(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040115
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】ステアリング装置用コラムハウジングの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/043 20060101AFI20240315BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20240315BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240315BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240315BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20240315BHJP
C21D 1/09 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
C22F1/043
C22C21/02
B62D5/04
C22F1/00 692A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 631Z
C22F1/00 611
C22F1/04 M
C21D1/09 A
C22F1/00 650E
C22F1/00 630A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126990
(22)【出願日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2023027627
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022144682
(32)【優先日】2022-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】三ツ邑 宗隆
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB12
3D333CD08
3D333CD39
3D333CE12
(57)【要約】
【課題】溶体化処理に伴う巻込み巣の膨張を抑制し、且つコラムハウジングの機械的強度を高めるステアリング装置用コラムハウジングの製造方法の提供。
【解決手段】ケイ素を含有するアルミニウム合金からステアリング装置用コラムハウジングを製造する方法は、ダイカストによりアルミニウム合金から成型体を形成する成型工程と、1段階熱処理又は2段階熱処理により成型体を加熱した後、成型体を急冷する溶体化処理工程と、を含む。1段階熱処理は、0.6~5時間の間、成型体の温度を430~460℃に保持する工程である。2段階熱処理は、3~5時間の間、成型体の温度を340~410℃に保持した後、1~30分の間、成型体の温度を460~500℃に保持する工程である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含有するアルミニウム合金からステアリング装置用コラムハウジングを製造する方法であって、
ダイカストにより前記アルミニウム合金から成型体を形成する成型工程と、
1段階熱処理又は2段階熱処理により前記成型体を加熱した後、前記成型体を急冷する溶体化処理工程と、
を備え、
前記1段階熱処理は、0.6~5時間の間、前記成型体の温度を430~460℃に保持する工程であり、
前記2段階熱処理は、3~5時間の間、前記成型体の温度を340~410℃に保持した後、1~30分の間、前記成型体の温度を460~500℃に保持する工程である、
ステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項2】
前記2段階熱処理は、3~5時間の間、前記成型体の温度を400~410℃に保持した後、1~30分の間、前記成型体の温度を460~500℃に保持する工程である、
請求項1に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、更に銅を含有する、
請求項1に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項4】
前記溶体化処理工程前の前記成型体に含まれるマトリクス中の銅の含有量が、[Cu]I質量%と表され、
前記溶体化処理工程後の前記成型体に含まれるマトリクス中の銅の含有量が、[Cu]F質量%と表され、
[Cu]F/[Cu]Iが2.7以上3.5以下である、
請求項3に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項5】
前記[Cu]F/[Cu]Iが2.7以上2.9以下である、
請求項4に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項6】
前記溶体化処理工程後の前記成型体が、前記ケイ素を含有する複数の球状化組織を含み、
前記複数の球状化組織が互いに離れている、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項7】
前記溶体化処理工程後、前記成型体を更に加熱して硬化する人工時効硬化処理工程を備える、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項8】
前記成型工程が真空中で実施される、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【請求項9】
前記溶体化処理工程後、レーザーを前記成型体へ照射するレーザー熱処理工程を更に備え、
前記成型体は、円筒状のコラムハウジングの構造を有しており、
前記成型体の側面には、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴が形成されており、
前記レーザーが、前記コンビネーションスイッチ取付穴、及び前記キーロック穴のうち少なくとも一つの穴の縁部へ照射される、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリング装置用コラムハウジングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金(Al合金)は、金属材料の中でも比較的軽い。さらに、銅(Cu)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)及び鉄(Fe)等の含有により、Al合金を高い機械的強度を有する合金とすることができる。これらの理由から、アルミニウム合金は、自動車及び航空機等の様々な工業製品に利用される。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、Si、Zn、Mg、及びFeを含有するアルミニウム合金からなるダイカスト品の耐食性及び機械的強度が、440~480℃での溶体化処理によって向上することを開示している。例えば、下記特許文献2は、200~400℃での第1の加熱処理と、450~500℃での第2の加熱処理によって、Al‐Si‐Cu系合金からなるダイカスト品中のブリスターの発生が抑制され、ダイカスト品の機械的強度が向上することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-293429号公報
【特許文献2】特許第6432152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車産業においては、燃費の向上及びCO2の排出量の低減のために、車体の軽量化が求められる。したがって、自動車部品の一種であるステアリング装置用コラムハウジングの軽量化も要求される。コラムハウジングの軽量化のためには、従来の重い鉄系金属の代わりに、軽いアルミニウム合金を用いることが望ましい。さらに、コラムハウジングの軽量化のためには、コラムハウジングを薄くすることが望ましい。しかし、コラムハウジングが薄いほど、コラムハウジングの機械的強度は低下する。したがって、軽量化と機械的強度を両立するために、アルミニウム合金の中でも機械的強度に優れたアルミニウム合金からコラムハウジングを製造することが望ましい。例えば、アルミニウム合金の中でもAl‐Si‐Cu系合金は、機械的強度及び耐食性に優れ、且つ鋳造し易い。したがって、Al‐Si‐Cu系合金は、コラムハウジングを構成する材料として好適である。
【0006】
上記特許文献1及び2に記載の通り、一般的なダイカスト品の機械的強度は溶体化処理によって高まる。しかし、本発明の発明者は、コラムハウジングの製造過程において、アルミニウム合金(例えば、Al‐Si‐Cu系合金)からなる成型体の溶体化処理が実施された場合、成型体中の巻込み巣(ブリスター)が膨張し易いことを発見した。さらに発明者は、応力が、膨張した巻込み巣に集中することに因り、巻込み巣を起点にしてコラムハウジングが破損し易く、コラムハウジングの機械的強度(例えば、引張強度)が低下し易いことを発見した。
【0007】
上記特許文献1は、特定の組成を有するアルミニウム合金(Si、Zn、Mg、及びFeを含有するアルミニウム合金)からなるダイカスト品のための溶体化処理を開示しているに過ぎず、上記特許文献1に記載の溶体化処理では、コラムハウジング中の巻込み巣の膨張を十分に抑制し難く、且つコラムハウジングの機械的強度を高め難い。そもそも上記特許文献1及び2のいずれも、コラムハウジングという特定の構造を有するダイカスト品中の巻込み巣の膨張を抑制し、且つコラムハウジングの機械的強度を高める方法を開示及び示唆していない。
【0008】
本発明の一側面の目的は、溶体化処理に伴う巻込み巣の膨張を抑制し、且つコラムハウジングの機械的強度を高めるステアリング装置用コラムハウジングの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例えば、本発明の一側面は、以下のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法に関する。
【0010】
[1] ケイ素を含有するアルミニウム合金からステアリング装置用コラムハウジングを製造する方法であって、ダイカストによりアルミニウム合金から成型体を形成する成型工程と、1段階熱処理又は2段階熱処理により成型体を加熱した後、成型体を急冷する溶体化処理工程と、を含み、1段階熱処理は、0.6~5時間の間、成型体の温度を430~460℃に保持する工程であり、2段階熱処理は、3~5時間の間、成型体の温度を340~410℃に保持した後、1~30分の間、成型体の温度を460~500℃に保持する工程である、
ステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0011】
[2] 2段階熱処理は、3~5時間の間、前記成型体の温度を400~410℃に保持した後、1~30分の間、前記成型体の温度を460~500℃に保持する工程である、
[1]に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0012】
[3] アルミニウム合金が、更に銅を含有する、
[1]に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0013】
[4] 溶体化処理工程前の成型体に含まれるマトリクス(素地組織)中の銅の含有量が、[Cu]I質量%と表され、溶体化処理工程後の成型体に含まれるマトリクス中の銅の含有量が、[Cu]F質量%と表され、[Cu]F/[Cu]Iが2.7以上3.5以下である、
[3]に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0014】
[5] [Cu]F/[Cu]Iが2.7以上2.9以下である、
[4]に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0015】
[6] 溶体化処理工程後の成型体が、ケイ素を含有する複数の球状化組織を含み、複数の球状化組織が互いに離れている、
[1]~[5]のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0016】
[7] 溶体化処理工程後、成型体を更に加熱して硬化する人工時効硬化処理工程を含む、
[1]~[5]のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0017】
[8] 成型工程が真空中で実施される、
[1]~[5]のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【0018】
[9] 溶体化処理工程後、レーザーを成型体へ照射するレーザー熱処理工程を更に含み、
成型体は、円筒状のコラムハウジングの構造を有しており、
成型体の側面には、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴が形成されており、
レーザーが、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴のうち少なくとも一つの穴の縁部へ照射される、
[1]~[5]のいずれか一項に記載のステアリング装置用コラムハウジングの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面によれば、溶体化処理に伴う巻込み巣の膨張を抑制し、且つコラムハウジングの機械的強度を高めるステアリング装置用コラムハウジングの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、コラムハウジングを有するステアリング装置の一例を示す概略的な分解斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1~5及び比較例1~5其々の引張強度(相対値)の平均値、最大値、及び最小値を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1,3及び比較例1~3其々のコラムハウジングを構成するアルミニウム合金の画像である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例4,5及び比較例1,5其々のコラムハウジングを構成するアルミニウム合金の画像である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1,3~5及び比較例1~3,5其々のコラムハウジングを構成するアルミニウム合金の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「X~Y」との表記は、「X以上Y以下」を意味する。X及びYは、互いに異なる任意の実数である。
【0022】
(コラムハウジング、及びステアリング装置)
図1は、本実施形態に係る製造方法によって得られるコラムハウジング20、及びコラムハウジング20を有するステアリング装置10の一例を示す。ステアリング装置10は、自動車その他の車両に用いられる。コラムハウジング20及びステアリング装置10其々の構造は、
図1に示される各構造に限定されない。
【0023】
図1に示されるように、ステアリング装置10は、一端にステアリングホイール11が取り付けられるステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12を支持する略円筒状のコラムハウジング20と、コラムハウジング20に取り付けられるコンビネーションスイッチユニット40と、コラムハウジング20に取り付けられるキーロックユニット50と、を有する。コラムハウジング20は、コラムハウジング本体30と言い換えられてよい。
【0024】
ステアリングシャフト12は、コラムハウジング本体30の内側に配置された軸受を介して、コラムハウジング本体30で支持されており、ステアリングシャフト12は自在に回転する。コラムハウジング本体30には、コンビネーションスイッチ取付穴21と、一対のキーロック穴22と、一対のキーロックユニット取付ボス23と、クランプ部25が形成されている。各キーロックユニット取付ボス23には、ボルト穴24が形成されている。コンビネーションスイッチ取付穴21には、コンビネーションスイッチユニット40が取り付けられ、キーロックユニット取付ボス23には、キーロックユニット50が取り付けられる。
【0025】
コンビネーションスイッチユニット40は、円筒部42を有する本体部41と、本体部41から左右に突出するレバー型スイッチ43及び44と、を有する。コラムハウジング20は、本体部41の円筒部42の内側に嵌合する。本体部41の円筒部42の内側には係合突起が形成されており、コラムハウジング20が円筒部42の内側に嵌合することに伴い、円筒部42の係合突起がコンビネーションスイッチ取付穴21に係合する。この係合突起により、コンビネーションスイッチユニット40がコラムハウジング20に固定される。
【0026】
レバー型スイッチ43及び44は、例えば、ヘッドライト、方向指示用のターンシグナル、ワイパーモータ、及びウォッシャー液を噴出させるウォッシャーモータ等を作動させる。
【0027】
キーロックユニット50は、ユニット本体51と、ユニット本体51から上下に張り出す一対の取付ボス52と、を有する。各取付ボス52には、ボルト穴53が形成されている。キーロックユニット50の取付ボス52は、コラムハウジング20のキーロックユニット取付ボス23に重なり、ボルトが、キーロックユニット50のボルト穴53、及びコラムハウジング20のボルト穴24へ挿通される。このボルトにより、キーロックユニット50がコラムハウジング20に固定される。
【0028】
ユニット本体51内には、イグニッションキーの操作に応じてロックキーをステアリングシャフト12の径方向に進退させるアクチュエータが収容されている。さらに、ユニット本体51内には、アクチュエータの動作をロックキーに伝達する伝達機構も収容されている。ロックキーは、キーロックユニット50から自在に突出し、コラムハウジング20のキーロック穴22を貫通する。キーロック穴22を貫通したロックキーが、ステアリングシャフト12の外周面に形成されたキーロック穴に係合することにより、ステアリングシャフト12の回転がロックされる。
【0029】
(ステアリング装置用コラムハウジングの製造方法)
本実施形態に係るステアリング装置用コラムハウジングの製造方法は、少なくとも成型工程及び溶体化処理工程を含む。コラムハウジングの製造方法は、溶体化処理工程後に実施されるレーザー熱処理工程を更に含んでよい。コラムハウジングの製造方法は、溶体化処理工程後に実施される人工時効硬化処理工程を更に含んでよい。人工時効硬化処理工程は、レーザー熱処理工程後に実施されてよい。以下では、コラムハウジングの原料であるアルミニウム合金、及び各工程の詳細が説明される。
【0030】
<アルミニウム合金>
ステアリング装置用コラムハウジングは、ケイ素を含有するアルミニウム合金(Al‐Si系合金)から製造される。アルミニウム合金に含有されるケイ素に因り、アルミニウム合金から製造されるコラムハウジングの熱膨張が抑制され易い。
アルミニウム合金は、ケイ素に加えて、少なくとも一種の他の元素を更に含有してよい。例えば、ケイ素を含有するアルミニウム合金は、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、鉛(Pb)、及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有してよい。
例えば、アルミニウム合金は、ケイ素に加えて、更に銅を含有してよい。つまり、アルミニウム合金は、Al‐Si‐Cu系合金であってよい。アルミニウム合金が、アルミニウム及び銅の固溶体(Alの一部がCuで置換されたAlのα相)を含むことにより、アルミニウム合金の硬度が増加し易く、アルミニウム合金から製造されるコラムハウジングの機械的強度が高まり易い。例えば、Al‐Si‐Cu系合金は、ADC10、ADC10Z、ADC12、又はADC12Zであってよい。ADC10、ADC10Z、ADC12、及びADC12Zは、JIS(日本産業規格/旧日本工業規格) H 5302:2006によって規定されるダイカスト用アルミニウム合金である。
機械的強度及び耐食性に優れ、且つ鋳造し易いことから、アルミニウム合金は、ADC12であることが好ましい。ADC12に相当するアルミニウム合金は、1.5~3.5質量%のCu、9.6~12.0質量%のSi、0~0.3質量%のMg、0~1.0質量%のZn、0~1.3質量%のFe、0~0.5質量%のMn、0~0.5質量%のNi、0~0.2質量%のSn、0~0.2質量%のPb、0~0.3質量%のTi、及び残部のAlからなっている。
【0031】
<成型工程>
成型工程では、ダイカストによりアルミニウム合金から成型体が形成される。成型工程は真空中又は減圧された雰囲気中で実施されてよい。つまり、真空引きされた金型内で、成型体が形成されてよい。成型工程では、射出成型により、成型体が形成されてよい。
【0032】
例えば、成型工程では、アルミニウム合金からなる鋳塊(インゴット)が加熱によって溶融し、溶湯になる。溶湯は、真空引きされた金型のキャビティ内へ射出され、アルミニウム合金からなる成型体が形成される。金型内の成型体は、高温(例えば、アルミニウム合金の融点)から常温(室温)に近い温度まで冷却され、凝固する。成型体の形状は、上述されたコラムハウジング本体30の形状と同じであってよい。
【0033】
上記のように成型工程を真空中で実施することにより、キャビティ内又は溶湯内の気体(空気等)に由来する巻込み巣が成型体中に形成され難い。その結果、成型工程に続く溶体化処理工程において巻込み巣の熱膨張に起因する成型体の熱膨張が抑制され、最終的に得られるコラムハウジングの機械的強度が高まり易い。
【0034】
成型工程が真空中で実施される場合、キャビティの上部に設置された真空用バルブを介して、外部の真空ポンプによってキャビティ内の空気が吸引されてよい。金型及び射出プランジャーのシーリングによって、キャビティ内の真空度が高められてよい。
【0035】
成型工程では、無孔性(pоre-free)ダイカストによって成型体が形成されてもよい。無孔性ダイカストでは、キャビティ内が酸素ガスで充填される。溶湯とキャビティ内の酸素ガスとの反応(アルミニウム合金の酸化)に因り、キャビティ内の酸素ガスが消費され、キャビティ内が真空になる。したがって、無孔性ダイカストの場合も、成型体中の巻込み巣の形成を抑制することができる。
【0036】
<溶体化処理工程>
溶体化処理工程では、1段階熱処理又は2段階熱処理により成型体を加熱した後、成型体が急冷される。溶体化処理は、溶体化焼入れと言い換えられてよい。
1段階熱処理においては、0.6~5時間の間、成型体の温度が430~460℃、又は430~450℃、好ましくは450℃以上460℃以下に保持される。
2段階熱処理においては、3~5時間の間、成型体の温度が340~410℃、好ましくは400~410℃に保持された後、1~30分の間、成型体の温度が460~500℃に保持される。2段階処理では、成型体の温度が340~410℃、好ましくは400~410℃が保持された後、成型体を冷却することなく、成型体の温度が460~500℃に保持されてよい。
溶体化処理工程中の急冷により、成型体の温度は、1段階熱処理又は2段階熱処理の上記温度から、常温(室温)まで急激に低下する。例えば、成型体の温度は、急冷により、10秒以内に、1段階熱処理又は2段階熱処理の上記温度から、100℃以下である温度まで低下してよい。急冷の方法は限定されてない。例えば、急冷の方法は、水冷処理(水中焼き入れ)であってよい。
上記の諸条件を満たす溶体化処理工程により、溶体化処理工程に伴う成型体中の巻込み巣の熱膨張が抑制され、溶体化処理工程に伴う成型体自体の膨張も抑制され、コラムハウジングの機械的強度(例えば、引張強度)が高まり、コラムハウジングの機械的強度のばらつきが抑制される。
【0037】
溶体化処理工程前の成型体(溶体化処理を経ていない従来のコラムハウジング)内では、Al及びSiの共晶からなる多数の共晶組織(例えば、針状組織)が形成され易い。つまり、成型工程(鋳造)において、アルミニウム合金の液相の冷却に伴い、α相が晶出し、α相以外の液相の部分が共晶組織となる。多数の共晶組織は、成型体を構成するマトリクス(Alのα相)の間を埋めるように網の目状に互いに繋がっている。共晶組織は、マトリクスの塑性変形に伴って変形し難いため、応力が共晶組織に集中し易く、共晶組織を起点として成型体が割れ易い。しかし、本発明に係る溶体化処理工程により、共晶組織は、Siを含有する複数の球状組織になり易い。また、Siを含有する複数の球状組織は互いに離れ易い。つまり、溶体化処理工程後の成型体(コラムハウジング本体)内では、共晶組織に由来する複数の球状組織が、互いに接触することなくマトリクス中に分散し易い。その結果、複数の球状組織とマトリクスとの界面における応力の集中が緩和され易く、成型体の割れが抑制される、と考えられる。更に、1段階熱処理又は2段階熱処理における成型体の温度の上昇に伴って、球状組織間の距離が増加し易く、各球状組織が粗大化し易く、球状組織の表面の曲率が増加する傾向があり、球状組織の表面の曲率の増加により、応力が緩和される傾向がある、と推察する。即ち溶体化処理工程後の成型体に含まれる複数の球状組織の全てが互いに離れていることが望ましい。しかし、複数の球状組織の全てが互いに離れている必要はない。つまり、複数の球状組織のうち一部は、互いに連結されていてもよい。溶体化処理工程に続く人工時効硬化処理工程後の成型体(つまり完成されたコラムハウジング本体)も、Siを含有する複数の球状化組織を含んでよい。人工時効硬化処理工程後の成型体内においても、Siを含有する複数の球状化組織が互いに離れていてよい。
球状化組織は、金属顕微鏡(光学顕微鏡)又は電子顕微鏡によって観察することができる。共晶組織及び球状化組織其々の組成は、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X-ray spectroscopy: EDX)、又は電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer :EPMA)等の手段によって分析されてよい。
【0038】
アルミニウム合金がCuを含有する場合、1段階熱処理又は2段階熱処理により、成型体中のAl2Cu(金属間化合物であるθ相)が減少し、成型体の大部分を構成するマトリクスが、Al及Cuの固溶体(Alの一部がCuで置換されたAlのα相)になる。1段階熱処理又は2段階熱処理に続く成型体の急冷により、成型体内でのAl2Cuの再析出が抑制されつつ、固溶限以上のCuを含むAlのα相(Al及びCuを含む過飽和の固溶体)が成型体内で形成され易い。その結果、コラムハウジングの機械的強度が高まり易い。マトリクスの組成は、EDX又はEPMA等の手段によって分析されてよい。
【0039】
溶体化処理工程前の成型体に含まれるマトリクス中の銅の含有量は、[Cu]I質量%と表される。溶体化処理工程又は人工時効硬化処理工程の後の成型体(コラムハウジング本体)に含まれるマトリクス中の銅の含有量は、[Cu]F質量%と表される。[Cu]F/[Cu]Iは2.7以上3.5以下、好ましくは2.7以上2.9以下、又は2.73以上2.86以下であってよい。[Cu]F/[Cu]Iが2.7以上であることにより、コラムハウジングの機械的強度が高まり易く、機械的強度が飽和し易い。溶体化処理工程において成型体の温度を450℃以上に保持することにより、[Cu]F/[Cu]Iが2.7以上になり易い。
【0040】
1段階熱処理において成型体の温度が430~460℃に保持される時間が、0.6時間(36分)よりも短い場合、上述された[Cu]F/[Cu]Iが2.7を超え難く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易い。
1段階熱処理において成型体の温度が430~460℃に保持される時間が、5時間よりも長い場合、巻込み巣及び成型体自体が溶体化処理工程中に膨張し易く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易く、コラムハウジングの機械的強度がばらつき易い。
1段階熱処理における成型体の温度が430℃よりも低い場合、上述された複数の球状組織が形成され難く、銅がマトリクス中に溶け込み難く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易い。
1段階熱処理における成型体の温度が460℃よりも高い場合、巻込み巣及び成型体自体が溶体化処理工程中に膨張し易く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易く、コラムハウジングの機械的強度がばらつき易い。
【0041】
2段階熱処理のうち1回目の熱処理において、成型体の温度が340~410℃又は400~410℃に保持される時間が、3時間よりも短い場合、マトリクス中の銅の含有量が充分に高まらない可能性が考えられる。
2段階熱処理のうち1回目の熱処理において、成型体の温度が340~410℃又は400~410℃に保持される時間が、5時間よりも長い場合、成形体に内在する巣がやや膨張する可能性が考えられるが、その影響は小さいと推察される。
2段階熱処理のうち1回目の熱処理において、成型体の温度が340℃又は400℃よりも低い場合、マトリクス中の銅の含有量が充分に高まらない可能性が考えられる。
2段階熱処理のうち1回目の熱処理において、成型体の温度が410℃よりも高い場合、成形体に内在する巣がやや膨張する可能性が考えられる。
2段階熱処理のうち2回目の熱処理において、成型体の温度が460~500℃に保持される時間が、1分よりも短い場合、上述された複数の球状組織が形成され難く、銅がマトリクス中に溶け込み難く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易いと考えられる。
2段階熱処理のうち2回目の熱処理において、成型体の温度が460~500℃に保持される時間が、30分よりも長い場合、巻込み巣及び成型体自体が溶体化処理工程中に膨張し易く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易く、コラムハウジングの機械的強度がばらつき易い。
2段階熱処理のうち2回目の熱処理において、成型体の温度が460℃よりも低い場合、上述された複数の球状組織が形成され難く、銅がマトリクス中に溶け込み難く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易い。
2段階熱処理のうち2回目の熱処理において、成型体の温度が500℃よりも高い場合、巻込み巣及び成型体自体が溶体化処理工程中に膨張し易く、コラムハウジングの機械的強度が低下し易く、コラムハウジングの機械的強度がばらつき易い。
【0042】
<レーザー熱処理工程>
以上の工程を経た成型体は、略円筒状のコラムハウジングの構造を有している。したがって、成型体の側面には、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴が既に形成されている。溶体化処理工程後のレーザー熱処理工程では、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴のうち少なくとも一つの穴の縁部(端面近傍)のみに、レーザーが照射される。換言すれば、穴の縁部をなぞるように、レーザーが穴の縁部へ照射される。コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴の両方の縁部に、レーザーが照射されてもよい。レーザー熱処理工程においては、上述の溶体化処理工程と同様のメカニズムに因り、コンビネーションスイッチ取付穴及びキーロック穴其々の機械的強度を部分的(局所的)に増加させることができる。つまりレーザー熱処理工程は、レーザーを熱源とする溶体化処理工程と言い換えられてよい。レーザーが照射される部分は限定されており、且つレーザーが照射された部分の機械的強度は短時間で増加するので、レーザーに起因する発熱に伴う成型体のひずみが生じ難い。
【0043】
溶体化処理工程後の成型体の冷却によって成型体の温度が150℃以上200℃以下である温度まで低下した時点で、レーザー熱処理工程が実施されてよい。成型体の温度が150℃以上200℃以下である時点でレーザー熱処理工程を実施することにより、レーザー熱処理工程が、下記の人工時効化処理工程と同様の効果を奏することができる。つまりレーザー熱処理工程においても、人工時効硬化処理工程と同様のメカニズムに因り、成型体の硬度及び機械的強度(引張強度)が増加し易い。溶体化処理工程後の成型体の冷却によって成型体の温度が室温まで低下した時点で、レーザー熱処理工程が実施されてもよい。
【0044】
例えば、レーザー熱処理工程に用いられるレーザーは、CO2レーザー、YAGレーザー(イットリウム・アルミニウム・ガーネットレーザー)、ファイバーレーザー、半導体レーザー(Laser Diode ;LD)、アルゴンレーザー、及びエキシマレーザーからなる群より選ばれる少なくとも一種のレーザーであってよい。
例えば、レーザー熱処理工程の代わりに、コイルを用いた高周波熱処理工程が実施されてもよい。高周波熱処理工程では、コイルが、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴のうち少なくとも一つの穴の縁部(端面)の近傍に配置され、且つ、コイルが成型体に接触していない状態において、高周波電流がコイルへ供給される。その結果、電磁誘導電流が穴の縁部において局所的において発生し、ジュール熱が穴の縁部において局所的に発生する。つまり、コンビネーションスイッチ取付穴、及びキーロック穴のうち少なくとも一つの穴の縁部が、高周波誘導加熱によって部分的(局所的)に加熱される。その結果、上述の溶体化処理工程と同様のメカニズムに因り、コンビネーションスイッチ取付穴及びキーロック穴其々の機械的強度を部分的(局所的)に増加させることができる。
【0045】
<人工時効硬化処理工程>
溶体化処理工程後の人工時効硬化処理工程において、成型体(コラムハウジング本体)を更に加熱してよい。人工時効硬化処理工程中の成型体の加熱により、マトリクス中に溶解していた銅の一部が析出し、成型体の硬度及び機械的強度が更に増加し易い。ただし、溶体化処理工程により、十分に高い機械的強度を有する成型体(コラムハウジング本体)が得られるので、人工時効硬化処理工程は必須ではない。人工時効硬化処理工程では、成型体が、150±5℃で9.5~22時間加熱されてよい。人工時効硬化処理工程では、成型体が、170±5℃の温度で4.5~7時間加熱されてもよい。人工時効硬化処理工程では、成型体が、180±5℃で1.8~5.2時間加熱されてもよい。人工時効硬化処理工程では、成型体が、220±5℃で0.22~0.6時間加熱されてもよい。
【0046】
本発明は必ずしも上述された実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【実施例0047】
以下の実施例及び比較例により、本発明が詳細に説明される。本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
成型工程では、真空引きされた金型を用いた射出成型により、アルミニウム合金の鋳塊から成型体が形成された。成型体の形状は、
図1に示されるコラムハウジング本体30の形状と同じであった。アルミニウム合金の鋳塊としては、上述のADC12材が用いられた。
成型工程に続く溶体化処理工程では、1段階熱処理により成型体を加熱した後、成型体が急冷された。1段階熱処理では、5時間の間、成型体の温度が430℃に保持された。
溶体化処理工程に続く人工時効硬化処理工程では、7時間の間、成型体の温度が170℃に保持された。なお、後述される比較例3の場合に限り、人工時効硬化処理工程では、4.5時間の間、成型体の温度が170℃に保持された。
以上の製造方法により、実施例1のコラムハウジング本体が製造された。
【0049】
(実施例2~5及び比較例1~5)
比較例1では、溶体化処理工程及び人工時効硬化処理工程が実施されなかった。
【0050】
実施例2、3、5、比較例2、3、及び5其々の溶体化処理工程では、1段階熱処理により成型体を加熱した後、成型体が急冷された。
実施例2の1段階熱処理では、5時間の間、成型体の温度が440℃に保持された。
実施例3の1段階熱処理では、5時間の間、成型体の温度が450℃に保持された。
実施例5の1段階熱処理では、36分間、成型体の温度が450℃に保持された。
比較例2の1段階熱処理では、5時間の間、成型体の温度が400℃に保持された。
比較例3の1段階熱処理では、5時間の間、成型体の温度が500℃に保持された。
比較例5の1段階熱処理では、36分間、成型体の温度が500℃に保持された。
【0051】
実施例4及び比較例4其々の溶体化処理工程では、2段階熱処理により成型体を加熱した後、成型体が急冷された。
実施例4の2段階熱処理では、3時間の間、成型体の温度が410℃に保持された後、15分間、成型体の温度が460℃に保持された。
比較例4の2段階熱処理では、3時間の間、成型体の温度が410℃に保持された後、1時間の間、成型体の温度が460℃に保持された。
【0052】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~5及び比較例1~5其々のコラムハウジング本体が製造された。
【0053】
[巣の膨張率の測定]
実施例3のコラムハウジング本体のCTスキャンにより、実施例3のコラムハウジング本体の全体の3D画像が撮影され、コラムハウジング本体内に形成された各巻込み巣の体積が測定された。CTスキャンには、カールツァイス株式会社(Carl Zeiss AG)製のCTスキャン装置が用いられた。CTスキャンの分解能は、80μmであった。CTスキャンのデータの分析には、解析ソフトとして、Volume Graphics GmbH製のVolume Graphic Version.3.5が用いられた。CTスキャンの詳細は以下の通りであった。
溶体化処理工程前の実施例3の2本のコラムハウジングをCTスキャンで撮像し、上記解析ソフトを用いてコラムハウジングの内部の欠陥(巻込み巣)を抽出し、巻込み巣の体積の並べ替えが実施された。ワイブル分析により、99.9%の累積確率において生じる可能性のある巻込み巣の最大の体積v3が予測された。
【0054】
溶体化処理工程後の実施例3の2本のコラムハウジングに対しても上記と同様の撮影が実施され、欠陥が抽出され、体積が大きい順に巻き込み巣の並べ替えが行われた。ここで、溶体化処理工程前のコラムハウジングと同等数の欠陥を昇順に溶体化処理工程後のコラムハウジングのデータから抜き取り、ワイブル分析が実施された。(溶体化処理工程後の欠陥の巣の数が溶体化処理工程前より多くなり易い為。)上記と同様に、溶体化処理工程後に得られたデータに基づき、99.9%の累積確率においてに生じる巻き込み巣の体積vdが予測され、実施例3の膨張率vd/v3(単位:体積%)が算出された。実施例3と同様の方法で、実施例1の巣の膨張率が算出された。下記表1に記載の実施例1の巣の膨張率は、実施例3の巣の膨張率に対する実施例1の巣の膨張率の比(実施例3の膨張率が1.0である場合の実施例1の膨張率の相対値)である。
【0055】
実施例1と同様の方法で、実施例2、4、5及び比較例2~5其々の巣の膨張率が算出された。実施例1~5及び比較例2~5其々の巣の膨張率(相対値)は、下記表1に示される。
【0056】
[製品膨張率の測定]
上記と同様のCTスキャン装置及び解析ソフトを用いて、実施例1~5及び比較例1~5のコラムハウジング本体の全体の体積が測定された。各コラムハウジング本体の体積から、各コラムハウジング本体の膨張率(製品膨張率)が算出された。各実施例又は各比較例(比較例1を除く。)のコラムハウジング本体の体積は、VCと表される。溶体化熱処理工程及び人工時効硬化処理工程が実施されなかった比較例1のコラムハウジング本体の体積は、V1と表される。各実施例又は各比較例の製品膨張率(単位:体積%)は、(VC-V1)/V1と表される。実施例1~5及び比較例2~5其々の製品膨張率は、下記表1に示される。
【0057】
[引張強度の測定]
比較例1の5本のコラムハウジング本体が製造された。3個の試験片が各コラムハウジング本体から切り出された。つまり、計15個の試験片が、比較例1のコラムハウジング本体から作製された。各試験片の形状及び寸法は同一であった。15個の試験片其々の引張強度(単位:MPa)が引張試験機によって測定された。測定方法は、ISO(国際標準化機構)6892:2016(JIS Z 2241:2011)に準じていた。引張試験機としては、株式会社島津製作所製のオートグラフが用いられた。測定時のひずみ速度は、5.0×10
-4/秒に設定された。15個の試験片の引張強度の平均値が算出された。各試験片の引張強度を引張強度の平均値で除することにより、各試験片の引張強度の相対値が算出された。比較例1の引張強度(相対値)の最大値、平均値(つまり、1.0)、及び最小値が、下記表1及び
図2に示される。
【0058】
実施例1の2本のコラムハウジング本体が製造された。12個の試験片が各コラムハウジング本体から切り出された。つまり、計24個の試験片が、実施例1のコラムハウジング本体から作製された。比較例1と同様の方法で、実施例1の24個の試験片其々の引張強度(単位:MPa)が測定された。実施例1の各試験片の引張強度を、比較例1の引張強度の平均値(単位:MPa)で除することにより、実施例1の各試験片の引張強度の相対値が算出された。
【0059】
実施例1と同様の方法で、実施例2~5及び比較例2~5其々の各試験片の引張強度の相対値が算出された。実施例1~5及び比較例2~5其々の引張強度(相対値)の最大値、平均値、及び最小値が、下記表1に示される。
【0060】
[Siを含有する組織の観察]
コラムハウジング本体のキー部(キーロック穴の近傍)を、
図1に示される切断線L22に沿って切断することにより、試験片が比較例1及び比較例3其々のコラムハウジング本体から切り出された。
コラムハウジング本体のクランプ部を、
図1に示される切断線L25に沿って切断することにより、試験片が実施例1,3~5、比較例2及び5其々のコラムハウジング本体から切り出された。
樹脂に埋め込まれた各試験片の表面を研磨した後、各試験片の表面が金属顕微鏡で観察及び撮影された。各試験片の表面を更に研磨して、各試験片の内部(表面からの深さが0.5mmである領域)も金属顕微鏡で観察及び撮影された。
実施例1、3~5、比較例1~3及び5其々の試験片の画像が、
図3~5に示される。
図5は、各試験片の内部(表面からの深さが0.5mmである領域)の拡大画像である。
【0061】
図3~5において色の薄い部分は、アルミニウム合金のマトリクスに相当する。色の濃い部分は、Siを含有する組織に相当する。実施例1、3~5、比較例2、3及び5其々の画像は、溶体化熱処理工程及び人工時効硬化処理工程に因り、Siを含有する複数の球状化組織が形成され、且つ互いに接触していない多数の球状化組織があることを示した。一方、溶体化熱処理工程及び人工時効硬化処理工程が実施されなかった比較例1では、Siを含有する共晶組織が球状化されていなかった。
【0062】
[マトリクス中のCuの含有量の測定]
金属顕微鏡での観察に用いられた比較例1の試験片におけるCuの含有量が測定された。測定方法の詳細は以下の通りであった。
試験片の表面(鋳肌)からの深さが50μm、100μm、200μm、300μm及び500μmである5つの断面において、マトリクス中のCuの含有量(単位:質量%)がEDXによって測定された。6箇所のマトリクスが各断面から選定され、計30箇所のマトリクス中のCuの含有量の平均値([Cu]I)が算出された。
【0063】
比較例1と同様の方法で、実施例1~5及び比較例2~5其々のマトリクス中のCuの含有量の平均値([Cu]F)が算出された。さらに実施例1~5及び比較例2~5其々の[Cu]F/[Cu]Iが算出された。実施例1~5及び比較例1~5其々の[Cu]F/[Cu]Iが、下記表1に示される。比較例1に限り、[Cu]F/[Cu]Iは、[Cu]I/[Cu]I(つまり、1.00)に等しい。
【0064】
【0065】
表1中の巣の膨張率は低いことが好ましい。例えば、巣の膨張率は1.20以下であることが好ましい。
表1中の製品膨張率は低いことが好ましい。例えば、製品膨張率は0.50以下であることが好ましい。
表1中の引張強度(相対値)の最大値、平均値、及び最小値は、より高いことが好ましい。例えば、引張強度の最大値は1.20以上であることが好ましく、引張強度の平均値は1.10以上であることが好ましく、引張強度の最小値は0.97以上であることが好ましい。
【0066】
実施例3及び5は1段階熱処理の温度(450℃)において同じであり、1段階熱処理の継続時間において異なる。しかし、巣の膨張率における実施例3及び5間の差は殆どなく、実施例3及び5のいずれの場合も巻込み巣の膨張は抑制された。
比較例3及び5は1段階熱処理の温度(500℃)において同じであり、1段階熱処理の継続時間において異なる。しかし、巣の膨張率における比較例3及び5間の差は殆どなく、比較例3及び5のいずれの場合も巻込み巣の膨張は抑制されなかった。
【0067】
比較例3及び5は、1段階熱処理の継続時間の長短に関わらず、1段階熱処理の温度が500℃であることに因り、コラムハウジング本体が膨張し易いことを示した。
【0068】
実施例1~5及び比較例3~5其々の引張強度の最大値は、1.2以上であり、溶体化処理工程及び人工時効硬化処理工程が実施されなかった比較例1の値よりも高かった。
実施例3~5其々の引張強度の最小値は、1.1以上であり、実施例1,2及び比較例1~5其々の値よりも高った。
比較例3及び5其々の引張強度の最小値は、巻込み巣の膨張が抑制されなかったことに因り、低った。ただし、比較例5の1段熱処理の継続時間は比較例3の値よりも短かったことに因り、比較例5の引張強度の最小値は比較例3の値よりも高かった。
【0069】
実施例1~5及び比較例1~5は、引張強度の最大値が、マトリクス中のCuの含有量に概ね比例することを示した。さらに、実施例1~5及び比較例1~5は、[Cu]F/[Cu]Iが2.7以上になることに伴い、引張強度の最大値が飽和することを示した。実施例5及び比較例5は、1段階熱処理の継続時間が少なくとも36分(0.6時間)以上であることに因り、Cuがマトリクス中に溶け込み、引張強度が高まることを示した。
10…ステアリング装置、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、20…コラムハウジング、21…コンビネーションスイッチ取付穴、22…キーロック穴、23…キーロックユニット取付ボス、30…コラムハウジング本体、40…コンビネーションスイッチユニット、50…キーロックユニット。