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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040096
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】水溶性リグニン及び抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/765 20060101AFI20240315BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240315BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20240315BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240315BHJP
【FI】
A61K31/765
A01P1/00
A01N65/00 Z
A61P31/12
A61K47/36
A61K47/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022158926
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】716002448
【氏名又は名称】株式会社仁科マテリアル
(72)【発明者】
【氏名】大原 利章
(72)【発明者】
【氏名】仁科 勇太
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4C076CC35
4C076DD51
4C076EE30
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA02
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA02
4C086ZB33
4H011AA04
4H011BB22
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】不溶性のリグニンを化学薬品処理を経ずに水溶化するための合理的な方法および水溶性リグニン、抗ウイルス性の水溶性リグニンを提供する。
【解決手段】非水溶性リグニンと水溶性分子を機械的摩砕処理する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
[式中、X、Yは、水素原子、単糖、オリゴ糖または多糖であり、α体、β体、フラノース体、ピラノース体でもよい。]
で表される水溶性糖類、又は水溶性アミノ酸の少なくとも一方と、非水溶性リグニンを機械的摩砕処理することにより得られる、水溶性リグニン。
【請求項2】
式(1)又は水溶性アミノ酸の少なくとも一方と、非水溶性リグニンの複合体からなる抗ウイルス剤。
【請求項3】
式(1)又は水溶性アミノ酸の少なくとも一方と、非水溶性リグニンの複合体からなる水溶性リグニンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性糖類または水溶性アミノ酸と非水溶性リグニンを機械的摩砕処理することにより得られる水溶性リグニン及び抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは高分子のフェノール性化合物で、木材の主たる構成成分であり、一般的には2~3割程度を占めるとされており、木材以外にもほぼ全ての植物に含有されている。リグニンは多くの溶媒に不溶のため、パルプ製造の際には亜硫酸処理によってリグニンを可溶化して除去されており、扱いの難しい難溶性物質として知られている。一方、栄養学の分野において、リグニンは腸管内の残留物の排出に役立ち、大腸がん、肥満等の各種生活習慣病の予防防止、便秘や腸内環境の改善、ダイエット等に役立つことが知られている(非特許文献1、2)。さらに低分子化されたリグニンには動植物を問わず汎用的な抗ウイルス効果がある(非特許文献3)。リグニンを水溶化し、これらの効能をさらに引き上げることが求められている。また、食品分野では樽を使って熟成させるウイスキーやワインには、味や色彩に樽から長期に渡りゆっくりと溶出されるリグニンが、大きな要素なっているが、リグニンを外部から人工的に調整する技術は未確立で、人工的にリグニンを可溶化し、短時間で味わいを調整する醸造技術が求められている(特許文献1、非特許文献4)。
【0003】
リグニンの可溶化方法としてはクラフトパルプ法やルファイドパルプ法が存在し、クラフトパルプ法では、苛性ソーダ(NaOH)と硫化ソーダ(NaS)を主成分とする化学薬品を加えて、150~160℃程度で蒸煮する。また、サルファイドパルプ法では、酸性亜硫酸塩と亜硫酸の混液を加えて、130~145℃で蒸煮し木材中のリグニンをリグニンスルホン酸塩として溶出する。これらの方法ではそれぞれ強アルカリ、強酸を使用するため、器具や安全性の面で多くの対策を必要とする。近年、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、より環境に影響が少なく人類の持続的な発展が可能な反応方法が必要となってきており、薬品を使わずリグニンの溶解度を上げる技術が求められている。
【0004】
高温や薬品を必要としない可溶化方法として、微細化処理が行われている。リグノセルロースに対して、機械的磨砕を施すことにより、ジメチルスルホキシドに可溶化することができる(特許文献2)。しかし、12時間という長い時間の処理が必要であるという課題がある。また、理想的な溶媒である水への溶解については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-254271
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第30回日本循環器管理研究協議会総会記録シンポジウムI「成人病予防からみた食品の評価」 第31巻日循協誌 1996年10月
【非特許文献2】Biological activities of lignin hydrolysate-related compounds BMB Reports 2012;45(5):265-274.
【非特許文献3】Anti-influenza virus activity of a lignin fraction from cone of Pinusparviflora Sieb. et Zucc In Vivo1992;6(5):491-495
【非特許文献4】ナラ材利用としてのワイン樽の生産と流通に関する研究 愛媛大演報 2012 第51号:1-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、熱を加える処理や化学薬品を用いた処理を行うことなく、水に可溶なリグニンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、不溶性リグニンと水溶性糖類または水溶性アミノ酸の少なくとも一方を機械的磨砕処理した。これにより、水溶性リグニンが得られること、および抗ウイルス剤として有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、微細化されたリグニン、微細化されたリグニンと水溶性糖類または水溶性アミノ酸の複合体、その製造法、および抗ウイルス剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水溶性リグニンは、水溶性糖類または水溶性アミノ酸と非水溶性リグニンの複合体から成る。機械的磨砕処理により製造が可能であり、酸などの化学薬品は必要ない。高い水溶性を有するため、リグニンが本来もつ性能を高めることが可能で、優れた抗ウイルス性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水溶性リグニンは、下記式(1)で示される水溶性糖類又は水溶性アミノ酸で表される化合物の少なくとも一方を有効成分として含有するものである。機械的磨砕処理によって複合体を作製し、その水溶液は抗ウイルス剤としての性能を示す。
下記式(1)
【化1】
【実施例0012】
水溶性糖類として、上記式(1)で表される化合物のうち、Xが水素原子、Yが水素原子からなる化合物(グルコース)を非水溶性リグニンに加え、機械的摩砕処理を施した。得られた複合体の水溶性を評価した。完全に溶解し、液の色調が濃くなった。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は222.3mg/100mLであった。
【0013】
機械的摩砕処理:フリッチュ製の遊星型ボールミル(P-7)、ジルコニア容器(容量12mL)、ジルコニアボール(Φ5mm、8g)、リグニン(東京化成工業、脱アルカリ、1g)、グルコース(和光純薬、1g)、回転数500rpm、30分ごとに逆回転を10回繰り返した。
【0014】
溶解性の評価:2mLマイクロ遠沈管に機械的磨砕処理した試料を入れ、その濃度が6.25mg/mLとなるように水を加え、手で振り混ぜた。目視による色合いの確認(溶解直後、溶解1時間後、溶解2時間後、溶解2時間後に遠心分離15000rpmで3分処理後)、および検量線法によるUV-Visスペクトル(日本分光V-700)での濃度測定を実施した。
【実施例0015】
水溶性アミノ酸として、グリシンを非水溶性リグニンに加え、実施例1と同様の手法で機械的摩砕処理および水溶性を評価した。完全に溶解し、液の色調が濃くなった。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は350.7mg/100mLであった。
【実施例0016】
月桃から直接抽出したリグニンを用い、実施例1と同様の手法で機械的摩砕処理および水溶性を評価した。完全に溶解し、液の色調が濃くなった。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は143.5mg/100mLであった。
【比較例1】
【0017】
リグニンの溶解性を実施例1と同様の手法で評価した。大半が溶け残り、沈殿が認められた。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は18.8mg/100mLであった。
【比較例2】
【0018】
水溶性糖類として、上記式(1)で表される化合物のうち、Xが水素原子、Yが水素原子からなる化合物(グルコース)を非水溶性リグニンに加え、乳鉢で1分間混ぜた。得られた複合体の溶解性を実施例1と同様の手法で評価した。大半が溶け残り、沈殿が認められた。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は18.8mg/100mLであった。
【比較例3】
【0019】
グルコースの溶解性を実施例1と同様の手法で評価した。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定では280nmのピークは確認されず、溶液の色は無色透明であった。
【比較例4】
【0020】
月桃から抽出したリグニンを用い、実施例1と同様の手法で評価した。大半が溶け残り、沈殿が認められた。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は10.4mg/100mLであった。
【比較例5】
【0021】
鉄標準液の液中のFe3+の濃度を共立理化学研究所のパックテストを用いて測定した。濃度は24.6mg/Lであった。結果を図3に示す。
【0022】
鉄キレート率の評価法:鉄標準液に機械的磨砕処理した試料を12.5mg加え、ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。液中のFe3+の濃度を共立理化学研究所のパックテストを用いて測定し、その減少量から鉄キレート率を算出した。
【比較例6】
【0023】
比較例4と同様の手順で、鉄標準液にリグニン(東京化成工業、脱アルカリ)を6.25mg加え、ボルテックスミキサーを用いて撹拌を行わず、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は24.0mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例7】
【0024】
比較例4と同様の手順で、鉄標準液にリグニン(東京化成工業、脱アルカリ)を6.25mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は21.2mg/Lであった。結果を図3に示す。
【実施例0025】
比較例4と同様の手順で、実施例1で作製した水溶性リグニンを12.5mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は15.6mg/Lであった。結果を図3に示す。
【実施例0026】
比較例4と同様の手順で、実施例2で作製した水溶性リグニンを12.5mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は18.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例8】
【0027】
比較例4と同様の手順で、グルコース(和光純薬)を6.25mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は24.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例9】
【0028】
比較例4と同様の手順で、グリシン(和光純薬)を6.25mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は24.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例10】
【0029】
比較例4と同様の手順で、リグニン(東京化成工業、脱アルカリ)6.25mgとグルコース(和光純薬)6.25mgを加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は23.8mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例11】
【0030】
比較例4と同様の手順で、リグニン(東京化成工業、脱アルカリ)6.25mgとグルコース(和光純薬)12.5mgを加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は22.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【実施例0031】
実施例1で作製した水溶性リグニン0.1mg/mlを用いて、抗ウイルス効果を算出した。機械的摩砕処理により、細胞生存率が25.2%となり、抗ウイルス効果が向上することが認められた。結果を図4に示す。
【0032】
抗ウイルス効果の評価法:インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34、8.9×10 TCID50/mL)を用いて、サンプル液とウイルス液を等量混合し、室温にて30分間静置後、前日に播種していたMDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)に1時間感染させた。その後培地を添加し、2日間培養後、XTT法で細胞生存率を測定し、抗ウイルス効果を検討した。
【実施例0033】
実施例2で作製した水溶性リグニン0.2mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。機械的摩砕処理により、細胞生存率が89.6%となり、抗ウイルス効果が向上することが認められた。結果を図4に示す。
【比較例12】
【0034】
超純水を用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が6.2%となり、結果を図4に示す。
【比較例13】
【0035】
グルコース1.0mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が5.8%となり、結果を図4に示す。
【比較例14】
【0036】
リグニン0.05mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が8.5%となり、結果を図4に示す。
【比較例15】
【0037】
リグニン0.1mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が15.8%となり、結果を図4に示す。
【産業上の利用の可能性】
【0038】
本発明によれば、非水溶性のリグニンを可溶化して抗ウイルス性を有する水溶液を提供することができる。本発明は、化学薬品を使用せずリグニンの可溶化ができるため、SDGsに添う抗ウイルス剤に好適に利用できる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性糖類または水溶性アミノ酸と非水溶性リグニンを機械的摩砕処理することにより得られる水溶性リグニン及び抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは高分子のフェノール性化合物で、木材の主たる構成成分であり、一般的には2~3割程度を占めるとされており、木材以外にもほぼ全ての植物に含有されている。リグニンは多くの溶媒に不溶のため、パルプ製造の際には亜硫酸処理によってリグニンを可溶化して除去されており、扱いの難しい難溶性物質として知られている。一方、栄養学の分野において、リグニンは腸管内の残留物の排出に役立ち、大腸がん、肥満等の各種生活習慣病の予防防止、便秘や腸内環境の改善、ダイエット等に役立つことが知られている(非特許文献1、2)。さらに低分子化されたリグニンには動植物を問わず汎用的な抗ウイルス効果がある(非特許文献3)。リグニンを水溶化し、これらの効能をさらに引き上げることが求められている。また、食品分野では樽を使って熟成させるウイスキーやワインには、味や色彩に樽から長期に渡りゆっくりと溶出されるリグニンが、大きな要素なっているが、リグニンを外部から人工的に調整する技術は未確立で、人工的にリグニンを可溶化し、短時間で味わいを調整する醸造技術が求められている(特許文献1、非特許文献4)。
【0003】
リグニンの可溶化方法としてはクラフトパルプ法やルファイドパルプ法が存在し、クラフトパルプ法では、苛性ソーダ(NaOH)と硫化ソーダ(NaS)を主成分とする化学薬品を加えて、150~160℃程度で蒸煮する。また、サルファイドパルプ法では、酸性亜硫酸塩と亜硫酸の混液を加えて、130~145℃で蒸煮し木材中のリグニンをリグニンスルホン酸塩として溶出する。これらの方法ではそれぞれ強アルカリ、強酸を使用するため、器具や安全性の面で多くの対策を必要とする。近年、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、より環境に影響が少なく人類の持続的な発展が可能な反応方法が必要となってきており、薬品を使わずリグニンの溶解度を上げる技術が求められている。
【0004】
高温や薬品を必要としない可溶化方法として、微細化処理が行われている。リグノセルロースに対して、機械的磨砕を施すことにより、ジメチルスルホキシドに可溶化することができる(特許文献2)。しかし、12時間という長い時間の処理が必要であるという課題がある。また、理想的な溶媒である水への溶解については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-254271
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第30回日本循環器管理研究協議会総会記録シンポジウムI「成人病予防からみた食品の評価」 第31巻日循協誌 1996年10月
【非特許文献2】Biological activities of lignin hydrolysate-related compounds BMB Reports 2012;45(5):265-274.
【非特許文献3】Anti-influenza virus activity of a lignin fraction from cone of Pinus parviflora Sieb. et Zucc In Vivo1992;6(5):491-495
【非特許文献4】ナラ材利用としてのワイン樽の生産と流通に関する研究愛媛大演報 2012 第51号:1-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、熱を加える処理や化学薬品を用いた処理を行うことなく、水に可溶なリグニンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、不溶性リグニンと水溶性糖類または水溶性アミノ酸の少なくとも一方を機械的磨砕処理した。これにより、水溶性リグニンが得られること、および抗ウイルス剤として有効であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、微細化されたリグニン、微細化されたリグニンと水溶性糖類または水溶性アミノ酸の複合体、その製造法、および抗ウイルス剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水溶性リグニンは、水溶性糖類または水溶性アミノ酸と非水溶性リグニンの複合体から成る。機械的磨砕処理により製造が可能であり、酸などの化学薬品は必要ない。高い水溶性を有するため、リグニンが本来もつ性能を高めることが可能で、優れた抗ウイルス性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水溶性リグニンは、下記式(1)で示される水溶性糖類又は水溶性アミノ酸で表される化合物の少なくとも一方を有効成分として含有するものである。機械的磨砕処理によって複合体を作製し、その水溶液は抗ウイルス剤としての性能を示す。
下記式(1)
【化1】
【実施例0012】
水溶性糖類として、上記式(1)で表される化合物のうち、Xが水素原子、Yが水素原子からなる化合物(グルコース)を非水溶性リグニンに加え、機械的摩砕処理を施した。得られた複合体の水溶性を評価した。完全に溶解し、液の色調が濃くなった。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は222.3mg/100mLであった。
【0013】
機械的摩砕処理:フリッチュ製の遊星型ボールミル(P-7)、ジルコニア容器(容量12mL)、ジルコニアボール(Φ5mm、8g)、リグニン(東京化成工業、脱アルカリ、1g)、グルコース(和光純薬、1g)、回転数500rpm、30分ごとに逆回転を10回繰り返した。
【0014】
溶解性の評価:2mLマイクロ遠沈管に機械的磨砕処理した試料を入れ、その濃度が6.25mg/mLとなるように水を加え、手で振り混ぜた。目視による色合いの確認(溶解直後、溶解1時間後、溶解2時間後、溶解2時間後に遠心分離15000rpmで3分処理後)、および検量線法によるUV-Visスペクトル(日本分光V-700)での濃度測定を実施した。
【実施例0015】
水溶性アミノ酸として、グリシンを非水溶性リグニンに加え、実施例1と同様の手法で機械的摩砕処理および水溶性を評価した。完全に溶解し、液の色調が濃くなった。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は350.7mg/100mLであった。
【実施例0016】
月桃から直接抽出したリグニンを用い、実施例1と同様の手法で機械的摩砕処理および水溶性を評価した。完全に溶解し、液の色調が濃くなった。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は143.5mg/100mLであった。
【比較例1】
【0017】
リグニンの溶解性を実施例1と同様の手法で評価した。大半が溶け残り、沈殿が認められた。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は18.8mg/100mLであった。
【比較例2】
【0018】
水溶性糖類として、上記式(1)で表される化合物のうち、Xが水素原子、Yが水素原子からなる化合物(グルコース)を非水溶性リグニンに加え、乳鉢で1分間混ぜた。得られた複合体の溶解性を実施例1と同様の手法で評価した。大半が溶け残り、沈殿が認められた。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は18.8mg/100mLであった。
【比較例3】
【0019】
グルコースの溶解性を実施例1と同様の手法で評価した。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定では280nmのピークは確認されず、溶液の色は無色透明であった。
【比較例4】
【0020】
月桃から抽出したリグニンを用い、実施例1と同様の手法で評価した。大半が溶け残り、沈殿が認められた。結果を図1に示す。紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)測定により、280nmの吸収を確認した。結果を図2に示す。溶解度は10.4mg/100mLであった。
【比較例5】
【0021】
鉄標準液の液中のFe3+の濃度を共立理化学研究所のパックテストを用いて測定した。濃度は24.6mg/Lであった。結果を図3に示す。
【0022】
鉄キレート率の評価法:鉄標準液に機械的磨砕処理した試料を12.5mg加え、ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。液中のFe3+の濃度を共立理化学研究所のパックテストを用いて測定し、その減少量から鉄キレート率を算出した。
【比較例6】
【0023】
比較例4と同様の手順で、鉄標準液にリグニン(東京化成工業、脱アルカリ)を6.25mg加え、ボルテックスミキサーを用いて撹拌を行わず、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は24.0mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例7】
【0024】
比較例4と同様の手順で、鉄標準液にリグニン(東京化成工業、脱アルカリ)を6.25mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は21.2mg/Lであった。結果を図3に示す。
【実施例0025】
比較例4と同様の手順で、実施例1で作製した水溶性リグニンを12.5mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は15.6mg/Lであった。結果を図3に示す。
【実施例0026】
比較例4と同様の手順で、実施例2で作製した水溶性リグニンを12.5mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は18.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例8】
【0027】
比較例4と同様の手順で、グルコース(和光純薬)を6.25mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は24.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例9】
【0028】
比較例4と同様の手順で、グリシン(和光純薬)を6.25mg加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は24.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例10】
【0029】
比較例4と同様の手順で、リグニン(東京化成工業、脱アルカリ)6.25mgとグルコース(和光純薬)6.25mgを加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は23.8mg/Lであった。結果を図3に示す。
【比較例11】
【0030】
比較例4と同様の手順で、リグニン(東京化成工業、脱アルカリ)6.25mgとグルコース(和光純薬)12.5mgを加え、液中のFe3+の濃度を測定した。Fe3+の濃度は22.4mg/Lであった。結果を図3に示す。
【実施例0031】
実施例1で作製した水溶性リグニン0.1mg/mlを用いて、抗ウイルス効果を算出した。機械的摩砕処理により、細胞生存率が25.2%となり、抗ウイルス効果が向上することが認められた。結果を図4に示す。
【0032】
抗ウイルス効果の評価法:インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34、8.9×10 TCID50/mL)を用いて、サンプル液とウイルス液を等量混合し、室温にて30分間静置後、前日に播種していたMDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)に1時間感染させた。その後培地を添加し、2日間培養後、XTT法で細胞生存率を測定し、抗ウイルス効果を検討した。
【実施例0033】
実施例2で作製した水溶性リグニン0.2mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。機械的摩砕処理により、細胞生存率が89.6%となり、抗ウイルス効果が向上することが認められた。結果を図4に示す。
【比較例12】
【0034】
超純水を用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が6.2%となり、結果を図4に示す。
【比較例13】
【0035】
グルコース1.0mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が5.8%となり、結果を図4に示す。
【比較例14】
【0036】
リグニン0.05mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が8.5%となり、結果を図4に示す。
【比較例15】
【0037】
リグニン0.1mg/mlを用いて、実施例7と同様の手順で抗ウイルス効果を算出した。細胞生存率が15.8%となり、結果を図4に示す。
【産業上の利用の可能性】
【0038】
本発明によれば、非水溶性のリグニンを可溶化して抗ウイルス性を有する水溶液を提供することができる。本発明は、化学薬品を使用せずリグニンの可溶化ができるため、SDGsに添う抗ウイルス剤に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】リグニンの溶解性を示すための外観写真
図2】リグニンの溶解度を評価するためのUV-Visスペクトル
図3】リグニンを加えた際のFe3+の量の評価
図4】リグニンの抗ウイルス性評価