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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039938
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】残留農薬の分析用試料調製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20240315BHJP
   G01N 1/34 20060101ALI20240315BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20240315BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20240315BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240315BHJP
   G01N 30/06 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
G01N1/10 C
G01N1/10 F
G01N1/34
B01J20/283
G01N33/02
G01N27/62 V
G01N27/62 C
G01N30/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144699
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】松平 祐子
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041AA08
2G041AA09
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA06
2G041FA30
2G041HA01
2G052AA27
2G052AB22
2G052AD26
2G052AD46
2G052ED06
2G052GA24
2G052GA27
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】質量分析計を用いた食品の残留農薬の一斉分析に当たり、質量分析計の汚染を抑えた分析用試料を簡単に調製できるようにする。
【解決手段】茶等のカフェインを含む食品の残留農薬の分析用試料の調製では、有機系の水溶性抽出溶媒を用いて食品から残留農薬を抽出し、抽出液を得る工程と、粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルおよび粉末状炭素材含有シリカゲルを含む処理剤、抽出液および残留農薬を溶解可能な有機系の精製溶媒の混合物を得る工程と、混合物から液分の一部を分取する工程とを含む。粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのイオン交換基は、陰イオン交換能を有するアミン系官能基、例えば、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基または3-アミノプロピル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計を用いて食品の残留農薬を一斉分析するための試料の調製方法であって、
有機系の水溶性抽出溶媒を用いて前記食品から前記残留農薬を抽出し、抽出液を得る工程と、
粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルを含む処理剤、前記抽出液および前記残留農薬を溶解可能な有機系の精製溶媒の混合物を得る工程と、
前記混合物から液分の一部を分取する工程と、
を含み、
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのイオン交換基が陰イオン交換能を有するアミン系官能基である、
残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項2】
前記アミン系官能基が3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基または3-アミノプロピル基である、請求項1に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項3】
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、炭素材を添加したケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてゲル化させる工程と、ゲル化した反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を加える工程とを含む方法により調製された炭素材含有シリカゲルを陰イオン交換能を有するアミン系官能基を備えたシランカップリング剤によりさらに処理する工程を含む方法により調製されるものである、請求項1に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項4】
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、比表面積が700~1,700m/gの第1炭素材を含有し、かつ、比表面積が100~300m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに前記精製水のpHをアルカリ性領域へ変動させるものである、請求項1に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項5】
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは第1炭素材の含有割合が5~50質量%である、請求項4に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項6】
前記処理剤が粉末状炭素材含有シリカゲルをさらに含む、請求項1に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項7】
前記粉末状炭素材含有シリカゲルは、炭素材を添加したケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてゲル化させる工程と、ゲル化した反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を加える工程とを含む方法により調製されるものである、請求項6に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項8】
前記粉末状炭素材含有シリカゲルは、比表面積が700~1,700m/gの第2炭素材を含有し、かつ、比表面積が700~900m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに前記精製水のpHを酸性領域へ変動させるものである、請求項6に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項9】
前記粉末状炭素材含有シリカゲルは第2炭素材の含有割合が0.5~10質量%である、請求項8に記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項10】
前記食品がカフェイン含有食品以外の食品のとき、前記水溶性抽出溶媒としてアセトニトリルを用い、かつ、前記精製溶媒としてトルエンとアセトニトリルとの混合溶媒またはアセトニトリルを用いる、請求項1から5のいずれかに記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項11】
前記食品がカフェイン含有食品のとき、前記水溶性抽出溶媒としてアセトニトリルを用い、かつ、前記精製溶媒としてアセトンとヘキサンとの混合溶媒を用いる、請求項6から9のいずれかに記載の残留農薬の分析用試料調製方法。
【請求項12】
食品から抽出した残留農薬を含む有機系の水溶性溶媒を精製するための処理剤であって、
粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルを含み、
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのイオン交換基が陰イオン交換能を有するアミン系官能基である、
残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【請求項13】
前記アミン系官能基が3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基または3-アミノプロピル基である、請求項12に記載の残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【請求項14】
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、比表面積が700~1,700m/gの第1炭素材を含有し、かつ、比表面積が100~300m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに前記精製水のpHをアルカリ性領域へ変動させるものである、請求項12に記載の残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【請求項15】
前記粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは第1炭素材の含有割合が5~50質量%である、請求項14に記載の残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【請求項16】
粉末状炭素材含有シリカゲルをさらに含む、請求項12から15のいずれかに記載の残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【請求項17】
前記粉末状炭素材含有シリカゲルは、比表面積が700~1,700m/gの第2炭素材を含有し、かつ、比表面積が700~900m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに前記精製水のpHを酸性領域へ変動させるものである、請求項16に記載の残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【請求項18】
前記粉末状炭素材含有シリカゲルは第2炭素材の含有割合が0.5~10質量%である、請求項17に記載の残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留農薬の分析用試料調製方法、特に、質量分析計を用いて食品の残留農薬を一斉分析するための試料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬等が規定量を超えて残留する食品の販売を原則禁止するいわゆるポジティブリスト制度が日本国において2006年に施行され、多数の農薬のうち、人の健康を損なうおそれのないことが明らかな一部の農薬を除く約800種類の農薬の全てについて残留基準値が設定されるに至っている。そこで、販売される食品については約800種類の農薬の一斉分析が求められ、厚生労働省はそのための試験法を通知している(非特許文献1)。
【0003】
厚生労働省が通知する一斉試験法(以下、「通知法」と称する。)は、基本的に、食品試料を粉砕することで均一化するための試料調製工程、調製された試料から残留農薬を抽出するための抽出工程、抽出工程で得られた抽出液から夾雑物質を除去するための精製工程および精製工程により得られた試験溶液を分析するための測定・解析工程からなる。抽出工程では、試料調製工程において均一化された試料に溶媒(アセトニトリル)を加えてホモジナイズした後に吸引ろ過する。そして、このろ液を塩析した後に溶媒を除去することで得られた残留物を溶媒(アセトニトリル)に溶解し、抽出液を調製する。精製工程では、グラファイトカーボン/アミノプロピルシリル化シリカゲル積層ミニカラムに対して抽出工程で得られた抽出液およびアセトニトリルとトルエンとの混合溶媒をこの順に注入し、ミニカラムからの溶出液を得る。そして、この溶出液から溶媒を除去して得られた残留物を所定の溶媒に溶解することで所定量の試験溶液を調製する。測定・解析工程では、調製された試験溶液を質量分析計、具体的にはGC-MS若しくはGC-MS/MSまたはLC-MS若しくはLC-MS/MSにより分析することで食品試料に含まれる農薬を一斉に評価する。
【0004】
しかし、通知法は、GC-MSおよびLC-MSの両方に対応可能な汎用性を有する試験溶液を調製することから、精製工程での操作が多く複雑である。例えば、ミニカラムを用いることから多量の有機溶媒を必要とし、溶媒の除去操作も繰り返し必要になる。特に、精製工程での操作が煩雑であることから、所要の試験溶液を調製するために長時間を要するばかりではなく、試験溶液の信頼性が操作者の熟度や技量により変動し得る。
【0005】
そこで、簡単な操作により比較的短時間で一斉試験用の分析用の試料を得る方法として、QuEChERS法(キャッチャーズ法)と分散固相抽出法とを組合わせた改良法(以下、「改良法」という。)が提案されている(非特許文献2)。改良法は、EU規格においても採用されており(非特許文献3)、通知法に替わる残留農薬の一斉試験法として本邦でも食品事業者等において採用されつつある。
【0006】
改良法は、食品試料から残留農薬を抽出するための抽出工程、抽出工程で得られた抽出液の精製工程および精製工程を経た抽出液を分析するための測定・解析工程からなる。抽出工程では、食品試料にアセトニトリルを加えて残留農薬を振とう抽出し、それにより得られた抽出液に塩を加えて振とうすることで水とアセトニトリルとを分離させ、抽出液に含まれている残留農薬をアセトニトリル層へ移行させるとともに、高極性の夾雑物質を水層へ移行させる。精製工程では、抽出工程において取得されかつ処理された抽出液に含まれる夾雑物質を吸着可能なエチレンジアミン-N-プロピルシリル化シリカゲルおよびグラファイトカーボン並びに硫酸マグネシウムを含む粉末状または粒状の固相に抽出液を添加・分散して振とうした後に遠心分離する。そして、測定・解析工程では、精製工程での遠心分離により得られた上澄み溶液を通知法と同様に質量分析計を用いて分析し、食品試料に含まれる農薬を一斉に評価する。
【0007】
改良法は、固相に抽出液を添加・分散することで抽出液に含まれる夾雑物質を除去していることから、ミニカラムを用いる通知法に比べて操作が簡単であり、短時間で分析用の試料(試験溶液)を調製することができる。しかし、その精製工程は、分散固相抽出であることから、試験溶液中に食品マトリックス等の夾雑物質、特に、茶に含まれるカフェインやカテキンが残留しやすく、得られた試験溶液は、夾雑物質によって質量分析計のカラムや検出器を著しく汚染してしまうことがある。このため、改良法によれば、質量分析計の洗浄等の頻繁な保守作業が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平成17年1月24日付け食安発第0124001号 厚生労働省医薬食品食品局食品安全部長通知「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」
【0009】
【非特許文献2】一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC、「QuEChERS法について」、[2022年8月19日検索]、インターネット(URL:http://www.mac.or.jp/mail/140401/03.shtml)
【0010】
【非特許文献3】European standard EN 15662,Foods of Plant Origin - Multimethod for the determination of pesticide residues using GC- and LC-based analysis following acetonitrile extraction/partitioning and clean-up by dispersive SPE - Modular QuEChERS-method
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、質量分析計を用いた食品の残留農薬の一斉分析に当たり、質量分析計の汚染を抑えた分析用試料を簡単に調製できるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、質量分析計を用いて食品の残留農薬を一斉分析するための試料の調製方法に関するものである。この調製方法は、有機系の水溶性抽出溶媒を用いて食品から残留農薬を抽出し、抽出液を得る工程と、粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルを含む処理剤、抽出液および残留農薬を溶解可能な有機系の精製溶媒の混合物を得る工程と、混合物から液分の一部を分取する工程とを含む。ここで用いる処理剤に含まれる粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのイオン交換基は、陰イオン交換能を有するアミン系官能基である。
【0013】
陰イオン交換能を有するアミン系官能基は、例えば、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基または3-アミノプロピル基である。
【0014】
本発明において用いる処理剤に含まれる粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、通常、炭素材を添加したケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてゲル化させる工程と、ゲル化した反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を加える工程とを含む方法により調製された炭素材含有シリカゲルを陰イオン交換能を有するアミン系官能基を備えたシランカップリング剤によりさらに処理する工程を含む方法により調製されるものである。
【0015】
本発明において用いる処理剤に含まれる粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、例えば、比表面積が700~1,700m/gの第1炭素材を含有し、かつ、比表面積が100~300m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに当該精製水のpHをアルカリ性領域へ変動させるものである。粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルがこのような形態の場合、粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルにおける第1炭素材の含有割合は、通常、5~50質量%である。
【0016】
本発明に係る残留農薬の分析用試料調製方法の一形態において、処理剤は粉末状炭素材含有シリカゲルをさらに含んでいてもよい。
【0017】
この場合に用いられる粉末状炭素材含有シリカゲルは、通常、炭素材を添加したケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてゲル化させる工程と、ゲル化した反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を加える工程とを含む方法により調製されるものである。
【0018】
この形態において用いられる処理剤に含まれる粉末状炭素材含有シリカゲルは、例えば、比表面積が700~1,700m/gの第2炭素材を含有し、かつ、比表面積が700~900m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに当該精製水のpHを酸性領域へ変動させるものである。粉末状炭素材含有シリカゲルがこのような形態の場合、粉末状炭素材含有シリカゲルにおける第2炭素材の含有割合は、通常、0.5~10質量%である。
【0019】
本発明の分析用試料調製方法では、食品がカフェイン含有食品以外の食品のとき、水溶性抽出溶媒としてアセトニトリルを用い、かつ、精製溶媒としてトルエンとアセトニトリルとの混合溶媒またはアセトニトリルを用いるのが好ましい。
【0020】
また、本発明の分析用試料調製方法では、食品がカフェイン含有食品のとき、処理剤として粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルに加えて粉末状炭素材含有シリカゲルをさらに含むものを用いるとともに水溶性抽出溶媒としてアセトニトリルを用い、かつ、精製溶媒としてアセトンとヘキサンとの混合溶媒を用いるのが好ましい。
【0021】
他の観点に係る本発明は、食品から抽出した残留農薬を含む有機系の水溶性溶媒を精製するための処理剤に関するものである。この処理剤は、粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルを含み、粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのイオン交換基が陰イオン交換能を有するアミン系官能基である。
【0022】
粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのイオン交換基であるアミン系官能基は、例えば、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基または3-アミノプロピル基である。
【0023】
本発明の精製処理剤に含まれる粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、例えば、比表面積が700~1,700m/gの第1炭素材を含有し、かつ、比表面積が100~300m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに当該精製水のpHをアルカリ性領域へ変動させるものである。粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルがこのような形態の場合、粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、通常、第1炭素材の含有割合が5~50質量%である。
【0024】
本発明の精製処理剤の一形態は、粉末状炭素材含有シリカゲルをさらに含んでいてもよい。
【0025】
この形態の精製処理剤に含まれる粉末状炭素材含有シリカゲルは、例えば、比表面積が700~1,700m/gの第2炭素材を含有し、かつ、比表面積が700~900m/gであってその1gを5mLの精製水に添加したときに当該精製水のpHを酸性領域へ変動させるものである。粉末状炭素材含有シリカゲルがこのような形態の場合、粉末状炭素材含有シリカゲルにおける第2炭素材の含有割合は、通常、0.5~10質量%である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る残留農薬の分析用試料調製方法は、有機系の水溶性抽出溶媒を用いて食品から残留農薬を抽出した抽出液を陰イオン交換能を有するアミン系官能基という特定のイオン交換基により修飾された粉末状の炭素材含有シリカゲルを含む処理剤および残留農薬を溶解可能な有機系の精製溶媒と混合していることから、食品の残留農薬の一斉試験のための分析用試料であって質量分析計の汚染を抑制可能なものを簡単に調製することができる。
【0027】
本発明に係る残留農薬含有有機溶媒の精製処理剤は、陰イオン交換能を有するアミン系官能基という特定のイオン交換基により修飾された粉末状の炭素材含有シリカゲルを含むことから、本発明の分析用試料調製方法において用いると、食品の残留農薬の一斉試験のための分析用試料であって質量分析計の汚染を抑制可能なものを簡単に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実験例Aにおいて、9種類の夾雑化合物を混合した場合の各夾雑化合物の除去率を示すグラフ。
図2】実験例Aにおいて、緑茶を混合した場合のGC-MSスキャンクロマトグラフ。
図3】実験例Bに関するGC-MSスキャンクロマトグラフ。
図4】実験例Eにおいて炭素材含有シリカゲルIに9種類の夾雑化合物を加えた場合の各夾雑化合物の除去率を示すグラフ。
図5】実験例Eにおいてイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルに9種類の夾雑化合物を加えた場合の各夾雑化合物の除去率を示すグラフ。
図6】実験例Gについて各夾雑化合物の除去率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
食品の残留農薬を一斉分析するための試料の調製方法は、食品の残留農薬を質量分析計、例えば、GC-MS若しくはGC-MS/MSのようなガスクロマトグラフ質量分析計またはLC-MS若しくはLC-MS/MSのような液体クロマトグラフ質量分析計を用いて一斉に評価するために用いられる分析用試料を調製するものであり、主に、以下の工程1~3を含む。
【0030】
(工程1)
この工程では、有機系の水溶性抽出溶媒を用いて食品から残留農薬を抽出し、抽出液を得る。残留農薬の抽出対象となる食品は、各種の農作物、食肉、魚介類またはこれらの加工品など、種類が特に限定されるものではなく、通常、所要量を残留農薬の抽出のために微細な状態に粉砕するか、或いは切り刻むことで均一化する。
【0031】
食品からの残留農薬の抽出は、通常、通知法またはQuEChERS法において採用されている方法に従って実行することができる。すなわち、これらの方法では、先ず、均一化された所要量の食品試料に抽出溶媒を加えてホモジナイズし、スラリーを調製する。通知法またはQuEChERS法においては、抽出溶媒として、通常、残留農薬を溶解可能であるとともに水に溶解しやすい高極性の水溶性有機溶媒、例えば、アセトニトリル、メタノールまたはアセトンが用いられる。本発明では、抽出溶媒として同様に水溶性の有機溶媒を用いることができるが、残留農薬を一斉分析する上での夾雑成分となる脂質溶解量が少ないことから残留農薬の一斉分析において抽出溶媒として用いられることの多いアセトニトリルを選択するのが好ましい。
【0032】
次に、通知法では、得られたスラリーを吸引ろ過し、ろ液、すなわち残留農薬の抽出液を得る。この抽出液は、通常、リン酸緩衝液と塩化ナトリウムとを添加することでpHを調整するとともに塩析し、有機溶媒層と水層とに分離する。そして、分離した有機溶媒層を残留農薬の抽出液とする。一方、QuEChERS法では、得られたスラリーに塩を添加することで有機溶媒層と水層とに分離する。ここで用いられる塩は、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム若しくはその水和物、クエン酸水素二ナトリウム若しくはその水和物、無水硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、無水酢酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム等である。これらの塩は、併用することもできる。そして、分離した有機溶媒層を遠心分離して固形分と液分とに分離し、液分を残留農薬の抽出液とする。
【0033】
(工程2)
この工程では、工程1で得られた抽出液を処理剤および残留農薬を溶解可能な有機系の精製溶媒と混合し、混合物を得る。ここで用いる処理剤は、粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルを含むものである。
【0034】
処理剤に含まれるイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、イオン交換基として陰イオン交換能を有するアミン系官能基を有するものである。陰イオン交換能を有するアミン系官能基は、特に限定されるものではないが、例えば、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基または3-アミノプロピル基である。イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、陰イオン交換能を有するアミン系官能基が異なる2種以上のものが併用されてもよい。
【0035】
このようなイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、粉末状の炭素材含有シリカゲルを調製し、この炭素材含有シリカゲルを陰イオン交換能を有するアミン系官能基を備えたシランカップリング剤により処理することで調製することができる。
【0036】
具体的には、粉末状の炭素材含有シリカゲルは、炭素材を添加したケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてゲル化させる工程Aと、ゲル化した反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を加える工程Bとを含む方法により調製される粉末状のものである。この方法により調製される炭素材含有シリカゲルは、通常、工程Bで塩酸を加え終わった後に所定時間放置した後、精製水にて洗浄して乾燥したものが好ましく、それによって粉末状のものとして得られる。そして、シランカップリング剤の水溶液に粉末状の炭素材含有シリカゲルを添加して攪拌した後に脱水し、残渣を乾燥すると、目的のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルが得られる。シランカップリング剤としては、例えば、炭素材含有シリカゲルを3-(2-アミノエチルアミノ)プロピル基で修飾可能な3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランまたは炭素材含有シリカゲルを3-アミノプロピル基で修飾可能な3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いることができる。
【0037】
炭素材含有シリカゲルの調製において用いる炭素材(以下、「第1炭素材」という。)は、粉末状のものであり、食品に含まれる夾雑物に照らして適切な比表面積のものを選択するのが好ましい。質量分析計に負荷を与えやすい食品由来の夾雑物、例えば茶に含まれるカフェインやカテキン等が分析用試料に混入するのを抑える必要が場合、第1炭素材として比表面積が比較的に大きなものを選択するのが好ましい。一方、質量分析計に負荷を与えやすい食品由来の夾雑物が分析用試料に混入しにくい場合、残留農薬の回収率を高めやすいことから、第1炭素材として比表面積が比較的に小さなものを選択するのが好ましい。このような観点から、第1炭素材としては、通常、比表面積が700~1,700m/gのもの、特に1,000~1,600m/gのものが好ましい。
【0038】
比表面積が700~1,700m/gの第1炭素材を用いて上述の方法により調製されるイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、当該第1炭素材を含有し、かつ、比表面積が100~300m/gの粉末状のものとして得られる。この粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、その1gを5mLの精製水に添加したときに当該精製水のpHをアルカリ性領域、通常はpH8~10へ変動させる特性を有する。この特性を確認するために用いる精製水は、通常、蒸留水、逆浸透膜処理により調製された純水またはイオン交換水であり、pHが概ね5~7である。
【0039】
第1炭素材の使用量は、分析用試料において夾雑物の混入を抑えるとともに、残留農薬の回収率を高める観点から、通常、ケイ酸ナトリウム水溶液に含まれるケイ酸ナトリウムの5~50質量%に設定するのが好ましく、5~20質量%に設定するのがより好ましい。
【0040】
処理剤は、粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルに加え、通常、粉末状の脱水剤を含む。脱水剤は、工程1で得られた抽出液に含まれる水分を除去するためのものであり、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、炭酸カリウムおよび塩化カルシウムを挙げることができるが、硫酸マグネシウムが好ましい。なお、抽出液に水分が残留すると、処理剤による抽出液の精製効果が低下する可能性があり、また、質量分析計での分析が不安定になる可能性がある。処理剤において、脱水剤の含有量は、通常、抽出液に含まれる水分量に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0041】
処理剤は、粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルとともに、粉末状の炭素材含有シリカゲルをさらに含んでいてもよい。食品がカフェインを夾雑物として含む茶のようなものの場合にこのような処理剤を用いると、カフェインが分析用試料に混入するのを抑制しやすくなる。
【0042】
ここで用いられる炭素材含有シリカゲルは、炭素材を添加したケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を加えてゲル化させる工程Aと、ゲル化した反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を加える工程Bとを含む方法により調製される粉末状のものである。この方法により調製される炭素材含有シリカゲルは、通常、工程Bで塩酸を加え終わった後に所定時間放置した後、精製水にて洗浄して乾燥したものが好ましく、それによって粉末状のものとして得られる。
【0043】
炭素材含有シリカゲルの調製において用いる炭素材(以下、「第2炭素材」という。)は、粉末状のものであり、第1炭素材と同様の観点に照らして適切な比表面積のものが選択される。したがって、第2炭素材としては、第1炭素材と同様の比表面積のもの、すなわち、比表面積が700~1,700m/gのもの、特に1,000~1,600m/gのものを用いるのが好ましい。第2炭素材は、第1炭素材と比表面積が異なる別種のものであってもよいし、第1炭素材と同じものであってもよい。
【0044】
比表面積が700~1,700m/gの第2炭素材を用いて上述の方法により調製される炭素材含有シリカゲルは、当該第2炭素材を含有し、かつ、比表面積が700~900m/gの粉末状のものとして得られる。この粉末状の炭素材含有シリカゲルは、その1gを5mLの精製水に添加したときに当該精製水のpHを酸性領域、通常はpH3~5.5へ変動させる特性を有する。この特性を確認するために用いる精製水は、通常、蒸留水、逆浸透膜処理により調製された純水またはイオン交換水であり、pHが概ね5~7である。
【0045】
第1炭素材の使用量は、分析用試料において夾雑物の混入を抑えるとともに、残留農薬の回収率を高める観点から、通常、ケイ酸ナトリウム水溶液に含まれるケイ酸ナトリウムの0.5~10質量%に設定するのが好ましく、0.5~2質量%に設定するのがより好ましい。
【0046】
処理剤において、粉末状の炭素材含有シリカゲル(A)と粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲル(B)との配合比率(A:B)は、特定の比率に限定されるものではないが、通常、質量比で3:2~1:1に設定するのが好ましい。
【0047】
この工程において用いられる精製溶媒は、残留農薬を溶解可能な有機系の溶媒であれば種々のものを用いることができる。例えば、アセトニトリルやアセトンなどを用いることができるが、精製溶媒は、食品の種類により使い分けるのが好ましい。精製溶媒を使い分けることで、分析用試料において、食品の残留農薬の回収率を損なわずに質量分析計に汚染負荷を与える食品由来の夾雑物の混入を抑えることのできることがある。例えば、食品が茶のようなカフェイン含有食品であって工程1の抽出溶媒としてアセトニトリルを用いたとき、精製溶媒としてアセトンとヘキサンとの混合溶媒を用いるのが好ましい。この混合溶媒を用いると、カフェイン含有食品から調製される分析用試料において、残留農薬の回収率を必要な程度に維持しながら質量分析計に汚染負荷を与えるカフェインの含有量を抑えることができる。
【0048】
アセトンとヘキサンとの混合溶媒において、アセトンの割合は20~50質量%に設定するのが好ましく、20~30質量%に設定するのがより好ましい。この割合が20質量%未満の場合は残留農薬が回収されにくくなり、また、この割合が50質量%を超える場合は残留農薬は回収されやすいものの、分析用試料において夾雑物であるカフェインが混入しやすくなる。
【0049】
一方、カフェイン含有食品以外の食品であって工程1の抽出溶媒としてアセトニトリルを用いたとき、精製溶媒として、抽出溶媒と同じくアセトニトリルを用いるか、或いは、トルエンとアセトニトリルとの混合溶媒を用いるのが好ましい。これらの溶媒を用いると、分析用試料において、夾雑物の混入を抑えやすくなることがある。トルエンとアセトニトリルとの混合溶媒において、トルエンの割合は40質量%未満に設定するのが好ましく、30質量%未満に設定するのがより好ましい。この割合が40質量%を超えると、分析用試料に夾雑物が混入するのを抑えにくくなることがある。
【0050】
本工程での具体的な操作は、例えば、処理剤と精製溶媒とを入れた試験管に工程1で得られた抽出液を添加し、試験管を手振りで振盪することで処理剤、精製溶媒および抽出液を混合する。これらを混合すると、抽出液に含まれる夾雑物が処理剤中のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルにより、また、処理剤が炭素材含有シリカゲルを含む場合は当該炭素材含有シリカゲルおよびイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルにより捕捉されやすいことから固相へ移動する一方、抽出液に含まれる残留農薬は処理剤に捕捉されにくく、液相中に残留する。すなわち、抽出液に含まれる残留農薬と夾雑物とは処理剤により分離され、抽出液は精製される。
【0051】
処理剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、抽出液1mLに対して300~700mgに設定するのが好ましい。また、精製溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、食品がカフェイン含有食品以外の食品であって精製溶媒としてアセトニトリルまたはトルエンとアセトニトリルとの混合溶媒を用いる場合は抽出液1mLに対して4mLに、また、食品がカフェイン含有食品であって処理剤として粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルと粉末状炭素材含有シリカゲルとを含むものを用い、かつ、精製溶媒としてアセトンとトルエンとの混合溶媒を用いる場合は抽出液1mLに対して9mL程度に設定するのが好ましい。
【0052】
(工程3)
この工程では、工程2において処理剤、抽出液および精製溶媒を混合することで得られた混合物から液分の一部を分取する。例えば、工程2において処理剤、抽出液および精製溶媒を混合した試験管を遠心分離機に適用して試験管内の液分と固形分とを遠心分離し、液分の一部を分取する。分取した液分は残留農薬の分析用試料として、そのままで、或いは、適宜濃縮することで、質量分析計に適用することができる。
【0053】
本発明の分析用試料調製方法は、上述の工程1~3を含むものであることから、通知法に比べ、食品からの残留農薬の抽出液から残留農薬の分析用試料を短時間で簡単に調製することができる。また、調製される分析用試料は、工程2において夾雑物が処理層に捕捉されることで分離されていることから、改良法により調製された分析用試料よりも質量分析計のカラムや検出器を汚染しにくく、質量分析計の保守負担を軽減することができる。
【0054】
本発明の分析用試料調製方法は、多種多様な食品について残留農薬を一斉試験するための分析用試料を調製するために用いることができるが、処理剤として粉末状イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルと粉末状炭素材含有シリカゲルとを含むものを用いた場合、カフェインやカテキンを夾雑物として含む食品、典型的には茶の残留農薬を一斉試験するための分析用試料を調製する場合において特に有用である。
【0055】
[実験例]
<処理剤の調製>
以下の実験例において用いた炭素材含有シリカゲルおよびイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、次のとおりである。
炭素材含有シリカゲル:
ケイ酸ナトリウム水溶液を調製し、これに対してケイ酸ナトリウムの10質量%の第1炭素材を添加して攪拌した。これに塩酸を加えてゲル化させ、反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を添加した。このときの反応式は次のとおりである。
【0056】
【化1】
【0057】
反応系を一定時間放置した後に生成物を精製水にて洗浄し、これを乾燥することで粉末状の炭素材含有シリカゲルを得た。ここでは、表1に示す6種類の比表面積の第2炭素材を個別に用い、6種類の炭素材含有シリカゲルI~VIを得た。調製した炭素材含有シリカゲルI~VIの特性を併せて表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
また、炭素材含有シリカゲルIについては、ケイ酸ナトリウムに対する第2炭素材の添加量を変え、表2に示すように第2炭素材の含有量が異なる4種類のもの(Ia、Ib、Ic、Id)を調製した。調製した炭素材含有シリカゲルIa~Idの特性を併せて表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲル:
ケイ酸ナトリウム水溶液を調製し、これに対してケイ酸ナトリウムの10質量%の第1炭素材(比表面積1,680m/g)を添加して攪拌した。これに塩酸を加えてゲル化させ、反応系のpHが2未満になるまでさらに塩酸を添加した。反応系を一定時間放置した後に生成物を精製水にて洗浄し、これを乾燥することで粉末状の炭素材含有シリカゲルを得た。3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン水溶液(濃度5質量%)200mLに得られた炭素材含有シリカゲル10gを添加して攪拌後に脱水し、残渣を乾燥することでイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲル(比表面積180m/g)を得た。このイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルは、その1gを5mLの蒸留水に添加したときに当該蒸留水のpHを9.6に変動させた。
【0062】
<実験例A>
試験管に入れた粉末状の炭素材含有シリカゲルIの500mgに対し、食品中の夾雑物に見立てた9種類の夾雑化合物(リノール酸、モノパルミチン、β-シトステロール、スクアレン、カフェイン、モノミリスチン酸グリセロール、スチグマステロール、フィトールおよびdl-α-トコフェロール)をそれぞれ10μg含む1mLのアセトニトリル溶液、35種類の農薬をそれぞれ0.2μg含む1mLのアセトニトリル溶液または緑茶0.2gを含む1mLのアセトニトリル溶液(カフェイン含有量4mg)、および、アセトン1質量部に対してヘキサン3質量部を混合した混合溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これをGC-MSにて分析することで、上澄み液における各夾雑化合物の除去率と各農薬の回収率とを調べた。また、炭素材含有シリカゲルIをイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルに変更し、同様に操作して各夾雑化合物の除去率と各農薬の回収率とを調べた。結果を表3(35種類の農薬を加えた場合の農薬回収率の結果および緑茶を加えた場合のカフェイン除去率の結果)および図1(9種類の夾雑化合物を加えた場合における各夾雑化合物の除去率の結果)に示す。また、緑茶を混合した場合について、質量分析計により得られたスキャンクロマトグラフを図2に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3によると、炭素材含有シリカゲルIおよびイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルのいずれを用いた場合も、35種類の農薬の殆どの種類のものが70~120%の高い回収率で回収されている。また、図1および図2によると、炭素材含有シリカゲルIとイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルとは、併用することで多くの夾雑物を除去可能なことがわかる。特に、図2によると、茶の残留農薬を一斉試験する場合、炭素材含有シリカゲルIとイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルとを併用することで茶に特徴的な夾雑物であるカフェインおよびカテキンを除去しやすくなるものと考えられる。
【0065】
<実験例B>
粉末状の炭素材含有シリカゲルI650mg、粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲル400mgおよび粉末状の硫酸マグネシウム800mgを均一に混合して試験管に入れ、これに緑茶0.2gを含む1mLのアセトニトリル溶液(カフェイン含有量4mg)、35種類の農薬をそれぞれ0.2μg含む0.1mLのアセトニトリル溶液、および、アセトン1質量部に対してヘキサン3質量部を混合した混合溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これを分析用試料とした。また、緑茶0.2gを含む1mLのアセトニトリル溶液(カフェイン含有量4mg)と35種類の農薬をそれぞれ0.2μg含む0.1mLのアセトニトリル溶液との混合液を二つ調製した。そして、これらの混合液を食品から残留農薬を抽出した抽出液とみなし、通知法および改良法のそれぞれに従って個別に処理することで分析用試料を調製した。
【0066】
各分析用試料をGC-MSにて分析することで、各分析用試料におけるカフェインの除去率と各農薬の回収率とを調べた。結果を表4に示す。また、GC-MSにより得られたスキャンクロマトグラフを図3に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
粉末状の炭素材含有シリカゲルIと粉末状のイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルとの混合処理剤は、35種類の農薬の殆どの種類のものを70~120%の高回収率で回収可能であり、農薬の回収率の点において通知法および改良法に対して遜色がない一方、カフェインの除去率が通知法および改良法よりも高く、質量分析計を汚染しにくい分析用試料を調製可能である。
【0069】
<実験例C>
粉末状の炭素材含有シリカゲルI~VIのそれぞれ500mgを個別に試験管に入れ、各試験管にカフェイン10μg、6種類の農薬(ブプロフェジン、フェナミホス、ビンクロゾリン、フサライド、シマジンおよびヘキサジノン)をそれぞれ1μg含む1mLのアセトニトリル溶液およびアセトン1質量部に対してヘキサン3質量部を混合した混合溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これをGC-MSにて分析することで、上澄み液におけるカフェインの除去率と各農薬の回収率とを調べた。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5によると、炭素材含有シリカゲルは、使用する炭素材の比表面積が大きいと、カフェイン除去率が高くなるのに対して一部の農薬の回収率が低くなる傾向が認められ、使用する炭素材の比表面積が小さいと、カフェイン除去率が低くなるのに対して農薬の回収率が高くなる傾向が認められる。
【0072】
<実験例D>
炭素材含有シリカゲルI、Ia、Ib、Ic、Idのそれぞれ500mgを個別に試験管に入れ、各試験管にカフェイン10μg、炭素材に対して強い吸着力を示す農薬の一種であるフラサイドを1μg含む1mLのアセトニトリル溶液およびアセトン1質量部に対してヘキサン3質量部を混合した混合溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これをGC-MSにて分析することで、上澄み液におけるカフェインの除去率とフラサイドの回収率とを調べた。結果を表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
<実験例E>
試験管に入れた粉末状の炭素材含有シリカゲルIの500mgに対し、食品中の夾雑物に見立てた9種類の夾雑化合物(実験例Aで用いたものと同じもの)をそれぞれ10μg含む1mLのアセトニトリル溶液または35種類の農薬(実験例Aで用いたものと同じもの)をそれぞれ0.2μg含む1mLのアセトニトリル溶液、および、表7に示す溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これをGC-MSにて分析することで、上澄み液における各夾雑化合物の除去率と各農薬の回収率とを調べた。また、炭素材含有シリカゲルIをイオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルに変更し、同様に操作して各夾雑化合物の除去率と各農薬の回収率とを調べた。結果を表7(35種類の農薬を加えた場合の農薬回収率の結果)並びに図4(炭素材含有シリカゲルIを用い、9種類の夾雑化合物を加えた場合における各夾雑化合物の除去率の結果)および図5(イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲルを用い、9種類の夾雑化合物を加えた場合における各夾雑化合物の除去率の結果)に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
<実験例F>
粉末状の炭素材含有シリカゲルIbの500mgを試験管に入れ、これにカフェイン10μg、6種類の農薬(実験例Cで用いたものと同じ)をそれぞれ1μg含む1mLのアセトニトリル溶液、表8に示すアセトンとヘキサンとの混合溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これをGC-MSにて分析することで、上澄み液におけるカフェインの除去率と各農薬の回収率とを調べた。結果を表8に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
<実験例G>
イオン交換基修飾炭素材含有シリカゲル200mgを試験管に入れ、これに6種類の農薬(実験例Cで用いたものと同じもの)をそれぞれ1μg含む1mLのアセトニトリル溶液および食品中の夾雑物に見立てた9種類の夾雑化合物(実験例Aで用いたものと同じもの)をそれぞれ10μg含む1mLのアセトニトリル溶液、並びに、表9に示すトルエンとアセトニトリルとの混合溶媒9mLを加え、手振りにて1分間振盪した。そして、試験管を遠心分離して上澄み液を分取し、これをGC-MSにて分析することで、上澄み液における夾雑化合物の除去率と各農薬の回収率とを調べた。結果をそれぞれ図6および表9に示す。
【0079】
【表9】
図1
図2
図3
図4
図5
図6