30 はるる)を用いて外周部を接着し、サンプルごとに官能評価用マスクを作製した。10人の被験者に8時間着用してもらい、以下の3つの判断基準で官能評価を行い、その平均値を算出した。
[毛羽立ち]
+++(3ポイント):チクチクした感じがない。
++(2ポイント):ややチクチクした感じがする。
+(1ポイント):はっきりチクチクした感じがする。
[刺激]
+++(3ポイント):ごわつきを感じない。
++(2ポイント):ほとんどごわつきを感じない。
+(1ポイント):はっきりごわつきを感じる。
[べたつき感]
+++(3ポイント):べたつきを感じない。
++(2ポイント):ほとんどべたつきを感じない。
+(1ポイント):はっきりべたつきを感じる。
上記3項目を評価し、それぞれ平均点2.5以上は〇、1.5以上2.5未満は△、1.5未満は×とした。
【0084】
[実施例1]
分割型繊維(ナイロン6とポリエチレンテレフタレートで構成された分割型繊維、「WRAMP W102」、(株)クラレ製、繊度3.8dtex、繊維長51mm、ナイロン6とポリエチレンテレフタレートの質量比:33/67)を90質量部、接着芯鞘型複合繊維(芯部がポリプロピレンで構成され、鞘部がポリエチレン(鞘成分の融点:120~140℃)で構成された芯鞘型複合繊維、宇部エクシモ(株)製、繊度1.7dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比:芯39/鞘61)を10質量部の割合で用いて均一に混綿した後、目付50g/m2のセミランダムカードウエブを常法により作製し、このカードウエブを開口率25%、孔径0.3mmのパンチングドラム支持体上に載置して速度50m/分で長手方向に連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射して交絡処理を行って、交絡した繊維ウエブ(不織布)を製造した。この交絡処理に当たっては、孔径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用し(隣接するノズル間の距離10cm)、1列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を4.0MPa、2列目のノズルから噴射した高圧水流の水圧を5.0MPaとして行った。さらに細かい網目を有する全体に平坦な支持体に載置して連続的に移送すると共に高圧水流を噴射して交絡処理を行った。この交絡処理は孔径0.10mmのオリフィスをウエブの幅方向に沿って0.6mmの間隔で設けてあるノズル2本を使用して、いずれも高圧水流の水圧6.0MPaの条件下で行った。さらに110℃で4分間乾燥、熱処理して、目付が48.9g/m2のスパンレース不織布を製造した。
【0085】
[実施例2]
実施例1で用いた第1の繊維および第2の繊維の比率を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0086】
[実施例3]
実施例1で用いた第1の繊維および第2の繊維の比率を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0087】
[実施例4]
実施例1の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を2分30秒とした以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0088】
[実施例5]
実施例1で用いた第1の繊維に代えて、繊度1.3dtex、繊維長38mmのリヨセル(テンセル(登録商標)、レンチング社製、ダル(Dull))を用い、第1の繊維および第2の繊維の比率を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0089】
[実施例6]
実施例1の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を3分とした以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0090】
[実施例7]
実施例2の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を3分とした以外は、実施例2と同様にして不織布を製造した。
【0091】
[実施例8]
実施例3の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を3分とした以外は、実施例3と同様にして不織布を製造した。
【0092】
[実施例9]
実施例5の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を3分とした以外は、実施例5と同様にして不織布を製造した。
【0093】
[比較例1]
実施例5で用いた第1の繊維に代えて、繊度1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン繊維(「コロナ」、ダイワボウレーヨン株式会社製)を用いた以外は、実施例5と同様にして不織布を製造した。
【0094】
[比較例2]
実施例5で用いた第1の繊維に代えて、繊度1.6dtex、繊維長51mmのPET繊維(「テトロン」T-471、東レ(株)製)を用いた以外は、実施例5と同様にして不織布を製造した。
【0095】
[比較例3]
比較例1の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を3分とした以外は、比較例1と同様にして不織布を製造した。
【0096】
[比較例4]
実施例1で用いた第1の繊維および第2の繊維の比率を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0097】
[比較例5]
比較例4の不織布を乾燥、熱処理する工程において、処理温度を135℃とし、処理時間を3分とした以外は、比較例4と同様にして不織布を製造した。
【0098】
[比較例6]
市販マスク(「リブふわマスク ふつう プリーツタイプ」、リブ・ラボラトリーズ(株)製)より、4層の不織布を接着固定したマスク本体の外周接着部分を切断し、装着時に最も人体側に位置する1枚を試料とした。
【0099】
得られた不織布の各種評価結果を表1および表2に示す。
【表1】
【0100】
表1に示すように、比較例1では、第1の繊維の平均断面積が本発明で規定する範囲を超えているため、毛羽立ちの指標であるループ面積が大きく、官能評価においても毛羽立ちを感じる程度が高い。
【0101】
比較例2では、第1の繊維の平均断面積が本発明で規定する範囲を超えているため、毛羽立ちの指標であるループ面積が大きく、官能評価においても毛羽立ちを感じる程度が高い。さらに、ウィッキング性に劣り、官能試験では、べたつきを感じさせる。
【0102】
比較例3では、第1の繊維の平均断面積が本発明で規定する範囲を超えているため、毛羽立ちの指標であるループ面積が大きい。また、第2の繊維の鞘成分の融着率が高いため、融着により、不織布の剛軟度の値が高く、すなわち不織布が硬くなり、官能試験では、毛羽立ちを感じる程度が高く、皮膚に対する刺激も大きい。
【0103】
比較例4では、実施例1と比べて第1の繊維の割合が少なく、第2の繊維の割合が多いため、第1の繊維の毛羽立ち発生を抑制することができず、毛羽立ちの指標であるループ面積が大きく、官能試験では、毛羽立ちを感じる程度が高い。さらに第1の繊維の割合が少なく、吸湿性が妨げられるためか、ウィッキング性に劣り、官能試験では、べたつきを感じさせる。
【0104】
比較例5では、比較例4に対して融着点を増加させたものであり、比較例4と比べると融着点の存在により毛羽立ち性は低下しているが、不織布の剛軟度の値が高く、すなわち不織布が硬くなり、官能試験では、皮膚に対する刺激も大きい。また、融着点の存在により第1の繊維の吸湿性が妨げられるためか、ウィッキング性に劣り、官能試験では、べたつきを感じさせる。
【0105】
比較例6は、マスクの口元材として一般的に用いられているポリプロピレンスパンボンド不織布であり、平均繊維断面積が大きいため、毛羽立ち性が高く、さらに、ウィッキング性に劣り、官能試験では、べたつきを感じさせる。
【0106】
一方、実施例1~9は、いずれの不織布も毛羽立ちが少なく、ウィッキング性が良好であり、官能試験では、べたつき感の発生を抑制できている。また、鞘成分間の融着率が高くなると刺激が増加する傾向にあり、融着率が低い実施例1~5では、いずれも刺激が少なく剛軟度も低い値である一方、実施例1~5より融着率が高い実施例6~9では、融着率の大きさに応じて、剛軟度が高く、刺激性が増加する傾向にある。またさらに、実施例1~3の間で比較すると、第1の繊維の割合が高くなるにつれて、毛羽立ちが少なく、刺激およびべたつき性の発生が少なくなる傾向がある一方、第2の繊維の割合が低くなるにつれて、ヒートシール強力は小さくなる傾向にある。
【0107】
さらに、実施例5では、第1の繊維の平均断面積が本発明で規定する範囲に存在しているため、比較例1と比べて、毛羽立ちの指標であるループ面積が顕著に小さい値となり、官能評価においても毛羽立ちを感じる程度が小さい。
本発明の不織布は、毛羽立ちを抑えるだけでなく、柔軟性に優れ、さらにべたつきを低減することができるため、皮膚に対して用いられる部材、例えば、マスク用口元材などとして有用である。
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。