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特開2024-40295低吸着性シーラントフィルム、積層体および包装袋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040295
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】低吸着性シーラントフィルム、積層体および包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240315BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017081
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2020550420の分割
【原出願日】2019-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018188194
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018188195
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸山 裕子
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(57)【要約】
【課題】 種々の有機化合物からなる成分が吸着しにくく、140℃のヒートシール性に優れる一方で、100℃ヒートシール強度が低く包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際もヒートシール層同士が粘着しにくいシーラントフィルムを提供すること。
【解決手段】 少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下(1)~(3)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を120℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が4N/15mm以上15N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)ヒートシール層において、X線電子分光法(ESCA)で求めた酸素原子の存在比率が26.6%以上31.0%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下(1)~(3)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を120℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が4N/15mm以上15N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)ヒートシール層において、X線電子分光法(ESCA)で求めた酸素原子の存在比率が26.6%以上31.0%以下
【請求項2】
三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが18μm以上29μm以下である請求項1に記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項3】
前記ヒートシール面同士の動摩擦係数が0.30以上0.80以下である請求項1又は2に記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項4】
フィルムを構成する成分が、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる請求項1~3のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項5】
ヒートシール層を構成するポリエステル系成分を構成するモノマーのうち、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1つ以上である請求項1~4のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項6】
80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上10%以下である請求項1~5のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のシーラントフィルムを少なくとも1層は含むことを特徴とする積層体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のシーラントフィルム、又は請求項7に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた低吸着性とヒートシール性を両立するシーラントフィルム、ならびにそれを用いた積層体、包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品の多くの包装材として、シーラントフィルムが用いられている。包装袋や蓋材等を構成する包装材の最内層には、高いヒートシール強度を示すポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、アイオノマー、EMMA等のコポリマー樹脂からなるヒートシール層が設けられている。これらの樹脂は、ヒートシールにより高い密着強度を達成することができることが知られている。
しかし、特許文献1に記されているようなポリオレフィン系樹脂からなる無延伸のシーラントフィルムは、油脂や香料等の有機化合物からなる成分を吸着しやすいため、シーラントフィルムを最内層、すなわち内容物と接する層としている包装材は内容物の香りや味覚を変化させやすいという欠点を持っている。化成品、医薬品、食品等の包装袋の最内層としてポリオレフィン系樹脂からなるシーラント層を使用する場合、あらかじめ内容物の有効成分を多めに含ませる等の対策が必要であるため、使用に適さないケースが多い。
【0003】
一方、特許文献2に記されているようなポリアクリロニトリル系樹脂からなるシーラントフィルムは、化成品、医薬品、食品等に含まれる有機化合物を吸着しにくい特徴がある。しかし、ポリアクリロニトリル系フィルムは、140℃のヒートシール性が悪く、良好なシール強度が得られない場合があった。
このような問題に鑑みて、特許文献3には有機化合物の非吸着性をもったシーラント用途のポリエステル系フィルムが開示されている。しかし、特許文献3のポリエステル系フィルムは100℃ヒートシール強度が高いため、包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しやすく包装袋を開封しにくくなる問題があった。
【0004】
また、本願出願人は有機化合物の非吸着性をもったシーラント用途のポリエステル系フィルムを特許文献4に開示している。しかし、近年、生産性を高めるために自動充填包装の高速化が進んできたが、特許文献4のポリエステル系フィルムでは高速自動充填包装に対応できないことが判明した。高速自動充填包装の場合、ヒートシールバーの温度を140℃に設定していても、加熱時間が短いためにシーラントフィルムの温度が120℃付近までしか上昇しない。しかし、特許文献4のポリエステル系フィルムは120℃ヒートシール強度が十分ではなく、ヒートシール加工後にシール部の剥がれが生じる問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3817846号
【特許文献2】特開平7-132946号公報
【特許文献3】国際公開第2014/175313号
【特許文献4】特開2017-165059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、種々の有機化合物からなる成分が吸着しにくく、140℃のヒートシール性に優れるシーラントフィルム(A)を提供するものである。
本願第一の発明は、100℃ヒートシール強度が低く包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際もヒートシール層同士が粘着しにくい前記(A)のシーラントフィルムを提供するものである。
本願第二の発明は、低温の120℃ヒートシール性にも優れるため、高速自動充填包装でも十分なヒートシール強度を有する前記(A)のシーラントフィルムを提供するものである。
また、本発明は、前記の本願第一の発明又は本願第二の発明のシーラントフィルムを少なくとも一層として含む積層体、及びそれを用いた包装袋を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、下記1.のシーラントフィルムを本願第一の発明、下記2.のシーラントフィルムを本願第二の発明とそれぞれ称する。特に断りのない場合は、両発明に共通する本発明の事項である。
本発明は、以下の構成よりなる。
1.少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下(1)~(3)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(1)ヒートシール層同士を100℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0N/15mm以上5N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満
2.少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下(4)~(6)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルム。
(4)ヒートシール層同士を120℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が4N/15mm以上15N/15mm以下
(5)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(6)ヒートシール層において、X線電子分光法(ESCA)で求めた酸素原子の存在比率が26.6%以上31.0%以下
3.三次元粗さ計から求めた表面粗さの要素の平均長さRSmが18μm以上29μm以下である1.又は2.のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
4.前記ヒートシール面同士の動摩擦係数が0.30以上0.80以下である1.~3.のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
5.フィルムを構成する成分が、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる1.~4.のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
6.ヒートシール層を構成するポリエステル系成分を構成するモノマーのうち、エチレングリコール以外のジオールモノマー成分を含有し、該ジオールモノマー成分がネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールのいずれか1つ以上である1.~5.のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
7.80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上10%以下である1.~6.のいずれかに記載の低吸着性シーラントフィルム。
8.前記1.~7.のいずれかに記載のシーラントフィルムを少なくとも1層は含むことを特徴とする積層体。
9.前記1.~7.のいずれかに記載のシーラントフィルム、又は8.に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシーラントフィルムは、種々の有機化合物を吸着しにくいため、化成品、医薬品、食品といった油分や香料を含む物品を衛生的に包装することができると共に、140℃のヒートシール性に優れる。本願第一の発明のシーラントフィルムは、100℃ヒートシール強度が低いため、包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しにくい。本願第二の発明は、140℃のヒートシール性に優れ、さらに低温の120℃ヒートシール性にも優れるため、高速自動充填包装でも十分なヒートシール強度を有するシーラントフィルムを提供できる。
さらに、前記の本願第一の発明又は第二の発明のシーラントフィルムを少なくとも一層として含む積層体と、それを用いた包装袋を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願第一の発明のシーラントフィルムは、少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、以下(1)~(3)を満たすことを特徴とする低吸着性シーラントフィルムである。
(1)ヒートシール層同士を100℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が0N/15mm以上5N/15mm以下
(2)ヒートシール層同士を140℃、0.2MPa、2秒間でシールしたときのシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下
(3)全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満
以下、本発明のシーラントフィルムの特性、層構成、層比率、シーラントフィルムを構成する原料、シーラントフィルムの製造方法、内容物の種類、及び包装体の構成、製袋方法について詳述する。
【0010】
1.シーラントフィルムの特性
1.1.100℃ヒートシール強度
本願第一の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層同士を温度100℃、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が0N/15mm以上5N/15mm以下である必要がある。
100℃ヒートシール強度が5N/15mmを超えると、包装袋として使用して内容物を温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しやすく、開封性が損なわれるため、包装袋として適さない。100℃ヒートシール強度は4.5N/15mm以下であるとより好ましく、4.0N/15mm以下であるとさらに好ましい。
【0011】
1.2.120℃ヒートシール強度
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層同士を温度120℃、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が4N/15mm以上15N/15mm以下である必要がある。
120℃ヒートシール強度が4N/15mm未満であると、高速自動充填包装時にヒートシール強度が不足するため、包装袋の生産性を高めることができない。120℃ヒートシール強度は大きいことが好ましいが、本発明の技術水準では現状得られる上限は15N/15mm程度であるが、実用上は十分である。120℃ヒートシール強度は5N/15mm以上であるとより好ましく、6N/15mm以上であるとさらに好ましい。
【0012】
1.3.140℃ヒートシール強度
本発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層同士を温度140℃、シールバー圧力0.2MPa、シール時間2秒でヒートシールした際のヒートシール強度が8N/15mm以上30N/15mm以下である必要がある。
140℃ヒートシール強度が8N/15mm未満であると、シール部分が容易に剥離されるため、包装袋として用いることが困難である。140℃ヒートシール強度は大きいことが好ましいが、本発明の技術水準では現状得られる上限は30N/15mm程度である。140℃ヒートシール強度は9N/15mm以上であるとより好ましく、10N/15mm以上であるとさらに好ましい。
【0013】
1.4.密度
本願第一の発明のシーラントフィルムは、全層を含んだフィルムの密度が1.20以上1.39未満である必要がある。全層を含んだフィルムの密度と吸着性および耐熱性、140℃ヒートシール強度は相関している。密度が高いほど低吸着性および耐熱性に優れたシーラントフィルムとなる。これは密度が高いほど結晶性が高い傾向にあり、結晶性が高いほど耐薬品性および耐熱性が高くなるためである。そのため、全層を含んだフィルムの密度が1.20未満であると、耐薬品性が悪くなるために吸着性が高くなり、かつ耐熱性が低くなってヒートシール時にフィルムに穴あきがしやすくなるため、包装袋として適さない。
また、密度が1.39以上となると低吸着性や耐熱性には優れるが、140℃のヒートシール性が損なわれるため、シーラントフィルムとして適さない。密度の範囲は1.25以上1.38以下であるとより好ましく、1.30以上1.37以下であるとさらに好ましい。
【0014】
1.5.ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSm
本発明のシーラントフィルムは、カットオフ0.250mm、測定速度0.2mm/秒の条件で測定したヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが18μm以上29μm以下であることが好ましい。ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmは、100℃ヒートシール強度およびヒートシール面同士の動摩擦係数と相関している。ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが長いほど、ヒートシール面の凹凸が少なくなり平滑化するため、接触面積が大きくなって100℃ヒートシール強度が高くなり、ヒートシール面同士の動摩擦係数も高くなる。
ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが29μm以上であると、100℃ヒートシール強度が高くなり包装袋として使用して内容物を温めようとした際に、最内層のヒートシール層同士が粘着しやすく、開封性が損なわれるため、包装袋として適さない。一方、表面粗さの要素の平均長さRSmが18μm未満であると、ヒートシール面同士の接触面積が極端に小さくなるため、140℃シール強度が低くなり、シーラントフィルムとして適さない。ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmの範囲は19μm以上28μm以下であるとより好ましく、20μm以上27μm以下であるとさらに好ましい。
【0015】
1.6.ヒートシール層の動摩擦係数
本発明のシーラントフィルムは、ヒートシール面同士の動摩擦係数が0.30以上0.80以下であることが好ましい。
動摩擦係数が0.30未満であるとフィルムが滑りすぎてしまいハンドリング性が悪化する。一方、動摩擦係数が0.80を超えると、滑り性が悪いためにフィルムをロールに巻き取る際にシワが生じやすくなり巻き品質が下がるおそれがある。ヒートシール層の動摩擦係数の範囲は0.35以上0.75以下であるとより好ましく、0.40以上0.70以下であるとさらに好ましい。
【0016】
1.7.ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層において、X線電子分光法(ESCA)で求めた酸素原子の存在比率が26.6%以上31.0%以下である必要がある。非特許文献1には表面処理で酸素含有基を導入することで、電荷密度の偏りが大きくなって分子間力や強くなり、接着力を向上させられることが紹介されている。これは、プラスチックを中心とした接着は分子間力による結合により起こるとされているためである。本発明のシーラントフィルムにおいても、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が高いほど電荷密度の偏りも大きくなるため、120℃ヒートシール強度も強くなると考えられる。そのため、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が26.6%未満であると、120℃ヒートシール強度が小さくなり、高速自動充填包装時にヒートシール強度が不足する。また、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が31.0%を超えると、電荷密度の偏りが大きく常温下で密着しやすくなるため、ロールに巻き取ったフィルム同士がブロッキングし、フィルムをスムーズに巻きだせなくなる。ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率の範囲は26.7%以上30.5%以下であるとより好ましく、26.8%以上30.0%以下であるとさらに好ましい。
【0017】
1.8.ヒートシール層表面のぬれ張力
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上55mN/m以下であることが好ましい。ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が高いほどヒートシール層表面のぬれ張力も高くなり、120℃ヒートシール強度が大きくなる。ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m未満であると、120℃ヒートシール強度が小さくなり、高速自動充填包装時にヒートシール強度が不足する。一方、ヒートシール層表面のぬれ張力が55mN/mを超えると、ロールに巻き取ったフィルム同士がブロッキングし、フィルムをスムーズに巻きだせなくなる。ヒートシール層表面のぬれ張力の範囲は39mN/m以上54mN/m以下であるとより好ましく、40mN/m以上53mN/m以下であるとさらに好ましい。
【0018】
1.9.熱収縮率
本発明のシーラントフィルムは、80℃の温湯中に10秒間に亘って処理した場合における幅方向、長手方向の温湯熱収縮率がいずれも0%以上10%以下であることが好ましい。
熱収縮率が10%を超えると、フィルムをヒートシールしたときに収縮が大きくなり、シール後の平面性が悪化してしまう。一方、熱収縮率がゼロを下回る場合、フィルムが伸びることを意味しており、収縮率が高い場合と同様にフィルムが元の形状を維持できにくくなるため好ましくない。熱収縮率の上限は9%以下であるとより好ましく、8%以下であるとさらに好ましい。
【0019】
1.10.ヘイズ
本発明のシーラントフィルムは、ヘイズが0%以上10%未満であることが好ましい。ヘイズが10%以上であると、透明性が損なわれて包装袋として使用した際に内容物が視認しにくくなるため好ましくない。ヘイズの上限は9%以下であるとより好ましく、8%以下であるとさらに好ましい。
【0020】
1.11.フィルム厚み
本発明のシーラントフィルムの厚みは特に限定されないが、3μm以上200μm以下が好ましい。
フィルムの厚みが3μmより薄いとヒートシール強度の不足や印刷等の加工が困難になるおそれがあるためあまり好ましくない。また、フィルム厚みが200μmより厚くても構わないが、フィルムの使用重量が増えてケミカルコストが高くなるので好ましくない。フィルムの厚みは5μm以上160μm以下であるとより好ましく、7μm以上120μm以下であるとさらに好ましい。
【0021】
2.シーラントフィルムの構成
2.1.シーラントフィルムの層構成・ヒートシール層比率
本発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層だけの単層であっても構わないし、2層以上の積層構成であっても構わない。ただし、ヒートシール性と耐熱性は二律背反の関係にあるため、本願第一の発明においてはヒートシール層の140℃ヒートシール性は保持したまま、ヒートシール層以外の層(以下、耐熱層と称する場合がある)で耐熱性を高めることができるので積層構成が好ましく、本願第二の発明においてはヒートシール層の120℃ヒートシール性は保持したまま、ヒートシール層以外の層で耐熱性を高めることができるので積層構成が好ましい。
好ましい積層構成は、ヒートシール層を少なくともフィルム片面の表層に有する構成であり、ヒートシール層/耐熱層の2層構成、ヒートシール層/耐熱層/ヒートシール層の3層構成等が挙げられるが、ヒートシール層/耐熱層の2層構成がより好ましい。
本発明のシーラントフィルムを積層構成にする場合は、ヒートシール層の層比率は、20%以上80%以下であることが好ましい。ヒートシール層の層比率が20%より少ない場合、フィルムのヒートシール強度が低下してしまうため好ましくない。ヒートシール層の層比率が80%よりも高くなると、フィルムのヒートシール性が向上するが、耐熱性が低下してしまうため好ましくない。ヒートシール層の層比率は、30%以上70%以下がより好ましい。
【0022】
2.2.積層方法
本発明のシーラントフィルムを積層構成とする場合は、ヒートシール層がフィルム面の少なくともどちらか一方の表層になければならない。フィルムを原料が樹脂である層(樹脂層)と積層するには、共押出しでインライン製膜する方法、製膜後に貼りあわせて積層する等、高知の方法を用いることができる。前者の方法にはマルチマニホールドTダイやインフレーション法による共押出し、後者の方法には押出ラミネート、ウェットまたはドライラミネート、ホットメルトによる接着等がある。ドライラミネートの場合は市販のドライラミネーション用接着剤を用いることができる。代表例としては、DIC社製ディックドライ(登録商標)LX-703VL、DIC社製KR-90、三井化学社製タケネート(登録商標)A-4、三井化学社製タケラック(登録商標)A-905などである。ヒートシール層は無延伸、一軸延伸、二軸延伸のいずれであっても構わないが、強度の観点からは少なくとも一方向に延伸されていること(一軸延伸)が好ましく、ニ軸延伸であることがより好ましい。ニ軸延伸の場合の好適な製造方法は後述する。
【0023】
2.3.ヒートシール層の表面処理
本願第一の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、コーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることが可能であり、無機物の蒸着等を行っても構わない。ただし、コロナ処理やプラズマ処理は100℃ヒートシール強度が5N/15mm以上となる懸念があるため、ヒートシール層には実施しないのが好ましい。
本願第二の発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層、それ以外の層に関わらず、コロナ処理やプラズマ処理、コーティング処理、火炎処理などを施した層を設けることが可能であり、無機物の蒸着等を行っても構わない。コロナ処理とプラズマ処理は表面の酸素原子の存在比率を高めることが可能なため、ヒートシール層表面に実施するのが好ましい。特にコロナ処理が好ましい。
【0024】
2.4.その他の層構成、層比率
本発明のシーラントフィルムは、ヒートシール層と耐熱層以外にバリア性を向上させることを目的として、無機薄膜層を少なくとも1層は有した、3層以上の構成としてもよい。無機薄膜層を有することでガスバリア性を付与することができる。無機薄膜層と耐熱層は、どの位置にあっても構わないが、必要なヒートシール強度を発現させるためには、ヒートシール層を最外層にする必要がある。好ましい層の順番は、両最外層をシール層と無機薄膜層とし、耐熱層を中間に有した構成である。
また、積層体の層構成は、ヒートシール層と耐熱層と無機薄膜層以外の層を1つ以上有していても構わない。具体的には、無機薄膜層の下に設けるアンカーコート層、無機薄膜層の上に設けるオーバーコート層や、本発明のシーラントフィルムを構成する樹脂層以外の樹脂層(フィルム)等である。
【0025】
無機薄膜層の厚みは、2nm以上100nm以下であると好ましい(積層体全体の厚みに対する無機薄膜層の厚み比率は、無視できるほど小さい)。無機薄膜層の厚みが2nmを下回ると、ガスバリア性を満足しにくくなるため好ましくない。一方、無機薄膜層の厚みが100nmを上回っても、それに相当するガスバリア性の向上効果はなく、製造コストが高くなるため好ましくない。無機薄膜層の厚みは、5nm以上97nm以下であるとより好ましく、8nm以上94nm以下であるとさらに好ましい。
【0026】
3.シーラントフィルムを構成する原料
3.1.シーラントを構成する原料の種類
本発明のシーラントフィルムは少なくとも1層のポリエステル系成分からなるヒートシール層を有している必要があり、前記ヒートシール層のポリエステル系成分はエステルユニット1単位あたりの酸素原子数が2個以上6個以下であることが好ましい。特にエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル原料が好ましい。ここで、「主たる構成成分とする」とは、全構成成分量を100モル%としたとき、50モル%以上含有することを指す。本発明に用いるポリエステルにエチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と記載する)を含むことが好ましい。これは、非晶成分の存在によりヒートシール強度が向上するためである。
非晶成分となりうるジカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0027】
また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。
これらの非晶性ジカルボン酸成分、ジオール成分のうち、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールを用いることが好ましい。これらの成分を用いることでフィルムの非晶性が高まり、ヒートシール強度を向上させやすくなる。
【0028】
本発明においては、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分を含んでいてもよい。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
【0029】
また、上記以外でポリエステルを構成する成分としては、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。この中でも1,4-ブタンジオールを含有することが好ましい。さらに、ポリエステルを構成する成分として、ε-カプロラクトンやテトラメチレングリコールなどを含むポリエステルエラストマーを含んでいてもよい。これらの成分は、フィルムの融点を下げる効果があるため、ヒートシール層の成分として好ましい。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)はフィルムの強度を著しく下げてしまうため、含有させないことが好ましい。
【0030】
本発明のシーラントフィルムの中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともフィルムの表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05~3.0μmの範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。これらの微粒子のうち、フィルムのすべり性と透明性を両立するにはシリカ、炭酸カルシウムを添加することが好ましく、特にシリカが好ましい。好ましい添加量は添加する微粒子の種類のよって変わり、一義的に決めることはできないが、例えばシリカを使用した場合は、添加量は200ppm以上1000ppm以下が好ましく、300ppm以上900ppm以下がより好ましく、400ppm以上800ppm以下がさらに好ましい。シリカの添加量が200ppm未満であるとすべり性を十分に良化することができない。また、シリカの添加量が1000ppmを超えるとヘイズが高くなるため好ましくない。
【0031】
本発明のシーラントフィルムの中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
【0032】
本発明のシーラントフィルムを積層構成にする場合は、ヒートシール層以外の層に用いる原料種は、ヒートシール層と同じポリエステルを用いることが可能である。例えば、前述のヒートシール層に好適な構成成分からなるポリエステルを使用し、ヒートシール層とは異なる組成のポリエステル層を設けることができる。
【0033】
3.2.ヒートシール層の原料の成分量
本発明のヒートシール層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が20モル%以上であることが好ましく、25モル%以上がより好ましく、30モル%以上が特に好ましい。非晶成分が多いほど密度が低下し、ヒートシール強度を向上させやすくなる。また、前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の上限は50モル%である。
【0034】
ヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが30モル%より低い場合、溶融樹脂をダイから押し出した後に例え急冷固化したとしても、後の延伸および熱固定工程で結晶化してしまい、140℃ヒートシール強度を8N/15mm以上とすることが困難となってしまうため好ましくない。
【0035】
一方、ヒートシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが50モル%以上である場合、ヒートシール層の耐熱性が極端に低くなるため、ヒートシールするときにシール部の周囲がブロッキング(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)してしまうため、適切なヒートシールが困難となる。エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量は48モル%以下であるとより好ましく、46%以下であると特に好ましい。
【0036】
3.3.耐熱層の原料の成分量
本発明のシーラントフィルムにおいて耐熱層を設ける場合、耐熱層に用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートを構成するテレフタル酸およびエチレングリコール以外の成分となるジカルボン酸モノマーおよび/又はジオールモノマーの含有量が9モル%以上であることが好ましく、10モル%以上がより好ましく、11モル%以上が特に好ましい。また、前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の上限は20モル%である。
【0037】
耐熱層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが9モル%より低い場合、シール層との熱収縮率差が大きくなり、積層体のカールが大きくなってしまうため好ましくない。耐熱層とシール層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量の差が大きくなると、熱固定中の各層における熱収縮率差が大きくなってしまい、たとえ熱固定後の冷却を強化してもシール層側への収縮が大きくなり、カールが大きくなってしまう。
【0038】
一方、耐熱層に含まれる前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーが20モル%以上である場合、ヒートシールの際にかかる熱によって穴あきが生じるといったように、積層体の耐熱性が低下してしまうため好ましくない。前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマーの含有量は19モル%以下であるとより好ましく、18%以下であると特に好ましい。
また、カールを制御するための前記エチレンテレフタレート以外の成分となるモノマー含有量は、上記の各層単体での量に加えて、シール層と耐熱層との差が10モル%以上45モル%以下であるとより好ましく、11モル%以上44モル%以下であるとさらに好ましい。
【0039】
3.4.無機薄膜層の原料種、組成
本発明のシーラントフィルムにおいて無機薄膜層を設ける場合、無機薄膜層の原料種は特に限定されず、従来から公知の材料を使用することができ、所望のガスバリア性等を満たすために目的に合わせて適宜選択することができる。無機薄膜層の原料種としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛、鉄、マンガン等の金属、これら金属の1種以上を含む無機化合物があり、該当する無機化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等が挙げられる。これらの無機物または無機化合物は単体で用いてもよいし、複数で用いてもよい。特に、酸化ケイ素、酸化アルミニウムを単体(一元体)または併用(二元体)で使用することにより、積層体の透明性を向上させることができるため好ましい。無機化合物の成分が酸化ケイ素と酸化アルミニウムの二元体からなる場合、酸化アルミニウムの含有量は20質量%以上80質量%以下であると好ましく、25質量%以上70質量%以下であるとより好ましい。酸化アルミニウムの含有量が20質量%以下の場合、無機薄膜層の密度が下がり、ガスバリア性が低下する恐れがあるため好ましくない。また、酸化アルミニウムの含有量が80質量%以上であると、無機薄膜層の柔軟性が低下してクラックが発生しやすくなり、結果としてガスバリア性が低下する恐れが生じるため好ましくない。
【0040】
無機薄膜層に使用する金属酸化物の酸素/金属の元素比は、1.3以上1.8未満であればガスバリア性のバラツキが少なく、常に優れたガスバリア性が得られるため好ましい。酸素/金属の元素比は、酸素および金属の各元素の量をX線光電子分光分析法(XPS)で測定し、酸素/金属の元素比を算出することで求めることができる。
【0041】
4.シーラントフィルムの製造方法
4.1.溶融押し出し
本発明のシーラントフィルムは、上記3.「シーラントフィルムを構成する原料」で記載したポリエステル原料を、押出機により溶融押し出しして未延伸の積層フィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることができる。二軸延伸により得られたフィルムがより好ましい。なお、ポリエステルは、前記のように、エチレンテレフタレート以外の成分となり得るモノマーを適量含有するように、ジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。
【0042】
原料樹脂を溶融押し出しするとき、各層のポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのように各層のポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融してフィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0043】
その後、押し出しで溶融されたフィルムを急冷することにより、未延伸のフィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。フィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか、少なくとも一方向に延伸されていること、すなわち一軸延伸又は二軸延伸が好ましい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
【0044】
4.2.縦延伸
縦方向の延伸は、無延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸にあたっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~90℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸しにくくなり、破断が生じやすくなるため好ましくない。また90℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、ロールへのフィルムの巻き付きや連続生産によるロールの汚れやすくなるため好ましくない。
フィルム温度が65℃~90℃になったら縦延伸を行う。縦延伸倍率は、1倍以上5倍以下とすると良い。1倍は縦延伸をしていないということなので、横一軸延伸フィルムを得るには縦の延伸倍率を1倍に、二軸延伸フィルムを得るには1.1倍以上の縦延伸となる。また縦延伸倍率の上限は何倍でも構わないが、あまりに高い縦延伸倍率だと横延伸しにくくなって破断が生じやすくなるので5倍以下であることが好ましい。
【0045】
また、縦延伸後にフィルムを長手方向へ弛緩すること(長手方向へのリラックス)により、縦延伸で生じたフィルム長手方向の収縮率を低減することができる。さらに、長手方向へのリラックスにより、テンター内で起こるボーイング現象(歪み)を低減することができる。後工程の横延伸や最終熱処理ではフィルム幅方向の両端が把持された状態で加熱されるため、フィルムの中央部だけが長手方向へ収縮するためである。長手方向へのリラックス率は0%以上70%以下(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)であることが好ましい。長手方向へのリラックス率の上限は、使用する原料や縦延伸条件よって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のシーラントフィルムにおいては、長手方向へのリラックス率は70%が上限である。長手方向へのリラックスは、縦延伸後のフィルムを65℃~100℃以下の温度で加熱し、ロールの速度差を調整することで実施できる。加熱手段はロール、近赤外線、遠赤外線、熱風ヒータ等のいずれも用いる事ができる。また、長手方向へのリラックスは縦延伸直後でなくとも、例えば横延伸(予熱ゾーン含む)や最終熱処理でも長手方向のクリップ間隔を狭めることで実施することができ(この場合はフィルム幅方向の両端も長手方向へリラックスされるため、ボーイング歪みは減少する)、任意のタイミングで実施できる。
【0046】
長手方向へのリラックス(リラックスを行わない場合は縦延伸)の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0047】
4.3.横延伸
縦延伸の後、テンター内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃~110℃で3~5倍程度の延伸倍率で横延伸を行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が75℃~120℃になるまで行うとよい。
【0048】
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。テンターの横延伸ゾーンに対し、その次の最終熱処理ゾーンでは温度が高いため、中間ゾーンを設けないと最終熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込んでしまう。この場合、横延伸ゾーンの温度が安定しないため、フィルムの厚み精度が悪化するだけでなく、ヒートシール強度や収縮率などの物性にもバラツキが生じてしまう。そこで、横延伸後のフィルムは中間ゾーンを通過させて所定の時間を経過させた後、最終熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや最終熱処理ゾーンからの熱風を遮断することが重要である。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。一方、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0049】
4.4.最終熱処理
中間ゾーンの通過後は最終熱処理ゾーンにて、延伸温度以上250℃以下で熱処理を行うことが好ましい。熱処理を行うことでフィルムの熱収縮率を小さくすることができるが、延伸温度以上でなければ熱処理としての効果を発揮しない。この場合、フィルムの80℃温湯収縮率が10%よりも高くなり、ヒートシールを行う際にシワが入りやすくなってしまうため好ましくない。熱処理温度が高くなるほどフィルムの収縮率は低下するが、250℃よりも高くなるとフィルムのヘイズが15%よりも高くなったり、最終熱処理工程中にフィルムが融けてテンター内に落下してしまったりするため好ましくない。熱処理温度の範囲は120℃以上240℃以下がより好ましく、150℃以上220℃以下が特に好ましい。
【0050】
また、熱処理温度が高くなるほど140℃ヒートシール強度が強くなるが、ヒートシール層が融解することで表面が平滑化してヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが長くなる。ゆえに、熱処理温度が高くなるほど100℃ヒートシール強度が高くなり、すべり性が悪化する。140℃ヒートシール強度やヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmは、熱処理温度だけではなくヒートシール層の原料の成分量や縦延伸条件、横延伸条件によって決まる。そのため、熱処理温度の好ましい条件範囲を一義的に決めることはできないが、後述する実施例の原料組成および製膜条件の場合は、熱処理温度は170℃以上210℃以下が好ましく、180℃以上200℃以下がより好ましい。熱処理温度が170℃未満であると140℃ヒートシール強度が不足するため好ましくない。また、熱処理温度が210℃を超えると100℃ヒートシール強度が高くなり、すべり性も悪化するため好ましくない。
【0051】
最終熱処理の際、テンターのクリップ間距離を任意の倍率で縮めること(幅方向へのリラックス)によって幅方向の収縮率を低減させることができる。そのため、最終熱処理では、0%以上10%以下の範囲で幅方向へのリラックスを行うことが好ましい(リラックス率0%はリラックスを行わないことを指す)。幅方向へのリラックス率が高いほど幅方向の収縮率は下がるものの、リラックス率(横延伸直後のフィルムの幅方向への収縮率)の上限は使用する原料や幅方向への延伸条件、熱処理温度によって決まるため、これを超えてリラックスを実施することはできない。本発明のシーラントフィルムにおいては、幅方向へのリラックス率は10%が上限である。
【0052】
また、最終熱処理ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度が設定温度に到達しないまま熱処理ゾーンを通過してしまうため、熱処理の意味をなさなくなる。通過時間は長ければ長いほど熱処理の効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
【0053】
4.5.冷却
最終熱処理通過後は冷却ゾーンにて、10℃以上30℃以下の冷却風でフィルムを冷却することが好ましい。このとき、テンター出口のフィルムの実温度が、ヒートシール層のガラス転移温度より低い温度になるよう、冷却風の温度を下げたり風速を上げたりして冷却効率を向上させることが好ましい。なお実温度とは、非接触の放射温度計で測定したフィルム表面温度のことである。テンター出口のフィルムの実温度がガラス転移温度を上回ると、クリップで把持していたフィルム両端部が解放されたときにフィルムが熱収縮するため好ましくない。
【0054】
冷却ゾーンの通過時間は2秒以上20秒以下が好ましい。通過時間が2秒以下であると、フィルムの表面温度がガラス転移温度に到達しないまま冷却ゾーンを通過してしまう。通過時間は長ければ長いほど冷却効果が上がるため、2秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがさらに好ましい。ただし、通過時間を長くしようとすると、設備が巨大化してしまうため、実用上は20秒以下であれば充分である。
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、シーラントフィルムロールが得られる。
【0055】
4.6.コロナ処理
本願第二の発明において、冷却後はコロナ処理装置により、ヒートシール層表面をコロナ処理することが好ましい。コロナ処理度は、シーラントフィルムのライン速度やコロナ処理電圧、ロール温度によって決まる。そのため、これらの好ましい条件範囲を一義的に決めることはできないが、コロナ処理後のヒートシール層表面のぬれ張力を38mN/m以上とすることで、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率を26.5%よりも高くすることができる。また、コロナ処理は空気中で行うのが好ましい。
【0056】
5.内容物の種類
本発明のシーラントフィルムは化成品、医薬品、食品等に含まれる有機化合物を吸着しにくい特徴があり、後述する内容物の包装に好ましい。前記内容物としては、例えばd-リモネン、シトラール、シトロネラール、p-メンタン、ピネン、テルピネン、ミルセン、カレン、ゲラニオール、ネロール、シトロネラール、テルピネオール、l-メントール、ネロリドール、ボルネオール、dl-カンファー、リコピン、カロテン、トランス-2-ヘキセナール、シス-3-ヘキセノール、β-イオノン、セリネン、1-オクテン-3-オール、ベンジルアルコール、オクタールツロブテロール塩酸塩、酢酸トコフェロールなどの香気成分や薬効成分が挙げられる。
【0057】
ただし、本発明のシーラントフィルムは、ポリエステル系成分からなるヒートシール層を有しており、前記ヒートシール層のポリエステル系成分はエステルユニット1単位あたり2個以上6個以下の酸素原子を含むため、酸素原子の多い類似した化学構造をもつ内容物においては、吸着性が高まる傾向にある。内容物の酸素原子数/炭素原子数の比と本発明のシーラントフィルムの吸着量は比例関係にあり、内容物の酸素原子数/炭素原子数の比が0.2以上の内容物、例えばオイゲノールやサリチル酸メチル等の内容物の包装には本発明のシーラントフィルムは適さない。後述の実施例に記載の方法で吸着量を測定した場合に、好ましい吸着量の範囲は10μg/cm以下であり、6μg/cm以下がより好ましく、2μg/cm以下がさらに好ましい。
【0058】
6.包装体の構成、製袋方法
本発明のシーラントフィルムは、包装体として好適に使用することができる。本発明のシーラントは単独で袋にすることもできるが、他の材料を積層した積層体としてもよい。シーラントを構成する他の層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを構成成分に含む無延伸フィルム、他の非晶性ポリエステルを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ナイロンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム、ポリプロピレンを構成成分に含む無延伸、一軸延伸または二軸延伸フィルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。包装体にシーラントを用いる方法は特に限定されず、塗布形成法、ラミネート法、ヒートシール法といった従来公知の製造方法を採用することができる。
【0059】
包装体は、少なくとも一部が本発明に係るシーラントで構成されていてもよいが、包装体の全部に上述のシーラントが存在している構成が好ましい。また、包装体は、本発明のシーラントがどの層にきてもよいが、内容物に対する非吸着性、袋を製袋するときのシール強度を考慮すると、本発明のシーラントのヒートシール層が袋の最内層となる構成が好ましい。
【0060】
本発明のシーラントを有する包装体を製袋する方法は特に限定されず、ヒートバー(ヒートジョー)を用いたヒートシール、ホットメルトを用いた接着、溶剤によるセンターシール等の従来公知の製造方法を採用することができる。
本発明のシーラントを有する包装体は、食品、医薬品、工業製品等の様々な物品の包装材料として好適に使用することができる。
【実施例0061】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
フィルムの評価方法は以下の通りである。なお、フィルムの面積が小さいなどの理由で長手方向と幅方向が直ちに特定できない場合は、仮に長手方向と幅方向を定めて測定すればよく、仮に定めた長手方向と幅方向が真の方向に対して90度違っているからといって、とくに問題を生ずることはない。
【0062】
<フィルムの評価方法>
[密度]
JIS K7112に従って、フィルムを密度勾配液(硝酸カルシウム水溶液)に浸して求めた。
【0063】
[ヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さ(RSm)]
JIS B0601:2013に従って、小坂研究所社製の三次元微細形状測定器「ET4000A」を使用し、測定速度0.2mm/秒、カットオフ0.25mmの条件でヒートシール面を測定した。
【0064】
[100℃ヒートシール強度]
JIS Z1707に準拠してヒートシール強度を測定した。具体的な手順を簡単に示す。ヒートシーラーにて、サンプルのコート処理等を実施していないヒートシール面同士を接着した。ヒートシール条件は、ヒートシール幅10mm、上バー温度100℃、下バー温度30℃、圧力0.2MPa、時間2秒とした。接着サンプルは、シール幅が15mmとなるように切り出した。剥離強度は、島津製作所社製の万能引張試験機「DSS-100」を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。
【0065】
[120℃ヒートシール強度]
上バー温度を120℃に変更した以外は100℃ヒートシール強度評価方法と同様に評価した。
【0066】
[140℃ヒートシール強度]
上バー温度を140℃に変更した以外は100℃ヒートシール強度評価方法と同様に評価した。
【0067】
[ヒートシール層の動摩擦係数]
JIS K7125に準拠し、引張試験機(ORIENTEC社製テンシロン)を用い、23℃・65%RH環境下で、ヒートシール面同士を接合させた場合の動摩擦係数μdを求めた。なお、上側のフィルムを巻き付けたスレッド(錘)の重量は、1.5kgであり、スレッドの底面積の大きさは、縦63mm×横63mmであった。また、摩擦測定の際の引張速度は、200mm/min.であった。
【0068】
[ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率]
Thermo Fisher Scientific社製のXPS分光計「K-Alpha+」を用いて、炭素、窒素、酸素、ケイ素のナロースキャンを行い、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率を評価した。励起X線にはモノクロ化AlKα線を用い、X線出力12kV、6mA、光電子脱出角度90°、スポットサイズ400μmφ、パスエネルギー50eV(ナロースキャン)、ステップ0.1eV(ナロースキャン)で評価した。
【0069】
[ヒートシール層表面のぬれ張力]
JIS K6768:1999に従って、ヒートシール層表面のぬれ張力を評価した。
【0070】
[ヘイズ]
JIS-K-7136に準拠し、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0071】
[80℃温湯熱収縮率]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、80±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から出した。その後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式1にしたがって各方向の収縮率を求めた。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。

収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
【0072】
[吸着量]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、ヒートシール面を内側にした状態で2枚を重ね、フィルム端部より1cmの位置をヒートシールして袋を作成した。袋に内容物0.5mlの入ったアルミカップを入れ、フィルム端部より1cmの位置をヒートシールして袋を閉じて密閉した。前記内容物にはD-リモネン(東京化成工業株式会社製)、D-カンファー(ナカライテスク株式会社製)を使用した。30℃環境下で20時間保持した後、フィルム袋のアルミカップの口部に接する面より5cm×5cmの正方形を切り取り、切り取ったフィルムを抽出溶媒4mlに浸した状態で、超音波で30分間抽出した。D-リモネンの抽出溶媒には99.8%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、D-カンファーの抽出溶媒には99.8%メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。島津製作所社製のガスクロマトグラフ「GC-14B」を用いて抽出溶液中の内容物の濃度を定量した。ガスクロマトグラフは、カラムに「GC-14A Glass I.D.2.6φx1.1m PET-HT 5% Uniport HP 80/100(ジーエルサイエンス社製)」、検出器にFID,キャリアガスにNを用い、キャリアガス流量35ml/分、注入量1μlにて面積百分率法で定量した。吸着量はヒートシール面1cmあたりの吸着量(μg/cm)で示し、低吸着性を以下のように判定した。
判定○ 0μg/cm以上、2μg/cm未満
判定△ 2μg/cm以上、10μg/cm未満
判定× 10μg/cm以上
【0073】
[ブロッキング評価]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、ヒートシール面と非ヒートシール面が接する状態で5枚を重ね、その上に5kgの重りを載せて40℃環境下で2時間静置した。静置後、重りを外し、手でフィルムを1枚ずつ取り出したときのフィルムの状態に応じて、以下のように判定した。
判定○ 5枚すべてのフィルムでブロッキング痕やフィルム破れなし
判定× 5枚中、1枚以上のフィルムにブロッキング痕やフィルム破れあり
【0074】
[包装袋でのボイル適性]
フィルムを12cm×12cmの正方形に裁断し、ヒートシール面を内側にした状態で2枚を重ね、袋の内径が10cm×10cmとなるようにヒートシールして袋を作成した。ヒートシール条件は、ヒートシール幅10mm、上バー温度140℃、下バー温度30℃、圧力0.2MPa、時間2秒とした。作成した袋を100℃の沸騰水で30分間加熱して冷却した。ハサミで袋の一辺を切り取って袋内面の状態を確認して以下のように判定した。
判定○ 袋内面同士の粘着がなく、容易に袋を開封できる。
判定× 袋内面同士が粘着しており、袋を開封することができない。
【0075】
[落袋評価]
フィルムを20cm×20cmの正方形に裁断し、ヒートシール面を内側にした状態で2枚を重ね、フィルム端部より1cmの位置をヒートシールして袋を作成した。ヒートシール条件は、ヒートシール幅10mm、上バー温度120℃、下バー温度30℃、圧力0.2MPa、時間2秒とした。袋に水を吸わせて重量を100gに調整したキムタオル(日本製紙クレシア製)2枚を丸めて袋に入れ、袋開放部の端部より1cmの位置を製袋時と同じヒートシール条件でヒートシールして袋を閉じて密閉した。
作製した密閉袋を1mの高さから繰り返し5回落下させ、以下に示すように、袋が破れるまでの回数を落袋スコアとして求めた。なお、落袋スコアは5回試行後の和として算出した(最高4点×5回=20点満点)。
1回目で破袋 0点
2回目で破袋 1点
3回目で破袋 2点
4回目で破袋 3点
5回目で破袋 4点
また、落袋スコアの点数により以下のように判定した。
判定○ 落袋スコア10点以上
判定× 落袋スコア9点以下
【0076】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。ポリエステル(A)の組成を表1に示す。
【0077】
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(G)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、EGはエチレングリコール、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(G)の製造の際には、滑剤としてSiO(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.73dl/g,C:0.69dl/g,D:0.73dl/g,E:0.74dl/g,F:0.80dl/g、G:0.75dl/gであった。ポリエステル(B)~(G)の組成を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
[実施例1、7]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比10:60:24:6で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比51:37:6:6で混合した。
ヒートシール層及び耐熱層の混合原料はそれぞれ別々の二軸スクリュー押出機に投入し、いずれも270℃で溶融させた。それぞれの溶融樹脂は、流路の途中でフィードブロックによって接合させてTダイより吐出し、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の積層フィルムを得た。積層フィルムは片側がヒートシール層、もう片側が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層の2種2層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、ヒートシール層と耐熱層の厚み比率が50:50となるように吐出量を調整した。
冷却固化して得た未延伸の積層フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後に4.1倍に延伸した。縦延伸直後のフィルムを熱風ヒータで90℃に設定された加熱炉へ通し、加熱炉の入口と出口のロール間の速度差を利用して、長手方向に20%リラックス処理を行った。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0080】
リラックス処理後のフィルムを横延伸機(テンター)に導いて表面温度が95℃になるまで5秒間の予備加熱を行った後、幅方向(横方向)に4.0倍延伸した。横延伸後のフィルムはそのまま中間ゾーンに導き、1.0秒で通過させた。なお、テンターの中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、最終熱処理ゾーンからの熱風と横延伸ゾーンからの熱風を遮断した。
その後、中間ゾーンを通過したフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、180℃で5秒間熱処理した。このとき、熱処理を行うと同時にフィルム幅方向のクリップ間隔を狭めることにより、幅方向に3%リラックス処理を行った。最終熱処理ゾーンを通過後はフィルムを冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。このフィルムを実施例1とした。
【0081】
また、前記最終熱処理ゾーンを通過後のフィルムを冷却し、インラインのコロナ処理装置(春日電機株式会社製)により、ヒートシール層表面のぬれ張力が38mN/m以上となるように室温でコロナ放電処理を施した。その際のコロナ処理電力は1.8kWであった。その後、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。このフィルムを実施例7とした。
得られたフィルムの特性は上記の方法によって評価した。製造条件および評価結果を表2及び表3に示す。
【0082】
[実施例2~5、比較例1、2]
実施例2~5、比較例1、2も実施例1と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率、最終熱処理条件を種々変更したポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。各実施例および比較例のフィルム製造条件と評価結果を表2に示す。
【0083】
[実施例8~11、比較例8および9]
実施例8~11、比較例8も実施例7と同様の方法でヒートシール層と耐熱層を積層させ、原料の配合比率、最終熱処理条件、コロナ処理条件(比較例8はコロナ処理なし)を種々変更したポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。各実施例および比較例のフィルム製造条件と評価結果を表3に示す。
【0084】
[実施例6]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比10:60:24:6で混合し、後の工程は実施例1と同様の方法で最終熱処理温度のみ200℃に変更したA層のみの厚さ15μmのポリエステル系シーラントフィルムを製膜した。また、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルGを質量比94:6で混合し、後の工程は実施例1と同様の方法で最終熱処理温度のみ230℃に変更したB層のみの厚さ45μmのポリエステル系フィルムを製膜した。前記A層のみのポリエステル系シーラントフィルムをヒートシール層とし、前記B層のみのポリエステル系フィルムを耐熱層として2つのフィルムをドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)で接着させた。製造条件と評価結果を表2に示す。
【0085】
[実施例12]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比10:60:24:6で混合し、後の工程は実施例1と同様の方法で最終熱処理温度を200℃、コロナ処理電力を2.7kWに変更したA層のみのポリエステル系シーラントフィルムを製膜した。また、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルGを質量比94:6で混合し、後の工程は実施例1と同様の方法で最終熱処理温度を230℃に変更したB層のみのポリエステル系フィルムを製膜した。前記A層のみのポリエステル系シーラントフィルムをヒートシール層とし、前記B層のみのポリエステル系フィルムを耐熱層として2つのフィルムをドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)で接着させた。製造条件と評価結果を表3に示す。
【0086】
[比較例3]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比5:66:24:5で混合し、後の工程は実施例1と同様の方法で最終熱処理温度のみ170℃に変更したA層のみのポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。製造条件と評価結果を表2に示す。
【0087】
[比較例4]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルGを質量比94:6で混合し、後の工程は実施例1と同様の方法で最終熱処理温度のみ230℃に変更したA層のみのポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。製造条件と評価結果を表2に示す。
【0088】
[比較例5]
比較例4は、東洋紡株式会社製リックスフィルム(登録商標)L4102-25μmを用いた。評価結果を表2に示す。
【0089】
[比較例6]
比較例5は、東洋紡株式会社製パイレンフィルム-CT(登録商標)P1128-25μmを用いた。評価結果を表2に示す。
【0090】
[比較例7]
ヒートシール層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比9:75:10:6で混合し、耐熱層の原料としてポリエステルAとポリエステルBとポリエステルFとポリエステルGを質量比47:37:10:6で混合した。積層フィルムは表面がヒートシール層、内側の層が耐熱層(ヒートシール層/耐熱層/ヒートシール層の2種3層構成)となるように溶融樹脂の流路を設定し、各層の厚み比率が25:50:25となるように吐出量を調整して最終熱処理温度を115℃に変更し、コロナ処理を行わなかった以外の工程は実施例1と同様の方法で、ポリエステル系シーラントを製膜し、評価した。製造条件と評価結果を表3に示す。
【0091】
[比較例10]
比較例10は、東洋紡株式会社製リックスフィルム(登録商標)L4102-25μmを用いた。評価結果を表3に示す。
【0092】
[比較例11]
比較例11は、東洋紡株式会社製パイレンフィルム-CT(登録商標)P1128-25μmを用いた。評価結果を表3に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
[フィルムの評価結果]
表2より、実施例1から6までのフィルムはいずれも密度とヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが所定の範囲となり、100℃ヒートシール強度および140℃ヒートシール強度、ヒートシール層の動摩擦係数、ヘイズ、80℃温湯収縮率、低吸着性、包装袋でのボイル適性に優れており、良好な評価結果が得られた。
一方、比較例1のフィルムは、100℃ヒートシール強度、ヒートシール層の動摩擦係数、ヘイズ、80℃温湯収縮率、低吸着性、包装袋でのボイル適性には優れているが、最終熱処理温度が低いために140℃ヒートシール強度が低かった。
【0096】
また比較例2および3のフィルムは、最終熱処理の際にヒートシール層が融解することで表面が平滑化してヒートシール層の表面粗さの要素の平均長さRSmが長くなっている。ゆえに100℃シール強度が高く、包装袋でのボイル適性に劣る。また、ヒートシール層の動摩擦係数も高いため、フィルムをロールに巻き取る際にシワが生じやすくなり巻き品質が下がるおそれがある。
比較例4のフィルムは密度が1.394と大きく、140℃ヒートシール強度が低いため、シーラントフィルムとして適さない。
比較例5および6のフィルムはオレフィン系フィルムを使用しているため、低吸着性に劣る。また、比較例5のフィルムは140℃ヒートシール強度も低い。
【0097】
表3より、実施例7から12までのフィルムはいずれもヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が所定の範囲となり、120℃ヒートシール強度および140℃ヒートシール強度、ヒートシール層の動摩擦係数、ヘイズ、80℃温湯収縮率、低吸着性に優れており、ブロッキング評価と落袋評価の結果も良好であった。
一方、比較例7のフィルムは、140℃ヒートシール強度、ヒートシール層の動摩擦係数、ヘイズ、80℃温湯収縮率、低吸着性、包装袋でのボイル適性には優れているが、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が26.5%以下であるために120℃ヒートシール強度が低く、落袋評価において破袋しやすい結果であった。
【0098】
また比較例8のフィルムは、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が26.5%以下であるために120℃ヒートシール強度が低く、かつ140℃ヒートシール強度も低いため、シーラントフィルムとして適さない。
比較例9のフィルムは、ヒートシール層表面の酸素原子の存在比率が31.0%以上であるため、120℃ヒートシール強度に優れているが、フィルム同士がブロッキングした。
【0099】
比較例10および11のフィルムはオレフィン系フィルムを使用しているため、低吸着性に劣る。また、比較例10のフィルムは140℃ヒートシール強度が低く、比較例11のフィルムは120℃ヒートシール強度が低い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本願第一の発明は、種々の有機化合物からなる成分が吸着しにくく、140℃のヒートシール性に優れる一方で、100℃ヒートシール強度が低く包装袋として使用して内容物をお湯で茹でて温めようとした際もヒートシール層同士が粘着しにくいシーラントフィルムを提供することができる。
本願第二の発明は、種々の有機化合物を吸着しにくく、140℃のヒートシール性に優れ、さらに低温の120℃ヒートシール性にも優れるため、高速自動充填包装でも十分なヒートシール強度を有するシーラントフィルムを提供することができる。
また、本発明は、前記のシーラントフィルムを少なくとも一層として含む積層体とすることもでき、そのような積層体から包装袋とすることもできる。