(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040009
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】音声障害用治療装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144809
(22)【出願日】2022-09-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名 ▲1▼The Voice Foundation’s 51st Annual Symposium:Care of the Professional Voiceのプログラム(抜粋) 発表日 令和4年6月4日 該当頁 第24頁 〔刊行物等〕 集会名 ▲2▼The Voice Foundation’s 51st Annual Symposium:Care of the Professional Voiceにおける発表内容の要約 発表日 令和4年6月4日 〔刊行物等〕 刊行物名 ▲3▼The Voice Foundation’s 51st Annual Symposium:Care of the Professional Voiceにおける発表資料 発表日 令和4年6月4日
(71)【出願人】
【識別番号】502275757
【氏名又は名称】株式会社フードケア
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】金子 真美
(72)【発明者】
【氏名】杉山 庸一郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 滋
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ21
4C053JJ40
(57)【要約】
【課題】患者にかかる負担を小さくすることが可能な音声障害用治療装置を提供する。
【解決手段】この音声障害用治療装置100は、干渉波により、頸部の声帯近傍を刺激することにより音声障害を治療する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉波により、頸部の声帯近傍を刺激することにより音声障害を治療する、音声障害用治療装置。
【請求項2】
干渉波により、前記頸部の声帯および声門下を刺激することにより前記音声障害を治療する、請求項1に記載の音声障害用治療装置。
【請求項3】
干渉波による電気刺激を発生させる電流を流すための第1の電極対および第2の電極対と、
前記第1の電極対および前記第2の電極対に電流を流す制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1の電極対および前記第2の電極対を前記頸部の声帯近傍に配置した状態において、前記第1の電極対および前記第2の電極対に電流を流すことにより音声障害を改善するための干渉波を発生させて前記頸部の声帯近傍を刺激する制御を行うように構成されている、請求項1に記載の音声障害用治療装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の電極対に1000Hz以上8000Hz以下の周波数の電流を流すとともに、前記第1の電極対に流した周波数と異なる1000Hz以上8000Hz以下の周波数の電流を前記第2の電極対に流すことによって干渉波を発生させる制御を行うように構成されている、請求項3に記載の音声障害用治療装置。
【請求項5】
前記第1の電極対に流す電流の周波数と前記第2の電極対に流す電流の周波数との干渉により生ずるうねり電流の周波数は、10Hz以上100Hz以下である、請求項4に記載の音声障害用治療装置。
【請求項6】
前記制御部は、5mA以下の低電流値の電流を流す制御を行うように構成されている、請求項3または4に記載の音声障害用治療装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1の電極対および前記第2の電極対に10分間以上30分間以下の時間継続して電流を流す制御を行うように構成されている、請求項3に記載の音声障害用治療装置。
【請求項8】
前記音声障害は、失声症と筋緊張性発声障害とを含む機能性発声障害である、請求項1に記載の音声障害用治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声障害用治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音声障害用治療装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に開示されている音声障害用治療装置は、痙攣性発声障害などを治療するための装置であり、前面片と後面片とを備えている。上記特許文献1の音声障害用治療装置は、患者の甲状軟骨を切開した後に、治療のために切開した甲状軟骨に装着される。具体的には、前面片が切開された甲状軟骨の切断端面から前面にかけて配置されるとともに、後面片が甲状軟骨の後面に配置されることにより、切断された甲状軟骨の切断端面の間に音声障害用治療装置が位置し、甲状軟骨が開かれた状態で維持される。これにより、発声に適した甲状軟骨の形状を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている音声障害用治療装置では、甲状軟骨を切開する手術を行うことが前提であるため、患者にかかる負担が大きくなるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、患者にかかる負担を小さくすることが可能な音声障害用治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、鋭意検討した結果、干渉波により頸部を刺激することにより、音声障害を治療することができることを見出して、本願発明を完成させた。すなわち、本発明の音声障害用治療装置は、干渉波により、頸部の声帯近傍を刺激することにより音声障害を治療する。
【0008】
この発明の一の局面による音声障害用治療装置は、上記のように、干渉波により、頸部の声帯近傍を刺激することにより音声障害を治療する。これにより、干渉波は深部の皮下組織まで届くため、経皮的に干渉波を発生させることにより声帯近傍に刺激を与えて治療することができる。これにより、手術を行う必要がなく、非侵襲的に音声障害の治療を行うことができるため、患者にかかる負担を小さくすることができる。なお、声帯近傍を刺激するとは、声帯を刺激する場合のみならず、声帯の周辺の部位を刺激する場合も含む。
【0009】
上記一の局面による音声障害用治療装置において、好ましくは、干渉波により、頸部の声帯および声門下を刺激することにより音声障害を治療する。このように構成すれば、発声時に使用される声帯および声門下が刺激されることにより、声帯の内転運動が促進されて声帯が強く締まる等の効果が発揮されるため、音声を適切に出すことができるようになる。上記音声障害用治療装置により、音声障害を治療することができることを本願発明者は後述する試験(実施例)により見出している。
【0010】
上記一の局面による音声障害用治療装置において、好ましくは、干渉波による電気刺激を発生させる電流を流すための第1の電極対および第2の電極対と、第1の電極対および第2の電極対に電流を流す制御を行う制御部と、を備え、制御部は、第1の電極対および第2の電極対を頸部の声帯近傍に配置した状態において、第1の電極対および第2の電極対に電流を流すことにより音声障害を改善するための干渉波を発生させて頸部の声帯近傍を刺激する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、第1の電極対および第2の電極対を頸部の声帯近傍に配置することにより、非侵襲的に発声時に使用される声帯および声門下が刺激されて、音声障害が改善される。また、到達する範囲が広い干渉波を用いることにより、非侵襲で経皮的に第1の電極対と第2の電極対とを配置して声帯近傍を刺激して治療することができるため、手術を行う場合と比べて患者に与える負担を効果的に小さくすることができる。
【0011】
この場合、好ましくは、制御部は、第1の電極対に1000Hz以上8000Hz以下の周波数の電流を流すとともに、第1の電極対に流した周波数と異なる1000Hz以上8000Hz以下の周波数の電流を第2の電極対に流すことによって干渉波を発生させる制御を行うように構成されている。このように構成すれば、1000Hz以上8000Hz以下の中周波数領域の周波数を用いることにより、皮膚抵抗値を小さくすることができるため、患者が感じる痛みを小さくすることができる。また、8000Hz以下の周波数を用いることにより、患者の筋肉が過度に刺激されて収縮した状態が維持されることを抑制することができる。これによっても、患者の負担を軽減することができる。この周波数範囲で治療効果がある点も、後述する試験(実施例)により確認済みである。
【0012】
上記第1の電極対および第2の電極対を備える音声障害用治療装置において、好ましくは、第1の電極対に流す電流の周波数と第2の電極対に流す電流の周波数との干渉により生ずるうねり電流の周波数は、10Hz以上100Hz以下である。このように構成すれば、10Hz以上の周波数により治療対象部位が十分に刺激されるため、刺激が受容器に受容されて発声の反応を効果的に引き起こすことができる。また、100Hz以下にすることにより、治療対象部位が過度に刺激されて、患者に負担がかかることを抑制することができる。
【0013】
上記制御部を備える音声障害用治療装置において、好ましくは、制御部は、5mA以下の低電流値の電流を流す制御を行うように構成されている。このように構成すれば、筋肉を刺激するために使用される10mA以上20mA以下の電流よりも低い電流値であるため、電気刺激により患者に与える刺激を小さくすることができる。
【0014】
上記制御部を備える音声障害用治療装置において、好ましくは、制御部は、第1の電極対および第2の電極対に10分間以上30分間以下の時間継続して電流を流す制御を行うように構成されている。このように構成すれば、10分間以上継続して電流を流すことにより、音声障害を治療するために必要な干渉波電流刺激を患者に与えることができる。また、電流を流す時間を30分間以下にすることにより、電流を長時間与えられることによる患者の精神的な負担を小さくすることができる。
【0015】
上記制御部を備える音声障害用治療装置において、好ましくは、音声障害は、失声症と筋緊張性発声障害とを含む機能性発声障害である。ここで、本願発明者は、機能性発声障害を改善することができることを後述する試験(実施例)により見出している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、患者にかかる負担を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態による音声障害用治療装置の使用例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態による音声障害用治療装置の装置構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による音声障害用治療装置により発生する干渉波を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による音声障害用治療装置による治療を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(音声障害用治療装置の構成)
まず、
図1~
図4を参照して、本発明の一実施形態による音声障害用治療装置100を説明する。
【0020】
図1に示すように、音声障害用治療装置100は、干渉波により頸部の声帯11近傍を刺激することによって、音声障害を治療するための装置である。
【0021】
図2に示すように、音声障害用治療装置100は、第1の電極対1と、第2の電極対2と、制御部3と、出力部4と、電流検知部5と、記憶部6と、操作部7と、表示部8と、電源部9とを備えている。音声障害用治療装置100は、失声症と過緊張性発声障害とを含む機能性発声障害、または筋緊張性発声障を有する患者に対して使用される。
【0022】
図1に示すように、第1の電極対1および第2の電極対2は、患者の頸部の声帯11近傍に配置される。具体的には、第1の電極対1および第2の電極対2は、頸部の声帯11および声門下12の近傍に配置される。なお、声帯11および声門下12の近傍に配置とは、声帯11および声門下12に配置することと、声帯11および声門下12の付近に配置することとを含む。第1の電極対1の間は、破線で示すように電流が流れる。また、第2の電極対2の間は一点鎖線で示すように電流が流れる。第1の電極対1および第2の電極対2は、第1の電極対1の間に流れる電流と第2の電極対2の間に流れる電流とが、交差するように配置される。また、第1の電極対1および第2の電極対2は、第1の電極対1の間に流れる電流と第2の電極対2の間に流れる電流とが交差する位置に、声帯11および声門下12が位置するように配置される。第1の電極対1および第2の電極対2の形状は、特に限定されないが、たとえば、円形である。また、第1の電極対1および第2の電極対2の素材は特に限定されないが、患者に配置しやすく、かつ配置した状態において患者に違和感を与えない素材で形成される。電極は、たとえば、ゲルパッドからなるゲルパッド電極である。
【0023】
図2に示すように、制御部3は、第1の電極対1および第2の電極対2に電流を流す制御を行う。制御部3は、第1の電極対1および第2の電極対2を頸部の声帯近傍に配置した状態において、第1の電極対1および第2の電極対2に電流を流すことにより音声障害を改善するための干渉波(干渉波電流)を発生させて頸部の声帯11近傍を非侵襲で経皮的に刺激する制御を行う。
【0024】
制御部3は、第1の電極対1に1000Hz以上8000Hzの周波数(中周波数)の交流電流を流すとともに、第1の電極対1に流した周波数と異なる1000Hz以上8000Hzの周波数(中周波数)の交流電流を第2の電極対2に流すことによって干渉波を発生させる制御を行う。第1の電極対1および第2の電極対2に流す交流電流の周波数(キャリア周波数)は、好ましくは、2000Hz以上4000Hz以下である。中周波数の電流波形としては、干渉波を発生させるために、たとえば、正弦波、矩形波(方形波)が用いられる。このうち、出力発生回路に必要な部品が少なく、出力発生回路が複雑でないため設計が容易であり、周波数の設定、変更および調整をソフトウェアにより容易に達成できることが多いため、矩形波(方形波)出力が好ましい。
【0025】
第1の電極対1を流れる交流電流と第2の電極対2を流れる交流電流とが交差(干渉)する箇所において、第1の電極対1の交流電流と第2の電極対2の交流電流との位相のずれにより、第1の電極対1の交流電流と第2の電極対2の交流電流とが重ね合わされた場合に、干渉によるうねり電流(干渉波電流)が発生する。干渉によるうねり電流は、深部の対象部位(声帯11近傍)を刺激することができる。干渉により生ずるうねり電流の周波数(ビート周波数)は、第1の電極対1に流す交流電流の周波数と第2の電極対2に流す交流電流の周波数との差に等しい。好ましくは、干渉により生ずるうねり電流の周波数は、10Hz以上100Hz以下である。
【0026】
本実施形態では、第1の電極対1に2000Hzの交流電流を流すとともに、第2の電極対2に2050Hzの交流電流を流す。これにより、第1の電極対1を流れる交流電流と第2の電極対2を流れる交流電流とが交差(干渉)する箇所において、周波数の差に相当する50Hzのうねり電流の周波数が発生し、頸部(の声帯11近傍)を刺激する。
【0027】
図3に示すように、第1の電極対1を流れる電流の強さを1とし、第2の電極対2を流れる電流の強さを1とした場合、干渉波電流は強さが最大で2の電流波形となる。
【0028】
図2に示すように、制御部3は、CPU(Central Processing Unit)を含む。制御部3は、5mA以下の低電流値の電流を流す制御を行う。低電流値とは、筋肉を刺激するために使用される電流、たとえば、8mA以上20mA以下の電流と比べて電流値が低い電流のことである。電流値は、患者の個体差に合わせて調整される。電流値は、好ましくは、3mA以下である。
【0029】
制御部3は、第1の電極対1および第2の電極対2に1回あたりに10分間以上30分間以下の時間継続して電流を流す制御を行う。電流を流す時間および回数は、患者の個体差に合わせて調整される。
【0030】
制御部3は、出力部4から出力される電流の出力電圧を一定にする制御を行う。制御部3は、電流検知部5により検知された電流値と設定された電流値とに基づいて、フィードバック制御により出力部4から第1の電極対1および第2の電極対2に出力する電流が設定された電流値を超えないように調整する。
【0031】
制御部3は、出力部4を制御して、第1の電極対1および第2の電極対2に対して電流を出力する。
【0032】
制御部3は、操作部7を介して医師等のユーザにより設定された出力条件を記憶部6に記憶させる制御を行う。また、制御部3は、記憶部6に記憶された出力条件に基づいて、出力部4から第1の電極対1および第2の電極対2に出力する電流を調整する。
【0033】
出力部4は、電源部9から供給された電気を第1の電極対1および第2の電極対2に出力する。出力部4は、入力された電流値および周波数を所定の電流値および周波数に変換して、出力するように構成されている。
【0034】
電流検知部5は、出力部4から出力された電流値を検知する。電流検知部5は、たとえば、電流検知センサである。
【0035】
記憶部6は、医師等のユーザにより操作部7を介して入力された出力条件を記憶する。記憶部6は、たとえば、RAM(Random Access Memory)である。
【0036】
操作部7は、音声障害用治療装置100に対する操作入力を受け付ける。操作部7は、たとえば、操作ボタンを含んでいてもよく、タッチパネルを含んでいてもよい。医師等のユーザにより操作部7を介して、出力部4から第1の電極対1および第2の電極対2に出力する電流値および出力する時間を含む出力条件が設定される。たとえば、電流値および出力時間が入力されてもよく、操作ボタンを操作することにより増減させて設定されてもよい。また、操作部7が操作されることにより、音声障害用治療装置100の電源がオン状態またはオフ状態にされてもよい。
【0037】
表示部8には、画像が表示される。表示される画像は、たとえば、干渉波の出力条件を設定するための画像、または干渉波電流刺激を出力する残り時間を示す画像である。また、表示部8は、電流検知部5で検知した電流値が表示されてもよい。表示部8は、音声障害用治療装置100の本体に設けられる。
【0038】
電源部9は、音声障害用治療装置100に電力を供給する。電源部9は、バッテリでもよく、AC電源でもよい。また、バッテリは、充電式のバッテリでもよい。
【0039】
(音声障害用治療装置を用いた音声障害の治療)
図1および
図4に基づいて、音声障害用治療装置100を用いた音声障害の治療について説明する。
図1および
図4に示すように、第1の電極対1および第2の電極対2は、第1の電極対1の間に流れる交流電流と第2の電極対2の間を流れる交流電流とが交差する位置に、声帯11および声門下12が位置するように配置される。
【0040】
制御部3は、医師等のユーザにより操作部7を介して出力する電流値、周波数および出力時間の入力を受け付ける。制御部3は、第1の電極対1および第2の電極対2の配置前または配置後に入力を受け付ける。
【0041】
制御部3は、医師等のユーザにより操作部7を介して入力(設定)された出力する電流値、周波数および出力時間に基づいて、出力部4から第1の電極対1および第2の電極対2に交流電流を出力する。そして、設定された出力時間経過後に、制御部3は、出力部4から第1の電極対1および第2の電極対2への交流電流の出力を停止する。また、音声障害用治療装置100は、1日に1回または複数回使用される。また、音声障害治療としては、継続して行われ、たとえば3か月間行われる。
【0042】
干渉波による刺激が行われることにより、喉頭感覚フィードバックが発生する。具体的には、
図4に示すように、実線で示す上喉頭神経13と、一点鎖線で示す反回神経14とを介して、延髄15にある孤束核16に刺激があったことが伝達される。孤束核16は、疑核17に信号を送信し、疑核17により声帯11が内転運動し、声帯11が強く閉じられる。また、孤束核16からの信号により発声時の呼吸が弱められる。これにより、音声障害が即時的に改善される。また、干渉波による刺激を繰り返すことにより、発声時の声帯11の運動と、発声時の呼吸とが記憶され、刺激がなくとも発声時に声帯11が強く閉じられるとともに、呼吸が弱められる。また、音声障害用治療装置100により干渉波電流刺激と合わせて、Semi-occluded vocal tract exercises (SOVTEs)が行われてもよい。SOVTEsは、声帯11よりも前方に狭窄を形成して行う音声訓練(音声治療)であり、たとえば、リップ(口唇)トリル、タング(舌)トリルおよびチューブ発声法が含まれる。
【0043】
<本実施形態の効果>
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0044】
本実施形態では、干渉波により、頸部の声帯近傍を刺激することにより音声障害を治療する。これにより、干渉波は深部の皮下組織まで届くため、経皮的に干渉波を発生させることにより声帯近傍に刺激を与えて治療することができる。これにより、手術を行う必要がなく、非侵襲的に音声障害の治療を行うことができるため、患者にかかる負担を小さくすることができる。
【0045】
本実施形態では、干渉波により、頸部の声帯11および声門下12を刺激することにより音声障害を治療する。これにより、発声時に使用される声帯11および声門下12が刺激されることにより、声帯11の内転運動が促進されて声帯11が強く締まる等の効果が発揮されるため、音声を適切に出すことができるようになる。上記音声障害用治療装置100により、音声障害を治療することができることを本願発明者は後述する試験(実施例)により見出している。
【0046】
本実施形態では、干渉波による電気刺激を発生させる電流を流すための第1の電極対1および第2の電極対2と、第1の電極対1および第2の電極対2に電流を流す制御を行う制御部3と、を備え、制御部3は、第1の電極対1および第2の電極対2を頸部の声帯11近傍に配置した状態において、第1の電極対1および第2の電極対2に電流を流すことにより音声障害を改善するための干渉波を発生させて頸部の声帯近傍を刺激する制御を行うように構成されている。これにより、第1の電極対1および第2の電極対2を頸部の声帯11近傍に配置することにより、非侵襲的に発声時に使用される声帯11および声門下12が刺激されて、音声障害が改善される。また、到達する範囲が広い干渉波を用いることにより、非侵襲的で経皮的に第1の電極対1と第2の電極対2とを配置して声帯11近傍を刺激して治療することができるため、手術を行う場合と比べて患者に与える負担を効果的に小さくすることができる。
【0047】
本実施形態では、制御部3は、第1の電極対1に1000Hz以上8000Hz以下の周波数の電流を流すとともに、第1の電極対1に流した周波数と異なる1000Hz以上8000Hz以下の周波数の電流を第2の電極対2に流すことによって干渉波を発生させる制御を行うように構成されている。これにより、1000Hz以上8000Hz以下の中周波数領域の周波数を用いることにより、皮膚抵抗値を小さくすることができるため、患者が感じる痛みを小さくすることができる。また、8000Hz以下の周波数を用いることにより、患者の筋肉が過度に刺激されて収縮した状態が維持されることを抑制することができる。これによっても、患者の負担を軽減することができる。この周波数範囲で治療効果がある点も、後述する試験(実施例)により確認済みである。
【0048】
本実施形態では、第1の電極対1に流す電流の周波数と第2の電極対2に流す電流の周波数との干渉により生ずるうねり電流の周波数は、10Hz以上100Hz以下である。これにより、10Hz以上の周波数により治療対象部位が十分に刺激されるため、刺激が受容器に受容されて発声の反応を効果的に引き起こすことができる。また、100Hz以下にすることにより、治療対象部位が過度に刺激されて、患者に負担がかかることを抑制することができる。
【0049】
本実施形態では、制御部3は、5mA以下の低電流値の電流を流す制御を行うように構成されている。これにより、筋肉を刺激するために使用される10mA以上20mA以下の電流よりも低い電流値であるため、電気刺激により患者に与える刺激を小さくすることができる。
【0050】
本実施形態では、制御部3は、第1の電極対1および第2の電極対2に10分間以上30分間以下の時間継続して電流を流す制御を行うように構成されている。これにより、10分間以上継続して電流を流すことにより、音声障害を治療するために必要な刺激を患者に与えることができる。また、電流を流す時間を30分間以下にすることにより、電流を長時間与えられることによる患者の精神的な負担を小さくすることができる。
【0051】
本実施形態では、音声障害は、失声症と筋緊張性発声障害とを含む機能性発声障害である。ここで、本願発明者は、機能性発声障害を改善することができることを本願発明者は後述する試験(実施例)により見出している。
【0052】
[実施例(試験)]
次に、音声障害用治療装置100を用いた治療の効果について説明する。
【0053】
実施例では、被験者A、被験者B、被験者C、被験者Dおよび被験者Eに対して、音声障害用治療装置100を用いて行った治療試験(実施例)を行った。治療条件を表1に示す。
【0054】
【0055】
表1に示すように、被験者A~Cは、機能性発声障害の患者である。また、被験者DおよびEは、失声症の患者である。第1の電極対1および第2の電極対2の配置は、
図1に示すとおりである。
【0056】
被験者AおよびCには2.2mAの交流電流により、干渉波電流刺激を与えた。また、被験者B、DおよびEには、最初3mAの交流電流で干渉波電流刺激を行ったあと、電流値を調整して2.5mAの交流電流を流した。電流刺激の時間は、1回につき30分間流した。また、電流刺激の回数は、1日2回または3回行った。電流刺激が行われた箇所は、頸部の声帯11および声門下12である。電流刺激は、3か月間連続して行った。
【0057】
【0058】
表2に示すように、被験者A~Eは、音声障害に改善が見られた。被験者Aは、干渉波電流刺激を行う前の声量は66dBであったが、干渉波電流刺激後の声量は75dBに改善した。被験者Bは、干渉波電流刺激を行う前の声量は74dBであったが、干渉波電流刺激後の声量は78dBに改善した。また、被験者Cは、干渉波電流刺激を行う前の声量は70dBであったが、干渉波電流刺激後の声量は75dBに改善した。また、被験者Dは、干渉波電流刺激前は、測定不能であったが、干渉波電流刺激後は、80dBに改善した。被験者Dは、干渉波電流刺激前は、測定不能であったが、干渉波電流刺激後は、77dBに改善した。健常者の声量が70dBであるため、いずれの被験者も健常者と同じくらいの声量に改善したことが分かった。また、いずれの被験者も刺激を与えた後すぐに音声障害の改善(即時的改善)が見られた。また、いずれの被験者も3か月の試験後は、刺激がなくとも発声ができるように改善された(長期的改善)。以上のことから、本発明の音声障害用治療装置100は、即時的な効果と、長期的な効果とを発揮することが分かった。なお、機能性発声障害の患者に対して治療効果がみられたことから、筋緊張性発声障害に対しても効果を発揮すると考えられる。
【0059】
[変形例]
上記した実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0060】
たとえば、本実施形態では、音声障害用治療装置は、第1の電極対に流す交流電流の周波数が、第2の電極対に流す交流電流の周波数よりも大きい例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1の電極対に流す交流電流の周波数と第2の電極対に流す交流電流の周波数とが異なっていればよく、第1の電極対に流す交流電流の周波数が、第2の電極対に流す交流電流の周波数よりも小さくてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、第1の電極対に流す交流電流の周波数と前記第2の電極対に流す交流電流の周波数との干渉により生ずるうねり電流の周波数は、10Hz以上100Hz以下である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、うねり電流の周波数を10Hzよりも小さくしてもよく、100Hzを超えてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、制御部は、第1の電極対および第2の電極対に10分間以上30分間以下の時間継続して電流を流す制御を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部は、第1の電極対および第2の電極対に10分未満の時間において継続して電流を流す制御を行ってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、制御部は、出力部から出力される電流の出力電圧を一定にする制御を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部は、出力部から出力される電流の電流値を一定にする制御を行ってもよく、制御部は、電流検知部により検知された電流値と設定された電流値との差に基づいて、フィードバック制御により、出力部から第1の電極対および第2の電極対に出力する電流が設定された電流値になるように調整する制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1:第1の電極対
2:第2の電極対
3:制御部
11:声帯
12:声門下
100:音声障害用治療装置