(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000004
(43)【公開日】2024-01-04
(54)【発明の名称】歯の保護層の形成方法および歯の保護層
(51)【国際特許分類】
A61C 19/06 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
A61C19/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022108691
(22)【出願日】2022-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】504230246
【氏名又は名称】鈴木 計芳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 計芳
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052HH01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】歯のエナメル層を傷付けることなく、患者の歯に保護層としてのガラスの層を設ける方法を提供する。
【解決手段】中切歯の表面に過酸化水素水でエッチングを施してS1、粉末状のリン酸チタニア系化合物を精製水で溶いたものを塗布してS2、乾燥させS3、リン酸チタニア系化合物層を形成する。その上に水ガラスを均等に塗布しS4、この面に反応硬化剤と添加剤とを作用させてS5、ガラス層を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の内の何れか一を、またはこれ等を任意に組み合わせたものを、歯の表面に付着させるステップと、この層の上にガラスの層を形成するステップと、を有する歯の保護層の形成方法。
【請求項2】
抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の内の何れか一を、またはこれ等を任意に組み合わせたものを、フィルム状のガラスの裏面に付着させて層と為すステップと、この層の側からガラスを歯の表面に付着させるステップと、を有する歯の保護層の形成方法。
【請求項3】
予め、歯と歯茎との間に防浸用のレジンによるマスキングを行うステップを有する、請求項1または請求項2に記載の歯の保護層の形成方法。
【請求項4】
ガラスの層の形成が液体ガラスの塗布によるものである、請求項1に記載の歯の保護層の形成方法。
【請求項5】
ガラスの層の形成がフィルム状のガラスの貼付によるものである、請求項1に記載の歯の保護層の形成方法。
【請求項6】
ガラスの層の形成が複数度に亘るものである、請求項4または請求項5に記載の歯の保護層の形成方法。
【請求項7】
抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の内の何れか一の、またはこれ等を任意に組み合わせて成る層の上に、ガラスの層を有するものである、歯の保護層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、虫歯、歯石、ステイン(着色汚れ)などから歯を守るための保護層の形成方法およびその保護層に係る。なおヒトの歯の審美的施術やペットの歯の保護層の形成にも関している。
【背景技術】
【0002】
就寝中に口内に雑菌が繁殖しやすいことが知られている。舌が喉の方に後退して上顎に着かなくなることでも雑菌が繁殖することが分かって来た。雑菌の繁殖は強い口臭や虫歯や歯周病の原因になる。また歯に付着する汚れは歯垢、歯石、ステイン(着色汚れ)などに関与する。
【0003】
口内の雑菌の繁殖を抑えたり殺菌を行う洗口液(デンタルリンスやマウスウォッシュなどと呼ばれるものである)としてジョンソン・エンド・ジョンソン社のリステリン(いずれも登録商標)が特に有名である。これを以て就寝前に口濯ぎをしておくと、口内のベタベタ感が除かれてスッキリすることが分かる。また当発明者による特願2012-182740号の発明を上げる。このものは主として就寝時に、内側に洗口剤を付け歯に被せて使用することにより、歯や口内の殺菌を行うことが出来るようにしたマウスピースあるいはトレーに関する。
【0004】
上述の洗口液を使用した口濯ぎによる清涼感の持続時間は極めて短く、朝起きてもまだ効果が持続していて口内がスッキリした状態にある、などと言うことはあり得なかった。この問題を解決したのが特願2012-182740号の発明である。これはこれで一定の効果を奏するものであったが、当発明者はマウスピースを使わずに、また長時間ではなく長期的に抗菌性や防汚性を持続させることが実現出来れば言うことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2012-182740号
【特許文献2】特許第3829640号(後出)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで当発明者は、そもそも歯の表面に持続的な保護層を付着させるようにすれば良いと思考した。恰も例えば建築物や機械の表面に塗装などによる保護層を形成するように、歯の表面にも保護層を形成するのである。
【0007】
しかしながら、上掲例の建築物や機械の表面に凹凸があるように、歯の表面にも個人差によってそれぞれに凹凸があるが、ヒトの歯では表面塗装の場合のようにヤスリを掛けるなどして、凹凸を滑らかにしてから保護層を形成する、と言うようなわけには行かない。ヒトの歯の表面には極めて大切なエナメル層があり、これを削ってしまうことは本末転倒だからである。また建築物や機械の表面に錆や油汚れや水垢があるように、ヒトの歯でも変色やステインなどがある。なおこのことはペットの歯に付いてもほぼ同様である。
【0008】
すなわち、エナメル層を傷付けることなく表面処理を行うにはどうしたら良いか、またその後の歯の表面にどのような保護層を設けると持続的なものになるだろうか、と言うのがこの発明の課題である。またさらに可能であれば、保護層は一般的に透明であって光の透過屈折や反射が見られるであろうから、それを考慮して変色などが見え難い表面処理としたいものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の歯の保護層の形成方法の発明は、抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の内の何れか一を、またはこれ等を任意に組み合わせたものを、歯の表面に付着させるステップと、この層の上にガラスの層を形成するステップと、を有することを特徴とする。また請求項2に記載した発明は、抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の内の何れか一を、またはこれ等を任意に組み合わせたものを、フィルム(薄いシート状皮膜)状のガラスの裏面に付着させて層と為すステップと、この層の側からガラスを歯の表面に付着させるステップと、を有することを特徴とする。抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の層とガラスの層とで、厚い保護層が得られる点も特長である。
【0010】
上記抗菌剤に付いて当発明者は、当初二酸化チタンを歯に塗布すれば良いと思考した。二酸化チタンには顕著な光触媒活性が見られて、防汚効果や殺菌・抗菌効果、消臭・分解効果などを示すことが知られている。すなわち歯の表面に塗布された二酸化チタンは太陽光や蛍光灯の紫外線を受けると光励起を生じて正孔と電子とを発生し、これが強力な酸化力、還元力を現して歯の表面に付着した汚れや菌と化学反応を起こし、また正孔や電子が口内の空気中の酸素や水分と反応してヒドロキシラジカル(-OH)やスーパーオキサイドイオン(O2-)が生成され、強い殺菌作用を発現するのである。しかしながら二酸化チタンが防汚や殺菌の効果を上げるためには、患者に口を開けさせて紫外線を照射してやらなくてはならない。あるいは歯科医師に依らずに患者自身で口を大きく開けて太陽光や蛍光灯の光を歯に当ててやる必要がある。
【0011】
そこで当発明者は二酸化チタンの代わりとしてリン酸チタニア系化合物(特許第3829640号の「光照射なしで活性効果を有する抗菌剤」が参考になる)を用いれば良いと言う考えに至った。二酸化チタンでは必要であった紫外線の照射がリン酸チタニア系化合物では不要であり、口腔内の空気中の酸素と水分だけで酸化還元反応を現して、O3-、OHラジカルにより汚れや菌を酸化分解するものであるため、常時強力なる防汚や抗菌の効果を発揮し続けることが出来る。
【0012】
リン酸チタニア系化合物は経口や皮膚刺激に於いて人体無害であり、警告ラベルは不要である。またそれ自身が歯の表面の凹凸に浸透して固定する性質を有するため、歯に直接塗布することが可能である。
【0013】
リン酸チタニア系化合物は粉末のまま用いることが可能である。指先やブラシを用いて歯に塗布するのである。また人体に無害な精製水やエタノールやオキシドールを含ませた脱脂綿等で歯を塗らしながら、リン酸チタニア系化合物の粉末を塗布することも出来る。上記エタノールの場合には殺菌作用が得られる。精製水やエタノールやオキシドールは、スポイトによる滴下やスプレーやブラシによる塗布が可能である。しかしながら、精製水やエタノールやオキシドール等の溶剤で溶いて、緩いペースト状や液状にした方が作業がより楽である。この後、風を当てて乾燥させ定着させるようにしても良い。冷風や常温の風や温風を当てることで乾燥させる方が、自然乾燥よりも施術時間が短くなるので良い。
【0014】
歯科で用いられる人体に無害な溶剤の例として、HCIO水や過酸化水素水やリン酸水溶液を上げる。局方消毒用エタノールの処方は局方エタノール95%830mlを精製水170mlで希釈することである。なお過酸化水素やリン酸水溶液等のエッチングの作用のある溶剤を使用すれば、塗布と同時に歯の表面のエッチングを行い得る防汚抗菌剤ともなり、この防汚抗菌剤自体の定着効果をより一層高めることが出来る。また上述のようにリン酸チタニア系化合物はそれ自体が歯の表面の凹凸に浸透し固定する性質を有するものであるため、歯の表面にエッチングを施しておくことでその定着効果がより高まることになる。この他、例えば歯面処理にリン酸水溶液30%に増粘材を添加してゼリー状にしたものが利用されているが、こうしたゼリー状の防汚抗菌剤を提供することも可能である。なおHCIO水、すなわち高濃度次亜塩素酸水は歯周ポケットの洗浄と除菌を行うと言うように、歯周病の治療に多く使われているが、これを溶剤としてリン酸チタニア系化合物を溶き容器に納めたものは、家庭での使用に道を拓くものとなり得る。何れにせよリン酸チタニア系化合物には、エナメル層を傷付けることなく表面処理を行い得る作用効果がある。
【0015】
さてリン酸チタニア系化合物を処置した歯に、リン酸チタニア系化合物を定着させるための定着具に付いて説明を追加しておく。例えば電動送風機を内蔵するハンドルと、電動送風機からの温風を口中に導くためのパイプと、このパイプの先の温風の吹出口と、から成る定着具を用いるのである。上述したように、リン酸チタニア系化合物を塗布した歯に対しては、冷風や常温の風や温風を当てることで乾燥させるやり方の方が、自然乾燥よりも施術時間が短くなるので好ましい。そこでこの定着具を用いるのである。なおこの定着具と前記塗布手段としてのブラシやスポイトやスプレーとが一体化したものも提供可能である。
【0016】
定着具のハンドルを握ってスイッチをONにすると、ハンドルに内蔵する電動送風機が動作してパイプに送風を開始する。電動送風機には外気が吸い込まれて、ヒータによって暖められてパイプに送られ、吹出口から噴出して歯に当てられる。これにより比較的短時間で歯に塗布したリン酸チタニア系化合物を乾燥させ定着させることが出来る。
【0017】
また例えば、ピストル型の紫外線発光装置を定着具とすることが出来る。上述したようにリン酸チタニア系化合物は光照射なしでも、口内の空気中の酸素と水分だけで常時酸化還元反応を現して、O3-、OHラジカルにより汚れや菌を酸化分解する活性効果を有するものではあるが、紫外線があればこの作用はさらに高まる。
【0018】
そこで歯科医師は、ピストルを握るようにして紫外線発光装置を構え、このスイッチをON状態にすると紫外線を発光するので、これをリン酸チタニア系化合物を塗布した歯に照射させると、リン酸チタニア系化合物を乾燥させて定着させることが出来る。
【0019】
次に、当発明者は上記ホワイトニング剤に付いてこれまでも、ポリリン酸ナトリウムを歯に塗布すれば良いと言う考えを有していた。ポリリン酸とは化合物のリン酸が多数結合したものであり、ポリリン酸ナトリウムは食品添加物に指定されていることもこの発明に好都合である。
【0020】
ポリリン酸はマイナス電荷密度が非常に高く、カルシウムなどの陽イオンに結合しやすい。このためポリリン酸はプラス電荷を有する歯石やステインに作用してこの汚れを浮かせる力が強い。またマイナス電荷が非常に高いポリリン酸は歯の表面のカルシウムと結合して歯の表面をコーティングする。歯の表面の凹凸が均されて透明感が出ると共に着色しにくくなるのである。すなわちホワイトニングを行いながら歯の表面の凹凸を均すことが出来る。
【0021】
ポリリン酸ナトリウムの溶剤には過酸化水素水(オキシドール)を用いることが出来る。過酸化水素水は、従前よりヒトの歯のホワイトニングに用いられていて安心安全なものである。ヒトやペットに無害の溶剤であるものの例として、上述した過酸化水素水や、過酸化尿素は好適であるが、必ずしもこれ等に限定されるものではない。特に過酸化水素水の場合には、ヒドロペルオキシラジカルに着色物質を分解する作用がある。
【0022】
このようなホワイトニング剤の塗布手段として、指先、スポイト、スプレー、ブラシを上げることが出来る。この点に付いては、リン酸チタニア系化合物の項で説明した通りである。
【0023】
次に、当発明者は上記再石灰化剤に付いてこれまでも、歯科医師として虫歯予防のため歯の表面にフッ素を塗布することを行って来た。フッ素コーティングの主なものに、歯面塗布法やトレー法や、これ等にイオン導入や、レーザー照射を併用する方法などがある。これによれば歯質を強化して耐酸性を高め、唾液に含まれているミネラルによる再石灰化を助けるなどの効果がある。従って歯の表面の凹凸が均されることになる。
【0024】
なお上述したポリリン酸は、ポリリン酸カルシウムとして、唾液中のカルシウムを歯に供給する働きが強い。このため歯の再石灰化を実現する。なおこの他にも、再石灰化剤として薬用ハイドロキシアパタイトを用いるなどと自由に設計して良い。
【0025】
さて、これまで、建築物や機械の表面の凹凸にヤスリを掛けてから保護層を形成するようなわけには行かないこと、歯の表面に個人差による凹凸があり、このような歯の表面に直接ガラスの層を形成するのではなく、先ずは抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤を歯の表面に付着させて、凹凸を均したり、汚れが目立ち難くしたりすることを説明した。これによりエナメル層を傷付けることなく表面処理が為された歯とすることに成功した。なお何れの場合でも事前に消毒薬を用いて歯を消毒しておくことは好ましい。そこで次のステップとして抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の何れか一で、あるいはこれ等を適宜組み合わせたもので処置されて、新たな層を為した歯に付いて、この表面にガラスの層を形成する。これが請求項1の発明である。なおこの層を、上の前歯に付いてのみ施すようにするとコストパフォーマンスが良くなるが、これに拘るものではない。また審美的な観点からすると前歯の前面側にだけガラスの層を設けるので良いわけであるが、前歯の表裏と言うように更に広い範囲に設ける場合に比して剥がれ易い場合もある。
【0026】
ガラスの層を形成するステップでは、上記新たな層を為した歯の表面に、液体ガラスを塗布して、反応硬化剤を添加し硬化させて通常のガラスと為す他、通常のガラスを貼付することが出来る。歯に通常のガラスを貼付するに当たり、液体ガラスを接着剤に使用することが可能である。また通常のガラスを貼付した上に液体ガラスを塗り重ねることが出来る。また液体ガラスを塗布して硬化させた後に液体ガラスを塗布して硬化させる、と言うように何層にも塗り重ねて厚くすることが可能である。こうして保護層であるガラス層を得ることが出来る。
【0027】
二酸化珪素が主成分の常温で液体の状態にある液体ガラスは、上記新たな層を為した歯の表面に塗布した後に、その表面を反応硬化剤や添加剤などを含侵させた布で拭くようにすることで、硬化して通常のガラスとなる性質を有する。このガラスは硬く緻密で、強度が高く各種の表面への密着性に優れる。上記新たな層を為した歯に対する粘度は如何様であっても良いが、作業性を考慮すると50cP~500cPの間から選ばれることが好ましい。また抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤で説明したように、指先(液体ガラスをガーゼや脱脂綿や不織布などに浸したものを指先で)、スポイト、スプレー、ブラシで塗布することが出来る。液体ガラスの一例として、株式会社日興のテリオスコート(登録商標)を上げる。このものは薬用アルコールなどで希釈して使用することが出来る。なお反応硬化剤などを使用した後に、自然放置ではなく、赤外光を当てたり冷風や常温の風や温風を当てたりすることは、施術時間を短くすることになるので好ましい。
【0028】
或いは結果的には上述と同じことになるのではあるが、請求項2の発明では順序を違えて、抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の何れか一を、或いはこれ等を適宜組み合わせたものを、通常のガラスである所のフィルム状のガラスの裏面に付着させて層を為しておき、抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の層を有するガラス層、すなわち歯の保護層を得る。而して抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤の層の側からガラスを歯の表面に付着させることで、歯の凹凸を均したり汚れを目立ち難くしたりする表面処理を行うことと、この表面にガラス剤の層を形成することとがほぼ同時に実現される。このフィルム状のガラスの素材にも粘度の違うものがある。
【0029】
なお素材としてのガラスに生理活性ガラスを用いることは好ましい。また口腔内にあって歯の表面のガラスは濡れているが、仮に乾燥でガラスが脆くなっては困ると言うようなことがあるのであれば、ガラスの成分に少量のエチレンを含めるようにしても良い。
【発明の効果】
【0030】
この発明では、歯の表面に上記持続的な保護層としてガラスの層を設けるようにするのであるが、これに先立つ形で、抗菌剤、ホワイトニング剤、再石灰化剤を歯の表面に付着させることにより、凹凸を均したり、汚れを目立ち難くしたりする表面処理が為された、ガラスコーティングに適した新たな歯と為している。この結果、歯のエナメル層を傷付けることなく、患者の歯に保護層としてのガラスの層を設けることが出来るようになった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【発明を実施するための形態】
【実施例0032】
図1および
図2を用いてこの実施例を説明する。
図1は上の歯の第1番(中切歯)であり、図の左側が前側、図の右側が後側である。事前に歯と歯肉との間に防浸用レジン3を用いてマスキングをしておくことが好ましい。この歯の上記前側の表面と後側の表面とに過酸化水素水でエッチングを施して(S1)、粉末状のリン酸チタニア系化合物を精製水で溶いたものを、ブラシを操って歯の両表面に塗布する(S2)。なお精製水で溶かずに粉末状のリン酸チタニア系化合物の粉末をそのまま、手袋を着けた指で歯に塗布することも可能である。この場合、歯は唾液などで濡れているが、仮に乾いているようであれば、脱脂綿に精製水を少し含ませて歯の表面を塗らしてから、上記粉末を塗り付けるようにすると良い。そして塗布した面にブロアで送風することで(S3)、乾燥を早めつつリン酸チタニア系化合物層2を形成することが出来る。
【0033】
上記リン酸チタニア系化合物層2の上に、スポイトに取った水ガラスを均等に塗布する(S4)。この塗布した水ガラスの面を、反応硬化剤と添加剤とを含ませたガーゼで拭くようにすると(S5)、水ガラスに反応硬化剤が作用して水ガラスが硬化する。こうして中切歯の前側と後側との表面に、内側にリン酸チタニア系化合物の層を有する水ガラスの保護層が形成される。図中符号1はガラス層を指す。なお上述した水ガラスの塗布と反応硬化剤を作用させることとをセットにして、水ガラスを塗り重ねることで、ガラス層1を厚く丈夫なものにすることが出来る。
【0034】
この実施例によれば特別な器具を用いずとも施術を行うことが出来る。リン酸チタニア系化合物層2は、歯に対する定着性に優れており、抗菌作用と共に歯の表面の凹凸に浸透して、エナメル層を傷付けることなく凹凸を均す作用がある。このようにして歯には表面処理が為された上にガラス層1が形成されていることになる。
【0035】
なお
図1中で符号9はエナメル質を、符号90は象牙質を、符号91はセメント質を、符号92は歯肉を指す。以下同様である。
そもそも過酸化水素水は、従前よりヒトの歯のホワイトニングに用いられている。またポリリン酸ナトリウム層4は、カルシウムの陽イオンに結合しやすいために、歯の表面のカルシウムと結合して歯の表面をコーティングする。従って歯の表面の凹凸が均されて、透明感が出る。こうしてホワイトニングの表面処理が為された歯にガラス層1が形成されることになる。