(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004040
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】磁性柔軟部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240109BHJP
H01F 1/375 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F1/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103476
(22)【出願日】2022-06-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 文部科学省科学技術試験研究委託事業「磁気異方性軟磁性材料を用いた高周波・電力変換用トランス・インダクタの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100144130
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 実
(72)【発明者】
【氏名】保科 修一
(72)【発明者】
【氏名】水野 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光秀
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA11
5E041AB01
5E041AB02
5E041BB03
5E041CA06
5E041HB05
5E041NN06
5E041NN17
(57)【要約】
【課題】構造が破壊されることなくインダクタ等の被装着部材の立体形状に沿わせるように曲げて装着することができる磁性柔軟部材を提供する。
【解決手段】磁性柔軟部材1は、ベースフィルム2、アンダーコート3、メインコート4の順に積層されており、ベースフィルム2は柔軟性を有する樹脂材で形成されたものであり、アンダーコート3はベースフィルム2にメインコート4を付けるためのものであり、メインコート4は微粉軟磁性材11および樹脂材12を含む磁性コンポジット材で形成されていて、メインコート4にはベースフィルム2の面に対して垂直方向に微小亀裂7が設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルム、アンダーコート、メインコートの順に積層されており、
前記ベースフィルムは、柔軟性を有する樹脂材で形成されたものであり、
前記アンダーコートは、前記ベースフィルムに前記メインコートを付けるためのものであり、
前記メインコートは、微粉軟磁性材および樹脂材を含む磁性コンポジット材で形成されていて、
前記メインコートには、前記ベースフィルムの面に対して垂直方向に微小亀裂が設けられていることを特徴とする磁性柔軟部材。
【請求項2】
前記微小亀裂は、前記ベースフィルムに近い側の亀裂幅が前記ベースフィルムと逆側の亀裂幅よりも狭い形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性柔軟部材。
【請求項3】
前記メインコートの樹脂材と前記アンダーコートとが境界付近で混じり合い、前記微小亀裂のアンダーコート側の終端が前記アンダーコート内にあることを特徴とする請求項1に記載の磁性柔軟部材。
【請求項4】
前記微小亀裂は、1mm以下の間隔で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁性柔軟部材。
【請求項5】
前記メインコートは、前記微粉軟磁性材および前記樹脂材の存在しない空隙を部分的に有することを特徴とする請求項1に記載の磁性柔軟部材。
【請求項6】
前記ベースフィルムが長尺に形成されている場合、長尺の前記ベースフィルムの短手方向を基準として、前記ベースフィルムの面方向に概ね-60°以上+60°以下の角度で溝が伸びる前記微小亀裂を少なくとも有することを特徴とする請求項1に記載の磁性柔軟材料。
【請求項7】
前記メインコートには、前記ベースフィルムとは逆側の面にトップコートが積層されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性部柔軟材。
【請求項8】
ベースフィルム、アンダーコート、メインコートの順に積層されている磁性柔軟部材の製造方法であって、
前記ベースフィルムは、柔軟性を有する樹脂材で形成されたものであり、
前記アンダーコートは、前記ベースフィルムに前記メインコートを付けるためのものであり、
前記メインコートは、微粉軟磁性材および樹脂材を含む磁性コンポジット材で形成されたものであり、
前記ベースフィルム、アンダーコート、メインコートを積層した後に、前記メインコートに引っ張りの外力を加えることで、前記メインコートに、前記ベースフィルムの面に対して垂直方向に微小亀裂を形成することを特徴とする磁性柔軟部材の製造方法。
【請求項9】
前記メインコートを前記ベースフィルム側に曲げつつ、前記メインコートに引っ張りの外力を加えることで前記微小亀裂を形成することを特徴とする請求項8に記載の磁性柔軟部材の製造方法。
【請求項10】
前記ベースフィルムが長尺である場合、長尺の前記ベースフィルムの長手方向を基準として、前記ベースフィルムの面方向に-60°以上+60°以下の角度で前記引っ張りの外力を1回又は複数回加えることで前記微小亀裂を形成することを特徴とする請求項8に記載の磁性柔軟部材の製造方法。
【請求項11】
前記メインコートを形成するときに、前記微粉軟磁性材および前記樹脂材の存在しない空隙を部分的に有するものを形成することを特徴とする請求項9に記載の磁性柔軟部材の製造方法。
【請求項12】
前記微小亀裂を形成した後に、前記ベースフィルムとは逆側の前記メインコートの面に、トップコートを積層することを特徴とする請求項9に記載の磁性柔軟部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ等に装着される、微粉軟磁性材および樹脂材を含む磁性コンポジット材をテープ状またはシート状等の柔軟薄板状に形成した磁性柔軟部材およびその製造方法に関する。
【0002】
[持続可能な開発目標と環境対策~電動化・省エネ]
化石燃料の使用による大気汚染や二酸化炭素排出による地球環境の悪化が、世界的な気候変動をもたらしており、解決のための新しいエネルギーの活用の模索とともに、脱炭素社会の実現のための電気エネルギーのさらなる利用拡大と省エネ化に対し、革新的な技術向上が求められている。特に、化石燃料を燃焼させる内燃機関から、蓄電池の電力を使用する電動機への置換が、自動車の分野で顕著であり、そのための技術革新と競争が世界的に活発になっている。省エネの課題として、高性能で蓄電容量の大きい蓄電池や効率良く駆動できる電動機などの基本性能の向上とともに、電気を利用するために電気装置等で使用されるコイル・トランスなどのインダクタにおいて、通電の際に生じる電力損失低減という環境性能の向上が上げられる。
【0003】
[電気機器における電力損失低減]
インダクタにおける電力損失を低減するための方法として、インダクタの電気抵抗の低減、インダクタの電流密度の拡大、インダクタの誘導電流の低減などがあり、インダクタの材質・形状・構造などを最適化することが行われてきた。インダクタの表面に微粉軟磁性材を付与して、インダクタから外部へ拡散する磁気を微粉軟磁性材に渦電流として閉じ込め、インダクタおよび隣接するインダクタで生じる漏れ磁束による電力損失を低減できる。この場合、微粉軟磁性材は球状や塊状、あるいは、扁平状の粉体が良い。これら微粉軟磁性材の粉体の選択は、使用するインダクタの材質・形状・構造などに加え、通電する交流電流の大きさや周波数に依存している。一般的に、周波数が高い交流電流の場合には、粒径の小さな微粉軟磁性材が良い。
【0004】
[インダクタへの微粉軟磁性材の適用による磁気損失低減]
インダクタの表面に微粉軟磁性材を付与することにより電力損失を低減することは、特許文献1に記載のコンピュータシミュレーションや実験により明らかである。実際のインダクタに適用するためには、微粉軟磁性材を樹脂材に混ぜ合わせてペースト状にし、それをインダクタの表面に接着剤や粘着剤を用いて塗布する方法と、微粉軟磁性材を樹脂材と混ぜ合わせてテープ状やシート状の柔軟薄板状にし、それをインダクタの表面に接着剤や粘着剤を用いて貼付または巻き付ける方法がある。ペースト状あるいはテープ状のものの仕様が、インダクタへ適用するための重要な課題となっている。特に、インダクタへの適用するための工法や作業を考えた場合に、テープ状等の柔軟薄板状の方が微粉軟磁性材を付与する量をむらなく調整することができ、供給や運搬などの取り扱いが優れ、特別な装置を使用することなく種々のインダクタに適用できるため、ペーストよりも実用上の優位性は高い。
【0005】
[電力損失低減の実現のための磁性柔軟部材への要求機能]
これまで、微粉軟磁性材を適用した磁性テープや磁性シートには多くの種類のものがあり、いろいろなインダクタに応用されている。たとえば、特許文献2の記載のように通信機器から発生するGHz帯域の高調波のノイズを抑制するテープ状あるいはシート状のものがあるが、インダクタに直接適用するものはない。その理由として、インダクタに加える電力が比較的大きく、発熱も大きくなることから、磁性テープには電気絶縁性や耐熱性が要求されるとともに、電流も大きいことから磁気的なエネルギー損失も大きくなり、損失を抑制するための多量の微粉軟磁性材を確保するためには、磁性テープの厚さを大きくしななければならないという、磁性テープの構造上および製造上の困難さがある。
【0006】
[インダクタに適用するための磁性柔軟部材の制約条件]
電気絶縁性を確保するためには部分的でも磁性テープ(磁性柔軟部材)に絶縁材を適用することが必要な上、耐熱性を確保するためには磁性テープを構成する材料が全て耐熱性でなければならない。特に、微粉軟磁性材を混ぜ合わせられる樹脂材に耐熱性が要求される場合、たとえばシリコーン樹脂のように乾燥または焼成後の硬度が高く、磁性テープに適用した場合に耐屈曲性(柔軟性、屈曲性)が劣るため、インダクタへ巻き付ける箇所の半径や面取りが小さい角部では巻き付けが困難である。加えて、強制的に巻き付ける場合には、微粉軟磁性材を保持している樹脂の内部応力が許容値を越え、磁性テープとしての構造が破壊される。よって、必要な電力損失低減性・電気絶縁性・耐熱性などを満たす磁性テープを実現するためには、巻き付けに必要な耐屈曲性を付与することが重大な課題となっている。なお、インダクタに付いて説明したが、高温になる磁気回路部品、電子部品などに装着される磁性柔軟部材にも同様の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-018585号公報
【特許文献2】特開2014-192327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、構造が破壊されることなくインダクタ等の被装着部材の立体形状に沿わせるように曲げて装着することができる磁性柔軟部材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の磁性柔軟部材は、ベースフィルム、アンダーコート、メインコートの順に積層されており、前記ベースフィルムは、柔軟性を有する樹脂材で形成されたものであり、前記アンダーコートは、前記ベースフィルムに前記メインコートを付けるためのものであり、前記メインコートは、微粉軟磁性材および樹脂材を含む磁性コンポジット材で形成されていて、前記メインコートには、前記ベースフィルムの面に対して垂直方向に微小亀裂が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の磁性柔軟部材は、請求項1に記載のものであり、前記微小亀裂は、前記ベースフィルムに近い側の亀裂幅が前記ベースフィルムと逆側の亀裂幅よりも狭い形状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の磁性柔軟部材は、請求項1に記載のものであり、前記メインコートの樹脂材と前記アンダーコートとが境界付近で混じり合い、前記微小亀裂のアンダーコート側の終端が前記アンダーコート内にあることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の磁性柔軟部材は、請求項1に記載のものであり、前記微小亀裂は、1mm以下の間隔で設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の磁性柔軟部材は、請求項1に記載のものであり、前記メインコートは、前記微粉軟磁性材および前記樹脂材の存在しない空隙を部分的に有することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の磁性柔軟部材は、請求項1に記載のものであり、前記ベースフィルムが長尺に形成されている場合、長尺の前記ベースフィルムの短手方向を基準として、前記ベースフィルムの面方向に概ね-60°以上+60°以下の角度で溝が伸びる前記微小亀裂を少なくとも有することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の磁性柔軟部材は、請求項1に記載のものであり、前記メインコートには、前記ベースフィルムとは逆側の面にトップコートが積層されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の磁性柔軟部材の製造方法は、ベースフィルム、アンダーコート、メインコートの順に積層されている磁性柔軟部材の製造方法であって、前記ベースフィルムは、柔軟性を有する樹脂材で形成されたものであり、前記アンダーコートは、前記ベースフィルムに前記メインコートを付けるためのものであり、前記メインコートは、微粉軟磁性材および樹脂材を含む磁性コンポジット材で形成されたものであり、前記ベースフィルム、アンダーコート、メインコートを積層した後に、前記メインコートに引っ張りの外力を加えることで、前記メインコートに、前記ベースフィルムの面に対して垂直方向に微小亀裂を形成することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の磁性柔軟部材の製造方法は、請求項8に記載のものであり、前記メインコートを前記ベースフィルム側に曲げつつ、前記メインコートに引っ張りの外力を加えることで前記微小亀裂を形成することを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の磁性柔軟部材の製造方法は、請求項8に記載のものであり、前記ベースフィルムが長尺である場合、長尺の前記ベースフィルムの長手方向を基準として、前記ベースフィルムの面方向に-60°以上+60°以下の角度で前記引っ張りの外力を1回又は複数回加えることで前記微小亀裂を形成することを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の磁性柔軟部材の製造方法は、請求項8に記載のものであり、前記メインコートを形成するときに、前記微粉軟磁性材および前記樹脂材の存在しない空隙を部分的に有するものを形成することを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の磁性柔軟部材の製造方法は、請求項8に記載のものであり、前記微小亀裂を形成した後に、前記ベースフィルムとは逆側の前記メインコートの面に、トップコートを積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明を適用する磁性柔軟部材は、ベースフィルム、アンダーコート、メインコートの順に積層されており、メインコートは微粉軟磁性材および樹脂材を含む磁性コンポジット材で形成されていて、メインコートにはベースフィルムの面に対して垂直方向に微小亀裂が設けられていることにより、構造が破壊されることなくインダクタ等の被装着部材の立体形状に沿わせるように曲げて装着することができる。
【0022】
微小亀裂はベースフィルムに近い側の亀裂幅がベースフィルムと逆側の亀裂幅よりも狭い形状に形成されている場合、ベースフィルムを外側にして無理なく大きくメインコートを曲げることができるため、被装着部品の立体形状に沿わせてより装着しやすい。
【0023】
メインコートの樹脂材とアンダーコートとが境界付近で混じり合い、微小亀裂のアンダーコート側の終端がアンダーコート内にある場合、メインコートとアンダーコートとが強固に結合するため、脆性の磁性コンポジット材に微小亀裂を付与しても亀裂の伝播をアンダーコートと磁性コンポジット材との境界で止めることができ、メインコートが破壊されることを防止することができる。
【0024】
微小亀裂が1mm以下の間隔で設けられている場合、微小亀裂の間隔が狭いほど磁性柔軟部材が曲がりやすいため、被装着部品の立体形状に沿わせてより装着しやすい。
【0025】
メインコートが微粉軟磁性材および樹脂材の存在しない空隙を部分的に有する場合、微小亀裂を簡便に形成しやすいため、磁性柔軟部材が曲がりやすいものになる。
【0026】
長尺のベースフィルムの短手方向を基準(0°)としてベースフィルムの面方向に概ね-60°以上+60°以下の角度で溝が伸びる微小亀裂を少なくとも有する場合、磁性柔軟部材が溝で曲がるため、溝の角度に対応するように磁性柔軟部材を被装着部材に巻き付けやすい。
【0027】
メインコートにはベースフィルムとは逆側の面にトップコートが積層されている場合、メインコートが保護される。トップコートが接着剤、粘着剤または両面テープを兼用している場合、磁性柔軟部材を被装着部材に簡便・迅速に装着することができる。
【0028】
本発明を適用する磁性柔軟部材の製造方法は、ベースフィルム、アンダーコート、メインコートを積層した後に、磁性コンポジット材で形成されたメインコートに引っ張りの外力を加えることで、ベースフィルムの面に対して垂直方向に微小亀裂を形成することにより、微小亀裂を簡便に形成することができる。
【0029】
メインコートをベースフィルム側に曲げつつ、メインコートに引っ張りの外力を加えて微小亀裂を形成する場合、微小亀裂を効率よく簡便に形成することができる。
【0030】
長尺のベースフィルムの長手方向を基準(0°)として、ベースフィルムの面方向に-60°以上+60°以下の角度で引っ張りの外力を加えることで微小亀裂を形成する場合、微小亀裂の溝を概ね任意の角度で形成することができる。
【0031】
メインコートを形成するときに微粉軟磁性材および樹脂材の存在しない空隙を部分的に有するものを形成する場合、空隙を起点として微小亀裂が形成されやすいため、微小亀裂を簡便に形成することができる。
【0032】
微小亀裂を形成した後に、ベースフィルムとは逆側のメインコートの面にトップコートを積層する場合、脆弱なメインコートを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明を適用する磁性柔軟部材(磁性テープ)の積層構造を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明を適用する磁性柔軟部材(磁性テープ)の構造を模式的に示す一部拡大断面図である。
【
図3】本発明を適用する磁性柔軟部材(磁性テープ)の微小亀裂の溝の方向を説明するための、メインコートを上面方向から見た模式的な平面図である。
【
図4】本発明を適用する磁性柔軟部材(磁性テープ)の製造方法を模式的に示す概要図である。
【
図5】本発明を適用する磁性柔軟部材(磁性テープ)の製造方法を模式的に示す縦断面図である。
【
図6】本発明を適用する磁性柔軟部材(磁性テープ)の製造方法を模式的に示す平面図である。
【
図7】作製した測定試料(実施例)の形状を示す図及び外観写真である。
【
図8】実施例の比透磁率の測定結果のグラフである。
【
図9】実施例の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【
図10】実施例の表面の拡大写真及び表面の凹凸深さの測定結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、発明を実施するための形態を説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0035】
図1に、本発明を適用する磁性柔軟部材1の模式的な斜視図を示す。
図2に、本発明を適用する磁性柔軟部材1の模式的な一部拡大断面図を示す。磁性柔軟部材1は、柔軟性を有する薄板状(柔軟薄板状)に形成されたものである。磁性柔軟部材1は、ベースフィルム2、アンダーコート3、メインコート4の順に積層されている積層構造に構成されている。ベースフィルム2は、柔軟性を有する樹脂材で形成されたものである。アンダーコート3は、ベースフィルム2にメインコート4を付けるためのものである。メインコート4は、微粉軟磁性材11および樹脂材12(共に
図2参照)を含む磁性コンポジット材で形成されている。メインコート4には、ベースフィルム2の面に対して垂直方向に微小亀裂7(
図2参照)が設けられている。必要性に応じて、同図に示すように、メインコート4には、ベースフィルム2とは逆側の面にトップコート5が積層されていてもよい。
【0036】
同図には、磁性柔軟部材1の一例として、テープ状に形成された磁性テープの例を示している。この磁性柔軟部材1は、一例として、インダクタ(被装着部材)の外周面に巻いて装着される磁性テープである。以下では、本発明を適用する磁性柔軟部材1を磁性テープ1ともいう。磁性柔軟部材1は、シート状に形成された磁性シートであってもよい。磁性柔軟部材1の形状は任意である。磁性柔軟部材1は、インダクタ等の被装着部材に装着されて使用されるものであるため、例えば、被装着部材の立体形状に対応させた袋状、カバー状などの立体的形状に形成されていてもよい。
【0037】
ここで、本発明について具体的に説明する前に、インダクタに装着する磁性テープ1に求められる性能や、本発明に至る経緯、本発明の概要等について説明しておく。
【0038】
[インダクタでの表皮効果と近接効果による電力損失の磁性コンポジット材による低減]
インダクタに交流の電流を与えた場合、通電で生じる磁束による表皮効果や近接効果により、インダクタの内部に渦電流が発生し、それが交流銅損として電力損失になることが一般に知られている。交流銅損はインダクタを温度上昇させて熱を生み、与えた電力を無効化するしまうため、交流銅損を低減することは省エネ化の一つの課題である。表皮効果や近接効果を最小化するため、電流値や周波数に応じてインダクタの構造や寸法を最適化しているが、インダクタの外表面への微粉軟磁性材の付与することが、さらに電力損失の低減に有効であることが、コンピューターシミュレーションや試験評価で明らかである。
【0039】
[インダクタでの表皮効果と近接効果による電力損失の磁性コンポジット材による低減]
インダクタの外周面に微粉軟磁性材を付与することが電力損失の低減に有効であるが、交流の電流値・周波数やインダクタの構造など使用条件・使用環境により、付与する微粉軟磁性材の仕様を変えていくことが必要である。たとえば、電流値が多ければ磁束が大きくなるため、大きな飽和磁束密度に対応できる材質や質量の微粉軟磁性材が、周波数が高ければ粒径の小さい微粉軟磁性材が必要となる。また、インダクタの効率を上げるためには、インダクタで使われる銅材やアルミニウム材のマグネットワイヤを巻き付け時の占積率を上げたり円形断面を四方形断面にすることが必要で、単純に適用する磁性テープを厚くすれば対応できるわけではない。そのため、必要な材質・粒径・質量の微粉軟磁性材11の選択や磁性テープ1に対する微粉軟磁性材11の充填率に合わせて、使用するベースフィルム2・アンダーコート3・メインコート4で使用する樹脂材12を選択しなければならない。また、インダクタにも省エネに関連する軽量化の要求もあり、一般的には微粉軟磁性材を高充填化した磁性テープ1が必要である。なお、強磁性材をテープに塗布した記録媒体用磁気テープとは、微粉磁性体の材質や大きさから別物である。
【0040】
[高充填率の微粉軟磁性材と耐熱性・電気絶縁性の高い樹脂材との混合材の脆性]
一般的にインダクタの使用温度が高く、他の電気部品との短絡を防止するため、微粉軟磁性材11と混合され製造される磁性コンポジット材で使われる樹脂材12とには、耐熱性と電気絶縁性が要求される。中でも、周波数が高く電流が大きく高温環境で使用されるインダクタに使用するものは、UL規格で電気絶縁粘着テープ用の難燃性に関する試験基準を定めているUL510FR温度定格で130℃や200℃の耐熱性が求められるため、磁性テープ1を構成する樹脂材12として、シリコーン樹脂・テフロン(登録商標)樹脂・ポリイミド樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックの選択となる。これらの樹脂材12は、単一あるいは複数の樹脂材と混合されたハイブリッド材などの材質や、ワニス・パウダ・フレークなどの形態など多数の種類がある。総じて、樹脂材12としては高強度・高硬度・高弾性という特徴がある。磁性コンポジット材は微粉軟磁性材11を高充填率で以上のような樹脂材12と混合されるため、樹脂材12が延性であっても複合材料としては脆性となる。そのため、磁性テープ1の厚さを厚くしたり、磁性テープ1を小さな曲率半径でインダクタに装着したりする場合には、磁性コンポジット材の内部が破壊し、磁性コンポジット材の部分的な脱落や磁性テープ1の折損が生じる。
【0041】
[磁性コンポジット材への微小亀裂の付与による磁性テープの柔軟性の付与]
磁性テープ1を構成する磁性コンポジット材は、材質的には脆性であるため、そのままだとインダクタに巻き付けて装着することは困難である。そこで、発明者は、テープ状で細長い構造の磁性コンポジット材を規則的あるいは無作為的な形状に細かく分離または分解し、それらを支持材のベースフィルム2に接着あるいは粘着し、ミクロ的には不連続ながらマクロ的には柔軟性のあるテープ構造が良いと考えた。そして、磁性テープ1を製造する材料・構造・工法・工順などを考察し、ベースフィルム2に磁性コンポジット材を接着あるいは粘着した後に、磁性コンポジット材に微小亀裂7を付与し、脆性であっても耐屈曲性を満足する本発明の磁性テープ1に到達した。
【0042】
[アンダーコートによる微小亀裂に起因する磁性コンポジット材の破壊の抑制]
磁性コンポジット材は微粉軟磁性材11が樹脂材12の内部に埋め込まれている複合材料体であるため、微粉軟磁性材11と樹脂材12は強固に結合していない。また、樹脂材12は乾燥際に体積収縮により内部に引張応力が残留する上、複合材料体の中では樹脂材12は構造体として細く薄いため、単一材料体の樹脂材では許容できる内部応力でも、複合材料体の樹脂材12には許容以上の内部応力となるため破壊しやすくなる。そのため、磁性コンポジット材に微小亀裂を付与する際に、磁性コンポジット材が単体で存在する場合には、微小亀裂が急激に伝播して磁性コンポジット材が破壊されてしまう。そのようなことから、微小亀裂7を付与する磁性テープ1を成立させるには、磁性テープ1の構造・形状を維持するための支持材として樹脂材のベースフィルム2を適用する。特に、耐熱性・電気絶縁性が必要な樹脂材12による磁性コンポジット材は脆性となるため、ベースフィルム2は必要不可欠である。また一般的に、磁性コンポジット材の樹脂材12とベースフィルム2の樹脂材の密着性が低いため、磁性コンポジット材とベースフィルム2との間に密着性を補うための接着剤または粘着剤等からなるアンダーコート3を付与する。
【0043】
[ベースフィルム、アンダー・メインコート・トップコートからなる4層構造の磁性テープ]
ベースフィルム2、アンダーコート3、磁性コンポジット材のメインコート4の3層からなる磁性テープ1とすることにより、磁性コンポジット材に微小亀裂7を付与しても、亀裂の伝播をアンダーコート3の接着剤または粘着材と磁性コンポジット材との境界で止めることができる。よって、脆性の磁性コンポジット材であっても、耐屈曲性が高くインダクタヘの装着性に優れた磁性テープ1を得ることができる。最後に、磁性テープ1をインダクタへ巻き付けるなどして装着し、その装着状態を維持するため、磁性コンポジット材のメインコート4の最上面に、巻き付けるインダクタの表面性状に適する耐熱性・電気絶縁性のある樹脂材を基にしたトップコート5を付与して最終状態の4層構造の磁性テープ1が得られる。トップコート5は、例えば接着剤または粘着剤を塗布して形成される。なお、トップコート5になる接着剤または粘着剤の塗布による磁性コンポジット材の微小亀裂への影響はなく、磁性テープ1の耐屈曲性が変化することはない。また、接着剤または粘着剤の塗布厚さの精度を高めるため、塗布前にテープ面の垂直方向にカレンダ加工を追加しても、磁性コンポジット材の微小亀裂と同じ方向への応力となるため、磁性テープの耐屈曲性が変化することもない。
【0044】
[混合、塗布、乾燥、加工などの工法により要求を満足する磁性テープの実現]
以上、必要な微粉軟磁性材11や樹脂材12を選択し、それらを混合してベースフィルム2(樹脂材フィルム)に塗布・乾燥してメインコート4とし、微小亀裂7を付与し、必要に応じてカレンダ加工を入れ、トップコート5(接着剤または粘着剤)を塗布することにより、求められる電力損失低減を果たし、耐熱性・電気絶縁性・耐屈曲性に優れる磁性テープ1が実現する。
【0045】
[耐熱性、電気絶縁性、耐屈曲性、装着性に優れた磁性テープによる電力損失低減効果]
[微小亀裂の形成方法の一例]
本発明の磁性テープ1は、耐熱性・電気絶縁性のある樹脂材12と電力低減効果を上げるために高い充填率で微粉軟磁性材11とを混ぜた磁性コンポジット材が乾燥収縮する際に、内部に高い引張応力が発生することにより小さな引張応力の付与でも脆性破壊する性質を利用し、適切な外力を加えることによりテープ面と垂直方向に微小亀裂を付与させ、脆性材料でありながら高い耐屈曲性の特徴を持たせることにより、小さな半径や面取りのインダクタの装着に対して適用することに好適である。
【0046】
[磁性テープに要求される特性]
磁性テープ1の要求特性は電磁面・化学面・物理面があり、電磁特性には電力損失低減性・飽和磁束密度・電気絶縁性、化学特性には耐熱性・接着性/粘着性・熱伝導性、物理特性には耐屈曲性・引張強度・伸び・縦弾性率・曲げ剛性・寸法がある。主たる機能を果たす電磁特性は、磁性テープ1の主要構造である磁性コンポジット材として選択する主材料に依存している。一方、テープとしての要求特性を満たすためには、磁性テープ1の大半を構成している磁性コンポジット材の要求特性が重要であるため、磁性コンポジット材を構成する原材料である微粉軟磁性材11と樹脂材12の特性は重要である。その他のベースフィルム2とアンダーコート3では、磁性コンポジット材の特性に合わせて原材料を選択するが、トップコート5は磁性テープ1を適用するインダクタの表面性状に合わせて原材料を選択する。
【0047】
[磁性テープの原材料に必要な特性]
前記より、磁性テープ1に要求される特性は明らかであるが、磁性テープを作製するための工法上の条件を満たすための特性も考慮した上で、主材料や副材料を以下のように選択する。磁性コンポジット材の主材料のうち、微粉軟磁性材11の選択では、電磁特性として透磁率・飽和磁束密度・保磁力・抵抗率、化学特性として分散性・疎水性/親水性・危険性、物理特性として球状/扁平状・粒径/直径・真密度/嵩密度の特性を考慮する。樹脂材12の選択では、化学特性として分子量・分散性・疎水性/親水性・耐熱性・危険性/有害性・乾燥温度・乾燥時間、電気絶縁性・熱伝導性・適用溶剤、物理特性として密度・粘度・残存率・収縮率・残留応力の特性を考慮する。また、磁性テープ1の副材料のうち、ベースフィルム2の選択では、化学特性として耐熱性、物理特性として引張強度・縦弾性率・伸びの特性を考慮する。アンダーコート3の選択では、化学特性として耐熱性、物理特性として接着性/粘着性を考慮する。トップコート5の選択では、化学特性として耐熱性、物理特性として接着性/粘着性を考慮する。磁性テープ1をインダクタに適用する場合、インダクタの効率性や軽量性などの面から、磁性コンポジット材を除く部分が少ない方が良く、ベースフィルム2、アンダーコート3、トップコート5は薄い方が良い。
【0048】
以上、磁性テープに求められる性能、本発明に至る経緯、本発明の概要等について説明を行った。
【0049】
続いて、本発明を適用する磁性柔軟部材1(磁性テープ1)について、
図1~
図3を参照しつつ、具体的に説明する。
【0050】
ベースフィルム2は、柔軟性を有する樹脂材でフィルム状に形成されている。磁性テープ1は、ベースフィルム2が長尺(テープ状)に形成された磁性柔軟部材1である。前述したように、コイル・トランスなどのインダクタに装着する場合、ベースフィルム2は絶縁性を有すると共に、耐熱性が要求される。このため、ベースフィルム2として、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)などのエンジニアリングプラスチック、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などのスーパーエンジニアリングプラスチック、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂、シリコーン樹脂などで形成されたフィルム(樹脂膜)を好ましく用いることができる。
【0051】
ベースフィルム2の厚さは任意であるが、一例として、厚さ10μm~100μmであることが好ましい。
【0052】
アンダーコート3は、ベースフィルム2にメインコート4を付けるためのものであり、粘着剤、接着剤または両面テープである。アンダーコート3は、使用温度で柔軟性・耐熱性を有する必要がある。このため、アンダーコート3として、例えば、シリコーン樹脂系粘着剤、アクリル樹脂系粘着剤、ウレタン樹脂系粘着材、ゴム系粘着材を好ましく用いることができる。
【0053】
アンダーコート3の厚さは任意であるが、一例として、少なくとも厚さ5μmの接着材または粘着材であることが好ましい。アンダーコート3は、例えば、厚さ5μm~100μmであることが好ましい。
【0054】
メインコート4の樹脂材12とアンダーコート3の樹脂材とが境界付近で混じり合い、微小亀裂7のアンダーコート3側の終端がアンダーコート3内にあることが好ましい。このように、アンダーコート3及びメインコート4の樹脂材同士が境界付近で混じり合っている(混在している)と、アンダーコート3とメインコート4とが強固に結合するため好ましい。磁性コンポジット材に微小亀裂7を付与しても、亀裂の伝播をアンダーコート3とメインコート4との境界で止めることができる。よって、脆性の磁性コンポジット材であっても、ベースフィルム2から脱落することなく、ベースフィルム2と共に無理なく曲がる。このため、耐屈曲性が高くインダクタヘの装着性に優れた磁性テープ1になる。
【0055】
メインコート4は、
図2中の丸枠内に示すように、微粉軟磁性材(軟磁性紛)11および樹脂材12を含む磁性コンポジット材で形成されている。メインコート4は、微粉軟磁性材11と樹脂材12とが混合されて形成されている。メインコート4は、樹脂材12中に微粉軟磁性材11が均一に分散していることが好ましい。
【0056】
微粉軟磁性材11の形状は任意である。微粉軟磁性材11として、例えば、球状、塊状および扁平状の粉体から選ばれる1種または複数種を混合したものを用いることができる。また、微粉軟磁性材11として、異なる形状、異なるサイズの粉体を混合して用いることができる。微粉軟磁性材11は、一例として、球状、塊状または扁平状で1μm~100μmの粒径または直径であることが好ましい。
【0057】
微粉軟磁性材11は、軟磁性体であれば材質は限定されない。微粉軟磁性材11として、例えば、鉄粉、Si-Fe紛、アモルファス粉、フェライト粉(Mn-Zn、Ni-Zn)、ファインメット(登録商標)粉、センダスト紛、Fe-Si-Al紛から選ばれる1種または複数種を用いることができる。微粉軟磁性材11として、表面を絶縁材で覆われた軟磁性粉を用いてもよい。
【0058】
微粉軟磁性材11が多く含まれるほど、磁気的な特性に優れたものになる。微粉軟磁性材11は、メインコート4中にほぼ最密充填状態で65~70重量%程度(条件によっては80重量%程度)含まれている。微粉軟磁性材11は、一例として、メインコート4中に80重量%~20重量%含まれていることが好ましい。
【0059】
樹脂材12は、耐熱性および絶縁性を有する必要がある。被装着部材がインダクタの場合、UL規格により130℃や200℃の耐熱性が求められる。このため、樹脂材12として、高い耐熱性を有するPET(ポリエチレンテレフタレート)などのエンジニアリングプラスチック、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などのスーパーエンジニアリングプラスチック、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂、シリコーン樹脂を好ましく使用できる。
【0060】
樹脂材12は、一例として、メインコート4中に30体積%~60体積%含まれていることが好ましい。
【0061】
図2に示すように、メインコート4は、本発明の特徴的な構成である微小亀裂7を有している。メインコート4が、ベースフィルム2に直交する方向の微小亀裂7を多数有することで、メインコート4の磁性コンポジット材(微粉軟磁性材11及び樹脂材12)自体が変形し難いものであっても、メインコート4(磁性テープ1)を被装着部材の形状に沿わせるように微小亀裂7の溝部分で曲げることができる。
【0062】
磁性テープ1は、ベースフィルム2とは逆側のメインコート4側(トップコート5側)を被装着部材に装着することを想定しているものである。つまり、磁性テープ1は、被装着部材に巻き付けるときに、トップコート5側に曲げられる。このため、同図に示すように、微小亀裂7が、ベースフィルム2に近い側(溝奥側)の亀裂幅がベースフィルム2と逆側(溝の入口側)の亀裂幅よりも狭い形状に形成されていることが好ましい。このように、微小亀裂7の亀裂幅がトップコート5側で広く、ベースフィルム2側で狭くなっていると、磁性テープ1(メインコート4)はトップコート5側に無理なく大きく曲がりやすいため、被装着部材の形状に沿わせて装着しやすい。
【0063】
磁性テープ1は、被装着部材に装着したときに、微粉軟磁性材11同士が近接して密に配置されることが好ましい。そのため、磁性テープ1を被装着部材に装着したときに、微小亀裂7が狭まって、微小亀裂7を挟む磁性コンポジット材同士が接触し合う程度の溝幅で、微小亀裂7が形成されていることが好ましい。
【0064】
微小亀裂7同士の間隔P(ピッチP)は、狭い方が磁性テープ1(メインコート4)を曲げやすいため、一例として、1mm以下の間隔Pで設けられていることが好ましい。磁性柔軟部材1(メインコート4)は、微小亀裂7の溝方向に対応して曲がるため、磁性柔軟部材1(メインコート4)を曲げたい方向に対応させて微小亀裂7の溝方向を形成することが好ましい。微小亀裂7が多いほど、また微小亀裂7の溝方向が縦横に形成されるほど、磁性テープ1(メインコート4)は曲がりやすくなる。一方、微小亀裂7の数が多くなると、メインコート4中に空間が多くなって微粉軟磁性材11同士が密に配置されにくくなるため、必要性に応じて微小亀裂7の数等を設定すればよい。
【0065】
なお、メインコート4は、微粉軟磁性材11および樹脂材12の存在しない空隙21を部分的に有することが好ましい。後述するが、空隙21を有することで、微小亀裂7が形成されやすくなる。
【0066】
図3に、微小亀裂7の溝方向を説明するために、磁性テープ1のメインコート4を上面方向から見た模式的な平面図を示す。
【0067】
同図中の矢印Lは磁性テープ1の長手方向(長さ方向)を表し、矢印Mは磁性テープ1の短手方向(幅方向)を表している。同図は、微小亀裂7の溝方向が磁性テープ1(長尺のベースフィルム2)の短手方向Mに延びる例を示している。磁性テープ1のようにベースフィルム2が長尺に形成されている場合、長尺のベースフィルム2の短手方向を基準(0°)として、ベースフィルム2の面方向に概ね-60°以上+60°以下の角度αで溝が伸びる微小亀裂7を少なくとも有することが好ましい。このような角度αで微小亀裂7の溝が形成されていると、磁性テープ1を被装着部材に巻き付けやすい。
【0068】
同図(a)は、一点鎖線Kaで示すように、短手方向Mに対して0°の角度αで溝が伸びる微小亀裂7がメインコート4に少なくとも形成されている例である。同図(a)の範囲52aには、微小亀裂7の溝がメインコート4の短手方向Mの端から端まで連続して形成されている例を示している。同図(a)の範囲51aには、微小亀裂7の溝がメインコート4の短手方向Mの端から端まで不連続で形成されている例を示している。同図(a)の範囲53aには、微小亀裂7の溝がメインコート4の短手方向Mの端から端まで連続して(又は不連続で)形成されていると共に、長手方向Lにも連続して(又は不連続で)形成されている例を示している。このように、短手方向Mに対して、おおむね0°の角度αで溝が伸びる微小亀裂7がメインコート4に少なくとも形成されていると、磁性テープ1を長手方向Lに対して0°の角度で被装着部材に巻き付けやすい。微小亀裂7の溝の数が多いほど、また溝が連続して長いほど、磁性テープ1を被装着部材に巻き付けやすい。
【0069】
なお、溝は直線状に形成されずに、実際には曲線状やジグザグ状に形成される場合が有るが、おおむね溝の伸びる近似的(平均的)な直線方向の角度で溝の角度を判定すればよい。
【0070】
同図(b)は、一点鎖線Kbで示すように、短手方向Mに対して角度α(一例として30°)で溝が伸びる微小亀裂7がメインコート4に少なくとも形成されている例である。同図(b)の範囲52bには、微小亀裂7の溝がメインコート4の短手方向Mの端から端まで連続して形成されている例を示している。同図(b)の範囲51bには、微小亀裂7の溝がメインコート4の短手方向Mの端から端まで不連続で形成されている例を示している。同図(b)の範囲53bには、微小亀裂7の溝がメインコート4の短手方向Mの端から端まで連続して(又は不連続で)形成されていると共に、長手方向Lにも連続して(又は不連続で)形成されている例を示している。このように、短手方向Mに対して、おおむね角度αで溝が伸びる微小亀裂7がメインコート4に少なくとも形成されていると、磁性テープ1を長手方向Lに対して角度αで被装着部材に巻き付けやすい。
【0071】
このように、磁性テープ1を被装着部材に巻き付ける角度に対応させて微小亀裂7の溝方向を形成すると、磁性テープ1を巻き付けやすくなると共に、微小亀裂7の数を極力少なくできる。このため、メインコート4中に空間を少なくでき、微粉軟磁性材11同士を密に配置しやすくなる。
【0072】
図2に示すように、トップコート5は、メインコート4の表面に付されている。トップコート5は、メインコート4を保護するものである。磁性テープ1は、トップコート5側をインダクタなどの被装着部材に付すことを想定しているため、トップコート5が接着剤、粘着剤または両面テープであれば、接着剤や粘着剤等をトップコート5の表面に別に付す必要がなく兼用でき、厚さも薄くできるため好ましい。接着剤、粘着剤等のトップコート5の表面を保護するために、使用時までトップコート5の表面に剥離フィルムまたは剥離紙を付してもよい。
【0073】
トップコート5の厚さは任意であるが、一例として、厚さ5μm~50μmであることが好ましい。
【0074】
トップコート5は、一例として、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤である。
【0075】
磁性テープ1がトップコート5を有さないものであってもよい。この場合、使用者が任意の材質のトップコート5を付して、被装着部材に装着するようにすればよい。
【0076】
次に、本発明を適用する磁性柔軟部材1(磁性テープ1)の製造方法について説明する。
【0077】
磁性柔軟部材1の製造方法は、ベースフィルム2、アンダーコート3、メインコート4の順に積層した後に、メインコート4に引っ張りの外力を加えることで、メインコート4にベースフィルム2の面に対して垂直方向に微小亀裂7を形成するものである。
【0078】
図4に、磁性柔軟部材1の製造方法の工程例を示す。既に説明した各部材の材質等についての説明は省略する。
【0079】
先ず、同図(a)に示すように、ベースフィルム2にアンダーコート3を積層する。アンダーコート3は、一例として、液状の接着剤または粘着剤(樹脂材)をベースフィルム2に塗布し、必要に応じて適宜乾燥して形成する。なお、アンダーコート3が付されたベースフィルム2が市販されているため、購入して使用してもよい。
【0080】
次に、同図(b)に示すように、メインコート4の原材料である磁性コンポジット材の原材料15を調整する。磁性コンポジット材の原材料15は、微粉軟磁性材11、液状の樹脂材12及び液状の溶剤13を混合してスラリー状にしたものである。
【0081】
特性が全く異なる微粉軟磁性材11と樹脂材12との混合では、それぞれの特性に合わせて原材料を選択するとともに、相反する特性を解決するために、必要量の溶剤および結合材・潤滑剤などの少量の添加材の要否を検討し、必要に応じて調合の際に添加する場合があることに留意する。また、添加剤だけで相反する特性を解決できない場合には、特に微粉軟磁性材11に対してプラズマ処理・化学反応処理・分散剤付与処理など前処理を施し、混合時の分散性を改善することが可能である。微粉軟磁性材11と樹脂材12とを十分に分散させるため、攪拌混合・回転混合・回転公転混和などの混合機を用い、微粉軟磁性材11と樹脂材12の特性とともに、微粉軟磁性材11の充填率や溶剤の添加量にともなう粘度に合わせて、回転速度や混合時間および混合温度などを設定して混合し、磁性コンポジット材のスラリー状の原材料15を作製する。
【0082】
続いて、同図(c)に示すように、ベースフィルム2に積層したアンダーコート3上に磁性コンポジット材の原材料15を塗布する。塗布には、ダイコーター・ロールコーター・ドクターブレードコーターなどの塗工機を用いればよい。必要な塗布厚さになるようスリット幅・ロール幅・ブレード隙間と塗布速度を設定する。
【0083】
ここで、磁性コンポジット材の原材料15中の溶剤13は、磁性コンポジット材の樹脂材12を溶かすものであるが、樹脂材であるアンダーコート3も溶かすものであることが好ましい。つまり、溶剤13は、磁性コンポジット材の樹脂材12の溶剤であると共に、アンダーコート3の溶剤であることが好ましい。この場合、アンダーコート3上に磁性コンポジット材の原材料15を塗布した際に、溶剤13がアンダーコート3の樹脂材を溶かすため、磁性コンポジット材の樹脂材12とアンダーコート3とが溶け合って混じり合う。このため、メインコート4(磁性コンポジット材)とアンダーコート3とを強固に結合させることができる。
【0084】
続いて、同図(d)に示すように、磁性コンポジット材の原材料15を硬化させて、メインコート4aを形成する。メインコート4aは、まだ微小亀裂7を形成する前の状態である。磁性コンポジット材の原材料15を硬化させる際に、自然乾燥や加熱乾燥による乾燥を施すことで、原材料15中の溶剤13が蒸発し乾燥する。この溶剤13の乾燥により、原材料15(樹脂材12)の体積が減少する。原材料15中の微粉軟磁性材11は固形物であるため体積は減少せず、樹脂材12の体積が減少する。このため、樹脂材12の体積の減少した近傍に、微粉軟磁性材11および樹脂材12の存在しない空隙21が部分的に形成される。微粉軟磁性材11の充填率が高いほど、空隙21が形成されやすい。例えば、微粉軟磁性材11の充填率をほぼ最密充填状態(65~70%)で充填すると、多くの空隙21が形成される。また、樹脂材12の体積の減少により、樹脂材12には大きな収縮応力(引張応力)が残存している。
【0085】
ベースフィルム2、アンダーコート3、及びメインコート4a(微小亀裂7の形成前のメインコート)の3層構造の磁性部材91は、メインコート4aが硬質で厚いため、柔軟性(屈曲性)をほとんど有していない。
【0086】
続いて、同図(e)に示すように、メインコート4aに引っ張りの外力Fを加えることで、メインコート4に、ベースフィルム2の面に対して垂直方向の微小亀裂7を形成する。メインコート4aに多くの空隙21が存在し、樹脂材12中に収縮応力が残存していることで、メインコート4aに引っ張りの外力Fを加えることで、多くの微小亀裂7を樹脂材12中に簡便に形成することができる。微小亀裂7は、樹脂材12が裂けて形成される。
【0087】
樹脂材12には大きな収縮応力が残存しており、樹脂材12がベースフィルム2に固定されていることから、微小亀裂7の亀裂幅は、ベースフィルム2に近いほど狭くなる。つまり、
図2に示したように、微小亀裂7は、ベースフィルム2に近い側の亀裂幅がベースフィルムと逆側の亀裂幅よりも狭い形状に形成される。
【0088】
ベースフィルム2、アンダーコート3、及びメインコート4の3層構造の磁性柔軟部材101は、微小亀裂7を有するため、柔軟性を有するようになる。
【0089】
同図(e)に示すメインコート4aに引っ張りの外力Fを加える工程を複数回行ってもよい。複数回行うことで、微小亀裂7の数を多く形成することができる。
【0090】
最後に、同図(f)に示すように、メインコート4にトップコート5の原料となる接着剤または粘着剤などの樹脂材を塗布し、必要に応じて適宜乾燥してトップコート5を形成する。以上で、磁性柔軟部材1が完成する。
【0091】
図5に、メインコート4aに引っ張りの外力Fを加えて微小亀裂7を形成する製造工程(
図4(e)の工程)の好ましい一例を示す。この例は、メインコート4をベースフィルム2側に曲げつつ、メインコート4(ベースフィルム2)に引っ張りの外力Fを加えることで微小亀裂7を形成する製造方法の一例である。
【0092】
一例として
図4(d)の工程で作成したベースフィルム2、アンダーコート3、及びメインコート4a(微小亀裂7の形成前のメインコート)の3層構造の磁性部材91を、
図5に示すように、平坦なプレート31に接触させる。磁性部材91は、プレート31側にメインコート4aが接する向きで配置する。続いて、磁性部材91のベースフィルム2にブロック32を押し当てて、メインコート4a(磁性部材91)をベースフィルム2側に所定の曲げ角度θで曲げつつ、所定の任意速度(引っ張る外力F)で引く。この曲げと引っ張りの外力Fにより、メインコート4に微小亀裂7が形成され、3層構造の磁性柔軟部材101が製造される。曲げ角度θや、引っ張る速度(外力F)により、微小亀裂7の生成密度(生成数)、溝幅などを調整できる。
【0093】
図5中に矢印Sで示すように、磁性部材91を引っ張る方向と逆方向に、プレート31に沿わせてブロック32を平行移動させてもよい。ブロック32の位置を固定したままで、磁性部材91を矢印F方向に引っ張り出す(引き出す)ようにしてもよい。
【0094】
ブロック32の形状は任意である。ブロック32の形状は、例えば同図に示すように、メインコート4をベースフィルム2側に曲げる部位である角部35の断面形状が面取りされた形状(面取りされた角部35を有する形状)に形成されていることが好ましい。面取りは、一例として、直角状態の角部を45°の角度で削り落とすC面取りである。磁性部材91の厚さにもよるが、一例として、ブロック32の角部35の面取量Cは、C0.1~0.5mmであることが好ましい。角部35がシャープエッジでない場合には微小亀裂7を付与しにくくなり、鋭利過ぎるとベースフィルム2が切れる恐れがあるためである。ブロック32の形状は、例えば同図に示すように断面が四角形状や多角形状であってもよいし、断面が円形形状であってもよい。
【0095】
図6に、メインコート4aに引っ張りの外力Fを加えて微小亀裂7を形成する製造工程の一例を示す。同図は、
図5の工程を平面方向(
図5の上側の方向)から見た模式的な説明図である。この例は、磁性テープ1のようにベースフィルム2が長尺である場合、長尺のベースフィルム2の長手方向Lを基準(0°)として、ベースフィルム2の面方向に対して、-60°以上+60°以下の角度βで引っ張りの外力Fを1回又は複数回加えることで、
図3に示すような、長尺のベースフィルムの短手方向Mに対して、概ね-60°以上+60°以下の角度αで溝が伸びる微小亀裂7を少なくとも有する磁性テープ1を製造する製造方法の一例である。角度βは、-45°以上+45°以下としてもよい。
【0096】
図6(a)は、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに対して0°の角度βで引っ張りの外力Fを加える例である。同図(a)に示すように、一点鎖線で示すベースフィルム2の長手方向Lに外力Fを加えて引っ張る(引き上げる)ことで、磁性部材91から微小亀裂7を有する磁性柔軟部材101を製造している。
【0097】
このように、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに対して0°の角度βで引っ張りの外力Fを加えることで、
図3(a)に示したように、長尺のベースフィルム2の短手方向Mに対して概ね0°の角度αで溝が伸びる微小亀裂7を少なくとも有す磁性テープ1(磁性柔軟部材101)を製造することができる。
【0098】
図6(b)は、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに対して30°の角度βで引っ張りの外力Fを加える例である。同図(a)に示すように、一点鎖線で示すベースフィルム2の長手方向Lに外力Fを加えて引っ張る(引き上げる)ことで、磁性部材91から微小亀裂7を有する磁性柔軟部材101を製造している。
【0099】
このように、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに対して30°の角度βで引っ張りの外力Fを加えることで、
図3(b)に示したように、長尺のベースフィルム2の短手方向Mに対して概ね30°の角度αで溝が伸びる微小亀裂7を少なくとも有する磁性柔軟部材101(磁性テープ1)を製造することができる。
【0100】
図6(b)に示すように、ブロック32をS方向に移動させる場合、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに沿うS1方向にブロック32を移動させてもよいし、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに対して角度β(この例だと30°)のS2方向にブロック32を移動させてもよい。これは、ブロック32をS1方向に移動させても、S2方向に移動させても、長尺のベースフィルム2の長手方向Lに対する外力Fの角度βは同じになるためである。
【0101】
図6に示した工程を、角度βを変えずに複数回行うことで、角度αで溝が伸びる微小亀裂7の数を多く形成することができる。また、
図6に示した工程を、任意の異なる角度βで複数回行うことで、任意の異なる角度αで溝が伸びる微小亀裂7を形成することができる。必要性に応じて、
図6に示した工程を、ランダムな角度βで複数回行ってもよい。微小亀裂7の数が多くなると、磁性柔軟部材101(磁性テープ1)の柔軟性が向上し、被装着物に装着しやすくなる。
【0102】
図6に示した工程を、例えば、1回目に角度β=0°、2回目に角度β=-45°、3回目に角度β=+45°と各方向1回、計3回の加工を行って、微小亀裂7を生成してもよい。この場合、概ね、角度α=0°、角度α=-45°及び、角度α=+45°で溝が伸びる微小亀裂7を少なくとも有する磁性テープ1(磁性柔軟部材101)を製造することができる。なお、微小亀裂7は樹脂材12が裂けることで形成されるため、角度βで引っ張りの外力Fを加えたときに、概ね角度α=角度βで溝が伸びる微小亀裂7が形成されるが、裂け方によって角度αは場所によってばらつく。実験したところ、微小亀裂7の溝の角度αは、引っ張りの角度β±15°程度の範囲になる。そのため、
図6に示した工程を、例えば、1回目に角度β=0°、2回目に角度β=-45°、3回目に角度β=+45°と各方向1回、計3回の加工を行った場合、1回目に角度α=0±15°、2回目に角度α=-45±15°、3回目に角度α=+45±15°の溝ができる。そのため、結果的に、-60°以上+60°以下の角度αで溝が伸びる微小亀裂7を有する磁性テープ1になる。
【0103】
微小亀裂7の付与により磁性柔軟部材101がカールする場合は、磁性コンポジット材の温度特性に合わせて加熱し、カレンダー加工でカールを抑えてもよい。
【0104】
なお、メインコート4の微小亀裂7を、レーザー加工、ウオータージェット加工、切削加工で形成するようにしてもよい。
【実施例0105】
[実施例1]
[磁性テープの仕様の例]
磁性テープ1は、総厚さ0.16mm(磁性コンポジット材0.1mm)、幅10mm(スリット後)、微小亀裂深さ0.1mm(磁性コンポジット材の表面からアンダーコートの境界まで)とする。
【0106】
[磁性テープの原材料の例]
磁性テープ1の原材料として、ベースフィルム2はポリイミドフィルム(耐熱性300℃、厚さ0.0125mm)、アンダーコート3はシリコーン系粘着剤(トルエン溶剤、耐熱性200℃、塗布厚さ0.025mm)を用いた。メインコート4の磁性コンポジット材は微粉軟磁性材11/樹脂材12(体積充填率70%)に少量の結合剤と潤滑剤を加えた。微粉軟磁性材11として、鉄アモルファス系粉体(エプソンアトミックス製。以下、「AMO」という。)で、球状、平均粒径は3μm、真密度7g/cm3、飽和磁束密度1,320Bs(mT)、保持力150A/m、親水性の物性のものを用いた。樹脂材12としてシリコーン樹脂変性アルキッド樹脂(信越化学工業製、キシレン溶剤、耐熱性200℃)、を用いた。トップコート5はシリコーン系粘着剤(トルエン溶剤、耐熱性200℃、塗布厚さ0.025mm)を用いた。
【0107】
[磁性テープの作製方法の例]
磁性コンポジット材は、微粉軟磁性材11に溶剤(イソプロピルアルコール)、結合材(シランカップリング材)、樹脂材12および潤滑剤(シリコーンオイル)を加え、攪拌混合(高速1000r/min×60min)後に回転混合(低速30r/min×30min)し、スリットダイコート(厚さ0.1mm、幅80mm、速度30mm/sec)で塗布し、自然乾燥(30min)後に加熱乾燥(200℃×30min)する。アンダーコート3とトップコート5は、スリットダイコート(厚さ0.03mm、幅80mm、速度20mm/sec)とする。
【0108】
潤滑剤としてシリコーンオイルを添加している目的は、微粉軟磁性材11と樹脂材12とを混合する際に生じる気泡を容易に消すためである。
【0109】
アンダーコート3の粘着剤は、磁性コンポジット材の原料を塗布したときに、溶液化された樹脂材12の原料に含有するトルエン・キシレンや、混合時に添加したイソプロプルアルコールなどの溶剤で溶解する。アンダーコート3の溶解により、メインコートの樹脂材とアンダーコートとが境界付近で混じり合う。通常、粘着材の商品には、トルエンが含有している。
【0110】
[磁性テープへの微小亀裂付与の例]
磁性テープ1の微小亀裂7は
図5のように、曲げ応力付加(ブロック32は直角形状、ブロック32の微小亀裂を付与する角部35の面取量はC0.1~C0.5mm、θ=60°上方引き上げ、
図6の角度β=0°、-45°、45°の順に、各方向ともに1回合計3回引き上げ)し、微小亀裂7付与後の平面度矯正として上下平板挟みで加熱(60℃×10min)する。実施例1と実施例5で使用したブロック32の角部35の面取量はC0.2~0.3mmである。
【0111】
[作製した磁性テープの電力損失低減性、耐熱性、電気絶縁性、耐屈曲性などの特性の例]
磁性テープ1は電力損失低減性として複素比透磁率の実数部μ’は 15(1MHzにおけるインピーダンスアナライザでの測定)、耐熱性として耐熱温度200℃、電気絶縁性として破壊電圧5kV、引張強さ80N/幅25mm、伸び10%の特性となり、高温仕様のインダクタに適用可能である。微小亀裂を付与しない場合の巻き付けマンドレル直径は50mm以上であったが、微小亀裂の付与により0.9mmと小さく、耐屈曲性は飛躍的に向上した。付与した微小亀裂のピッチ幅は0.2~0.5mmであった。
【0112】
図7に、作製した磁性テープを切り出して積層した測定試料(実施例)の形状、寸法、外観写真を示す。測定試料は、内径10mm、外径19mmの円形リングに切り出した磁性テープを40層に積層して形成した。測定試料は厚さ7.5mm(樹脂テープの厚さを引いた磁性層の厚さ:5.14mm)である。
【0113】
図8に、測定試料の微粉軟磁性材11として2種の平均粒径3μmと10μmを混合したAMOを用いた場合(実施例2)の比透磁率、測定試料の微粉軟磁性材11として平均粒径2.6μmのAMOを用いた場合(実施例3)の比透磁率、測定試料の微粉軟磁性材11としてFe-Si-Al(扁平紛)(直径30~50um、厚さ0.5um)を用いた場合(実施例4)の比透磁率の測定結果のグラフをそれぞれ示す。実施例2,3,4の他の材質等の条件は実施例1と同様である。
【0114】
図9(a)に測定試料の微粉軟磁性材11として平均粒径3μmと10μmを混合したAMOを用いた場合(実施例2)のSEM写真、
図9(b)に測定試料の微粉軟磁性材11としてFe-Si-Al(扁平紛)を用いた場合(実施例4)のSEM写真を示す。微粉軟磁性材11の材料を変更することで磁性テープの特性を調整することが可能である。
【0115】
図10に、磁性テープ1(実施例1)のトップコートを付ける前の状態のメインコートの表面の拡大写真を示す。写真の下側に、表面の凹凸深さの測定結果を示す。測定はデジタルマイクロスコープ(OLYMPUS DSX1000)で行った。微小亀裂7部分は、微小亀裂の溝奥が狭く、溝入口が広くなっていることが測定結果からわかる。
【0116】
[実施例5]
図11に、トップコートを付ける前の状態の磁性テープ(実施例5)の縦断面の拡大写真を示す。実施例5では、微粉軟磁性材11として平均粒径3μmと10μmを混合したAMOを用いている。ベースフィルムの厚さ0.025mm、アンダーコートの厚さ0.025mm、メインコートの厚さ0.1mm、トップコートを付ける前の状態の磁性テープの厚さ0.15mmであった。実施例5の他の材質等の条件は実施例1と同様である。
【0117】
[耐熱性と柔軟性が必要で、微粉材と樹脂を混合・塗布して製造される他用途部材への適用]
なお、本発明の磁性柔軟部材1は、磁性コンポジット材への微小亀裂7の付与により耐熱性、耐屈曲性、柔軟性を有するため、インダクタ以外の磁気回路部品、電子部品などに装着される磁性柔軟部材として適用することも好適である。
1は磁性柔軟部材(磁性テープ)、2はベースフィルム、3はアンダーコート、4はメインコート、4aは微小亀裂を形成する前のメインコート、5はトップコート、7は微小亀裂、11は微粉軟磁性材、12は樹脂材、13は溶剤、15は磁性コンポジット材の原材料、21は空隙、31はプレート、32はブロック、35は角部、51a・52a・53a・51b・52b・53bは範囲、91は磁性部材、101は磁性柔軟部材、Fは引っ張りの外力、Kaは微小亀裂の溝の伸びる方向、Kbは微小亀裂の溝の伸びる方向、Lは磁性テープの長手方向、Mは磁性テープの短手方向、Pは微小亀裂の間隔、S・S1・S2はブロックの移動方向、αはベースフィルムの短手方向に対する微小亀裂の溝の角度、βはベースフィルムの引っ張りの外力の角度、θはベースフィルムを引き上げる曲げ角度である。