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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040539
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 35/23 20240101AFI20240318BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B60K35/00 A
G02B27/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144948
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新保 貴也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 裕太
【テーマコード(参考)】
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA13
2H199DA15
2H199DA32
2H199DA36
2H199DA43
2H199DA46
3D344AA19
3D344AA21
3D344AA22
3D344AA30
3D344AB01
3D344AC25
3D344AD13
(57)【要約】
【課題】視認性を維持することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】本実施形態におけるヘッドアップディスプレイ装置は、画像を生成する画像生成部と、生成された画像に係る表示光を出射する表示部と、出射された表示光を投影部材に向けて反射する反射鏡と、右目及び左目の位置に関する視点情報を取得する視点情報取得部と、視点情報に基づいて算出される理想光路を表示光が通るように、表示部からの表示光の出射方向又は反射鏡の表示光の反射方向を機械的に制御する光路制御部と、視点情報取得部が視点情報を取得できている取得可能状態であるか否か、及び光路制御部が表示光の光路を理想光路に制御できている光路制御可能状態であるか否かを判定する判定部と、視点取得可能状態ではない又は視点取得可能状態であるが光路制御可能状態ではないと判定された場合、画像の視認性を通常時よりも低下させる表示制御部と、を備える。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影部材で反射した右目画像に係る右目表示光及び左目画像に係る左目表示光を視認者の右目及び左目で視認させることにより前記投影部材の前方で前記右目画像及び前記左目画像に係る虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記右目画像及び前記左目画像を生成する画像生成部と、
生成された前記右目画像に係る前記右目表示光及び生成された前記左目画像に係る前記左目表示光を出射する表示部と、
前記表示部から出射された前記右目表示光及び前記左目表示光を前記投影部材に向けて反射する反射鏡と、
前記右目及び前記左目の位置に関する視点情報を取得する視点情報取得部と、
前記視点情報取得部により取得された前記視点情報に基づいて算出される理想光路を前記右目表示光及び前記左目表示光が通るように、前記表示部からの前記右目表示光及び前記左目表示光の出射方向又は前記反射鏡の前記右目表示光及び前記左目表示光の反射方向を機械的に制御する光路制御部と、
前記視点情報取得部が前記視点情報を取得できている視点取得可能状態であるか否か、及び前記光路制御部が前記右目表示光及び前記左目表示光の光路を前記理想光路に制御できている光路制御可能状態であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部が前記視点取得可能状態ではない又は前記視点取得可能状態であるが前記光路制御可能状態ではないと判定した場合、前記右目画像及び前記左目画像の視認性を通常時よりも低下させる表示制御部と、を備えるヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記右目画像及び前記左目画像を非表示とすることにより前記視認性を低下する、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、前記視点取得可能状態ではないと判定した後に前記視点取得可能状態であり且つ前記光路制御可能状態であると判定した場合、前記右目画像及び前記左目画像の視認性を前記通常時の前記視認性に復帰する、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、前記視点取得可能状態であり且つ前記光路制御可能状態であると判定した後所定時間経過後に、前記右目画像及び前記左目画像の前記視認性を前記通常時の視認性に復帰する、請求項3記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記視点取得可能状態であるが前記光路制御可能状態ではないと判定した後に前記光路制御可能状態であると判定した場合、前記右目画像及び前記左目画像の前記視認性を前記通常時の前記視認性に復帰する、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記光路制御可能状態であると判定した後所定時間経過後に、前記右目画像及び前記左目画像の前記視認性を前記通常時の視認性に復帰する、請求項5記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、前記右目画像及び前記左目画像の前記視認性を前記通常時の視認性に復帰する際、徐々に復帰する、請求項3又は5記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドアップディスプレイ装置において、視認者の目の位置があると想定される領域に設定されるアイボックスに、効率良く表示光を出射する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-028389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘッドアップディスプレイ装置が表示する画像は多様化しており、アイボックスを右目及び左目にそれぞれ設定する場合もあり得る。この場合、両目に対するアイボックスを設定する場合に比べて、アイボックスの寸法は小さくなる。その結果、各目に対してアイボックス自体を追従させることや、アイボックスに対する表示光の光路制御は、両目に対してアイボックスが設定される場合に比べて、困難になり、視認性が低下する虞がある。
【0005】
本開示はこのような事情を考慮してなされたもので、視認性を維持することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のヘッドアップディスプレイ装置は、上述した課題を解決するために、投影部材で反射した右目画像に係る右目表示光及び左目画像に係る左目表示光を視認者の右目及び左目で視認させることにより前記投影部材の前方で前記右目画像及び前記左目画像に係る虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、前記右目画像及び前記左目画像を生成する画像生成部と、生成された前記右目画像に係る前記右目表示光及び生成された前記左目画像に係る前記左目表示光を出射する表示部と、前記表示部から出射された前記右目表示光及び前記左目表示光を前記投影部材に向けて反射する反射鏡と、前記右目及び前記左目の位置に関する視点情報を取得する視点情報取得部と、前記視点情報取得部により取得された前記視点情報に基づいて算出される理想光路を前記右目表示光及び前記左目表示光が通るように、前記表示部からの前記右目表示光及び前記左目表示光の出射方向又は前記反射鏡の前記右目表示光及び前記左目表示光の反射方向を機械的に制御する光路制御部と、前記視点情報取得部が前記視点情報を取得できている視点取得可能状態であるか否か、及び前記光路制御部が前記右目表示光及び前記左目表示光の光路を前記理想光路に制御できている光路制御可能状態であるか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記視点取得可能状態ではない又は前記視点取得可能状態であるが前記光路制御可能状態ではないと判定した場合、前記右目画像及び前記左目画像の視認性を通常時よりも低下させる表示制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示のヘッドアップディスプレイ装置においては、視認性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両に搭載されたHUDの概略的な構成図。
図2】視認者の目とアイボックスとの関係について説明する図。
図3】画像表示処理を説明するフローチャート。
図4】制御部により実行される非表示処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のヘッドアップディスプレイ装置の実施形態を添付図面に基づいて説明する。本開示のヘッドアップディスプレイ装置は、例えば自動車や二輪車等の車両や、船舶、農業機械、建設機械に搭載され得る。本実施形態においては、本開示のヘッドアップディスプレイ装置が自動車である車両に搭載されるヘッドアップディスプレイ装置(以下、「HUD(Head Up Display)」という。)である例を適用して説明する。
【0010】
図1は、車両1に搭載されたHUD10の概略的な構成図である。
【0011】
以下の説明において、「前」、「後」、「右」、「左」、「上」及び「下」は、図1及び2における定義「Fr.」、「Re.」、「R」、「L」、「To.」、及び「Bo.」に従う。
【0012】
HUD10は、車両1のステアリングホイール5の前方のインストルメントパネル内に搭載される。HUD10は、表示器11(表示部)と、回転反射鏡12(反射鏡)と、凹面鏡13と、筐体16と、制御部30と、を有する。
【0013】
表示器11は、画像を示す表示光Lを回転反射鏡12に向けて出射する例えばコンピュータ生成ホログラフィック(Computer Generated Hologram、CGH)を表示する公知のプロジェクタである。表示器11は、視認者4(運転者)の右目及び左目にそれぞれ設けられている。すなわち、一方の表示器11は、右目に向けて右目画像に係る右目表示光(表示光L)を出射する。他方の表示器11は、左目に向けて左目画像に係る左目表示光(表示光L)を出射する。右目画像(画像)は、視認者4が右目で視認する画像であり、左目画像(画像)は左目で視認する画像である。表示器11は、CGHを表示することにより、車両前方において、三次元的に表現された画像を視認者4に視認させる。
【0014】
各表示器11は、一又は複数軸周りに表示器11を駆動する機械的機構として、アクチュエータ等からなる表示器駆動部11aを有する。表示器駆動部11aは、各表示器11からの表示光Lの出射方向を機械的に制御する。表示器駆動部11aは、表示器11の姿勢(表示器駆動部11aの駆動位置)を検出可能なセンサを有する。
【0015】
回転反射鏡12は、表示器11が出射した表示光Lを、凹面鏡13(投影部材、ウインドシールド3)に向けて反射する。回転反射鏡12は、一又は複数軸周りに回転反射鏡12を駆動する機械的機構として、例えばアクチュエータ等からなる反射鏡駆動部12aを有する。反射鏡駆動部12aは、回転反射鏡12における表示光Lの反射方向を機械的に制御する。反射鏡駆動部12aは、回転反射鏡12の姿勢(反射鏡駆動部12aの駆動位置)を検出可能なセンサを有する。
【0016】
凹面鏡13は、回転反射鏡12で反射した表示光Lを更に反射し、ウインドシールド3に向けて出射する。凹面鏡13は、拡大鏡としての機能を有し、表示器11に表示された画像を拡大してウインドシールド3側へ反射する。
【0017】
その後、表示光Lは、ウインドシールド3を照射する。視認者4は、ウインドシールド3における表示光Lの反射光を、車両1の前方所定位置で虚像Vとして視認する。すなわち、HUD10は、ウインドシールド3で反射した右目画像に係る右目表示光及び左目画像に係る左目表示光を、視認者4の右目及び左目で視認させることにより、ウインドシールド3の前方で右目画像及び左目画像に係る虚像Vを視認させる。画像は、ウインドシールド3を介して(ウインドシールド3の前方で)視認者4に視認される実景と重なる、仮想的な領域に表示される。また、実景は、画像の背景となり得る。
【0018】
筐体16は、回転反射鏡12及び凹面鏡13を取付部材を介して内部に固定する。また、筐体16は、表示器11、及び制御部30が実装された制御基板を取付部材を介して内部に固定する。
【0019】
制御部30は、特に、後述する車両1の車両ECU42等から取得する情報に基づいて、表示器11を制御したり、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aを制御したりするための演算処理を行う。具体的には、制御部30は、画像生成部31と、視点情報取得部32と、光路制御部33と、判定部34と、表示制御部35と、を有する。制御部30は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、グラフィックコントローラ、集積回路等であり、これらは制御部30内の各部31~35を実現するための所定の処理を実行する。
【0020】
画像生成部31は、車両ECU42から取得する情報に基づいて、表示器11に表示される画像の描画処理を実行し、画像(右目画像及び左目画像)を生成する。画像生成部21は、例えばナビゲーション、地図、速度計等のゲージをはじめとする、運転に必要となる周囲及び車両1に関する情報を表す画像を生成する。
【0021】
視点情報取得部32は、右目及び左目の位置に関する視点情報を車両1側の視点センサ41(後述)から取得する。視点情報は、右目及び左目の位置と、右目及び左目の移動速度に関する情報を含む。
【0022】
光路制御部33は、視点情報取得部32により取得された視点情報に基づいて、右目及び左目のアイボックスを設定する。また、光路制御部33は、視点情報に基づいて、各アイボックス内に各表示光Lを到達させるための理想光路を算出する。光路制御部33は、この理想光路に基づいて表示器11からの表示光Lの出射方向を、表示器駆動部11aを制御することにより制御する。また、光路制御部33は、回転反射鏡12の表示光Lの反射方向を、反射鏡駆動部12aを制御することにより制御する。
【0023】
判定部34は、視点情報取得部32が視点情報を取得できている視点取得可能状態であるか否かを判定する。また、判定部34は、光路制御部33が表示光Lの光路を理想光路に制御できている光路制御可能状態であるか否かを判定する。判定部34の処理の詳細については、後述する。
【0024】
表示制御部35は、画像生成部31により生成された画像を表示器11に表示するための制御を行う。特に、表示制御部35は、判定部34が視点取得可能状態ではない又は光路制御可能状態ではないと判定した場合、画像(右目画像及び左目画像)の視認性を通常時よりも低下させる。
【0025】
車両1は、HUD10の他に、視点センサ41、車両ECU(Electronic Control Unit)42等の車両1の走行に必要な機能を有する。視点センサ41及び車両ECU42と制御部30とは、例えばCAN(Controller Area Network)バス50を介して接続されている。
【0026】
視点センサ41は、視認者4の右目(右目黒目)及び左目(左目黒目)の位置である視点の位置を検出する。視点センサ41は、例えば視認者4の顔を撮影するカメラである。視点センサ41は、撮影された画像を解析することにより、視認者4の左目及び右目の位置や視点の移動速度を算出する。尚、視点センサ41は、車両1側ではなくHUD10側に設けられていてもよい。
【0027】
車両ECU42は、車両1に設けられた各種センサから車速やエンジン回転数、ナビゲーション情報等の車両1の走行に必要な車両情報を取得し、車両1の動作を制御する。
【0028】
次に、HUD10において実行される画像表示に関する処理について詳細に説明する。
【0029】
まず、HUD10における画像表示についての問題点を説明する。図2は、視認者4の目とアイボックス6との関係について説明する図である。図3は、画像表示処理を説明するフローチャートである。
【0030】
HUD10が画像を表示する際、視点情報取得部32は、視点情報を取得する(ステップS1)。その後、光路制御部33は、視点情報取得部32が取得した視点情報に基づいて、アイボックスを設定する。また、光路制御部33は、アイボックス内に表示光Lを到達させるための理想光路を算出する(ステップS2)。また、光路制御部33は、算出した理想光路上に表示光Lが出射されるよう、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aを制御する(ステップS3)。これにより、表示器11及び回転反射鏡12は、表示光Lの出射(反射)方向を理想光路に一致させる。
【0031】
次に、画像生成部31は、視点情報から得られる表示位置に応じた画像を描画する(ステップS4)。表示器11は、生成された画像を表示光Lとして出射する(ステップS5)。これにより、表示光Lに係る画像は、視認者4に虚像Vとして視認される。このような画像は、アイボックス6内に視認者4の目がある場合には、HUD10が想定する視認者4の視界7内の適切な位置に表示される(図2の左図)。
【0032】
しかしながら、設定されているアイボックス6から目が移動すると、HUD10は新たな視点情報の取得(ステップS1)、アイボックス6の設定及び理想光路の算出(ステップS2)、表示器11及び回転反射鏡12のための機械的機構の制御(ステップS3)、及び画像の描画(ステップS4)を実行する必要がある。
【0033】
目の移動速度が、視点情報取得ステップS1から描画ステップS4までの実行に要する時間、すなわち移動する目の位置に追従するのに要する時間(以下「遅延時間」という。)が小さければ、視認者4には遅延時間は認識されにくく、視認性は大きくは損なわれない(例えば図2の中図)。しかしながら、移動速度が大きくなると、この遅延時間も大きくなる。特に表示器11及び回転反射鏡12の機械的機構による姿勢の制御が最も遅延時間に影響を及ぼすため、視点の移動速度と、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aの姿勢の制御に要する速度との差が大きくなると、目の位置に対する追従が困難となる。この場合、視認される画像の一部が欠けたり、本来表示されるべきではない位置に画像が表示されたり、視界7内に画像が表示されなくなったりする(図2の右図)。このような画像は、視認性を低下させてしまい、視認者4にとっては有益であるはずの画像に係る情報がかえって運転を阻害したり、煩わしさを与えたりしてしまう虞がある。
【0034】
そこで、本実施形態におけるHUD10は、視点情報に基づいて画像の表示態様を以下のように制御することにより、画像の視認性を維持するようにした。図4は、制御部30により実行される非表示処理を説明するフローチャートである。図4の非表示処理は、図3の画像表示処理と並行して実行される。
【0035】
ステップS11において、判定部34は、視点情報取得部32が視点情報を取得できている視点取得可能状態であるか否かを判定する。視点取得可能状態である場合は、視点センサ41が画像を撮影でき、画像から目の位置が解析できている状態、及び検出結果に基づいて視点情報取得部32が適切に視点情報を取得できている状態である。視点取得可能状態でない場合は、視点センサ41が画像を撮影できない状態、画像から目の位置が解析できない状態、又は検出結果に基づいて視点情報取得部32が適切に視点情報を取得できない状態である。
【0036】
判定部34は、視点取得可能状態であると判定した場合(ステップS11のYES)、ステップS12において、光路制御部33の制御に基づいて、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aが表示光Lの光路を理想光路に制御できている光路制御可能状態であるか否かを判定する。光路制御可能状態である場合は、例えば視点情報に基づいて得られる視点の移動速度が所定の閾値より小さい場合である。光路制御可能状態ではない場合は、視点の移動速度が閾値以上である場合である。
【0037】
閾値は、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aの機械的性能や、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aが駆動に必要な制御値の演算処理に要する時間等を踏まえて予め設定された値である。例えば、閾値は、視点の移動に対するアイボックス6(画像)の追従の際に生じる遅延時間が、視認者4の視認性の観点から許容され得る範囲となるような、任意の値に設定される。
【0038】
尚、ステップS12においては、視点の移動速度と閾値を比較するのみならず、例えば視認者4の頭の動き(ヘッドモーション)の速度と、この速度に応じて設定される閾値とを比較することにより、光路制御可能状態であるか否かを判定してもよい。
【0039】
判定部34が視点取得可能状態ではないと判定した場合(ステップS11のNO)又は光路制御可能状態ではないと判定した場合(ステップS12のNO)、ステップS13において、表示制御部35は、画像を非表示にする。すなわち、光路制御部33が視点情報が取得できずアイボックス6を設定できないことから、視点位置に応じた画像を表示することができない。また、表示器駆動部11aによる表示器11の姿勢制御及び反射鏡駆動部12aによる回転反射鏡12の姿勢制御が視点の移動に追従できず遅延時間が大きくなることから、適切な画像を視界7に表示できない。このため、表示制御部35は、不適切な画像を表示するよりは、画像を非表示にする。表示制御部35は、表示器11から表示光Lを生成する光源を非点灯としてもよいし、筐体16内の光路上に表示光Lを遮断するシャッターを設け表示光Lを出射させないようにしてもよい。
【0040】
このとき表示制御部35は、不適切な画像が視認者4に認識することを回避すればよいため、画像を非表示にすることにより視認性を低下させることに代えて画像の視認性を通常時よりも低下させてもよい。表示制御部35は、例えば画像の輝度を低下させたり、解像度を下げたりすることにより、視認性を低下させる。
【0041】
ステップS14において、判定部34は、ステップS11と同様に視点情報取得部32が視点情報を取得できている視点取得可能状態であるか否かを判定する。判定部34は、視点取得可能状態ではないと判定した場合(ステップS14のNO)、取得可能応対となるまで待機する。一方、判定部34は、視点取得可能状態であると判定した場合(ステップS14のYES)、ステップS15において、ステップS12と同様に光路制御部33の制御に基づいて、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aが表示光Lの光路を理想光路に制御できている光路制御可能状態であるか否かを判定する。
【0042】
判定部34は、光路制御可能状態であることを、以下のように判定してもよい。判定部34は、現在の視点情報に基づく視点の位置から算出される理想光路に表示光Lを出射するための表示器11及び回転反射鏡12の姿勢と、実際の表示器11及び回転反射鏡12の姿勢と、の差分を求める。尚、理想光路に表示光Lを出射するための表示器11及び回転反射鏡12の姿勢は、例えば理想光路に表示光Lを出射するための表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aの制御位置(制御値)により得られる。また、実際の表示器11及び回転反射鏡12の姿勢は、上述した表示器11の姿勢(表示器駆動部11aの駆動位置)及び回転反射鏡12の姿勢(反射鏡駆動部12aの駆動位置)を検出可能なセンサから得られる。
【0043】
判定部34は、この差分と、表示器駆動部11a及び反射鏡駆動部12aによる表示器11及び回転反射鏡12の制御に要する速度と、に基づいて、光路制御可能状態であることを判定する。すなわち、判定部34は、実際の光路から理想光路に変更するまでの時間、すなわち遅延時間が、許容範囲内であるかどうかに応じて、光路制御可能状態であるか否かを判定する。
【0044】
判定部34は、光路制御可能状態ではないと判定した場合(ステップS15のNO)ステップS14に戻り以降の処理を繰り返す。一方、判定部34は、光路制御可能状態であると判定した場合(ステップS15のYES)、ステップS16において、表示制御部35は、非表示にしていた画像の表示を復帰する(画像の視認性を通常時に復帰する)。このとき、表示制御部35は、画像を瞬間的に再表示するのではなく、徐々に輝度を上げたり、徐々に解像度を上げたり、本来の表示位置以外の位置(例えば視界中央)から本来の表示位置(例えば視界左方)に向けて移動させたりすることにより、徐々に通常時の表示態様(視認性)に復帰させてもよい。すなわち、表示制御部35は、通常時の表示態様の間に、通常時の視認性よりも視認性が低い画像を(段階的に)表示し、最終的に通常時の視認性を有する画像を表示してもよい。
【0045】
また、表示制御部35は、判定部34が実際の光路から理想光路に変更するまでの遅延時間が許容範囲内である場合に画像の表示を復帰する以外にも、この遅延時間が許容範囲内となった場合に画像の描画のみを復帰予め復帰させ、その後の任意のタイミングで実際に画像を表示してもよい。また、表示制御部35は、視点センサ41から得られる視点の動作や移動速度から遅延時間が解消されることを予測できる場合に、画像の表示を復帰させてもよい。遅延時間が解消されることの予測は、例えば視点センサ41から得られる視点に関する情報から機械学習により得られる学習データに基づいて行うことができる。また、表示制御部35は、遅延時間が許容範囲内である場合に限らず、視点の移動速度が閾値以下になった場合に画像の表示を復帰してもよい。また、視点の移動速度が閾値より小さくなった後に、再度視点の移動速度が変化する場合も起こり得る。この場合、画像の表示と非表示とが頻繁に繰り返されてしまい、かえって視認性が損なわれる虞がある。これに対応するため、表示制御部35は、ステップS15で光路制御可能状態と判定された後、所定時間経過後に、画像の表示を通常時に復帰してもよい。
【0046】
ステップS12において判定部34が光路制御可能状態であると判定した場合(ステップS12のYES)及びステップS16の後、処理はステップS11に戻り、図3の画像表示処理と並行して繰り返される。
【0047】
以上のような非表示処理を実行するHUD10は、アイボックス6が小さく、また機械的機構により表示光Lの光路を制御し、小さいアイボックス6に表示光Lを到達させるような場合であっても、好適に視認性を維持することができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0049】
例えば、HUD10の投影部材がウインドシールド3である例を説明したが、これに代えてコンバイナであってもよい。
【0050】
表示器11及び回転反射鏡12が所定軸周りに駆動される例を説明したが、いずれか一方のみが駆動してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 車両
3 ウインドシールド
4 視認者
5 ステアリングホイール
6 アイボックス
7 視界
10 HUD(ヘッドアップディスプレイ装置)
11 表示器(表示部)
11a 表示器駆動部
12 回転反射鏡(反射鏡)
12 平面鏡
12 回転平面鏡
12a 反射鏡駆動部
12a 回転反射鏡駆動部
13 凹面鏡
16 筐体
30 制御部
31 画像生成部
32 視点情報取得部
33 光路制御部
34 判定部
35 表示制御部
41 視点センサ
42 車両ECU
50 CANバス
L 表示光
V 虚像
図1
図2
図3
図4