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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040092
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】紡績用葉脈葉繊維
(51)【国際特許分類】
   D01C 1/00 20060101AFI20240315BHJP
   D02G 3/02 20060101ALI20240315BHJP
   D01B 1/10 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
D01C1/00 B
D02G3/02
D01B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022157127
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(71)【出願人】
【識別番号】517335318
【氏名又は名称】株式会社フードリボン
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】長谷場 咲可
(72)【発明者】
【氏名】藤井 透
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA08
4L036MA35
4L036MA39
4L036PA26
4L036PA31
4L036PA33
4L036RA14
(57)【要約】
【課題】葉脈繊維を用いて、30綿番手までの細い紡績糸を製造できる微細葉脈繊維、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】果肉を除去した、最大繊維幅が50μm以上の葉脈粗繊維束を、常温・高濃度水酸化ナトリウム処理工程およびローラカード機による解繊工程からなる分繊プロセスにより、高い捲縮性と高い破断伸度を有し、平均繊維幅が15μmから50μmの範囲で分布する紡績用素繊維を製造する。また、大きな強力を有する紡績糸を得るため、果肉を除去した、最大繊維幅が50μm以上の葉脈粗繊維束を、セルラーゼ酵素処理工程、高濃度水酸化ナトリウム処理工程およびローラカード機による解繊工程からなる分繊プロセスにより、分離した葉脈単繊維が絡み、付着した平均繊維幅が15μmから50μmの範囲で分布する紡績用素繊維を製造する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芭蕉科のバナナの仮茎、またはパイナップル科のパイナップルの葉から得られた断面の平均繊維幅が15μm~50μm、長さ15mm以上で、表面の一部がフィブリル化するとともに、分離した単繊維が表面に付着した微細葉脈繊維。
【請求項2】
芭蕉科のバナナの仮茎、またはパイナップル科のパイナップルの葉から得られた断面の平均繊維幅が15μm~50μm、長さ15mm以上で、捲縮率が2%以上の微細葉脈繊維。
【請求項3】
芭蕉科のバナナの仮茎、またはパイナップル科のパイナップルの葉から得られた断面の平均繊維幅が15μm~50μm、長さ15mm以上で、伸度が8%以上の微細葉脈繊維。
【請求項4】
芭蕉科のバナナの仮茎、またはパイナップル科のパイナップルの葉から得られた断面の平均繊維幅が15μm~50μm、長さ15mm以上の微細繊維であって、セルロースII型を含み、その結晶化度が70%未満の微細葉脈繊維。
【請求項5】
請求項1から4までの微細葉脈繊維であって、各請求項を2つ以上満たす微細葉脈繊維。
【請求項6】
請求項1~請求項4までの微細葉脈繊維を単独、または綿、その他の天然繊維、あるいはレーヨンなどの半合成繊維、ポリエステルなどの合成繊維と混紡した紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績糸に用いられる天然植物繊維に関するものであって、より詳しくは、紡績可能な葉脈繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
持続的再生産可能社会の形成と地球温暖化効果ガスの一つであるCO2排出削減のため、石油由来の化学繊維に替え、天然植物繊維の需要が増している。しかし、衣類用に用いられる紡績糸の原料は、種子繊維であるコットンや、靭皮繊維である亜麻(リネン)、大麻(ヘンプ)、苧麻(ラミー)などに限られている。衣類用では、しなやかな織布を作ることのできる細い糸が求められる。
【0003】
紡績に用いる一本、一本の原料繊維を素繊維束と呼ぶ。コットンの場合、単繊維(製紙産業ではパルプと呼ばれる)が素繊維となる。その断面の最大幅(以下、繊維幅という)は25μm以下でありながら、長さは20mm以上ある。加えて、コットン素繊維は繊維方向に捲縮しており、互いに絡み易く、細くて強い紡績糸を作ることができる。図1にコットン繊維のSEM写真を示す〔非特許文献1〕。長さが38mm以上のコットン素繊維を用いた場合、90綿番手以上の極細紡績糸を作ることができる。
【0004】
このように、細く、かつ機械式織機の経糸にも使える強い引張り強度を有する紡績糸を作るためには、紡績に用いる素繊維が、(1)細くて長いこと、(2)捲縮し、互いに絡み易いこと、(3)紡績糸中で素繊維同士が抜けないための高い摩擦係数を有すること、が求められる。
【0005】
(2)の捲縮率が低くとも、素繊維表面の摩擦係数が高い場合も、少ない数の素繊維で細いながらも強く絡み合った紡績糸を作ることができる。
【0006】
強撚糸や双糸、三子糸を作るため、また、紡績糸が織布中で大きく屈曲しても切れない強度を保つためには、素繊維が、(4)大きな破断伸度を有すること、が求められる。
【0007】
亜麻、大麻、苧麻などの麻繊維では、断面の最大繊維幅が25μm以下の細い単繊維も存在するが、これらの単繊維はペクチンなどの接着成分で互いに強くくっ付いている。
【0008】
図2に亜麻の微細断面構造を示す〔非特許文献2〕。靭皮中に単繊維が存在する。麻系の単繊維には、中央にルーメンと呼ばれる空洞が存在する。これは、単繊維が硬壁細胞であることを示している。亜麻では、バイオレッチング後、スカッチング、ハックリングにより太い粗繊維を得る。
【0009】
得られた粗繊維は10数本から数10本の単繊維を含む。その後、櫛梳き工程で少ない数の単繊維で構成される素繊維に分繊する。しかし、得られた素繊維の断面の差し渡し最大寸法は数10μm以上あり、コットンのような細い紡績糸を紡ぐことはできない。また、ほとんど捲縮せず、表面も滑らかである。そのため、亜麻を原料とするリネンでは湿式紡績が用いられるが、細い紡績糸を得ることは難しい。
【0010】
今後の衣類用天然植物繊維の需要増に対して、コットン、麻系繊維だけでは十分な供給量を確保できない。
【0011】
一方、芭蕉科のバナナなどの仮茎からはロープなど工業用の葉脈繊維が得られる。芭蕉科の葉脈繊維は葉柄繊維と呼ばれることもあるが、ここでは葉脈繊維と呼ぶ。
【0012】
同様に、パイナップル科のパイナップルの葉からも葉脈繊維が得られる。
【0013】
図3は、樹脂で固めたマニラ麻粗繊維集合体の断面SEM写真で、各粗繊維の断面の差し渡し最大寸法は200μmを越える〔非特許文献3〕。同じ芭蕉科であっても、マニラ麻の場合、粗繊維を構成する単繊維には苧麻と同様、中央に大きなルーメンが存在する。
【0014】
葉や仮茎の果肉を機械的に剥ぎ取ることにより、長さ50cm以上の葉脈粗繊維が容易に取り出せる。しかし、粗繊維が太いため、また、分繊も難しいため、それらは紐やロープ、紐を織った袋など、専ら工業用途に用いられる。
【0015】
葉脈粗繊維を分繊し、繊維長が長く、断面の最大幅が小さく、かつ捲縮率が高い、あるいは表面の摩擦係数が高い素繊維が得られれば、細い紡績糸を紡ぐことができる。
【0016】
紡績糸の強力を高めるためには撚りを強くする必要がある。また、紡績糸の屈曲に対する強度、耐久性を高めるためには、素繊維に大きい破壊伸度が求められる。素繊維の剛性が小さくなれば、紡績糸の屈曲性も高まり、柔らかい織布が得られる。
【0017】
素繊維が短くても、捲縮率が高い、あるいは摩擦係数が高ければ、コットンあるいはその他の天然繊維、またはレーヨンなどの半合成繊維との混紡により紡績糸を紡ぐことができる。
【0018】
バナナやパイナップルでは採実後、伐採されるため、その茎(バナナ)や葉(パイナップル)は廃棄されるが、これから素繊維が得られれば、資源の有効活用が図れる。
【0019】
しかし、十分細くて長い葉脈素繊維が得られたとしても、複数の単繊維で構成される素繊維は真直で、強く捲縮していないことが多い。また、表面が滑らかな場合、素繊維間の摩擦係数も小さく、細くて強い紡績糸を作ることはできない。
【0020】
麻系の靭皮繊維では、粗繊維の分繊により細い素繊維を得るために靭皮のバイオレッチング以外に、苧麻などでは水酸化ナトリウム水溶液によるケミカルレッチングが行われる。
【0021】
芭蕉科のバナナの仮茎、またはパイナップル科のパイナップルの葉を温度50℃以上、濃度10%以上の水酸化ナトリウム水溶液で粗繊維束を30分以上処理した場合、粗繊維を構成する単繊維はバラバラになり、極めて細いが、長さが2mm以下の短い単繊維しか得られず、紡績用原料にできない。
【0022】
常温、2%以下の低濃度の水酸化ナトリウム水溶液に粗繊維を2時間浸漬した後、剣山により手で注意深く解繊した場合、図4〔非特許文献4〕に示すように、断面の最大繊維幅が50μm以下(図4(d))の紡績に供し得る長い素繊維も得られる。しかし、得られた素繊維の表面は滑らかで、素繊維間の摩擦係数は小さく、強く撚っても高い強力は得られない。
【0023】
また、水酸化ナトリウム水溶液の場合、処理条件により、単繊維の強度が損なわれ、素繊維の強度が大きく減ることもある。最適処理条件は粗繊維を得るバナナやパイナップルの種類、仮茎や葉の採取時期、保管条件により異なり、一定ではない。
【0024】
高速ジェット水流を用いることにより、バナナの仮茎やパイナップル葉から粗繊維を取り出すことができる〔特許出願文献1〕。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【非特許文献1】Abdelfattah F.Shaaban;“Characterization and evaluation of phosphorus/ nitrogen-containing polymer as a durable flame retardant for cotton fabrics”,J.of Appl.Chem.Sci.International Vol.3 No.1(2015)
【非特許文献2】原啓志;「製紙用麻類の構造について」、繊維機械学会誌33巻1号(1980)
【非特許文献3】高木均;「グリーンコンポジット」、日本機械学会誌、110巻、1059号(2007)
【非特許特許4】
Jyoti Jain,Shishir Sinha,Shorab Jain;“Compendious Characterization of Chemically Treated Natural Fiber from Pineapple Leaves for Reinforcement in Polymer Composites”,J.of Natural Fibers, Vol.18,No.6(2021)
【特許出願文献1】
整理番号P2022-0328A「葉脈粗繊維および紡績用微細葉脈繊維を製造する方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、葉脈繊維を用いて、10綿番手より細い紡績糸が製造できる微細葉脈素繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、バナナの仮茎、パイナップルの葉から抽出された単繊維の集合体の葉脈繊維であって、繊維断面の最大幅が50μm以上の粗繊維を(1)機械的、(2)化学的、(3)バクテリアによる生物学的、(4)酵素処理、のいずれか、またはこれらの組み合わせにより粗繊維の長手方向に沿って分繊され、葉脈繊維同士の紡績、またはコットンや麻など他の天然植物素繊維、あるいはレーヨンなどの半合成繊維との混紡が可能な捲縮率を高めた微細素繊維を提供するようにしたものである。
【0027】
また、上記処理により、素繊維の表面の一部がフィブリル化され、表面に分離した単繊維が付着し、表面の摩擦係数が高められ、高い強力の紡績糸が製造できる微細葉脈素繊維を提供するようにしたものである。
【0028】
さらに、上記処理により、素繊維の破断伸度を高めるとともに剛性を下げ、強撚が可能で、柔らかい紡績糸が製造できる微細葉脈素繊維を提供するようにしたものである。
【0029】
このような発明において、葉脈素繊維のみを用いた10綿番手相当以上の細い紡績糸の製造では、好ましくは平均繊維幅が50μm以下、長さ30mm以上の微細素繊維を用いる。コットンや麻をはじめとする他の繊維との混紡糸の製造では、好ましくは長さ15mm以上の微細素繊維を用いる。
【0030】
葉脈素繊維同士の紡績糸、またはコットンや麻など他の天然繊維との混紡糸には、素繊維に高い捲縮率が求められる。
【0031】
また、紡績糸では素繊維間の高い接合力も求められるため、素繊維間の高い摩擦係数が望まれる。この場合、素繊維の表面が滑らかでなく、凹凸があれば見かけの摩擦係数は高まる。
【0032】
葉脈繊維の単繊維が素繊維の表面から髭のように分離、フィブリル化するとともに、完全に分離した単繊維であってもこれが素繊維に付着すれば、素繊維の表面が凹凸になる。
【0033】
フィブリル化した単繊維は完全に素繊維から分離されるのではなく、その一端は素繊維に取り付いている。このようにすれば、素繊維表面が凸凹となり、素繊維間の見かけの摩擦係数が増す。
【0034】
また、各素繊維の単繊維が紡績糸中で互いに絡まれば、素繊維間の接合力が高まり、高い強力の紡績糸が得られる。
【0035】
高い強力の紡績糸を得るには、紡績に用いる粗繊維の捲縮率が高いことが望まれる。
【0036】
図1に示されるように、コットンは断面が扁平であり、かつ捲縮しているため、細い紡績糸が製造できる。
【0037】
果肉が機械的に削ぎ落とされた葉脈粗繊維束を、常温弱水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後、揉み洗いと櫛梳きおよび真水洗浄になる工程により、残存した果肉が取り除かれ、一本一本分離した粗繊維が製造される。
【0038】
上記工程において、葉脈粗繊維束を常温弱水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する代わりに、水、または温水、あるいは泥水に浸漬するバイオレッチング工程を用いても良い。
【0039】
また、水酸化ナトリウム水溶液に代え、木、竹、廃棄植物の灰汁、あるいは炭酸カリウム、または炭酸水素ナトリウムを用いてもよい。
【0040】
葉または仮茎から互いに分離した粗繊維を取り出すために、高圧ジェット水流を用いることもできる。
【0041】
上記工程で得た粗繊維を長さ30mmから50mmに裁断した後、ローラカード機を用いて解繊すれば、断面の平均繊維幅が15μmから50μm、繊維長が15mm以上の微細葉脈繊維が製造される。
【0042】
得られた素繊維の表面は滑らかであるが、一部の素繊維には髭状にはみ出た単繊維が認められることもある。
【0043】
上記のローラカード機を用いた解繊工程の前に、酵素処理する工程を行えば、表面の一部に単繊維が露出し、フィブリル化するとともに、分離した単繊維が表面に付着した微細葉脈繊維が製造される。
【0044】
さらに、上記のローラカード機を用いた解繊工程の前に、高濃度水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する工程を行えば、素繊維のセルロース結晶構造をI型からII型に変え、その伸度を8%以上に高めることができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、葉脈繊維を用いて、30綿番手で200cN(100%パイナップル葉脈素繊維)および250cN(50%コットンとの混紡糸)の高い引張強さを有し、柔らかな紡績糸を製造することができるようになる。
【0046】
また、パイナップル葉のように、従来捨てていたものから、しなやかな衣類が織れる紡績糸が製造でき、石油由来の合成繊維の使用量を減らすとともに、CO2削減にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】コットン素繊維のSEM画像
図2】亜麻の微細構造図
図3】マニラ麻の断面のSEM画像
図4】パイナップル葉の断面のSEM画像
図5】パイナップル葉の断面の光学顕微鏡画像
図6】ローラーカード機による解繊工程図
図7】高圧ジェット水流によりパイナップル葉脈粗繊維を取り出す工程図
図8】高圧ジェット水流により取り出されたパイナップル葉脈粗繊維の光学画像
図9】高圧ジェット水流で取り出したパイナップル葉粗繊維のSEM画像
図10】パイナップル葉粗繊維の解繊工程後のSEM画像
図11】酵素処理→強アルカリ処理→カード機による解繊工程後得られたパイナップル微細葉脈素繊維のSEM画像
図12】酵素処理のみパイナップル葉粗繊維のX線回折図
図13】酵素処理→強アルカリ処理したパイナップル葉粗繊維のX線回折図
図14】パイナップル葉繊維と綿混紡糸のSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0049】
この実施の形態における葉脈素繊維は、バナナの仮茎、またはパイナップルの葉から抽出されるものであって、分繊プロセスを経ることで、数本から10数本の単繊維で構成され、平均繊維幅が15μmから50μmの範囲内であって、紡績可能な長さに解繊させるようにしたものである。
【0050】
そして、このようにして葉脈素繊維を抽出することによって、細い繊維幅を有する素繊維から、コットンおよび麻などの他の天然繊維との混紡を含む紡績糸を製造できるようにしたものである。
【0051】
以下に、本実施の形態における素繊維、および、その製造方法について詳細に説明する。
【0052】
バナナは一旦実をつけると翌年は実ができず、実を収穫後、伐採され、茎は廃棄物となる。また、パイナップル葉も実を取った後は毎年廃棄され、バイオマスとして利用されてこなかった。
【0053】
図5に、パイナップル葉の断面を示す。
【0054】
図5において、写真中には、師部の廻りをU字型に囲む大きな単繊維集合体が認められる。導管の上側にも単繊維が丸く集合した繊維束が見える(図中、破線で囲んだ部分)。
【0055】
これらは、果肉を取り除いた後に得られる粗繊維の元となる。U字部分では、最大幅が100μm近くにもなる。細いものでは幅60μm以下のものもある(図中、破線で囲んだ部分)。
【0056】
単繊維の断面の最大幅は2μm~5μmで、繊維束の大きさと比べると極めて細い。
【0057】
凹凸のある床にパイナップル葉を置き、高圧ジェット水流を当てることにより粗繊維束が取り出せる。
【0058】
取り出された粗繊維を30mm~50mmの範囲で切断した後、そのままカード機で解繊しても断面の平均繊維幅が15μm~50μmで、長さ15mm以上の微細葉脈素繊維が得られる。このようにして得られた素繊維の表面は比較的滑らかであるが、一部の表面から単繊維が髭状に引き剥がれ、表面にも分離した単繊維が付着した素繊維も得られる。カード機を用いた解繊工程を(図6)に示す。
【0059】
切断された粗繊維を、セルラーゼ酵素を用い、酵素処理を行う。セルラーゼ酵素は、非晶領域の分解により素繊維表面の長さ方向に亀裂を生じさせ、一部表面から単繊維が引き剥がれフィブリル化する。その後、カード機を用いた解繊工程により、断面の平均繊維幅が15μm~50μm、長さ15mm以上で、素繊維表面の一部から多くの単繊維が髭状に引き剥がれフィブリル化するとともに、分離した単繊維が表面に多数付着した素繊維が製造される。
【0060】
高品位の素繊維を得るためには、上記の粗繊維の酵素処理後、常温で高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に短時間浸漬する強アルカリ処理を行った後、カード機により解繊する。処理後の粗繊維の減量率は20%を超える。中和、洗浄、乾燥後、カード機で解繊処理する。
【0061】
強アルカリ処理により、素繊維中のセルロースの結晶構造はI型からII型に変化する。これにより、素繊維の引張り弾性率は未処理に比べ、約2/3に低下し、柔らかくなるとともに、最大伸度が大きく増し、また、フィブリル化が進むとともに、素繊維の表面に付着する単繊維の量も増し、紡績しやすくなる。
【0062】
酵素処理後、強アルカリ処理により得られた素繊維を用いた紡績糸は、屈曲性に富み、高い強力を有する。
【0063】
酵素処理は、セルロースの結晶構造の変化を生じない。セルラーゼ酵素によるヘミセルロースやセルロースの非晶領域の分解は、強アルカリ処理による結晶構造の転移を促進させる。酵素処理後のセルロースの結晶構造はI型で、結晶化度は75%以上ある。未処理の粗繊維の強アルカリ処理はI型とII型が混在しているが、酵素処理後の強アルカリ処理は、II型へ転移し、結晶化度は60%以下である。
【実施例0064】
沖縄県大宜味村で採取されたパイナップル葉を、寸切りを多数並べた台(図7)上に置き、これに7MPaの高圧ジェット水流を当てて粗繊維を取り出した。
【0065】
このようにして取り出された粗繊維を図8に示す。図よりわかるように、高圧ジェット水流により取り出された粗繊維に果肉は殆ど付着していない。また、粗繊維同士が互いに十分分離されているとともに、一部の粗繊維は分繊され、素繊維が得られている様子も認められた(図9)。
【0066】
得られた粗繊維を長さ40mmに裁断した。含水率15%の状態で、メインドラムに歯高さ2.5~3mm、幅0.8~1mmのメタルワイヤー(金井重要工業(株)製)を装着したローラカード機で解繊した。
【0067】
これにより、断面の平均繊維幅15~50μm、平均繊維長さ25mmの素繊維を得た。表面の一部には髭状に飛び出た単繊維および分離した単繊維が表面に幾分付着しているのが認められた(図10)。
【0068】
この素繊維を用いて、リング紡績により15綿番手相当の紡績糸を得た。その強力は400cNであった。
【0069】
また、この素繊維を用いて、平均繊維長が38mmのコットンとの混紡により30綿番手相当の混紡糸を得た。混紡率は50%であり、JIS L 1095:2010一般紡績糸試験方法に基づき、次の条件で引張強さを評価した。引張強さの平均値は、260cNであった。
<引張試験条件>
有効試料長:500mm
引張速度:250mm/分
試験回数:50回
【実施例0070】
沖縄県大宜味村で採取されたパイナップル葉を高圧ジェット水流に当てて粗繊維を取り出した。
【0071】
得られた粗繊維を長さ40mmに裁断後、酵素処理および強アルカリ処理を行った。
【0072】
酵素処理の処理条件は次の通りである。処理後、80℃で10分間失活処理した。
使用酵素:セルラーゼ酵素(エンチロンCM-40L(洛東化成工業(株)製))
酵素濃度:2g/L
水素イオン濃度(pH):4.5
温度: 50℃
処理(浸漬)時間:60分
【0073】
強アルカリ処理の処理条件は次の通りである。処理後、酢酸で中和および水洗した。
使用アルカリ水溶液:水酸化ナトリウム
濃度: 15%
温度: 20℃
処理(浸漬)時間:10分
【0074】
これらの処理を行った素繊維を、含水率15%の状態で、メインドラムに歯高さ2.5~3mm、幅0.8~1mmのメタルワイヤー(金井重要工業(株)製)を装着したローラカード機で解繊した、得られた素繊維のSEM写真を図11に示す。
【0075】
高速X線回折測定システムSmartLab 9kW((株)リガク)で結晶構造を調べた。測定条件は次のとおりである。図12は酵素処理のみした粗繊維の回折図、図13は酵素処理後に強アルカリ処理した粗繊維の回折図である。その結果、図13は、酵素処理のみでは見られない、セルロースII型を示す、12.1°、19.8°、21.8°に明瞭な回折ピークがあり、素繊維のセルロースの結晶がI型からII型に変態したことが明らかとなった。また、結晶化度を、非結晶面積と結晶面積の比率から算出した結果、図12の結晶化度は、80.8%、図13は、56.7%となった。
<測定条件>
出力:45kV、200mA(9kW)
ターゲット:銅、
検出器:1次元および2次元半導体検出器
走査速度10° /min
走査範囲2θ:5~35°
【0076】
アルカリ処理前の酵素処理により粗繊維の分繊が進み、セルロースの変態が十分進んだ。また、高圧ジェット水流で取り出した直後の粗繊維の重量と比較すると、酵素処理および高アルカリ処理により繊維重量の減量率は25.1%であった。
【0077】
未処理の素繊維とアルカリ処理後の繊維を次の条件で、引張強さおよび破断伸度を測定した。なお、引張強さは、デシテックス(dtex)当たりの強さを算出した。その結果、未処理の引張強さの平均値は、51.9(mN/dtex)に比べ、アルカリ処理後は、32.3(mN/dtex)と低下するが、破断伸度の平均値は、6.1%から12.8%と2倍以上増加した。
<引張試験条件>
有効試料長:15mm
引張速度:1.5mm/分
試験回数:13回
【0078】
処理後の素繊維のヤング率は未処理の素繊維のそれに比べて2/3まで減じており、柔らかい素繊維が得られた。
【0079】
JIS L1015(化学繊維ステープル試験方法)に準拠して、次の条件で繊維の捲縮の状態を調べたところ、処理後の捲縮率の平均値が3.1%と、未処理の1.1%の約3倍と増しており、紡績に適した素繊維となっている。
<捲縮試験条件>
有効試料長:20mm
引張速度:1mm/分
試験回数:15回
【0080】
処理された素繊維を用い、リング紡績によりコットンとの混紡率50%で、23綿番手の紡績糸を作った(図14)。50回の引張強さの平均値は290.3Nで、織り糸として十分な強さを有している。また、撚られた素繊維の表面から髭のように分離、フィブリル化した単繊維も多く見られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14