(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039918
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】気泡除去キャップ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/153 20060101AFI20240315BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61B5/153 100
A61M5/31 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144654
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 一成
【テーマコード(参考)】
4C038
4C066
【Fターム(参考)】
4C038TA03
4C038UF10
4C066AA07
4C066BB10
4C066DD08
4C066EE14
4C066FF05
4C066LL22
4C066MM04
(57)【要約】
【課題】血液による汚染のリスクが低い、気泡除去キャップを実現できるようにする。
【解決手段】気泡除去キャップは、先端側に通気フィルタ104が固定され、基端側にシリンジのノズルが挿入されるコネクタ部112を有する本体筒部101と、本体筒部101の回りを囲む外側筒部102とを備えている。外側筒部102の基端は、本体筒部101の基端よりも基端側に位置している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に通気フィルタが固定され、基端側にシリンジのノズルが挿入されるコネクタ部を有する本体筒部と、
前記本体筒部の回りを囲む外側筒部とを備え、
前記外側筒部の基端は、前記本体筒部の基端よりも基端側に位置している、シリンジ用の気泡除去キャップ。
【請求項2】
前記本体筒部の外径は、前記シリンジのカプラの内径よりも小さく、
前記外側筒部の内径は、前記シリンジのカプラの外径よりも大きい、請求項1に記載の気泡除去キャップ。
【請求項3】
前記外側筒部の基端面及び前記本体筒部の基端面は、内側方向に傾斜する傾斜面である、請求項2に記載の気泡除去キャップ。
【請求項4】
前記本体筒部は、前記通気フィルタよりも基端側に形成された気泡分離室と、前記気泡分離室と前記コネクタ部との間に形成されたオリフィスノズルとを有している、請求項1に記載の気泡除去キャップ。
【請求項5】
前記外側筒部の先端は、前記本体筒部の先端と一致しているか、前記本体筒部の先端よりも先端側に延びている、請求項1に記載の気泡除去キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気泡除去キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
血液中の溶存ガスを分析する場合、採取した血液サンプルに含まれる気泡は、測定誤差を増大させる原因となる。このため、溶存ガス等を分析する試料を採取する場合には、空気の混入を生じにくくする専用のシリンジ等を用いることが一般的である。しかし、専用のシリンジを用いたとしても気泡の混入を完全に防ぐことは困難である。
【0003】
採血時に混入した気泡は、採血後のシリンジを上向きにして、気泡を上部に集め、プランジャーを押して針先から押し出すことができる。しかし、気泡を押し出す際に、わずかではあるが血液も押し出されてしまう。針先から押し出された血液は、感染を引き起こす等の医療事故の原因となり得る。
【0004】
血液による汚染を避けつつ気泡を押し出せるようにするために血液の通過を阻止する通気フィルタを用いることが検討されている。例えば、通気フィルタを有する気泡除去キャップを準備し、採血後のシリンジに気泡除去キャップを取り付けてから気泡の押出し操作を行うことにより、血液が外側に押し出されないようにすることができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の気泡除去キャップは、シリンジへの取り付及び取り外しの際に血液汚染を生じさせるおそれがある。例えば、気泡除去キャップをノズルに取り付ける際に、気泡除去キャップのコネクタ部の基端にノズルの先端が触れてしまうと、気泡除去キャップの外側に血液が付着するおそれがある。外側に血液が付着したことに気づかずに気泡除去キャップを把持すると、血液による汚染のリスクが高くなる。ノズルの先端がコネクタ部の基端に触れないように慎重に操作すれば外側への血液の付着を防ぐことができるが、このような操作を毎回確実に成功させることは不可能である。
【0007】
本開示の課題は、血液による汚染のリスクが低い、気泡除去キャップを実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の気泡除去キャップの一態様は、先端側に通気フィルタが固定され、基端側にシリンジのノズルが挿入されるコネクタ部を有する本体筒部と、本体筒部の回りを囲む外側筒部とを備え、外側筒部の基端は、本体筒部の基端よりも基端側に位置している。
【0009】
気泡除去キャップの一態様によれば、本体筒部の回りを囲む外側筒部の基端が、本体筒部の基端よりも基端側に位置している。このため、本体筒部の基端側に設けられたコネクタ部にシリンジのノズルを挿入する際に、ノズルの端部が意図せずにコネクタ部の端部に触れて、コネクタ部の外側に血液が付着したとしても、操作者が意図せずに血液の付着したコネクタ部に触れないようにすることができる。また、本体筒部の先端側に設けられた通気フィルタにより、血液を外部に押し出すことなく気泡の除去を行うことができる。
【0010】
気泡除去キャップの一態様において、本体筒部の外径は、シリンジのカプラの内径よりも小さく、外側筒部の内径は、シリンジのカプラの外径よりも大きくすることができる。このような構成とすることにより、ノズルをコネクタ部に挿入する際に、カプラをガイドとして用いることができるので、シリンジへの取り付け及び取り外しをよりスムーズに行うことができる。
【0011】
気泡除去キャップの一態様において、外側筒部の基端面及び本体筒部の基端面は、内側方向に傾斜する傾斜面とすることができる。このような構成とすることにより、シリンジのカプラ及びノズルの外側筒部及びコネクタ部への挿入がさらに容易となり、取付の際に血液汚染が生じる可能性を低減できる。
【0012】
気泡除去キャップの一態様において、本体筒部は、通気フィルタよりも基端側に形成された気泡分離室と、気泡分離室とコネクタ部との間に形成されたオリフィスとを有するようにすることができる。このような構成とすることにより、ノズル先端部の気泡が押し出される前に通気フィルタが血液により濡れて通気性を失う事態を生じにくくすることができると共に、もし気泡が残存してもノズル側へ逆流しにくくできる。
【0013】
気泡除去キャップの一態様において、外側筒部の先端は、本体筒部の先端と一致しているか、本体筒部の先端よりも先端側に延びていてもよい。このような構成とすることにより、気泡除去キャップを先端側を下にして台上に裁置して挿入操作等をすることができるので、取り付けの際における血液汚染をさらに低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の気泡除去キャップによれば、血液による汚染のリスクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る気泡除去キャップを示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係る気泡除去キャップを示す斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1~
図3に示すように、一実施形態に係る気泡除去キャップ100は、本体筒部101と、フランジ部103により本体筒部101と接続され、本体筒部101の回りを囲む外側筒部102とを備えている。
【0017】
本体筒部101は、先端側に通気フィルタ104を保持するフィルタ保持部111を有し、基端側にコネクタ部112を有している。通気フィルタ104は、気体は通過できるが、液体の通過は阻止するフィルタであり、疎水性の樹脂フィルタや焼結体フィルタとすることができる。
【0018】
本体筒部101のフィルタ保持部111とコネクタ部112との間には、オリフィスノズル115が形成されており、オリフィスノズル115を囲むように中空の気泡分離室114が形成されている。オリフィスノズル115の先端と通気フィルタ104との間には隙間が設けられている。本体筒部101のコネクタ部112は、シリンジのノズルが挿入されて液密に嵌合する。通常のシリンジのノズルはオスルアーであり、コネクタ部112はメスルアーコネクタである。但し、両者が液密に嵌合できれば他の構成とすることもできる。
【0019】
シリンジのノズルをコネクタ部112に挿入する際に、完璧に位置合わせができなければ、ノズルの先端はコネクタ部112の基端壁116に当接し、コネクタ部112の外側に血液が付着するおそれがある。しかし、ノズルの外径とコネクタ部112の内径とはほぼ等しいので、ノズルの先端が基端壁116に触れないようにすることは非常に困難である。本実施形態において、本体筒部101は、大径の外側筒部102に囲まれており、外側筒部102の基端は本体筒部101の基端よりも基端側に位置している。外側筒部102の内径は、ノズルの外径よりも大きく、ノズルの外径との間にクリアランスを有するように設計されているため、外側筒部102の基端壁126に触れないようにノズルの先端を外側筒部102に挿入することは容易にできる。なお、クリアランスは大きすぎると外側筒部102とコネクタ部112との間に血液が垂れた場合に血液が外側に回り込みやすくなってしまう。このためクリアランスは0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。ノズルの先端がコネクタ部112の基端壁116と当接して、コネクタ部112の外側に血液が付着しても、コネクタ部112は外側筒部102に囲まれているため、血液が付着したコネクタ部112に操作者が意図せずに触れる事態を避けることができる。
【0020】
コネクタ部112の基端と、外側筒部102の基端との距離d1は、血液による汚染を避ける観点からはある程度大きくすることが好ましく、好ましくは3mm以上、である。ノズルの挿入のし易さ及び成形のし易さの観点からは、好ましくは5mm以下である。
【0021】
メスコネクタと螺合させることができるカプラを有するシリンジを用いる場合は、本体筒部101の外径をカプラの内径よりもわずかに小さくし、外側筒部102の内径をカプラの外径よりもわずかに大きくすることが好ましい。このようにすれば、本体筒部101と外側筒部102との隙間が、カプラが挿入されて位置合わせされるガイドとすることができるので、シリンジのノズルをコネクタ部112へ挿入することがさらに容易となる。
【0022】
本実施形態において、外側筒部102の基端壁126は、内側方向に傾斜する傾斜面となっている。これにより、カプラが外側筒部102内へさらにスムーズに誘導され、シリンジのノズルの位置決めも自動的になされるので、ノズルのコネクタ部112への挿入をスムーズに行うことができる。本実施形態においては、コネクタ部112の基端壁116も内側方向に傾斜する傾斜面となっている。これにより、カプラがコネクタ部112の基端壁116に当たったとしても内側方向にガイドされて、ノズルのコネクタ部112への挿入もさらにスムーズに行うことができる。
【0023】
本実施形態において、外側筒部102の先端は、本体筒部101の先端よりも先端側に位置している。このような構成とすることにより、先端側を下にして気泡除去キャップを台上に置き、上方からシリンジのノズルを挿入することが容易にできる。台上に置いたコネクタ部112にノズルを挿入すれば、気泡除去キャップ100を把持しなくても挿入操作ができるので、医療事故をより生じにくくすることができる。外側筒部102の先端が、本体筒部101の先端よりも先端側に位置していることにより、台上に裁置した際に本体筒部101の先端が台の表面に触れないようにできるだけでなく、意図せずに本体筒部101の先端を指等で触ってしまうような事態も生じにくくすることができる。但し、外側筒部102の先端の位置と本体筒部101の先端の位置とが一致している構成としたり、本体筒部101の先端が外側筒部102の先端よりも先端側に位置している構成としたりすることもできる。
【0024】
本実施形態において、外側筒部102は、先端側に肉厚になったリム部121を有している。このため、気泡除去キャップ100を先端側を下にして台の上等に安定して裁置することができる。また、シリンジのノズルをコネクタ部112に挿入する際に力が加わっても気泡除去キャップ100が簡単に破損しないようにできる。また、外側筒部102の全体を肉厚にする場合よりも、成型精度を向上させることができ、成型不良により台上に裁置した際にがたつきが生じるといった事態を低減できる。
【0025】
本実施形態において、外側筒部102のリム部121よりも基端側は、4つの把持面122を有する断面が略四角形状の外形を有している。外側筒部102の外形を把持面122を有する形状とすることにより、気泡除去キャップの把持が容易となる。外側筒部102の外形は略四角形状に限らず、略三角形状や、5角形以上の略多角形状とすることもできる。なお、把持面122は完全な平面ではなく、わずかに湾曲した指にフィットする面とすることもできる。外側筒部102の外形は全体が曲面により形成された円形状や楕円形状とすることもできる。
【0026】
本実施形態において、4つの把持面122の間には、肉厚のピラー123が形成されている。ピラー123を形成することにより、把持面122を肉薄にしつつ、外側筒部102の強度を高めることができる。ピラー123を形成するのではなく、把持面122を含めて外側筒部102の全体を肉厚にすることもできる。
【0027】
本実施形態において、外側筒部102は、外側壁127と内側壁128の2枚の壁により形成されている。外側壁127と内側壁128とは、基端側において連結されており、他の部分は隙間129により隔てられている。このような構成とすることにより、肉厚を厚くすることなく、所定の内径と外径とを有する外側筒部102を容易に形成することができる。但し、二重構造の壁ではなく、一枚の壁により外側筒部102を形成することもできる。
【0028】
本実施形態の気泡除去キャップ100を使用する際には、まず、採血したシリンジのノズルを本体筒部101のコネクタ部112に挿入して嵌合させたのち、ノズルを上にしてシリンジをはじく等してノズル部分に気泡を集め、プランジャーを押圧する。気泡を含む血液は、オリフィスノズル115を通って気泡分離室114に押し出される。この際に、気泡分離室114内の空気は、通気フィルタ104を通過して外側に排出される。気泡分離室114が血液により満たされるまでの間、オリフィスノズル115から押し出された血液は、下降して基端側から気泡分離室114に溜まり、血液と共に押し出された気泡は上昇して気泡分離室114内の空気と共に通気フィルタ104を通って排出される。血液は通気フィルタを通過できないので、血液を気泡除去キャップ100の外に押し出すことなく、気泡だけを除去することができる。
【0029】
通気フィルタ104が血液で濡れると空気も通過できなくなるので、気泡分離室114にわずかに空気が残る可能性がある。しかし、気泡分離室114内の血液は分析に用いられず、気泡分離室114に残存した空気のシリンジ側への逆流もオリフィスノズル115により抑えられているので、気泡分離室114に空気が残存しても測定に影響を与えない。
【0030】
気泡分離室114の体積は、特に限定されないが、シリンジ内の気泡を十分に除去できるようにする観点からシリンジのノズル部分の体積の好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上であり、デッドボリュームを低減する観点からは、ノズル部分の体積よりも小さいことが好ましいが、ノズル部分の体積よりも大きくすることもできる。この場合、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下である。
【0031】
本実施形態において、フィルタ保持部111の内径を、コネクタ部112の内径よりも小さくしている。これにより、気泡分離室114のデッドボリュームを小さくして、廃棄される血液量を少なくすることが容易にできる。但し、フィルタ保持部111のサイズは、使用する通気フィルタ104のサイズに応じて最適化することができる。
【0032】
本実施形態において、本体筒部101と外側筒部102とを接続するフランジ部103は、オリフィスノズル115の基端とほぼ揃った位置に形成されている。但し、フランジ部103は、他の位置に形成することもできる。
【0033】
コネクタ部112の外面に、シリンジのカプラと係合する雄ネジ部を形成することもできる。このようにすれば、操作中に気泡除去キャップ100がシリンジのノズルから外れる事態を生じにくくすることができる。
【0034】
本実施形態において、本体筒部101及び外側筒部102は、特に限定されないがポリプロピレン及びアクリル等の透明な材料により形成することができる。本体筒部101及び外側筒部102を透明な材料により形成することにより、シリンジのノズルがコネクタ部112に挿入されたことや、気泡分離室114に血液が流入して気泡が除去できたことを目視により確認することができる。なお、本体筒部101及び外側筒部102は完全な透明ではなく、血液の流れが確認できる程度の半透明とすることもできる。
【0035】
本実施形態の気泡除去キャップ100は、動脈血の採血に用いるフィルタ付きガスケットを有するシリンジと組み合わせることができるが、通常のシリンジと組み合わせることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示の気泡除去キャップは、血液による汚染のリスクを低減でき、医療分野等において有用である。
【符号の説明】
【0037】
100 気泡除去キャップ
101 本体筒部
102 外側筒部
103 フランジ部
104 通気フィルタ
111 フィルタ保持部
112 コネクタ部
114 気泡分離室
115 オリフィスノズル
116 基端壁
121 リム部
122 把持面
123 ピラー
126 基端壁
127 外側壁
128 内側壁
129 隙間