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特開2024-4051イオンゲル、その製造方法、コーティング材、負極、および、それを用いた金属二次電池
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  • 特開-イオンゲル、その製造方法、コーティング材、負極、および、それを用いた金属二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004051
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】イオンゲル、その製造方法、コーティング材、負極、および、それを用いた金属二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20240109BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240109BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240109BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240109BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240109BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20240109BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20240109BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C08L101/02
H01M4/40
H01M4/134
H01M10/0566
H01M10/052
C08K5/00
C08F20/00 510
C08F2/44 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103497
(22)【出願日】2022-06-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)委託事業「先進蓄電池研究開発拠点に関する国立研究開発法人物質・材料研究機構による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】玉手 亮多
(72)【発明者】
【氏名】西川 慶
(72)【発明者】
【氏名】ペン ユエイン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J002AA031
4J002BG011
4J002BG071
4J002BG131
4J002BJ001
4J002ED026
4J002ED036
4J002GH00
4J002GQ02
4J011AA05
4J011PB27
4J011PC02
4J011PC08
4J011PC13
5H029AJ11
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM07
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ10
5H050AA14
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA23
5H050FA04
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】 強度およびイオン伝導性に優れたイオンゲル、その製造方法、コーティング材、負極、および、それを用いた金属二次電池を提供すること。
【解決手段】 本発明のイオンゲルは、ラジカル重合性化合物と、イオン液体とを含有する組成物を重合させて得られ、ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有し、イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有し、水素結合性モノマーは、ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、イオン液体とラジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たす。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物と、イオン液体とを含有する組成物を重合させて得られるイオンゲルであって、
前記ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有し、
前記イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有し、
前記水素結合性モノマーは、前記ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、
前記イオン液体と前記ラジカル重合性化合物との合計質量に対する前記ラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たす、イオンゲル。
【請求項2】
前記水素結合性モノマーは、カルボキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、水酸基含有モノマー、ウレア結合含有モノマー、および、ウレタン結合含有モノマーからなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載のイオンゲル。
【請求項3】
前記水素結合性モノマーは、(メタ)アクリル酸、および/または、N-メチル(メタ)アクリルアミドである、請求項1または2に記載のイオンゲル。
【請求項4】
前記ラジカル重合性化合物は、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルエステル、および、スチレン誘導体からなる群から選択されるモノマーをさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項5】
前記水素結合性モノマーは、前記ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上70%以下の範囲を満たすように含有される、請求項1~4のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項6】
前記イオン液体と前記ラジカル重合性化合物との合計質量に対する前記ラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.50以下の範囲を満たす、請求項1~5のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項7】
前記溶媒和イオン液体は、アルカリ金属、および/または、アルカリ土類金属を含有する塩と、グライム化合物、および/または、クラウンエーテルとの錯体である、請求項1~6のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項8】
前記アルカリ金属、および/または、アルカリ土類金属を含有する塩は、ハロゲン原子を含有するスルホニルイミド塩である、請求項7に記載のイオンゲル。
【請求項9】
前記スルホニルイミド塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI)やビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン(BETI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)、フルオロスルホニルトリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン(FTA)、4,4,5,5,-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリン-1,1,3,3-テトラオキシドアニオン(CTFSI)、および、2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミドアニオン(TSAC)からなる群から少なくとも1つ選択される、請求項8に記載のイオンゲル。
【請求項10】
前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、および、カリウム(K)からなる群から少なくとも1つ選択され、
前記アルカリ土類金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、および、バリウム(Ba)からなる群から少なくとも1つ選択される、請求項7~9のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項11】
前記グライム化合物は、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ペンタグライム、および、ヘキサグライムからなる群から少なくとも1つ選択され、
前記クラウンエーテルは、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ベンゾ-12-クラウン-4、ベンゾ-15-クラウン-5、および、ベンゾ-18-クラウン-6からなる群から少なくとも1つ選択される、請求項7~10のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項12】
500kJ/m以上の機械的靭性、および、1.0×10-4S/m以上のイオン伝導度を有する、請求項1~11のいずれかに記載のイオンゲル。
【請求項13】
ラジカル重合性化合物と、イオン液体と、ラジカル重合開始剤とを含有する組成物を調製することと、
前記組成物を重合させることと
を包含し、
前記組成物において、
前記ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有し、前記イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有し、
前記水素結合性モノマーは、前記ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、
前記イオン液体と前記ラジカル重合性化合物との合計質量に対する前記ラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たす、請求項1~12のいずれかに記載のイオンゲルを製造する方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載のイオンゲルと溶媒とを含有するコーティング材。
【請求項15】
前記溶媒は、水、酸、アルコール系溶媒、アルキルスルホキシド系溶媒、アルキルアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、および、これらの混合物からなる群から少なくとも1つ選択される、請求項14に記載のコーティング材。
【請求項16】
負極活物質層と、
前記負極活物質層上に位置する保護層と
を備え、
前記保護層は、請求項1~12のいずれかに記載のイオンゲルを含有する、負極。
【請求項17】
前記負極活物質層は、負極集電体上に位置する、請求項16に記載の負極。
【請求項18】
前記負極活物質層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有し、
前記イオンゲルにおける溶媒和イオン液体は、前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属と同一のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有する、請求項17に記載の負極。
【請求項19】
前記保護層は、0.01μm以上10μm以下の範囲の厚さを有する、請求項16~18のいずれかに記載の負極。
【請求項20】
正極と負極と電解液とを備えた金属二次電池であって、
前記負極は、請求項16~19のいずれかに記載の負極である、金属二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンゲル、その製造方法、コーティング材、負極、および、それを用いた金属二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体と高分子網目とからなるイオンゲルは、イオン液体由来の不燃性、不揮発性、高イオン伝導性等の優れた特性を有するソフトマテリアルとして研究が盛んである。
【0003】
最近、イオン液体として非プロトン性イオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド([C2mlm][TFSI])と、超高分子量ポリマーのポリ(エチルメタクリレート)(PMMA)とを含有するイオンゲルが開発された(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、イオンゲルは、優れた強度および自己修復性を有し、ウェアラブル・フレキシブルな電気化学デバイスへの応用の可能性が報告されている。非特許文献1では電気化学デバイスへの応用が示唆されるものの実用化には至っていない。
【0004】
一方、高出力で高エネルギー密度を示す二次電池の研究が盛んである。金属を負極に用いた金属電池では、表面に生じた欠陥等が核になり、電池充電(金属電析)時にデンドライトと呼ばれる樹状成長に代表される金属の異常成長が析出し、正極と短絡を起こし、電池が発火するなどの問題がある。このような問題に対して、負極をポリマーで保護する技術がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1は、リチウム金属の表面にポリ(アリーレンエーテルスルホン)-ポリ(エチレングリコール)グラフト共重合体(PAES-g-PEG)の保護層を形成することを開示する。これに代替する保護層が開発されれば、種々の金属電池に対応できるため好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-150278号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】上山 祐史ら,「超高分子量ポリマーの物理的絡み合いに基づく高強度・自己修復イオンゲルの開発とその力学制御」,第70回高分子討論会,予稿集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、強度およびイオン伝導性に優れたイオンゲル、その製造方法、コーティング材、負極、および、それを用いた金属二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるイオンゲルは、ラジカル重合性化合物と、イオン液体とを含有する組成物を重合させて得られ、前記ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有し、前記イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有し、前記水素結合性モノマーは、前記ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、前記イオン液体と前記ラジカル重合性化合物との合計質量に対する前記ラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記水素結合性モノマーは、カルボキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、水酸基含有モノマー、ウレア結合含有モノマー、および、ウレタン結合含有モノマーからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記水素結合性モノマーは、(メタ)アクリル酸、および/または、N-メチル(メタ)アクリルアミドであってもよい。
前記ラジカル重合性化合物は、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルエステル、および、スチレン誘導体からなる群から選択されるモノマーをさらに含有してもよい。
前記水素結合性モノマーは、前記ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上70%以下の範囲を満たすように含有されてもよい。
前記イオン液体と前記ラジカル重合性化合物との合計質量に対する前記ラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.50以下の範囲を満たしてもよい。
前記溶媒和イオン液体は、アルカリ金属、および/または、アルカリ土類金属を含有する塩と、グライム化合物、および/または、クラウンエーテルとの錯体であってもよい。
前記アルカリ金属、および/または、アルカリ土類金属を含有する塩は、ハロゲン原子を含有するスルホニルイミド塩であってもよい。
前記スルホニルイミド塩は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI)やビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン(BETI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)、フルオロスルホニルトリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン(FTA)、4,4,5,5,-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリン-1,1,3,3-テトラオキシドアニオン(CTFSI)、および、2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミドアニオン(TSAC)からなる群から少なくとも1つ選択されてもよい。
前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、および、カリウム(K)からなる群から少なくとも1つ選択され、前記アルカリ土類金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、および、バリウム(Ba)からなる群から少なくとも1つ選択されてもよい。
前記グライム化合物は、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ペンタグライム、および、ヘキサグライムからなる群から少なくとも1つ選択され、前記クラウンエーテルは、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ベンゾ-12-クラウン-4、ベンゾ-15-クラウン-5、および、ベンゾ-18-クラウン-6からなる群から少なくとも1つ選択されてもよい。
本発明のイオンゲルは、500kJ/m以上の機械的靭性、および、1.0×10-4S/m以上のイオン伝導度を有してもよい。
本発明の上記イオンゲルの製造方法は、ラジカル重合性化合物と、イオン液体と、ラジカル重合開始剤とを含有する組成物を調製することと、前記組成物を重合させることとを包含し、前記組成物において、前記ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有し、前記イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有し、前記水素結合性モノマーは、前記ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、前記イオン液体と前記ラジカル重合性化合物との合計質量に対する前記ラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たし、これにより上記課題を解決する。
本発明によるコーティング材は、上記イオンゲルと溶媒とを含有し、これにより上記課題を解決する。
前記溶媒は、水、酸、アルコール系溶媒、アルキルスルホキシド系溶媒、アルキルアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、および、これらの混合物からなる群から少なくとも1つ選択されてもよい。
本発明による負極は、負極活物質層と、前記負極活物質層上に位置する保護層とを備え、前記保護層は、上記イオンゲルを含有し、これにより上記課題を解決する。
前記負極活物質層は、負極集電体上に位置してもよい。
前記負極活物質層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有し、前記イオンゲルにおける溶媒和イオン液体は、前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属と同一のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有してもよい。
前記保護層は、0.01μm以上10μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
本発明による金属二次電池は、正極と負極と電解液とを備え、前記負極は、上記負極であり、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイオンゲルは、少なくとも水素結合性モノマーを含有するラジカル重合性化合物と、少なくとも溶媒和イオン液体を含有するイオン液体とを含有する組成物を重合させて得られる。特に、組成物において、水素結合性モノマーがモル分率で15%以上含有され、ラジカル重合性化合物の重量比が0.15以上0.55以下の範囲を満たすので、重合した高分子間に水素結合が生成し、高強度なゲルを提供できる。さらに、溶媒和イオン液体により優れたイオン伝導性を有する。このようなイオンゲルを溶媒とともに用いることによりコーティング材として機能する。このコーティング材を用いれば、イオンゲルを含有する保護膜でコーティングされた負極を提供できる。この負極を二次電池に採用することにより、充放電によるデンドライト発生による負極の体積変化を抑制し、サイクル特性を向上した二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のイオンゲルの製造方法を示すフローチャート
図2】本発明のイオンゲルからなる保護層がコートされた負極を示す模式図
図3】本発明のリチウムイオン二次電池を示す模式図
図4】例1のイオンゲルの引張試験前後の様子を示す図である。
図5】例1のイオンゲルおよび例17のイオンゲルの応力-歪み曲線を示す図
図6】例1のイオンゲルのナイキストプロットを示す図
図7】例18のハーフセルによる電気化学サイクル評価の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
【0012】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、および、メタクリレートの双方、または、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」は、アクリル、および、メタクリルの双方、または、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル、および、メタクロイルの双方、または、いずれかを表す。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のイオンゲルおよびその製造方法を詳述する。
【0014】
本発明のイオンゲルは、ラジカル重合性化合物と、イオン液体とを含有する組成物を重合させて得られるものである。詳細には、ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有し、イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有し、水素結合性モノマーは、ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、イオン液体とジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たす。本願発明者らは、上述の特定の組成を満たすことにより、強度およびイオン伝導性に優れたイオンゲルを提供できることを見出した。以下に、組成物における各成分について詳細に説明する。
【0015】
ラジカル重合性化合物は、少なくとも水素結合性モノマーを含有する。これにより、イオン液体中でのin situ重合において高分子間に水素結合が形成されるので、得られるイオンゲルの強度を向上できる。
【0016】
このような水素結合性モノマーは、ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有される。これにより、イオンゲルの強度を向上するに必要な水素結合が形成される。水素結合性モノマーの含有量の上限は、特に制限はなく、すべて(100%)であってもよい。
【0017】
水素結合性モノマーは、好ましくは、ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上70%以下の範囲を満たすように含有される。この範囲であれば、得られたイオンゲルは高い破断伸びもしくは破断強度を持つため、好ましい。水素結合性モノマーは、より好ましくは、ラジカル重合性化合物中にモル分率で20%以上55%以下の範囲を満たすように含有される。この範囲であれば、得られたイオンゲルは高い破断伸びと破断強度を両立し、高い機械的靭性を示すため、さらに好ましい。
【0018】
水素結合性モノマーは、水素結合性の水素原子を分子内に有するモノマーであり、ラジカル重合性を有する限り、特に制限はないが、好ましくは、カルボキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、水酸基含有モノマー、ウレア結合含有モノマー、および、ウレタン結合含有モノマーからなる群から少なくとも1種選択される。
【0019】
カルボキシ基含有モノマーは、(メタ)アクリル酸、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、p-カルボキシベンジルアクリル酸エステル、エチレンオキサイド変性(EO付加モル数:2~18)フタル酸アクリル酸エステル、フタル酸モノヒドロキシプロピルアクリル酸エステル、コハク酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、アクリル酸β-カルボキシエチル、アクリル酸2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチル、マレイン酸、モノエチルマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸等であってよく、これらの1以上を選択して用いてよい。
【0020】
アミド基含有モノマーは、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロール-N-プロパン(メタ)アクリルアミド、アミノメチル(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、メルカアプトメチル(メタ)アクリルアミド、メルカプトエチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等のN-アクリロイル複素環モノマー、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム等のN-ビニル基含有ラクタム系モノマー等であってよく、これらの1以上を選択して用いてよい。
【0021】
水酸基含有モノマーは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリル酸エステル等のグリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシエチルアクリルアミド等であってよく、これらの1以上を選択して用いてよい。
【0022】
ウレア結合含有モノマーは、アミノ基含有モノマーに単官能イソシアネート化合物を反応させたモノマー、イソシアネート基含有モノマーに単官能アミン化合物を反応させたモノマー等であってよい。
【0023】
ウレタン結合含有モノマーは、水酸基含有モノマーに単官能イソシアネート化合物を反応させたモノマー、イソシアネート基含有モノマーに単官能アルコール化合物を反応させたモノマー等であってよい。
【0024】
これらの中でも、水素結合性モノマーは、入手および合成の容易さの観点から、(メタ)アクリル酸、および/または、N-メチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0025】
上述の水素結合性モノマーがモル分率で100%含有されない場合には、ラジカル重合性化合物は、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、ビニルエステル、および、スチレン誘導体からなる群から少なくとも1種選択されるモノマーを含有する。スチレン誘導体は、スチレンそのものであってもよいし、α-メチルスチレンのようにメチル基等の置換基が修飾したものであってもよい。水素結合性モノマー以外のラジカル重合性化合物が含有されることにより、重合が促進し得る。
【0026】
イオン液体は、少なくとも溶媒和イオン液体を含有する。本願明細書において、「溶媒和イオン液体」とは、有機溶媒と金属塩の等モル混合物である。
【0027】
有機溶媒は、金属塩と溶媒和する限り特に制限はないが、好ましくは、エーテル系溶媒を採用できる。エーテル系溶媒の中でもグライム化合物、および/または、クラウンエーテルが好ましい。これらは、いわゆるイオン液体と類似の性質を示し、後述する金属塩と溶媒和イオン液体を構成できる。
【0028】
グライム化合物は、R-O(CHCHO)-R(RおよびRは、それぞれ、炭素数1以上4以下のアルキル基であり、同一でも異なっていてもよい。nは2以上6以下の整数である。)で表される。中でも、nが2であるジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム、G2)、nが3であるトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム、G3)、nが4であるテトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム、G4)、nが5であるペンタエチレングリコールジメチルエーテル(ペンタグライム、G5)、および、nが6であるヘキサエチレングリコールジメチルエーテル(ヘキサグライム、G6)からなる群から少なくとも1種選択される。なお、G2~G6は、いずれも、RおよびRはCHである。
【0029】
クラウンエーテルは、(-CHCHO-)(nは整数)で表される大環状エーテルとして知られており、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ベンゾ-12-クラウン-4、ベンゾ-15-クラウン-5、ベンゾ-18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジベンゾ-24-クラウン-8、ジベンゾ-30-クラウン-10、トリベンゾ-18-クラウン-6、asym-ジベンゾ-22-クラウン-6、ジベンゾ-14-クラウン-4、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、シクロヘキシル-12-クラウン-4、1,2-デカリル-15-クラウン-5、1,2-ナフト-15-クラウン-5、3,4,5-ナフチル-16-クラウン-5、1,2-メチルベンゾ-18-クラウン-6、1,2-tert-ブチル-18-クラウン-6、1,2-ビニルベンゾ-15-クラウン-5等であってよい。中でも、入手の容易さや取り扱いの簡便さから、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ベンゾ-12-クラウン-4、ベンゾ-15-クラウン-5、および、ベンゾ-18-クラウン-6からなる群から少なくとも1つ選択されるとよい。
【0030】
金属塩の金属の種類に特に制限はないが、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等に代表されるアルカリ金属、および/または、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属を含有する塩であれば、本発明のイオンゲルを電池に使用することができる。中でも、アルカリ金属は、Li、Na、および、Kからなる群から少なくとも1つ選択され、アルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr、および、Baからなる群から少なくとも1つ選択されてよい。
【0031】
アルカリ金属、および/または、アルカリ土類金属を含有する塩は、好ましくは、ハロゲン原子を含有するスルホニルイミド塩である。ハロゲン原子としては、フッ素、または、臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0032】
ハロゲン原子を含有するスルホニルイミド塩は、イミド構造を含むアニオンであってよい。このようなアニオンには、例えば、窒素にカルボニル基が2つ結合したイミドアニオン、窒素に2つのカルボニル基が結合したスルホニルイミドアニオン、窒素に1つのスルホニル基と1つのカルボニル基が結合したスルホニルカルボニルイミドアニオンがある。中でも、R-SO-N-SO-R(RおよびRは、それぞれ、同一でも異なっていてもよい、ハロゲン化アルキル基またはハロゲン原子であり、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい)で表されるものが好ましい。
【0033】
上記一般式の具体例として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン(BETI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)、フルオロスルホニルトリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン(FTA)、4,4,5,5,-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリン-1,1,3,3-テトラオキシドアニオン(CTFSI)、および、2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミドアニオン(TSAC)からなる群から少なくとも1つ選択される。これらは、グライム化合物、および、クラウンエーテルに対する溶解性の観点から好ましい。特に、金属カチオンが上述のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の場合には、電池の電解質のイオン源として使用されており、入手が容易である。
【0034】
溶媒和イオン液体は、好ましくは、アルカリ金属、および/または、アルカリ土類金属を含有する塩と、グライム化合物、および/または、クラウンエーテルとの錯体である。これらの組み合わせであれば、溶媒和イオン液体となり、イオン伝導性を向上できる。
【0035】
なお、イオン液体は、溶媒和イオン液体単体からなってもよいが、溶媒和イオン液体以外に、アニオンとカチオンとからなるイオン性化合物である公知のイオン液体を含有してもよい。なお、イオン伝導性の観点から、イオン液体中の溶媒和イオン液体の含有量は、70質量%以上であればよい。
【0036】
このようなイオン液体のカチオンは、
1,3-ジメチルイミダゾリウム、1,3-ジエチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウム、1-アリール-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-2、3-ジエチルイミダゾリウム、3,3’-(ブタン-1,4-ジル)ビス(1ビニル-3-イミダゾリウム)、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム等のイミダゾリウムカチオン、
1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、1,3,4-トリメチル-2-エチルイミダゾリニウム、1,3-ジメチルイミダゾリニウム等のイミダゾリニウムカチオン、
N-ブチルピリジニウム、N-ブチル-4-メチルピリジニウム、N-tert-ブチル-4-メチルピリジニウム、N-ブチル-4-エチルピリジニウム等のピリジニウムカチオン、
N,N-ブチルメチルピロリジニウム、N,N-ブチルエチルピロリジニウム等のピロリジニウムカチオン、
N,N-エチルメチルピペリジニウム、N,N-ブチルメチルピペリジニウム等のピペリジニウムカチオン、
ブチルトリメチルアンモニウム、ジヘキシルジメチルアンモニウム、ジメチルエチルヘキシルアンモニウム、ブチルジメチルヘキシルアンモニウム、シクロヘキシルトリメチルアンモニウム、エチルジメチルフェニルエチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、等のアンモニウムカチオン、
テトラブチルホスホニウム、トリブチル(2-メトキシエチル)ホスホニウム、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム、トリブチルスルホニウム等のホスホニウムカチオンであってよい。
【0037】
このようなイオン液体のアニオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、AlCl 、乳酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、BF 、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン、過塩素酸イオン、ジシアンアミドイオン、有機硫酸イオン、有機スルホン酸イオン、RCOO、HOOCRCOO、NHCHRCOO(この際、Rは置換基であり、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、エーテル基、エステル基、またはアシル基である。また、置換基はフッ素原子を含んでもよい。)であってよい。
【0038】
なお、本発明の組成物において、上述したイオン液体とラジカル重合性化合物とは、イオン液体とラジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下を満たすように含有されている。この範囲を外れると、重合して得られるイオンゲルの粘度が小さく加工性に乏しかったり、粘度が高すぎてゲルとならなかったりする。イオン液体とラジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比は、好ましくは、0.15以上0.50以下を満たす。これにより、強度およびイオン伝導性に優れたイオンゲルを提供できる。イオン液体とラジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比は、さらに好ましくは、0.15以上0.45以下を満たす。これにより、強度およびイオン伝導性にさらに優れたイオンゲルを提供できる。
【0039】
本発明のイオンゲルは、上述してきた組成物を重合して得られるため、重合に使用したラジカル重合開始剤を含有してもよい。含有されるラジカル重合開始剤は、イオンゲル全体の質量に対して0.0001質量%以上3質量%以下であってよい。
【0040】
本発明のイオンゲルは、優れた強度およびイオン伝導度を有するが、詳細には、上述の成分および組成を満たすことにより、500kJ/m以上の機械的靭性、および、1.0×10-4S/m以上のイオン伝導度を有する。上限は特に制限はないが、イオンゲルの機械的強度およびイオン伝導度は、それぞれ、500kJ/m以上50000kJ/m以下、および、1.0×10-4S/m以上1.0×10-1S/m以下であってよい。特に、優れたイオン伝導度を有するイオンゲルを二次電池の電解質に用いてもよい。
【0041】
次に、上述した本発明のイオンゲルの製造方法を説明する。
図1は、本発明のイオンゲルの製造方法を示すフローチャートである。
【0042】
本発明のイオンゲルは、以下のステップS110およびステップS120によって得られる。
ステップS110:ラジカル重合性化合物と、イオン液体と、ラジカル重合開始剤とを含有する組成物を調製する。
ステップS120:ステップS110で調製した組成物を重合させる。
【0043】
ステップS110において、ラジカル重合性化合物は少なくとも水素結合性モノマーを含有し、イオン液体は少なくとも溶媒和イオン液体を含有する。また、水素結合性モノマーは、ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、イオン液体とラジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たすように含有される。なお、ラジカル重合性化合物およびイオン液体は、上述したとおりであるため説明を省略する。
【0044】
ステップS110において、ラジカル重合開始剤は、熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤等であってよい。
【0045】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンパーヒドロキシド、アセチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0046】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0047】
ラジカル重合開始剤の含有量は、特に制限はないが、例示的には、組成物中のラジカル重合性化合物とイオン液体との含有量の合計を100質量部とした場合、0.001質量部以上3質量部以下の範囲である。この範囲であれば、得られるイオンゲルの特性を損なうことなく、重合できる。なお、ラジカル重合開始剤は、1種であってもよいし、2種以上を使用してもよいが、2種以上を使用する場合、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0048】
ステップS110における調製は、組成物の上記成分を混合すればよく、混合の方法、順番に特に制限はないが、例えば、ラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤とを混合し、次いで、イオン液体を混合する方法等が挙げられる。
【0049】
ステップS120における重合は、ラジカル重合開始剤の種類によって異なる。例えば、組成物が熱ラジカル重合開始剤を含有する場合には、不活性ガス雰囲気下で、20℃以上130℃以下の温度範囲で、1時間以上72時間以下の時間加熱すればよい。例えば、組成物が光ラジカル重合開始剤を含有する場合には、深紫外線~紫外線(波長:280nm以上405nm以下)を、照射すればよい。
【0050】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明のイオンゲルを用いたコーティング材および負極について説明する。
【0051】
本発明によるコーティング材は、実施の形態1で説明したイオンゲルと、溶媒とを含有する。本発明によるコーティング材は上述したイオンゲルを含有するため、優れた強度により物体の表面を保護する保護膜を形成できる。特に、イオンゲルはイオン伝導性を有するため、本発明によるコーティング材を、例えば、二次電池の負極表面に適用すれば、負極の強度を増大できる。
【0052】
溶媒は、イオンゲルと相溶性が高いことが好ましく、例示的には、非プロトン性極性溶媒であってよい。このような溶媒は、好ましくは、水、酸、アルコール系溶媒、アルキルスルホキシド系溶媒、アルキルアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、および、これらの混合物からなる群から少なくとも1つ選択されてよい。これらは、非プロトン性極性溶媒であり、イオンゲルと相溶性が高い。
【0053】
酸は、例えば、酢酸、ギ酸、フッ酸等である。アルコール系溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等である。アルキルスルホキシド系溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等である。アルキルアミド系溶媒は、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド等である。ピロリドン系溶媒としては、例えば、2-ピロリドン、3-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等である。エーテル系溶媒は、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等である。ケトン系溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等である。
【0054】
コーティング材における溶媒の含有量としては特に制限されず、付与方法に応じて設定すればよい。例えば、溶媒の含有量は、一般にコーティング材の全質量に対して、10質量%以上90質量%以下を適用できる。なお、コーティング材は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。コーティング材が、2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0055】
本発明のコーティング材は、上記の各成分を含有していれば、本発明の効果を奏する範囲内で他の成分を含有していてもよい。このような成分としては例えば、充填材、顔料、沈降防止剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、分散剤、防腐剤等が挙げられる。
【0056】
なお、本発明のコーティング材の製造方法は、実施の形態1で説明したイオンゲルと溶媒とを混合すればよい。
【0057】
次に、本発明のコーティング材で表面が保護された負極について説明する。
図2は、本発明のイオンゲルからなる保護層がコートされた負極を示す模式図である。
【0058】
負極200は、二次電池の負極であり、負極活物質層210と、負極活物質層上に位置する保護層220とを備える。保護層220は、本発明によるコーティング材によって形成され、本発明のイオンゲルを含有する。イオンゲルおよびコーティング材は、上述したとおりであるため、説明を省略する。
【0059】
負極活物質層210は、二次電池の種類によって異なるが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属、あるいは、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属を含有してよい。
【0060】
負極活物質層210は、アルカリ金属単体またはその合金、アルカリ土類金属単体またはその合金を使用することができる。また、これらに加えて、13族および14族の金属・半金属元素を含んでもよく、中でも、アルミニウム、ケイ素、および、スズからなる群から選択される元素が好ましい。負極活物質層210は、上記金属または合金からなる薄膜であってよい。
【0061】
負極活物質層210は、負極集電体(図示せず)上に位置してよい。負極集電体としては、周知のものを使用できるが、例示的には、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属またはその合金、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料がある。なお、負極活物質層210が取り扱いに有利な自立膜であれば、負極集電体を省略してもよい。
【0062】
保護層220は、上述したように本発明のイオンゲルを含有する。イオンゲルは強度に優れるため、電池の充放電によって発生するデンドライトによる体積変化を抑制し、負極200全体が破損することを防ぎ、サイクル特性に優れた電池を提供できる。
【0063】
保護層220を構成するイオンゲルが含有する溶媒和イオン液体の金属の種類は、好ましくは、負極活物質層210が含有する金属の種類と一致する。すなわち、負極活物質層210がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有し、溶媒和イオン液体は、同一のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有する。これにより、イオンゲルの優れたイオン伝導性により、電池特性を損なうことはない。
【0064】
保護層220は、好ましくは、0.01μm以上10μm以下の範囲の厚さを有する。この範囲であれば、負極200の強度の維持、ならびに、電池特性に有利である。保護層220は、より好ましくは、0.1μm以上1μm以下の範囲の厚さを有する。
【0065】
図2では、保護層220は負極活物質層210の一方の面にのみ設けられているが、対向する面にも保護層を有していてもよい。
【0066】
なお、このような負極200の製造方法は特に制限はないが、負極集電体(図示せず)上に負極活物質層210を物理的気相成長法、化学的気相成長法等により形成し、その上に、本発明のコーティング材を付与し、乾燥すればよい。
【0067】
コーティング材の付与としては公知の方法が使用される。例えば、ディップコート、スピンコート、バーコート、スクリーン印刷等の印刷、刷毛塗りコート、スプレーコート、ミストコート、フローコート、カーテンコート、ロールコート等であってよい。
【0068】
乾燥は、コーティング材中の溶媒を除去できれば特に制限はなく、自然乾燥などの風乾であってもよいし、加熱してもよい。なお、上述の負極200の製造方法は、負極に代えて所望の物品を用いれば、本発明のコーティング材を用いて物品の表面に保護層を形成する方法として適用され得る。
【0069】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態2で説明した本発明のイオンゲルを用いた負極を備えた二次電池について説明する。
【0070】
図3は、本発明のリチウムイオン二次電池を示す模式図である。
【0071】
本発明の二次電池300は、負極200、正極310、および、これらに挟まれた電解質320を備える。ここで、負極200は、図2を参照して説明した本発明の二次電池用負極200であり、負極活物質層210がリチウム金属またはリチウム金属合金からなる膜であり、保護層220が、リチウムを含有する溶媒和イオンを含有するイオンゲルであるものとし、重複する説明を省略する。
【0072】
正極310は、集電体330とその上に位置する正極活物質層340とをさらに備える。集電体330は、電流を供給可能なものであれば特に制限はないが、例示的には、ステンレス鋼、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、チタン、カーボンシート、酸化インジウムスズ(ITO)基板、酸化スズアンチモン(ATO)基板などを用いることができる。
【0073】
正極活物質層340は、リチウムイオン二次電池において通常用いられる活物質を使用でき、例示的には、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムの三元系材料(NCM)、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウムの三元系材料(NCA)、マンガン酸リチウム(LMO)、リン酸鉄リチウム(LFP)、ケイ酸鉄リチウム(LFS)を使用することができる。具体的には、LiNi(CoAl)O、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiMnO-LiMO(M=Co、Ni、Mn)、Li1+xMn2-x、Li(MnAl)、LiMn1.5Ni0.5、LiMnPO、LiFePO、LiCoPO、LiFePOF、LiFeSiO等が挙げられる。
【0074】
正極活物質層340は、必要に応じて、導電性材料、結着剤(バインダ)、増粘剤、分散媒を含んでもよい。導電性材料には、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、メソポーラスカーボン等を使用できる。バインダは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用できる。
【0075】
なお、正極310は、正極活物質層340と、必要に応じて導電性材料、バインダ、増粘剤、分散媒とを混合し、集電体330上に塗布し、乾燥することによって得られる。
【0076】
電解質320は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば、特に制限はないが、好ましくは、溶媒、および、これに溶解するリチウム塩を含有する電解質溶液である。
【0077】
溶媒は、リチウムイオン導電性の通常用いられる溶媒を用いることができる。例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、などの環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などの鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)、α-メチル-γ-ブチロラクトンなどの環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、プロピオン酸イソブチルなどの鎖状カルボン酸エステル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、イオン液体、水、これらの中から二種類以上を混合した溶媒を採用できる。
【0078】
リチウム塩は、リチウムイオン二次電池に通常用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)[(CFSONLi]、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムハロゲン化物を採用できる。
【0079】
図3には示さないが、負極200と正極310との間にセパレータを設けてもよい。セパレータは、多孔質膜は、織布または不織布であるが、例示的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、および、アラミド樹脂からなる群から少なくとも1種選択される樹脂製、あるいは、ガラス繊維製である。
【0080】
図3では、リチウム二次電池を説明してきたが、正極310として空気極を用い、リチウム空気二次電池を提供することもできる。この場合、正極活物質層340として、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、メソポーラスカーボン等の多孔質炭素材料を用いればよい。ここでも、多孔質炭素材料とともに、導電性材料、結着剤、増粘剤が添加されてもよい。多孔質炭素材料が自立可能であれば、集電体330を省略することができる。
【0081】
ポリエチレン、ポリカーボネート等のポリマー膜、あるいは、アルミニウム、ニッケル等の金属膜からなる外装体に、図3に示す積層体を1以上封入し、コイン型、円筒型、角型、シート型などの形状を有する二次電池を提供できる。このような二次電池は、電子機器、自動車等の各種バッテリに利用され得る。
【0082】
本発明の二次電池はリチウム二次電池に限らず、他の金属電池に改変してもよい。この場合、本発明のイオンゲルに含有される金属と、他の金属電池の金属とが同一であることが好ましい。
【0083】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0084】
[ラジカル重合性化合物]
ラジカル重合性化合物として、以下の7種類を用意した。
・メタクリル酸メチル(東京化成工業株式会社製、M0087、MMA)
・メタクリル酸エチル(東京化成工業株式会社製、M0084、EMA)
・N-メチルメタクリルアミド(東京化成工業株式会社製、M0080、MMAm)
・N-メチルアクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、241903、MAm)
・メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、138-10805、MAAc)
・アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、011-00776、AAc)
・エチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業株式会社製、E0102、EGDMA)
これらの構造式を示す。なお、これらのうちN-メチルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、メタクリル酸、および、アクリル酸は、水素結合性モノマーである。
【0085】
【化1】
【0086】
[溶媒和イオン液体]
溶媒和イオン液体として、以下3種類を用意した。
・[Li(G4)][FSI];ジエチレングリコールジメチルエーテル(G2)とリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)との等モル混合物
・[Li(G4)][TFSI];テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)とリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)との等モル混合物
・[Na(G2)][FSI];ジエチレングリコールジメチルエーテル(G2)とナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)との等モル混合物
これらの構造式を示す。
【0087】
【化2】
【0088】
<[Li(G4)][FSI]の合成>
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(キシダ化学株式会社製、LBG-45281、LiFSI)と、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Merk製、172405-250G、G4)とを、グローブボックス内([O]<1ppm,[HO]<10ppm)にて等モル量でバイアル瓶に秤量し、室温にて一晩攪拌し、溶媒和イオン液体[Li(G4)][FSI]を得た。
【0089】
<[Li(G4)][TFSI]の合成>
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学株式会社製、LBG-43513、LiTFSI)と、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Merk製、172405-250G、G4)とを、グローブボックス内([O]<1ppm,[HO]<10ppm)にて等モル量でバイアル瓶に秤量し、室温にて一晩攪拌し、溶媒和イオン液体[Li(G4)][TFSI]を得た。
【0090】
<[Na(G2)][FSI]の合成>
ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(キシダ化学株式会社製、MBG-75672、NaFSI)と、ジエチレングリコールジメチルエーテル(Merk製、281662-100ML、G2)とを、グローブボックス内([O]<1ppm,[HO]<10ppm)にて等モル量でバイアル瓶に秤量し、室温にて一晩攪拌し、溶媒和イオン液体[Na(G2)][FSI]を得た。
【0091】
[例1~例17]
例1~例17は、表1~表3に基づいて、種々のラジカル重合性化合物と溶媒和イオン液体とを含有する組成物を重合させたイオンゲルを合成した。
【0092】
例1のイオンゲルの合成方法を説明する。まず、溶媒和イオン液体[Li(G4)][FSI]1.4gと、メタクリル酸メチル(MMA)0.4g、N-メチルメタクリルアミド(MMAm)0.107gおよびメタクリル酸(MAAc)0.092gと、ラジカル重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(東京化成工業株式会社製、H0991)2μLとをバイアル内で混合し、組成物を調製した(図1のステップS110)。バイアル瓶をシリコーン製ダブルキャップで密閉し、シリンジ針を用いてアルゴンで15分間バブリングした。このようにして得られた組成物を重合させた(図1のステップS120)。詳細には、グローブボックス内にて1mmのシリコンスペーサーをポリエステルフィルムで挟んだモールドに重合溶液(組成物)を注入し、ハンディーUVライト(AS ONE製)によって365nmのUV光を60分照射し、光重合させた。このようにして溶媒和イオン液体と水素結合性高分子とを含有するシート状のイオンゲルを得た。水素結合性高分子が合成されたことを、ゲル浸透クロマトグラフィー、核磁気共鳴分析により確認し、高分子濃度はモノマーの仕込み組成と同様であった。例2~例17のイオンゲルも、表1~表3にしたがって、例1と同様の手順にて合成した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
このようにして得られた例1~例17のイオンゲルについて、引張試験による力学的強度を評価し、インピーダンス測定によりイオン伝導度を算出した。なお、例13および例15のイオンゲルは、非常に弱く、成型が困難なため、引張試験を行わなかった。また、例14のイオンゲルは、極めて硬く、インピーダンス測定ができなかった。
【0097】
シート状のイオンゲルを引張7号型ダンベル状(JIS K 6251準拠)の打ち抜き刃にて打ち抜き、引張試験機(島津製作所株式会社製、AGS-X)を用いて、25℃の温度下で、10cm/minの引張速度にて引張試験を行った。ゲルが破断に至るまでの応力-歪み曲線の面積から破壊強度を計算した。結果を図4図5、および、表1~表3に示す。
【0098】
シート状のイオンゲルを直径16mmの打ち抜きポンチで打ち抜き、直径15.5mm、厚み0.5mmのSUS316Lスペーサーで挟み、電池評価用2極セル(SB2A,イーシーフロンティア)にセットした。Biologic社製ポテンショスタット/ガルバノスタットVMP3を用いて交流インピーダンス測定を室温(25℃)にて行った。ナイキストプロットにおけるインピーダンス曲線の実軸との交点の抵抗値からゲルのイオン伝導度を算出した。結果を図6および表1~表3に示す。
【0099】
これらの結果をまとめて説明する。
図4は、例1のイオンゲルの引張試験前後の様子を示す図である。
図5は、例1のイオンゲルおよび例17のイオンゲルの応力-歪み曲線を示す図である。
【0100】
図4(A)および(B)は、それぞれ、例1のイオンゲルの引張試験前、および、後の様子を示す。図4によれば、例1のイオンゲルは、引張試験によって破断することなく、驚くべき伸びを示した。図示しないが、例2~例12のイオンゲルも同様の様態であった。
【0101】
図5に示すように、例1のイオンゲルの破断伸びおよび破断応力は、それぞれ、1100%、および、5MPaとなり、応力―歪み曲線の面積から計算される機械的靭性は23000kJ/mと非常に高い値を示した。一方、例17のイオンゲルの破断伸びおよび破断応力は、それぞれ、50%および0.15MPa、機械的靭性は48kJ/mであった。図示しないが、例2~例12のイオンゲルの機械的靭性は500kJ/m以上であった。機械的靭性が500kJ/m以上であれば、強度を要する材料の保護に有効である。
【0102】
表1~表3には、機械的靭性が1000kJ/m以上であるものを「◎」、500kJ/m以上1000kJ/m未満であるものを「○」、500kJ/m未満であるものを「×」とした。表1~表3によれば、例1~例12のイオンゲルは、機械的靭性が500kJ/mを超え、力学強度に優れることが分かった。
【0103】
図6は、例1のイオンゲルのナイキストプロットを示す図である。
【0104】
図6のナイキストプロットから算出された例1のイオンゲルのイオン伝導度は、4.2×10-3S/mであった。
【0105】
表1~表3には、ナイキストプロットから算出されたイオン伝導度が1.0×10-3S/m以上のものを「◎」、1.0×10-4S/m以上1.0×10-3S/m未満のものを「○」、1.0×10-4S/m未満のものを「×」とした。表3によれば、例1~例12のイオンゲルは、1.0×10-4S/m以上の優れたイオン伝導度を有することが分かった。イオン伝導度が1.0×10-4S/m以上であれば伝導性が要求される用途に適用できる。
【0106】
これらから、少なくとも水素結合性モノマーを含有するラジカル重合性化合物と、少なくとも溶媒和イオン液体を含有するイオン液体とを含有する組成物を重合させて得られるイオンゲルにおいて、水素結合性モノマーが、ラジカル重合性化合物中にモル分率で15%以上含有され、イオン液体とラジカル重合性化合物との合計質量に対するラジカル重合性化合物の質量の比が、0.15以上0.55以下の範囲を満たすと、力学強度およびイオン伝導度に優れたイオンゲルが得られることが示された。
【0107】
[例18]
例18では、例1のイオンゲルを用いたコーティング材を調製し、それを塗布した金属負極を用いたハーフセルを構成し、電池特性評価を行った。
【0108】
例1のイオンゲルをグローブボックス内でジメチルスルホキシド(超脱水)に15wt%の重量分率で溶解させ、コーティング材を調製した。得られた溶液(コーティング材)を、スピンコーターを用いてリチウム金属負極にスピンコートし、室温で一晩真空乾燥させた。このようにして、リチウム金属負極の表面をイオンゲルからなる保護層でコートした。保護層の厚さは、0.3μmであった。
【0109】
イオンゲル保護層をコートしたリチウム金属負極を直径15mmで2枚打ち抜き、対称コインセルでの電気化学サイクル評価を行った。電解液には、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)とG4との等モル混合溶液を用いた。評価条件は、印加電流密度0.5mA/cm、電流印加時間1時間(析出、溶解ともに)であった。なお、比較対象として、イオンゲル保護層をコートしていないリチウム金属負極を用いて、上記と同じ条件で電気化学サイクル評価を行った。結果を図7に示す。
【0110】
図7は、例18のハーフセルによる電気化学サイクル評価の結果を示す図である。
【0111】
図7(A)は、例1のイオンゲル保護層をコートしたリチウム金属負極を用いたハーフセルによる結果であり、図7(B)は、イオンゲル保護層をコートしていないリチウム金属負極を用いたハーフセルによる結果である。
【0112】
図7によれば、例1のイオンゲル保護層をコートしたリチウム金属負極を用いることにより、サイクル特性が劇的に改善した。なお、電気化学サイクル評価後の負極を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、イオンゲル保護層を有する負極では、一部にデンドライトの発生は確認されたが、保護層によって体積変化が抑制され、負極の破壊はなかった。一方、保護層を有しない負極はデンドライトが樹状に発生し、破壊していた。このことから、本発明の強度およびイオン伝導性に優れるイオンゲルは、電池の負極の保護層として有効であり、サイクル特性に優れた二次電池を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のイオンゲルは、強度およびイオン伝導性に優れる。このようなイオンゲルをコーティング材として使用することにより、イオンゲルを含有する保護膜を備えた負極を提供できる。このような負極は、強度に優れ、イオン伝導性に優れるため、充放電によるデンドライト発生による負極の体積変化を抑制し、サイクル特性を向上した二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0114】
200 負極
210 負極活物質層
220 保護層
300 二次電池
310 正極
320 電解質
330 集電体
340 正極活物質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7