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特開2024-4020A型肝炎ウイルスのクロマトグラフィー精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004020
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】A型肝炎ウイルスのクロマトグラフィー精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20240109BHJP
   C12N 7/04 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/41 20060101ALI20240109BHJP
   C07K 1/18 20060101ALI20240109BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N7/04
C12N15/41
C07K1/18
C07K1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103447
(22)【出願日】2022-06-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】黒木 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】永野 礼隆
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 慎二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】八木 翼
(72)【発明者】
【氏名】工藤 祐子
(72)【発明者】
【氏名】中平 伸二
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA96X
4B065CA45
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA02
4H045EA31
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来技術と比較して効率的に不純物を除去できるクロマト工程が組み込まれたA型肝炎ウイルスの精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】A型肝炎ウイルスの精製方法であって、
a)A型肝炎ウイルスに感染した細胞を培養し、培養した細胞を回収する工程;
b)回収した細胞を可溶化して可溶化液を得る工程;
c)得られた可溶化液を、ジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含むクロマトグラフィー担体を有する陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してA型肝炎ウイルスを分離し、その後溶出液を得る工程;および
d)得られた溶出液をゲルろ過クロマトグラフィーに供する工程、
を含む、A型肝炎ウイルスの精製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型肝炎ウイルスの精製方法であって、
a)A型肝炎ウイルスに感染した細胞を培養し、培養した細胞を回収する工程;
b)回収した細胞を可溶化して可溶化液を得る工程;
c)得られた可溶化液を、ジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含むクロマトグラフィー担体を有する陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してA型肝炎ウイルスを分離し、その後溶出液を得る工程;および
d)得られた溶出液をゲルろ過クロマトグラフィーに供する工程、
を含む、A型肝炎ウイルスの精製方法。
【請求項2】
工程c)において、分離されたA型肝炎ウイルスを高塩濃度緩衝液により溶出させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)において、平衡化緩衝液が0.2M NaCl以下及び0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)であり、溶出緩衝液が1.0~2.0M NaCl及び0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
細胞が、アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞である、請求項1-3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞が、Vero細胞またはGL37細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程c)で得られた溶出液のタンパク質当たりの抗原量(比活性)が0.5mg抗原/mg以上である、請求項1-5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程d)のゲルろ過後に、A型肝炎ウイルスを不活化する工程を含む、請求項1-6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1-7いずれか一項に記載の方法によってA型肝炎ウイルスを精製し、得られたA型肝炎ウイルスを用いることを特徴とする、免疫原性組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1-7いずれか一項に記載の方法によってA型肝炎ウイルスを精製し、得られたA型肝炎ウイルスを用いることを特徴とする、A型肝炎ワクチンの製造方法。
【請求項10】
請求項1-7いずれか一項に記載の方法によってA型肝炎ウイルスを精製する工程を含む、A型肝炎ウイルスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型肝炎ワクチン製造における、陰イオン交換クロマトグラフィーによるA型肝炎ウイルスの精製方法に関する。具体的には、陰イオン交換体官能基としてジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含むクロマトグラフィー担体を使用するA型肝炎ウイルスの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
A型肝炎ウイルスは、直径27nmの正20面体のピコルナウイルス科のRNAウイルスである。遺伝子型は7種類あり、世界の各地域で流行型に差が存在するが、血清型は1種類であるため、遺伝子型による免疫抗原性に違いは見られない。
【0003】
A型肝炎ウイルスは、培養細胞において増殖性があるが、その速度は遅く、2~3週間かけてゆっくり増殖する。一般的に細胞変性効果(Cytopathic effect)を示さず、細胞内に貯留する。
【0004】
A型肝炎ウイルスが人に感染した場合は、2~6週間の潜伏期間を経て、発熱、倦怠感などに続いて血清トランスアミラーゼが上昇する。また、食欲不振、嘔吐などの症状の他、黄疸、肝腫大、濃色尿、灰白色便などの症例が見られる。一般的には慢性化することはなく、1~2ヶ月経過後に回復するが、まれに劇症肝炎を発症する場合もある。近年、海外渡航者の増加により、A型肝炎ウイルスへの感染リスクが増加しており、A型肝炎ワクチンの需要が増している。
【0005】
従来技術としてのA型肝炎ワクチンの製造方法は次の通りである。(特許文献1)
[1] ワクチン製造用のA型肝炎ウイルスを、アフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞であるGL37細胞に接種して感染させる;
[2] 3週間のローラーボトル培養を行うことによって、感染したA型肝炎ウイルスをGL37細胞内で増殖させる;
[3] 培養終了後、細胞を界面活性剤により溶解してA型肝炎ウイルスを回収し、細胞溶解液を得る;
[4] 細胞溶解液をろ過にて清澄化し、塩析及び遠心で濃縮後、クロロホルム、酵素及び有機溶媒で処理し、精製ウイルス液とする;
[5] 精製ウイルス液をホルマリンで不活化し、ワクチン原液とする。
【0006】
A型肝炎ワクチンの製造方法の改良として、陰イオン交換体及びゲル濾過のクロマトグラフィー操作を界面活性剤の存在下で行う精製方法が開示されている(特許文献2)。特許文献2における陰イオン交換クロマトグラフィーでは、A型肝炎ウイルス粒子が担体に一旦保持され、それを後に溶出させる条件が設定されている。しかしながら、先行特許文献で実際に検討された陰イオン交換体はDEAE系の特定の担体のみである。
また、株化細胞で増殖後に回収されたA型肝炎ウイルス調製物をプロテアーゼで処理し、A型肝炎ウイルスをプロテアーゼ消化タンパク質から分離し、そして当該ウイルスを失活させる工程を含むA型肝炎ウイルスの製法が開示されている(特許文献3)。ここで、プロテアーゼ消化後の精製工程として、イオン交換のステップを行うことも示されている。
上記のような先行技術は存在していたが、陰イオン交換体による不純物の除去については、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-279843
【特許文献2】特開平6-279317
【特許文献3】特表2002-527105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のA型肝炎ワクチン製造方法におけるウイルスの精製方法は、ウイルス培養後のハーベスト液(可溶化液)を出発原料とし、遠心分離、抽出等の人手を介した開放系での作業が多く、スケールアップに限界があった。生産能力の向上や工程短縮等を目的に改良精製法が検討されてきたが、従来製法と同等の品質の精製ウイルス液を得るには、クロマト工程での効率的な不純物除去という課題が存在する。
【0009】
したがって、本発明は、従来技術と比較して効率的に不純物を除去できるクロマト工程が組み込まれたA型肝炎ウイルスの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の目的を達成するために検討を重ねた結果、クロマト工程の陰イオン交換クロマトグラフィー担体として官能基にジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含む担体を使用することで、効率的に不純物を除去し、A型肝炎ウイルスを精製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
したがって、本発明には以下の発明が含まれる;
[項1]
A型肝炎ウイルスの精製方法であって、
a)A型肝炎ウイルスに感染した細胞を培養し、培養した細胞を回収する工程;
b)回収した細胞を可溶化して可溶化液を得る工程;
c)得られた可溶化液を、ジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含むクロマトグラフィー担体を有する陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してA型肝炎ウイルスを分離し、その後溶出液を得る工程;および
d)得られた溶出液をゲルろ過クロマトグラフィーに供する工程、
を含む、A型肝炎ウイルスの精製方法;
[項2]
工程c)において、分離されたA型肝炎ウイルスを高塩濃度緩衝液により溶出させる、項1に記載の方法;
[項3]
工程c)において、平衡化緩衝液が0.2M NaCl以下及び0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)であり、溶出緩衝液が1.0~2.0M NaCl及び0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)である、項2に記載の方法;
[項4]
細胞が、アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞である、項1-3のいずれか一項に記載の方法;
[項5]
アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞が、Vero細胞またはGL37細胞である、項4に記載の方法;
[項6]
工程c)で得られた溶出液のタンパク質当たりの抗原量(比活性)が0.5mg抗原/mg以上である、項1-5のいずれか一項に記載の方法;
[項7]
工程d)のゲルろ過後に、A型肝炎ウイルスを不活化する工程を含む、項1-6のいずれか一項に記載の方法;
[項8]
項1-7いずれか一項に記載の方法によってA型肝炎ウイルスを精製し、得られたA型肝炎ウイルスを用いることを特徴とする、免疫原性組成物の製造方法;
[項9]
項1-7いずれか一項に記載の方法によってA型肝炎ウイルスを精製し、得られたA型肝炎ウイルスを用いることを特徴とする、A型肝炎ワクチンの製造方法;
[項10]
項1-7いずれか一項に記載の方法によってA型肝炎ウイルスを精製する工程を含む、A型肝炎ウイルスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、官能基としてジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含むクロマトグラフィー担体を使用することにより精製されたA型肝炎ウイルス液を提供する。当該精製ウイルス液は、A型肝炎ワクチンの製造に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】クロマト担体評価におけるDEAE-650Mを用いたクロマトグラム(グラジエント溶出)を示す図である。縦軸は波長280nmでの吸光度(mAu;ミリ吸光度単位)、横軸はクロマト液量(mL単位)である。
図2】クロマト担体評価におけるANX Sepharose 4FFを用いたクロマトグラム(グラジエント溶出)を示す図である。縦軸は波長280nmでの吸光度(mAu;ミリ吸光度単位)、横軸はクロマト液量(mL単位)である。
図3】ANXを用いたクロマトグラムの代表例(グラジエント溶出)を示す図である。縦軸は波長280nmでの吸光度(mAu;ミリ吸光度単位)、横軸はクロマト液量(mL単位)である。
図4】ANXを用いたクロマトグラムの代表例(ステップワイズ溶出)を示す図である。縦軸は波長280nmでの吸光度(mAu;ミリ吸光度単位)、横軸はクロマト液量(mL単位)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、A型肝炎ワクチン製造におけるA型肝炎ウイルスの精製に用いられる。具体的には、クロマト工程として官能基としてジエチルアミノプロピルを有する架橋アガロースを含むクロマトグラフィー担体が組み込まれたA型肝炎ウイルスの精製方法によって特徴付けられる。
【0015】
A型肝炎ウイルスの増殖に用いられる細胞としては、A型肝炎ウイルスを増殖できる細胞であれば特に限定されないが、アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞であることが好ましい。アフリカミドリザル腎細胞由来の株化細胞としてVero細胞やGL37細胞などが挙げられる。
【0016】
培地は、通常細胞培養に用いられる培地、例えば、MEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、特注品)、イーグルMEM(日水製薬)、ダルベッコ変法MEM(日水製薬)、VP-SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)等が挙げられるが、いずれを使用してもよい。ウイルス培養時には、ウシ胎児血清を添加した培地を用いることもできる。
【0017】
A型肝炎ウイルスを増殖させた細胞は、例えば、界面活性剤を含有する細胞溶解用液で可溶化される。このA型肝炎ウイルス精製の可溶化された試料が、限外ろ過、核酸分解及びタンパク質分解を目的とした酵素処理、陰イオン交換クロマト及びゲルろ過クロマト等の工程に供されてもよい。同一の工程が2回以上行われてもよく、例えば最初の酵素処理を行うと同時に、連続して、または最初の酵素処理の後に続く他の工程の後に2回目の酵素処理が行われてもよい。同一の工程が2回以上行われる場合、同じ態様で行われてもよいし、異なる態様で行われてもよい。例えば、酵素処理が2回行われる場合は最初の工程で核酸分解酵素で処理され、そして2回目の工程でタンパク質分解酵素で処理される。
【0018】
これらの工程のいずれかを、任意の他の工程の前に、単独で、または組み合わせて行うことができ、サンプルを陰イオン交換クロマトグラフィーに供して精製されたA型肝炎ウイルスの調製物を生成する前に、行ってもよい。
【0019】
A型肝炎ウイルスを増殖させた細胞は、例えば、界面活性剤を含有する細胞溶解用液で可溶化される。界面活性剤は例えば、Nonidet P-40(NP-40)である。界面活性剤としてTriton X-100などが使用されてもよい。
【0020】
酵素処理の酵素としては、例えば、プロテアーゼ(例えば、ProteinaseK、トリプシン)、エンドヌクレアーゼ(例えば、DNaseI、RNaseA、ベンゾナーゼ(商標))、または他の酵素が挙げられる。
【0021】
当業者が入手可能な陰イオン交換クロマトグラフィー担体として、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体では、Qセファロース(商標)ファスト・フロー、DEAEセファロース(商標)ファスト・フロー、およびANXセファロース(商標)4ファスト・フローなどが一例として挙げられる。当業者が入手可能な陰イオン交換体は、例えば強陰イオン交換体または弱陰イオン交換体である。強陰イオン交換体は4級アンモニウム基を担体として有する陰イオン交換体が挙げられ、弱陰イオン交換体として、ジエチルアミノエチル(DEAE)またはジエチルアミノプロピルを担体として有する陰イオン交換体が挙げられる。4級アンモニウム基を担体として有する強陰イオン交換体としてQセファロース(商標)ファスト・フローが挙げられ、弱陰イオン交換体として、DEAEセファロース(商標)ファスト・フロー、およびANXセファロース(商標)4ファスト・フローなどが挙げられる。
【0022】
陰イオン交換クロマトグラフィー工程において、平衡化緩衝液が使用されてもよい。当業者は使用する試料、担体を考慮してウイルスを精製できる平衡化緩衝液を選択することができる。平衡化緩衝液には任意の適切な塩が含まれていてもよい。塩としては、好適には、塩化ナトリウム(NaCl)が使用される。平衡化緩衝液は、典型的には、およそ0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M以下の塩(例えば、NaCl)を含み、より好ましくは平衡化緩衝液は0.2M以下のNaClを含む。平衡化緩衝液にはリン酸(例えば、5、10、20または50mM)緩衝液などの任意の適切な緩衝液が用いられてもよい。実施形態の例として、平衡化緩衝液には、およそ7.0、7.2又は7.5のpHのリン酸緩衝液を使用して行われることが好ましい。他の平衡化緩衝液の使用も本技術分野で周知であり、本開示の方法の実施に使用し得る。
【0023】
クロマトでは、溶出は、担体に結合するA型肝炎ウイルスを、溶出緩衝液と接触させることによって行われる。例えば、混入物質を除去して担体への結合物の大部分がA型肝炎ウイルスの成分になるように、洗浄工程を使用してもよい。そのような場合には、単一の溶出工程を用いて、結合したA型肝炎ウイルスの粒子を担体から溶出してもよい。溶出では、塩溶液が溶出緩衝液として用いられてもよい。溶出緩衝液には、任意の適切な塩を使用してもよい。塩として塩化ナトリウム(NaCl)が使用されていなくてもよい。好適には、塩化ナトリウム(NaCl)が使用される。高塩濃度緩衝液は、典型的には、およそ300mM、500mM、1M又は2Mの塩(例えば、NaCl)である。例えば、溶出は、およそ300mM、500mM、1M又は2MのNaClを含む、適切な緩衝液中で行ってもよい。一例として、リン酸(例えば、5、10、20または50mM)緩衝液などの任意の適切な緩衝液が用いられうる。実施形態の例として、溶出は、高濃度の塩(例えば、300mM、500mM、1M又は2M)を含む、およそ7.0、7.2又は7.5のpHのリン酸緩衝液を使用して行われることが好ましい。他の溶出緩衝液の使用も本技術分野で周知であり、本発明の方法の実施に使用し得る。
【0024】
使用される緩衝液には界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤として、Tween80などの非イオン性界面活性剤が挙げられ、好ましくはTween80である。界面活性剤の濃度は特に限定されないが、およそ0.0005、0.001、0.002、0.003、0.004、0.005%以下である。好ましくは界面活性剤の濃度はおよそ0.002%である。
【0025】
クロマトグラフィー後の溶出液は、好ましくは限外ろ過により濃縮される。限外ろ過の方法は当業者が目的に応じて適宜設定できる。
【0026】
溶出液、好ましくは濃縮した溶出液は、ゲルろ過に供される。好適なゲルろ過担体としては、Sephacryl S-400HR(Cytiva製)及びSepharose CL-6B(Cytiva製)などが挙げられる。
【0027】
精製されたA型肝炎ウイルスを含む溶出溶液において、タンパク質当たりの抗原量(比活性)が測定されてもよい。抗原量は酵素免疫測定法によりHAV抗原を定量することにより測定することができる(生物学的製剤基準「乾燥組織培養不活化A型肝炎ワクチン」)。例えば精製されたA型肝炎ウイルスを含む溶液における抗原量は、およそ0.1mg抗原/mg、0.2mg抗原/mg、0.3mg抗原/mg、0.4mg抗原/mg、0.5mg抗原/mg、0.6mg抗原/mg、0.7mg抗原/mg、0.8mg抗原/mg、0.9mg抗原/mg以上である。精製されたA型肝炎ウイルスを含む溶液における抗原量は、好ましくはおよそ0.5mg抗原/mg以上である。
【0028】
本開示において、クロマトグラフィーの抗原収率は、処理後の抗原量/処理前の抗原量*100により計算されてもよい。本開示においてクロマトグラフィーの抗原収率は、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%以上であることが好ましい。本開示において、不純物として、DNA及び/または宿主細胞由来のタンパク質(HCP)が挙げられる。クロマトグラフィーの不純物除去は処理前のDNA含量及び/またはHCP含量を処理後のDNA含量及び/またはHCP含量と比較して検討されてもよい。本開示のクロマトグラフィー工程により、当該工程後の不純物の量は当該工程の前の不純物の量と比較して90、80、70、60、50、40、30、20、15、10、5、2.5、1%以下である。本開示のクロマトグラフィー工程により、当該工程後の不純物の量が検出限界以下であってもよい。本開示において、クロマトグラフィーによる精製の程度は、(i)担体への抗原の吸着が認められるか、(ii)溶出時にクロマトグラム上で抗原ピークが認められるか、および(iii)不純物ピークと十分に分離できているかをもとに総合的に判断されてもよい。本開示の好ましい態様では、クロマトグラフィーにより、(i)担体への抗原の吸着が認められ、(ii)溶出時にクロマトグラム上で抗原ピークが認められ、かつ(iii)不純物ピークと十分に分離されている場合に精製されていると判断される。
【0029】
当業者は、本開示に含まれるA型肝炎ウイルスの精製方法を用いることにより、A型肝炎ウイルスを製造できる。また、A型肝炎ウイルスを不活化する方法は当業者が目的に応じて適宜設定できる。精製A型肝炎ウイルス液は、例えば、0.025vol%ホルマリン存在下にて不活化処理を受け、製剤化工程を経て、A型肝炎ワクチンが調製される。
【0030】
当業者は、本開示に含まれる精製したA型肝炎ウイルス液由来の成分を含むことを特徴とする免疫原性組成物を製造できる。免疫原性組成物には、例えば、安定剤、界面活性剤、塩類、pH調節剤、および賦形剤などが含まれてもよい。
【0031】
当業者は、本開示に含まれる精製したA型肝炎ウイルス液由来の成分を含むことを特徴とするA型肝炎ワクチンを製造できる。A型肝炎ワクチンには、例えば、安定剤、界面活性剤、塩類、pH調節剤、および賦形剤などが含まれてもよい。
【0032】
本明細書において「およそ」とは示した数値の±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1:A型肝炎ウイルスの培養
以下に、本発明の例示的な実施形態として、アフリカミドリザル腎臓由来細胞であるGL37細胞を用いて増殖させたA型肝炎ウイルス(KRM003株由来)を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの方法により限定されるものではない。
【0035】
VP-SFM培地で接着培養したGL37細胞を、初期細胞数1.2×10 cellsとなるようにウシ胎児血清加MEM培地1600mLに懸濁し、これにA型肝炎ウイルス(m.o.i. 0.1)を接種した。
繊維材質支持体(商品名:BioNOCII(登録商標)、CESCO社)を充填した高密度培養容器(商品名:BelloCell500A(登録商標)、CESCO社)に、当該MEM培地を投入し、一昼夜、当該培養容器の1割分の容量の培地を出し入れすることで細胞を支持体に接着させた。その後、培地のほぼ全量を出し入れすることで接着を確実なものとした。37℃、5%COの環境下で3週間の培養を行い、培養期間中、古い培地の排出と新しい培地の投入を毎日繰り返し、培養を維持した。
高密度培養装置の稼働を停止し、培地を除去してPBSで洗浄した。1V/V%NP-40を含有する細胞溶解用液で細胞を可溶化し、当該可溶化液をA型肝炎ウイルス精製の出発材料とした。
【0036】
実施例2:A型肝炎ウイルスの精製(陰イオン交換クロマト前まで)
【0037】
限外ろ過1
可溶化後のA型肝炎ウイルス液を膜間差圧0.04~0.06MPaで限外ろ過し、緩衝液(10mMリン酸緩衝液)への置換及び濃縮を行った。
【0038】
酵素処理(核酸分解)
限外ろ過1後のA型肝炎ウイルス液に、塩化マグネシウムを最終濃度が5mMとなるように加え混和し、次いで核酸分解酵素(商品名:Benzonase(登録商標)、Merck)を最終濃度が100U/mLとなるように加え混和し、37℃で16時間の酵素処理を行った。
【0039】
酵素処理(タンパク質分解)
さらに、ProteinaseKを最終濃度が50μg/mLとなるように加え混和し、37℃で1.5時間の酵素処理を行った。
【0040】
限外ろ過2
タンパク質分解酵素処理後のA型肝炎ウイルス液を膜間差圧0.04~0.06MPaで限外ろ過し、緩衝液(0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液)への置換及び濃縮を行った。
【0041】
実施例3:A型肝炎ウイルスの精製(陰イオン交換クロマト担体の選択)
A型肝炎ウイルスの精製における陰イオン交換クロマト工程について、不純物除去と収率の観点からクロマト担体のスクリーニングを行い、好適な担体を選択した。
陰イオン交換樹脂として、DEAE-650M(東ソー)、QAE-550C(東ソー)、NH2-750F(東ソー)、ANX Sepharose 4FF(Cytiva)、疎水性担体としてPhenyl Sepharose 6FF(Cytiva)、Butyl Sepharose 4FF(Cytiva)、Octyl Sepharose 4FF(Cytiva)、ToyoScreen(登録商標) Hexyl-650C(東ソー)、ToyoScreen(登録商標)Butyl-600M(東ソー)、ToyoScreen(登録商標)Butyl-650M(東ソー)、ToyoScreen(登録商標)Phenyl-650M(東ソー)、ToyoScreen(登録商標)PPG-600M(東ソー)及びToyoScreen(登録商標)Ether-650M(東ソー)を評価した。
陰イオン交換樹脂のスクリーニングでは、0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)にて平衡化後、限外ろ過2工程後の溶液をアプライ液とし、500mM~5M NaCl及び0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)によりグラジエント溶出することにより陰イオン交換クロマトを行った。また、疎水性担体のスクリーニングでは、2M NaCl及び0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)にて平衡化後、精製後のA型肝炎ウイルス液をアプライ液とし、0.002%Tween80を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)によりリニアグラジエント溶出することにより疎水クロマトを行った。その結果、DEAE-650M、QAE-550C、NH2-750F及びANX Sepharose 4FFについて、A型肝炎ウイルスの抗原収率は、それぞれ、77%、未測定、61%及び85%以上であり、不純物との分離は、△、△、△及び◎であった。ここで、△は「担体への抗原の吸着が認められ、溶出時にクロマトグラム上で抗原ピークが認められたが、不純物ピークと十分に分離できていなかったもの」であり、◎は「担体への抗原の吸着が認められ、溶出時にクロマトグラム上で明瞭な抗原ピークが認められ、不純物ピークと十分に分離できていたもの」である。
なお、DEAE-650M、NH2-750F及びANX Sepharose 4FFについては比活性(タンパク質当たりの抗原量)を評価し、分離が良好であったANX Sepharose 4FFは相対的に比活性が高いことを確認した。
一方、Phenyl Sepharose 6FF、Butyl Sepharose 4FF、Octyl Sepharose 4FF、ToyoScreen(登録商標)Hexyl-650C、ToyoScreen(登録商標)Butyl-600M、ToyoScreen(登録商標)Butyl-650M、ToyoScreen(登録商標)Phenyl-650M、ToyoScreen(登録商標)PPG-600M及びToyoScreen(登録商標)Ether-650Mについては、いずれも、「担体への抗原の吸着が認められないもの」又は「担体への抗原の吸着が認められたが溶出時に抗原ピークが確認できない又は素通り画分に抗原が含まれ分離精製ができないもの」であった。
以上より、A型肝炎ウイルスを精製し不純物を除去するとともに高い抗原収率を達成するという目的には、ANX Sepharose 4FFが最適であることが分かった。
上記の結果をまとめて下表に示すとともに、DEAE-650MおよびANX Sepharose 4FFのクロマトグラムを、それぞれ図1および図2として示す。DEAE-650M(図1)では、不純物ピークとの重なりが大きく、目的物であるA型肝炎ウイルスと不純物との分離が不十分であった。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例4:A型肝炎ウイルスの精製(陰イオン交換クロマトの条件至適化)
選択したANX Sepharose 4FFについて、緩衝液(組成、pH)等のクロマト条件(グラジエント溶出)の至適化検討を行った。
抗原収率、タンパク質当たりの抗原量及びA型肝炎ウイルス抗原ピークの不純物との良好な分離を指標として、下記の至適条件を決定した(図3)。
【0044】
【表2】
【0045】
選択したANX Sepharose 4FFについて、緩衝液(組成、pH)等のクロマト条件(ステップワイズ溶出)の至適化検討を行った。
抗原収率、タンパク質当たりの抗原量及びA型肝炎ウイルス抗原ピークの不純物との良好な分離を指標として、下記の至適条件を決定した(図4)。
【0046】
【表3】
【0047】
実施例5:A型肝炎ウイルスの精製(陰イオン交換クロマト後)
【0048】
限外ろ過3
実施例4の至適条件でANX Sepharose 4FFを用いて得られた陰イオン交換クロマト後のA型肝炎ウイルス液を膜間差圧0.04~0.06MPaで限外ろ過し、濃縮を行った。
【0049】
ゲルろ過
限外ろ過3後のA型肝炎ウイルス液をデキストラン系ゲルろ過カラムに展開し、A型肝炎ウイルスのピーク部分を採取した。
Sephacryl S-400HR(Cytiva製)をカラムユニットに充填し、クロマトは室温下で、0.002%ポリソルベート80含有リン酸緩衝液を線速9cm/hourで流して行った。
得られたA型肝炎ウイルスのピーク画分を、精製A型肝炎ウイルス液とした。
A型肝炎ウイルスの精製に係る実施形態の概要を次に示す:
【0050】
【表4】
【0051】
実施例6:ANX Sepharose 4FFを導入したA型肝炎ウイルスの精製フローの評価
陰イオン交換クロマト工程の担体としてANX Sepharose 4FFを導入したA型肝炎ウイルスの精製フローにより、各工程及び得られた精製ウイルス液の品質を評価した。
精製ウイルス液においては、限外ろ過2後までに残存した不純物がANX Sepharose 4FFにより効率的に除去できており、SDS-PAGEで不純物バンドを認めず、DNA含量及びHCP(宿主細胞由来のタンパク質)含量が検出下限未満となっており、高純度の精製A型肝炎ウイルス液が得られることが確認された。
A型肝炎ウイルスの精製度の指標として、タンパク質当たりのA型肝炎ウイルス抗原量(比活性)の精製工程での推移を下表に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
実施例7:A型肝炎ウイルスの不活化及びワクチン調製
実施例5で得られた精製A型肝炎ウイルス液を、0.025vol%ホルマリン存在下に37℃で12日間の不活化処理し、最終バルク調製、充填及び凍結乾燥を経て、A型肝炎ワクチンを調製した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、A型肝炎ワクチン製造における、陰イオン交換クロマトグラフィーによるA型肝炎ウイルスの精製方法を提供できる。
図1
図2
図3
図4