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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040257
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】化粧材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/07 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
E04F13/07 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015885
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2021511978の分割
【原出願日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019067777
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼井 寛詠
(72)【発明者】
【氏名】助川 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀夫
(57)【要約】
【課題】優れた立体感を付与することができ、かつ、自然物の表現が良好である化粧材を提供する。
【解決手段】第1主面側に独立した複数の凹部(A)と、前記独立した複数の凹部(A)が存在しない箇所の少なくとも一部に配置されてなる溝状平行凹凸模様群(B)とを有し、前記独立した複数の凹部(A)の平均深さをX、前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さをXと定義した際に、X<Xの関係を満たす、化粧材。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧材であって、前記化粧材の第1主面側には、独立した複数の凹部(A)と、前記独立した複数の凹部(A)が存在しない箇所の少なくとも一部に配置されてなる溝状平行凹凸模様群(B)とを有し、前記独立した複数の凹部(A)の平均深さをX、前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さをXと定義した際に、X<Xの関係を満たす、化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧材は、家具及び建具等の内装材及び外装材等を装飾するために広く用いられており、近年、装飾効果を高めるために、立体感を付与し得るものが求められている。このような化粧材として、化粧材の面内に光沢感が異なる領域を形成し、光沢感のコントラストにより立体感を付与するものが提案されている。
【0003】
光沢感のコントラストにより立体感を付与する手段としては、マット層を部分的に露出させる手段、エンボス加工により部分的に凹凸を形成する手段、部分的に光輝性インキ層を形成する手段、及び、前述した手段の組み合わせなどが挙げられる(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-62081号公報
【特許文献2】特開平7-314630号公報
【特許文献3】特開2018-122575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の化粧材は、全面に形成したマット層上に部分的に光沢層を形成して、マット層が露出した部分(低艶部)と、光沢層を有する部分(高艶部)とのコントラストで立体感を付与し得るものである。しかし、特許文献1の化粧材は、立体感が不十分であり、露出しているマット層の部分が汚れやすいという問題があった。また、特許文献1の化粧材は光沢感の異方性がないため、人工物的な印象が強く、木目等の自然物を表現したい場合には意匠性が不十分なものであった。
【0006】
特許文献2の化粧材は、部分的にエンボス加工による凹凸を形成して、凹部(低艶部)と、平坦部(高艶部)とのコントラストで立体感を付与し得るものである。しかし、特許文献1の化粧材と同様に、特許文献2の化粧材は、自然物を表現したい場合には意匠性が不十分であるという問題があった。
【0007】
特許文献3の化粧材は、面内に、マット層を有する領域(低艶部)と、該領域に隣接したパール顔料を有する領域(高艶部)とのコントラストで立体感を付与し得るものである。しかし、特許文献1の化粧材と同様に、特許文献3の化粧材も立体感が不十分であり、マット層の部分が汚れやすく、自然物を表現したい場合には意匠性が不十分であるという問題があった。さらに、特許文献3の化粧材は、パール顔料及び金属鱗片等の比較的コストを要する材料を用いる必要があった。
【0008】
本発明は、優れた立体感を付与することができ、かつ、自然物の表現が良好である化粧材及び該化粧材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、以下の[1]~[11]を提供する。
[1]化粧材であって、前記化粧材の第1主面側には、独立した複数の凹部(A)と、前記独立した複数の凹部(A)が存在しない箇所の少なくとも一部に配置されてなる溝状平行凹凸模様群(B)とを有し、前記独立した複数の凹部(A)の平均深さをX、前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さをXと定義した際に、X<Xの関係を満たす、化粧材。
[2]前記Xが40~150μmであり、前記Xが5~100μmである、上記[1]に記載の化粧材。
[3]前記X-Xが20μm以上である、上記[1]又は[2]に記載の化粧材。
[4]前記独立した複数の凹部(A)の平均幅をY、前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均幅をYB1、前記溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の平均幅をYB2と定義した際に、Yが150~500μmであり、前記YB1が10~200μmであり、前記YB2が10~250μmである、上記[1]~[3]の何れかに記載の化粧材。
[5]前記独立した複数の凹部(A)の延伸方向をD、前記溝状平行凹凸模様群(B)の延伸方向をDと定義した際に、DとDとが非平行である、上記[1]~[4]の何れかに記載の化粧材。
[6]前記Dと前記Dとの成す角度が5~70度である、上記[5]に記載の化粧材。
[7]前記溝状平行凹凸模様群(B)を構成する個々の溝状平行凹凸模様は、平面視形状が波状である、上記[1]~[6]の何れかに記載の化粧材。
[8]前記凹部(A)の平面視形状が、木材の導管、秋材及び節から選ばれる1種以上である、上記[1]~[7]の何れかに記載の化粧材。
[9]前記独立した複数の凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されてなる、上記[1]~[8]の何れかに記載の化粧材。
[10]下記(i)及び(ii)の何れかの条件を満たす、上記[9]に記載の化粧材。
(i)前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されてない。
(ii)前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されてなり、該着色剤の単位面積当たりの充填量をW、前記独立した複数の凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に充填されてなる着色剤の単位面積当たりの充填量をWと定義した際に、W<Wの関係を満たす。
[11]下記(1)~(2)の工程を含む、化粧材の製造方法。
(1)プラスチックフィルム又はプラスチックフィルムと紙との複合体から選ばれる基材の単層、あるいは、前記基材を含む積層体をエンボス版で賦型して、上記[1]~[8]の何れかに記載の化粧材を得る工程。
(2)前記(1)で得られた化粧材の第1主面側の面に、着色剤及びバインダー樹脂を含む充填用インキを塗布した後、前記充填用インキを掻き取る工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化粧材は、優れた立体感を付与できるとともに、自然物の表現性が良好であることから、意匠性を極めて良好にすることができる。また、本発明の化粧材の製造方法は、前述した効果を備えた化粧材を簡易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の化粧材の一実施形態を示す第1主面側の平面図である。
図2図1の一点鎖線で囲まれた円形部分を拡大した平面図である。
図3】実施例1の化粧材の標高を第1主面側から測定し、測定された標高を濃淡で表現した画像である。
図4図1のA-A’線を含み、図1のz軸に平行な切断面からなる断面図である。
図5】独立した複数の凹部(A)の平均深さ(X)を算出する一工程を説明する平面図である。
図6】本発明の化粧材の第1主面の凹凸形状を形成する工程の一実施形態のフローを示す図である。
図7図6の工程S14の一例である、レーザーによる版を作製する工程の一場面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[化粧材]
本発明の化粧材は、第1主面側に、独立した複数の凹部(A)と、前記複数の凹部(A)が存在しない箇所の少なくとも一部に配置されてなる溝状平行凹凸模様群(B)とを有し、前記独立した複数の凹部(A)の平均深さをX、前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さをXと定義した際に、X<Xの関係を満たすものである。
【0013】
<化粧材の第1主面>
図1は、本発明の化粧材100の一実施形態を示す第1主面側の平面図である。図1に示すように、本発明の化粧材100は、第1主面側の面に、独立した複数の凹部(A)10と、前記複数の凹部(A)10が存在しない箇所に配置されてなる溝状平行凹凸模様群(B)20を有するものである。なお、図1において、溝状平行凹凸模様群(B)20は、溝状凹凸模様20a、20b、・・・、及び20lから構成されており、各溝状凹凸模様は平行である。
図2は、図1の一点鎖線で囲まれた円形部分を拡大した平面図である。図2に示すように、溝状平行凹凸模様群(B)20は、凹部21と、凹部21に囲まれた凸部22とから構成されている。
なお、本明細書において、溝状平行凹凸模様群の「平行」とは、化粧材を平面視した際に、隣接する凹部が平行であることを意味する。さらに、溝状平行凹凸模様群の「平行」とは、完全に平行であることに限定されず、略平行であることを含むものとする。略平行とは、隣接する一組の凹部の縁に接線を引き、2本の接線が成す角度が7.0度以内であることを意味し、好ましくは5.0度以内であり、より好ましくは3.0度以内である。
【0014】
図3は、実施例1の化粧材の標高を第1主面側から測定し、測定された標高を濃淡で表現した平面図である。図3では、濃度が薄いほど標高が高く、濃度が濃いほど標高が低いことを意味している。図3中、上下方向に延伸している細長い高濃度の部分が凹部(A)である。図3の化粧材の面内には、該凹部(A)が独立して複数存在している。また、図3中、右斜め下の方向に延伸する低濃度の部分が溝状平行凹凸模様群(B)である。溝状平行凹凸模様群(B)は、独立した複数の凹部(A)が存在しない箇所に配置されている。
図4は、図1のA-A’線を含み、図1のz軸に平行な切断面からなる断面図である。
【0015】
化粧材の第1主面のうち、凹部(A)を有する箇所は、平均深さXが深いため、該箇所に入射した光は多重反射により散乱及び減衰されやすくなる。このため、凹部(A)を有する箇所は暗く視認される。一方、溝状平行凹凸模様群(B)を有する箇所は、凸部においては多重反射が生じず、凹部においては平均深さXが浅く多重反射が少ないため、凹部(A)よりも明るく視認される。さらに、溝状平行凹凸模様群(B)を有する箇所は、溝の延伸方向から視認した場合と、溝の延伸方向と直交する方向から視認した場合とで明るさが異なる。この理由は、溝の延伸方向から視認した方が、凹部に入射した光の多重反射が少なくなるためである。
以上のように、本発明の化粧材は、独立した複数の凹部(A)と、溝状平行凹凸模様群(B)とを有し、かつ、X<Xの関係を満たすことから、凹部(A)を有する箇所に比べて、溝状平行凹凸模様群(B)を有する箇所を相対的に明るく視認させることができ、明度のコントラストにより立体感を付与することができる。さらには、溝状平行凹凸模様群(B)による明度に異方性を付与できるため、自然物を良好に表現することができる。
【0016】
第1主面の全面積に対する、凹部(A)が占める面積(独立した複数の凹部(A)の合計面積)の割合は20~50%であることが好ましく、30~40%であることがより好ましい。
【0017】
<<深さ>>
独立した複数の凹部(A)の平均深さXは、例えば、下記A1~A3のステップで算出できる。
A1:個々の凹部(A)に関して、個々の凹部(A)を横断する方向の高さデータを、ランダムに抽出した5箇所で測定し、高さデータを備えた5つの断面曲線を得る。凹部(A)の平面視形状が任意の方向に延伸してなる細長い形状である場合、凹部(A)の延伸方向に直交する方向で高さデータを測定する。例えば、平面視形状が図5の凹部(A)の場合、a~eの5箇所において、凹部(A)の延伸方向(図5の上下方向)と直交する方向である点線方向の高さデータを測定する。
A2:A1で測定した高さデータから、各測定箇所の最大深さを抽出し、5箇所の最大深さの平均値を、個々の凹部(A)の平均深さとする。
A3:A2で算出した個々の凹部(A)の平均深さを平均して、Xを算出する。
【0018】
例えば、図4において、左側の凹部(A)の平均深さ(5箇所の最大深さの平均)をXA-1とし、右側の凹部(A)の平均深さ(5箇所の最大深さの平均)をXA-2とした場合、独立した複数の凹部(A)の平均深さXは下記式で算出できる。
凹部(A)の平均深さX=(XA-1+XA-2)/2
【0019】
溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さをXは、下記B1~B3で算出できる。
B1:化粧シートの面内に存在する溝状平行凹凸模様群(B)の個々の凹部に関して、個々の凹部を横断する方向の高さデータを、ランダムに抽出した5箇所で測定し、高さデータを備えた5つの断面曲線を得る。各測定箇所における測定方向は、凹部の延伸方向に直交する方向とする。なお、同時に溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の幅を測定するため、凸部を横断する断面曲線とすることが好ましい。
B2:B1で測定した高さデータから、各測定箇所の最大深さを抽出し、5箇所の最大深さの平均値を、個々の凹部の平均深さとする。
B3:B2で算出した個々の凹部の平均深さを平均して、Xを算出する。
【0020】
例えば、図4において、左からn番目に位置する凹部の平均深さ(5箇所の最大深さの平均)をXB1-nとする。図4には溝状平行凹凸模様群(B)の凹部が9つ存在するため(図4中の20d~20l)、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さXは下記式で算出できる。
溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さX=(XB1-1+XB1-2+XB1-3+XB1-4+XB1-5+XB1-6+XB1-7+XB1-8+XB1-9)/9
【0021】
独立した複数の凹部(A)の平均深さ(X)は、40~150μmであることが好ましく、45~120μmであることがより好ましく、50~100μmであることがさらに好ましい。Xを40μm以上とすることにより、凹部(A)を有する箇所の明度を下げやすくできる。また、Xを150μm以下とすることにより、凹部(A)の暗さと、溝状平行凹凸模様群(B)の照りとがうまく調和されたリアルな意匠を再現することができる。
溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均深さ(X)は、5~100μmであることが好ましく、10~70μmであることがより好ましく、15~60μmであることがさらに好ましい。Xを5μm以上とすることにより、明度の異方性を付与しやすくできる。また、Xを100μm以下とすることにより、独立した複数の凹部(A)と、溝状平行凹凸模様群(B)との明度のコントラストを高くしやすくできる。なお、後述するワイピング工程を行う際に、溝状平行凹凸模様(B)の凹部に着色剤を充填させにくくする観点からは、Xは60μm以下とすることが好ましい。
【0022】
また、X-Xは20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましい。X-Xを20μm以上とすることにより、独立した複数の凹部(A)と、溝状平行凹凸模様群(B)との明度のコントラストを高くしやすくできる。また、X-Xを20μm以上とすることにより、後述するワイピング工程を行う際に、凹部(A)には着色剤が多量に充填される一方で、溝状平行凹凸模様(B)の凹部に充填される着色剤の量を少なくして、コントラストをより良好にすることができる。
【0023】
<<幅及び長さ>>
また、本発明の化粧材は、凹部(A)の平均幅をY、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均幅をYB1、溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の平均幅をYB2と定義した際に、Y、YB1及びYB2が下記の範囲であることが好ましい。なお、溝状平行凹凸模様群(B)の凸部は、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の間に位置するものを意味する。
【0024】
は、150~500μmであることが好ましく、170~450μmであることがより好ましく、200~400μmであることがさらに好ましい。
を150μm以上とすることにより、個々の凹部(A)を独立した領域として認識しやすくできる。なお、Yを150μm以上とすることにより、後述するワイピング工程を行う際に、凹部(A)に多量の着色剤を充填させやすくすることができる。また、Yを500μm以下とすることにより、凹部(A)内に入射した光が多重反射されやすくなり、凹部(A)を暗く視認させやすくできる。
【0025】
B1は、10~200μmであることが好ましく、15~150μmであることがより好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。YB1を10μm以上とすることにより、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部からの反射光を人に視認させやすくすることができ、ひいては、明度の異方性を付与しやすくできる。また、YB1を200μm以下とすることにより、溝の延伸方向から視認した場合と、溝の延伸方向と直交する方向から視認した場合との明度差を大きくしやすくでき、明度の異方性を付与しやすくできる。なお、YB1を200μm以下とすることにより、後述するワイピング工程を行う際に、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部に着色剤を充填させにくくすることができる。
【0026】
B2は、10~250μmであることが好ましく、20~200μmであることがより好ましく、40~180μmであることがさらに好ましい。YB2を10μm以上とすることにより、溝状平行凹凸模様群(B)を有する箇所の明度を高くしやすくできる。また、YB2を200μm以下とすることにより、溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の反射が強くなりすぎることを抑制し、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部に基づく明度の異方性を認識させやすくできる。
【0027】
立体感及び自然物の表現を良好にしやすくするために、Y、YB1及びYB2は、下記式(1)及び(2)の何れかを満たすことが好ましく、下記式(1)及び(2)を満たすことがより好ましい。また、下記式(1)及び(2)の何れかを満たす場合、さらに、下記式(3)及び(4)の何れかを満たすことがより好ましい。また、下記式(1)及び(2)を満たす場合、さらに、下記式(3)及び(4)を満たすことがより好ましい。式(3)のYB1/Yは0.20以上0.40以下であることがより好ましい。式(4)のYB2/Yは0.20以上0.60以下であることがより好ましい。
B1<Y (1)
B2<Y (2)
0.06≦YB1/Y≦0.40 (3)
0.10≦YB2/Y≦1.00 (4)
【0028】
独立した複数の凹部(A)の平均幅Yは、下記C1~C2で算出できる。
C1:上記A1で測定した5つの断面曲線から、個々の測定箇所の凹部(A)の幅を算出し、5箇所の幅の平均値を個々の凹部(A)の平均幅とする。
C2:上記C1で算出した個々の凹部(A)の平均幅を平均して、Yを算出する。
【0029】
例えば、図4において、左側の凹部(A)の平均幅(5箇所の幅の平均)をYA-1とし、右側の凹部(A)の平均幅(5箇所の幅の平均)をYA-2とした場合、独立した複数の凹部(A)の平均幅Yは下記式で算出できる。
凹部(A)の平均幅Y=(YA-1+YA-2)/2
【0030】
溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均幅YB1は、下記D1~D2で算出できる。
D1:上記B1で測定した5つの断面曲線から、個々の測定箇所の凹部の幅を算出し、5箇所の幅の平均値を個々の凹部の平均幅とする。
D2:上記D1で算出した個々の凹部の平均幅を平均して、YB1を算出する。
【0031】
例えば、図4において、左からn番目に位置する凹部の平均幅(5箇所の幅の平均)をYB1-nとする。図4には溝状平行凹凸模様群(B)の凹部が9つ存在するため(図4中の20d~20l)、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均幅YB1は下記式で算出できる。
溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の平均幅YB1=(YB1-1+YB1-2+YB1-3+YB1-4+YB1-5+YB1-6+YB1-7+YB1-8+YB1-9)/9
【0032】
溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の平均幅YB2は、下記E1~E2で算出できる。なお、溝状平行凹凸模様群(B)の凸部は、溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の間に位置するものを意味する。
E1:上記B1で測定した5つの断面曲線から、個々の測定箇所の凸部の幅を算出し、5箇所の幅の平均値を個々の凸部の平均幅とする。
E2:上記E1で算出した個々の凸部の平均幅を平均して、YB2を算出する。
【0033】
例えば、図4において、左からn番目に位置する凸部の平均幅(5箇所の幅の平均)をYB2-nとする。図4には溝状平行凹凸模様群(B)の凸部が6つ存在するため、溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の平均幅YB2は下記式で算出できる。
溝状平行凹凸模様群(B)の凸部の平均幅YB2=(YB2-1+YB2-2+YB2-3+YB2-4+YB2-5+YB2-6)/6
【0034】
独立した複数の凹部(A)の長さは特に限定されず、好ましい長さの範囲は表現する意匠により異なるため一概にはいえない。例えば、化粧シート全体で表現する意匠が木材の模様の場合、凹部(A)の平均長さ(L)は2~50mmであることが好ましく、5~30mmであることがより好ましい。
凹部(A)の平均長さは、個々の凹部(A)の長さを測定し、その平均値として算出できる。なお、個々の凹部(A)の長さは、個々の凹部(A)内の任意の2点間距離の最大値を意味する。
【0035】
溝状平行凹凸模様群(B)を構成する個々の溝状凹凸模様の長さは特に限定されないが、図1に示すように、概ね、化粧シートの任意の端部から他の端部までを横断する長さ(但し、凹部(A)が存在する箇所を除く。必要に応じて、さらに、凹部(A)の近傍も除く。)であることが好ましい。
【0036】
<<平面視形状の具体例>>
凹部(A)の平面視形状は特に限定されず、各種の模様が挙げられる。
化粧シート全体で表現する意匠が木材の模様の場合、凹部(A)の平面視形状は、導管、秋材及び節から選ばれる1種以上の模様を形成することが好ましい。
導管とは、水分の通路となる円筒形の細胞であり、微小な導管が配列することにより、人の目には該配列に沿って濃色の絵柄が形成されているようにみえる。秋材とは、夏から秋にかけて形成される目幅が狭く色の濃い部分のことである。なお、春から夏にかけてつくられる目幅の大きな部分は春材と称し、春材と秋材とが交互に繰り返されることで木材の年輪が形成される。節とは、幹に取り込まれた枝の痕跡であり、円形又は楕円形に近い形状をしており、周辺組織よりも濃い色を有している。
【0037】
また、化粧シート全体で表現する意匠がトラバーチン等の石の模様の場合、凹部(A)の平面視形状は凹陥部であることが好ましい。また、化粧シート全体で表現する意匠がタイル模様又はレンガ模様の場合、凹部(A)の平面視形状は、目地模様であることが好ましい。また、化粧シート全体で表現する意匠が布地模様の場合、凹部(A)の平面視形状は布地の凹部であることが好ましい。また、化粧シート全体で表現する意匠がレザー模様の場合、凹部(A)の平面視形状は皺状模様であることが好ましい。
【0038】
溝状平行凹凸模様群(B)を構成する個々の溝状凹凸模様の平面視形状は特に限定されず、各種の模様が挙げられるが、図1に示すように波状であることが好ましい。
溝状凹凸模様の平面視形状を波状とすることにより、溝状平行凹凸模様群(B)を有する箇所の明るさが波の形状に沿って変化する。このため、化粧シートの面内の場所ごとで、凹部(A)と溝状平行凹凸模様群(B)との明暗コントラストが均一ではなくなり、自然物の表現性を良好にすることができる。また、光の入射方向が変化したり、観察者が移動したりすることにより、前述の明暗コントラストの分布は変化することから、意匠性を極めて良好にすることができる。
波状模様の波長(周期)及び波高は特に限定されず、波長(周期)は1~100mm程度、波高は1~20mm程度の範囲で適宜調整することができる。
【0039】
<<延伸方向>>
本発明の化粧材は、独立した複数の凹部(A)の延伸方向をD、溝状平行凹凸模様群(B)の延伸方向をDと定義した際に、DとDとが非平行であることが好ましい。DとDとを非平行として、かつ、後述するワイピング工程のインキ掻き取り方向をDと平行な方向で行うことにより、凹部(A)には着色剤が多量に充填される一方で、溝状平行凹凸模様(B)の凹部に充填される着色剤の量を少なくして、コントラストをより良好にすることができる。
【0040】
独立した複数の凹部(A)の延伸方向(D)は、個々の凹部(A)の延伸方向の平均した方向を意味する。また、個々の凹部(A)の延伸方向は、個々の凹部(A)内の任意の2点間距離が最大となる方向を意味する。例えば、図5の凹部(A)の場合、点A及び点Bの2点を結ぶ方向が延伸方向Dとなる。
溝状平行凹凸模様群(B)の延伸方向(D)は、個々の凹部の延伸方向を平均した方向を意味する。また、個々の凹部の延伸方向は、個々の凹部の始点と終点とを結んだ直線の方向を意味する。
【0041】
とDとの成す角度は5~70度であることが好ましく、7~50度であることがより好ましく、10~40度であることがさらに好ましい。
該角度を5度以上とすることにより、後述するワイピング工程のインキ掻き取り方向をDと平行な方向で行うことにより、凹部(A)には着色剤が多量に充填される一方で、溝状平行凹凸模様(B)の凹部に充填される着色剤の量を少なくして、コントラストをより良好にすることができる。また、該角度を70度以下とすることにより、Dと平行な方向でワイピングする際に、掻き取り用の刃が溝状平行凹凸模様群(B)に引っ掛かることを抑制しやすくできる。
【0042】
<<着色剤>>
本発明の化粧材は、図4に示すように、独立した複数の凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に着色剤30が充填されてなることが好ましい。当該構成とすることにより、化粧材の意匠性をより良好にすることができる。また、着色剤として暗色系の着色剤を用いることにより、凹部(A)をより暗くすることができ、化粧材面内の明度のコントラストをより高くすることができる。暗色とは、濃灰色、深緑色、紺色、黒色、濃紫色、臙脂(えんじ)色、茶色等の低明度、低彩色の暗い感じのする色のことをいう。
【0043】
凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に着色剤を充填する手段は、化粧材の第1主面側に、着色剤及びバインダー樹脂を含む充填用インキを塗布し、ドクター刃等の掻き取り用の刃で該インキを掻き取る手段が挙げられる。この際、刃の材質、刃を当てる角度及びインキの粘度等を調整することにより、凹部(A)に充填される着色剤の量を調整することができる。
【0044】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料、あるいは染料等が挙げられる。
充填用インキのバインダー樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、アルキド樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂及びゴム系樹脂等が挙げられる。
【0045】
本発明の化粧材は、独立した複数の凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されてなる構成において、さらに、下記(i)及び(ii)の何れかの条件を満たすことが好ましい。
(i)前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されてない。
(ii)前記溝状平行凹凸模様群(B)の凹部の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されており、該着色剤の単位面積当たりの充填量をW、前記独立した複数の凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に充填されてなる着色剤の単位面積当たりの充填量をWと定義した際に、W<Wの関係を満たす。
【0046】
上記(i)及び(ii)の何れかの条件を満たすことにより、凹部(A)と、溝状平行凹凸模様群(B)を構成する凹部との間に、着色剤の量の相違に基づくコントラストが生じ、意匠性をより良好にすることができる。さらに、着色剤として暗色系の着色剤を用いることにより、凹部(A)と、溝状平行凹凸模様群(B)を構成する凹部との間の明度のコントラストがより高くなり、立体感をより際立たせることができる。
なお、本明細書において、Wは、個々の凹部(A)の単位面積当たりの着色剤の充填量の平均を意味し、Wは、溝状平行凹凸模様群(B)を構成する個々の凹部の単位面積当たりの着色剤の充填量の平均を意味する。
【0047】
上記(i)及び(ii)の何れかの条件を満たしやすくするためには、X、X、X-X、Y、YB1及びYB2の範囲、並びに、DとDとの関係から選ばれる少なくとも一以上の実施形態を、上述した好適な実施形態とすることが好ましい。
【0048】
<第2主面>
化粧材の第1主面とは反対側の面(第2主面)の形状は特に限定されず、平滑であってもよいし、凹凸が付与されていてもよい。
【0049】
<化粧材の積層構成>
本発明の化粧材は、下記(1)~(8)の積層構成が挙げられる。なお、「/」は層の界面を示し、左側に位置する層の表面が化粧材の第1主面を示す。
(1)基材の単層
(2)装飾層/基材
(3)表面保護層/装飾層/基材
(4)透明性樹脂層/装飾層/基材
(5)表面保護層/透明性樹脂層/装飾層/基材
(6)表面保護層/プライマー層/透明性樹脂層/装飾層/基材
(7)表面保護層/基材/装飾層
(8)表面保護層/プライマー層/基材/装飾層
【0050】
<<基材>>
化粧材は基材を含むことが好ましい。基材の材質は特に制限されないが、エンボス加工により、独立した複数の凹部(A)及び溝状平行凹凸模様群(B)の形成のしやすさを考慮して、プラスチックフィルム又はプラスチックフィルムと紙との複合体が好ましい。
【0051】
プラスチックフィルムを構成する樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等のアクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、三酢酸セルロース、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、耐候性、耐水性等の各種物性、印刷適性、成形加工適性、価格等の観点からポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、あるいはアクリル樹脂が好ましい。
【0052】
基材は透明基材であってもよいし、着色基材であってもよい。また、基材は複数の基材を積層した積層基材であってもよい。なお、化粧材の積層構成が上記(7)及び(8)の場合、基材を通して装飾層を視認するために、基材は透明基材を用いる。
【0053】
基材の厚みは特に制限はないが、20~200μmが好ましく、40~160μmがより好ましく、40~100μmがさらに好ましい。
【0054】
基材上には、基材上に設けられる層との密着性を向上させるために、片面又は両面に、物理的処理又は化学的表面処理等の易接着処理を行ってもよい。
【0055】
<<装飾層>>
化粧シートは、意匠性を向上させる観点から、化粧シートの任意の箇所に装飾層を有することが好ましい。
装飾層を形成する箇所は、装飾層の耐候性を高める観点から基材に近い側であることが好ましい。なお、基材が透明であれば,上記積層構成(7)及び(8)のように、装飾層が基材よりも内層側(第1主面とは反対側)に位置してもよい。
【0056】
装飾層は、例えば、全面を被覆する着色層(いわゆるベタ着色層)であってもよいし、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される絵柄層であってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0057】
装飾層により付与する模様は特に限定されないが、例えば、木材の模様、石の模様、タイル模様、レンガ模様、布地模様及びレザー模様が挙げられる。装飾層によりこれらの模様を形成することで、上述した第1主面の形状に基づく効果をより強調することができる。
【0058】
木材の模様は、木肌部分と、導管、秋材及び節から選ばれる1種以上の模様とを組み合わせて形成することが好ましい。
石の模様は、石肌部分と、凹陥部とを組み合わせて形成することが好ましい。
タイル模様又はレンガ模様は、タイル又はレンガの地肌部分と、目地模様とを組み合わせて形成することが好ましい。
布地模様は、布の地肌部分と、布地の凹部とを組み合わせて形成することが好ましい。
レザー模様は、レザーの地肌部分と、皺状模様とを組み合わせて形成することが好ましい。
【0059】
装飾層は、例えば、顔料及び染料等の着色剤と、バインダー樹脂とを含む装飾層用インキを塗布、乾燥して形成することができる。該インキには、必要に応じて、体質顔料、酸化防止剤、可塑剤、触媒、硬化剤、紫外線吸収剤及び光安定剤等の添加剤を混合することができる。
装飾層の着色剤及びバインダー樹脂は特に限定されず、例えば、充填用インキで例示したものと同様にものを用いることができる。
【0060】
装飾層の厚みは、所望の絵柄に応じて適宜選択すればよいが、被着材の地色を隠蔽し、かつ意匠性を向上させる観点から、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下がより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。
【0061】
<<表面保護層>>
化粧材は、耐擦傷性を向上するために、表面保護層を有していてもよい。
表面保護層は、化粧シートの耐擦傷性を良好にする観点から、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。
【0062】
硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物、電離放射線硬化性樹脂を含む電離放射線硬化性樹脂組成物、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも、表面保護層の架橋密度を高め、耐擦傷性等の表面特性を向上させる観点から、電離放射線硬化性樹脂組成物が好ましい。また無溶媒で塗布することができ、取り扱いが容易との観点から、電離放射線硬化性樹脂組成物の中でも電子線硬化性樹脂組成物がより好ましい。
【0063】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、これら硬化性樹脂に、必要に応じて硬化剤が添加される。
【0064】
電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性官能基を有する化合物(以下、「電離放射線硬化性化合物」ともいう)を含む組成物である。電離放射線硬化性官能基としは、電離放射線の照射によって架橋硬化する基であり、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクロイル基を示す。また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示す。
また、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も含まれる。
電離放射線硬化性化合物は、具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0065】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0066】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ該官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー等がある。
【0067】
これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。加工特性と耐擦傷性及び耐候性を向上させる観点からは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、及びアクリル(メタ)アクリレートオリゴマーから選ばれる1種以上が好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーから選ばれる1種以上がより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーがさらに好ましい。
【0068】
電離放射線硬化性樹脂組成物中には、電離放射線硬化性樹脂組成物の粘度を低下させる等の目的で、単官能性(メタ)アクリレートを併用することができる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
電離放射線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合には、電離放射線硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサントン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0070】
表面保護層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0071】
表面保護層の厚みは、加工特性、耐擦傷性及び耐候性のバランスの観点から、1.5μm以上30μm以下が好ましく、2μm以上15μm以下がより好ましく、3μm以上10μm以下がさらに好ましい。
【0072】
<<透明性樹脂層>>
化粧シートは、強度を高めるなどの観点から透明性樹脂層を有していてもよい。化粧シートが表面保護層を有する場合、透明性樹脂層は、基材と表面保護層との間に位置することが好ましい。化粧シートがプライマー層を有する場合、透明性樹脂層は、基材とプライマー層との間に位置することが好ましい。また、化粧シートが装飾層を有する場合、装飾層の保護の観点から、透明性樹脂層は、装飾層と表面保護層との間に位置することが好ましい。
【0073】
透明性樹脂層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの中でも加工適性の観点からポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、透明性樹脂層は、これら例示の樹脂を混合してもよく、さらには、これら例示の樹脂1種又は2種以上からなる層を積層したものでもよい。
【0074】
透明性樹脂層のポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体が好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0075】
透明性樹脂層は、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。透明性樹脂層が紫外線吸収剤を含む場合、該紫外線吸収剤はトリアジン系化合物であることが好ましく、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物であることがより好ましい。
【0076】
透明性樹脂層の厚みは、耐擦傷性、加工適正及び耐候性のバランスの観点から、20μm以上150μm以下が好ましく、40μm以上120μm以下がより好ましく、60μm以上100μm以下がさらに好ましい。
【0077】
<<プライマー層>>
化粧シートが表面保護層を有する場合、表面保護層の基材側の面に接してプライマー層を有することが好ましい。プライマー層によって、基材と表面保護層との密着性(透明性樹脂層を有する場合は、透明性樹脂層と表面保護層との密着性)が向上し、屋外暴露した際の長期的な層間密着性の確保(いわゆる耐候密着性)及び耐擦傷性を良好にしやすくできる。
【0078】
プライマー層は、主としてバインダー樹脂から構成され、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0079】
プライマー層のバインダー樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体(ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端、側鎖に2個以上の水酸基を有する重合体(ポリカーボネートポリオール)由来のウレタン-アクリル共重合体)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等の樹脂が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。また、バインダー樹脂は、これら樹脂に、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤を添加し、架橋硬化したものであってもよい。これらの中でも、アクリルポリオール樹脂等のポリオール系樹脂をイソシアネート系硬化剤で架橋硬化したものが好ましく、アクリルポリオール樹脂をイソシアネート系硬化剤で架橋硬化したものがより好ましい。
【0080】
プライマー層の厚みは、0.5μm以上10μm以下が好ましく、0.7μm以上8μm以下がより好ましく、1μm以上6μm以下がさらに好ましい。
【0081】
<<その他の層>>
本発明の化粧材は、接着剤層及び裏面プライマー層等のその他の層を有していてもよい。
【0082】
化粧シートが透明性樹脂層を有する場合、基材と透明性樹脂層との間には、両層の密着性を向上するために接着剤層を形成することが好ましい。
なお、基材と透明性樹脂層との間に、さらに装飾層を有する場合、接着剤層と装飾層との位置関係は特に限定されない。具体的には、基材に近い側から装飾層、接着剤層及び透明性樹脂層をこの順に有していてもよいし、基材に近い側から接着剤層、装飾層及び透明性樹脂層をこの順に有していてもよい。
【0083】
接着剤層は、例えば、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等の汎用の接着剤から構成することができる。これら接着剤の中でも、ウレタン系接着剤が接着力の点で好ましい。
ウレタン系接着剤としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等の各種ポリオール化合物と、イソシアネート化合物等の硬化剤とを含む2液硬化型ウレタン樹脂を利用した接着剤が挙げられる。
【0084】
接着剤層の厚みは、0.1μm以上30μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましく、2μm以上10μm以下がさらに好ましい。
【0085】
裏面プライマー層は、化粧材と各種の被着材との接着性を向上させる目的で、化粧材の第1主面とは反対側の面に形成される層である。
【0086】
裏面プライマー層の形成に用いられる材料としては特に限定されず、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂等が挙げられ、被着材の材質によって、適宜選択すればよい。
裏面プライマー層の厚さは、0.5~5.0μmであることが好ましく、1~3μmであることがより好ましい。
【0087】
上述した装飾層、表面保護層、プライマー層、接着剤層及び裏面プライマー層は、各層を形成する組成物を含むインキを、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方式で塗布し、必要に応じて、乾燥、硬化することにより形成することができる。
また、透明性樹脂層は、例えば、加熱溶融押出しにより形成することができる。
【0088】
<化粧材の用途>
本発明の化粧材は、そのままで、あるいは被着材に貼り合わせた積層体として、あるいは化粧材又は積層体に所定の成形加工等を施して各種用途に用いることができる。
各種用途としては、壁、天井、床等の建築物の内装材;窓枠、扉、手すり等の建具;家具;家電製品、OA機器等の筐体;玄関ドア等の外装材等が挙げられる。
【0089】
被着材としては、例えば、木材単板、木材合板、パーチクルボード、MDF(中密度繊維板)、集成材等の木質板;石膏板、石膏スラグ板等の石膏系板;珪酸カルシウム板、石綿スレート板、軽量発泡コンクリート板、中空押出セメント板等のセメント板;パルプセメント板、石綿セメント板、木片セメント板等の繊維セメント板;陶器、磁器、土器、硝子、琺瑯等のセラミックス板;鉄板、亜鉛メッキ鋼板、ポリ塩化ビニルゾル塗布鋼板、アルミニウム板、銅板等の金属板;ポリオレフィン樹脂板、アクリル樹脂板、ABS樹脂板、ポリカーボネート板等の熱可塑性樹脂板;フェノール樹脂板、尿素樹脂板、不飽和ポリエステル樹脂板、ポリウレタン樹脂板、エポキシ樹脂板、メラミン樹脂板等の熱硬化型樹脂板;フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の樹脂を、硝子繊維不織布、布帛、紙、その他の各種繊維質基材に含浸硬化して複合化したいわゆるFRP板等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、これらの2種以上を積層した複合基板として用いてもよい。
【0090】
<第1主面の形成方法>
第1主面が有する、独立した複数の凹部(A)、及び溝状平行凹凸模様群(B)は、例えば、レーザーで彫刻したエンボス版で賦型することにより形成することができる。
【0091】
レーザーで彫刻したエンボス版による賦型は、例えば、図6の工程(S11~S15)で実施できる。以下、各工程について説明する。
【0092】
<<S11:凹部(A)の濃度分布データ作成>>
濃度分布データ作成工程(工程S11)では、化粧材の表面に表現する独立した複数の凹部(A)の模様の元になる濃度分布画像を取得し、これを濃度分布データとする。濃度分布画像の一例としては、木目の導管模様のみが表現された画像が挙げられる。
【0093】
工程S11で取得する濃度分布画像は高さ情報を有していない2次元的な濃度模様であることが好ましい。そのような濃度模様としては、写真、絵及び印刷物等が挙げられる。また、高さ情報を有する3次元的な画像を利用してもよいが、その際には高さ情報は除き、平面視した2次元における濃度による情報のみを用いることが好ましい。
【0094】
工程S11では、得られた濃度分布画像に対して、2次元座標(x,y)ごとに濃度値D(x,y)を得て濃度分布データとする。
該2次元座標(x,y)は特に限定されることはないが、後述する版(本実施形態では金属ロール状のエンボス版)表面の座標に対応させることが好ましい。また、濃度値Dの具体的な表現は特に限定されることはないが、例えば濃度分布画像のうち最も濃い部分を255、最も薄い部分を0としてその間を整数で均等に割り付けて256階調で濃度値を表現することができる。
以上により各座標(x,y)において256階調で表現された濃度値Dのデータの集合が得られ、これを濃度分布データとする。
【0095】
以上のように濃度分布データはデジタルデータであることが好ましい。したがって、元となる濃度分布画像がデジタルデータでない場合には、原稿自体又は原稿の写真などの2次元画像をスキャナで読み込みAD変換する手法を用いることによりデジタルデータ化する。また、初めから模様をCAD等を用いてデジタルデータを利用して設計していた場合には、該デジタルデータを用いることができる。
【0096】
濃度分布データを作成する手段は特に限定されることはないが、例えばアドビシステムズ社製のグラフィックデザイン描画ソフトウエア「photoshop」を用い、TIF形式で8bitの濃度階調(256階調)で2540dpiの解像度の濃度分布データを作成することができる。
【0097】
<<S12:濃度分布データの深さデータへの変換>>
深さデータへの変換工程(工程S12)では、工程S11で得た凹部(A)の濃度分布データの濃度値D(x,y)を、座標(x,y)ごとに深さF(x,y)に変換して深さデータを得る。この深さデータは、独立した複数の凹部(A)の凹凸に対応した深さデータである。したがって、この工程により、独立した複数の凹部(A)の形状が決められる。
ここで、濃度値D(x,y)の深さF(x,y)への変換は、所定の規則に基づいて行われる。これにより濃度分布と深さ分布とが対応付けられ、化粧材の表面模様において、濃度分布画像を基調とする特有の質感を得ることができる。
【0098】
例えば、工程S11において、濃度分布画像で最も濃い部分を階調255とし、工程S12ではこれが深さ300μmとなるようにする。一方、工程S11において、濃度分布画像で最も薄い部分を階調0とし、工程S12ではこれが基準(深さ0μm)となるようにする。そして、工程S11における階調が0~255について、工程S12で0μm~300μmを比例配分して深さに割り当てる。
したがって、この例によれば、濃度分布画像で最も薄い部分が基準(深さ0μm)となり、濃くなるほど深くなり、最も濃い部分で深さが300μmとなる。
【0099】
<<S13:高さデータへの変換と、溝状凹凸模様群(B)のデータの重畳>>
高さデータへの変換工程(工程S13)では、工程S12で得られた、独立した複数の凹部(A)の深さF(x,y)を、これに対応する版を作製するための高さH1(x1,y1)に変換して深さデータを得る。すなわち、深さF(x,y)を備えた凹部(A)の相補的形状となる凹凸模様を版の表面に形成するための高さH1(x1,y1)を作成する。
ここで、所定の深さデータを備えた溝状凹凸模様群(B)の凹凸と相補的形状となる凹凸を版の表面に形成するための高さH2(x2,y2)を、高さH1(x1,y1)に対して重畳する。高さH1(x1,y1)に高さH2(x2,y2)を重畳したものを、高さH3(x3,y3)とする。
この高さデータH3(x3,y3)により版の表面に凹凸を形成すれば、この版により賦型される化粧材の表面の凹凸は、第1主面の高さデータに準じたものとなる。
【0100】
本実施形態では、深さF(x,y)を高さH(x,y)に変換するとき同じ尺度で逆となるように変換した。すなわち「深さ」を負、「高さ」を正で表せば、F(x,y)=-H(x,y)である。ただし、これに限定されることなく、表現の必要に応じて、所定の係数αを乗じて深さF(x,y)を高さH(x,y)に変換してもよい。たとえば、F(x,y)=αH(x,y)で変換してもよい。ここでαは正負いずれであってもよい。
これによれば、αを変更するだけで同じ高さデータから異なる印象を与える複数種類の化粧材を製造することができる。
【0101】
<<S14:版作製>>
版作製工程(S14)では、工程S13で得た高さH3(x3,y3)による高さデータを用いて表面に凹凸を有する版を作製する。ここでは1つの例として金属ロールによるエンボス版を例示する。より具体的には以下のようにエンボス版を作製する。
【0102】
まず、図7に示したような最終的にエンボス版50となる金属ロール50を準備する。金属ロール50は、例えば、軸方向両端部に回転駆動軸(shaft)51を有する中空の鉄製の円筒の表面に銅層をメッキ形成したものが挙げられる。金属ロール50の表面は砥石等で研磨して粗面化処理し、彫刻用レーザー光の鏡面反射による彫刻効率の低下を抑制することが好ましい。
【0103】
そして、図7に模式的に示したように、レーザー光直接彫刻機を用い、用意した金属ロール50の表面を、工程S13で作成した座標ごとの高さデータに基づいて彫刻する。
金属ロール50は、その回転駆動軸51を介して電動機で駆動し、回転駆動軸51を中心軸として回転する。その際、レーザーヘッド52から出射した光Lにより、金属ロール50の表面を走査する。レーザー光Lの一例としては、発振波長1024nm、スポット径10μm、出力360Wのファイバーレーザー光が挙げられる。
レーザー光Lで金属ロールの表面を走査する際には、工程S13で作成した高さH3(x3,y3)の高さに応じて、座標(x,y)ごとにレーザー光をON-OFF切換(照射又は非照射の切換)を行い、照射位置には1回のレーザー光照射による金属の蒸発で凹部が形成される(版の凹部は化粧材の凸部に対応する。このため、高さが高い座標ほど、レーザーの照射回数を少なくすればよい。)。上記に例示したレーザーの条件では、1回のレーザー光照射により、深さ10μmの凹部が形成される。
かかるレーザー光による金属ロール表面に対する走査を、例えば10回程度繰り返す。また、蒸発した金属が粉体となって金属ロール50の表面に残留又は付着することを防止するため、彫刻液吐出口53から彫刻液Tを金属ロールの表面のレーザー光照射領域に吹き付けた状態でレーザー光照射を行うことが好ましい。
このように、金属ロール50の表面をレーザーで微細に彫刻することにより、第1主面の表面形状を形成し得る形状を備えた金属ロールを得ることができる。
【0104】
このようにして凹凸を彫刻した後には、彫刻液を洗浄し、その後に電解研磨を行って金属ロール20の表面に付着した金属の残渣を除去することが好ましい。そして、該金属ロール20の表面には、耐久性を向上するため、硬質クロムメッキ等でメッキ処理することが好ましい。メッキ層の厚みは通常10μm程度である。
【0105】
以上の工程S11~S14により、化粧材の第1主面の凹凸形状と相補的な形状を備えた版50(化粧材用成形型、本実施形態ではエンボス版)を得ることができる。
【0106】
<<S15:賦型>>
賦形工程(S15)は、工程S11~S14で作製した版(エンボス版)を用いて、第1主面を形成する前の化粧材にエンボス加工を行って化粧材を作製する。
エンボス加工は、適宜な公知の方法によれば良く、特に制限はない。エンボス加工時の温度及び圧力は、化粧材の材質によって適宜調整すればよく、化粧材の基材及び透明性樹脂層がポリオレフィンであれば、140~180℃、10~50kg/cm程度である。
エンボス加工の代表的な方法は例えば次のようなものである。
まず、軟化した樹脂基材の表面にエンボス版を押圧して該基材表面にエンボス版表面の凹凸模様を賦形する。そして樹脂基材を冷却や光照射により固化して、樹脂基材上の凹凸模様を固定する。その後に凹凸模様が賦形された樹脂をエンボス版から離型する。
【0107】
[化粧材の製造方法]
本発明の化粧材の製造方法は、下記(1)~(2)の工程を含むものである。
(1)プラスチックフィルム又はプラスチックフィルムと紙との複合体から選ばれる基材の単層、あるいは、前記基材を含む積層体をエンボス版で賦型して、上述した本発明の化粧材を得る工程。
(2)前記(1)で得られた化粧材の第1主面側の面に、着色剤及びバインダー樹脂を含む充填用インキを塗布した後、前記充填用インキを掻き取る工程。
【0108】
上記(1)~(2)の工程を経て得られた化粧材は、凹部(A)の深さ方向の少なくとも一部に着色剤が充填されるため、化粧材の意匠性をより良好にすることができる。
特に、工程(1)で得られた化粧材の第1主面に関する、X、X、X-X、Y、YB1及びYB2の範囲、並びに、DとDとの関係から選ばれる少なくとも一以上の実施形態を、上述した好適な実施形態とすることにより、工程(2)で得られた化粧材の着色剤の充填量が上述した(i)及び(ii)の何れかの条件を満たし、凹部(A)と、溝状平行凹凸模様群(B)を構成する凹部との間の明度のコントラストがより高くなり、立体感をより際立たせた化粧材を得ることができる。
【0109】
工程(1)のエンボス条件は特に限定されず、例えば、上記工程S15で述べた条件が挙げられる。
【0110】
また、工程(2)は、下記工程(2-1)~(2-3)を含むことが好ましい。
(2-1)断面円形のロールの表面の少なくとも一部に、工程(1)で得られた化粧材を該化粧材の第1主面側が前記ロールとは反対側を向くようにして沿わせる工程。
(2-2)工程(1)で得られた化粧材の第1主面側の面に、着色剤及びバインダー樹脂を含む充填用インキを塗布する工程。
(2-3)化粧材の第1主面側に刃を押し当て、第1主面側に付着した充填用インキを掻き取る工程。
【0111】
工程(2-1)において、ロールの材質は、金属、ゴム及び樹脂等が挙げられ、この中でもゴム及び樹脂が好ましく、ゴムがより好ましい。ロールの材質をゴム及び樹脂等のクッション性を有するものとすることにより、凹部に着色剤が過度に残存することを抑制しやすくできる。また、ロールの材質をゴム及び樹脂等のクッション性を有するものとすることにより、上記(i)及び(ii)の何れかの条件を満たしやすくできる。
【0112】
工程(2-2)の充填用インキは、着色剤及びバインダー樹脂を含むものであり、必要に応じて溶剤を含むことが好ましい。なお、充填用インキの粘度が高いほど、凹部内のインキが掻き出され難く、充填用インキの粘度が低いほど、凹部内のインキが掻き出されやすい傾向がある。このため、所望する充填量に応じて、充填用インキの粘度を適宜調整することが好ましい。
なお、充填用インキの着色剤は暗色系のものであることが好ましい。
【0113】
工程(2-3)で充填用インキを掻き取る手段としては、ドクター刃等の掻き取り用の刃を用いることが好ましい。この際、インキを掻き取る方向は、Dと略一致(Dに対して±10度以内、好ましくは±5度以内、より好ましくは±3度以内)させることが好ましい。
化粧材の第1主面に対する刃の角度は略垂直であることが好ましい。略垂直とは、90±10度の範囲を意味し、好ましくは90±5度、より好ましくは90±3度である。なお、化粧材の進行方向側に傾いた場合をプラス、化粧材の進行方向とは反対側に傾いた場合をマイナスと表記している。
また、刃の材質は、金属、ゴム及び樹脂等が挙げられ、この中でも金属が好ましい。
【0114】
工程(2-3)において、化粧材に対して刃を当てる圧力は、インキのスジ及びムラが生じない範囲で適宜調整することができる。
【実施例0115】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。なお、「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0116】
1.評価
1-1.立体感
実施例及び比較例で得られた化粧材について、蛍光灯の照明下で、任意の成人20人に、立体感を感じるか否かについて目視評価させた。
AA:立体感が良好と答えた人が18人以上であった。
A:立体感が良好と答えた人が15~17人であった。
B:立体感が良好と答えた人が11~14人であった。
C:立体感が良好と答えた人が10人以下であった。
【0117】
1-2.天然の質感
実施例及び比較例で得られた化粧材について、蛍光灯の照明下で、任意の成人20人に、天然の質感の有無を目視評価させた。
AA:天然の質感があると答えた人が18人以上であった。
A:天然の質感があると答えた人が15~17人であった。
B:天然の質感があると答えた人が11~14人であった。
C:天然の質感があると答えた人が10人以下であった。
【0118】
2.エンボス版の作製
明細書本文の工程S11~S14に準じて、表面が硬質クロムメッキ処理されたエンボス版Aを作製した。また、凹部(A)及び溝状平行凹凸模様群(B)の形状を表1のように変更した以外は、版Aと同様にして、エンボス版B~Cを作製した。また、溝状平行凹凸模様群(B)を形成せず、凹部(A)の形状を表1のように変更した以外は、版Aと同様にして、エンボス版D~Eを作製した。
【0119】
3.化粧材の作製
[実施例1]
着色基材(厚さ60μmの白色ポリプロピレンフィルム)上に、グラビア多色印刷により、黒色系インキによる導管溝模様の絵柄層、及び、茶褐色系インキによる導管部以外の木肌模様からなる絵柄層を形成し、合計厚み1μmの木材模様の装飾層を形成した。
次いで、装飾層上に接着剤層(ポリエステル樹脂、厚さ:5μm)を形成した。次いで、接着剤層上に、透明性樹脂層(透明ポリプロピレン樹脂シート、厚さ:80μm)を押出しラミネート方式で積層した。
次いで、透明性樹脂層を加熱して軟化状態にし、上記「2」で作製したエンボス版Aを用いて透明性樹脂層側の面からエンボス処理を施し、透明性樹脂層側の面(第1主面側の面)に凹凸形状を形成した。凹凸形状の測定値を表1に示す。
さらに、透明性樹脂層側の面(第1主面側の面)に、黒褐色の充填用インキを塗布した後、第1主面に対して垂直となるようにドクター刃を押し当て、充填用インキを掻き取り、実施例1の化粧材を得た。充填用インキを掻き取る方向は、Dと同一方向とした。
【0120】
[実施例2~3]
エンボス版Aをエンボス版B~Cに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3の化粧材を得た。
【0121】
[比較例1~2]
エンボス版Aをエンボス版D~Eに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1~2の化粧材を得た。
【0122】
【表1】
【0123】
表1に示すように、実施例の化粧材は、優れた立体感を付与できるとともに、自然物を表現性が良好であることから、意匠性を極めて良好であることが確認できる。
【符号の説明】
【0124】
10:凹部(A)
20:溝状凹凸模様群(B)
20a、20b、20c、20d、20e、20f、20g、20h、20i、20j、20k、20l:溝状凹凸模様
30:着色剤
100:化粧材
50:版(エンボス版、金属ロール)
51:回転駆動軸
52:レーザーヘッド
53:彫刻液吐出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7