(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040001
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 28/16 20090101AFI20240315BHJP
H04W 56/00 20090101ALI20240315BHJP
【FI】
H04W28/16
H04W56/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144790
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】肥留川 誠之
(72)【発明者】
【氏名】戸舘 高広
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA03
5K067AA13
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE16
5K067EE44
5K067EE45
5K067EE62
5K067HH22
5K067HH23
(57)【要約】
【課題】 上りデータ伝送を行った基地局装置のみにその応答となる下りデータ伝送を行い、他の基地局装置には下りデータ伝送を行わないようにして、他の基地局装置のエリアでは移動局からの上りデータ伝送を可能とし、システム内のデータ伝送効率を向上させることができる無線通信システムを提供する。
【解決手段】 同一周波数を用いて下り送信を行う複数の基地局装置3と、基地局装置3の制御を行う回線制御装置2とを有する無線通信システムであって、回線制御装置2が、基地局装置2からの上りデータを受信すると、当該基地局装置3の使用回線を記憶し、当該記憶した基地局装置3の使用回線に、当該上りデータに対する応答としての下りデータを送信するものであり、応答が不要な基地局装置3には下りデータの送信を行わず、新たな移動局装置4からの上りデータ伝送を可能とする無線通信システムとしている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一周波数を用いて下り送信を行う複数の基地局装置と、前記複数の基地局装置の制御を行う回線制御装置とを有する無線通信システムであって、
前記回線制御装置は、前記基地局装置からの上りデータを受信すると、当該基地局装置の使用回線を記憶し、当該記憶した基地局装置の使用回線に前記上りデータの応答としての下りデータを送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記回線制御装置は、前記記憶した基地局装置の使用回線以外にも前記基地局装置のエリアに隣接するエリアの基地局装置の使用回線に下りデータを送信することを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記回線制御装置は、前記下りデータの送信時に、前記送信先となる各基地局装置に対して、前記下りデータの送信タイミングから当該回線制御装置と前記複数の基地局装置との間の最大の伝送時間を置いたタイミングを、前記各基地局装置が前記下りデータの送信を開始するタイミングとして指定して送信することを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記複数の基地局装置のエリアは、線状に配列され、又は面状に配列されていることを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に係り、特にシステム内のデータ伝送効率を向上させることができる無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
業務用無線システム等に用いられる一般的な無線通信システムでは、複数の基地局装置が基地局間同期機能を備え、同一の運用波を用いて通信を行う。
このような場合、複数の基地局装置の送信タイミングがずれると、複数の基地局装置からの到来波が重なるオーバーリーチエリアでは、相互干渉が生じて不感地帯が発生することがある。
【0003】
そのため、無線通信システムでは、複数の基地局装置からの送信開始タイミングを一致させる必要がある。
例えば、回線制御装置が各基地局装置に対して下り送信開始指示を送信し、各基地局装置は当該下り送信開始指示に含まれる送信タイミングに合わせて送信を開始することで複数の基地局の送信タイミングを一致させている。
【0004】
また、従来の無線通信システムでは、一般的な音声通話機能に加えて、定期的な位置情報通知によるデータ伝送を行うものがある。
具体的には、移動局が、上りデータ伝送を利用して定期的に位置情報を通知すると、回線制御装置に接続されるデータサーバが、当該位置情報を記憶すると共に、送信元の移動局に応答を送信する。応答は、回線制御装置を介して、基地局装置から移動局への下りデータ伝送として送信される。その際、上述したように、全ての基地局装置が同一のタイミングで下りデータ伝送を実施する。
【0005】
つまり、上り伝送に対する応答の送信先である対象移動局が在圏していない基地局装置も一斉に下り送信動作を行う。
そのため、基地局装置の下りデータ伝送中に、エリア内に新たに移動局が入ってきたとしても、当該移動局は上りデータ伝送を行うことができない。
これは、特に、SCPC(Single Channel Per Carrier)無線方式を用いたシステムにおける移動局は、受信動作中に送信動作を行うことができず、また送信動作中に受信動作を行うことができないことによるものである。
【0006】
このように、基地局間同期を用いたシステムにおいては、当該システム内におけるすべての基地局装置が同じタイミングで下りデータ伝送を実施するため、その間は移動局からの上りデータ伝送を行うことができない。
【0007】
尚、一般的に、データ伝送は、使用頻度が高く使用時間が短く、音声通話は、使用頻度は低くデータ伝送より使用時間が長い、という運用形態となっている。そのため、使用頻度が高いデータ伝送をシステム内に滞留させずに、効率的に処理することが必要となっている。
【0008】
[関連技術]
尚、無線通信システムに関する従来技術としては、特開2020-022029号公報「無線通信システムおよび無線通信方法」(特許文献1)、特開2015-144408号公報「無線通信システム」(特許文献2)がある。
【0009】
特許文献1には、指令設備が、移動局の位置情報から移動方向を求め、移動局の移動先の基地局を判定し、回線制御装置が、当該移動先の基地局に送信権を付与して、移動局へ信号を送出させることが記載されている。
【0010】
また、特許文献2には、回線制御装置が、下り送信の開始タイミングフレーム番号として、下り送信の開始指示の送信タイミングに対して当該回線制御装置と複数の基地局との間の伝送時間の最大値分の間隔を置いたフレーム番号を設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-022029号公報
【特許文献2】特開2015-144408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の無線通信システムでは、上りデータ伝送の応答としての下りデータ伝送時に、応答の送信先となる移動局が在圏していない基地局装置であっても同一のタイミングで下り送信を行うため、別の移動局がエリア内に入ってきても上りデータ伝送ができず、データ伝送の効率が低下してしまうという問題点があった。
【0013】
尚、特許文献1,2には、回線制御装置が、移動局からの上りデータ伝送時に使用した基地局装置を記憶しておき、その応答の下りデータ伝送時に、記憶されている基地局装置を選択して、下りデータ伝送を行うことは記載されていない。
【0014】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、上りデータ伝送を行った基地局装置のみに上りデータ伝送の応答となる下りデータ伝送を行い、他の基地局装置には下りデータ伝送を行わないようにして、他の基地局装置のエリアでは移動局からの上りデータ伝送を可能とし、システム内のデータ伝送効率を向上させることができる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、同一周波数を用いて下り送信を行う複数の基地局装置と、複数の基地局装置の制御を行う回線制御装置とを有する無線通信システムであって、回線制御装置は、基地局装置からの上りデータを受信すると、当該基地局装置の使用回線を記憶し、当該記憶した基地局装置の使用回線に上りデータの応答としての下りデータを送信することを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、回線制御装置は、記憶した基地局装置の使用回線以外にも当該基地局装置のエリアに隣接するエリアの基地局装置の使用回線に下りデータを送信することを特徴としている。
【0017】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、回線制御装置は、下りデータの送信時に、送信先となる各基地局装置に対して、下りデータの送信タイミングから当該回線制御装置と複数の基地局装置との間の最大の伝送時間を置いたタイミングを、各基地局装置が下りデータの送信を開始するタイミングとして指定して送信することを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、複数の基地局装置のエリアは、線状に配列され、又は面状に配列されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、同一周波数を用いて下り送信を行う複数の基地局装置と、複数の基地局装置の制御を行う回線制御装置とを有する無線通信システムであって、回線制御装置は、基地局装置からの上りデータを受信すると、当該基地局装置の使用回線を記憶し、当該記憶した基地局装置の使用回線に上りデータの応答としての下りデータを送信する無線通信システムとしているので、下りデータを送信する基地局装置以外の他の基地局装置は、下りデータを送信しないため上りデータの送信を行うことができ、他の基地局装置のエリアに新たに入ってきた移動局装置からの位置情報等の上りデータ伝送を行って、システム全体としてのデータ伝送効率を向上させることができる効果がある。
【0020】
また、本発明によれば、回線制御装置は、記憶した基地局装置の使用回線以外にも当該基地局装置のエリアに隣接するエリアの基地局装置の使用回線に下りデータを送信する上記無線通信システムとしているので、記憶した基地局装置と隣接する基地局装置のエリアが重なる領域で同じ下りデータを伝送することにより、不感地帯の発生を防ぎ、通信サービスの信頼性を確保することができる効果がある。
【0021】
また、本発明によれば、回線制御装置は、下りデータの送信時に、送信先となる各基地局装置に対して、下りデータの送信タイミングから当該回線制御装置と複数の基地局装置との間の最大の伝送時間を置いたタイミングを、各基地局装置が下りデータの送信を開始するタイミングとして指定して送信する上記無線通信システムとしているので、下りデータの送信を行う基地局装置は、回線制御装置からの距離の違いに関わらず同一の送信タイミングで下り送信を開始でき、基地局間の相互干渉を抑制して不感地帯の発生を防ぐことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本無線通信システムの構成例を示す説明図である。
【
図2】本無線通信システムの回線制御装置2の構成を示す説明図である。
【
図3】本無線通信システムの回線制御装置2におけるフレーム生成を示す説明図である。
【
図4】本無線通信システムにおける下り送信開始タイミングの設定を示す説明図である。
【
図5】本無線通信システムにおける下り送信タイミングの制御を示すシーケンス図である。
【
図6】本無線通信システムにおける上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(1)を示すシーケンス図である。
【
図7】本無線通信システムにおける不感地帯の発生を示す説明図である。
【
図8】本無線通信システムにおける上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(2)を示すシーケンス図である。
【
図9】本無線通信システムにおける隣接基地局数を2とした場合の運用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線通信システム(本無線通信システム)は、同一周波数を用いて下り送信を行う複数の基地局装置と、基地局装置の制御を行う回線制御装置とを有する無線通信システムであって、回線制御装置が、基地局装置からの上りデータを受信すると、当該基地局装置の使用回線を記憶し、当該記憶した基地局装置の使用回線に、当該上りデータに対する応答としての下りデータを送信するものであり、応答が不要な基地局装置には下りデータの送信を行わず、当該基地局装置のエリアにおいて新たな移動局からの上りデータ伝送を可能として、システム全体のデータ伝送効率を向上させることができるものである。
【0024】
また、本無線通信システムは、回線制御装置が、上りデータに対する応答としての下りデータの送信時に、記憶した基地局装置の使用回線以外にも、当該基地局装置のエリアに隣接するエリアの基地局装置の使用回線に下りデータを送信するものであり、基地局装置のエリアがオーバーラップする領域で、上りデータと下りデータが干渉して不感地帯となる障害を防ぎ、記憶した基地局装置のエリア内はすべて下りデータを正常に受信できるようにして、通信サービスの信頼性を確保することができるものである。
【0025】
[本無線通信システムの構成:
図1]
本無線通信システムの構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本無線通信システムの構成例を示す説明図である。
図1に示すように、本無線通信システムは、例えば業務用無線システムとして用いられ、指令台1-1~1-n(個々の指令台を区別しない場合には、指令台1と言うこともある)と、回線制御装置2と、複数の基地局装置3-1~3-n(単に基地局装置3と言うこともある)と、データサーバ6とを備え、複数の移動局装置4-1~4-n(単に移動局装置4と言うこともある)が、基地局装置3の通信エリア内で指令台1、データサーバ6、他の移動局装置4との通信を行う。
【0026】
回線制御装置2と、各基地局装置3には、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)衛星7からのGPS信号を受信するGPSアンテナが設けられており、回線制御装置2と各基地局装置3、及び基地局装置3同士は時刻同期している。
【0027】
また、各移動局装置4は、位置情報収集装置5-1~5-n(単に位置情報収集装置5と言うこともある)に有線で接続されている。
位置情報収集装置5は、GPS衛星5からのGPS信号を受信して、位置情報を取得し、定期的又は予め設定されたイベント(内部の状態が変わった等)のタイミングで、移動局装置4に位置情報を出力する。位置情報収集装置5を移動局装置4の内部に設けてもよい。
【0028】
本無線通信システムの各部について説明する。
指令台1は、回線制御装置2に接続されており、本無線システムを制御する装置である。指令台1は、複数のシステムを統合的に監視制御することもある。また、指令台1は、移動局装置4と通話を行って業務に関する指示や管理を行う。
【0029】
回線制御装置2は、指令台1及び複数の基地局装置3と有線回線で接続し、本無線通信システムにおける回線制御及び呼制御を行うものである。
また、GPS衛星7からのGPSデータを捕捉することで、本システムにおける無線送信のタイミング調整を行う。
【0030】
更に、本無線通信システムの回線制御装置2は、後述するように、基地局装置3からの上りデータを受信すると、当該基地局装置3を記憶しておき、その応答である下りデータの送信時には、記憶された基地局装置3の使用回線のみに送信する制御を行うものである。
回線制御装置3の動作については後述する。
基地局装置3は、回線制御装置2と有線接続し、移動局装置4と無線接続している。また、上述したように、GPSデータを受信して、無線送信のタイミング調整を行う。
【0031】
移動局装置4は、車載型や携帯型の無線通信端末であり、移動可能な状態での運用や、固定的に設置した状態での運用が可能である。
そして、移動局装置4は、基地局装置3のサービスエリア(通信エリア)内において当該基地局装置3と無線通信を行う。
また、移動局装置4は、位置情報収集装置5から受信した位置情報を基地局装置3や回線制御装置3を経由してデータサーバ6に送信する。
【0032】
GPS衛星7は、複数の測位衛星から時刻情報付きの信号を送信し、地上での現在の位置等を計測可能とする一般的なGNSS(Global Navigation Satellite System: 全球測位衛星システム)による衛星である。
【0033】
[回線制御装置2の構成:
図2]
次に、本無線通信システムの回線制御装置2の構成について
図2を用いて説明する。
図2は、回線制御装置2の構成を示す説明図である。
図2に示すように回線制御装置2は、フレーム生成部21と、制御部22と、基地局インタフェース部23と、GPSアンテナ24とを備えている。
そして、回線制御装置2は、複数の基地局装置3(ここでは1台のみを示す)と、データサーバ6に接続している。更に、回線制御装置2は、上位の指令台1に接続しているが、ここでは図示は省略する。
【0034】
フレーム生成部21は、GPSモジュール211と、PLL(Phase Locked Loop:位相同期回路)部212と、スーパーフレームカウンタ213とを備え、無線フレームを生成する。
無線フレーム及びスーパーフレームの生成については後述する。
【0035】
制御部22は、CPU221を備え、回線制御装置2全体の制御を行う。
特に本無線通信システムに関する動作としては、基地局装置3から、移動局4の位置情報等の上り送信の電文が入力されると、制御部22は、当該基地局装置3の使用回線を記憶しておく。上り送信を行う基地局装置3は、エリア内に移動局装置4が存在している。一方、上り送信のなかった基地局装置3のエリア内には、その時点では移動局装置4が存在していない。
そして、当該上り送信に対する応答としての下り送信を行う際には、記憶されている基地局装置3の使用回線に下り送信の電文を出力する。
【0036】
これにより、本無線通信システムでは、応答の宛先となる移動局装置4が在圏している基地局装置3にのみ、下り送信を行わせるものであり、移動局装置4が在圏せず、応答が不要な基地局装置3は下り送信を行わないため、そのような基地局装置3では上り送信が可能となるものである。
下り送信を行っていない基地局装置3のエリアに新たに移動局装置4が入ってきた場合には、すぐに上り送信で位置情報を報知することができ、データ伝送の効率を向上させることができるものである。
【0037】
また、本無線通信システムの回線制御装置2の制御部22は、システム内の基地局装置3の配置を記憶しており、個々の基地局装置3に対応して、当該基地局装置3に隣接し、通信エリアが一部重なっている他の基地局装置3の情報も記憶している。
隣接する基地局装置3の情報は、後述するように、上り伝送の応答としての下り送信を行う際に用いられる。
【0038】
また、回線制御装置2の制御部22は、従来と同様に、指令台1等から下り送信の電文が入力された際に、複数の基地局装置3に対して下り送信開始のタイミングを指示する情報を付与して、下り送信開始指示を送信する。下り送信開始指示については後述する。
【0039】
基地局インタフェース部23は、基地局装置3に接続するインタフェースである。
GPSアンテナ24は、複数のGPS衛星からの信号を受信して、GPS受信信号をGPSモジュール211に出力する。
GPSモジュール211は、GPSアンテナ24で受信された信号に基づいて、10MHzクロック信号と1PPS(Pulse Per Second)信号を出力する。1PPS信号は、秒を刻むタイミングを示す1秒周期の矩形波信号である。
【0040】
[回線制御装置2におけるフレーム生成:
図3]
次に、回線制御装置2のフレーム生成部21におけるフレーム生成について
図3を用いて説明する。
図3は、回線制御装置2におけるフレーム生成を示す説明図である。
図3に示すように、フレーム生成部21のGPSモジュール211からは、10MHzクロック信号と1PPS信号が出力される。
PLL部212は、10MHzクロック信号に基づいて、40ms毎のフレームタイミングを示す40ms信号を出力する。
【0041】
スーパーフレームカウンタ213は、PLL部212から出力される40ms信号とGPSモジュール211から出力される1PPS信号とに基づいて、フレームタイミング(40ms周期)毎に、フレーム長40msの無線フレームを識別するフレーム番号を採番して制御部22のCPU221へ通知する。
ここでは、無線フレーム18個分(40ms×18)で1スーパーフレーム(720ms)としている。
【0042】
その際に、スーパーフレームカウンタ213は、各無線フレームに、スーパーフレーム内の位置(順序)を示す“1”~“18”のフレーム番号を付与していく。フレーム番号の付与は、40ms信号の周期でインクリメント(+1)されるフレームカウンタを用いて行われる。このフレームカウンタは、3分周期(180秒周期:250スーパーフレーム)にて1PPS信号と同期調整を実施している(図では「1PPS信号に基づいて1スーパーフレームを生成」と記載)。
スーパーフレームカウンタ213で生成されたフレーム番号は、40ms周期のフレームタイミング毎に、制御部22のCPU221へ通知される。
【0043】
[下り送信開始タイミングの設定:
図4]
次に、回線制御装置2の制御部22による、複数の基地局装置3に対する下り送信開始タイミングの設定について
図4を用いて説明する。
図4は、本無線通信システムにおける下り送信開始タイミングの設定を示す説明図である。
尚、
図4では、GPS受信信号から生成されるタイミング信号とフレーム生成の関係も示している。
【0044】
図4(a)に示すように、回線制御装置2のGPSモジュール211では、GPS受信信号から1PPS信号を取得して出力する。
図4(b)は、1PPS信号の1周期分(1秒間)を拡大して示している。
図4(c)に示すように、40msの無線フレーム18個にて1スーパーフレームを形成しており、1PPS信号の1周期の中には、次のスーパーフレームの1~7番目の無線フレームも含まれている。
【0045】
そして、回線制御装置2の制御部22は、例えば指令台1から下り送信の指示を受けると、複数の基地局装置3に対して下り送信開始のタイミングを指定する下り送信開始指示(下り送信開始電文)を送信する。
その際、制御部22は、当該下り送信開始指示を送信するタイミングに対して、少なくとも回線制御装置2と基地局装置3との間の最大の伝送時間を加算したタイミングを指定する。ここで、下り送信開始指示を送信するフレーム番号を、送信タイミング規定フレーム番号と称する。
【0046】
具体的には、制御部22は、送信タイミング規定フレーム番号に、最大の伝送時間に相当するフレーム数分の間隔を置いたフレーム番号を、複数の基地局装置3が一斉に下り送信を開始する送信タイミングフレーム番号として、下り送信開始指示に設定して送信するものである。
【0047】
図4(d)(e)の例では、回線制御装置2と複数の基地局装置3との間の最大の伝送時間は最大でも1フレーム時間(40ms)としており、回線制御装置2の制御部22が、フレーム番号1で下り送信開始指示を送信する場合(送信タイミング規定フレーム番号が「1」の場合)、当該下り送信開始指示に設定する送信タイミングフレーム番号を「3」とする。
これにより、複数の基地局装置3は、当該下り送信開始指示を受信すると、フレーム番号「3」で一斉に下り送信を開始することになる。
これにより、回線制御装置2からの距離の違いにかかわらず、複数の基地局装置3の送信タイミングが一致するものである。
【0048】
ここで、本無線通信システムでは、下り送信の対象を、エリア内に移動局装置4が在圏している基地局装置3に限定しているため、下り送信開始指示も当該下り送信の対象となる基地局装置3のみに送信するものである。
【0049】
[下り送信タイミングの制御:
図5]
次に、下り送信タイミングの制御について
図5を用いて説明する。
図5は、下り送信タイミングの制御を示すシーケンス図である。
図5に示すように、指令台1やデータサーバ6から送信開始の指示が送信されると(S11)、回線制御装置2はこれを受信して、指令台1やデータサーバ6からのデータに送信フレームタイミング番号を付与して、下り送信開始指示の電文を生成する(S12)。
上述したように、送信フレームタイミング番号は、各基地局装置3が下り送信を開始するタイミングを指定する番号である。
【0050】
そして、回線制御装置2は、下り送信を行う複数の基地局装置3に対して、生成した下り送信開始指示を送信する。ここで、データサーバ6からの送信開始指示は、上りデータ伝送に対する応答であるため、下り送信開始指示を送信する対象は、記憶された基地局装置3となる。
下り送信開始指示を受信した基地局装置3は、自装置内でカウントしているフレーム番号が、受信した下り送信開始指示に含まれる送信フレームタイミング番号と一致すると下り送信を開始する。
【0051】
[上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(1):
図6]
次に、本無線通信システムにおける下りデータ伝送(1)について
図6を用いて説明する。
図6は、上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(1)(以下、下りデータ伝送(1))を示すシーケンス図である。
図6では、データサーバ6と、回線制御装置2と、基地局装置3-n-1,3-n,3-n+1の動作を示している。
【0052】
ここでは、基地局装置3が線状に配列されており、基地局装置3-nは、基地局装置3-n-1及び基地局装置3-n+1に隣接し、エリアが一部重なっているものとする。
基地局装置3の配列は、面状であってもよく、その場合には隣接する基地局装置3の数はより多くなる。
【0053】
図6に示すように、基地局装置3-nから上りデータ伝送が行われる(S21)と、回線制御装置2は、当該基地局装置3-nの使用回線(基地局使用回線)を記憶する(S22)。上りデータ伝送は、例えば、移動局装置4からの定期的な位置情報通知である。
そして、回線制御装置2は、受信した上りデータをデータサーバ6に送信する(S23)。
【0054】
データサーバ6は、上りデータを受信すると、その整合性を確認し、当該上りデータに対する応答となる下りデータ伝送(応答)を送信する(S24)。
回線制御装置2は、下りデータ伝送(応答)を受信すると、記憶している基地局使用回線を読み出して、当該下りデータ伝送(応答)の送信先に設定して、下りデータ伝送(応答)の送信先となる基地局装置3-nのみに下りデータ伝送(応答)を伝送する(S26)。
【0055】
基地局使用回線が複数記憶されている場合には、それぞれの使用回線に対応する基地局装置3に対しても下りデータ伝送(応答)を伝送する。
その際、上述したように、回線制御装置2は、基地局装置3における下り送信開始タイミングを下りデータ伝送(応答)に含めて送信する。
このようにして下りデータ伝送(1)が行われる。
【0056】
これにより、エリア内に移動局装置4が存在していて、上りデータ伝送が行われた基地局装置3のみに、応答となる下りデータを伝送することができ、当該基地局装置3では下りデータ伝送を行うが、それ以外の基地局装置3では、下りデータ伝送を行わないため、新たにエリア内に入ってきた移動局装置4があれば、直ちに位置情報の通知を行うことができ、システム全体のデータ伝送の効率を向上させることができるものである。
尚、回線制御装置2は、次の上りデータ伝送開始時には、記憶している基地局使用回線をリセットし、移動局装置4からの上りデータ伝送を受信すると上書きして更新する。
【0057】
[不感地帯の発生:
図7]
基地局装置3同士が十分離れて配置されている場合には、
図6のシーケンスにより効率よくデータ伝送を行うことが可能である。しかし、基地局装置3が連続して配置されていて、互いに通信エリアが一部重なっている場合には、不感地帯が生じてしまう。
不感地帯の発生について
図7を用いて説明する。
図7は、不感地帯の発生を示す説明図である。
図7に示すように、基地局使用回線として記憶されていた基地局装置3-nのみに下りデータ(応答)を送信した場合、当該基地局装置3-nが下りデータ伝送を開始しても、それに隣接する基地局装置3-n-1及び基地局装置3-n+1は、下りデータ伝送を行わず、上りデータ伝送可能な状態である。
【0058】
そのため、基地局装置3-n-1と基地局装置3-nのエリアが重なるオーバーリーチエリア71、基地局装置3-nと基地局装置3-n+1のエリアが重なるオーバーリーチエリア72では、双方の基地局からの下りデータが輻輳して、不感地帯となってしまう場合がある。
【0059】
[隣接基地局]
そこで、本無線通信システムでは、別の下りデータ伝送方法(上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(2)、以下、下りデータ伝送(2))として、基地局使用回線として記憶している基地局装置3だけでなく、それに隣接する基地局装置3(隣接基地局)についても下りデータ(応答)を伝送する。
隣接基地局は、各基地局装置3に対応して回線制御装置2に記憶されており、当該基地局装置3と通信エリアが一部重なっている基地局装置3である。
【0060】
下りデータ伝送時に、いくつの隣接基地局に対して同じ下りデータを伝送するか(隣接基地局数)は、システムが設置される環境等に応じて予め設定されている。
図6,7に示した下りデータ伝送(1)は、基地局使用回線に対応した基地局装置3のみに下りデータを伝送しており、隣接基地局数を「0」とした場合である。
【0061】
一方、下りデータ伝送(2)では、回線制御装置2は、下りデータ(応答)を伝送する際に、基地局使用回線として記憶されている基地局装置3に加えて、当該基地局装置3に対応して記憶された隣接基地局に対しても同一の下りデータを伝送する。
【0062】
[上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(2):
図8]
ここで、隣接基地局数を「2」とした場合の、上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(2)について
図8を用いて説明する。
図8は、上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(2)を示すシーケンス図である。
図8において、処理S31~S34は、
図6に示した処理S21~S24と同じであるため、説明は省略する。
【0063】
処理S34でデータサーバ6から下りデータ伝送(応答)を受信すると、回線制御装置2は、記憶されている基地局使用回線を読み出して当該下りデータ伝送(応答)の送出先に設定すると共に、当該基地局装置3に対応して記憶されている隣接基地局を読み出して、隣接基地局の使用回線も送出先として設定する(S35)。
【0064】
そして、回線制御装置2は、基地局装置3-nに下りデータ伝送(応答)を送出し(S36)、隣接する基地局装置3-n-1及び基地局装置3-n+1に同一の下りデータ伝送(応答)を送出する(S37,S38)。
このようにして、上りデータ伝送に対する下りデータ伝送(2)が行われる。
【0065】
[隣接基地局数を2とした場合の運用状態:
図9]
隣接基地局数を2とした場合の運用状態について
図9を用いて説明する。
図9は、隣接基地局数を2とした場合の運用状態を示す説明図である。
図9では、
図7と同様に、基地局装置3-n-1,基地局装置3-n,基地局装置3-n+1が線状に配列されている。
【0066】
そして、
図8のシーケンスに示したように、基地局装置3-nに加えて、基地局装置3-n-1と基地局装置3-n+1にも同一の下りデータ伝送(応答)を送信すると、3つの基地局がいずれも同じタイミングで下り伝送を行うことになる。
【0067】
これにより、オーバーリーチエリア71及びオーバーリーチエリア72では、データの輻輳は発生せず、正常に下り伝送が行われる。つまり、上りデータ伝送を行った移動局装置4が在圏している基地局装置3-nのエリア内では、どこでも正常に下り伝送が行われ、不感地帯は発生しない。
【0068】
このように、基地局装置3が線状に配置されている場合、隣接基地局数を「2」とすることで、両隣の基地局装置3にも下りデータを伝送することができ、不感地帯の発生を防いでサービスの信頼性を保持することができるものである。
尚、基地局装置3-n-1のエリアの左端部分と基地局装置3-n+1のエリアの右端部分には、隣接する基地局装置3とのオーバーリーチエリア73,74が形成され、これらは不感地帯となるが、基地局装置3-n-1及び基地局装置3-n+1のエリアには、移動局装置4は在圏していなかったため、影響は限定的なものとなる。
【0069】
基地局装置3の配列は、直列に限らず並列でもよいし、ハチの巣型、ランダム型等の面状であってもよい。
回線制御装置2の制御部22は、基地局装置3の配列に応じて、各基地局装置3に隣接する基地局装置3の数を記憶しておくものである。
【0070】
[実施の形態の効果]
本無線通信システムによれば、同一周波数を用いて下り送信を行う複数の基地局装置3と、基地局装置3の制御を行う回線制御装置2とを有する無線通信システムであって、回線制御装置2が、基地局装置2からの上りデータを受信すると、当該基地局装置3の使用回線を記憶し、当該記憶した基地局装置3の使用回線に、当該上りデータに対する応答としての下りデータを送信するものであり、応答が不要な基地局装置3には下りデータの送信を行わず、新たな移動局装置4からの上りデータ伝送を可能として、システム全体のデータ伝送効率を向上させることができる効果がある。
【0071】
また、本無線通信システムによれば、回線制御装置2が、上りデータに対する応答としての下りデータの送信時に、記憶した基地局装置3の使用回線以外にも、当該基地局装置3のエリアに隣接するエリアの基地局装置3の使用回線に下りデータを送信するものであり、基地局装置3のエリアがオーバーラップする領域で、双方の基地局からの下りデータが干渉して不感地帯となる障害を防ぎ、記憶した基地局装置3のエリア内はすべて下りデータを正常に受信できるようにして、通信サービスの信頼性を確保することができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、システム内のデータ伝送効率を向上させることができる無線通信システムに適している。
【符号の説明】
【0073】
1…指令台、 2…回線制御装置、 3…基地局装置、 4…移動局装置、 5…位置情報収集装置、 6…データサーバ、 7…GPS衛星、 21…フレーム生成部、 22…制御部、 23…基地局インタフェース部、 24…GPSアンテナ、 71,72,73,74…オーバーリーチエリア、 211…GPSモジュール、 212…PLL部、 213…スーパーフレームカウンタ、 221…CPU