(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040445
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】アルツハイマー病予防剤又は治療剤、アルツハイマー病予防用又は治療用組成物、及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4706 20060101AFI20240315BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240315BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61K31/4706
A61P25/28
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020478
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2019562504の分割
【原出願日】2018-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2017254887
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】江良 択実
(72)【発明者】
【氏名】梶原 隆太郎
(57)【要約】
【課題】新たな作用機序に基づく、アルツハイマー病予防剤又は治療剤、そのスクリーニング方法、及びアルツハイマー病予防用又は治療用組成物を提供する。
【解決手段】GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤を有効成分として含有することを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤。GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤のスクリーニング方法を用いることを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GM1ガングリオシドの細胞内蓄積を有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤であって、
Amodiaquine(アモジアキン)を有効成分として含有することを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤。
【請求項2】
請求項1に記載のアルツハイマー病予防剤又は治療剤及び薬学的に許容される担体を含有する、アルツハイマー病予防用又は治療用組成物。
【請求項3】
GM1ガングリオシドの細胞内蓄積を有するアルツハイマー病に対するAmodiaquine(アモジアキン)の治療効果の判断を補助する方法であって、
Amodiaquine(アモジアキン)を有効成分として含有するアルツハイマー病治療剤を投与された患者由来の細胞における、投与前後のGM1ガングリオシドの細胞内蓄積量を測定し、その蓄積量が減少している場合には治療効果のある可能性が高いと評価することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病予防剤又は治療剤、そのスクリーニング方法、及びアルツハイマー病予防用又は治療用組成物に関する。
本願は、2017年12月28日に、日本に出願された特願2017-254887号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(以下、「AD」ともいう。)は、認知症の60-70%を占め、先進国において最も金銭的コストが高い疾患となっている。ADの病態発症機構としては、アミロイドβ(以下、「Aβ」ともいう。)の産出上昇又は分解不全による、Aβ蓄積を開始点とするアミロイドカスケード仮説が最も支持されている。
【0003】
Aβは、分子量約4kDの小さな蛋白質で38-43個のアミノ酸からなり、アミロイド前駆蛋白(APP)からセクレターゼにより切り出されて産出される。主要なAβの分子種として、アミノ酸数の違いにより、Aβ40とAβ42が存在する。これらのうち、Aβ42は、高い凝集性を有することから、より強い病原性を有することが知られている。
【0004】
ADに対する治療剤開発において、様々な取組みがなされている(非特許文献1参照。
)。例えば、非特許文献1では、ヒトiPS細胞から分化させた前脳マーカーを発現した神経細胞を用いた抗Aβ薬のスクリーニング方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PLoS One. 2011;6(9):e25788. doi: 10.1371/journal.pone.0025788. Epub 2011 Sep 30. Anti-Aβ drug screening platform using human iPS cell-derived neurons for the treatment of Alzheimer's disease. Yahata N., et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ADに対する根本的治療剤は、現在のところ見つかっておらず、対症療法のみにとどまっているのが現状である。これまでADの根本治療剤として、セクレターゼ阻害剤、抗Aβ免疫療法等の臨床研究が行われてきた。しかしながら、被験者に対する不十分な有効性や強い副作用のため、いずれも中止に追い込まれている。
したがって、ADの根本的治療剤開発のためには、今までにはない、新たな観点・標的分子から創薬を行う必要がある。
【0007】
そこで本発明は、新たな作用機序に基づく、アルツハイマー病予防剤又は治療剤、そのスクリーニング方法、及びアルツハイマー病予防用又は治療用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、GM1ガングリオシド(以下、「GM1」ともいう。)患者由来iPS細胞から分化させた神経幹細胞を用いたスクリーニング系が、アルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法に用いられることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤を有効成分として含有することを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤。
[2]Amodiaquine(アモジアキン)、Acacetin(アカセチン)、Sulfamerazine(スルファメラジン)、Ungerine(ウンゲリン)、Amiodarone(アミオダロン)、Sertindole(セルチンドール)、Delcorine(デルコリン)、Perphenazine(ペルフェナジン)、Althiazide(アルチアジド)、Diethylstilbestrol(ジエチルスチルベストロール)、Thiethylperazine(チエチルペラジン)、Harmol(ハルモール)、Skimmianine(スキムミアニン)、Succinylsulfathiazole(スクシニルサルファチアゾール)、Fillalbin(フィラルビン)、Canavanine(カナバニン)、Harmaline(ハルマリン)、Trihexyphenidyl(トリヘキシフェニジル)、Fluoxetine(フルオキセチン)、Lovastatin(ロバスタチン)、Haloperidol(ハロペリドール)、Prenylamine lactate(プレニルアミン乳酸)、Bromperidol(ブロムペリドール)、Convolamine(コンボルバミン)、及びMiglustat(ミグルスタット)、並びに、これらの薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤。
[3]下記一般式(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤。
【0009】
【0010】
[一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシクロアルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、0、1、又は2を表す。R3は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。R4は、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基を表す。R5は、水素原子、水酸基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。R6は、水素原子、水酸基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。]
[4][1]~[3]のいずれか一つに記載のアルツハイマー病予防剤又は治療剤及び薬学的に許容される担体を含有する、アルツハイマー病予防用又は治療用組成物。
[5]GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤のスクリーニング方法を用いることを特徴とするアルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法。
[6]評価対象化合物を、培養されたGM1ガングリオシドーシス神経幹細胞に接触させて、前記神経幹細胞におけるGM1ガングリオシドの蓄積量の変化を評価する工程を含む[5]に記載のアルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法。
[7]前記GM1ガングリオシドーシス神経幹細胞が、GM1ガングリオシドーシス患者由来iPS細胞から分化させた細胞である[6]に記載のアルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新たな作用機序を有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】健常者及びGM1患者由来の神経幹細胞におけるGM1蓄積を比較した図である。
【
図2】(A)健常者、GM1患者、及びアルツハイマー病患者由来の神経幹細胞におけるβ-gal活性を比較した図である。(B)健常者由来の神経幹細胞に、コントロールベクター又はAPP過剰発現ベクターを導入し、β-gal活性を比較した図である。(C)健常者、及びアルツハイマー病患者由来の神経幹細胞全体におけるGM1蓄積を比較した図である。(D)健常者、及びアルツハイマー病患者由来の神経幹細胞の脂質ラフト画分におけるGM1蓄積を比較した図である。
【
図3】(A)β-galタンパク質を過剰発現させた健常者、及びアルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるAβ40の量を比較した図である。(B)β-galタンパク質を過剰発現させた健常者、及びアルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるAβ42の量を比較した図である。(C)β-galタンパク質を過剰発現させた健常者、及びアルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるAβ42/Aβ40の値を比較した図である。(D)β-galタンパク質を過剰発現させた健常者、及びアルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるAβ全量を比較した図である。(E)健常者由来の神経幹細胞及びGM1ガングリオシドーシス患者由来の神経幹細胞、それぞれにおけるAβ42に対する感受性を比較した図である。
【
図4】(A)WTマウス、BKOマウス、5×FADマウス、及びBKO/5×FADマウスの脳のTBS(Tris Buffered Saline)抽出画分における可溶性Aβ40の定量結果を比較した図である。(B)WTマウス、BKOマウス、5×FADマウス、及びBKO/5×FADマウスの脳のTBS(Tris Buffered Saline)抽出画分における可溶性Aβ42の定量結果を比較した図である。(C)WTマウス、BKOマウス、5×FADマウス、及びBKO/5×FADマウスの脳のGuanidin-HCl抽出画分における不溶性Aβ40の定量結果を比較した図である。(D)WTマウス、BKOマウス、5×FADマウス、及びBKO/5×FADマウスの脳のGuanidin-HCl抽出画分における不溶性Aβ42の定量結果を比較した図である。(E)WTマウス、BKOマウス、5×FADマウス、及びBKO/5×FADマウスの脳切片におけるアミロイドの沈着量を比較した図である。
【
図5】GM1抑制化合物を用いた場合のGM1蓄積の様子を示した図である。
【
図6】GM1抑制化合物を用いた場合のGM1蓄積の様子を示した図である。
【
図7】GM1抑制化合物を用いた場合の培地中におけるAβ量、及びAβ42/Aβ40比を比較した結果を示した図である。
【
図8】GM1抑制化合物を用いた場合の細胞内におけるAβ産出量及びAβ42/Aβ40比を比較した結果を示した図である。
【
図9】GM1抑制化合物を腹腔内投与した場合のGM1モデルマウスの脳切片におけるGM1蓄積への影響を調べた図である。
【
図10】GM1抑制化合物を腹腔内投与した場合のGM1モデルマウスの脳におけるGM1ガングリオシド量を比較した結果を示した図である。
【
図11】(A)PBS、Amodiaquine、及びThiethylperanzineをそれぞれ投与した5×FADマウスの脳のTBS(Tris Buffered Saline)抽出画分における可溶性Aβ40の定量結果を比較した図である。(B)PBS、Amodiaquine、及びThiethylperanzineをそれぞれ投与した5×FADマウスの脳のTBS(Tris Buffered Saline)抽出画分における可溶性Aβ42の定量結果を比較した図である。(C)PBS、Amodiaquine、及びThiethylperanzineをそれぞれ投与した5×FADマウスの脳のGuanidin-HCl抽出画分における不溶性Aβ40の定量結果を比較した図である。(D)PBS、Amodiaquine、及びThiethylperanzineをそれぞれ投与した5×FADマウスの脳のGuanidin-HCl抽出画分における不溶性Aβ42の定量結果を比較した図である。(E)PBS、Amodiaquine、及びThiethylperanzineをそれぞれ投与した5×FADマウスの脳切片におけるアミロイドの沈着量を比較した図である。
【
図12】ガングリオシドの合成及び分解過程を示した図である。
【
図13】Amodiaquine又はThiethylperanzineを添加した、正常(201B7)及び疾患由来 (A138 #1-3)のiPS細胞から分化して得られた神経幹細胞における各酵素遺伝子の発現量の解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[アルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法]
近年、AD患者の神経細胞膜表面における脂質ラフトに存在するGM1ガングリオシドが、ADにおけるAβの重合を促進し、病態形成に深く関わっていることが明らかとなってきた(Hoshino T, Mahmood MI, Mori K, Matsuzaki K. J Phys Chem B. 2013 Jul 11;117(27):8085-94.参照。)。
【0014】
GM1ガングリオシドは、糖脂質の一種であり、細胞のシグナル伝達などに関与する分子である。このGM1が関与する疾患として、GM1ガングリオシドーシスが知られている。
【0015】
GM1ガングリオシドーシスはライソゾーム病の1つであり、GM1ガングリオシドの加水分解に関与する酵素の欠損・異常によって、GM1が特に神経系(脳)に蓄積してしまう先天性代謝異常症である。
GM1ガングリオシドーシスは、発症時期と臨床経過により、乳児型、若年型、成人型に分類される。特に乳児型は生後3~6ヶ月までに発達の遅れが見られ、生後1年を過ぎるまでにほとんどの患児が、除脳硬直など重度の神経障害を示すようになり、通常3~4歳までに死亡する。
【0016】
実施例において後述するように、発明者らは、GM1ガングリオシドーシスとアルツハイマー病との間に関係性があることを見出した。
即ち、本発明のアルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤のスクリーニング方法を用いる。
【0017】
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、評価対象化合物を、培養されたGM1ガングリオシドーシス神経幹細胞に接触させて、前記神経幹細胞におけるGM1ガングリオシドの蓄積量の変化を評価する工程を含むアルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0018】
本実施形態において、例えば、化合物ライブラリーを、培養されたGM1ガングリオシドーシス神経幹細胞の培地に添加し、前記神経幹細胞におけるGM1ガングリオシドに対する影響を検討する。より具体的には、例えば、ウェルプレートに前記神経幹細胞を播種し、化合物ライブラリーの存在下で1~5日間程度培養する。
【0019】
患者の脳から神経系細胞を採取することは困難であることから、前記GM1ガングリオシドーシス神経幹細胞が、GM1ガングリオシドーシス患者由来iPS細胞から分化させた細胞であることが好ましい。
GM1患者由来の細胞としては、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、血液細胞、線維芽細胞等が挙げられ、線維芽細胞が好ましい。GM1患者由来細胞からiPS細胞への初期化方法、及びiPS細胞から神経幹細胞への分化方法については定法に従う。
【0020】
GM1ガングリオシドの蓄積量の変化を評価する方法としては、実施例にて後述するように、GM1ガングリオシドに対して親和性を有する物質を用いて、フローサイトメトリーやウエスタンブロット等により、定性・定量評価する方法が挙げられる。
【0021】
係る工程により見いだされた化合物に対して、Aβの発現を評価する等、ADの治療効果を評価する工程を有していてもよい。
Aβの発現評価としては、AD患者由来神経幹細胞を、GM1抑制化合物ととともに培養を行い、培地中のAβ42とAβ40の比率を定量する方法が挙げられる。
【0022】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、後述するアルツハイマー病モデル動物に評価対象化合物を投与する、アルツハイマー病予防剤又は治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0023】
本実施形態において、例えば、後述するアルツハイマー病モデル動物に、経口投与又は腹腔内投与等の非経口投与で評価対象化合物を投与する。続いて、脳組織におけるアミロイド沈着を評価する。
【0024】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られるアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1蓄積を、直接もしくは間接的に抑制することによりADの治療効果を発揮しうる化合物であることが好ましい。すなわち、かかるAD治療候補化合物を有効成分とするAD治療剤は、蓄積したGM1を直接除去する、GM1の凝集を抑制する、GM1の合成を阻害する、GM1の分解を促進するなどの作用により、GM1の蓄積を、直接的又は間接的に抑制しADの治療効果を発揮するものであることが好ましい。
【0025】
[アルツハイマー病予防剤又は治療剤]
1実施形態において、本発明は、Amodiaquine(アモジアキン)、Acacetin(アカセチン)、Sulfamerazine(スルファメラジン)、Ungerine(ウンゲリン)、Amiodarone(アミオダロン)、Sertindole(セルチンドール)、Delcorine(デルコリン)、Perphenazine(ペルフェナジン)、Althiazide(アルチアジド)、Diethylstilbestrol(ジエチルスチルベストロール)、Thiethylperazine(チエチルペラジン)、Harmol(ハルモール)、Skimmianine(スキムミアニン)、Succinylsulfathiazole(スクシニルサルファチアゾール)、Fillalbin(フィラルビン)、Canavanine(カナバニン)、Harmaline(ハルマリン)、Trihexyphenidyl(トリヘキシフェニジル)、Fluoxetine(フルオキセチン)、Lovastatin(ロバスタチン)、Haloperidol(ハロペリドール)、Prenylamine lactate(プレニルアミン乳酸)、Bromperidol(ブロムペリドール)、Convolamine(コンボルバミン)、及びMiglustat(ミグルスタット)、並びに、これらの薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供する。
これらのアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤としても提供できる。
【0026】
また、1実施形態において、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供する。
このアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤としても提供できる。
【0027】
【0028】
[一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシクロアルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。nは、0、1、又は2を表す。R3は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。R4は、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基を表す。R5は、水素原子、水酸基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。R6は、水素原子、水酸基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。]
【0029】
R1及びR2における、炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
R1及びR2におけるアリール基としては、炭素数6~18であるものが好ましく、炭素数6~10であるものがより好ましく、具体的にはフェニル基が特に好ましい。
R1及びR2におけるアラルキル基としては、炭素数1~5のアルキレン基と上記R1及びR2におけるアリール基とが結合したものが好ましい。
R1及びR2におけるシクロアルキル基としては、炭素数3~8のモノシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましく、具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等が挙げられる。
【0030】
Xにおける2価の連結基としては、アルキレン基、-O-、-C(=O)-、-NH-、-S-、-S(=O)2-、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
R3における炭素数1~5のアルキル基、アラルキル基、アリール基、及びシクロアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
R4における炭素数1~5のアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0032】
R5における炭素数1~5のアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
R5における炭素数1~5のアルコキシ基としては、-ORのRの部分が、R1及びR2において上述した炭素数1~5のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0033】
R6における炭素数1~5のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シクロアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
R6における炭素数1~5のアルコキシ基としては、R5において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
上述した中でも、Xとしては、単結合が好ましく、nは1が好ましく、R3~R5は水素原子が好ましい。
【0035】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記一般式(1-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、好ましい。
【0036】
【0037】
[一般式(1-1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又はシクロアルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。R6は、水素原子、水酸基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。]
【0038】
上述した中でも、R6としては、水酸基が好ましく、R1及びR2としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0039】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記式(1-1-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0040】
【0041】
また、1実施形態において、本発明は、下記一般式(2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供する。
このアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤としても提供できる。
【0042】
【0043】
[一般式(2)中、R10は、単結合又は2価の連結基を表す。R11は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。R12及びR13は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。n10及びn11は、それぞれ独立して、0~4の整数を表す。R12及びR13が、それぞれ複数存在する場合、互いに同じでも異なってもよい。R14は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、又は炭素数1~5のアルコキシ基を表す。
n12は、0~4の整数を表す。R14が、複数存在する場合、互いに同じでも異なってもよい。]
【0044】
R10における2価の連結基としては、Xにおいて上述したものと同様のものが挙げられる。
R11における炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、アラルキル基、アリール基、及びシクロアルキル基としては、R5において上述したものと同様のものが挙げられる。
R11における炭素数1~5のヒドロキシアルキル基としては、アルキル基の部分が、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
R12及びR13における炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、及びシクロアルキル基としては、R11において上述したものと同様のものが挙げられる。
R12及びR13におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
R12及びR13における炭素数1~5のチオアルキル基としては、アルキル基の部分が、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
R14におけるハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、及び炭素数1~5のアルコキシ基としては、R12及びR13において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0045】
上述した中でも、R13及びR14としては、水素原子が好ましく、n10は1が好ましい。
【0046】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記一般式(2-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、好ましい。
【0047】
【0048】
[一般式(2-1)中、R10は、単結合又は2価の連結基を表す。R11は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。R12は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。]
【0049】
上述した中でも、R10としては、アルキレン基が好ましい。R10におけるアルキレン基としては、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基から1個の水素原子を除いた基が好ましい。炭素数1~5のアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0050】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記一般式(2-1-1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、更に好ましい。
【0051】
【0052】
[一般式(2-1-1)中、R11は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。R12は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。]
【0053】
上述した中でも、R11としては、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のヒドロキシアルキル基が好ましい。R12としては、ハロゲン原子、又は炭素数1~5のチオアルキル基が好ましい。
【0054】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記式(2-1-1-1)又は(2-1-1-2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0055】
【0056】
また、1実施形態において、本発明は、下記一般式(3)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供する。
このアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤としても提供できる。
【0057】
【0058】
[一般式(3)中、R20は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、又はシクロアルキル基を表す。R21及びR24は、それぞれ独立して、単結合又は2価の連結基を表す。R22及びR23は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基を表す。]
【0059】
R20における、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、アラルキル基、アリール基、及びシクロアルキル基としては、R12において上述したものと同様のものが挙げられる。
R21及びR24における2価の連結基としては、Xにおいて上述したものと同様のものが挙げられる。
R22及びR23における、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、及び炭素数1~5のヒドロキシアルキル基としては、R12において上述したものと同様のものが挙げられる。
R22及びR23における、炭素数1~5のハロアルキル基としては、フッ化アルキル基、塩化アルキル基、臭化アルキル基が挙げられ、R1及びR2において上述したアルキル基から、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置き換えられたものが挙げられる。
【0060】
上述した中でも、R20としては、炭素数1~5のアルキル基、又はアラルキル基が好ましい。R20におけるアラルキル基としては、炭素数1~5のアルキレン基とフェニル基とが結合したものが好ましい。
R21及びR24としては、単結合又は-O-が好ましい。
R22及びR23としては、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましい。
【0061】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記式(3-1)又は(3-2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0062】
【0063】
また、1実施形態において、本発明は、下記一般式(4)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供する。
このアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤としても提供できる。
【0064】
【0065】
[一般式(4)中、R30及びR31は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、又はアラルキル基を表す。実線と点線の二重線部分は単結合又は二重結合を表す。]
【0066】
R30及びR31において、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、及びアラルキル基としては、R12において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0067】
上述した中でも、R30及びR31としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、水酸基が好ましい。
【0068】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記式(4-1)又は(4-2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0069】
【0070】
また、1実施形態において、本発明は、下記一般式(5)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有するアルツハイマー病予防剤又は治療剤を提供する。
このアルツハイマー病予防剤又は治療剤は、GM1ガングリオシドーシス予防剤又は治療剤としても提供できる。
【0071】
【0072】
[一般式(5)中、R40は、単結合又は2価の連結基を表す。R41~R43は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、又はアラルキル基を表す。]
【0073】
R40における2価の連結基としては、Xにおいて上述したものと同様のものが挙げられる。
R41~R43におけるハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のチオアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基、及びアラルキル基としては、R12において上述したものと同様のものが挙げられる。
【0074】
上述した中でも、R40としては、アルキレン基が好ましい。R40におけるアルキレン基としては、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基から1個の水素原子を除いた基が好ましい。炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、R1及びR2において上述したものと同様のものが挙げられる。
R41~R43としては、水素原子、ハロゲン原子が好ましい。
【0075】
本実施形態のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、下記式(5-1)又は(5-2)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物を有効成分として含有することが、特に好ましい。
【0076】
【0077】
本発明のアルツハイマー病予防剤又は治療剤としては、上記化合物をフリー体の形態で用いてもよく、薬学的に許容される塩の形態で用いてもよい。また、フリー体の溶媒和物の形態で用いてもよく、塩の溶媒和物の形態で用いてもよい。
【0078】
塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に制限されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられる。溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であれば特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
【0079】
[アルツハイマー病の予防用又は治療用組成物]
1実施形態において、本発明は、上記のアルツハイマー病の予防剤又は治療剤、及び薬学的に許容される担体を含有する、アルツハイマー病の予防用又は治療用組成物を提供する。
このアルツハイマー病の予防用又は治療用組成物は、GM1ガングリオシドーシス予防用又は治療用組成物としても提供できる。
【0080】
本実施形態のアルツハイマー病の予防用又は治療用組成物は、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の形態で非経口的に投与することができる。
【0081】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0082】
本実施形態のアルツハイマー病の予防用又は治療用組成物は、更に添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0083】
(投与方法)
アルツハイマー病の予防剤又は治療剤、又はアルツハイマー病の予防用又は治療用組成物の投与方法は特に限定されず、患者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0084】
(投与量)
アルツハイマー病の予防剤又は治療剤、又はアルツハイマー病の予防用又は治療用組成物の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり1μg~10g、例えば1日あたり0.01~2000mgの有効成分を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.1μg~1g、例えば1日あたり0.001~200mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり1μg~10g、例えば1日あたり0.01~2000mgの有効成分を投与すればよい。また、皮膚外用剤の場合には、例えば1日あたり1μg~10g、例えば1日あたり0.01~2000mgの有効成分を投与すればよい。
【0085】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、アルツハイマー病の予防又は治療のための、Amodiaquine(アモジアキン)、Acacetin(アカセチン)、Sulfamerazine(スルファメラジン)、Ungerine(ウンゲリン)、Amiodarone(アミオダロン)、Sertindole(セルチンドール)、Delcorine(デルコリン)、Perphenazine(ペルフェナジン)、Althiazide(アルチアジド)、Diethylstilbestrol(ジエチルスチルベストロール)、Thiethylperazine(チエチルペラジン)、Harmol(ハルモール)、Skimmianine(スキムミアニン)、Succinylsulfathiazole(スクシニルサルファチアゾール)、Fillalbin(フィラルビン)、Canavanine(カナバニン)、Harmaline(ハルマリン)、Trihexyphenidyl(トリヘキシフェニジル)、Fluoxetine(フルオキセチン)、Lovastatin(ロバスタチン)、Haloperidol(ハロペリドール)、Prenylamine lactate(プレニルアミン乳酸)、Bromperidol(ブロムペリドール)、Convolamine(コンボルバミン)、Miglustat(ミグルスタット)、及び前記一般式(1)~(5)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を提供する。
【0086】
一実施形態において、本発明は、Amodiaquine(アモジアキン)、Acacetin(アカセチン)、Sulfamerazine(スルファメラジン)、Ungerine(ウンゲリン)、Amiodarone(アミオダロン)、Sertindole(セルチンドール)、Delcorine(デルコリン)、Perphenazine(ペルフェナジン)、Althiazide(アルチアジド)、Diethylstilbestrol(ジエチルスチルベストロール)、Thiethylperazine(チエチルペラジン)、Harmol(ハルモール)、Skimmianine(スキムミアニン)、Succinylsulfathiazole(スクシニルサルファチアゾール)、Fillalbin(フィラルビン)、Canavanine(カナバニン)、Harmaline(ハルマリン)、Trihexyphenidyl(トリヘキシフェニジル)、Fluoxetine(フルオキセチン)、Lovastatin(ロバスタチン)、Haloperidol(ハロペリドール)、Prenylamine lactate(プレニルアミン乳酸)、Bromperidol(ブロムペリドール)、Convolamine(コンボルバミン)、Miglustat(ミグルスタット)、及び前記一般式(1)~(5)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を、予防又は治療を必要とする患者に投与することを含む、アルツハイマー病の予防又は治療方法を提供する。
【0087】
一実施形態において、本発明は、アルツハイマー病の予防剤又は治療剤、又はアルツハイマー病の予防用又は治療用組成物を製造するためのAmodiaquine(アモジアキン)、Acacetin(アカセチン)、Sulfamerazine(スルファメラジン)、Ungerine(ウンゲリン)、Amiodarone(アミオダロン)、Sertindole(セルチンドール)、Delcorine(デルコリン)、Perphenazine(ペルフェナジン)、Althiazide(アルチアジド)、Diethylstilbestrol(ジエチルスチルベストロール)、Thiethylperazine(チエチルペラジン)、Harmol(ハルモール)、Skimmianine(スキムミアニン)、Succinylsulfathiazole(スクシニルサルファチアゾール)、Fillalbin(フィラルビン)、Canavanine(カナバニン)、Harmaline(ハルマリン)、Trihexyphenidyl(トリヘキシフェニジル)、Fluoxetine(フルオキセチン)、Lovastatin(ロバスタチン)、Haloperidol(ハロペリドール)、Prenylamine lactate(プレニルアミン乳酸)、Bromperidol(ブロムペリドール)、Convolamine(コンボルバミン)、Miglustat(ミグルスタット)、及び前記一般式(1)~(5)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物、その薬学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物の使用を提供する。
【0088】
[アルツハイマー病モデル動物]
本発明の評価に用いるアルツハイマー病モデル動物は、β-Galactosidase(以下、β-galともいう。)遺伝子の発現が抑制若しくは喪失している、又は前記β-gal遺伝子がコードするβ-galタンパク質の機能が抑制若しくは喪失しており、前記β-gal遺伝子又は前記β-gal遺伝子の発現調節領域に変異が導入されている非ヒト哺乳動物である。
【0089】
β-galタンパク質は、様々な生体分子の加水分解の役割を果たすリソソームに存在する酵素である。GM1ガングリオシドは、β-galタンパク質の基質であり、脳に豊富に存在する。そのため、β-galの抑制又は喪失により、GM1ガングリオシドの蓄積を導く。
【0090】
β-galタンパク質の機能が喪失しているとは、β-galタンパク質が本来有する機能が完全に失われている状態のことをいう。β-galタンパク質の機能が抑制されているとは、β-galタンパク質が本来有する機能が部分的に失われている状態のことをいう。
β-galタンパク質が本来有する機能が部分的に失われている場合には、β-galタンパク質の機能の抑制の程度は、モデル動物と、モデル動物となる動物の野生型の動物等のコントロールとなる動物とを比較して、モデル動物にアルツハイマー病と認められる状態(コントロールとの差異)が表れる程度であればよい。
アルツハイマー病と認められる状態の指標としては、アミロイドタンパク質(Aβ40及び42)の脳における沈着が挙げられる。
【0091】
β-galタンパク質の機能の抑制又は喪失は、β-gal遺伝子の発現が抑制もしくは喪失することによっても生じ得る。β-gal遺伝子の発現が喪失しているとは、モデル動物となる動物において、β-gal遺伝子産物が喪失していることをいう。β-gal遺伝子の発現が抑制しているとは、モデル動物となる動物の野生型の動物等のコントロールとなる動物と比較して、β-gal遺伝子産物の量が抑制されていることをいう。
β-gal遺伝子産物の量が抑制されている場合には、抑制の程度は、モデル動物となる動物の野生型の動物等のコントロールとなる動物と比較して、上記に示すようなアルツハイマー病と認められる状態が表れる程度であればよい。β-gal遺伝子の発現の抑制は、β-gal遺伝子に対するRNAi誘導性核酸、アンチセンス核酸、アプタマー若しくはリボザイムなどの発現を生じさせる核酸配列をモデル動物に導入し、遺伝子ノックダウン等により生じさせることができる。
【0092】
本発明の評価に用いるモデル動物は、β-gal遺伝子又はβ-gal遺伝子の発現調節領域に変異が導入されてなることが好ましい。
導入される変異は、β-gal遺伝子の発現を抑制若しくは喪失させる、又は前記β-gal遺伝子がコードするβ-galタンパク質の機能を抑制若しくは喪失させるものであればよい。
【0093】
上記β-gal遺伝子とは、β-galタンパク質をコードする領域であるエクソンのほか、β-gal遺伝子の発現を抑制若しくは喪失させる、又は前記β-gal遺伝子がコードするβ-galタンパク質の機能を抑制若しくは喪失させることができる場合にはイントロンも含まれる。
β-gal遺伝子の発現調節領域とは、β-gal遺伝子の発現を調節する領域であって、例えば、プロモーター、サイレンサー、エンハンサー、応答配列である。
【0094】
β-galタンパク質の機能の喪失は、例えばβ-gal遺伝子に変異を導入し、β-gal遺伝子を破壊することにより生じさせることができる。β-gal遺伝子の発現能の抑制又は喪失は、例えば、β-gal遺伝子の発現調節領域に変異を導入することにより生じさせることができる。
β-gal遺伝子又はβ-gal遺伝子の発現調節領域に変異を導入する方法は、公知の遺伝子工学的手法である遺伝子改変により行うことができる。変異は、β-gal遺伝子又はβ-gal遺伝子の発現調節領域における一部又は全部の欠失、置換、任意の配列の挿入等により生じさせることができる。β-gal遺伝子の一部が欠失している場合、欠失は1つ以上のエクソンの欠失であることが好ましい。これらの変異を導入することは、例えば、変異原性物質(Mutagen)による処理、紫外線照射、相同組み換え技術等による遺伝子ターゲッティング、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックダウン、Cre-loxP系等による条件的ノックアウト等の手法を用いて行うことができる。
【0095】
β-gal遺伝子変異としては、ヒトβ-galタンパク質において、E186A、P10L、R201C、C127Y、W161G、Q255H,R351X、S532G、R148S等の変異が挙げられる。
【0096】
後述する実施例において示すように、β-galノックアウトマウスとアルツハイマー病モデルマウスを掛けあわせたマウスでは、アミロイドの沈着が促進されていることが確認されている。
したがって、本発明の評価に用いるアルツハイマー病モデル動物は、更に、ヒトプリセニリン1(PS1)のエクソン9の欠損、M146L変異、L285V変異、ヒトPS2のN141I変異、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)のKM670/671NLスェーデン型変異、I716Vフロリダ型変異、及びV717Iロンドン型変異からなる群から選ばれる少なくとも1種の変異を有することが好ましく、ヒトプリセニリン1(PS1)のM146L変異、及びL285V変異、並びに、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)のKM670/671NLスェーデン型変異、I716Vフロリダ型変異、V717Iロンドン型変異の5種類の変異を有することがより好ましい。
【0097】
非ヒト哺乳動物としては、特に制限されないが、げっ歯類に分類される動物であることが好ましい。非ヒト哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコが挙げられる。
【0098】
本発明の評価に係るモデル動物は、アルツハイマー病のメカニズムの解明や、その治療等に有用な物質の探索、治療方法などの開発に用いることができる。
【実施例0099】
以下、実験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0100】
[実験例1]
[皮膚由来線維芽細胞の樹立]
倫理委員会に承認されたプロトコールにより、インフォームドコンセントの下、GM1ガングリオシドーシス患者及び健常者の皮膚生検の外植片から線維芽細胞を樹立した。
患者及び健常者からの皮膚試料を細かく刻み、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地で培養した。線維芽細胞が出現したことを確認した後、初期化遺伝子を導入するために線維芽細胞を増殖させた。
【0101】
[iPS細胞の樹立及び維持]
N. Fusaki, H. Ban, A. Nishiyama, K. Saeki, M. Hasegawa, Proc. Jpn. Acad. Ser., B. Phys. Biol. Eci., 85, 348 (2009)に記載される方法により、樹立したヒト由来線維芽細胞からiPS細胞を樹立した。
具体的には、感染1日前に、6ウェルプレートにおいて、1ウェル当たり5×105個のヒト線維芽細胞を播種し、その後、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、K1f4遺伝子、及びc-Myc遺伝子を含むセンダイウイルス(SeV)ベクターを、MOI(multiplicity of infection)3にて、細胞に感染させた。Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、K1f4遺伝子、及びc-Myc遺伝子を含むSeVベクターについては、N. Fusaki, H. Ban, A. Nishiyama, K. Saeki, M. Hasegawa, Proc. Jpn. Acad. Ser., B. Phys. Biol. Eci., 85, 348 (2009)に記載される方法に従い作製した。感染7日後、感染させた線維芽細胞を、トリプシンを用いて回収し、60mmのシャーレ当たり5.4×104個の細胞、又は100mmのシャーレ当たり1~2×105個の細胞をMMC処理したMEFフィーダー細胞上に播種した。翌日、ヒトiPS細胞培地に置き換え、感染30日後まで培養を継続し、コロニーを回収した。
【0102】
20%のKNOCKOUT(商標)血清置換物(KSR,インビトロゲン)、2mMのL-グルタミン、1×10-4Mの非必須アミノ酸(NEAA,シグマ)、1×10-4Mの2-メルカプトエタノール(シグマ)、0.5%のペニシリンとストレプトマイシン(日本,ナカライテスク)、及び5ng/mLの基本線維芽細胞増殖因子(bFGF,和光,日本)を添加したDMEM/F12(シグマ)を含有するヒトiPS培地を用いて、マイトマイシンC(MMC)処理したMEFフィーダー細胞上で、ヒトiPS細胞を維持した。
【0103】
[神経幹細胞(Neural Stem Cell:NSC)への分化]
分化誘導開始の前日に、Geltrex(Thermo Fisher Scientific)をコーティングした6穴プレートに、ヒトiPS細胞を2.5×105~3×105個/ウェルの密度で播種し、ヒトiPS培地で培養した。翌日(誘導開始日:Day 0)、ヒトiPS培地を除去して、PSC Neural Induction Medium(Thermo Fisher Scientific)に入れ替えた。引き続き、2日に1回の頻度で、PSC Neural Induction Mediumにて培地交換を行いながら、培養開始後7日目(Day 7)まで培養を行い、NSCを誘導した。誘導されたNSCは、培地を除き、StemPro Accutase Cell Dissociation Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞をはがし、Neural Expansion Medium(Thermo Fisher Scientific)に細胞を懸濁後、Geltrexにてコーティングした100mm細胞培養用シャーレへ播種した。この時点の細胞をP0NSC(継代数ゼロのNSC)とし、以後、適宜この培地にてNSCを増やし、実験に使用した。
【0104】
[実験例2]
<FITC-CTBを用いたGM1蓄積の可視化>
健常者およびGM1ガングリオシドーシス患者由来iPS細胞から誘導した神経幹細胞を、4%パラホルムアルデヒドにて固定後、0.1% TritonX-100/PBSにて透過処理し、1% BSA溶液にてブロッキングを行った。その後、FITC-CTB(GM1ガングリオシドを特異的に染色する試薬)と抗Nestin抗体(神経幹細胞に特異的に発現している分子:神経幹細胞のマーカー)を用いて、多重染色を行った。
図1に結果を示す。
Nestin染色においては、健常者、GM患者、いずれのNSCにおいても強い染色が認められ、神経幹細胞への分化が確認された(
図1,下段)。一方、FITC-CTBにおいては,健常者ではほとんど染色が認められなかったが、GM1患者においては,強い染色が認められた(
図1,上段)。
これらの結果から、GM1患者由来神経幹細胞では、GM1が蓄積していることが確認された。
【0105】
[実験例3]
アルツハイマー病患者の脳におけるGM1ガングリオシドの量は、健常者の脳におけるGM1ガングリオシドの量よりも多いと報告されている。発明者らは、アルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるGM1ガングリオシドの代謝状態を検討した。第一に、患者由来の神経幹細胞のβ-gal活性を調べたところ、アルツハイマー病患者由来の神経幹細胞のβ-gal活性は、健常者由来の神経幹細胞と比較して、低下していたことが確認された(
図2A)参照。)。
図2A中、201B7及び409B2は、健常者由来の神経幹細胞を示し、A138及びA154は、GM1ガングリオシドーシス患者由来の神経幹細胞を示し、A232#3-1及びA232#2-2は、アルツハイマー病由来の神経幹細胞を示す。また、
図2A中、Solは、不溶性画分を、Supは、可溶性画分を意味する。本実験例において不溶性画分・可用性画分におけるβ-gal活性に差はないことを示している。
【0106】
更に、発明者らは、APPの過剰発現が、β-gal活性に及ぼす影響を検討した。健常者由来の神経幹細胞に、コントロールベクター又はAPP過剰発現ベクターを導入し、β-gal活性を測定した。コントロールベクターを導入した神経幹細胞と比較して、APP過剰発現ベクターを導入した神経幹細胞において、β-gal活性が低下していたことが確認された(
図2B参照。)。
【0107】
更に、発明者らは、患者由来の神経幹細胞における、GM1ガングリオシドの蓄積を検討した(
図2C、
図2D参照。)。
図2Cは、細胞全体におけるGM1ガングリオシド量を示したグラフであり、
図2Dは、脂質ラフト画分におけるGM1ガングリオシド量を示したグラフである。
アルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるGM1ガングリオシドの量は、健常者由来の神経幹細胞における量より多いことが確認された。特に、脂質ラフト画分での差が大きかった。β-galがGM1ガングリオシドの分解に関与しているという知見もあり、これらのことから、アルツハイマー病由来の神経幹細胞においては、β-gal活性が低下しており、これにより、GM1ガングリオシドが蓄積するものと示唆された。
【0108】
[実験例4]
GM1ガングリオシドの減少が、Aβの代謝に影響するかどうかを確認するため、β-galタンパク質を神経幹細胞内に過剰発現させた(
図3A~D参照。)。
図3中、Controlは、コントロールベクターを導入した神経幹細胞を示し、GLB1 OEは、β-galタンパク質過剰発現ベクターを導入した神経幹細胞を示す。
図3Bに示されるように、アルツハイマー病由来の神経幹細胞におけるβ-galタンパク質の過剰発現より、Aβ42の量が減少したことが確認された。
【0109】
Aβ42を処理することにより、細胞死が誘導されるという知見がある。そこで、発明者らは、健常者由来の神経幹細胞及びGM1ガングリオシドーシス患者由来の神経幹細胞、それぞれにおけるAβ42に対する感受性を比較検討した(
図3E参照。)。
図3Eの凡例中、201B7NSCは、健常者由来の神経幹細胞を示し、A138NSCは、GM1ガングリオシドーシス患者由来の神経幹細胞を示し、201B7+GM1は、GM1ガングリオシドで処理された健常者由来の神経幹細胞を示す。
細胞生存率アッセイの結果、GM1ガングリオシドーシス患者由来の神経幹細胞は、健常者由来の神経幹細胞よりもAβ42に対する感受性が高いことが確認された。更に、GM1ガングリオシドで処理された健常者由来の神経幹細胞におけるAβ42に対する感受性は、GM1ガングリオシドーシス患者由来の神経幹細胞と類似した傾向を示すことが確認された。
これらのことから、GM1ガングリオシドは、神経幹細胞におけるAβの生産に影響を及ぼすことが示唆された。
【0110】
[実験例5]
出生後、C57BL/6NCr SlcをバックグランウドとしたGM1ガングリオシドーシスモデルマウス(BKOマウス:β-galの完全欠損マウス, β-gal(-/-))の脳からAβを抽出し定量した(
図4A~D参照。)。
図4中、WTは、正常マウスを示し、BKOは、前述したGM1ガングリオシドーシスモデルマウスを示し、5×FADは、ヒトプリセニリン1(PS1)のM146L変異、及びL285V変異、並びに、ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)のKM670/671NLスェーデン型変異、I716Vフロリダ型変異、V717Iロンドン型変異の5種類の変異を有するアルツハイマー病モデルマウスを示し、BKO/5×FADは、BKOと5×FADを掛けあわせたマウスを示す。
図4A及びBは、TBS(Tris Buffered Saline)抽出画分における可溶性Aβの定量結果を示し、
図4C及びDは、Guanidin-HCl抽出画分における不溶性Aβの定量結果を示す。
WTと比較して、BKOでは、Aβ40及び42が増加傾向にあることが示された。また、Guanidin-HCl抽出画分において、5×FADと比較して、BKO/5×FADでは、Aβ40及び42が有意に増加しており、BKOマウスと5×FADの掛け合わせにより、アミロイドの沈着が促進されていることが確認された。
【0111】
出生後、C57BL/6NCr SlcのWT、BKO、5×FAD、BKO/5×FADの脳から切片を作製した。抗Aβ抗体(クローン:4G8)を用いて、切片を免疫染色した。結果を
図4Eに示す。
図4A~Dの結果と同様、アミロイドの沈着量の多さは、BKO/5×FAD、5×FAD、BKO、WTの順であることが確認された。
【0112】
[実験例6]
<イメージングサイトメーターを用いた薬剤スクリーニングによる化合物の評価>
以下の要領で、アルツハイマー病治療剤のスクリーニングを行った。
96ウェルプレートをGeltrexにてコーティング後、Neural Expansion Mediumに懸濁した、健常者およびGM1ガングリオシドーシス患者由来iPS細胞から誘導した神経幹細胞を、5×104/ウェルの密度で播種した。その後、既知薬剤ライブラリーの化合物を、各々のウェルに最終濃度5μMになるように添加し、72時間培養を行った。その後、4%パラホルムアルデヒドにて固定、0.1%TritonX-100/PBSにて透過処理、1% BSA溶液にてブロッキングを行い、FITC-CTB(GM1ガングリオシドを特異的に染色する試薬)、Hoechst 33342(細胞の核を染色する試薬)、CellMask(細胞膜を染色する試薬)を使い、蛍光染色した。
各ウェルの蛍光強度を、イメージングサイトメーター(IN Cell Analyzer 6000)を用いて画像を取得し、IN Cell Developer Toolbox プロトコールを用いて、細胞当たりのGM1ガングリオシド量を算出した。
表1に検討を行った化合物の結果を示す。
【0113】
【0114】
検討を行った化合物のうち、GM1抑制化合物としてヒットしたいくつかの化合物における薬剤処理後の神経幹細胞の染色像を、
図5、
図6に示す。
ヒットした化合物においては,薬剤を添加していない例(
図5b・下段,
図6e・下段)と比較して、CTBの蛍光が低下しており、GM1の蓄積が抑制されていることが確認された(
図5cならびにd,
図6fからg、いずれも下段)。
【0115】
[実験例7]
<GM1蓄積を低下させるヒット薬剤の培地中(細胞外)Aβに対する効果>
Geltrexをコーティングした6ウェルプレートに、アルツハイマー病患者由来iPS細胞から誘導した神経幹細胞を、2×10
6個/ウェルの密度で播種し、ヒット薬剤を最終濃度5μMになるように加え、72時間培養した。72時間後、細胞上清を回収し、400g・10分間遠心した上清を解析用サンプルとした。これらの解析用サンプルを、Human/Rat βAmyloid(42)ELISA Kit wako、High Sensitive(WAKO)、Human/Rat βAmyloid(40)ELISA Kit wako II(WAKO)を用いたサンドイッチELISA法にて、Aβ42、Aβ40、それぞれを測定した。これらの測定結果より、Total Aβ(Aβ42+Aβ40)ならびにAβ42/Aβ40比(Aβ42÷Aβ40)を算出した。結果を
図7、
図8に示す。
【0116】
アルツハイマー病患者由来の神経幹細胞の培地中におけるAβ42/Aβ40及び細胞内におけるAβ42/Aβ40は、健常者に比較して高い値を示した(
図7および8の下段)。
GM1抑制化合物の処理により、アルツハイマー病患者由来の神経幹細胞の培地中及び細胞内におけるTotal AβならびにAβ42/Aβ40比を低下することが確認された(
図7c,
図8f)。
【0117】
[実験例8]
<GM1抑制化合物投与後のGM1ガングリオシドーシスモデルマウスの脳における、GM1ガングリオシド量の変化>
GM1ガングリオシドーシスモデルマウス(BKOマウス:β-Galactosidaseの完全欠損マウス, β-Gal(-/-)へ、出生後P9からP15の6日間、Amodiaquine (40mg/kg)、Thiethylperanzine (6mg/kg)を、1日2回、腹腔内に投与した。なお、陽性対象として、薬液にPBSを用い、同様の操作を行った。また、陰性対象として、薬液にPBS、マウスとしてβ-Gal(+/-)のものを用いて、同様の操作を行った。その後、マウス脳をOCTコンパウンドにて包埋し、5μmの厚さで切片を作製した。切片は4%パラホルムアルデヒドにて固定後、1% BSA溶液にてブロッキングを行い、Alexa Fluor488-CTB、Hoechst 33342にて蛍光染色を行った。また、マウス脳を、Svennerholm and Fredmanの抽出法に基づいてスフィンゴ脂質を分画・精製し、試料とし、これらの試料をAgilent6460 Triple Quadrupole LC/MSにて解析し、脳内GM1を定量した。蛍光染色の結果を
図9に示す。
【0118】
陰性対象では、CTBの蛍光がほとんど見られなかった(
図9a・上段)。一方、陽性対象では、CTBの蛍光が強く、GM1の蓄積が確認された(
図9b・上段)。一方で、GM1抑制化合物による処理を行ったいずれにおいても、CTBの蛍光は強く抑制されており、GM1の蓄積が抑制されていることが確認された(
図9c,d,いずれも上段)。GM1の定量結果を
図10に示す。
【0119】
陰性対象と比較して、陽性対象では、GM1ガングリオシド量の増加が確認された。一方,薬液処理したいずれにおいても、陽性対象と比べて、GM1ガングリオシド量が低下していることが確認された。
【0120】
[実験例9]
<GM1抑制化合物投与後のアルツハイマー病モデルマウスの脳における、Aβ量の変化>
出生後3か月の5×FADマウスにAmodiaquine (40mg/kg) 、Thiethylperanzine (6mg/kg)を、1日2回、腹腔内に3か月間連続投与した。なお、陽性対象として、薬液にPBSを用い、同様の操作を行った。その後、各マウスの脳からAβを抽出し定量した(
図11A~D参照。)。
図11A及びBは、TBS(Tris Buffered Saline)抽出画分における可溶性Aβの定量結果を示し、
図11C及びDは、Guanidin-HCl抽出画分における不溶性Aβの定量結果を示す。
PBS投与群と比較して、Amodiaquine 投与群、及びThiethylperanzine投与群では、Aβ40及び42が減少していることが確認された。
【0121】
また、連続投与後の各マウスの脳から切片を作製した。抗Aβ抗体(クローン:4G8)を用いて、切片を免疫染色した。結果を
図11Eに示す。
図11A~Dの結果と同様、Amodiaquine 投与群、及びThiethylperanzine投与群では、Aβ40及び42が減少していることが確認された。
【0122】
[実験例10]
<GM1抑制化合物添加によるオートファジーへの影響>
ガングリオシドの合成及び分解過程を
図12に示す。GM1、GM2、GM3の各ガングリオシドは、単糖及びN-アセチルノイラミン酸の連続的付加により生成される。また、ガングリオシドの分解は、ライソゾーム中のグリコシダーゼが段階的に作用することにより行われる。
図12における(1)~(7)は、各反応において作用する酵素を示している。
図13は、NEU1 及びβ-GLUの発現が候補化合物による処理により増加することを示している。正常(201B7)及び疾患由来 (A138 #1-3)のiPS細胞から分化して得られた神経幹細胞をウェルに播種し、Amodiaquine又はThiethylperanzineを5μMになるようにそれぞれ添加し、72時間培養を行った。培養後、RNAを単離し、各酵素遺伝子の発現量の解析を行った。
図13中、-は、無添加サンプルを示し、amoは、Amodiaquine添加サンプルを示し、thieは、Thiethylperanzine添加サンプルを示す。
本結果により、GM1抑制化合物の作用により、ライソゾーム中におけるガングリオシドの分解を促進し、オートファジーを活性化させることが示唆された。