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  • 特開-微生物マイクロカプセルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004001
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】微生物マイクロカプセルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240109BHJP
   B01J 13/04 20060101ALI20240109BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240109BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C12N1/00 N
B01J13/04
A23L5/00 C
C12N1/16 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103409
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 悠
【テーマコード(参考)】
4B035
4B065
4G005
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE20
4B035LG50
4B035LP36
4B035LP59
4B035LT20
4B065AA01X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065BD27
4B065BD31
4B065BD50
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA47
4G005AA01
4G005AB14
4G005BB22
4G005DB25Y
4G005DC07X
4G005DC15X
4G005DC26X
4G005EA01
4G005EA02
4G005EA03
4G005EA05
(57)【要約】
【課題】高い含有率で疎水性成分を内包した微生物マイクロカプセルの製造方法の提供。
【解決手段】疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記混合を、微生物(B)の乾燥質量に対する疎水性成分(A)の質量比[(A)/(B)]が2超の条件で行う請求項1に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記疎水性成分(A)が、logP値が1.0以上である疎水性成分である請求項1又は2に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
前記疎水性成分(A)が、表面張力が33.6mN/m以下である疎水性成分である請求項1~3のいずれか1項に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
前記混合を20~80℃で行う請求項1~4のいずれか1項に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
前記微生物(B)が細胞壁を有する微生物である請求項1~5のいずれか1項に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
前記微生物(B)が酵母である請求項1~6のいずれか1項に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
前記微生物(B)が微細藻類である請求項1~6のいずれか1項に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項9】
前記微生物(B)が菌体内成分を溶出させる処理を施した微生物である請求項1~8のいずれか1項に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項10】
前記菌体内成分を溶出させる処理が酵素処理である請求項9に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【請求項11】
前記菌体内成分を溶出させる処理が酵素処理及び酸処理である請求項9に記載の微生物マイクロカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは、芯物質とそれを内包する膜剤から構成される、マイクロメータの大きさを持つ微小なカプセルである。有効成分の揮散抑制やデリバリー性向上などを目的に、高分子化合物を膜剤とするカプセルに香料や医薬品、農薬などを内包したマイクロカプセルが工業的に利用されている。
マイクロカプセルの代表的な製造方法としては、物理的手法としてスプレードライ法、物理化学的手法としてコアセルベーション法、化学的手法として界面重合法やin situ重合法などが知られている。
【0003】
一方で、微生物自体を膜剤として利用した微生物マイクロカプセルが提案されている。微生物マイクロカプセルは、カプセルとしての基本性能に加えて、生分解性、高環境耐性、水分散性、単分散性、害虫の食性といったバイオ素材ならではの機能を有する。
微生物マイクロカプセルには酵母の細胞壁が多く利用されており、例えば、酵素処理した酵母菌体を酸性水溶液で処理し、次いで酵母菌体内にオレイン酸等の疎水性液体を内包させるマイクロカプセルの製造方法(特許文献1)、テルペンエマルションと酵母細胞壁粒子又は酵母グルカン粒子の懸濁液を混合、インキュベートしてテルペン成分を封入した粒子を製造する方法(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-243378号公報
【特許文献2】特開2014-28838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術に記載の方法においては、微生物内にそれぞれの疎水性成分が取り込まれにくく、得られる微生物マイクロカプセルの疎水性成分含有率は低いという問題があった。
従って、本発明は、高い含有率で疎水性成分を内包した微生物マイクロカプセルの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、微生物に内包する疎水性成分の表面張力に着目して鋭意研究した結果、一定以下の表面張力を有する疎水性成分は微生物内に取り込まれ難いものの、内包処理において疎水性成分の表面張力と当該疎水性成分及び微生物の混合時間とが一定の関係を満たす場合に、従来にない高い含有率で疎水性成分を内包した微生物マイクロカプセルが得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内で行う微生物マイクロカプセルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、疎水性成分を多く内包する微生物マイクロカプセルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例、比較例における疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)と混合時間の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の微生物マイクロカプセルの製造方法は、疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内で行う製造方法である。混合工程において、疎水性成分(A)の表面張力と当該疎水性成分(A)及び微生物(B)の混合時間とが上記(i)を満たすことで、高い含有率で疎水性成分(A)を微生物(B)に内包させることができる。
以下、本明細書において、疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を混合工程ともいう。
【0011】
本発明における疎水性成分(A)は、混合時間延長による含有率向上効果が大きい点から、25℃における表面張力(x)が33.6mN/m以下であることが好ましく、32mN/m以下であることがより好ましく、30mN/m以下であることが更に好ましい。表面張力(x)の下限は特に限定されないが、含有率向上の点から、20mN/m以上であることが好ましく、25mN/m以上であることがより好ましい。
疎水性成分(A)は、混合時間延長による含有率向上効果が大きい点から、分子内に官能基としてカルボキシル基、水酸基等の極性基を有していることが好ましい。具体的な疎水性成分(A)としては、例えば、L-カルボン(33.6mN/m)、オレイン酸(31.1mN/m)、オレイルアルコール(29.7mN/m)、カリオフィレン(31.5mN/m)、リノレン酸(30.2mN/m)、リノール酸(29.8mN/m)、リシノール酸(29.1mN/m)、モノオレイン(28.3mN/m)、ファルネセン(31.5mN/m)、ドデカノール、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。なお、括弧内の数値は25℃における表面張力である。
【0012】
疎水性成分は、後述するカプセル化の際の温度で水と液-液相分離する成分であれば特に限定されないが、水と相分離し易く含有率向上の点から、logP値が1.0以上のものが好ましく、1.46以上のものがより好ましく、5.0以上のものが更に好ましく、また同様の点から、30以下のものが好ましく、20以下のものがより好ましく、10以下のものが更に好ましい。
前述したL-カルボンのlogP値は1.75、オレイン酸のlogP値は6.29、オレイルアルコールのlogP値は6.49、カリオフィレンのlogP値は4.48、リノレン酸のlogP値は5.65、リノール酸のlogP値は5.97、リシノール酸のlogP値は5.06、モノオレインのlogP値は5.08、ファルネセンのlogP値は4.68、ドデカノールのlogP値は4.31、エイコサペンタエン酸のlogP値は5.85、ドコサヘキサエン酸のlogP値は6.36である。
logP値は、1-オクタノール/水間の分配係数の常用対数をとった値で、有機化合物の疎水性を示す指標である。この値が正に大きい程疎水性が高いことを表す。疎水性成分のlogP値は、Chem Draw 18.2を用いて計算したものであり、計算方法にはMolecular NetworksのケモインフォマティクスプラットフォームMOSESに基づく計算モジュールが用いられている。MOSESは、Molecular Networks GmbH(ドイツ 、エルランゲン)が開発、保守、所有している。
また、疎水性成分(A)は、混合時間延長による含有率向上効果が大きい点から、オクタノール/水分配係数LogP値に対する25℃における表面張力(x)の比が4.5超であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、5.5以上であることが更に好ましい。
好ましい疎水性成分は上記した通りであるが、より具体的には、医薬品や医薬部外品、化粧品、食品、農薬などに使用される成分が挙げられる。また、上記成分を溶媒とし、当該溶媒に溶解する成分を含有させることもできる。なかでも、微生物マイクロカプセルの害虫の食性を活用する観点から、衛生害虫用、農業害虫用の殺虫成分が好ましい。更に、疎水性成分としては、内包成分を徐放する性質を活用する観点から香料が好ましく、液状成分を内包しても粉末化可能なことを活用する観点から食用油が好ましい。
【0013】
疎水性成分(A)は、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。疎水性成分(A)が2種以上の混合物である場合、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)は当該2種以上の混合物としての表面張力を意味する。従って、当該2種以上の混合物の25℃における表面張力を(x)とし、前記式(i)の範囲となる限りいかなる疎水性成分を組み合わせて用いてもよい。
本明細書において、疎水性成分(A)の25℃における表面張力は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0014】
本明細書において微生物(B)は、特に限定されないが、疎水性成分(A)の内包しやすさの点から、好ましくは細胞壁を有する微生物であり、より好ましくは酵母、微細藻類、糸状菌であり、更に好ましくは酵母、微細藻類である。
酵母としては、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属などの酵母が挙げられる。なかでも、好ましくはサッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母であり、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
微細藻類としては、例えば、好ましくはユースチグマトス目(Eustigmatales)の藻類、より好ましくはナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の藻類が挙げられる。なかでも、好ましくは、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・オセアニカ(Nannochloropsis oceanica)、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・アトムス(Nannochloropsis atomus)、ナンノクロロプシス・マキュラタ(Nannochloropsis maculata)、ナンノクロロプシス・グラニュラータ(Nannochloropsis granulata)、ナンノクロロプシス・エスピー(Nannochloropsis sp.)であり、より好ましくはナンノクロロプシス・エスピー(Nannochloropsis sp.)である。
微生物(B)は、膜剤として利用できればよく、生の状態、乾燥した状態、死滅した状態のいずれでもよい。
【0015】
微生物(B)の形態は、卵形、球形、レンズ形、楕円形などが挙げられるが、凝集性や粘性の点から、球形に近い形状であることが好ましい。同様の点から、微生物(B)の直径は好ましくは0.5~30μm、より好ましくは1~20μm、更に好ましくは2~15μmである。ここで、本明細書において、微生物(B)の直径とは、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-920)によって測定されたメジアン径のことを指す。
【0016】
微生物(B)は、疎水性成分(A)の内包しやすさの点、及び疎水性成分(A)の含有率の向上の点から、予め菌体内成分を溶出させたものを用いることが好ましい。菌体内成分を溶出させる処理としては、酵素処理などの公知の方法が挙げられる。酵素処理後、さらに酸処理などの処理を行ってもよい。
酵素処理に用いられる酵素は、微生物自体が保有している自己消化酵素、プロテアーゼ、グルカナーゼ、キチナーゼ及びマンナーゼから選ばれる少なくとも1種が好ましい。酵素処理の条件は特に限定されないが、処理温度は30℃~60℃、好ましくは40℃~50℃である。処理時間は1時間~48時間、好ましくは15時間~24時間である。
【0017】
酸処理に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸などの有機酸が挙げられる。酸処理の条件は特に限定されないが、酸添加によりpHは0~2、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下に調整する。処理温度は50℃~100℃、好ましくは85℃~100℃である。処理時間は5分~60分、好ましくは10分~30分である。
【0018】
混合工程では、前述した疎水性成分(A)と微生物(B)を水性溶媒へ分散させ、スラリー状態とした混合原料を調製し、混合を行うことが好ましい。
本明細書において、水性溶媒とは、水、又は水溶性有機溶媒を含む水溶液をいう。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、精製水などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、エタノールなどの低級アルコールが挙げられる。
混合原料には、後述する微生物マイクロカプセルに含有し得る疎水性成分(A)以外の成分を用いてもよい。
【0019】
混合原料中の疎水性成分(A)の含有量は、その種類によって異なるが、生産効率の点から、好ましくは11質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。そして、混合原料中の疎水性成分(A)の含有量は、好ましくは11~80質量%、より好ましくは15~70質量%、更に好ましくは20~60質量%である。
【0020】
また、混合原料中の微生物(B)の含有量は、生産効率の点から、乾燥質量として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、攪拌や分離操作等の作業効率の点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。そして、混合原料中の微生物(B)の含有量は、好ましくは5~30質量%、より好ましくは7~25質量%、更に好ましくは10~20質量%である。ここで、本明細書において、微生物(B)の乾燥質量は、微生物を105℃の乾燥機で12時間乾燥して揮発物質を除いた残分を指す。
【0021】
混合工程において、微生物(B)の乾燥質量に対する疎水性成分(A)の質量比[(A)/(B)]は、疎水性成分(A)の含有率の向上の点から、好ましくは2超であり、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上、より更に好ましくは4以上、より更に好ましくは5以上であり、また、生産効率の点から、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下である。
【0022】
本発明において混合工程は、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x
の関係を満たす範囲内で行う。ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。
本発明においては、疎水性成分(A)の含有率の向上の点から、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(ii);
(ii)y≧2.03×1014×e-0.944x
の関係を満たすことが好ましく、
(iii)y≧1.25×1014×e-0.913x
の関係を満たすことがより好ましく、
(iv)y≧3.63×1013×e-0.856x
の関係を満たすことが更に好ましい。
【0023】
本明細書において、混合時間は、疎水性成分(A)と微生物(B)の撹拌開始から、撹拌終了までの時間である。
混合時間は、疎水性成分(A)の含有率の向上の点から、好ましくは18時間以上、より好ましくは24時間以上、更に好ましくは36時間以上、より更に好ましくは48時間以上、より更に好ましくは72時間以上、より更に好ましくは10日以上である。混合時間の上限は特に限定されないが、生産効率の点から、好ましくは180日以内、より好ましくは120日以内、更に好ましくは60日以内、より更に好ましくは30日以内、より更に好ましくは20日以内である。
【0024】
混合工程における温度は、疎水性成分(A)の含有率の向上の点から、好ましくは20~80℃、より好ましくは25~60℃、更に好ましくは30~60℃、より更に好ましくは35~50℃である。
【0025】
混合工程における撹拌条件は適宜調整することができるが、疎水性成分(A)の含有率の向上の点から、好ましくは0r/minより大きく、より好ましくは50r/min以上、更に好ましくは100r/min以上であり、また、好ましくは300r/min以下、より好ましくは250r/min以下、更に好ましくは200r/min以下である。ここで、本明細書において、攪拌条件は往復振盪した際の回転数を指す。
【0026】
このような混合工程により、微生物(B)に疎水性成分(A)を内包化させることができる。混合工程後は、遠心分離、濾過等の分離操作により微生物マイクロカプセルを分取することができる。分取した微生物マイクロカプセルは、必要に応じて洗浄、乾燥などを行ってもよい。
【0027】
本発明の微生物マイクロカプセルは、疎水性成分(A)の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、溶剤、界面活性剤、安定化剤、pH調整剤、糖類、塩類、香料、色素などを適宜含有することができる。
【0028】
本発明の方法により得られる微生物マイクロカプセルは疎水性成分(A)の含有率が高い。
疎水性成分(A)の含有率は、高い方が効率的に疎水性成分(A)を送達可能なため高い程好ましい。好ましい疎水性成分(A)の含有率は、20質量%以上である。本明細書において含有率は、次の式(1)で定義される。
含有率(質量%)=[疎水性成分(A)の質量/(疎水性成分(A)の質量+微生物(B)の乾燥質量)]×100 (1)
そのため、本発明の疎水性成分(A)を内包する微生物マイクロカプセルは、医薬品や医薬部外品、化粧品、食品、農薬などの様々な製品に利用可能である。例えば、その害虫の食性を活用して、衛生害虫や農業害虫に対する害虫防除剤に好適に利用することができる。また、内包成分の徐放性を活用して、例えば、害虫忌避剤やトイレタリー分野において香料や有効成分を徐々に放出する商品として好適に利用することができる。もしくは、粉末化可能なことを活用して、例えば、食用油の製剤として好適に利用することができる。
【0029】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の微生物マイクロカプセルの製造方法を開示する。
【0030】
<1>疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x(但し、x≦33.6)
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内、かつ微生物(B)の乾燥質量に対する疎水性成分(A)の質量比[(A)/(B)]が2超の条件で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
<2>logP値が1.0以上である疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x(但し、x≦33.6)
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
<3>オクタノール/水分配係数LogP値に対する25℃における表面張力(x)の比が4.5超である疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x(但し、x≦33.6)
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
<4>疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内であり、微生物(B)の乾燥質量に対する疎水性成分(A)の質量比[(A)/(B)]が2超の条件、かつ前記混合を20~80℃で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
<5>疎水性成分(A)と微生物(B)を混合する工程を含み、前記混合を、疎水性成分(A)の25℃における表面張力(x)と混合時間(y)とが下記式(i);
(i)y≧9.84×1011×e-0.786x(但し、x≦33.6)
(ここで、xは疎水性成分(A)の25℃における表面張力(mN/m)を示し、yは疎水性成分(A)と微生物(B)の混合時間(h)を示す。)
の関係を満たす範囲内であり、微生物(B)の乾燥質量に対する疎水性成分(A)の質量比[(A)/(B)]が2超の条件、かつ前記混合を20~80℃で行う微生物マイクロカプセルの製造方法。
【実施例0031】
<疎水性成分(A)の含有率の算出法>
酵母マイクロカプセルのスラリー1mLから、遠心分離(HITACHI製CF15RX,15000r/min,1min)し、カプセル化酵母を沈殿させた後、内包されなかった疎水性成分(A)を含む上清を除去した。ここに、メタノール0.5mL、クロロホルム0.25mLを添加して再懸濁させ、10分間静置した後、さらにクロロホルム0.5mL、蒸留水0.25mLを添加混合し、カプセル内包物を抽出した。遠心分離(HITACHI製CF15RX,15000r/min,1min)後、下層の油層を回収し、ガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィー分析にて内包量(疎水性成分(A)量)を算出した。次式によって、微生物マイクロカプセル中の疎水性成分(A)の含有率を算出した。
疎水性成分(A)の含有率(質量%)=[疎水性成分(A)の質量/(疎水性成分(A)の質量+微生物(B)(酵母)の乾燥質量)]×100
【0032】
<表面張力の測定法>
表面計器製作所製DG-1を用い、25℃、大気圧下で、毛細管上昇法により疎水性成分(A)の表面張力を測定した。この液高さは水の密度基準で決定されているため、密度で補正する必要があり、密度は京都電子工業製のポータブル密度比重計DA-130Nにより測定した。
【0033】
実施例1~20及び比較例1~12
本実施例において、酵母とはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を指す。酵母に対してその酵母内成分を溶出させる処理を行った残差(商品名:イーストラップ、三菱商事ライフサイエンス株式会社製)を乾燥質量換算で5質量%、表1に記載の疎水性成分を20質量%となるようそれぞれ蒸留水に分散させて混合原料スラリーを得た。
この混合原料スラリーを、温度40℃で往復振盪機にて200r/minで表1に示す所定時間混合し、カプセル化酵母スラリーを得た。得られたカプセル化酵母スラリーから、遠心分離(HITACHI製CF15RX,15000r/min,1min)によってカプセル化酵母を沈殿させ、未利用の疎水性成分(A)を含む上清を取り除き、同量の蒸留水で2回洗浄し、酵母マイクロカプセルを得た。酵母マイクロカプセルの疎水性成分(A)の含有率を算出した。
実施例及び比較例の条件と疎水性成分(A)の含有率を表1に示す。また、実施例及び比較例における疎水性成分(A)の表面張力と混合時間の関係を図1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より明らかなように、微生物と疎水性成分を、疎水性成分の表面張力と微生物及び疎水性成分の混合時間とが一定の関係を満たすように混合することで、高い含有率で疎水性成分を内包した微生物マイクロカプセルが得られることが確認された。
図1