(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004028
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/14 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
H01J35/14
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103458
(22)【出願日】2022-06-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】古木 裕記
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳
(57)【要約】
【課題】十分な耐電圧特性を確保することができるX線管を提供する。
【解決手段】X線管は、筐体と、筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、筐体内において電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、を備える。電子銃は、電子を放出するカソード32と、電子を電子ビームとしてターゲット4に集束させる第2グリッド電極34と、を有する。第2グリッド電極34は、内側表面51及び外側表面52を有する筒状を呈している。内側表面51は、第1領域R1、及び、第1領域R1に対してターゲット4側に位置している第2領域R2を含む。第2領域R2の平均粗さは、第1領域R1の平均粗さよりも小さい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、を備え、
前記電子銃は、
電子を放出するカソードと、
前記電子を前記電子ビームとして前記ターゲットに集束させる集束電極と、を有し、
前記集束電極は、内側表面及び外側表面を有する筒状を呈しており、
前記内側表面は、第1領域、及び、前記第1領域に対して前記ターゲット側に位置している第2領域を含み、
前記第2領域の平均粗さは、前記第1領域の平均粗さよりも小さい、X線管。
【請求項2】
前記内側表面は、前記ターゲット側に向いた内側底面を有し、
前記内側底面は、前記第1領域である、請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記内側表面は、内側側面を更に有し、
前記内側側面のうち前記カソード側の端部を含む第1側面は、前記第1領域であり、
前記内側側面のうち前記ターゲット側の端部を含む第2側面は、前記第2領域である、請求項2に記載のX線管。
【請求項4】
前記第2側面の平均粗さは、0.4μm以上1.0μm以下であり、
前記内側底面の平均粗さは、1.0μm以上3.2μm以下である、請求項3に記載のX線管。
【請求項5】
前記第1側面の平均粗さは、1.0μm以上1.6μm以下である、請求項4に記載のX線管。
【請求項6】
前記外側表面の平均粗さは、前記第2側面の前記平均粗さよりも小さい、請求項3に記載のX線管。
【請求項7】
前記外側表面の前記平均粗さは、0.05μm以上0.4μm以下である、請求項6に記載のX線管。
【請求項8】
前記外側表面は、第3領域、及び、前記第3領域に対して前記ターゲット側に位置している第4領域を含み、
前記第4領域の平均粗さは、前記第3領域の平均粗さよりも小さい、請求項6に記載のX線管。
【請求項9】
前記第4領域は、前記外側表面における前記ターゲット側の端部を含むラウンド状の領域である、請求項8に記載のX線管。
【請求項10】
前記集束電極は、前記ターゲットとは反対側に向いた外側底面を更に有し、
前記外側底面の平均粗さは、前記第4領域の平均粗さよりも大きい、請求項8に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
筐体と、筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、筐体内において電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、を備えるX線管であって、電子銃が、電子を放出するカソードと、電子を電子ビームとしてターゲットに集束させる集束電極と、を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなX線管では、ターゲットを基準としてカソード及び集束電極のそれぞれに負の高電圧が印加される場合がある。そのような場合に、X線管において十分な耐電圧特性を確保することは、X線管の動作の安定性を実現する上で極めて重要である。
【0005】
本発明は、十分な耐電圧特性を確保することができるX線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のX線管は、[1]「筐体と、前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、を備え、前記電子銃は、電子を放出するカソードと、前記電子を前記電子ビームとして前記ターゲットに集束させる集束電極と、を有し、前記集束電極は、内側表面及び外側表面を有する筒状を呈しており、前記内側表面は、第1領域、及び、前記第1領域に対して前記ターゲット側に位置している第2領域を含み、前記第2領域の平均粗さは、前記第1領域の平均粗さよりも小さい、X線管」である。
【0007】
上記[1]に記載のX線管では、筒状を呈している集束電極の内側表面において、第1領域に対してターゲット側に位置している第2領域の平均粗さが、第2領域に対してターゲットとは反対側に位置している第1領域の平均粗さよりも小さくなっている。これにより、ターゲットを基準としてカソード及び集束電極のそれぞれに負の高電圧が印加された場合にも、集束電極の内側表面を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなる。また、筒状を呈している集束電極の内側表面において、第2領域に対してカソード側に位置している第1領域の平均粗さが、第1領域に対してカソードとは反対側に位置している第2領域の平均粗さよりも大きくなっている。これにより、カソードからカソード材料が放出された場合にも、カソード材料が第1領域において捕捉されやすくなるため、筐体の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなる。以上により、上記[1]に記載のX線管によれば、十分な耐電圧特性を確保することができる。
【0008】
本発明のX線管は、[2]「前記内側表面は、前記ターゲット側に向いた内側底面を有し、前記内側底面は、前記第1領域である、[1]に記載のX線管」であってもよい。当該[2]に記載のX線管によれば、カソード材料が内側底面において捕捉されやすくなるため、筐体の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流の発生をより確実に抑制することができる。
【0009】
本発明のX線管は、[3]「前記内側表面は、内側側面を更に有し、前記内側側面のうち前記カソード側の端部を含む第1側面は、前記第1領域であり、前記内側側面のうち前記ターゲット側の端部を含む第2側面は、前記第2領域である、[2]に記載のX線管」であってもよい。当該[3]に記載のX線管によれば、集束電極の内側表面を発生個所としたリーク電流の発生、及び筐体の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流の発生の両方をより確実に抑制することができる。
【0010】
本発明のX線管は、[4]「前記第2側面の平均粗さは、0.4μm以上1.0μm以下であり、前記内側底面の平均粗さは、1.0μm以上3.2μm以下である、[3]に記載のX線管」であってもよい。当該[4]に記載のX線管によれば、リーク電流が発生しにくい第2側面、及びカソード材料が捕捉されやすい内側底面を好適に実現することができる。
【0011】
本発明のX線管は、[5]「前記第1側面の平均粗さは、1.0μm以上1.6μm以下である、[4]に記載のX線管」であってもよい。当該[5]に記載のX線管によれば、カソード材料が捕捉されやすい第1側面を好適に実現することができる。
【0012】
本発明のX線管は、[6]「前記外側表面の平均粗さは、前記第2側面の前記平均粗さよりも小さい、[3]~[5]のいずれか一つに記載のX線管」であってもよい。当該[6]に記載のX線管によれば、集束電極の外側表面を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなるため、十分な耐電圧特性をより確実に確保することができる。
【0013】
本発明のX線管は、[7]「前記外側表面の前記平均粗さは、0.05μm以上0.4μm以下である、[6]に記載のX線管」であってもよい。当該[7]に記載のX線管によれば、リーク電流が発生しにくい外側表面を好適に実現することができる。
【0014】
本発明のX線管は、[8]「前記外側表面は、第3領域、及び、前記第3領域に対して前記ターゲット側に位置している第4領域を含み、前記第4領域の平均粗さは、前記第3領域の平均粗さよりも小さい、[6]又は[7]に記載のX線管」であってもよい。当該[8]に記載のX線管によれば、集束電極の外側表面を発生個所としたリーク電流の発生を確実に抑制することができる。
【0015】
本発明のX線管は、[9]「前記第4領域は、前記外側表面における前記ターゲット側の端部を含むラウンド状の領域である、[8]に記載のX線管」であってもよい。当該[9]に記載のX線管によれば、集束電極の外側表面を発生個所としたリーク電流の発生をより確実に抑制することができる。
【0016】
本発明のX線管は、[10]「前記集束電極は、前記ターゲットとは反対側に向いた外側底面を更に有し、前記外側底面の平均粗さは、前記第4領域の平均粗さよりも大きい、[8]又は[9]に記載のX線管」であってもよい。当該[10]に記載のX線管によれば、カソード材料が外側底面においても捕捉されやすくなるため、筐体の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流の発生をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、十分な耐電圧特性を確保することができるX線管を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態のX線管を備えるX線発生装置の断面図である。
【
図3】
図2に示される第2グリッド電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[X線発生装置の構成]
【0020】
図1に示されるように、X線発生装置10は、X線管1と、保持部11と、電源部12と、給電部13と、を備えている。X線発生装置10は、例えば、X線非破壊検査に用いられる微小焦点X線源である。
【0021】
保持部11は、X線管1を保持している。保持部11は、金属によって筒状に形成されている。保持部11の一端部111には、X線管1が液密に取り付けられている。より具体的には、X線管1の筐体2のうちのヘッド21が一端部111の開口111aの内側に配置され且つX線管1の筐体2のうちのバルブ22が保持部11の内側に配置された状態で、ヘッド21が一端部111に液密に取り付けられている。保持部11の他端部112には、電源部12が液密に取り付けられている。保持部11の内部には、絶縁油が封入されている。
【0022】
電源部12は、X線管1に印加するための高電圧を発生させる。電源部12は、電源ケース121と、絶縁ブロック122と、昇圧部123と、を有している。電源ケース121は、絶縁ブロック122及び昇圧部123を収容している。電源ケース121は、金属によって箱状に形成されている。昇圧部123は、絶縁ブロック122中に埋設されている。絶縁ブロック122は、エポキシ樹脂等の絶縁材料によってブロック状に形成されている。昇圧部123は、X線発生装置10の外部から導入された電圧を昇圧し、高電圧を発生させる。
【0023】
給電部13は、電源部12からX線管1に電力を供給する。給電部13は、複数の配線を有している。給電部13は、電源ケース121の開口121a及び保持部11の他端部112の開口112aを介して、昇圧部123からX線管1に延在している。給電部13の一端部13aは、X線管1に電気的に接続されている。給電部13の他端部13bは、昇圧部123に電気的に接続されている。
[X線管の構成]
【0024】
図2に示されるように、X線管1は、筐体2と、電子銃3と、ターゲット4と、を備えている。本実施形態では、X線管1は、部品の交換等が不要な密封透過型X線管として構成されている。
【0025】
筐体2は、電子銃3及びターゲット4を収容している。筐体2内の空間は、真空引きが実施された空間である。筐体2は、ヘッド21と、バルブ22と、窓部材23と、を有している。ヘッド21は、金属(例えば、ステンレス、銅、銅合金、鉄合金等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。バルブ22は、絶縁材料(例えば、ガラス、セラミック等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。窓部材23は、X線透過材料(例えば、ベリリウム、アルミニウム、ダイヤモンド等)によって、管軸Aを中心線とする板状に形成されている。
【0026】
窓部材23は、ヘッド21の一端部211の開口211aを塞いだ状態で、ヘッド21の一端部211に気密に取り付けられている。バルブ22の一端部221は、ヘッド21の他端部212の開口212aがバルブ22の内側に配置された状態で、コバール等の金属からなるバルブフランジ24を介して、ヘッド21に気密に取り付けられている。バルブ22の他端部は、内側に折り返されることで内筒部222を構成している。内筒部222の端部には、コバール等の金属からなるバルブフランジ25及びステムフランジ26を介して、ステム27が気密に取り付けられている。ステム27は、絶縁材料(例えば、ガラス、セラミック等)によって、管軸Aを中心線とする板状に形成されている。
【0027】
ステム27には、複数のステムピン28が設けられている。各ステムピン28は、互いに電気的に絶縁され且つ気密を維持した状態で、ステム27を貫通している。X線発生装置10では、給電部13の一端部13aが(
図1参照)、内筒部222の内側において、複数のステムピン28に電気的に接続されている。
【0028】
電子銃3は、筐体2内において電子ビームBを出射する。電子銃3は、筐体2内においてステム27上に配置されている。電子銃3は、ヒータ31と、カソード32と、第1グリッド電極33と、第2グリッド電極(集束電極)34と、支持部35と、を有している。
【0029】
ヒータ31は、通電によって発熱するフィラメントによって構成されている。カソード32は、ヒータ31によって加熱されることで電子を放出する。第1グリッド電極33は、カソード32から放出される電子の量を調整する。ヒータ31、カソード32及び第1グリッド電極33のそれぞれには、対応するステムピン28が電気的に接続されている。
【0030】
第2グリッド電極34は、カソード32から放出されて第1グリッド電極33を通過した電子を、電子ビームBとしてターゲット4に集束させる。第2グリッド電極34は、電子ビームBを構成する電子を引き出すための電界を形成する引出し電極としても機能する。
【0031】
支持部35は、例えば溶接によって、ステムフランジ26に固定されている。支持部35は、導電材料(例えば、ステンレス等)によって、管軸Aを中心線とする筒状に形成されている。ヒータ31、カソード32及び第1グリッド電極33は、支持部35の内側に配置されている。第2グリッド電極34は、支持部35におけるステム27とは反対側の端部に取り付けられている。支持部35は、ステムフランジ26を介して、対応するステムピン28に電気的に接続されており、第2グリッド電極34に対する給電経路としても機能する。
【0032】
ターゲット4は、筐体2内において電子ビームBの入射によってX線Rを発生させる。ターゲット4は、管軸A上において、窓部材23における内側の表面に配置されている。本実施形態では、ターゲット4は、窓部材23における内側の表面に成膜された膜体である。ターゲット4は、例えば、タングステン、モリブデン、銅等によって膜状に形成されている。ターゲット4は、ヘッド21に電気的に接続されている。一例として、ターゲット4及びヘッド21は、接地電位とされる。
【0033】
以上のように構成されたX線管1では、ターゲット4及びヘッド21の電位を基準として負の高電圧が電源部12によって電子銃3に印加される。一例として、電源部12は、ターゲット4及びヘッド21が接地電位とされた状態で、負の高電圧(例えば、-10kV~-500kV)を、給電部13及び各ステムピン28を介して電子銃3の各部に印加する。電子銃3から出射された電子ビームBは、管軸Aに沿ってターゲット4上に集束される。ターゲット4における電子ビームBの照射領域において発生したX線Rは、当該照射領域を焦点として、ターゲット4及び窓部材23を透過して外部に出射される。
[第2グリッド電極の構成]
【0034】
図3に示されるように、第2グリッド電極34は、金属(例えば、タングステン、モリブデン、タンタル、ステンレス等)によって筒状に形成されている。本実施形態では、第2グリッド電極34は、側壁37と、底壁38と、を有している。側壁37は、管軸Aを中心線とする円筒状に形成されている。底壁38は、側壁37におけるカソード32側の端部において、側壁37と一体で形成されている。底壁38には、凹部38a及び貫通孔38bが形成されている。凹部38aは、ターゲット4側に開口しており、管軸Aを中心線とする円柱状の外形を呈している。貫通孔38bは、凹部38aの底面においてターゲット4側及びカソード32側に開口しており、管軸Aを中心線とする円柱状の外形を呈している。第2グリッド電極34は、第2グリッド電極34におけるターゲット4側の少なくとも一部がヘッド21の内側に収容されるように、配置されている。換言すれば、第2グリッド電極34は、後述の外側表面52の少なくとも一部がヘッド21の内側表面に対向するように、配置されている。なお、側壁37及び底壁38は、別体で形成されて、互いに接合されたものであってもよい。
【0035】
第2グリッド電極34は、内側表面51及び外側表面52を有する筒状を呈している。内側表面51は、第2グリッド電極34の表面のうち、第2グリッド電極34の中心線L側(すなわち、内側)において平面P1と平面P2との間に延在している表面である。外側表面52は、第2グリッド電極34の表面のうち、第2グリッド電極34の中心線Lとは反対側(すなわち、外側)において平面P1と平面P2との間に延在している表面である。平面P1は、第2グリッド電極34におけるターゲット4側の端部を通る平面である。換言すれば、平面P1は、第2グリッド電極34におけるターゲット4側の開口(本実施形態では、円筒状の側壁37におけるターゲット4側の開口)を含む平面である。平面P2は、第2グリッド電極34にけるカソード32側の端部を通る平面である。換言すれば、平面P2は、第2グリッド電極34におけるカソード32側の開口(本実施形態では、貫通孔38bにおけるカソード32側の開口)を含む平面である。なお、本実施形態では、第2グリッド電極34の中心線Lは、管軸Aに一致している。
【0036】
内側表面51は、内側側面53を有している。内側側面53は、内側表面51のうち、中心線Lに沿って延在する面である。内側側面53は、中心線Lに対して勾配を有していてもよく、その場合、勾配は、45度以下(すなわち、テーパが90度以下)である。本実施形態では、内側側面53は、側壁37の内側側面であり、当該内側側面の勾配は、0度である。内側表面51は、ターゲット4側に向いた内側底面54を更に有している。内側底面54は、内側表面51のうち、ターゲット4と向かい合う底面であって、ターゲット4から最も遠い(換言すれば、カソード32に最も近い)底面である。本実施形態では、内側底面54は、凹部38aの底面である。
【0037】
内側表面51は、第1領域R1、及び、第1領域R1に対してターゲット4側に位置している第2領域R2を含んでいる。第1領域R1は、内側底面54、及び、内側側面53のうちカソード32側の端部53aを含む第1側面531である。第2領域R2は、内側側面53のうちターゲット4側の端部53bを含む第2側面532である。外側表面52は、第3領域R3、及び、第3領域R3に対してターゲット4側に位置している第4領域R4を含んでいる。第3領域R3は、外側表面52のうち、中心線Lに対する勾配が45度以下(すなわち、テーパが90度以下)の表面である。本実施形態では、第3領域R3は、ターゲット4側に広がっているテーパ面である。第4領域R4は、外側表面52におけるターゲット4側の端部52aを含むラウンド状の領域である。より具体的には、第4領域R4は、外側に凸の状態で円環状の端部52aから外側且つカソード32側に延在するラウンド状の面取り面である。第2グリッド電極34は、ターゲット4とは反対側に向いた外側底面55を更に有している。本実施形態では、外側底面55は、第2グリッド電極34の底壁38における内側底面54とは反対側の表面である。
【0038】
第2領域R2の平均粗さは、第1領域R1の平均粗さよりも小さい。第1領域R1の平均粗さは、1.0μm以上3.2μm以下である。第2領域R2の平均粗さは、0.4μm以上1.0μm以下である。より詳細には、第1領域R1である内側底面54の平均粗さは、1.0μm以上3.2μm以下である。第1領域R1である第1側面531の平均粗さは、1.0μm以上1.6μm以下である。第2領域R2である第2側面532の平均粗さは、0.4μm以上1.0μm以下である。外側表面52の平均粗さは、第2側面532の平均粗さよりも小さい。外側表面52の平均粗さは、0.05μm以上0.4μm以下である。第4領域R4の平均粗さは、第3領域R3の平均粗さよりも小さい。外側底面55の平均粗さは、第4領域R4の平均粗さよりも大きい。なお、平均粗さとは、算術平均粗さRaを意味する。Raの測定には、接触式表面粗さ計、レーザ顕微鏡、白色干渉計等を用いることができる。一例として、内側表面51のRaの測定には接触式表面粗さ計が好ましく、外側表面52のRaの測定には白色干渉計又はレーザ顕微鏡が好ましい。ここで、領域αの平均粗さが領域βの平均粗さよりも小さいとは、領域αが所定値未満の平均粗さを有しており且つ領域βが当該所定値以上の平均粗さを有していることを意味する。この場合、領域α内において、平均粗さの値は、所定値未満であれば、変化していてもよいし、一定であってもよい。同様に、領域β内において、平均粗さの値は、所定値以上であれば、変化していてもよいし、一定であってもよい。また、領域αの平均粗さが領域βの平均粗さよりも大きいとは、領域αが所定値以上の平均粗さを有しており且つ領域βが当該所定値未満の平均粗さを有していることを意味する。この場合、領域α内において、平均粗さの値は、所定値以上であれば、変化していてもよいし、一定であってもよい。同様に、領域β内において、平均粗さの値は、所定値未満であれば、変化していてもよいし、一定であってもよい。本実施形態では、内側表面51の平均粗さの値は、端部53bから端部53aまで徐々に大きくなるように変化している。
【0039】
上述したような平均粗さを有する第2グリッド電極34は、一例として、次のように製造される。まず、電解液中において、カップ状の陰極の表面が、陽極と電気的に接続された第2グリッド電極34の外側表面52と向かい合った状態とされる。一方で、第2グリッド電極34の内側表面51とは、陰極が向かい合っていない状態とされる。この状態で電解研磨が実施されることで、上述したような平均粗さを有する第2グリッド電極34が製造される。なお、電解研磨が実施される前に、第2グリッド電極34の外側表面52にバフ研磨等の機械研磨が施されてもよい。
[作用及び効果]
【0040】
X線管1では、筒状を呈している第2グリッド電極34の内側表面51において、第1領域R1に対してターゲット4側に位置している第2領域R2の平均粗さが、第2領域R2に対してターゲット4とは反対側に位置している第1領域R1の平均粗さよりも小さくなっている。これにより、ターゲット4を基準としてカソード32及び第2グリッド電極34のそれぞれに負の高電圧が印加された場合にも、第2グリッド電極34の内側表面51を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなる。また、筒状を呈している第2グリッド電極34の内側表面51において、第2領域R2に対してカソード32側に位置している第1領域R1の平均粗さが、第1領域R1に対してカソード32とは反対側に位置している第2領域R2の平均粗さよりも大きくなっている。これにより、カソード32からカソード材料が放出された場合にも、カソード材料が第1領域R1において捕捉されやすくなるため、筐体2の内側表面等にまでカソード材料が到達して付着することが抑制され、筐体2の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなる。以上により、X線管1によれば、十分な耐電圧特性を確保することができる。
【0041】
なお、ターゲット4からターゲット材料が放出された場合にも、ターゲット材料が第1領域R1において捕捉されやすくなる。カソード材料及び/又はターゲット材料が第1領域R1において捕捉されることで、カソード材料及び/又はターゲット材料が筐体2内に脱落して異物となるのを抑制することができる。したがって、異物を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなる。以上により、X線管1によれば、十分な耐電圧特性を確保することができる。
【0042】
X線管1では、内側表面51において、ターゲット4側に向いた内側底面54が、第1領域R1として構成されている。これにより、カソード材料が内側底面54において捕捉されやすくなるため、筐体2の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流の発生をより確実に抑制することができる。
【0043】
X線管1では、内側側面53のうちカソード32側の端部53aを含む第1側面531が、第1領域R1として構成されており、内側側面53のうちターゲット4側の端部53bを含む第2側面532が、第2領域R2として構成されている。これにより、第2グリッド電極34の内側表面51を発生個所としたリーク電流の発生、及び筐体2の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流の発生の両方をより確実に抑制することができる。
【0044】
X線管1では、第2側面532の平均粗さが、0.4μm以上1.0μm以下であり、内側底面54の平均粗さが、1.0μm以上3.2μm以下である。これにより、リーク電流が発生しにくい第2側面532、及びカソード材料が捕捉されやすい内側底面54を好適に実現することができる。
【0045】
X線管1では、第1側面531の平均粗さが、1.0μm以上1.6μm以下である。これにより、カソード材料が捕捉されやすい第1側面531を好適に実現することができる。
【0046】
X線管1では、外側表面52の平均粗さが、第2側面532の平均粗さよりも小さい。これにより、第2グリッド電極34の外側表面52を発生個所としたリーク電流が発生しにくくなるため、十分な耐電圧特性をより確実に確保することができる。
【0047】
X線管1では、外側表面52の平均粗さが、0.05μm以上0.4μm以下である。これにより、リーク電流が発生しにくい外側表面52を好適に実現することができる。
【0048】
X線管1では、外側表面52において、第3領域R3に対してターゲット4側に位置している第4領域R4の平均粗さが、第4領域R4に対してカソード32側に位置している第3領域R3の平均粗さよりも小さい。これにより、第2グリッド電極34の外側表面52を発生個所としたリーク電流の発生を確実に抑制することができる。
【0049】
X線管1では、第4領域R4が、外側表面52におけるターゲット4側の端部52aを含むラウンド状の領域である。これにより、第2グリッド電極34の外側表面52を発生個所としたリーク電流の発生をより確実に抑制することができる。
【0050】
X線管1では、ターゲット4とは反対側に向いた外側底面55の平均粗さが、第4領域R4の平均粗さよりも大きい。これにより、カソード材料が外側底面55においても捕捉されやすくなるため、筐体2の内側表面等に付着したカソード材料を発生個所としたリーク電流の発生をより確実に抑制することができる。
【0051】
ここで、内側表面51の平均粗さを0.4μm以上3.2μm以下とし、外側表面52の平均粗さを0.05μm以上0.4μm以下とする理由について、詳細に説明する。
【0052】
上述したように、X線管1では、ターゲット4を基準としてカソード32及び第2グリッド電極34のそれぞれに負の高電圧が印加される。この高電圧の値(絶対値)が大きくなると、「電子銃3におけるカソード32」と「ターゲット4」との間以外に流れるリーク電流が大きくなる。リーク電流としては、例えば、「電子銃3におけるカソード32以外の部分(主に第2グリッド電極34)」と「アノードであるターゲット4及びヘッド21」との間に生じる放電に起因するリーク電流、「異物」と「アノードであるターゲット4及びヘッド21」との間に生じる放電に起因するリーク電流、「異物」と「電子銃3」との間に生じる放電に起因するリーク電流が挙げられる。このリーク電流が大きくなると、管電流が一定となるように制御されていても、アノード電流が大きくなる。管電流とは、カソード32とターゲット4との間に流れる電流であり、例えば、第1グリッド電極33に印加する電圧に基づいて算出される電流である。アノード電流とは、電子銃3と「アノードであるターゲット4及びヘッド21」との間に流れる電流(すなわち、管電流とリーク電流との和)であり、例えば、ヘッド21に電気的に接続された電流計によって計測される電流である。
【0053】
X線管1では、アノード電流が所定の閾値を超えた場合に、放電が発生したものとして、X線管1の動作が停止させられる。そのため、リーク電流が大きくなると、管電流の揺らぎ等によってアノード電流が閾値を超えやすくなり、その結果、放電が発生していないにもかかわらず、X線管1の動作が停止させられやすくなるおそれがある。
【0054】
また、リーク電流が大きくなると、そのリーク電流を起因とした電子の入射によってターゲット4及び/又はヘッド21からX線が放射される。そのため、検査対象に照射されるX線Rの焦点が複数になり、その結果、検査対象のX線像がぼやけるおそれがある。また、検査対象に照射されるX線Rにおいてバックグラウンドノイズが増え、その結果、検査対象のX線像においてコントラストが低下したりするおそれがある。
【0055】
よって、X線管1では、リーク電流の値が、上述した問題に繋がる大きさにならないようにすることが重要である。内側表面51の平均粗さを3.2μm以下とし、外側表面52の平均粗さを0.4μm以下とすることで、上述した問題に繋がる程にリーク電流の値が大きくなるのを抑制することができる。
【0056】
一方、リーク電流の値が小さくなり過ぎると、リーク電流を起因とした電子がヘッド21の内側表面に衝突することでヘッド21の内側表面からガスが放出されるという効果が得られにくくなる。内側表面51の平均粗さを0.4μm以上とし、外側表面52の平均粗さを0.05μm以上とすることで、ガス放出の効果が得られない程にリーク電流の値が小さくなるのを抑制することができる。なお、放出されたガスは、本実施形態のような密封型のX線管では、X線管内に配置されたゲッターによって除去することが可能であり、開放型のX線管では、X線管外に配置されたポンプによって除去することが可能である。
[変形例]
【0057】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、
図4の(a)に示されるように、第2グリッド電極34の底壁38には、凹部38a(
図3参照)が形成されていなくてもよい。この場合、第1領域R1である内側底面54は、底壁38におけるターゲット4側の表面である。また、
図4の(b)に示されるように、第2グリッド電極34は、側壁37を有しており、底壁38を有していなくてもよい。いずれの第2グリッド電極34においても、筒状を呈している第2グリッド電極34の内側表面51において、第1領域R1に対してターゲット4側に位置している第2領域R2の平均粗さが、第2領域R2に対してターゲット4とは反対側に位置している第1領域R1の平均粗さよりも小さくなっている。換言すれば、筒状を呈している第2グリッド電極34の内側表面51において、第2領域R2に対してカソード32側に位置している第1領域R1の平均粗さが、第1領域R1に対してカソード32とは反対側に位置している第2領域R2の平均粗さよりも大きくなっている。
【0058】
また、筒状を呈している第2グリッド電極34の内側表面51において、第2領域R2が第1領域R1に対してターゲット4側に位置していれば、第1領域R1は、内側側面53におけるカソード32側の端部53aを含む領域でなくてもよいし、また、第2領域R2は、内側側面53におけるターゲット4側の端部53bを含む領域でなくてもよい。また、筒状を呈している第2グリッド電極34の外側表面52において、第4領域R4が第3領域R3に対してターゲット4側に位置していれば、第4領域R4は、外側表面52におけるターゲット4側の端部52aを含むラウンド状の領域でなくてもよい。また、第1領域R1と第2領域R2とは、互いに離れていてもよい。同様に、第3領域R3と第4領域R4とは、互いに離れていてもよい。
【0059】
X線管1は、密封反射型X線管として構成されていてもよい。或いは、X線管1は、開放透過型X線管又は開放反射型X線管として構成されていてもよい。開放透過型又は開放反射型のX線管は、筐体が開放可能に構成されており、部品(例えば、窓部材、電子銃の各部)の交換等が可能なX線管である。開放透過型又は開放反射型のX線管を備えるX線発生装置では、真空ポンプによって筐体内の空間の真空引きが実施される。
【符号の説明】
【0060】
1…X線管、2…筐体、3…電子銃、4…ターゲット、32…カソード、34…第2グリッド電極(集束電極)、51…内側表面、52…外側表面、52a…端部、53…内側側面、53a,53b…端部、54…内側底面、55…外側底面、531…第1側面、532…第2側面、R1…第1領域、R2…第2領域、R3…第3領域、R4…第4領域。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
前記筐体内において前記電子ビームの入射によってX線を発生させるターゲットと、を備え、
前記電子銃は、
電子を放出するカソードと、
前記電子を前記電子ビームとして前記ターゲットに集束させる集束電極と、を有し、
前記集束電極は、内側表面及び外側表面を有する筒状を呈しており、
前記内側表面は、第1領域、及び、前記第1領域に対して前記ターゲット側に位置している第2領域を含み、
前記第2領域の平均粗さは、前記第1領域の平均粗さよりも小さく、
前記内側表面は、前記ターゲット側に向いた内側底面を有し、
前記内側底面は、前記第1領域であり、
前記内側表面は、内側側面を更に有し、
前記内側側面のうち前記カソード側の端部を含む第1側面は、前記第1領域であり、
前記内側側面のうち前記ターゲット側の端部を含む第2側面は、前記第2領域であり、
前記外側表面の平均粗さは、前記第2側面の前記平均粗さよりも小さい、X線管。
【請求項2】
前記第2側面の平均粗さは、0.4μm以上1.0μm以下であり、
前記内側底面の平均粗さは、1.0μm以上3.2μm以下である、請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記第1側面の平均粗さは、1.0μm以上1.6μm以下である、請求項2に記載のX線管。
【請求項4】
前記外側表面の前記平均粗さは、0.05μm以上0.4μm以下である、請求項1に記載のX線管。
【請求項5】
前記外側表面は、第3領域、及び、前記第3領域に対して前記ターゲット側に位置している第4領域を含み、
前記第4領域の平均粗さは、前記第3領域の平均粗さよりも小さい、請求項1に記載のX線管。
【請求項6】
前記第4領域は、前記外側表面における前記ターゲット側の端部を含むラウンド状の領域である、請求項5に記載のX線管。
【請求項7】
前記集束電極は、前記ターゲットとは反対側に向いた外側底面を更に有し、
前記外側底面の平均粗さは、前記第4領域の平均粗さよりも大きい、請求項5に記載のX線管。