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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004010
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】複合繊維、および複合繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/12 20060101AFI20240109BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20240109BHJP
【FI】
D01F9/12
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103425
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】高岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄高
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC20A
4G146AC20B
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD26
4G146CB19
4G146CB33
4L037CS04
4L037FA01
4L037FA02
4L037FA03
4L037FA04
(57)【要約】
【課題】カーボンナノチューブを有する複合繊維において、導電性および熱伝導性の少なくともいずれか一方を向上させる技術を提供する。
【解決手段】複合繊維は、繊維と、繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備え、カーボンナノチューブは、ラマン分光測定においてラマンシフト(cm-1)が1300以上1400以下の領域に現れるピークの強度をDとし、ラマンシフト(cm-1)が1500以上1700以下の領域に現れるピークの強度をGとするとき、その比(G/D)が100以上であり、複合繊維は、加熱分解成分の含有率が3wt%未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合繊維であって、
繊維と、
前記繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備え、
前記カーボンナノチューブは、ラマン分光測定においてラマンシフト(cm-1)が1300以上1400以下の領域に現れるピークの強度をDとし、ラマンシフト(cm-1)が1500以上1700以下の領域に現れるピークの強度をGとするとき、その比(G/D)が100以上であり、
前記複合繊維は、加熱分解成分の含有率が3wt%未満であることを特徴とする、
複合繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の複合繊維であって、
前記繊維は、前記カーボンナノチューブ層より体積抵抗率が高いことを特徴とする、
複合繊維。
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれか一項に記載の複合繊維であって、
前記複合繊維の加熱時の抵抗率変化率が10%以下であることを特徴とする、
複合繊維。
【請求項4】
請求項1および請求項2のいずれか一項に記載の複合繊維であって、
前記カーボンナノチューブ層の体積抵抗率が1×100Ω・cm以下であることを特徴とする、
複合繊維。
【請求項5】
繊維と、前記繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備える複合繊維の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブを合成するための原料と、前記繊維と、を用意する用意工程と、
前記原料を用いて浮遊触媒化学気相成長法により前記カーボンナノチューブを生成する生成工程と、
前記生成工程において生成され、浮遊する前記カーボンナノチューブと、前記繊維との間に電位差を生じさせ、浮遊する前記カーボンナノチューブを前記繊維の表面に静電吸着により被覆させる被覆工程と、
を備えることを特徴とする、
複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気伝導性、熱伝導性、および機械的特性に優れた炭素材料の電子材料分野等への応用が検討されている。例えば、特許文献1には、炭素繊維束の各炭素繊維の表面に複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTとも記す)で構成された構造体が形成されている複合素材が開示されている。特許文献1では、炭素繊維をCNT分散液中に浸漬しCNTを被覆させることで樹脂との結合を強固にし、CNTに由来して、導電性、熱伝導性、機械的特性を向上させている。また、特許文献2には、複数本の繊維状炭素ナノ構造体と、複数本の導電性繊維とをシート状に集合させて形成した不織布が開示されている。特許文献2では、導電性繊維をCNT分散液に浸漬させることでCNTを複合化させ、導電性が向上した導電性不織布を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/100734号
【特許文献2】特開2021-088804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CNTは液相中において凝集しやすいため、特許文献1および特許文献2では、分散材を使用している。そのため、分散材の存在によるCNTの接触の阻害によりCNT由来の導電性や熱伝導性の利点を損なう虞がある。また、複合素材の加熱時には分散材を含む樹脂成分の分解により膜の剥離が生じる虞がある。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、カーボンナノチューブを有する複合繊維において、導電性および熱伝導性の少なくともいずれか一方を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、複合繊維が提供される。この複合繊維は、繊維と、前記繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備え、前記カーボンナノチューブは、ラマン分光測定においてラマンシフト(cm-1)が1300以上1400以下の領域に現れるピークの強度をDとし、ラマンシフト(cm-1)が1500以上1700以下の領域に現れるピークの強度をGとするとき、その比(G/D)が100以上であり、前記複合繊維は、加熱分解成分の含有率が3wt%未満である。
【0008】
この構成によれば、繊維の表面の少なくとも一部を被覆するカーボンナノチューブ層を有するため、導電性、熱伝導性、および強度を向上させることができる。また、G/D比が100以上であり、カーボンナノチューブの欠陥量が少ないため、導電性、熱伝導性が良好な複合繊維を提供することができる。さらに、加熱分解成分の含有率が3wt%未満であるため、複数のカーボンナノチューブ間に浸入する加熱分解成分を抑制することができ、高比表面積を維持することができる。また、複合繊維が加熱された場合に、加熱分解成分の分解によるカーボンナノチューブ層の剥離を抑制することができ、導電性、熱伝導性の低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の複合繊維であって、前記繊維は、前記カーボンナノチューブ層より体積抵抗率が高くてもよい。このようにすると、複合繊維に電気を流すとカーボンナノチューブ層に電気が流れる。そのため、カーボンナノチューブ層に流れる電気による発熱を利用して、例えば、複合繊維をヒータとして利用することができる。
【0010】
(3)上記形態の複合繊維であって、前記複合繊維の加熱時の抵抗率変化率が10%以下であってもよい。加熱時の抵抗率変化率を10%以下にすると、複合繊維に電気を流して複合繊維が発熱した場合に、加熱分解成分の分解に伴う欠陥によるカーボンナノチューブ層の剥離を抑制することができ、その結果、複合繊維の導電性の低下を抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の複合繊維であって、前記カーボンナノチューブ層の体積抵抗率が1×10-0Ω・cm以下であってもよい。この構成によれば、カーボンナノチューブ層が高い導電性を有するため、高い導電性を有する複合繊維を提供することができる。また、複合繊維を触媒担体として利用する場合に、触媒担持部分であるカーボンナノチューブ層に通電可能な抵抗率を有しているため、触媒を直接加熱することができる。
【0012】
(5)本発明の他の形態によれば、繊維と、前記繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備える複合繊維の製造方法が提供される。この複合繊維の製造方法は、前記カーボンナノチューブを合成するための原料と、前記繊維と、を用意する用意工程と、前記原料を用いて浮遊触媒化学気相成長法により前記カーボンナノチューブを生成する生成工程と、前記生成工程において生成され、浮遊する前記カーボンナノチューブと、前記繊維との間に電位差を生じさせ、浮遊する前記カーボンナノチューブを前記繊維の表面に静電吸着により被覆させる被覆工程と、を備える。
【0013】
この複合繊維の製造方法によれば、浮遊触媒化学気相成長法により生成されたカーボンナノチューブを、静電吸着により、直接、繊維の表面に付着させている。すなわち、気相中で複合するため、液相中で複合する場合と比較して、カーボンナノチューブ層の純度を向上させることができる。その結果、複合繊維の導電性、熱伝導性、および強度を向上させることができる。また、複合繊維の発熱に伴うカーボンナノチューブ層の剥離を抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、触媒担体、損傷許容材料、導電線、ヒータ、複合繊維の製造装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態における複合繊維の概略構成を示す説明図である。
図2】複合繊維の製造装置の一例を概略的に示す説明図である。
図3】複合繊維の製造方法の一例を示す工程図である。
図4】実施例3のカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
1.複合繊維10
図1は、本発明の一実施形態における複合繊維10の概略構成を示す説明図である。図1(A)は複合繊維10の外観を概念的に示し、図1(B)は複合繊維10のA-A断面構成を概念的に示す。図1に示すように、複合繊維10は、繊維2と、繊維2の表面を被覆する、カーボンナノチューブ4Cを主成分とするカーボンナノチューブ層4と、を備える。図1(A)に示すように、複合繊維10において、複数のカーボンナノチューブ4Cによるカーボンナノチューブネットワークが形成されている。
【0017】
(1)繊維の種類
繊維2の形成材料は、特に限定されない。例えば、セラミックス、半導体、ガラス、金属、炭素等を主成分とする無機繊維、ポリエステル、レーヨン等を主成分とする有機繊維等、種々の繊維を用いることができる。セラミックスとしては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al23)等を用いることができる。使用状態において加熱される場合には、加熱時に分解されない無機繊維を用いるのが好ましい。
【0018】
(2)繊維の体積抵抗率
繊維2の体積抵抗率は、特に限定されないが、カーボンナノチューブ層4より高い方が好ましい。繊維2の体積抵抗率がカーボンナノチューブ層4より高いと、複合繊維10に電気を流した場合に、カーボンナノチューブ層4に電気が流れるため、カーボンナノチューブ層4に流れる電気による発熱を利用して、例えば、複合繊維10をヒータとして利用することができる。
【0019】
複合繊維10中の繊維2の体積抵抗率は、複合繊維10からカーボンナノチューブ層4を除去することにより求めることができる。例えば、以下の方法により求めることができる。1.25wt%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(37℃)で、複合繊維10を100時間以上反応させることにより、カーボンナノチューブ層4を除去する。カーボンナノチューブ層4が除去された繊維2の抵抗値を測定し、繊維2の体積を用いて体積抵抗率を算出する。詳しくは、所定の長さ(例えば、5cm程度)の繊維2の抵抗値を測定し、その繊維のランダムな5本の断面をFE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope:電界放出形走査電子顕微鏡)にて観察して体積を算出し、体積抵抗率を算出する。
【0020】
(3)カーボンナノチューブ層の体積抵抗率
カーボンナノチューブ層4の体積抵抗率は特に限定されないが、1×101Ω・cm以下が好ましく、1×100Ω・cm以下がさらに好ましい。カーボンナノチューブ層4の体積抵抗率が1×100Ω・cm以下の場合、カーボンナノチューブ層4が高い導電性を有するため、高い導電性を有する複合繊維を提供することができる。また、複合繊維10を触媒担体として利用する場合に、触媒担持部分であるカーボンナノチューブ層4に通電可能な抵抗率を有しているため、触媒を直接加熱することができる。
【0021】
カーボンナノチューブ層4の体積抵抗率は、以下の方法により求めることができる。繊維2が絶縁繊維の場合には、複合繊維10の抵抗値そのものがカーボンナノチューブ層4由来のものであると推察できるため、複合繊維10の抵抗値を測定し、カーボンナノチューブ層4の体積を用いて体積抵抗率を算出することができる。詳しくは、所定の長さ(例えば、5cm程度)の抵抗値を測定し、その繊維のランダムな5本の断面をFE-SEMにて観察し、カーボンナノチューブ層の厚さを算出し、繊維束の本数およびその断面の厚さから抵抗に寄与しているカーボンナノチューブ層の体積を算出し体積抵抗率として算出する。繊維2が導電性、半導体の場合は、複合繊維10の抵抗が繊維2とカーボンナノチューブ層4を並列接続した合成抵抗とみなして、以下のように求めることができる。上述の通り、繊維2の抵抗値R1を測定する。また、複合繊維10の抵抗値R2を測定する。カーボンナノチューブ層4の抵抗値をRとすると、R2はR1とRを並列接続した合成抵抗とみなすことができるため、
R=(R2×R1)/(R1-R2)
としてカーボンナノチューブ層4の抵抗値Rを算出する。上述の通り体積を概算し、体積抵抗率を算出する。
【0022】
(4)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブの種類は、特に限定されない。単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等、種々のカーボンナノチューブを用いることができる。また、カーボンナノチューブの長さは特に限定されないが、1μm以上の長尺であるものが好ましい。長尺カーボンナノチューブを用いることにより、複数のカーボンナノチューブ同士の接触状態を良好にすることができるため、よりよい熱伝導性、導電性を得ることができる。
【0023】
(5)カーボンナノチューブのG/D比
カーボンナノチューブ4Cは、ラマン分光測定においてラマンシフト(cm-1)が1300以上1400以下の領域に現れるピークの強度をDとし、ラマンシフト(cm-1)が1500以上1700以下の領域に現れるピークの強度をGとするとき、その比(G/D)が100以上である。G/D比が100以上であるため、カーボンナノチューブ4Cの欠陥量が少なく、導電性、熱伝導性が良好な複合繊維を提供することができる。
【0024】
繊維の表面に炭素層が形成された複合繊維に対して、ラマン分光測定を行い、ラマン分光から得られるスペクトルからカーボンナノチューブと他のナノカーボンを区別することができる。カーボンナノチューブの場合には、上述のGバンドが2つのピークに分かれている。
【0025】
(6)加熱分解成分の含有率
複合繊維10は、加熱分解成分の含有率が3wt%未満である。「加熱分解成分」とは、5%重量減少温度が300℃以下の成分をいう。加熱分解成分の5%重量減少温度は、好ましくは250℃~150℃である。加熱分解成分の5%重量減少温度は、熱重量分析法(TGA)により、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分にて測定することができる。加熱分解成分としては、例えば、アクリル系のポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)や、胆汁酸塩(コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなど)が挙げられる。アクリル系のポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)は、例えば、複合時に用いられ、胆汁酸塩は、例えば、複合前にCNTの分散を維持するために使用される。
【0026】
加熱分解成分の含有率が3wt%未満であるため、複数のカーボンナノチューブ間に浸入する加熱分解成分を抑制することができ、高比表面積を維持することができる。そのため、複合繊維10を触媒担体として利用する場合に、触媒担持効率を高くすることができる。
【0027】
また、複合繊維10をセラミックマトリックス(母材)と複合化してセラミックマトリックスコンポジット(CMC)とする際に、例えば、耐酸化性能を向上させるための窒化ホウ素(BN)等のコーティング剤を複合繊維10の表面に塗布する場合がある。その際、複合繊維10が高比表面積であると、コーティングが容易になるため、CMC作製の容易性を向上させることができる。
【0028】
また、加熱分解成分の含有率が3wt%未満であるため、複数のCNT同士の接触の阻害が抑制され、導電性、熱伝導性を良好にすることができる。
【0029】
(7)複合繊維の加熱時の抵抗率変化率
複合繊維10の加熱時の抵抗率変化率は、特に限定されないが、10%以下が好ましく、5%未満がさらに好ましい。熱抵抗率変化率は、250℃の大気圧雰囲気下で、複合繊維10を3時間保持し、加熱処理前後の重量変化により算出する。例えば、複合繊維に電気を流して複合繊維10が発熱した場合等、複合繊維10が加熱された場合に、加熱分解成分が分解されると、カーボンナノチューブ層4と繊維2との間や複数のカーボンナノチューブ4Cの間に隙間ができることによりカーボンナノチューブ層4の剥離が生じる可能性がある。複合繊維10の加熱時の抵抗率変化率を10%以下にすると、加熱分解成分の分解に伴う欠陥によるカーボンナノチューブ層4の剥離を抑制することができ、その結果、複合繊維10の導電性の低下を抑制することができる。
【0030】
本実施形態の複合繊維10は、電気伝導、熱伝導の媒体として使用することができる。具体的には、複合繊維は、トランスやモーターの導線、送電線、配線基板、放熱基板、線材等に利用可能である。また、複合繊維10のみを用いてもよく、複合繊維10と異なる材料(例えば、樹脂材料、セラミックス等)とを組み合わせたものを用いてもよい。
【0031】
また、本実施形態の複合繊維10は、上述の通り、導電性、熱伝導性、および強度が高く、高比表面積である。そのため、高比表面積を活用した触媒担体や、航空部材等に用いられる損傷許容材料として好適に用いることができる。損傷許容材料としては、例えば、複合繊維10をセラミックマトリックス(母材)と複合化してセラミックマトリックスコンポジット(CMC)としたものを用いることができる。複合繊維10は、カーボンナノチューブ層4を有するため、母材の繊維2より強度が向上されており、また、高比表面積であるため、CMCの複合前の窒化ホウ素等のコーティングが容易になるため、好適である。
【0032】
2.複合繊維10の製造方法
図2は、複合繊維10の製造装置の一例を概略的に示す説明図である。複合繊維製造装置100は、カーボンナノチューブ4Cが生成される生成管110と、生成管110を加熱する加熱炉120と、触媒を貯留する触媒貯留部132と、炭素源を貯留する炭素源貯留部134と、生成管110に触媒を供給する触媒供給ノズル142と、生成管110に炭素源を供給する炭素源供給ノズル144と、コロナ放電によりカーボンナノチューブ4Cと繊維2との電位差を生じさせ静電吸着による被覆する静電吸着部150と、を備える。静電吸着部150は、繊維2を支持する支持部152と、コロナ放電を発生させる針電極154と、を備える。なお、触媒貯留部132と炭素源貯留部134とを合わせて原料貯留部130とも呼ぶ。また、触媒供給ノズル142と炭素源供給ノズル144とを合わせて原料供給ノズル140とも呼ぶ。
【0033】
図3は、複合繊維10の製造方法の一例を示す工程図である。
まず、カーボンナノチューブを合成するための原料と、繊維と、を用意する(工程P12:用意工程)。原料は、例えば、炭素源となるガスと触媒である。炭素源となるガスとしては、例えば、一酸化炭素(CO)および微量の二酸化炭素(CO2)の混合ガス、一酸化炭素(CO)、炭化水素等を用いることができる。触媒としては、例えば、コバルト(Co),鉄(Fe)等の金属を用いることができる。また、原料は、例えば、触媒前駆体および炭素源としてフェロセン等を用いてもよい。
【0034】
原料を用いて浮遊触媒化学気相成長法によりカーボンナノチューブ4Cを生成する(工程P14:生成工程)。詳しくは、原料貯留部130から生成管110へ原料を供給すると共に加熱炉120により生成管110を加熱することにより、炭素源が分解されカーボンナノチューブが成長する。生成管110内で生成されたカーボンナノチューブ4Cは、静電吸着部150内に流入する。
【0035】
生成管110内で生成され、静電吸着部150内を浮遊するカーボンナノチューブ4Cと、繊維2との間に電位差を生じさせ、浮遊するカーボンナノチューブ4Cを繊維2の表面に静電吸着により被覆させる(工程P16:被覆工程)。詳しくは、静電吸着部150が備える針電極154に高電圧を印加することによりマイナスのコロナ放電を発生させ、静電吸着部150内に流入したカーボンナノチューブ4Cをマイナスに帯電させる。そして、アースに接続された支持部152に支持されプラスに帯電した繊維2とマイナスに帯電したカーボンナノチューブ4Cとの静電吸着により、繊維2の表面にカーボンナノチューブ4Cが付着する。
【0036】
繊維2としては、単数(1本)の原料繊維でもよいし、複数の原料繊維を束ねた繊維束であってもよい。
【0037】
本実施形態の複合繊維の製造方法によれば、浮遊触媒化学気相成長法により生成されたカーボンナノチューブ4Cを、静電吸着により、直接、繊維2の表面に付着させており、気相中でカーボンナノチューブ4Cを繊維2に被覆させている。カーボンナノチューブ4Cは液相中において凝集しやすいため、カーボンナノチューブ4Cを液中に分散させて繊維2の表面にカーボンナノチューブを被覆させる場合、分散材を使用したり、機械的処理(超音波)によりカーボンナノチューブを破砕する場合がある。分散材を使用すると、分散材の存在によるカーボンナノチューブの接触の阻害が生じ、カーボンナノチューブ由来の導電性や熱伝導性の利点を損なう虞がある。また、加熱時には分散材を含む樹脂成分の分解により膜の剥離が生じる虞がある。また、機械的処理により短尺化したカーボンナノチューブでは接触点が多くなり、カーボンナノチューブ由来の導電性や熱伝導性の利点を損なう虞がある。この課題に対し、本実施形態の複合繊維の製造方法では、気相中で繊維2の表面にカーボンナノチューブ4Cを被覆させているため、カーボンナノチューブ層4の純度を向上させることができる。その結果、複合繊維10の導電性、熱伝導性、および強度を、液相中で複合させた複合繊維より向上させることができる。また、複合繊維の発熱に伴うカーボンナノチューブ層の剥離を抑制することができる。
【実施例0038】
実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施形態の複合繊維10の実施例1~3と、比較例1~3の複合繊維を用いて、熱伝導率、および比表面積を評価した。
【0039】
1.複合繊維の製造
実施例1~3の複合繊維は、上記実施形態において説明した方法により製造した。炭素源として一酸化炭素(CO)ガスを用い、触媒金属としてフェロセン(鉄のシクロペンタジエニル錯体)を用い、合成炉の温度を750℃とし、成膜時間を変更することにより、CNTの被覆量(カーボンナノチューブ層の厚み)を制御した。成膜時間は、実施例1が400秒、実施例2が1800秒、実施例3が3600秒である。
【0040】
比較例1の複合繊維は、上記実施形態において説明した方法により製造した。炭素源として一酸化炭素(CO)ガスを用い、合成炉の温度を600℃とし、成膜時間を400秒とした。比較例1の複合繊維の製造条件は、合成炉の温度が実施例1よりも低いものの、他の条件は実施例1と同じである。すなわち、実施例1~3、および比較例1の複合繊維は、気相中でCNTを繊維に被覆させている。
【0041】
比較例2および比較例3の複合繊維は、CNTが分散している分散溶液に母材となる繊維を浸漬した後乾燥させることにより被覆を行った。比較例3の複合繊維は、比較例2に用いられたCNTより低欠陥のCNTが用いられた。CNTが分散している分散溶液として、CNT粉末を水溶媒に0.04wt%の濃度で混合し、分散材としてポリビニルピロリドン(PVP)を0.1wt%で使用した分散溶液を使用した。
【0042】
実施例1~3および比較例1~3では、母材となる繊維2として炭化ケイ素(SiC)繊維束(一束数百本)を用いた。実施例1~3および比較例1~3で用いられた繊維2は絶縁繊維であるため、カーボンナノチューブ層4より体積抵抗率が高い。
【0043】
2.評価方法
以下に説明する方法により、実施例1~3、および比較例1~3の複合繊維の評価を行った。以下の説明では、理解容易性を考慮して、第1実施形態の複合繊維10の説明で用いた符号を用いて説明しているが、比較例の複合繊維についても、同様の方法で評価を行った。
【0044】
(1)加熱分解成分の含有率
加熱分解成分の含有率は、下記の方法で求めた。
250℃の大気圧雰囲気下で、複合繊維10を3時間保持し、加熱処理前後の重量変化分を、加熱分解成分の重量として、加熱分解成分の含有率を算出した。ここで、250℃としたのは、一般に、カーボンナノチューブの分散に使用される分散材が250℃程度で分解されるためである。
【0045】
(2)ラマン強度比G/D
ラマン分光分析装置において、励起波長514nm、出力100mWのレーザー光を光源として用いた。
測定条件は、下記の通りである。
測定範囲:1000cm-1~3200cm-1
露光時間:3秒
積算回数:3回
グレーティング:1800(line/mm)
【0046】
(3)加熱時の抵抗率変化率
複合繊維10に通電する前後での抵抗率〔Ω・cm〕を測定し、通電前との変化率を算出した。表1では、抵抗率変化率が5%未満を「◎」、抵抗率変化率が5%以上10%以下を「〇」、10%より大きいを「×」とした。体積抵抗率の変化が少ないことは加熱前後のカーボンナノチューブ層の構造、もしくは被覆状態の変化が少ないことに繋がっている。測定方法による誤差や被覆前に母材繊維(繊維2)の表面についている除去しきれていない収束材等の影響を考慮して、10%より大きいを「×」とした。
【0047】
(4)カーボンナノチューブ層4の体積抵抗率
繊維2が炭化ケイ素(SiC)を主成分とする絶縁繊維であるため、複合繊維10の抵抗値そのものがカーボンナノチューブ層4由来のものであると推察できるため、複合繊維10の抵抗値を測定し、カーボンナノチューブ層4の体積を用いて体積抵抗率を算出することができる。詳しくは、所定の長さ(5cm程度)の抵抗値を測定し、その繊維のランダムな5本の断面をFE-SEMにて観察し、カーボンナノチューブ層の厚さを算出し、繊維束の本数およびその断面の厚さから抵抗に寄与しているカーボンナノチューブ層の体積を算出し体積抵抗率として算出した。比較例1~3についても同様に、表層の体積抵抗率を算出した。表1では、体積抵抗率が1×100Ω・cm以下を「◎」、体積抵抗率が1×100Ω・cmより大きく1×101Ω・cm以下を「〇」、体積抵抗率が1×101Ω・cmより大きいを「×」とした。◎および〇はCNT同士の接触状態が良好(CNT同士が接触している)であることを示しており、×はCNT間の接触を阻害している有機物の存在があるとして評価している。
【0048】
(5)複合繊維10の熱伝導率
複合繊維10の熱拡散率α(m2/s)、密度ρ(kg/m3)、比熱Cp(J/(kg・K))を、下記の方法により求め、式(1)により熱伝導率λ(W/(m・K))を算出した。
λ=αρCp …(1)
熱拡散率は、「光交流法による熱拡散率の測定:T.Yamane, S.Katayama, M.Todoki and I.Hatta : J.Appl.Phys., 80¶93 (1996) 4385.」を参考に、測定した。
密度は、JIS R 7603:1999 炭素繊維-密度の試験方法により求めた。
比熱は、JIS R 1672:2006 長繊維強化セラミックス複合材料の示差走査熱量法による比熱容量測定方法により、測定した。
表1では、下記の通り、熱伝導率を評価している。
「◎」…20W/(m・K)以上
「〇」…10W/(m・K)以上20W/(m・K)未満
「△」…10W/(m・K)未満
【0049】
(6)比表面積
単位体積あたりの表面積(m2/cm3)を、JIS K6217-2に従ってBET1点法(ゴム用カーボンブラック―基本特性 比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法)により測定した。比表面積が500(m2/cm3)以上を「×」とし、500(m2/cm3)未満を「×」とした。
【0050】
3.評価結果
表1は、評価結果を示す。
図4は、実施例3のカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1~3は、下記〔1〕~〔5〕の全ての要件を満たしている。
〔1〕複合繊維10は、繊維2と、繊維2の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブ4Cを主成分とするカーボンナノチューブ層4と、を備える。
〔2〕カーボンナノチューブ4Cは、ラマン分光測定においてラマンシフト(cm-1)が1300以上1400以下の領域に現れるピークの強度をDとし、ラマンシフト(cm-1)が1500以上1700以下の領域に現れるピークの強度をGとするとき、その比(G/D)が100以上である。
〔3〕複合繊維10は、加熱分解成分の含有率が3wt%未満である。
〔4〕繊維2は、カーボンナノチューブ層4より体積抵抗率が高い。
〔5〕複合繊維10の加熱時の抵抗率変化率が10%以下である。
【0053】
実施例2、実施例3は、上記〔5〕の要件について、複合繊維10の加熱時の抵抗率変化率が5%未満であり、実施例1よりさらに抵抗率変化率が低い。
【0054】
実施例3は、上記〔1〕~〔5〕の要件に加え、さらに、下記〔6〕の要件を満たしている。
〔6〕カーボンナノチューブ層4の体積抵抗率が1×100Ω・cm以下である。
【0055】
これに対して、比較例1の複合繊維は、上記〔1〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕の要件を満たす複合繊維であるものの、上記実施形態の複合繊維10ではない。すなわち、比較例1の複合繊維は、上記要件〔2〕、〔6〕を満たしていない。
【0056】
比較例2の複合繊維は、上記〔1〕、〔4〕、〔6〕の要件を満たす複合繊維であるものの、上記実施形態の複合繊維10ではない。すなわち、比較例2の複合繊維は、上記要件〔2〕、〔3〕、〔5〕を満たしていない。
【0057】
比較例3の複合繊維は、上記〔1〕、〔2〕、〔6〕の要件を満たす複合繊維であるものの、上記実施形態の複合繊維10ではない。すなわち、比較例3の複合繊維は、上記要件〔3〕、〔5〕を満たしていない。
【0058】
実施例1~3は、いずれも、熱伝導率および比表面積が、比較例1~3と同等以上であった。実施例1~3は、G/D比が100以上であり、カーボンナノチューブの欠陥量が少ないため、熱伝導性が良好である。また、加熱分解成分の含有率が3wt%未満であるため、カーボンナノチューブ間に浸入する加熱分解成分を抑制することができ、高比表面積を維持することができた。
【0059】
実施例1~3は、上述の通り、成膜時間が異なるため、実施例1のカーボンナノチューブ層4の膜厚が一番薄く、実施例2、実施例3の順に厚くなる。実施例3はカーボンナノチューブ層4の厚みが実施例の中で一番厚いため、抵抗率が最も低く(評価が良く)、熱伝導率もよい結果になった。
【0060】
実施例1~3、および比較例1は、上述の通り、気相中で複合されており、表1に示すように、加熱分解成分の含有率が3%未満であるため、複合繊維10の加熱時の加熱分解成分の分解に伴うカーボンナノチューブ層4の剥離による抵抗率の低下が抑制され、抵抗率変化率が10%以下になった。
【0061】
比較例1は、上述の通り、気相中で複合されているものの、成膜温度が600℃と実施例1~3の成膜温度より低かったため、CNTの欠陥が多くなり、ラマンG/D比が100未満になった。比較例1は、加熱分解成分の含有率が3%未満であるため、比表面積が500(m2/cm3)以上となった。この結果から、成膜温度によって、CNTの欠陥を制御することができるといえる。
【0062】
比較例2、比較例3は、上述の通り、液相中で複合されており、加熱分解成分の含有率が3wt%以上であるため、複合繊維10の加熱時の加熱分解成分の分解に伴いカーボンナノチューブ層4の剥離が生じ、抵抗率変化率が10%より大きくなった。また、加熱分解成分の含有率が3wt%以上であり、複数のカーボンナノチューブ間に加熱分解成分が浸入するため、比表面積が500(m2/cm3)未満になった。
【0063】
比較例3は、液相中で複合した複合繊維であるものの、低欠陥のCNTを用いたため、ラマンG/D比が100以上であり、抵抗率および熱伝導率が良好であった。
【0064】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
・繊維2とカーボンナノチューブ層4との間に無機材料から成る層を設けてもよい。例えば、カーボンナノチューブ4Cの繊維2への付着を容易にするための層を設けることができる。
【0066】
本発明は、上述の実施形態、実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0067】
本発明は、以下の適用例としても実現することが可能である。
[適用例1]
複合繊維であって、
繊維と、
前記繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備え、
前記カーボンナノチューブは、ラマン分光測定においてラマンシフト(cm-1)が1300以上1400以下の領域に現れるピークの強度をDとし、ラマンシフト(cm-1)が1500以上1700以下の領域に現れるピークの強度をGとするとき、その比(G/D)が100以上であり、
前記複合繊維は、加熱分解成分の含有率が3wt%未満であることを特徴とする、
複合繊維。
[適用例2]
適用例1に記載の複合繊維であって、
前記繊維は、前記カーボンナノチューブ層より体積抵抗率が高いことを特徴とする、
複合繊維。
[適用例3]
適用例1および適用例2のいずれか一項に記載の複合繊維であって、
前記複合繊維の加熱時の抵抗率変化率が10%以下であることを特徴とする、
複合繊維。
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載の複合繊維であって、
前記カーボンナノチューブ層の体積抵抗率が1×100Ω・cm以下であることを特徴とする、
複合繊維。
[適用例5]
繊維と、前記繊維の表面の少なくとも一部を被覆する、カーボンナノチューブを主成分とするカーボンナノチューブ層と、を備える複合繊維の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブを合成するための原料と、前記繊維と、を用意する用意工程と、
前記原料を用いて浮遊触媒化学気相成長法により前記カーボンナノチューブを生成する生成工程と、
前記生成工程において生成され、浮遊する前記カーボンナノチューブと、前記繊維との間に電位差を生じさせ、浮遊する前記カーボンナノチューブを前記繊維の表面に静電吸着により被覆させる被覆工程と、
を備えることを特徴とする、
複合繊維の製造方法。
【符号の説明】
【0068】
2…繊維
4…カーボンナノチューブ層
4C…カーボンナノチューブ
10…複合繊維
100…複合繊維製造装置
110…生成管
120…加熱炉
130…原料貯留部
132…触媒貯留部
134…炭素源貯留部
140…原料供給ノズル
142…触媒供給ノズル
144…炭素源供給ノズル
150…静電吸着部
152…支持部
154…針電極
図1
図2
図3
図4