IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エムティーエー カンパニー リミテッドの特許一覧

特開2024-40014抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法
<>
  • 特開-抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法 図1
  • 特開-抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法 図2
  • 特開-抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法 図3
  • 特開-抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法 図4
  • 特開-抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040014
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】抗菌性を有する鉄合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/16 20060101AFI20240315BHJP
   C22C 38/20 20060101ALI20240315BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240315BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C22C38/16
C22C38/20
C21D9/00 101A
C22C33/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144816
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】518432757
【氏名又は名称】エムティーエー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MTA Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】(Rodeo mall) #707, 30, Byeollaejungang-ro, Namyangju-si, Gyeonggi-do 12113 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】李 光春
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲福▼賢
(72)【発明者】
【氏名】柴田 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】洪 尚範
(57)【要約】
【課題】 製造性に優れ、安定して高い抗菌性を示し、しかも高い機械的特性を有する鉄合金及びその製造方法の提供。
【解決手段】 Cu又はCu合金からなる分散相をFe基合金からなるマトリクス相に与えた抗菌性を有する鉄合金である。質量%で、Cuを、全体に対して10~30%、分散相で80%以上、かつ、マトリクス相で20%以下の範囲で含み、分散相の平均粒径を100μm以下としたことを特徴とする。製造方法は、Fe基合金の母合金とともに、所定量のCu材を高周波誘導炉に入れて1550℃以下で攪拌溶解し、鋳造することで、質量%で、Cuを、全体に対して10~30%、分散相で80%以上、かつ、マトリクス相で20%以下の範囲で含み、分散相の平均粒径を100μm以下とすることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu又はCu合金からなる分散相をFe基合金からなるマトリクス相に与えた抗菌性を有する鉄合金であって、
質量%で、Cuを、全体に対して10~30%、前記分散相で80%以上、かつ、マトリクス相で20%以下の範囲で含み、
前記分散相の平均粒径を100μm以下としたことを特徴とする鉄合金。
【請求項2】
質量%で、前記マトリクス相はFeにCrを10~30%の範囲で含むとともに、前記分散相のCr量を、質量%で、10%以下とすることを特徴とする請求項1記載の鉄合金。
【請求項3】
Cu又はCu合金からなる分散相をFe基合金からなるマトリクス相に与えた抗菌性を有する鉄合金の製造方法であって、
前記Fe基合金の母合金とともに、所定量のCu材を高周波誘導炉に入れて1550℃以下で攪拌溶解し、鋳造することで、
質量%で、Cuを、全体に対して10~30%、前記分散相で80%以上、かつ、マトリクス相で20%以下の範囲で含み、
前記分散相の平均粒径を100μm以下とすることを特徴とする鉄合金の製造方法。
【請求項4】
鋳造材をCuの融点以下の温度で熱処理することを特徴とする請求項3記載の鉄合金の製造方法。
【請求項5】
質量%で、前記マトリクス相はFeにCrを10~30%の範囲で含むとともに、前記分散相のCr量を、質量%で、10%以下とすることを特徴とする請求項3又は4に記載の鉄合金の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有するFe(鉄)合金及びその製造方法に関し、特に、Cu(銅)による抗菌性を与えた抗菌性を有する鉄合金に及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性、あるいは殺菌性(以下、これらを単に「抗菌性」のように、まとめて称する。)を有する金属として、Ag(銀)やCu(銅)などがよく知られており、Zn(亜鉛)、Sn(錫)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)などの金属も抗菌性を有するとされる。かかる金属は、水中に溶出して金属イオンとなり、極微量でも抗菌作用を呈するとされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、一般的に、ステンレス鋼は抗菌性を有するが実用的に十分ではなく、ステンレス鋼の表面酸化皮膜のCu濃度を高めてステンレス鋼の抗菌性を改善する方法を開示している。ここでは、ステンレス鋼特有の金属光沢を損なわず、表面処理によってステンレス鋼の抗菌性を改善する方法として、多孔質の酸化皮膜を表面に成長させたステンレス鋼板を陰極とし、クロム酸及び銅塩を含むリン酸水溶液からなる電解液中で、所定の電流密度及び電解液温度で陰極電解処理し、表面酸化皮膜のCu濃度を高めるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、マルテンサイト系ステンレス鋼にCuを1.5~2.0重量%添加することで、組織内にCuリッチ析出相を均一に分布させて抗菌性を与えたステンレス鋼を開示している。硬さ及び耐食性を維持するためには、微細なCr炭化物を組織内に均一に分布させた上で、Cuリッチ析出相を分散させることが必要であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-291397号公報
【特許文献2】特表2018-500460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステンレス鋼にCuを含有させたCu含有鉄合金の如きでは、抗菌性を与えるCuリッチ相の付与形態によってCuイオンの溶出量が異なり、抗菌性の程度も異なることになる。そのため、製造方法においてはCuリッチ相を再現性よく付与することが必要となる。また、鉄合金の機械的特性に、抗菌性を与えるためのCuが及ぼす影響を考慮しなければならない。
【0007】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造性に優れ、安定して高い抗菌性を示し、しかも高い機械的特性を有する鉄合金及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、二液相分離し比重差によって凝固時に大規模な偏析を生じやすい銅-鉄二相合金の性質を利用し、所定の既知の成分組成の鉄基合金、典型的にはCrを含むステンレス合金のマトリクス相(母相)に対して、銅又は銅合金からなる抗菌分散相を与えることで安定した抗菌性を有する鉄合金を得られることを見いだした。
【0009】
すなわち、本発明による鉄合金は、Cu又はCu合金からなる分散相をFe基合金からなるマトリクス相に与えた抗菌性を有する鉄合金であって、質量%で、Cuを、全体に対して10~30%、前記分散相で80%以上、かつ、マトリクス相で20%以下の範囲で含み、前記分散相の平均粒径を100μm以下としたことを特徴とする。かかる特徴によれば、Cu又はCu合金からなる分散相による安定的で高い抗菌性を得られ、かつ、製造性にも優れるのである。
【0010】
上記した発明において、質量%で、前記マトリクス相はFeにCrを10~30%の範囲で含むとともに、前記分散相のCr量を、質量%で、10%以下とすることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、鉄合金の表面酸化物の発生を抑制し分散相による安定的でより高い抗菌性を得られるのである。
【0011】
また、本発明による製造方法は、Cu又はCu合金からなる分散相をFe基合金からなるマトリクス相に与えた抗菌性を有する鉄合金の製造方法であって、前記Fe基合金の母合金とともに、所定量のCu材を高周波誘導炉に入れて1550℃以下で攪拌溶解し、鋳造することで、質量%で、Cuを、全体に対して10~30%、前記分散相で80%以上、かつ、マトリクス相で20%以下の範囲で含み、前記分散相の平均粒径を100μm以下とすることを特徴とする。かかる特徴によれば、Cu又はCu合金からなる分散相による安定的で高い抗菌性を有する鉄合金を高い製造性を持って得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に従って製造された鉄合金の断面組織写真である。
図2】「S10」及び「S20」のCu及びCrの含有量、及び鋳造後の引張強さを示す表である。
図3】(a)「S10」及び(b)「S20」の断面組織の写真である。
図4】「S10」の(a)D50を45μm未満とする粉体、(b)D50を45μm以上とする粉体、「S20」の(c)D50を45μm未満とする粉体、及び、(d)D50を45μm以上とする粉体の電子顕微鏡写真である。
図5】「S10」及び「S20」を含む各種金属片を用いた抗菌試験後の培地の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による1つの実施例としての鉄合金及びその製造方法について、図1を用いて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施例における鉄合金10は、Fe基合金からなるマトリクス相1にCu又はCu合金からなる分散相2を微細に分散させた合金である。鉄合金10では、質量%で、Cuを全体に対して10~30%で含む。特に、分散相2によって高い抗菌性を付与するため、Cuは、質量%で、分散相2において80%以上含有され、マトリクス相1において20%以下の範囲で含有を許容される。Cuは、さらに、分散相2において、質量%で、85%以上含有されることが好ましく、90%以上含有されることがより好ましい。他方、Cuは、マトリクス相1において含有を許容される量として、質量%で、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
また、分散相2は平均粒径を100μm以下とされて微細に分散するようにされる。これにより、母合金であるCuを含有しないFe基合金並みの機械的強度を維持しつつ、分散相2による高い抗菌性を部材の表面全体に付与させることができる。つまり、Cu又はCu合金からなる分散相2による安定的で高い抗菌性を鉄合金10に付与できる。
【0016】
さらに、マトリクス相1は、FeにCrを10~30質量%の範囲で含むとともに、分散相2におけるCr量を10質量%以下とすることも好ましい。これによって、分散相2の抗菌性を阻害することなく、マトリクス相の有する成分組成に相当するステンレス鋼と同等の機械的強度を付与するとともに、鉄合金10の表面酸化物の発生を抑制し得る。なお、分散相2におけるCrの含有量は質量%で、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
ところで、Feに対するCuの固溶限は高くなく、例えば20質量%以上などの、固溶限を超えるような量のCuを含有させると、固溶できないCuによる重力偏析を生じやすい。
【0018】
そこで、鉄合金10においては、固溶できないCuを分散相2としてマトリクス相1に微細に分散配置させるような製造方法によって製造する。具体的には、Fe基合金からなる母合金とともに所定量のCu材を高周波誘導炉に入れて1550℃以下で攪拌溶解し、鋳造するのである。このように、高周波誘導炉を用いる製造性に優れる方法で鉄合金10を得ることができる。なお、Cu材は、Cu、Cu合金、及びその合金成分の組み合わせなどである。
【0019】
また、分散相2の分散配置を容易にするため、材料の溶解の手順においても工夫をすることが好ましい。例えば、100kgのSUS430(SUSは登録商標)を母合金として約10質量%のCuを含有する鉄合金10を製造する場合について説明する。まず、溶解炉の下部に11kgのCuのうち半分の5.5kgを装入し、その上に100kgのSUS430を投入し、溶解を開始する。このとき溶湯の温度が1,550℃を超えないように溶解炉の出力を調整する。溶解させながら110gのフェロシリコン(Fe-Si)を22gずつ5回に分けて投入する。SUS430の全量が溶解した後にCuの残量5.5kgを投入し全て溶解させる。最後に110gのAlを投入し脱酸を行う。そして鋳型に溶湯を注ぎ込んでインゴットを得る。つまり、Cuを2回に分けて装入し、全体的に分散配置しやすくするのである。このようにして得たインゴットにおいて、Cuによる分散相2が微細に分散した鉄合金10とし得る。
【0020】
また、得られた鋳造材において、Cuの融点以下の温度で熱処理を行うことも好ましい。CuのFeに対する固溶限は低温側において低くなる。そのため、Cuの融点以下の比較的低温での熱処理によってマトリクス相1に固溶したCuを析出させ、Cuによる分散相2の分散配置を促進させ得る。
【0021】
鋳造材を得た後は、さらに必要に応じて、鍛造、圧延、熱処理を行う。なお、その他のフェライト系ステンレスを母合金とする場合についても同様の製造方法とできる。
【0022】
[製造試験]
鉄合金10を上記した方法により製造し、各種試験に供した結果について説明する。試作した鉄合金10は、SUS430に約10質量%のCuを含有させた「S10」と、約20質量%のCuを含有させた「S20」の2種類である。
【0023】
図2に示すように、成分分析の結果、「S10」及び「S20」は、それぞれ同図に示された量のCr及びCuを含有していた。また、インゴットを製造した鋳造後の状態で引張試験を行った結果、SUS430と同等程度の引張強さを有していた。
【0024】
図3に示すように、断面組織を顕微鏡観察した。「S10」(同図(a)参照)及び「S20」(同図(b)参照)のいずれも、Cuによる平均粒径を100μm以下とする微細な分散相2を分散配置させていることが判った。なお、Cuの含有量の多い「S20」の方が分散相2の数が多く、平均粒径も大きい傾向にあることが判った。
【0025】
図4に示すように、上記で得た「S10」及び「S20」を用いて、ガスアトマイズ法にて製造した粉体を電子顕微鏡で観察した。粉体は、「S10」及び「S20」のそれぞれの合金種に対してD50を45μm未満とするもの、D50を45μm以上とするものの2通りを用意した。いずれにおいても、Cuによる分散相2が表面に分散して存在していた。
【0026】
図5に示すように、「S20」について母合金として用いたSUS430と比較しつつ、サルモネラ菌を用いた抗菌試験を行った。試験方法は、「S10」及び「S20」を含む各種金属による試験片の上に菌液を25μL滴下し、滴下直後から所定時間経過毎に爪楊枝の先で菌液のサンプルを採取し、培地に接種・培養し観察した。同図に示すように、「S10」及び「S20」においては滴下後5分でサルモネラ菌が死滅しており、高い抗菌性を有することが判った。
【0027】
また、「S10」について、JIS Z2801:2012に従って、黄色ブドウ球菌、大腸菌、及び、ネズミチフス菌に対する抗菌活性値を求めたところ、それぞれ、4.7、6.3、及び、5.8となった。「S10」についても高い抗菌性を有することが確認された。
【0028】
なお、Niを含有するSUS316などのオーステナイト系ステンレスを母合金とする場合においても、上記と同様のCu又はCu合金からなる分散相を微細に分散させた高い抗菌性を有する鉄合金を得ることができる。
【0029】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0030】
1 マトリクス相
2 分散相
10 鉄合金


図1
図2
図3
図4
図5