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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040532
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】医療器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/158 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
A61M5/158 500Z
A61M5/158 500F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018253
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有馬 大貴
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE14
4C066FF04
4C066FF10
4C066KK04
4C066KK19
(57)【要約】
【課題】プライミング後であって薬剤の投与時以外に注入針の先端側から抗がん剤等の薬剤が零れることを防止することができる医療器具および医療器具セットを提供する。
【解決手段】医療器具100は、薬剤を流通可能な内部空間144を設け、かつ内部空間に流通する薬剤を流出可能な流出部143を備える注入針140と、注入針の先端部を収容可能な内部空間152を設けた外筒150と、を有し、注入針および外筒の少なくとも一方には、流出部を外筒の内部空間に配置した状態において内部空間の長手方向における先端側を外部と隔離する隔離部が設けられる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を流通可能な第1内部空間を設け、かつ前記第1内部空間に流通する前記薬剤を流出可能な流出部を備える注入針と、
前記注入針の先端部を収容可能な第2内部空間を設けた外筒と、を有し、
前記注入針および前記外筒は長尺状に構成され、
前記注入針および前記外筒の少なくとも一方には、前記流出部を前記第2内部空間に配置した状態において前記第2内部空間の長手方向における先端側を外部と隔離する隔離部が設けられる医療器具。
【請求項2】
前記注入針は、外表面に前記流出部を設けた第1部位と、長手方向において前記第1部位よりも先端側に設けられ長手方向に交差する寸法が前記第1部位よりも大きく、かつ少なくとも一部を前記第2内部空間に配置した状態において外筒の内壁面との距離が前記薬剤を流通しない程度に構成される第2部位と、を備え、
前記隔離部は、前記第2部位の基端部を前記第2内部空間に配置することによって構成される請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記注入針と前記外筒とは、前記外筒に対する前記注入針の長手方向における相対的な位置を調節可能な調節機構を備える請求項1または2に記載の医療器具。
【請求項4】
前記外筒は、前記流出部から流出する前記薬剤の前記第2内部空間における基端側からの漏出を防止するシール部を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の医療器具。
【請求項5】
前記外筒は、前記流出部から前記第2内部空間に流出する前記薬剤を吸引可能な器具との接続が可能な第1接続部を備える請求項1~4のいずれか1項に記載の医療器具。
【請求項6】
前記外筒は、長手方向における先端部に設けられ、前記第2内部空間から外部に露出した前記注入針に接触可能であって弾性変形可能な弾性部材を備える請求項1~5のいずれか1項に記載の医療器具。
【請求項7】
前記注入針は、前記注入針の前記第1内部空間の圧力を調整する器具との接続が可能な第2接続部を備える請求項1~6のいずれか1項に記載の医療器具。
【請求項8】
前記注入針は、先端部が前記外筒の先端側から露出した状態において湾曲変形可能である請求項1~7のいずれか1項に記載の医療器具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の医療器具を用いた前記薬剤の投与方法であって、
前記注入針の前記第1内部空間に前記薬剤を流通させた後に前記注入針の先端部を前記外筒の前記第2内部空間に収容し、
前記外筒の先端部を患者の所定部位に進入させた状態において前記外筒の先端側から前記注入針の先端部を露出させて前記薬剤を患者の体内に投与する投与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓に形成された腫瘍を処置する場合、局所的に治療を施してがん細胞を壊死させる経皮的エタノール注入療法(例えば、特許文献1を参照)を行う場合がある。術者は、腹部や胸部を切開し、肝臓に針カニューレを穿刺して、針先を肝臓がんの患部へ到達させる。そして、針先からエタノールを注入することによって、がん細胞を壊死させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4588977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した針カニューレ等による治療では投与される薬剤に抗がん剤等の比較的人体に副作用等を及ぼす可能性があるものが使用され得る。そのような薬剤は手術中等に医療デバイスの針先から零れて暴露されると医療従事者や患者等に影響を及ぼす可能性がある。本発明者は、薬剤の針先からの零れの中でも、薬剤を患者に注入する注入針の内部空間に薬剤を充填する、いわゆるプライミングの後であって薬剤の投与時以外に薬剤が注入針の先端側から零れることを防止する事項について鋭意検討している。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、プライミング後であって薬剤の投与時以外に注入針の先端側から抗がん剤等の薬剤が零れることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の一態様に係る医療器具は、注入針と、外筒と、を有する。注入針は、薬剤を流通可能な第1内部空間を設け、かつ第1内部空間に流通する薬剤を流出可能な流出部を備えるように構成している。外筒は、注入針の先端部を収納可能な第2内部空間を設けるように構成している。注入針と外筒は長尺状に構成している。注入針および外筒の少なくとも一方には、流出部を第2内部空間に配置した状態において流出部の長手方向における先端側を外部と隔離する隔離部が設けられる。
【発明の効果】
【0007】
上記医療器具によれば、プライミング後であって薬剤の投与時以外に注入針の先端側から抗がん剤等の薬剤が零れることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る医療器具を示す概略斜視図である。
図2図1の医療器具を示す側面図である。
図3図1の医療器具を示す平面図である。
図4図1の医療器具を構成する外筒の中心軸を通る断面図であって、外筒の内部空間に注入針の先端部を配置した状態を示す図である。
図5図4の断面図において注入針の先端部を示す図である。
図6図5の断面図において注入針の先端部を外筒の内部空間から先端側の外部に配置した状態を示す図である。
図7図5の断面図において注入針の先端部を外筒のキャップ部材と接触させた状態を示す図である。
図8】第1実施形態の変形例1であって、図6に対応する注入針の先端部を示す図である。
図9】第1実施形態の変形例2であって、図6に対応する注入針の先端部を示す図である。
図10】注入針が第2接続部を備える第1実施形態の変形例3に係る医療器具を示す側面図である。
図11】第2実施形態に係る医療器具であって、外筒に対する注入針の位置を調節する、第1実施形態と異なる調節機構を示す外筒の断面を示す図である。
図12図5の変形例であって医療器具を構成する外筒の内部空間に注入針の先端部を配置した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0010】
さらに、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0011】
また、以下の説明において、「第1」、「第2」のような序数詞を付して説明するが、特に言及しない限り、便宜上用いるものであって何らかの順序を規定するものではない。
【0012】
(第1実施形態)
以下、図1図7を参照して第1実施形態に係る医療器具100について説明する。図1図3は第1実施形態に係る医療器具100を示す概略斜視図、側面図、平面図である。図4は、図1の医療器具100を構成する外筒150の中心軸を通る断面図であって、外筒150の内部空間152に注入針140の先端部を配置した状態を示す図である。
【0013】
図5図4の断面図において注入針140の先端部を示す図である。図6は、図5の断面図において注入針140の先端部を外筒150の内部空間152から先端側の外部に配置した状態を示す図である。図7図5の断面図において外筒150を構成するキャップ部材156に注入針140の先端部を接触させた状態を示す図である。
【0014】
なお、図面では座標系を表記する。Xは注入針140等の長手方向を示し、長手方向Xと称する。YZは長手方向Xに交差(直交)する面であり、YZ面と称する。rは、注入針140の中心からYZ面において径方向に向かい、径方向rと称する。θは注入針140や外筒150の長手方向Xと交差するYZ面において周方向(角度方向)に沿い、周方向θと称する。
【0015】
本実施形態に係る医療器具100は、抗がん剤等の薬剤を患者に投与する際に利用することができる。
【0016】
本実施形態に係る医療器具100は、図1図4等を参照して概説すれば、筒部110と、押圧部材120と、シール部材130と、注入針140と、外筒150と、を有する。以下、各構成について詳述する。
【0017】
(筒部)
筒部110は、抗がん剤等の薬剤を収容する半閉空間を設けている。筒部110は、円筒等の筒形状に構成しており、筒形状の軸方向における両端に開口部を設けている。一方の開口部(基端側開口部とも呼ぶ)には押圧部材120を移動可能に配置することができる。他方の開口部(先端側開口部とも呼ぶ)には、注入針140を取り付けることができる。また、筒部110の先端側開口部には、注入針140等を取り付け可能な中空のチューブ部材を取り付けるように構成してもよい。
【0018】
(押圧部材)
押圧部材120は、先端側を筒部110の半閉空間に収容し、基端側を筒部110の外部に配置するように構成している。押圧部材120は、筒部110の軸方向(長手方向X)において筒部110に対して相対的に移動することによって薬剤が収容される半閉空間の大きさを変えるように構成している。押圧部材120によって半閉空間の大きさが減少することによって、半閉空間に収容されていた薬剤は減少した分、注入針140の内部空間144に流通し、患者に投与され得る。
【0019】
(シール部材)
シール部材130は、押圧部材120の軸方向(長手方向X)における先端部に取り付けるように構成している。シール部材130は、筒部110の内壁と摺動可能に篏合することによって筒部110の半閉空間に収容された薬剤が注入針140の内部空間144以外に流通することを防止する。
【0020】
(注入針)
注入針140は、筒部110の先端側における開口部に取り付けられる。注入針140は、内部に薬剤を流通できるように中空かつ長尺状に構成している。注入針140は、筒部110の先端部に直接あるいはチューブ部材等を介して取り付けられる。注入針140の先端部は、外力を付与しない状態において直線状に構成している。
【0021】
注入針140は、図4等に示すように第1部位141と、第2部位142と、流出部143と、内部空間144(第1内部空間に相当)と、内方係合部145と、を備える。
【0022】
注入針140は、患者の生体管腔に挿入できるように長尺状に構成している。注入針140は、先端部を患者の体内に配置した状態において薬剤を流出できるように中空に構成している。注入針140は、本実施形態において長手方向Xに交差する断面が略円形の円筒形状を備えるように構成している。ただし、先端部を患者の体内に配置した状態において薬剤を患者の生体における意図した部位に投与できれば、注入針の形状は円筒以外にも多角柱によって構成してもよい。
【0023】
第1部位141は、内部空間144と、流出部143を設けるように構成している。流出部143は、図5に示すように第2部位142の長手方向Xにおける先端ではなく、第1部位141における先端側の外表面(側面)に設けるように構成している。流出部143は、内部空間144に流通する薬剤をおよそ径方向rに沿って流出可能に構成している。
【0024】
流出部143は、本実施形態において略円筒形状の側面に1以上の略円形の穴部を設けるように構成している。流出部143を構成する穴部は、本実施形態において長手方向Xに一定の間隔をおいて複数配置し、周方向θにおいて所定角度、間隔を空けた状態で配置するように構成している。
【0025】
ただし、注入針140の先端部を患者の体内に配置した状態において流出部から薬剤を患者の意図する部位に投与できれば流出部の具体的な形状、数、配置態様などは上記に限定されない。
【0026】
内部空間144は、第1部位141において基端側から先端側に薬剤を流通するように設けている。内部空間144は、筒部110の半閉空間と連通することで筒部110の半閉空間に収容された薬剤を流通可能に構成している。内部空間144は、第1部位141の径方向rにおける肉厚が一定になるように形成することができる。
【0027】
第2部位142は、長手方向Xにおいて第1部位141よりも先端側に設けるように構成している。第2部位142は、長手方向Xに交差する径方向rの寸法を第1部位141よりも大きく構成している。第2部位142は、本実施形態において図6等に示すように先端部を鋭利な形状に構成している。第2部位142は、基端部を内部空間152に配置した状態において径方向rにおける内壁面151との距離が薬剤を流通させない程度に構成している。
【0028】
第2部位142の基端部は、図5に示すように外筒150の内部空間152に流出部143を配置した状態において外筒150の内壁面151と近接することによって、内部空間152の長手方向Xにおける先端側を外部と隔離する。これにより薬剤が外筒150の特に先端側から外部に漏れ出ることを防止できる。第2部位142の外周縁部には面取りを施してもよい。第2部位142は本実施形態において隔離部を構成する。
【0029】
第1部位141と第2部位142の径方向rの寸法(外径に相当する直径)は限定されないが、あくまで一例として第1部位141を0.68mm、第2部位142を0.76mmとすることができる。また、注入針140の全長は100~400mmに構成できる。
【0030】
また、流出部143の穴部の直径は0.1~0.2 mmとしているが、直径を大きくすることにより注入時の抵抗を低減することができる。また、長手方向Xにおいて隣接する流出部143同士の間隔は1~4 mmにできるが、間隔を広げることにより、薬剤の拡散効率を向上させることが期待できる。
【0031】
また、第1部位141と第2部位142は、本実施形態において両者ともにステンレス鋼によって構成している。ただし、患者の体内の所定部位に薬剤を投与できれば、第1部位と第2部位とは異なる材料によって構成してもよい。
【0032】
内方係合部145は、外筒150に対して注入針140を長手方向Xに相対的に進退移動可能にするために設けられる。内方係合部145は、図4に示すように外筒150を構成するギヤ部材153の歯とかみ合うことが可能な複数の凹凸形状を設けるように構成している。内方係合部145は、本実施形態において凹凸形状の延在する方向が長手方向Xに対して直交するように構成している。これにより、外筒150に対する注入針140の位置を固定することができる。
【0033】
ただし、外筒150に対して注入針140を相対的に移動できれば、凹凸形状の延在する方向は長手方向Xに対して直交に限定されず、長手方向Xに対して斜めなどのように直交以外の角度で延在するように構成してもよい。内方係合部145は、本実施形態において外筒150に対する注入針140の長手方向Xにおける相対的な位置を調節する調節機構を構成する。
【0034】
(外筒)
外筒150は、注入針140と同様に長尺状に構成している。外筒150は、図4に示すように内壁面151と、内部空間152(第2内部空間に相当)と、ギヤ部材153(調節機構に相当)と、把持部154と、を備える。外筒150は、支持部155と、キャップ部材156(弾性部材に相当)と、弁部材157と、接続部158(第1接続部に相当)と、を備える。
【0035】
外筒150の内壁面151は、本実施形態において注入針140の第1部位141と同様に円筒形状の側面のように構成することによって注入針140の先端部を収容する内部空間152を形成するように構成している。
【0036】
ただし、外筒の内部空間に注入針の先端部を収納でき、注入針の先端部を収容した状態で注入針の先端側から薬剤の漏出を防止できれば、外筒の具体的な形状は円筒の側面に限定されない。上記以外にも多角柱の側面を含むように構成してもよい。また、外筒150の基端側は医療器具を操作する際に使用者の手指により把持するハンドル部として利用できる。
【0037】
内壁面151は、上述のように流出部143を内部空間152に配置した状態において第2部位142とともに内部空間152の長手方向Xにおける先端側を外部と隔離する。内壁面151は、注入針140の第2部位142と接触する程度に寸法を第2部位142よりも大きくすることによって薬剤が外筒150の先端側から外部に漏れ出ることを防止する。内壁面151は、本実施形態において隔離部を構成する。
【0038】
なお、注入針140の第2部位142の基端部が外筒150の内部空間152に配置された状態において流出部143から流出した薬剤は外筒150の内部空間152を基端側へ流通しうる。
【0039】
内壁面151の径方向rの寸法は、あくまで一例として0.78mm程度に構成することができる。内壁面151と注入針140の第2部位142のYZ面における径方向r等の寸法の差は0.03mm以下に構成することができる。
【0040】
ギヤ部材153は、把持部154に連動して回転する円筒形状を備えるように構成している。ギヤ部材153は、注入針140の内方係合部145の凹凸形状とかみ合うことが可能なように円筒形状の側面に沿って複数の凹凸形状を設けるように構成している。これにより、外筒150に対して注入針140を長手方向Xにおいて先端側または基端側に移動させて、薬剤を投与する腫瘍等の部位の大きさに合わせて外筒150から先端側に露出する注入針140の長さを調節できる。
【0041】
ここで、外筒150の筒形状の外表面(外側面)には目盛りを付すことで外筒150の先端側から注入針140が露出する長さを把握するように構成できる。
【0042】
また、ギヤ部材153は、注入針140の先端部が外筒150の内部空間152に配置された状態または内部空間152の外部に配置された状態において外力をかけない限り、現状の位置を維持することができる。
【0043】
そのため、注入針140の先端部が外筒150の先端側から少し露出した状態等における位置を固定できる。これにより、第2部位142の基端部を外筒150の内部空間152に配置すれば、医療器具100の運搬時や穿刺中に薬剤が漏出することを防止できる。また、注入針140の刺通力を保持することができる。
【0044】
把持部154は、使用者の手指によって把持可能に構成している。把持部154は、ギヤ部材153と一体に構成され、把持部154が使用者によって把持された状態で把持部154の回転をギヤ部材153に伝達するように構成している。把持部154は、本実施形態において円筒形状をギヤ部材153と一体に連結するように構成している。
【0045】
支持部155は、外筒150の筒形状に設けるように構成している。支持部155は、図1等に示すようにギヤ部材153の軸方向(長手方向Xに交差するY方向)においてギヤ部材153の両端の外方に設けられた軸形状を支持するように構成している。
【0046】
キャップ部材156は、外筒150の筒形状の長手方向Xにおける先端部に設けられる。キャップ部材156はシリコーン等の部材を含み、図7に示すように内部空間152から外部に露出した注入針140と接触可能であって弾性変形可能に構成している。キャップ部材156は、本実施形態において中空の円錐台形状に構成され、円錐台形状の先端の縁部の寸法が注入針140の第2部位142の外形寸法より小さくなるように構成している。
【0047】
これにより、注入針140は、図7に示すように第2部位142の外表面がキャップ部材156と接触することによって、流出部143から流出した薬剤が外筒150の先端側から外部に漏れ出すことを防止することができる。
【0048】
弁部材157は、流出部143から流出する薬剤の内部空間152の基端側から外部への漏出を防止する。弁部材157は、外筒150の内部空間152に注入針140を挿入した状態で外筒150の基端側から薬剤が外部に漏出することを防止する。
【0049】
弁部材157は、外筒150の内部空間152の長手方向Xにおける基端側に設けられる。弁部材157は、注入針140が外筒150に対して移動しても内方係合部145やギヤ部材153が薬剤に接触しないように配置できる。弁部材157は、本実施形態において外筒150の基端部にOリングなどを取り付けることによって構成している。
【0050】
接続部158は、流出部143から内部空間152に流出する薬剤を吸引可能な器具200との接続を可能な部位として構成している。接続部158に接続する器具200は、一例として図4に示すように半閉空間を備えた筒部210と、先端部にシール部材を設け、筒部110の半閉空間に先端部を収容した状態で筒部210の軸方向に移動可能な押圧部材220と、を備える。
【0051】
器具200は、押圧部材220を筒部210に対して相対的に移動させることによって、内部空間152を陰圧にして内部空間152の薬剤を回収することができる。ただし、接続部158に接続する器具は、内部空間152を流通しうる薬剤を回収できれば、具体的な構成は器具200に限定されない。
【0052】
また、接続部158は、長手方向Xにおいてギヤ部材153よりも先端側に配置できる。接続部158は、長手方向Xにおいて注入針140が外筒150に対して移動しても内方係合部145が薬剤に接触しない位置に配置できる。
【0053】
医療器具100の筒部110、押圧部材120、シール部材130、および外筒150は、注入針140を通じて患者に薬剤を投与できれば、各々の具体的な材料は特に限定されない。一例として、各々の材料は筒部110、押圧部材120および外筒150をポリプロピレンやポリエチレン等のプラスチックによって構成し、シール部材130はブチルゴム、シリコンゴムまたはエラストマー等によって構成できる。
【0054】
(使用例)
次に本実施形態に係る医療器具100の使用例について説明する。
【0055】
まず、術者は注入針140の先端部が外筒150の内部空間152に収容された状態において手指によって外筒150の筒形状の基端側外側面と把持部154を把持し、把持部154を回転させる。把持部154の回転により、把持部154に一体となっているギヤ部材153が回転し、流出部143を含む注入針140の先端部が外筒150の先端側から外部に現れるようになる。
【0056】
次に、術者は、筒部110に対して筒部110の半閉空間の容積を減少させるように押圧部材120を移動させる。この操作により、筒部110の半閉空間に収容された薬剤が筒部110の半閉空間から注入針140の内部空間144に移動(流通)する。内部空間144に移動した薬剤は流出部143から外部に出ることによって薬剤が内部空間144に充填されたことを目視によって確認できる(プライミング)。
【0057】
なお、プライミングにより薬剤を外部に漏出する場合は薬剤が意図しない場所に飛散しないように筒部110に対する押圧部材120の移動は慎重に行い、医療器具100の下方にトレイなどを設置して薬剤が意図しない部位に飛散しないようにする。
【0058】
次に術者は外筒150の筒形状の基端側外側面と把持部154を把持して把持部154を回転させ、注入針140の先端部を外筒150の内部空間152に収容する。注入針140の第2部位142の基端部を外筒150の内部空間152に配置することによって、術者は注入針140の内部空間144の薬剤を先端側から漏出させない状態で医療器具100の持ち運び等を行うことができる。
【0059】
次に、術者は、患者の腹部の周辺に小切開部を形成する。そして、術者は、超音波エコー下で注入針140および外筒150を体表から経皮的に穿刺を行い、注入針140の先端部を腫瘍手前または腫瘍内部まで進める(運ぶ)。そして、術者は、外筒150の筒形状の基端側外側面と把持部154を把持して把持部154を回転させ、流出部143を含む注入針140の先端部を外筒150の先端側から外部に移動(露出)させる。
【0060】
そして、術者は筒部110の半閉空間が減少するように押圧部材120を筒部110に対して長手方向Xに相対的に移動させて薬剤を患者に投与する。これにより、注入針140の内部空間144の薬剤が流出部143から径方向rにおいて外部に流出し、患者に投与される。
【0061】
薬剤の投与が終了したら、術者は外筒150の筒形状の基端側外側面と把持部154を把持して把持部154を回転させ、注入針140の先端部を外筒150の内部空間152に収容し、医療器具100を体内から抜去する。これにより、薬剤の投与時以外に注入針140の流出部143からの薬剤が外筒150の先端側から漏出することを防止できる。
【0062】
以上説明したように本実施形態に係る医療器具100は、注入針140と、外筒150と、を備える。注入針140は、薬剤を流通可能な内部空間144を設け、かつ内部空間144に流通する薬剤を流出可能な流出部143を備える。外筒150は、注入針140の先端部を収納可能な内部空間152を設けるように構成している。
【0063】
注入針140および外筒150は、長尺状に構成している。注入針140および外筒150の少なくとも一方には流出部143を内部空間152に配置した状態において流出部143の長手方向Xにおける先端側を外部と隔離する隔離部を設けるように構成している。また、医療器具100を用いた薬剤の投与方法では注入針140の内部空間144に薬剤を流通させた後に注入針140の先端部を外筒150の内部空間152に収容する。そして、外筒150の先端部を患者の該当部位に進入させた状態において外筒150の先端側から注入針140の先端部を露出させて薬剤を患者の体内に投与するように構成している。
【0064】
このように医療器具100に隔離部を設けることによって、プライミング後、医療器具の運搬時や体表から患部までの穿刺中等の薬剤投与時以外に注入針140の先端側から薬剤が意図せず漏出することを防止することができる。そのため、薬剤が使用者に飛散したり、患者に暴露したり、床や周辺の機器が汚染されたりすることを防止できる。
【0065】
また、注入針140は、第1部位141と第2部位142とを備える。第1部位141は、外表面に流出部143を設けている。第2部位142は、長手方向Xにおいて第1部位141よりも先端側に設けられ、長手方向Xに交差する寸法が第1部位141よりも大きい。また、第2部位142は、少なくとも一部を内部空間152に配置した状態において外筒150の内壁面151との距離が薬剤を流通しない程度に構成される。隔離部は、第2部位142の基端部を内部空間152に配置することによって構成している。
【0066】
これにより、流出部143から流出した薬剤がプライミング後であって薬剤投与以外のタイミングで内部空間152から注入針140の先端側に漏出することを防止することができる。
【0067】
また、注入針140と外筒150は、内方係合部145とギヤ部材153のように外筒150に対する注入針140の長手方向Xにおける相対的な位置を調節可能な調節機構を備えるように構成している。
【0068】
これにより、注入針140の先端部を状況に応じて外筒150の内部空間152に収容して、プライミング後で薬剤投与時以外のタイミングに薬剤が意図せず注入針140の先端側から外部に漏出することを防止することができる。また、腫瘍の大きさに合わせて外筒150からの注入針140の露出長さを調整できる。
【0069】
また、外筒150は、流出部143から流出する薬剤の内部空間152における基端側からの漏出を防止する弁部材157を備えるように構成している。これにより、プライミング後で薬剤投与時以外のタイミングに注入針140の先端側に加えて注入針140の基端側からも薬剤が外部に漏出することを防止することができる。
【0070】
また、外筒150は、流出部143から内部空間152に流出する薬剤を吸引可能な器具200との接続が可能な接続部158を備えるように構成している。このように構成することによって、流出部143から外筒150の内部空間152に流出した薬剤を外部に漏れ出ないように回収することができる。
【0071】
また、外筒150は、長手方向Xにおける先端部に設けられ、弾性変形により内部空間152から外部に露出した注入針140に接触可能なキャップ部材156を備えるように構成している。このように構成することによって、第2部位142と内壁面151の組み合わせに加えて、プライミング後であって薬剤投与以外のタイミングで注入針140の先端側から薬剤が意図せずに注入針140の先端側に漏れ出ることをより一層防止することができる。
【0072】
(第1実施形態の変形例1)
図8は第1実施形態の変形例1に係る医療器具100aを示し、図6に対応する図である。第1実施形態では注入針140の第2部位142等は、先端部を鋭利に形成すると説明した。ただし、注入針140aの先端部を腫瘍部位まで進めることができ、薬剤を該当部位に投与できれば、注入針の先端部の形状は特に限定されない。注入針の先端部の形状は、図8に示す医療器具100aの注入針140aの第2部位142aのように平坦に構成してもよい。また、第2部位142aの外周縁部には面取りを施してもよい。
【0073】
なお、医療器具100aを構成する筒部110、押圧部材120、シール部材130、外筒150は第1実施形態と同様である。さらに、注入針140aの第2部位142a以外の第1部位141、流出部143、内部空間144、および内方係合部145は第1実施形態と同様である。そのため、説明を省略する。また、医療器具100aの使用例も第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0074】
(第1実施形態の変形例2)
図9は、第1実施形態の変形例2に係る医療器具100bを示す図6に対応する図である。第1実施形態において注入針140は、外力を付与しない状態において直線状に構成すると説明した。ただし、注入針140bの先端側は以下のように構成することができる。
【0075】
医療器具100bは、筒部110と、押圧部材120と、シール部材130と、注入針140bと、外筒150と、を有する。筒部110、押圧部材120、シール部材130、および外筒150は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
注入針140bは、長手方向Xにおける先端側が外力を付与しない状態において図9に示すように湾曲した状態に形状づけするように構成している。注入針140bは、先端側を外筒150の内部空間152に収容した状態において内部空間152の形状に倣って略直線状に形成される。このように構成することによって、注入針140bは、先端部が外筒150の先端側から外方に突出(露出)した状態において図9に示すように径方向rの外方に向かって湾曲する。
【0077】
注入針140bの第1部位141の先端部を構成する材料は、特に限定されないが、Ni-Ti等の形状記憶合金等を含むように構成できる。また、第2部位142は、第1部位141と同様の材料を含むように構成してもよいし、樹脂等のように第1部位141と異なる材料を含むように構成してもよい。注入針140bは、注入針140と同様に第1部位141、第2部位142、流出部143、内部空間144、および内方係合部145を備えるため、構成の説明を省略する。
【0078】
(使用例)
次に、医療器具100bの使用例を説明する。術者はプライミング後に注入針140bの先端部を外筒150の内部空間152に収容した状態において注入針140bの先端部が所望の方向に湾曲するように注入針140bを周方向θに回転させる。次に、術者は外筒150の基端側外側面と把持部154を把持して把持部154を回転させて注入針140bの先端部を湾曲させるように外筒150の先端側から露出させる。その他の操作は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0079】
以上説明したように、本変形例2では注入針140bの先端部が外筒150の先端側から露出した状態において湾曲変形可能に構成している。このように構成することによって、長手方向Xを回転軸として注入針140bの先端部を回転させて先端部の向きを変えて、薬剤を腫瘍等の部位に広範囲に投与することができる。
【0080】
(第1実施形態の変形例3)
図10は第1実施形態の変形例3に係る医療器具100cを示す側面図である。上記において外筒150は、流出部143から内部空間152に流出する薬剤を吸引可能な器具200との接続が可能な接続部158を備えると説明した。ただし、これに限定されず、以下のような接続部を注入針に設けるように構成してもよい。
【0081】
医療器具100cは、筒部110と、押圧部材120と、シール部材130と、注入針140cと、外筒150と、を有する。筒部110、押圧部材120、シール部材130、および外筒150は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0082】
(注入針)
注入針140cは、第1部位141と、第2部位142と、流出部143と、内部空間144と、内方係合部145と、接続部146(第2接続部に相当)と、を備える。第1部位141、第2部位142、流出部143、内部空間144、内方係合部145は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0083】
接続部146は、図10に示すように注入針140cの第1部位141における基端側であって外筒150の基端部より外方に設けている。接続部146には三方活栓等の部材を設けるとともに、接続部146にはシリンジ等と接続可能なポートを設けるように構成している。接続部146は、上記のように注入針140cの内部空間144の圧力を調整する器具との接続を可能に構成している。接続部146に接続する器具は一例として空のシリンジを含むように構成することができる。
【0084】
(使用例)
次に、本変形例3に係る医療器具100cの使用例を説明する。術者は接続部146に設けた三方活栓において筒部110の半閉空間を注入針140cの内部空間144と連通させる。術者は、この状態において第1実施形態と同様に筒部110の半閉空間の容積を減少させるように押圧部材120を筒部110に対して移動させる操作を行ってプライミングを行う。
【0085】
次に、術者は、第1実施形態と同様に手指によって外筒150の基端側外側面と把持部154を把持して把持部154を回転させ、注入針140cの先端部を外筒150の内部空間152に収容する。
【0086】
次に、術者は、患者の腹部の周辺に小切開部を形成する。そして、術者は、超音波エコー下で注入針140cおよび外筒150を体表から経皮的に穿刺を行い、注入針140cの先端部を腫瘍手前または腫瘍内部まで進める。そして、術者は、外筒150の基端側外側面と把持部154を把持して把持部154を回転させ、注入針140cの先端部を外筒150の先端側から外部に露出させる。そして、術者は筒部110の半閉空間が減少するように押圧部材120を筒部110に対して長手方向Xに相対的に移動させて薬剤を患者に投与する。
【0087】
次に、術者は、注入針140cの内部空間144が筒部110の半閉空間と別のシリンジ側の内部空間と連通するように接続部146に設けた三方活栓を切り替える操作を行う。以降の注入針140cの先端部を外筒150の内部空間152に収容して医療器具100cを抜去する操作は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0088】
以上説明したように本変形例3において注入針140cは、注入針140cの内部空間144の圧力を調整する器具との接続が可能な接続部146を備えるように構成している。
【0089】
このように注入針140cの内部空間144の先端側を接続部146よりも基端側の内部空間144と異なるシリンジ側に連通するように接続部146の三方活栓を切り替える操作を行うことによって、薬剤投与時に内部空間144に生じる圧力を開放できる。そのため、薬剤の投与後に薬剤が腫瘍から内部空間144の基端側に逆流することを防止できる。
【0090】
(第2実施形態)
図11は第2実施形態に係る医療器具100dを構成する外筒150dの内部を示す図である。第1実施形態では外筒150に対する注入針140の長手方向Xにおける相対的な位置を調節する調節機構として、注入針140が内方係合部145を備え、外筒150がギヤ部材153を備えると説明した。ただし、外筒に対する注入針の相対的な位置を調節する調節機構は以下のように構成することもできる。
【0091】
医療器具100dは、筒部110と、押圧部材120と、シール部材130と、注入針140dと、外筒150dと、を有する。筒部110、押圧部材120、シール部材130は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0092】
(注入針)
注入針140dは、第1部位141と、第2部位142と、流出部143と、内部空間144と、内方係合部145dと、把持部147と、を備える。第1部位141、第2部位142、流出部143、および内部空間144は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0093】
内方係合部145dは、図11に示すように外筒150dを構成する外方係合部153dと係合可能に構成している。これにより、外筒150dに対する注入針140dの長手方向Xにおける位置を維持することができる。また、外方係合部153dと係合する内方係合部145dの位置を変えることで外筒150dに対する注入針140dの相対的な位置を調節することができる。
【0094】
内方係合部145dは、本実施形態において図11に示すように複数の注入針140dの長手方向Xに直交するように延在する複数の凹凸形状(ノッチ)を設けるように構成している。ただし、外筒に対する注入針の位置を相対的に変位できれば、内方係合部の具体的な構成はこれに限定されない。
【0095】
把持部147は、注入針140dの筒形状の基端側における外側面に設けることができる。術者等の使用者は、外筒150dの筒形状の基端側外側面を把持部147とともに把持し、外筒150dに対して注入針140dを押し込んだり牽引したりすることによって、外筒150dに対して注入針140dを長手方向Xに進退移動させることができる。
【0096】
(外筒)
外筒150dは、内壁面151と、内部空間152と、外方係合部153dと、キャップ部材156と、弁部材157と、接続部158と、を備える。内壁面151、内部空間152、キャップ部材156、弁部材157、および接続部158は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0097】
外方係合部153dは、外筒150dの筒形状の内壁面151に設けるように構成している。外方係合部153dは、本実施形態において図11に示すように外筒150dの内壁面151から径方向rの内方に突出する弾性変形可能な凸形状(出っ張り形状)を設けるように構成している。外方係合部153dは、注入針140dの内方係合部145dと係合可能に構成している。
【0098】
外方係合部153dと内方係合部145dの係合により、外筒150dに対する注入針140dの相対的な位置を固定(維持、保持)することができる。また、外方係合部153dを変形させて外方係合部153dが係合する内方係合部145dの位置を変えれば、外筒150dに対する注入針140dの相対的な位置を変える(調節する)ことができる。内方係合部145dと外方係合部153dは、本実施形態における調節機構を構成する。
【0099】
(使用例)
次に本実施形態に係る医療器具100dの使用例を説明する。
【0100】
まず、術者は注入針140dの先端部が外筒150dの内部空間152に収容された状態において手指によって外筒150dの基端側外側面と把持部147を把持し、注入針140dを先端側に押し込む。この操作により、内方係合部145dと外方係合部153dの係合箇所が変わり、注入針140dの先端部が外筒150dの先端側から外部に露出した状態で外筒150dに対する注入針140dの位置が固定される。
【0101】
それ以降のプライミングの操作は第1実施形態と同様である。
【0102】
次に、術者は、外筒150dの基端側外側面と把持部147を把持し、注入針140dを手元側に牽引する。これにより、内方係合部145dと外方係合部153dの係合箇所が変わり、注入針140dの先端部が外筒150dの内部空間152に収容される。
【0103】
次に、術者は、患者の腹部の周辺に小切開部を形成する。そして、術者は、超音波エコー下で注入針140dおよび外筒150dを体表から経皮的に穿刺を行い、注入針140dの先端部を腫瘍手前または腫瘍内部まで進める(運ぶ)。
【0104】
そして、術者は、外筒150dの基端側外側面と把持部147を把持した状態において注入針140dを先端側に押し込み、注入針140dの先端部を外筒150dの先端側から外部に露出させる。そして、術者は筒部110の半閉空間が減少するように押圧部材120を筒部110に対して長手方向Xに相対的に移動させて薬剤を患者に投与する。
【0105】
薬剤の投与が終了したら、外筒150dの基端側外側面と把持部147を把持して、注入針140dの先端部を外筒150dの内部空間152に収容し、医療器具100dを体内から抜去する。
【0106】
以上説明したように本実施形態に係る医療器具100dは、外筒150dに対する注入針140dの相対的な位置を調節する機構として、内方係合部145dと、外方係合部153dと、を備える。内方係合部145dは、注入針140dの長手方向Xにおいて複数の凹凸を並べるように構成している。外方係合部153dは、外筒150dの内壁面151から径方向rの内方に突出し、弾性変形可能な形状を含むように構成している。
【0107】
このように構成することによっても注入針140dの先端部を状況に応じて外筒150dの内部空間152に収容して、プライミング後で薬剤投与時以外のタイミングに薬剤が意図せず注入針140dの先端側から外部に漏出することを防止できる。また、薬剤を投与する腫瘍の大きさに合わせて外筒150dからの注入針140dの露出長さを調節することができる。
【0108】
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されず、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。図12は、変形例に係る医療器具100eを構成する外筒150eの中心を通り、中心軸に沿う断面であって、図5に対応する図である。
【0109】
上記では隔離部として、注入針140は第1部位141よりも長手方向Xにおいて先端側に設けられ径方向rの寸法が第1部位141より大きい第2部位142を備え、外筒150は第2部位142と接する程度の寸法の内壁面151を備えると説明した。
【0110】
ただし、注入針の先端側から薬剤が外部に漏れ出ることを防止できれば、隔離部の具体的な構成は上記に限定されない。隔離部は、上記以外にも図12に示すように注入針の先端側において部位に応じて注入針の径方向rの寸法を変える代わりに、外筒の内壁面の寸法を部位に応じて変えるように構成してもよい。
【0111】
すなわち、注入針140eの第2部位142eの径方向rの寸法は第1部位141と同様に構成している。外筒150eの内壁面は、径方向rにおいて注入針140eと隙間を設けた第1内壁面151eと、第1内壁面151eの先端側に設けられ、第2部位142eと接する程度に第1内壁面151eよりも径方向rの寸法が小さい第2内壁面151fと、を備える。この場合、第2内壁面151fの基端部には注入針140eの挿入しやすさの観点から面取りを設けた方が好ましい。
【0112】
このように構成することによってもプライミング後であって薬剤投与時以外のタイミングで薬剤が注入針140eの特に先端側から漏出することを防止できる。
【0113】
また、注入針は図5に示すように第1部位より第2部位の径方向rの寸法を大きくするとともに、外筒の内壁面が図12のように第1内壁面と第1内壁面よりも径方向rの寸法が小さい第2内壁面を備えるような医療器具も本発明の一実施形態に含まれる。
【0114】
また、外筒150の長手方向Xにおける基端側には弁部材157を設けると説明したが、薬剤が外筒150の基端側から漏れることを防止できれば、外筒150の基端側に設置する部材はOリング等の弁部材157に限定されない。上記以外にも外筒の基端側には吸水性繊維、吸水性樹脂等を設けたり、PTFE(Polytetrafluoroethylene)多孔質膜のような液体の流通を遮断し、気体の流通を許容するような部材を設けたりしてもよい。
【0115】
また、外筒150等の外筒には長手方向Xにおける先端側において針のように鋭利で生体への穿刺が可能な形状を設けるように構成してもよい。
【0116】
また、医療器具は、隔離部に相当する構成を備えてさえいれば、調節機構、キャップ部材156、弁部材157、および接続部158の組み合わせを上記と異なるように変更したものも本発明の一実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
100、100a、100b、100c、100d、100e 医療器具、
140、140a、140b、140c、140d、140e 注入針、
141 第1部位、
142、142a、142e 第2部位(隔離部)、
143 流出部、
144 内部空間(第1内部空間)、
145、145d 内方係合部(調節機構)、
146 接続部(第2接続部)、
150、150d、150e 外筒、
151 内壁面(隔離部)、
152 内部空間(第2内部空間)、
153 ギヤ部材(調節機構)、
153d 外方係合部(調節機構)、
156 キャップ部材(弾性部材)、
157 弁部材(シール部)、
158 接続部(第1接続部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12