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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040584
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】フローティング機構ユニット
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/155 20060101AFI20240318BHJP
   B25J 15/04 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B23Q3/155 K
B25J15/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145021
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】肥高 俊明
【テーマコード(参考)】
3C002
3C707
【Fターム(参考)】
3C002DD14
3C002KK01
3C707BT20
3C707GS02
3C707HT36
3C707KV04
3C707KV11
(57)【要約】
【課題】動力工具と先端工具との間の位置ずれを吸収して適切な先端工具の交換を可能とするフローティング機構ユニットを提供する。
【解決手段】フローティング機構ユニット100は、固定部材104と、固定部材に対して可動とされた可動部材106と、固定部材に設けられた凹状受部122と、可動部材に凹状受部と対向するようにして設けられたボール128と、凹状受部122とボール128とが相互に押し付けられるように可動部材106を固定部材104に対して付勢するコイルスプリング138と、を備える。コイルスプリング138の作用により、可動部材106は、ボール128と凹状受部122の底部122aとがコイルスプリング138の長手軸線Lの方向で整列した初期位置となる。可動部材106は、動力工具又は先端工具から受ける押圧力によりに可動とされ、押圧力が解除されるとコイルスプリング138の付勢力により初期位置に復帰する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力工具の先端工具を交換するために使用されるフローティング機構ユニットであって、
固定部材と、
動力工具又は先端工具と係合するようにされた工具係合部を有し、前記固定部材に対して可動とされた可動部材と、
前記固定部材と前記可動部材とのうちの一方に設けられた少なくとも1つの凸状係合部と、
前記固定部材と前記可動部材とのうちの他方に前記凸状係合部と対向するようにして設けられた少なくとも1つの凹状受部と、
少なくとも1つのコイルスプリングであって、前記凸状係合部と前記凹状受部とが相互に押し付けられるように前記可動部材を前記固定部材に対して付勢して、前記可動部材が前記凸状係合部と前記凹状受部の底部とが当該コイルスプリングの長手軸線の方向で整列した初期位置となるようにする少なくとも1つのコイルスプリングと、
を備え、
前記可動部材は、前記動力工具又は先端工具から受ける押圧力により前記初期位置から前記コイルスプリングの長手軸線の方向及び前記長手軸線に直交する方向に可動とされ、前記押圧力が解除されると前記コイルスプリングの付勢力により前記初期位置に復帰するようにされた、フローティング機構ユニット。
【請求項2】
前記コイルスプリングが、その一端が前記固定部材に対して固定保持され、その他端が前記可動部材に対して固定保持された、円錐状コイルスプリングである、請求項1に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項3】
前記少なくとも1つの凸状係合部が第1乃至第3凸状係合部からなる3つの凸状係合部であり、前記少なくとも1つの凹状受部が第1乃至第3凹状受部からなる3つの凹状受部であり、前記第1乃至第3凸状係合部と前記第1乃至第3凹状受部が、二等辺三角形の各頂点に位置するようにそれぞれ配置されており、前記少なくとも1つのコイルスプリングが、前記二等辺三角形の底辺と平行な直線上に設けられた2つのコイルスプリングである、請求項1又は2に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項4】
前記第1凹状受部が、前記二等辺三角形の2つの等辺が共有する頂点に位置し、第1頂角を有する円錐状面を有し、前記第2及び第3凹状受部が、前記二等辺三角形の底辺の両端の各頂点に位置し、それぞれ第2頂角を有する円錐状面を有しており、前記第1頂角が前記第2頂角よりも小さい、請求項3に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項5】
前記2つのコイルスプリングの間の距離が第2凹状受部と前記第3凹状受部との間の距離と略同じである、請求項4に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項6】
前記可動部材の前記工具係合部が、交換用の先端工具を該長手軸線の方向に延びるようにして前記2つのコイルスプリングの中間位置で保持する工具保持部である、請求項3に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項7】
前記可動部材が、前記二等辺三角形の等辺を共有する頂点を通り前記底辺に垂直な垂線に沿って、前記底辺の側から前記工具保持部にまで延びる通路を有し、前記先端工具が前記通路を通して前記工具保持部に対して着脱されるようにされた、請求項6に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項8】
前記可動部材の前記工具係合部が、先端工具が装着された状態の動力工具の工具取付部が前記先端工具を取り外すために該長手軸線の方向で押し付けられるようにされた動力工具受部を有し、前記動力工具受部が、前記2つのコイルスプリングの中間位置に配置されている、請求項3に記載のフローティング機構ユニット。
【請求項9】
前記固定部材と前記可動部材とのうちの前記一方に固定されたボール保持部材と、前記ボール保持部材に回転可能に保持されたボールとを備え、前記凸状係合部が前記ボールにより構成されている、請求項1又は2に記載のフローティング機構ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステムにおいて、ロボットアームに取り付けられた動力工具の先端工具を交換するために使用されるフローティング機構ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームの先端などに動力工具を取り付け、その動力工具で種々の加工や組み立て作業を自動で行なうようにしたロボットシステムが知られている。例えば特許文献1には、ロボットアームの先端にバリ取り加工を行なうための動力工具を取り付けて、バリ取り作業を自動で行なうようにしたロボットシステムが開示されている。このロボットシステムにおいては、動力工具のスピンドルに着脱可能に取り付けられた刃具(先端工具)の交換を自動で行なうようになっている。刃具の交換は、刃具マガジンを利用して行なわれる。この刃具マガジンは、刃具を収容するための複数の収容凹部と、各収容凹部の両側に沿って延びる傾斜面とを備えており、収容凹部のいくつかに交換用の刃具が予め収容されている。刃具の交換は、使用済みの刃具を刃具マガジンによってスピンドルから取り外し、次いで予め収容されている交換用の刃具をスピンドルに取り付けることによって行なわれる。具体的には、使用済みの刃具が取り付けられた状態の加工工具を刃具マガジンの収容凹部に側方から挿入し、刃具マガジンの傾斜面によって加工工具のクランプスリーブが上方に押し上げられるようにする。クランプスリーブが上昇することによりスピンドルと刃具との連結が解除されるため、その状態で加工工具を上方に移動させると刃具はスピンドルから外れて刃具マガジンの収容凹部に残される。次に、別の収容凹部に予め収容されている交換用の刃具の上方に加工工具を移動させ、スピンドル内にその刃具が挿入されるように加工工具を下降させる。そうすると刃具の挿入と同時にクランプスリーブが刃具マガジンの傾斜面によって押し上げられる。この状態で加工工具を側方に移動させると、傾斜面に沿ってクランプスリーブが徐々に下降していき、刃具をクランプして固定保持した状態となる。このようにして、新たな刃具が装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6650171号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような刃具などの先端工具の交換作業をロボットが自動で行なう場合、刃具マガジンや交換用の刃具に対する動力工具の位置決めが不正確であると、動力工具や先端工具に不要な力が作用して、先端工具の装着や取り外しが適切に行えなくなったり、場合によっては動力工具やロボットアームなどが故障したりする虞がある。そのため、ロボットアームによる動力工具の位置決めは、数ミリ以下の精度、好ましくは1ミリ以下の高い精度で行なわれる必要がある。先端工具の交換を行なう際のロボットアームの位置や動作は人が目視で確認しながらロボットに教示して行なうことがあるが、このような人による教示において上述のような高い精度を実現することには多くの時間と労力がかかり、作業者の大きな負担となっている。また、正確な位置合わせが行なわれたとしても、その後に動力工具の取り付け直しでその位置が僅かにずれたり、先端工具の交差や刃具マガジンへの先端工具の取り付け時の位置ずれが生じたりするなどして、動力工具と先端工具との相対位置がずれる可能性もあり、そのような場合に先端工具の適切な交換が行えない虞がある。
【0005】
そこで本発明は、動力工具と先端工具との間に多少の位置ずれが生じていたとしても、その位置ずれを吸収して適切な先端工具の交換が行えるようにしたフローティング機構ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
動力工具の先端工具を交換するために使用されるフローティング機構ユニットであって、
固定部材と、
動力工具又は先端工具と係合するようにされた工具係合部を有し、前記固定部材に対して可動とされた可動部材と、
前記固定部材と前記可動部材とのうちの一方に設けられた少なくとも1つの凸状係合部と、
前記固定部材と前記可動部材とのうちの他方に前記凸状係合部と対向するようにして設けられた少なくとも1つの凹状受部と、
少なくとも1つのコイルスプリングであって、前記凸状係合部と前記凹状受部とが相互に押し付けられるように前記可動部材を前記固定部材に対して付勢して、前記可動部材が前記凸状係合部と前記凹状受部の底部とが当該コイルスプリングの長手軸線の方向で整列した初期位置となるようにする少なくとも1つのコイルスプリングと、
を備え、
前記可動部材は、前記動力工具又は先端工具から受ける押圧力により前記初期位置から前記コイルスプリングの長手軸線の方向及び前記長手軸線に直交する方向に可動とされ、前記押圧力が解除されると前記コイルスプリングの付勢力により前記初期位置に復帰するようにされた、フローティング機構ユニットを提供する。
【0007】
当該フローティング機構ユニットにおいては、可動部材が動力工具又は先端工具から押圧力を受けたときに可動となっているため、例えば先端工具を可動部材に取り付けておき動力工具にその先端工具を装着するときに動力工具の位置が先端工具に対して多少ずれていたとしても、可動部材が先端工具とともに変位してその位置ずれを吸収することができ、又は先端工具が装着されている動力工具の工具取付部を可動部材に押し付けて先端工具を取り外す際に動力工具が所定位置から多少ずれていたとしても可動部材が動力工具に押されて変位してその位置ずれを吸収することができる。これにより、ロボットによる動力工具の位置決めに多少のずれが生じていたとしても、その位置ずれを吸収して適切な先端工具の交換を行なうことが可能となる。
【0008】
また、前記コイルスプリングが、その一端が前記固定部材に対して固定保持され、その他端が前記可動部材に対して固定保持された、円錐状コイルスプリングであるようにすることができる。
【0009】
円錐状コイルスプリングは、通常、その長手軸線に直交する方向に変形したときに元の形状に戻ろうとする復元力が円筒状のコイルスプリングに比べて大きい。そのため、可動部材がコイルスプリングの長手軸線に直交する方向に変位したときに、可動部材は、直交する方向で初期位置に復帰する向きに円錐状コイルスプリングから比較的に大きな力を受けるようになる。これにより、可動部材をより確実に初期位置に復帰させることが可能となる。
【0010】
また、前記少なくとも1つの凸状係合部が第1乃至第3凸状係合部からなる3つの凸状係合部であり、前記少なくとも1つの凹状受部が第1乃至第3凹状受部からなる3つの凹状受部であり、前記第1乃至第3凸状係合部と前記第1乃至第3凹状受部が、二等辺三角形の各頂点に位置するようにそれぞれ配置されており、前記少なくとも1つのコイルスプリングが、前記二等辺三角形の底辺と平行な直線上に設けられた2つのコイルスプリングであるようにすることができる。
【0011】
さらには、前記第1凹状受部が、前記二等辺三角形の2つの等辺が共有する頂点に位置し、第1頂角を有する円錐状面を有し、前記第2及び第3凹状受部が、前記二等辺三角形の底辺の両端の各頂点に位置し、それぞれ第2頂角を有する円錐状面を有しており、前記第1頂角が前記第2頂角よりも小さいようにすることができる。
【0012】
より具体的には、前記2つのコイルスプリングの間の距離が第2凹状受部と前記第3凹状受部との間の距離と略同じであるようにすることができる。
【0013】
これら構成により、可動部材をより安定して変位させることが可能となる。
【0014】
また、前記可動部材の前記工具係合部が、交換用の先端工具を該長手軸線の方向に延びるようにして前記2つのコイルスプリングの中間位置で保持する工具保持部であるようにできる。
【0015】
この場合、前記可動部材が、前記二等辺三角形の等辺を共有する頂点を通り前記底辺に垂直な垂線に沿って、前記底辺の側から前記工具保持部にまで延びる通路を有し、前記先端工具が前記通路を通して前記工具保持部に対して着脱されるようにすることができる。
【0016】
又は、前記可動部材の前記工具係合部が、先端工具が装着された状態の動力工具の工具取付部が前記先端工具を取り外すために該長手軸線の方向で押し付けられるようにされた動力工具受部を有し、前記動力工具受部が、前記2つのコイルスプリングの中間位置に配置されているようにできる。
【0017】
また、前記固定部材と前記可動部材とのうちの前記一方に固定されたボール保持部材と、前記ボール保持部材に回転可能に保持されたボールとを備え、前記凸状係合部が前記ボールにより構成されているようにすることができる。
【0018】
以下、本発明に係るフローティング機構ユニットの実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る、先端工具装着用のフローティング機構ユニットの斜視図である。
図2図1のフローティング機構ユニットの上面図である。
図3図2のA-A線における断面図である。
図4図2のB-B線における断面図である。
図5】可動部材が垂直方向に変位した状態の、図2のB-B線における断面図である。
図6】可動部材が水平方向に変位した状態の、図2のB-B線における断面図である。
図7】先端工具の装着動作を示す第1の図である。
図8】先端工具の装着動作を示す第2の図である。
図9】先端工具の装着動作を示す第3の図である。
図10】本発明の別の実施形態に係る、先端工具取り外し用のフローティング機構ユニットの斜視図である。
図11】先端工具の取り外し動作を示す第1の図である。
図12】先端工具の取り外し動作を示す第2の図である。
図13】先端工具の取り外し動作を示す第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す本発明の一実施形態に係るフローティング機構ユニット100は、後述するように、ロボットシステムのロボットアームに取り付けられた動力工具に先端工具を装着する際に、その先端工具を保持して装着動作を補助するための装着用ユニットである。
【0021】
当該フローティング機構ユニット100は、図1及び図2に示すように、ロボットシステムのフレームやハウジング等にネジ102によって固定される固定部材104と、この固定部材104に対して可動とされた可動部材106とを備える。可動部材106には、交換用の先端工具を所定位置に保持するための工具保持部(工具係合部)108が設けられている。工具保持部108は、可動部材106とは別部材として形成された樹脂製の工具当接部材110により形成されている。工具当接部材110は、ネジ112により交換可能に取り付けられている。可動部材106にはさらに、図3に示すように、その裏面にネジ113で固定された弾性保持部材114が取り付けられている。弾性保持部材114は工具当接部材110から突出した湾曲部116を有し、工具保持部108に先端工具が取り付けられたときに湾曲部116が先端工具に係合して先端工具を工具保持部108に保持するようになっている。可動部材106の工具当接部材110には、工具保持部108にまで延びる通路118が形成されており、後述するように先端工具はこの通路118を通して工具保持部108に対して着脱される。
【0022】
図3及び図4に示すように、固定部材104には調芯受部材120が取り付けられている。調芯受部材120は、円錐状の面である凹状受部122を有している。また、可動部材106には、調芯受部材120に対向する位置に調芯ボール部材124が取り付けられている。調芯ボール部材124は、可動部材106に固定されたボール保持部材126と、それに回転可能に保持されたボール(凸状係合部)128とからなり、ボール128が円錐状の凹状受部122と係合するようになっている。固定部材104には、可動部材106のスプリング孔130を通って下方に延びるように固定されたスプリングポスト132が取り付けられており、その下端にはスプリング保持リング134が設けられている。また、可動部材106のスプリング孔130の段部にもスプリング保持リング136が配置されている。これらスプリング保持リング134、136の間にコイルスプリング138が設定されている。このコイルスプリング138は、その上端138aが固定部材104に対して固定保持され、その下端138bが可動部材106に対して固定保持され、上端138aから下端138bに向かって縮径する円錐状のコイルスプリング138となっている。このコイルスプリング138は、調芯ボール部材124のボール128と調芯受部材120の凹状受部122とが相互に押し付けられるように、可動部材106を固定部材104に向かって付勢している。これにより、可動部材106は、図示のようにボール128と凹状受部122の底部122aとがコイルスプリング138の長手軸線Lの方向(垂直方向)で整列した初期位置となる。
【0023】
図2に示すように、調芯受部材120は、二等辺三角形Tの各頂点Pに対応する位置に3つ配置されている。具体的には、二等辺三角形Tの2つの等辺S1、S2を共有する第1頂点P1に第1調芯受部材120-1が配置され、底辺S3の両端の第2頂点P2及び第3頂点P3に第2調芯受部材120-2及び第3調芯受部材120-3が配置されている。調芯受部材120に対向するように配置されている調芯ボール部材124についても同様な位置に配置されている。また、コイルスプリング138は、二等辺三角形Tの底辺S3に平行な直線M上に2つ配置されている。2つのコイルスプリング138の間の距離は、第2調芯受部材120-2と第3調芯受部材120-3との間の距離と略同じである。工具保持部108は2つのコイルスプリング138の中間位置に配置されており、また工具保持部108にまで延びる通路118は第1頂点P1を通り底辺S3に垂直な垂線Nに沿って二等辺三角形Tの底辺S3の側から工具保持部108にまで延びるように形成されている。
【0024】
図5に示すように、可動部材106は、コイルスプリング138の長手軸線Lの方向に沿った下方への押圧力を受けたときに、固定部材104に対して下方に変位するようになっている。このときコイルスプリング138は、可動部材106の下方への変位の分だけ圧縮される。よって、可動部材106に対する下方への押圧力が解除されると、可動部材106はコイルスプリング138の付勢力によって、調芯ボール部材124が調芯受部材120に当接した元の初期位置に戻る。また可動部材106は、図6に示すように、長手軸線Lに直交する方向(水平方向)への押圧力を受けたときに、固定部材104に対して水平方向に変位するようになっている。このとき調芯ボール部材122(第1乃至第3調芯ボール部材124-1、124-2、124-3)のボール(第1乃至第3ボール)128は、それぞれ、対応する凹状受部122の各円錐状面の中心の底部122aからずれた位置で凹状受部122に押し付けられた状態となり、それぞれが対応する凹状受部122の中心に向かう力を受けることになる。そのため、水平方向への押圧力が解除されると、各ボール128が各凹状受部122の中心の底部122aに向かうように可動部材106が変位し、各ボール128の中心と各凹状受部122の底部122aとが長手軸線Lの方向で整列した初期位置に戻る。また可動部材106が水平方向に変位すると、コイルスプリング138は可動部材106の水平方向への変位に伴って水平方向に歪んだ形状となるため、コイルスプリング138には元の形状に戻ろうとする水平方向での付勢力が生じる。特に本実施形態におけるコイルスプリング138は円錐状となっているため、円筒状のコイルスプリングに比べて水平方向での復元力が大きくなり、可動部材106を初期位置に戻そうとする力が比較的に大きく作用する。このように可動部材106は、外部から押圧力が作用したときに、固定部材104に対して垂直方向及び水平方向に変位できるようになっているが、その押圧力が解除されるとコイルスプリング138の付勢力によって元の初期位置に復帰するようになっている。
【0025】
上述の通り調芯受部材120は、二等辺三角形Tの頂点P1、P2、P3に対応する位置に3つ配置されているが、その第1頂点P1に配置された第1調芯受部材120-1の第1凹状受部122-1の円錐状面の第1頂角αは、第2頂点P2配置された第2調芯受部材120-2の第2凹状受部122-2の円錐状面の第2頂角βよりも小さくなっている。具体的には、第1頂角αは約156度であり、第2頂角βは約162度となっている。なお、第3頂点P3に配置された第3調芯受部材120-3は、第2凹状受部122-2と同形状の凹状受部を有している。当該実施形態では、2つのコイルスプリング138は第2調芯受部材120-2及び第3調芯受部材120-3に比較的に近い位置にあるため、第1調芯受部材120-1と第1調芯ボール部材124-1との間に生じる押し付け力は、第2及び第3調芯受部材120-2と第2及び第3調芯ボール部材124-2との間にそれぞれ生じる押し付け力よりも小さくなる。そのため、各頂角の大きさを同じにした場合には、可動部材106が水平方向に移動する際に第1調芯受部材120-1と係合している第1調芯ボール部材124-1が受ける抵抗力が、第2及び第3調芯受部材120-2、120-3と係合している第2及び第3調芯ボール部材124-2、124-3が受ける抵抗力よりも小さくなってしまう。このような抵抗力の差が生じると、可動部材106に水平方向への押圧力が作用したときに、可動部材106に回転方向への力が作用して可動部材106に不要な回転が生じる可能性がある。そこで、当該実施形態においては、第1頂角αを第2頂角βよりも小さくすることにより、第1調芯受部材120-1と第1調芯ボール部材124-1との間に生じる抵抗力を大きくして、第2及び第3調芯受部材120-2、120-3と第2及び第3調芯ボール部材124-2との間に生じる抵抗力との差が小さくなるようにしている。
【0026】
当該実施形態に係るフローティング機構ユニット100を使用した先端工具2の装着動作について、以下に説明する。図7に示すように、事前に交換用の先端工具2(当該実施形態では、ブラシ)を通路118を通して工具保持部108に取り付けておく。先端工具2は、工具保持部108において、垂直方向(すなわち、コイルスプリング138の長手軸線Lの方向)に延びるようにして弾性保持部材114によって保持されている。そしてロボットシステムを動作させて、ロボットアームに取り付けられた動力工具1の工具取付部3を先端工具2の上に位置決めする。なお、図示の場合には、先端工具2の中心軸線C1と動力工具1の中心軸線C2とが僅かにずれており、動力工具1は先端工具2に対して水平方向にずれて位置決めされている。
【0027】
次に、動力工具1を下降させて、先端工具2の挿入軸部4が工具取付部3内に挿入されるようにする。ここで、先端工具2の挿入軸部4には、螺旋状に形成された3つのガイド溝5と、その下に位置する3つの連結凹部6とが形成されている。この先端工具2が装着される動力工具1の工具取付部3は、スピンドル7と、スピンドル7の周囲に配置されたスリーブ8とを有する。スピンドル7には、ガイド溝5に係合するガイド用ボールと、連結凹部6に係合する連結用ボールとが保持されており、挿入軸部4をスピンドル7に挿入していくと、まずガイド用ボールがガイド溝5に係合し、先端工具2はガイド溝5に沿って回転しながら挿入されていくようになる。そして、連結凹部6が連結用ボールの位置に至るときには、連結凹部6の回転方向での位置が連結用ボールと整合する位置となり、各連結用ボールが対応する連結凹部6に係合する。そうするとスリーブ8が下方に変位して連結用ボールを連結凹部6に係合した位置に保持する。これにより、先端工具2が工具取付部3に連結状態で保持されるようになっている。すなわち、先端工具2は工具取付部3に対してどのような回転方向での位置にあったとしても、適切な連結位置にまで回転して、工具取付部3に連結されるようになる。図8に示すように動力工具1を下降させると、上述の通り動力工具1は先端工具2に対して水平方向に僅かにずれて位置決めされているが、先端工具2が工具取付部3に挿入される過程で先端工具2は水平方向への力を受け、それによって可動部材106は先端工具2から同方向への押圧力を受けるため、可動部材106は先端工具2とともに同方向に変位して、動力工具1の位置ずれを吸収する。また、動力工具1は、先端工具2が連結される位置よりもさらに下降しており、それによって先端工具2は可動部材106とともに僅かに下方に変位している。すなわち、可動部材106は、先端工具2の挿入過程で先端工具2から受ける押圧力により、垂直方向(コイルスプリング138の長手軸線Lの方向)及び水平方向(長手軸線Lに直交する方向)に変位している。これにより、先端工具2に対する動力工具1の位置決めに多少のずれがあったとしても、そのずれを可動部材106の変位により吸収して適切に先端工具2を装着することが可能となる。
【0028】
先端工具2が動力工具1に装着されたら、図9に示すように、動力工具1を水平方向に移動させて、通路118を通して先端工具2を工具保持部108から取り外す。これにより、交換用の先端工具2はロボットシステムの動力工具1に装着される。可動部材106は、先端工具2から受ける押圧力が解除されると、ボール(凸状係合部)128と凹状受部122とがコイルスプリング138の付勢力によって再び押し付けられて、ボール128と凹状受部122の底部122aとが長手軸線Lの方向で整列した初期位置に復帰する。
【0029】
図10乃至図13に示す本発明の別の実施形態に係るフローティング機構ユニット200は、ロボットアームに取り付けられた動力工具1に装着されている先端工具2を取り外すときに使用するための取り外し用ユニットである。
【0030】
当該フローティング機構ユニット200は、固定部材204、可動部材206、3つの調芯受部材220、3つの調芯ボール部材224、及び2つの円錐状コイルスプリング238を備える。これら部材の基本的構成は、上述の装着用のフローティング機構ユニット100の固定部材104、可動部材106、3つの調芯受部材120、3つの調芯ボール部材124、及び2つの円錐状コイルスプリング138とそれぞれ同じであるため、ここでの詳細な説明は省略する。当該フローティング機構ユニット200の可動部材206には、別部材である樹脂製の工具当接部材210により構成された動力工具受部240が設けられている。
【0031】
当該実施形態に係る取り外し用のフローティング機構ユニット200を使用した先端工具2の取り外し動作について、以下に説明する。図11及び図12に示すように、先端工具2が装着されている動力工具1を通路218を通して動力工具受部240に挿入する。このとき、ロボットシステムの動力工具1の工具取付部3が動力工具受部240に当たると、可動部材206は動力工具1から受ける押圧力により水平方向に変位する。次に図13に示すように、動力工具1を下降させて、動力工具1の工具取付部3のスリーブ8に設けられた環状突部9を動力工具受部240の上面に当てる。さらに下降させると、スリーブ8が動力工具1の本体に対して相対的に上方に変位する。これにより、内蔵された連結用ボールの保持が解除されて先端工具2の連結が解除され、先端工具2は下方に押し出されてスピンドル7から排出される。このあと動力工具1が上昇するなどして動力工具受部240から抜けると、可動部材206は、ボール(凸状係合部)228と凹状受部222とがコイルスプリング238の付勢力によって押し付けられることにより、ボール228と凹状受部222の底部222aとが長手軸線Lの方向で整列した初期位置に復帰する。
【0032】
一実施形態にかかるロボットシステムにおいては、上述の装着用ユニットとしてのフローティング機構ユニット100と、取り外し用ユニットとしてのフローティング機構ユニット200を組み合わせて使用することができる。このロボットシステムでは、動力工具1に装着されて使用された先端工具2が消耗したら取り外し用のフローティング機構ユニット200を利用して使用済みの先端工具2を取り外し、次いで装着用のフローティング機構ユニット100を利用して交換用の新たな先端工具2を装着するようにできる。特に装着用のフローティング機構ユニット100は、複数配置してもよく、各フローティング機構ユニット100に予め交換用の先端工具2を取り付けておくことにより、交換した先端工具2が消耗したら別の先端工具2に順次交換していくことができる。なお、装着用のフローティング機構ユニット100にはセンサ取付部142が設けられており、ここに先端工具2の有無を検知するための近接センサや光電センサなどの各種センサ(図示しない)を取り付けることができる。ロボットシステムは、交換用の先端工具2を装着する際に、センサの出力によりどのフローティング機構ユニット100に交換用の先端工具2が取り付けられているのかを判断し、先端工具2が取り付けられているフローティング機構ユニット100のうちの1つを選択して先端工具2の交換動作を行なうようにすることができる。
【0033】
当該フローティング機構ユニット100、200においては、ロボットシステムによる動力工具1の位置決めに多少のずれが生じたとしても、その位置ずれを吸収するように可動部材106、206が変位することにより、先端工具2の装着及び取り外しを適切に行なうことが可能となる。また、交換作業が終わると可動部材106、206は初期位置に復帰するため、次の交換作業も同様に適切に行なうことが可能となる。
【0034】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、凸状係合部、凹状受部、及びコイルスプリングのそれぞれの数や配置は任意に変更できる。凸状係合部を固定部材に配置し、凹状受部を可動部材に配置するようにしてもよい。凸状係合部は、回転可能に保持されたボールではなく、固定されたボール又は他の形状の凸状部とすることができる。凹状受部は、円錐状の面ではなく、例えば湾曲した円弧状の面などの他の形状の面とすることもできる。コイルスプリングは、円錐状のものではなく、円筒状のものとすることもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 動力工具
2 先端工具
3 工具取付部
4 挿入軸部
5 ガイド溝
6 連結凹部
7 スピンドル
8 スリーブ
9 環状突部
100 フローティング機構ユニット
102 ネジ
104 固定部材
106 可動部材
108 工具保持部(工具係合部)
110 工具当接部材
112 ネジ
113 ネジ
114 弾性保持部材
116 湾曲部
118 通路
120 調芯受部材
120-1 第1調芯受部材
120-2 第2調芯受部材
120-3 第3調芯受部材
122 凹状受部
122-1 第1凹状受部
122-2 第2凹状受部
122a 底部
124 調芯ボール部材
124-1 第1調芯ボール部材
124-2 第2調芯ボール部材
124-3 第3調芯ボール部材
126 ボール保持部材
128 ボール(凸状係合部)
130 スプリング孔
132 スプリングポスト
134 スプリング保持リング
136 スプリング保持リング
138 コイルスプリング
138a 上端
138b 下端
142 センサ取付部
200 フローティング機構ユニット
204 固定部材
206 可動部材
210 工具当接部材
218 通路
220 調芯受部材
222 凹状受部
222a 底部
224 調芯ボール部材
228 ボール(凸状係合部)
238 円錐状コイルスプリング
238 コイルスプリング
240 動力工具受部
α 第1頂角
β 第2頂角
C1 中心軸線
C2 中心軸線
L 長手軸線
M 直線
N 垂線
P 頂点
P1 頂点
P1 第1頂点
P2 頂点
P2 第2頂点
P3 頂点
P3 第3頂点
S1 等辺
S2 等辺
S3 底辺
T 二等辺三角形
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13