(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040253
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】電波吸収体用インピーダンス整合膜、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム、電波吸収体、及び電波吸収体用積層体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240315BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240315BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240315BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B9/00 A
B32B7/025
H01Q17/00
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015613
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2019224077の分割
【原出願日】2019-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2018233000
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】拝師 基希
(72)【発明者】
【氏名】中西 陽介
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄希
(57)【要約】
【課題】高温雰囲気に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つのに有利な電波吸収体用インピーダンス整合膜を提供する。
【解決手段】インピーダンス整合膜10は、アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含む。インピーダンス整合用インピーダンス整合膜10は、5cm
2/(V・s)以上のHall移動度を有する。インピーダンス整合膜10
は、16nm以上かつ100nm未満の厚みを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含み、
5cm2/(V・s)以上のHall移動度を有し、
16nm以上かつ100nm未満の厚みを有する、
電波吸収体用インピーダンス整合膜。
【請求項2】
0.5×10-3~5.0×10-3Ω・cmの比抵抗を有する、請求項1に記載のインピーダンス整合膜。
【請求項3】
200~800Ω/□のシート抵抗を有する、請求項1又は2に記載のインピーダンス整合膜。
【請求項4】
前記酸化スズの含有量は20質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインピーダンス整合膜。
【請求項5】
前記酸化スズの含有量は40質量%を超える、請求項4に記載のインピーダンス整合膜。
【請求項6】
インジウム原子、スズ原子、及び酸素原子とは異なる原子を少なくとも有する添加物をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のインピーダンス整合膜。
【請求項7】
基材と、
請求項1~6のいずれか1項に記載のインピーダンス整合膜と、を備えた、
電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のインピーダンス整合膜と、
電波を反射する導電体と、
前記インピーダンス整合膜の厚み方向において前記インピーダンス整合膜と前記導電体との間に配置されている誘電体層と、を備えた、
電波吸収体。
【請求項9】
前記導電体は、酸化インジウムスズを含む、請求項8に記載の電波吸収体。
【請求項10】
前記導電体は、アルミニウム、銅、鉄、アルミニウム合金、銅合金、及び鉄合金からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項8に記載の電波吸収体。
【請求項11】
前記誘電体層は、2.0~20.0の比誘電率を有する、請求項8~10のいずれか1項に記載の電波吸収体。
【請求項12】
前記誘電体層は、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの高分子を含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の電波吸収体。
【請求項13】
粘着層をさらに備え、
前記導電体は、前記誘電体層と前記粘着層との間に配置されている、請求項8~12のいずれか1項に記載の電波吸収体。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載のインピーダンス整合膜と、
前記インピーダンス整合膜の厚み方向において前記インピーダンス整合膜に接触して配置されている、誘電体層と、を備えた、
電波吸収体用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体用インピーダンス整合膜、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム、電波吸収体、及び電波吸収体用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化インジウムスズ(ITO)等の酸化インジウム及び酸化スズを含む物質を用いてインピーダンス整合を図る技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1によれば、従来のλ/4型電波吸収体は、抵抗皮膜であるITO、誘電体、及び導電層を積層させた構造であると説明されている。λ/4型電波吸収体において、抵抗皮膜であるITOによりインピーダンス整合が図られる。一方、特許文献1によれば、ITOのアモルファス膜は、大気中での耐久性が低いと指摘されている。そこで、特許文献1では、優れた耐久性を発揮するλ/4型電波吸収体の製造のために、モリブデンを5重量%以上含有する合金からなるλ/4型電波吸収体用抵抗皮膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ITOのアモルファス膜を抵抗皮膜に用いてλ/4型電波吸収体の耐久性を高めることができることは記載も示唆もされていない。加えて、特許文献1において、高温環境(例えば、125℃の環境)に長期間曝されたときの抵抗皮膜の耐久性は評価されていない。
【0006】
このような事情を踏まえて、本発明は、アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含み、高温雰囲気に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つのに有利な電波吸収体用インピーダンス整合膜を提供する。加えて、本発明は、このようなインピーダンス整合膜を備えた、電波吸収体及び電波吸収体用積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含み、
5cm2/(V・s)以上のHall移動度を有し、
16nm以上かつ100nm未満の厚みを有する、
電波吸収体用インピーダンス整合膜を提供する。
【0008】
また、本発明は、
基材と、
上記のインピーダンス整合膜と、を備えた、
電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルムを提供する。
【0009】
また、本発明は、
上記のインピーダンス整合膜と、
電波を反射する導電体と、
前記インピーダンス整合膜の厚み方向において前記インピーダンス整合膜と前記導電体との間に配置されている誘電体層と、を備えた、
電波吸収体を提供する。
【0010】
また、本発明は、
上記のインピーダンス整合膜と、
前記インピーダンス整合膜の厚み方向において前記インピーダンス整合膜に接触して配置されている、誘電体層と、を備えた、
電波吸収体用積層体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記の電波吸収体用インピーダンス整合膜は、高温環境に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る電波吸収体用インピーダンス整合膜の一例を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明に係る電波吸収体の一例を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明に係る電波吸収体の別の一例を示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明に係る電波吸収体のさらに別の一例を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明に係る電波吸収体のさらに別の一例を示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明に係る電波吸収体用積層体の一例を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明に係る電波吸収体のさらに別の一例を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、本発明に係る電波吸収体用積層体の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態には限定されない。
【0014】
図1に示す通り、電波吸収体用インピーダンス整合膜10は、例えば、電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム15によって提供される。電波吸収体用インピーダンス整合膜10は、抵抗膜である。電波吸収体用インピーダンス整合膜付フィルム15は、基材22と、電波吸収体用インピーダンス整合膜10と、を備えている。電波吸収体用インピーダンス整合膜10は、例えば、基材22の一方の主面上に成膜されている。インピーダンス整合膜10は、酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含む。この混合物は、アモルファス構造を有する。インピーダンス整合膜10は、5cm
2/(V・s)
以上のHall移動度を有する。インピーダンス整合膜10のHall移動度は、インピーダンス整合膜10のHall効果測定によって決定できる。インピーダンス整合膜10のHall効果測定は、例えばvan der Pauw法に従ってなされる。インピーダンス整合膜10は、16nm以上かつ100nm未満の厚みを有する。本明細書において、主成分とは、質量基準で最も多く含まれる成分を意味する。主成分は、例えば、50質量%を超える成分でありうる。酸化インジウムと酸化スズとの混合物は、例えば、固溶体として存在
している。
【0015】
インピーダンス整合膜10は、5cm2/(V・s)以上のHall移動度を有するこ
とにより、高温環境(例えば、125℃)に長期間(例えば、1000時間)曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保ちやすい。本発明者らは、多大な試行錯誤を重ねた結果、アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含むインピーダンス整合膜において、Hall移動度を上記の範囲に調整することによって、高温環境に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つことができることを新たに見出した。
【0016】
インピーダンス整合膜10が5cm2/(V・s)以上のHall移動度を有すること
により、インピーダンス整合膜10が、高温環境に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つことができる理由は定かではない。本発明者らは、その理由について以下のように考えている。アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含む膜において、酸素空孔がキャリアの発生源になると考えられる。このような膜において酸素空孔の密度が高いと、高温環境において酸化反応が生じやすく、膜の移動度が上昇しやすいと考えられる。インピーダンス整合膜10のHall移動度が5cm2/(V・s)以上の範囲であれば、インピーダンス整合膜10にお
いて酸素空孔が適度な密度で存在し、高温環境においてインピーダンス整合膜10のHall移動度及びキャリア密度が変動しにくいと考えられる。その結果、インピーダンス整合膜10は、高温環境に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つことができると考えられる。
【0017】
インピーダンス整合膜10のHall移動度は、上記の範囲である限り特定の値に限定されない。インピーダンス整合膜10のHall移動度は、6cm2/(V・s)以上で
あってもよいし、7cm2/(V・s)以上であってもよいし、8cm2/(V・s)以上であってもよいし、9cm2/(V・s)以上であってもよいし、10cm2/(V・s)以上であってもよいし、15cm2/(V・s)以上であってもよいし、20cm2/(V・s)以上であってもよい。インピーダンス整合膜10のHall移動度は、例えば65cm2/(V・s)以下であり、60cm2/(V・s)以下であってもよいし、58cm2/(V・s)以下であってもよいし、55cm2/(V・s)以下であってもよいし、52cm2/(V・s)以下であってもよいし、51cm2/(V・s)以下であってもよいし、50cm2/(V・s)以下であってもよいし、49cm2/(V・s)以下であってもよいし、48cm2/(V・s)以下であってもよいし、47cm2/(V・s)以下であってもよいし、46cm2/(V・s)以下であってもよいし、45cm2/(V・s)以下であってもよいし、40cm2/(V・s)以下であってもよいし、35cm2/(V・s)以下であってもよい。
【0018】
インピーダンス整合膜10のHall移動度は、望ましくは、50cm2/(V・s)
以下である。この場合、より確実に、インピーダンス整合膜10において酸素空孔が適度な密度で存在し、高温環境においてインピーダンス整合膜10のHall移動度及びキャリア密度が変動しにくいと考えられる。その結果、インピーダンス整合膜10は、より確実に、高温環境に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保つことができる。
【0019】
インピーダンス整合膜10が100nm未満の厚みを有することにより、インピーダンス整合膜10の反りを抑制できる。また、インピーダンス整合膜10においてクラックが発生しにくい。加えて、酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含むインピーダンス整合膜10が16nm以上かつ100nm未満の厚みを有することにより、インピーダンス整合膜10が所望のシート抵抗を有しやすい。さらに、インピーダンス整合膜
10が16nm以上かつ100nm未満の厚みを有することにより、インピーダンス整合膜10は、生産性及び製造コストの観点からも有利である。
【0020】
インピーダンス整合膜10の厚みは、18nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、25nm以上であってもよく、30nm以上であってもよい。インピーダンス整合膜10の厚みは、90nm以下であってもよく、80nm以下であってもよく、70nm以下であってもよく、60nm以下であってもよい。
【0021】
インピーダンス整合膜10は、例えば、0.5×10-3~5.0×10-3Ω・cmの比抵抗を有する。これにより、インピーダンス整合膜10がインピーダンス整合の観点から所望の特性を有しやすい。インピーダンス整合膜10の主成分がアモルファス構造を有することによって、インピーダンス整合膜10の比抵抗がこのような範囲に収まりやすい。インピーダンス整合膜10の比抵抗は、0.7×10-3Ω・cm以上であってもよく、0.8×10-3Ω・cm以上であってもよく、1.0×10-3Ω・cm以上であってもよい。インピーダンス整合膜10の比抵抗は、4.8×10-3Ω・cm以下であってもよく、4.5-3Ω・cm以下であってもよく、4.0×10-3Ω・cm以下であってもよく、3.5×10-3Ω・cm以下であってもよく、3.3×10-3Ω・cm以下であってもよい。
【0022】
インピーダンス整合膜10は、例えば、200~800Ω/□のシート抵抗を有する。これにより、インピーダンス整合膜10がインピーダンス整合の観点から所望の特性を有しやすい。インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、220Ω/□以上であってもよく、250Ω/□以上であってもよく、275Ω/□以上であってもよく、300Ω/□以上であってもよい。インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、800Ω/□以下であってもよく、700Ω/□以下であってもよく、600Ω/□以下であってもよく、500Ω/□以下であってもよく、450Ω/□以下であってもよい。
【0023】
インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、上記の主成分がアモルファス構造を有する限り、特定の値に限定されない。インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、インピーダンス整合膜10がアモルファス状態を維持しやすいように定められていることが望ましい。インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、例えば、20質量%以上である。この場合、インピーダンス整合膜10がアモルファスの状態を保ちやすい。インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、25%質量以上であってもよい。
【0024】
インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、40質量%を超えていてもよい。この場合、インピーダンス整合膜10が良好な耐酸性を示しやすい。
【0025】
インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、例えば90質量%以下であり、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、60質量%以下であってもよい。インピーダンス整合膜10における酸化スズの含有量は、望ましくは90質量%未満であり、より望ましくは80質量%以下である。これにより、インピーダンス整合膜10の比抵抗が所望の範囲に調整されやすい。その結果、インピーダンス整合膜10を16nm以上かつ100nm未満の厚みで形成したときに、インピーダンス整合膜10が所望のシート抵抗を有しやすい。
【0026】
インピーダンス整合膜10は、例えば、添加物をさらに含んでいてもよい。添加物は、例えば、インジウム原子、スズ原子、及び酸素原子とは異なる原子を少なくとも有する。インピーダンス整合膜10に添加物を含有させることにより、比抵抗等のインピーダンス
整合膜10の特性を調整しやすい。また、添加物を含有させることにより、場合によっては、単独ではアモルファスの状態にすることが難しい組成を有する主成分を用いてアモルファス物質を得ることができる。
【0027】
添加物は、例えば、ケイ素原子、チタン原子、マグネシウム原子、窒素原子、及び水素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの原子を有する。
【0028】
インピーダンス整合膜10を、温度125℃の環境に1000時間曝す信頼性試験を行う。インピーダンス整合膜10の信頼性試験を行う前の初期のシート抵抗をShb[Ω/□]と表し、インピーダンス整合膜10の信頼性試験を行った後のシート抵抗をSha[Ω/□]と表す。インピーダンス整合膜10において、下記式(1)よって決定されるシート抵抗変化率ΔShは、例えば25%以下であり、望ましくは20%以下であり、より望ましくは15%以下であり、さらに望ましくは10%以下である。この場合、インピーダンス整合膜10が高温環境に長期間曝されてもインピーダンス整合膜10のシート抵抗が変動しにくい。このことは、高温環境において長期間インピーダンス整合を図る観点から有利である。
ΔSh[%]=100×|Sha-Shb|/Shb 式(1)
【0029】
インピーダンス整合膜10は、耐酸性の観点から良好な特性を有していてもよい。例えば、インピーダンス整合膜10を、常温(20℃±15℃:日本工業規格(JIS) Z 8703)において、0.5モル/リットル又は1.0モル/リットルの塩酸に2分間浸漬して耐酸性試験を行う。インピーダンス整合膜10の耐酸性試験を行う前の初期のシート抵抗をScb[Ω/□]と表し、インピーダンス整合膜10の耐酸性試験を行った後のシート抵抗をSca[Ω/□]と表す。インピーダンス整合膜10において、下記(2)によって決定されるシート抵抗変化率ΔScは、例えば10%以下であり、望ましくは5%以下であり、より望ましくは3%以下である。この場合、インピーダンス整合膜10が酸と接触してもインピーダンス整合膜10のシート抵抗が変動しにくい。このことは、酸が存在する環境においてインピーダンス整合を図る観点から有利である。なお、インピーダンス整合膜10のシート抵抗は、特に説明する場合を除き、信頼性試験及び耐酸性試験を行う前の初期のシート抵抗を意味する。
ΔSc[%]=100×|Sca-Scb|/Scb 式(2)
【0030】
基材22は、例えば、インピーダンス整合膜10を支持する支持体としての役割を果たす。インピーダンス整合膜10は、例えば、所定のターゲット材を用いたスパッタリングによって基材22の一方の主面上に成膜される。この場合、例えば、酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含むターゲット材が用いられる。ターゲット材の組成に加えて、スパッタリングにおいて供給される混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比等の所定の条件を調整することによって、インピーダンス整合膜10のHall移動度を上記の範囲に調整できる。典型的には、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比が高いほど抵抗膜のHall移動度が高くなりやすい。混合ガスには、例えば、酸素ガスの他にアルゴンガスが含まれうる。例えば、同一組成のターゲット材を用いて、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比が異なる条件でスパッタリングを行って複数の抵抗膜のサンプルを作製し、それらのサンプルのHall移動度を測定する。この測定結果から、インピーダンス整合膜10を形成するためのスパッタリングの条件を決定できる。インピーダンス整合膜10は、場合によっては、イオンプレーティング又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の方法を用いて成膜されてもよい。
【0031】
図2Aに示す通り、インピーダンス整合膜10を用いて、電波吸収体1aを提供できる。電波吸収体1aは、インピーダンス整合膜10と、導電体30と、誘電体層20とを備えている。導電体30は、電波を反射する。誘電体層20は、インピーダンス整合膜10
の厚み方向においてインピーダンス整合膜10と導電体30との間に配置されている。
【0032】
電波吸収体1aは、λ/4型の電波吸収体である。電波吸収体1aに吸収対象とする波長λOの電波が入射すると、インピーダンス整合膜10の表面での反射(表面反射)によ
る電波と、導電体30における反射(裏面反射)による電波とが干渉するように、電波吸収体1aが設計されている。λ/4型の電波吸収体においては、下記の式(3)に示す通り、誘電体層の厚みt及び誘電体層の比誘電率εrによって吸収対象の電波の波長λOが決定される。すなわち、誘電体層の比誘電率及び厚みを適宜調節することにより、吸収対象の波長の電波を設定できる。式(3)においてsqrt(εr)は、比誘電率εrの平方根を意味する。
λO=4t×sqrt(εr) 式(3)
【0033】
電波吸収体1aが上記のインピーダンス整合膜10を備えていることにより、電波吸収体1aは、高温環境に長期間曝されたときに所望の電波吸収性能を保ちやすい。電波吸収体1aを温度125℃の環境に1000時間曝す信頼性試験を行う。電波吸収体1aは、例えば、この信頼性試験の前後において、垂直に入射する吸収対象の波長の電波に対し10dB以上の反射減衰量を発揮しうる。反射減衰量は、例えば、JIS R 1679:2007に準拠
して測定できる。
【0034】
λ/4型の電波吸収体の設計において、伝送理論を用いてインピーダンス整合膜10の前面から見込んだインピーダンスが特性インピーダンスと等しくなるように、インピーダンス整合膜10のシート抵抗が定められる。λ/4型の電波吸収体において、インピーダンス整合膜10に求められるシート抵抗は、λ/4型の電波吸収体に入射する電波の想定される入射角度によって変動しうる。なお、特に説明する場合を除き、「インピーダンス整合膜10のシート抵抗」は、上記の信頼性試験の前の初期のシート抵抗の値を意味する。
【0035】
導電体30は、吸収対象の電波を反射できる限り特に限定されないが、所定の導電性を有する。
図2Aに示す通り、導電体30は、例えば層状に形成されている。この場合、導電体30は、インピーダンス整合膜10のシート抵抗よりも低いシート抵抗を有する。導電体30は、層状以外の形状を有していてもよい。
【0036】
導電体30は、例えば、酸化インジウムスズを含んでいる。この場合、導電体30が高い透明性を有しやすい。
【0037】
導電体30の酸化インジウムスズにおける酸化スズの含有量は、例えば、5~15質量%である。この場合、アニール処理によって安定的な多結晶状態の酸化インジウムスズで導電体30を形成できる。その結果、電波吸収体1aは高温環境に長期間曝されたときに所望の電波吸収性能をより確実に発揮しやすい。
【0038】
導電体30は、アルミニウム、銅、鉄、アルミニウム合金、銅合金、及び鉄合金からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。この場合、導電体30の厚みを低減しつつ所望の導電性を実現しやすい。
【0039】
導電体30の厚みは、特定の厚みに限定されない。例えば、導電体30が酸化インジウムスズである場合、導電体30は、例えば20~200nmの厚みを有し、望ましくは50~150nmの厚みを有する。これにより、電波吸収体1aが所望の電波吸収性能を発揮できるとともに、導電体30においてクラックが発生しにくい。
【0040】
導電体30がアルミニウム、銅、鉄、アルミニウム合金、銅合金、鉄合金からなる群よ
り選ばれる少なくとも1つである場合、導電体30は、例えば30nm~100μmの厚みを有し、望ましくは50nm~50μmの厚みを有する。
【0041】
誘電体層20は、例えば、2.0~20.0の比誘電率を有する。この場合、誘電体層20の厚みを調整しやすく、電波吸収体1aの電波吸収性能の調整が容易である。誘電体層20の比誘電率は、例えば、空洞共振法に従って測定される10GHzにおける比誘電率である。
【0042】
誘電体層20は、例えば、所定の高分子によって形成されている。誘電体層20は、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの高分子を含む。この場合、誘電体層20の厚みを調整しやすく、かつ、電波吸収体1aの製造コストを低く保つことができる。誘電体層20は、例えば、所定の樹脂組成物を熱プレスすることによって作製できる。
【0043】
誘電体層20は、単一の層として形成されていてもよいし、同一又は異なる材料でできた複数の層によって形成されていてもよい。誘電体層20がn個の層(nは2以上の整数)を有する場合、誘電体層20の比誘電率は、例えば、以下の様にして決定される。各層の比誘電率εiを測定する(iは、1~nの整数)。次に、測定された各層の比誘電率εiにその層の厚みtiの誘電体層20の全体Tに対する厚みの割合を乗じて、εi×(ti/T)を求める。すべての層に対するεi×(ti/T)を加算することによって、誘電体層20
の比誘電率を決定できる。
【0044】
図2Aに示す通り、誘電体層20は、例えば、第一層21、第二層22、及び第三層23を備えている。第一層21は、第二層22と第三層23との間に配置されている。第一層21は、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、及びシクロオレフィンポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの高分子を含む。
【0045】
電波吸収体1aにおいて、第二層22は、インピーダンス整合膜10にとっての基材を兼ねている。第二層22は、例えば、インピーダンス整合膜10よりも導電体30に近い位置に配置されている。
図2Bに示す通り、第二層22は、インピーダンス整合膜10よりも導電体30から遠い位置に配置されていてもよい。この場合、第一層21及び第三層23によって誘電体層20が構成される。この場合、第二層22によって、インピーダンス整合膜10及び誘電体層20が保護され、電波吸収体1aが高い耐久性を有する。この場合、例えば、インピーダンス整合膜10が第一層21に接触していてもよい。第二層22は、例えば、インピーダンス整合膜10の厚みを高精度に調節するための補助材としての役割も果たす。第二層22の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、又はシクロオレフィンポリマー(COP)である。なかでも、良好な耐熱性と、寸法安定性と、製造コストとのバランスの観点から、第二層22の材料は、望ましくはPETである。
【0046】
基材22は、例えば10~150μmの厚みを有し、望ましくは15~100μmの厚みを有する。これにより、基材22の曲げ剛性が低く、かつ、インピーダンス整合膜10を形成する場合に基材22において皺の発生又は変形を抑制できる。
【0047】
電波吸収体1aにおいて、第三層23は、例えば、層状の導電体30を支持している。この場合、層状の導電体30は、例えば、金属箔又は合金箔である。層状の導電体30は、例えば、スパッタリング、イオンプレーティング、又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の方法を用いて第三層23上に成膜することによって作製されてもよい。第三層23は、例えば、電波吸収体1aにおいて、層状の導電体30よりもインピーダンス整合膜10に近い位置に配置されており、誘電体層20の一部を構成している。なお、
図2Cに示す通り、第三層23は、層状の導電体30よりもインピーダンス整合膜10から遠い位置に配置されていてもよい。この場合、例えば、層状の導電体30が第一層21に接触している。
【0048】
第三層23の材料として、例えば、第二層22の材料として例示された材料を使用できる。第三層23の材料は、第二層22の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。良好な耐熱性と、寸法安定性と、製造コストとのバランスの観点から、第三層23の材料は、望ましくはPETである。
【0049】
第三層23は、例えば10~150μmの厚みを有し、望ましくは15~100μmの厚みを有する。これにより、第三層23の曲げ剛性が低く、かつ、層状の導電体30を形成する場合に第三層23において皺の発生又は変形を抑制できる。なお、第三層23は、場合によっては省略可能である。
【0050】
第一層21は、複数の層によって構成されていてもよい。特に、
図2B又は
図2Cに示す通り、インピーダンス整合膜10及び層状の導電体30の少なくとも1つに第一層21が接触している場合に、第一層21は複数の層によって構成されうる。
【0051】
第一層21は、粘着性を有していてよいし、粘着性を有していなくてもよい。第一層21が粘着性を有する場合、第一層21の両主面の少なくとも一方に粘着層が接して配置されてもよいし、その両主面に接するように粘着層が配置されていなくてもよい。第一層21が粘着性を有することにより、第一層21とは別の粘着層を不要にできる。このため、電波吸収体1aにおいて、第一層21とは別の粘着層の厚みのばらつきが発生せず、電波吸収体1aの全体の厚みのばらつきを低減できる。このため、電波吸収体1aにおいて、安定した電波吸収性能が発揮されやすい。第一層21が粘着性を有しない場合、望ましくは、第一層21の両主面に接して粘着層が配置される。なお、誘電体層20が第二層22を含む場合、第二層22が粘着性を有しなくても、第二層22の両主面に接するように粘着層が配置されなくてもよい。この場合、第二層22の一方の主面に接して粘着層が配置されうる。誘電体層20が第三層23を含む場合、第三層23が粘着性を有しなくても、第三層23の両主面に接して粘着層が配置されなくてもよい。第三層23の少なくとも一方の主面に接して粘着層が配置されうる。
【0052】
電波吸収体1aにおいて、例えば、インピーダンス整合膜10に隣接する層が所定の酸成分を含有することがある。インピーダンス整合膜10に隣接する層は、例えば、その層の一部を含む試料に対し、JIS K 0070-1992の「3.1 中和滴定法」に従って決定され
る酸価が5以上となるように、酸成分を含有しうる。この場合、例えば、インピーダンス整合膜10におけるシート抵抗変化率ΔScが上記の範囲であれば、インピーダンス整合膜10に隣接する層に含有される酸成分によって、インピーダンス整合膜10のシート抵抗が変動しにくい。
【0053】
電波吸収体1aは、所望の波長の電波を吸収するように設計されている。電波吸収体1aが吸収可能な電波の種類は特に限定されない。電波吸収体1aが吸収可能な電波は、例えば、特定の周波数帯域のミリ波又はサブミリ波でありうる。
【0054】
電波吸収体1aは、様々な観点から変更可能である。例えば、電波吸収体1aは、
図3Aに示す電波吸収体1b、
図3Bに示す電波吸収体1c、
図4Aに示す電波吸収体1d、又は
図5Aに示す電波吸収体1eのように変更されてもよい。電波吸収体1b、1c、1d、及び1eは、特に説明する部分を除き、電波吸収体1aと同様に構成されている。電波吸収体1aの構成要素と同一又は対応する電波吸収体1b、1c、1d、及び1eの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。電波吸収体1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り電波吸収体1b、1c、1d、及び1eにも当てはまる。
【0055】
図3Aに示す通り、電波吸収体1bは、粘着層40aをさらに備えている。電波吸収体1bにおいて、導電体30は、誘電体層20と粘着層40aとの間に配置されている。一方、
図3Bに示す通り、電波吸収体1cは、粘着層40a及び導電体保護層35をさらに備えている。導電体30は、誘電体層20と粘着層40aとの間に配置されている。加えて、導電体保護層35は、導電体30と粘着層40aとの間に配置されている。
【0056】
例えば、所定の物品に粘着層40aを接触させて電波吸収体1b又は1cを押し当てることによって、電波吸収体1b又は1cを物品に貼り付けることができる。これにより、電波吸収体付物品を得ることができる。
【0057】
粘着層40aは、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、又はウレタン系粘着剤を含んでいる。電波吸収体1bは、セパレータ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、セパレータは、粘着層40aを覆っている。セパレータは、典型的には、粘着層40aを覆っているときに粘着層40aの粘着力を保つことができ、かつ、粘着層40aから容易に剥離できるフィルムである。セパレータは、例えば、PET等のポリエステル樹脂製のフィルムである。セパレータを剥離することによって粘着層40aが露出し、電波吸収体1b又は1cを物品に貼り付けることができる。
【0058】
電波吸収体1cにおいて、導電体保護層35の材料として、例えば、第二層22の材料として例示された材料を使用できる。導電体保護層35により、粘着層40aに含まれる成分が導電体30と接触することを防止できる。その結果、導電体30の耐久性を高めやすい。
【0059】
電波吸収体において、誘電体層20は、導電体30に対して粘着性を有していてもよい。例えば、
図4Aに示す通り、電波吸収体1dにおいて、誘電体層20は、粘着層40bを含む複数の層を有する。粘着層40bは、導電体30に接触している。粘着層40bは、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、又はウレタン系粘着剤を含んでいる。粘着層40bは、例えば、第一層21と導電体30との間に配置されている。
【0060】
図4Aに示す通り、誘電体層20は、粘着層40cをさらに備えている。粘着層40cは、例えば、第二層22と接触している。粘着層40cがインピーダンス整合膜10と接触するように電波吸収体1dが変更されてもよい。粘着層40cは、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、又はウレタン系粘着剤を含んでいる。粘着層40cは、例えば、第一層21と第二層22との間に配置されている。
【0061】
電波吸収体1eは、例えば、
図4Bに示す、電波吸収体用積層体50aを用いて作製されうる。電波吸収体用積層体50aは、インピーダンス整合膜10と、誘電体層20とを備える。誘電体層20は、インピーダンス整合膜10の厚み方向においてインピーダンス整合膜10に接触して配置されている。
【0062】
電波吸収体用積層体50aによれば、誘電体層20は、例えば、インピーダンス整合膜
10から離れた主面において、粘着性を有する。この場合、例えば、導電体30に誘電体層20を接触させ、電波吸収体用積層体50aを導電体30に押し当てることによって、電波吸収体用積層体50aが導電体30に貼り付き、電波吸収体1eを作製できる。
【0063】
図4Bに示す通り、電波吸収体用積層体50aにおいて、誘電体層20は、例えば、粘着層40bを含む複数の層を有する。粘着層40bは、誘電体層20をなす複数の層においてインピーダンス整合膜10から最も離れて配置されている。
【0064】
電波吸収体用積層体50aは、セパレータ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、セパレータは、粘着層40bを覆っている。セパレータは、典型的には、粘着層40bを覆っているときに粘着層40bの粘着力を保つことができ、かつ、粘着層40bから容易に剥離できるフィルムである。セパレータは、例えば、PET等のポリエステル樹脂製のフィルムである。セパレータを剥離することによって粘着層40bが露出し、電波吸収体用積層体50aを導電体30に貼り付けることができる。
【0065】
図5Aに示す通り、電波吸収体1eにおいて、第一層21は、導電体30に接触している。第一層21は、例えば、導電体30に対して粘着性を有する。第一層21は、例えば、第二層22に接触している。第一層21は、例えば、第二層22に対して粘着性を有する。第一層21がインピーダンス整合膜10と接触するように電波吸収体1eが変更されてもよい。この場合、第一層21は、例えば、インピーダンス整合膜10に対して粘着性を有する。
【0066】
電波吸収体1eは、例えば、
図5Bに示す、電波吸収体用積層体50bを用いて作製されうる。電波吸収体用積層体50bは、インピーダンス整合膜10と、誘電体層20とを備える。誘電体層20は、インピーダンス整合膜10の厚み方向においてインピーダンス整合膜10に接触して配置されている。
【0067】
電波吸収体用積層体50bにおいて、誘電体層20は、インピーダンス整合膜10から離れた主面において、粘着性を有する。例えば、第一層21が粘着性を有する。例えば、導電体30に第一層21を接触させて電波吸収体用積層体50bを導電体30に押し当てることによって、電波吸収体用積層体50bが導電体30に貼り付き、電波吸収体1eを作製できる。
【0068】
電波吸収体用積層体50bは、セパレータ(図示省略)をさらに備えていてもよい。この場合、セパレータは、誘電体層20の導電体30に接触すべき面を覆っている。セパレータは、典型的には、誘電体層20の導電体30に接触すべき面を覆っているときに誘電体層20の導電体30に接触すべき面の粘着力を保つことができ、かつ、誘電体層20から容易に剥離できるフィルムである。セパレータは、例えば、PET等のポリエステル樹脂製のフィルムである。セパレータを剥離することによって誘電体層20の導電体30に接触すべき面が露出し、電波吸収体用積層体50bを導電体30に貼り付けることができる。
【0069】
電波吸収体用積層体は、インピーダンス整合膜10と、誘電体層20とを備え、かつ、インピーダンス整合膜10の厚み方向において誘電体層20がインピーダンス整合膜10に接触して配置されている限り、特定の構成に限定されない。
【実施例0070】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例に関する評価方法について説明する。
【0071】
[X線回折]
X線回折装置(リガク社製、製品名:RINT2200)を用いて、X線反射率法によって、各実施例及び比較例に係る抵抗膜付フィルムの抵抗膜の厚みを測定した。結果を表1に示す。また、X線回折装置を用いて抵抗膜に対するX線回折パターンを得た。X線としてはCu‐Kα線を用いた。得られたX線回折パターンから、各実施例及び比較例において抵抗膜は、アモルファス構造を有することが確認された。
【0072】
[Hall移動度]
Hall効果測定装置(ナノメトリクス社製、製品名:HL5500PC)を用いて、各実施例及び比較例に係る抵抗膜について、van der Pauw法に従ってHall効果測定を行った。Hall効果測定の結果から、各実施例及び比較例に係る抵抗膜のHall移動度を求めた。結果を表1に示す。なお、Hall効果測定は、下記の信頼性試験及び耐酸性試験を未実施のサンプルに対して行った。
【0073】
[比抵抗]
非接触式抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて、JIS Z 2316に準拠して、渦電流測定法によって各実施例及び比較例に係る抵抗膜の初期のシート抵抗を測定した。各実施例及び比較例において、上記のように測定した抵抗膜の厚みと、上記のように測定した抵抗膜の初期のシート抵抗から、両者の積を求めることにより、比抵抗を決定した。結果を表1に示す。なお、各実施例及び比較例に係る抵抗膜の初期のシート抵抗は、後述の導電体付フィルムを重ねる前の、抵抗膜付フィルムとアクリル樹脂層との積層体を用いて測定した。
【0074】
[信頼性試験]
各実施例に係る電波吸収体を125℃の環境に1000時間曝して信頼性試験を実施した。各実施例に係る電波吸収体に対し、信頼性試験の前後において、JIS R 1679:2007に
準拠して、垂直に入射する76GHzのミリ波に対する電波吸収体の反射減衰量(入射波の電力に対する反射波の電力の比をdB表記した値の絶対値)を測定した。なお、本明細書における「反射減衰量」は、JIS R 1679:2007における「反射量」に対応する。比較例
に係る電波吸収体に対し、信頼性試験は実施せずに、JIS R 1679:2007に準拠して、垂直
に入射する76GHzのミリ波に対する電波吸収体の反射減衰量を測定した。各実施例及び比較例について、5つのサンプルに対し反射減衰量を測定して求めた平均値から下記の基準に従って各実施例及び比較例に係る電波吸収体の反射減衰量を評価した。結果を表1に示す。なお、比較例に係る電波吸収体については信頼性試験を実施しなかったので、信頼性試験後の反射減衰量の評価の欄を[-]と表記した。
AA:反射減衰量の平均値が20dB以上である。
A:反射減衰量の平均値が10db以上20dB未満である。
X:反射減衰量の平均値が10dB未満である。
【0075】
上記の信頼性試験を行った後に、各実施例に係る電波吸収体のサンプルから導電体付フィルムを剥離して試料を作製した。その後、非接触式抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて、JIS Z 2316に準拠して、渦電流測定法によってこの試料の抵抗膜のシート抵抗を測定した。この測定結果と、初期のシート抵抗の測定結果とから、上記の式(1)に基づき、各実施例に係る抵抗膜のシート抵抗変化率ΔShを求めた。結果を表1に示す。なお、比較例に係る電波吸収体については信頼性試験を実施しなかったので、シート抵抗変化率ΔShの欄を[-]と表記した。
【0076】
[耐酸性試験]
各実施例に係る抵抗膜付フィルムを30mm平方に切り取った切片をスライドガラスに粘着テープで貼り付け、耐酸性試験用のサンプルを準備した。各実施例に係るサンプルを
0.5モル/リットル又は1.0モル/リットルの濃度を有する塩酸に2分間浸漬した。各実施例に係るサンプルにおいて、浸漬後の切片をスライドガラスから剥がした。その後、非接触式抵抗測定装置(ナプソン社製、製品名:NC-80MAP)を用いて、JIS Z 2316に準拠して、渦電流測定法によって各実施例に係るサンプルの抵抗膜のシート抵抗を測定した。この測定結果と、初期のシート抵抗の測定結果とから、上記の式(2)に基づき、各実施例に係る抵抗膜のシート抵抗変化率ΔScを求めた。結果を表1に示す。なお、比較例に係る抵抗膜については、耐酸性試験は実施しなかったので、シート抵抗変化率ΔScの欄を[-]と表記した。
【0077】
<実施例1>
PETフィルム(三菱ケミカル社製、製品名:ダイアホイル、厚み:23μm)の上に、30重量%のSnO
2を含有するITOをターゲット材として用い、アルゴンガス及び
酸素ガスを含む混合ガスを供給しながらスパッタリングを行い、実施例1に係る抵抗膜を形成した。このようにして、実施例1に係る抵抗膜付フィルム得た。スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが44nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が386Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が15cm
2/(V・s)であるように、混合ガスの体積流量
に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、0.7%であった。25μmの厚みを有するPETフィルムと、7μmの厚みを有するアルミニウム箔とが積層された導電体付フィルムを準備した。2.6の比誘電率を有するアクリル樹脂を560μmの厚みに成形して、アクリル樹脂層を得た。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの抵抗膜がアクリル樹脂層に接触するように実施例1に係る抵抗膜付フィルムをアクリル樹脂層に重ねた。その後、導電体付フィルムのPETフィルムがアクリル樹脂層に接触するように導電体付フィルムをアクリル樹脂層にさらに重ねた。このようにして、実施例1に係る電波吸収体を得た。実施例1に係る電波吸収体は、
図2Bに示す電波吸収体1aに対応する構成を有していた。アクリル樹脂層は、抵抗膜付フィルムの抵抗膜及び導電体付フィルムのPETフィルムに対し粘着性を有しており、抵抗膜付フィルム及び導電体付フィルムは、粘着剤を使用せずにアクリル樹脂層に接着した。
【0078】
<実施例2>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが19nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が416Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が31cm2/(V・s)であるように、
混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.0%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例2に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る電波吸収体を得た。
【0079】
<実施例3>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが22nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が318Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が46cm2/(V・s)であるように、
混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、3.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例3に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る電波吸収体を得た。
【0080】
<実施例4>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、50重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが90nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が456Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が8cm2/(V・s)である
ように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.0%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例4に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る電波吸収体を得た。
【0081】
<実施例5>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、50重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが36nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が361Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が23cm2/(V・s)であ
るように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、3.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例5に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る電波吸収体を得た。
【0082】
<実施例6>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、50重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが26nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が385Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が41cm2/(V・s)であ
るように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、4.7%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例6に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る電波吸収体を得た。
【0083】
<実施例7>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例7に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、20重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが50nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が396Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が10cm2/(V・s)であ
るように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、0.7%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例7に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る電波吸収体を得た。
【0084】
<実施例8>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、20重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが22nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が373Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が20cm2/(V・s)であ
るように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.0%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例8に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例8に係る電波吸収体を得た。
【0085】
<実施例9>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例9に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、20重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが20nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が360Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が39cm2/(V・s)であ
るように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、4.7%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例9に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例9に係る電波吸収体を得た。
【0086】
<実施例10>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例10に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、70重量%のSnO2を含有するITOを用い
た。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが52nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が365Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が20cm2/(V・s)で
あるように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、3.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例10に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例10に係る電波吸収体を得た。
【0087】
<実施例11>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例11に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、70重量%のSnO2を含有するITOを用い
た。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが45nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が378Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が31cm2/(V・s)で
あるように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、5.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例11に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例11に係る電波吸収体を得た。
【0088】
<実施例12>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例12に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、30重量%のSnO2及び2.5重量%のSi
O2を含有している、SiO2が添加されたITOを用いた。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが42nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が381Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が21cm2/(V・s)であるように、混合ガスの体積流量
に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.7%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例12に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例12に係る電波吸収体を得た。
【0089】
<実施例13>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例13に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、15重量%のSnO2及び5重量%のSiO2を含有している、SiO2が添加されたITOを用いた。加えて、スパッタリングにおいて
、抵抗膜の厚みが87nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が402Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が17cm2/(V・s)であるように、混合ガスの体積流量に対
する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.7%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例13に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例13に係る電波吸収体を得た。
【0090】
<実施例14>
下記の点以外は、実施例1と同様にして実施例14に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、15重量%のSnO2及び5重量%のTiO2を含有している、TiO2が添加されたITOを用いた。加えて、スパッタリングにおいて
、抵抗膜の厚みが98nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が449Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が15cm2/(V・s)であるように、混合ガスの体積流量に対
する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.0%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、実施例14に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例14に係る電波吸収体を得た。
【0091】
<比較例1>
下記の点以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、50重量%のSnO2を含有するITOを用いた
。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが100nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が990Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が4cm2/(V・s)であ
るように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、1.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、比較例1に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る電波吸収体を得た。
【0092】
<比較例2>
下記の点以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、15重量%のSnO2を含有しているITOを用
いた。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが10nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が400Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が31cm2/(V・s)
であるように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、2.0%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、比較例2に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る電波吸収体を得た。
【0093】
<比較例3>
下記の点以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、50重量%のSnO2を含有しているITOを用
いた。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが210nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が381Ω/□であり、抵抗膜のHall移動度が4cm2/(V・s)
であるように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、1.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、比較例3に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る電波吸収体を得た。
【0094】
<比較例4>
下記の点以外は、実施例1と同様にして比較例4に係る抵抗膜付フィルムを作製した。スパッタリングのターゲット材として、90重量%のSnO2を含有しているITOを用
いた。加えて、スパッタリングにおいて、抵抗膜の厚みが580nmであり、抵抗膜の初期のシート抵抗が397Ω/□であるように、混合ガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比を調整した。アルゴンガスの体積流量に対する酸素ガスの体積流量の比は、3.3%であった。実施例1に係る抵抗膜付フィルムの代わりに、比較例4に係る抵抗膜付フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例4に係る電波吸収体を得た。
【0095】
表1に示す通り、実施例1~14に係る電波吸収体は、信頼性試験の前後において良好
な電波吸収性能を発揮できた。加えて、実施例1~6、8、10~14に係る抵抗膜付フィルムにおいて、ΔShは、20%以下であった。一方、比較例1~4に係る電波吸収体は、良好な電波吸収性能を発揮できなかった。アモルファス構造を有する酸化インジウムと酸化スズとの混合物を主成分として含む抵抗膜が5cm2/(V・s)以上のHall
移動度を有し、かつ、16nm以上かつ100nm未満の厚みを有することにより、抵抗膜が高温環境に長期間曝されたときにインピーダンス整合の観点から所望の特性を保ちやすいことが示唆された。実施例1~6及び実施例10~12に係る抵抗膜付フィルムにおいて、ΔScは10%以下であり、これらの実施例に係る抵抗膜が所望の耐酸性を有することが示唆された。
【0096】