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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040124
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】突起付きH形鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240315BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20240315BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240315BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D8/00 B
C22C38/14
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144789
(22)【出願日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2022144884
(32)【優先日】2022-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】安藤 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】大坪 浩文
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA40
4K032BA00
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD01
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD05
4K032CD06
(57)【要約】
【課題】高い引張強さを確保しつつ、靭性を向上した突起付きH形鋼を提供する。
【解決手段】C:0.05~0.20質量%、Si:0.05~0.60質量%、Mn:1.20~1.80質量%、P:0.035質量%以下、S:0.035質量%以下、V:0.050~0.200質量%、Ti:0.005~0.040質量%およびN:0.0100質量%超え~0.0200質量%を、0.0085≦[%N]-{(14/48)×[%Ti]}≦0.0150を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.05~0.20質量%、
Si:0.05~0.60質量%、
Mn:1.20~1.80質量%、
P:0.035質量%以下、
S:0.035質量%以下、
V:0.050~0.200質量%、
Ti:0.005~0.040質量%および
N:0.0100質量%超え~0.0200質量%
を、下記(1)式を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、フランジに突起を有する突起付きH形鋼。

0.0085≦[%N]-{(14/48)×[%Ti]}≦0.0150 ・・・ (1)
ここで、[%Ti]および[%N]はそれぞれ、鋼中のTiおよびNの含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、Cr:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Ni:1.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、Al:0.10質量%以下、Nb:0.10質量%以下、B:0.010質量%以下、Ca:0.10質量%以下、Mg:0.10質量%以下、REM:0.10質量%以下、W:1.0質量%以下、Sb:0.10質量%以下およびSn:0.10質量%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の突起付きH形鋼。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施して突起付きH形鋼を成形する突起付きH形鋼の製造方法であって、
前記鋼素材を、下記(2)式を満足する温度Tに加熱した後前記熱間圧延に供し、前記熱間圧延の仕上圧延によりH形鋼のフランジに突起を形成し、該仕上圧延の後に、750℃以上の冷却開始温度から500℃までの間を平均冷却速度:0.2~30.0℃/sの条件で冷却する、突起付きH形鋼の製造方法。

T[℃]≧-16000/{log([%Ti] [%N])-5.09}-673 ・・・ (2)
ここで、[%Ti]および[%N]はそれぞれ、鋼中のTiおよびNの含有量(質量%)であり、logは常用対数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形鋼のフランジ部に突起を有する、突起付きH形鋼およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋脚等の大型構造物では、補強材として鉄筋を用いた鉄筋コンクリートが幅広く使用されている。一般的に鉄筋コンクリート構造物の工事は、鉄筋を組み立てた後に型枠を設置し、型枠内にコンクリートを打設することにより行われる。ここで、強度的に鉄筋の過密配設が必要となる場合、コンクリートの充填性が低下し、施工品質が悪化するだけでなく、工事が長期化する点が大きな課題となっている。加えて、当該工事に従事する技能労働者の数は年々減少傾向にあり、現場作業の省力化ならびに工期短縮に寄与する構造用鋼の開発がより一層求められている。
【0003】
そのような背景を受け、鉄筋に比べて大きな断面剛性を有し、同一構造において必要な部材本数を減らすことが可能となる突起付きH形鋼に関して、様々な研究がおこなわれている。この突起付きH形鋼は、フランジに突起が設けられており、鉄筋と同等以上の高いコンクリート付着性能を有することが報告されている。鉄筋代替として大型構造物に使用される突起付きH形鋼に対しては、構造体としての性能を保証するため、引張強さ、伸びといった機械特性に加えて、靭性の保証が要求されている。
【0004】
これらの要求を満足するため、たとえば特許文献1では、Nb、V、Niの添加量を調整することで、引張強さと靭性をバランスよく高めた突起付きH形鋼が開示されている。また、特許文献2では、フランジ厚に応じて最適な冷却停止温度を設定する共に、フランジ内外面の冷却水量を適宜調整する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、H形鋼のフランジ部に突起を有する、突起付きH形鋼の製造方法に関して、H形鋼のフランジ内面に突起を形成する仕上圧延技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-256834号公報
【特許文献2】特開2006-075883号公報
【特許文献3】特開2003-136102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1、2に記載の突起付きH形鋼は、炭窒化物を形成するNbやVを添加している一方で、鋼中のN量に関して規定されていない点、改善の余地があった。例えばN量が低い場合には、炭窒化物量が不足する可能性があり、逆に、N量が多い場合には、炭窒化物が粗大化する可能性があることから、高い引張強さと優れた靭性を安定して提供することが求められていた。
なお、特許文献3は、H形鋼のフランジ内面に突起を形成する圧延技術に関する公開特許公報であり、H形鋼の引張強さや靭性については、とくに開示されていない。
【0008】
本発明は、上述の問題を有利に解決すべくなされたものであって、従来の突起付きH形鋼と同等以上の引張強さを確保しつつ、靭性を向上した突起付きH形鋼をその製造方法と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の課題を解決するため、C、Si、Mn、P、S、V、TiおよびNの含有量を変化させた突起付きH形鋼を作製し、引張特性および靭性を鋭意調査した。その結果、鋼中に含まれるTi量およびN量を適正化すると、TiN析出による加熱時のγ粒の粗大化が抑制され、またTiNを核とした粒内フェライト変態が促進されて、靭性が向上することを知見するに到った。さらに、固溶N量の確保によってフェライト中へのVN析出が効果的に生じる結果、高い強度と優れた靭性が得られることも見出した。
本発明は上記の知見に立脚するものであり、その要旨構成は、次のとおりである。
【0010】
1.C:0.05~0.20質量%、
Si:0.05~0.60質量%、
Mn:1.20~1.80質量%、
P:0.035質量%以下、
S:0.035質量%以下、
V:0.050~0.200質量%、
Ti:0.005~0.040質量%および
N:0.0100質量%超え~0.0200質量%
を、下記(1)式を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、フランジに突起を有する突起付きH形鋼。

0.0085≦[%N]-{(14/48)×[%Ti]}≦0.0150 ・・・ (1)
ここで、[%Ti]および[%N]はそれぞれ、鋼中のTiおよびNの含有量(質量%)である。
【0011】
2.前記成分組成は、さらに、Cr:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Ni:1.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、Al:0.10質量%以下、Nb:0.10質量%以下、B:0.010質量%以下、Ca:0.10質量%以下、Mg:0.10質量%以下、REM:0.10質量%以下、W:1.0質量%以下、Sb:0.10質量%以下およびSn:0.10質量%以下の中から選ばれる1種または2種以上を含有する前記1に記載の突起付きH形鋼。
【0012】
3.前記1または2のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施して突起付きH形鋼を成形する突起付きH形鋼の製造方法であって、
前記鋼素材を、下記(2)式を満足する温度Tに加熱した後前記熱間圧延に供し、前記熱間圧延の仕上圧延によりH形鋼のフランジに突起を形成し、該仕上圧延の後に、750℃以上の冷却開始温度から500℃までの間を平均冷却速度:0.2~30.0℃/sの条件で冷却する、突起付きH形鋼の製造方法。

T[℃]≧-16000/{log([%Ti] [%N])-5.09}-673 ・・・ (2)
ここで、[%Ti]および[%N]はそれぞれ、鋼中のTiおよびNの含有量(質量%)であり、logは常用対数である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い強度と優れた靭性を有する突起付きH形鋼を安定して製造することが可能となり、大型構造物の急速施工実現やコンクリート施工品の品質向上に寄与し、産業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】突起付きH形鋼の断面図である。
図2】突起付きH形鋼を示す図であり、(a)はウェブの対向方向から見た側面図、(b)はフランジ外面の対向方向から見た平面図、(c)はフランジ外面の上面図、である。
図3】突起付きH形鋼の斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。まず、本発明において、鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、以下の説明における「%」は、特に断らない限り「質量%」を表すものとする。
【0016】
C:0.05~0.20%
Cは、母材強度を確保するために必要な元素であり、少なくとも0.05%の添加を必要とする。しかし、0.20%を超える添加は、母材靭性を低下させるばかりか、溶接性を低下させる。そのため、本発明ではC含有量を0.05~0.20%とする。なお、C含有量は0.10%以上とすることが好ましい。また、C含有量は0.15%以下とすることが好ましい。
【0017】
Si:0.05~0.60%
Siは、母材強度の確保および脱酸剤として0.05%以上必要であるが、Si含有量が0.60%を超えると靭性の低下に加え、Siの有する高い酸素との結合力のため、溶接性が劣化する。そのため、本発明ではSi含有量を0.05~0.60%とする。なお、Si含有量は0.20%以上とすることが好ましい。また、Si含有量は0.40%以下とすることが好ましい。
【0018】
Mn:1.20~1.80%
Mnは、Siと同様、鋼の強度を高める効果のある比較的安価な元素であるため、高強度化には重要な元素である。しかし、1.20%未満では、その添加効果は小さく、一方、1.80%を超えると、上部ベイナイト変態を促進させ、靭性を低下させるので好ましくない。そのため、本発明ではMn含有量を1.20~1.80%とする。なお、Mn含有量は1.40%以上とすることが好ましい。また、Mn含有量は1.60%以下とすることが好ましい。
【0019】
P:0.035%以下
Pは、その含有量が0.035%を超えると、鋼の延性が劣化する。そのため、本発明ではP量を0.035%以下とする。好ましくは0.020%以下である。一方、Pは少ないほど好ましいため、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。しかし、通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、過度の低P化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
【0020】
S:0.035%以下
Sは、鋼中に含有されると、主にA系介在物の形態で鋼材中に存在する。S含有量が0.035%を超えると、この介在物量が著しく増加し、同時に粗大な介在物を生成するため、鋼の靭性を大きく低下させる。そのため、本発明では鋼中のS含有量を0.035%以下とする。好ましくは0.020%以下である。一方、Sは少ないほど好ましいため、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。なお、通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、過度の低S化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、S含有量は0.002%以上とすることが好ましい。
【0021】
V:0.050~0.200%
Vは、圧延中または圧延後の冷却中にVNとしてオーステナイトに析出してフェライト変態核となり、結晶粒を微細化する効果を有する重要な元素である。また、Vは、析出強化により母材強度を高める役割も有しており、引張強さと靭性を確保するために不可欠な元素である。前記効果を得るためにはV含有量を0.050%以上とする必要がある。一方、V含有量が0.200%を超えると、析出脆化を助長し、母材靭性を大きく損なうので好ましくない。そのため、本発明ではV含有量を0.050~0.200%とする。なお、V含有量は0.060以上とすることが好ましい。また、V含有量は0.120%以下とすることが好ましい。
【0022】
Ti:0.005~0.040%
Tiは、加熱時にTiNとしてオーステナイト中に存在することで、結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する重要な元素である。また、Tiは圧延中または圧延後の冷却中にもTiNとしてオーステナイトに析出してフェライト変態核となり、結晶粒を微細化する効果も有しており、靭性を確保するために不可欠な元素である。前記効果を得るためにはTi含有量を0.005%以上とする必要がある。一方、Ti含有量が0.040%を超えると、析出脆化を助長し、母材靭性を大きく損なうので好ましくない。そのため、本発明ではTi含有量を0.005~0.040%とする。なお、Ti含有量は0.010%以上とすることが好ましい。また、Ti含有量は0.035%以下とすることが好ましい。
【0023】
N:0.0100%超え~0.0200%
Nは、鋼中でTiおよびVと結合し、TiNならびにVNとして母材の強度および靭性を向上させる有用な元素であり、0.0100%超えの添加を必要とする。しかし、N含有量が0.0200%を超えると、形成される炭窒化物が粗大化して母材靭性を大きく損なうので好ましくない。そのため、本発明ではN含有量を0.0100%超え~0.0200%とする。なお、N含有量は0.0120%以上とすることが好ましい。また、N含有量は0.0180%以下とすることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明では、各々の元素が単に上記の範囲を満足するだけでは不十分であり、TiおよびNについては、次の(1)式の関係を満足させることが重要である。
0.0085≦[%N]-{(14/48)×[%Ti]}≦0.0150 ・・・ (1)
発明者らは、上記範囲の鋼成分を有する種々の突起付きH形鋼を用いて、強度および靭性を評価した結果、高い強度と優れた靭性を得るためには、TiNの生成量を考慮した有効固溶N量の確保が重要であるとの知見を得た。具体的には[%N]-{(14/48)×[%Ti]}で算出される値が0.0085未満のときには、析出VNによる析出強化ならびにフェライト微細化効果が十分でないことにより、強度および靭性が劣化することが分かった。すなわち、TiおよびNの含有量に基づくパラメータである上記式にて算出される値を0.0085以上に制御することで、高強度ならびに靭性の向上に寄与する十分な量のTiNおよびVNを確保することが出来る。一方、[%N]-{(14/48)×[%Ti]}の値が0.0150を超えると、析出VNが過剰となる結果、析出脆化を助長し、母材靭性を大きく損なうことになる。そのため、本発明では、[%N]-{(14/48)×[%Ti]}で算出される値を0.0085~0.0150の範囲とする。さらに、上記式により算出される値は0.0090~0.0120%とすることが好ましい。
【0025】
本発明で用いられる突起付きH形鋼の成分組成は、以上説明した成分を含み、残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0026】
また、必要に応じて、以上説明した成分の他に、強度や延性、靱性、溶接部特性のさらなる向上を目的として、Cr:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Al:0.10%以下、Nb:0.10%以下、B:0.010%以下、Ca:0.10%以下、Mg:0.10%以下、REM:0.10%以下、W:1.0%以下、Sb:0.10%以下およびSn:0.10%以下の中から選ばれる1種または2種以上を任意に含有していてもよい。
以下、上記の各元素の含有量を特定した理由を説明する。
【0027】
Cr:1.0%以下
Crは、固溶強化により鋼の更なる高強度化を図ることができる元素である。ただし、その含有量が1.0%を超えると上部ベイナイト変態を促進させ、靭性を低下させるので好ましくない。したがって、鋼の成分組成がCrを含有する場合は、Cr含有量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005~0.5%である。
【0028】
Cu:1.0%以下
Cuは、固溶強化により鋼の更なる高強度化を図ることができる元素である。ただし、その含有量が1.0%を超えると、Cu割れが生じ易くなる。したがって、鋼の成分組成がCuを含有する場合は、Cu含有量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005~0.5%である。
【0029】
Ni:1.0%以下
Niは、延性を劣化することなく鋼の高強度化を図ることができる元素である。また、Cuと複合添加することによりCu割れを抑制することができるため、鋼の成分組成がCuを含有する場合にはNiも含有することが望ましい。ただし、Ni含有量が1.0%を超えると、鋼の焼入れ性がより上昇し、靭性が低下しがちとなる。したがって、鋼の成分組成がNiを含有する場合は、Ni量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005~0.5%である。
【0030】
Mo:1.0%以下
Moは、固溶強化によってさらなる鋼の高強度化を図ることができる元素である。ただし、その含有量が1.0%を超えると、鋼中に上部ベイナイトが多量に生成するようになり、靭性が低下しがちとなる。したがって、鋼の成分組成がMoを含有する場合は、Mo含有量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.005~0.5%である。
【0031】
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として添加することができる元素である。しかし、Al含有量が0.10%を超えると、Alの有する高い酸素との結合力のため、鋼中に酸化物系介在物が多量に生成し、その結果、鋼の延性が低下する。したがって、鋼の成分組成がAlを含有する場合は、Al含有量は0.10%以下とすることが好ましい。一方、Al含有量の下限は特に限定されないが、脱酸のためには0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.001~0.03%である。
【0032】
Nb:0.10%以下
Nbは、鋼中で炭窒化物として析出することで引張強さや降伏点を高める効果を有する元素である。ただし、その含有量が0.10%を超えると、析出脆化を助長することに加え、上部ベイナイト変態を促進させるため、靭性が低下する傾向にある。したがって、鋼の成分組成がNbを含有する場合は、Nb含有量は0.10%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.01~0.05%である。
【0033】
B:0.010%以下
Bは、鋼中で粒界に偏析し粒界強度を向上させる効果を有する元素である。また、粒内フェライトの核生成サイトとなるTiNとの複合析出物を形成し、ミクロ組織を微細化することで靭性向上にも有効な元素である。一方、その含有量が0.010%を超えると、粗大な炭窒化物の粒界析出により靭性が低下する傾向にある。したがって、鋼の成分組成がBを含有する場合は、B含有量は0.010%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.001~0.003%である。
【0034】
Ca:0.10%以下
Caは、硫化物系介在物を高温における安定性が高い酸硫化物へ変質させて、硫化物系介在物を粒状化する作用を有する。そして、このCaによる形態制御効果により、鋼の靭性、延性の向上を図ることができる。但し、Ca含有量が0.10%を超えると、清浄度が低下して靭性が低下する傾向にある。したがって、鋼の成分組成がCaを含有する場合は、Ca含有量は0.10%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0010~0.0050%である。
【0035】
Mg:0.10%以下
Mgは、硫化物系介在物を高温における安定性が高い酸硫化物へ変質させて、硫化物系介在物を粒状化する作用を有する。そして、このMgによる形態制御効果により、鋼の靭性、延性の向上を図ることができる。但し、Mg含有量が0.10%を超えると、清浄度が低下して靭性が低下しがちとなる。したがって、鋼の成分組成がMgを含有する場合は、Mg含有量は0.10%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0010~0.0050%である。
【0036】
REM:0.10%以下
REM(希土類金属)は、硫化物系介在物を高温における安定性が高い酸硫化物へ変質させて、硫化物系介在物を粒状化する作用を有する。そして、このREMによる形態制御効果により、鋼の靭性、延性の向上を図ることができる。但し、REM含有量が0.10%を超えると、清浄度が低下して靭性が低下しがちとなる。したがって、鋼の成分組成がREMを含有する場合は、REM含有量は0.10%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0010~0.0050%である。
【0037】
W:1.0%以下
Wは、突起付きH形鋼への成形を行う熱間圧延中および熱間圧延後に炭化物として析出することで、突起付きH形鋼の母材強度を向上させる元素である。但し、その含有量が1.0%を超えると、析出脆化を助長することに加え、上部ベイナイト変態を促進させるため、靭性が低下する傾向にある。したがって、鋼の成分組成がWを含有する場合は、W含有量は1.0%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5%以下である。W含有量の下限は特に限定されないが、上記の母材強度を向上させる作用を発現させるためには0.001%以上であることが好ましい。
【0038】
Sb:0.10%以下
Sbは、熱間圧延前に突起付きH形鋼素材を加熱炉で再加熱する際に、その再加熱中の鋼の脱炭を防止するという顕著な効果を有する元素である。但し、Sb含有量が0.10%を超えると、鋼の延性および靭性に悪影響を及ぼすため、鋼の成分組成がSbを含有する場合、Sb含有量は0.10%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.05%以下である。Sb含有量の下限は特に限定されないが、脱炭層を軽減する効果を発現させるためには0.001%以上であることが好ましい。
【0039】
Sn:0.10%以下
Snは、熱間圧延前に突起付きH形鋼素材を加熱炉で再加熱する際に、その再加熱中の鋼の脱炭を防止するという顕著な効果を有する元素である。但し、Sn含有量が0.10%を超えると、鋼の延性および靭性に悪影響を及ぼすため、鋼の成分組成がSnを含有する場合、Sn含有量は0.10%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.05%以下である。Sn含有量の下限は特に限定されないが、脱炭層を軽減する効果を発現させるためには0.001%以上であることが好ましい。
【0040】
以上説明した元素以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
すなわち、原料、資材または製造設備の状況に由来する不可避的不純物が残部に含まれることは許容される。原料としては、鉄鉱石またはスクラップ等が挙げられる。ここで、不可避的不純物としては、O(酸素)が挙げられる。Oは0.004%まで許容できる。また、このほかの不可避的不純物として、Zn、Pb、As、Bi、Co、Ta、Zr、H等が挙げられる。本発明の目的を阻害しない範囲であれば、上記不純物の混入は許容される。
【0041】
以下に、本発明の、突起付きH形鋼について詳しく説明する。すなわち、突起付きH形鋼は、図1に一例を示すように、一般的なH形鋼と同様に、1対のフランジ2をウェブ3にて連結してなる。そして、突起付きH形鋼は、前記フランジ2に突起4を有している。図1の例では、前記フランジ2の外面に突起4を有している。この突起4は、コンクリート付着性能を付与するために設けられるものである。この目的で突起4が設けられた突起付きH形鋼1において、突起4が設けられる箇所は、図2(a)に示すように、フランジ2の外面である。図示例では、フランジ2の外面全体に、図2(a)に四角で囲った部分の拡大図である、同図(b)に示す断面形状にてフランジ2の幅方向に延びる突条としての突起4がフランジ2の長手方向に配列して形成されている。
【0042】
また、本発明の突起付きH形鋼は、前記フランジ2の外面に限らずフランジ2の内面側に突起4を有していてもよい。例えば、図3に示すように、フランジ2の内面の、ウェブ3との接合部を含む部分に、フランジ2の幅方向に延びる突条としての突起4を設けることができる。さらに、本発明の突起付きH形鋼は、前記フランジ2の外面及び内面の両方に突起4を設けてもよい。
【0043】
なお、突起の形状や寸法、個数などは突起付きH形鋼に要求される仕様に応じて任意に設定できる。従って、図示例に限定されないが、例えば突起4の高さhはコンクリート付着性能を考慮すると1.5mm以上とすることが好ましい。一方、高さhの上限は、ロール割損防止の観点から6mmとすることが好ましい。また、突起4相互の間隔dは、コンクリート付着性能を考慮すると、高さhとの間にh/d≧0.05の関係を満足することが好ましい。
【0044】
次に、本発明の突起付きH形鋼の製造方法について説明する。なお、鋼素材(スラブまたはビームブランク)の溶製法および鋳造法については特に制限はなく、従来公知の方法いずれもが適合する。該鋼素材を熱間圧延してH形鋼を成形するに当たり、該熱間圧延の仕上圧延において、フランジ外面に突起を形成する場合は、フランジ外面を圧下する垂直ロールとして、突起に対応した溝を垂直ロール周面に形成したものを用いることで、突起を付与することができる。また、フランジ内面に突起を形成する場合は、上記した特許文献3に開示された技術と同様に、フランジ内面を圧下する水平ロールとして、突起に対応した溝を水平ロール側面に形成したものを用いることで、突起を付与することができる。その際に、鋼素材の加熱温度ならびに仕上圧延後の冷却は、以下の条件を満足させる必要がある。
【0045】
加熱温度T:T[℃]≧-16000/{log([%Ti] [%N])-5.09}-673 ・・・ (2)
ここで、[%Ti]および[%N]はそれぞれ、鋼中のTiおよびNの含有量(質量%)であり、logは常用対数である。
鋼素材(スラブまたはビームブランク)の加熱温度が上記式(2)を満足しないと、鋳造段階で析出した粗大なTiNが多く残存してしまい、有効固溶N量の確保が困難となる結果、所定の引張強さおよび靭性を確保することが難しくなる。従って、加熱温度は上記式(2)を満足する温度範囲とする。一方、加熱温度の上限は、過度なオーステナイト粒径の粗大化による靭性の低下を防止する観点から、1400℃以下とすることが好ましい。
【0046】
冷却開始時のフランジ温度:750℃以上
本発明では、仕上圧延直後に鋼材の冷却を開始することによって生産能率の低下を防止することを所期して、冷却開始時のフランジ温度は750℃以上とする。一方、冷却開始時のフランジ温度がAr温度未満になると、十分な強度を得難くなるため、さらに冷却開始時のフランジ温度をAr温度以上とすることが好ましい。なお、Ar変態温度は、例えば以下の(3)式により鋼成分との関係で簡易的に示される。
Ar=910-310×[%C]+25×([%Si]+2×[%Al])-80×[Mneq] ・・・(3)
ここで、[Mneq]は次の(4)式で算出される値である。
[Mneq]=[%Mn]+[%Cr]+[%Cu]+[%Mo]+[%Ni]/2+10×([%Nb]-0.02)・・・ (4)
【0047】
なお、上記(3)式および(4)式において、[%M]は鋼中の元素Mの含有量(質量%)を意味する。ここで、上記(3)式および(4)式でArを計算するにあたり、積極的に含有させていない元素Mの含有量については、不可避的不純物として含有されている元素Mの含有量(分析値)を用いて算出するものとする。
【0048】
冷却開始温度から500℃までの平均冷却速度:0.2~30.0℃/s
冷却開始温度から500℃までの平均冷却速度が0.2℃/sに満たないと、所定の引張特性を確保することが難しいため、冷却速度は0.2℃/s以上とする。一方、前記冷却速度が30.0℃/sを超えて大きくなると、ベイナイトあるいはマルテンサイトの生成により、靭性の低下や引張強さの過度な上昇といった弊害が生じる。従って、冷却開始温度から500℃までの平均冷却速度は0.2~30.0℃/sの範囲とする。
【0049】
なお、仕上圧延後の具体的な冷却方法としては、フランジ外面にスプレーノズルによって冷却水を噴射するスプレー冷却や、ミスト冷却ノズルによって霧状の水を噴霧するミスト冷却、エアノズルにより空気を噴射する衝風冷却、あるいは、材料の搬送に伴う空気の対流を利用した対流冷却などを、適宜選択することができる。
【0050】
上記した成分組成に調整し、上記した条件によって圧延および冷却を行うことにより、突起付きH形鋼において、引張強さが520MPa以上、降伏強度が355MPa以上、そして0℃における衝撃吸収エネルギーvE0が47J以上という、優れた機械的性能を得ることができる。いずれの特性も上限を規定する必要はないが、実用的な上限としては、引張強さが720MPa、降伏点が580MPaおよび0℃における衝撃吸収エネルギーvE0が350J程度である。
【0051】
ここで、本発明で対象とする突起付きH形鋼は、そのフランジ厚が特に限定されることはない。フランジの突起は、仕上圧延の工程において溝付きのロールを用いて形成する。すなわち、所望の突起高さを付与するためには、フランジ部の圧下率をできるだけ大きくする必要がある。従って、厚いフランジを有する突起付きH形鋼はより大きな圧下を必要とする。本発明では後述の通り、圧延温度を適正範囲にコントロールすることにより、突起高さの形成効率が低下するとされる、フランジ厚が16mm以上の厚肉のH形鋼においても十分な突起高さを付与することができる。
【0052】
熱間圧延時に突起を形成する成形が含まれる仕上圧延では、十分な突起高さを有する突起を形成する観点から、仕上圧延温度を800℃以上とすることが好ましい。仕上圧延温度が800℃に満たないと、十分な高さの突起を安定して形成することが難しい。一方、前記仕上温度の上限は特に限定されないが、1050℃を超えると、オーステナイト粒径が粗大になるため、靭性が低下する傾向にある。そのため、前記仕上温度は1050℃以下とすることが好ましい。
【実施例0053】
以下、実施例に従って、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
表1に示す成分組成の鋼材を、連続鋳造機にて断面400mm×560mm×長さ8000mmのビームブランクとし、所定の温度で2時間加熱後、表2に示す条件で熱間圧延ならびに冷却を行って、図1に示す断面形状、すなわち、ウェブ3とウェブの両端に配置された1対のフランジ2を有する形状の突起付きH形鋼1を製造した。ここで、断面寸法(ウェブ高さ×フランジ幅×ウェブ厚×フランジ厚)は、320×323×25×25mm、328×322×24×29mm、348×332×34×39 mmおよび350×333×35×40mmの4種のうちのいずれかとして、突起付きH形鋼を製造した。仕上圧延においては、フランジ外面を圧下する圧延ロールとして、フランジ外面に形成させる突起形状に対応した溝を設けたものを用い、フランジ外面に、図2に示すような、フランジ2の幅方向に延在する突起4を形成した。
【0055】
ここで、フランジ外面を圧下する仕上圧延の垂直ロールには、突起幅w:15mmおよび突起高さh:1.5mm以上の突起を形成し得る、溝を設けてある。仕上圧延後の冷却速度は、フランジ1/6B部(図1参照)のフランジ外面の表面温度を放射温度計で測定し、冷却開始から冷却停止までの間の温度変化を単位時間(秒)あたりに換算することで、冷却速度(℃/s)を算出した。
【0056】
【表1】
【0057】
得られた突起付きH形鋼について、突起高さ評価、引張試験および靭性試験を実施した。以下にそれぞれの評価内容について詳細に説明する。
【0058】
<突起高さ評価>
得られた突起付きH形鋼について、図2に示したフランジ外面の突起高さhを測定した。かかる値の測定は、仕上圧延後の突起付きH形鋼の圧延方向における先端部、中央部および尾端部の3箇所について行い、その平均値を採用した。なお、突起高さの要求性能下限値を1.5mmに設定し、この値以上を突起高さhの好適範囲とした。また、突起高さhがこの値以上となる突起付きH形鋼が得られた製造条件は、突起形成のし易さの観点からも特に好ましい条件と評価できる。
【0059】
<引張試験>
図1に符号5として示すフランジ1/6B部(1/6Bを挟むフランジ幅方向長さ60mm)より、引張方向がH形鋼のフランジ長手方向となるように、JIS Z2201に規定されたJIS 1A試験片(フランジ全厚試験片)を採取し、JIS Z2241に準じて引張試験を行い、降伏強度(降伏応力YSまたは0.2%耐力)、引張強さを測定した。
【0060】
<靭性試験>
図1に示したフランジ1/6B部5のフランジ裏面から1/4t(tはフランジ厚)の位置を中心として、JIS Z2202に規定された2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、JIS Z2242に準じてシャルピー衝撃試験を行い、0℃における吸収エネルギーを測定した。
【0061】
表2に上記調査の結果をあわせて示す。本発明の鋼組成を満足する適合鋼を用い、本発明範囲の製造方法(加熱温度、フランジ外面の平均冷却速度が本発明範囲内)で作製した突起付きH形鋼の試験結果(表2中の試験No.1~17、39~42)は、いずれも所望の特性(引張強さ:520MPa以上、降伏強度:355MPa以上および0℃における衝撃吸収エネルギーvE0:47J以上)を満足していた。なお、試験No. 34は、引張強さ、降伏強度、0℃における衝撃吸収エネルギーについては所望の特性を満足しているが、仕上圧延温度が好適下限である800℃を下回っていたため、突起高さが1.4mmであり、好適範囲(1.5mm以上)に満たなかった。
【0062】
一方、H形鋼の鋼組成が本発明の条件を満足しないか、あるいは、本発明範囲の製造方法を適用しなかった比較例(表2中の試験No.18~33、35~38)は、引張強さ、降伏強度および靭性のいずれかの値が要求特性を満足していない。
【0063】
また、本実施例は、H形鋼のフランジ外面に突起を形成した場合の例であるが、H形鋼のフランジ内面に突起を形成する場合についても、本願発明に従うことで、同様の結果を得られることを確認している。
【0064】
【表2】
【符号の説明】
【0065】
1:突起付きH形鋼 (圧延H形鋼)
2:フランジ
3:ウェブ
4:突起
5:フランジ1/6B部 (試験片採取位置)
図1
図2
図3