(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040262
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】電動弁の制御装置、電動弁及びそれを用いた電動弁ユニット
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
F16K31/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016154
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2023547715の分割
【原出願日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2022068896
(32)【優先日】2022-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 勇介
(72)【発明者】
【氏名】成川 文太
(57)【要約】
【課題】ヒステリシス量に応じてステッピングモータの制御を変更することにより、適切な流量制御を行える電動弁の制御装置、電動弁及びそれを用いた電動弁ユニットを提供する。
【解決手段】弁座に対して接近する方向または離間する方向に移動可能な弁体と、駆動パルスを入力することにより動作するステッピングモータと、前記ステッピングモータから出力された駆動力によって前記弁体を駆動する駆動機構と、ヒステリシス量を記憶する不揮発性の記憶部と、外部から入力された動作指示情報に応じて前記ステッピングモータを駆動する制御部と、を備える。前記制御部は、外部から入力された動作指示情報に基づき、前記弁体を直前の移動方向とは異なる方向に移動させるときは、前記記憶部に記憶された前記ヒステリシス量に対応したパルス数を、前記弁体の目標移動量に対応した目標パルス数に加算した実効パルス数の駆動パルスを、前記ステッピングモータに入力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座に対して接近する方向または離間する方向に移動可能な弁体と、駆動パルスを入力することにより動作するステッピングモータと、前記ステッピングモータから出力された駆動力によって前記弁体を駆動する駆動機構と、不揮発性の記憶部と、外部から入力された動作指示情報に応じて前記ステッピングモータを駆動する制御部と、を備えた電動弁の制御装置であって、
前記記憶部はヒステリシス量を記憶し、
前記制御部は、外部から入力された動作指示情報に基づき、前記弁体を直前の移動方向とは異なる方向に移動させるときは、前記記憶部に記憶された前記ヒステリシス量に対応したパルス数を、前記弁体の目標移動量に対応した目標パルス数に加算した実効パルス数の駆動パルスを、前記ステッピングモータに入力し、
前記制御部は、前記弁体を一方向に移動させたのちに前記ステッピングモータを静止させ、そのときに前記弁体と前記弁座の間を通過する流体の流量を初期流量として求め、その後他方向に移動させるために前記ステッピングモータに入力する駆動パルスのパルス数を増大するごとに前記流体の流量を求め、前記初期流量に対して変化した流量が初めて所定量以上となった時点のパルス数-1を、前記ヒステリシス量として前記記憶部に記憶する、
ことを特徴とする電動弁の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、外部から入力された動作指示情報に基づき、前記弁体を直前の移動方向と同じ方向に移動させるときは、前記目標パルス数の駆動パルスを前記ステッピングモータに入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動弁の制御装置。
【請求項3】
前記電動弁に入力される駆動パルスのパルス数の積算値に応じて、前記ヒステリシス量を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動弁の制御装置。
【請求項4】
現在値に前記実効パルス数を加算した値が規定値を超えるか、または現在値から前記実効パルス数を減算した値が規定値を下回ったときは、前記規定値の駆動パルスを前記ステッピングモータに入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動弁の制御装置。
【請求項5】
現在値から前記実効パルス数を減算した値が規定値を下回ったときは、前記規定値を超え前記規定値に閉弁押圧量に相当するパルス数を付加した値以下となる駆動パルスを前記ステッピングモータに入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動弁の制御装置。
【請求項6】
弁座に対して接近する方向または離間する方向に移動可能な弁体と、駆動パルスを入力することにより動作するステッピングモータと、前記ステッピングモータから出力された駆動力によって前記弁体を駆動する駆動機構と、不揮発性の記憶部と、外部から入力された動作指示情報に応じて前記ステッピングモータを駆動する制御部と、を備え、
前記記憶部はヒステリシス量を記憶し、
前記制御部は、外部から入力された動作指示情報に基づき、前記弁体を直前の移動方向とは異なる方向に移動させるときは、前記記憶部に記憶された前記ヒステリシス量に対応したパルス数を、前記弁体の目標移動量に対応した目標パルス数に加算した実効パルス数の駆動パルスを、前記ステッピングモータに入力し、
前記制御部は、前記弁体を一方向に移動させたのちに前記ステッピングモータを静止させ、そのときに前記弁体と前記弁座の間を通過する流体の流量を初期流量として求め、その後他方向に移動させるために前記ステッピングモータに入力する駆動パルスのパルス数を増大するごとに前記流体の流量を求め、前記初期流量に対して変化した流量が初めて所定量以上となった時点のパルス数-1を、前記ヒステリシス量として前記記憶部に記憶する、
ことを特徴とする電動弁。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに一項に記載の制御装置と、電動弁とを備えた、
ことを特徴とする電動弁ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁の制御装置、電動弁及びそれを用いた電動弁ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機や冷蔵・冷凍ショーケース等に使用される冷凍サイクルシステムにおいては、冷房能力を安定させ、過熱度を一定にして効率良く運転するなどの目的から、ステッピングモータにより弁体を動作させる電動弁を用いて循環冷媒の流量調整を行っている。
【0003】
このような電動弁の制御にあたっては、通常、電源を投入したときなどにイニシャライズ処理(原点位置出し、基点位置出し、又は初期化などともいう)を実行し、弁体の位置出しを行ってから開度の制御を開始するようにしている(例えば、特許文献1参照)。ここで、イニシャライズ処理とは、全開位置から全閉位置又は全閉位置から全開位置に至るまでの全ストロークを超えるパルス数だけ、詳しくは、例えばステッピングモータのロータが確実にストッパと呼ばれる回り止めに衝突して回転を停止するパルス数だけ、ステッピングモータを閉弁方向又は開弁方向に十分に回転させる処理であり、これにより電動弁の0パルス又は最大パルスの初期位置を確定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な電動弁は、ステッピングモータのロータの回転移動を軸線方向移動に変換して、弁体を軸線方向に駆動する。また、ロータの回転移動をギヤを用いて減速したのち、軸線方向移動に変換して弁体を駆動する電動弁もある。このような電動弁においては、開弁から閉弁に、又は閉弁から開弁に回転方向が逆転する場合に、動力伝達経路に存在するバックラッシに起因するヒステリシスにより、弁体を目標位置に精度良く到達させることができないという問題がある。弁体を目標位置に対して精度良く到達させるためには、ヒステリシス量を求めて駆動パルス数の補正を行う必要があるが、ヒステリシス量を高い精度で取得することが困難という実情がある。
【0006】
本発明は、ヒステリシス量に応じてステッピングモータの制御を変更することにより、適切な流量制御を行える電動弁の制御装置、電動弁及びそれを用いた電動弁ユニットを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による電動弁の制御装置は、
弁座に対して接近する方向または離間する方向に移動可能な弁体と、駆動パルスを入力することにより動作するステッピングモータと、前記ステッピングモータから出力された駆動力によって前記弁体を駆動する駆動機構と、不揮発性の記憶部と、外部から入力された動作指示情報に応じて前記ステッピングモータを駆動する制御部と、を備えた電動弁の制御装置であって、
前記記憶部はヒステリシス量を記憶し、
前記制御部は、外部から入力された動作指示情報に基づき、前記弁体を直前の移動方向とは異なる方向に移動させるときは、前記記憶部に記憶された前記ヒステリシス量に対応したパルス数を、前記弁体の目標移動量に対応した目標パルス数に加算した実効パルス数の駆動パルスを、前記ステッピングモータに入力し、
前記制御部は、前記弁体を一方向に移動させたのちに前記ステッピングモータを静止させ、そのときに前記弁体と前記弁座の間を通過する流体の流量を初期流量として求め、その後他方向に移動させるために前記ステッピングモータに入力する駆動パルスのパルス数を増大するごとに前記流体の流量を求め、前記初期流量に対して変化した流量が初めて所定量以上となった時点のパルス数-1を、前記ヒステリシス量として前記記憶部に記憶する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明による電動弁は、
弁座に対して接近する方向または離間する方向に移動可能な弁体と、駆動パルスを入力することにより動作するステッピングモータと、前記ステッピングモータから出力された駆動力によって前記弁体を駆動する駆動機構と、不揮発性の記憶部と、外部から入力された動作指示情報に応じて前記ステッピングモータを駆動する制御部と、を備え、
前記記憶部はヒステリシス量を記憶し、
前記制御部は、外部から入力された動作指示情報に基づき、前記弁体を直前の移動方向とは異なる方向に移動させるときは、前記記憶部に記憶された前記ヒステリシス量に対応するパルス数を、前記弁体の目標移動量に対応した目標パルス数に加算した実効パルス数の駆動パルスを、前記ステッピングモータに入力し、
前記制御部は、前記弁体を一方向に移動させたのちに前記ステッピングモータを静止させ、そのときに前記弁体と前記弁座の間を通過する流体の流量を初期流量として求め、その後他方向に移動させるために前記ステッピングモータに入力する駆動パルスのパルス数を増大するごとに前記流体の流量を求め、前記初期流量に対して変化した流量が初めて所定量以上となった時点のパルス数-1を、前記ヒステリシス量として前記記憶部に記憶する、ことを特徴とする。
上記した本発明による電動弁は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス形式により、物の発明が特定されているという見方もできる。ここで、ヒステリシス量を記憶した電動弁を、製品から判別することが困難な場合がある。したがって、物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒステリシス量に応じてステッピングモータの制御を変更することにより、適切な流量制御を行える電動弁の制御装置、電動弁及びそれを用いた電動弁ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施の形態にかかる電動弁の閉弁状態を示す縦断面図に、制御装置及び検査装置の概略構成を加えた図である。
【
図2】
図2は、電動弁の減速部を平面視した図である。
【
図3】
図3は、電動弁のヒステリシス量を測定するフローを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、電動弁のステッピングモータに入力される駆動パルスと流量との関係を示すヒステリシス線図である。
【
図5】
図5は、電動弁のステッピングモータに入力される駆動パルスと流量との関係を示すヒステリシス線図である。
【
図6】
図6は、電動弁のステッピングモータに入力される駆動パルスと流量との関係を示すヒステリシス線図である。
【
図7】
図7は、駆動パルスの積算値とヒステリシス量とを対応付けて示すグラフである。
【
図8】
図8は、本実施形態の変形例にかかるヒステリシス線図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の変形例にかかるヒステリシス線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明にかかる実施形態の電動弁1、制御装置100及び検査装置200について説明する。本実施形態の電動弁1は、冷凍サイクル装置の循環路内に設置され、該循環路内を流れる冷媒の流量を制御する。電動弁1と制御装置100とにより電動弁ユニットを構成し、制御装置100と検査装置200とにより電動弁1の測定装置を構成する。
【0012】
(電動弁)
図1は、本実施の形態にかかる電動弁1の閉弁状態を示す縦断面図に、制御装置100及び検査装置200の概略構成を加えた図である。
図2は、電動弁1の減速部20を平面視した図である。電動弁1と制御装置100とは固有の組み合わせにて、冷凍サイクル装置に組み込まれる。
図1を参照して、電動弁1について説明する。
【0013】
(電動弁の構成)
電動弁1は、駆動部10と、減速部20と、弁機構部30とを有する。弁機構部30の軸線をLとする。また、モータ側を上方とし、弁体側を下方として説明する。
【0014】
まず、駆動部10について説明する。図において、駆動部10は、駆動部ケース11と、駆動部ケース11の内側に取り付けられたステータ12と、ステータ12の径方向内側に配置されたロータ13と、ロータ13に固定された駆動軸14とを有する。ステータ12とロータ13とで、ステッピングモータを構成する。なお、ステッピングモータとは、駆動パルスを入力されることにより、入力された駆動パルスに応じて精密な回転角度分、ロータを回転させるものをいう。
【0015】
駆動部ケース11は有頂円筒状に形成され、その頂部中央下面に軸受15を固定保持している。軸受15は、駆動軸14を回転可能に保持する。ステータ12及びロータ13の下方において、駆動部ケース11の内周に嵌合するように、有頂円筒状の支持筒16が配設されている。支持筒16の下端が、駆動部ケース11をふさぐ環状部材17の上面に当接しており、駆動部ケース11の下端と環状部材17の外周とは、カシメにより固定されている。
【0016】
支持筒16は、頂部中央下面に形成された中空円筒部16aと、貫通孔(不図示)とを有する。駆動軸14の下端は、支持筒16の貫通孔を貫通すると共に、貫通孔により回転可能に支持されている。
【0017】
次に、減速部20について説明する。
減速部20は、支持筒16の頂部下面と環状部材17の上面に両端をそれぞれ保持された第1軸21及び第2軸22と、支持筒16の貫通孔を貫通した駆動軸14の下端に固定された駆動ギヤ23と、第1軸21に対して回転可能に保持された第1伝達ギヤ24と、第2軸22に対して回転可能に保持された第2伝達ギヤ25と、最終ギヤ26と、雄ねじ軸27と、雌ねじ筒28とを有する。雄ねじ軸27は、最終ギヤ26に圧入固定され一体とされている。
【0018】
第1軸21及び第2軸22は、駆動軸14と平行に配設されている。第1伝達ギヤ24は、駆動ギヤ23に噛合する第1入力ギヤ部24aと、第1出力ギヤ部24bとを同軸に連結してなる。第2伝達ギヤ25は、第1出力ギヤ部24bに噛合する第2入力ギヤ部25aと、最終ギヤ26に噛合する第2出力ギヤ部25bとを同軸に連結してなる。なお、各軸を金属製、各ギヤを樹脂製とすることができる。駆動ギヤ23、第1伝達ギヤ24、第2伝達ギヤ25,最終ギヤ26によりギヤ列を構成する。なお、減速部20は、駆動軸14(または入力軸)に入力された駆動力を減速して最終ギヤ26(または雄ねじ軸27、もしくは出力軸)に出力する構成であればよく上記構成に限定されない。例えば、遊星ギヤを有する減速装置を用いてもよい。
【0019】
図2を参照して、最終ギヤ26は、その下面に雄ねじ軸27を取り巻くように、円弧溝26aを備えている。円弧溝26aの周方向の一端を端部26bとし、その他端を端部26cとする。端部26bから端部26cまでの角度は、所与の値となっている。
【0020】
図1,2において、環状部材17の上面に穴17aが形成され、ピン29の下端が穴17aに嵌合固定されている。また、ピン29の上端が、円弧溝26a内に位置するように配設されている。
【0021】
雄ねじ軸27は、その上端を支持筒16の中空円筒部16aの内周に嵌合させ、中空円筒部16a内で相対回転及び軸線方向に変位可能に配設されている。また、雄ねじ軸27の中間位置において最終ギヤ26が嵌合固定されており、その下端側の外周には雄ねじ27aが形成されている。
【0022】
中空円筒状である雌ねじ筒28は、縮径した上端側において環状部材17の内周に嵌合して固定されており、軸線Lに沿って貫通する貫通孔28aを備える。貫通孔28aの下端側には、雄ねじ27aに螺合する雌ねじ28bが形成されている。雌ねじ筒28は環状部材17に固定されているため、雄ねじ軸27が回転すると、雄ねじ27aが雌ねじ28bに対して螺動し、これにより雌ねじ筒28から軸線方向力が付与される。このため、雄ねじ軸27は、自身の回転角度に応じた量だけ軸線方向に変位することとなる。雄ねじ軸27と雌ねじ筒28とで、変換機構を構成する。ギヤ列と変換機構で、駆動機構を構成する。
【0023】
雌ねじ筒28は、その下端に拡径した薄肉円筒部28cを備える。また、雌ねじ筒28の外周に、円筒状の連結部材34が配設されている。連結部材34は、雌ねじ筒28の外周に嵌合する縮径した上端部34aと、下端内周の内ねじ部34bとを備える。
【0024】
次に、弁機構部30について説明する。
弁機構部30は、弁本体31と、弁軸32と、弁体33と、を有する。
【0025】
金属製の弁本体31は、比較的肉厚の中空円筒状であり、上端外周に縮径部31aを備え、縮径部31aの下方外周に、外ねじ部31bを備える。縮径部31aの外周に薄肉円筒部28cが嵌合する。雌ねじ筒28の外周に嵌合させた連結部材34の内ねじ部34bを、外ねじ部31bに螺合させ、連結部材34をねじ込むことで、その縮径した上端部34aの下面が薄肉円筒部28cの上端段部に当接係合する。これにより弁本体31に対して雌ねじ筒28を連結固定することができる。
【0026】
薄肉円筒部28cの内周における雌ねじ筒28の下面と、弁本体31の上端との間にはスペーサ35が配置され、連結固定時の弁本体31と雌ねじ筒28との間隔を調整できるようになっている。
【0027】
弁本体31の下端近傍外周に形成された開口31cに、軸線Lに直交するように第1流路を構成する第1配管51が連結されている。第1配管51の軸線をOとする。
【0028】
また、弁本体31の下端において軸線Lと同軸に形成された開口が、オリフィス31dを構成する。また、オリフィス31dの上端が、弁座31eを構成する。オリフィス31dに連通するようにして、第2配管52が弁本体31に連結されている。
【0029】
弁本体31の内側に弁軸32が配設されている。弁軸32は、小径部32aと、大径部32bと、鍔部32cと、小径凸部32dとを同軸に連設してなる。雄ねじ軸27の下端に対向する小径部32aの上端には、弁軸32とは別体であるボール保持部32eが取り付けられている。雄ねじ軸27の下端中央の凹部と、ボール保持部32eの上端中央の凹部との間に、金属製のボール37が配置される。
【0030】
弁本体31の上端内周に、環状板36がカシメ固定されている。弁軸32の小径部32aを囲うようにして、金属製のベローズ38が、環状板36の下面と、弁軸32の大径部32bの上端外周とを連結している。このため電動弁1の使用時に、弁本体31の内部において、ベローズ38の外側は冷媒と接するが、ベローズ38の内側は大気に接することとなる。弁本体31の内部であってベローズ38の外側が、弁室Cを構成する。
【0031】
弁軸32の下方には、有底円筒状の弁体33が配置されている。弁体33は、弁本体31の内周に対して摺動可能な上端側の大円筒部33aと、下端側の小円筒部33bと、底部33cとを連設してなる。底部33cの下面側は、軸線Lに軸対称であるテーパ面33dが形成されている。大円筒部33aの上端は、環状のスライド板40の外周にカシメ固定されている。スライド板40は、弁軸32の大径部32bに、軸線L方向に沿って摺動可能に嵌合しているが、鍔部32cに当接することで、それ以上弁軸32の下方に移動することはない。弁軸32と弁体33とは、軸線方向に所定距離だけ相対変位可能である。
【0032】
弁体33の小円筒部33bの内周側において、付勢部材であるコイルバネ39が配設されている。コイルバネ39の上端は、小径凸部32dの周囲にて弁軸32の下端に当接し、コイルバネ39の下端は、弁体33の底部33cの上面に当接している。このため、コイルバネ39により、弁体33は弁軸32に対して常に下方に付勢されている。
【0033】
次に、制御装置100について説明する。
制御装置100は電動弁1に取り付けることにより、電動弁1とともに冷凍サイクルへの使用に適した電動弁ユニットを構成し、例えば、車載エアコン等の電動弁(膨張弁)として使用される。車載エアコンに電動弁ユニットが使用される場合には、電動弁ユニットの制御ユニット100は車載エアコンを制御する通信ケーブルに接続され、エアコンシステムの制御装置(エアコンECU)の指示に従って電動弁1の駆動制御を行う。
【0034】
また、後述するように開弁パルスやヒステリシス量を決定する際、制御装置100は検査装置200に接続され、電動弁1の測定装置を構成する。電動弁1の完成後に工場から出荷されるときの検査(出荷検査)において、制御装置100は検査装置200に接続されて各種測定データを不揮発性メモリ(EEPROM111e)に入力する。この場合は、検査装置200の制御装置(ECU)の指示に従って電動弁1の駆動制御を行う。
【0035】
制御装置100には電源が接続されるとともに、工場の検査装置200や車両などの冷凍サイクルの通信回線が接続されている。電動弁1の測定装置を構成する場合は例えば、制御装置100は工場内のLAN等のネットワーク、検査装置との通信ケーブルなど、通信回線に接続される。また、電動弁ユニットを構成する場合は、制御装置100は車両等のエアコンシステムを制御する通信回線(例えば、LINバス(又はCANバスもしくはFlexRayバス)114の通信バス)に接続される。制御装置100は、検査装置200やエアコンから見てスレーブノードとして動作する。検査装置200に接続された場合は、制御装置100は、検査装置200の一部を構成するECU116から送信される通信信号を介して、電動弁1のステッピングモータのパルス数やイニシャライズ動作指示の信号等の命令を受信し、電動弁1の開度(弁開度)を制御する。なお、以下の説明で通信バスとしてLINバスを例にとり説明するが、LIN以外の通信バスでもよいことはもちろんである。
【0036】
なお、ECU116と制御装置100との間の通信方式としては、前記のようなシリアルインターフェイスへの入出力(LIN通信、CAN通信又はFlexRay通信など:「以下、LIN通信等」とする)、デジタル信号によるI/Oポートへの入出力(ON-OFF信号など)、無線(Wi-Fi(登録商標)、ブルートゥース(登録商標)など)などによる入出力などがあり、LIN通信等に限定されない。ただし
図1では、制御装置100の制御に用いられる、電源切断信号の受信、スリープモード移行信号の受信、電源切断可能信号の送信、およびスリープモード移行許可信号の送信等は、LIN通信で行われる。このように既存の車載LANであるLIN通信等を用いることで、新たな送受信の信号線の取付けが不要となる。
【0037】
制御装置100は、主に電源から制御装置100の内部の回路で使用する電源+Vc(例えば+5Vdc)を発生させるレギュレータ111aと、LINバス114を通してECU116から送信されるLIN通信信号に基づいて、電動弁1のステッピングモータの回転を制御するプログラム等を格納するROM、ROMに格納したプログラムの実行や演算処理を行うCPU、イニシャライズ動作の状況や通信データ等のプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するRAM、周辺回路との入出力を行うI/O回路、割り込み処理等の時間を計測するタイマー、アナログ信号をデジタル値に変換するA/D変換器等を備えた演算部としてのマイコン(制御部)111bと、LINバス114に接続され、LINバス114の電圧レベルを制御装置100内部の回路電圧レベルに変換し、マイコン111bとのLIN通信を可能にする送受信部としてのLINトランシーバ111cと、マイコン111bからの制御信号に基づいて電動弁1のステッピングモータの回転を制御するために駆動パルスを出力するステッピングモータドライバ111dと、マイコン111bに接続され、マイコン111bのRAMデータのうち、電源が切断されても保持する必要があるデータ(例えば、電動弁1の現在の弁開度に関する弁開度情報やその回転方向、後述する異常終了フラグなど)を記憶する記憶部としての不揮発性メモリであるEEPROM(不揮発性の記憶部)111eとが、不図示の基板上に搭載されて構成される。
【0038】
なお、レギュレータ111a、LINトランシーバ111c、ステッピングモータドライバ111d、EEPROM111e、マイコン111bの2つ以上を一体的に構成したICを用いてもよく、その場合は、さらなる装置の小型化が可能になる。
【0039】
制御装置100の具体的構成は、上記構成に限定されるものではなく、本発明を実施可能であれば、如何なる構成でも良い。
【0040】
(検査装置)
検査装置200は、ECU116に加え、コンプレッサ201と、減圧弁202と、圧力センサ203と、流量計204と、これらを制御するプログラマブルロジックコントローラ(PLC)205と、を有する。これらは、通信バス(CANやRS232C)を介してECU116に接続されている。なお、検査装置200は、電動弁1の完成後に工場から出荷される検査工程の検査装置として以下の説明を行うが、電動弁ユニットが搭載された冷凍サイクル装置が流量測定可能な装置があれば冷凍サイクル装置に組付けられた状態で同様の検査工程を行ってもよい。
【0041】
コンプレッサ201が空気を圧縮し、圧縮された空気は、PLC205の制御下で動作する減圧弁202により一定圧に減圧され、電動弁1の配管51に供給される。この時、配管51に供給される空気圧は、圧力センサ203により測定され、その測定信号がPLC205に入力されて一定の圧力となっているかチェックされ、一定の圧力でない場合には、一定の圧力となるようにPLC205は減圧弁202を制御する。
【0042】
一方、流量計204は配管52に接続され、弁座31eと弁体33との間を通過した空気量を測定し、その測定信号をECU116を介して制御装置100に出力する。ここでは、流量測定のために空気を用いたが、冷媒を用いて流量測定を行ってもよい。
【0043】
電動弁1の初期位置として例えば0パルスを決める必要がある。制御装置100を検査装置200に接続した場合は、電動弁1のステッピングモータを例えば最大パルス数以上閉弁方向に回転させるイニシャライズ動作を実行する命令(イニシャライズ指示信号)を、ECU116はLINバス114を介してLIN通信信号で制御装置100に送信することができる。
【0044】
また、LINバス114を介して制御装置100から電動弁1の弁開度(つまり、電動弁1のステッピングモータの現在位置(パルス数))やステッピングモータの回転方向が送信されていれば、その弁開度や回転方向はLINバス114を介してECU116に送信される(知らされる)こともできる。
【0045】
ここで、弁開度情報とは、電動弁1の弁開度に関連する情報であり、例えば、電動弁1のステッピングモータの回転位置、パルス数、電動弁1の弁体位置などの情報が含まれる。また、最大パルス数とは、弁体の下限位置(弁体が下方向に移動できる限界位置)から上限位置(弁体が上方向に移動できる限界位置)まで移動する間に電動弁1のステッピングモータに印加されるパルスの数、もしくは弁体の上限位置から下限位置まで移動する間に電動弁1のステッピングモータに印加されるパルスの数であり、例えば、弁体の下限位置は全閉位置、上限位置は全開位置である。弁体の現在位置とは、弁体の下限位置を0パルスとして、全閉位置から全開位置の間で弁体を移動させるために開弁又は閉弁方向に印加(増減)したパルス数である。もちろん、弁体の上限位置を0パルスとして印加したパルス数をカウントしてもよい。
【0046】
(車載エアコン)
電動弁ユニットが搭載される冷凍サイクルの例として、出荷検査後の電動弁(電動弁ユニット)が車載エアコンに膨張弁として組付けられた場合について説明する。制御ユニット100は車載エアコンを制御する制御装置(エアコンECU)との間で信号を送受信しながら、エアコンECUからの指示に従い電動弁1の開閉制御をすることでオリフィス31dを通過する冷媒の流量制御を行う。なお、このときの制御装置100の不揮発メモリ(EEPROM111e)には検査工程で測定したヒステリシス量(またはそれに対応するパルス数)が少なくとも記憶されており、さらに開弁パルスも記憶されていると望ましい。
【0047】
車載エアコンの膨張弁として電動弁ユニットが使用される場合、イニシャライズ指示信号を受信した制御装置100は、電動弁1が制御可能な最大パルス数(例えば500パルス)に、ロータが確実にストッパ(回り止め)に衝突するために十分なパルス数を加えたパルス数(例えば700パルス以上)だけ電動弁1のステッピングモータを閉弁方向に回転させるイニシャライズ処理(電動弁1のイニシャライズ動作)(0パルスの初期位置出し)を行う。ストッパを有しない電動弁の場合には、弁体を弁座に着座させて静止した位置をストッパに衝突した位置とみなす。
【0048】
なお、電動弁1のステッピングモータを閉弁方向に回転させるイニシャライズ処理に替えて開弁方向に回転させるイニシャライズ処理を行ってもよい。また、電動弁1のステッピングモータの現在位置(パルス数)等がEEPROM111eに記憶されている場合、その情報をEEPROM111eから読み出して使用することもできる。制御装置100が電動弁1のステッピングモータの現在位置(パルス数)が判らないときに、エアコンECU等の上位制御装置から弁開度を変更する支持を受けることによりイニシャライズを実行するようにしてもよい。
【0049】
制御装置100のマイコン111bは、通常時は、信号の送受信ラインである通信バス(例えばLINバス)を介してエアコンECU(以下、単にECUということがある)から送信される制御信号に基づいて、電動弁1の弁開度を制御するが、ECUから電源切断信号又はスリープモード移行信号を受信した場合には、例えば動作中である電動弁1の動作を停止して、その時の(現在の)電動弁1の弁開度情報およびその(電動弁1のステッピングモータの)回転方向のEEPROM111eへの記憶を実行することもできる。また、マイコン111bには、例えばリード線の短絡や切断等による突然の電源切断などといった制御装置100の終了状態を知らせるための異常終了フラグが予め用意されており、マイコン111bは、その異常終了フラグの状態も当該EEPROM111eに記憶させておくこともできる。
【0050】
また、LINバスを介して制御装置100から電動弁1の弁開度(つまり、電動弁1のステッピングモータの現在位置(パルス数))やステッピングモータの回転方向が送信されていれば、その弁開度や回転方向はLINバスを介してECU116に送信される(知らされる)こともできる。
【0051】
(測定装置による開弁パルスとヒステリシス量の測定)
次に、制御装置100及び検査装置200からなる測定装置を用いたヒステリシス量の測定について説明する。測定装置によるヒステリシス量の測定は、電動弁1が完成したのち、対応する制御装置100と組み合わされて、出荷前に実施される。測定に供した電動弁1と制御装置100は、対応付けて出荷される。
【0052】
図3は、ヒステリシス量を測定するフローを示すフローチャートである。
図4,5は、電動弁1のステッピングモータに入力される駆動パルスと流量との関係を示すヒステリシス線図である。ヒステリシス量は、電動弁1のギヤ列または変換機構のバックラッシなどにより個体差があるため、ヒステリシス量の測定は電動弁1ごとに行う。
【0053】
まず、測定制御部であるECU116は、
図3のステップS101にて、測定対象となる電動弁1にてヒステリシス量の測定を行ったか否かを判断する。ヒステリシス量の測定を行ったという情報は、測定対象となる電動弁1の制御装置100におけるEEPROM111eに記載されているため、ECU116は該情報を読み出すことで、測定対象となる電動弁1にてヒステリシス量の測定を行ったか否かを確認できる。測定対象となる電動弁1にてヒステリシス量の測定を行っていた場合(判断Yes)、直ちにフローを終了する。一方、測定対象となる電動弁1にてヒステリシス量の測定を行っていない場合(判断No)、フローをステップS102へと進める。
【0054】
ECU116は、ステップS102でイニシャライズ後開弁動作が実行されたか否かを判断する。イニシャライズ後開弁動作が実行されていない場合、(判断No)、直ちにフローを終了する。一方、イニシャライズ後開弁動作が実行されていた場合(判断Yes)、フローをステップS103へと進める。
【0055】
イニシャライズ後開弁動作について説明する。ECU116が制御装置100を介して電動弁1にイニシャライズ指示を出力すると、開弁状態から、ステッピングモータに所定のパルス数の駆動パルスを入力することで弁体33が閉弁方向に向かう(
図4の矢印A)。このとき、制御装置100の流量計204が電動弁1を流れる空気の量を測定する(ステップS103)。流量計204が測定した空気の量がゼロであるとき、閉弁状態となる。このとき弁体33は、この閉弁位置(イニシャライズ)で停止した位置に静止し、電動弁1の初期位置(0パルス)である。
【0056】
閉弁状態から、ECU116は、開弁させるために、制御装置100を介して電動弁1のステッピングモータに対しパルス数を1パルスずつ増大して駆動パルスを入力し(
図4の矢印B)、その都度流量計204が電動弁1を流れる空気の量を測定する。
【0057】
ステップS104で、ECU116は、流量計204が計測する流量が所定値以上となったか否かを判断する。ここで、パルス数がある値を超えたとき(
図4の矢印Cに沿ってパルス数が9パルスとなったとき)、制御装置100の流量計204がゼロを超える流量を計測したものとする。ECU116が流量は所定値未満と判断すれば、フローをステップS102に戻す。
【0058】
これに対し、流量計204が計測する流量が所定値以上となった(
図4ではパルス数が10パルスとなった)と、ECU116が判断すれば、ステップS105で、所定値以上の流量となったときのパルス数-1を開弁パルス(ここでは9パルス)と決定して、制御装置100のEEPROM111eに記憶する。以上が、イニシャライズ後開弁動作である。
【0059】
本実施形態における初期位置から開弁点までのパルス数には、ギヤ列や変換機構等のバックラッシ、後述するように弁軸32と弁体33の相対変位および、弁体の動作開始から前記所定値流量までの動作に相当するパルス数を含んでいる。
【0060】
ギヤ列や変換機構等のバックラッシは後述のヒステリシス量αに相当し、弁軸32と弁体33の相対変位は閉弁押圧量δに相当する。閉弁押圧量δはスライド板40と弁軸32の大径部32bの外周の摺動距離がほとんどであるが、弁軸や弁本体、弁座部座等の金属材料の弾性変形も含んでいる。したがって、開弁パルスは、(ヒステリシス量α+閉弁押圧量δ)に相当するパルス数となる。以下、α(および後述するα1、α2)を、ヒステリシス量に相当するパルス数とし、δを、閉弁押圧量に相当するパルス数として説明する。
【0061】
換言すれば、イニシャライズで停止した位置(初期位置)から開弁方向にモータを回転させて行くと、バックラッシと前記相対変位を駆動した後に開弁方向に弁体が動作し、さらにその後に開弁点に到達することになる。
【0062】
なお、ギヤ列や変換機構等のバックラッシは、ギヤのバックラッシと変換機構のねじガタを含んでおり、後述するように、ギヤ列や変換機構等のバックラッシは摩耗などにより経時的に変化することがある。
【0063】
次に、ECU116は、ステップS106で閉弁動作が実行されたか否かを判断する。閉弁動作が実行されていなければ、閉弁動作が開始されるのを待つ。一方、閉弁動作が実行されていた場合(すなわち開弁方向に弁体33が駆動されたのちステッピングモータが静止し、引き続き弁体33が閉弁方向に駆動された場合:
図5参照)、フローをステップS107へと進める。
【0064】
閉弁動作について説明する。
図5を参照して、ECU116が制御装置100を介して電動弁1に閉弁動作指示を出力すると、ステッピングモータに駆動パルスが入力され、現在の開弁位置から弁体33が閉弁方向に向かう。このとき、制御装置100の流量計204が電動弁1を流れる空気の量(初期流量)を測定する(ステップS107)。
【0065】
ECU116は、閉弁方向に向かうように、制御装置100を介して電動弁1に入力する駆動パルスのパルス数を1パルスずつ増大させ(
図5の矢印D)、その都度流量計204が電動弁1を流れる空気の量を測定する。
【0066】
本実施形態では、
図5のグラフは
図4のグラフから続いており、
図5のパルス数0は
図4のパルス数10(つまり開弁パルス)に対応するが、
図5のパルス数0は開弁パルス+1であればよい。
【0067】
ステップS108で、ECU116は、流量計204が計測する流量が所定値(初期流量に対して所定量だけ変化した流量)を下回ったか否かを判断する。流量計204が計測する流量が所定値を下回らなければ、フローをステップS106に戻す。
【0068】
ここで、流量計204が計測する流量が所定値を下回ったとき(
図5ではパルス数が6パルスとなったとき)、ECU116は、ステップS109で、所定値を下回った流量となったときのパルス数-1をヒステリシス量α(ここでは5パルス)として、制御装置100のEEPROM111eに記憶する。以上が、閉弁動作である。その後、フローを終了する。
【0069】
車載エアコンの膨張弁として電動弁ユニットが使用される場合に、上述の開弁パルスとヒステリシス量αを電動弁ユニットの開弁量制御に用いることで高い精度で流量制御ができる。
【0070】
(電動弁の動作)
冷凍サイクルに接続された状態における、本実施形態にかかる電動弁1の動作を説明する。第1配管51と第2配管52は、冷凍サイクルに接続されており、第1配管51が入口側配管、第2配管52が出口側配管であるとする。また、開弁方向とは弁体33が弁座31eから離間する方向をいい、閉弁方向とは弁体33が弁座31eに接近する方向をいう。
【0071】
冷凍サイクルのECUなどから、設定温度を実現すべく冷媒の流量を調整するように指示を受けたとき(すなわち、目標移動量だけ弁体33が移動するように動作指示情報が入力されたとき)、制御装置100は電動弁1のステッピングモータに対して駆動パルスを出力する。ここで、冷媒の調整流量に応じて定まる弁体33の目標移動量から駆動機構の減速比を考慮して、ステッピングモータのロータ13の目標回転角度が決まる。この目標回転角度を実現する駆動パルス数を、目標パルス数という。目標パルス数の演算は、マイコン111bが行う。
【0072】
ここで、弁体33が閉弁方向に向かったのち、さらに閉弁方向(同一方向)に向かう場合、あるいは弁体33が開弁方向に向かったのち、さらに開弁方向(同一方向)に向かう場合には、ヒステリシスを考慮しなくてよいため、制御装置100は電動弁1のステッピングモータに対して、目標パルス数分の駆動パルスを出力する。これによりステッピングモータのロータ13が目標回転角度分、回転する。
【0073】
これに対し弁体33が閉弁方向に向かったのち静止して、開弁方向(逆方向)に向かう場合、あるいは弁体33が開弁方向に向かったのち静止して、閉弁方向(逆方向)に向かう場合には、駆動機構のヒステリシスを考慮する必要がある。かかる場合、マイコン111bは、EEPROM111eに記憶されたヒステリシス量α(5パルス)を目標パルス数βに加算して実効パルス数γを求め、制御装置100は電動弁1のステッピングモータに対して、目標パルス数の代わりに実効パルス数γの駆動パルスを出力する。これによりステッピングモータのロータ13はヒステリシスを考慮して目標回転角度を超えて回転するが、弁体33は目標位置に精度良く到達する。
【0074】
具体的には、制御装置100は、
図6に示すヒステリシス線図に従い、点Fの位置から、EEPROM111eに記憶されたヒステリシス量α(5パルス)と、点Fから点Gへと弁体33が移動するために必要な目標パルス数βとを加えた実効パルス数γの駆動パルスを、ステッピングモータに入力する。これにより、弁体33は精度よく目標位置(点H)に到達でき、目標とする流量の流体を電動弁1を介して通過させることができる。なお、ステッピングモータが開弁方向に駆動されたのち、閉弁方向に向かう際にも、同様に求めたヒステリシス量αを目標パルス数に加えることにより、実効パルス数γを求めることができる。
【0075】
(閉弁動作)
弁体33が任意の位置(閉弁時を除く)にある時に、駆動軸14が閉弁方向に回転すると、減速部20のギヤ列を介して減速されて雄ねじ軸27に伝達される。雄ねじ軸27に伝達された回転運動は、減速部20の変換機構を介して軸線方向運動に変換され、これにより雄ねじ軸27は、最終ギヤ26とともに下方に変位する。最終ギヤ26が軸線方向に変位しても、第2伝達ギヤ25との噛合が外れることはない。
【0076】
雄ねじ軸27が下方に変位すると、ボール37を介して押されることで、弁軸32は下方に移動する。弁軸32が下方に移動すると、ベローズ38が伸長し、コイルバネ39に押された状態で弁体33が下方に移動し、テーパ面33dが弁座31eに着座する。このときコイルバネ39は、着座時の衝撃を弱める緩衝効果を発揮する。
【0077】
さらに弁軸32が回転することで、弁軸32が下降してコイルバネ39が圧縮され、テーパ面33dが弁座31eに対して所定の付勢力で押圧される。このとき、スライド板40が弁軸32の大径部32bの外周に沿って摺動するため、コイルバネ39の付勢力に抗して弁軸32と弁体33の相対変位が許容される。以上により、所定の予圧が付与されて閉弁状態が確保されるため、第1配管51から弁室Cを通過して第2配管52へ向かう冷媒の流れが遮断される。
図1の電動弁1はかかる状態(すなわち閉弁状態)である。
【0078】
またこの間、弁室C内の流体圧がベローズ38の外表面に作用するため、所定値以上の流体圧が作用すれば、ベローズ38を縮長方向に作用させ、弁軸32と共に弁体33を開方向に移動させることができる。
【0079】
(開弁動作)
弁体33が任意の位置(最大開弁時を除く)にあるときに、制御装置100からステッピングモータに対して駆動パルスが出力され、駆動軸14が開弁方向に回転すると、減速部20のギヤ列を介して減速されて雄ねじ軸27に伝達される。
【0080】
雄ねじ軸27に伝達された回転運動は、減速部20の変換機構を介して軸線方向運動に変換され、これにより雄ねじ軸27は、最終ギヤ26とともに上方に変位する。
【0081】
雄ねじ軸27が上方に変位すると、弁軸32を閉弁方向に押圧する力が消失するため、弁室C内の冷媒圧を受けたベローズ38が縮長しつつ、弁軸32も上昇する。弁軸32が上昇すると、スライド板40が弁軸32の鍔部32cに係止され、その後は弁軸32と共に弁体33も上昇するため、テーパ面33dが弁座31eから離間する。
【0082】
このとき、第1配管51から弁室Cに進入した冷媒は、テーパ面33dと弁座31eとの隙間を通過して、オリフィス31dを介して第2配管52へと流出する。テーパ面33dと弁座31eとの隙間は、駆動軸14の回転角度に応じて変化するため、駆動軸14の回転角度を調整することで、第1配管51から第2配管52へ流れる冷媒の量を調整できる。
【0083】
(電動弁の経時変化)
ところで、電動弁1のギヤ列や変換機構等のバックラッシは摩耗などにより経時的に変化し、一般的には増大する。したがって、初期に求めたヒステリシス量が、電動弁1の使用に伴い変化することが想定される。これに対し、本実施形態の制御装置は、ヒステリシス量の経時変化に対応できる。
【0084】
より具体的には、実験やシミュレーションを通して、例えばステッピングモータに入力される駆動パルスの積算値に対するヒステリシス量の変化を予め求め、積算値とヒステリシス量の変化とを対応付けたテーブルまたは相関式を決定し、それをEEPROM111eに記憶する。
【0085】
図7は、駆動パルスの積算値とヒステリシス量とを対応付けて示すグラフである。
電動弁1の制御装置100は、ステッピングモータに駆動パルスを出力するごとに、そのパルス数をカウントし、パルス数の積算値をEEPROM111eに記憶されたテーブルまたは相関式に照合して、ヒステリシス量を決定する。
【0086】
具体的に
図7の例では、パルス数の積算値が0からPN1の間、ヒステリシス量をα1とする。また、パルス数の積算値がPN2からPN3の間、ヒステリシス量をα2とする。以下、同様である。なお、積算値が増大するに従い、ヒステリシス量をリニアに増大させてもよい。また、パルス数の積算値に加え、電動弁1に供給される潤滑油の量や、閉弁時の荷重などを測定して、ヒステリシス量を調整してもよい。
【0087】
このように、パルス数の積算値に応じてヒステリシス量を決定することで、電動弁1の経時変化が生じても、高精度に弁体の制御を行うことができる。
【0088】
(変形例)
図8、9は、本実施形態の変形例にかかるヒステリシス線図である。
電動弁1の弁体33の可動範囲に応じて、ステッピングモータに入力可能な最小パルス数PMNと最大パルス数PMXとがそれぞれ規定値として決まっている。ここで、最小パルス数PMNを下回るか、最大パルス数PMXを上回るパルス数の駆動パルスがステッピングモータに入力されたときは、脱調現象が生じ制御が不能になる恐れがある。本変形例は、かかる不具合に対応できる。
【0089】
例えば、
図8において、閉弁方向に駆動されていた弁体33に対し、開弁方向に駆動するために目標パルス数PAの駆動パルスをステッピングモータに入力しようとするときに、制御装置100は、目標パルス数PAにヒステリシス量αを加えた実効パルス数の動作指示パルスを、現在位置(現在のパルス値)から加算する態様でステッピングモータに入力する。しかし、PA+α>PMXであるときは、演算された実効パルス数の駆動パルスをステッピングモータに入力することにより、脱調現象が生じる恐れがある。
【0090】
同様に
図9において、開弁方向に駆動されていた弁体33に対し、閉弁方向に駆動するために目標パルス数PBの駆動パルスを入力しようとするときに、制御装置100は、目標パルス数PBにヒステリシス量αを加えた実効パルス数(PB+α)の駆動パルスを、現在位置(現在のパルス値)から減算する態様でステッピングモータに入力する。しかし、現在位置-(PB+α)<PMNであるときは、実効パルス数の駆動パルスをステッピングモータに入力することにより、脱調現象が生じる恐れがある。
【0091】
そこで、制御装置100は、実効パルス数(PA+α),(PB+α)を演算したときは、PA+α>PMXである場合には、パルス数PMXになるパルス数(PA’+α)の駆動パルスをステッピングモータに入力し、また現在位置-(PB+α)<PMNである場合には、パルス数PMNになるパルス数(PB’+α)の駆動パルスをステッピングモータに入力する。これにより、ステッピングモータの脱調現象を抑制できる。
【0092】
(変形例2)
閉弁状態から開弁点までのパルス数には、ヒステリシス量α(上述の実施形態では5パルス)と閉弁押圧量δ(上述の実施形態では4パルス)とを含んでおり、パルス数PMNから(PMN+δ)の間に電動弁を通過する流体の流量は、所定流量以下(実質的に流量ゼロ)であるから、ステッピングモータへ入力する駆動パルスは厳密にPMN=0にこだわる必要はない。また、パルス数PMNはイニシャライズで停止した位置(初期位置)に相当するため、パルス数PMNをステッピングモータに入力するとギヤやねじ部に負荷が生じる。そのため、上述の制御において、目標パルス数PB(またはPB+α)の駆動パルスを入力しようとするとき{すなわち(現在位置-(PB+α)がパルス数PMN以下になるとき}には、パルス数PMNを超え、PMN+δ以下となる駆動パルスをステッピングモータに入力することができる。例えば、閉弁押圧量δが1パルス以上のときはPMN+1になるようにパルス数を入力するとよい。このような制御をすることでギヤやねじ部の負荷を軽減し、電力消費や摩耗を低減することができる。
【0093】
本発明は以上の実施形態にかかわらず、種々の実施形態または変形例の適用が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 電動弁
10 駆動部
20 減速部
30 弁機構部
31 弁本体
32 弁軸
33 弁体
100 制御装置
200 検査装置