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特開2024-40143多能性哺乳動物幹細胞に由来する心筋細胞を成熟させるための培地組成物
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  • 特開-多能性哺乳動物幹細胞に由来する心筋細胞を成熟させるための培地組成物 図1
  • 特開-多能性哺乳動物幹細胞に由来する心筋細胞を成熟させるための培地組成物 図2-1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040143
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】多能性哺乳動物幹細胞に由来する心筋細胞を成熟させるための培地組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240315BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20240315BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/10
C12N5/0735
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023203668
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2021180863の分割
【原出願日】2014-06-06
(31)【優先権主張番号】2010953
(32)【優先日】2013-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】515343524
【氏名又は名称】エンカルディア・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・ロベルト・ブラーム
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB09
4B065BB12
4B065BB20
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】培地、前記培地を用いて多能性胚性幹細胞(ESC)及び/または(人工)多能性幹細胞(iPSC)から、特に(胎児)心筋細胞に分化する幹細胞から成体様心筋細胞を作製するための各種方法、及び前記培地、または前記培地を多能性胚性幹細胞(ESC)及び/または(人工)多能性幹細胞(iPSC)に由来する分化した(胎児)心筋細胞と一緒に含むキットを提供する。
【解決手段】水性培地組成物であって、前記水性培地組成物は、無血清であり、甲状腺ホルモン様化合物、脂質混合物、及びカルニチン化合物を含む、水性培地組成物を提供する。
【選択図】図2-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性培地組成物が無血清であり、甲状腺ホルモン様化合物、脂質混合物及びカルニチン化合物を含む、前記水性培地組成物。
【請求項2】
前記甲状腺ホルモン様化合物が、トリヨードサイロニン(T3)及び/または3,5-ジヨードチロプロピオン酸(DITPA)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、約25ng/mlから約150ng/mlのT3及び/または約1μMから約2μMのDITPAを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質混合物が、コレステロール、及びリノレン酸、リノール酸及びパルミチン酸から選択される1つ以上の脂質を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、約1μg/mlから約4μg/mlのコレステロールを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載組成物。
【請求項6】
前記脂質混合物が、更にアラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン(Tween)80の群から選択される1つ以上の成分を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、約0.5mMから約3.5mMのカルニチンを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、クレアチン化合物及びタウリン化合物を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、約3.0mMから約7.0mMのクレアチンを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、約2mMから約7mMのタウリンを含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、約5mg/Lから約15mg/Lのインスリン、及び約3mg/Lから約8mg/Lのトランスフェリン並びに約0.005mg/Lから約0.0075mg/Lのセレンを含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、Mn、Si、Mb、V、Ni、Sn、Al、Ag、Ba、K、Cd、Co、Cr、F、Ge、I、Rb及びZrの群から選択される微量元素の1つ以上、好ましくはすべてを含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、約2mg/mlから約7mg/mlのポリビニルアルコール(PVA)を含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、ウシ血清アルブミン、グルコース、ビタミン、抗生物質、モノチオールグリセロール、グルタミン、アミノ酸及びハムF12栄養ミックスを含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物を得るために水溶液中に溶解され得る固体組成物、好ましくは粉末組成物。
【請求項16】
多能性胚性幹細胞(PESC)及び/または人工多能性幹細胞(iPSC)から分化した胎児様心筋細胞から成体様心筋細胞を作製するための方法であって、その方法は、
(a)1つ以上の胎児様心筋細胞を用意する段階;
(b)前記胎児様心筋細胞を請求項1から15に記載の培地組成物と接触させて、前記胎児様心筋細胞を成体様心筋細胞に成熟させる段階;
を含む前記方法。
【請求項17】
前記胎児様心筋細胞を前記培地組成物と約3日間~最長約15日間接触させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記培地組成物が、段階(b)の液体培地を得るために水溶液中に溶解され得る固体形態、好ましくは粉末形態である、請求項16及び17に記載の方法。
【請求項19】
前記胎児様心筋細胞を、甲状腺ホルモン様化合物を欠いている請求項1から15のいずれか1項に記載の培地組成物と約2日間接触させた後、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる請求項1から15のいずれか1項に記載の培地組成物と接触させる、請求項16から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
インビトロでPESC及び/またはiPSCに由来する心筋細胞を成熟させるための請求項1から15のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
インビトロでPESC及び/またはiPSCに由来する心筋細胞を成熟させるための請求項1から15のいずれか1項に記載の、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている組成物の使用。
【請求項22】
請求項1から15のいずれか1項に記載の培地組成物を含む、インビトロ培養で成体様心筋細胞を作製するのに適したキット。
【請求項23】
請求項1から15のいずれか1項に記載の、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物を含む、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記培地組成物が液体形態である、請求項22及び23に記載のキット。
【請求項25】
前記培地組成物が、固体形態、好ましくは粉末形態である、請求項22及び23に記載のキット。
【請求項26】
胎児様心筋細胞を含む、請求項20から25のいずれか1項に記載のキット。
【請求項27】
未分化PESC及び/またはiPSCを含む、請求項20から25のいずれか1項に記載のキット。
【請求項28】
請求項16から19に記載の成体様心筋細胞を作製する方法の説明書を含む、請求項20から25のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には細胞培養及び幹細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、多能性胚性幹細胞(PESC)に由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟に関する。特に、本発明は、インビトロで哺乳動物PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞から成体様心筋細胞を作製するための既知組成組成物及び方法を提供する。本発明の幾つかの態様では、インビトロで哺乳動物PESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から成体様心筋細胞を作製するための本発明の既知組成組成物を用いる方法を提供する。本発明の既知組成培地組成物、作製した成体様心筋細胞及び方法は、創薬、薬物誘発性心毒性アッセイ、予測中毒スクリーニングアッセイ、候補薬物の前臨床スクリーニング、心血管系研究及び心疾患モデリング、再生医療、及び成人の心臓状態をモデリングまたは治療することを目的とする他の用途の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
新規のより有効な薬物を必要としている医学の幾つかの領域(すなわち、メンタルヘルス、心臓学、免疫等)の進歩は、創薬パイプラインにおける幾つかの候補リード化合物に伴う望ましくない薬物誘発性副作用により生ずる異常なコストにより大幅に妨げられている。すべての薬物開発に対する現在の創薬プロセスの1つの重大な欠点は、しばしば創薬パイプラインの初期相よりも後期相で検出される薬物の予期せぬ副作用、特に心毒性作用により引き起こされるリード化合物の高い損耗率である。それ自体不心整脈として発現する恐れがある薬物誘発性心毒性の予防は、このタイプの毒性の発現は直ちに生命を脅かすので、規制当局及び(バイオ)製薬会社にとって最優先事項に相当する。臨床研究での有害な安全性事象の33%が通常被験者に突然死または重篤な心臓系合併症をもたらす恐れがある心不整脈作用に起因していることが判明している(Mordwinkinら(2013),Journal of cardiovascular translational research,Vol:6(1):22-30)。
【0003】
従って、薬物開発/創薬の従来のプロセスを改善するための、例えば薬物誘発性心毒性作用を排除するための新規なコスト効率が高い戦略が緊急要望されている。特に、薬物パイプライン開発の初期段階で薬物誘発性心毒性を予測するための緊急のまだ満たされてない要望がある。過去10年にわたり、この目的に対してかなりの研究努力が費やされてきた。例えば、多能性幹細胞の使用、イオンチャネルアッセイ及びコンビューターによる計算ルールを含めた幾つかの生物学的モデル及びツールが開発された。特に、薬物開発中の心毒性に関連する問題を解決するための革新的な予測アッセイの開発における多能性幹細胞に由来する心筋細胞の使用が現在の興味の中心である。
【0004】
多能性胚性幹細胞(PESC)及び人工多能性幹細胞(iPSC)のような多能性幹細胞は、インビトロ培養で心筋細胞を作製するための細胞の可能性あるソースである。心筋細胞の使用は、開発中のすべての薬物に対する薬物誘発性毒性を予測するためのアッセイを開発するために重要なだけでなく、心臓研究のために、及び一般的に心筋細胞が新しい薬物標的を明らかにし、心臓薬の安全性を評価するために使用され得る新しい心臓薬の開発のためにも重要である。インビトロでPESC及び/またはiPSCから心筋細胞を作製する能力は、他の治療手段、例えばPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞を例えばその必要がある患者における損傷した心組織を直接修復するために使用し得る再生医療も広げている。
【0005】
薬物開発/創薬、薬物安全性アッセイ、心血管系疾患モデリング、心臓研究、再生医療及び他の生物学的目的において心筋細胞を使用できることは、あるレベルの機能特性(例えば、成体様電気生理学的パターン)及び/または遺伝子プロフィール(例えば、細胞運命特異的遺伝子マーカーの成体様発現)、及び/または形態学的態様(例えば、成体様形状及び組織学的性質)のような幾つかの表現型要件を満たさなければならないPESC及び/またはiPSCに由来する心筋細胞をインビトロ培養で培養し得る能力に大きく依存している。
【0006】
この点で、当業界の主な制限は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCから心筋細胞を作製するための現在の方法及び培地組成物は、準最適であり、「現実の」事情(すなわち、成体様状態)に適した心筋細胞を必要とする用途、例えば薬物開発/創薬、薬物安全性アッセイ、心疾患モデリング、心臓研究、再生医療に対する要件を全くまたは部分的にしか適合しない結果しか生じない。これは、現在の方法及び培地組成物が胎児(胎児様)心筋細胞に同種の未熟な心筋細胞を生ずるためである。そのような心筋細胞は、薬物開発/創薬、薬物安全性アッセイ、心疾患モデリング、心臓研究、再生医療、及び典型的には成人期で生ずるが、初期の発達段階では生じない心臓状態をモデリングまたは治療することを目的とする他の目的のような用途で使用するためには不適切である。よって、これらの目的のためには、成体様(成熟)心筋細胞が未熟心筋細胞または胎児様心筋細胞よりもより適している。
【0007】
従って、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCから成体様心筋細胞(未熟心筋細胞とは対照的に)を作製するための改良された方法及び培地組成物が要望されている。それ自体幹細胞のインビトロ分化でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞に由来する成体様心筋細胞を大量に(より高い収率で)産生するための改良された方法及び培地組成物も要望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mordwinkinら(2013),Journal of cardiovascular translational research,Vol:6(1):22-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、それ自体インビトロ培養で多能性胚性幹細胞に由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟を促進させる既知組成培地組成物、及びより効率的であり、心臓研究及び臨床用途に対する一般的要件を満たす成体様心筋細胞の大規模産生を助けるインビトロ培養で成体様心筋細胞を作製するための方法を提供することにより当業界の主要な制限を解消することである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インビトロ培養でヒト多能性胚性幹細胞(PESC)に由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟に対するT3の効果を示す。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成熟度をα-アクチニンに対する抗体を用いて免疫組織化学(免疫蛍光)方法により評価したその形態学的特徴から明らかにした。パネルA及びBは、本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている基本分化培地(対照状況1)において培養したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の形態学的特徴を示す。パネルC及びDは、本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている培地組成物(すなわち、成熟培地組成物)(対照状況2)において培養したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の形態学的特徴を示す。パネルE及びFは、本発明の、ただし100ng/mlのT3を含む培地組成物において培養したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の形態学的特徴を示す。パネルB、D及びFはそれぞれパネルA、C及びEの拡大に相当する。これらの結果から、対照状況1及び2(パネルA~Dを参照されたい)と比較して、T3を含む本発明の培地組成物において培養したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞(パネルE及びFを参照されたい)は、細胞の極性化、改善されたサルコメア構造及び細長い形状を含めた成体心筋細胞表現型に最も類似しているかまたは最も近似している形態学的特徴を示したことが分かる。対照1(パネルA及びBを参照されたい)と比較して、本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている培地組成物において培養した心筋細胞(対照2,パネルC及びDを参照されたい)は、T3の存在下で観察されたもの(パネルE及びFを参照されたい)よりも少ない程度に(低い効率、少ないロバスト)成体心筋細胞表現型を連想させる形態学的特徴も示した。
図2-1】インビトロ培養でヒト多能性胚性幹細胞(PESC)に由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟に対するT3の効果を示す。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成熟度をパッチクランプ法により評価したその電気生理学的特性から明らかにした。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞をT3を欠いている本明細書中に教示されている培地(対照状況,グラフの黒色バーを参照されたい)、または100ng/mlのT3を含む本明細書中に教示されている培地(グラフの白色バーを参照されたい)において12日間培養した。パネルAは最大立ち上がり速度に対するT3の効果を示す。パネルBは静止膜電位に対するT3の効果を示す。これらの結果から、対照状況と比較して、T3で処理したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞は、より大きい最大立ち上がり速度(パネルAを参照されたい)、及びより低い静止膜電位(パネルBを参照されたい)を含めた幾つかの電気生理学的パラメーターの改善を示すことが分かる。データは平均±SEMとして表す。
図2-2】インビトロ培養でヒト多能性胚性幹細胞(PESC)に由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟に対するT3の効果を示す。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成熟度をパッチクランプ法により評価したその電気生理学的特性から明らかにした。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞をT3を欠いている本明細書中に教示されている培地(対照状況,グラフの黒色バーを参照されたい)、または100ng/mlのT3を含む本明細書中に教示されている培地(グラフの白色バーを参照されたい)において12日間培養した。パネルCは活動電位の振幅に対するT3の効果を示す。この結果から、対照状況と比較して、T3で処理したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞は、活動電位のより大きい振幅(パネルCを参照されたい)の改善を示すことが分かる。データは平均±SEMとして表す。
図3】インビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟に対するT3の効果を示す。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成熟度をその代謝特性により明らかにし、前記代謝特性は電位差測定赤色蛍光染料である一般的にTMRMとして公知のテトラメチルローダミンメチルエステルを用いるTMRMアッセイを使用することにより評価した。TMRMで処理すると、健康に機能しているミトコンドリアの内膜領域内にTMRMがミトコンドリア膜電位駆動で蓄積される。PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞をT3を欠いている本明細書中に教示されている培地組成物(CM)(対照状況)、または100ng/mlのT3を含む本明細書中に教示されている培地組成物(CM)(成熟培地(MM)とも称される)において17日間培養した。いずれの処理群もTMRMアッセイにかけた。これらの結果から、対照状況と比較して、T3で処理したPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞は高いミトコンドリア活性を示すTMRM関連橙色蛍光の高い増加を示すことが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一般的定義
以下の説明及び実施例中に多数の用語が使用されている。その用語に与えられるべき範囲を含めた明細書及び特許請求の範囲の明瞭且つ一貫した理解を与えるために、以下の定義を提示する。本明細書中に別段の定義がない限り、すべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているのと同一の意味を有する。刊行物、特許出願明細書、特許文献及び他の参考文献は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0012】
本明細書中で使用されている用語「幹細胞」は、自己再生始原細胞、非再生始原細胞及び最終分化細胞を含めた子孫細胞を産生させるべく単一細胞レベルで自己再生及び分化する能力により規定される未分化細胞を指す。幹細胞は培養で無期限に分裂する能力を有している。幹細胞は、インビトロで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から各種細胞系列の機能細胞に分化する能力、移植後複数の胚葉の組織が生じる能力、及び胚盤胞に注入後実べてではないが殆どの組織に実質的に寄与する能力によっても特徴づけられる。幹細胞は体性(成体)幹細胞または胚性幹細胞として分類される。体性幹細胞は、それ自体再生(クローン)し得、その起源に由来する組織のすべての特殊化細胞型を生ずるように(ある程度の限定で)分化し得る分化組織中に見られる未分化細胞である。
【0013】
本明細書中で使用されており、当業界では「ES細胞」または「ESC」(また、ヒト起源ならば、「hES細胞」または「hESC」)と略されている用語「胚性幹細胞」は、当業者により一般的に理解されており、胚盤胞の内部細胞塊に由来する多能性胚性幹細胞(PESC)を指す。当業者は、例えばChung(Chungら(2008),Stem Cell Lines,Vol.2(2):113-117)が記載しているようにドナー胚を破壊させない方法を用いる胚性幹細胞を得る方法を理解している。
【0014】
本明細書中で使用されている用語「多能性」は、当業者により一般的に理解されており、1つ以上の組織または臓器、例えば3つの胚葉:内胚葉(例えば、胃内部壁、胃腸管、肺)、中胚葉(例えば、心臓、筋肉、骨、血液、尿生殖路)、または外胚葉(例えば、表皮組織及び神経系)のいずれかを構成するすべての細胞に分化する可能性を有している多能性幹細胞の属性を指す。
【0015】
本明細書中で使用されており、「PESC」と略されている用語「多能性胚性幹細胞」は、初期胚に由来する多能性幹細胞を指す。PESCは3つの胚葉のいずれかに由来する細胞に分化し得る。PESCは、マーカーまたは系列特異的マーカーを使用することにより他の型の細胞と区別され得、前記マーカーにはOct-4、Nanog、GCTM-2、SSEA3及びSSEA4が含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書中で使用されており、通常iPSCと略されている用語「人工多能性幹細胞」は、胚性幹細胞の「幹細胞性」を維持するために重要な因子を発現させることにより胚性幹細胞様状態に入るように再プログラミングされる体(成体)細胞を指す。典型的には、iPSCは、細胞に再プログラミング因子を導入するかまたは他の方法で接触させることにより非多能性細胞(すなわち、成体体細胞または最終分化細胞)、例えば線維芽細胞、造血細胞、筋細胞、ニューロン、表皮細胞等から人工的に作られる。用語「人工多能性幹細胞(iPSC)」は胚性幹細胞を含まない。
【0017】
本明細書中で使用されている用語「甲状腺ホルモン様化合物」は、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン(T3)とも称される)、及び甲状腺ホルモンT3に類似しているかまたは甲状腺ホルモンT3の作用によく似ている化合物を指す。甲状腺ホルモン様化合物の非限定例には、甲状腺ホルモン受容体アゴニスト化合物、例えばDITPA(3,5-ジヨードチロプロピオン酸またはDITPAとも称される)、GC-1化合物(Bristol-Myers Squibb製の甲状腺ホルモン受容体サブタイプβ(TRbeta)選択的アゴニストである)、RO化合物(Roche Pharmaceuticals製の甲状腺ホルモン受容体サブタイプβ1(TRbeta)選択的アゴニストである)、CO23化合物(KaroBio製の甲状腺ホルモンサブタイプα1(TRalphal)選択的アゴニストである)、KB2115(KaroBio製の甲状腺ホルモン受容体サブタイプβ(THbeta)選択的アゴニストである)が含まれる。
【0018】
本発明において、本明細書中で使用されている用語「増殖」、「増加」、または「増大」は、インビトロ培養でコントロール条件下で指数関数的に1つのPESCまたはiPSC(母細胞)が増殖し、分裂して、2つのPESCまたは2つのiPSC細胞(娘細胞)等を産生する生物学的プロセスを指す。PESCまたはiPSCの増殖、増大または増加のプロセス中PESCまたはiPSCは自己再生すると理解される。細胞の自己再生は、未分化状態を維持しながら、所与の細胞が細胞分裂の複数のサイクルを進む能力である。
【0019】
本発明において、本明細書中で使用されている用語「分化」は、インビトロ培養でコントロール条件下で非特殊化PESCまたはiPSCが特殊化細胞、例えば心細胞(例えば、心筋細胞)、肝細胞または筋細胞の特徴を獲得する生物学的プロセスを指す。分化は、通常細胞表面に埋め込まれたタンパク質を伴うシグナル化経路を介して細胞遺伝子と細胞の外側の物理的及び化学的状態との相互作用によりコントロールされる。幾つかの実施形態では、多能性幹細胞(例えば、PESCまたはiPSC)は、多能性幹細胞の胎児様心筋細胞への分化を促進するように本発明の培地組成物及び方法に曝され得る。心分化は、非限定的にNKX2-5、GATA4、ミオシン重鎖、ミオシン軽鎖、α-アクチニン、トロポニン及びトロポミオシンから選択されるマーカーを使用することにより検出され得る(Burridgeら(2012),Stem Cell Cell,Vol.10(1):16-28;US2013/0029368)。
【0020】
当業者は、幹細胞(例えば、PESC及び/またはiPSC)由来心筋細胞を得るための各種方法を認識している。幹細胞を分化制御状態から取り出したとき及び/または胚葉体と称される懸濁集合体中で増殖させたとき、3つの胚葉の細胞への自然分化が生ずる。心筋細胞は中胚葉から派生し、よって幹細胞の心筋細胞への分化は中胚葉系列に向かう効率的分化を必要とする。心系列への定方向分化は、主に、例えば幹細胞由来心筋細胞を得るために幹細胞をマウスEND-2と一緒に培養することにより、またはアクチビンA及びBMP4で順次処理することによりマトリゲル上に接種した幹細胞の高密度での単層培養を用いることにより(Laflammeら,2007;Nat.Biotechnol.,25,1015-1024)、心臓発生に影響を及ぼすことが公知の増殖因子及びリプレッサーの存在下での胚葉体の形成(例えばKehatら,Clin.Invest.,2001;108,407-414を参照されたい)、胚形成中の心分化に対する内胚葉の影響に対する信頼(Mummeryら,Circulation,2003;107,2733-2740)を含めた幾つかの戦略により達成される。
【0021】
本明細書中で使用されている用語「未分化」は、より特殊化されている細胞の特性を発現していないPESC及び/またはiPSCを指す。当業者に認識されているように、用語「未分化」及び「分化」は相互に相対的である。「分化された」PESC及び/またはiPSCはより特殊化した細胞の特性を有している。分化及び未分化細胞は、相対的サイズ及び形状、細胞質体積に対する核体積の比のような形態学的特性;及び分化の公知(遺伝子)マーカーの検出可能な存在のような発現特性を含めた幾つかの十分に確立されている基準により相互に区別される。
【0022】
本発明において、本明細書中で使用されている用語「成熟」は、発達の未熟状態(または、胎児状態)を示すPESCまたはiPSCに由来する分化細胞がインビトロ培養でコントロール条件下で発達の(遺伝及び形態を含めて)より機能的または完全に機能的な状態を達するために必要である生物学的プロセスを指す。従って、PESC及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成熟は、胎児遺伝子/タンパク質発現、胎児形態特性及び関連する機能特性の損失、及び成体(または、成体様)または成熟細胞に関連する遺伝子発現、形態学的特性及び機能的特性の獲得を伴い得る。PESC及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞を「成熟させる」プロセスにより、発達のより成体様または成熟状態を有しているPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞が生ずる。
【0023】
本明細書中で使用されている用語「心筋細胞」または「心臓筋細胞」は通常心筋細胞系列細胞を指し、別段の特定がない限り心筋細胞個体発生の任意の段階の細胞に適用するために採取され得る。例えば、心筋細胞は心筋細胞前駆体細胞(未熟心筋細胞または胎児心筋細胞)及び成熟心筋細胞(成体様心筋細胞)の両方を含み得る。更に、心筋細胞はサブタイプに細分化され得るが、これらのサプタイプには心房心筋細胞、心室心筋細胞、洞房結節(SA)結節心筋細胞、末梢SA結節心筋細胞、または中心SA結節心筋細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書中で使用されている用語「胎児様心筋細胞」または「未熟心筋細胞」は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来し、成体または成体様心筋細胞に比べて所望の表現型及び/または遺伝子型を有していない心筋細胞を指す。例えば、胎児様(未熟)心筋細胞は、自動性(自発収縮)、及び/または胎児型イオンチャネル発現、及び/または胎児型電気生理学的シグナル、及び/または胎児様遺伝子発現パタ―ン、及び/または胎児型物理的表現型を示し得る。胎児様(未熟)心筋細胞は、例えばマーカーまたは系列特異的マーカーを用いることにより他の細胞型と区別され得、これらのマーカーには、MYH6、TNNT2、TNNI3、MLC2V、EMILIN2、SIRPA、VECAM、及び発達の胎児または胎児様段階を評価するのに適している他のマーカーが含まれるが、これらに限定されない(Burridgeら(2012),Stem Cell Cell,Vol.10(1):16-28)。代謝的成熟度は当業者に公知の方法により、例えば表現型で形態、遺伝子発現、代謝マーカー、細胞表面マーカー、電気生理学的特性を見る方法、及び/または細胞の細胞機能アッセイにより調べられ得る。例えば、成熟について、「胎児」状態または心肥大状態に関連する遺伝子、例えばNPPA(BNA)及びNPPB(BNP)の少ない発現を調べることができ、好ましくは成熟している幹細胞由来心筋細胞の電気生理学的特性を調べることができ、本明細書中に詳細に検討されているようにより成体または成体様の心筋細胞特性がより成熟した幹細胞由来心筋細胞の場合見られ得る。
【0025】
加えて、幹細胞由来心筋細胞の相対的成熟度は、胎児状態に関連する遺伝子、例えばNPPA、NPPB、平滑筋アクチン及び骨格アクチンの少ない発現、または成体遺伝子/タンパク質、例えばミオシン軽鎖2V、カルセケストリン及びリアノジン受容体の多い発現の存在により調べられ得る。
【0026】
本明細書中で使用されている用語「成体様心筋細胞」または「成熟心筋細胞」は、成体心筋細胞に比べて所望の表現型及び/または遺伝子型を有している心筋細胞を指す。1つの実施形態では、成熟細胞は、非限定例的に成体心筋細胞、心房心筋細胞、心室心筋細胞、SA結節心筋細胞、末梢SA結節心筋細胞または中心SA結節心筋細胞の表現型及び/または遺伝子型を有している。他の実施形態では、「成体様心筋細胞」または「成熟心筋細胞」は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞と比較したとき、より成熟した電気生理学的パターン、及び/またはより成熟したカルシウムハンドリングパターン、及び/またはより成体型のイオンチャネル発現、及び/またはより成体型の電気生理学的シグナル、及び/またはより成体様の収縮特性、及び/またはより成体様の遺伝子発現パターン、及び/またはより成体型の物理的(形態学的)表現型を示す。成体様心筋細胞は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞では少なくしかまたは不十分にしか発現しない特徴である筋原線維組織及びサルコメア線条も高度に有し得る。
【0027】
当業者は、例えば特定の発達段階に適切な公知の心筋細胞特異的マーカーまたは系列特異的マーカー、及び成体様(成熟)心筋細胞を胎児様(未熟)心筋細胞と区別するように当業界で利用可能な方法を用いることにより、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の成熟度を評価する方法を知っている。本発明において、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の成熟度を評価するための1つの方法は、非限定的に例示されるNPPA、NPPB、平滑筋アクチン及び骨格アクチンのような胎児(未熟)状態に関連する遺伝子マーカーの発現を評価することである。1つ以上の胎児(未熟)マーカーの低い(遺伝子)発現は成体様(成熟)状態を示す。インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の成熟度を評価するための別の方法は、非限定的に例示されるミオシン軽鎖2V、カルセケストリン及びリアノジン受容体のような成体様(成熟)状態に関連する遺伝子マーカーの発現を評価することである。1つ以上の成体様(成熟)マーカーの高い(遺伝子)発現は成体様(成熟)状態を示す(Burridgeら(2012),Stem Cell Cell,Vol.10(1):16-28)。
【0028】
インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の成熟度を評価するための別の方法は、その電気生理学的特性、例えば細胞のインビトロで活動電位を形成及び/または伝搬させる能力を評価することである。インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の電気生理学的成熟度は、例えば他の方法の中でパッチクランプ法により評価され得る。胎児様(未熟)電気生理学的表現型と比較して成体様(成熟)電気生理学的表現型を示す変化には、成体心筋細胞の品質証明である上昇した最大立ち上がり速度、より低い静止膜電位及び活動電位のより大きい振幅が非限定的に含まれる。
【0029】
インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の成熟度を評価するための別の方法は、その代謝プロフィール、例えばインビトロ培養でのミトコンドリア活性を評価することである。インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の代謝プロフィールの成熟度は、例えば(他の方法の中で)一般的にTMRMとして公知の電位差測定赤色蛍光染料のテトラメチルローダミンメチルエステルを利用するTMRMアッセイを用いることにより評価され得る。TMRMで処理すると、健康的に機能しているミトコンドリアの内膜領域内にTMRMがミトコンドリア膜電位駆動により蓄積する。胎児様(未熟)代謝プロフィールと比較して成体様(成熟)代謝プロフィールを示す特徴的な変化の非限定例は、胎児様(未熟)PESC及び/またはiPSCに由来する成体様(成熟)心筋細胞のミトコンドリア中のより多くのTMRMの蓄積であり、これはTMRMアッセイにおけるTMRM関連橙色蛍光の増加により検出される。
【0030】
インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の成熟度を評価するための別の方法は、その形態学的特徴、例えば細胞骨格の形状及び/または超構造組織を評価することである。インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来心筋細胞の形態学的特徴の成熟度は、(他の方法の中で)例えば免疫蛍光(Cy3またはAlexa-Fluor 647)及びα-アクチニンのような細胞骨格の不可欠成分に対する抗体を用いる免疫組織化学的方法により評価され得る。胎児様(未熟)代謝プロフィールと比較して成体様(成熟)形態学的特徴を示す特徴的変化の非限定例は細胞のより大きい極性化、改善されたサルコメア組織及び細長い形状である。
【0031】
本発明において、本明細書中で使用されている用語「マーカー」または「系列特異的マーカー」は、当該系列の細胞の表現型に特異的に関連している特性を指し、未定型細胞の当該系列への分化を評価するために使用され得る。例えば、「マーカー」または「系列特異的マーカー」は、当該細胞において差別的に発現される核酸またはポリペプチド分子を指し得る。マーカー核酸またはポリペプチドの検出可能なレベルは、当該細胞が当業界で公知の各種方法を用いて同定され、他の細胞から区別され得るように他の細胞と比較して当該細胞において十分により高いか低い。
【0032】
本明細書中で使用されている用語「水性組成物」は、水を主成分とする組成物、または溶媒が水である組成物を指す。例えば、水性組成物は水溶性物質を水中に溶解させることにより得られ得る。
【0033】
本明細書中で使用されている用語「固体組成物」は固体形態の組成物を指す。用語「固体組成物」は半液体形態または半固体形態である組成物も包含する。例えば、固体組成物は粉末、顆粒、錠剤、ペースト、ピューレ、ウェット混合物、ペレット、凍結乾燥形態、フリーズドライ形態等の形態であり得る。本発明の幾つかの実施形態では、固体組成物は、本明細書中に教示されている水性組成物を得るために適量の溶媒、例えば水中に溶解され得る。
【0034】
本明細書中で使用されている用語「脂質」は、脂肪、ワックス、ステロール、脂溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、D、E及びK)、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、リン脂質等を含む分子の群を指す。脂質は、脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、サッカロ脂質及び(ケトアシルサブユニットの縮合により誘導される)ポリケチド;並びにステロール脂質及び(イソプレンサブユニットの縮合により誘導される)プレノール脂質を含めた幾つかのカテゴリーに分類され得る。用語「脂質」は、分子、例えば脂肪酸及びその誘導体(例えば、トリ-、ジ-、モノグリセリド、及びリン脂質)、及びコレステロールのような他のステロール含有代謝物をも包含する。脂質の更なる非限定例には、リノレン酸、リノール酸、パルミチン酸、アラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸、トゥイーン80等が含まれる。本明細書中で使用されている用語「脂質混合物」は少なくとも2つ以上の脂質の組合せを指す。
【0035】
本明細書中で使用されている用語「無血清培地」は当業者により一般的に理解されており、実質的に血清を含まない培地を指す。定義によれば、無血清培地は成分として全血清を欠いているが、血清由来産物が完全に除外されていなくてもよい。例えば、高純度アルブミン、例えばウシまたはヒト(組換え)アルブミンを無血清培地中に含めてもよい。例えば、最高10重量%、好ましくは最高5重量%、更により好ましくは最高2重量%、最高1重量%、最高0.5重量%、最も好ましくは最高0.25重量
%のアルブミンを含み得、例えばBovogen(オーストラリア国キラー・イーストVIC 3033,Williams Ave)製のBovostar BSAからなり得る。血清の使用に対する技術的欠点には、既知ではない血清の種類、組成のバッチ間変動及び汚染のリスクが含まれる。高純度アルブミンのような既知の血清由来産物を存在させることにより、上記欠点が無血清培地中に再導入されない。
【0036】
本明細書中で使用されている用語「哺乳動物」は、哺乳網のメンバーを指し、この中には、非限定的にヒト及び非ヒト霊長類、例えばチンパンジー及び他の類人猿、及び他のサル種;家畜、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマ;愛玩哺乳動物、例えばイヌ及びネコ;実験動物、例えばマウス、ラット及びモルモットを含めた齧歯類等が含まれる。この用語は特定の年齢または性別を示さない。よって、雄または雌に関係なく、成体、新生被験者及び胎児がこの用語の範囲に含まれると意図される。
【0037】
本明細書中で使用されている単数形の用語「a」、「an」及び「the」は、文脈上そうでないとする明確な指示がない限り複数形を含む。例えば、「a」DNA分子を単離するための方法は、複数の分子(例えば、10個、100個、1000個、1万個、10万個、100万個またはそれ以上の分子)を単離することを含む。
【0038】
本明細書中で使用されており、具体的に記述されていないが、文脈上明白でない限り、用語「約」は当業界で一般公差の範囲内、例えば平均の2標準偏差の範囲内と理解される。約は記述されている値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%の範囲内である。
【0039】
本明細書中で使用されている用語「及び/または」は、1つ以上の記述されている事例が単独で、または記述されている事例の少なくとも1つ、最大すべてと一緒に起こり得る状況を指す。
【0040】
本明細書中で使用されている用語「少なくとも」は、具体的な値がその具体的な値と同一であるかまたはそれ以上である状況を指す。例えば、「少なくとも2」は、「2以上」と同一、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15…等であると理解される。
【0041】
本明細書中で使用されている用語「含む(comprising)」または「含む(to comprise)」及びその活用形は、単語の後の事項が含まれるが、具体的に挙げられていない事項が排除されないことを意味すべくその用語が非限定的な意味で使用されることを指す。より限定的動詞「からなる(to consist of)」も含む。加えて、不定冠詞「a」または「an」による要素の言及は、文脈上1つの要素または要素のうち1つしか存在しないことが明確に要求されている場合を除き、要素の2つ以上が存在する可能性を排除しない。よって、不定冠詞「a」及び「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。更に、本明細書中で「配列」を言及するとき、通常サブユニットのある配列を有する実際の物理的分子(例えば、アミノ酸)を言及すると理解される。
【0042】
本明細書中で使用されている用語「従来技術」は、本発明の方法において使用される従来技術を実施する方法が当業者に明白である状況を指す。分子生物学、生化学、細胞培養、ゲノム科学、配列決定及び関連分野における従来技術の実施は当業者に公知であり、例えば以下の文献:Human Embryonic Stem Cell:The Practical Handbook,出版社:John Wiley & Sons,LTD,編集者(Sullivan,S.,Cowan,C.A.,Eggan,K.)Harvard University,Cambridge,MA,USA(2007);Human Stem Cell,a Laboratory Guide(第2版),Peterson、S.,and Loring,J.F.(2012)で検討されている。
【0043】
別段の定めがない限り、本明細書中で使用されている用語「一般科学用語」は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているのと同一の意味を有する本明細書中で使用されている技術的及び科学的用語を指す。Singletonら,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,第2版,J.Wiley & Sons(New York,N.Y.1994);March,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure,第4版,J.Wiley & Sons(New York,N.Y.1992);及びSambrook and Russel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,N.Y.2001)は、当業者に対して本明細書中で使用されている多くの用語に対する一般的ガイドを与える。当業者は、本発明を実施する際に使用され得る本明細書中に記載されている方法及び材料に類似または均等の多くの方法及び材料を認識している。実際、本発明は決して記載されている方法及び材料に限定されない。
【0044】
本明細書中で使用されている用語「未満」、「以下」等は、0~示されている値を含めたその値までの範囲を指す。例えば、「10未満」または「10以下」は0、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10と理解される。
【0045】
本明細書を通じて、例えば用語「2.5μg/mlのコレステロール」が記述されているとき、当業者は「2.5μg/mlのコレステロール」は2.5μgのコレステロール/mlの培地を指すことを意味する。
【0046】
本明細書中で使用されている用語「三次元培養」は当業者により一般的に理解されており、3次元組織形成を助けることができる人工構造物に細胞を移植または接種する細胞の培養方法を指す。典型的にはスキャフォールドと呼ばれているこれらの構造物はインビボ環境を反復し、細胞がそれ自身のミクロ環境に影響を与えるためにエクスビボ及びインビトロで重要である。
【0047】
本明細書中で使用されている用語「等張液」は、その有効オスモル濃度が比較対照の別の溶液の溶質濃度、または別の細胞及び/または組織と同一である溶液を指す。これは、例えば水及び全溶質分子の濃度が細胞含有物と外液において同一であるときに生ずる。水分子は血漿膜を介して両方向に拡散し、水拡散速度が両方で同一であるので細胞は水を得ることも失うこともない。本発明において、等張性組成物は、外液と本発明の組成物を用いて保存、輸送または貯蔵しようとする細胞の細胞含有物において、または本発明の組成物を用いて保存、輸送及び/または貯蔵しようとする組織及び/または臓器の一部である細胞の細胞含有物において同一である溶液を指す。
【0048】
本明細書中で使用されている用語「被験者」は任意の脊椎動物を指すが、典型的には哺乳動物、例えばヒト患者、愛玩動物(例えば、イヌまたはネコ)、家畜(例えば、ウマ、ウシまたはヒツジ)、または実験動物(例えば、ラット、マウス、非ヒト霊長類またはモルモット)に関する。好ましい実施形態では、被験者はヒト、好ましくは成人である。
【0049】
本発明の培地組成物
第1の態様において、本発明は水ベースの水性培地組成物に関する。特に、本発明は、本質的に無血清であり且つ甲状腺ホルモン様化合物、脂質混合物及びカルニチン化合物を含む培地組成物に関する。
【0050】
本発明の培地組成物を作製する場合、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟及び維持を助ける能力の血清のロット間変動を避けるために、(既知組成)無血清培地を使用することが特に有利であり得る。(既知組成)無血清培地の使用は、結果の再現性を確保し、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞を成熟させることにより得られる成体様(成熟)心筋細胞の収率及び品質を維持するためにも有利である。(既知組成)無血清培地の使用は、起こりうる病原体汚染のリスクを避け、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様心筋細胞の免疫原性を低下させるためにも望ましい。既知組成無血清培地は当業界で公知であり、市販されている。当業者は、本発明の培地組成物を作製するために好適な(既知組成)無血清培地の選択方法を知っている。市販されている(既知組成)無血清培地の非限定例には、F-12栄養混合物(ハム)、F-10栄養混合物、リーボビッツL-15、マッコイズ5A、MCDB 131、G-MEM、改良MEM、DMEM、DMEM/F12、RPMI-1640、ウェィマスMB 752/1、ウィルアム培地E、IMDM、Media 199、Opti-MEM、変法イーグル培地(MEM)、最少必須培地(MEM)、BGJb(フィットン-ジャクソン改変)、CMRL、BMEが含まれる。1つ以上の既知組成無血清培地の混合物を本発明の培地組成物中に使用し得る。2つの既知組成無血清培地の混合物の非限定例は、例えばIMDM及びF12栄養(Ham)を含む混合物である。前記混合物は本発明の培地組成物を作製するために特に適していることが分かった。
【0051】
本発明者は、本発明の培地組成物中に甲状腺ホルモン様化合物を添加すると、インビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から得た心筋細胞の成熟が大きく促進し、改善することを知見した。具体的には、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物に曝すと、電気生理学的及び機械的属性の高い成熟(例えば、成体様活動電位、より低い静止膜電位及び心筋細胞のより強い律動性収縮)が生じたことが知見された。カルシウムホメオスタシス(すなわち、カルシウム電流)の高い成熟、心筋細胞の超微細構造組織の高い成熟(すなわち、成体表現型に似ている組織化線状パターンの外観及び細長い形状)、並びに代謝プロフィール(例えば、高いミトコンドリア活性)及び成体段階特異的遺伝子マーカー(例えば、トロポニンI及びαアクチニン等)の検出のような成体または成体様(成熟)心筋細胞表現型に特有の他の特性の高い成熟も検出され得る。
【0052】
驚くことに、本発明者は、本発明の培地組成物中に少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を添加すると、甲状腺ホルモン様化合物が本発明の培地組成物中に存在していない状況と比較して、インビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞の生存が強化されることを知見した。この効果により、本発明の方法により得られ得るインビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様心筋細胞の収率も全体的に増加したことが観察された。
【0053】
本発明の培地を作製するために好適な甲状腺ホルモン様化合物には、T3、T4(5’-ヨージナーゼによりT3に変換され得る甲状腺ホルモンである,以下を参照されたい)、DITPA及び甲状腺ホルモンアゴニスト化合物(例えば、GC-1化合物、RO化合物、CO23化合物、KB2115化合物等)が含まれるが、これらに限定されない。T3は個体発生中に産生される甲状腺により産生される天然に存在するチロシンベースのホルモンである。血液中の別の形態の甲状腺ホルモンは、T3よりも半減期の長いチロキシン(T4)である。血液中に放出されるT3に対するT4の比はおおよそ20:1である。T4は細胞内でデヨージナーゼ(5’-ヨージナーゼ)により活性T3(T4よりも3~4倍強力)に変換される。T3及びT4は当業界で公知であり、市販されている。
【0054】
実施形態では、甲状腺様ホルモン化合物はトリヨードサイロニン(T3)及び/または3,5-ジヨードチロプロピオン酸(DITPA)である。
【0055】
1つの実施形態では、本発明の培地組成物は約1.0~約150ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約10~約125ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約25~約100ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約30~約75ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約40~約60ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約53~約55ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物を含む。
【0056】
例えば、本明細書中に教示されている培地組成物及び/または本明細書中に教示されている方法及び/または本明細書中に教示されているキットにおいて使用され得る甲状腺ホルモン様化合物の濃度の非限定例は、約0.0001~約500ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約0.001~約400ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約0.05~約300ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、好ましくは約0.075~約200ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、より好ましくは約0.09~約110ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物を含み得る。
【0057】
実施形態では、本発明の培地組成物は約25~約150ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物を含む。
【0058】
好ましい実施形態では、本発明の培地組成物は約50ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物、例えば40~60ng/mlの甲状腺ホルモン様化合物を含む。
1つの実施形態では、本発明の培地組成物は約1.0~約150ng/mlのT3、好ましくは約10~約125ng/mlのT3、好ましくは約25~約100ng/mlのT3、好ましくは約30~約75ng/mlのT3、好ましくは約40~約60ng/mlのT3、好ましくは約53~約55ng/mlのT3を含む。
【0059】
例えば、本明細書中に教示されている培地組成物及び/または本明細書中に教示されている方法及び/または本明細書中に教示されているキットにおいて使用され得る甲状腺ホルモン様化合物の濃度の非限定例は約0.0001~約500ng/mlのT3、好ましくは約0.001~約400ng/mlのT3、好ましくは約0.05~約300ng/mlのT3、好ましくは約0.075~約200ng/mlのT3、より好ましくは約0.09~約110ng/mlのT3を含み得る。
【0060】
実施形態では、本発明の培地組成物は約25~約150ng/mlのT3を含む。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の培地組成物は約50ng/mlのT3、例えば40~60ng/mlのT3を含む。
【0062】
実施形態では、本発明の培地組成物は約25ng/ml~約150ng/mlのT3及び/または約1μM~約2μMのDITPAを含む。
【0063】
実施形態では、本発明の培地組成物はT3及びDITPAからなる群から選択される少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含む。
【0064】
本発明の実施形態では、T3及びDITPAは本発明の培地組成物及び/または方法において交換できるように、または組み合わせて使用され得る。好ましい実施形態では、本発明の培地組成物及び/または方法においてT3が使用される。
【0065】
別の実施形態では、T3及び/またはDITPAはT4、甲状腺ホルモンアゴニスト化合物(例えば、GC-1化合物、RO化合物、CO23化合物、KB2115化合物等)から選択される1つ以上の甲状腺ホルモン様化合物と組み合わせて使用され得る。
【0066】
別の実施形態では、本発明の培地組成物は約0.01nM~10μMのDITPA、好ましくは約0.1nM~8μMのDITPA、好ましくは約0.2nM~6μMのDITPA、好ましくは0.3nM~5μMのDITPA、好ましくは約0.4nM~4μMのDITPA、好ましくは約0.5nM~3μMのDITPA、好ましくは約0.6nM~2μMのDITPA、より好ましくは約0.75nM~1.5μMのDITPAを含む。
【0067】
実施形態では、本発明の培地組成物は少なくとも約1nMのDITPA、好ましくは約1μMのDITPAを含むが、好ましくは約10μM以下のDITPAを含む。
【0068】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は約0.1~100ng/mlのT3及び約1nM~1μMのDITPAを含む。
【0069】
実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物はT3及びDITPAの両方を含み得る。T3及びDITPAの好適な量または濃度は、本明細書中に開示されている情報に基づいて当業者により決定され得る。例えば、T3及びDITPAの好適な濃度は少なくとも約0.1ng/mlのT3及び少なくとも約1nMのDITPA、より好ましくは約100ng/mlのT3及び約1μMのDITPAであり得る。好適な濃度の別の例は少なくとも約25ng/mlのT3及び少なくとも約1nMのDITPA、より好ましくは約50ng/mlのT3及び約1μMのDITPAであり得る。
【0070】
他の甲状腺ホルモン様化合物、甲状腺ホルモン誘導体及び甲状腺ホルモンの前駆体も本明細書中に教示されている本発明に従う培地組成物を作製するために使用され得るが、T3及び/またはDITPAが好ましい。当業者は好適で有効な甲状腺ホルモン様化合物、甲状腺ホルモン誘導体及び甲状腺ホルモンの前駆体を選択する方法も知っており、本明細書中に開示されている情報に基づいて有効な用量を決定する方法を知っている。
【0071】
1つの実施形態では、脂質混合物はコレステロール、及びリノレン酸、リノール酸及びパルミチン酸から選択される1つ以上の脂質を含む。
【0072】
本発明者は、本明細書中に教示されている培地組成物への脂質混合物の添加は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様心筋細胞を成体様(成熟)に培養し、成熟させ、該成体様心筋細胞をインビトロ培地環境を用いて長期間維持するために有利であることを知見した。理論に束縛されないが、本発明の培地組成物の(既知組成)脂質混合物への添加は、PESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞が成体様(成熟)心筋細胞に成熟する天然のインビボ環境に前記培地をより一致させるようになると考えられる。本発明者は、本発明の培地組成物中に既知組成の脂質混合物を存在させると、インビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成熟及び生存が最適化されることを知見した。本発明の培地組成物中に既知組成の脂質混合物を存在させることは、インビトロ培養でPESC由来胎児(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から作製した心筋細胞の成熟の際に生ずるエネルギー代謝(すなわち、ミトコンドリア代謝)の変化を助け、適合させるのに特に有利と考えられる。
【0073】
好ましい実施形態では、脂質混合物はコレステロール、リノレン酸、リノール酸及びパルミチン酸を含む。コレステロール、リノレン酸及びリノール酸は当業界で公知であり、市販されている。
【0074】
実施形態では、本発明の組成物の培地は約1μg/ml~約4μg/mlのコレステロールを含む。
【0075】
実施形態では、本発明の組成物の培地は約0.01~5μg/mlのコレステロール、好ましくは約0.1~4.5μg/mlのコレステロール、好ましくは約1.0~4.0μg/mlのコレステロール、好ましくは約1.5~3.0μg/mlのコレステロール、より好ましくは約2.0~2.5μg/mlのコレステロールを含む。
【0076】
本発明の実施形態では、培地組成物は約0.01~約20μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.04~約18μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.06~約16μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.08~約14μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.09~約12μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.095~約11μg/mlのリノレン酸、より好ましくは約0.1~約10μg/mlのリノレン酸を含む。
【0077】
例えば、本明細書中に教示されている培地組成物及び/または本明細書中に教示されている方法及び/または本明細書中に教示されているキットにおいて使用され得るリノレン酸の濃度の非限定例は0.001~0.5μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.005~0.4μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.0075~0.3μg/mlのリノレン酸、好ましくは約0.01~0.2μg/mlのリノレン酸、より好ましくは約0.075~0.15μg/mlのリノレン酸を含む。
【0078】
好ましい実施形態では、培地組成物は約0.1μg/mlのリノレン酸、例えば0.05~0.3μg/mlのリノレン酸を含む。
【0079】
本発明の実施形態では、培地組成物は約0.01~約20μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.04~約18μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.06~約16μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.08~約14μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.09~約12μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.095~約11μg/mlのリノール酸、より好ましくは約0.1~約10μg/mlのリノール酸を含む。
【0080】
例えば、本明細書中に教示されている培地組成物及び/または本明細書中に教示されている方法及び/または本明細書中に教示されているキットにおいて使用され得るリノール酸の濃度の非限定例は約0.001~0.5μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.005~0.4μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.0075~0.3μg/mlのリノール酸、好ましくは約0.01~0.2μg/mlのリノール酸、より好ましくは約0.075~0.15μg/mlのリノール酸を含む。
【0081】
好ましい実施形態では、培地組成物は約0.1μg/mlのリノール酸、例えば0.05~0.3μg/mlのリノール酸を含む。
【0082】
本発明の実施形態では、培地組成物は約0.01~約20μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.04~約18μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.06~約16μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.08~約14μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.09~約12μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.095~約11μg/mlのパルミチン酸、より好ましくは約0.1~約10μg/mlのパルミチン酸を含む。
【0083】
例えば、本明細書中に教示されている培地組成物及び/または本明細書中に教示されている方法及び/または本明細書中に教示されているキットにおいて使用され得るパルミチン酸の濃度の非限定例は約0.001~0.5μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.005~0.4μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.0075~0.3μg/mlのパルミチン酸、好ましくは約0.01~0.2μg/mlのパルミチン酸、より好ましくは約0.075~0.15μg/mlのパルミチン酸を含み得る。
【0084】
好ましい実施形態では、培地組成物は約0.1μg/mlのパルミチン酸、例えば0.05~0.3μg/mlのパルミチン酸を含む。
【0085】
実施形態では、本発明者は、本発明の培地組成物が約2.2μg/mlのコレステロール、約0.1μg/mlのリノレン酸、約0.1μg/mlのリノール酸及び約0.1μg/mlのパルミチン酸を含んでいる場合には、本発明の培地組成物がこの特定の脂質混合物を欠いている状況と比較して、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を成体様(成熟)心筋細胞に成熟する際特に有効であることを知見した。
【0086】
実施形態では、必須ではないが、本発明の培地組成物中に他の脂質を添加することにより脂質混合物を広げることが有利であり得る。
【0087】
1つの実施形態では、脂質混合物は、更にアラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン80の群から選択される1つ以上の成分を含み得る。
【0088】
実施形態では、脂質混合物は、更にアラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン80から選択される2つ以上の脂質を含み得る。本発明者は、本明細書中に教示されている培地組成物中にアラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン80から選択される2つ以上の脂質を添加すると、本明細書中に教示されている培地組成物がこの特定の脂質混合物を含有していない状況と比較して、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟を促進し、強化する能力の点でより効率的であったことを知見した。
【0089】
好ましい実施形態では、脂質混合物はコレステロール、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン80を含む。
【0090】
本発明者は、本明細書中に教示されている培地組成物中にコレステロール、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン80を含む脂質混合物を添加すると、本発明の培地組成物がこの特定脂質混合物を欠いている状況と比較して、成体様(成熟)心筋細胞を得るためのインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟に対して一層大きい効果が生じたことを知見した。
【0091】
当業者は、本明細書中に開示されている情報を用いて適切な脂質混合物を作製する方法を知っている。コレステロール、リノール酸、リノレン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、酢酸DL-α-トコフェロール、エチルアルコール、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、プルロニックF-68、ステアリン酸及びトゥイーン80を含む既知組成脂質混合物は当業界で公知であり、商用業者から購入可能である。本発明のために好適である市販の脂質混合物の非限定例は、2.0mg/Lのアラキドン酸、220mg/Lのコレステロール、70mg/Lの酢酸DL-α-トコフェロール、信頼レベルのエチルアルコール100%、10mg/Lのリノール酸、10mg/Lのリノレン酸、10mg/Lのミリスチン酸、10mg/Lのオレイン酸、10mg/Lのパルミチン酸、10mg/Lのパルミトレイン酸、90000mg/LのプルロニックF-68、10mg/Lのステアリン酸、2200mg/Lのトゥイーン(Tween)80(R)を含有していることを特徴とするギブコの既知組成脂質濃厚物(カタログ番号11905-031,量:100mL)である。更に、類似のまたは異なる濃度で存在している脂質及びその誘導体の異なる組成物を含む他の脂質混合物も本発明の培地中に使用し得るが、本明細書中に教示されている脂質混合物を使用することが好ましい。当業者は、本発明に従う培地の本明細書中に開示されている有効性を保存するための代替脂質混合物の作製方法を知っており、個々の脂質及びその誘導体の選択方法を知っており、適切な有効用量の選択方法を知っている。
【0092】
本明細書中に教示されている培地組成物を作製する際、培地組成物にカルニチンを添加することが特に有利である。理論に束縛されないが、本発明者は、カルニチンがインビトロ培養でPSC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の分化及び成熟中に生体エネルギー経路(例えば、ミトコンドリア活性)を促進させるために有利であることを知見した。
【0093】
1つの実施形態では、本発明の培地組成物は約0.5mM~約3.5mMのカルニチンを含み得る。
【0094】
別の実施形態では、本発明の培養組成物は約0.01~5mMのカルニチン、好ましくは約0.1~4mMのカルニチン、好ましくは約0.5~3mMのカルニチン、好ましくは約1.0~2.5mMのカルニチン、より好ましくは約1.5~2.25mMのカルニチンを含み得る。
【0095】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、更にクレアチン化合物及びタウリン化合物を含み得る。
【0096】
理論に束縛されないが、本発明者は、本発明の培地組成物に細胞死を予防または緩和するためにクレアチン、インビトロ培養での虚血誘発性細胞壊死及びアポトーシスを予防または緩和するためにタウリンを添加することが有利であり得ることを知見した。本発明者は、本発明の培地組成物中にT3、カルニチン、クレアチン及びタウリンを存在させることは、本明細書中に教示されている培地組成物中の前記組合せの存在がインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟を強化し、同時にインビトロ培養でその生存を促進する点で強力な組合せに相当することも観察した。この効果は、本明細書中に教示されている方法によりインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から得られる成体様(成熟)心筋細胞の収率の上昇(より多い数)にも関連している。
【0097】
1つの実施形態では、本発明の培地組成物は約3.0mM~約7.0mMのクレアチンを含み得る。
【0098】
実施形態では、本発明の培地組成物は約2.0mM~約7.0mMのタウリンを含み得る。
【0099】
実施形態では、本発明の培地組成物は約1~10mMのクレアチン、好ましくは約2~8mMのクレアチン、好ましくは約3~7mMのクレアチン、好ましくは約3.5~6.0mMのクレアチン、より好ましくは約4.5~5.5mMのクレアチンを含み得る。
【0100】
実施形態では、本発明の培地組成物は約1.0~約25mMのタウリン、好ましくは約2.0~約20mMのタウリン、好ましくは約3~約15mMのタウリン、好ましくは約4.0~約10mMのタウリン、好ましくは約4.5~約7mMのタウリン、より好ましくは約5mMのタウリンを含み得る。
【0101】
例えば、本明細書中に教示されている培地組成物及び/または本明細書中に教示されている方法及び/または本明細書中に教示されているキットにおいて使用され得るタウリンの濃度の非限定例は約0.01~約5mMのタウリン、好ましくは約0.1~約4mMのタウリン、好ましくは約0.5~約3mMのタウリン、好ましくは約1.0~約2.5mMのタウリン、より好ましくは約1.5~約2.25mMのタウリンを含み得る。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明の培地組成物は約0.01~5mMのカルニチン、好ましくは約0.1~4mMのカルニチン、好ましくは約0.5~3mMのカルニチン、好ましくは約1.0~2.5mMのカルニチン、より好ましくは約1.5~2.25mMのカルニチン;約1~10mMのクレアチン、好ましくは約2~8mMのクレアチン、好ましくは約3~7mMのクレアチン、好ましくは約3.5~6.0mMのクレアチン、より好ましくは約4.5~5.5mMのクレアチン;及び約1.0~25mMのタウリン、好ましくは約2.0~20mMのタウリン、好ましくは約3~15mMのタウリン、好ましくは約4.0~10mMのタウリン、好ましくは約4.5~7mMのタウリン、より好ましくは約5mMのタウリンを含み得る。
【0103】
本発明の好ましい実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物が約2mMのカルニチン、約5mMのクレアチン及び約5mMのタウリンを含んでいるときに最適の結果が得られこと、L-カルニチンが本明細書中に教示されている培地組成物を作製するために特に好適であったことも知見された。
【0104】
実施形態では、本発明の培地は、更に約1mg/L~約50mg/Lのインスリン、好ましくは約3mg/L~約40mg/Lのインスリン、好ましくは約5mg/L~約30mg/Lのインスリン、好ましくは約7mg/L~約20mg/Lのインスリン、好ましくは約9mg/L~約12mg/Lのインスリン、好ましくは約9.5mg/L~約10.5mg/Lのインスリン、より好ましくは約10mg/Lのインスリンを含み得る。
【0105】
別の実施形態では、本発明の培地は、更に約1mg/L~約25mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約1.5mg/L~約20mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約2mg/L~約15mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約2.5mg/L~約10mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約3mg/L~約8mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約3.5mg/L~約7mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約4mg/L~約6mg/Lのトランスフェリン、好ましくは約4.5mg/L~約5.7mg/Lのトランスフェリン、より好ましくは5.5mg/Lのトランスフェリンを含み得る。
【0106】
更なる実施形態では、本発明の培地は、更に約0.001mg/L~約0.01mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、好ましくは約0.002mg/L~約0.009mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、好ましくは約0.003mg/L~約0.008mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、好ましくは約0.004mg/L~約0.0075mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、好ましくは約0.005mg/L~約0.007mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、好ましくは約0.006mg/L~約0.0069mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、好ましくは約0.0065mg/L~約0.0068mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)、より好ましくは約0.0067mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)を含み得る。
【0107】
好ましい実施形態では、本発明の培地は、更に約5mg/L~約15mg/Lのインスリン、約3mg/L~約8mg/Lのトランスフェリン及び約0.005mg/L~約0.0075mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)を含み得る。
【0108】
好ましい実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は約10mg/Lのインスリン、約5.5mg/Lのトランスフェリン及び約0.0067mg/Lのセレン(または、亜セレン酸ナトリウム)を含み得る。
【0109】
インスリン、トランスフェリン及びセレンは当業界で公知であり、市販されている。インスリン、トランスフェリン及びセレンを含む市販製剤の非限定例は、1000mg/L(0.17mM)のインスリン、550mg/L(6.87mM)のトランスフェリン、0.67mg/L(0.0038mM)の亜セレン酸ナトリウム、200mg/ml(3.27mM)のエタノールアミンを含有していることを特徴とするギブコのインスリン-トランスフェリン-セレンエタノールアミン溶液(ITS-X)製剤(カタログ番号51500,量:10mL)である。
【0110】
実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、更に1つ以上の微量元素を含み得る。本発明者は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成熟を促進させるために、培地中に1つ以上の微量元素を存在させることが本明細書中に教示されている培地組成物が1つ以上の微量元素を欠いている状況と比較して特に有利であることを知見した。インビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞を長期間、例えば最長数ヶ月間維持するために、1つ以上の微量元素の存在が本明細書中に教示されている培地組成物が1つ以上の微量元素を欠いている状況と比較して有利であることも知見された。本発明者は、インビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞から得た成体様(成熟)心筋細胞の収率(量)及び品質を高めるために、本明細書中に教示されている培地組成物が1つ以上の微量元素を欠いている状況と比較して1つ以上の微量元素を添加することが有利であったことも知見した。理論に束縛されないが、1つ以上の微量元素の存在は他の有利な生物学的作用の中で酸化防止活性を与える。1つ以上の微量元素をイオンまたはキレート化複合体として存在させることが好ましい。イオンは、1つの単一元素しか含まない単純イオンであり得、または2つ以上の元素を含む複合イオンであり得る。好ましくは、元素は遷移金属元素、例えばSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、As、Se、Br、Al、Si、P、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Rb、Ce、Ag、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、F、Te、Au、Pt、Bi、Ir、Os、Re、W、Ta及びHfからなる群から選択される元素であり得る。
【0111】
1つの実施形態では、本発明の培地組成物はMn、Si、Mb、V、Ni、Sn、Al、Ag、Ba、K、Cd、Co、Cr、F、Ge、I、Rb及びZrの群から選択される微量元素の1つ以上、好ましくはすべてを含み得る。
【0112】
別の実施形態では、1つ以上の微量元素はMnSO・HO、NaSiO・9HO、モリブデン酸アンモニウム塩((NHMo24・4HO)、NHVO、NiSO・6HO、SnCl(無水)、AlCl・6HO、AgNO、Ba(C、KBr、CdCl、CoCl・6HO、CrCl(無水)、NaF、GeO、KI、RbCl及びZrOCl・8HOから選択され得る。
【0113】
好ましい実施形態では、本発明の培地組成物はMnSO・HO、NaSiO・9HO、モリブデン酸アンモニウム塩((NHMo24・4HO)、NHVO、NiSO・6HO、SnCl(無水)、AlCl・6HO、AgNO、Ba(C、KBr、CdCl、CoCl・6HO、CrCl(無水)、NaF、GeO、Kl、RbCl及びZrOCl・8HOを含み得る。
【0114】
本明細書中に教示されている培地を作製するのに好適である微量元素処方物は当業界で公知であり、市販されている。例えば、市販されている微量元素処方物B(Corningのカタログ番号25-02)及び微量元素処方物C(Corningのカタログ番号25-023)が本発明において使用され得る。本発明者は、最適の結果のためには、処方物Cを処方物Bと30:1~1:30の比、好ましくは5:1~20:1の比、より好ましくは10:1の比(すなわち、処方物Bに比して10倍以上の処方物C)で混合することが好ましいことを知見した。当業者は微量元素混合物の調製方法及び有効な比の選択方法を知っている。例えば、処方物Cを処方物Bと10:1の比(すなわち、処方物Bに比して10倍以上の処方物C)で混合することにより生ずる微量元素混合物は、10,000mlの培地に約0.05ml~5mlの処方物B、好ましくは10,000mlの培地に約0.01~4mlの処方物B、好ましくは10,000mlの培地に約0.5ml~3mlの処方物B、好ましくは10,000mlの培地に0.75ml~2mlの処方物B、より好ましくは10,000mlの培地に約1mlの処方物B;及び1,000mlの培地に約0.05ml~5mlの処方物C、好ましくは1000mlの培地に約0.01~4mlの処方物C、好ましくは1,000mlの培地に約0.5ml~3mlの処方物C、好ましくは1,000mlの培地に0.75ml~2mlの処方物C、より好ましくは1,000mlの培地に約1mlの処方物Cを10:1のC:Bの比のような上に挙げた比で添加することにより得られ得る。他の微量元素処方物、または自家製処方物または混合物の使用により生ずる他の均等な微量元素混合物も本発明に従う培地組成物を作製するために使用し得るが、本明細書中に教示されている微量元素及び微量元素混合物が好ましい。
【0115】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、更にポリビニルアルコール(PVA)を含み得る。理論に束縛されないが、本発明者は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞間に3次元配置の形成及び維持を促進させるために、本発明の培地組成物中にPVAを存在させることが本明細書中に教示されている培地組成物がPVAを欠いている状況と比較して特に有利であることを知見した。同じ作用効果がインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞の場合も観察された。
【0116】
PVAは当業界で公知であり、商業的に購入可能である。PVAアナログまたは誘導体も本発明に従う培地を作製するために使用され得るが、本明細書中に開示されているPVAが好ましい。当業者は、適当なPVA液体形態を得るためにPVAを調製し、溶解させる方法を知っている。
【0117】
実施形態では、本発明の培地は、更に2mg/ml~約7mg/mlのPVAを含み得る。
【0118】
本発明の実施形態では、培地組成物約0.1~10mg/mlのPVA、好ましくは約3~8mg/mlのPVA、より好ましくは約4~6mg/mlのPVAを含み得る。
【0119】
好ましい実施形態では、培地組成物は少なくとも約1.25mg/mlのPVA、好ましくは約5mg/mlのPVAを含み得る。
【0120】
実施形態では、本発明の培地は、更に必須及び非必須アミノ酸、ビタミン、有機成分、無機塩、高純度ウシ血清アルブミン、成長サプリメント(例えば、ハムF12栄養ミックス)、抗酸化剤、抗生物質、モノチオールグリセロール、グルタミン及びグルコースの群から選択される1つ以上化合物を含み得る。培地組成物は、更に生理的に許容され得る食塩液、好ましくは等張性食塩液をも含み得る。
【0121】
好ましい実施形態では、本発明の培地組成物は、更にウシ血清アルブミン、グルコース、ビタミン、抗生物質、モノチオールグリセロール、グルタミン、アミノ酸及びハムF12栄養ミックスを含み得る。
【0122】
本発明者は、本発明の培地を作製するために標準無血清培地に比してグルコース含量が低い無血清培地を使用することが有利であり得ることを知見した。例えば、標準無血清培地は約3000mg/Lのグルコース(17.5mM)を含有している。市販されている低グルコース無血清培地は約1000mg/Lのグルコース(5.5mM)を含有している。
【0123】
実施形態では、そのような低グルコース無血清培地処方物が本発明の培地組成物を作製するために使用され得る。市販されている低グルコース無血清培地または他の自家製処方物の希釈物を本発明に従う培地組成物を作製する際に使用し得る。
【0124】
実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は約1~10mMのグルコース、好ましくは約2~8mMのグルコース、好ましくは3~7mMのグルコース、好ましくは4.5~6.5mMのグルコース、より好ましくは約5.0~6.0mMのグルコースを含み得る。
【0125】
好ましい実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は少なくとも約1mMのグルコース、約5.5mM以下のグルコースを含み得る。
【0126】
更なる実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は約10~200μMのグルコース、好ましくは約25~150μMのグルコース、より好ましくは約45~120μMのグルコースを含み得る。好ましくは、培地組成物は少なくとも約55μMのグルコース、約111μM以下のグルコースを含み得る。
【0127】
実施形態では、本発明の培地組成物はグルコース非含有であり得る。さらに別の実施形態では、グルコースはD-グルコースである。
【0128】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は液体形態、半液体形態、固体形態、または半固体形態であり得る。好ましい実施形態では、本発明の培地組成物は液体形態である。
【0129】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、本明細書中に教示されている組成物を得るために該組成物を水溶液中に溶解し得る固体組成物、好ましくは粉末組成物であり得る。
【0130】
固体形態の非限定例には、粉末、顆粒、結晶、錠剤、ペースト、ピューレ、ウェット混合物、ペレット、凍結乾燥形態、フリーズドライ形態等が含まれる。
【0131】
好ましい実施形態では、固体は粉末である。
【0132】
本明細書中に教示されている培地組成物は「成熟培地組成物」とも称され得る。
【0133】
本明細書中に教示されている培地組成物が甲状腺ホルモン様化合物を欠いていてもよい。換言すると、上に詳記したのと同一の組成を有するが、甲状腺ホルモン様化合物が添加も存在もされていない同一培地は本明細書中に開示されている方法またはキットを用いてインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を成熟させるために使用し得る。
【0134】
本発明者は、実施例から立証され得るように、本発明のこの代替培養組成物培地(すなわち、甲状腺ホルモン様化合物を含まない)がインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を成熟させるために使用し得ることを知見した。しかしながら、本発明者は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様心筋細胞の成熟に対する本明細書中に教示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物の効果は、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本発明の培地組成物で達成され得る(本明細書中に教示されている)効果ほど顕著でない(低い効率、低いロバスト)ことを観察した。この代替培地、すなわち上記したのと同一の組成を有する、ただし甲状腺ホルモン様化合物が存在していない培地は、単独でまたは本明細書中に開示されている、ただし少なくとも甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる培地と一緒に使用され得る。例えば、好ましい実施形態では、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様心筋細胞を成熟させるために、胎児様心筋細胞をまず本明細書中に開示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を含んでいない培地に曝し、次いで例えば1、2、3、4、5、6または7日間インキュベートした後、前記培地を本明細書中に開示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる培地と交換し得る。
【0135】
本発明の方法
第2の態様において、本発明は、PESC及び/またはiPSC、特にPESC及び/またはiPSCから分化した胎児様心筋細胞から成体様心筋細胞を作製するための方法に関し、その方法は、
(a)PESC及び/またはiPSCに由来する1つ以上の胎児様心筋細胞を用意する段階;
(b)前記胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている培地組成物と接触させて、前記胎児様心筋細胞を成体様心筋細胞に成熟させる段階;
を含む。
【0136】
段階(a)では、胎児様(未熟)心筋細胞はインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCから得られ得、または市販されている細胞株のような他のソースから得られ得る。当業者は本発明の方法で使用するのに好適であるように前記胎児様(未熟)心筋細胞を得、培養する方法を知っている。
【0137】
実施形態では、胎児様(未熟)心筋細胞は哺乳動物起源、例えばマウス、ラット、ウマ、イヌ、ウシまたは非ヒト霊長類等起源であり得る。
【0138】
好ましい実施形態では、胎児様(未熟)心筋細胞は、例えばChung(Chungら(2008),Cell Stem Cell,Vol.2(2):113-117)に記載されている方法のような方法により得られるヒト起源であり得る。
【0139】
段階(b)では、本明細書中で使用されている用語「接触させる」は、本明細書中に教示されている培地組成物と細胞(例えば、心筋細胞)または細胞培養物(例えば、心筋細胞培養物)との直接相互作用を指す。
【0140】
1つの実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている培地組成物と少なくとも約1日間~最長約4週間接触させる。
【0141】
実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている培地組成物と少なくとも約1日間、好ましくは約2日間、好ましくは約3日間、好ましくは約4日間、好ましくは約5日間、好ましくは約6日間、好ましくは約7日間、好ましくは約8日間、好ましくは約9日間、好ましくは約10日間、好ましくは約11日間、好ましくは約12日間、好ましくは約13日間、好ましくは約14日間、より好ましくは約15日間接触させる。
【0142】
実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている培地組成物と少なくとも約3日間~最長約15日間接触させる。
【0143】
好ましい実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている培地組成物と約15日間接触させる。
【0144】
実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞をまず本明細書中に教示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物と例えば1~10日間、例えば1、2、3、4、5、6または7日間接触させた後に、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に教示されている培地組成物と接触させる。例えば、段階(b)の胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物において2日間培養した後、該培地組成物を本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物(例えば、T3)を含んでいる培地組成物と交換し、胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる培地組成物と処理の残りの間、例えば3日目~4日目、3日目~5日目、3日目~6日目、3日目~7日目、3日目~8日目、3日目~9日目、3日目~10日目、3日目~11日目、3日目~12日目、3日目~13日目、3日目~14日目、または3日目~15日目接触させ得る。換言すると、本明細書中に教示されている方法を使用する成熟方法を甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物を用いて開始し、その後少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に教示されている培地組成物を用いて継続させ得る。
【0145】
本発明者は、インビトロ培養で心筋細胞の単層の形成を改善または促進させるために、まずインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様心筋細胞を本明細書中に教示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている本発明の培地組成物と接触させた後、本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本発明の培地組成物と接触させることが有利であり得ることを知見した。
【0146】
別の実施形態では、(未分化)PESC及び/またはiPSCを心筋細胞に分化することにより得た胎児様心筋細胞を漸増量の甲状腺ホルモン様化合物、例えばT3の条件下で培養する。換言すると、甲状腺ホルモン様化合物の濃度を(培地に添加することにより、または培地を本明細書中に開示されている、ただし前の培地と比較してより高濃度のT3を有している新規培地と交換することにより)ちょうどよい時に増加させる。例えば、(未分化)PESC及び/またはiPSCを分化することにより得た胎児様心筋細胞をまず本明細書中に開示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地を用いて例えば1、2、3または4日間(または、それ以上)培養し得る。1、2、3または4日間(または、それ以上)後に、培地を例えば10ng/mlのT3を有する本発明の培地と交換し、更に1、2、3または4日間(または、それ以上)培養する。次に、培地を高濃度の甲状腺ホルモン様化合物、例えばT3を含む本発明に従う新鮮培地と交換する。例えば、次の段階での培地組成物は50ng/mlのT3を含む。所望ならば、細胞を所望の日数培養するときに同一濃度の高濃度の甲状腺ホルモン様化合物を用いる追加ステップを加えてもよい。
【0147】
1つの実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を少なくとも21℃の温度~実質的に37℃を超えない温度の本明細書中に教示されている培地組成物と接触させる。
【0148】
別の実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を約30℃、好ましくは約31℃、好ましくは約32℃~約33℃、好ましくは約34℃、好ましくは約35℃、好ましくは約36℃、より好ましくは約37℃の温度の本明細書中に教示されている培地組成物と接触させる。好ましい実施形態では、段階(b)の胎児様心筋細胞を約37℃の温度の本明細書中に教示されている培地組成物と接触させる。
【0149】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物を本明細書中に教示されている処理期間にわたり毎日補充する。
【0150】
好ましい実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物を本明細書中に教示されている処理期間中2日または3日毎に補充する。
【0151】
実施形態では、段階(b)の培地組成物は、段階(b)の液体培地が得られるように水溶液中に溶解され得る固体形態、好ましくは粉末形態である。
【0152】
1つの実施形態では、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞の成熟度は、該成体様心筋細胞の形態学的特徴を評価し、その結果を成体被験者(または、細胞株のような他のソース)から得た成体心筋細胞の形態学的特徴、及び少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を欠いている本明細書中に教示されている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の形態学的特徴と比較することにより調べられ得る。所与の細胞の形態及び外観に関する情報を得るための細胞(例えば、心筋細胞)の形態学的特徴(例えば、形状)及び/または組織学的特徴(例えば、幾つかの構造または細胞成分の存在、細胞骨格の組織化等)を評価するための方法は当業界で公知である。例えば、本発明では、特定細胞マーカーまたは心細胞の細胞骨格マーカーを検出するかまたは明らかにするために免疫組織学的方法が使用され得る。前記マーカーの代表的非限定例はα-アクチニンである。マーカーの他の非限定例には、トロポニンC、トロポニンI、トロポニンT、ミオシン重鎖6、ミオシン重鎖7、mybpc3、ミオシン軽鎖、トロポミオシン、チチン、ミオメシン等が含まれる。
【0153】
本発明者は、細胞の極性化、改善されたサルコメア構造及び細長い形状のような成体(または、成体様)段階を連想させる形態学的特徴の変化から明らかなように、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に教示されている培地組成物に曝された胎児様(未熟)心筋細胞が成体様心筋細胞に成熟したことを知見した。形態学的特徴のそのような変化は、インビトロ培養での成熟プロセス中に少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物に曝されなかった胎児様(未熟)心筋細胞では余り観察されなかった。
【0154】
別の実施形態では、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から本明細書中に教示されている方法により作製した成体様(成熟)心筋細胞の成熟度は、該成体様心筋細胞の機能特性を評価し、その結果を成体被験者(または、細胞株のような他のソース)から得た成体心筋細胞の機能特性、及び本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の機能特性と比較することにより調べられ得る。所与の細胞の機能的表現型に関する情報を得るために細胞(例えば、心筋細胞)の機能特性を評価するための方法は当業界で公知である。例えば、本発明では、細胞(例えば、心筋細胞)の特定の機能または機能的表現型を検出するかまたは明らかにするために(他の方法の中で)電気生理学的方法が使用され得る。電気生理学的方法の非限定例は所謂「パッチクランプ」法である。
【0155】
パッチクランプ法は、細胞中の1つまたは複数のイオンチャネルを研究することができる公知の検査方法である。この方法は各種の細胞に対して適用し得るが、興奮性細胞、例えばニューロン、心筋細胞、筋繊維及び膵臓β-細胞の研究において特に有用である。本発明において、前記方法は電気インパルスを1つの細胞から別の細胞に運ぶ細胞(例えば、心筋細胞)の能力の指標として役立つ所謂「活動電位」の特性を研究するために使用され得る。例えば、最大立ち上がり速度、活動電位持続時間、静止膜電位及び活動電位の振幅に関する情報がパッチクランプ法を使用することにより得られ得る。
【0156】
本発明者は、上昇した最大立ち上がり速度、より低い静止膜電位及び活動電位のより大きい振幅のような成体(または、成体様)段階を連想させる電気生理学的特徴の変化から明らかなように、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に教示されている培地組成物に曝された胎児様(未熟)心筋細胞が成体様心筋細胞に成熟したことを知見した。電気生理学的特性のそのような変化は、インビトロ培養での成熟プロセス中に少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物に曝されなかった胎児様(未熟)心筋細胞では余り観察されなかった。
【0157】
更なる実施形態では、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞の成熟度は、該成体様心筋細胞の代謝プロフィールを評価し、その結果を成体被験者(または、細胞株のような他のソース)から得た成体心筋細胞の代謝プロフィール、及び本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の代謝プロフィールと比較することにより調べられ得る。所与の細胞の代謝的機能または経路の効率及び成熟度に関する情報を得るために細胞(例えば、心筋細胞)の代謝プロフィールを評価するための方法は当業界で公知である。例えば、本発明では、所与の細胞(例えば、心筋細胞)のミトコンドリア活性を検出するかまたは明らかにするために所謂「TMRMアッセイ」を使用し得る。当業者はTMRMアッセイを周知しており、インビトロ培養で心筋細胞のミトコンドリア活性のレベルに関する情報を得るための前記アッセイの実施方法を知っている。
【0158】
本発明者は、高いミトコンドリア活性のような成体(または、成体様)段階を連想させる代謝プロフィールの変化から明らかなように、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に教示されている培地組成物に曝された胎児様(未熟)心筋細胞が成体様心筋細胞に成熟したことを知見した。代謝プロフィールのそのような変化は、インビトロ培養での成熟プロセス中に少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物に曝されなかった胎児様(未熟)心筋細胞ではより少ない程度しか観察されなかった。
【0159】
さらに別の実施形態では、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞の成熟度は、該成体様心筋細胞の遺伝子発現プロフィールを評価し、その結果を成体被験者(または、細胞株のような他のソース)から得た成体心筋細胞の遺伝子発現プロフィール、及び本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の遺伝子発現プロフィールと比較することにより調べられ得る。所与の遺伝子マーカーの存在(不在)に関する情報を得るために、また所与の遺伝子(例えば、心筋細胞)に対する所与の遺伝子マーカーの発現レベルに関する情報を得るために、細胞(例えば、心筋細胞)の遺伝子発現プロフィールを評価する方法は当業界で公知である。例えば、本発明では、in situハイブリダイゼーション方法及び/または所謂「遺伝子チップ」アッセイがある発達段階(例えば、胎児及び成体段階)に特異的な遺伝子マーカーの発現レベルを検出する及び/または測定するために使用され得る。例えば、本発明では、少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に教示されている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞が成体様(成熟)心筋細胞に成熟したかを確証するために、成体または成体様段階を示す遺伝子マーカーが使用され得る。成体(または、成体様)段階を示す遺伝子マーカーの非限定例には、ミオシン軽鎖2V、カルセケストリン及びリアノジン受容体等が含まれる。1つ以上の成体様(成熟)マーカーの高い(遺伝子)発現は成体様(成熟)状態を示す。
【0160】
インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞が成体様(成熟心筋細胞)に成熟するかしないかを確証するために、胎児様(未熟)段階を示す遺伝子マーカーも使用され得る。典型的には、本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞は胎児様(未熟)段階を示す遺伝子マーカーを発現する。胎児様(未熟)段階を示す遺伝子マーカーの非限定例には、NPPA、NPPB、平滑筋アクチン及び骨格アクチンが含まれる。1つ以上の胎児(未熟)マーカーの低い(遺伝子)発現は成体様(成熟)状態を示す。
【0161】
1つの実施形態では、本発明の方法において使用するのに好適である適量の胎児様(未熟)心筋細胞を得るために、本明細書中に教示されている方法の段階(a)の前に成体様心筋細胞を作製するための出発材料として未分化PESC及び/またはiPSCが使用され得る。
【0162】
胎児様(未熟)心筋細胞は、未分化PESC及び/またはiPSCから、該未分化PESC及び/またはiPSCを未分化PESC及び/またはiPSCを胎児様(未熟)心筋細胞に分化するのに適している分化培地組成物に曝すことにより得られ得る。当業者は、インビトロ培養で未分化PESC及び/またはiPSCを胎児様(未熟)心筋細胞に分化するのに適している方法及び培地組成物を十分に熟知している。例えば、本発明では、未分化PESC及び/またはiPSCを胎児様(未熟)心筋細胞に分化させるのに適している基本分化培地組成物は、無血清であり且つ(組換え)アルブミン及びアスコルビン酸を含む培地組成物であり、更に脂質混合物、インスリン、トランスフェリン及びセレン、及び1つ以上の微量元素を含み得る。
【0163】
別の実施形態では、本明細書中に教示されている基本分化培地組成物は、更にアミノ酸、ウシ血清アルブミン、グルコース、ビタミン、抗生物質、モノチオールグリセロール、グルタミン及び増殖因子、または小細胞(例えば、骨形成タンパク質4(BMP4)、アクチビンA(ACT-A)、幹細胞因子(SCF)、血管内皮増殖因子(VEGF))、Chir99021(GSK3β-インヒビター))、及び他の成分を含み得る。当業者は、未分化PESC及び/またはiPSCを本発明の方法において使用するのに好適である胎児様(未熟)心筋細胞に分化させるのに好適であるように本明細書中に教示されている基本分化培地にどの成分または物質(及び、用量)を加えるかを知っている。
【0164】
本発明者は、本明細書中に教示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物もすぐ上に記載されている幾つか成体様特徴を発現するが、本明細書中に教示されている、ただし少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる培地組成物を用いて達成され得るよりも少ない程度(余り効率的でない、余りロバストでない)であることを知見した。
【0165】
1つの実施形態では、未分化PESC及び/またはiPSCは、例えば樹立細胞株のような市販されているソースから得られ得る。当業者は、本発明の方法において使用するのに好適であるように未分化PESC及び/またはiPSCを得る方法及び培養する方法を知っている。
【0166】
実施形態では、未分化PESC及び/またはiPSCは哺乳動物起源、例えばマウス、ラット、ウマ、イヌ、ウシ、非ヒト霊長類等起源であり得る。
【0167】
好ましい実施形態では、未分化PESC及び/またはiPSCは、例えばChung(Chungら(2008),Cell Stem Cell,Vol.2(2):113-117)に記載されている方法により得られるようなヒト起源であり得る。
【0168】
1つの実施形態では、未分化PESC及び/またはiPSCは、分化プロセスをスピン胚様体(EB)において実施する方法を用いて本明細書中に教示されている方法において使用するのに好適である胎児様(未熟)心筋細胞に分化され得る。当業者はスピンEBにおいて実施する分化方法を周知している。
【0169】
別の実施形態では、未分化PESC及び/またはiPSCは、分化プロセスを単層で実施する方法を用いて本明細書中に教示されている方法で使用するのに好適である胎児様(未熟)心筋細胞に分化され得る。当業者は単層で実施する分化方法も周知している。
【0170】
本発明の培地組成物の好適な使用
第3の態様において、本発明は本明細書中に教示されている培地組成物の好適な使用に関する。
【0171】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を本発明の方法によりインビトロ培養で成体様(成熟)心筋細胞に成熟させるのに好適である。
【0172】
実施形態では、PESC及び/またはiPSC細胞は哺乳動物起源、好ましくはヒト起源から得られ得る。哺乳動物起源、好ましくはヒト起源の樹立PESC細胞株を使用してもよい。例えば、各種のマウスPESC細胞株及びヒトPESC細胞株は当業界で公知であり、この成長及び増殖のための条件は十分規定されている。当業者は、(ヒトまたは他の哺乳動物由来の)適当なPESC細胞株を例えばChung(Chungら(2008),Cell Stem Cell,Vol.2(2):113-117)に記載されている方法またはChungら(上掲)の方法に類似の他の方法により得る方法を知っている。
【0173】
別の実施形態では、iPSCを使用する。当業者は、本発明の方法で使用するのに好適であるようにiPSCを得、培養する方法を知っている。
【0174】
実施形態では、iPSCは哺乳動物起源、好ましくはヒト起源であり得る。
【0175】
実施形態では、本発明の培地組成物は、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞を長期間、例えば1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、6週間、最長6ヶ月間維持するために使用され得る。本発明者は、本明細書中に教示されている培地組成物がインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から本明細書中に教示されている方法により作製した成体様(成熟)心筋細胞の生存を長期間にわたり強化した(すなわち、細胞死を予防または軽減した)ことを知見した。この効果は、本発明の方法によるインビトロ培養での成体様心筋細胞の高い収率(より多い量)にも関係していた。
【0176】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、通常インビトロ細胞培養において、好ましくは3次元培養において使用するのに好適であり得る。
【0177】
別の実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、インビトロ培養でPESC由来胎児様(未熟)心筋細胞及び/またはiPSC由来胎児様(未熟)心筋細胞の成体様(成熟)心筋細胞への成熟を促進させながら、前記胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞の生存を上昇または増加させるために使用され得る。実際、本発明者は、本明細書中に教示されている培地組成物がインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞の成体様心筋細胞への成熟を促進させ、改善させるだけでなく、インビトロ培養でのその生存を延長させることを驚くことに知見した。この効果が本明細書中に教示されている方法を用いるインビトロ培養での成体様心筋細胞の高い収率にも関係していることも知見された。
【0178】
更なる実施形態では、本明細書中に教示されている培地組成物は、本発明の方法によりインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した、または他のソースから得た成体様(成熟)心筋細胞を輸送するために使用され得る。例えば、本発明の培地組成物は、成体様(成熟)心筋細胞を容器、例えばチューブ、ペトリ皿、エッペンドルフ、フラスコ、ボトル等を用いて輸送するのに特に好適であり得る。
【0179】
実施形態では、本発明の方法によりインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞は、インビトロで候補薬物及び他の薬物をスクリーニングするために、例えばハイスループットスクリーニングアッセイにおいて使用され得る。
【0180】
別の実施形態では、本インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から発明の方法により作製した成体様(成熟)心筋細胞は、予測中毒学スクリーンアッセイにおいて使用され得る。
【0181】
更なる実施形態では、本発明の方法によりインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から作製した成体様(成熟)心筋細胞は、心血管研究において使用され得る。
【0182】
更に別の実施形態では、インビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞から本発明の方法により作製した成体様(成熟)心筋細胞は、心疾患または他の疾患の治療のために、及びその必要がある被験者または心血管疾患または障害を発症するリスクを有している及び/または心臓組織損傷または外傷を受けている被験者における心組織損傷または心外傷の治療のために使用され得る。
【0183】
本発明の実施形態では、被験者は哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、マウス、ラット、ウマ等であり得る。
【0184】
好ましい実施形態では、被験者はヒト被験者、好ましくは成人被験者であり得る。
【0185】
心疾患及び障害の非限定例には、アテローム性動脈硬化症、卒中、先天性心疾患、鬱血性心不全、狭心症、心筋炎、冠動脈疾患、心筋症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心内膜炎、心筋梗塞(心臓発作)、拡張機能障害、脳血管疾患、弁疾患、高血圧(高血圧症)、僧帽弁逸脱症及び静脈血栓塞栓症が含まれるが、これらに限定されない。リスクのある被験者には、家族歴(高血圧、心臓病)、遺伝的素因(高コレステロール血症)を有しているもの、または以前心疾患または障害で苦しんでいたものが含まれる。リスクのある被験者には、更に遺伝的素因または高脂肪のような食事、または喫煙のような環境的暴露のために高血圧または高コレステロールを有しているかまたはそのリスクがあるものが含まれる。
【0186】
本発明のキット
第4の態様において、本発明は、本明細書中に教示されている培地組成物を含むインビトロ培養で成体様心筋細胞を作製するのに好適なキットに関する。
【0187】
実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、更に本明細書中に教示されている、ただし甲状腺ホルモン様化合物を欠いている培地組成物を含み得る。
【0188】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されているキット中に含まれる本明細書中に教示されている培地組成物は液体形態で提供され得る。
【0189】
別の実施形態では、本明細書中に教示されているキット中に含まれる本明細書中に教示されている培地組成物は固体形態、好ましくは粉末形態で提供され得る。
【0190】
更なる実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、更に(PESC及び/またはiPSC由来の、好ましくはヒトの)胎児様心筋細胞を含み得る。すなわち、キットは、(PESC及び/またはiPSC由来の)胎児様心筋細胞と一緒に少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に開示されている培地組成物を含み得る。または、例えば、キットは(PESC及び/またはiPSC由来)胎児様心筋細胞及び甲状腺ホルモン様化合物を欠いている本明細書中に教示されている培地組成物と一緒に少なくとも1つの甲状腺ホルモン様化合物を含んでいる本明細書中に開示されている培地組成物を含み得る。
【0191】
1つの実施形態では、胎児様(未熟)心筋細胞はPESC及び/またはiPSCに由来し得、哺乳動物起源(例えば、ラット、マウス、イヌ、ウマ、ウシ及び非ヒト霊長類)、好ましくはヒト起源であり得る。
【0192】
実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、更に未分化PESC及び/またはiPSCを含み得る。
【0193】
1つの実施形態では、未分化PESC及び/またはiPSCは哺乳動物起源(例えば、ラット、マウス、イヌ、ウマ、ウシ及び非ヒト霊長類)、好ましくはヒト起源から得られ得る。
【0194】
別の実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、PECS及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を出発物質として用いて本発明の方法に従って成体様心筋細胞を作製する方法に関する説明書を含み得る。
【0195】
別の実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、未分化PESC及び/または未分化iPSCを出発物質として用いて本発明の方法に従って成体様心筋細胞を作製する方法に関する説明書を含み得る。
【0196】
例えば、説明書は、出発物質がPESC及び/またはiPSCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞、または未分化PESC及び/または未分化iPSCであるかに応じて、インビトロ培養で成体様(成熟)心筋細胞を培養、増大または増殖、分化、成熟、維持及び/または保存する方法を与え得る。
【0197】
更に別の実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、更にインビトロ培養で未分化PESC及び/または未分化iPSCを胎児様(未熟)心筋細胞に分化するために使用され得る本明細書中に教示されている基本分化培地組成物を含み得る。
【0198】
実施形態では、本明細書中に教示されているキットの成分は適当な包装材料を用いて供給され得る。本明細書中で使用されている用語「包装材料」は、キットの成分を収容する物理的構造物を指す。包装材料は成分を滅菌状態で維持し得、その目的のために通常使用されている材料(例えば、紙、ガラス、プラスチック、ホイル、アンプル等)から作られ得る。例えば、本明細書中に教示されている培地組成物はバイアル、エッペンドルフプラスチックまたはガラスビン、またはその目的のために慣用されている他の適当なキャリア中に包装され得る。
【0199】
本明細書中に教示されている方法により得られ得る、または他のソースから得られ得る成体様(成熟)心筋細胞は組織培養皿、チューブ、フラスコ、ローラーボトルまたはプレート(例えば、1つのマルチウェルプレートまたは皿、例えば8、16、32、64、96、384及び1536マルチウェルプレートまたは皿)、またはその目的のために慣用されている適当なキャリア中に包装され、本明細書中に教示されているキット中にそのまま含まれ得る。
【0200】
1つの実施形態では、本明細書中に教示されているキットは、更に追加成分、例えば細胞増殖培地組成物、緩衝剤、保存剤、細胞安定化剤等を含み得る。
【0201】
実施形態では、本明細書中に教示されているキットの各成分を個々の容器またはディスペンサー内に供給してもよく、または混合して供給してもよい。更に、別の実施形態では、本明細書中に教示されているキットの各種容器またはディスペンサーのすべてが商業的または非商業的目的に応じて1つまたは複数のパッケージ内に供給され得る。
【実施例0202】
下記実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されない。上記検討及びこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的特性を確認することができ、本発明の教示及び範囲を逸脱することなく、各種の使用及び条件に適合させるべく本発明の各種改変及び修飾をなし得る。よって、本明細書中に示し、記載されているものに加えて、本発明の各種修飾は先の記載から当業者には自明であろう。そのような修飾も添付されている特許請求の範囲内に入ると意図される。
【0203】
[実施例1]スピン胚様体(EB)の分化
ヒトPESC(hPESC)またはヒトiPSC(hiPSC)を幹細胞培地において有糸分裂的に不活化させたマウス線維芽細胞上で培養し、TrypLE Select(Invitrogen)を用いて経代させた。幹細胞培養は、DMEM/F12(Gibco,カタログ番号11320-033)、20%(v/v)ノックアウト血清代替物(Gibco,カタログ番号10828-028)、10mM 非必須アミノ酸(Gibco,カタログ番号11140-050)、2mM L-グルタミン(Gibco,カタログ番号25030-081)、2b-メルカプトエタノール(Gibco,カタログ番号21985-023)、10ng/mlのヒトbFGFを含有している。
【0204】
分化の1日前に、細胞をマトリゲル被覆した6ウェルプレート上で幹細胞培地において100万個の細胞/ウェルの密度で経代させた。
【0205】
細胞を胚様体(EB)中で分化させた。0日目に、細胞を収集し、本明細書中に教示されており、脂質混合物(2.2μg/mlのコレステロール、0.1μg/mlのリノール酸、0.1μg/mlのリノレン酸及び0.1μg/mlのパルミチン酸)、インスリン(1mg/L)、トランスフェリン(0.55mg/L)、セレン(0.00067mg/L)、本明細書中に記載されている微量元素ミックスB(0.01%)、本明細書中に記載されている微量元素ミックスC(0.1%)、20ng/mlのBMP4(R&D Systems)及び30ng/mlのアクチビンA(R&D Systems)、30ng/mlのVEGF(R&D systems)、40ng/mlのSCF(R&D systems)及び1.5μΜ Chir99021(Axon medchem)を含む基本分化培地(無血清)中に6×10個の細胞/mlで再懸濁した。50μlの量のこのミックスを96ウェルの丸底非接着性プレートの各ウェルに入れて、3,000個の細胞からなるEBを得た。3日目、7日目、10日目、14日目及び17日目に、培地を増殖因子を含まない分化培地と交換した。
【0206】
この方法により産生された胎児様(未熟)心筋細胞は本明細書中に教示されている本発明の方法において使用するのに好適である。すなわち、前記胎児様(未熟)心筋細胞を培地組成物及び方法を用いて成体様(成熟)心筋細胞に成熟させると、本明細書中に教示されている成体様(成熟)心筋細胞が作製され得る。
【0207】
[実施例2]単層での分化
ヒトPESCまたはヒトiPSCをDambrotら(2014),Exp.Cell.Res.(印刷中)(http://dx.doi.Org/10.1016/j.yexcr.2014.05.001)に記載されている方法に従って単層で培養した。要するに、細胞をマトリゲル(BD Biosciences)被覆した組織培養皿を用いてmTeSRIにおいて製造業者のプロトコル(Stem Cell Technologies)に従って培養した。心筋細胞への分化を開始させるために、細胞を細胞の小クラスターに解離し、マトリゲル被覆した組織培養皿を用いてmTeSRIに接種した。3日後(分化日(d)0)、培地を低インスリン(1mg/l)の(LI)-BPEL培地と交換し、BMP4(0日目~3日目)、アクチビンA(0日目~3日目)、CHIR99021(0日目~3日目)及びXAV939(3日目~6日目)を補充した。6日目以降は、BMP4、アクチビンA、CHIR99021及びXAV939は培地に存在させなかった。
【0208】
この方法により産生させた胎児様(未熟)心筋細胞は本明細書中に教示されている本発明の方法において使用するのに好適である。すなわち、前記胎児様(未熟)心筋細胞を培地組成物及び方法を用いて成体様(成熟)心筋細胞に成熟させると、本明細書中に教示されている成体様(成熟)心筋細胞が作製され得る。
【0209】
[実施例3]インビトロ培養で胎児様(未熟)心筋細胞から成体様(成熟)心筋細胞の作製
組織培養プラスチックをDMEM中1/100の濃度でマトリゲル(Corning)を用いて室温で45分間被覆した。いずれもインビトロ培養でPESC及び/またはiPSCに由来する解離胚様体、解離単層、または(商業的に入手した)凍結胎児様(未熟)心筋細胞に由来する単細胞懸濁液をマトリゲル被覆した組織培養プラスチックに適切な濃度(例えば、96ウェルプレートの1ウェルあたり20~40k細胞、例えば12ウェルプレートの1ウェルあたり20~200k)で接種した。平板培養から1日目に、胎児様(未熟)心筋細胞を本発明の培地組成物に曝した。前記培地組成物は、46.5重量%のIMDM(Gibco 21056)及びグルタマックス(Gibco 31765)を有している46.5重量%のHAM F-12中に50ng/mlのT3(Sigma T6397)、2mMのカルニチン、5mMのクレアチン、5mMのタウリン、2.2μg/mlのコレステロール、0.1μg/mlのリノール酸、0.1μg/mlのリノレン酸、0.1μg/mlのパルミチン酸(脂質,例えばGibco 11905から)、10mg/mlのインスリン、5.5mg/mlのトランスフェリン、0.0067mg/mlのセレン(インスリン、トランスフェリン及びセレン,例えばGibco 51500から)、0.01%の微量元素ミックスB(本明細書中に記載されている;Cellgro 99-175-CL)、0.1%の微量元素ミックスC(本明細書中に記載されている;Cellgro 99-176-CL)、0.5重量%の抗生物質(Gibcoから市販されているペニシリン-ストレプトマイシン混合物(Gibco 12070;5000U/ML))、0.05mg/mlのアスコルビン酸、2mMのグルタマックスサプリメント(すなわち、0.85% NaCl中L-アラニル-L-グルタミンジペプチド,Gibcoで市販されている,例えばGibco 35050)、0.125重量%のポリビニルアルコール(PVA)、450nMのαモノチオールグリセロール(MTG)(市販されている)、0.25重量%のBSA(Bovostar BSAS1.0)を含む無血清培地組成物から構成されている。濃度はすべて培地組成物中の最終濃度として表示されている。
【0210】
翌日、本明細書中に教示されている培地組成物をリフレッシュさせた。この段階を15日目まで2~3日毎に繰り返した。
【0211】
或いは、胎児様心筋細胞を平板培養してから3日目または7日目に50ng/mlのT3を含む直ぐ上に記載されている培地組成物での処理を開始し、実験の残りの間、すなわち15日目まで継続させ得る。この場合、50ng/mlのT3を含む上記した培地組成物を用いる処理を開始するまで、細胞を本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている培地組成物中に維持する。個々の成分の濃度を変えながら、本明細書中に開示されている培地の範囲内で各種の他の培地を使用し得る。成分を本明細書中に具体的に開示されている濃度で含む培地を用いて最良の結果が得られた。
【0212】
[実施例4]T3の形態学的特徴に対する効果の評価
インビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を2つの実験群に分けた。第1群は本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている培地組成物(対照状況)に曝した。第2群は本明細書中に教示されている、ただしT3(100ng/ml)を含む培地組成物に曝した。両群をそれぞれの培地組成物において5日間インキュベートした。処理の終わりに、両実験群からの心筋細胞を4% パラホルムアルデヒドで固定し、リン酸緩衝食塩液(PBS)/0.1% トリトンX-100(Sigma-Aldrich)を用いて透過処理し、リン酸緩衝食塩液(PBS)/0.1% トリトンX-100(Sigma-Aldrich)1% BSAを用いてブロックした。サンプルをα-アクチニンに対して特異的な一次抗体(Eptomics Ab 68167)を(1/400の濃度で)用いて室温で1時間インキュベートした。一次抗体をCy3-またはAlexa-Fluor 647コンジュゲートした二次抗体を(1/250の濃度で)用いて検出した。像をLeica SP5-STEDまたはLeica SP5共焦点レーザー走査型顕微鏡(Leica Microsystems)を用いて取得した。
【0213】
結果を図1に示す。具体的には、これらの結果は、例えば細胞の極性化、改善されたサルコメア構造及び細長い形状のような成体(または、成体様)段階を連想させる形態学的特徴の変化から明らかなように、T3を含む本明細書中に教示されている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞(図1中のパネルE及びFを参照されたい)がより効率的に且つよりロバストに成体様心筋細胞に成熟したことを示している。インビトロ培養での成熟プロセス中にT3に曝されなかった胎児様(未熟)心筋細胞(図1中のパネルA~Dを参照されたい)では、前記した形態学的特徴の変化は余り明白に観察されず、インビトロでの成熟プロセスにおける本明細書中に詳記されている培地組成物中のT3、特にT3の重要性が分かる。
【0214】
[実施例5]T3の電気生理学的特性に対する効果の評価
インビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を2つの実験群に分けた。第1群は本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている培地組成物(対照状況)に曝した。第2群は本明細書中に教示されている、ただしT3(100ng/ml)を含む培地組成物に曝した。両群をそれぞれの培地組成物において12日間インキュベートした。処理期間の終わりに、両実験群からの胎児様(未熟)心筋細胞をパッチクランプ法にかけた。
【0215】
パッチクランプ電気生理学的方法は少し改変してBellin,M.ら,EMBO J,32,3161-3175(2013))に記載されているように実施した。小細胞群(5~10個の細胞)からの活動電位をAxopatch 200b増幅器(Molecular Devices)及び低抵抗パッチピペット(1.5~2.5ΜΩ)を用いる穿孔パッチクランプ法で測定した。活動電位のデータ獲得及び分析をpClamp 10(axon instruments)及び特別注文ソフトウェアを用いて実施した。活動電位を計算した液界電位(-15mV)に対して補正した。
【0216】
自然拍動細胞からの活動電位を140 NaCl、5.4 KCl、1.8 CaCl、1.0 MgCl、5.5 グルコース、5.0 HEPES(単位mM)を含有しているpH7.2(NaOH)の改変タイロード液を用いて37±0.2℃で測定した。ビペット溶液は125 K-グルコネート、20 KCl、5 NaCl、0.22 アンホテリシンB、10 HEPES(単位mM)を含有しており、pH7.2(KOH)であった。静止膜電位(RMP)、最大立ち上がり速度(dV/dt max)、AP振幅(APA)(単位mV)及び20、50及び90% 再極性化でのAP持続時間(APD)(単位ミリ秒)(それぞれ、APD50及びAPD90)を分析した。立ち上がり速度は、時間の関数としての電圧の変化の一次導関数から計算した。よって、最大立ち上がり速度(dV/dt max)は活動電位の一次導関数の最大正値に等しい。10個の連続活動電位からのデータを平均化した。
【0217】
結果を図2に示す。具体的には、これらの結果は、上昇した最大立ち上がり速度(図2中のパネルAを参照されたい)、より低い静止膜電位(図2中のパネルBを参照されたい)及び活動電位のより大きい振幅(図2中のパネルCを参照されたい)のような成体(または、成体様)段階を連想させる電気生理学的特徴の変化から明らかなように、T3を含む培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞がインビトロ培養での成熟プロセス中にT3に曝されなかった胎児様(未熟)心筋細胞について得たデータ(図2中のパネルA、B及びCの黒色バーを参照されたい)と比較してより効率的且つよりロバストに成体様心筋細胞に成熟したことを示している。
【0218】
[実施例6]T3の代謝プロフィールに対する効果の評価
インビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞を2つの実験群に分けた。第1群は本明細書中に教示されている、ただしT3を欠いている培地組成物(対照状況)に曝した。第2群は本明細書中に教示されている、ただしT3(100ng/ml)を含む培地組成物に曝した。両群をそれぞれの培地組成物において17日間インキュベートした。測定の前の日にある量の5nM TMRM(Invitrogen)をそれぞれの培地に添加した。細胞を5×Trypleを用いて解離したが、すべての溶液中にTMRMを含め、測定中も存在させた。測定はMiltenyi MACSquant VYBフローサイトメトリーを用いて実施した。
【0219】
結果を図3に示す。具体的には、これらの結果は、高いミトコンドリア活性のような成体(または、成体様)段階を連想させる代謝プロフィールの変化から明らかなように、T3を含む本明細書中に教示されている培地組成物に曝されたインビトロ培養でPESCに由来する胎児様(未熟)心筋細胞がインビトロ培養での成熟プロセス中にT3に曝されなかった胎児様(未熟)心筋細胞と比較してより効率的に且つよりロバストに成体様心筋細胞成熟したことを示している。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性培地組成物であって、前記水性培地組成物は、無血清であり、
甲状腺ホルモン様化合物、
質混合物、及び
カルニチン化合物
を含む、水性培地組成物。
【外国語明細書】