(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040594
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液、導電性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240318BHJP
C08K 5/3412 20060101ALI20240318BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240318BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240318BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240318BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20240318BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240318BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240318BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20240318BHJP
C09D 181/00 20060101ALI20240318BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240318BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240318BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/3412
C08L67/00
C08L67/02
C08L65/00
C08L25/18
C08L101/00
H01B1/12 G
C09D5/24
C09D181/00
C09D167/00
C09D5/02
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145034
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK41A
4F100AK42B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA02A
4F100CA06A
4F100EH46
4F100EJ86
4F100JB07
4F100JG01A
4F100JG04
4F100JM01A
4F100YY00A
4J002BC122
4J002BG003
4J002BG072
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4J002BM001
4J002CC183
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4J002CF003
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4J002EE037
4J002EE047
4J002EH148
4J002EJ068
4J002EU019
4J002EU027
4J002FD010
4J002FD050
4J002FD078
4J002FD110
4J002FD149
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4J002FD207
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4J038DD002
4J038DK001
4J038JB26
4J038KA03
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA20
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電性フィルムと、これを容易に製造できる製造方法、並びに、その製造方法において使用する導電性高分子含有液を提供する。
【解決手段】π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、沸点150℃未満の低沸点有機溶剤と、沸点150℃以上の高沸点溶剤と、エマルション樹脂と、酸化防止剤と、アジリジニル基を有する硬化剤と、を含有する、導電性高分子含有液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、沸点150℃未満の低沸点有機溶剤と、沸点150℃以上の高沸点溶剤と、エマルション樹脂と、酸化防止剤と、アジリジニル基を有する硬化剤と、を含有する、導電性高分子含有液。
【請求項2】
前記硬化剤は分子中にアジリジニル基を2つ以上有する、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記硬化剤は分子中に式(f1)を1つ以上有する、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【化1】
【請求項4】
前記硬化剤は式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【化2】
【請求項5】
前記エマルション樹脂は分子中にスルホ基を有するポリエステルである、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項6】
前記ポリエステルはポリエチレンナフタレート骨格を有する、請求項5に記載の導電性高分子含有液。
【請求項7】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項8】
前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンの合計の含有量を100質量部としたとき、前記硬化剤の含有量は10質量部以上300質量部以下である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項9】
フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一部の面に形成された導電層とを備え、
前記導電層が請求項1~8の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の硬化物である、導電性フィルム。
【請求項10】
請求項1~8の何れか一項に記載の導電性高分子含有液をフィルム基材の少なくとも一部の面に塗工する工程を含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子含有液、導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムを製造することができる。しかしながら、導電性複合体を含む導電層は大気暴露によって導電性が経時的に低下する問題がある。この問題を軽減する方法として、導電層に特定の化合物を含有させる方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された具体的な酸化防止剤に代わり得る、大気暴露による導電性の経時的な低下を抑制する新たな添加剤が求められることがある。
【0005】
本発明は、大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電性フィルムと、これを容易に製造できる製造方法、並びに、その製造方法において使用する導電性高分子含有液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、沸点150℃未満の低沸点有機溶剤と、沸点150℃以上の高沸点溶剤と、エマルション樹脂と、酸化防止剤と、アジリジニル基を有する硬化剤と、を含有する、導電性高分子含有液。
[2] 前記硬化剤は分子中にアジリジニル基を2つ以上有する、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記硬化剤は分子中に後述の式(f1)を1つ以上有する、[1]又は[2]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記硬化剤は後述の式(1)で表される化合物である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[5] 前記エマルション樹脂は分子中にスルホ基を有するポリエステルである、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] 前記ポリエステルはポリエチレンナフタレート骨格を有する、[5]に記載の導電性高分子含有液。
[7] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[8] 前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンの合計の含有量を100質量部としたとき、前記硬化剤の含有量は10質量部以上300質量部以下である、[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[9] フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一部の面に形成された導電層とを備え、前記導電層が[1]~[8]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の硬化物である、導電性フィルム。
[10] [1]~[8]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液をフィルム基材の少なくとも一部の面に塗工する工程を含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子含有液及びこれを用いた導電性フィルムの製造方法によれば、大気中での経時的な導電性低下が抑制され、導電性が良好な導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造できる。また、本発明に係る導電性フィルムが備える導電層は耐溶剤性にも優れる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子含有液≫
本発明の第一態様の導電性高分子含有液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、沸点150℃未満の低沸点有機溶剤と、沸点150℃以上の高沸点溶剤と、エマルション化された樹脂と、酸化防止剤と、アジリジニル基を有する硬化剤と、を含有する。
本発明の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0011】
[導電性複合体]
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
【0012】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0016】
導電性複合体中のポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
【0017】
(導電性複合体の含有量)
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、分散性を高める観点から、例えば、0.001質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
[硬化剤]
本態様の硬化剤はアジリジニル基を有する。ここで、アジリジニル基とはアジリジンの窒素原子に結合したプロトンを除いた1価の基をいう。アジリジニル基は反応性が高く、開環して、カルボキシ基やスルホ基と結合することができる。詳細なメカニズムは未解明であるが、この硬化剤を含むことにより、本態様の導電性高分子含有液の硬化物である導電層の大気暴露耐性が向上する。
【0019】
本態様の硬化剤は分子中にアジリジニル基を2つ以上有することが好ましい。分子中に2つ以上のアジリジニル基を有することにより、硬化剤が架橋剤として機能し得る。
本態様の硬化剤は分子中に下記式(f1)で表される官能基(f1)を1つ以上有することが好ましい。
【0020】
【0021】
官能基(f1)は、尿素が有する一方のアミノ基がアジリジニル基に置換され、他方のアミノ基のプロトンの1つが除かれた1価の基である。官能基(f1)のカルボキシ基やスルホ基に対する反応性は穏やかであるので、前記硬化剤を含む導電性高分子含有液の取り扱いがより容易になる。
【0022】
本態様の硬化剤は下記式(1)で表される化合物(1)であることが好ましい。分子中にベンゼン環を2つ有するので、分子構造が比較的堅い。このため、本態様の導電性高分子含有液の硬化物である導電層の構造的な強度が高まり、耐擦過性が向上する。
【0023】
【0024】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる硬化剤の含有量は、導電性複合体100質量部に対して(すなわちπ共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して)、10質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、15質量部以上500質量部以下がより好ましく、20質量部以上300質量部以下がさらに好ましく、25質量部以上200質量部以下が特に好ましい。
化合物(1)の含有量が前記範囲内であると、導電層の導電性を大きく損なうことなく、大気暴露耐性及び耐溶剤性をより向上させることができる。
【0025】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる硬化剤の含有量は、後述のエマルション樹脂100質量部に対して、2質量部以上100質量部以下であることが好ましく、4質量部以上60質量部以下がより好ましく、7質量部以上30質量部以下がさらに好ましく、9質量部以上20質量部以下が特に好ましい。
化合物(1)の含有量が前記範囲内であると、導電層の大気暴露耐性及び耐溶剤性をより向上させることができる。
【0026】
(水)
本態様の導電性高分子含有液は、水を含む。水は導電性複合体を分散又は溶解することができるので、分散媒又は溶媒ということができる。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。
【0027】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる、水及び低沸点溶剤の合計の質量に対する水の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、硬化剤の分散性を高めることができる。
【0028】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する水の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体以外の成分を含有させる余地が増える。
【0029】
(低沸点溶剤)
本態様の低沸点溶剤は、1気圧(101325パスカル)における沸点が150℃未満の有機溶剤である。その沸点は30℃以上100℃以下であることが好ましい。低沸点溶剤を含むことにより、前記硬化剤の分散性を高めることができる。
本態様の導電性高分子含有液が含む低沸点溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0030】
低沸点溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよいが、本態様の導電性高分子含有液の相分離を防ぐ観点から水溶性有機溶剤であることが好ましい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0031】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性高分子含有液のフィルム基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤又はケトン系溶剤が好ましい。
【0032】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0033】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる、水及び低沸点溶剤の合計の質量に対する低沸点溶剤の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、硬化剤の分散性を高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0034】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する低沸点溶剤の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、硬化剤の分散性を高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0035】
(高沸点溶剤)
本態様の高沸点溶剤は、1気圧(101325パスカル)における沸点が150℃以上の有機溶剤である。その沸点は250℃以下であることが好ましい。高沸点溶剤を含むことにより、導電性の向上等の効果が得られる。
本態様の導電性高分子含有液が含む高沸点溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0036】
高沸点溶剤として、水溶性有機溶剤、非水溶性有機溶剤が例示される。ここで、水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤の定義は上述と同じである。
【0037】
高沸点の水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、硫黄原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコール(沸点198℃)、1,2-プロパンジオール(別名:プロピレングリコール、沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点194℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点228℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃、異性体の混合物)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、等の多価アルコールが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点188℃)等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、メチルアミルケトン(沸点151℃)、ジアセトンアルコール(沸点168℃)等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン(沸点202℃)、N-メチルアセトアミド(沸点206℃)、ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)等が挙げられる。
硫黄原子含有溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)等が挙げられる。
【0038】
高沸点の非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ノナン(沸点151℃)、デカン(沸点174℃)、ドデカン(沸点216℃)等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、プロピルベンゼン(沸点159℃)、イソプロピルベンゼン(沸点152℃)等が挙げられる。
【0039】
上記例の中でも、導電性向上の効果がより一層得られることから、アルコール系の高沸点溶剤が好ましい。
アルコール系の高沸点溶剤の中でも、導電性の向上等の効果が優れることから、エチレングリコール(沸点198℃)、1,2-プロパンジオール(沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)が好ましく、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールがより好ましい。
【0040】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる導電性複合体100質量部に対する高沸点溶剤の含有割合は、100質量部以上8000質量部以下が好ましく、1000質量部以上5000質量部以下がより好ましく、2000質量部以上4000質量部以下がさらに好ましい。上記範囲であると、形成される導電層の導電性がより一層向上する。
【0041】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する高沸点溶剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.6質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。上記範囲であると、形成される導電層の導電性がより一層向上する。
【0042】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる高沸点溶剤と低沸点溶剤の割合は、高沸点溶剤の合計質量(M1)<低沸点溶剤の合計質量(M2)の割合であることが好ましい。また、M2/M1比は、10~100が好ましく、30~80がより好ましく、50~70がさらに好ましい。
上記割合であると、形成される導電層の導電性をより高めることができる。
【0043】
(エマルション樹脂)
本態様のエマルション樹脂は、水中でエマルション化することが可能な樹脂である。ここで、エマルション化とは、水を含む分散媒中に油性のエマルション樹脂が安定に分散した乳化状態をいう。エマルション樹脂は、本態様の導電性高分子含有液の硬化後に形成される導電層において、その構造的強度を保ち、他の成分を保持するバインダ成分として機能し得る。
エマルション樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
エマルション樹脂の具体例としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂(アクリル化合物)等であって、乳化剤によってエマルション化されたものが挙げられる。なかでも、導電性高分子含有液をフィルム基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、フィルム基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0045】
エマルション樹脂は、前記硬化剤によって架橋され得るので、カルボキシ基やスルホ基等の酸基を有することが好ましい。また、エマルション樹脂が酸基を有することにより、別の乳化剤が併存しない又は少量で、エマルション化又は水に分散することが可能となる。酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0046】
エマルション樹脂の主鎖はポリエチレンナフタレート骨格を有することが好ましい。ナフタレン環を有するので、分子構造が堅い。このため、本態様の導電性高分子含有液の硬化物である導電層の構造的な強度が高まり、耐擦過性が向上する。
【0047】
エマルション樹脂の重量平均分子量は、0.5万以上10万以下が好ましく、1万以上7万以下がより好ましく、2万以上4万以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、バインダ成分としての機能がより発揮されやすくなる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子含有液におけるエマルション樹脂の分散性がより高まる。
ここで、エマルション樹脂の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0048】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるエマルション樹脂の合計の含有量は、導電性複合体100質量部に対して(すなわちπ共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して)、200質量部以上3000質量部以下であることが好ましく、500質量部以上2000質量部以下がより好ましく、800質量部以上1500質量部以下がさらに好ましい。
エマルション樹脂の含有量が前記範囲内であると、導電層の大気暴露耐性及び耐溶剤性をより向上させることができる。
【0049】
(酸化防止剤)
本態様の導電性高分子含有液は酸化防止剤を含有する。酸化防止剤は、導電性複合体の酸化劣化を防ぐ機能を有する。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記酸化防止剤のなかでも、フェノール系酸化防止剤であるガリック酸(没食子酸)又はガリック酸エステルが好ましい。ガリック酸エステルとしては、例えば、ガリック酸メチル、ガリック酸エチル等が挙げられる。ガリック酸及びガリック酸エステルは、高い酸化防止性能を発揮すると共に導電性を向上させる効果を有する。
【0050】
本態様の導電性高分子含有液における酸化防止剤の含有量は、導電性複合体100質量部に対して(すなわちπ共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計100質量部に対して)、1質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上500質量部以下がより好ましく、30質量部以上100質量部以下がさらに好ましい。
酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値以上であると、導電層の大気暴露耐性をより向上させることができ、上限値以下であると、導電性複合体の量が相対的に少なくなることによる導電性低下を抑制できる。
【0051】
(その他の添加剤)
導電性高分子含有液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、化合物(1)、バインダ成分、及び高導電化剤以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0052】
本態様の導電性高分子含有液がその他の添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0053】
<導電性高分子含有液の製造方法>
第一態様の導電性高分子含有液は、例えば次の方法により製造することができる。
まず、π共役系導電性高分子及びポリアニオンが水に分散された導電性高分子水分散液に、予めエマルション化されたエマルション樹脂、酸化防止剤、高沸点溶剤、必要に応じて水を混合し、これを主剤として得る。続いて、主剤に、必要に応じて水と、低沸点溶剤とを混合し、最後に硬化剤を添加することにより、目的の導電性高分子含有液が得られる。
【0054】
導電性高分子水分散液は、導電性複合体が水に分散された液剤であり、公知方法により得られる。具体的には例えば、ポリアニオンの水分散液に、π共役系導電性高分子を構成するモノマーを添加し、酸化重合させることによって得られる。また、市販品として購入することもできる。
【0055】
≪導電性積層体、導電性フィルム≫
本発明の第二態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、第一態様の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体である。
基材としてフィルム基材を用いることにより、導電性フィルムが得られる。
【0056】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0057】
前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
導電層の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0058】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0059】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0060】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0061】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0062】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0063】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0064】
本態様の導電層の良好な導電性の目安として、例えば、1×105Ω/□以上1×108Ω/□以下の表面抵抗値を有することが好ましく、1×105Ω/□以上1×107Ω/□以下の表面抵抗値を有することがより好ましい。
【0065】
≪導電性積層体の製造方法、導電性フィルムの製造方法≫
本発明の第三態様は、第一態様の導電性高分子含有液を、基材の少なくとも一部の面に塗工する工程を含む、導電性積層体の製造方法である。
基材としてフィルム基材を用いることにより、導電性フィルムを製造できる。
【0066】
前記基材の説明は前述と同様であるので、ここで重複する説明は省略する。
【0067】
導電性高分子含有液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0068】
導電性高分子含有液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0069】
基材上に塗工した導電性高分子含有液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
乾燥後にUV照射を行い、塗膜に含まれるバインダ成分を硬化させてもよい。
【0070】
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0071】
前記導電層の平均厚みの説明は前述と同様であるので、ここで重複する説明は省略する。
【実施例0072】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸(PSS)を得た。このPSSについてゲル濾過クロマトグラフィーカラムを備えた高速液体クロマトグラフィーシステムを用いて、昭和電工株式会社製プルランを標準物質として重量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。
【0073】
(製造例2)PEDOT-PSS水分散液の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た44.0gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次に、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、固形分濃度(不揮発成分濃度)1.2質量%、PEDOT:PSS=1:3(質量比)のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)水分散液(PEDOT-PSS水分散液)を得た。
【0074】
(製造例3)導電性高分子含有液の製造
製造例2で製造したPEDOT-PSS水分散液40gに、プラスコートZ-690(互応化学工業株式会社製;エマルション化されたポリエチレンナフタレート骨格を有するスルホ基含有ポリエステル)20gを添加し、さらに酸化防止剤としてガリック酸メチル0.3g、高沸点溶剤としてプロピレングリコール15g、イオン交換水24.7gを混合し、これを導電性高分子含有液Aとした。
【0075】
[実施例1]
製造例3で得た導電性高分子含有液Aの100gと、水900gと、イソプロパノール1000gと混合した後、アジリジニル基を有する硬化剤として前記式(1)で表されるケミタイトDZ-22E(株式会社日本触媒製;エマルション型、固形分29~33質量%、有効成分24~26質量%)を、0.5gで添加し、目的の導電性高分子含有液を得た。
【0076】
[実施例2]
ケミタイトDZ-22Eの添加量を1.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子含有液を得た。
【0077】
[実施例3]
ケミタイトDZ-22Eの添加量を2.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子含有液を得た。
【0078】
[実施例4]
ケミタイトDZ-22Eの添加量を3.0gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子含有液を得た。
【0079】
[比較例1]
ケミタイトDZ-22Eを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして導電性高分子含有液を得た。
【0080】
<大気暴露性評価>
各例で得た導電性高分子含有液をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)上に#4のバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥して、導電層が表面に形成された導電性フィルムを得た。
各例の導電性フィルムについて、作製後1時間以内に測定した表面抵抗値(初期の表面抵抗値)R0と、温度25℃且つ湿度50%に調整された空気に導電層の表面が曝された状態(以下、大気暴露の状態という。)で7日間放置した後の表面抵抗値(大気暴露後の表面抵抗値)R1と、をそれぞれ測定した(単位:Ω/□:オームパースクエア)。その測定の際、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとした。各測定結果を表1に示す。表中、「1.E+07」は、「1.0×107」を表し、他も同様である。
【0081】
各測定結果における表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。また、変化率(R1/R0で表される表面抵抗値の比)の値が小さい程、製造後の経時的な導電性低下を抑制できたことを示している。
表1の結果において、実施例1~4の導電性フィルムは、比較例1に対して、製造直後~7日間の経時的な導電性低下が抑制されていた。
【0082】
【0083】
<耐溶剤性評価>
各例で得た導電性高分子含有液をPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)上に#4のバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥して、導電層が表面に形成された導電性フィルムを得た。
各例の導電性フィルムについて、作製後1時間以内に測定した表面抵抗値(処理前の表面抵抗値)R0を測定し、続いて各種溶剤をしみこませたガーゼで10g/cm2の荷重で擦った箇所の表面抵抗値(処理後の表面抵抗値)R3を測定した。各測定結果を表2~3に示す。表中、「1.E+07」は、「1.0×107」を表し、他も同様である。
【0084】
各測定結果における表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。また、変化率(R3/R0で表される表面抵抗値の比)の値が小さい程、導電層の耐溶剤性が高いことを示している。
表2~3の結果において、実施例1~2の導電性フィルムは、比較例1に対して、耐溶剤性が高いことが分かった。この要因として、実施例1~2の導電層ではアジリジニル基を有する硬化剤が他のポリマー同士を架橋し、導電層が強固になったことが考えられる。
【0085】
【0086】