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  • 特開-偏光板および該偏光板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040469
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】偏光板および該偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021224
(22)【出願日】2024-02-15
(62)【分割の表示】P 2020133464の分割
【原出願日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2020130042
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼永 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】朝永 政俊
(72)【発明者】
【氏名】小川 美優
(57)【要約】
【課題】切断加工を施した場合であっても品質に優れた偏光板を提供すること。
【解決手段】二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である偏光子を含み、溶融切断部を有する、偏光板。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である偏光子を含み、
溶融切断部を有する、偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板および該偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は携帯電話およびノート型パーソナルコンピューター(PC)等の様々な画像表示装置に用いられている。近年、スマートフォン、および、車載ディスプレイといった様々な用途で偏光板の需要が高まっている。これらの用途においては、偏光板を切断加工に供することによって、搭載される部分に対応する形状に加工することや、開口部(貫通穴)を設けることが行われている。例えば、特許文献1では、カメラに対応する部分に開口部を設けた偏光板が提案されている。しかしながら、これらの加工を施す場合、加工時に偏光子に欠けが発生し、偏光子の品質が低下し得るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-112238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、切断加工を施した場合であっても品質に優れた偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの局面によれば、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である偏光子を含み、溶融切断部を有する、偏光板が提供される。
1つの実施形態において、上記溶融切断部が、レーザー切断部である。
1つの実施形態において、上記偏光子の厚みが、10μm以下である。
1つの実施形態において、上記偏光子の単体透過率が40.0%以上であり、かつ、偏光度が99.0%以上である。
1つの実施形態において、上記溶融切断部が、平面視において、半径が10mm以下の円形の貫通穴である。
1つの実施形態において、上記偏光板は、上記偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護層をさらに含む。
本発明の別の局面によれば、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である偏光子を含む偏光板を準備すること、および、該偏光板を熱切断処理に供して、溶融切断部を形成すること、を含む、上記偏光板の製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記熱切断処理が、レーザー切断処理である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、溶融切断部を有する偏光板であって、溶融切断部における偏光子の欠けの発生が抑制された、高品質な偏光板が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略平面図であり、(b)は(a)に示す偏光板のA-A’線概略断面図である。
図2】溶融切断部の変形例を示す概略平面図である。
図3】溶融切断部の変形例を示す概略平面図である。
図4】本発明の実施形態で用いられる偏光子の製造方法における加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
図5】実施例および比較例で得られた偏光板における溶融切断部の顕微鏡観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光板
本発明の実施形態による偏光板は、二色性物質を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成され、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である偏光子を含み、溶融切断部を有する。偏光板を溶融切断する際、偏光子の加熱部が収縮する一方で、非加熱部は収縮しないことから、当該収縮率の差に起因して偏光子が裂け、その結果、溶融切断部の縁において偏光子に欠けが発生し得るところ、本発明の実施形態によれば、加熱による収縮率が小さい偏光子を用いることにより、加熱部と非加熱部とにおける収縮率の差を小さくすることができ、結果として、欠けの発生が抑制されると推測される。
【0010】
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略平面図であり、図1(b)は図1(a)に示す偏光板のA-A’線概略断面図である。図1(a)に示される偏光板100は、平面視矩形状であり、その内部に溶融切断部110が形成されている。また、偏光板100は、偏光子10と偏光子10の一方の側に配置された第1の保護層20と他方の側に配置された第2の保護層30とを含む積層体である。目的に応じて、第1の保護層20および第2の保護層30のうち一方の保護層は省略されてもよい。
【0011】
上記図示例において、溶融切断部110は平面視において円形の貫通穴とされているが、溶融切断部は当該実施形態に限定されない。具体的には、偏光子の外縁(すなわち、偏光子の平面視形状を規定する外縁)が溶融切断された溶融切断部であってもよく、偏光子の外縁から内方に離間した部分に(すなわち、貫通穴として)溶融切断部が設けられていてもよい。
【0012】
溶融切断部の変形例を、図2および図3に示す。図示例のように、溶融切断部としては、偏光子の隅部をR形状に面取りした面取り部、貫通穴、平面視した場合に凹部となる切削加工部等が挙げられる。凹部の代表例としては、船形に近似した形状、矩形、バスタブ形状に近似したR形状、V字ノッチ、U字ノッチが挙げられる。言うまでもなく、溶融切断部の形状は図示例に限定されない。例えば、貫通穴の形状は、図示例の略円形以外に目的に応じて任意の適切な形状(例えば、楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形)が採用され得る。また、貫通穴は、目的に応じて任意の適切な位置に設けられる。貫通穴は、図3に示すように、矩形状の偏光子の長手方向端部の略中央部に設けられてもよく、長手方向端部の所定の位置に設けられてもよく、偏光子の隅部に設けられてもよく;図示していないが、矩形状の偏光子の短手方向端部に設けられてもよい。また、図3に示すように、貫通穴を複数設けてもよい。さらに、図示例の形状を目的に応じて適切に組み合わせてもよい。このような溶融切断部を有する偏光板は、自動車のメーターパネル、スマートフォン、タブレット型PCまたはスマートウォッチ等の画像表示装置に好適に用いられ得る。
【0013】
溶融切断部が円形である場合、その半径は、例えば0.2mm以上であり、また例えば1mm以上であり、また例えば2mm以上であり得る。一方、その半径は、例えば10mm以下であり、また例えば5mm以下である。また例えば、溶融切断部がU字ノッチである場合、その曲率半径(U字部分の曲率半径は)、例えば5mm以下であり、また例えば1mm~4mmであり、また例えば2mm~3mmであり得る。
【0014】
A-1.偏光子
上記偏光子は、二色性物質を含むPVA系樹脂フィルムで構成され、かつ、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である。このような偏光子であれば、溶融切断の際に、加熱部と非加熱部とにおける収縮率の差(特に、吸収軸方向における加熱部と非加熱部とにおける収縮率の差)を小さくすることができ、結果として、欠けの発生が抑制され得る。このような偏光子は、PVA系樹脂の配向度が低い状態に調節することによって得ることができ、また、PVA系樹脂がこのような配向状態であるにもかかわらず、実用上許容可能な光学特性を発揮し得る。
【0015】
85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における偏光子の収縮率は、5%以下であり、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4.0%以下である。当該収縮率がこのような範囲であれば、溶融切断部における欠けの発生が効果的に抑制され得る。
【0016】
85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向と直交する方向(透過軸方向)における偏光子の収縮率は、好ましくは4.0%以下であり、より好ましくは3.5%以下である。当該収縮率がこのような範囲であれば、溶融切断部における欠けの発生が効果的に抑制され得る。
【0017】
吸収軸方向に荷重変化速度98.0mN/minで引っ張った際の偏光子のひずみ量(伸び率)は、例えば10%以上であり、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。このような伸び率を有する偏光子によれば、溶融切断時に加熱部が局所的に収縮した場合であっても、非加熱部が当該収縮に追随して伸びることにより、欠けの発生が好適に抑制され得る。なお、上記ひずみ量の上限は、例えば100%であり得る。
【0018】
吸収軸方向と直交する方向(透過軸方向)に荷重変化速度98.0mN/minで引っ張った際の偏光子のひずみ量(伸び率)は、例えば10%以上であり、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上である。このような伸び率を有する偏光子によれば、溶融切断時に加熱部が局所的に収縮した場合であっても、非加熱部が当該収縮に追随して伸びることにより、欠けの発生が好適に抑制され得る。なお、上記ひずみ量の上限は、例えば100%であり得る。
【0019】
偏光子の厚みは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。偏光子の厚みの下限は、例えば1μmであり得る。偏光子の厚みは、1つの実施形態においては2μm~10μm、別の実施形態においては2μm~8μmであってもよい。偏光子の厚みをこのように非常に薄くすることにより、熱収縮を非常に小さくすることができる。このような構成が、溶融切断部における欠けの発生の抑制にも寄与し得ると推察される。
【0020】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは40.0%以上であり、より好ましくは41.0%以上である。単体透過率の上限は、例えば49.0%であり得る。偏光子の単体透過率は、1つの実施形態においては40.0%~45.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.0%以上であり、より好ましくは99.4%以上である。偏光度の上限は、例えば99.999%であり得る。偏光子の偏光度は、1つの実施形態においては99.0%~99.9%である。本発明の実施形態で用いられる偏光子は、上記の通り、吸収軸方向への加熱収縮率が特定の範囲であり、かつ、実用上許容可能な単体透過率および偏光度を有することを1つの特徴とする。これは、後述する製造方法に起因するものと推察される。なお、単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。また、単体透過率は、偏光板の一方の表面の屈折率を1.50、もう一方の表面の屈折率を1.53に換算した時の値である。偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0021】
偏光子は、上記のとおり、二色性物質を含むPVA系樹脂フィルムで構成される。好ましくは、PVA系樹脂フィルム(実質的には、偏光子)を構成するPVA系樹脂は、アセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。このような構成であれば、所望の機械的強度を有する偏光子が得られ得る。アセトアセチル変性されたPVA系樹脂の配合量は、PVA系樹脂全体を100重量%としたときに、好ましくは5重量%~20重量%であり、より好ましくは8重量%~12重量%である。配合量がこのような範囲であれば、より優れた機械的強度を有する偏光子が得られ得る。
【0022】
偏光子は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含む。加えて、積層体は、好ましくは長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。また、延伸の総倍率は、好ましくは2.5倍~4.5倍である。このような延伸の総倍率であっても、ハロゲン化物の添加および乾燥収縮処理との組み合わせにより、許容可能な光学特性を有する偏光子を得ることができる。1つの実施形態においては、偏光子の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。
【0023】
A-2.保護層
第1および第2の保護層は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0024】
偏光板を画像表示装置に適用したときに表示パネルとは反対側に配置される保護層(外側保護層)の厚みは、代表的には300μm以下であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm~80μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0025】
偏光板を画像表示装置に適用したときに表示パネル側に配置される保護層(内側保護層)の厚みは、好ましくは5μm~200μm、より好ましくは10μm~100μm、さらに好ましくは10μm~60μmである。1つの実施形態においては、内側保護層は、任意の適切な位相差値を有する位相差層である。この場合、位相差層の面内位相差Re(550)は、例えば110nm~150nmである。「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差であり、式:Re=(nx-ny)×dにより求められる。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率であり、「d」は層(フィルム)の厚み(nm)である。
【0026】
B.偏光板の製造方法
本発明の実施形態による上記A項に記載の偏光板の製造方法は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、85℃で120分加熱した場合の吸収軸方向における収縮率が5%以下である偏光子を含む偏光板を準備すること、および、該偏光板を熱切断処理に供して、溶融切断部を形成することを含む。
【0027】
B-1.偏光板の準備
B-1-1.偏光子の作製
1つの実施形態において、上記偏光子は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含むPVA系樹脂層を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法によって得られ得る。該空中補助延伸処理および該水中延伸処理の延伸の総倍率は、該積層体の元長に対して好ましくは2.5倍~4.5倍である。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%以上である。このような製造方法によれば、上記偏光子を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有する偏光子を得ることができる。
【0028】
B-1-1-1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0029】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0030】
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは、2μm~30μm、さらに好ましくは2μm~20μmである。延伸前のPVA系樹脂層の厚みをこのように非常に薄くし、かつ、後述するように延伸の総倍率を通常よりも小さくすることは、PVA系樹脂層の配向度が小さく、結果として、熱収縮率が小さいにもかかわらず、実用上許容可能な単体透過率および偏光度を有する偏光子の実現に寄与し得る。
【0031】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0032】
熱可塑性樹脂基材としては、任意の適切な熱可塑性樹脂フィルムが採用され得る。熱可塑性樹脂基材の詳細については、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0033】
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0034】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0035】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。上記のとおり、PVA系樹脂は、好ましくはアセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。
【0036】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0037】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0038】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部~15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光子が白濁する場合がある。
【0039】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂層中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂基材の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。
【0040】
B-1-1-2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
【0041】
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用され得る。1つの実施形態においては、空中補助延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中補助延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定され得る。自由端延伸の場合、幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
【0042】
空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、水中延伸の延伸方向と略同一である。
【0043】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは1.5倍~4.0倍であり、より好ましくは1.7倍~3.5倍であり、さらに好ましくは2.0倍~3.0倍である。空中補助延伸の延伸倍率がこのような範囲であれば、水中延伸と組み合わせた場合に延伸の総倍率を所望の範囲に設定することができる。その結果、PVA系樹脂層の配向度が従来よりも低く、結果として、熱収縮率が小さい偏光子が得られ得る。
【0044】
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0045】
B-1-1-3.不溶化処理、染色処理および架橋処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質(代表的には、ヨウ素)で染色することにより行う。必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理、染色処理および架橋処理の詳細については、例えば特開2012-73580号公報(上記)に記載されている。
【0046】
B-1-1-4.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光子を製造することができる。
【0047】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が選択される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸の総倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0048】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光子を製造することができる。
【0049】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、特に好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光子を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0050】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0051】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは60℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0052】
水中延伸における延伸倍率は、好ましくは1.0倍~3.0倍であり、より好ましくは1.0倍~2.0倍であり、さらに好ましくは1.0倍~1.5倍である。水中延伸における延伸倍率がこのような範囲であれば、延伸の総倍率を所望の範囲に設定することができる。その結果、PVA系樹脂層の配向度が従来よりも低く、結果として、熱収縮率が小さい偏光子を得ることができる。延伸の総倍率(空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の各延伸倍率の積)は、上記のとおり、積層体の元長に対して、好ましくは2.5倍~4.5倍であり、より好ましくは3.0倍~4.5倍であり、さらに好ましくは3.0倍~4.3倍であり、さらにより好ましくは3.0倍~4.0倍である。一般的な偏光子の製造方法においては、延伸の総倍率が5.0倍以上、好ましくは5.5倍以上とされるが、本発明の実施形態においては、これよりも低い延伸倍率とすることによってPVA系樹脂層の高配向化を抑制する。これにより、得られる偏光子の吸収軸方向における熱収縮率(特に、吸収軸方向における熱収縮率)が低減し得る。また、塗布液へのハロゲン化物の添加、空中補助延伸および水中延伸の延伸倍率の調整、および乾燥収縮処理を適切に組み合わせることにより、このような延伸の総倍率であっても得られる偏光子の光学特性を実用上許容可能な範囲内とすることができる。1つの実施形態において、空中補助延伸の延伸倍率と水中延伸の延伸倍率との比(水中延伸/空中補助延伸)は、例えば0.28~0.9であり、好ましくは0.4~0.9であり、より好ましくは0.5~0.8である。
【0053】
B-1-1-5.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光子を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは2%~6%である。
【0054】
図4は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0055】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0056】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0057】
B-1-1-6.その他の処理
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
B-1-2.偏光板の作製
以上のようにして得られた[樹脂基材/偏光子]の積層体は、そのまま偏光板として用いることができる(すなわち、樹脂基材が偏光子の保護層として機能する)。あるいは、[樹脂基材/偏光子]の積層体の偏光子面に接着層を介して任意の適切な保護層を積層し、次いで、該積層体から樹脂基材を剥離することにより、[保護層/偏光子]の構成を有する偏光板を作製してもよい。さらに、必要に応じて、これらの積層体の偏光子面に接着層を介して任意の適切な保護層を積層して、[樹脂基材/偏光子/保護層]または[保護層/偏光子/保護層]の構成を有する偏光板を作製してもよい。
【0058】
B-2.溶融切断部の形成
溶融切断部は、上記偏光板を熱切断処理に供することによって形成される。熱切断処理としては、レーザー切断処理、プラズマ切断処理、ガス切断処理等が挙げられる。なかでも、優れた寸法精度で平滑な切断端面を得られることから、レーザー切断処理が好ましい。
【0059】
レーザー光は、好ましくは、少なくとも1500nm以下の波長の光を含む。レーザー光は、より好ましくは100pm~1000nmの波長の光を含み、さらに好ましくは100nm~900nmの波長の光を含み、特に好ましくは220nm~680nmの波長の光を含む。1つの実施形態においては、レーザー光は、上記のような範囲にピーク波長を有する。このような波長を含むレーザー光によれば、平滑な溶融切断部(溶融切断端面)が得られ得る。
【0060】
レーザーとしては、例えば、YAGレーザー、YLFレーザー、YVO4レーザー、チタンサファイアレーザー等の固体レーザー、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザーを含むガスレーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー、色素レーザーが挙げられる。好ましくは、ファイバーレーザーが用いられる。
【0061】
上記レーザーとしては、好ましくは、短パルスレーザー(1ナノ秒以下のパルス幅を有する光を照射するレーザー、例えば、ピコ秒レーザーまたはフェムト秒レーザー等)が用いられる。溶融切断端面への熱ダメージを抑制する目的では、500ピコ秒以下(例えば、10ピコ秒~50ピコ秒)のパルス幅が特に好ましい。熱ダメージを抑制することにより、美しく、均一でかつ平滑な切断面が得られ得る。
【0062】
レーザー光の照射条件は、任意の適切な条件に設定され得る。例えば、ファイバーレーザーを用いる場合、パルスエネルギーは、好ましくは10μJ~150μJ、より好ましくは25μJ~71μJである。スキャン速度は、好ましくは1mm/秒~10000mm/秒であり、より好ましくは2mm/秒~1000mm/秒である。繰返し周波数は、例えば1kHz~1000kHzである。スキャンピッチは、好ましくは0.01μm~50μmである。レーザー光の照射位置におけるビーム形状は、目的に応じて適切に設定され得る。当該ビーム形状は、例えば、円形であってもよく、ライン状であってもよい。ビーム形状を所定の形状とする手段としては、任意の適切な手段が採用され得る。例えば、所定の開口部を有するマスクを介してレーザー照射してもよく、回折光学素子等を用いてビーム整形してもよい。例えばビーム形状が円形である場合には、焦点径(スポット径)は、好ましくは1μm~100μmである。
【0063】
アシストガスとしては、空気、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、キセノンガス、ヘリウムガス、およびこれらのうちの二種以上を混合した混合ガスを用いることができる。
【実施例0064】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。
(2)単体透過率および偏光度
実施例および比較例で得られた[樹脂基材/偏光子]の積層体(偏光板)について、紫外可視分光光度計(大塚電子社製 LPF200)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光子のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。得られたTpおよびTcから、下記式を用いて偏光度を求めた。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
(3)加熱による収縮率
収縮率は、TA Instruments製「TMA Q-400」を用いて測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた偏光板から剥離した偏光子(単膜)を、幅方向4mm、長手方向35mmにカットし、チャック間16mmとして、20℃から窒素雰囲気下で昇温速度10℃/minで、85℃まで加熱し85℃で2時間保持し、降温速度10℃/minで20℃まで下げ、測定終了時の収縮量を測定し、元長に対する割合(%)として算出した(収縮率=収縮量/元長×100)。
(4)ひずみ量(伸び率)
ひずみ量は、日立ハイテクサイエンス社製「TMA/SS 6100型」(最大荷重約5N)を用いて測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた偏光板から剥離した偏光子(単膜)を、幅方向2mm、長手方向25mmにカットし、チャック間10mmとして、荷重変化速度98.0mN/minで引っ張った際のひずみ量(元長に対する伸び量の比率)を測定した。
【0065】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が42.3%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に延伸の総倍率が3.0倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理:水中延伸処理における延伸倍率は1.25倍)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
このようにして、[樹脂基材/偏光子(厚み:7.2μm、Ts:42.3%、偏光度:99.89%)]の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光板(サイズ:100mm×100mm)に対して、レーザー加工機(Talisker Ultra 355-4)を用いて、樹脂基材側からレーザー照射(UVレーザー(355nm)、照射条件:走査速度5mm/sec、周波数200kHz、出力0.38W)を2回行い、偏光板の外縁から内方に50mmの位置に、直径5mmの円形貫通穴(溶融切断部)を形成した。
【0066】
[実施例2]
水中延伸の延伸倍率を1.67倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を4.0倍としたこと)以外は実施例1と同様にして、[樹脂基材/偏光子(厚み:6.2μm、Ts:42.3%、偏光度:99.98%)]の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光板に対して、実施例1と同様にしてレーザー照射を行って、直径5mmの円形貫通穴(溶融切断部)を形成した。
【0067】
[実施例3]
水中延伸の延伸倍率を1.75倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を4.2倍としたこと)以外は実施例1と同様にして、[樹脂基材/偏光子(厚み:6.1μm、Ts:42.4%、偏光度:99.99%)]の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光板に対して、実施例1と同様にしてレーザー照射を行って、直径5mmの円形貫通穴(溶融切断部)を形成した。
【0068】
[実施例4]
水中延伸の延伸倍率を1.88倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を4.5倍としたこと)以外は実施例1と同様にして、[樹脂基材/偏光子(厚み:6.0μm、Ts:42.2%、偏光度:99.99%)]の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光板に対して、実施例1と同様にしてレーザー照射を行って、直径5mmの円形貫通穴(溶融切断部)を形成した。
【0069】
[比較例1]
水中延伸の延伸倍率を2.3倍としたこと(結果として、延伸の総倍率を5.5倍としたこと)以外は実施例1と同様にして、[樹脂基材/偏光子(厚み:5.5μm、Ts:42.3%、偏光度:99.99%)]の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光板に対して、実施例1と同様にしてレーザー照射を行って、直径5mmの円形貫通穴(溶融切断部)を形成した。
【0070】
上記実施例および比較例で得られた円形貫通穴(溶融切断部)を有する偏光板に関して、顕微鏡観察を行い、貫通穴の縁において偏光子の欠けが発生しているか否かを確認した。結果を、偏光子の延伸倍率、加熱収縮率およびひずみ量と併せて表1に示す。表1中、貫通穴の縁に偏光子の欠けが生じていた場合は「発生」、欠けが生じていなかった場合は「無し」と評価した。また、実施例2の偏光板および比較例1の偏光板における溶融切断部の顕微鏡観察画像を図5に示す(図中、点線で囲った部分は偏光子が欠けている箇所である。また、矢印方向が吸収軸方向を示す)。
【0071】
【表1】
【0072】
表1および図5に示されるように、吸収軸方向への加熱収縮率が5%以下である偏光子を用いた実施例の偏光板によれば、溶融切断部の縁における偏光子の欠けが抑制されている。また、実施例で用いられた偏光子は、実用上許容可能な単体透過率および偏光度を有している。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の偏光板は、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0074】
10 偏光子
20 第1の保護層
30 第2の保護層
100 偏光板
図1
図2
図3
図4
図5