(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040587
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】タイヤ製造方法及びタイヤ製造装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/26 20060101AFI20240318BHJP
B29D 30/20 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B29D30/26
B29D30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145027
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹元 翔
【テーマコード(参考)】
4F215
【Fターム(参考)】
4F215AH20
4F215AM32
4F215AR02
4F215VA02
4F215VD03
4F215VD10
4F215VD16
4F215VK32
4F215VL12
4F215VP10
4F215VP11
4F215VR03
(57)【要約】
【課題】ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生を抑制することができるタイヤ製造方法及びタイヤ製造装置を提供する。
【解決手段】成形ドラムD3に支持された円筒状のカーカスケース10の外周面にトレッドバンド20を圧着するために、成形ドラムD3を回転させながらトレッドバンド20の外周面に押圧ローラ30sを押し当てるステッチング工程を備える。押圧ローラ30sは、成形ドラムD3の軸方向における位置が保持されるスタティックローラである。ステッチング工程は、相対的に小さい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てる仮圧着段階と、その仮圧着段階の後、相対的に大きい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てる本圧着段階とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転支持体に支持された円筒状の第1のタイヤ構成部材の外周面に第2のタイヤ構成部材を圧着するために、前記回転支持体を回転させながら前記第2のタイヤ構成部材の外周面に押圧ローラを押し当てるステッチング工程を備え、
前記押圧ローラは、前記回転支持体の軸方向における位置が保持されるスタティックローラであり、
前記ステッチング工程が、相対的に小さい押圧力で前記押圧ローラを押し当てる仮圧着段階と、前記仮圧着段階の後、相対的に大きい押圧力で前記押圧ローラを押し当てる本圧着段階とを含む、タイヤ製造方法。
【請求項2】
前記第1のタイヤ構成部材にカーカスプライが含まれるとともに、前記第2のタイヤ構成部材にトレッドゴムが含まれており、
前記ステッチング工程では、前記押圧ローラを前記トレッドゴムの外周面に押し当てる、請求項1に記載のタイヤ製造方法。
【請求項3】
前記第2のタイヤ構成部材に、前記トレッドゴムの内周に配置された補強コード部材が含まれており、
前記ステッチング工程では、前記押圧ローラにより前記トレッドゴムを介して前記補強コード部材の端部を押圧する、請求項2に記載のタイヤ製造方法。
【請求項4】
前記仮圧着段階における前記押圧ローラの押圧力が、前記本圧着段階における前記押圧ローラの押圧力の50%±0.03MPaである、請求項1~3いずれか1項に記載のタイヤ製造方法。
【請求項5】
回転駆動される回転支持体と、
前記回転支持体の軸方向における位置が保持された状態で、前記回転支持体に支持されたタイヤ構成部材の外周面に押し当てられる押圧ローラと、
前記回転支持体に向けて前記押圧ローラを変位させるアクチュエータと、
相対的に小さい押圧力で前記押圧ローラを押し当てて所定時間保持した後、相対的に大きい押圧力で前記押圧ローラを押し当てるように、前記アクチュエータの作動を制御する制御部と、を備えるタイヤ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステッチング工程を備えたタイヤ製造方法と、その方法に用いられるタイヤ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造方法として、ステッチング工程を経てグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を成形する手法が知られている。ステッチング工程では、成形ドラムに支持された円筒状の第1のタイヤ構成部材の外周面に第2のタイヤ構成部材を圧着することを目的として、成形ドラムを回転させながら第2のタイヤ構成部材の外周面に押圧ローラが押し当てられる。特許文献1,2には、それぞれトレッドゴムに押し当てられる押圧ローラが記載されている。
【0003】
ステッチング工程では、部材間に介在するエアを排出して、部材同士を隙間なく圧着することが企図されている。そのため、押圧ローラは、成形ドラムの軸方向に沿って変位するダイナミックローラ(例えば、特許文献1参照)として構成されることが一般的である。ダイナミックローラによれば、押圧ローラによってタイヤ構成部材を強く押さえ付けながら、その押圧ローラを成形ドラムの軸方向に沿って移動させることにより、エアを扱き出すようにして排出できるため、部材間のエア入りを抑制しやすい。
【0004】
ところが、ダイナミックローラを採用した場合は、押圧ローラを軸方向に移動させる時間が余分に発生する。そのため、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図るうえで、押圧ローラは、成形ドラムの軸方向に沿って変位しないスタティックローラとして構成されることが好ましい。しかし、スタティックローラを採用した場合は、部材間のエア入りを十分に抑制できないことがあり、成形後のグリーンタイヤの外表面に皺やエア溜まりを生じる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-111066号
【特許文献2】特開2017-87473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生を抑制することができるタイヤ製造方法及びタイヤ製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のタイヤ製造方法は、回転支持体に支持された円筒状の第1のタイヤ構成部材の外周面に第2のタイヤ構成部材を圧着するために、前記回転支持体を回転させながら前記第2のタイヤ構成部材の外周面に押圧ローラを押し当てるステッチング工程を備え、前記押圧ローラは、前記回転支持体の軸方向における位置が保持されるスタティックローラであり、前記ステッチング工程が、相対的に小さい押圧力で前記押圧ローラを押し当てる仮圧着段階と、前記仮圧着段階の後、相対的に大きい押圧力で前記押圧ローラを押し当てる本圧着段階とを含む。
【0008】
本開示のタイヤ製造装置は、回転駆動される回転支持体と、前記回転支持体の軸方向における位置が保持された状態で、前記回転支持体に支持されたタイヤ構成部材の外周面に押し当てられる押圧ローラと、前記回転支持体に向けて前記押圧ローラを変位させるアクチュエータと、相対的に小さい押圧力で前記押圧ローラを押し当てて所定時間保持した後、相対的に大きい押圧力で前記押圧ローラを押し当てるように、前記アクチュエータの作動を制御する制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】グリーンタイヤを成形する工程を模式的に示す半断面図
【
図2】
図1(E)の成形ドラムを軸方向から見た概略構成図
【
図3】
図2のタイヤ構成部材及び押圧ローラを周方向から見た模式図
【
図4】クラウンローラに二段階の圧着を適用した具体例の評価結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のタイヤ製造方法及びタイヤ製造装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、グリーンタイヤの成形工程の一例を模式的に示す半断面図である。まずは、(A)に示すように、成形ドラムD1に対してインナーライナゴム1、リムストリップゴム2及びカーカスプライ3を順に巻き付ける。次に、(B)に示すように、両サイドにビード部材4を組み付け、そのビード部材4の周りでカーカスプライ3を折り返す。続いて、(C)に示すように、サイドウォールゴム5を外周面に巻き付ける。これによって、円筒状のカーカスケース10(第1のタイヤ構成部材に相当)が成形される。(B)及び(C)の工程は、成形ドラムD1とは別個の成形ドラムで実施しても構わない。
【0012】
また、(D)に示すように、成形ドラムD2において、補強コード部材6を構成するベルトプライ7a,7b及びベルト補強プライ8を順に巻き付け、その後にトレッドゴム9を巻き付ける。これによって、円筒状のトレッドバンド20(第2のタイヤ構成部材に相当)が成形される。そして、(E)に示すように、成形ドラムD3において、カーカスケース10をトロイダル状に膨出変形させ、その径方向外側に配置したトレッドバンド20と合体させる。その際、後述するステッチング工程によってトレッドバンド20をカーカスケース10に圧着させる。
【0013】
このようにして成形したグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を、図示しないタイヤ加硫金型を用いて加硫成形することにより、空気入りタイヤが製造される。タイヤの加硫成形については、従来の加硫成形工程と同様に実施できるため、詳しい説明は省略する。
【0014】
図2は、
図1(E)の成形ドラムD3を軸方向から見た概略構成図である。
図2には、成形ドラムD3(回転支持体に相当)と、押圧ローラ30s,30dと、変位シリンダ40(アクチュエータに相当)と、制御部51とを備えたタイヤ製造装置50が示されている。成形ドラムD3は、軸D3aを中心として回転可能に構成されている。成形ドラムD3は、駆動部52によって回転駆動される。成形ドラムD3の作動は制御部51によって制御される。特に断らない限り、本明細書において、軸方向、周方向及び径方向とは、それぞれ成形ドラムD3の軸方向、周方向及び径方向を指すものとする。これらは、それぞれ成形されるグリーンタイヤの軸方向、周方向及び径方向に対応している。
【0015】
成形ドラムD3は拡縮可能に構成されている。成形ドラムD1(
図1参照)から移送されてきたカーカスケース10は、縮径状態の成形ドラムD3に外挿される。その状態から成形ドラムD3を拡径することで、カーカスケース10が成形ドラムD3により嵌合状態で支持される。また、成形ドラムD3は、
図1(E)のようにビード部材4を支持する部位を近接移動可能に構成されているとともに、その成形ドラムD3に支持されたカーカスケース10の中央部をインフレート可能に構成されている。これにより、カーカスケース10をトロイダル状に膨出変形できる。このような成形ドラムD3の機構は従来公知である。
【0016】
押圧ローラ30s,30dは、成形ドラムD3の外周面と対向するように配置されている。変位シリンダ40は、成形ドラムD3に向けて押圧ローラ30s,30dを変位させる。押圧ローラ30sは、軸方向に沿って変位しないスタティックローラである。押圧ローラ30dは、軸方向に沿って変位するダイナミックローラである。本実施形態では、押圧ローラ30sとしてセンターローラ31及びクラウンローラ32が設けられ、押圧ローラ30dとしてバットレスローラ33が設けられている。また、変位シリンダ40として、変位シリンダ41~43が設けられている。ローラ31~33は、それぞれ変位シリンダ41~43により支持され、周方向位置を互いにずらして配置されている。
【0017】
図3は、
図2のタイヤ構成部材及び押圧ローラ30s,30dを周方向から見た模式図である。説明の都合上、センターローラ31、クラウンローラ32及びバットレスローラ33の周方向位置を揃えて図示している。タイヤ構成部材であるカーカスケース10及びトレッドバンド20は断面で描いている。既述の通り、カーカスケース10にはカーカスプライ3が含まれるとともに、トレッドバンド20にはトレッドゴム9が含まれる。軸方向は
図3の左右方向に相当し、軸方向におけるトレッドゴム9の中央位置TCに近付く側を軸方向内側と呼び、中央位置TCから離れる側を軸方向外側と呼ぶ。
【0018】
カーカスプライ3は、周方向に対して交差する方向(例えば、周方向に対して75~90度の角度となる方向)に引き揃えられたカーカスコードをトッピングゴムで被覆することにより形成されている。カーカスコードには、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好ましく用いられる。
【0019】
補強コード部材6は、トレッドゴム9の内周に配置されている。本実施形態において、補強コード部材6は、ベルトプライ7a,7bとベルト補強プライ8とを含んでいる。ベルトプライ7a,7bは、周方向に対して傾斜する方向(例えば、周方向に対して20度前後の角度となる方向)に引き揃えられたベルトコードをトッピングゴムで被覆することにより形成されている。ベルトプライ7a,7bは、ベルトコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。ベルトコードには、スチールなどの金属コードが好ましく用いられる。
【0020】
ベルト補強プライ8は、ベルトプライ7a,7bの外周に積層されている。ベルト補強プライ8は、実質的に周方向に引き揃えられたベルト補強コードをトッピングゴムで被覆することにより形成されている。ベルト補強プライ8は、例えば、ゴム被覆された1本又は複数本のベルト補強コードを周方向に沿ってスパイラル状に巻回することにより形成されている。ベルト補強コードには、上述した有機繊維コードが好ましく用いられる。本実施形態では、ベルトプライ7a,7bが全面的にベルト補強プライ8で覆われているが、ベルトプライ7a,7bの両端部のみが覆われている構造でもよい。
【0021】
押圧ローラ30sは、カーカスケース10の外周面にトレッドバンド20を圧着するためのステッチング工程で用いられる。押圧ローラ30sは、トレッドゴム9よりも硬質の剛性体で形成され、好ましくは鉄などの金属材で形成されている。センターローラ31は、トレッドゴム9の中央位置TCに対向して配置されている。クラウンローラ32は、そのセンターローラ31よりも軸方向外側に一対で設けられている。クラウンローラ32は、トレッドゴム9を介して補強コード部材6の端部を押圧する位置に配置されている。バットレスローラ33は、クラウンローラ32よりも軸方向外側に一対で設けられている。
【0022】
センターローラ31は、軸方向に延びた円柱状に形成されている。クラウンローラ32は、軸方向内側に向かって小径となる円錐台状に形成されている。トレッドゴム9は、径方向外側に短辺を有する断面台形状に形成されており、その短辺となる上面にはセンターローラ31が押し当てられ、その短辺の軸方向外側の傾斜面にはクラウンローラ32が押し当てられる。既述のように、センターローラ31及びクラウンローラ32は、それぞれ軸方向における位置が保持されるスタティックローラである。これらを支持する変位シリンダ41,42(
図2参照)は、それぞれ成形ドラムD3に対する相対的な軸方向位置が固定されている。
【0023】
バットレスローラ33は、円盤状に形成されている。バットレスローラ33を支持する変位シリンダ43(
図2参照)は、軸方向に沿って移動自在に構成された移動機構(図示せず)に取り付けられている。ステッチング工程では、この移動機構の作動により変位シリンダ43とバットレスローラ33が軸方向に沿って変位する。変位シリンダ40(変位シリンダ41~43)及び上記移動機構の作動は、それぞれ制御部51によって制御される。制御部51は、パーソナルコンピュータやPLC(プログラマブルロジックコントローラ)などのコンピュータを用いて構成できる。
【0024】
ステッチング工程では、成形ドラムD3に支持された円筒状のカーカスケース10の外周面にトレッドバンド20を圧着するために、成形ドラムD3を回転させながらトレッドバンド20の外周面に押圧ローラ30sを押し当てる。その際、変位シリンダ40が伸長し、それに応じた押圧力で押圧ローラ30sがトレッドゴム9の外周面に押し当てられる。押圧ローラ30dも、これと同様にしてタイヤ構成部材に押し当てられる。押圧ローラ30s,30dは、変位シリンダ40のロッドの先端に回転自在に設けられており、従動的に回転する。
図3では、各ローラ31~33の回転軸線31a~33aを鎖線で示している。
【0025】
ステッチング工程では、まずセンターローラ31をトレッドゴム9の中央領域に押し当てる。これにより、その中央領域の部材間に介在するエアが軸方向外側へ逃げる。トレッドゴム9からセンターローラ31を離隔させたら、続いてクラウンローラ32をトレッドゴム9の端部領域に押し当てる。これにより、中央領域から逃げてきたエアとともに、その端部領域の部材間に介在するエアが軸方向外側へ逃げ、トレッドゴム9の内周側でのエア入りが抑えられる。トレッドゴム9からクラウンローラ32を離隔させたら、続いてバットレスローラ33をバットレス領域(サイドウォールゴム5の径方向外側の領域)に押し当てる。
【0026】
既述のようにセンターローラ31及びクラウンローラ32がスタティックローラであることにより、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化(例えば、1~2割減)を図ることができる。しかし、その反面、ステッチング工程を施しているにも関わらず部材間にエア入りが発生することがあり、成形後のグリーンタイヤの外表面に皺やエア溜まりを生じる恐れがあった。かかる現象は、センターローラ31が押し当たる中央領域、及び、クラウンローラ32が押し当たる端部領域の各々に見られるものの、特に後者において顕著であった。
【0027】
上記の現象について本発明者が研究したところ、スタティックローラとして構成された押圧ローラ30s(ローラ31,32)の押圧力に原因があることが判明した。即ち、押圧ローラ30sの押圧力は、部材同士の圧着に必要な大きさに設定されているものの、その大きさの押圧力では、部材間に介在するエアが周方向にばかり逃げてしまい、軸方向外側へ円滑に逃げないことがあった。特にクラウンローラ32の押圧力は、補強コード部材6の端部やサイドウォールゴム5の端部を圧着できるように比較的大きく設定されているため、そのような傾向が高く、中でもトレッドゴム9と補強コード部材6との間でエア入りが発生しがちであった。
【0028】
そこで、本実施形態では、ステッチング工程が、相対的に小さい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てる仮圧着段階と、その仮圧着段階の後、相対的に大きい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てる本圧着段階とを含む。この方法によれば、仮圧着段階において押圧ローラ30sを弱く押し当てた際に、部材間に介在するエアを押圧ローラ30sの軸方向外側へ逃がすことができる。また、その後の本圧着段階において押圧ローラ30sを強く押し当てることで、部材同士を圧着することができる。その結果、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生を抑制できる。
【0029】
このような二段階の圧着は、スタティックローラとして構成された押圧ローラ30sであるセンターローラ31及び/又はクラウンローラ32に適用される。よって、本実施形態のステッチング工程では、二段階の圧着が適用される押圧ローラ30sをトレッドゴム9の外周面に押し当てる。上述のように、クラウンローラ32が押し当たる領域においてエア入りの発生が顕著であることから、二段階の圧着は少なくともクラウンローラ32に適用されることが好ましい。即ち、ステッチング工程では、押圧ローラ30sによりトレッドゴム9を介して補強コード部材6の端部を押圧することが好ましい。
【0030】
仮圧着段階では、相対的に小さい押圧力で押圧ローラ30sが押し当てられる状態が所定時間保持される。この所定時間は、例えば数秒間に設定されるが、その間に成形ドラムD3は少なくとも1周以上、好ましくは2周以上回転する。その後、本圧着段階に移行し、相対的に大きい押圧力で押圧ローラ30sが押し当てられる状態が所定時間保持される。本圧着段階で採用される押圧力は、部材同士の圧着に必要な大きさに設定される。制御部51は、相対的に小さい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てて所定時間保持した後、相対的に大きい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てるように、変位シリンダ40の作動を制御する。
【0031】
変位シリンダ40には、例えばエアシリンダが用いられる。上記のような二段階の圧着は、例えば、変位シリンダ40の配管に電磁弁と二台の減圧弁を設置し、一方の減圧弁の設定圧力を低圧用、他方の減圧弁の設定圧力を高圧用として、それらを電磁弁で切替可能に構成することにより実現できる。ここでいう変位シリンダ40は、二段階の圧着がセンターローラ31に適用される場合は変位シリンダ41であり、クラウンローラ32に適用される場合は変位シリンダ42である。
【0032】
仮圧着段階における押圧ローラ30sの押圧力は、本圧着段階における押圧ローラ30sの押圧力の50%±0.03MPaとすることが考えられる。これにより、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生をより適切に抑制できる。本圧着段階における押圧ローラ30sの押圧力は、例えば0.30±0.03MPaである。
【0033】
図4は、実際の装置が備えるクラウンローラに二段階の圧着を適用した具体例の評価結果を示している。仮圧着段階におけるクラウンローラの押圧力を除き、例1~4における製造条件は共通している。成形したグリーンタイヤにおけるエア入りの有無を調査し、エア入りが見られなかった場合を「○」、エア入りの兆候が見られた場合を「△」、エア入りが見られた場合を「×」として評価した。
【0034】
例1及び4では、二段階の圧着を適用しない場合と比べれば結果は良好であるものの、それぞれにエア入りの兆候が見られた。例1では、仮圧着段階におけるクラウンローラの押圧力がやや不足気味であったため、ベルト端付近のエアを逃がす効果が小さかったものと考えられる。また、例4では、仮圧着段階におけるクラウンローラの押圧力がやや過剰気味であったため、二段階の圧着の意義が薄れてしまい、トレッドゴムとベルト補強プライとの間のエアを逃がす効果が小さかったものと考えられる。これらに対して、例2及び3では、いずれもエア入りが確認されず、その兆候も見られなかった。
【0035】
本実施形態では、クラウンローラ32が一対で設けられた例を示したが、これに限られず、例えば
図5に示すようにクラウンローラ32が二対で設けられていてもよい。
図5のクラウンローラ32は、一対のクラウンローラ32aと、それよりも軸方向外側に配置された一対のクラウンローラ32bとを含む。上述した二段階の圧着は、クラウンローラ32a及びクラウンローラ32bの少なくとも一方に適用されることが好ましく、両方に適用されることがより好ましい。
【0036】
[1]
上記の通り、本実施形態のタイヤ製造方法は、成形ドラムD3(回転支持体)に支持された円筒状のカーカスケース10(第1のタイヤ構成部材)の外周面にトレッドバンド20(第2のタイヤ構成部材)を圧着するために、成形ドラムD3を回転させながらトレッドバンド20の外周面に押圧ローラ30sを押し当てるステッチング工程を備える。押圧ローラ30sは、成形ドラムD3の軸方向における位置が保持されるスタティックローラである。ステッチング工程は、相対的に小さい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てる仮圧着段階と、その仮圧着段階の後、相対的に大きい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てる本圧着段階とを含む。これにより、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生を抑制することができる。
【0037】
[2]
上記[1]のタイヤ製造方法において、カーカスケース10にカーカスプライ3が含まれるとともに、トレッドバンド20にトレッドゴム9が含まれており、ステッチング工程では、押圧ローラ30sをトレッドゴム9の外周面に押し当てるものでもよい。これにより、カーカスプライ3を含むタイヤ構成部材(カーカスケース10)にトレッドゴム9を含むタイヤ構成部材(トレッドバンド20)を圧着するためのステッチング工程において、サイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生を抑制できる。
【0038】
[3]
エア入りの発生が顕著な領域に対して対策を講じる観点から、上記[2]のタイヤ製造方法において、トレッドバンド20に、トレッドゴム9の内周に配置された補強コード部材6が含まれており、ステッチング工程では、押圧ローラ30sによりトレッドゴム9を介して補強コード部材6の端部を押圧することが好ましい。
【0039】
[4]
上記[1]~[3]いずれか1つのタイヤ製造方法において、仮圧着段階における押圧ローラ30sの押圧力が、本圧着段階における押圧ローラ30sの押圧力の50%±0.03MPaであることが好ましい。これにより、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生をより適切に抑制できる。
【0040】
[5]
本実施形態のタイヤ製造方法は、回転駆動される成形ドラムD3(回転支持体)と、その成形ドラムD3の軸方向における位置が保持された状態で、成形ドラムD3に支持されたタイヤ構成部材の外周面に押し当てられる押圧ローラ30s,30dと、成形ドラムD3に向けて押圧ローラ30sを変位させる変位シリンダ40(アクチュエータ)と、相対的に小さい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てて所定時間保持した後、相対的に大きい押圧力で押圧ローラ30sを押し当てるように、変位シリンダ40の作動を制御する制御部と、を備える。これにより、ステッチング工程のサイクルタイムの短縮化を図りつつ、エア入りの発生を抑制することができる。
【0041】
前述の実施形態では、カーカスケース10の外周面にトレッドバンド20を圧着するためのステッチング工程について説明したが、これに限られず、本開示の方法は、他のタイヤ構成部材を圧着するためのステッチング工程においても採用することができる。
【0042】
本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0043】
本開示のタイヤ製造方法及びタイヤ製造装置は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した実施形態で採用されている各構成については、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
3 カーカスプライ
6 補強コード部材
9 トレッドゴム
10 カーカスケース(第1のタイヤ構成部材)
20 トレッドバンド(第2のタイヤ構成部材)
30d 押圧ローラ(ダイナミックローラ)
30s 押圧ローラ(スタティックローラ)
31 センターローラ
32 クラウンローラ
33 バットレスローラ
40 変位シリンダ(アクチュエータ)
50 タイヤ製造装置
51 制御部
D3 成形ドラム(回転支持体)