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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039987
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240315BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/04 A
H01F17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144774
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敏之
(72)【発明者】
【氏名】奥村 武史
(72)【発明者】
【氏名】西川 朋永
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和弘
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB03
5E070BB03
5E070CB13
(57)【要約】
【課題】層間絶縁膜と導体層が交互に積層されてなるコイル部が磁性素体で埋め込まれた構造を有するコイル部品において、磁気特性をより高める。
【解決手段】コイル部品1は、磁性素体Mと、磁性素体Mに埋め込まれ、層間絶縁膜10~14と導体層C0~C3が交互に積層されたコイル部3とを備える。導体層C0~C3はそれぞれコイルパターンを有する。導体層C3はクリアランス領域CLを有する。磁性素体Mは、コイル部3の内径領域に設けられた磁性樹脂層M1と、コイル部3の外側領域に設けられた磁性樹脂層M2と、コイル部3を軸方向から覆う磁性樹脂層M3,M4と、クリアランス領域CLに埋め込まれ、磁性樹脂層M1,M2と接する磁性樹脂層M5とを含む。他の導体層C0~C2にはクリアランス領域CLが設けられていない。これにより磁性素体Mのボリュームが増加することから、磁気特性が高められる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性素体と、
前記磁性素体に埋め込まれ、複数の層間絶縁膜と複数の導体層が交互に積層されたコイル部と、を備え、
前記複数の導体層は、それぞれコイルパターンを有し、
前記複数の導体層のうち、1以上の第1の導体層は、前記コイル部の中心軸から径方向における外側に向かって、前記コイルパターンの存在しないクリアランス領域を有し、
前記磁性素体は、前記コイル部の内径領域に設けられた第1の磁性樹脂層と、前記コイル部の前記径方向における外側領域に設けられた第2の磁性樹脂層と、前記コイル部を軸方向における一方側から覆う第3の磁性樹脂層と、前記コイル部を前記軸方向における他方側から覆う第4の磁性樹脂層と、前記クリアランス領域に埋め込まれ、前記第1の磁性樹脂層及び前記第2の磁性樹脂層と接する第5の磁性樹脂層とを含み、
前記複数の導体層のうち、前記第1の導体層を除く他の導体層には、前記第5の磁性樹脂層が埋め込まれた前記クリアランス領域が設けられていない、コイル部品。
【請求項2】
前記第1の導体層は、前記複数の導体層のうちいずれか一層にのみ設けられる、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1の導体層は、前記複数の導体層のうち前記軸方向における前記一方側の端部に位置する、請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第3の磁性樹脂層を覆う端子電極と、
前記第3の磁性樹脂層に埋め込まれ、一端が前記第1の導体層に位置する前記コイルパターンの一端に接続され、他端が前記端子電極に接続された導体ポストと、をさらに備える、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記磁性素体は、前記軸方向から見て、第1の方向を長辺とし、前記第1の方向と直交する第2の方向を短辺とする矩形状であり、
前記クリアランス領域は、前記第1の方向に沿って設けられている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
磁性素体と、
前記磁性素体に埋め込まれ、複数の層間絶縁膜と複数の導体層が交互に積層されたコイル部と、を備え、
前記複数の導体層は、それぞれコイルパターンを有し、
前記複数の導体層に含まれる第1の導体層は、前記コイル部の中心軸から径方向における外側に向かって、前記コイルパターンの存在しないクリアランス領域を有し、
前記磁性素体は、前記コイル部の内径領域に設けられた第1の磁性樹脂層と、前記コイル部の前記径方向における外側領域に設けられた第2の磁性樹脂層と、前記コイル部を軸方向における一方側から覆う第3の磁性樹脂層と、前記コイル部を前記軸方向における他方側から覆う第4の磁性樹脂層と、前記クリアランス領域に埋め込まれ、前記第1の磁性樹脂層及び前記第2の磁性樹脂層と接する第5の磁性樹脂層とを含み、
前記複数の導体層のうち、前記第1の導体層にのみ、前記第5の磁性樹脂層が埋め込まれた前記クリアランス領域が設けられている、コイル部品。
【請求項7】
磁性素体と、
前記磁性素体に埋め込まれ、複数の層間絶縁膜と複数の導体層が交互に積層されたコイル部と、を備え、
前記複数の導体層は、それぞれコイルパターンを有し、
前記複数の導体層に含まれる第1の導体層は、前記コイル部の中心軸から径方向における外側に向かって、前記コイルパターンの存在しないクリアランス領域を有し、
前記磁性素体は、前記コイル部の内径領域に設けられた第1の磁性樹脂層と、前記コイル部の前記径方向における外側領域に設けられた第2の磁性樹脂層と、前記コイル部を軸方向における一方側から覆う第3の磁性樹脂層と、前記コイル部を前記軸方向における他方側から覆う第4の磁性樹脂層と、前記クリアランス領域に埋め込まれ、前記第1の磁性樹脂層及び前記第2の磁性樹脂層と接する第5の磁性樹脂層とを含み、
前記複数の導体層のうち、前記第1の導体層を除く他の導体層においては、当該導体層に含まれる前記コイルパターンによって前記第1の磁性樹脂層と前記第2の磁性樹脂層とが分離されている、コイル部品。
【請求項8】
前記複数の導体層は、前記第1の導体層を2層含み、
前記2層の前記第1の導体層は、前記軸方向に隣接する、請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記2層の前記第1の導体層が有する前記クリアランス領域は、前記軸方向から見た平面位置が互いに異なる、請求項8に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記2層の前記第1の導体層は、複数の導体層のうち前記軸方向における端部に位置しない内層である、請求項8又は9に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はコイル部品に関し、特に、層間絶縁膜と導体層が交互に積層されてなるコイル部が、磁性素体で埋め込まれた構造を有するコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、層間絶縁膜と導体層が交互に積層されてなるコイル部が、磁性素体で埋め込まれた構造を有するコイル部品が開示されている。特許文献1においては、各導体層に位置するコイルパターンがいずれも1ターン未満である。そして、コイルパターンが設けられない部分のうち、他の導体層のコイルパターンと重なる部分には、段差を解消するためのダミーパターンが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-052076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のコイル部品においては、コイル部の内径領域に埋め込まれた磁性樹脂層と、コイル部の径方向における外側領域に埋め込まれた磁性樹脂層は、コイル部を軸方向から覆う磁性樹脂層を介して磁気的に接続される。
【0005】
本開示においては、層間絶縁膜と導体層が交互に積層されてなるコイル部が磁性素体で埋め込まれた構造を有するコイル部品において、磁気特性をより高める技術が説明される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面によるコイル部品は、磁性素体と、磁性素体に埋め込まれ、複数の層間絶縁膜と複数の導体層が交互に積層されたコイル部とを備え、複数の導体層はそれぞれコイルパターンを有し、複数の導体層のうち、1以上の第1の導体層は、コイル部の中心軸から径方向における外側に向かって、コイルパターンの存在しないクリアランス領域を有し、磁性素体は、コイル部の内径領域に設けられた第1の磁性樹脂層と、コイル部の径方向における外側領域に設けられた第2の磁性樹脂層と、コイル部を軸方向における一方側から覆う第3の磁性樹脂層と、コイル部を軸方向における他方側から覆う第4の磁性樹脂層と、クリアランス領域に埋め込まれ、第1の磁性樹脂層及び第2の磁性樹脂層と接する第5の磁性樹脂層とを含み、複数の導体層のうち、第1の導体層を除く他の導体層にはクリアランス領域が設けられていない。
【0007】
本開示によれば、磁性素体のボリュームが増加することから、磁気特性がより高められたコイル部を提供することが可能となる。
【0008】
本開示において、第1の導体層は、複数の導体層のうちいずれか一層にのみ設けられていても構わない。これによれば、パターン設計が容易となる。
【0009】
本開示において、第1の導体層は、複数の導体層のうち軸方向における一方側の端部に位置しても構わない。これによれば、第5の磁性樹脂層と第3の磁性樹脂層が一体化されることから、磁気特性をより高めることが可能となる。
【0010】
本開示の一側面によるコイル部品は、第3の磁性樹脂層を覆う端子電極と、第3の磁性樹脂層に埋め込まれ、一端が第1の導体層に位置するコイルパターンの一端に接続され、他端が端子電極に接続された導体ポストとをさらに備えても構わない。これによれば、第3の磁性樹脂層の表面を実装面として用いることが可能となる。
【0011】
本開示において、磁性素体は、軸方向から見て、第1の方向を長辺とし、第1の方向と直交する第2の方向を短辺とする矩形状であり、クリアランス領域は、第1の方向に沿って設けられていても構わない。磁性素体の長辺は磁束密度が高いことから、磁気特性がより高められる。
【0012】
本開示の他の側面によるコイル部品は、磁性素体と、磁性素体に埋め込まれ、複数の層間絶縁膜と複数の導体層が交互に積層されたコイル部とを備え、複数の導体層はそれぞれコイルパターンを有し、複数の導体層に含まれる第1の導体層は、コイル部の中心軸から径方向における外側に向かって、コイルパターンの存在しないクリアランス領域を有し、磁性素体は、コイル部の内径領域に設けられた第1の磁性樹脂層と、コイル部の径方向における外側領域に設けられた第2の磁性樹脂層と、コイル部を軸方向における一方側から覆う第3の磁性樹脂層と、コイル部を軸方向における他方側から覆う第4の磁性樹脂層と、クリアランス領域に埋め込まれ、第1の磁性樹脂層及び第2の磁性樹脂層と接する第5の磁性樹脂層とを含み、複数の導体層のうち、第1の導体層にのみ、第5の磁性樹脂層が埋め込まれたクリアランス領域が設けられている。
【0013】
本開示によれば、磁性素体のボリュームが増加することから、磁気特性がより高められたコイル部を提供することが可能となる。
【0014】
本開示のさらに他の側面によるコイル部品は、磁性素体と、磁性素体に埋め込まれ、複数の層間絶縁膜と複数の導体層が交互に積層されたコイル部とを備え、複数の導体層はそれぞれコイルパターンを有し、複数の導体層に含まれる第1の導体層は、コイル部の中心軸から径方向における外側に向かって、コイルパターンの存在しないクリアランス領域を有し、磁性素体は、コイル部の内径領域に設けられた第1の磁性樹脂層と、コイル部の径方向における外側領域に設けられた第2の磁性樹脂層と、コイル部を軸方向における一方側から覆う第3の磁性樹脂層と、コイル部を軸方向における他方側から覆う第4の磁性樹脂層と、クリアランス領域に埋め込まれ、第1の磁性樹脂層及び第2の磁性樹脂層と接する第5の磁性樹脂層とを含み、複数の導体層のうち、第1の導体層を除く他の導体層においては、導体層に含まれるコイルパターンによって第1の磁性樹脂層と第2の磁性樹脂層とが分離されている。
【0015】
本開示によれば、磁性素体のボリュームが増加することから、磁気特性がより高められたコイル部を提供することが可能となる。
【0016】
本開示において、複数の導体層は第1の導体層を2層含み、2層の第1の導体層は軸方向に隣接するものであっても構わない。また、2層の第1の導体層が有するクリアランス領域は、軸方向から見た平面位置が互いに異なっていても構わない。これらによれば、パターン設計が容易となる。さらに、2層の第1の導体層は、複数の導体層のうち軸方向における端部に位置しない内層であっても構わない。これによれば、全体の機械的強度が高められる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本開示によれば、層間絶縁膜と導体層が交互に積層されてなるコイル部が磁性素体で埋め込まれた構造を有するコイル部品において、磁気特性をより高める技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示の一実施形態によるコイル部品1の外観を説明するための略斜視図である。
図2図2は、コイル部品1の模式的な断面図である。
図3図3は、導体層C0のパターン形状を説明するための略平面図である。
図4図4は、導体層C1のパターン形状を説明するための略平面図である。
図5図5は、導体層C2のパターン形状を説明するための略平面図である。
図6図6は、導体層C3のパターン形状を説明するための略平面図である。
図7図7は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図8図8は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図9図9は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図10図10は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図11図11は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図12図12は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図13図13は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図14図14は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図15図15は、コイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。
図16図16は、製造過程における導体層C3の形状を説明するための略平面図である。
図17図17は、変形例による導体層C0のパターン形状を説明するための略平面図である。
図18図18は、変形例による導体層C1のパターン形状を説明するための略平面図である。
図19図19は、変形例による導体層C2のパターン形状を説明するための略平面図である。
図20図20は、変形例による導体層C3のパターン形状を説明するための略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本開示の一実施形態によるコイル部品1の外観を説明するための略斜視図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態によるコイル部品1は、Z方向をコイル軸とするコイル部3が磁性素体Mに埋め込まれた構造を有するチップ型のコイル部品である。磁性素体Mは、Z方向から見て、X方向を長辺とし、Y方向を短辺とする矩形状である。磁性素体Mは、コイル軸と直交しXY面を構成する実装面4及び上面5を有している。実装面4と上面5は、互いに反対側に位置する。実装面4には端子電極E1,E2が設けられており、実装時においては、実装面4が回路基板と向かい合うよう、端子電極E1,E2が回路基板にハンダ付けされる。つまり、図1に示すコイル部品1の上下方向は、実装時とは180°異なっている。
【0022】
図2は、本実施形態によるコイル部品1の模式的な断面図である。
【0023】
図2に示すように、本実施形態によるコイル部品1は、コイル軸方向(Z方向)に交互に積層された層間絶縁膜10~14及び導体層C0~C3からなるコイル部3を有している。導体層C0~C3はCuなどからなる。磁性素体Mは、磁性樹脂層M4,M10からなる。このうち、磁性樹脂層M10はコイル部3の内径領域に位置する磁性樹脂層M1、コイル部3の径方向における外側領域に位置する磁性樹脂層M2、並びに、コイル部3のコイル軸方向における一方側(例えば、後述する端子電極E2が設けられる側)に位置する磁性樹脂層M3を含む。磁性樹脂層M4は、コイル部3のコイル軸方向における他方側(例えば、端子電極と対向し、後述するカバー絶縁膜22が設けられる側)に設けられる。以下、磁性樹脂層M1を第1の磁性樹脂層、磁性樹脂層M2を第2の磁性樹脂層、磁性樹脂層M3を第3の磁性樹脂層、磁性樹脂層M4を第4の磁性樹脂層と呼ぶことがある。磁性樹脂層M4,M10は、磁性フィラーとバインダー樹脂を含む複合磁性材料からなる。磁性樹脂層M4を構成する複合磁性材料と磁性樹脂層M10を構成する複合磁性材料は、互いに同じ材料であっても構わないし、互いに異なる材料であっても構わない。磁性フィラーとしては、鉄(Fe)やパーマロイ系材料などの金属磁性材料を用いることができる。バインダー樹脂としては、エポキシ樹脂を用いることができる。
【0024】
磁性樹脂層M3には導体ポストP1,P2が埋め込まれている。導体ポストP1,P2はCuなどからなり、Z方向に延在するピラー状の導体である。このうち、導体ポストP1の一端である下面Bは、導体層C0~C3によって構成されるコイルの一端に接続され、導体ポストP2の一端である下面Bは、導体層C0~C3によって構成されるコイルの他端に接続される。一方、導体ポストP1,P2の他端である上面Tは、実装面4と同一平面を構成するよう実装面4から露出し、それぞれ端子電極E1,E2に接続される。導体ポストP1,P2の側面S(Z方向に沿った面)は、ポスト保護膜15で覆われている。これにより、導体ポストP1,P2と磁性素体Mの間にポスト保護膜15が介在することから、導体ポストP1,P2と磁性素体Mの接触が防止され、両者の絶縁が確保される。また、導体ポストP1,P2を有する本実施形態のコイル部品1を回路基板等に実装すると、導体ポストP1,P2によって応力が緩和され、コイル部3へのダメージが低減される。このため、コイル部品1の実装信頼性も向上する。
【0025】
磁性素体Mの実装面4及び上面5は、それぞれカバー絶縁膜21,22で覆われている。このうち、カバー絶縁膜22については上面5のほぼ全面を覆うのに対し、カバー絶縁膜21には導体ポストP1,P2と重なる位置にそれぞれ開口21a,21bが設けられている。これにより、導体ポストP1,P2の上面T(XY面)は、カバー絶縁膜21の開口21a,21bからそれぞれ露出する。カバー絶縁膜21上には、端子電極E1,E2が設けられる。端子電極E1,E2は、例えば、Agなどからなる金属粉とバインダー樹脂を含む樹脂電極31と、樹脂電極31の表面に形成されたNi膜32及びSn膜33によって構成される。端子電極E1,E2は、カバー絶縁膜21の開口21a,21bを介して、それぞれ導体ポストP1,P2の上面Tに接続される。尚、磁性素体Mの実装面4及び上面5をカバー絶縁膜21,22で覆う点は必須でないが、カバー絶縁膜21を設けることにより、端子電極E1,E2と磁性素体Mの接触が防止されることから信頼性が高められる。また、カバー絶縁膜22を設けることにより信頼性が高められるとともに、上面5に方向性マークなどを設けることが可能となる。
【0026】
図3図6は、それぞれ導体層C0~C3のパターン形状を説明するための略平面図である。
【0027】
図3に示すように、導体層C0にはコイルパターン100が設けられる。コイルパターン100は約1ターン周回するパターンであり、その両端は、層間絶縁膜11に設けられたビア11a,11bを介して導体層C1に接続される。コイルパターン100の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン100の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン100の一端と他端の間の隙間は、層間絶縁膜11で埋め込まれている。このため、導体層C0の面内においては、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が分離されている。
【0028】
図4に示すように、導体層C1にはコイルパターン110及び接続パターン111が設けられる。コイルパターン110は約1ターン周回するパターンであり、その一端は、層間絶縁膜11に設けられたビア11bを介して導体層C0のコイルパターン100の他端に接続されるとともに、その他端は、層間絶縁膜12に設けられたビア12bを介して導体層C2に接続される。接続パターン111は、導体層C0に設けられたコイルパターン100の一端と重なる位置に設けられており、層間絶縁膜11に設けられたビア11aを介して導体層C0のコイルパターン100の一端に接続されるとともに、層間絶縁膜12に設けられたビア12aを介して導体層C2に接続される。コイルパターン110の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン110の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン110の一端と他端の間の隙間は、層間絶縁膜12で埋め込まれている。このため、導体層C1の面内においては、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が分離されている。
【0029】
図5に示すように、導体層C2にはコイルパターン120及び接続パターン121が設けられる。コイルパターン120は約1ターン周回するパターンであり、その一端は、層間絶縁膜12に設けられたビア12bを介して導体層C1のコイルパターン110の他端に接続されるとともに、その他端は、層間絶縁膜13に設けられたビア13bを介して導体層C3に接続される。接続パターン121は、導体層C1に設けられた接続パターン111と重なる位置に設けられており、層間絶縁膜12に設けられたビア12aを介して導体層C1の接続パターン111に接続されるとともに、層間絶縁膜13に設けられたビア13aを介して導体層C3に接続される。コイルパターン120の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン120の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン120の一端と他端の間の隙間は、層間絶縁膜13で埋め込まれている。導体層C2の面内においては、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が分離されている。
【0030】
図6に示すように、導体層C3にはコイルパターン130及び接続パターン131が設けられる。コイルパターン130は約0.5ターン周回するパターンであり、その一端は、層間絶縁膜13に設けられたビア13bを介して導体層C2のコイルパターン120の他端に接続されるとともに、その他端は、層間絶縁膜14に設けられたビア14bを介して導体ポストP2に接続される。接続パターン131は、導体層C2に設けられた接続パターン121と重なる位置に設けられており、層間絶縁膜13に設けられたビア13aを介して導体層C2の接続パターン121に接続されるとともに、層間絶縁膜14に設けられたビア14aを介して導体ポストP1に接続される。コイルパターン130の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン130の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン130の一端と他端の間には、コイルパターンが存在しないクリアランス領域CLが設けられる。クリアランス領域CLは、コイル部3の中心軸から径方向における外側に向かってコイルパターン130を分断する領域であり、図6に示す例では、長辺であるX方向及び短辺であるY方向に沿って設けられている。クリアランス領域CLは、層間絶縁膜14で埋め込まれることなく、磁性樹脂層M10の一部である磁性樹脂層M5で埋め込まれる。磁性樹脂層M5は、磁性樹脂層M1,M2と接している。これにより、導体層C3の面内において、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が磁性樹脂層M5を介して接続される。
【0031】
これにより、端子電極E1,E2間には、コイルパターン100,110,120,130が直列に接続され、合計で約3.5ターンのコイルが形成される。本実施形態によるコイル部品1は、層間絶縁膜10~14と導体層C0~C3が交互に積層されてなるコイル部3が磁性素体Mに埋め込まれた構造を有する埋め込み型のコイル部品であり、セラミックなどからなる磁性シートとコイルパターンが交互に積層されてなる積層型のコイル部品とは構造が異なる。例えば、積層型のコイル部品においては、積層方向に隣接するコイルパターン間に磁性シートが介在するが、本実施形態によるコイル部品1は、積層方向に隣接するコイルパターンが層間絶縁膜によって絶縁されており、両者間に磁性素体Mは介在しない。また、プリント基板上にコイルパターンを形成したタイプのシートコイルとも構造が異なる。
【0032】
そして、本実施形態においては、コイル部3の内径領域に位置する磁性樹脂層M1と外側領域に位置する磁性樹脂層M2が磁性樹脂層M3,M4を介して接続されるのみならず、導体層C3のクリアランス領域CLに位置する磁性樹脂層M5を介して接続されることから、磁性素体Mのボリュームが増大し、より高い磁気特性を得ることが可能となる。しかも、クリアランス領域CLが形成される導体層C3は、Z方向における一方側の端部に位置していることから、磁性樹脂層M3と磁性樹脂層M5が一体化され、これにより磁気特性をより高めることが可能となる。これに対し、他の導体層C0~C2には磁性樹脂層M5が埋め込まれたクリアランス領域CLが設けられておらず、それぞれ約1ターンのコイルパターン100,110,120が配置されることから、ターン数を十分に確保することが可能となる。尚、導体層C0~C2に設けられたコイルパターン100,110,120については、いずれも1ターン以上であっても構わない。
【0033】
次に、本実施形態によるコイル部品1の製造方法について説明する。
【0034】
図7図15は、本実施形態によるコイル部品1の製造方法を説明するための工程図である。図7図15には、1個のコイル部品1に相当する部分のみが示されているが、実際には、集合基板を用いて複数のコイル部品1が同時に作製される。
【0035】
まず、支持基板40を用意し(図7)、その表面に層間絶縁膜10~14と導体層C0~C3を交互に形成することによりコイル部3を形成した後、層間絶縁膜14にビア14a,14bを形成し、さらに導体ポストP1,P2を形成する(図8)。導体層C0~C3及び導体ポストP1,P2の形成は、電解メッキによって行うことができる。また、導体層C0~C3は、コイル部3の内径領域及びコイル部3の外側領域に位置する犠牲パターン41を含んでいる。ここで、導体層C0~C2においては、コイルパターン100,110,120の内径領域に位置する犠牲パターン41と、コイルパターン100,110,120の外側領域に位置する犠牲パターン41が接しておらず、互いに分離されているのに対し、図16に示すように、導体層C3においては、コイルパターン130の内径領域に位置する犠牲パターン41と、コイルパターン13の外側領域に位置する犠牲パターン41がクリアランス領域CLを介して一体化されている。
【0036】
次に、導体ポストP1,P2の露出面の全面を覆うポスト保護膜15を形成する(図9)。導体ポストP1,P2の露出面の全面とは、Z方向に沿った側面S及びXY面を構成する上面Tである。次に、この状態でウェットエッチングを行うことにより、犠牲パターン41を除去する(図10)。コイル部3を構成する導体パターンについては、層間絶縁膜10~14で覆われているため、エッチングされることはない。導体ポストP1,P2についても、ポスト保護膜15で覆われているため、エッチングされることはない。これにより、コイル部3の内径領域及び外側領域には、空間42が形成される。また、導体層C3のクリアランス領域CLにも空間42が形成される。
【0037】
次に、犠牲パターン41の除去によって形成された空間42を磁性樹脂層M10で埋め込む(図11)。これにより、コイル部3の内径領域は磁性樹脂層M1で埋め込まれ、コイル部3の径方向における外側領域は磁性樹脂層M2で埋め込まれ、コイル部3のコイル軸方向における一方側には磁性樹脂層M3で埋め込まれる。さらに、導体層C3のクリアランス領域CLは磁性樹脂層M5で埋め込まれる。これら磁性樹脂層M1~M3,M5に境界はなく、一体的である。次に、導体ポストP1,P2が露出するまで、磁性樹脂層M3の表面を研磨する(図12)。この工程により、磁性樹脂層M3の実装面4と導体ポストP1,P2の上面Tが同一平面となる。また、研磨前と比べ、磁性樹脂層M3の実装面4側における平坦性が大幅に高められる。
【0038】
次に、支持基板40を除去した後、層間絶縁膜10を覆うよう、磁性樹脂層M10の下面側に磁性樹脂層M4を形成する(図13)。その後、磁性樹脂層M4の表面を研磨することにより、上面5を平滑化しても構わない。次に、磁性素体Mの実装面4及び上面5にそれぞれカバー絶縁膜21,22を形成した後、導体ポストP1,P2の上面Tの一部が露出するよう、カバー絶縁膜21に開口21a,21bを形成する(図14)。
【0039】
次に、それぞれ導体ポストP1,P2に接続されるよう、カバー絶縁膜21上に端子電極E1,E2を形成する(図15)。そして、ダイシングによって個片化すれば、本実施形態によるコイル部品1が完成する。
【0040】
このように、本実施形態においては、導体層C3のクリアランス領域CLとなる部分に犠牲パターン41を配置していることから、この部分にダミーパターンなどを配置することなく、段差(導体パターンが形成されない凹部)の発生を防止することができる。そして、犠牲パターン41を除去した後は、クリアランス領域CLに磁性樹脂層M5が埋め込まれることから、コイル部2の内径領域に位置する磁性樹脂層M1と、コイル部2の外側領域に位置する磁性樹脂層M2が、磁性樹脂層M5を介して接続されることになる。
【0041】
図17図20は、それぞれ変形例による導体層C0~C3のパターン形状を説明するための略平面図である。
【0042】
図17に示すように、変形例による導体層C0には、図3に示した導体層C0と同様、約1ターン周回するコイルパターン100が設けられ、その両端は、層間絶縁膜11に設けられたビア11a,11bを介して導体層C1に接続される。コイルパターン100の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン100の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン100の一端と他端の間の隙間は、層間絶縁膜11で埋め込まれている。このため、導体層C0の面内においては、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が分離されている。
【0043】
図18に示すように、変形例による導体層C1にはコイルパターン110及び接続パターン111が設けられる。コイルパターン110は約3/4ターン周回するパターンであり、その一端は、層間絶縁膜11に設けられたビア11bを介して導体層C0のコイルパターン100の他端に接続されるとともに、その他端は、層間絶縁膜12に設けられたビア12bを介して導体層C2に接続される。接続パターン111は、導体層C0に設けられたコイルパターン100の一端と重なる位置に設けられており、層間絶縁膜11に設けられたビア11aを介して導体層C0のコイルパターン100の一端に接続されるとともに、層間絶縁膜12に設けられたビア12aを介して導体層C2に接続される。コイルパターン110の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン110の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン110の一端と他端の間には、コイルパターンが存在しないクリアランス領域CLが設けられる。クリアランス領域CLは、層間絶縁膜12で埋め込まれることなく、磁性樹脂層M10の一部である磁性樹脂層M5で埋め込まれる。磁性樹脂層M5は、磁性樹脂層M1,M2と接している。これにより、導体層C1の面内において、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が磁性樹脂層M5を介して接続される。
【0044】
図19に示すように、変形例による導体層C2にはコイルパターン120及び接続パターン121が設けられる。コイルパターン120は約3/4ターン周回するパターンであり、その一端は、層間絶縁膜12に設けられたビア12bを介して導体層C1のコイルパターン110の他端に接続されるとともに、その他端は、層間絶縁膜13に設けられたビア13bを介して導体層C3に接続される。接続パターン121は、導体層C1に設けられた接続パターン111と重なる位置に設けられており、層間絶縁膜12に設けられたビア12aを介して導体層C1の接続パターン111に接続されるとともに、層間絶縁膜13に設けられたビア13aを介して導体層C3に接続される。コイルパターン120の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン120の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン120の一端と他端の間には、コイルパターンが存在しないクリアランス領域CLが設けられる。クリアランス領域CLは、層間絶縁膜13で埋め込まれることなく、磁性樹脂層M10の一部である磁性樹脂層M5で埋め込まれる。磁性樹脂層M5は、磁性樹脂層M1,M2と接している。これにより、導体層C2の面内において、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が磁性樹脂層M5を介して接続される。
【0045】
図20に示すように、導体層C3にはコイルパターン130及び接続パターン131が設けられる。コイルパターン130は約1ターン周回するパターンであり、その一端は、層間絶縁膜13に設けられたビア13bを介して導体層C2のコイルパターン120の他端に接続されるとともに、その他端は、層間絶縁膜14に設けられたビア14bを介して導体ポストP2に接続される。接続パターン131は、導体層C2に設けられた接続パターン121と重なる位置に設けられており、層間絶縁膜13に設けられたビア13aを介して導体層C2の接続パターン121に接続されるとともに、層間絶縁膜14に設けられたビア14aを介して導体ポストP1に接続される。コイルパターン130の内径領域には磁性樹脂層M1が設けられ、コイルパターン130の外側領域には磁性樹脂層M2が設けられる。コイルパターン130の一端と他端の間の隙間は、層間絶縁膜14で埋め込まれている。このため、導体層C3の面内においては、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が分離されている。
【0046】
このように、変形例においては、導体層C1,C2のクリアランス領域CLに位置する磁性樹脂層M5を介して、磁性樹脂層M1と磁性樹脂層M2が接続される。ここで、クリアランス領域CLを有する導体層C1,C2は、複数の導体層C0~C3のうち軸方向における端部に位置しない内層であることから、軸方向における端部に位置する導体層C0,C3のコイルパターン100,130をいずれも約1ターンとすることができ、全体の機械的強度が高められる。また、クリアランス領域CLを有する導体層C1,C2は軸方向に隣接しており、且つ、これらクリアランス領域CLの平面位置が互いに異なっていることから、パターン設計も容易である。この場合、導体層C1のクリアランス領域CLと導体層C2のクリアランス領域CLは、軸方向から見た平面視で重なりを有していなくても構わない。
【0047】
以上、本開示に係る技術の実施形態について説明したが、本開示に係る技術は、上記の実施形態に限定されることなく、その主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示に係る技術の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0048】
例えば、上記実施形態では、コイル部3が4層の導体層C0~C3によって構成されているが、コイル部に含まれる導体層の層数については特に限定されない。また、上記実施形態では、各導体層C0~C2に設けられたコイルパターン100,110,120のターン数が約1ターンであるが、各導体層に設けられるコイルパターンのターン数については特に限定されない。
【符号の説明】
【0049】
1 コイル部品
3 コイル部
4 実装面
5 上面
10~14 層間絶縁膜
11a,11b,12a,12b,13a,13b,14a,14b ビア
15 ポスト保護膜
21,22 カバー絶縁膜
21a,21b 開口
31 樹脂電極
32 Ni膜
33 Sn膜
40 支持基板
41 犠牲パターン
42 空間
100,110,120,130 コイルパターン
111,121,131 接続パターン
B 導体ポストの下面
C0~C3 導体層
CL クリアランス領域
E1,E2 端子電極
M 磁性素体
M1~M5,M10 磁性樹脂層
P1,P2 導体ポスト
S 導体ポストの側面
T 導体ポストの上面
図1
図2
図3
図4
図5
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