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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039956
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】磁気エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20240315BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240315BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01D5/245 110M
H01F7/02 A
H01F1/057 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144727
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
(72)【発明者】
【氏名】大河原 遊
【テーマコード(参考)】
2F077
5E040
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077AA42
2F077CC02
2F077CC07
2F077NN02
2F077NN04
2F077NN18
2F077NN24
2F077PP05
2F077QQ07
2F077QQ15
2F077TT81
2F077UU11
2F077VV11
2F077VV33
5E040AA04
5E040BB03
5E040BB05
5E040CA01
5E040CA05
5E040NN06
(57)【要約】
【課題】成形性を確保し、熱硬化後の変形が生じ難く、高い厚さ精度を有し、薄型化が可能な磁気エンコーダを提供すること。
【解決手段】リング状の磁気エンコーダは、希土類磁石粉末と樹脂とを混合、圧縮して未加熱体を作製した後、未加熱体に含まれる樹脂を熱硬化して熱硬化体を作製して得られ、周方向に互いに異なる磁極が所定の磁極ピッチで着磁された磁気トラックを有する。未加熱体の厚さをT(mm)、希土類磁石粉末の最大粒径をG(μm)とした時の比率RをT/Gとした場合、比率Rが6.67以上であり、かつ希土類磁石粉末の粒径が、45μm~150μmである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石粉末と樹脂とを混合、圧縮して未加熱体を作製した後、前記未加熱体に含まれる樹脂を熱硬化して熱硬化体を作製して得られ、周方向に互いに異なる磁極が所定の磁極ピッチで着磁された磁気トラックを有するリング状の磁気エンコーダにおいて、
前記未加熱体の厚さをT(mm)、前記希土類磁石粉末の最大粒径をG(μm)とした時の比率RをT/Gとした場合、前記比率Rが6.67以上であり、かつ前記希土類磁石粉末の粒径が、45μm~150μmである、磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記希土類磁石粉末の粒径が、75μm~150μmである請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【請求項3】
前記磁気トラックが、同心状に配置される主トラック及び副トラックを有し、前記主トラックが、無着磁領域を挟んで前記副トラックの外周側に位置する請求項1又は2に記載の磁気エンコーダ。
【請求項4】
前記希土類磁石粉末が、希土類鉄系(Nd-Fe-B系)磁石粉末である請求項1又は2に記載の磁気エンコーダ。
【請求項5】
前記希土類磁石粉末が、希土類鉄系(Nd-Fe-B系)磁石粉末である請求項3に記載の磁気エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の回転位置検出に使用する磁気エンコーダが知られている。この磁気エンコーダとして、同心のリング状に設けられ、互いに磁極数が異なる2つの磁気トラックを有する磁気エンコーダと、これら各磁気トラックの磁界をそれぞれ検出する磁気センサとを備え、磁気センサの検出した磁界信号の位相差に基づいて、磁気エンコーダの絶対角度を算出するように構成した回転検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の回転検出装置における磁気エンコーダは、例えば磁性体製の芯金に、磁性体粉が混入された弾性部材を加硫接着し、この弾性部材を、円周方向に交互に磁極を形成して磁気トラックを形成したゴム磁石として構成される。また、磁気エンコーダの他の構成例として、磁性体製の芯金に、磁性体粉が混入された樹脂を成形した樹脂成形体を設け、この樹脂成形体を、円周方向に交互に磁極を形成して磁気トラックを形成した樹脂磁石としても良いことが記載されている。このようなゴム磁石や樹脂磁石では、通常、磁性体粉として、フェライト系磁石粉末を用いている。
【0004】
磁気エンコーダの磁気特性の向上を考えれば、磁気エンコーダに含まれる磁性体の配合量は多い方が好ましく、また、磁石粉末の磁気特性が高い方が好ましい。このため、フェライト系磁性粉末よりも希土類磁石粉末を用いた場合の方が、磁気特性が向上する。このため、被着磁物である磁気エンコーダを希土類ボンド磁石で構成することが考えられる。
【0005】
磁気エンコーダに形成される磁気トラックとなる複数の磁極(N極、S極)を着磁する場合、一般にコイル通電方式の着磁装置(いわゆる、パルス着磁方式)が用いられている。このコイル通電方式の着磁装置は、例えば、着磁ヨークに巻回されたコイルを有する界磁部にパルス電流を流し、それによって発生する磁界により、被着磁物に対して着磁を行っているが、例えば、特許文献2の「発明が解決しようとする課題」の欄に記載されているように、磁気エンコーダの磁気トラックを検出する磁気センサの磁極幅が1.28mmに制限されている場合、被着磁物である磁気エンコーダが希土類ボンド磁石による構成に対して、上記のパルス着磁方式では、1.28mmのような狭い磁極ピッチで飽和着磁して複数の磁極を形成することは難しい。
【0006】
このため、被着磁物における磁石のキュリー点以上に加熱し、キュリー点未満まで冷却する間、界磁源である永久磁石によって被着磁物に着磁磁界を継続的に印加することによって、多極着磁しても好適に着磁できる手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
特許文献3の着磁装置には、磁石粉末を所定温度で熱間塑性加工して異方性を付与した異方性希土類鉄系バルク磁石と、放電プラズマ焼結(SPS)装置を利用して、磁石粉末を所定温度で焼結した等方性希土類鉄系バルク磁石と、等方性磁石粉末とエポキシ樹脂とを混合、圧縮し、所定温度で硬化させた等方性希土類鉄系ボンド磁石と、等方性磁石粉末を用い、エポキシ樹脂と混合、圧縮した後、エポキシ樹脂を所定温度で硬化させた等方性の希土類鉄系ボンド磁石と、が記載され、1.28mmのような狭い磁極ピッチで多極着磁しても好適に着磁できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-267867号公報
【特許文献2】特開2017-32327号公報
【特許文献3】特開2021-093521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と樹脂とを混合、圧縮してグリーン体である未加熱体を作製した後、グリーン体に含まれる樹脂を熱硬化してキュア体である熱硬化体を作製し、キュア体に所定の磁極ピッチで着磁することで得られる。
【0010】
ところが、磁石粉末は、様々な粒径を有する磁石粉末が混在していることにより、グリーン体を薄型化した際の成形性や、グリーン体の密度のバラツキによって熱硬化後の変形が生じ易くなる。また、磁力特性に貢献するのは磁石粉末のみであり、磁石粉末が偏りなく分布していることが、磁気エンコーダの高精度化のために重要となる。しかしながら、特許文献3には、等方性希土類鉄系ボンド磁石に対して、狭い磁極ピッチで多極着磁しても好適に着磁できることは記載されているが、グリーン体を薄型化した際の成形性や熱硬化後の変形に関しては、記載がなく、さらなる検討の余地がある。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、希土類ボンド磁石による磁気エンコーダにおいて、グリーン体を薄型化した際の成形性の向上や、グリーン体の熱硬化後の変形が生じ難く、狭い磁極ピッチで多極着磁しても好適に着磁できる磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る磁気エンコーダは、希土類磁石粉末と樹脂とを混合、圧縮して未加熱体を作製した後、前記未加熱体に含まれる樹脂を熱硬化して熱硬化体を作製して得られ、周方向に互いに異なる磁極が所定の磁極ピッチで着磁された磁気トラックを有するリング状の磁気エンコーダにおいて、
前記未加熱体の厚さをT(mm)、前記希土類磁石粉末の最大粒径をG(μm)とした時の比率RをT/Gとした場合、前記比率Rが6.67以上であり、かつ前記希土類磁石粉末の粒径が、45μm~150μmである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様によれば、成形性を確保し、熱硬化後の変形が生じ難く、高い厚さ精度を有し、薄型化が可能な磁気エンコーダを提供することができるという効果を奏する。従って、本発明の態様による磁気エンコーダは、各種のロボットの関節部やモータの角度検出、車輛用途軸受の回転検出等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態に係る磁気エンコーダの概略斜視図である。
図2図2は、実施の形態に係る磁気エンコーダの概略部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
[実施の形態に係る磁気エンコーダ]
実施の形態に係る磁気エンコーダについて説明する。磁気エンコーダの磁気特性向上の観点から、等方性の希土類ボンド磁石を磁気エンコーダに用いることが好適であり、希土類ボンド磁石を用いた場合、狭い磁極ピッチで多極着磁しても好適に着磁できると共に、コスト低減を期待できる。
【0017】
希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と樹脂とを混合、圧縮して未加熱体であるグリーン体を作製した後、グリーン体に含まれる樹脂を熱硬化して熱硬化体であるキュア体を作製し、キュア体に所定の磁極ピッチで着磁することで得られる。希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と、バインダーである樹脂と、ボイドと、から構成され、それぞれの体積比率は概ね、希土類磁石粉末が約80%、樹脂が約10%、ボイド(空孔)が約10%程度の数値となる。
【0018】
希土類磁石粉末は、様々な粒径を有する希土類磁石粉末が混在していることにより、グリーン体を薄型化した際の成形性や、グリーン体の密度のバラツキによって熱硬化後の変形が生じ易くなる。また、磁力特性に貢献するのは希土類磁石粉末のみであり、希土類磁石粉末が偏りなく分布していることが、磁気エンコーダの高精度化のために重要となる。なお、希土類磁石粉末の粒径は、未加熱体、熱硬化体、及び着磁後の磁気エンコーダで略変化しない。
【0019】
図1は、実施の形態による磁気エンコーダを模式的に表した概略斜視図であり、図2は、実施の形態による磁気エンコーダを模式的に表した概略部分平面図である。これらの図1及び図2に示すように、希土類ボンド磁石による磁気エンコーダ1は、主トラック2と、副トラック3との2つの磁気トラックを有し、主トラック2と副トラック3とは、無着磁領域4を挟んで同心状のそれぞれ外周及び内周に配置されている。
【0020】
主トラック2と、副トラック3とは、図2に示すように、それぞれN極とS極とが交互に隣接して配置されるように着磁されている。主トラック2及び副トラック3は、複数の磁極対(N極とS極)を周方向に等ピッチで着磁されており、主トラック2及び副トラック3の磁極数は互いに異ならせている。主トラック2及び副トラック3の磁界をそれぞれ検出する磁気センサ6A、6Bを備えたセンサモジュール5は、図2に示すように、主トラック2及び副トラック3の一部の磁極上に配置されている。
【0021】
磁気エンコーダ1を同心中心の周りに回転させると、主トラック2の磁極数と副トラック3の磁極数とが互いに異なっているため、磁気センサ6Aと磁気センサ6Bとの間で位相ずれが生じる。この位相ずれを検出して磁気エンコーダ1の絶対角度を算出することにより、磁気エンコーダ1を設置した機器の回転位置を検出することができる。
【0022】
[実施の形態に係る磁気エンコーダの製造]
磁気エンコーダ1の製造は、狭い磁極ピッチで多極着磁しても好適に着磁できると共に、コスト低減を期待できることから、希土類ボンド磁石を用いる。希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末を例えば、超急冷法により製造する。具体的には、希土類合金を減圧下又はアルゴン雰囲気中で、高周波誘導加熱して溶解させる。次に、溶解させた合金の溶湯を銅製の回転ロール上に噴射して超急冷(高速冷却)してリボン状の薄帯片を作製する。次に、この薄帯片を、例えば、数mm ~ 数十mm程度に破断した後、粉砕機などで粉砕して粉末を得る。
【0023】
次に、粉砕した粉末を所定のメッシュを有するふるいを用いて分級した後、これに熱処理を行う。さらに、希土類磁石粉末とバインダーである熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を所定の配合比率で混合してコンパウンドを作製する。所定の配合比率は、例えば、希土類磁石粉末97~98重量%に対し、熱硬化性樹脂を2~3重量%配合する。また、コンパウンドに滑剤(例えば、ステアリン酸カルシウム)を少量添加してもよい。次に、コンパウンドを金型に充填し、所定の圧力を加えて圧縮し、リング状のグリーン体を作製する。金型から取り出したグリーン体をオーブンにセットし、所定温度、例えば150℃程度で所定時間、キュア(熱硬化)させてキュア体を作製する。
【0024】
キュア体を作製した後、キュア体表面に酸化防止のための防錆手段を施す。防錆手段としては、電着塗装、スプレー塗装等、公知の手段で行う。キュア体表面に防錆手段を施した後、例えば、図2に記載されているように、キュア体の軸方向一方端面に同心状に2つの磁気トラックを形成したバーニヤ方式の磁気エンコーダを構成する。具体的には、外周側に主トラック2を所定の磁極ピッチで磁化し、内周側に副トラック3に所定の磁極ピッチで磁化する。ここで、磁極ピッチは、各磁気トラックにおいて、隣接するN極とS極との周方向における間隔である。
【0025】
主トラック2にn極対で磁化した場合、副トラック3は(n-1)極対で磁化する。磁極ピッチは、磁気エンコーダ1の磁気トラックを検出する磁気センサ6A、6Bの磁極幅が制限されている場合、磁気エンコーダ1に形成する磁気トラックの磁極ピッチは磁気センサ6A、6Bの磁極幅と同じ幅に形成される。例えば、磁気センサ6Aの磁極幅が1.28mm(又は1.5mm)に制限されている場合、図1に示すような、磁気エンコーダ1の主トラック2は、1.28mm(又は1.5mm)に磁化する。
【0026】
磁化は、いわゆる着磁であり、着磁手段は、例えば、特許文献3に開示されているような、被着磁物をその磁石粉末のキュリー点以上に加熱し、キュリー点未満まで冷却する間、界磁源である永久磁石によって被着磁物に着磁磁界を継続的に印加する手段で行うことで、狭い磁極ピッチで多極着磁しても好適に着磁できる。以上によって、希土類ボンド磁石による磁気エンコーダが作製される。
【実施例0027】
以下、実施例に基づいて上記実施の形態をより詳細に説明する。なお、上記実施の形態は、以下の実施例および比較例によって何ら制限されない。
【0028】
[実施例1~実施例2及び比較例1~比較例3]
希土類磁石粉末として、実施例1~実施例2及び比較例1~比較例3に対応する試料1~試料5を準備した。試料1~試料5は、いずれも希土類磁石粉末として、超急冷法で作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石粉末であるNd-Fe-B系磁石粉末(マグネクエンチ社製、型番MQP-10-11)を用いた。
【0029】
希土類鉄系磁粉は、R-Fe-B系磁石(但しRはYを含むCe、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho等の希土類元素)又は前記磁石においてFeの一部をCoで置換したR-Fe(Co)-B系磁石(但しRは前述の意味を表す)と、更にはSi、Al、Nb、Zr、Hf、Mo、Ga、P、Cの1種または2種以上の組み合わせを用いたR-Fe-B-M系磁石又はR-Fe(Co)-B-M系磁石(但しRは前述の意味を表し、MはSi、Al、Nb、Zr、Hf、Mo、Ga、P、Cの1種または2種以上の組み合わせを表す)、不可避不純物からなる合金組成を有するRFe14B、RFe(Co)14Bナノ結晶組織(nanocrystalline)、またはαFeとRFe14B、RFe(Co)14Bとのナノ複合組織(nanocomposite)、前記Rは前述の意を表す)を含む、磁気的に等方性の希土類鉄系急冷磁粉が好ましい。
【0030】
或いは、実施の形態にかかる希土類-鉄系磁粉は、Sm-Fe-N系磁石と、Hf、Zr、Si、Nb、Ti、Ga、Al、TaおよびCの1種または2種以上の組合せを用いたSm-Fe-M’-N系磁石(但しM’はHf、Zr、Si、Nb、Ti、Ga、Al、TaおよびCの1種または2種以上を表す)、並びに、不可避不純物からなる合金組成を有するSmFe17(x≒3)ナノ結晶組織(nanocrystalline)、またはαFeとSmFe17(x≒3)とのナノ複合組織(nanocomposite)を含む、磁気的に等方性の希土類鉄系急冷磁粉を使用しても差し支えない。また、前述のR-Fe-B系磁粉とSm-Fe-N系磁粉を混ぜてもよく、どちらかが、あるいは両方とも磁気的に異方性磁粉でも差し支えない。
【0031】
次に、各々の試料の希土類磁石粉末とバインダーである熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂:ペルノック社製、型番XW2310)を所定の配合比率(希土類磁石粉末:97.5重量%、熱硬化性樹脂:2.5重量%)で混合してコンパウンドを作製した。希土類磁石粉末とバインダーの配合比率は、試料1~5すべて同じ条件で作製した。また、このコンパウンドに滑剤(例えば、ステアリン酸カルシウム)を添加してもよい。そして、コンパウンドを金型に充填し、所定の圧力を加えて圧縮し、グリーン体(試料1~5)を作製した。グリーン体の形状は、図1に示すように、外径B:Φ56mm、内径A:Φ41mm、厚さT:1.0mmのリング状である。
【0032】
試料を飽和磁化させるためには、試料の厚さTは、磁極ピッチの1/2以上であることが好ましい。厚さTが磁極ピッチの1/2以上である場合、磁力線の半円が試料内に収まるため、磁力の低下を抑制することができる。例えば、図2に示すような、磁気エンコーダの磁気トラックを検出する磁気センサ6Aの磁極幅が1.28mmに制限されている場合、磁気エンコーダに形成する磁気トラック(主トラック2)の磁極ピッチは、1.28mmに形成される。
【0033】
このため、試料の厚さTは、磁気トラックの磁極ピッチ1.28mmの1/2である、0.64mm以上あれば特に限定されないが、試料の厚さTを必要以上に大きくした場合、磁気トラック形成時の磁化の深さが及ばず磁力に寄与しないため、無駄な厚さとなり、コストの増加となってしまう。一方、試料の厚さTを、0.7mm程度とした場合、磁極ピッチの1/2以上であるが、例えば、ハンドリング性が悪く、金型で圧縮成形したグリーン体を排出する際、グリーン体が破損する可能性が高くなる。また、手作業によるハンドリング時に破損し易くなるため、破損を防止する観点から、試料の厚さTは、1.0mmに設定した。
【0034】
ここで、各試料のグリーン体のハンドリング性(○:欠け無く良、△:欠け少し有り並、×:欠け多く不可)を評価した。ハンドリング性とは、希土類磁石粉末とバインダーとを混合して作製したコンパウンドを金型に充填して圧縮成形したリング状のグリーン体を金型から取り出す際の取り扱い性を評価した内容であり、金型に備えたエジェクタピンにて金型からグリーン体を取り出す際、グリーン体に生じる割れや欠けの状態を目視で観察し、ハンドリング性として評価した。ハンドリング性の評価結果を含む他の評価結果等と共に、表1に纏めて示す。
【0035】
【表1】
【0036】
次に、金型から取り出したグリーン体をオーブンにセットし、150℃程度の温度で所定時間、キュア(熱硬化)させて、熱硬化体であるキュア体を作製した。オーブンから取り出したキュア体をマイクロメーターにて、対角線の位置で8箇所の厚みを測定して厚さのバラツキ(最大値-最小値)及び厚み精度を評価し、評価結果を表1に示した。表1において、厚さのバラツキの値が0.08mmより大きい試料は不可として厚み精度を×で表示し、バラツキの値が0.08~0.06mmの間の値を有する試料は並として厚み精度を△で表示し、バラツキの値が0.06未満の試料は良として厚み精度を〇で表示した。
【0037】
表1より、ハンドリング性の評価に関し、試料1~3は、金型からエジェクタピンで試料(グリーン体)を排出する際、外周縁に割れや欠けが生じた。特に試料1,2では、大きな欠けが生じ、不可であった。このような欠けの発生は、後工程で、試料を磁化してトラックを形成する際、トラック形成領域まで欠けが及ぶ場合、トラックが形成できないという問題が生じる。また、希土類磁石粉末として、Nd-Fe-B系磁石粉末を用いているため錆び易い。このため、酸化防止のため、試料表面に防錆膜を被覆する必要があるが、欠けが生じた箇所は、均一な防錆膜とならず、この箇所から錆が生じる虞がある。これに対して、試料4,5に関しては、金型から試料(グリーン体)を排出する際、欠けが生じず、ハンドリング性が良好であった。
【0038】
また、グリーン体をキュアして作製したキュア体の厚さのバラツキ(最大値-最小値)を評価した厚み精度を見ると、試料1、2は、バラツキが0.06mmより大きく、不可であり、試料3~5は、バラツキが0.06mm以下で良好であった。特に、試料4、5は、バラツキが0.03mmであり、厚み精度が良好な結果を示した。厚さのバラツキが大きくなると、試料を磁気エンコーダとして用いた場合、磁気トラックを検出する磁気センサが検出するトラックからの磁束の大きさにバラツキが生じ、磁気エンコーダの角度精度の低下の要因になる。
【0039】
表1のハンドリング性と厚み精度の評価結果から、試料4、5がいずれも良好な結果を示す。ここで、希土類磁石粉末の粒度分布における最大粒径を参照すると、試料4、5における最大粒径は、試料1~3の最大粒径に比べて小さいことがわかる。
【0040】
ここで、グリーン体(試料1~5)の厚さT(mm)と、各試料1~5における希土類磁石粉末の最大粒径G(μm)との比率RをT/Gとした場合、表1に示すように、試料1は約2.82、試料2は約3.92、試料3は約4.44、試料4~5は約6.67である。このことから、表1のハンドリング性及び厚み精度の評価結果を勘案すると、試料の厚さTは、希土類磁石粉末の最大粒径の約4.5倍以上が好ましく、希土類磁石粉末の最大粒径の約6.7倍以上がさらに好ましい。
【0041】
また、表1のハンドリング性及び厚み精度の評価結果より、希土類磁石粉末の最適な粒径は、45μm ~ 225μmであり、好ましくは、45μm ~150μmである。なお、希土類磁石粉末の粒径が45μm未満では、金型間のクリアランス(隙間)に噛み込みが生じ易く、成形が困難になる虞がある。また、希土類磁石粉末の粒径が150μmを超えると、グリーン体に割れや欠けを生じるので、好ましくない。
【0042】
なお、上述した実施の形態では、リング状の希土類ボンド磁石に同心状に2つの磁気トラックを形成したバーニヤ方式を有するアキシャル形の磁気エンコーダについて説明したが、磁気トラックが1つの磁気エンコーダであっても同様に適用できる。また、筒状の希土類ボンド磁石の外周面に磁気トラックを形成するラジアルタイプの磁気エンコーダであっても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 磁気エンコーダ、2 主トラック、3 副トラック、4 無着磁領域、5 センサモジュール、6A、6B 磁気センサ、A 内径、B 外径
図1
図2