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特開2024-40044無線信号処理システム及び無線信号処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040044
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】無線信号処理システム及び無線信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 99/00 20090101AFI20240315BHJP
【FI】
H04J99/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144865
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】世永 公輝
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(57)【要約】
【課題】計算時間が短縮可能な反復型MUDを実現する無線信号処理システム及び無線信号処理方法を提供する。
【解決手段】無線信号処理システムは、2以上の第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上生成し、生成したそれぞれのパターンに含まれる前記推定信号の和と前記受信信号との差に基づく推定誤差をそれぞれ算出する誤差算出手段と、前記誤差算出手段により算出されたそれぞれの推定誤差に基づいて、前記推定信号のパターンを2以上選択する選択手段と、前記選択手段により選択された2以上のパターンに対する前記推定誤差に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する確率算出手段と、前記確率算出手段により算出された確率分布に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の第2通信局から送信された送信信号が第1通信局により受信された受信信号に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する無線信号処理システムにおいて、
送信信号の波形を推定した推定信号のパターンと受信信号とに応じた推定誤差に基づいて、2以上の前記第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された2以上のパターンに対する前記推定誤差に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する確率算出手段と、
前記確率算出手段により算出された確率分布に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定手段とを備えること
を特徴とする無線信号処理システム。
【請求項2】
前記推定手段は、前記確率算出手段により算出された確率分布に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である妥当性を示す対数尤度比を算出し、算出した対数尤度比の符号に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定すること
を特徴とする請求項1に記載の無線信号処理システム。
【請求項3】
前記選択手段は、前記推定信号をスピンで示し、前記スピンに基づく前記エネルギーを示すエネルギー関数を用いて、前記推定誤差を算出し、算出した前記推定誤差に基づいて、前記推定信号のパターンを2以上選択すること
を特徴とする請求項1に記載の無線信号処理システム。
【請求項4】
前記選択手段は、量子アニーリングを用いて、前記推定誤差を算出し、算出した前記推定誤差に基づいて、前記推定信号のパターンを2以上選択すること
を特徴とする請求項1に記載の無線信号処理システム。
【請求項5】
2以上の第2通信局から送信された送信信号が第1通信局により受信された受信信号r(i)に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する無線信号処理システムにおいて、
送信信号の波形を推定した推定信号xk(i)を(1)式で示すスピンの変数zk(i)に基づく(2)式で示す推定誤差EMUD(z(i))に基づいて、2以上の前記第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号xk(i)のスピンの変数zk(i)のパターンz(i)を2以上選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された2以上のパターンz(i)の集合ZQA(i)と、前記推定誤差EMUD(z(i))とに基づいて、前記推定信号xkが前記送信信号である確率の分布を示す確率分布PrApprox[r(i)|x(i)]を(3)式を用いて算出する確率算出手段と、
前記確率算出手段により算出された確率分布PrApprox[r(i)|x(i)]に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定手段とを備えること
を特徴とする無線信号処理システム。
【数1】
ここで、xk(i)は、k番目の第2通信局から送信された送信信号に対する推定信号のi番目のシンボルを示し、z1 k、z2 kは、それぞれ実部と虚部のスピン変数を示す。
【数2】
ここで、Kは、前記第2通信局の数を示し、k、lはそれぞれ第2通信局の番号を示し、hkは、k番目の前記第2通信局と前記第1通信局との間の通信路係数を示し、Jijはi,j間の相互作用を示し、ak、alは、送信信号xkに変調するときの倍率を示す。
【数3】
ここで、σwは、標準偏差を示す。また、x(i)=[x1(i)、…、xk(i)、…、xK(i)]となる。また、r(i)は受信信号のi番目のシンボルを示す。
【請求項6】
2以上の第2通信局から送信された送信信号が第1通信局により受信された受信信号に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する無線信号処理方法において、
送信信号の波形を推定した推定信号のパターンと受信信号とに応じた推定誤差に基づいて、2以上の前記第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上選択する選択ステップと、
前記選択ステップにより選択した推定信号の2以上のパターンに対する前記推定誤差に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する確率算出ステップと、
前記確率算出ステップにより算出した確率分布に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とする無線信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号処理システム及び無線信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数接続、特に上り回線(Uplink:UL)における大規模接続は、Beyond5Gにおける重要な機能の1つである。また、IoTに関連する技術は近年急速に発展しており、2030年には、ネットワークに接続するIoTデバイスの数は、数千億個に達すると言われている。このため、Beyond5GにおけるIoTアプリケーションをサポートするために、ULにおける大規模なマシンタイプ通信(massive Machine-Type Communication:mMTC)の機能拡張が求められている。このmMTCを強化するための有望な技術として、非直交多重アクセス(Non-orthogonal Multiple Access:NOMA)が注目されている。特に、上り回線NOMA(UL-NOMA)システムは、複数のデバイスに同じ無線リソースブロックを共有させることにより、高いスペクトル効率を示す。このとき基地局側では、受信した受信信号から各デバイスが送信した送信信号に含まれる情報を推定するマルチユーザ検出(Multi User Detection:MUD)が不可欠である。特に、反復マルチユーザ検出は、デバイス間の受信電力に大きな差を必要としないため、逐次干渉除去(Successive Interference Cancellation:SIC)といった手法よりも大規模な接続台数を実現することができる。このため、非特許文献1に示すような反復マルチユーザ検出の技術が注目されている。
【0003】
非特許文献1では、対数尤度比を用いた反復MUDが提案されている。非特許文献1の開示技術では、受信信号から各デバイスに対する対数尤度比をMUDブロックで計算し、それらを復号器に事前情報として入力し誤り訂正を行う。非特許文献1の開示技術では、この誤り訂正の結果は、再び、MUDブロックにフィードバックされ、全てのデバイスからの送信データがエラーフリーとなるまで、もしくは事前に設定した最大回数まで反復処理を実行する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.V.Poor, "Iterative multiuser detection," IEEE Signal Processing Magazine, vol. 21, no. 1, pp. 81-88, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、反復MUDの計算効率は、変調次数Mとデバイス数KからO(MK)で与えられるため、デバイス毎に受信信号から対数尤度比を計算するMUDの部分で大きな計算時間が必要となる。
【0006】
これにより、非特許文献1の開示技術では、大規模接続のための反復型MUDとして用いた場合、多大な計算時間が必要となる。このため、非特許文献1の開示技術では、大規模接続のための反復型MUDを用いたUL-NOMAの実装ができないことが問題とされている。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決するために導出されたものであり、計算時間が短縮可能な反復型MUDを実現する無線信号処理システム及び無線信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る無線信号処理システムは、2以上の第2通信局から送信された送信信号が第1通信局により受信された受信信号に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する無線信号処理システムにおいて、送信信号の波形を推定した推定信号のパターンと受信信号とに応じた推定誤差に基づいて、2以上の前記第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上選択する選択手段と、前記選択手段により選択された2以上のパターンに対する前記推定誤差に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する確率算出手段と、前記確率算出手段により算出された確率分布に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係る無線信号処理システムは、第1発明において、前記推定手段は、前記確率算出手段により算出された確率分布に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である妥当性を示す対数尤度比を算出し、算出した対数尤度比の符号に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定することを特徴とする。
【0010】
第3発明に係る無線信号処理システムは、第1発明において、前記選択手段は、前記推定信号をスピンで示し、前記スピンに基づく前記エネルギーを示すエネルギー関数を用いて、前記推定誤差を算出し、算出した前記推定誤差に基づいて、前記推定信号のパターンを2以上選択することを特徴とする。
【0011】
第4発明に係る無線信号処理システムは、第1発明において、前記選択手段は、量子アニーリングを用いて、前記推定誤差を算出し、算出した前記推定誤差に基づいて、前記推定信号のパターンを2以上選択することを特徴とする。
【0012】
第5発明に係る無線信号処理システムは、2以上の第2通信局から送信された送信信号が第1通信局により受信された受信信号r(i)に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する無線信号処理システムにおいて、送信信号の波形を推定した推定信号xk(i)を(1)式で示すスピンの変数zk(i)に基づく(2)式で示す推定誤差EMUD(z(i))に基づいて、2以上の前記第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号xk(i)のスピンの変数zk(i)のパターンz(i)を2以上選択する選択手段と、前記選択手段により選択された2以上のパターンz(i)の集合ZQA(i)と、前記推定誤差EMUD(z(i))とに基づいて、前記推定信号xkが前記送信信号である確率の分布を示す確率分布PrApprox[r(i)|x(i)]を(3)式を用いて算出する確率算出手段と、前記確率算出手段により算出された確率分布PrApprox[r(i)|x(i)]に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
【数1】
ここで、xk(i)は、k番目の第2通信局から送信された送信信号に対する推定信号のi番目のシンボルを示し、z1 k、z2 kは、それぞれ実部と虚部のスピン変数を示す。
【数2】
ここで、Kは、前記第2通信局の数を示し、k、lはそれぞれ第2通信局の番号を示し、hkは、k番目の前記第2通信局と前記第1通信局との間の通信路係数を示し、Jijはi,j間の相互作用を示し、ak、alは、送信信号xkに変調するときの倍率を示す。
【0014】
【数3】
ここで、σwは、標準偏差を示す。また、x(i)=[x1(i)、…、xk(i)、…、xK(i)]となる。また、r(i)は受信信号のi番目のシンボルを示す。
【0015】
第6発明に係る無線信号処理方法は、2以上の第2通信局から送信された送信信号が第1通信局により受信された受信信号に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する無線信号処理方法において、送信信号の波形を推定した推定信号のパターンと受信信号とに応じた推定誤差に基づいて、2以上の前記第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上選択する選択ステップと、前記選択ステップにより選択した推定信号の2以上のパターンに対する前記推定誤差に基づいて、前記推定信号が前記送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する確率算出ステップと、前記確率算出ステップにより算出した確率分布に基づいて、前記送信信号に含まれる情報を推定する推定ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明~第6発明によれば、確率算出手段は、選択手段により選択された推定信号の2以上のパターンの推定誤差に基づいて、推定信号が送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する。これにより、決定手段により決定された推定信号のパターンのみをサンプルとして計算しているため、大規模接続のための反復型MUDとして用いた場合においても、計算時間の短縮が可能となる。
【0017】
特に、第2発明によれば、確率分布に基づいて、推定信号が送信信号である妥当性を示す対数尤度比を算出し、算出した対数尤度比の符号に基づいて、送信信号を推定する。これにより、対数尤度比の符号に応じて、推定信号が送信信号である妥当性を判断することが可能となる。
【0018】
特に、第3発明によれば、選択手段は、エネルギーを示すエネルギー関数を用いて、推定誤差を算出する。これにより、より適切な推定信号のパターンのみを計算しているため、大規模接続のための反復型MUDとして用いた場合においても、計算時間の短縮が可能となる。
【0019】
特に、第4発明によれば、選択手段は、量子アニーリングを用いて、前記推定誤差を算出する。これにより、量子アニーリングにより、より短い計算時間で適切な推定信号のパターンを選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態における無線信号処理システムの全体概略図である。
図2図2は、本実施形態におけるマルチユーザ検出器の構成の一例を示す模式図である。
図3図3は、無線信号処理システムの処理のフローを示している。
図4図4(a)は、推定信号のパターンを選択しない場合の確率分布を示すグラフである。図4(b)は、本実施形態における無線信号処理システムを用いた場合の確率分布を示すグラフである。
図5図5(a)は、本実施形態における1回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(b)は、本実施形態における2回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(c)は、本実施形態における3回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(d)は、本実施形態における4回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(e)は、本実施形態における5回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(f)は、本実施形態における6回目のビットエラー率を示すグラフである。
図6】第2通信局毎の相互情報量の推移の比較を示すグラフである。
図7】計算時間の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した無線信号処理システム100について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0022】
図1は、本実施形態における無線信号処理システム100の全体概略図である。図1に示すように、無線信号処理システム100は、基地局1と、基地局1に接続されるユーザ端末2と量子アニーリングマシン3とを備える。また、無線信号処理システム100は、2以上のユーザ端末(2a~2c)を備えていてもよい。無線信号処理システム100は、例えば基地局1により受信された受信信号に基づいて、2以上のユーザ端末2から送信された送信信号を推定する。この基地局1とユーザ端末2との通信は無線通信を用いるが、これに限らず、有線での通信であってもよい。
【0023】
ユーザ端末2は、送信信号を送信するデバイス(Device:dev)である。ユーザ端末2は、例えばノート型のパーソナルコンピュータ(PC)、携帯端末、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末等の無線通信可能なユーザが用いる端末装置で構成されている。ユーザ端末2は、デジタル信号を符号化するためのエンコーダ(ENC)21と、エンコーダ21に接続される符号化したデジタル信号を変調するためのQPSK(quadrature phase shift keying)等の変調器(MOD)22とを備える。ユーザ端末2は、例えば送信信号を基地局1に送信する第2通信局であるが、受信信号を受信する第1通信局であってもよい。また、ユーザ端末2は、エンコーダ21と変調器22との間に符号語ビットの順番を並び替える図示しないインタリーバを備えてもよい。
【0024】
量子アニーリングマシン3は、第1通信局が受信した受信信号から、各第2通信局から送信された送信信号の波形の推定を示す推定信号のパターンを選択するための、量子アニーリングの原理を利用したコンピュータである。量子アニーリングは、量子揺らぎを利用して組合せ最適化問題の最適解、もしくは近似解を求める手法である。量子アニーリングは、例えばアニーリング時間が20μs以下であってもよい。また、量子アニーリングマシン3は、基地局1に含まれてもよい。また、量子アニーリングマシン3は、量子アニーリングの原理を利用したコンピュータに限らず、任意の計算手段を有するコンピュータであってもよい。量子アニーリングマシン3は、例えば(4)式のイジングモデルに対するエネルギー関数を解くように設計されてもよい。
【0025】
【数4】
ここで、Jijはi,j間の相互作用を示し、zi={+1,-1}は、スピン変数を示し、zは、スピンのベクトルを示す。量子アニーリングマシン3は、基地局1から送信された受信信号に基づいて算出した各第2通信局から送信された推定信号のパターンのサンプルを基地局1に送信する。ここでサンプルは、例えば量子アニーリングマシン3により算出された解の例である。
【0026】
基地局1は、複数のユーザ端末2との間において無線アクセスポイントとしての役割を果たし、インターネット等を始めとした通信回線との間においてインタフェースとしての役割を果たす通信局(Base station:BS)である。即ち、基地局1は、これを介してユーザ端末2がインターネット等を始めとした通信回線との間でデータの送受信を行うことを可能とするための中継手段を担うものである。基地局1は、無線信号処理を制御する。基地局1は、例えば無線信号処理を制御するためのパーソナルコンピュータ(PC)等の電子機器が用いられるほか、例えばスマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末、IoT(Internet of Things)デバイス等の電子機器、シングルボードコンピュータ等が用いられてもよい。基地局1は、受信信号を受信する第1通信局である、送信信号を送信する第2通信局であってもよい。
【0027】
基地局1は、マルチユーザ検出器(MUD)10と、マルチユーザ検出器10に接続されるデータを復号化するためのデコーダ(DEC)11とを備える。また、基地局1は、マルチユーザ検出器10に接続された複数のデコーダ11を備えてもよい。マルチユーザ検出器10は、それぞれの第2通信局から送信された送信信号に含まれる情報の推定を行う。マルチユーザ検出器10は、例えば軟入力・軟出力(Soft-input Soft-output:SISO)マルチユーザ検出器であってもよい。また、ユーザ端末2がエンコーダ21と変調器22との間に符号語ビットの順番を並び替える図示しないインタリーバを備える場合、マルチユーザ検出器10からの出力は図示しないデインタリーバを介してデコーダ11へ入力し、デコーダ11からの出力は図示しないインタリーバを介してマルチユーザ検出器10へ入力する。
【0028】
図2は、本実施形態におけるマルチユーザ検出器10の構成の一例を示す模式図である。マルチユーザ検出器10は、確率分布算出部101と、確率分布算出部101とデコーダ11とに接続される尤度比算出部102と、尤度比算出部102とデコーダ11とに接続される事前確率算出部(APP)103とを備える。
【0029】
確率分布算出部101は、例えば第2通信局から送信され、第1通信局により受信された受信信号に基づいて、送信信号の波形の推定を示す推定信号が送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する。確率分布算出部101は、例えば、2以上の第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上生成し、生成したそれぞれのパターンに含まれる推定信号の和と受信信号との差に基づく推定誤差をそれぞれ算出する。また、確率分布算出部101は、算出したそれぞれの推定誤差に基づいて、推定信号のパターンを2以上選択する。また、確率分布算出部101は、選択した推定信号の2以上のパターンの推定誤差に基づいて、確率分布を算出する。また、確率分布算出部101は、量子アニーリングマシン3と接続されてもよい。かかる場合、確率分布算出部101は、量子アニーリングマシン3を用いて、推定誤差に基づいて、推定信号のパターンを選択してもよい。
【0030】
尤度比算出部102は、確率分布算出部101により算出された確率分布に基づいて、対数尤度比を算出する。尤度比算出部102は、算出した対数尤度比をデコーダ11に送信する。
【0031】
事前確率計算部(APP)103は、デコーダ11から送信された対数尤度比に基づいて対数尤度比を新たに算出するための事前確率P(x)を算出し、算出した事前確率P(x)を尤度比算出部102に送信する。
【0032】
次に、無線信号処理システム100の処理の動作について図3を用いて説明する。まずステップS110において、第2通信局は送信信号を送信する。第1通信局は、2以上の第2通信局から送信された送信信号に基づく受信信号を受信する。送信信号は、第2通信局から送信された信号である。送信信号は、送信信号に含まれる情報のビット数をDとした場合、長さDのビットが{bk(0),...,bk(D-1)}となる情報を有する。受信信号は、2以上の第2通信局から送信された送信信号が、第1通信局により受信された信号である。受信信号は、第1通信局に受信される際に、送信信号同士のデータ衝突等により、送信信号同士による干渉が生じた信号である。ここで、第1通信局は、例えば基地局1であってもよいが、これに限らず、任意の通信局であってもよい。また、第2通信局は、例えばユーザ端末2であってもよいが、これに限らず、任意の通信局であってもよい。
【0033】
ステップS110において、k番目の第2通信局のエンコーダ21は、後述するステップS150において誤り検出を行うために、特定のビット数の巡回冗長検査(CRC)符号を送信信号の情報のビット列bkに付与し、長さNビットの誤り訂正符号語ビット列ck={ck(0),...,ck(N-1)}に符号化する。次に、ステップS110において、変調器22は、誤り訂正符号語ビット列ckを、送信信号akkに変調する。第2通信局は、この送信信号akkを第1通信局に送信し、第1通信局は、複数の第2通信局から送信された送信信号を受信信号として受信する。ステップS110において、k番目の第2通信局から送信された送信信号は、k番目の第2通信局と第1通信局と間の電波伝搬特性を示す通信路係数hk倍に増幅され、増幅されたそれぞれの送信信号が干渉した信号が受信信号となり、第1通信局により受信される。ここでkは、第2通信局の番号を示す。
【0034】
また、この受信信号を(5)式で示す式により算出してもよい。
【0035】
【数5】
ここで、akは、誤り訂正符号語ビット列ckを、送信信号xkに変調する際の倍率を示し、Kは第2通信局の数を示す。δkは第2通信局と第1通信局と間の伝搬遅延を示す。また、w(i)は加法性白色ガウス雑音である。また、r(i)は、受信信号を示し、この受信信号をシンボル単位でベクトル化した受信信号ベクトルr={r(0),...,r(L-1)}に対して、推定して得られた通信路係数hk及び伝搬遅延δkを用いて第2通信局同士の干渉を抑圧及び除去することで、送信信号を推定し、各第2通信局から送信された送信信号の情報のビット列bk(k=1,..., K)を復元することができる。ここで?は、シンボルあたりのサンプル数を示す。
【0036】
次に、ステップS120において、確率分布算出部101は、送信信号の波形を推定した推定信号のパターンと受信信号とに応じた推定誤差に基づいて、2以上の第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号の波形を推定した推定信号のパターンを2以上選択する。推定信号は、第2通信局がそれぞれ送信した送信信号の波形を推定した信号である。確率分布算出部101は、任意の方法を用いて、推定信号を推定してもよい。推定信号のサンプルは、2以上の第2通信局から送信されたそれぞれの送信信号に対する推定信号のサンプルである。推定誤差は、例えば推定信号のサンプルに含まれるそれぞれの推定信号をhk倍したものの和と、受信信号との差に基づく誤差であってもよい。推定誤差は、例えば式(6)で示されてもよい。
【0037】
【数6】
ここで、E(x)は、推定誤差を示し、xは、推定信号xkのサンプルを示す。このとき、x={x1,x2,,,,xk,,,,xK}となる。また、xkは、k番目の第2通信局から送信された送信信号の波形の推定を示す推定信号を示す。また、Kは、第2通信局の数を示し、kは、第2通信局の番号を示し、hkは、k番目の第2通信局と第1通信局との間の通信路係数を示す。
【0038】
ステップS120において、確率分布算出部101は、推定誤差に基づいて、推定信号のパターンを2以上選択する。確率分布算出部101は、例えば推定誤差が最も小さくなる推定信号のパターン、又は推定誤差が最小となる場合の近似解となる2以上のパターンを選択してもよい。確率分布算出部101は、例えば推定誤差がなるべく小さくなる推定信号の2以上のパターンを選択してもよい。ステップS120において、推定信号のパターンを2以上選択することにより、複数の推定信号のパターンをサンプルとして生成することが可能となり、より精度の高い送信信号の推定が可能となる、また、マルチユーザ検出器10は、推定誤差が閾値以下となるパターンを選択してもよい。
【0039】
また、ステップS120において、マルチユーザ検出器10は、ステップS110により受信した受信信号に基づいて、量子アニーリングマシン3により推定された推定信号のパターンを選択してもよい。かかる場合、例えばQPSK変調を用いた場合、推定信号は、スピンを変数とした(1)式により算出される。
【0040】
【数1】
ここで、xk(i)は、k番目の第2通信局から送信された送信信号に対する推定信号のi番目のシンボルを示す。z1 k、z2 kは、それぞれ実部と虚部のスピン変数を示す。
【0041】
上述した(1)式と(6)式から、推定誤差をスピンに基づくエネルギーを示すエネルギー関数(2)式で示すことができる。
【0042】
【数2】
ここで、EMUD(z(i))はイジングモデルにおけるエネルギー関数を示し、r(i)は受信信号のi番目のシンボルを示す。また、k、lはそれぞれ第2通信局の番号を示す。また、サンプルz(i)はスピンの組み合わせのパターンであり、例えば{+1,-1,-1,,,}となる。量子アニーリングマシン3は、エネルギー関数が小さくなるように解を選択する。量子アニーリングマシン3は、(2)式の近似解となる推定信号の2以上のパターンを選択してもよい。これにより、短い計算時間で2種類以上の解をサンプルとして生成することができる。
【0043】
次に、ステップS130において、確率分布算出部101は、ステップS120により選択された推定信号の2以上のサンプル毎の推定誤差に基づいて、推定信号が送信信号である確率の分布を示す確率分布を算出する。確率分布は、ステップS120において選択したサンプルの推定信号が送信信号であった場合に受信信号がステップS110により受信した受信信号となる確率の分布であってもよい。確率分布は、通信路係数hkがシンボル内では固定するとの仮定から、加法性白色ガウス雑音の標準偏差σwを用いて、通信路係数hkと推定信号xk(i)との積を平均値とした二次元ガウス分布として求められる。ステップS130において、例えば確率分布算出部101は、ステップS120により選択された推定信号の2以上のサンプル毎の推定誤差に基づいて、(7)式を用いて確率分布を算出する。
【数7】
ここで、Pr[r|x]は、確率分布を示し、σwは、標準偏差を示す。また、xは推定信号のパターンであり、x=[x1、…、xk、…、xK]となる。また、rは受信信号を示す。Xは、パターンxの集合を示す。また、E(x)は、推定誤差を示す。
【0044】
また、例えば確率分布算出部101は、i番目の受信信号r(i)に対して、量子アニーリングマシン3より得られたスピンの組み合わせのパターンに対するサンプルの集合ZQA(i)と、ステップS130により算出された推定誤差EMUD(z(i))とに基づいて、(3)式に示す確率分布を算出してもよい。
【数3】
ここで、PrApprox[r(i)|x(i)]は、確率分布を示し、σwは、標準偏差を示す。また、x(i)はi番目の第2通信局からの送信信号に対する推定信号をベクトルで示したものであり、x(i)=[x1(i)、…、xk(i)、…、xK(i)]となる。また、r(i)は受信信号のi番目のシンボルを示す。
【0045】
また、ステップS130において量子アニーリングマシン3を用いて送信信号のサンプルを選択した場合、(8)式を用いて確率分布を算出してもよい。
【0046】
【数8】
ここで、PrQA[r(i)|x(i)]は確率分布を示し、Ntotalは、ステップS130において、(2)式を用いて算出したすべての解の数を示す。また、Nsamp(z(i))はサンプル出現数を示す。サンプル出現数は、ステップS130において、(2)式を用いて解を算出した際に、ステップS120において選択した送信信号のパターンが解として出現した回数を示す。
【0047】
次に、ステップS140において、尤度比算出部102は、ステップS130により算出された確率分布に基づいて、推定信号が送信信号である妥当性を示す対数尤度比を算出する。また、ステップS140において、マルチユーザ検出器10は、式(9)を用いて、対数尤度比を算出してもよい。
【0048】
【数9】
ここで、L(ck(n))MUDは対数尤度比を示し、Pr[ck(n)=1|r]は、受信信号ベクトルrを受信したときに符号語ビットck(n)が1となる確率を示す。また、Pr[ck(n)=0|r]は、受信信号ベクトルrを受信したときに符号語ビットck(n)が0となる確率を示す。
【0049】
また、式(9)の右辺の第一項は、外部情報(extrinsic information)であり、L(ck(n))e MUDとする。また、式(9)の右辺の第二項は、デコーダ11からフィードバックされる事前情報(a priori information)であり、L(ck(n))a MUDとする。初回のマルチユーザ検出処理ではL(cke DECは、全てゼロとする。対数尤度比L(ckMUDは、(10)式により算出することができる。
【0050】
【数10】
ここで、X1 k,nおよびX0 k,nは、推定信号xkのパターンをベクトルxとして記載したとき、xの集合Xのうち、ck(n)が1または0となることを条件としたXの部分集合を示す。Pr[x]は、デコーダ11からフィードバックされた事前情報L(cka MUDから求める。(9)式で求めたL(ckMUDからL(cka MUDを差し引くことで外部情報を求めて、これをデコーダ11へ事前情報L(cka DECとして渡す。
【0051】
次に、ステップS150において、マルチユーザ検出器10は、ステップS140により算出した対数尤度比に基づいて、送信信号に含まれる情報を推定する。ステップS150において、マルチユーザ検出器10は、例えば対数尤度比の符号に基づいて、送信信号に含まれる情報を推定する。かかる場合、例えばデコーダ11から出力されたビット列bkに対して、ステップS110により付与された符号にCRCによる誤り検出を行い、誤りなしと判定されたビット列bkの推定信号を送信信号として推定してもよい。また、誤りなしと判定された推定信号の送信ビット列bkに対しては、通信路係数hk及び伝搬遅延時間δkを用いて、再写像を行い、受信信号レプリカr‘k=hk・xk(i -δk)を作成する。この受信信号レプリカr‘kを受信信号ベクトルrから差し引くことで、第2通信局の間の干渉の抑圧及び除去を行うことができる。ステップS150において、誤りありと判断された場合、デコーダ11は、マルチユーザ検出器10の事前確率算出部(APP)103に事前情報L(cka MUDをフィードバックし、再びステップS140により、対数尤度比を算出する尤度交換処理を行う。マルチユーザ検出器10とデコーダ11と間での尤度交換処理を、全推定信号のビット列bkに対して誤りなしと判定されるまで、もしくは所定の尤度交換上限回数まで繰り返す。上述した各ステップを行うことにより、無線信号処理システム100の動作が終了する。これにより、大規模接続のための反復型MUDとして用いた場合においても、計算時間の短縮が可能となる。
【0052】
次に、本実施形態の無線信号処理システム100を用いて、送信信号を推定した実験結果について説明する。図4(a)は、推定信号のパターンを選択しない場合の確率分布を示すグラフである。図4(b)は、本実施形態における無線信号処理システムを用いた場合の確率分布を示すグラフである。図4(a)及び図4(b)の縦軸は確率であり、横軸は推定誤差である。図4(a)に示す、推定信号のパターンを選択しない場合の確率分布は、例えば本実施形態におけるステップS120を行うことなく、推定信号が取り合えるすべてのパターンに基づいて算出された確率分布である。図4(a)及び図4(b)に示すように確率分布の比較に差がないことから、本実施形態における無線信号処理システム100を用いた場合の確率分布と推定信号が取り合えるすべてのパターンに基づいて算出された確率分布との精度に差がないとみなすことができる。
【0053】
図5(a)は、本実施形態における1回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(b)は、本実施形態における2回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(c)は、本実施形態における3回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(d)は、本実施形態における4回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(e)は、本実施形態における5回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(f)は、本実施形態における6回目のビットエラー率を示すグラフである。図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)、図5(f)の各棒グラフは、第2通信局毎のエラー率の高さを示す。図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)、図5(f)は、それぞれステップS140及びステップS150の尤度交換処理の回数毎のビットエラー率を示す。図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)、図5(f)に示すように、尤度交換処理の回数を重ねる毎にビットエラー率が低下し、6回の尤度交換処理により、全ての第2通信局において、送信信号に含まれる情報を正しく検出することができている。
【0054】
図6は、第2通信局毎の相互情報量の推移の比較を示すグラフである。図6の縦軸は、相互情報量を示し、横軸は、尤度交換処理の回数を示している。図6において、QAは、本実施形態を用いた場合の相互情報量の推移を示し、EXACTは、本実施形態におけるステップS120を行うことなく、推定される全ての推定信号のパターンに基づいて算出された確率分布に基づいて算出された相互情報量の推移を示す。図6に示すように、本実施形態における無線信号処理システム100を用いた場合と推定されるすべての推定信号のパターンに基づいて算出された場合とにおいて、精度に差がないとみなすことができる。
【0055】
図7は、計算時間の比較を示すグラフである。図7の縦軸は、計算時間を示し、横軸は第2通信局の数を示す。QA(Net)は、本実施形態を用いた場合の計算時間を示し、QA(Total)は、本実施形態におけるステップS120を行うことなく、推定される全ての推定信号のターンを考慮した計算時間を示す。図7に示すように、本実施形態の無線信号処理システム100を用いた場合の計算時間が、推定される全ての推定信号のパターンを考慮した場合の計算時間の10分の1ほどに短縮することができている。このことから、大規模接続のための反復型MUDとして用いた場合においても、精度が衰えることなく、計算時間の短縮が可能となる。
【0056】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1 基地局
2 ユーザ端末
3 量子アニーリングマシン
10 マルチユーザ検出器
11 デコーダ
21 エンコーダ
22 変調器
100 無線信号処理システム
101 確率分布算出部
102 尤度比算出部
103 事前確率算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7