(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040011
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料のろ過性向上方法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/00 20060101AFI20240315BHJP
C12C 11/00 20060101ALI20240315BHJP
C12C 7/04 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C12C5/00
C12C11/00 A
C12C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144811
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 智洋
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友美
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128CP15
4B128CP23
4B128CP30
4B128CP37
(57)【要約】
【課題】本発明は、ろ過性に優れるビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料のろ過性向上方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、色度が20°EBC以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、発酵前液を調製する発酵前工程と、前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、前記発酵前工程における前記発酵前液に対してホエイタンパク質を添加する。本発明に係るビールテイスト飲料のろ過性向上方法は、色度が20°EBC以上のビールテイスト飲料のろ過性向上方法であって、発酵前液を調製する発酵前工程と、前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、前記発酵前工程における前記発酵前液に対してホエイタンパク質を添加する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色度が20°EBC以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、
発酵前液を調製する発酵前工程と、
前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、
前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、
前記発酵前工程における前記発酵前液に対してホエイタンパク質を添加するビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記発酵前工程で使用する原料における前記ホエイタンパク質が0.010%以上である請求項1に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記発酵工程から前記ろ過工程の前における前記発酵液に対して、ホップを添加するドライホッピング工程を含む、請求項1又は請求項2に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項4】
色度が20°EBC以上のビールテイスト飲料のろ過性向上方法であって、
発酵前液を調製する発酵前工程と、
前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、
前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、
前記発酵前工程における前記発酵前液に対してホエイタンパク質を添加するビールテイスト飲料のろ過性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料のろ過性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ビールテイスト飲料は、発酵工程において形成される混濁物質や酵母を取り除くなどの目的のために「ろ過」が施される。
そして、この「ろ過」が適切に実施されないと、ろ過設備のメンテナンス頻度の上昇、ランニングコストの増加などの問題を引き起こす可能性があることから、これまでにも、ろ過に関して様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、穀物原料として、目幅が0.125mmである篩で篩い分けした場合の前記篩の篩上残量が50質量%以上である小麦粉を使用することを特徴とする、ビールテイスト飲料の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、発酵原料液である第1の液汁に、タンパク分解物を水又は水溶液に溶解して得られる第2の液汁を添加する工程を包含する、発酵アルコール飲料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-118846号公報
【特許文献2】特開2019-118304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る発明は、穀物原料に占める小麦使用比率が高いビールテイスト飲料のろ過性の問題点に着目した発明であり、特許文献2に係る発明は、タンパク分解物を使用した発酵アルコール飲料のろ過性の問題点に着目した発明である。そして、いずれの発明も、適切なろ過の実施を目的としている。
【0006】
本発明者らは、様々なビールテイスト飲料のろ過性を検討した結果、いわゆる黒ビールなどをはじめとする「濃色ビールテイスト飲料」の製造時のろ過性が大きく低下することを確認した。
【0007】
そこで、本発明は、ろ過性に優れるビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料のろ過性向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)色度が20°EBC以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、発酵前液を調製する発酵前工程と、前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、前記発酵前工程における前記発酵前液に対してホエイタンパク質を添加するビールテイスト飲料の製造方法。
(2)前記発酵前工程で使用する原料における前記ホエイタンパク質が0.010%以上である前記1に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
(3)前記発酵工程から前記ろ過工程の前における前記発酵液に対して、ホップを添加するドライホッピング工程を含む、前記1又は前記2に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
(4)色度が20°EBC以上のビールテイスト飲料のろ過性向上方法であって、発酵前液を調製する発酵前工程と、前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、前記発酵前工程における前記発酵前液に対してホエイタンパク質を添加するビールテイスト飲料のろ過性向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、ろ過性に優れたビールテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係るビールテイスト飲料のろ過性向上方法は、色度が所定値以上のビールテイスト飲料のろ過性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法、及び、ビールテイスト飲料のろ過性向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[ビールテイスト飲料]
本実施形態に係るビールテイスト飲料(本実施形態に係る製造方法によって製造されるビールテイスト飲料)は、色度が所定値以上の飲料である。
ここで、ビールテイスト飲料とは、ビール様(風)飲料とも呼ばれ、ビール様の香味を奏する飲料、言い換えると、ビール様の香味を奏するように調製された飲料である。そして、ビールテイスト飲料としては、例えば、酒税法で定義される「発泡性酒類」(ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類)に分類されるものが挙げられる。なお、前記したその他の発泡性酒類としては、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」や「リキュール(発泡性)(2)」がある。また、ビールテイスト飲料としては、ビール様の香味を奏していればよく、酒税法で定義される発泡性酒類には属さない飲料および清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料など)も挙げることができる。
以下、本実施形態に係るビールテイスト飲料を構成する各要素について説明する。
【0012】
(色度)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、色度(EBC色度)が所定値以上である。
本発明者らは、様々なビールテイスト飲料の中でも、色度の値の大きなビールテイスト飲料(いわゆる濃色ビールテイスト飲料)を製造する際に、「ろ過性」が問題となることを確認した。
【0013】
色度は、20°EBC以上が好ましく、70°EBC以上、75°EBC以上、77°EBC以上、77.2°EBC以上がより好ましい。色度が所定値以上であることによって、本発明の課題(ろ過性の悪さ)が顕著に現れることとなる。
一方、色度の上限は特に限定されないが、例えば、150°EBC以下、140°EBC以下、135°EBC以下、131.2°EBC以下である。
そして、ビールテイスト飲料の色度は、原料として使用する色麦芽の焙煎度合い(焙煎度合いの強い濃色麦芽や黒麦芽など)や当該色麦芽の使用比率などによって調製することができる。
なお、原料として使用する色麦芽は、例えば、黒麦芽(色度が800~1800°EBC程度)、カラメル麦芽(色度が50~450°EBC程度)、チョコレート麦芽(色度が800~1600°EBC程度)、ミュンヘン麦芽(色度が20~40°EBC程度)、メラノイジン麦芽(色度が60~80°EBC程度)などが挙げられる。
【0014】
ビールテイスト飲料の色度は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編2013年増補改訂)の「8.8色度 8.8.2吸光度法」に記載されている方法によって測定することができる。
【0015】
(アルコール度数)
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、0.005%(v/v%)未満、0.1%未満、0.5%未満、0.7%未満、1%未満であってもよく、好ましくは1%以上、3%以上、4%以上であり、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、6%以下である。
【0016】
本実施形態に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、麦由来原料を発酵させて得られた飲料の値であってもよいが、当該飲料に対して、適宜、蒸留アルコールを添加して調製してもよい。
蒸留アルコールとしては、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられる。蒸留アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において「スピリッツ」とは、蒸留酒であるスピリッツを指し、酒税法上のスピリッツとは異なる場合もある。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。そして、ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0017】
(発泡性)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であるのが好ましい。
そして、本実施形態に係るビールテイスト飲料の20℃におけるガス圧は、特に限定されないものの、例えば、2.0kg/cm2以上、2.2kg/cm2以上、2.3kg/cm2以上、2.4kg/cm2以上であり、5.0kg/cm2以下、4.0kg/cm2以下、3.0kg/cm2以下である。そして、ビールテイスト飲料のガス圧は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)8-3ガス圧に基づいて測定することができる。
【0018】
(その他)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維、着色料など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよいし、当然、含有しなくてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0019】
(容器詰めビールテイスト飲料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にビールテイスト飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0020】
[ビールテイスト飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法について説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、発酵前工程と、発酵工程と、ろ過工程と、を含み、原料としてホエイタンパク質を使用する。そして、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、発酵工程の際中、又は、発酵工程の後であってろ過工程の前に、ドライホッピング工程を含んでもよく、さらに、ろ過工程の後に発酵後工程を含んでもよい。
以下、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0021】
(発酵前工程)
発酵前工程では、麦芽、麦、糖類、酵素、各種添加剤、副原料等を適宜混合して原料を糖化し、糖化液を得る。そして、糖化液を適宜ろ過して得られた麦汁に、適宜、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を調製する。
なお、ホップを添加するタイミングは、発酵前工程に限定されず、後記するドライホッピング工程で実施してもよい。
【0022】
発酵前工程において調製される発酵前液は、酵母が資化可能な窒素源及び炭素源となる麦由来原料(麦芽や麦、又はそれらのエキス)を含む溶液であれば特に限られない。窒素源及び炭素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。酵母が資化可能な窒素源とは、例えば、麦由来原料に含まれるアミノ酸及びペプチドのうちの少なくとも一つである。酵母が資化可能な炭素源とは、例えば、前記した発酵前工程で添加する糖類や麦由来原料に含まれる糖類である。
【0023】
発酵前工程で使用する麦芽は、麦を発芽させ焙燥した後に根を除いたものであり、また、発酵前工程で使用する麦とは、発芽させていない状態の麦である。そして、麦とは、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等であるが、大麦が好ましい。
なお、麦芽比率(ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占める麦芽の重量の比率)は、特に限定されないものの、例えば、下限は1%以上、10%以上、25%以上、30%以上、50%以上であり、上限は100%以下、95%以下である。
そして、発酵前工程で使用する色麦芽の焙煎度合いや、焙煎度合いの強い色麦芽の割合によって、製造されるビールテイスト飲料の色度を調製することができる。
【0024】
発酵前工程で使用する副原料は、酒税法施行規則の第4条第2項各号に掲げられている物品、さらには、果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む)等が挙げられる。
【0025】
発酵前工程で使用するホップは、特に限定されず、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキス、ホップ毬花(球果、毬果)が挙げられるとともに、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0026】
(発酵前工程:ホエイタンパク質)
発酵前工程において発酵前液に対してホエイタンパク質を添加する、言い換えると、原料の一部としてホエイタンパク質を使用する。
ここで、ホエイタンパク質とは、ホエイ(乳清)から単離される乳由来のタンパク質であり、乳清タンパク質とも呼ばれ、チーズ製造の際の副産物として得られるホエイ中に存在するタンパク質である。そして、ホエイは、乳から乳脂肪やカゼイン等のタンパク質を除いた水溶液であって、乳清とも呼ばれる。なお、原料の乳の種類は、特に限定されないものの、一般的には牛乳が用いられる。
なお、ホエイタンパク質を原料に添加するタイミングは、発酵前工程(発酵工程の前)であればよいが、例えば、発酵前工程の中でも、麦汁を煮沸する際に実施すればよい。
【0027】
原料におけるホエイタンパク質の比率は、0.010%以上が好ましく、0.020%以上、0.040%以上、0.047%以上、0.100%以上、0.177%以上、0.200%以上、0.300%以上、0.354%以上、0.400%以上、0.472%以上がより好ましい。ホエイタンパク質の比率が所定値以上であることによって、ろ過性をより確実に向上させることができる。
原料におけるホエイタンパク質の比率の上限は特に限定されないものの、例えば、9.000%以下、8.000%以下、5.000%以下、1.000%以下である。
なお、前記したホエイタンパク質の比率における「原料」とは、詳細には、ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものであり、麦芽比率の算出時の原料と同様である。よって、原料におけるホエイタンパク質の比率(ホエイタンパク質比率)とは、ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のものの全重量に占めるホエイタンパク質の重量の比率である。
【0028】
ホエイタンパク質は、ホエイパウダー(乳糖とホエイタンパク質を含む粉体)の形態で原料に含有させてもよい。ここで、ホエイパウダーとは、乳を乳酸菌で発酵させ、又は乳に酵素若しくは酸を加えてできた乳清からほとんどすべての水分を除去し、粉末状にしたもの(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)であって、通常、ホエイタンパク質を5.~20.0%(好ましくは8.0~12.0%)程度含有している。
【0029】
ホエイタンパク質をホエイパウダーとして原料に含有させる場合、ホエイパウダーの比率は、以下のとおりである。
原料におけるホエイパウダーの比率は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、3.0%以上、4.0%以上がより好ましい。
原料におけるホエイパウダーの比率の上限は特に限定されないものの、例えば、15.0%以下、10.0%以下、7.0%以下である。
なお、ホエイパウダーの比率における「原料」は、ホエイタンパク質の比率で説明した「原料」と同じである。
【0030】
(発酵工程)
発酵工程は、発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行う工程である。本実施形態においては、例えば、予め温度が所定の範囲内(例えば、0~40℃の範囲)に調整された発酵前液に酵母を添加して発酵液を調製し、発酵を行う。
【0031】
発酵工程で使用する酵母は、上面発酵酵母(発酵時の炭酸ガスによる泡とともに発酵液の表面に浮かび上がる酵母)でも下面発酵酵母(発酵後期に凝集して底に沈殿する酵母)でもよく、後記する実施例において、いずれの酵母を使用した場合であっても本発明の効果が発揮されることを確認している。
【0032】
発酵工程においては、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、上述のような発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、また、香味を向上させることができる。
【0033】
こうして発酵工程においては、酵母により生成されたエタノール及び各種成分を含有する発酵後液を得ることができる。発酵後液に含まれるエタノールの濃度(アルコール度数)は、例えば、1~20%とすることができる。
【0034】
(ドライホッピング工程)
ドライホッピング工程とは、発酵液に対してホップを添加する工程である。
ドライホッピング工程で使用するホップは、前記の発酵前工程で説明したとおりである。発酵工程からろ過工程の前における発酵液(発酵工程中の発酵液、又は、発酵工程後であってろ過工程前の発酵液)に対して、ホップを添加することによって、発酵液中における不溶性固形分の量が多くなる。そのため、本発明の効果(ろ過性向上効果)がより明確に現れることとなる。
【0035】
(ろ過工程)
ろ過工程は、発酵液をろ過する工程であり、本発明では、当該工程におけるろ過性が向上する。
ろ過工程では、一回以上のろ過処理を実施すればよいが、例えば、酵母や混濁物質などの不溶性固形分を取り除く前処理工程として一次ろ過または遠心分離処理を行ってもよく、微細な物質を取り除くろ過(前処理工程として一次ろ過を行った場合は二次ろ過、前処理工程として一次ろ過を行っていない場合は一次ろ過)を実施すればよい。一次ろ過と二次ろ過を実施する場合、本発明はいずれのろ過性をも向上させるが、特に、微細な物質を取り除くろ過におけるろ過性が向上する。また、これら工程の後でさらに精密ろ過を行ってもよい。
なお、発酵後工程におけるろ過(一次ろ過、二次ろ過)は、ビールテイスト飲料を製造する際に使用される一般的な設備で行うことができる。
【0036】
(発酵後工程)
発酵後工程は、発酵液に所定の処理を施して最終的にビールテイスト飲料を得る工程である。
発酵後工程では、精密ろ過に代えて、発酵液を加熱することにより殺菌することとしてもよい。また、発酵後工程では、前記した容器に発酵液充填する処理を実施してもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、ろ過性に優れたビールテイスト飲料を製造することができる。言い換えると、本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、ろ過処理における目詰まりや流量の低下などの問題が発生する可能性を低減させつつビールテイスト飲料を製造することができる。
【0038】
[ビールテイスト飲料のろ過性向上方法]
次に、本実施形態に係るビールテイスト飲料のろ過性向上方法を説明する。
本実施形態に係るビールテイスト飲料のろ過性向上方法は、色度が所定値以上のビールテイスト飲料のろ過性向上方法であって、発酵前液を調製する発酵前工程と、前記発酵前液に酵母を添加し発酵させて発酵液を得る発酵工程と、前記発酵液をろ過するろ過工程と、を含み、前記発酵前工程における発酵前液に対してホエイタンパク質を添加する方法である。
なお、色度等については、前記した「ビールテイスト飲料」において説明した値と同じであり、各工程の内容等については、前記した「ビールテイスト飲料の製造方法」において説明したとおりである。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係るビールテイスト飲料のろ過性向上方法は、色度が所定値以上のビールテイスト飲料のろ過性を向上させることができる。
【実施例0040】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0041】
[サンプルの準備]
焙煎度合いの異なる複数の大麦麦芽(淡色麦芽、カラメル麦芽、黒麦芽)を準備し、最終的に得られるビールテイスト飲料の色が表に示すものとなるように麦芽を選択するとともに、色麦芽(カラメル麦芽、黒麦芽)の比率を調製した。
そして、選択した麦芽と水とを混合して混合液を調製した。次に、麦芽を含む混合液の糖化を行い、ろ過(いわゆる麦汁ろ過)を行った。さらに、ろ過後の混合液にホップを添加するとともに、適宜、表の比率となるようにホエイパウダー(雪印メグミルク株式会社製、乳清パウダーBC)を添加して煮沸を行った。煮沸後の混合液を冷却して、発酵前液を得た。
その後、発酵前液に酵母(下面発酵酵母、又は、上面発酵酵母)を添加してアルコール発酵を行って発酵液を製造し、さらに、25日間の熟成を行った。そして、表4のサンプルについてのみ、熟成中の発酵液にホップを添加するドライホッピングを実施した。
なお、表3のサンプル3-2については、ホエイパウダーの代わりに、乳糖(First District Association社製、EDIBLE LACTOSE LAC-400-A)を添加した。
各サンプルのアルコール度数は5.5%、ガス圧(全圧)は2.2kg/cm2であった。また、各サンプルの原料として麦芽とホエイパウダーしか使用していなかったことから、各サンプルの麦芽比率(%)は、「100(%)」-「表中のホエイパウダーの比率(%)」で求めることができる。
【0042】
[ろ過の条件]
熟成後の発酵液に対して下記のろ過を実施した。
表1~3の各サンプルについては、熟成後の発酵液に対して珪藻土ろ過を実施した。そして、ろ材の下流側の圧力(二次圧)を一定としつつ、ろ材の上流側の圧力(一次圧)と二次圧との差圧が1kgf/cm2に達した時点までにろ材を通過した液量を測定した。
表4の各サンプルについては、まず、通常のろ過よりもろ過助剤の粒度を粗くした粗ろ過を実施した。その後、表1~3の各サンプルと同様のろ過を実施し、一次圧と二次圧との差圧が1kgf/cm2に達した時点までにろ材を通過した液量を測定した。
このろ過試験において、測定された液量(L/(kgf/cm2))が多いほど、ろ過性に優れていると判断できる。
【0043】
表に、各サンプルのろ過性の結果を示す。そして、表における色度は最終製品における指標(前記の吸光度法で測定した数値)であり、ホエイパウダー及びホエイタンパク質の比率は、原料(ビールテイスト飲料の製造に用いられる原料のうち水及びホップ以外のもの)における比率であり、ドライホッピングの量は、最終製品において表に示す値となるように添加した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
(結果の検討)
表1の結果によると、サンプルの色度が低い値の場合(濃色ビールテイスト飲料ではない場合)、ホエイタンパク質の添加をしなくとも良好なろ過性が確認でき(サンプル1-3)、また、ホエイタンパク質を添加してもろ過性が良くなるという結果も得られなかった(サンプル1-1、1-2)。
よって、表1の結果から、色度の低いビールテイスト飲料については、そもそもろ過性の問題は発生しないとともに、本発明の効果(ろ過性の向上効果)も発揮されないことが確認できた。
【0049】
表2の結果によると、サンプルの色度が高い場合(濃色ビールテイスト飲料である場合)、ホエイタンパク質を原料に添加することによって、ろ過性が向上し(サンプル2-3→サンプル2-2)、ホエイタンパク質の添加量を増やすと、ろ過性が大幅に向上する(サンプル2-2→サンプル2-1)ことが確認できた。
よって、表2の結果から、色度の高いビールテイスト飲料については、本発明の効果(ろ過性の向上効果)がしっかりと発揮されることが確認できた。
なお、色度の高いビールテイスト飲料(例えば、サンプル2-3)は、焙煎麦芽のコゲなどが不溶性成分として発酵液中に多く存在するため、ろ過性が問題となるのではないかと本発明者らは推察する。
【0050】
表3の結果によると、サンプルの色度が高い場合(濃色ビールテイスト飲料である場合)であって、表2のサンプルと異なり上面発酵酵母を使用した場合であっても、ホエイタンパク質を原料に添加することによって、ろ過性が向上する(サンプル3-1→サンプル3-3)ことが確認できた。
よって、表2と表3の結果によると、酵母の種類(下面発酵酵母、上面発酵酵母)によらず、本発明の効果(ろ過性の向上効果)が発揮されることが確認できた。
【0051】
また、表3の結果によると、ホエイパウダーに含有されている乳糖を単体で添加しても、ろ過性が全く向上しない(サンプル3-1→サンプル3-2)ことが確認できた。
この結果から、ホエイパウダーの中でも、乳糖ではなく、ホエイタンパク質が本発明の効果を発揮させていることがわかった。
【0052】
表4のサンプル4-1の結果によると、事前に粗ろ過したにも関わらず、ろ過が不可能であったため、ドライホッピングを行うと、非常にろ過性が悪くなる、つまり、課題がより明確化することが確認できた。
そして、サンプル4-2とサンプル4-3、サンプル4-4とサンプル4-5、をそれぞれ比較すると、ドライホッピングを行った場合であっても、ホエイタンパク質を原料に添加すれば(又は、ホエイタンパク質の添加量が多くなれば)、本発明の効果が発揮されることが確認できた。