(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040548
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20240318BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144960
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 公一
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA03
3J552PA20
3J552RA20
3J552SA07
3J552TA01
3J552VA32W
3J552VA32Y
3J552VA76W
3J552VA76Y
(57)【要約】
【課題】変速機で発生する衝撃を抑制すること。
【解決手段】車両は、駆動源と、駆動源に接続される変速機であって、トルクコンバータと、油圧式の切替機構と、を含む、変速機と、制御装置と、を備える。制御装置のプロセッサは、記憶媒体に記憶される命令にしたがって、変速機がニュートラルから前進走行に切り替えられる場合、または、ニュートラルから後進走行に切り替えられる場合、トルクコンバータのタービン軸の回転数L2を取得することと、回転数L2が単位時間あたりに所定の減少量Xthよりも大きく減少するか否かを判定することと、回転数L2が単位時間あたりに所定の減少量Xthよりも大きく減少する場合、次回の同じ切り替えの際に、切替機構の油室へ供給するオイルの圧力P2を低下させることと、を実行するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源に接続される変速機であって、
前記駆動源に接続されるトルクコンバータと、
前記トルクコンバータに接続され、前進走行、後進走行およびニュートラルの間で当該変速機を切り替える、油圧式の切替機構と、
を含む、変速機と、
前記駆動源および前記変速機を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、1または複数のプロセッサと、前記プロセッサによって実行される命令を記憶する1または複数の記憶媒体と、を含み、
前記プロセッサは、前記命令にしたがって、
前記変速機が前記ニュートラルから前記前進走行に切り替えられる場合、または、前記ニュートラルから前記後進走行に切り替えられる場合、前記トルクコンバータのタービン軸の回転数を取得することと、
前記回転数が単位時間あたりに所定の減少量よりも大きく減少するか否かを判定することと、
前記回転数が前記単位時間あたりに前記所定の減少量よりも大きく減少する場合、次回の同じ切り替えの際に、前記切替機構の油室へ供給するオイルの圧力を低下させることと、
を実行するように構成される、
車両。
【請求項2】
前記オイルの圧力を低下させることは、
前記回転数の前記単位時間あたりの目標の減少量と、前記回転数の前記単位時間あたりの実際の減少量と、の間の差を計算することと、
前記差に所定のゲインを乗ずることによって補正値を計算することと、
今回の切り替えの際の前記オイルの圧力から前記補正値を減ずることと、
を含み、
前記所定のゲインは、
前記変速機が前記ニュートラルから前記前進走行に切り替えられる場合に前記補正値の計算に使用される第1のゲインと、
前記変速機が前記ニュートラルから前記後進走行に切り替えられる場合に前記補正値の計算に使用され、前記第1のゲインとは異なる第2のゲインと、
を含む、
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記命令にしたがって、
前記変速機の前記切り替えが入力された後に前記回転数が減少し始めるまでの応答時間が、所定の目標値よりも短いか否かを判定すること、
を実行するように構成され、
前記回転数が前記単位時間あたりに前記所定の減少量よりも大きく減少するか否かを判定することは、前記応答時間が前記所定の目標値よりも短い場合に実行される、
請求項1または2に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、一般的に変速機を備える。変速機は、動力源の回転数を変換し、変換された回転数を車輪に伝える。また、変速機は、前進および後進を切り替えるための油圧式の機構を含む場合がある(本開示において、「切替機構」とも称され得る)。例えば、ドライバは、レバー、スイッチまたはパドル等の選択器によって、前進走行、後進走行、および、ニュートラルを選択することができる。特許文献1は、このような切替機構を含む変速機を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような切替機構の評価指標として、例えば、応答の早さ、および、衝撃の程度が使用され得る。例えば、切替機構がニュートラルから前進走行、または、ニュートラルから後進走行に切り替えられる場合、対応する油室にオイルが供給される。応答時間を短縮するためには、オイルを高圧で油室に素早く充填することが考えられる。しかしながら、本発明者は、油圧を増加しても応答時間が短縮されない不感領域を、切替機構が有することを見出した。このような不感領域において、応答時間を短縮するために切替機構が油圧を増加し続ける場合、回転数が急激に変化し、衝撃が増加するおそれがある。
【0005】
本発明は、変速機で発生する衝撃を抑制することができる車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両は、
駆動源と、
前記駆動源に接続される変速機であって、
前記駆動源に接続されるトルクコンバータと、
前記トルクコンバータに接続され、前進走行、後進走行およびニュートラルの間で当該変速機を切り替える、油圧式の切替機構と、
を含む、変速機と、
前記駆動源および前記変速機を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、1または複数のプロセッサと、前記プロセッサによって実行される命令を記憶する1または複数の記憶媒体と、を含み、
前記プロセッサは、前記命令にしたがって、
前記変速機が前記ニュートラルから前記前進走行に切り替えられる場合、または、前記ニュートラルから前記後進走行に切り替えられる場合、前記トルクコンバータのタービン軸の回転数を取得することと、
前記回転数が単位時間あたりに所定の減少量よりも大きく減少するか否かを判定することと、
前記回転数が前記単位時間あたりに前記所定の減少量よりも大きく減少する場合、次回の同じ切り替えの際に、前記切替機構の油室へ供給するオイルの圧力を低下させることと、
を実行するように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、変速機で発生する衝撃を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車両を示す概略図である。
【
図3】
図3は、変速機がニュートラルから前進走行に切り替えられる場合の各種パラメータの推移の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、ECUの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、明細書および図面において、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係る車両100を示す概略図である。例えば、車両100は、HEV(Hybrid Electric Vehicle)、ガソリン自動車、または、ディーゼル自動車等、エンジン2を備える車両である。本実施形態では、車両100は、ガソリン自動車である。車両100は、エンジン(駆動源)2と、変速機3と、シフトレバー(選択器)4と、ECU(Electronic Control Unit)(制御装置)50と、を備える。車両100は、その他の様々な構成要素をさらに備えてもよい。
【0011】
エンジン2は、例えば、1つまたは複数の気筒を含むガソリンエンジンであることができる。エンジン2のクランク軸2aは、変速機3に接続される。クランク角センサS1は、クランク軸2aの回転数、すなわちエンジン2の回転数を測定する。クランク角センサS1は、ECU50と通信可能に接続され、測定データをECU50に送信する。
【0012】
変速機3は、エンジン2の回転数、すなわち、クランク軸2aの回転数を変換し、変換された回転数を不図示の車輪に伝える。変速機3は、様々なタイプの変速機であってもよい。本実施形態では、変速機3は、チェーン式の無段変速機(CVT)である。変速機3は、トルクコンバータ30と、切替機構31と、バリエータVと、を含む。また、バリエータVは、プライマリ軸32と、セカンダリ軸33と、プライマリプーリ34と、セカンダリプーリ35と、チェーン36と、を含む。変速機3は、その他の構成要素をさらに含んでもよい。
【0013】
トルクコンバータ30は、クラッチ機能およびトルク増幅機能を有する。トルクコンバータ30は、ポンプインペラ30aと、タービンランナ30bと、ステータ30cと、タービン軸30dと、ロックアップクラッチ30eと、を含む。トルクコンバータ30は、その他の構成要素をさらに含んでもよい。
【0014】
ポンプインペラ30aは、エンジン2のクランク軸2aに接続される。ポンプインペラ30aは、クランク軸2aと一体的に回転し、オイルの流れを生み出す。
【0015】
タービンランナ30bは、ポンプインペラ30aに対向するように配置される。タービンランナ30bは、オイルを介してポンプインペラ30aの回転力を受ける。タービンランナ30bは、タービン軸30dに接続される。タービン軸30dは、タービンランナ30bと一体的に回転する。回転角度センサS2は、タービン軸30dの回転数を測定する。回転角度センサS2は、ECU50と通信可能に接続され、測定データをECU50に送信する。
【0016】
ステータ30cは、ポンプインペラ30aとタービンランナ30bとの間に配置される。ステータ30cは、タービンランナ30bからの排出流を整流し、ポンプインペラ30aに流れを戻す。これによって、トルクが増幅される。
【0017】
ロックアップクラッチ30eは、クランク軸2aをタービン軸30dに直接的に結合する。ロックアップクラッチ30eがクランク軸2aに係合しない場合、クランク軸2aのトルクは、増幅されてタービン軸30dに伝えられる。ロックアップクラッチ30eがクランク軸2aに係合する場合、クランク軸2aのトルクは、直接的にタービン軸30dに伝えられる。
【0018】
切替機構31は、駆動輪を正転と逆転との間で切り替える。すなわち、切替機構31は、車両100を前進走行と後進走行との間で切り替える。例えば、切替機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列31aと、前進クラッチ31bと、後進クラッチ31cと、を備える。切替機構31は、前進クラッチ31bおよび後進クラッチ31cを制御することにより、変速機3を、前進走行、後進走行およびニュートラルの間で切り替える。
【0019】
前進クラッチ31bは油室C1を含み、この油室C1には、前進クラッチ31bを接続するためのオイルが供給される。後進クラッチ31cは油室C2を含み、この油室C2には、後進クラッチ31cを接続するためのオイルが供給される。切替機構31は、プライマリ軸32に接続される。
【0020】
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられる。プライマリプーリ34は、固定シーブ34aと、可動シーブ34bと、を含む。固定シーブ34aは、プライマリ軸32に固定される。可動シーブ34bは、固定シーブ34aに対向する。可動シーブ34bは、プライマリ軸32の軸方向に摺動可能であり、かつ、プライマリ軸32に対して相対回転不能に構成される。プライマリプーリ34は、固定シーブ34aと、可動シーブ34bとの間の間隔、すなわち、プーリ溝幅が変更可能に構成される。
【0021】
セカンダリ軸33には、セカンダリプーリ35が設けられる。セカンダリプーリ35は、固定シーブ35aと、可動シーブ35bと、を含む。固定シーブ35aは、セカンダリ軸33に固定される。可動シーブ35bは、固定シーブ35aに対向する。可動シーブ35bは、セカンダリ軸33の軸方向に摺動可能であり、かつ、セカンダリ軸33に対して相対回転不能に構成される。セカンダリプーリ35は、固定シーブ35aと、可動シーブ35bとの間のプーリ溝幅が変更可能に構成される。
構成されている。
【0022】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には、チェーン36が架け渡される。バリエータVでは、プライマリプーリ34およびセカンダリプーリ35の各々のプーリ溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させる。これによって、バリエータVは、変速比を無段階で変更する。
【0023】
プライマリプーリ34の可動シーブ34bは、油室C3を含み、セカンダリプーリ35の可動シーブ35bは、油室C4を含む。油室C3,C4の各々には、プーリ比(変速比)を変化させるための油圧と、チェーン36の滑りを防止するための油圧とが供給される。
【0024】
変速機3は、油室C1,C2,C3,C4にオイルを供給するためのバルブボディ40を含む。例えば、バルブボディ40には、コントロールバルブ機構が組み込まれる。このコントロールバルブ機構は、例えば、油流路に設けられる1つまたは複数のスプールバルブと、当該スプールバルブを動かす1つまたは複数のソレノイドバルブと、を含む。バルブボディ40は、これらのバルブによって油圧油路を開閉することで、不図示のオイルポンプから供給されるオイルを、調整された圧力で各油室C1,C2,C3,C4に供給する。例えば、バルブボディ40は、ECU50と通信可能に接続される。ECU50は、バルブボディ40のソレノイドバルブを制御することによって、各油室C1,C2,C3,C4に供給されるオイルの圧力を調整する。各油室C1,C2,C3,C4に付与される油圧は、例えば、オイルポンプから供給される油圧に基づいて算出可能である。特に、バルブボディ40は、前進クラッチ31bの油室C1、および、後進クラッチ31cの油室C2へのオイルの圧力を調整するための油流路41を含む。
【0025】
シフトレバー4は、例えば、パーキング(Pレンジ)、後進走行(Rレンジ)、ニュートラル(Nレンジ)、前進走行(Dレンジ)およびマニュアル(Mレンジ)を含む。シフトレバー4は、他のレンジをさらに含んでもよい。また、他の実施形態では、シフトレバー4に代えて、スイッチまたはパドル等の他の選択器が使用されてもよい。
【0026】
シフトレバー4によってDレンジが選択される場合、油流路41は、前進クラッチ31bの油室C1にオイルを供給すると共に、後進クラッチ31cの油室C2からオイルを排出する。これによって、前進クラッチ31bが接続され、かつ、後進クラッチ31cが解放される。この場合、タービン軸30dの回転がプライマリ軸32に伝達され、車両100が前進する。
【0027】
シフトレバー4によってRレンジが選択される場合、油流路41は、後進クラッチ31cの油室C2にオイルを供給すると共に、前進クラッチ31bの油室C1からオイルを排出する。これによって、前進クラッチ31bが解放され、かつ、後進クラッチ31cが接続される。この場合、遊星歯車列31aが作動され、タービン軸30dの回転は、プライマリ軸32に逆転されて伝達される。したがって、車両100は後進する。
【0028】
シフトレバー4によってNレンジまたはPレンジが選択される場合、油流路41は、前進クラッチ31bの油室C1および後進クラッチ31cの油室C2の各々からオイルを排出する。これによって、前進クラッチ31bおよび後進クラッチ31cは解放される。この場合、タービン軸30dは、プライマリ軸32から切り離され、タービン軸30dの回転はプライマリ軸32に伝達されない。
【0029】
ECU50は、例えば、CPU等の1または複数のプロセッサ51と、ROMおよびRAM等の1または複数の記憶媒体52と、1または複数のコネクタ53と、を含む。ECU50は、他の構成要素をさらに有してもよい。ECU50の構成要素は、バスによって互いに通信可能に接続される。記憶媒体52は、プロセッサ51によって実行される1または複数のプログラムを記憶する。プログラムは、プロセッサ51に対する命令を含む。本開示に示されるECU50の動作は、記憶媒体52に記憶された命令をプロセッサ51で実行することによって、実現される。ECU50は、コネクタ53を介して車両100の構成要素と通信可能に接続される。
【0030】
図2は、ECU50の機能ブロック図である。プロセッサ51は、シフトレバー4が、NレンジからDレンジに切り替えられる場合、および、NレンジからRレンジに切り替えられる場合に、応答の早さを調整するための第1調整部54と、衝撃の程度を調整するための第2調整部55と、として機能する。
【0031】
図3は、変速機3がニュートラルから前進走行に切り替えられる場合、すなわち、シフトレバー4がNレンジからDレンジに切り替えられる場合の、各種パラメータの推移の一例を示すグラフである。この例では、油流路41が、前進クラッチ31bの油室C1にオイルを供給する。なお、変速機3がニュートラルから後進走行に切り替えられる場合、すなわち、シフトレバー4がNレンジからRレンジに切り替えられる場合にも、各種パラメータは、同様な推移を示す。この場合、油流路41は、後進クラッチ31cの油室C2にオイルを供給する。
【0032】
図3の(a)、(b)および(c)において、横軸は時刻を示す。
【0033】
図3の(a)において、縦軸は回転数を示す。破線L1は、クランク軸2aの回転数、すなわちエンジン2の回転数を示す。破線L1は、クランク角センサS1によって測定可能である。実線L2は、タービン軸30dの回転数を示す。例えば、実線L2は、回転角度センサS2によって測定可能である。
【0034】
図3の(b)において、縦軸は単位時間当たりの回転数の変化量(減少量)、具体的には、1秒間あたりの回転数の変化量を示す。実線L3は、
図3(a)のタービン軸30dの回転数L2の単位時間当たりの変化量を示す。したがって、実線L3は、
図3(a)の実線L2から算出可能である。
【0035】
図3の(c)において、縦軸は油圧を示す。実線L4は、油流路41から、前進クラッチ31bの油室C1に与えられるオイルの圧力を示す。実線L4は、例えば、オイルポンプから油流路41に供給される油圧に基づいて算出可能である。
【0036】
図3の例では、時刻t1において、シフトレバー4が、NレンジからDレンジに切り替えられる。時刻t1よりも前は、変速機3はニュートラルであり、エンジン2はアイドリング中である。この場合、タービン軸30dは車輪には接続されず、エンジン2と略一体となって回転する。したがって、
図3の(a)に示されるように、時刻t1よりも前は、エンジン2の回転数L1およびタービン軸30dの回転数L2の双方がR1に維持される。
【0037】
時刻t1において、シフトレバー4が、NレンジからDレンジに切り替えられると、
図3の(c)に示されるように、油流路41が、油室C1にオイルを供給し始める。オイルの圧力はP1まで増加し、P1に維持される。続いて、時刻t2において、圧力はP2まで減少する。これは油室C1にオイルを満たす、所謂プリチャージ制御のために行われ、時刻t2において、油室C1にオイルが満たされるタイミングで一旦圧力をP2まで下げる。時刻t2から、圧力はP2から徐々に増加される。
【0038】
続いて、時刻t3において、油室C1に十分なオイルが供給されると、前進クラッチ31bが接続される。これによって、タービン軸30dと車輪とが接続され、タービン軸30dには、車輪からトルクが負荷される。したがって、
図3の(a)に示されるように、タービン軸30dの回転数L2は、時刻t3から減少し始める。同様に、エンジン2の回転数L1も、時刻t3から減少し始める。この状態では、
図3の(b)に示されるように、タービン軸30dの回転数の変化量L3が減少し始める。
【0039】
続いて、時刻t4において、
図3の(a)に示されるように、タービン軸30dの回転数L2は、R2に収束する。この状態では、
図3の(b)に示されるように、回転数の変化量L3はゼロに戻る。
【0040】
上記のようなグラフにおいて、時刻t1から時刻t3までの応答時間tp1は、シフトレバー4がNレンジからDレンジに切り替えられた後に、タービン軸30dの回転数L2が減少し始めるまでの時間の長さ、すなわち、前進クラッチ31bを接続するための時間の長さを表す。応答時間tp1を評価することによって、変速機3の応答の早さを評価することができる。
【0041】
応答時間tp1を短縮するためには、油室C1へのオイルの圧力P1を高く設定することによって、油室C1をオイルで満たすための時間の長さを短縮することができる。また、油室C1へのオイルの圧力P2を高く設定することによって、前進クラッチ31bをすばやく接続することができる。しかしながら、本発明者は、圧力P1をある値よりも高く設定すると、圧力P2を高く設定しても応答時間tp1がもはや変化しない、不感領域を変速機3が有することを見出した。このような不感領域において、応答時間tp1を短縮するために圧力P2が高く設定されると、回転数の変化量L3が急激に減少し、衝撃が増加するおそれがある。
【0042】
上記のような知見に基づいて、本実施形態では、プロセッサ51は、シフトレバー4が、NレンジからDレンジに切り替えられる場合、および、NレンジからRレンジに切り替えられる場合に、上記のように、応答の早さを調整するための第1調整部54と、衝撃の程度を調整するための第2調整部55と、として機能する。
【0043】
第1調整部54として機能する場合、プロセッサ51は、応答時間tp1が、所定の目標値よりも短いか否かを判定する。例えば、応答時間tp1が目標値よりも短くない場合、プロセッサ51は、圧力P1および圧力P2の少なくとも一方を調整(増加または減少)する。これによって、応答時間tp1が短縮される。例えば、目標値は、記憶媒体52に記憶される。
【0044】
第2調整部55として機能する場合、プロセッサ51は、タービン軸30dの回転数L2が、単位時間あたりに所定の閾値(所定の減少量)Xthよりも大きく減少するか否かを判定する。言い換えると、プロセッサ51は、単位時間あたりのタービン軸30dの回転数L2の減少量L3が、所定の減少量Xthよりも大きいか否かを判定する。より具体的には、回転数L2が変化している期間tp2における、変化量L3の最小値Xminが、閾値Xthよりも小さいか否かを判定する。例えば、閾値Xthは、許容可能な最大の衝撃を引き起こす値として、実験または解析によって決定されてもよい。例えば、閾値Xthは、記憶媒体52に記憶される。
【0045】
図3の(b)に示されるように、変化量L3の最小値Xminが閾値Xthよりも小さい場合、プロセッサ51は、次回の同じ切り替えの際に、オイルの圧力P2を低減する。
図3の例では、次回のNレンジからDレンジへの切り替えの際に、油室C1へのオイルの圧力P2を低減する。
【0046】
具体的には、プロセッサ51は、タービン軸30dの回転数L2の単位時間あたりの目標の減少量と、回転数L2の単位時間あたりの実際の減少量と、の間の差を計算する。例えば、プロセッサ51は、閾値Xthと、変化量L3の最小値Xminと、の間の差を計算する。
【0047】
続いて、プロセッサ51は、計算された差に所定の第1のゲインを乗ずることによって、補正値を計算する。計算された補正値は、記憶媒体52に記憶され、次回のNレンジからDレンジへの切り替えの際には、圧力P2から補正値を減じた値が、新たな圧力P2として使用される。例えば、第1のゲインは、圧力P2が適切に減少されるように、実験または解析によって決定されてもよい。例えば、第1のゲインは、記憶媒体52に記憶される。
【0048】
変速機3がニュートラルから後進走行に切り替えられる場合、すなわち、シフトレバー4がNレンジからRレンジに切り替えられる場合にも、同様にして補正値が算出される。この場合には、第1のゲインとは異なる第2のゲインが使用される。これは、DレンジとRレンジではギヤ比等が異なることから、それぞれ最適なゲインが事前に実験等で決定されている。例えば、第2のゲインは、記憶媒体52に記憶される。次回のNレンジからRレンジへの切り替えの際には、圧力P2から補正値を減じた値が、新たな圧力P2として使用される。
【0049】
続いて、ECU50の動作について説明する。
【0050】
図4は、ECU50の動作を示すフローチャートである。
図4に示される動作は、シフトレバー4がNレンジからDレンジに切り替えられる場合、および、シフトレバー4がNレンジからRレンジに切り替えられる場合に開始される。
【0051】
ECU50のプロセッサ51は、タービン軸30dの回転数L2を取得する(ステップS100)。例えば、プロセッサ51は、回転角度センサS2から、タービン軸30dの回転数L2を受信する。
【0052】
プロセッサ51は、取得したタービン軸30dの回転数L2の推移に基づいて、応答時間tp1が目標値よりも短いか否かを判定する(ステップS102)。
【0053】
ステップS102において、応答時間tp1が目標値よりも短くない場合(NO)、プロセッサ51は、圧力P1および圧力P2の少なくとも一方を調整し(ステップS104)、一連の動作を終了する。
【0054】
ステップS102において、応答時間tp1が目標値よりも短い場合(YES)、プロセッサ51は、取得したタービン軸30dの回転数L2の推移に基づいて、回転数L2が、単位時間あたりに閾値Xthよりも大きく減少したか否かを判定する(ステップS106)。例えば、プロセッサ51は、回転数L2が変化している期間tp2における、変化量L3の最小値Xminが、閾値Xthよりも小さいか否かを判定する。
【0055】
ステップS106において、回転数L2が単位時間あたりに閾値Xthよりも大きく減少しなかった場合(NO)、プロセッサ51は、圧力P2を維持し(ステップS108)、一連の動作を終了する。
【0056】
ステップS106において、回転数L2が単位時間あたりに閾値Xthよりも大きく減少した場合(YES)、プロセッサ51は、補正値を計算する(ステップS110)。例えば、プロセッサ51は、閾値Xthと最小値Xminとの間の差を計算し、計算された差に第1のゲインを乗ずる。NレンジからRレンジへの切り替えの場合には、計算された差に第2のゲインを乗ずる。プロセッサ51は、一連の動作を終了する。計算された補正値は、記憶媒体52に記憶され、次回の同じ切り替えの際には、圧力P2から補正値を減じた値が、新たな圧力P2として使用される。
【0057】
以上のような車両100は、エンジン2と、エンジン2に接続される変速機3と、エンジン2および変速機3を制御するECU50と、を備える。変速機3は、エンジン2に接続されるトルクコンバータ30と、トルクコンバータ30に接続され、前進走行、後進走行およびニュートラルの間で変速機3を切り替える油圧式の切替機構31と、を含む。ECU50は、1または複数のプロセッサ51と、プロセッサ51によって実行される命令を記憶する1または複数の記憶媒体52と、を含む。プロセッサ51は、命令にしたがって、変速機3がニュートラルから前進走行に切り替えられる場合、または、ニュートラルから後進走行に切り替えられる場合、トルクコンバータ30のタービン軸30dの回転数L2を取得することと、回転数L2が単位時間あたりに所定の減少量Xthよりも大きく減少するか否かを判定することと、回転数L2が単位時間あたりに所定の減少量Xthよりも大きく減少する場合、次回の同じ切り替えの際に、切替機構31の油室C1,C2へ供給するオイルの圧力P2を低下させることと、を実行するように構成される。このような構成によれば、タービン軸30dの回転数L2の変化量L3が、許容可能な衝撃を引き起こす閾値Xthよりも小さくなるように、圧力P2を補正することができる。したがって、変速機3で発生する衝撃を抑制することができる。
【0058】
また、車両100では、オイルの圧力P2を低下させることは、回転数L2の単位時間あたりの目標の減少量(例えば、閾値Xth)と、回転数L2の単位時間あたりの実際の減少量(例えば、最小値Xmin)と、の間の差を計算することと、この差に所定のゲインを乗ずることによって補正値を計算することと、今回の切り替えの際のオイルの圧力P2から補正値を減ずることと、を含み、所定のゲインは、変速機3がニュートラルから前進走行に切り替えられる場合に計算に使用される第1のゲインと、変速機3がニュートラルから後進走行に切り替えられる場合に計算に使用され、第1のゲインとは異なる第2のゲインと、を含む。このような構成によれば、ニュートラルから前進走行への切り替え、および、ニュートラルから後進走行への切り替えの各々に対して、適したゲインを設定することができる。
【0059】
また、車両100では、プロセッサ51は、命令にしたがって、変速機3の切り替えが入力された後に回転数L2が減少し始めるまでの応答時間tp1が、所定の目標値よりも短いか否かを判定すること、を実行するように構成され、回転数L2が単位時間あたりに所定の閾値Xthよりも大きく減少するか否かを判定することは、応答時間tp1が所定の目標値よりも短い場合に実行される。このような構成によれば、変速機3の応答の早さおよび衝撃の程度の双方を調整することができる。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記実施形態のECU50のステップは、上記の順番で実施されなくてもよく、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、異なる順番で実施されてもよい。
【0061】
例えば、上記の実施形態では、次回のオイルの圧力P2を計算することは、回転数L2の単位時間あたりの目標の減少量(例えば、閾値Xth)と、回転数L2の単位時間あたりの実際の減少量(例えば、最小値Xmin)と、の間の差を計算することと、この差に所定のゲインを乗ずることによって補正値を計算することと、今回のオイルの圧力P2から補正値を減ずることと、を含む。他の実施形態では、次回のオイルの圧力P2の計算に、他の式が使用されてもよい。
【0062】
例えば、上記の実施形態では、今回の圧力P2から補正値を減じた値が、次回の圧力P2として使用される。他の実施形態では、補正値は、今回の圧力P2に対する割合であってもよい(0<補正値<1)。例えば、今回の圧力P2に補正値を乗じた値が、次回の圧力P2として使用されてもよい。
【0063】
また、上記の実施形態では、補正値は、目標の減少量と実際の減少量との間の差を用いる一次式によって計算される。他の実施形態では、補正値は、目標の減少量と実際の減少量との間の差を用いる二次式等の他のn次式によって計算されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
2 エンジン(駆動源)
3 変速機
30 トルクコンバータ
30d タービン軸
31 切替機構
50 ECU(制御装置)
51 プロセッサ
52 記憶媒体
100 車両
C1 油室
C2 油室
L2 タービン軸の回転数
P2 オイルの圧力
tp1 応答時間
Xth 閾値(所定の減少量)