IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 不二製油株式会社の特許一覧 ▶ 不二製油株式会社の特許一覧

特開2024-40545難溶性物質用の水分散剤および難溶性物質の水分散液
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040545
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】難溶性物質用の水分散剤および難溶性物質の水分散液
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240318BHJP
   A23C 9/158 20060101ALN20240318BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20240318BHJP
   A23C 13/12 20060101ALN20240318BHJP
   A23C 11/10 20210101ALN20240318BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20240318BHJP
   A23L 2/66 20060101ALN20240318BHJP
   A23L 13/40 20230101ALN20240318BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23C9/158
A23F5/24
A23C13/12
A23C11/10
A23L11/00 Z
A23L2/00 J
A23L13/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144955
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上山 知樹
(72)【発明者】
【氏名】狩野 弘志
(72)【発明者】
【氏名】井上 量太
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
4B027
4B035
4B042
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC99
4B001EC05
4B001EC10
4B020LB18
4B020LG05
4B020LK03
4B020LK07
4B027FB24
4B027FK03
4B027FK05
4B027FQ19
4B035LC04
4B035LG07
4B035LG15
4B035LG16
4B035LK12
4B042AC04
4B042AD20
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK05
4B042AK10
4B117LC04
4B117LC13
4B117LK15
4B117LK16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】難溶性物質を容易に良好に分散させるための、難溶性物質用の水分散剤を得ることを課題とした。
【解決手段】下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材を有効成分とすることで、難溶性物質用の水分散剤が得られる。
(A)粗蛋白質量20質量%の水溶液を80℃,30分間加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が10%~95%。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材を有効成分とする、難溶性物質用の水分散剤。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分間加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が10%~95%。
【請求項2】
難溶性物質が、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が0.3質量%以下、且つ水への溶解度が0.1質量%以下である、請求項1に記載の難溶性物質用の水分散剤。
【請求項3】
たん白素材と難溶性物質の質量比が1:25~25:1である、請求項1に記載の難溶性物質用の水分散剤。
【請求項4】
難溶性物質がアスコルビン酸脂肪酸エステルである、請求項1に記載の難溶性物質用の水分散剤。
【請求項5】
下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材、難溶性物質および水を含む、難溶性物質の水分散液。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分間加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が10%~95%。
【請求項6】
難溶性物質が、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が0.3質量%以下、且つ水への溶解度が0.1質量%以下である、請求項5に記載の難溶性物質の水分散液。
【請求項7】
たん白素材と難溶性物質の質量比が1:25~25:1である、請求項5に記載の難溶性物質の水分散液。
【請求項8】
たん白素材と水の質量比が20:80~1:200である、請求項5に記載の難溶性物質の水分散液。
【請求項9】
難溶性物質の平均分散粒子径が1μm以下である、請求項5に記載の難溶性物質の水分散液。
【請求項10】
難溶性物質がアスコルビン酸脂肪酸エステルである、請求項5に記載の難溶性物質の水分散液。
【請求項11】
請求項5に記載の難溶性物質の水分散液を乾燥する、難溶性物質の易分散性組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載の難溶性物質の水分散液を配合した食品。
【請求項13】
請求項5に記載の難溶性物質の水分散液を配合する食品の製造法。
【請求項14】
請求項11に記載の製造方法により製造された、難溶性物質の易分散性組成物を配合する食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水及び油脂に難溶性の物質を水に容易に分散可能な、水分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
両親媒性の物質には、生理活性物質や抗酸化物質など、健康に有効な成分が多く存在する。これらの内、水に溶解し易い成分は、水や糖質を連続相とした食品に配合される事が多く、油脂に溶解しやすい成分は、チョコレート等の連続相が油相の油性食品に配合される事が多い。一方、水及び油脂の何れにも溶解し難い成分、つまり難溶性物質は、食品への配合や、その機能を十分に得る事が困難である。
例えば、L-アスコルビン酸脂肪酸エステルは、L-アスコルビン酸に脂肪酸をエステル結合させたものであり、ビタミンC作用、酸化防止作用を有する。しかしながら、水への溶解度は100ppm以下、油脂への溶解度も300ppm程度と低い事から、食用油脂や脂肪を含む食品への栄養強化剤、酸化防止剤等として少量が使用されているのみである。更に、水に溶解しないために油脂類以外の水を多量に含有する食品(水性食品)には非常に使いにくい。また、使用しても酸化防止効果は極めて小さい。
【0003】
L-アスコルビン酸脂肪酸エステルの水分散性を高める方法としては、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、親水性界面活性剤及び少糖類を配合してなる水分散性アスコルビン酸脂肪酸エステル組成物(特許文献1)、L-アスコルビン酸の高級脂肪酸エステルをシクロデキストリンに包接させて成る親水性包接複合体(特許文献2)、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル、粉末化基材及び油溶性物質を水に加えて乳化し、得られた水中油型乳化組成物を乾燥処理する粉末状L-アスコルビン酸脂肪酸エステル製剤の製造方法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-115951号公報
【特許文献2】特開平10-231244号公報
【特許文献3】特開2014-155453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の方法では、高熱とせん断力(特許文献1)あるいは長時間の処理(特許文献2)も必要である一方、これにより得られる製剤を水に分散すると、その水分散液中のL-アスコルビン酸脂肪酸エステルの平均分散粒子径は10~15μm程度と十分には微細ではなく、分散状態が良好であるとは言えない。このような分散状態では、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル製剤を分散させた水性食品の保存中等にL-アスコルビン酸脂肪酸エステルが析出、沈澱する場合があり、また期待する酸化防止効果等が十分に発揮されるとは言い難い。
特許文献3に記載の方法は、分散状態は改善されているが、未だ、十分に微細化できているとは言えない。また、油溶性物質の配合を必須とするため、油溶性物質の変質(石鹸臭の発生や、酸化臭の発生)のリスクを含んでいる。
【0006】
更に、これらの製剤または組成物は乳化剤に由来する味や臭いなどがあり、好ましいとはいえず、合成乳化剤の利用は、近年の健康志向から忌避される傾向にある。加えて、これらの製剤または組成物は、乳化機などの高シェア力をかけることができる乳化機を用い、高い剪断力でエマルションの乳化粒子を微細化して製造される。
しかしながら、乳化機による微細エマルション調製は製造コストの上昇にもつながり、また高い剪断力での処理は各種機能性原料の変性の原因ともなり得る。
本発明では、難溶性物質を容易に良好に分散させるための、難溶性物質用の水分散剤を得ること、および該水分散剤を用いた、水系食品への配合した際に難溶性物質が容易に分散する、難溶性物質の水分散液または難溶性物質の易分散性組成物を調製することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、特定の性質を有したたん白素材を用いる事で、乳化機を用いずとも、容易に難溶性物質の均一な分散液が調製でき、これを希釈使用した際にも良好な分散状態が得られる事を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は
(1)下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材を有効成分とする、難溶性物質用の水分散剤。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分間加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が10%~95%。
(2)難溶性物質が、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が0.3質量%以下、且つ水への溶解度が0.1質量%以下である、(1)に記載の難溶性物質用の水分散剤。
(3)たん白素材と難溶性物質の質量比が1:25~25:1である、(1)に記載の難溶性物質用の水分散剤。
(4)難溶性物質がアスコルビン酸脂肪酸エステルである、(1)に記載の難溶性物質用の水分散剤。
(5)下記(A)及び(B)の性質を有するたん白素材、難溶性物質および水を含む、難溶性物質の水分散液。
(A)粗蛋白質量 20質量%の水溶液を80℃,30分間加熱後、25℃で測定時の粘度が10,000mPa・s以下。
(B)0.22MのTCA可溶化率が10%~95%。
(6)難溶性物質が、25℃におけるn-ヘキサンへの溶解度が0.3質量%以下、且つ水への溶解度が0.1質量%以下である、(5)に記載の難溶性物質の水分散液。
(7)たん白素材と難溶性物質の質量比が1:25~25:1である、(5)に記載の難溶性物質の水分散液。
(8)たん白素材と水の質量比が20:80~1:200である、(5)に記載の難溶性物質の水分散液。
(9)難溶性物質の平均分散粒子径が1μm以下である、(5)に記載の難溶性物質の水分散液。
(10)難溶性物質がアスコルビン酸脂肪酸エステルである、(5)に記載の難溶性物質の水分散液。
(11)(5)に記載の難溶性物質の水分散液を乾燥する、難溶性物質の易分散性組成物の製造方法。
(12)(5)に記載の難溶性物質の水分散液を配合した食品。
(13)(5)に記載の難溶性物質の水分散液を配合する食品の製造法。
(14)(11)に記載の製造方法により製造された、難溶性物質の易分散性組成物を配合する食品の製造方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水系食品への配合時に、難溶性物質の良好な分散状態が維持されることで、抗酸化性等の機能を十分に高める事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(難溶性物質)
本発明における難溶性物質とは、水及び疎水性溶媒の双方に溶解し難い物質であり、疎水性溶媒とは、好ましくはn-ヘキサンである。25℃での水への溶解度が0.1質量%以下、n-ヘキサンへの溶解度が0.3質量%以下のものが好ましい。
本発明の難溶性物質は更に、その分子構造内に親水部位と疎水部位を有した、両親媒性を有することが好ましい。両親媒性に起因するエタノールへの溶解性を有するものが好ましく、エタノールへの溶解度が5質量%以上であれば、更に好ましい。具体的には、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート等のアスコルビン酸脂肪酸エステル類、ルチン、油溶性のローズマリー抽出物等が例示される。
【0011】
(たん白素材)
本発明に用いるたん白素材は、加熱後の粘度が低いものが必要である。すなわち、たん白素材を粗蛋白質量が20質量%となる水溶液を調製し、80℃,30分間の加熱の後、25℃にて粘度測定する事により測定できる。加熱後粘度は10,000mPa・s以下であり、好ましくは5,000mPa・s以下、1,000mPa・s以下、500mPa・s以下であり、更に好ましくは200mPa・s以下、100 mPa・s以下である。
また、本たん白素材は一定サイズの分子量が必要となる。分子量は、TCA可溶化率で定義される。本発明においてTCA可溶化率は、総粗蛋白質量に対する0.22M TCA中で溶解する粗蛋白質量の比率で定義される。TCA可溶化率は10~95%であり、好ましくは35~90%、更に好ましくは40~85%、50~80%である。TCA可溶化率が低すぎると加熱後粘度が増加する傾向となり適切ではない、また、透過率が低下する。一方、TCA可溶化率が高すぎると、分散性に寄与する蛋白質量が低下し、たん白素材を多く配合する必要が生じるため、配合の自由度が低下し、好ましくない。
【0012】
本たん白素材は、蛋白質の溶解性の指標として用いられているNSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)が80以上のものであることが好ましい。より好ましくはNSIが85以上、90以上、95以上、又は97以上のものを用いることができる。たん白素材のNSIが高いことは、水への分散性が高いことを示し、本発明である水中油型乳化物の分散安定性に寄与し得る。NSIが低すぎると沈殿が生じやすくなり、好ましくない。また、たん白素材中の粗蛋白質含量についても、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が最も好ましい。粗蛋白質含量が多いたん白素材の方が、より少量で機能を出すことが可能となる。
このようなたん白素材は、一般的に市販されていないが、後述する変性および分子量調整処理等により得ることができる。また、市販の大豆たん白素材、例えばフジプロR、フジプロ748、フジプロCL、ハイニュートAM(以上、不二製油社製)等は、本要件に該当しない。
【0013】
上記の調製を行う対象のたん白素材の由来は特に限定されないが、植物性、動物性または微生物由来の蛋白質が使用できる。植物性蛋白質としては、大豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類、藻類、微細藻類などに由来する蛋白質が挙げられる。一例として大豆由来のたん白素材の場合、脱脂大豆や丸大豆等の大豆原料からさらに蛋白質を濃縮加工して調製されるものであり、一般には分離大豆たん白質、濃縮大豆たん白質や粉末豆乳、あるいはそれらを種々加工したものなどが概念的に包含される。
また、動物性の蛋白質としては、卵白アルブミンを含む卵蛋白質、カゼイン、乳清、ラクトアルブミン、ラクトグロブリンなどの乳蛋白質、血漿、血清アルブミン、脱色ヘモグロビンなどの血液に由来する蛋白質、畜肉に由来する蛋白質、魚介類に由来する蛋白質等が挙げられる。更に、酵母、カビ、細菌類等の微生物由来の蛋白質が利用できる。水への溶解性に劣る蛋白質であっても、後述する処理により、本発明に使用できるたん白素材を調製することができる。
【0014】
(変性および分子量調整処理)
本発明の水中油型乳化物に用いられるたん白素材は、蛋白質を分解及び/又は変性させる「分解/変性処理」と、蛋白質の分子量分布の調整する「分子量分布調整処理」を組み合わせて適用することにより得られる。上記「分解/変性処理」の例として、酵素処理、pH調整処理(例えば、酸処理、アルカリ処理)、変性剤処理、加熱処理、冷却処理、高圧処理、有機溶媒処理、ミネラル添加処理、超臨界処理、超音波処理、電気分解処理及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。上記「分子量分布調整処理」の例として、ろ過、ゲルろ過、クロマトグラフィー、遠心分離、電気泳動、透析及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。「分解/変性処理」と「分子量分布調整処理」の順序及び回数は特に限定されず、「分解/変性処理」を行ってから「分子量分布調整処理」を行ってもよいし、「分子量分布調整処理」を行ってから「分解/変性処理」を行ってもよいし、両処理を同時に行ってもよい。また、例えば2回以上の「分子量分布調整処理」の間に「分解/変性処理」を行う、2回以上の「分解/変性処理」の間に「分子量分布調整処理」を行う、各々複数回の処理を任意の順に行う、等も可能である。なお、「分解/変性処理」によって所望の分子量分布が得られる場合は、「分子量分布調整処理」を行わなくてもよい。これらの処理を組み合わせて、複数回行う際、原料から全ての処理を連続で行ってもよいし、時間をおいてから行ってもよい。例えば、ある処理を経た市販品を原料として他の処理を行ってもよい。なお、上記特性を満たす限り、分子量分布調整処理を経たたん白素材と、分子量分布調整処理を経ていないたん白素材を混合して、特定のたん白素材としてもよい。この場合、両者の比率(処理を経たたん白素材:処理を経ていないたん白素材)は上記特性を満たす範囲で適宜調整可能であるが、質量比で例えば1:99~99:1、例えば50:50~95:5、75:25~90:10等が挙げられる。ある実施形態では、本態様の水中油型乳化物に用いられるたん白素材は、「分解/変性・分子量分布調整処理」を経たたん白素材からなる。
【0015】
蛋白質を分解又は変性させる処理の条件、例えば酵素、pH、有機溶媒、ミネラル等の種類や濃度、温度、圧力、出力強度、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。酵素の場合、使用される酵素の例として、「金属プロテアーゼ」、「酸性プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼが挙げられる。反応温度は20~80℃、好ましくは40~60℃で反応を行うことができる。pH調整処理の場合、例えばpH2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12の任意の値を上限、下限とするpH範囲、例えばpH2~12の範囲で処理し得る。酸処理の場合、酸を添加する方法であっても、また、乳酸発酵などの発酵処理を行う方法であってもよい。添加する酸の例として、塩酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。また、レモンなどの果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト、醸造酢などの酸を含有する飲食品を用いて酸を添加してもよい。アルカリ処理の場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加し得る。変性剤処理の場合、塩酸グアニジン、尿素、アルギニン、PEG等の変性剤を添加し得る。加熱又は冷却処理の場合、加熱温度の例として、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃の任意の温度を上限、下限とする範囲、例えば60℃~150℃が挙げられる。冷却温度の例として、-10℃、-15℃、-20℃、-25℃、-30℃、-35℃、-40℃、-45℃、-50℃、-55℃、-60℃、-65℃、-70℃、-75℃の任意の温度を上限、下限とする範囲、例えば-10℃~-75℃が挙げられる。加熱又は冷却時間の例として、5秒、10秒、30秒、1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、120分、150分、180分、200分の任意の時間を上限、下限とする範囲、例えば5秒間~200分間が挙げられる。高圧処理の場合、圧力の条件の例として、100MPa、200MPa、300MPa、400MPa、500MPa、600MPa、700MPa、800MPa、900MPa、1,000MPaの任意の圧力を上限、下限とする範囲、例えば100MPa~1,000MPaが挙げられる。有機溶媒処理の場合、用いられる溶媒の例として、アルコールやケトン、例えばエタノールやアセトンが挙げられる。ミネラル添加処理の場合、用いられるミネラルの例として、カルシウム、マグネシウムなどの2価金属イオンが挙げられる。超臨界処理の場合、例えば、温度約30℃以上で約7MPa以上の超臨界状態の二酸化炭素を使用して処理できる。超音波処理の場合、例えば100KHz~2MHzの周波数で100~1,000Wの出力で照射して処理し得る。電気分解処理の場合、例えば蛋白質水溶液を100mV~1,000mVの電圧を印加することにより処理し得る。具体的な実施形態において、蛋白質を分解及び/又は変性させる処理は、変性剤処理、加熱処理、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0016】
蛋白質の分子量分布を調整する処理の条件、例えばろ材の種類、ゲルろ過の担体、遠心分離回転数、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。ろ材の例として、ろ紙、ろ布、ケイ藻土、セラミック、ガラス、メンブラン等が挙げられる。ゲルろ過の担体の例として、デキストラン、アガロース等が挙げられる。遠心分離の条件の例として、1,000~3,000×g、5~20分間等が挙げられる。
前述した油性素材と任意の割合で混合したものを、流通し使用することができる。
【0017】
(乳化剤)
本発明にて、乳化剤の配合は必須ではないが、乳化剤を配合することもできる。ここで乳化剤と称するものは、合成乳化剤や天然乳化剤を含む。具体的には、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、ポリオキシエチレン誘導体、脂肪酸塩、加工デンプンといった合成乳化剤の他、レシチン、酵素分解レシチン、水素添加酵素分解レシチン、ヒドロキシレシチン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、アセチル化レシチンといった天然由来のレシチン類およびこれらを化学的あるいは酵素処理することで得られたレシチンの誘導体、ダイズサポニンやキラヤサポニン等の天然由来のサポニン類等が挙げられる。また、前述したたん白素材の要件に合致しない蛋白質類、例えば、本発明の処理を行っていない乳カゼインやラクトアルブミン等も、乳化性を有するものは乳化剤に含まれるものとする。例えば、水相および油相に、それぞれに溶解する各種の乳化剤を添加することも可能である。
【0018】
(難溶性物質用の水分散剤)
本発明の第一の様態は、難溶性物質用の水分散剤である。上記特定のたん白素材は、難溶性物質を微細な粒子として水系に分散させることができる。すなわち、上記特定のたん白素材の単品またはこれが有効成分として含まれた組成物は、難溶性物質用の水分散剤として機能する。この際の分散粒子径は、平均分散粒子径として好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、最も好ましくは300nm以下である。また、好ましくは5nm以上であり、更に好ましくは10nm以上であり、最も好ましくは20nm以上である。
【0019】
本発明を難溶性物質用の水分散剤として使用する場合、有効成分である上記特定のたん白素材と難溶性物質の質量比が1:25~25:1であることが好ましい。より好ましくは1:20~20:1であり、更に好ましくは1:7~10:1であり、最も好ましくは1:2~5:1である。たん白素材が少ないと、分散ができなかったり、再度凝集が発生する場合がある。難溶性物質が少ないと、分散剤を積極的に利用する必然性が低下する。
【0020】
難溶性物質および上記特定のたん白素材以外にも、難溶性物質が分散した系中には、本発明に影響の出ない範囲で種々の物質を共存させることが可能である。以降、共存物質と表記する。すなわち、前述した難溶性物質とたん白素材の質量比、およびたん白素材と水との質量比が確保されていれば、多くの場合で共存物質の存在は問題は少ない。以下に例示する。
共存物質としては、糖類、栄養成分(アミノ酸類、ビタミン類等)、塩類、甘味料、酸味料、着色料、その他食品添加物(食物繊維、賦形剤、pH調整剤、保存料、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンE、抽出トコフェロール等)、増粘剤、安定化剤、糊料等)、等が挙げられる。
共存物質は、分散剤中に予め混合させることも可能である。この場合の分散剤中の上記特定のたん白素材の量は、分散剤中の30質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。たん白素材が少ないと分散剤の使用量が増加し、あるいは、機能が得られにくい場合がある。
【0021】
(難溶性物質の水分散液)
本発明の第二の様態は、上記特定のたん白素材が溶解した水溶液に、難溶性物質が分散した分散液である。分散液についても、たん白素材が有効成分であり、このたん白素材の水溶液が難溶性物質の分散に寄与する。たん白素材が分散に関して十分に機能するには、たん白素材と水の質量比が20:80~1:200であることが好ましい。また、15:85~5:95であることが、特に好ましい。
【0022】
(混合・溶解)
以下、水分散液の調製方法について説明する。
まずは上記特定のたん白素材の水溶液を作成することが好ましい。必要に応じて水溶液に他の原料を添加してもよいし、しなくてもよい。水溶液中のたん白素材の濃度は、例えば1~40%、2~35%、3~30%、4~20%、5~15%、6~10%が挙げられる。
得られた水溶液に難溶性物質を加え、例えば40~80℃、好ましくは55~70℃に加温し、10~30分間、手攪拌やパドル攪拌などの穏和な攪拌を行う事で均一な、好ましくは透明性の高い難溶性物質の水分散液が調製できる。攪拌に際し、乳化機等のせん断力を付与する装置を用いても良いが、溶解速度を速める以上の効果は無い。
尚、たん白素材と難溶性物質を予め混合した混合物に、水を添加して攪拌することで、たん白素材の水溶液と、そこに難溶性物質が分散した分散液とを、同時に調製することもできる。
【0023】
(乾燥)
上記で得られた難溶性物質の水分散液は、水分散液をそのまま、または濃縮後に、種々の方法にて乾燥を行う事で、保存性や利便性が向上した易分散性組成物を調製する事ができる。この易分散性組成物が本発明の第三の様態である。乾燥方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法などを用いることができる。これらの中でも、噴霧乾燥法によって得られる噴霧乾燥型粉末が好ましい。噴霧乾燥の場合は、ディスク型のアトマイザー方式や1流体、2流体ノズルによるスプレー乾燥等を利用することができる。乾燥条件は例えば、熱風温度100~200℃、排風温度50~100℃が例示できる。本条件で前述の難溶性物質の水分散液を乾燥することで、水分を15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下含んだ、平均分散粒子径1μm~1mm程度の、好ましくは3μm~500μm程度の、更に好ましくは5μm~200μm程度の粉体粒子を、難溶性物質の易分散性組成物として得ることができる。
難溶性物質の易分散性組成物は水に再溶解させることで、難溶性物質と分散剤であるたん白素材を混合して使用する場合より遥かに容易に、難溶性物質の水分散液を得ることができる。その際の平均分散粒子径は、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、最も好ましくは300nm以下である。また、好ましくは5nm以上であり、更に好ましくは10nm以上であり、最も好ましくは20nm以上である。
【0024】
(用途)
本発明の難溶性物質用の水分散剤、これを用いた難溶性物質の水分散液、更にはこれを乾燥した難溶性物質の易分散性組成物は、何時れもが種々の用途に使用することができる。本発明の主たる成分のたん白素材は可食物であることから、飲食物または医薬品に使用することが好ましい。
この際、組み合わせる難溶性物質が重要であり、例えば、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート等のアスコルビン酸脂肪酸エステル類を本発明により分散させることで、これらが本来有している油水界面での抗酸化能を、著しく上げることができる。アスコルビン酸脂肪酸エステルを難溶性物質とした場合の具体的な利用先としては、油脂を多く含む食品類の酸化防止が挙げられ、乳飲料、コーヒー飲料、調理用クリーム、豆乳等々に例示される飲食物について、これらの開封後の風味劣化を強く抑えることができる。
当該飲食品への、アスコルビン酸脂肪酸エステルとしての添加量は、好ましくは1~1,000ppmであり、更に好ましくは10~100ppmである。濃度が低いと酸化防止の効果が得られない場合があり、濃度が高いと微量で効くとの本発明の優位性が示せない。
ルチン、ローズマリー等にも抗酸化機能があり、上記と同様に使用することが出来る上に、特に光増感酸化の防止に有効である。また、種々の顔料、特に有機物を主体とする顔料を分散させることも有効である。
【実施例0025】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。以下に記載の部または%は、特に記載のない場合は、それぞれ質量部または質量%とする。
【0026】
(たん白素材)
たん白素材として以下を用いた。
・大豆たん白素材A:分離大豆タンパク質の分解/変性・分子量分布調整処理品。(不二製油株式会社テスト製造品、水分 1.2%、粗蛋白含量 79.3%、TCA可溶化率 61.8%、加熱後粘度 28mPa・s、NSI 98.1)原料 分離大豆タンパク質:フジプロR(不二製油社製、粗蛋白質含量 87.2%、TCA可溶化率 3.2%)
・大豆たん白素材B:分離大豆タンパク質の分解/変性・分子量分布調整処理品。(不二製油株式会社テスト製造品、水分 3.3%、粗蛋白含量 87.0%、TCA可溶化率 12.1%、加熱後粘度 95000mPa・s、NSI 93.7)原料 分離大豆タンパク質:フジプロR(不二製油社製、粗蛋白質含量 87.2%、TCA可溶化率 3.2%)
・エンドウたん白素材A:エンドウタンパク質の分解/変性・分子量分布調整処理品。(不二製油株式会社テスト製造品、水分1.1%、粗蛋白含量 72.4%、TCA可溶化率 45.9%、加熱後粘度 43mPa・s、NSI 98.9)原料 エンドウタンパク質:PP-CS(オルガノフードテック(株)社製、粗蛋白質含量 79.1%)
・乳清たん白素材A:乳清タンパク質の分解/変性処理品(不二製油株式会社テスト製造品、水分 1.1%、粗蛋白含量 56.8%、TCA可溶化率 58.2%、加熱後粘度 145mPa・s、NSI 99.6)原料 乳清たん白:WPC80(Warrnambool Cheese & Butter Pty Lftd.社製、粗蛋白質含量 78.9%)
【0027】
以下には、比較例として用いた、本発明の要件を満たさないたん白素材を示した。
・大豆たん白素材C(フジプロR・不二製油社製、粗蛋白質含量 87.2%、TCA可溶化率 3.2%、加熱後粘度 10万mPa・s以上、NSI 81.2)
・大豆たん白素材D(フジプローCL・不二製油社製、粗蛋白質含量 88.0%、TCA可溶化率 23.0%、加熱後粘度 10万mPa・s以上、NSI 65.0)を用いた。
・大豆たん白素材E(ハイニュートAM・不二製油社製、粗蛋白質含量 90.0%、TCA可溶化率100.0%、加熱後粘度 20mPa・s、NSI 100)
・カゼインナトリウム(SodiumCaseinate180・Fonterra社製、粗蛋白質含量 92.3%、TCA可溶化率0.0%、加熱後粘度 10万mPa・s以上、NSI 98.1)
【0028】
(難溶性物質)
難溶性物質A~Dは以下を用いた。
○難溶性物質A:L- アスコルビン酸パルミチン酸エステル 「L- アスコルビン酸パルミチン酸エステル」DSM社製
○難溶性物質B:L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル「6-O-StearoyL-L-ascorbic Acid」東京化成工業社製
○難溶性物質C:ルチン「ルチン」常磐植物化学研究所社製
○難溶性物質D:ローズマリー抽出物(油溶性画分)「RM-21B」三菱化学フーズ社製
【0029】
(難溶性物質の溶解度)
各難溶性物質の溶解度測定は、25質量%となる様に各溶媒に懸濁し、HOMOGENIZING MIXER MARK II(型式:MARK2.5;プライミクス社製)で密閉系で60℃,30分間処理後、25℃に30分間静置し、2,000×G,10分間の遠心分離により上層を回収した。
乾燥法により上層の固形分含量を測定し、溶媒質量とこれに溶解した溶質の溶解質量とした。溶質÷溶媒=溶解度(質量%)として算出した。
ここで用いた難溶性物質A~Dは、水への溶解度は0.1質量%未満、n-ヘキサンへの溶解性が0.3質量%以下と著しく低い一方、エタノールへの溶解度は10質量%以上であった。
【0030】
(表1)各種の難溶性物質の溶解性
【0031】
●実験例1(難溶性物質A~Dの水分散液の調製・実施例1~4,比較例1~5)
1)3L容ステンレス製ジョッキに水道水1400mlを入れ80℃に加温した。
2)上記1)をHOMOGENIZING MIXER MARK II(型式:MARK2.5;プライミクス社製)で低速で攪拌しながら、各溶媒100質量部に対して、表2の配合にて、難溶性物質、水もしくはエタノールおよび、必要によりたん白素材を加え、密閉系で60℃,30分間保持後、25℃に30分間静置し、2,000×G、10分間の遠心分離により上層を回収した。実施例1~4として調製した各難溶性物質の分散液を、分散液A~Dとした。
分散液の評価は、溶解性および平均分散粒子径を測定し、これらを元に総合評価を行った。
【0032】
(溶解性の確認)
実験例1で調製した各試料分散液を原液のまま、孔径0.45μmセルロースメンブレンフィルター(アドバンテック社製)にて、70℃にて難溶性物質の水分散液を通液できたものを可とした。
【0033】
(分散粒子径測定)
試料である難溶性物質の水分散液を、難溶性物質が0.03質量%となるようイオン交換水にて希釈した。Malvern社製 Zetasizer nano-ZS(MODEL ZEN3600)により水中の分散粒子径を、算出されるZ-average(nm)として測定した。測定は試料2gを光路1cmのガラスセルにて、25℃で3回行い、その平均値を平均分散粒子径とした。尚、設定条件は以下の通りであった。
RI(Material)1.47、Absorption(Material)0、Temperature(Dispersant)25(℃)、Viscosity(Dispersant)0.887(cp)、RI(Dispersant)1.33、Equilobration time 60(sec)、Number of runs 10、Run duration 10、Number of measurements 1、Dela betwee measurements 0(sec)。
【0034】
(総合評価)
「溶解性」として示した濃厚液での濾過性を有した上で、希薄液での平均分散粒子径が1,000nm以下のものは可「△」として、更に500nm以下のものについては良好「○」として評価した。
【0035】
(表2)各種の難溶性物質の水分散液の調製
【0036】
表2下段に示す通り、難溶性物質A~Dの何れもが、大豆たん白素材Aの使用で、良好に分散することが判った。
【0037】
●実験例2(各種たん白素材による、難溶性物質の分散・実施例5~7,比較例6~12
表3に示す配合にて、難溶性物質以外を混合し、80℃,10分間、穏和な攪拌(マグネチックスターラーにて、60rpm)を行った。難溶性物質を混合し、80℃,30分間、同条件にて攪拌を行い、難溶性物質の水分散液を調製した。尚、たん白素材以外の乳化性を有する食品素材として、以下を用いた。
・水溶性大豆多糖類:「ソヤファイブ-S-DA100」不二製油製
・アラビアガム:「アラビックコールSS」三栄薬品貿易株式会社製
比較例においては、難溶性物質以外を混合し、80℃,10分間、HOMOGENIZING MIXER MARK II(型式:MARK2.5;プライミクス社製)を用い低速1,000rpmにて攪拌した後、難溶性物質を入れ、高速10,000rpmにて30分間撹拌した。
【0038】
(表3)各種たん白素材による、難溶性物質の分散
【0039】
実施例1と同様に評価したところ、規定された物性を有したたん白素材では(実施例)、難溶性物質を水に分散させる一方で、規定された物性を有しないたん白素材では(比較例)、強いせん断力を与えたにも関わらず、期待された分散性を示さないことが判った
【0040】
●実験例3(有効濃度の検討・実施例8~14)
難溶性物質、たん白素材、水の混合比を変えた検討を行った。表4の組成にて、実施例1と同様に難溶性物質の水分散液を調製し評価したところ、その平均分散粒子径は実施例14で1,000nm以下、他のは500nm以下であった。従って、難溶性物質が当該たん白素材の20倍以下であれば分散状態は維持が可能で、7倍以下であれば強い分散が可能であることが確認できた。
【0041】
(表4)有効濃度比の検討
【0042】
●実験例4(噴霧乾燥による難溶性物質の易分散性組成物・実施例15~19)
表5の組成にて、実施例1と同様に難溶性物質の水分散液を調製した。実施例9-2、15、16の難溶性物質の水分散液を噴霧乾燥し、難溶性物質の易分散性組成物である実施例17、18、19を得た。噴霧乾燥は、入口温度140℃、出口温度90℃とし、乾燥物の水分は常圧加熱減量法にて求めた。得られた粉末を水に再溶解し、評価したところ、平均分散粒径は128nm、201nm、353nmであった。再溶解は、25℃の水 100質量部に易分散性組成物0.2質量部を加え、穏和な攪拌(マグネチックスターラーにて、60rpm)を1分間行った。
【0043】
<粉体粒子径>
粉体粒子径は試料0.1gをイソプロパノール10mlに混合し、タッチミキサーにて再溶解したのちに、レーザー回折型粒度分析装置「SALD-2300」島津製作所製にて、同溶媒にて測定し、メジアン径 D50を粒子径とした。実施例17,18,19はそれぞれ、34.5μm,32.7μm,43.1μmだった。
これより、本発明の難溶性物質混合水溶液は乾燥可能であり、再溶解時に品質を損なわず、流通や用途の制限を著しく低減できることが判った。
【0044】
(表5)噴霧乾燥による、難溶性物質の易分散性組成物
【0045】
(アプリケーション評価)
加熱による劣化臭の内、メイラード反応(香ばしさ)によらない風味変化を、以下では劣化臭と表現する。これらは牛乳由来原料を用いたアプリケーションにおいては、脂質の劣化臭に代表されるものである。また、大豆素材を用いたものにおいては、脂質の劣化臭と硫黄様の悪風味を含むものである。
以下の検討では、アスコルビン酸やアスコルビン酸パルミチン酸エステルを直接添加する従来法に対して、より微量のアスコルビン酸パルミチン酸エステルを分散状態で添加する本法と対比した。
【0046】
●応用例1(牛乳への添加・実施例20~21,比較例13~16)
市販の牛乳(株式会社 明治製 明治おいしい牛乳)を用い、表6の配合にて70℃とし、HOMOGENIZING MIXER MARK II(型式:MARK2.5;プライミクス社製)を用い1,000rpm,10分間の攪拌の後、121℃,10分間のレトルト殺菌を行い風味を評価した。評価は、パネラー5名による合議により行い、以下の0~5点の何れかとした。
0:劣化臭が酷く感じられる。1:劣化臭がかなり感じられる。2:劣化臭が感じられる。3:劣化臭がわずかに感じられるが、喫食できる風味である。4:劣化臭が感じられない。5:劣化臭が全く感じられない。
結果を表6下段に示すが、本発明により分散させたアスコルビン酸パルミテートは、3~10ppmと非常に微量にも関わらず、効果的に劣化臭を抑制できた。
【0047】
(表6)牛乳への、アスコルビン酸パルミテート分散液の添加効果
【0048】
●応用例2(カフェオレへの添加・実施例22~23,比較例17~20)
表7の配合にて、HOMOGENIZING MIXER MARK II(型式:MARK2.5;プライミクス社製)を用い1,000rpm,10分間の攪拌の後、pHを6.6に調整し、高圧ホモジナイザー(型式APV1000、SMT社製)にて15MPaの乳化処理を行った。その後、121℃,30分間のレトルト殺菌を行い、実施例20と同様に風味を評価した。
結果を表7下段に示すが、本発明により分散させたアスコルビン酸パルミテートは、3~10ppmと非常に微量にも関わらず、効果的に劣化臭を抑制できた。
【0049】
(表7)カフェオレへの添加効果
【0050】
●応用例3(クリームへの添加・実施例24~25,比較例21~24)
クリームとして、不二製油製「グランデリカYRC15」(脂質46.1%,無脂乳固形分4.0%,乳脂肪分7.0%,植物性脂肪分38.0%)を用い、表8の配合にて、HOMOGENIZING MIXER MARK II(型式:MARK2.5;プライミクス社製)を用い1,000rpm,10分間の攪拌の後、121℃,30分間のレトルト殺菌を行い、実施例20と同様に風味を評価した。
結果を表8下段に示すが、本発明により分散させたアスコルビン酸パルミテートは、3~10ppmと非常に微量にも関わらず、効果的に劣化臭を抑制できた。
【0051】
(表8)クリームへの添加効果
【0052】
●応用例4(豆乳への添加・実施例26~27,比較例25~28)
市販の豆乳(スジャータめいらく社製 豆腐もできます有機豆乳)を用い、表9の配合にて70℃とし、TKホモミクサーMARK IIを用い1,000rpm,10分間の攪拌の後、121℃,10分間のレトルト殺菌を行い、実施例20と同様に風味を評価した。
結果を表9下段に示すが、本発明により分散させたアスコルビン酸パルミテートは、3~10ppmと非常に微量にも関わらず、効果的に劣化臭を抑制できた。
【0053】
(表9)豆乳への添加効果
【0054】
●応用例5(高たんぱく飲料への添加・実施例28~29,比較例29~32)
粉末状分離大豆たん白として、不二製油製「フジプロR」を用い、表10の配合にて70℃とし、TKホモミクサーMARK IIを用い1,000rpm,10分間の攪拌の後、121℃,30分間のレトルト殺菌を行い、実施例20と同様に風味を評価した。
結果を表10下段に示すが、本発明により分散させたアスコルビン酸パルミテートは、3~10ppmと非常に微量にも関わらず、効果的に劣化臭を抑制できた。
【0055】
(表10)高たんぱく飲料への添加効果
【0056】
●応用例5(畜肉様ハンバーグへの添加・実施例30~31,比較例33~36)
表11に示した配合の畜肉様ハンバーグを調製した。畜肉様ハンバーグの調製方法は、ケンウッドミキサー(愛工舎製作所社製、攪拌速度140rpm)を使用し、大豆油以外の原材料を3分間混合撹拌し、その後、大豆油を加えてさらに3分間混合撹拌した。撹拌した生地を1個50gに成型した(φ58mm×高さ18mm)。家庭用蒸し器にて12分間蒸し、121℃,30分間のレトルト殺菌の後、実施例20と同様に風味を評価した。なお、粒状大豆蛋白(不二製油株式会社製)は3倍加水したものを使用した。
結果を表11下段に示すが、本発明により分散させたアスコルビン酸ステアレートは、3~10ppmと非常に微量にも関わらず、効果的に劣化臭を抑制できた。
【0057】
(表11)畜肉様ハンバーグへの添加効果
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、難溶性物質を容易に水に分散することができる。例えばアスコルビン酸パルミテート等の抗酸化剤であれば、分散によりその効果を著しく高め、食品を始め種々の分野での応用が期待できる。