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特開2024-40287エチレンビニルアルコール共重合体組成物、それを含む単層フィルム及び多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040287
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】エチレンビニルアルコール共重合体組成物、それを含む単層フィルム及び多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240315BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240315BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240315BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240315BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C08L29/04 C
C08L27/12
B32B27/18 G
B32B27/28 102
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016809
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2022023311の分割
【原出願日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】111100271
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】スー、シーユアン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ホウシ
(57)【要約】
【課題】エチレンビニルアルコール共重合体組成物、それを含む単層フィルム及び多層構造体を提供する。
【解決手段】エチレンビニルアルコール共重合体、酸化防止剤及び含フッ素化合物を含むエチレンビニルアルコール共重合体組成物であって、酸化防止剤含有量とフッ素含有量との比が0.5~65である。当該エチレンビニルアルコール共重合体組成物を含むフィルムは、良好な耐熱性を有するだけでなく、製造過程中にゲル粒子が大量に発生する状況を回避することもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンビニルアルコール共重合体、酸化防止剤、及び含フッ素化合物を含むエチレンビニルアルコール共重合体組成物であって、
前記含フッ素化合物は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるか、又は、フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)からなる群より選択される少なくとも2種から選択された共重合体であり、
前記酸化防止剤の含有量が250ppm~3200ppmであり、
フッ素含有量が40ppm~700ppmであり、
前記エチレンビニルアルコール共重合体組成物に含まれる前記酸化防止剤含有量と前記フッ素含有量との比が0.5~65である、エチレンビニルアルコール共重合体組成物。
【請求項2】
前記酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤、チオエステル系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤及びジフェニルケトン系酸化防止剤からなる群から選択される、請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体組成物。
【請求項3】
10~450ppmのホウ素含有量を有する、請求項1又は2に記載のエチレンビニルアルコール共重合体組成物。
【請求項4】
10~450ppmのアルカリ金属含有量を有する、請求項1又は2に記載のエチレンビニルアルコール共重合体組成物。
【請求項5】
前記含フッ素化合物は、粒子形態を有し、そのサイズは20μm以下である、請求項1又は2に記載のエチレンビニルアルコール共重合体組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体組成物を含む単層フィルムであって、1m2の面積内において粒径が100μm以下のゲル粒子が200個未満である、単層フィルム。
【請求項7】
前記エチレンビニルアルコール共重合体組成物中のエチレン含有量が20~35mol%であり、150℃下における耐熱時間が110時間以上である、請求項6に記載の単層フィルム。
【請求項8】
前記エチレンビニルアルコール共重合体組成物中のエチレン含有量が36~50mol%であり、150℃下における耐熱時間が80時間以上である、請求項6に記載の単層フィルム。
【請求項9】
請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体組成物により形成される少なくとも1つの層と、
少なくとも1つのポリマー層と、
少なくとも1つの粘着層と、
を含む、多層構造体。
【請求項10】
前記ポリマー層は、ポリエチレン層、無水マレイン酸グラフトポリエチレン層、ポリプロピレン層、ナイロン層、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載の多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にエチレンビニルアルコール共重合体(ethylene-vinyl alcohol,EVOH)組成物に関するものであるが、これに限定されるものではない。本発明は、特に、エチレンビニルアルコール共重合体組成物、それを含む単層フィルム、及び多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンビニルアルコール共重合体(ethylene-vinyl alcohol,EVOH)組成物は、良好な透明度、ガスバリア性、耐溶剤/油性及び機械的強度などの特性を有しており、傷みやすい物品を保存可能な積層シートに広く使用されている。例えば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物及び積層シートは、食品包装産業、医療機器及び付属品産業、製薬産業、電子産業並びに農業用化学品産業において広く使用されている。具体的には、エチレンビニルアルコール共重合体組成物は、一般的に、積層シート中に加えて別個の層を形成し、酸素バリア層とするのに用いられている。
【0003】
エチレンビニルアルコール共重合体の製造工程は高温条件になることが多いが、その分子内に多くの反応活性基を有するため、高温加工条件下で材料の安定性が変化しやすくなる。具体的には、製造工程で使用する金型(ダイ)に炭素蓄積が発生したり、試料にゲルが発生したり、さらには最終製品が劣化しやすくなるなどの状況を招くことさえある。そのため、耐熱性はエチレンビニルアルコール共重合体の調製において、間違いなく重要な特性の1つである。
【0004】
現段階の技術では通常、上述の問題を解決するために、例えば材料に特定の含有量の酸化防止剤を添加するなど、各種の熱安定剤又は助剤の添加が採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要は、本発明を簡潔に要約し、読者に本発明への基本的な理解を得させることを目的としている。発明の概要は、本発明を完全に記述するものではなく、本発明の実施例の重要又は主要な構成要素の指摘や本発明の範囲の画定を意図するものでもない。
【0006】
本発明の発明者らは、従来技術の内容に基づきエチレンビニルアルコール共重合体材料中に特定の酸化防止剤を添加することは、調製における耐熱性を有効に高め得るものの、同時にエチレンビニルアルコール共重合体材料中に大量のゲル粒子(gel、フィッシュアイとも呼ばれる)を発生させてしまうことに気付いた。この問題について、発明者らがさらに実験を行ったところ、特定の酸化防止剤と含フッ素化合物とを同時に添加すると、材料が高熱の金属上に付着するのを含フッ素化合物が防ぎ、且つエチレンビニルアルコール共重合体と酸化防止剤の混合効果を高める得ることとの知見を得た。これにより、エチレンビニルアルコール共重合体材料に酸化防止剤を添加することで大量のゲル粒子が発生する問題が解決される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的には、本発明の一実施態様として、エチレンビニルアルコール共重合体、酸化防止剤及び含フッ素化合物を含むエチレンビニルアルコール共重合体組成物であって、エチレンビニルアルコール共重合体組成物に含まれる酸化防止剤含有量とフッ素含有量との比の値が0.5~65であるエチレンビニルアルコール共重合体組成物を提供する。
【0008】
本発明の一実施態様によれば、前記酸化防止剤の含有量は250ppm~3200ppmである。
【0009】
本発明の一実施態様によれば、前記酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤、チオエステル系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、及びジフェニルケトン系酸化防止剤からなる群から選択される。
【0010】
本発明の一実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物のフッ素含有量は40ppm~700ppmである。
【0011】
本発明の一実施態様によれば、前記含フッ素化合物は、フッ化ビニリデン(vinylidene fluoride,VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene,HFP)、及びテトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene,TFE)からなる群から選択される1つの化合物、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0012】
本発明の一実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中のホウ素含有量は10~450ppmである。
【0013】
本発明の一実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中のアルカリ金属含有量は10~450ppmである。
【0014】
本発明の一実施態様によれば、前記含フッ素化合物は、粒子形態を有し、そのサイズは20μm以下である。
【0015】
本発明の別の態様として、前記エチレンビニルアルコール共重合体組成物を含む単層フィルムであって、その1m2の面積内において粒径が100μm以下のゲル粒子が200個未満である単層フィルムを提供する。
【0016】
本発明の一実施態様によれば、単層フィルムを構成するエチレンビニルアルコール共重合体組成物に含まれるエチレン含有量は20~35mol%であり、150℃下における耐熱時間は110時間以上である。
【0017】
本発明の一実施態様によれば、単層フィルムを構成するエチレンビニルアルコール共重合体組成物に含まれるエチレン含有量は36~50mol%であり、150℃下における耐熱時間は80時間以上である。
【0018】
本発明のさらなる実施態様によれば、前記エチレンビニルアルコール共重合体組成物により形成された層を少なくとも1つ含む層構造体を提供する。当該多層構造体は、少なくとも1つのポリマー層と少なくとも1つの粘着層を含む。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、前記ポリマー層は、ポリエチレン層、無水マレイン酸グラフトポリエチレン層、ポリプロピレン層、ナイロン層、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の特徴は以下の通りである。本発明が提供するエチレンビニルアルコール共重合体組成物は、酸化防止剤と含フッ素化合物とが、特定範囲の含有量比で添加されていることにより、優れた耐熱性を有するだけでなく、製造工程中にゲル粒子が大量に発生するのを回避することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明をより詳細に且つ不備なく説明するため、以下に本発明の実施形態及び具体的な実施例を説明するが、これらは本発明を実施又は応用する具体的な実施例の唯一の形態ではない。本明細書及び特許請求の範囲において、特段の記載がない限り、「1つ」及び「前記」という用語は複数であると解釈し得る。また、本明細書及び特許請求の範囲において、特段の記載がない限り、「ある物の上に設置される」とは、直接又は間接的にある物の表面と貼り付けられるか、その他の形態で接触すると見なすことができ、表面の画定は明細書の内容の前後/段落の含意及び本明細書が属する分野における通常の知識により判断されるものとする。
【0022】
本発明を画定する数値の範囲やパラメータは、何れもおおよその数値ではあるが、具体的な実施例における関連数値は可能な限り精確に示している。しかしながら、如何なる数値であっても、個別の試験方法に起因する標準偏差を含むことは本質的に不可避である。この点について、「約」は一般的に、実際の数値が特定の数値又は範囲の±10%、5%、1%又は0.5%以内であることを指す。あるいは、「約」という用語は、本発明が属する分野の当業者によって考慮・判断される場合、実際の数値が平均値の許容可能な標準誤差内にあることを意味する。従って、反対の説明がない限り、本明細書及び特許請求の範囲が開示する数値のパラメータはいずれも近似値であり、必要に応じて変化すると見なし得る。少なくとも、それらの数値のパラメータは、指し示される有効な桁数と通常の四捨五入法を適用することによって得られた数値であると解釈されるべきである。
【0023】
本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)組成物に関するものである。当該エチレンビニルアルコール共重合体組成物は、エチレンビニルアルコール共重合体、酸化防止剤及び含フッ素化合物を同時に含み、酸化防止剤含有量とフッ素含有量比が特定の範囲内にある。エチレンビニルアルコール共重合体組成物は、単層フィルム又は多層構造体の製造に用いることができる。
【0024】
本発明の一態様として、エチレンビニルアルコール共重合体、酸化防止剤、及び含フッ素化合物を含むエチレンビニルアルコール共重合体組成物を提供するが、当該エチレンビニルアルコール共重合体組成物に含まれる酸化防止剤含有量とフッ素含有量の比が0.5~65であり、例えば、0.52、0.53、4.25、4.80、4.87、5.13、5.50、7.58、8.57、8.64、9.86、10.21、10.47、10.67、27.23、50.28又は63.50である。
【0025】
本明細書に記載の「酸化防止剤」とは、エチレンビニルアルコール共重合体の劣化により発生するフリーラジカルを捕捉するのに用いられる化合物である。本発明の少なくとも一つの実施態様によれば、酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、亜リン酸エステル系酸化防止剤、チオエステル系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、及びジフェニルケトン系酸化防止剤からなる群から選択される。好ましい実施態様において、酸化防止剤の含有量は、エチレンビニルアルコール共重合体組成物に対して250ppm~3200ppmであり、例えば、250ppm、500ppm、750ppm、1000ppm、1250ppm、1500ppm、1750ppm、2000ppm、2250ppm、2500ppm、2750ppm、3000ppm、3200ppm又は上述の任意の2つの数値の間であるが、これらに限定されない。本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中に酸化防止剤を含み、エチレンビニルアルコール共重合体が熱を受ける過程で発生するフリーラジカルを捕捉してエチレンビニルアルコール共重合体の劣化を低減すことができる。
【0026】
本明細書に記載の含フッ素化合物は、フッ素ポリマーとも呼ばれる。本発明の少なくとも1つの実施態様によれば、含フッ素化合物は、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride,PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリヘキサフルオロプロピレン(polyhexafluoropropylene)、ポリクロロトリフルオロエチレン(polychlorotrifluoroethylene,PCTFE)、2-クロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(2-chloropentafluoropropene)、ジクロロジフルオロエチレン(dichlorodifluoroethylene)、1,1-ジクロロフルオロエチレン(1,1-dichlorofluoroethylene)から選択されるか、又はそれらの組み合わせを含み得る。さらに/又は、含フッ素化合物は、フッ化ビニリデン(vinylidene fluoride,VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene,HFP)、及びテトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene,TFE)のうち、少なくとも2種類から選択された共重合体に由来する。幾つかの実施態様において、フッ素ポリマーは、VDF、HFP及びTFEのうち、2種類以上に由来する共重合体を含むことができる。例えば、フッ素ポリマーは、VDF及びHFPに由来する共重合体、TFE及びHFPに由来する共重合体、VDF及びTFEに由来する共重合体、並びに/又はVDF、HFP及びTFEに由来する共重合体を含むことができる。
【0027】
エチレンビニルアルコール共重合体組成物のフッ素含有量は、エチレンビニルアルコール共重合体組成物に対して40ppm~700ppmである。本発明の幾つかの実施態様によれば、フッ素含有量は40~100ppm、101~200ppm、201~300ppm、301~400ppm、401~500ppm、501~600ppm、又は601~700ppmでよい。本発明の少なくとも1つの実施態様によれば、含フッ素化合物は粒子形態を有する。好適には、粒子形態は微粒子であってよい。国際純正・応用化学連合(IUPAC)によれば、微粒子の定義は10-7~10-4メートルである。本発明において、粒子のサイズは直径又は断面積の主軸長さで表している。含フッ素化合物のサイズは、フッ素ポリマーのタイプ又は種類、フッ素ポリマーの量及びエチレンビニルアルコール共重合体組成物中のエチレン含有量を調節することによりコントロールすることができる。含フッ素化合物粒子が球状である場合、含フッ素化合物粒子が所望の粒度を有するか否かはその断面の直径により決定する。含フッ素化合物粒子が球状ではなく、及び/又は含フッ素化合物粒子の断面形状が円形ではない(例えば楕円形又は塊状を呈する)場合、含フッ素化合物粒子が所望の粒度を有するか否かは含フッ素化合物粒子の断面の主軸長さにより決定する。主軸の定義は、最大の長さを有する軸とする。幾つかの実施態様において、EVOH組成物の断面上で評価されるすべての含フッ素化合物粒子のサイズはいずれも20μm以下であり、例えば19μm以下、18μm以下、16μm以下、14μm以下、又は12μm以下である。適量の含フッ素化合物粒子は、本発明のエチレンビニルアルコール共重合体組成物が熱を受ける過程において、金型(ダイ)の残留炭素の発生を減らし得るだけでなく、エチレンビニルアルコール共重合体組成物の押出成形時におけるゲルの数を低減することもでき、製品の製造工程を円滑にし、品質をより優れたものにさせる。
【0028】
従来技術では、エチレンビニルアルコール共重合体の耐熱性を高めるために酸化防止剤を添加することが常であるが、本発明者らは、熱耐性を高めるためにより多くの酸化防止剤を添加すると凝集してゲルの発生を招くことに気づいた。本発明は、含フッ素化合物を添加することにより、エチレンビニルアルコール共重合体組成物が加工時に安定的に加熱できるようになり、酸化防止剤の存在によって耐熱特性をより顕著に向上させ、ゲルの現象も低減させる。すなわち、本発明は、含フッ素化合物の存在が酸化防止剤の性能を向上させ、両者が同時に存在することでエチレンビニルアルコール共重合体組成物の加工性能も向上するということである。
【0029】
本発明の別の面として、本発明者らは、エチレンビニルアルコール共重合体組成物がエチレンビニルアルコール共重合体、酸化防止剤、及び含フッ素化合物を同時に含むことで、エチレンビニルアルコール共重合体組成物が機械中の高熱金属に付着するのを含フッ素化合物が防ぎ、物理的性質に関する外部効果を達成し得ること、また、それによりエチレンビニルアルコール共重合体が酸化防止剤とより一層混合できるようになり、酸化防止剤の効果が発揮されて、化学反応に関する内部効果を達成し得ることに気づいた。従って、本発明のエチレンビニルアルコール共重合体組成物が達成する内的・外的な追加効果は、一方のみを添加した場合の効果と比べてさらに優れている。
【0030】
本発明の幾つかの実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物はホウ素化合物をさらに含み、且つその含有量は10~450ppmである。具体的には、ホウ素含有量は、エチレンビニルアルコール共重合体組成物の総重量に基づき、10~450ppm、10~約400ppm、10~約350ppm、10~約300ppm、10~約275ppm、10~約250ppm、10~約225ppm、10~約200ppm、10~約175ppm、約20~450ppm、約20~約400ppm、約20~約350ppm、約20~約300ppm、約20~約275ppm、約20~約250ppm、約20~約225ppm、約20~約200ppm、約20~約175ppm、約60~450ppm、約60~約400ppm、約60~約350ppm、約60~約300ppm、約60~約275ppm、約60~約250ppm、約60~約225ppm、約60~約200ppm、約60~約175ppm、約100~450ppm、約100~約400ppm、約100~約350ppm、約100~約300ppm、約100~約275ppm、約100~約250ppm、約100~約225ppm、約100~約200ppm、約100~約175ppm、約140~450ppm、約140~約400ppm、約140~約350ppm、約140~約300ppm、約140~約275ppm、約140~約250ppm、約140~約225ppm、約140~約200ppm、約180~約450ppm、約180~約400ppm、約180~約350ppm、約180~約300ppm、約180~約275ppm、約180~約250ppm、約180~約225ppm、約220~450ppm、約220~約400ppm、約220~約350ppm、約220~約300ppm、約220~約275ppmであり得る。エチレンビニルアルコール共重合体組成物中のホウ素含有量が一定範囲内にある場合、その粘度が増加し、且つスクリューに粘着する機会が低減し、材料に自浄機能を持たせることができる。その結果、フィルム厚みの均一性をさらに改善することができる。
【0031】
ある状況下において、ホウ素化合物はホウ酸又はその金属塩を含み得る。金属塩の例として、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛など)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウムなど)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウムなど)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウムなど)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀など)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅など)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウムなど)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛など)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケルなど)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウムなど)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウムなど)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガンなど)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウムなど)、それらの塩又はそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されるものではない。例えば、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、ザイベリ石/スーアン石(suanite)、及びザイベリ石(szaibelyite)などのホウ酸塩鉱物などを含み得る。これらのなかでも、ホウ砂、ホウ酸、及びホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム及び八ホウ酸ナトリウムなど)を使用するのが好ましい。
【0032】
ある状況下において、エチレンビニルアルコール共重合体組成物は、ホウ素含有量が10~450ppmであるだけでなく、さらにケイ皮酸、アルカリ金属、共役ポリエン、潤滑剤、アルカリ土類金属、それらの塩及び/又はそれらの混合物を含み得る。上記の物質は、エチレンビニルアルコール共重合体組成物に、より良好な性質を持たせるのに用い得る。本発明の幾つかの実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中の単位重量あたりの共役ポリエン構造化合物の含有量が1~30000ppmである場合、加熱後の着色がより一層抑制され、熱安定性をより優れたものにし得る。エチレンビニルアルコール共重合体組成物中の単位重量あたりのアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物の含有量が金属換算で1~1000ppm、好適には10~450ppmである場合、ロングラン成形性をより優れたものにし得る。また、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中の単位重量あたりの潤滑剤含有量が1~300ppmである場合、加工性をより優れたものにし得る。少なくとも1つの好ましい実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中のアルカリ金属含有量は10~450ppmであり、例えば、10ppm、50ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、300ppm、350ppm、400ppm、450ppm又は上述の任意の2つの数値の間であるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
別の実施態様として、本発明はさらに、前記エチレンビニルアルコール共重合体組成物を含む単層フィルムを提供するが、当該単層フィルムは、その1m2の面積内において粒径が100μm以下のゲル粒子が200個未満である。具体的には、前記ゲル粒子数の測定は、電荷結合素子(charged coupled device,CCD)センサ及びFSA-100 V.8ソフトウェアにより設計されたFSA-100を使用して分析を行った。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施態様によれば、単層フィルムの厚さは50~150μmであり、好適には100μmである。別の実施態様として、単層フィルムに含まれるエチレンビニルアルコール共重合体は所定のエチレン含有量を有し、例えば、エチレン含有量は、約20~約50mol%、約25~約45mol%、約28~約42mol%、又は約30~約40mol%でよい。エチレンビニルアルコール共重合体組成物は、異なるエチレン含有量を有する2種類以上のエチレンビニルアルコール共重合体により形成することもできる。例えば、1種のエチレンビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は、約20~約35mol%の範囲内でよく、例えば約24~約35mol%、約28~約35mol%、約20~約32mol%、約24~約32mol%、約28~約32mol%、約20~約30mol%、又は約24~約30mol%である。さらに、エチレンビニルアルコール共重合体組成物の150℃の温度条件下における耐熱時間は110時間以上である。さらに/又は、本発明の幾つかの実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は、約36~約50mol%の範囲内でよく、例えば約40~約50mol%、約44~約50mol%、約36~約45mol%又は約40~約45mol%である。さらに、エチレンビニルアルコール共重合体組成物の150℃の温度条件下における耐熱時間は80時間以上である。
【0035】
また、本発明は多層構造体をさらに提供する。当該多層構造体は、本発明のエチレンビニルアルコール共重合体組成物により形成された少なくとも1つの層、少なくとも1つのポリマー層、及び少なくとも1つの粘着剤層(adhesive layer)を含む。そのうち、ポリマー層は、ポリエチレン層、無水マレイン酸グラフトポリエチレン層、ポリプロピレン層、ナイロン層、及びそれらの組み合わせから選択することができる。粘着剤層は、例えばARKEMA社のARKEMA OREVAC 18729などの結合層(tie layer)でよい。
【実施例0036】
実施例
【0037】
以下で提供する本発明の各態様の非限定的実施例は、主に本発明の各態様及びそれにより達成される効果を明らかにするためのものである。
【0038】
エチレンビニルアルコール共重合体の調製
【0039】
本発明の少なくとも1つの実施例によれば、エチレンビニルアルコール共重合体の調製は、エチレン含有量が29又は44mol%のエチレン酢酸ビニル共重合体(ethylene-vinyl acetate copolymer、以下では「EVAC」と呼ぶ)のケン化を行い、ケン化度99.5%でエチレンビニルアルコール共重合体を調製するものである。次に、エチレンビニルアルコール共重合体を、メタノールと水(比率は70:30)を含有した溶液中に溶解させた。その後、溶液におけるエチレンビニルアルコール共重合体の固体含有量は41重量%となり、溶液を60℃下に置いた。
【0040】
続いて、水中ペレット製法(underwater pelletization)により、上述のメタノール、水、及びエチレンビニルアルコール共重合体の溶液の造粒を行った。具体的には、ポンプを使用して、上述のメタノール、水、及びエチレンビニルアルコール共重合体の溶液を流速120L/minで供給管に送り、次に直径2.8mmの吸込管へ送り、回転ナイフを用いて1500rpmでカットした。5℃の水を添加して、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットを冷却した。次に、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットを遠心分離して、エチレンビニルアルコール共重合体粒子を分離した。分離したエチレンビニルアルコール共重合体粒子を水で洗浄した後、乾燥してエチレンビニルアルコール共重合体ペレットを得た。
【0041】
含フッ素化合物Aの調製
【0042】
オートクレーブを回分反応器として使用し、含フッ素化合物Aを調製した。オートクレーブの内容積は約20Lであり、電磁誘導撹拌装置が設置されている。オートクレーブに窒素ガス(N2)を十分に充填し、その後に減圧した窒素ガスを5回充填した。
【0043】
オートクレーブ内を減圧させると同時に、6,960gの脱酸素純水、3,204gの1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び3.5gのメチルセルロースをオートクレーブに加えた。メチルセルロースの粘度は50cpであり、懸濁安定剤としてオートクレーブ内の組成物中に450rpmで撹拌混入した。オートクレーブ内の組成物は52℃の温度環境下に置いた。
【0044】
25.3重量%のフッ化ビニリデン(VDF)、68.6重量%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)及び6.1重量%のテトラフルオロエチレン(TFE)から構成されるモノマーを充填ガスとしてバッチ中に混入して、10kg/cm2まで充填した。その後、約90重量%の1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び10重量%のジイソプロピルパーオキシジカーボネートを含有する溶液45.6gを触媒として添加し、重合反応を開始した。ジイソプロピルパーオキシジカーボネートは、重合反応を開始させるための開始剤として用いた。重合反応過程では圧力が低下するため、44.7重量%のVDF、32.5重量%のHFP及び22.8重量%のTFEを有する混合モノマーを添加して、圧力を10kg/cm2まで上げた。重合反応完了後、残りの混合モノマーを除去し、且つ得られた懸濁液を遠心分離機で脱水し、脱イオン水で洗浄してから100℃で真空乾燥させて、7.5kgの含フッ素化合物Aを得た。
【0045】
含フッ素化合物Bの調製
【0046】
同様のオートクレーブを使用して含フッ素化合物Bを調製し、且つ含フッ素化合物Aと同じ方法に従って設置した。オートクレーブは同様に減圧した窒素ガスの充填を5回繰り返した。
【0047】
オートクレーブ内を減圧させると同時に、7,200gの脱酸素純水、3,250gの1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び4gのメチルセルロースをオートクレーブに加えた。メチルセルロースの粘度は50cpであり、懸濁安定剤としてオートクレーブ内のバッチ中に500rpmで撹拌混入した。オートクレーブ内のバッチは52℃の温度環境下に置いた。
【0048】
25重量%のVDF、55重量%のHFP及び20重量%のTFEから構成されるモノマーを充填ガスとして、20kg/cm2まで充填した。その後、約85重量%の1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン及び15重量%のジイソプロピルパーオキシジカーボネートを含有する溶液40gを触媒として添加し、重合反応を開始させた。ジイソプロピルパーオキシジカーボネートは、重合反応を開始させるための開始剤として用いた。重合反応過程では圧力が低下するため、40重量%のVDF、35重量%のHFP及び25重量%のTFEを有する混合モノマーを添加して、圧力を20kg/cm2まで上げた。重合反応完了後、残りの混合モノマーを除去し、且つ得られた懸濁液を遠心分離機で脱水し、脱イオン水で洗浄してから100℃で真空乾燥させて、6kgの含フッ素化合物Bを得た。
【0049】
エチレンビニルアルコール共重合体組成物の調製
【0050】
本発明のエチレンビニルアルコール共重合体組成物の調製には、前述の必須成分であるエチレンビニルアルコール共重合体、含フッ素化合物及び酸化防止剤を採用し、必要に応じて別途上述の任意成分を配合して製造する。製造方法は、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法など、公知の方法でもよいし、これらの方法を任意に組み合わせたものを採用してもよい。
【0051】
本発明の幾つかの実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットと酸化防止剤及び含フッ素化合物とを直接一緒に乾式混合器などでドライブレンドする方法、又は溶融混練する方法によってエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子を調製することができる。
【0052】
本発明の別の幾つかの実施態様によれば、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットを含フッ素化合物や酸化防止剤と別々に混練して2つのマスターバッチを形成した後、2つのマスターバッチをドライブレンドするなどの方法でエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子を調製することができる。
【0053】
単層フィルムの調製
【0054】
本発明の幾つかの実施例によれば、上述の調製したエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子をさらに単層Tダイキャストフィルム押出機(光学制御システムMEV4)へ送り、フィルムを製造する。具体的には、押出機の温度設定は220℃、金型(即ちTダイ)の温度設定は230℃、スクリューの回転数は7rpm(rotations/minutes)とした。
【0055】
分析及び評価方法
【0056】
酸化防止剤含有量の分析
【0057】
本発明の幾つかの実施態様によれば、分析方法は、最初に200gの最終製品粒子を均一に粉砕し、その中から5gの粉末試料を採取して10mlの有機溶媒(トルエン、ジクロロトルエン、アセトンなどの酸化防止剤を溶解可能な溶媒)で抽出し、抽出液を希釈してからLC-Q-TOFで分析するというものである。別の態様として、酸化防止剤の標準溶液で標準曲線を作成し、絶対検量線法によって酸化防止剤の含有量を定量することができる。
【0058】
総フッ素含有量の分析
【0059】
総フッ素含有量は、イオンクロマトグラフ(IC)を用いて分析を行った。
計器:Metrohm 930 Compact IC Flex/Ses/PP/Deg
検出方法:NIEA W415.54B(水中陰イオン検出方法)
前処理:酸素ボンブにより試料20gを燃焼させた後、水で抽出してから化学分析を行った。試料はランダムサンプリングし、10回サンプリングして分析した後、10回の検査における平均値を求めた。
【0060】
ゲル粒子の分析及び評価
【0061】
エチレンビニルアルコール共重合体組成物からフィルムシートを作製した後、電荷結合素子(charged coupled device,CCD)センサ及びFSA-100 V.8ソフトウェアにより設計されたFSA-100を使用してゲル粒子の測定・分析を行った。具体的には、1m2内においてサイズが100μm以下のゲル粒子数が200個未満であれば「O」で示し、1m2内においてサイズが100μm以下のゲル粒子数が200個より多ければ「×」で示した。
【0062】
耐熱性の分析及び評価
【0063】
エチレンビニルアルコール共重合体組成物から、厚さ100μmのフィルムシートを作製した後、150℃の標準試験温度下で、DIN EN ISO 2578:1998-10を用いてエージング状態の測定を行った。そのうち、引っ張り試験の方法にはASTM D882を採用した。具体的には、エチレン含有量が20~35mol%のエチレンビニルアルコール共重合体は、耐熱時間が110時間より多ければ「O」、そうでなければ「×」と評価した。エチレン含有量が36~50mol%のエチレンビニルアルコール共重合体は、耐熱時間が80時間より多ければ「O」、そうでなければ「×」と評価した。
【0064】
実施例1~17
【0065】
本発明は、上述と同じ又は類似の調製方法を用いて実施例1~17のエチレンビニルアルコール共重合体組成物を調製した。変数や調製パラメータの詳細は表1-1及び表1-2を参照されたい。
【表1】
【表2】
【0066】
具体的には、実施例1~17のうち、実施例1の製法は、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットと酸化防止剤及び含フッ素化合物を直接一緒に溶融混練する方法によってエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子を調製するというものである。実施例1の具体的な製法については、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットと酸化防止剤及び含フッ素化合物をZenix ZPT-32HT二軸押出機(ZENIX INDUSTRIAL CO.,LTD.から購入)で混練し、アスペクト比は20:1(20mm/mm)、二軸スクリュー回転数は100rpm、ホッパ回転数は15rpmとした。
【0067】
実施例2~17の製法は、工程1でエチレンビニルアルコール共重合体ペレットを酸化防止剤に添加してマスターバッチMB-Aを作製し、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットを含フッ素化合物に添加してマスターバッチMB-Bを作製し、続けて、工程2で2つのマスターバッチ(MB-A及びMB-B)をドライブレンド方法でエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子にするというものである。具体的には、実施例2~17は実施例1と同じ押出機を使用し、アスペクト比は20:1(20mm/mm)、二軸スクリュー回転数は10rpmとして、EVOHを酸化防止剤及び含フッ素化合物とそれぞれ混練し、MB-AとMB-Bとを別々に作製してから、EVOHと、作製したMB-A及びMB-Bとを乾式混合器中で30rpmの回転数で30分間混合した。
【0068】
なお、このほかに、表1-1及び1-2中の含有量パラメータは重量部を表しており、用いた単位はいずれも重量百分率(%)であること、EV29はエチレン含有量が29mol%のエチレンビニルアルコール共重合体組成物を表し、EV44はエチレン含有量が44mol%のエチレンビニルアルコール共重合体組成物であることを表すこと、酸化防止剤はここではヒンダードフェノール型(商品コード:IRGANOX 1010;Antioxidant CA;IRGANOX 1098)、ヒンダードアミン(商品コード:Naugard(R)445)、亜リン酸エステル型(商品コード:IRGANOX 168)、チオエステル型(商品コード:Naugard(R)412S)を採用していること、含フッ素化合物は上述の含フッ素化合物A及びBをそれぞれ採用していることを理解されたい。
【0069】
比較例1~15
【0070】
本発明は、上述と同じ又は類似の調製方法を用いて比較例1~15のエチレンビニルアルコール共重合体組成物を調製した。変数や調製パラメータの詳細は表2-1及び表2-2を参照されたい。
【表3】
【表4】
【0071】
具体的には、比較例1~15のうち、比較例1~2には如何なる酸化防止剤及び含フッ素化合物も添加していない。比較例3の製法は実施例1と類似しており、エチレンビニルアルコール共重合体ペレットと酸化防止剤を直接一緒に溶融混練する方法によってエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子を作製するというものである。比較例4~15の製法は実施例2~17と類似しており、工程1でエチレンビニルアルコール共重合体ペレットを酸化防止剤又は含フッ素化合物にそれぞれ添加して2つのマスターバッチを作製し(それぞれはMB-A及びMB-B)、工程2で2つのマスターバッチをドライブレンド方法でエチレンビニルアルコール共重合体組成物粒子にするというものである(そのうち、比較例6中のマスターバッチはMB-Aのみを有し、比較例15中のマスターバッチはMB-Bのみを有する)。
【0072】
なお、この他に、表2-1及び2-2中の含有量パラメータは重量部を表しており、用いた単位はいずれも重量百分率(%)であること、EV29はエチレン含有量が29mol%のエチレンビニルアルコール共重合体組成物を表し、EV44はエチレン含有量が44mol%のエチレンビニルアルコール共重合体組成物を表すこと、酸化防止剤はここではヒンダードフェノール型(商品コード:IRGANOX 1010;Antioxidant CA;IRGANOX 1098)、亜リン酸エステル型(商品コード:IRGANOX 168)に分けられること、含フッ素化合物は上述の含フッ素化合物A及びBをそれぞれ採用していることを理解されたい。
【0073】
分析及び評価結果
【0074】
本発明はさらに、実施例1~17及び比較例1~15の酸化防止剤含有量、総フッ素濃度及び両者の比の値を分析した。またさらに、実施例1~17及び比較例1~15のエチレンビニルアルコール共重合体組成物により作製した単層フィルムの「ゲル粒子の発生」及び「耐熱性」について分析と評価を行った。NAは含有量が0か又は含有量の数値が低すぎて検出できなかったことを表している。結果の詳細は表3-1及び3-2をそれぞれ参照されたい。
【表5】
【表6】
【0075】
比較すると、エチレンビニルアルコール共重合体組成物の酸化防止剤及び含フッ素化合物の含有量の比の値が0.5~65である場合(実施例1~17など)、作製されたフィルムは理想的な耐熱性を有するだけでなく、調製過程中にゲル粒子が大量に発生する状況を回避し得ることも分かる。反対に、比較例1~2の如何なる酸化防止剤及び含フッ素化合物も添加しない場合では、耐熱性の性能が理想的ではなかった。比較例3及び6は酸化防止剤のみを含むが、比較例3及び6のフィルムの性能特性については良好な耐熱性を有するのみであり、ゲル粒子の性能は好ましくなかった。比較例15は含フッ素化合物のみを有するが、フィルムの性能特性については耐熱性とゲル粒子の性能がいずれも好ましくなかった。また、残りの比較例は酸化防止剤と含フッ素化合物が同時に添加されていたものの、含有量の比の値が0.5~65の範囲内ではなかったために、いずれも理想的な耐熱性とゲル粒子が大量に発生する状況の回避を同時に実現することはできなかった。
【0076】
従って、本発明は、エチレンビニルアルコール共重合体組成物中の酸化防止剤とフッ素化合物との含有量比をコントロールすることにより、エチレンビニルアルコール共重合体組成物及びそれを含むフィルムに優れた耐熱性を付与するだけでなく、フィルムの製造過程中にゲル粒子が大量に発生するのを回避することもできる。
【0077】
以上で本発明について詳細に説明したが、上述は本発明の好ましい実施態様に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。本発明の特許請求の範囲に基づく同等変化や修飾はいずれも本発明の特許請求の範囲に属するものである。