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  • 特開-連続鋳造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004032
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/22 20060101AFI20240109BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240109BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20240109BHJP
   B22D 11/108 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B22D11/22 A
B22D11/00 A
B22D11/16 104B
B22D11/108 F
B22D11/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103467
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古米 孝平
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 則親
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MA05
4E004MB14
4E004MC13
4E004NB01
4E004NC04
(57)【要約】
【課題】コーナー近傍での縦割れ、ブリード、ブレークアウトを抑制することのできる連続鋳造方法を提案する。
【解決手段】連続鋳造用の鋳型内に溶鋼を注入しつつ、前記溶鋼が凝固した凝固シェルを引き抜いて、鋳片を製造する際に、前記鋳型内のメニスカスからの鋳造方向距離が同一位置であって、一のコーナーから所定の距離離れた位置の短辺鋳型側の局所熱流束qnと、前記一のコーナーから所定の距離離れた位置の長辺鋳型側の局所熱流束qwと、の局所熱流束比R=qn/qwを0.7以上1.4以下の範囲とする、連続鋳造方法である。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用の鋳型内に溶鋼を注入しつつ、前記溶鋼が凝固した凝固シェルを引き抜いて、鋳片を製造する際に、
前記鋳型内のメニスカスからの鋳造方向距離が同一位置であって、一のコーナーから所定の距離離れた位置の短辺鋳型側の局所熱流束qnと、前記一のコーナーから所定の距離離れた位置の長辺鋳型側の局所熱流束qwと、の局所熱流束比R=qn/qwを0.7以上1.4以下の範囲とする、連続鋳造方法。
【請求項2】
前記短辺鋳型側および前記長辺鋳型側の局所熱流束を測定する位置が、5mm以上20mm以下の範囲でコーナーから離れている、請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記鋳型に注入された溶鋼の表面にモールドパウダーを投入するにあたり、前記モールドパウダーは、CaO、SiO、Al、NaOおよびLiOを含有し、該モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度を1.0以上2.5以下とする、請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項4】
C:0.05~0.22質量%を含有する中炭素鋼を連続鋳造する、請求項1に記載の連続鋳造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型銅板の局所熱流束を規定することで鋳片割れや割れ起因のブレークアウトを防止する連続鋳造方法に係り、特に中炭素鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、鋳型内に注入された溶鋼は水冷式鋳型によって冷却され、鋳型との接触面で溶鋼が凝固して凝固層(「凝固シェル」という)を生成する。この凝固シェルが、鋳型下流側に設置した水スプレーや気水スプレーによって冷却されながら内部の未凝固層とともに鋳型下方に連続的に引き抜かれる。そして、水スプレーや気水スプレーによる冷却によって中心部まで凝固して鋳片が製造されている。
【0003】
鋳型内における冷却が不均一になると、凝固シェルの厚みが鋳造方向および鋳片幅方向や鋳片厚み方向で不均一となる。凝固シェルには、凝固シェルの収縮や変形に起因する応力が作用し、凝固初期においては、この応力が凝固シェルの薄肉部に集中する。この応力によって凝固シェルの表面に割れが発生する。この割れは、その後の熱応力や連続鋳造機のロールによる曲げ応力および矯正応力などの外力により拡大し、大きな表面割れとなる。凝固シェル厚みの不均一度が大きい場合には、鋳型内での縦割れとなり、この縦割れから溶鋼が流出するブレークアウトが発生する場合もある。また、この縦割れは鋳型コーナー近傍にも発生することがあり、その場合、スラブ品質悪化だけでなく、ブリードやブレークアウトなどの操業トラブルを引き起こす可能性がさらに高くなることが分かっている。
【0004】
この凝固不均一によって発生する縦割れは、炭素含有量が0.08~0.17質量%の範囲内の、包晶反応を伴う鋼のうち亜包晶域において発生しやすいことが分かっている。従来、上記の包晶反応を伴う鋼種(「中炭素鋼」という)の表面割れを防止するために、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3に提案されるように、結晶化しやすい組成のモールドパウダーや緩冷却を促進させる鋳型を使用し、モールドパウダー層もしくは鋳型の熱抵抗を増大させて凝固シェルを緩冷却することが試みられている。
【0005】
また、特許文献4には、鋳型銅板の熱流束を監視することで鋳片割れや割れ起因のブレークアウトを防止する中炭素鋼の連続鋳造方法が開示されている。短辺熱流束と長辺熱流束との熱流束比の時間変化を用いて、短辺側の鋳型銅板のテーパー率を増減して、熱流束比が適正になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-297001号公報
【特許文献2】特開平06-304719号公報
【特許文献3】特開平09-276994号公報
【特許文献4】特開2009-090309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1~3に開示の技術では、凝固シェルの緩冷却化によって、コーナー近傍以外での縦割れ抑制には効果があるものの、コーナー近傍の縦割れには、その効果が小さい。そのため、縦割れ、ブリード、ブレークアウトを十分に抑制できないことが課題である。
【0008】
また、特許文献4に開示の技術では、測定している熱流束は冷却水の抜熱から求めた面平均的熱流束であるので、コーナー近傍の局所的熱流束を直接には測定しておらず、コーナー近傍の縦割れ抑制に精度良く対応できない課題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、連続鋳造時において、コーナー近傍での縦割れ、ブリード、ブレークアウトを抑制することのできる連続鋳造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる連続鋳造方法は、連続鋳造用の鋳型内に溶鋼を注入しつつ、前記溶鋼が凝固した凝固シェルを引き抜いて、鋳片を製造する際に、前記鋳型内のメニスカスからの鋳造方向距離が同一位置であって、一のコーナーから所定の距離離れた位置の短辺鋳型側の局所熱流束qnと、前記一のコーナーから所定の距離離れた位置の長辺鋳型側の局所熱流束qwと、の局所熱流束比R=qn/qwを0.7以上1.4以下の範囲とすることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明にかかる連続鋳造方法は、
(a)前記短辺鋳型側および前記長辺鋳型側の局所熱流束を測定する位置が、5mm以上20mm以下の範囲でコーナーから離れていること、
(b)前記鋳型に注入された溶鋼の表面にモールドパウダーを投入するにあたり、前記モールドパウダーは、CaO、SiO、Al、NaOおよびLiOを含有し、該モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度を1.0以上2.5以下とすること、
(c)C:0.05~0.22質量%を含有する中炭素鋼を連続鋳造すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる連続鋳造方法によれば、コーナー近傍での縦割れ、ブリード、ブレークアウトを抑制することのできるので、鋳片の品質トラブルや操業トラブルを未然に防ぐことが可能となり産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】連続鋳造鋳型のコーナー近傍の短辺側と長辺側との局所熱流束比と対応するスラブコーナーの縦割れ個数との関係に与える、熱流束測定点のメニスカスから鋳造方向における距離の影響を示すグラフである。
図2】連続鋳造鋳型のコーナー近傍の短辺側と長辺側との局所熱流束比と対応するスラブコーナーの縦割れ個数との関係に与える、熱流束の測定点がコーナーから短辺側およびに長辺側に離れた距離の影響を示すグラフである。
図3】スラブコーナーの縦割れ個数とモールドパウダーの塩基度との関係を示すグラフである。
図4】実施例の各試験条件でのスラブコーナーの縦割れ個数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
発明者らは、鋳型コーナー部の短辺側と長辺側の局所的な熱流束の比を所定の範囲内に収めることでコーナー近傍の凝固シェルの不均一を解消できると考えて、鋭意検討した。
【0016】
まず、連続鋳造中の鋳型銅板において、メニスカスから鋳造方向に、L=50mm、250mmおよび500mm位置(下方)での、同じコーナー部を有し、コーナー部から長辺側に5mm離れた位置での局所熱流束qw(5)とコーナー部から短辺側に5mm離れた位置での局所熱流束qn(5)を測定した。その局所熱流束比R(5、5)=qn(5)/qw(5)と、そのコーナー部に対応する位置でのスラブコーナー縦割れ個数密度(m-2)との関係をそれぞれ図1(a)~(c)に示す。図1(a)はメニスカスから鋳造方向にL=50mmの場合を示し、図1(b)はメニスカスから鋳造方向にL=250mmの場合を示し、図1(c)はメニスカスから鋳造方向にL=500mmの場合を示す。
【0017】
局所熱流速は、銅板中に埋め込んだ熱電対温度測定値を用いて算出した。局所熱流束比R(5、5)が0.7より小さい場合、長辺側に比べ短辺側の局所熱流束が小さくなりすぎ、長辺側でのシェル厚が短辺側に比べ厚くなる。そのため、コーナー近傍の短辺側の凝固シェルが長辺側に引っ張られることになり、コーナー近傍の短辺側での凝固シェル-鋳型間の隙間が大きくなる。その結果、コーナー近傍の短辺側凝固シェルに凝固遅れが発生し、縦割れが生じやすくなると考えられる。一方、局所熱流束比R(5、5)が1.4より大きい場合、短辺側での局所熱流束が長辺側より大きくなりすぎ、短辺側の凝固シェル厚が長辺側に比べ大きくなる。そのため、コーナー近傍の長辺側の凝固シェルが短辺側に、引っ張られることになり、コーナー近傍の長辺側での凝固シェル-鋳型間の隙間が大きくなる。その結果、コーナー近傍の長辺側凝固シェルに凝固遅れが発生し、縦割れが生じやすくなると考えられる。したがって、局所熱流束比R(5、5)を0.7から1.4の範囲にすることで、コーナー近傍の長辺側と短辺側との凝固シェル厚差を増大させることなく連続鋳造でき、縦割れの発生を抑制できる。
【0018】
次に、メニスカスから鋳造方向にL=50mm離れた位置(下方)での、同じコーナー部を有し、コーナーから短辺側およびに長辺側それぞれn、w=5mm、20mm、50mmおよび100mm離れた位置での熱流束比R(n、w)=qn(n)/qw(w)を測定した。nおよびwは短辺側および長辺側のコーナーからの距離(mm)を表し、qn(n)は短辺側にn離れた位置の局所熱流束を表し、qw(w)は長辺側にw離れた位置の局所熱流束を表す。その局所熱流束比R(n、w)と、そのコーナー部に対応する位置でのスラブコーナーの縦割れ個数密度(m-2)との関係を調査し、結果を図2に示す。
【0019】
コーナーから短辺側およびに長辺側それぞれn、w=50mmおよび100mm離れた位置の局所熱流束比R(n、w)は0.95~1.05の範囲にあり、スラブコーナーの縦割れ個数密度との相関が弱いことがわかった。つまり、スラブコーナー部の縦割れ個数密度が0.2m-2程度の場合もあれば、1.0m-2以上と多発する場合もある。また、コーナーから短辺側およびに長辺側それぞれw、n=5mmおよび20mm離れた位置の局所熱流束比R(n、w)は、スラブコーナーの縦割れ個数密度と強い相関を示すことがわかった。つまり、局所熱流束比R=qn/qwが0.7以上1.4以下の範囲では、スラブコーナー部の縦割れ個数密度が0.2m-2程度以下と良好である。一方、その範囲外では、スラブコーナー部の縦割れ個数密度が0.8m-2超えと多発している。また、コーナーから短辺側およびに長辺側それぞれw、nが5mm未満ではコーナー部近傍での測定となり鋳型銅板への熱電対挿入が不可能であるため測定できない。したがって、局所熱流束比R(n、w)を測定する位置について、鋳型内のメニスカスからの鋳造方向距離が同一位置であって、一のコーナーから所定の距離離れた位置の短辺鋳型側、かつ、そのコーナーから所定の距離離れた位置の長辺鋳型側とし、局所熱流束比R=qn/qwを0.7以上1.4以下の範囲とすることで、スラブコーナー部の縦割れ個数密度を低減できる。好ましくは、局所熱流束を測定する位置が短辺鋳型側および長辺鋳型側に5mm以上20mm以下の範囲でコーナーから離れているものとする。なお、局所熱流束比R(n、w)は、たとえば、鋳型短辺のテーパーの変更、鋳型長辺と短辺との冷却水量バランスの変更など短辺鋳型側と長辺鋳型側との冷却条件の変更により適宜選択できる。さらに、鋳造方向に振動させている鋳型の振動の波形や周波数を変更することによってモールドパウダーの消費量を変更し、鋳型での鋳片の冷却条件を変えることができる。
【0020】
さらに、鋳型内の初期凝固に影響を与えるモールドパウダーの化学組成について検討した。本実施形態のモールドパウダーは、CaO、SiO、Al、NaOおよびLiOを含有し、モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度CaO/SiOが0.7~2.9の範囲のものを用いた。メニスカスから鋳造方向にL=50mm離れた位置(下方)での、同じコーナー部を有し、コーナーから短辺側およびに長辺側それぞれw、n=5mm離れた位置の局所熱流束比R(5、5)=0.9におけるモールドパウダーの塩基度CaO/SiOと対応するコーナー位置でのスラブコーナーの縦割れ個数密度(m-2)との関係を調査し、結果を図3に示す。モールドパウダーの塩基度CaO/SiOが1.0以上では、鋳型内での緩冷却化によりコーナー近傍の凝固シェル厚差をより抑制できるため好ましい。なお、モールドパウダーの塩基度CaO/SiOが2.5を超えると、コーナー縦割れ個数密度は低位にあるものの、鋳型内での緩冷却化を助長しすぎて、鋳型出側での凝固シェル厚不足を生じる。そのため、鋳型直下でのブレークアウトの発生率が高くなるおそれがある。したがって、モールドパウダー中のCaO濃度とSiO濃度との比(質量%CaO/質量%SiO)で表される塩基度を1.0以上2.5以下とすることが好ましい。
【0021】
本実施形態の連続鋳造方法は、凝固収縮などにより縦割れの発生しやすいC含有量0.05~0.22質量%の中炭素鋼の連続鋳造に適用してスラブコーナー部縦割れを軽減し、好適に用いられる。特に、C含有量0.08~0.17質量%程度の包晶反応を伴う亜包晶域の中炭素鋼の連続鋳造に好適に用いられる。
【実施例0022】
転炉での酸素吹錬およびRH真空脱ガス処理を施した、取鍋中の300トンの溶鋼を、表1に示す条件で連続鋳造した。局所熱流束R(n、w)は、表1に示すように、同一コーナーから、長辺鋳型側でw(mm)離れた位置および短辺鋳型側でn(mm)離れた位置で、熱電対の測温値から求めた。また、局所熱流束を測定したメニスカスからの鋳造方向位置はL=50mmとした。モールドパウダーの塩基度CaO/SiOを表1に示す条件下において鋳造を行った。溶鋼のC含有量は0.20質量%であった。また、従来例(試験No.1)としては、R(5、5)=0.6およびモールドパウダーの塩基度CaO/SiOが0.90の条件を用い、連続鋳造を実施した。表1に示す発明例(試験No.2~13)、比較例(試験No.14~17)、従来例(試験No.1)の条件で連続鋳造を行い、鋳片の上下表面(長辺面)中の縦割れ個数密度(m-2)を測定した結果を図4に示す。図4から明らかなように、発明例では、スラブ表面割れ個数密度を大幅に低減することができることが分かった。
【0023】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の連続鋳造方法によれば、コーナー近傍での縦割れ、ブリード、ブレークアウトを抑制することのできるので、鋳片の品質トラブルや操業トラブルを未然に防ぐことが可能となり産業上有用である。

図1
図2
図3
図4