(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040433
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】積層インダクタ及び積層インダクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20240315BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240315BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20240315BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F17/04 F
H01F27/06 103
H01F27/255
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020319
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2020025658の分割
【原出願日】2020-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】三澤 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高舘 金四郎
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 伸介
(57)【要約】
【課題】絶縁信頼性を確保しつつ機械的強度を向上させること。
【解決手段】積層インダクタ300は、複数の金属磁性粒子10と複数の金属磁性粒子10を結合させる結合部11とを各々含む複数の磁性体層21~25が積層された磁性基体100と、複数の磁性体層21~25に設けられた導体パターン31~35により形成され、磁性基体100に内蔵されたコイル導体30と、磁性基体100の表面に設けられ、コイル導体30に接続された外部電極50及び51と、を備え、結合部11は、主成分としてのシリコンの酸化物と、炭素と、を含む非晶質の混合物である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属磁性粒子と前記複数の金属磁性粒子を結合させる結合部とを各々含む複数の磁性体層が積層された磁性基体と、
前記複数の磁性体層に設けられた導体パターンにより形成され、前記磁性基体に内蔵されたコイル導体と、
前記磁性基体の表面に設けられ、前記コイル導体に接続された外部電極と、を備え、
前記結合部は、主成分としてのシリコンの酸化物と、炭素と、を含む非晶質の混合物である、積層インダクタ。
【請求項2】
前記結合部中に含まれるシリコンのモル量を1とした場合に対し、前記結合部中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は0.4以上である、請求項1に記載の積層インダクタ。
【請求項3】
前記結合部中に含まれるシリコンのモル量を1とした場合に対し、前記結合部中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は5以下である、請求項1または2に記載の積層インダクタ。
【請求項4】
前記結合部は、アルミニウム、クロム、マグネシウム、チタン、及びジルコニウムのうちの少なくとも1つの元素の酸化物を含む、請求項1に記載の積層インダクタ。
【請求項5】
前記結合部中に含まれるシリコン、アルミニウム、クロム、マグネシウム、チタン、及びジルコニウムの合計モル量を1とした場合に対し、前記結合部中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は5以下である、請求項4に記載の積層インダクタ。
【請求項6】
前記結合部中に含まれるシリコン、アルミニウム、クロム、マグネシウム、チタン、及びジルコニウムの合計モル量を1とした場合に対し、前記結合部中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は0.4以上である、請求項4または5に記載の積層インダクタ。
【請求項7】
前記複数の金属磁性粒子の表面の少なくとも一部を覆い、膜中に炭素を実質的に含まない酸化膜を備え、
前記結合部は、前記酸化膜同士を前記結合部を介して結合させることにより、前記複数の金属磁性粒子を結合させる、請求項1または2に記載の積層インダクタ。
【請求項8】
前記複数の金属磁性粒子は鉄を主成分とする、請求項1または2に記載の積層インダクタ。
【請求項9】
前記磁性基体は前記結合部以外で炭素が存在する領域を有する、請求項1または2に記載の積層インダクタ。
【請求項10】
前記結合部以外で炭素が存在する領域は、前記複数の金属磁性粒子のうち3以上の金属磁性粒子で囲まれた三重点部分である、請求項9に記載の積層インダクタ。
【請求項11】
前記導体パターンは、銀、パラジウム、銅、又はアルミニウムを含む、請求項1または2に記載の積層インダクタ。
【請求項12】
複数の金属磁性粒子を準備する工程と、
前記複数の金属磁性粒子と、バインダー樹脂とシリコンを含むレジネートとを含む樹脂組成物と、溶媒と、を混合して磁性体ペーストを調整する工程と、
前記磁性体ペーストを用いて複数の磁性体層を形成する工程と、
前記複数の磁性体層に導体パターンを形成する工程と、
前記導体パターンが形成された前記複数の磁性体層を積層した後、前記複数の磁性体層を熱処理して前記複数の金属磁性粒子の表面に前記レジネートに含まれるシリコンの酸化物を主成分として含みかつ炭素を含む非晶質の混合物である結合部を形成し、前記複数の金属磁性粒子が前記結合部を介し結合されかつ前記導体パターンにより形成されたコイル導体を内蔵する磁性基体を形成する工程と、
前記磁性基体の表面に前記コイル導体に接続された外部電極を形成する工程と、を備える積層インダクタの製造方法。
【請求項13】
前記磁性基体を形成する工程において、前記複数の磁性体層を熱処理することで前記バインダー樹脂を前記レジネートより先に熱分解させた後、前記レジネートに含まれる炭素を取り込ませながら前記レジネートのシリコン成分を非晶質化させることで、前記複数の金属磁性粒子の表面に前記結合部を形成する、請求項12に記載の積層インダクタの製造方法。
【請求項14】
前記複数の金属磁性粒子を準備する工程において、表面に酸化膜が設けられた前記複数の金属磁性粒子を準備し、
前記磁性基体を形成する工程において、前記複数の金属磁性粒子各々の前記酸化膜が前記結合部を介し結合された前記磁性基体を形成する、請求項12または13に記載の積層インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層インダクタ及び積層インダクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライトの代わりに直流重畳特性に優れた金属磁性粒子を用いたコイル部品が提案されている。金属磁性粒子は絶縁性が低いことから、金属磁性粒子の表面を酸化シリコン膜又は酸化アルミニウム膜等の絶縁膜で被覆することが知られている。例えば、絶縁膜で被覆された金属磁性粒子と、シリコン、ホウ素、及びアルカリ金属を含有するガラス成分と、を有する磁性基体が知られている(例えば特許文献1)。また、絶縁膜で被覆された金属磁性粒子と、シリコーン樹脂と、を有する磁性基体が知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/024976号
【特許文献2】特開2019-153614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイル部品の信頼性を向上させるために、磁性基体は絶縁信頼性及び機械的強度が高いことが望まれている。また、例えば、金属磁性粒子の充填率を高めて磁性特性を向上させるために、表面が酸化膜で覆われた複数の金属磁性粒子の酸化膜同士を結合させて磁性基体を形成することが考えられる。この場合、金属磁性粒子の酸化膜同士を結合させるために高温での熱処理が必要となる。例えば特許文献2では高温の熱処理が行われている。しかしながら、高温で熱処理を行うと金属磁性粒子同士が酸化物を越えて結合(ネッキング)してしまう。そのため、金属磁性粒子を焼結させないためには高温での熱処理が難しく、その結果、高機械的強度を有する磁性基体を得ることが難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、絶縁信頼性を確保しつつ機械的強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の金属磁性粒子と、前記複数の金属磁性粒子を結合させる結合部と、を備え、前記結合部は、シリコン、アルミニウム、クロム、マグネシウム、チタン、及びジルコニウムのうちの少なくとも1つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物からなる、磁性基体である。
【0007】
上記構成において、前記結合部中に含まれるシリコン、アルミニウム、クロム、マグネシウム、チタン、及びジルコニウムの合計モル量を1とした場合に対し、前記結合部中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は5以下である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記結合部中に含まれるシリコン、アルミニウム、クロム、マグネシウム、チタン、及びジルコニウムの合計モル量を1とした場合に対し、前記結合部中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は0.4以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記複数の金属磁性粒子の表面の少なくとも一部を覆い、膜中に炭素を実質的に含まない酸化膜を備え、前記結合部は、前記酸化膜同士を前記結合部を介して結合させることにより、前記複数の金属磁性粒子を結合させる構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記結合部の前記非晶質の混合物はシリコンの酸化物を主成分に含む構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の金属磁性粒子は鉄を主成分とする構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記に記載の磁性基体と、前記磁性基体に設けられているコイル導体と、を備える、コイル部品である。
【0013】
本発明は、上記に記載のコイル部品と、前記コイル部品が実装されている回路基板と、を備える電子機器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁信頼性を確保しつつ機械的強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本願発明の第1の実施形態に係る磁性基体を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本願発明の第2の実施形態に係る磁性基体を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本願発明の第3の実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本願発明の第3の実施形態に係るコイル部品を示す分解斜視図である。
【
図5】
図5は、本願発明の第4の実施形態に係るコイル部品を示す側面図である。
【
図6】
図6は、本願発明の第5の実施形態に係る電子機器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照しながら、本願発明の実施形態について説明する。但し、本願発明は図示された態様に限定される訳ではない。また、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本願発明の第1の実施形態に係る磁性基体を示す断面図である。
図1では、第1の実施形態に係る磁性基体100の一部を拡大して図示している。
図1を参照して、複数の金属磁性粒子10が絶縁性を有する結合部11を介して結合され、これにより絶縁性を有する磁性基体100が形成されている。結合部11の存在は、例えば磁性基体100の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍程度で撮影した撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識できる。
【0018】
金属磁性粒子10は、例えば鉄を主成分とする軟磁性粒子であり、合金粒子であってもよいし、純鉄粒子であってもよい。鉄を主成分とするとは、金属磁性粒子10を構成する元素の合計量に対する鉄の割合が50wt%(重量パーセント)以上の場合であり、80wt%以上の場合でもよく、90wt%以上の場合でもよく、95wt%以上の場合でもよい。例えば、金属磁性粒子10が純鉄粒子である場合、鉄の割合は98wt%以上であってもよく、残りは不純物等であってもよい。例えば、金属磁性粒子10は、鉄とシリコンを含む合金粒子であってもよいし、鉄と鉄よりもイオン化傾向が大きい(鉄よりも酸化し易い)1種類以上の金属元素Mとを含む合金粒子であってもよい。金属元素Mとして、例えばクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、及びマンガン(Mn)等が挙げられる。一例として、金属磁性粒子10は、鉄とシリコンと鉄よりもイオン化傾向が大きい1種類以上の金属元素M(例えばクロム及びアルミニウムの少なくとも一方)との合金粒子であってもよい。鉄の割合は93wt%~98wt%、シリコンの割合は1.5wt%~6.5wt%、金属元素Mの割合は0.5wt%~5.5wt%であってもよい。金属磁性粒子10は、酸素及び/又は炭素等の意図しない不純物を含んでいてもよい。不純物の割合は2wt%以下であってもよい。また、金属磁性粒子10は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、硫黄(S)、リン(P)、及び/又はホウ素(B)等を含んでいてもよい。金属磁性粒子10の組成比は、例えば磁性基体100の断面を走査型電子顕微鏡により3000倍から20000倍程度で撮影し、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるZAF法で算出することができる。
【0019】
複数の金属磁性粒子10の平均粒子径は例えば1μm以上10μm以下である。金属磁性粒子10の平均粒子径は、磁性基体100の断面を走査型電子顕微鏡により2000倍から5000倍程度で撮影した撮影像に基づいて粒度分布を求め、この粒度分布の50%での粒径である。平均粒子径を10μm以下とすることで金属磁性粒子10における渦電流損失を抑制できる。平均粒子径を1μm以上とすることで金属磁性粒子10が大気中で自然酸化することを原因とする自然発火を抑制でき、取り扱いの容易性が向上する。
【0020】
磁性基体100には平均粒子径の異なる2種類以上の金属磁性粒子10が含まれていてもよい。例えば、平均粒子径が互いに異なる第1金属磁性粒子群と第2金属磁性粒子群を含んでいてもよい。第2金属磁性粒子群の平均粒子径は第1金属磁性粒子群の平均粒子径の1/2以下であってもよい。第2金属磁性粒子群の平均粒子径が第1金属磁性粒子群の平均粒子径よりも小さい場合、隣接する第1金属磁性粒子の間の隙間に第2金属磁性粒子が入り込み易く、金属磁性粒子の充填率が高められる。更に、第2金属磁性粒子群よりも平均粒子径の小さな第3金属磁性粒子群を含んでいてもよい。
【0021】
磁性基体100には組成の異なる2種類以上の金属磁性粒子10が含まれていてもよい。例えば、Siの比率を高めて磁歪を低減して透磁率を向上させたFeSiCr合金粒子と、Feの比率を高めて飽和磁束密度を向上させたFeSiCr合金粒子と、が含まれていてもよい。これにより、所望の磁気特性を有する磁性基体100が得られる。
【0022】
結合部11は、後述の製造方法に示すように、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、及びジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも一つの元素を有するレジネートを用いて形成される。このため、結合部11は、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも1つの元素の酸化物と炭素(C)とを含む非晶質の混合物である。結合部11は、結合部11中に炭素が一様に分散していてもよいし、炭素が集中している箇所が存在してもよい。炭素は結合部11の全体にわたって分布していることが好ましく、結合部11の8割以上の領域に分布している場合が好ましく、9割以上の領域に分布していることがより好ましい。結合部11の組成は、例えば磁性基体100の断面を走査型電子顕微鏡により3000倍から20000倍程度で撮影し、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるZAF法によって確認することができる。
【0023】
[製造方法]
第1の実施形態に係る磁性基体の製造方法の一例を説明する。まず、複数の金属磁性粒子と樹脂組成物と溶剤とを混合して磁性体ペーストを調整する。ここで、樹脂組成物は、バインダー樹脂と、バインダー樹脂に溶解し、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素を有するレジネートと、を含む。レジネートは、例えばSiを有する場合では、(R-SiO1.5)nの構造(R:有機官能基)を有するシルセスキオキサン、Si-O-Si構造を有するシロキサン、又はこれら以外のSi-O骨格(Si-O構造)を有する化合物、若しくはこれらの混合物を用いることができる。その他には、M-ORの構造(M:Si、Al、Cr、Mg、Ti、及び/又はZr、R:有機官能基)を有するアルコキシドをレジネートとして用いることができる。バインダー樹脂に溶解しているレジネートは、バインダー樹脂中にフィラー等の固相として存在するのではなく、ゾルゲル状を含む半固相又は液相として存在している。バインダー樹脂に溶解しているレジネートは、一般的なメッシュ(ふるい)ではバインダー樹脂から分離できない。
【0024】
溶剤は、レジネートを溶解させる任意の材料を用いることができる。例えば、溶剤としてトルエンを用いることができる。バインダー樹脂は溶剤に溶解する任意の樹脂を用いることができる。バインダー樹脂は絶縁性に優れた熱硬化性樹脂であってもよい。例えば、バインダー樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、アクリル樹脂、又はこれらの混合物を用いることができる。溶剤に溶解されたバインダー樹脂及びレジネートは、それぞれが溶剤中に単独で存在していてもよいし、物理的結合をした状態及び/又は化学的結合をした状態で存在していてもよい。
【0025】
調整した磁性体ペーストをポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)等のフィルム上に例えばドクターブレード法等によって塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させる。その後、フィルムを剥離することで磁性体層を形成する。次いで、複数の磁性体層を積層して圧着する。圧着した磁性体層をチップ単位にダイシング機又はレーザ加工機等によって切断してチップ積層体を得る。必要に応じてチップ積層体の端部に対してバレル研磨等の研磨処理を行ってもよい。
【0026】
次いで、チップ積層体に対して熱処理が行われる。熱処理を、酸素が多量に供給される大気雰囲気でおこなうと、鉄の比率が高い金属磁性粒子では過剰な酸化が進みやすくなってしまう。このため、従来、鉄の比率が92.5wt%以下の組成比であった場合、大気雰囲気によって行われたチップ積層体の熱処理を、本願発明では、例えば500℃以上(例えば600℃~900℃)で且つ2ppm~10000ppmの酸素濃度の雰囲気下で20分~120分で行う。500℃以上の熱処理によって、バインダー樹脂は500℃までの昇温過程において熱分解し取り除かれるが、レジネートはバインダー樹脂に比べて構造が強固であるために500℃までの昇温過程においては、ほとんど取り除かれず、500℃以上の処理温度となることによって、徐々に分解による非晶質化が進む。このときの酸素濃度を2ppm~10000ppmにすることで、レジネートを構成する炭素が酸化することによる分解が抑制される。その結果、非晶質内に炭素が取り込まれるようになる。すなわち、バインダー樹脂の分解に続いてレジネートを構成する金属成分(Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素)の非晶質化が進み、この過程において非晶質の一部に炭素が取り込まれるようになる。これにより、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素と炭素とを含む非晶質の酸化物である結合部11が金属磁性粒子10の表面に形成され、複数の金属磁性粒子10が結合部11を介して結合することで磁性基体100が形成される。この例のように熱処理の昇温過程において脱脂熱処理は行われてもよく、専用の脱脂処理のための熱処理を別途行ってもよい。
【0027】
Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素を有するレジネートはバインダー樹脂と組み合わせることで分散性が良くなるため、レジネートの使用量を少なくすることができる。このため、磁性基体100において結合部11が占める割合を少なくでき、結果として金属磁性粒子10が占める割合、すなわち充填率を高くすることができる。これにより、透磁率の低下を抑制できる。また、分散性が良好なことから磁性基体100の製造容易性も向上する。なお、磁性基体100は、結合部11以外にもレジネート由来の炭素が存在していてもよく、例えば3以上の金属磁性粒子10で囲まれた三重点部分に炭素が存在していてもよい。
【0028】
第1の実施形態によれば、複数の金属磁性粒子10が、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物である結合部11によって結合されている。非晶質の混合物である結合部11に炭素が含まれていることで、磁性基体100に応力が加わってクラックが成長する際、炭素によってクラックの成長が抑制される。これにより、磁性基体100の機械的強度が向上する。また、複数の金属磁性粒子10を結合させる結合部11は、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物を含む非晶質の混合物であり、これらの元素の酸化物は電気抵抗率が高いことから、絶縁信頼性が確保される。
【0029】
結合部11中に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1とした場合に対し、結合部11中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は5以下である場合が好ましい。結合部11中の炭素の割合が多くなると炭素によって電気伝導の経路が形成されて磁性基体100の絶縁性が低下することがあるが、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1とした場合に、これに対する炭素のモル量の割合を5以下にすることで、磁性基体100の絶縁性の低下を抑制できる。
【0030】
結合部11中に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1とした場合に対し、結合部11中に含まれる炭素のモル量の割合であるモル比は0.4以上である場合が好ましい。結合部11中の炭素の割合が低くなると磁性基体100の機械的強度向上の効果が小さくなるが、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1とした場合に、これに対する炭素のモル量の割合を0.4以上にすることで、磁性基体100の機械的強度を良好に向上できる。
【0031】
[第2の実施形態]
図2は、本願発明の第2の実施形態に係る磁性基体を示す断面図である。
図2では、第2の実施形態に係る磁性基体200の一部を拡大して図示している。
図2を参照して、金属磁性粒子10の表面の少なくとも一部を覆って絶縁膜である酸化膜12が設けられている。金属磁性粒子10は、第1の実施形態と同様とすることができる。例えば鉄を主成分とする軟磁性粒子であり、合金粒子であってもよいし、純鉄粒子であってもよい。結合部11は、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物からなり、複数の金属磁性粒子10の表面の酸化膜12に接して設けられ、酸化膜12同士を結合部11を介して結合することで、これら複数の金属磁性粒子10を結合している。酸化膜12は、例えばSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物を含んでいてもよいし、金属磁性粒子10を構成する元素の酸化物を含んでいてもよい。酸化膜12は、レジネート由来の炭素をほとんど含まないことから意図せずに含む場合を除いて膜中には炭素を実質的に含まず、例えば炭素の割合は1wt%以下である。酸化膜12と結合部11は含有する炭素の割合によって明確に区別し得る。なお、酸化膜12の表面の結合部11と接していない部分には、酸化膜12とは別途に形成されたレジネート由来の炭素が存在した膜を有していてもよい。このレジネート由来の炭素を有する膜は、結合には関与していないが、結合部11と同様の組成である。酸化膜12と、酸化膜12の表面のレジネート由来の炭素を有する膜とは、含有する炭素の割合によって明確に区別し得る。酸化膜12は非晶質の場合でもよいし結晶質の場合でもよいし両者が存在していてもよい。酸化膜12の存在は、例えば磁性基体200の断面を走査型電子顕微鏡により5000倍程度で撮影した撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識できる。酸化膜12の組成は、例えば磁性基体200の断面を走査型電子顕微鏡により3000倍から20000倍程度で撮影し、エネルギー分散型X線分析によるZAF法によって確認することができる。その他の構成は第1の実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0032】
[製造方法]
第2の実施形態に係る磁性基体の製造方法の一例を説明する。まず、第1の実施形態と同じ金属磁性粒子を用意し、その表面に酸化膜を形成する。酸化膜は、ゾルゲル法等の湿式法によって金属磁性粒子の表面に形成してもよいし、金属磁性粒子に対して熱処理を行うことで金属磁性粒子の表面に形成してもよい。一例として、金属磁性粒子とエタノールとアンモニア水を含む液中に、TEOS(テトラエトキシシラン)とエタノールと水を含む処理液を混合して混合液を作製し、この混合液を撹拌した後にろ過することで、表面に酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を形成してもよい。また、酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子に対して熱処理を行ってもよい。熱処理は、還元雰囲気下において400℃~800℃で20分~60分間行ってもよい。なお、上記以外の方法の例えばCVD法、PVD法、又はALD法等によって金属磁性粒子の表面に酸化膜を形成してもよい。その後、第1の実施形態で説明した方法と同じ方法によって、表面に酸化膜が形成された金属磁性粒子と樹脂組成物と溶剤とを混合して磁性体ペーストを調整する。これ以降の工程は第1の実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0033】
第2の実施形態によれば、金属磁性粒子10の表面の少なくとも一部が炭素を実質的に含まない酸化膜12で覆われている。Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物からなる結合部11は、酸化膜12同士を結合部11を介して結合させることにより、複数の金属磁性粒子10を結合させている。非晶質の混合物である結合部11に炭素が含まれていることで、磁性基体200に応力が加わってクラックが成長する際、炭素によってクラックの成長が抑制される。これにより、磁性基体200の機械的強度が向上する。結合部11が酸化膜12同士を結合部11を介して結合させることによって複数の金属磁性粒子10が結合することで、結合部11と酸化膜12の濡れ性が良好なために、複数の金属磁性粒子10間の接合強度が向上する。このため、磁性基体200の機械的強度が更に向上する。
【0034】
また、複数の金属磁性粒子10を結合させる結合部11は、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物を含む非晶質の混合物であり、これらの元素の酸化物は電気抵抗率が高いことから、絶縁信頼性が確保される。さらに、金属磁性粒子10の表面が酸化膜12で覆われていることで、磁性基体200の絶縁性が更に向上する。磁性基体200の絶縁性向上の点から、酸化膜12は、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物を含んでいることが好ましい。これらの酸化物は電気抵抗率が高いためである。
【0035】
第1の実施形態及び第2の実施形態では、複数の磁性体層を積層して圧着し、圧着した磁性体層に対して熱処理をすることで磁性基体を形成したが、その他の方法によって形成してもよい。例えば、複数の金属磁性粒子と樹脂組成物と溶剤とを混合して調整した磁性体ペーストを金型のキャビティ内に充填してプレス成型することで成形体を形成し、この成形体に対して熱処理をすることで磁性基体を形成してもよい。
【0036】
[第3の実施形態]
図3は、本願発明の第3の実施形態に係るコイル部品を示す斜視図である。
図4は、本願発明の第3の実施形態に係るコイル部品を示す分解斜視図である。
図4では、図示の便宜上、外部電極を省略している。
図3及び
図4では、コイル部品として様々な回路で受動素子として用いられる積層インダクタの例を示す。
【0037】
図3及び
図4を参照して、コイル部品300は磁性基体100の表面に外部電極50、51が設けられている。磁性基体100は概ね直方体の形状に形成されている。コイル部品300の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向をそれぞれ、
図3及び
図4において「L」方向、「W」方向、及び「T」方向と図示している。コイル部品300は、例えば、長さ寸法(L軸方向の寸法)が0.2mm~6.0mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が0.1mm~4.5mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が0.1mm~4.0mmである。
【0038】
磁性基体100はカバー層20、26と磁性体層21~25とが積層された積層体である。すなわち、磁性基体100は、
図4の下から上に向かって、下側のカバー層20、1層目の磁性体層21、2層目の磁性体層22、3層目の磁性体層23、4層目の磁性体層24、5層目の磁性体層25、上側のカバー層26の順に積層されている。磁性体層21~25には導体パターン31~35が形成されている。導体パターン31~35は磁性体層21~25に埋め込まれ且つ上面が磁性体層21~25の上面と略一致している。カバー層20、26は複数の層が積層されて形成されていてもよい。
【0039】
磁性体層21~25に形成された導体パターン31~35は、導体パターン32~35に含まれるビアV1~V4を介して隣接する磁性体層に形成された導体パターン間で電気的に接続されている。導体パターン31~35が電気的に接続されることでコイル導体30が形成されている。コイル導体30はコイル軸36を有する。コイル導体30は、導体パターン31~35によりコイル軸36の周りを巻回して形成されて、磁性基体100に内蔵されている。コイル軸36はT軸方向に延伸している。カバー層20、26と磁性体層21~25はT軸方向に積層されている。よって、コイル軸36の方向と、カバー層20、26と磁性体層21~25の積層方向と、は概ね一致する。導体パターン31の一端は外部電極50に電気的に接続され、導体パターン35の一端は外部電極51に電気的に接続されている。導体パターン31~35は、導電率の高い金属を含んで形成され、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)又はこれらの合金から形成される。
【0040】
[製造方法]
第3の実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例を説明する。まず、第1の実施形態で説明した方法と同じように、複数の金属磁性粒子と樹脂組成物と溶剤とを混合して調整した磁性体ペーストをフィルム上に塗布し、これを乾燥させることで磁性体膜を形成する。必要に応じて磁性体膜の所定の位置に例えばレーザを用いて貫通孔を形成する。磁性体膜上に例えばスクリーン印刷等によって銀ペースト又は銅ペースト等の導体ペーストを塗布し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥させることで導体パターンの前駆体を形成する。磁性体膜上に例えばスクリーン印刷等の印刷法によって上述した磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させることで導体パターンの周りに磁性体膜を形成する。その後、フィルムを剥離する。これにより、導体パターンが設けられた磁性体層が形成される。
【0041】
フィルム上に例えばドクターブレード法等によって上述した磁性体ペーストを塗布し、これを乾燥機で乾燥させて磁性体膜を形成した後にフィルムを剥離する。これにより、カバー層が形成される。
【0042】
磁性体層とカバー層を所定の順序で積層して圧着する。圧着した磁性体層及びカバー層をチップ単位に切断した後、第1の実施形態で説明した熱処理を行う。この熱処理によって、金属磁性粒子10の表面に結合部11が形成され、複数の金属磁性粒子10が結合部11を介して結合する。これにより、磁性体層21~25とカバー層20、26が積層され、導体パターン31~35により形成されるコイル導体30を内蔵する磁性基体100が形成される。その後、磁性基体100の表面に、例えば例えばペースト印刷、めっき、又はスパッタリング等の薄膜プロセスで用いられる方法によって外部電極50、51を形成する。
【0043】
第3の実施形態によれば、コイル部品300は磁性基体100を備える。磁性基体100は、第1の実施形態で説明したように、複数の金属磁性粒子10が、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物からなる結合部11によって結合されている。このため、磁性基体100は機械的強度が向上し且つ絶縁信頼性が確保される。したがって、第3の実施形態によれば、絶縁信頼性を確保しつつ機械的強度が向上した磁性基体100を備えるコイル部品300が得られる。
【0044】
[第4の実施形態]
図5は、本願発明の第4の実施形態に係るコイル部品を示す側面図である。
図5を参照して、コイル部品400は、磁性基体100と、コイル周回部70と、外部電極52、53と、を備える。磁性基体100の形状は、ドラムコア、Tコア、Iコア等であってもよく、特に限定されない。磁性基体100の形状の例としてドラムコアの場合を例示する。磁性基体100は、巻芯部60と、巻芯部60の軸方向の一方の端部に設けられた鍔部61と、巻芯部60の他方の端部に設けられた鍔部62と、を備える。なお、磁性基体100の形状によって鍔部61及び鍔部62の一方もしくは両方がない場合がある。巻芯部60は、例えば断面形状が略長方形形状をしているが、六角形又は八角形等の多角形形状であってもよいし、円形状又は楕円形状等であってもよい。コイル部品400の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向をそれぞれ、
図5において「L」方向、「W」方向、及び「T」方向と図示している。コイル部品400は、例えば、長さ寸法(L軸方向の寸法)が3.2mm、幅寸法(W軸方向の寸法)が2.5mm、厚さ寸法(T軸方向の寸法)が2.5mmである。
【0045】
コイル周回部70は、被覆導線71が巻芯部60に巻回されて形成されている。外部電極52は、金属板からなり、鍔部61に設けられている。外部電極53は、金属板からなり、鍔部62に設けられている。外部電極52及び外部電極53は導電性金属よりなれば、その形状は板状でなくてもよく、また鍔部61、鍔部62以外の場所に設けることもできる。被覆導線71の一端は外部電極52に電気的に接続され、他端は外部電極53に電気的に接続されている。被覆導線71は、例えば銅からなる芯線の周面がポリアミドイミドからなる絶縁被膜で覆われた構造をしている。芯線は、銅以外の金属で形成されていてもよく、例えば銀、パラジウム、又は銀パラジウム合金で形成されていてもよい。絶縁被膜は、ポリアミドイミド以外の絶縁材料で形成されていてもよく、例えばポリエステルイミド又はポリウレタン等の樹脂材料で形成されていてもよい。
【0046】
[製造方法]
第4の実施形態に係るコイル部品の製造方法の一例を説明する。まず、第1の実施形態で説明した方法と同じように、複数の金属磁性粒子と樹脂組成物と溶剤とを混合して磁性体ペーストを調整する。磁性体ペーストを金型のキャビティ内に充填してプレス成形することでドラム型をした成形体を形成する。必要に応じてこの成形体に対してバリ取りを行ってもよい。この成形体に対して第1の実施形態で説明した熱処理を行う。この熱処理によって、金属磁性粒子10の表面に結合部11が結合され、複数の金属磁性粒子10が結合部11を介して結合したドラムコアである磁性基体100が形成される。その後、磁性基体100に被覆導線71を巻回してコイル周回部70を形成し、被覆導線71の両端部の被覆を剥離する。その後、例えばペースト印刷、めっき、又はスパッタリング等の薄膜プロセスで用いられる方法によって、磁性基体100に被覆導線71に接続される外部電極52、53を形成する。
【0047】
第4の実施形態によれば、コイル部品400は磁性基体100を備える。磁性基体100は、第1の実施形態で説明したように、複数の金属磁性粒子10が、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物からなる結合部11によって結合されている。このため、磁性基体100は機械的強度が向上し且つ絶縁信頼性が確保される。したがって、第4の実施形態によれば、絶縁信頼性を確保しつつ機械的強度が向上した磁性基体100を備えるコイル部品400が得られる。
【0048】
第3の実施形態及び第4の実施形態では、第1の実施形態に係る磁性基体100を用いた場合を例に示したが、第2の実施形態に係る磁性基体200を用いた場合でもよい。
【0049】
[第5の実施形態]
図6は、本願発明の第5の実施形態に係る電子機器を示す斜視図である。
図6では、図の明瞭化のために、半田82にハッチングを付している。
図6を参照して、電子機器500は、回路基板80と、回路基板80に実装された第3の実施形態のコイル部品300と、を備える。コイル部品300は、外部電極50、51が半田82によって回路基板80の電極81に接合されることで、回路基板80に実装されている。これにより、信頼性が向上したコイル部品300を備えた電子機器500が得られる。
【0050】
第5の実施形態では、第3の実施形態に係るコイル部品300が回路基板80に実装された場合を例に示したが、第4の実施形態に係るコイル部品400が回路基板80に実装された場合でもよい。
【実施例0051】
以下、本願発明を実施例及び比較例によってより具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0052】
[実施例1]
実施例1の磁性基体を以下の方法により作製した。原料粒子として組成比がシリコン:3.5wt%、クロム:2.5wt%、鉄:94wt%で平均粒子径が5μmの金属磁性粒子を用い、この金属磁性粒子と樹脂組成物と溶剤とを混合して磁性体ペーストを調整した。樹脂組成物は、バインダー樹脂としてのポリビニルブチラール(PVB)樹脂と、レジネートとしてのジメトキシジフェニルシランと、を含む構成とした。溶剤にはトルエンを用いた。レジネートは金属磁性粒子の重量に対しSiO2重量換算で0.6wt%となるように添加した。この磁性体ペーストをPETフィルム上に塗布し、80℃で乾燥させて、PETフィルム上に磁性体膜を形成した。その後、PETフィルムを剥離して、60μm~70μmの厚さの磁性体層を形成した。
【0053】
複数の磁性体層を積層して6ton/cm2の静水圧下で圧着し、約0.5mmの厚さの積層体を作製した。次に、この積層体から外径8mmの円板試料と、外径10mm、内径5mmのトロイダル試料と、4mm×10mmの短冊状試料と、を打ち抜いて作製し、これら試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を10000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った。これにより、円板形状の磁性基体、トロイダル形状の磁性基体、及び短冊形状の磁性基体を得た。
【0054】
[実施例2]
円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を9000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0055】
[実施例3]
円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を8000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0056】
[実施例4]
円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を5000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0057】
[実施例5]
円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を2000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0058】
[実施例6]
円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を1000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0059】
[実施例7]
円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を2ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0060】
[実施例8]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。酸化シリコン膜はゾルゲル法によって形成した。
【0061】
[実施例9]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点、及び、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を9000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0062】
[実施例10]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点、及び、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を8000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0063】
[実施例11]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点、及び、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を5000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0064】
[実施例12]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点、及び、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を2000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0065】
[実施例13]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点、及び、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を1000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0066】
[実施例14]
表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子を用いて磁性体ペーストを調整した点、及び、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を3ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0067】
[比較例]
比較例では、表面に厚さ20nmの酸化シリコン膜が形成された金属磁性粒子とポリビニルブチラール(PVB)樹脂(バインダー樹脂)とトルエン(溶剤)とを混合した磁性体ペーストを調整した。すなわち、比較例ではレジネートを用いずに磁性体ペーストを調整した。また、円板試料、トロイダル試料、及び短冊状試料に対して700℃で且つ窒素に酸素を加えて酸素濃度を5000ppmとした雰囲気下で1時間の熱処理を行った。これらの点以外は、実施例1と同じ方法で各形状の磁性基体を作製した。
【0068】
実施例1から実施例14及び比較例の磁性基体に対して、体積抵抗率、抗折強度、比透磁率、及びモル比の評価を行った。
[体積抵抗率]
円板形状の磁性基体の上面及び下面に銀ペーストを塗布して乾燥させることで電極を形成した。この電極を用いて測定した電気抵抗と、実際に採寸して求めた体積と、から体積抵抗率を算出した。
[抗折強度]
短冊形状の磁性基体に対する三点曲げ強度試験から算出した。
[比透磁率]
キーサイト・テクノロジー社製のRFインピーダンス/マテリアル・アナライザE4991Aを用い、トロイダル形状の磁性基体の透磁率を測定することで比透磁率を算出した。
[モル比]
円板形状の磁性基体を厚さ方向に沿って切断して断面を露出させ、この断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるZAF法で、金属磁性粒子を結合させる結合部の組成を分析した。そして、結合部中に含まれるシリコン(Si)のモル量に対する結合部中に含まれる炭素(C)のモル量の割合をモル比として算出した。
【0069】
【0070】
表1のように、Siを含有するレジネートを含んで調整した磁性体ペーストを用いて作製した実施例1から実施例14では、Siを含有するレジネートを含まずに調整した磁性体ペーストを用いて作製した比較例に比べて、抗折強度が高くなる結果であった。これは、実施例1から実施例14ではSiを含有するレジネートを含んで調整した磁性体ペーストを用いたことから、複数の金属磁性粒子10がシリコンの酸化物と炭素を含む非晶質の混合物である結合部11を介して結合されるため、磁性基体に応力が加わった場合でも結合部11中の炭素によってクラックの成長が抑制され、抗折強度が高くなったと考えられる。また、実施例1から実施例14では体積抵抗率の大幅な低下は抑制された結果が得られた。これは、複数の金属磁性粒子10を結合させる結合部11が電気抵抗率の高いSiの酸化物を含むためと考えられる。Siの酸化物以外であっても、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの酸化物は電気抵抗率が高いことから、結合部11がこれらの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物である場合は、体積抵抗率の低下が抑制される効果が得られると考えられる。これらのことから、複数の金属磁性粒子10がSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrのうちの少なくとも一つの元素の酸化物と炭素とを含む非晶質の混合物である結合部11によって結合されることで、絶縁信頼性を確保しつつ機械的強度を向上できることが確認された。
【0071】
また、実施例7及び実施例14のように、結合部11中に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1としたとき、それに対する結合部11中に含まれる炭素(C)のモル比が5よりも大きい場合では、同じ基準で結合部11中に含まれる炭素のモル比が5以下の場合に比べて体積抵抗率が大きく低下する結果であった。これは、結合部11中の炭素の割合が大きくなることで炭素による電気伝導の経路が形成され易くなるためと考えられる。このことから、結合部11中に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1としたとき、それに対する結合部11中に含まれる炭素(C)のモル量の割合であるモル比を5以下にすることで絶縁信頼性を向上できることが確認された。絶縁信頼性の向上の点から、モル比は4.8以下が好ましく、4.4以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましいことが確認された。
【0072】
また、実施例1から実施例14のように、結合部11中に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1としたとき、それに対する結合部11中に含まれる炭素(C)のモル比が0.4以上の場合に抗折強度が高くなる結果が得られた。したがって、結合部11中に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量を1としたとき、それに対する結合部11中に含まれる炭素(C)のモル量の割合であるモル比を0.4以上にすることで機械的強度を向上できることが確認された。機械的強度向上の点から、モル比は0.42以上が好ましく、0.51以上がより好ましく、1.3以上が更に好ましいことが確認された。
【0073】
なお、表1のモル比はシリコン(Si)のモル量に対する炭素(C)のモル量の割合であるが、モル量の比較をしていることから、Si、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計モル量に対する炭素(C)のモル量の割合が上記要件を満たす場合では同様の効果が得られると考えられる。また、表1は結合部11がシリコン(Si)と炭素(C)を含む酸化物である場合の結果であることから、結合部11の非晶質の混合物はシリコンの酸化物を主成分に含む場合が好ましいことが言える。シリコンの酸化物を主成分に含むとは、結合部11に含まれるSi、Al、Cr、Mg、Ti、及びZrの合計量に対するSiの割合が50wt%以上の場合であり、70wt%以上が好ましく、80wt%以上がより好ましく、90wt%以上が更に好ましい。
【0074】
また、金属磁性粒子10の表面に酸化膜12が形成され、複数の金属磁性粒子10の酸化膜12同士が結合部11を介して結合されることにより、複数の金属磁性粒子10が結合された実施例8から実施例14は、金属磁性粒子10の表面に酸化膜12が形成されていない実施例1から実施例7に比べて、抗折強度及び体積抵抗率が高くなる結果であった。複数の金属磁性粒子10の酸化膜12同士が結合部11を介して結合されることにより、複数の金属磁性粒子10が結合されることで、結合部11と酸化膜12の濡れ性が良好となり、その結果、結合部11を介する金属磁性粒子10間の接合強度が向上したため、抗折強度が向上したものと考えられる。金属磁性粒子10の表面が酸化膜12で覆われていることで、体積抵抗率が高くなったと考えられる。このことから、金属磁性粒子10の表面の少なくとも一部が炭素を実質的に含まない酸化膜12で覆われ、結合部11が、酸化膜12同士を結合部11を介して結合させることにより、複数の金属磁性粒子10を結合させることで、機械的強度と絶縁信頼性を向上できることが確認された。
【0075】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。