(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040080
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】電源回生コンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240315BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240315BHJP
【FI】
H02M7/12 B
H02M7/12 M
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144926
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大類 進
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正将
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊祐
【テーマコード(参考)】
5H006
5H770
【Fターム(参考)】
5H006BB01
5H006BB05
5H006CA01
5H006CB01
5H006CB08
5H006CC01
5H006CC02
5H006CC08
5H006DA04
5H006DB01
5H006DC02
5H006DC04
5H006DC05
5H770AA15
5H770BA11
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Z
5H770HA05Z
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】電力変換装置において、出力する直流電圧を適切な値に保ち、過変調やノイズの増加、スイッチングロスの増加、リアクトルを含むフィルタの発熱、負荷となる装置の絶縁劣化の増加を低減させる。
【解決手段】電動機に三相交流を出力するインバータと入力系統とする三相交流電源との間に配置され、電動機に発生する誘導起電力を三相交流電源に回生する電源回生コンバータであって、制御部は、交流電圧検出部で検出した入力系統の三相の交流電圧と、交流電流検出部で検出した三相の交流電流と、直流電圧検出部で検出した電源回生コンバータとインバータ間の直流電圧とに基づいて、PWM変調を行うための三相の交流電圧目標値を算出し、算出された三相の交流電圧目標値に基づいて、電源回生コンバータとインバータ間の直流電圧を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に三相交流を出力するインバータと入力系統とする三相交流電源との間に配置され、コンバート部により直流と交流の双方向変換を行い、前記電動機に発生する誘導起電力を前記三相交流電源に回生する電源回生コンバータであって、
前記コンバート部と前記三相交流電源との間に配置されるフィルタ部と、
入力系統とする前記三相交流電源と接続され、前記三相交流電源から供給される三相の交流電圧を検出する交流電圧検出部と、
前記フィルタと前記コンバート部間に流れる三相の交流電流を検出する交流電流検出部と、
前記電源回生コンバータと前記インバータとの間の直流電圧を検出する直流電圧検出部と、
前記交流電圧検出部で検出した三相の交流電圧と、前記交流電流検出部で検出した三相の交流電流と、前記直流電圧検出部で検出した前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧とに基づいて、前記PWM変調を行うための三相の交流電圧目標値を算出する制御部とを有し、
前記制御部は、算出された三相の交流電圧目標値に基づいて、前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧を制御することを特徴とする電源回生コンバータ。
【請求項2】
前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧目標値は、前記三相の交流電圧目標値の定数倍とすることを特徴とする請求項1記載の電源回生コンバータ。
【請求項3】
電動機に三相交流を出力するインバータと入力系統とする三相交流電源との間に配置され、コンバート部により直流と交流の双方向変換を行い、前記電動機に発生する誘導起電力を前記三相交流電源に回生する電源回生コンバータであって、
前記コンバート部と前記三相交流電源との間に配置されるフィルタ部と、
前記電源回生コンバータが出力する三相の交流電圧を検出する交流電圧検出部と、
前記コンバート部間に流れる三相の交流電流を検出する交流電流検出部と、
前記電源回生コンバータと前記インバータとの間の直流電圧を検出する直流電圧検出部と、前記交流電圧検出部で検出した三相の交流電圧と、前記交流電流検出部で検出した三相の交流電流と、前記直流電圧検出部で検出した前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧とに基づいて、前記PWM変調を行うための三相の交流電圧目標値を算出する制御部とを有し、
前記制御部に入力される直流電圧目標値として、前記交流電圧検出部から検出された交流電圧値に基づいて、前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧目標値を算出することを特徴とする電源回生コンバータ。
【請求項4】
電動機に三相交流を出力するインバータと入力系統とする三相交流電源との間に配置され、コンバート部により直流と交流の双方向変換を行い、前記電動機に発生する誘導起電力を前記三相交流電源に回生する電源回生コンバータであって、
前記コンバート部と前記三相交流電源との間に配置されるフィルタ部と、
前記フィルタ部の電圧ドロップ分を検出するフィルタドロップ電圧検出回路と、
前記入力系統とする前記三相交流電源と接続され、前記三相交流電源から供給される三相の交流電圧を検出する交流電圧検出部と、
前記フィルタと前記コンバート部間に流れる三相の交流電流を検出する交流電流検出部と、
前記電源回生コンバータと前記インバータとの間の直流電圧を検出する直流電圧検出部と、
前記交流電圧検出部で検出した三相の交流電圧と、前記交流電流検出部で検出した三相の交流電流と、前記直流電圧検出部で検出した前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧とに基づいて、前記PWM変調を行うための三相の交流電圧目標値を算出する制御部とを有し、
前記制御部に入力される直流電圧目標値として、前記フィルタドロップ電圧検出回路から検出される電圧ドロップ分と前記交流電圧検出部から検出される電源電圧と交流電流検出部から検出される交流電流に基づいて、前記電源回生コンバータと前記インバータ間の直流電圧を算出することを特徴とする電源回生コンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源回生コンバータに係り、特に、出力する直流電圧を適切な値に保ち、発熱を押さえ、負荷系統となる電動機等の劣化を防止するのに好適な電源回生コンバータに関する
【背景技術】
【0002】
三相交流を入力系統電源とし、コンバータとインバータの構成からなる電力変換装置を介して、負荷系統の電動機に電力を供給する電源系統システムにおいては、周波数設定を急激に下げたり、減速などの時にインバータの出力周波数よりも電動機の実速度のほうが大きくなった状態で運転すると、電動機からインバータへ電気エネルギーが戻ってくることがある。一般にこれを「回生」または「電源回生」という。
【0003】
通常、回生エネルギーはインバータの直流部に接続した回生放電抵抗器で熱に換えて消費させるが、電源回生コンバータは、この回生エネルギーを、電源側に戻すことにより、むだに消費していたエネルギーを再利用することができるようにした装置である。
【0004】
このような電源回生コンバータでは、一般的に、交流から直流への変換後の直流電圧を制御指令とする制御を行っている。直流電圧の制御指令値は、電源回生コンバータに接続されるインバータまたは電源回生コンバータ自身が系統側に対して行うPWM変調が過変調とならぬような設定が好ましく、この設定の下限値は、電力変換装置全体が負荷側または入力系統側に出力すべき交流電圧により決定される。
【0005】
これに関連して、特許文献1には、ドライブシステムに用いられ電力変換装置において、負荷となる電動機の回転速度に応じた直流電圧の可変指令を可能にし、運転効率を改善した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のコンバータとインバータ機能を有する電力変換装置では、様々な運転状況を想定し、回生時の出力交流電圧が最大となる値に基づいて直流電圧の設定値を決定していた。このような直流電圧の設定では、運転状態によって変化する下限値に対して常に高い値の電圧を印加することになるため、コンバータとインバータが有する双方の主素子のスイッチングロスの増加、リアクトルを含むフィルタの発熱増加や、負荷となる装置の絶縁劣化を早める原因となる。
【0008】
そのため、コンバータの出力する直流電圧を抑えるため、特許文献1に記載されているような直流電圧を可変させることで各所にかかる負荷を低減する技術を電源回生コンバータに適用することが考えられる。
【0009】
しかしながら、電源回生コンバータと系統電源との間には通常フィルタ等が設置されるため、電源回生コンバータが負荷系統側に出力する電圧と入力系統電圧とに差が生じる。そのため、電圧の変動により、電源回生コンバータがインバータ側に出力する直流電圧が想定とは異なる電圧となってしまい、過変調やスイッチングロスの増加、ノイズの増加等の課題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、出力する直流電圧を適切な値に保ち、過変調やノイズの増加、スイッチングロスの増加、リアクトルを含むフィルタの発熱、負荷となる装置の絶縁劣化の増加を低減する電源回生コンバータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電源回生コンバータの構成は、好ましくは、電動機に三相交流を出力するインバータと入力系統とする三相交流電源との間に配置され、コンバート部により直流と交流の双方向変換を行い、電動機に発生する誘導起電力を三相交流電源に回生する電源回生コンバータであって、コンバート部と三相交流電源との間に配置されるフィルタ部と、入力系統とする三相交流電源と接続され、三相交流電源から供給される三相の交流電圧を検出する交流電圧検出部と、電源回生コンバータに流れる三相の交流電流を検出する交流電流検出部と、電源回生コンバータとインバータとの間の直流電圧を検出する直流電圧検出部と、交流電圧検出部で検出した三相の交流電圧と、交流電流検出部で検出した三相の交流電流と、直流電圧検出部で検出した電源回生コンバータとインバータ間の直流電圧とに基づいて、PWM変調を行うための三相の交流電圧目標値を算出する制御部とを有し、制御部は、算出された三相の交流電圧目標値に基づいて、電源回生コンバータとインバータ間の直流電圧を制御するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力する直流電圧を適切な値に保ち、過変調やノイズの増加、スイッチングロスの増加、リアクトルを含むフィルタの発熱、負荷となる装置の絶縁劣化の増加を低減する電源回生コンバータを提供することのない電源回生コンバータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る電力変換装置の回路構成図である。
【
図2】制御部の詳細な機能を示すブロック図である。
【
図3A】電源電圧、フィルタドロップ電圧、コンバート部入出力交流電圧のベクトル関係と、交流電流のdq軸で表現の関係を示す図である(その一)。
【
図3B】電源電圧、フィルタドロップ電圧、コンバート部入出力交流電圧のベクトル関係と、交流電流のdq軸で表現の関係を示す図である(その二)。
【
図3C】電源電圧、フィルタドロップ電圧、コンバート部入出力交流電圧のベクトル関係と、交流電流のdq軸で表現の関係を示す図である(その三)。
【
図3D】電源電圧、フィルタドロップ電圧、コンバート部入出力交流電圧のベクトル関係と、交流電流のdq軸で表現の関係を示す図である(その四)。
【
図3E】電源電圧、フィルタドロップ電圧、コンバート部入出力交流電圧のベクトル関係と、交流電流のdq軸で表現の関係を示す図である(その五)。
【
図3F】電源電圧、フィルタドロップ電圧、コンバート部入出力交流電圧のベクトル関係と、交流電流のdq軸で表現の関係を示す図である(その六)。
【
図4】実施形態2に係る電力変換装置の回路構成図である。
【
図5】実施形態3に係る電力変換装置の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る各実施形態を、
図1ないし
図5を用いて説明する。
【0015】
〔実施形態1〕
以下、本発明に係る実施形態1を、
図1ないし
図3Fを用いて説明する。
【0016】
先ず、
図1を用いて実施形態1に係る電力変換装置の回路構成について説明する。
実施形態1に係る電力変換装置100は、
図1に示されるように、三相交流の主電源1を入力として、負荷系統として、三相交流で動作する電動機7が接続され、電源回生コンバータ20とインバータ6を有する形態である。
【0017】
図1の回路では、線上の(/n)は、n(nは、1以上の整数)本の物理的ラインからなることを示している。
【0018】
電源回生コンバータ20は、力行時(電動機7に電力を供給している状態)では、主電源1からの三相交流の入力電源を直流に変換し、回生時(電動機7が誘導起電力を発生している状態)では、直流を三相交流に変換して、主電源1に電力を放電する。
【0019】
電源回生コンバータ20は、フィルタ部2、制御部3、コンバート部4、平滑コンデンサ5、電源位相検出変圧器8、電流検出器9、直流電圧検出器10を有する。
【0020】
フィルタ部2は、主電源1に接続されノイズを低減する。コンバート部4は、力行時に交流を直流に、また、回生時に直流を交流に双方向に変換する回路である。電源位相検出変圧器8は、電源電圧の振幅と位相を検出するため変圧器である。
【0021】
コンバート部4は、力行時には、主電源1から供給された三相交流電力を、電圧が可変可能な直流電力(電圧Vdc)に変換し、インバータ6に電力を供給する。また、回生時には、負荷であるインバータ6からの帰還エネルギーをPWM(Pulse Width Modulation)変調によって主電源1側に電源回生する。
【0022】
平滑コンデンサ5は、交流を直流に変換するための静電容量を蓄えるコンデンサ素子である。電流検出器9は、フィルタ部2とコンバート部4間のフィルタ部コンバート部間交流電流Iacを検出するための回路である。直流電圧検出器10は、平滑コンデンサ5の両端の電圧である直流電圧Vdcを検出する回路である。
【0023】
コンバート部4は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型トランジスタ)素子とフライホイールダイオード(還流ダイオード)が並列接続された6組分の主スイッチング素子からなる。IGBTは、パワートランジスタの一種であり、低い飽和電圧と、比較的速いスイッチング特性を両立させたことに特徴がある。また、フライホイールダイオードは、フライバック電圧を逃がすためのダイオードである。
【0024】
制御部3は、コンバート部に対して電圧変換の指令を与える回路である。制御部3には、電源位相検出変圧器8を介して電源電圧Vgridと、電流検出器9から検出されたフィルタ部コンバート部間交流電流Iacと、直流電圧検出器10から検出された直流電圧Vdcとが入力され、例えば、コンバート部4のIGBT素子とフライホイールダイオードが並列接続された6組分の主スイッチング素子をPWM制御によって制御する。
【0025】
インバータ6は、力行時では、電源回生コンバータ20の出力する直流を負荷系統に供給する三相交流に変換し、回生時では、電動機7からの回生エネルギーを、電源回生コンバータ20に流す。
【0026】
以上の構成において、コンバート部4が運転を開始し平滑コンデンサ5の両端から直流電圧Vdcを出力する場合、インバータ6および電動機7の運転状況によって出力する直流電圧の下限値は変化する。以下では、その理由を説明する。
【0027】
種類を限定しない変換回路(「種類を限定しない」とは、コンバータまたはインバータのいずれも含まれるという意味)において、PWM変調によって直流電圧から交流電圧波形を作る場合、パルスの幅を調整することにより、出力する交流電圧を調整する。これによって所望する交流電圧を得る場合、同じ出力を行う場合でも直流電圧が高ければパルスの幅を細く、直流電圧が低くなればパルス幅を太くすることで調整を行うことになる。このとき、パルスの間隔を一定以上に保つことができなくなると、過変調を引き起こし正確な出力が不可能となる。よって、直流電圧の下限値は所望する交流出力電圧に依存することになる。
図1に示したコンバート部4の場合には、具体的には、出力すべき直流電圧Vdcの下限値は、コンバート部4が主電源1側へ出力するコンバート部入出力交流電圧Vacに依存することになる。
【0028】
ところで、
図1で示すような電力変換装置100においては、コンバート部4が出力すべきコンバート部入出力交流電圧Vacは、例えば、電動機7が回生時は、力行時と比較して高い交流電圧が要求される。これは、電動機7にかかる負荷が変化し、要求トルクが変化した場合なども同様であり、高負荷の場合には、低負荷の場合と比較して高い交流電圧が要求される。このように力行・回生などの運転条件や、負荷状況などの運転状態によって要求される交流電圧は変化する。そのため運転の状況に応じて直流電圧の下限値も変化することとなる。
【0029】
直流電圧Vdcは上記理由により、個々の運転状況に対して一定の下限値を設定することが困難であるため、想定される運転状況における最大となる直流電圧値で一定とする場合が多い。
【0030】
しかし、直流電圧Vdcを一定とした場合、運転状況によって大きな電圧を必要としない場合でも、常に最大値での出力を続けることになる。
【0031】
このような変換回路を用いた駆動の場合には、直流電圧が高くなると主素子スイッチングロスの増加、リアクトル含むフィルタの発熱量増加、電動機の絶縁劣化、ノイズの増加などの弊害や懸念がある。これらの観点から直流電圧Vdcは、運転状況によって変化するコンバート部入出力交流電圧Vacとともに可変な適切な値にし、出力を低く保つことが望ましい。
【0032】
直流電圧Vdcを可変させる制御手法の一例としては、コンバータが出力すべき交流電圧として、電源の電圧を監視し電源の三相交流値から直流電圧を可変させる方法があげられる。この手法を、
図1における電力変換装置100の例に適用すると、制御部3が用いる入力量として、コンバート部4が主電源1側に出力するコンバート部入出力交流電圧Vacではなく、電源電圧Vgridが用いられ、出力直流電圧Vdcが算出される。しかしながら、
図1に示される電力変換装置100の場合には、例えば、フィルタ部2のような主電源1とコンバート部4の間に位置する部分が必須となるため、電源電圧Vgridと本来計算に必要なコンバート部入出力交流電圧Vacには、フィルタ部2で消費されるフィルタドロップ電圧VLの分、差が生じてしまう。本実施形態の制御部3では、この差を解消し、真に必要となるコンバート部入出力交流電圧Vacを算出するようにしたものである。
【0033】
以下では、
図2ないし
図3Fを用いて制御部の動作について説明する。
【0034】
制御部3は、PI制御部11、交流電圧制御値算出部12、PWM変調部13を有する。
【0035】
PI制御部11は、直流電圧制御指令値Vdc_refと実際に直流電圧検出器10から検出される直流電圧Vdcの差分を減算器で算出し、その差分からq軸電流の目標値Iq_refを算出する。
【0036】
交流電圧制御値算出部12は、q軸電流の目標値Iq_refと、別途与えられるd軸電流の目標値Id_refと、電流検出器9で検出されたフィルタ部コンバート部間交流電流Iacの情報からdq軸座標系での交流電圧制御値Vacrを算出する。なお、ここでは、d軸電流の目標値Id_ref=0とする。
【0037】
d軸、q軸とは、電動機、発電機の分野で用いられる固有の座標系であるd-q回転座標系での座標軸であり、3相交流によって生じる回転磁界やロータ(回転子)と同期しながら回転する座標軸である。
【0038】
制御部3は、交流電圧制御値Vacrと電源位相検出変圧器8から検出された電源電圧Vgridによりコンバート部4から出力される交流電圧の指令値Vac_refを算出し、PWM変調部13は、指令値Vac_refに基づき、交流電圧出力Vacが指令値Vac_refに近づくようなPWM制御を行う。
【0039】
電源電圧Vgridは、電源位相検出変圧器8により検出され、電源電圧における三相各相の電圧瞬時値を保つ値であり、制御部3に入力される。この電源電圧Vgridは、dq変換によりdq座標系への値VdとVqとして表現される。
【0040】
また、電流検出器9で検出されたフィルタ部コンバート部間交流電流Iacは、フィルタ部2およびコンバート部4間における三相各相の電流瞬時値を保つ値であり、電圧位相θを用いて、dq変換されることにより、直流座標系上の無効電流Idと有効電流Iqとして表現される。これらの無効電流Id、有効電流Iq、およびq軸電流目標値Iq_ref、d軸電流目標値Id_refは、交流電圧制御値算出部12に入力される。
【0041】
交流電圧制御値算出部12は、フィルタ部2のフィルタドロップ電圧VLを、フィルタ補償項として加算した上で、dq軸それぞれで指令値と検出値を比較し差分を比例積分(PI)算出することにより、d軸の電圧指令vdとq軸の電圧指令vqを得る。
【0042】
制御部3は、交流電圧制御値算出部12で算出されたd軸の電圧指令vdとq軸の電圧指令vq、それぞれに電源電圧Vgridのd軸の値であるVdとq軸の値であるVqを加算することにより、d軸の出力電圧指令値Vd_refとq軸のVq_refを得る。これを逆dq変換することにより、三相の瞬時交流電圧指令値Vac_refを得る。この瞬時交流電圧指令値Vac_refをPWM変調部13に入力し、キャリア波と比較することにより、六つのPWMスイッチング信号を得る。
【0043】
瞬時交流電圧指令値Vac_refは、コンバータが主電源1側に出力する交流電圧計算値となる。瞬時交流電圧指令値Vac_refの値は、コンバート部入出力交流電圧Vacの制御指令値であるため、コンバート部入出力交流電圧Vacは、瞬時交流電圧指令値Vac_refに漸近していく値になる。
【0044】
ところでコンバート部入出力交流電圧Vacと電源電圧Vgrid、フィルタ部2のフィルタドロップ電圧VLの関係は、以下の(式1)で表現される。
Vgrid=Vac+VL …(式1)
(式1)が表現する関係は、
図3Aないし
図3Fに示すグラフによって、有効電流Idと無効電流Iqの正負の別に、図式的に表すことができる。なお、図では、ベクトル表現として、I=(Id,Iq)としている。電源電圧Vgridが一定であると仮定した場合、有効電流Idと無効電流Iqの関係によって、dq軸上に表現されるコンバート部入出力交流電圧Vac、フィルタドロップ電圧VLのベクトルは変化する。
【0045】
例えば、
図3Aないし
図3Fのような関係が成り立つ場合において、出力すべき交流電圧Vacは可変であり、出力すべき直流電圧Vdcの下限値も可変する。
【0046】
従来技術による手法では、例えば、直流電圧制御指令値Vdc_refの値を求める場合には、定数kを用いて、以下の(式2)により算出される。
Vdc_ref=Vgrid×k …(式2)
(式2)を、
図3Aと
図3Cを例に考えると、出力するVacの値が異なるため実際に必要となるVdc_refは異なるが、Vgridは一定であるため、Vdc_refの値は、
図3Aと
図3Cの両方の場合で同じ値となる。このため(式2)により直流電圧制御指令値Vdc_refを算出する従来の手法では、Vacの変化に追従できず、直流電圧指令値Vdc_refに誤差が生じる。
【0047】
そこで、本実施形態のように、直流電圧指令値Vdc_refを計算するために、制御部3においてPWM変調部13に入力される瞬時交流電圧指令値Vac_refを、Vgridの代わりに計算に用い、定数kを用いると、直流電圧指令値Vdc_refは、以下の(式3)で表すことができる。
Vdc_ref=Vac_ref×k …(式3)
(式3)の瞬時交流電圧指令値Vac_refは、コンバート部入出力交流電圧Vacの計算値であるため、コンバート部入出力交流電圧Vacの参照基準値となる。よって
図3Aないし
図3Fに示す有効電流Iqおよび無効電流Idの値の変化にVacを測定器を用いて測定し計算した時と同様に追従し、直流電圧指令値Vdc_refにコンバータが交流電流を出力するために必要な分の指令値を入力することができる。
【0048】
以上のように本実施形態は、交流電源に接続されて、交流電力を直流電力に直流電力を交流電力に双方向に変換可能な回生コンバータであって、回生コンバータは系統電源電圧の検出値と直流電圧部の検出値と交流電流の検出値と指令電圧との差分に基づいて出力する交流電圧を制御し、制御過程で算出された交流電圧計算値に比例した直流電圧指令を行うように構成する。
【0049】
これにより、交流電圧を出力するための直流電圧の値を運転状況による変化に対して適した値に保つことができるため、過変調やノイズの増加、スイッチングロスの増加、リアクトルを含むフィルタの発熱、負荷となる装置の絶縁劣化の増加を低減させることができる。
【0050】
しかも、本実施形態における電力変換装置で構築した電力変換装置の場合では、新規の信号の追加を必要としない。
【0051】
〔実施形態2〕
以下、本発明に係る実施形態2を、
図4を用いて説明する。
【0052】
図4は、実施形態2に係る電力変換装置の回路構成図である。
本実施形態の電力変換装置の構成と機能は、
図1で示した実施形態1の電力変換装置100とほぼ同様であるが、
図4に示さるように、フィルタ部2、コンバート部4の間に、コンバート部入出力交流電圧検出器30を追加し、コンバート部入出力交流電圧検出器30で検出されたコンバート部入出力交流電圧Vacが入力される構成になっている。
【0053】
内部計算において、直流電圧指令値Vdc_refを計算するために、コンバート部入出力交流電圧Vacを用い、定数kを用いて、以下の(式4)で算出する。
Vdc_ref=Vac×k …(式4)
直流電圧Vdcと、指令値Vdc_refの関係、その後の制御は、実施形態1と同様である。
【0054】
〔実施形態3〕
以下、本発明に係る実施形態3を、
図5を用いて説明する。
【0055】
図5は、実施形態3に係る電力変換装置の回路構成図である。
本実施形態の電力変換装置の構成と機能は、
図1で示した実施形態1の電力変換装置100とほぼ同様であるが、
図5に示されるように、フィルタ部2にフィルタドロップ電圧検出回路40が取り付けられ、フィルタドロップ電圧VLが入力される構成になっている。
【0056】
フィルタドロップ電圧VLと電源電圧Vgridと、交流電流値Iacとを用いることでコンバータの出力している交流電圧値Vacを算出しその値から出力すべき直流電圧Vdc_refを算出する。
【0057】
その後の指令値Vdc_refの取扱いは、実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0058】
1…主電源、2…フィルタ部、3…制御部、4…コンバート部、5…平滑コンデンサ、6…インバータ、7…電動機、8…電源位相検出変圧器、9…電流検出器、10…直流電圧検出器、11…PI制御部、12…交流電圧制御値算出部、13…PWM変調部、
20…電源回生コンバータ、
30…コンバート部入出力交流電圧検出器
40…フィルタドロップ電圧検出回路
100…電力変換装置