(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039982
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】急性腎障害の発症リスクの評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240315BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240315BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240315BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240315BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
C07K14/47
C07K16/18
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144765
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522125490
【氏名又は名称】西嶋 修平
(71)【出願人】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 修平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 麻由
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕輔
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QS10
4B063QS33
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA50
4H045FA74
4H045HA05
(57)【要約】
【課題】 急性腎障害の発症リスクを評価する方法を提供すること。
【解決手段】 被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【請求項2】
下記工程(1)及び(2)を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法
工程(1):被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程
工程(2):工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと、
被検体における、術前又は術中の、身体的特性因子、手術関連因子、腎機能関連因子、背景疾患及び薬剤情報からなる群から選択される少なくとも一つの臨床学的因子とを、指標とし、急性腎障害の発症リスクを評価する工程。
【請求項3】
前記被検体が外科的処置を受ける前のヒトである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記遊離AIM及び/又は全長遊離AIMが、前記血液試料中における、総AIMの濃度に対する遊離AIMの濃度の比率、及び/又は、総AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの前記検出が、免疫学的測定法によって行われる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出するための物質を含む、急性腎障害の発症リスクを評価するための試薬又はキット。
【請求項7】
遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出するための前記物質が、遊離AIMに特異的な抗体及び/又は全長遊離AIMに特異的な抗体である、請求項6に記載の試薬又はキット。
【請求項8】
血液中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを含む、急性腎障害の発症リスクを評価するためのバイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを指標とした、急性腎障害の発症リスクの評価方法、当該発症リスクを評価するための試薬又はキットに関する。本発明はまた、血液中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを含む、急性腎障害の発症リスクを評価するためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L、api6、Spαとも称する)は、組織マクロファージが特異的に産生する約50kDaの分泌型タンパク質として知られ(非特許文献1)、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症など様々な疾患に対し抑制的な効果をもち、幅広い疾患に対する新規治療薬となる可能性が明らかにされている。
【0003】
AIMの構造は、システイン残基を多く含む特異的な配列であるSRCR(scavenger receptor cysteine-rich)ドメインがタンデムに3つつながれた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0004】
AIMは、様々な分子と相互作用することが知られており、その結合パートナーとして様々な分子が報告されている。例えば、LTA(lipoteichoic acid)やLPS(lipopolysaccharide)などの菌類の病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)と結合し、細菌を凝集させる能力を持つことが知られている(非特許文献2)。また、体内には、AIMを細胞表面に結合する、あるいは細胞内に取り込む細胞も多く存在しており、産生細胞であるマクロファージ自身への取り込みのほか、脂肪細胞ではスカベンジャー受容体CD36を介してエンドサイトーシスにより取り込まれ、脂肪分解を誘導することが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
また、AIMは、血液中ではIgMに結合することが知られている。近年では、AIMが尿に排出されずに血液中で安定的に存在するためには、AIMとIgMの結合が重要であることが報告されている。また、血清検体中においては、AIMの多くはIgM結合型AIMとして存在しており、単量体で存在することがほとんどないことが報告されている(非特許文献4、5)。その一方、AIMは、疾患発症時にIgMから解離、活性化して、疾患の治癒を促進することが明らかになっている(非特許文献4)。血中でIgMから解離した遊離AIMは、糸球体の濾過膜を通過し、近位尿細管へと移行する。遊離AIMは尿細管の中の死細胞塊に付着し、周囲の細胞の貪食を促進することで急性腎障害の治癒に貢献し、この時、遊離AIMは尿中に排出される。実際、急性腎障害患者では、血中遊離AIM及び尿中AIM濃度の顕著な増大が認められることが報告されている(非特許文献6)。
【0006】
このように、急性腎障害発症後の血中遊離AIM及び尿中AIMと、発症後の急性腎障害との相関については示唆されていた。しかしながら、AIMが急性腎障害の発症前との相関、すなわち、AIMを指標として、当該疾患の発症を予測できるかは、明らかにされていない。さらに、どのような形態のAIM(IgM結合型AIM、遊離AIM等)が、急性腎障害の発症リスクと相関しているかについても明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Miyazaki T.et al.,J Exp Med 189:413-422,1999
【非特許文献2】Sarrias MR et al.,J Biol Chem 280:35391-35398,2005
【非特許文献3】Kurokawa J et al.,Cell Metab 11:479-492,2010
【非特許文献4】宮崎ら,日本臨牀71巻9号(2013-9),1681頁-1689頁
【非特許文献5】Arai S.et al.,ScienceDirect 3(4):1187-1198,2013
【非特許文献6】北田研人ら,日腎会誌 58(8):1234-1237,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、急性腎障害の発症リスクと相関性の高いAIMの存在形態を解明し、それを指標として急性腎障害を発症するか否かの予測を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、AIMの各形態を識別し得るモノクローナル抗体を作製し、さらに、それらを用いた各種形態のAIMの検出系を構築した。
【0010】
なお、AIMの形態としては、IgM結合型AIM及び遊離AIMが、従前より知られている。しかしながら、本発明者らは、今回、
図1に示すとおり、前記モノクローナル抗体の作製等を通し、遊離AIMとして、更に、全長遊離AIMと、C末端側が切断されて分子量が小さくなった遊離AIM(Small AIM)との2形態の検出を可能とした。
【0011】
そして、前記検出系を用い、急性腎障害(AKI)発症者及び非発症者における、術前の血液試料(血清)中の、遊離AIM(全長遊離AIM及びSmall AIM)の濃度、全長遊離AIMの濃度、並びに総AIMの濃度(IgM結合型AIM及び遊離AIMの総濃度、「AIM総量」とも称する)を測定した。さらに、これら測定値に基づき、これらの比率として、遊離AIMの濃度/AIM総量(以下、遊離AIM/AIM総量ともいう)、全長遊離AIMの濃度/AIM総量(以下、全長遊離AIM/AIM総量ともいう)を算出した。その結果、遊離AIM、全長遊離AIMの濃度及びそれらの比率のいずれにおいても、AKI非発症者と比較し、発症者で術前から有意に高値であった。よって、血清における、遊離AIM濃度、全長遊離AIM濃度、遊離AIM/AIM総量及び全長遊離AIM/AIM総量(以下、これらを総称して「血清中の遊離AIM量」とも称する)は、AKIの発症リスク評価に有用であることが示された。
【0012】
さらに、既存の尿中AKI関連マーカー及び血中腎機能マーカーについても、AKI発症リスクの予測能について評価し、血清中の遊離AIM量のそれらと比較した。その結果、血清中の遊離AIM量は、尿中AKI関連マーカーと比較して、AKI発症における優れた予測能を示すことが明らかになった。
【0013】
また、公知の血中腎機能マーカーと血清中の遊離AIM量において、腎機能とAKIの発症予測の関係性を解析した。その結果、前記血中腎機能マーカーと血清中の遊離AIM量との相関は弱く、バラツキが大きいものとなった。このことから血清中の遊離AIM量は、前記血中腎機能マーカーと異なる病態を反映できることが示唆された。また、当該血中腎機能マーカーによって偽陰性又は偽陽性を示す症例においても、血清中の遊離AIM量を検出することによって、AKIの発症を正確に予測できることが明らかになった。さらに、腎機能が低下している慢性腎臓病患者を対象として比較した結果、血清中の遊離AIM量は、前記血中腎機能マーカーよりも、AKI発症において優れた予測能を奏した。したがって、血清中の遊離AIM量は、腎機能マーカーとは独立した新規なAKI発症予測マーカーであり、優れた予測能を有することが示された。
【0014】
また、血清中の遊離AIM量と、腎機能に関する他の臨床情報(臨床学的因子)とを組み合わせることによって、AKI発症をより精度高く予測し得ることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0016】
[1] 被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【0017】
[2] 下記工程(1)及び(2)を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法
工程(1):被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程
工程(2):工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと、
被検体における、術前又は術中の、身体的特性因子、手術関連因子、腎機能関連因子、背景疾患及び薬剤情報からなる群から選択される少なくとも一つの臨床学的因子とを、指標とし、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【0018】
[3] 前記被検体が外科的処置を受ける前のヒトである、[1]又は[2]に記載の方法。
【0019】
[4] 前記遊離AIM及び/又は全長遊離AIMが、前記血液試料中における、総AIMの濃度に対する遊離AIMの濃度の比率、及び/又は、総AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率である、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の方法。
【0020】
[5] 遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの前記検出が、免疫学的測定法によって行われる、[1]~[4]のうちのいずれか一項に記載の方法。
【0021】
[6] 遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出するための物質を含む、急性腎障害の発症リスクを評価するための試薬又はキット。
【0022】
[7] 遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出するための前記物質が、遊離AIMに特異的な抗体及び/又は全長遊離AIMに特異的な抗体である、[6]に記載の試薬又はキット。
【0023】
[8] 血液中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを含む、急性腎障害の発症リスクを評価するためのバイオマーカー。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIM(遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量等)を指標とすることによって、急性腎障害(AKI)の発症リスクを評価することが可能となる。また、本発明によれば、公知の血中腎機能マーカーとは異なる危険因子として反映させて、AKIの発症を予測できる。さらに、被検者が慢性腎臓病患者である場合、当該血中腎機能マーカーよりも精度高く、本発明はAKIの発症を予測できる。さらにまた、本発明においては、腎機能に関する他の臨床情報(臨床学的因子)と組み合わせることによって、AKI発症をより精度高く予測することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した血清検体を、AIMポリクローナル抗体及び抗AIMモノクローナル抗体(クローン81)を用いたELISA法により解析した結果を示す図である。
【
図3】ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した血清検体を、2種の抗AIMモノクローナル抗体(試薬1:クローン1及びクローン81、試薬2:クローン3及びクローン81)を用いたBLEIA法により解析した結果を示す図である。
【
図4】全長AIM及びSmall AIMの希釈系列を、前記試薬1又は試薬2を用いたBLEIA法にて解析した結果を示す図である。
【
図5】AKI発症者(図中「AKI」)又は非発症者(図中「non-AKI」)の術前の血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量の平均値を示す図である。
【
図6】AKI発症者(図中「AKI」)又は非発症者(図中「non-AKI」)の術前及び術後の血清における、遊離AIMの濃度(平均値)の経時的変化を示す図である。
【
図7】AKI発症者(図中「AKI」)又は非発症者(図中「non-AKI」)の術前及び術後の血清における、全長遊離AIMの濃度(平均値)の経時的変化を示す図である。
【
図8】AKI発症者(図中「AKI」)又は非発症者(図中「non-AKI」)の術前及び術後の血清における、遊離AIM/AIM総量(平均値)の経時的変化を示す図である。
【
図9】AKI発症者(図中「AKI」)又は非発症者(図中「non-AKI」)の術前及び術後の血清における、全長遊離AIM/AIM総量(平均値)の経時的変化を示す図である。
【
図10】血中腎機能マーカー(sCr)の濃度と、血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量又は全長遊離AIM/AIM総量との相関性について解析した結果を示す図である。
【
図11】血中腎機能マーカー(eGFR)の濃度と、血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量又は全長遊離AIM/AIM総量との相関性について解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法に関する。
【0027】
本発明における「AIM」は、組織マクロファージにより産生される、約40kDaの分泌型の血中タンパク質である。ヒト由来のAIMの典型的なアミノ酸配列を配列番号1に示す。なお、タンパク質をコードする遺伝子のDNA配列は、その変異等により、自然界において(すなわち、非人工的に)変異し得る。したがって、本発明にかかるAIMは、前記典型的なアミノ酸配列に特定されることなく、それらアミノ酸配列の天然の変異体も含まれる。ヒト由来のAIMは、システインを多く含む3つのSRCRドメインを含んでおり、SRCR1ドメインは、配列番号1の24~124位に相当し、SRCR2ドメインは、配列番号1の138~238位に相当し、SRCR3ドメインは、配列番号1の244~346位に相当する。
【0028】
本発明において「遊離AIM」とは、IgMと結合していない状態で存在するAIMを意味し、IgMとの複合体の状態で存在する複合体AIM(以下、「IgM結合型AIM」と称する)との対比で用いられる。また、「全長遊離AIM」とは、遊離AIMのうち、完全長のアミノ酸配列を有するAIMを意味し、C末端側が切断されて分子量が小さくなった遊離AIMであるSmall AIMとの対比で用いられる。Small AIMは、例えば、配列番号1に示されるヒトAIMのアミノ酸配列における262位以下、1~262位を有する。Small AIMは遊離AIMに含まれ得る。
【0029】
本発明の方法において「検出」は、遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの存在の有無の検出のみならず、当該存在の程度の検出(例えば、定量)も含まれる。より具体的には、後述の実施例に示すとおり、血液試料における遊離AIMの濃度、血液試料における全長遊離AIMの濃度、血液試料における総AIMの濃度(AIM総量)に対する遊離AIMの濃度の比率、血液試料におけるAIM総量に対する全長遊離AIMの濃度の比率が、好適な例として挙げられる。これらの中では、急性腎障害の発症の予測精度がより高いという観点から、血液試料におけるAIM総量に対する全長遊離AIMの濃度の比率を検出することが、より好ましい。なお、「総AIM」は、IgM結合型AIM及び遊離AIMの双方を含むことを意味する。
【0030】
本発明においては、「被検体」としては、ヒトであれば特に制限はなく、男性であってもよく、女性であってもよい。また、子供、若者、中年、老人等、いずれの年代の個体であってもよいが、急性腎障害の発症が懸念されるという観点から、心臓血管手術等の外科的処置、薬剤投与、外傷等の事象を受ける前(受ける予定)のヒト、当該事象を受けている又は受けた直後のヒト、当該事象を受けた後のヒトが、好適な例として挙げられる。
【0031】
また、かかる被検体から採取された「血液試料」とは、血液又はその成分を含む試料であればよく、例えば、全血、血清、血漿が挙げられる。血液は、当業者に公知の方法で被検体から採取することができる。例えば、血液(全血)は、注射器等を用いた採血によって採取することができる。血清は、全血から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、全血を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、全血から血球を除去した部分であり、例えば、全血を凝固させない条件下(例えば、キレート剤(EDTA等)、クエン酸ナトリウム及びヘパリン等の抗凝固剤の存在下)で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。また、血液試料は、本発明の方法に供する際には、更にその方法に適した形態(例えば、血液試料から抽出されたタンパク質溶液等)に適宜調製されていてもよい。当業者であれば、血液試料の種類及び状態等を考慮し、公知の手法を選択して調製することが可能である。
【0032】
被検体から血液試料を採取する時期としては、特に制限はないが、例えば、前記事象の発生前及び/又は発生後であってもよく、前記事象の発生前後において比較的短期間であることが好ましい。「比較的短期間」とは、例えば、前記事象を受ける2週間前~受けた後2日以内、好ましくは前記事象を受ける前後2日以内、より好ましくは前記事象を受ける前後6時間以内、最も好ましくは前記事象を受ける前後3時間以内である。
【0033】
本発明が評価対象とする「急性腎障害(Acute renal failure;AKI)」は、腎臓の機能が数時間から数日の間に急激に低下する状態を意味し、また当該機能低下に伴う、体液貯留(溢水)、電解質バランスの異常(高カリウム血症等)、毒素の蓄積(高窒素血症)等も含み得る。より具体的には、例えば、下記KDIGO基準(AKI診療ガイドライン2016)(1)~(3)を満たす状態が挙げられる
(1)血清クレアチニン値が、48時間以内に0.3mg/dL以上上昇、
(2)血清クレアチニンの基礎値が、7日以内に1.5倍以上上昇、
(3)尿量が0.5mL/kg/時以下である状態が6時間以上持続。
【0034】
本発明の方法において各種形態のAIMの検出は、後述の実施例に示すとおり、抗体を用いた免疫学的方法を用いることによって行われ得るが、遊離AIM、全長遊離AIMを検出・定量できれば特に限定されるものではない。
【0035】
遊離AIMを免疫学的に検出するための抗体の態様として、遊離AIMに特異的な抗体が挙げられる。本発明において「遊離AIMに特異的」とは、実質的にIgM結合型AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。十分に低い、とは、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0036】
これらの各種形態のAIMへの反応性は、例えば、評価対象となるモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法により評価することができる。サンドイッチELISA法において評価対象となるモノクローナル抗体と組み合わせる抗体としては、IgM結合型AIM、全長遊離AIM、Small AIMのすべての形態のAIMを認識できる限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体(例えば、抗AIMポリクローナル抗体:Human CD5L Affinity Purified Polyclonal Ab(R&D社製、商品コード:AF2797))であっても、モノクローナル抗体であってもよい。組み合わせるモノクローナル抗体は、評価対象となるモノクローナル抗体とAIMへの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。サンドイッチELISA法は、例えば、まず、評価対象となるモノクローナル抗体を固相化したプレート(固相化プレート)を作製し、固相化プレートに、対象となる形態のAIMを含む試料(ここでは遊離AIMを含む試料又はIgM結合型AIMを含む試料)を添加して反応させる。次いで、洗浄後ポリクローナル抗AIM抗体を添加して反応、洗浄後、さらに、標識した二次抗体を添加して反応、洗浄後、最後に、標識のシグナル強度を測定する。標識として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いた場合、発色基質を添加後、マイクロプレートリーダーを用いて、シグナルを測定することができる。測定の結果、例えば、遊離AIMへの反応性が100でIgM結合型AIMへの反応性が4の場合、評価対象となるモノクローナル抗体はIgM結合型AIMへの反応性が遊離AIMへの反応性の4%であるため、遊離AIM特異的抗体と判定することができる。
【0037】
本発明の遊離AIMに特異的な抗体の好ましい態様は、AIMの1~229位からなるポリペプチドには結合せず、AIMの1~259位からなるポリペプチドに結合するモノクローナル抗体である。当該モノクローナル抗体の認識部位は、典型的には、AIMのSRCR2ドメイン(138~238位)のC末端側の領域からSRCR3ドメイン(244~346位)のN末端側の領域である。特に好ましいモノクローナル抗体は、AIMの230~259位の領域、より好ましくは230~244位の領域を認識するモノクローナル抗体である。
【0038】
全長遊離AIMを免疫学的に検出するための抗体の第一の態様として、全長遊離AIMに特異的な抗体が挙げられる。以下、全長遊離AIMに特異的な抗体として、全長遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を開示するが、これに限定されるものではなく、全長遊離AIMに特異的なポリクローナル抗体を用いてもよい。ここで「全長遊離AIMに特異的」とは、実質的にIgM結合型AIM及びSmall AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低く、かつ、全長AIMに対する反応性に対し、Small AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。「十分に低い」とは、遊離AIMとの反応性に対して、20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、かつ、全長AIMとの反応性に対して、20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下であることを指す。これらの各種形態のAIMへの反応性は、例えば、上述したように、評価対象となるモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法により評価することができる。サンドイッチELISA法において評価対象となるモノクローナル抗体と組み合わせる抗体としては、IgM結合型AIM、全長遊離AIM、Small AIMのすべての形態のAIMを認識できる限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体(例えば、抗AIMポリクローナル抗体:Human CD5L Affinity Purified Polyclonal Ab(R&D社製、商品コード:AF2797))であっても、モノクローナル抗体であってもよい。組み合わせるモノクローナル抗体は、評価対象となるモノクローナル抗体とAIMへの結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。
【0039】
全長遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体の一つの好ましい態様は、配列番号1に記載の263~347位からなるアミノ酸配列、好ましくは295~347位からなるアミノ酸配列に結合するモノクローナル抗体である。当該モノクローナル抗体は、典型的には、AIMのSRCR3ドメインの一部を認識する。
【0040】
本発明の方法においては、全長遊離AIMを免疫学的に検出するための抗体の第二の態様として、全長AIMに特異的な抗体と遊離AIMに特異的な抗体の組み合わせを用いる。以下、全長AIMに特異的な抗体、遊離AIMに特異的な抗体として、全長AIMに特異的なモノクローナル抗体、遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体を開示するが、これらに限定されるものではなく、全長AIMに特異的なポリクローナル抗体、遊離AIMに特異的なポリクローナル抗体を用いてもよい。ここで、「全長AIMに特異的」とは、実質的にSmall AIMに交差反応しない、すなわち、全長AIMに対する反応性に対し、Small AIMに対する反応性が十分に低いことを意味する。「十分に低い」とは、全長AIMとの反応性に対して、20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下であることを指す。当該全長AIMに特異的なモノクローナル抗体は、少なくとも全長遊離AIMに反応すればよく、さらにIgMに結合した全長AIMに反応してもよい。遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体は、IgMに結合していないAIMに特異的であればよく、実質的にIgM結合型AIMと交差反応しない、すなわち遊離AIMに対する反応性に対し、IgM結合型AIMに対する反応性が十分に低い抗体を意味する。遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体は、少なくとも全長遊離AIMに反応すればよく、さらにSmall AIMに反応してもよい。したがって、これらのモノクローナル抗体を組み合わせることにより、全長遊離AIMを特異的に検出することができる。
【0041】
総AIMを免疫学的に検出するための抗体の態様として、IgM結合型AIM、全長遊離AIM及びSmall AIMの全てに反応する抗体であればよく、これらの抗体を組み合わせることで総AIMを検出することができる。モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよく、例えば、AIMを免疫して常法により得られる抗AIMポリクローナル抗体について、後述するIgM結合型AIMの分画試料や、リコンビナント全長遊離AIM、リコンビナントSmall AIMと反応する抗体をスクリーニングすることによって得ることができる。
【0042】
本発明のモノクローナル抗体の作製は、一般的に知られている方法で行えばよい。例えば、本願実施例に記載のように、先ず、組換えAIM(rAIM)又はその一部を免疫原としてハイブリドーマを作製し、その中から、当該AIMに対して高い反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、さらに、選抜したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体について、各種形態のAIMへの特異性の解析やエピトープ解析を行って、上記特徴を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを同定すればよい。
【0043】
より具体的に、遊離AIMに特異的に結合するモノクローナル抗体は、免疫原として、AIMの特定の領域(例えば、SRCR2ドメインのC末端側の領域からSRCR3ドメインのN末端側の領域)の部分ペプチドを用いることによって、効率的に製造することができる。
【0044】
全長遊離AIMに特異的に結合するモノクローナル抗体は、AIM又は、配列番号1に記載の263~347位、好ましくは295~347位を含む断片で免疫してモノクローナル抗体を調製し、AIMの263~347位、好ましくは295~347位に結合するモノクローナル抗体を選択することにより、効率的に製造することができる。
【0045】
モノクローナル抗体を製造するための方法としては、ハイブリドーマ法、代表的には、ケーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein,Nature,256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(標的タンパク質、その部分ペプチド、又はこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ラクダ、アルパカ、ニワトリ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球等に対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、抗原に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。抗原に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0046】
また、目的とするモノクローナル抗体をコードするDNAが取得できれば、組換えDNA法によって作製することもできる。この方法は、上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997、WILEY、P.Shepherd and C.Dean,Monoclonal Antibodies,2000,OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M.et al.,Eur.J.Biochem.192:767-775,1990)。抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(国際公開第94/11523号参照)。組換え抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0047】
本発明のモノクローナル抗体は、完全な抗体のみならず、抗原を認識し得る限り、抗体断片であってもよい。抗体断片は、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、単鎖抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
遊離AIM、全長遊離AIM又は総AIM(以下「遊離AIM等」とも総称する)を免疫学的に検出する方法としては、例えば、標識物質で標識された抗体を用いるイムノアッセイ(標識イムノアッセイ)が挙げられ、標識した検出用抗体や検出用抗体に対する標識抗体を用いる免疫学的測定法である。例えば、免疫比ろう法、免疫比濁法等による免疫凝集法(ラテックス凝集法、金コロイド凝集法等)、標識として酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA法)、標識として放射性同位元素を用いる放射免疫測定法(RIA)、標識として化学発光性化合物を用いる化学発光免疫測定法(CLIA法)、標識として電気化学発光物質を用いる電気化学発光免疫測定法(ECLEIA法)、標識として蛍光物質を用いる蛍光免疫測定法、イムノクロマトグラフィー法、ウエスタンブロット法、イムノブロット法が挙げられるが、これらに制限されない。酵素免疫測定法としては、例えば、ELISA法、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)や生物発光酵素免疫測定法が挙げられ、生物発光酵素免疫測定法としては、例えば、BLEIA(登録商標)法が挙げられる。
【0049】
免疫学的に検出する方法として標識イムノアッセイを適用する場合、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体(固相化抗体)及び検出用抗体のうち少なくとも一方が上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体であればよく、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体に標識物質を結合させて標識し、遊離AIM等を直接的に検出するようにしてもよく、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体などを利用して遊離AIM等を間接的に検出するようにしてもよい。
【0050】
標識イムノアッセイにおいて、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体(固相化抗体)及び標識した抗体(検出用抗体)の少なくとも一方に、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体を用いた場合、他の一方の抗体は、AIMに結合し得る抗体(抗AIM抗体)であればよく、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体以外の抗体を用いることもできる。他の一方の抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体と組み合わせるモノクローナル抗体は、当該遊離AIM等との結合において競合しないこと(すなわち、異なるエピトープを認識すること)が好ましい。
【0051】
標識イムノアッセイにおいて、抗原捕捉用抗体として上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体を用い、検出用抗体として他の抗体を用いる場合には、当該他の抗体を標識して用いることができる。また、当該他の抗体を標識しない場合には、同様に、標識された二次抗体などを利用するようにしてもよい。
【0052】
ここで「二次抗体」とは、抗原に直接結合する抗体(一次抗体)に対して反応性を示す抗体である。例えば、一次抗体をマウス抗体とした場合には、二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウス等の様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、一次抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインA等を用いることも可能である。
【0053】
よって、上記のとおり、標識物質を結合させた上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体を用いて遊離AIM等を直接的に検出する方法以外に、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体には標識物質を結合せず、標識物質が結合した二次抗体等を利用して間接的に検出する方法を利用することもできる。
【0054】
標識物質としては、抗体に結合させて検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)、ホタルルシフェラーゼ等)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC))、蛍光タンパク質(アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE))、125Iなどの放射性同位元素、磁気粒子、ラテックス粒子(例えば、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体)、金属コロイド粒子(例えば、金、銀、銅、鉄、白金、パラジウム等、又はこれらの混合物)、アビジン、ビオチン等が挙げられる。
【0055】
標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、過酸化物及び/又は発色基質、蛍光基質、あるいは化学発光基質等を添加することにより、基質に応じて種々の検出を行うことができる。
【0056】
例えば、酵素として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いる場合、過酸化水素とともに基質として、o-フェニレンジアミン(発色)、テトラメチルベンチジン(TMBZ)(発色)、ルミノール(化学発光)等を用いてもよく、酵素として、アルカリホスファターゼ(ALP)を用いる場合、その基質は、p-ニトロフェニルホスファート(発色)、AMPPD(登録商標)(化学発光)等であってよい。酵素としてホタルルシフェラーゼを用いる場合、ATPとともに、基質としてホタル・ルシフェリン等を用いてもよく、酵素として特許第3466765号公報に記載のビオチン化ルシフェラーゼを、基質として特許第4379644号公報や特許第4503724号公報に記載のルシフェリンを使用してもよい。また、酵素がストレプトアビジンと結合して基質と反応して蛍光、発光又は発色を生じる場合、標識をビオチンとしてもよい。
【0057】
抗体と標識物質との結合方法としては、公知の方法で行うことができ、例えば、ビオチン-アビジン系を利用することもできる。この方法においては、例えば、ビオチン化した抗体に、アビジン化した標識物質を作用させ、ビオチンとアビジンの相互作用を利用して、抗体に標識物質を結合させる。
【0058】
また、遊離AIM等を免疫学的に検出する方法として、測定原理に、例えばサンドイッチ法を含む非競合的測定法や競合的測定法を利用することができる。
【0059】
また、試料中の遊離AIM等を免疫学的に検出する方法として、不溶性担体等を用い、B/F分離を行うヘテロジニアスな方法(例えば、サンドイッチ法)で測定することも、B/F分離を行わないホモジニアスな方法(例えば、免疫凝集法)で測定することも可能である。
【0060】
サンドイッチ法では、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体で遊離AIM等を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用抗体に認識させ、B/F分離(洗浄)後、標識物質自体、又は酵素等の標識物質に対する基質等を加えて発色等させることにより、試料中の遊離AIM等を検出する。本発明の方法における遊離AIM等の検出原理としては、高感度な検出システムを構築することができる点で、サンドイッチ法が好適である。
【0061】
また、イムノクロマトグラフィー法のように、標識物質が結合した検出用抗体で遊離AIM等を認識させ、B/F分離を行いつつ、固相に固定(結合)した抗原捕捉用抗体で遊離AIM等を捕捉し、標識物質の種類に応じた検出を行うようにしてもよい。
【0062】
また、BLEIA法のように、磁性粒子に抗原捕捉用抗体を結合させ、当該抗体と試料中の遊離AIM等を反応させ、B/F分離後、ビオチン化した検出用抗体と反応させ、B/F分離後、ルシフェラーゼで標識したアビジンを用いて免疫反応を行い、B/F分離後、ルシフェリンを添加し、ルシフェラーゼ複合体の酵素活性を生物発光で検出し、試料中の遊離AIM等を検出してもよい。
【0063】
また、免疫凝集法のように、液相中で、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体が固定(結合)された不溶性担体粒子(固相)を用い、当該不溶性担体粒子と遊離AIM等との免疫複合体の形成により不溶性担体粒子が凝集する性質を利用して、濁度の測定や目視、吸光度の測定により、不溶性担体粒子の凝集を検出してもよい。遊離AIM等の検出前にB/F分離の工程が不要であり、簡便かつ迅速に全長遊離AIMの検出が可能であるという利点を有することから、本発明の方法では免疫凝集法が好ましい。
【0064】
不溶性担体(固相)としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ニトロセルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス、又は磁性体等の材質より成る粒子、プレート、又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。特に、不溶性担体粒子としては、金属や磁性粒子等を用いることができるが、ラテックス粒子が好ましく、一般に、ポリスチレンラテックスが用いられる。
【0065】
抗体は、固相の表面に公知の技術、例えば物理吸着又は化学結合によって固定化することができる。捕捉用抗体は固相に直接固定してもよいが、間接的に固定してもよい。例えば、捕捉用抗体に結合する物質を固相に固定し、当該物質に捕捉用抗体を結合させることにより、捕捉用抗体を固相に間接的に固定することができる。捕捉用抗体に結合する物質としては、例えば、上記の二次抗体、プロテインG、プロテインA等が挙げられるが、これらに制限されない。また、捕捉用抗体がビオチン化されている場合には、アビジン化した固相を利用することができる。
【0066】
本発明の方法において、全長AIMに特異的なモノクローナル抗体と遊離AIMに特異的なモノクローナル抗体の組み合わせを利用して全長遊離AIMを検出する場合には、一方を抗原捕捉用抗体とし、他の一方を検出用抗体とすればよい。
【0067】
得られた測定値からの遊離AIM等の定量は、一般的に、標準試料による測定値との比較により行うことができる。この場合、例えば、標準検体による測定値に基づいて作成された標準曲線(検量線)上のどの位置に、実際の測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中の遊離AIM等を定量することができる。
【0068】
また、このようにして検出される遊離AIM又は全長遊離AIMの量としては、絶対量のみならず、相対量であってもよい。相対量としては、例えば、検出に用いる測定方法又は測定装置に基づくタンパク質量比(所謂、任意単位(AU)で表される数値)が挙げられる。また、相対量としては、例えば、他のタンパク質の量を基準として算出した値を用いてもよい。かかる「他のタンパク質」としては、後述の実施例に示すとおり、例えば、総AIMが挙げられる。また参照タンパク質も例示することができる。本発明にかかる「参照タンパク質」は、血液試料において安定して存在しており、また異なる血液試料間において、その量の差が小さいタンパク質であればよく、例えば、内在性コントロール(内部標準)タンパク質が挙げられ、より具体的には、β-アクチン、α-チューブリン、COX-4、GAPDH、ラミンB1、PCNA、TBP、VDCA1/Porinが挙げられる。
【0069】
本発明の方法においては、このようにして検出された遊離AIM又は全長遊離AIMの量と、同タンパク質の基準量とを比較することによって、AKIの発症リスクを評価してもよい。すなわち、本発明の方法は、下記態様をとり得る。
(1)被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの量を検出する工程と、
(2)工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの量を各々、遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの基準量と比較する工程と、
(3)工程(2)における比較の結果、工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの量が、対応する前記基準量よりも高い場合、前記被検体は、急性腎障害を発症すると判定する工程と
を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【0070】
より具体的な態様として、以下が挙げられる。
(1)被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの濃度を検出する工程と、
(2)工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの濃度を各々、遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの基準濃度と比較する工程と、
(3)工程(2)における比較の結果、工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの濃度が、対応する前記基準濃度よりも高い場合、前記被検体は、急性腎障害を発症すると判定する工程と
を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【0071】
また、より具体的な態様として、以下も挙げられる。
(1)被検体から採取された血液試料中の、総AIMの濃度に対する遊離AIMの濃度の比率、及び/又は,総AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率を検出する工程と、
(2)工程(1)にて検出された総AIMの濃度に対する遊離AIMの濃度の比率、及び/又は、総AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率を各々、総AIMの濃度に対する遊離AIMの濃度の基準比率、及び/又は、総AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の基準と比較する工程と、
(3)工程(2)における比較の結果、工程(1)にて検出された総AIMの濃度に対する遊離AIMの濃度の比率、及び/又は、総AIMの濃度に対する全長遊離AIMの濃度の比率が、対応する前記基準比率よりも高い場合、前記被検体は、急性腎障害を発症すると判定する工程と
を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【0072】
比較対象となる遊離AIM又は全長遊離AIMの「基準量(基準濃度、基準比率等)」としては特に制限はなく、当業者であれば、例えば、上記検出方法等を用いた際に、それを基準とすることにより、急性腎障害を発症するか否かを判断することのできる、所謂カットオフ値(閾値)として設定することができる。
【0073】
より具体的に、基準量としては、例えば、急性腎障害を発症するヒト群とそうでないヒト群とにおいて、遊離AIM又は全長遊離AIMの量を比較することにより決定される値(例えば、急性腎障害を発症するヒト群における遊離AIM又は全長遊離AIMの量(中央値、平均値又は下限値)と、急性腎障害を発症しなかったヒト群におけるそれ(中央値、平均値又は上限値)との間に設定される値)が挙げられる。また、その設定は、当業者であれば、上記検出方法に合った統計学的解析方法を適宜選択して行うことができる。統計学的解析方法としては、例えば、受信者動作特性解析(ROC解析)、t検定、分散分析(ANOVA)、クラスカル・ウォリス検定、ウィルコクソン検定、マン・ホイットニー検定、オッズ比、ハザード比、フィッシャーの正確検定、分類木と決定木解析(CART解析)が挙げられる。また、比較の際には、正規化された又は標準化かつ正規化されたデータを用いることもできる。
【0074】
また、そのようにして設定される、より具体的な例としては、後述の実施例に示すとおり、遊離AIM濃度の基準量(基準濃度)として、好ましくは700~1000ng/mL、より好ましくは800~900ng/mL、さらに好ましくは約850ng/mL(特に849.10ng/mL)が挙げられる。全長遊離AIM濃度の基準量(基準濃度)として、好ましくは800~1300ng/mL、より好ましくは900~1100ng/mL、さらに好ましくは約1000ng/mL(特に1002.10ng/mL)が挙げられる。遊離AIM/総AIMの基準量(基準比率)として、好ましくは0.10~0.20が挙げられ、より好ましくは0.12~0.18(特に0.13)が挙げられる。全長遊離AIM/総AIMの基準量(基準比率)として、好ましくは0.12~0.18が挙げられ、より好ましくは0.13~0.17(特に0.16)が挙げられる。
【0075】
また、かかる発症の予測は、通常、医師(医師の指示を受けた者も含む)によって行われるが、上述の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMに関するデータは、医師による治療の要否、そのタイミング等の判断も含めた診断に役立つものである。よって、本発明の方法は、医師による発症リスク評価(診断)のために遊離AIM及び/又は全長遊離AIMに関するデータを収集する方法、当該データを医師に提示する方法、遊離AIM及び/又は全長遊離AIMの量と対応する各基準量とを比較し分析する方法、医師による急性腎障害発症の予測を補助するための方法とも表現し得る。
【0076】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、後述の実施例に示すとおり、上述の遊離AIM又は全長遊離AIMのみならず、他の臨床情報(臨床学的因子)と組み合わせることによって、AKI発症をより精度高く予測することも可能となる。よって、本発明は、以下の態様もとり得る。
被検体から採取された血液試料中の遊離AIM又は全長遊離AIMと、臨床学的因子とを、指標として、急性腎障害の発症リスクを評価する方法。
【0077】
より具体的な例として、下記工程(1)及び(2)を含む、急性腎障害の発症リスクを評価する方法
工程(1):被検体から採取された血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出する工程
工程(2):工程(1)にて検出された遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと、
被検体における、身体的特性因子、手術関連因子、腎機能関連因子、背景疾患及び薬剤情報からなる群から選択される少なくとも一つの臨床学的因子とを、指標とし、急性腎障害の発症リスクを評価する工程
が、挙げられる。
【0078】
本発明において「臨床学的因子」とは、血液中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIM以外の臨床情報を意味し、例えば、身体的特性因子、手術関連因子、腎機能関連因子、背景疾患、薬剤情報が挙げられる。
【0079】
「身体的特性因子」とは、上記事象発生時の被検体の身体的特性を意味し、具体的には、年齢、体重、euroSCORE II値(心臓手術の死亡リスクスコア)、性別、身長、体表面積、B型肝炎感染の有無等が挙げられる。
【0080】
「手術関連因子」とは、上記事象が外科的手術である場合、その手術に関する事項を意味し、例えば、その手術の対象疾患、術式が挙げられる。「手術対象疾患」として、より具体的には、TAA(胸部大動脈瘤)、TR(三尖弁閉鎖不全症)、MR(僧帽弁閉鎖不全症)、af(心房細動)、AS(大動脈弁狭窄症)、AsR(大動脈弁狭窄及び閉鎖不全)、AP(狭心症)、AAE(大動脈弁輪拡張症)等が挙げられる。「術式」として、より具体的には、AAR(上行大動脈置換術)、TAR(全弓部大動脈人工血管置換術)、maze(メイズ手術)、AVR(大動脈弁置換術)、LAA Closure(左心耳閉鎖術)、MVP/TAP、PAR(部分弓部大動脈人工血管置換術)、TAP(三尖弁形成術)、MVP(僧帽弁形成術)、On pump beating CABG(人工心肺使用下冠動脈バイパス術)、MICS(低侵襲心臓手術)等が挙げられる。
【0081】
「腎機能関連因子」とは、上記事象発生時の被検体の腎臓の機能を表す指標を意味し、例えば、腎機能マーカー、尿中バイオマーカーが挙げられる。「腎機能マーカー」として、より具体的には、慢性腎臓病のステージ、糸球体濾過量(eGFR)、血清クレアチニンが挙げられる。なお、「慢性腎臓病のステージ」は、原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)及びたんぱく尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類で評価される慢性腎臓病の重症度のことである。「糸球体濾過量」は、血清クレアチニン(Cr)値、年齢及び性別から下記式にて算出される数値のことである。
男性における推算GFR(mL/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287
女性における推算GFR(mL/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287×0.739。
Cr:血清Cr値(mg/dL)。
「尿中バイオマーカー」として、より具体的には、TIMP-2、α1-m、NGAL、L-FABP、KIM-1の尿中の濃度(μg/g・Cr)が挙げられる。
【0082】
「背景疾患」とは、上記事象発生時に、被検体が罹患している疾患を意味し、例えば、心不全、cAf(慢性心房細動)、HTN(高血圧)、PH(肺高血圧症)、HL(脂質異常症)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、DM(糖尿病)が挙げられる。なお、「高血圧」は、くり返しの測定で最高血圧が140mmHg以上、あるいは、最低血圧が90mmHg以上である状態のことである。
【0083】
「薬剤情報」とは、上記事象発生前に、被検体が服用していた、又は、被検体に投薬されていた薬剤を意味し、例えば、降圧薬、スタチン、抗尿酸薬、スピロノラクトン、Beta blocker、フロセミドが挙げられる。
【0084】
本発明の方法においては、血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと、上記臨床学的因子との、各々を指標として急性腎障害の発症リスクを評価した上で、それらの結果を勘案して、最終的に急性腎障害の発症を予測してもよい(例えば、血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと上記臨床学的因子との双方において発症リスクが高いと評価した場合に、最終的な結果として被検体は急性腎障害を発症し得るとの最終的な評価を出すことができる)。
【0085】
また、本発明の方法においては、後述の実施例に示すとおり、血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと上記臨床学的因子とを組み合わせて得られる指標(スコア等)に基づき、発症リスクを評価することも出来る。具体例としては、下記予測式に各測定値を入れて計算し、得られたスコアが、各カットオフ値と比較して高い場合、被検体は急性腎障害を発症し得ると評価することができる。
スコア=(AIM測定値)×(遊離AIM係数)+(組み合わせる臨床学的因子の測定値等)×(臨床情報係数)+定数項
なお、各係数、定数項、カットオフ値については、後述の表6及び7を参照。
【0086】
また、血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと組み合わせる臨床学的因子としては、組み合わせてAUCが0.75以上となる臨床学的因子が好ましく、例えば、年齢、胸部大動脈瘤、全弓部大動脈人工血管置換術、慢性腎臓病 ステージ、糸球体濾過量、血清クレアチニン、TIMP-2、慢性心房細動、高血圧、脂質異常症が挙げられる。さらにまた、血液試料中の遊離AIM及び/又は全長遊離AIMと組み合わせる臨床学的因子の数としては、1に限らず、2以上、5以上、10以上、15以上、20以上、30以上であってもよい。
【0087】
また、本発明は、遊離AIM及び/又は全長遊離AIMを検出するための物質を含む、急性腎障害の発症リスクを評価するための試薬を提供する。かかる物質としては、上記遊離AIM等に特異的に結合する抗体が挙げられる。
【0088】
本発明の試薬に含まれる抗体は、上記の通り、標識物質が結合したものであってもよく、固相に結合したものであってもよい。固相としては、上記不溶性担体が挙げられ、例えば、サンドイッチELISA法等のサンドイッチ法を検出原理とする場合には、上記抗体が結合したプレート、繊維状物質、粒子などが挙げられる。イムノクロマトグラフィーを検出原理とする場合には、上記抗体が標識試薬ゾーンに含まれる不溶性担体粒子(検出用抗体の場合)又は検出ゾーン(捕捉用抗体の場合)に結合したイムノクロマトデバイスが挙げられる。また、免疫凝集法を検出原理とする場合には、上記抗体が結合した不溶性担体粒子、例えばラテックス粒子が挙げられる。
【0089】
本発明の試薬においては、抗体成分の他、必要に応じて、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、他の成分を含むことができる。
【0090】
また、本発明は、上記試薬を含む、急性腎障害の発症リスクを評価するためのキットを提供する。本発明のキットは、必要に応じて、さらに、標準試料(各濃度の遊離AIM等を含む試薬)、対照試薬、試料の希釈液、希釈用カートリッジ、洗浄液等を組み合わせることができる。検出に酵素標識を利用する場合には、標識の検出に必要な基質や反応停止液などを含めることができる。間接的に遊離AIM等を検出する場合においては、一次抗体に結合する物質(二次抗体、プロテインA等)を標識したものを含めることができる。また、上記抗体をビオチン化している場合には、アビジン化した標識を含めることができる。本発明のキットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0091】
以上説明した実施態様は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。さらに、上記に開示された各要素は、上記内容に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物・均等方法をも含む趣旨である。例えば、本発明の方法に用いる抗体、本発明の試薬及びキットに含まれる抗体は、モノクローナル抗体に制限されるものではなく、ポリクローナル抗体も含む。
【実施例0092】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
先ず、各種形態のAIMの量を特異的に検出するための測定系を、以下に示すとおり、下記表1に記載の抗体の組み合わせて用いることにより構築し、それらの有効性を検証した。
【0094】
【0095】
なお、抗AIMポリクローナル抗体は、Human CD5L Affinity Purified Polyclonal Ab(R&D社製、商品コード:AF2797)である。
【0096】
また、表中の1、3及び81は、以下の方法にて作製した、抗AIMモノクローナル抗体クローン1、クローン3及びクローン81を各々示す。
【0097】
<抗AIM抗体の作製>
【0098】
抗原としてヒトリコンビナントAIM(以下、rAIM)(30~50μg)をマウスに3週間間隔で3~6回免疫した。免疫後の脾細胞とマウスミエローマ細胞とを融合し、融合された細胞を限外希釈法にてクローニングした。細胞をクローニング後、免疫原を固相化したELISA法でスクリーニングし、rAIMと反応を示す抗体を産生する細胞を得た。抗体産生が確認された細胞を培養し、培養上清中に産生された抗体をプロテインA又はプロテインGを用いて精製し、クローン1、クローン3又はクローン81を得た。
【0099】
図には示さないが、クローン1は、AIMのSRCR2ドメインに反応する、遊離AIM(全長遊離AIM及びSmallAIM)に対する抗体である。なお、クローン1に関し、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が10%以下であることを確認済である。クローン3は、AIMにおけるSRCR3ドメインの一部(配列番号1に示されるAIMの263~347位、特に295~347位)に反応する、全長遊離AIMに対する抗体である。なお、クローン3に関し、遊離AIMとの反応性に対するIgM結合型AIMとの反応性の比が10%以下であること、全長AIMとの反応性に対するSmallAIMとの反応性の比が10%以下であることを確認済である。クローン81は、AIMのSRCR1ドメインに反応する、AIM(IgM結合型AIM及び遊離AIM)に対する抗体である。
【0100】
<試料調製>
測定試料は、血清検体を緩衝液(0.05M リン酸緩衝液:pH7.0,塩化ナトリウム:0.3M)に溶解し、カラムに添加して、以下の条件にてゲルろ過クロマトグラフィーによる分画を行い得た。
【0101】
ゲルろ過クロマトグラフィー条件
使用機器:SHIMADZU SPD-20AV
カラム:Phenomenex SEC-3000
移動相:0.05M リン酸緩衝液,0.3M NaCl,pH7.0
流量:0.5mL/min
分画:0.5mL/fraction
溶出時間9分から25分(溶出液量4.5-12.5mL)の0.5mL毎の分画を試料とした。
【0102】
上記のようにして得られた血清検体の分画試料を用いて、表1に記載の通り、抗体を組み合わせて用い、ELISA法にてAIM総量の測定を行った。
【0103】
<AIM総量の測定(ELISA法)>
先ず、固相用抗体(抗AIMポリクローナル抗体;R&D社製,AF2797)50μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに分注した後、洗浄し、固相用抗体を固相化した。洗浄後、1%BSA溶液を加え、室温で2時間静置した。また、ビオチン標識試薬Biotin(AC5)2Slufo-osu(同仁化学研究所)を用いて、標識用抗体(クローン81)をビオチン化標識した。固相化プレートに標準液又は試料100μLを加えて室温にて90分反応させた。続いてウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ビオチン標識抗体100μLを加えて室温にて90分反応させた。さらに、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ストレプトアビジン-HRP50μLを添加し、室温にて90分反応させた。そして、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、発色基質としてo-フェニレンジアミン含有基質溶解液100μLを添加し反応させた後、2N硫酸100μLを反応停止液として添加した後、マイクロプレートリーダーを用いて測定波長492/650nmにて測定した。
【0104】
その結果、
図2に示すとおり、上記ELISA法によって、IgM結合型AIMに由来するピーク(溶出液量6mL付近)と、遊離AIMに由来するピーク(溶出液量10mL付近)との双方を検出することができ、上記抗AIMポリクローナル抗体及び抗AIMモノクローナル抗体を併せて用いれば、AIMの総量を測定できることが確認された。
【0105】
また、上記のようにして得られた血清検体の分画試料を用いて、表1に記載の通り、抗体を組み合わせて用い、下記生物発光酵素免疫測定法(BLEIA法)にて測定を行った。
【0106】
<BLEIA法>
特開平10-239314号公報(抗体と酵素の双方にビオチンを結合)に記載の方法で行った。詳細には、各種固相用抗体を磁性粒子に固相化した各種抗体固相化磁性粒子、各種標識用抗体とビオチン化試薬を混合して得られる各種ビオチン標識抗体、及びストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを作製した。そして、クローン1又は3とクローン81の組合せにおいて、それぞれ、ビオチン標識抗体溶液80μLと、試料100μLと、抗体固相化磁性粒子(1.5mg/mL)20μLを混合し、37℃で15分間反応させた。さらに、磁性粒子を含む反応溶液に、BL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、BL洗浄液を除去した。続いて、ストレプトアビジン-ビオチン化ルシフェラーゼを80μL加えて、37℃で15分間反応させた。磁性粒子を含む反応溶液にBL洗浄液(栄研化学)500μLを加え、洗浄液を除去した。続いて、BL発光試薬セット(栄研化学)のBL発光試薬1 50μLとルシフェラーゼに対する基質液(ルシフェリン溶液)であるBL発光基質液 50μLを加え、発光強度を全自動生物化学発光免疫測定装置BLEIA-1200にて測定し試料中のAIM濃度を算出した。得られた結果を
図3に示す。
【0107】
その結果、
図3に示すとおり、上記BLEIA法による解析においては、試薬1、試薬2のいずれを用いても、溶出時間(溶出液量)が20分(10mL)付近の分画試料のピークのみが検出され、遊離AIMの量を特異的に測定できることが確認された。
【0108】
次に、表1に示す試薬を用いた測定系が全長遊離AIM特異的であることを、以下に示す方法によって確認した。
【0109】
<試料調製>
rAIMは、文献(生化学第84巻第7号,機能的なrAIMタンパク質の精製,588-591頁,2012)に記載の方法で作製し、全長AIMとして用いた。リコンビナントSmall AIM(rSmall AIM)は、配列番号1に示されるAIMの1~262位のアミノ酸配列の発現株を用いた点を除き文献(生化学第84巻第7号,機能的なrAIMタンパク質の精製,588-591頁,2012)に記載の方法で作製し、Small AIMとして用いた。これらAIM組換えタンパク質をPBSで希釈し、それぞれ20、10、5、2.5、1.25ng/mLの濃度になるよう調整し、希釈系列を調製した。
【0110】
そして、これら希釈系列を、表1に示す試薬1又は試薬2を用いた上記BLEIA法にて解析した。その結果、
図4に示すとおり、試薬1及び試薬2は共に、全長AIMに対して濃度依存的な反応性を示した。さらに、試薬1はrSmall AIMに対する濃度依存的な反応も認められた。一方、試薬2は、rSmall AIMに対する反応性が低かった。これらの結果及び
図3に示した結果から、試薬1は遊離AIM(全長遊離AIM及びSmall AIM)に反応する一方で、試薬2は全長遊離AIM特異的に反応することが確認された。
【0111】
以上のようにして、有効性が確認された各種形態のAIMに対する検出系を用い、以下に示すとおり、外科的処置が施行された患者の血液試料を解析し、急性腎障害の発症リスクとの関連性を評価した。
【0112】
<検体>
人工心肺を用いた心臓大血管手術が施行された患者について、術前、術直後、術後6時間、1日、2日、3日後の血液を採取し、血清を得た。なお、「術前」とは、手術が開始される2週間前~直前までの期間のことを指す。KDIGO基準にしたがって、AKI発症者、非発症者と診断された患者検体102例を用いた。AKI発症者(AKI)は37例、非発症者(non AKI)は65例であった。
【0113】
このようにして得られた検体(試料)について、抗体を上記表1に記載の通り組み合わせた、各サンドイッチELISA法で各種形態のAIMを検出した。なお、AIM総量の測定については、上記<AIM総量の測定(ELISA法)>に記載の方法にて行った。
【0114】
<遊離AIM、全長遊離AIMの測定(ELISA法)>
先ず、固相用抗体(抗AIMモノクローナル抗体;クローン1又はクローン3)50μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに分注した後、洗浄し、各固相用抗体を固相化した。洗浄後、1%BSA溶液を加え、室温で2時間静置した。また、ビオチン標識試薬Biotin(AC5)2Slufo-osu(同仁化学研究所)を用いて、標識用抗体(クローン81)をビオチン化標識した。固相化プレートに標準液又は試料50μLを加えて室温にて1時間反応させた。続いて、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ビオチン標識抗体50μLを加えて室温にて1時間反応させた。さらに、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、ストレプトアビジン-HRP50μLを添加し、室温にて1時間反応させた。そして、ウェル内の溶液を吸引除去、洗浄後、発色基質としてo-フェニレンジアミン含有基質溶解液50μLを添加し反応させた後、2N硫酸50μLを反応停止液として添加した後、マイクロプレートリーダーを用いて測定波長492/650nmにて測定した。
【0115】
<遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量の算出>
上記各ELISA法にて検出した各種形態のAIM量を用い、濃度比を算出した。具体的には、遊離AIM又は全長遊離AIMの濃度を、AIM総量の濃度で割り、遊離AIM/AIM総量又は全長遊離AIM/AIM総量を算出した。
【0116】
[実施例1] 術前の血清遊離AIMの測定
AKI発症者(37例)、非発症者(65例)における術前の血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量の平均値を
図5に示す。エラーバーはSDを示す。有意差検定はマン・ホイットニーのU検定で行った。
【0117】
図5に示すとおり、血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量のいずれにおいても、AKI非発症者と比較し、発症者で術前から有意な高値が認められた。よって、血清中の遊離AIM量がAKIの発症リスク評価に有用であることが示された。
【0118】
[実施例2] 遊離AIMの術後経過測定
AKI発症者(37例)、非発症者(65例)における術前の血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量の術前から術後3日後までの平均値の推移を
図6~9に示す。エラーバーはSEを示す。
【0119】
図6~9に示すとおり、AKIを発症する患者は、術前・術後ともに血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量が高値を示した。
【0120】
以上の結果から、血清中の遊離AIM量がAKIの発症リスク評価に有用であることが示された。
【0121】
[比較例1] 尿中AKI関連マーカーのAKI発症リスク予測能
<検体>
人工心肺を用いた心臓大血管手術を施工された患者について、術前の尿を採取した。KDIGO基準にしたがってAKI発症者、非発症者と診断された患者検体102例を用いた。AKI発症者(AKI)は37例、非発症者(non AKI)は65例であった。
【0122】
<尿クレアチニンの測定>
採取した尿検体を試料とし、エクディア(登録商標)XL’栄研’CRE-V(栄研化学)を用いて、臨床化学自動分析装置JCA-BM6070(日本電子)にて試料中のクレアチニン(Cr)濃度を算出した。
【0123】
<尿中AKI関連マーカー濃度の測定>
尿中AKI関連マーカーとして、尿中NGAL、L-FABP、TIMP-2、IGFBP7、KIM-1を選択した。これらの濃度は、それぞれ以下の市販の測定試薬を用いて測定した。
【0124】
NGAL:Human Lipocalin-2/NGAL DuoSet ELISA (R&D Systems)、
L-FABP:High Sensitivity Human L-FABP ELISA Kit (CMIC)、
TIMP-2:Human TIMP-2 DuoSet ELISA (R&D Systems)、
IGFBP7:ELISA kit for insulin-like growth factor binding protein 7 (Cloud-Clone)、
KIM-1:Human TIM-1/KIM-1/HAVCR DuoSet ELISA (R&D Systems)。
【0125】
ただし、NGAL,TIMP-2,KIM-1の発色にはo-phenylenediamine(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を用い、2N H2SO4を加えて反応を停止した。各ウェルの吸光度は492nmの波長でマイクロプレートリーダーサンライズレインボーRC(Tecan)を用いて測定した。
【0126】
<発症リスク予測能の算出>
各マーカーについて、AKI発症者、非発症者を比較したROC曲線を算出し、曲線下面積(AUC)を算出した。ROC曲線の左上隅から最も近い点をカットオフ値とし、感度・特異度を算出した。得られた結果を下記表2に示す。
【0127】
【0128】
[実施例3] 血中腎機能マーカー(sCr、eGFR)と血清中の遊離AIM量の発症リスク予測能
<検体>
人工心肺を用いた心臓大血管手術を施行された患者について、術前の血液を採取し、血清を得た。KDIGO基準にしたがってAKI発症者、非発症者と診断された患者検体102例を用いた。AKI発症者(AKI)は37例、非発症者(non AKI)は65例であった。
【0129】
<血清クレアチニン(sCr)の測定>
血清クレアチニンは、クレアチニン測定用「セロテック」CRE-CL(株式会社セロテック社製)を用いて、製造元のプロトコルに従い測定した。
【0130】
<eGFRの算出>
eGFRは、以下の計算式にしたがって算出した。
男性
eGFR(ml/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287
女性
eGFR(ml/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287×0.739。
【0131】
<発症リスク予測能の算出>
各マーカーについて、AKI発症者、非発症者を比較したROC曲線を算出し、曲線下面積(AUC)を算出した。ROC曲線の左上隅から最も近い点をカットオフ値とし、感度・特異度を算出した。得られた結果を下記表3に示す。
【0132】
表3に示すとおり、血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量、全長遊離AIM/AIM総量は、血清クレアチニン、eGFRと同等の発症リスク予測能を示した。特にAUCにおいては全長遊離AIM/AIM総量が高かった。
【0133】
【0134】
上記のとおり、尿中AKI関連マーカー及び血中腎機能マーカーに関し、それらのAKI発症の予測能について評価した結果、表2に示すとおり、血清中の遊離AIM量において、尿中AKI関連マーカーと比較して、AKI発症における優れた予測能を示すことが明らかになった。また、表3に示すとおり、血清中の遊離AIM量を検出することによって、公知の血中腎機能マーカー(sCr、eGFR)と同等の予測能を示すことも示された。
【0135】
[実施例4] 血中腎機能マーカー(sCr、eGFR)と血清AIMの発症リスク予測能
<血中腎機能マーカー、血清AIMを用いたAKI発症リスク診断>
実施例3で算出した各マーカーのカットオフ値を基準として各症例の診断を行った。そのうちの8例の結果を表4に示す。
【0136】
【0137】
血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量及び全長遊離AIM/AIM総量、血清クレアチニン、並びにeGFRのいずれを用いても、AKIの発症を予測できる症例が認められた(#2、#10)。一方で、血清クレアチニン及びeGFRによって偽陰性、偽陽性を示す症例においても、血清中の遊離AIM量を検出することによって、AKIの発症を正確に予測できる症例が認められた(#52、#54、#55、#59、#63、#79)。
【0138】
[参考例1] 血中腎機能マーカーと遊離AIMとの相関
各患者検体における、実施例3で測定した血中腎機能マーカー(sCr、eGFR)と実施例1で測定した血清中の遊離AIM量との関係性を解析した結果を、
図10及び
図11に示す。その結果、
図10及び11に示すとおり、血清中の遊離AIM量は、sCr、eGFRとの相関が弱く、バラツキが大きかった。
【0139】
以上の結果から、腎機能マーカーと血清中の遊離AIM量はいずれもAKI発症リスクの予測に有用であるが、異なる病態を反映する可能性があることが示唆された。
【0140】
[実施例5] CKD患者における血中腎機能マーカー(sCr、eGFR)と血清中の遊離AIM量の発症リスク予測能における比較
<検体>
基礎疾患としてCKD(慢性腎臓病)を有し、人工心肺を用いた心臓大血管手術を施工された患者について、術前の血液を採取し、血清を得て、腎機能マーカー及び血清中の遊離AIM量を測定した。また、検体は、KDIGO基準にしたがってAKI発症者、非発症者と診断された患者検体55例を用いた。AKI発症者(AKI)は28例、非発症者(non AKI)は27例であった。
【0141】
<発症リスクの予測能の算出>
各マーカーについて、AKI発症者、非発症者を比較したROC曲線を算出し、曲線下面積(AUC)を算出した。ROC曲線の左上隅から最も近い点をカットオフ値とし、感度・特異度を算出した。得られた結果を表5に示す。
【0142】
【0143】
表5に示すとおり、血清における、遊離AIMの濃度、全長遊離AIMの濃度、遊離AIM/AIM総量及び全長遊離AIM/AIM総量は、基礎疾患としてCKDを有する患者群においても、優れたAKI発症の予測能を示した。また、これら血清中の遊離AIM量は、血清クレアチニン及びeGFRよりも優れた予測能を示した。
【0144】
[実施例6] 血清遊離AIMと臨床情報との組み合わせによるAKI発症リスク診断
<血清遊離AIMと臨床情報の組み合わせによる発症リスク予測能の算出>
実施例1の患者を対象として術前の血清中の遊離AIM濃度、臨床情報を1項目ずつ組合せた多重ロジスティック回帰分析を行い、下記最適な予測式を作成し、スコアを計算した。
スコア=(血清遊離AIM測定値)×(係数a)+(組み合わせる項目の測定値等)×(係数b)+定数項
得られた各症例のスコアからROC曲線を描画して曲線下面積(AUC)を算出した。なお、統計解析には、統計ソフト(StatFlex V7)を用いた。得られた結果を下記表6及び7に示す。
【0145】
【0146】
【0147】
なお、「性別」に関しては、男性を0として、女性を1として、上記予測式に入力し、解析を行った。「手術対象疾患」に関しては、罹患している患者を1として、罹患していない患者を0として、上記予測式に入力し、解析を行った。「術式」に関しては、各術式を行った患者を1として、行っていない患者を0として入力し、解析を行った。「慢性腎臓病ステージ」に関しては、手術時のそれが、G1の患者を0、G2の患者を1、G3aの患者を2、G3bの患者を3、G4の患者を4として入力し、解析を行った。「背景疾患」に関しては、手術時に各疾患に罹患している患者を1、罹患していない患者を0として入力し、解析に用いた。「薬剤情報」に関しては、手術前に各薬剤を投与された患者を1、投与されていない患者を0として入力し、解析に用いた。その他の項目については、各測定値そのものを入力して解析を行った。
【0148】
表6及び7に示すとおり、術前の臨床情報では、腎機能、身体的特性、手術対象者の疾患等の臨床情報との組み合わせによって予測能が向上した。このように、血清AIMと少なくとも一つ以上の臨床情報を組み合わせることで、高精度にAKI発症を予測できることが明らかになった。特筆すべきことに、eGFRは、上記のとおり、血清クレアチニン、年齢、性別の3項目を組み合わせて指標とするものであるが、表3に示すとおり、AKI発症の予測において、血清クレアチニンのみを指標とする場合と同程度(AUC 0.71)である。一方、血清中の遊離AIMに関しては、表6に示すとおり、年齢と組み合わせることによって、AUCは0.76となり、また性別と組み合わせてもAUCは0.74となり、顕著な向上が認められた。このように、AKI発症において、多因子を指標とするeGFRと比較しても、血清中の遊離AIMと他の臨床情報との組み合わせは優れた予測能を発揮することが明らかとなった。したがって、血清中の全長遊離AIMについても、他の臨床情報と組み合わせることで優れた予測能を発揮すると考えられる。
以上説明したように、本発明によれば、急性腎障害の発症を予測することが可能となる。したがって、本発明は、急性腎障害発症前の早期の治療介入等を可能とするため、当該疾患に関する医療分野において有用である。