(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039965
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】冷却水のリザーブタンク
(51)【国際特許分類】
F01P 3/22 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
F01P3/22 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144742
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】小出 景二郎
(72)【発明者】
【氏名】下山 伸次
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】栗本 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘次
(72)【発明者】
【氏名】時野谷 拓己
(72)【発明者】
【氏名】北村 みよ
(57)【要約】
【課題】比較的単純な構成により、リザーブタンク内の冷却水の液面振動を十分に抑制し、呼吸孔からの冷却水の漏出を防止することができる冷却水のリザーブタンクを提供する。
【解決手段】本発明の冷却水のリザーブタンク1は、上下方向に延び、冷却水を貯留する主室4と、主室4の上部に対して水平方向に隣接し、呼吸孔10が形成された開口部9を上部に有する副室5と、副室5の下部と主室4の下部に連通し、上下方向に延びる第1連通路6と、を有するタンク本体2と、タンク本体2の開口部9から副室5及び第1連通路6を通って主室4の下部に延び、タンク本体2と外部との間で冷却水を授受するためのホース3と、を備える。第1連通路6の通路面積は、副室5の横断面積よりも小さく、かつホース3を挿入可能な最小の所定値に設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を冷却する冷却水を貯留する冷却水のリザーブタンクであって、
上下方向に延び、冷却水を貯留する主室と、当該主室の上部に対して水平方向に隣接し、呼吸孔が形成された開口部を上部に有する副室と、当該副室の下部と前記主室の下部に連通し、上下方向に延びる第1連通路と、を有するタンク本体と、
当該タンク本体の前記開口部から前記副室及び前記第1連通路を通って前記主室の下部に延び、前記タンク本体と外部との間で冷却水を授受するためのホースと、を備え、
前記第1連通路の通路面積は、前記副室の横断面積よりも小さく、かつ前記ホースを挿入可能な最小の所定値に設定されていることを特徴とする冷却水のリザーブタンク。
【請求項2】
前記タンク本体は、前記主室及び前記副室の上部間に連通する第2連通路と、当該第2連通路よりも下側に配置され、前記主室と前記副室に連通する第3連通路と、をさらに有することを特徴とする冷却水のリザーブタンク。
【請求項3】
前記第1連通路、前記第2連通路及び前記第3連通路の通路面積の合計が、前記開口部の開口面積以上に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の冷却水のリザーブタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を冷却する冷却水を貯留する冷却水のリザーブタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
リザーブタンクは、内燃機関を冷却する冷却水が循環する冷却回路に接続され、冷却回路内の温度や圧力の状態に応じて、冷却水を貯留及び放出するという機能を有する。このため、リザーブタンクの上部には、温度の変化に伴う空気の膨張及び収縮の影響を吸収するための呼吸孔(通気孔)が通常、設けられている。また、リザーブタンクはエンジンルームに設けられており、車両が悪路などを走行する際、リザーブタンク内の冷却水の液面が大きく振動し、冷却水が呼吸孔から漏れ出るおそれがあるため、これを防止することが必要である。
【0003】
従来のリザーブタンクとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このリザーブタンクは、主室と、主室に隣接し、断面積(水平断面積)が小さい副室を備えている。主室と副室の最下部間は第1連通路によって連通し、最上部間は第2連通路によって連通している。第1連通路の通路面積は第2連通路よりもかなり大きい。内燃機関の運転中のリザーブタンクに対する冷却水の流入・流出は、主室を介して行われる。また、副室の最上部には、冷却水を注入(補充)するための開口部が形成され、開口部にはキャップが着脱自在に取り付けられている。また、キャップの内部には気液分離のためのろ過材が充填され、側部にはリザーブタンクの通気のための呼吸孔(連通孔)が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のリザーブタンクでは、副室の断面積や第1連通路の通路面積がさほど小さくないため、車両が悪路などを走行する際、リザーブタンクに振動や衝撃が作用すると、冷却水が主室から副室に第1連通路を介して流れたり、副室内で上下方向に移動したりするため、副室における冷却水の液面振動を十分に抑制することができない。その結果、冷却水が副室の最上部に達し、呼吸孔を介して外部に漏出するおそれがある。一方、このような不具合を回避するために、例えば副室の呼吸孔付近をラビリンス構造とし、冷却水の漏出を防止することが考えられる、しかし、その場合には、ラビリンス構造を構成するための部品点数が多くなり、コスト増を招く。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、比較的単純な構成により、リザーブタンク内の冷却水の液面振動を十分に抑制し、呼吸孔からの冷却水の漏出を防止することができる冷却水のリザーブタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本願の請求項1に係る発明は、内燃機関を冷却する冷却水を貯留する冷却水のリザーブタンク1であって、上下方向に延び、冷却水を貯留する主室4と、主室4の上部に対して水平方向に隣接し、呼吸孔10が形成された開口部9を上部に有する副室5と、副室5の下部と主室4の下部に連通し、上下方向に延びる第1連通路6と、を有するタンク本体2と、タンク本体2の開口部9から副室5及び第1連通路6を通って主室4の下部に延び、タンク本体2と外部との間で冷却水を授受するためのホース3と、を備え、第1連通路6の通路面積は、副室5の横断面積よりも小さく、かつホース3を挿入可能な最小の所定値に設定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の冷却水のリザーブタンクのタンク本体は、主室と副室を有する。主室は上下方向に延び、冷却水を貯留しており、副室は、主室の上部に対して水平方向に隣接し、呼吸孔が形成された開口部を上部に有し、副室の下部と主室の下部の間は、上下方向に延びる第1連通路によって連通されている。副室の上部には開口部が設けられ、この開口部には、副室の上部空間と外部との通気のための呼吸孔が形成されている。また、ホースは、タンク本体の開口部から副室及び第1連通路を通って主室の下部に延びるように設けられており、冷却水はホースを介してタンク本体と外部との間で授受される。さらに、第1連通路の通路面積は、副室の横断面積よりも小さく、かつホースを挿入可能な最小の所定値に設定されている。
【0009】
以上の構成により、例えば車両が悪路を走行するのに伴い、リザーブタンクに振動や衝撃が作用すると、主室では比較的大きな液面振動が発生する。すなわち、主室では液面振動が許容される。しかし、液面振動が許容されても、主室側には開口部や呼吸孔は設けられていないので、冷却水が外部に漏出するおそれはない。
【0010】
一方、振動や衝撃の作用時、副室側では、第1連通路の通路面積が副室の横断面積よりも小さく、絞られているため、第1連通路内での液面の共振周波数が高周波数側に移行することによって、液面の水平方向の振動が抑制される。また、第1連通路の通路面積がホースを挿入可能な最小の所定値に設定されていて、第1連通路とホースの間の間隙が非常に狭いため、両者の間に作用する冷却水の表面張力によって、液面の上下方向の振動が抑制される。
【0011】
以上から、副室における水平方向及び上下方向の液面振動を十分に抑制でき、それにより、冷却水の液面や液滴が副室の開口部に形成された呼吸孔に到達することがなくなることによって、呼吸孔からの冷却水の漏出を防止することができる。また、本発明のリザーブタンクは、従来のラビリンス構造を有するものと比較して、構成が単純である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の冷却水のリザーブタンク1において、タンク本体2は、主室4及び副室5の上部間に連通する第2連通路7と、第2連通路7よりも下側に配置され、主室4と副室5に連通する第3連通路8と、をさらに有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、主室内で液面が大きく振動し、主室の上部に達した場合、冷却水を第2連通路を介して副室側に流入させることができ、それにより、リザーブタンク上部の空気容量を確保することができる。この場合、第2連通路から副室に流入した冷却水は、副室の壁面に衝突することによって、有効にかき落とされる。また、第1連通路や第2連通路から副室に流入した冷却水を、第2連通路の下側の第3連通路を介して主室側に戻すことができ、それにより、副室の液面レベルを低い状態に保つことによって、液面振動を抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の冷却水のリザーブタンクにおいて、第1連通路6、第2連通路7及び第3連通路8の通路面積の合計が、開口部9の開口面積以上であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、リザーブタンクに冷却水を充填又は補充するために、タンク本体からホースを外した状態で開口部から冷却水を注入する際、上記のような通路面積と開口面積との関係から、冷却水を開口部から溢れさせることなく、主室と副室に円滑に注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態によるリザーブタンク(タンク本体)の(a)正面図、及び(b)斜視図である。
【
図2】
図1のリザーブタンクのホースを含む縦断面図である。
【
図3】本発明によるリザーブタンクを模式的に示し、(a)平面図、(b)正面図、及び(c)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態による冷却水のリザーブタンク1は、例えば車両に搭載された内燃機関を冷却する冷却水を貯留するとともに、冷却回路内の温度や圧力の状態に応じて、冷却回路との間で冷却水を授受するものであり、エンジンルームに配置されている。
【0018】
図面に示すように、リザーブタンク1は、タンク本体2と、タンク本体2に挿入されたホース3を備える。タンク本体2は、
図1に示すような合成樹脂の成形品で構成されている。タンク本体2は、主室4及び副室5から成る2室を有し、その他に、主室4と副室5を連通する第1~第3連通路6~8と、開口部9を有する。
【0019】
主室4は、上下方向に延びる主体部4aと、主体部4aの下端部から副室5側に突出する突出部4bで構成されている。冷却水は、液面レベルがタンク本体2の外面に表示された「MIN」の高さから「MAX」の高さまでの範囲に位置するように、主体部4aと突出部4bに貯留される。
【0020】
副室5は、主室4の主体部4aのほぼ上半部に対して水平方向に隣接するとともに、突出部4bの上方に配置されており、主体部4aよりも小さな横断面積(水平断面積)を有する。開口部9は、円形状で、副室5の上側に連通するように設けられ、上方に開口している。開口部9の周壁には、開口部9の内部と外部に連通する呼吸孔10が形成されている。
【0021】
第1連通路6は、主室4の突出部4bと副室5の下部に連通するように、上下方向に延びている。第1連通路6は円形の断面を有しており、その通路面積は副室5の横断面積よりもはるかに小さい。また、
図3(b)に示すように、第1連通路6の通路面積は、ホース3を挿入することが可能な最小の所定値に設定されている。具体的には、第1連通路6の内径をDp、ホース3の外径をDhとした場合、両者のクリアランスC(=(Dp-Dh)/2)が、ホース3を挿入可能であるような非常に小さな所定値に設定されている。
【0022】
第2連通路7は、主室4の主体部4aの最上部と副室5の最上部との間に連通しており、円形の断面を有する。また、第3連通路8は、第2連通路7の下側に配置され、主室4の主体部4aと副室5の下端部に連通しており、円形の断面を有する。そして、これらの第2及び第3連通路7、8の通路面積と前記第1連通路6の通路面積の合計は、開口部9の開口面積以上に設定されている。
【0023】
ホース3は、可撓性を有する材料で構成され、所定の外径及び内径を有する。
図2及び
図3(b)に示すように、ホース3は、タンク本体2の開口部9から副室5及び第1連通路6を通って主室4の突出部4b内の底部付近まで延びるように、設置されている。ホース3は、ジョイントや他のホース(いずれも図示せず)などを介して冷却回路に接続されており、内燃機関の運転中、冷却回路内の温度や圧力の状態に応じ、ホース3を介してタンク本体2と冷却回路の間で冷却水が授受される。なお、タンク本体2への冷却水の充填又は補充は、ホース3を取り外した状態で、冷却水を開口部9から注入することによって行われる。
【0024】
次に、上述した構成のリザーブタンク1の動作、特に車両が悪路などを走行するのに伴い、リザーブタンク1に振動や衝撃が作用したときの動作について説明する。リザーブタンク1に振動や衝撃が作用すると、主室4の主体部4aでは、その横断面積が比較的大きいため、大きな液面振動が発生する。すなわち、主室4では液面振動が許容される。しかし、液面振動が許容されても、主室4側には開口部9や呼吸孔10は設けられていないので、冷却水が外部に漏出するおそれはない。
【0025】
一方、振動や衝撃の作用時、副室5側では、第1連通路6の通路面積が副室5の横断面積よりも小さく、絞られているため、第1連通路6内での液面の共振周波数が高周波数側に移行することによって、液面の水平方向の振動が抑制される。また、第1連通路の通路面積がホースを挿入可能な最小の所定値に設定されていて、第1連通路とホースの間の間隙が非常に狭いため、両者の間に作用する冷却水の表面張力によって、液面の上下方向の振動が抑制される。
【0026】
以上から、副室5における水平方向及び上下方向の液面振動を十分に抑制でき、それにより、冷却水の液面や液滴が副室5の上方に形成された呼吸孔10に到達することがなくなり、呼吸孔10からの冷却水の漏出を防止することができる。また、実施形態のリザーブタンク1は、従来のラビリンス構造を有するものと比較して、構成が非常に単純である。
【0027】
また、主室4内で液面が大きく振動し、主室4の上部に達した場合、冷却水を第2連通路7を介して副室5側に流入させることができ、それにより、リザーブタンク1の上部の空気容量を確保することができる。この場合、第2連通路7から副室5に流入した冷却水は、副室5の壁面に衝突することによって、有効にかき落とされる。さらに、第1連通路6や第2連通路7から副室5に流入した冷却水を、第2連通路7の下側の第3連通路8を介して主室4側に戻すことができ、それにより、副室5の液面レベルを低い状態に保つことによって、液面振動を抑制することができる。
【0028】
また、第1~第3連通路6~8の通路面積の合計が、開口部9の開口面積以上に設定されているので、リザーブタンク1への冷却水の充填又は補充のために、タンク本体2からホース3を取り外した状態で開口部9から冷却水を注入する際、冷却水を開口部9から溢れさせることなく、主室4と副室5に円滑に注入することができる。
【0029】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、
図1及び
図2はリザーブタンクの実施形態の一例を示すものであり、本発明の構成要件を満たす限り、適当な他の形状や構成を有する実施形態とすることが可能である。また、実施形態で示した数値などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨に沿って適宜、他の値を採用できる。
【0030】
また、実施形態は、本発明を車両に搭載された内燃機関に用いられる冷却水のリザーブタンクに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、車両用以外の内燃機関に用いられるリザーブタンクに適用できることはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 リザーブタンク
2 タンク本体
3 ホース
4 主室
4a 主室の主体部
4b 主室の突出部
5 副室
6 第1連通路
7 第2連通路
8 第3連通路
9 開口部
10 呼吸孔