(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040550
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】蓄電デバイス、端子部品および蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/008 20060101AFI20240318BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20240318BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20240318BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240318BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01G9/008 303
H01G9/02
H01G9/035
H01G9/00 290D
H01G9/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144963
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】大倉 数馬
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(57)【要約】
【課題】多水分の電解液を利用した場合でも端子部品の劣化など、蓄電デバイスの性能低下を防止する。
【解決手段】この蓄電デバイス(コンデンサ2)は、セパレータ(34)と陽極箔(30)と陰極箔(32)を有する蓄電素子(コンデンサ素子8)と、陽極箔と陰極箔に設置された端子部品(陽極端子10A、陰極端子10B)とを備え、陽極箔に設置された端子部品は、少なくとも陽極箔の箔面に接続される平坦部(20)の一部または全部の表面に樹脂被膜層(28)が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータと陽極箔と陰極箔を有する蓄電素子と、
前記陽極箔と前記陰極箔に設置された端子部品と、
を備え、
前記陽極箔に設置された前記端子部品は、少なくとも前記陽極箔の箔面に接続される平坦部の一部または全部の表面に樹脂被膜層が形成されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記端子部品の前記樹脂被膜層は、泳動電着法により前記平坦部の一部または全部が被覆されることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記平坦部の前記陽極箔との接触面と前記接触面と接する他の面とで形成される角部に前記樹脂被膜層が被覆されることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記平坦部の前記樹脂被膜層は、前記陽極箔との接触面に形成される前記樹脂被膜層の厚さに対して、前記接触面と接する他の面に形成される前記樹脂被膜層の厚さが、 1:0.6以上 の関係になるように形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
さらに、前記蓄電素子に含浸させる電解液を備え、
該電解液は、水分の濃度が20[wt%]以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記樹脂被膜層は、少なくとも2[μm]の厚さに形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記セパレータは、セルロース繊維を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
蓄電デバイスに用いられる端子部品であって、
前記蓄電デバイスの陽極箔に接続される平坦部と、前記平坦部に接続された外部端子と、を備え、
前平坦部の一部または全部の表面に樹脂被膜層が形成されている端子部品。
【請求項9】
一端側に箔面と接続する平坦部を含み、少なくとも陽極箔に設置される前記平坦部の一部または全部の表面に泳動電着法を利用して樹脂被膜層を備える端子部品を形成する工程と、
前記陽極箔と陰極箔にそれぞれ前記端子部品を設置する工程と、
セパレータと前記陽極箔と前記陰極箔を備える蓄電素子を形成する工程と、
を含むことを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、蓄電素子に接続させる端子部品の劣化防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサなど蓄電デバイスは、電圧や電流の変動により生じるリプル電流が流れることで発熱し、ケース内の温度が上昇する。このようなコンデンサ内部の温度上昇はコンデンサの機能性や信頼性、または寿命などに影響する。そのため蓄電デバイスでは、許容できるリプル電流値を大きくすることが求められている。許容リプル電流値を大きくするためには、蓄電デバイスのESR(等価直列抵抗:Equivalent Series Resistance)を低減させることが有効である。そしてこのESRを低下させる手段として、電解液内に含有する水分量を多くするものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
そのほか、低ESRと耐ショート性を両立させる手段として、蓄電素子に用いられるセパレータにセルロース繊維を用いるものがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-019773号公報
【特許文献2】特開2018-073856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蓄電デバイスでは、陽極箔と陰極箔がショートするのを防止するほか、電解液を保持するために陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させている。とくに中高圧用の電解コンデンサ用では、耐ショート性および機械的強度を重視し、高密度のクラフト紙がセパレータとして使用されている。また、高密度のクラフト紙を用いると、電解コンデンサのESRが高くなる傾向があることから、電解液として水を多く含有した低比抵抗な電解液を用いることがある。しかしながら、水分を多く含んだ電解液を使用した場合、クラフト紙のセルロースが加水分解することで蟻酸が発生する。そしてこの蟻酸の発生により蓄電素子では、たとえば陽極側の端子が劣化するなどの影響を受ける可能性がある。
このような端子の劣化が生じた場合、端子と電極箔との電気的な接続の低下や断線などが生じるおそれがある。
本開示の技術の発明者は、多水分の電解液を採用して蓄電デバイスのESRの低下を図るとともに、電解液に陽極側端子を直接接触させないことで、蟻酸などの影響を回避できるとの知見を得た。
【0006】
斯かる課題について、引用文献1、2には開示や示唆はなく、特許文献1、2に開示された構成では斯かる課題を解決することができない。
【0007】
そこで、本開示の技術の目的は、上記発明の課題に鑑み、多水分の電解液を利用した場合でも端子部品の劣化など、蓄電デバイスの性能低下を防止することにある。
【0008】
また、本開示の技術の他の目的は、多水分の電解液を利用してESRを低減し、蓄電デバイスの許容リプル電流の上限値を大きくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本開示の蓄電デバイスの一側面は、セパレータと陽極箔と陰極箔を有する蓄電素子と、前記陽極箔と前記陰極箔に設置された端子部品とを備え、前記陽極箔に設置された前記端子部品は、少なくとも前記陽極箔の箔面に接続される平坦部の一部または全部の表面に樹脂被膜層が形成されている。
【0010】
上記蓄電デバイスにおいて、前記端子部品の前記樹脂被膜層は、泳動電着法により前記平坦部の一部または全部が被覆される。
上記蓄電デバイスにおいて、前記平坦部の前記陽極箔との接触面と前記接触面と接する他の面とで形成される角部に前記樹脂被膜層が被覆される。
上記蓄電デバイスにおいて、前記平坦部の前記樹脂被膜層は、前記陽極箔との接触面に形成される前記樹脂被膜層の厚さに対して、前記接触面と接する他の面に形成される前記樹脂被膜層の厚さが、 1:0.6以上 の関係になるように形成される。
上記蓄電デバイスにおいて、さらに、前記蓄電素子に含浸させる電解液を備え、該電解液は、水分の濃度が20[wt%]以上である。
上記蓄電デバイスにおいて、前記樹脂被膜層は、少なくとも2[μm]の厚さに形成される。
上記蓄電デバイスにおいて、前記セパレータは、セルロース繊維を含む。
【0011】
上記目的を達成するため、本開示の端子部品の一側面は、蓄電デバイスに用いられる端子部品であって、前記蓄電デバイスの陽極箔に接続される平坦部と、前記平坦部に接続された外部端子とを備え、前平坦部の一部または全部の表面に樹脂被膜層が形成されている。
【0012】
上記目的を達成するため、本開示の蓄電デバイスの製造方法の一側面は、一端側に箔面と接続する平坦部を含み、少なくとも陽極箔に設置される前記平坦部の一部または全部の表面に泳動電着法を利用して樹脂被膜層を備える端子部品を形成する工程と、前記陽極箔と陰極箔にそれぞれ前記端子部品を設置する工程と、セパレータと前記陽極箔と前記陰極箔を備える蓄電素子を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示の構成によれば、次のいずれかの効果が得られる。
【0014】
(1) 含有水分量が多い電解液を利用することができ、許容リプル電流値を高められるので、蓄電デバイスの内部温度の低減、寿命の増加など、蓄電デバイスの信頼性を向上させることができる。
(2) 含有水分量が多い電解液との化学反応によってセパレータから生じる蟻酸などの影響を抑制することができる。
(3) 端子部品の劣化を防止することで、蓄電デバイスの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係るコンデンサの内部構成例を示す図である。
【
図2】第2の実施形態に係るコンデンサ素子の構成および組立て状態例を示した図である。
【
図3】端子部品に対する樹脂被膜層の形成処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施形態〕
図1は、第1の実施形態に係るコンデンサの内部構成例を示している。
図1に示す構成は一例であり、本開示の技術が係る構成に限定されるものではない。
このコンデンサ2は、たとえば電気二重層コンデンサや電解コンデンサ、その他の蓄電デバイスの一例であり、
図1に示すように、有底筒状の外装ケース4内に形成される収納部6にコンデンサ素子8や図示しない電解液が収納されている。外装ケース4は、たとえばアルミニウム(Al)などの金属材料で構成されている。
外装ケース4は、コンデンサ素子8や電解液を収納部6内に配置させた後、開口部12側に配置される封口部材14によって収納部6が封止される。封口部材14は、たとえば、端子部品の丸棒部22を挿通する貫通孔26が形成されたゴム製のものを用いる。このとき外装ケース4は、たとえば開口部12の端部を収納部6の内部に折り込むほか、封口部材14に対して外周側から押圧することで封口部材14と外装ケース4とを密着させる加締め処理が施される。
【0017】
収納部6に封入される電解液は、たとえば溶媒としてエチレングリコールの濃度が40〔wt%〕、水の濃度が35〔wt%〕であり、溶質としてアゼライン酸が含まれる。この電解液は、コンデンサ素子8を形成するセパレータ34(
図2)などに含浸されるほか、収納部6の内壁面とコンデンサ素子8の間の空間部に流動可能に貯留されている。
【0018】
コンデンサ素子8は、電極箔である陽極箔30(
図2)および陰極箔32(
図2)と、セパレータ34(
図2)とを巻回して構成されている。またコンデンサ素子8には、収納部6の開口部12側に向けた巻回端面側に陽極端子10Aと陰極端子10B(
図2)が突出している。この陽極端子10A、陰極端子10Bは、それぞれコンデンサ2の端子部品の一例であり、図示しない電子機器の基板などに接続される。
【0019】
陽極端子10Aおよび陰極端子10Bには、たとえば収納部6内に配置される平坦部20および丸棒部22と、収納部6から突出する外部端子24を備える。陽極端子10Aおよび陰極端子10Bは、たとえば導電性のよい金属、たとえばアルミニウムなどの導電性金属で形成されている。陽極端子10Aおよび陰極端子10Bは、たとえばアルミニウム線と金属線とから構成されており、アルミニウム線と外部端子24となる金属線とはアーク溶接等で接続されている。アルミニウム線は、略円柱形状の丸棒部22と、この丸棒部22がプレス加工等されて形成された平坦部20とを備えており、丸棒部22は、平坦部20側に、平坦部20の厚みまで直線的に厚みが減少する傾斜部を有している。、平坦部20が巻回内部で陽極箔30または陰極箔32に接続され、丸棒部22が封口部材14に形成された貫通孔26内に配置される。
平坦部20は、たとえば陽極端子10Aおよび陰極端子10Bの一端側から所定の長さであり、かつ箔表面に接続される面を幅広に形成し、その面に隣接する面を肉薄にした平板形状に形成されている。
丸棒部22は、陽極端子10Aおよび陰極端子10Bの中央、またはそれに近い部分であって、平坦部20と外部端子24の間に形成されている。この丸棒部22は、たとえば円柱形状、またはそれに近い形状であって、外部端子24よりも径大に形成されている。丸棒部22の外径と貫通孔26の開口径は、略同径、または貫通孔26が径小に形成されており、丸棒部22が貫通孔26の内壁面で封口部材14に挟持される。
【0020】
陽極端子10Aには、接続部のうち少なくとも平坦部20の表面に樹脂被膜層28が形成されている。この樹脂被膜層28は、電解液に含まれる水分によってセパレータから生じた蟻酸などの影響を絶縁して平坦部20を防食する。樹脂被膜層28は、たとえばポリイミド樹脂など、耐食性を有する樹脂材料が用いられる。樹脂被膜層28は、たとえば樹脂材料が溶解した液体に対して陽極端子10Aを泳動電着法により形成させる手法をとってもよい。そして、樹脂被膜層28は、以下のような形成条件を満たしている必要がある。
樹脂被膜層28は、たとえば平坦部20の全体表面で均一に形成することが望ましく、陽極箔30と接触する面に形成される被膜の厚み(A)に対し、その面に隣接する面に形成される被膜の厚み(B)が所定の関係になるように形成される。
被膜の厚さの関係は、たとえば
(A):(B)=1:0.6以上、 ・・・(1)
より好ましくは、
(A):(B)=1:0.8~1 ・・・(2)
である。
【0021】
さらに、平坦部20には、陽極箔30と接触する面とその面に隣接する面の間の角部においても、被膜の厚み(C)が陽極箔30と接触する面に形成される被膜の厚み(A)に対して均一または所定の割合になるように形成される。
この被膜の厚さの関係は、たとえば
(A):(C)=1:0.6以上、 ・・・(3)
より好ましくは、
(A):(C)=1:0.8~1 ・・・(4)
に設定すればよい。
このように、陽極箔30と接触する面に対する樹脂被膜層28を厚くすることで、収納部6内に生成された蟻酸などの影響が生じても、陽極箔30との接続部分の断線などを防止し、コンデンサ素子8と陽極端子10Aと電気的な接続を確保している。
【0022】
平坦部20や丸棒部22に形成される樹脂被膜層28の最低厚さは、たとえば2[μm]となるように設定されている。また、樹脂被膜層28の最大厚さは、たとえば被膜対象の面積や樹脂材料の硬度、強靱性、粘性などにより異なるものであり、一例として20[μm]以下に設定してもよい。斯かる樹脂被膜層28の厚さは、たとえば平坦部20との接続強度が保持できなくなる過重状態とならない範囲に、最大値を設定してもよい。
【0023】
陽極端子10Aには、平坦部20とともに、樹脂被膜層28を丸棒部22の全体、もしくは少なくとも封口部材14により封止された収納部6内に配置される部分、もしくは貫通孔26内に配置された部分の一部であって、収納部6に近い部分の表面に樹脂被膜層28が形成されてもよい。
丸棒部22は、たとえば平坦部20と同一材料で形成されるため、収納部6内において液状または気化した電解液に接触する場合がある。これにより丸棒部22の全部または一部は、その表面に樹脂被膜層28を形成し電解液やそのガスを直接接触させないことで、電解液に含まれる蟻酸などによる劣化の影響を防ぐことが可能となる。
【0024】
<第1の実施形態の効果>
斯かる構成によれば、以下のような効果が期待できる。
(1) 樹脂被膜層28が陽極端子10Aのうち平坦部20などを覆うことで、電解液内に生成した蟻酸などによる劣化の影響を回避でき、陽極箔30と陽極端子10Aとの接続性が維持でき、蓄電デバイスの信頼性を高められる。
(2) 陽極端子10Aの丸棒部22の一部または全部に対して樹脂被膜層28を形成し、丸棒部22が蟻酸などによる劣化の影響を生じさせないことで、封口部材14の貫通孔26との間から電解液が漏出するのを防止できる。
【0025】
(3) 陽極箔30に接触する陽極端子10Aの一部に樹脂被膜層28を形成することで、含有水分量が多い電解液を利用することができる。これにより、コンデンサ2の許容リプル電流値が高められ、コンデンサ2の内部温度の低減、寿命の増加など、コンデンサ2の信頼性を向上させることができる。
(4) 陽極端子10Aの劣化を防止し、コンデンサ2の信頼性を向上させることができる。
(5) 平坦部20の各面および角部に対し、形成される樹脂被膜層28の厚さ条件を設定して樹脂被膜層28の脆弱部分を作らせないことで、電解液に含まれる蟻酸などの影響から陽極端子10Aの防護性を高められる。
【0026】
〔第2の実施形態〕
図2は、第2の実施形態に係るコンデンサ素子の構成および組立て状態を示している。
図2に示す構成は一例である。
コンデンサ素子8は、たとえば
図2に示すように、帯形状の陽極箔30と陰極箔32に対して同形状のセパレータ34を介して積層させ、この積層体を一定方向に巻回することで円柱状に形成される。このときセパレータ34は、巻回された状態において陽極箔30と陰極箔32とを絶縁するように、少なくとも各陽極箔30および陰極箔32の一面にそれぞれ配置される。また、セパレータ34は、たとえば陽極箔30と陰極箔32の配置位置のずれ、巻回時の変移などに対応するため、陽極箔30および陰極箔32よりも大きな面積で形成されている。
【0027】
陽極箔30、陰極箔32は、たとえば、アルミニウム箔などの弁作用金属材料で構成されている。また陽極箔30の表面には、たとえばエッチングにより形成された凹凸を有するとともに、たとえば化成処理により形成された誘電体酸化被膜を含んでいる。エッチングにより形成された凹凸は、たとえば多孔質構造を有している。凹凸は、直流エッチング、交流エッチング、または弁作用金属箔への金属粒子などの蒸着もしくは焼結により形成される。直流エッチングまたは交流エッチングでは、典型的には、塩酸などのハロゲンイオンを含む酸性水溶液中に漬けられた弁作用金属箔に直流電流または交流電流が印加される。
セパレータ34は、絶縁材料であって、クラフトを含み、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン、セルロース、これらの混合材などの他のセパレータ部材を含んでもよい。
【0028】
陽極箔30、陰極箔32には、巻回前に、予め設定された位置に対して陽極端子10Aまたは陰極端子10Bが設置される。この陽極端子10Aには、平坦部20、および丸棒部22の一部または全部に既述の樹脂被膜層28が形成されている。陽極端子10A、陰極端子10Bの設置位置は、巻回後の配置位置などに基づいて設計されており、たとえば陽極箔30、陰極箔32の一端を基準とし、箔の長辺に沿って設定された位置に配置される。陽極箔30、陰極箔32と陽極端子10A、陰極端子10Bの接続には、たとえばステッチ接続法や冷間圧接法が用いられる。
【0029】
<陽極端子10Aに対する樹脂被膜層28の形成処理について>
図3は、端子部品に対する樹脂被膜層28の形成処理の構成例を示している。
図3に示す手法、装置の構成は一例であり、本開示の技術が斯かる構成に限定されない。この樹脂被膜層28の形成処理は、本開示の蓄電デバイスの製造方法の一例である。
この実施形態では、陽極端子10Aに対して泳動電着法を利用して樹脂被膜層28を形成する例を示す。この泳動電着法は、樹脂材料の被膜を生成する手段の一例であり、樹脂材料が分散・懸濁状態となった溶液に対して被膜対象を浸漬するとともに、その溶液に対して直流電流を流すことで、帯電した粒子が電極方向に移動する性質を利用した手法である。
この泳動電着処理には、たとえば電着装置40、処理槽48を利用する。この電着装置40は、たとえば電源部42、状態監視部44、制御部46で構成される。処理槽48には、樹脂材料が溶解した溶液50が貯留されている。
電源部42は、たとえば設定値の直流電流を給電する手段であって、陽極側に陽極端子10Aを接続し、陰極側を処理槽48に接続している。これにより、電源部42は、陽極端子10A、溶液50、処理槽48との間で回路が形成される。
状態監視部44は、たとえば電流計や電圧計で構成されており、電源部42を通じて形成された回路内の電圧値や電流値の変動により電着状態を監視する機能部の一例である。
制御部46は、電源部42に設定する電流値、または印加する電圧値の設定や制御のほか、状態監視部44の監視結果に基づいて、電着処理が完了したか否かの判断、終了状態の通知などを行う機能部の一例である。
【0030】
泳動電着処理では、たとえばポリイミドの濃度が8~9〔wt%〕の溶液に対して陽極端子10Aの一部を浸漬させると、電源部42から設定された電流値もしくは電圧値による直流電流が供給される。電流が流されると、陽極側に接続された陽極端子10Aには、溶液50に浸漬されている部分に対してマイナスに帯電した樹脂が吸着、凝集して付着し、樹脂被膜となる。
電着装置40では、状態監視部44が回路の電流値や電圧値を監視している。そして状態監視部44は、陽極端子10Aの溶液50に接触している部分が樹脂被膜で覆われることで回路に電流が流れなくなった状態を監視すると、その監視結果を制御部46に通知する。制御部46では、たとえば電着処理の完了を示す情報などを表示してもよい。
そして樹脂被膜が付着した陽極端子10Aは、たとえば図示しない加熱設備を利用し、乾燥処理と熱硬化処理を行うことで、樹脂被膜層28が形成される。乾燥処理では、たとえば設定温度80〔℃〕で、所定時間10〔min〕の加熱を行えばよい。熱硬化処理では、たとえば設定温度220〔℃〕で、所定時間20〔min〕の加熱を行えばよい。
【0031】
<コンデンサ2の製造処理>
コンデンサ2の製造処理では、樹脂被膜層28が形成された陽極端子10Aを利用して、巻回したコンデンサ素子8を形成すると、このコンデンサ素子8を電解液に含浸させる処理、封口部材14にコンデンサ素子8を取付ける処理を行った後に、このコンデンサ素子8を外装ケース4に収納し、封口部材14の位置に対して外装ケース4の加締め処理を行う。
【0032】
<第2の実施形態の効果>
斯かる構成によれば、以下のような効果が期待できる。
(1) 第1の実施形態と同様の効果が得られる。
(2) マイナスに帯電した樹脂材料に対し、電源の陽極側に陽極端子10Aを接続させて電気的に引き寄せることで、溶液に接触している部分に対する被膜が形成されない部分や被膜が薄い部分が生じるのを防止できる。
(3) 電源部42に対し、電着条件として設定した電流値もしくは電圧値により樹脂材料の電着状態を調整でき、任意の厚さで樹脂被膜層28を形成することができる。
(4) 陽極端子10Aを通じて流れる電流値を監視することで、樹脂被膜が形成されたか否かが把握できるので、被膜形成処理の精度が高められる。
【実施例0033】
本開示のコンデンサ2の実施例について、比較例とともに説明する。
<比較例>
この比較例では、たとえば実施例に係るコンデンサ2に対し、陽極端子10Aに対する表面処理を異ならせた場合を比較している。実施例および比較例のコンデンサ2は、共に外径がφ10[mm]、長さが25[mm]であり、トンネル状のエッチング処理が施された陽極箔30、アルミニウム箔で形成された陰極箔32、クラフト紙を含むセパレータ34を利用している。セパレータ34として密度の異なるセパレータを重ねて用いた。具体的には、密度0.85[g/cm3]で、厚さ15[μm]のクラフト紙からなるセパレータと、密度0.95[g/cm3]で、厚さ25[μm]のクラフト紙からなるセパレータとを重ねて用いた。そして電解液は、溶媒のエチレングリコールの濃度が40[wt%]、水の濃度が35[wt%]であり、溶質にアゼライン酸を用いている。そして、陽極端子10Aに対する表面処理は、以下の通りである。
【0034】
実施例は、電気泳動電着による樹脂コーティング処理により樹脂被膜層28が形成されている。
比較例1は、被膜なしとなっている。
比較例2は、陽極端子10Aに対し、ホウ酸塩水溶液中で、300[V]の電圧を印加することで化成被膜を形成している。
比較例3は、陽極端子10Aに対し、セラミックコーティングとして、酸化ケイ素(SiO2)や酸化アルミニウム(Al2O3)が主成分のコーティング剤を塗布、乾燥して形成した被膜層を備える。
比較例4は、陽極端子10Aに対し、実施例と同様のポリイミド溶液であって、平坦部20に対して塗布により形成した樹脂被膜層を備える。
【0035】
そして、比較方法は、それぞれのコンデンサに対し、105[℃]でDC450[V]の負荷試験を行い、その漏れ電流を監視する。そして、実施例および比較例1-4について、漏れ電流が大きくなったタイミングまでの時間を計測する。
【0036】
実施例に係るコンデンサ2と比較例に係るコンデンサ2の計測結果は、以下の表1に示すとおりである。
【表1】
【0037】
この比較実験により、被膜を形成している比較例3は、被膜を形成していない比較例1よりも早いタイミングで漏れ電流が大きくなることが確認された。すなわち、被膜に用いられる材料の相違が電解液内に発生した蟻酸などによる劣化の影響に対する絶縁性に影響することが確認された。
また、比較例3のセラミックコーティングでは、たとえば硬く、脆い性質のため、陽極端子10Aと電極箔との接続により生じたクラックなどにより、蟻酸などによる劣化への絶縁機能が発揮できないことが確認された。
実施例と比較例4との対比により、同じ樹脂材料による被膜層を形成しているが、漏れ電流の増加が発生するまでの時間が大きく異なっていることが確認された。これは、被膜処理手法の違いにより、樹脂被膜層28の形成状態の違いが影響しているものと判断した。すなわち、実施例では、たとえば
図4Aに示すように、平坦部20の平面部分の被膜層28aの被膜厚さd1と側面側の被膜層28bの被膜厚さd2とが略同一であるとともに、これらの角部における被膜層が十分に形成されている。これに対し、比較例4では、
図4Bに示すように、平面部分の被膜層28aの被膜厚さd1に対し、側面側の被膜層28cの被膜厚さdxが薄く、かつ不均等に形成されるほか、角部における被膜が薄くなっている。これにより比較例4のコンデンサ2では、たとえば被膜厚さdxの部分が蟻酸などに対して脆弱部となり、平坦部20に対して十分な絶縁性が発揮できないものと判断する。
【0038】
<実施例の効果>
斯かる構成により、陽極端子10Aに形成する樹脂被膜層28について、蟻酸などの影響に対して有効なコーティング材料を選定することが必要であるほか、平坦部20の表面および角部に対して十分な被膜厚さであり、かつ均等に近い状態で樹脂被膜層28を形成することで、漏れ電流の増加の発生を抑制でき、コンデンサ2の信頼性を高めることができる。
〔変形例〕
【0039】
以上説明した実施形態について、その特徴事項や変形例を以下に列挙する。
【0040】
上記実施形態では、陽極端子10Aが陽極箔30に接続される接続部として平板形状の平坦部20を備えており、少なくともこの平坦部20に樹脂被膜層28が形成される場合を示したがこれに限らない。この平坦部20の形状は、陽極箔30の箔表面に対する接触面積の確保や箔との接続性、または積層された電極箔の巻回性を高めるために肉薄な平板形状、またはそれに近い形状に形成されている。これに対し、陽極端子10Aの平坦部20は、たとえば陽極箔30と接触する面のみを平坦面とし、それ以外の部分の形状はどのような形状に形成されてもよい。この平坦部20は、たとえば陽極箔30の箔表面に接続される面以外を曲面形状に形成してもよい。これにより平坦部20は、角部を減らすことで、平坦部20の周囲に対して樹脂被膜層28を均等、またはそれに近い状態に形成することができる。
【0041】
上記実施形態では、コンデンサ素子8は、電極箔である陽極箔30および陰極箔32と、セパレータ34とを巻回して構成したが、これに限らない。例えば、コンデンサ素子は、矩形状の陽極箔および矩形状の陰極箔を、矩形状のセパレータを介して積層して構成される積層型としてもよい。
【0042】
上記実施形態では、電解質として、電解液のみを用いたが、これに限らず、電解液に加えて固体電解質を併用してもよい。固体電解質は、例えば導電性高分子である。導電性高分子は、分子内のドーパント分子によりドーピングされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドーピングされた共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。共役系高分子やドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。
【0043】
導電性高分子としては、PSSと称されるポリスチレンスルホン酸がドープされたPEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。固体電解質は、固体電解質が溶媒中に分散して成る分散液にコンデンサ素子を浸漬して乾燥させることにより形成される。陽極箔、陰極箔及びセパレータを組立て前に別々に分散液に浸漬させてもよいし、滴下塗布したり、スプレー塗布等してもよい。電解液は、固体電解質の層がコンデンサ素子に形成されてから、コンデンサ素子に含浸させればよい。
【0044】
上記実施形態では、端子部品は、平坦部20、丸棒部22及び外部端子24から構成されており、また、封口部材14は、貫通孔26が形成されたゴム製のものを用い、貫通孔26で丸棒部22を挟持してコンデンサ素子8と封口部材14を一体化させたが、これに限らない。例えば、アルミニウム製の短冊状の端子部品を陽極箔と陰極箔にそれぞれ超音波接続するものとしてもよい。この場合、短冊状の端子部品の陽極箔との接触面が平坦部となる。また、封口部材として、フェノール積層板に外部端子を取り付けてたものを用いてもよい。この場合、端子部品を取り付けたコンデンサ素子に電解液を含浸させた後、コンデンサ素子から導出した端子部品を封口部材に取付けた外部端子に接続し、コンデンサ素子及び封口部材をアルミニウム製の外装ケースに挿入して、封口部材で封止するようにしてもよい。この実施形態においても、アルミニウム製の短冊状の端子部品の陽極箔との接触面である平坦部に樹脂被覆層を形成することで、水分量が多い電解液を用いた場合であっても、蟻酸などによりに劣化や腐食などの影響を回避でき、陽極箔と端子部品との接続性が維持でき、蓄電デバイスの信頼性を高められる。
【0045】
以上説明したように、本開示の最も好ましい実施形態等について説明した。本開示の技術は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本開示の範囲に含まれることは言うまでもない。
本開示の蓄電デバイスおよびその製造方法によれば、陽極箔と接続する陽極端子に対して樹脂被膜層を形成することで、水分量の多い電解液およびクラフト系セパレータを採用しても、陽極端子の劣化などの影響を回避でき、有用である。