(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040616
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/14 20160101AFI20240318BHJP
【FI】
H02P6/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145074
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】三宅 博之
(72)【発明者】
【氏名】李 大成
(72)【発明者】
【氏名】パク ソンイン
(72)【発明者】
【氏名】ユン ヒョジン
(72)【発明者】
【氏名】シン ヒョジェ
(72)【発明者】
【氏名】イ イェウン
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA02
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560DA13
5H560DB20
5H560DC12
5H560EB01
5H560EC02
5H560EC07
5H560RR01
5H560SS07
5H560UA05
5H560XA04
5H560XA12
(57)【要約】
【課題】省エネルギー化を図りつつ、高ロバスト化、振動抑制の並立を図ることができる制御装置を提供する。
【解決手段】モータの速度が速度指令値と同じとなるように定められた制御値を、当該モータに供給される電流の変動を抑制するトルク補正量を用いて補正する補正部と、前記モータの複数のコイル内で電流を流すコイルを切り替える複数のスイッチを有するインバータユニットと、を備え、前記インバータユニットを矩形波制御することにより前記モータの駆動制御を行う制御装置であって、回転子の機械角1周期を構成する第1機械角範囲と当該第1機械角範囲を除く第2機械角範囲とで、前記スイッチに通電する電気角である通電角を異ならせるとともに、当該第2機械角範囲における第2通電角が当該第1機械角範囲における第1通電角よりも大きくなるように設定することが可能な通電角設定部を備える制御装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの速度が速度指令値と同じとなるように定められた制御値を、当該モータに供給される電流の変動を抑制するトルク補正量を用いて補正する補正部と、
前記モータの複数のコイル内で電流を流すコイルを切り替える複数のスイッチを有するインバータユニットと、
を備え、前記インバータユニットを矩形波制御することにより前記モータの駆動制御を行う制御装置であって、
回転子の機械角1周期を構成する第1機械角範囲と当該第1機械角範囲を除く第2機械角範囲とで、前記スイッチに通電する電気角である通電角を異ならせるとともに、当該第2機械角範囲における第2通電角が当該第1機械角範囲における第1通電角よりも大きくなるように設定することが可能な通電角設定部を備える制御装置。
【請求項2】
前記通電角設定部は、検出した前記モータの速度に応じて前記第1機械角範囲と前記第2機械角範囲とを決定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記通電角設定部は、前記モータの負荷に応じて、前記第2通電角を調整する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記モータの速度の変動量に応じて前記トルク補正量を調整する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記モータの速度の変動量が予め定められた速度変動量未満である場合には、当該変動量が当該予め定められた速度変動量以上である場合よりも前記トルク補正量を低減する、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御値と前記トルク補正量とを用いて最終的な制御指令値である最終指令値を出力する指令値出力部をさらに備え、
前記補正部は、前記指令値出力部が出力した前記最終指令値が予め定められた下限値よりも小さい場合に、前記トルク補正量を低減する、
請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫等に用いられる圧縮機は、シリンダ内に冷媒を満たす吸入行程、シリンダ内の冷媒を圧縮する圧縮行程、及び、圧縮した冷媒を圧縮機の外部に放出する吐出行程を行うため、負荷の変動により、振動や騒音が大きくなるといった問題がある。そして、この圧縮機用のモータの制御装置として、圧縮機の振動と騒音とを抑えた上で高い効率でモータを駆動させることができる制御装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された制御装置は、回転子を有する3相ブラシレスモータに電力を供給するインバータ部と、回転子の機械角を検知する検出部と、を含む。また、制御装置は、3相ブラシレスモータの負荷トルクによって電力の電圧および電流のいずれかに生じる脈動を抑制するように定められた、機械角に対応する補正値を予め内部の記憶回路に記憶し、検出部によって検知された機械角および機械角に対応する補正値に基づき、電圧および電流のいずれかを制御するマイクロプロセッサを含む。
【0004】
また、特許文献2に記載された制御器は、速度制御器、d軸電流指令発生器、電圧制御器、2軸/3相変換器、速度&位相推定器、3相/2軸変換器、電流再現演算器、周期変動抑制器、PWM制御器、加減算器、加算器を備えて構成されている。そして、制御器の基本的な機能は、dqベクトル制御により、モータに印加する電圧指令信号を演算し、インバータ回路の制御信号であるPWM信号を生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-215434号公報
【特許文献1】特開2020-124085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された制御装置では、高ロバスト化、振動抑制の並立という点において改善の余地がある。
特許文献2に記載された制御器のようにベクトル制御を行うものにおいては、インバータ回路のスイッチング損失が増加するため、省エネルギー性に改善の余地がある。
本発明は、省エネルギー化を図りつつ、高ロバスト化、振動抑制の並立を図ることができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと完成させた本発明は、モータの速度が速度指令値と同じとなるように定められた制御値を、当該モータに供給される電流の変動を抑制するトルク補正量を用いて補正する補正部と、前記モータの複数のコイル内で電流を流すコイルを切り替える複数のスイッチを有するインバータユニットと、を備え、前記インバータユニットを矩形波制御することにより前記モータの駆動制御を行う制御装置であって、回転子の機械角1周期を構成する第1機械角範囲と当該第1機械角範囲を除く第2機械角範囲とで、前記スイッチに通電する電気角である通電角を異ならせるとともに、当該第2機械角範囲における第2通電角が当該第1機械角範囲における第1通電角よりも大きくなるように設定することが可能な通電角設定部を備える制御装置である。
ここで、前記通電角設定部は、検出した前記モータの速度に応じて前記第1機械角範囲と前記第2機械角範囲とを決定しても良い。
また、前記通電角設定部は、前記モータの負荷に応じて、前記第2通電角を調整しても良い。
また、前記補正部は、前記モータの速度の変動量に応じて前記トルク補正量を調整しても良い。
また、前記補正部は、前記モータの速度の変動量が予め定められた速度変動量未満である場合には、当該変動量が当該予め定められた速度変動量以上である場合よりも前記トルク補正量を低減しても良い。
また、前記制御値と前記トルク補正量とを用いて最終的な制御指令値である最終指令値を出力する指令値出力部をさらに備え、前記補正部は、前記指令値出力部が出力した前記最終指令値が予め定められた下限値よりも小さい場合に、前記トルク補正量を低減しても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、省エネルギー化を図りつつ、高ロバスト化、振動抑制の並立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る制御装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】モータのステートとトルク補正量との関係の一例を示す図である。
【
図3】(a)は、モータの各相のコイルからの誘起電圧の波形と基準電圧との関係の一例を示す図である。(b)は、誘起電圧と基準電圧とを比較した結果を表わす波形の一例を示す図である。(c)は、信号出力部が出力した信号に基づいてインバータユニットのトランジスタのON/OFF状態の一例を示す図である。
【
図4】(a)は、補正部の作用の一例を示す図である。(b)は、比較例の作用の一例を示す図である。
【
図5】第2機械角範囲に限って、通電角を電気角150度にし、第1機械角範囲では通電角を電気角120度にした場合の最終指令値Vtの変化の一例を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る制御装置の一例を示す図である。
【
図7】第3実施形態に係る制御装置の一例を示す図である。
【
図8】第4実施形態に係る制御装置の一例を示す図である。
【
図9】第5実施形態に係る制御装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る制御装置1の概略構成の一例を示す図である。
制御装置1は、例えば冷蔵庫(不図示)に用いられる圧縮機1000用のモータ1100の駆動を制御する装置である。制御装置1は、交流電源110と、整流回路120と、平滑コンデンサ130と、インバータユニット140と、制御部100とを備え、インバータユニット140を矩形波制御することによりモータ1100の駆動制御を行う制御装置である。
【0011】
圧縮機1000は、シリンダ内に冷媒を満たす吸入行程、シリンダ内の冷媒を圧縮する圧縮行程、及び、圧縮した冷媒を圧縮機1000の外部に放出する吐出行程を行う装置である。圧縮機1000の圧縮機構は特に限定されず、例えば、ロータリ方式、レシプロ方式、スクロール方式であることを例示することができる。
モータ1100は、6極3相の永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))であることを例示することができる。ただし、モータ1100の種類は、特に限定されない。
【0012】
整流回路120は、交流電源110に接続され、交流電源110からの交流電圧を直流電圧に変換する。
平滑コンデンサ130は、整流回路120の直流出力端子に接続され、整流回路120の出力である直流電圧を平滑する。
【0013】
インバータユニット140は、直流電圧を交流電圧に変換して、モータ1100に供給するための回路である。インバータユニット140は、ブリッジ回路により構成され、複数組のスイッチング素子として6個の独立したトランジスタ141~146を備えている。本実施形態においては、インバータユニット140は、モータ1100の各相(U相、V相、W相の3相)のそれぞれについて一対のトランジスタを有している。具体的には、U相用のトランジスタ141及びトランジスタ142、V相用のトランジスタ143及びトランジスタ144、W相用のトランジスタ145及びトランジスタ146を有している。トランジスタ141,143,145のエミッタと、トランジスタ142,144,146のコレクタとが、モータ1100の各相のコイルにそれぞれ接続されている。また、トランジスタ141,143,145のコレクタは電源の正極側ラインと接続され、トランジスタ142,144,146のエミッタは電源の負極側(アース)ラインと接続されている。トランジスタ141~146は、バイポーラ型、電界効果型、MOS型等の種々の構造のパワートランジスタであることを例示することができる。
【0014】
トランジスタ141~146のそれぞれは、制御部100から出力される制御信号に従ってON/OFF動作する。これにより、インバータユニット140は、直流電圧を交流電圧に変換して、モータ1100に供給し、駆動力を出力させる。言い換えれば、モータ1100は、トランジスタ141~146のON/OFF動作に応じた電流が供給されることで駆動力を出力する。
【0015】
制御部100は、速度指令値ωrとモータ1100の実際の速度ωaとの偏差Δωを演算する偏差部10と、偏差Δωに応じた電圧指令値Vrを演算する比例積分演算部20と、を備える。また、制御部100は、速度ωaや後述する電流Iaを平滑化するのに用いられるトルク補正量Vcを決定する補正部30と、比例積分演算部20が演算した電圧指令値Vrと、補正部30が決定したトルク補正量Vcとを加算する加算部40と、を備える。また、制御部100は、加算部40が出力した最終的な指令値である最終指令値Vtと、モータ1100の速度ωaとを用いて、相電圧基準信号を発生する発生部50を備える。また、制御装置1は、モータ1100の速度ωaを検出する速度検出部60と、モータ1100に供給される電流Iaを検出する電流検出部70と、を備える。
【0016】
偏差部10は、上位の制御装置、例えば冷蔵庫(不図示)の作動を統括的に制御する制御装置から制御部100に出力された速度指令値ωrから速度検出部60にて検出されたモータ1100の実際の速度ωaを減算することにより偏差Δωを演算する(Δω=ωr-ωa)。
【0017】
比例積分演算部20は、偏差Δωが0となるように電圧指令値Vrを演算する。電圧指令値Vrは、デューティ(%)であることを例示することができる。
このように、制御部100は、速度指令値ωrにモータ1100の速度ωaが一致するように、速度フィードバック制御系にて構成されている。そして、矩形波制御の場合、後述するように60度毎に制御するために遅れが発生することから、速度フィードバック制御系にて構成しつつ、トルク補正量Vcをフィードフォーワード制御系で構成している。
【0018】
図2は、モータ1100のステートとトルク補正量Vcとの関係の一例を示す図である。
補正部30は、予めROM等の記憶領域に記憶されたモータ1100のステートに応じたトルク補正量Vcを読み出し、加算部40に出力する。ステートは、モータ1100の極数と相数との積の分あり、モータ1100が6極3相であるため、60度毎にステート0~ステート17に18分割されている。記憶領域は、モータ1100の回転速度毎に、モータ1100のステートに対応するトルク補正量Vcを記憶する。
図2には、記憶領域が記憶する、モータ1100の回転速度が1300(rpm)である場合の、モータ1100のステートに対応するトルク補正量Vcを例示している。トルク補正量Vcは、デューティ(%)であることを例示することができる。なお、補正部30は、予め記憶領域に記憶されたステートとトルク補正量Vcとの関係を用いてトルク補正量Vcを設定することに限定されない。例えば、補正部30は、予め記憶領域に記憶された算出式に、予め定められたパラメータを代入することで算出したトルク補正量Vcを設定しても良い。
【0019】
加算部40は、比例積分演算部20が演算した電圧指令値Vrと、補正部30が決定したトルク補正量Vcとを加算することにより得た値を最終的な指令値である最終指令値Vt(Vt=Vr+Vc)として発生部50に出力する。例えば、ステート6であるときにはトルク補正量Vcが-4(%)であることから、電圧指令値Vrが40(%)である場合には、加算部40は、36(%)を発生部50に出力する。
【0020】
次に、速度検出部60について説明する。
図3(a)は、モータ1100の各相のコイルからの誘起電圧の波形と基準電圧との関係の一例を示す図である。
図3(b)は、誘起電圧と基準電圧とを比較した結果を表わす波形の一例を示す図である。
各相のコイルからの誘起電圧(EU、EV、EW)が基準電圧より大きいときを「HIGH」、誘起電圧が基準電圧より小さいときを「LOW」とすると、誘起電圧の波形がゼロクロスする点で立ち上がり又は立ち下がりのエッジがあるパルス状の位置信号(HU、HV、HW)を得ることができる。コイル毎のパルスの「HIGH」および「LOW」の組合せは、モータ1100の回転子の位置に同期しているので、コイル毎のパルスの組合せを検出することにより回転子の位置を検出することができる。速度検出部60は、単位時間毎に、回転子の位置の変化を把握することで、モータ1100の速度ωa(rpm)を検出する。
【0021】
電流検出部70は、インバータユニット140のトランジスタ142,144,146のエミッタ端子側に接続されたシャント抵抗(不図示)と、シャント抵抗に流れるピーク電流(以下、「電流Ia」と称する場合がある。)を検出する電流検出回路(不図示)とを有する。電流検出回路は、シャント抵抗に流れるピーク電流を検出する増幅回路とピークホールド回路よりなる構成されることを例示することができる。
【0022】
次に、発生部50について説明する。
発生部50は、
図1に示すように、トランジスタ141~146に通電する電気角である通電角を設定する通電角設定部51と、モータ1100を駆動する信号を出力する信号出力部52とを有する。
【0023】
通電角設定部51は、モータ1100の回転子の機械角1周期を構成する第1機械角範囲と当該第1機械角範囲を除く第2機械角範囲とで、通電角を異ならせるとともに、第2機械角範囲における第2通電角が第1機械角範囲における第1通電角よりも大きくなるように設定する。本実施形態に係る通電角設定部51は、モータ1100のステート4~9に対応する機械角範囲内で通電角を電気角150度に設定し、ステート0~3、10~17に対応する機械角範囲内で通電角を電気角120度に設定する。つまり、第1機械角範囲がステート0~3、10~17に対応する機械角範囲であり、第2機械角範囲がステート4~9に対応する機械角範囲である。また、第1通電角が電気角120度、第2通電角が電気角150度である。以下、通電角を電気角150度に設定する機械角範囲を「所定角度範囲」と称する場合がある。
【0024】
図3(c)は、信号出力部52が出力した信号に基づいてインバータユニット140のトランジスタ141~146のON/OFF状態の一例を示す図である。
信号出力部52は、回転子の位置に基づきモータ1100を駆動する信号を出力し、PWM波形を用いてPWMチョッピングする。PWMチョッピングとは、モータ1100を駆動するための信号を細かくON/OFFすることである。信号を細かくON/OFFすると、デューティに応じてモータ1100の各相に供給する電流を制御することができ、出力トルクを制御することができる。
【0025】
信号出力部52は、
図3(c)に示すように、トランジスタ141~146を、進角30度にてONにする。言い換えれば、信号出力部52は、トランジスタ141~146をOFF状態からON状態に移行するタイミングを、回転子の位置信号(HU、HV、HW)取得直後の0度とする。例えば、信号出力部52は、位置信号HUの立ち上がりエッジを取得すると、U相上側のトランジスタ141をONにし、位置信号HVの立ち上がりエッジを取得すると、V相上側のトランジスタ143をONにし、位置信号HWの立ち上がりエッジを取得すると、W相上側のトランジスタ145をONにする。
【0026】
他方、信号出力部52は、
図3(c)に示すように、通電角設定部51が通電角を電気角150度に設定する所定角度範囲内においては、トランジスタ141,143,145を、進角0度にてOFFにし、所定角度範囲外においては、トランジスタ141,143,145を、進角30度にてOFFにする。言い換えれば、信号出力部52は、トランジスタ141,143,145をON状態からOFF状態に移行するタイミングを、所定角度範囲内においては、位置信号取得後の30度とし、所定角度範囲外においては、位置信号取得直後の0度とする。例えば、信号出力部52は、所定角度範囲内においては、位置信号HWの立ち上がりエッジを取得後の30度に、V相上側のトランジスタ143をOFFにし、所定角度範囲外においては、位置信号HWの立ち上がりエッジを取得すると、V相上側のトランジスタ143をOFFにする。また、信号出力部52は、所定角度範囲内においては、位置信号HUの立ち上がりエッジを取得後の30度に、W相上側のトランジスタ145をOFFにし、所定角度範囲外においては、位置信号HUの立ち上がりエッジを取得すると、W相上側のトランジスタ145をOFFにする。また、信号出力部52は、所定角度範囲内においては、位置信号HVの立ち上がりエッジを取得後の30度に、U相上側のトランジスタ141をOFFにし、所定角度範囲外においては、位置信号HVの立ち上がりエッジを取得すると、U相上側のトランジスタ141をOFFにする。これにより、所定角度範囲内においては、トランジスタ141,143,145を、ON状態からOFF状態に移行するタイミングの進角0度分において通電角がオーバーラップすることとなり、電気角30度オーバーラップさせる。
【0027】
なお、
図3(c)に示した例においては、信号出力部52は、各相上側のトランジスタのみをPWMチョッピングしているが、各相下側のトランジスタのみをPWMチョッピングしても良いし、上側と下側の両側をPWMチョッピングしても良い。
【0028】
以上説明したように、制御装置1は、速度検出部60が検出したモータ1100の速度ωaが速度指令値ωrと同じとなるように定められた電圧指令値Vr(制御値の一例)を、モータ1100に供給される電流の変動を抑制するトルク補正量Vcを用いて補正する補正部30を備える。また、制御装置1は、モータ1100の複数のコイル内で電流を流すコイルを切り替える複数のスイッチの一例としてトランジスタ141~146を有するインバータユニット140を備え、インバータユニット140を矩形波制御することによりモータ1100の駆動制御を行う制御装置である。そして、制御装置1は、モータ1100の回転子の機械角1周期を構成する第1機械角範囲(例えばステート0~3、10~17に対応する機械角範囲)と当該第1機械角範囲を除く第2機械角範囲(例えばステート4~9に対応する機械角範囲)とで、トランジスタ141~146に通電する電気角である通電角を異ならせることが可能な通電角設定部51を備える。そして、通電角設定部51は、第2機械角範囲における第2通電角が第1機械角範囲における第1通電角よりも大きくなるように設定することが可能である。例えば、通電角設定部51は、第2通電角を例えば電気角150度に設定し、第1通電角を例えば電気角120度に設定することが可能である。
【0029】
図4(a)は、補正部30の作用の一例を示す図である。
図4(b)は、比較例の作用の一例を示す図である。
図4(a)には、加算部40が出力した最終指令値Vt(デューティ(%))、速度検出部60が検出したモータ1100の速度ωa(rpm)、電流検出部70が検出したモータ1100の電流Iaを示している。また、
図4(b)には、比較例として、補正部30を備えておらず、電圧指令値Vrを補正しない場合の最終指令値Vt(電圧指令値Vrと等しくなる。)、速度検出部60が検出したモータ1100の速度ωa(rpm)、電流検出部70が検出したモータ1100の電流Iaを示している。なお、
図4(a)及び
図4(b)には、通電角設定部51が、モータ1100の回転子の全機械角範囲において通電角を同一である電気角120度にした場合の例を示している。
【0030】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、加算部40が、補正部30が出力するトルク補正量Vcを用いて電圧指令値Vrを補正した最終指令値Vt(Vt=Vr+Vc)を出力することで、モータ1100の速度ωaが低下することが抑制されるので、モータ1100の振動が抑制される。また、モータ1100の電流の最大値が抑制されるので、パワーモジュールの電流定格を小さくすることができ、インバータユニット140の小型化を図ることができる。
【0031】
また、制御装置1においては、通電角設定部51が第2機械角範囲における第2通電角が第1機械角範囲における第1通電角よりも大きくなるように設定することで、つまり、一の相用のトランジスタ(例えばトランジスタ141)に通電する電気角と他の相用のトランジスタ(例えばトランジスタ143)に通電する電気角とをオーバーラップさせることで、d軸電流が減少して、モータ1100の電流の最大値が抑制される。その結果、パワーモジュールの電流定格を小さくすることができ、インバータユニット140の小型化を図ることができる。
【0032】
ただし、通電角設定部51は、モータ1100の回転子の第1機械角範囲(例えばステート0~3、10~17に対応する機械角範囲)と第2機械角範囲(例えばステート4~9に対応する機械角範囲)とで通電角を異ならせることが可能である。言い換えれば、通電角設定部51は、第2機械角範囲(例えばステート4~9に対応する機械角範囲)に限って、通電角をオーバーラップさせる。
【0033】
図5は、第2機械角範囲(例えばステート4~9に対応する機械角範囲)に限って、通電角を電気角150度にし、第1機械角範囲では通電角を電気角120度にした場合の最終指令値Vtの変化の一例を示す図である。
図5には、比較例として、回転子の全機械角範囲において、通電角を電気角120度にした場合と電気角150度にした場合の最終指令値Vtの変化の一例を示す図である。
【0034】
図5に示すように、通電角設定部51が第2機械角範囲に限って通電角を電気角150度にし、第1機械角範囲では通電角を電気角120度に設定することで、回転子の全機械角範囲において通電角を電気角120度に設定する場合と比べて、最終指令値Vt(デューティ)を小さくすることができる。その結果、より高い負荷に対応することができる。
【0035】
また、
図5に示すように、通電角設定部51が第2機械角範囲に限って通電角を電気角150度にし、第1機械角範囲では通電角を電気角120度に設定することで、回転子の全機械角範囲において通電角を電気角150度に設定する場合と比べて、最終指令値Vt(デューティ)の最小値を大きくすることができる。ここで、誘起電圧の波形はトランジスタがON状態(例えばトランジスタ141とトランジスタ145がON状態)であるときのみに発生するので、回転子の位置検出のためにはトランジスタがON状態であることが一定時間以上必要である。通電角設定部51が第2機械角範囲に限って通電角を電気角150度に設定することで、最終指令値Vtの最小値を大きくすることができるので、速度検出部60によるモータ1100の回転子の位置検出の安定性を高めることができる。その結果、脱調し難くすることができ、高ロバスト化を実現できる。
【0036】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る制御装置2の一例を示す図である。
第2実施形態に係る制御装置2は、第1実施形態に係る制御装置1に対して、発生部50に相当する発生部250が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第2実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0037】
第2実施形態に係る発生部250は、第1実施形態に係る発生部50に対して、通電角設定部51に相当する通電角設定部251が異なる。第1実施形態に係る通電角設定部51は、通電角を電気角150度に設定する所定角度範囲を、予め定められた機械角範囲とするが、第2実施形態に係る通電角設定部251は、モータ1100の速度ωaに応じて所定角度範囲を定める。
【0038】
より具体的には、通電角設定部251は、所定角度範囲を、速度指令値ωrに対して、速度ωaが予め定められた所定割合以上低下する区間とする。例えば、速度指令値ωrが1300(rpm)で、所定割合が10%である場合には、所定角度範囲を、1300×(1-10/100)=1170(rpm)以下となる速度ωaの範囲とする。
図4(a)が、速度指令値ωrが1300(rpm)である場合の速度ωa(rpm)であるとすると、通電角設定部251は、所定角度範囲をステート5~7に対応する機械角範囲とする。かかる場合、通電角設定部251は、ステート5~7において通電角を電気角150度に設定し、ステート0~4、8~17において通電角を電気角120度に設定する。
【0039】
なお、所定割合は10%に限定されない。例えば、所定割合は15%であっても良いし、その他の値であっても良い。
また、通電角設定部251は、速度ωaが速度指令値ωrに対して所定割合以上低下する区間を把握するにあたって、直前の1回転前の速度ωaを用いても良いし、直前の5回転分の速度ωaの平均値を用いても良い。
また、通電角設定部251は、一のステートにおける速度ωaが速度指令値ωrに対して予め定められた所定割合以上低下したときに、一のステートの次のステートの通電角を電気角150度に設定しても良い。
【0040】
以上説明したように、通電角設定部251は、モータ1100の回転速度である速度ωaに応じて第1機械角範囲と第2機械角範囲とを決定する。例えば、通電角設定部251は、速度ωaが予め定められた速度以下の場合、例えば速度ωaが速度指令値ωrに対して所定割合以上低下する場合に通電角を異ならせる。言い換えれば、通電角設定部251は、モータ1100の負荷に応じて、通電角を異ならせる区間を異ならせる。これにより、例えばモータ1100の負荷が低く、速度変動が小さい場合には、通電角を例えば電気角150度にする区間を減らすので、通電角を電気角150度にすることに起因して電力が悪化することを抑制することができる。
【0041】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態に係る制御装置3の一例を示す図である。
第3実施形態に係る制御装置3は、第1実施形態に係る制御装置1に対して、発生部50に相当する発生部350が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第3実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0042】
第3実施形態に係る発生部350は、第1実施形態に係る発生部50に対して、オーバーラップさせる電気角を調整する調整部353を有し、通電角設定部51に相当する通電角設定部351が、調整部353が調整した電気角をオーバーラップさせるように通電角を設定する点が異なる。第1実施形態に係る通電角設定部51は、予め定められた機械角範囲において、電気角30度オーバーラップさせるが、第3実施形態に係る通電角設定部351は、調整部353が調整した角度分オーバーラップさせる。
【0043】
調整部353は、モータ1100の負荷に応じて、オーバーラップさせる電気角を調整する。例えば、調整部353は、モータ1100の負荷に応じて、負荷が大きいときはオーバーラップさせる電気角を例えば30度とし、負荷が小さいときはオーバーラップさせる電気角を例えば15度とすることを例示することができる。
【0044】
また、調整部353は、モータ1100の負荷を、直前の機械角360度における速度ωaの変動量を用いて把握することを例示することができる。例えば、直前の機械角360度における速度ωaの変動量が第1速度変動量(例えば500(rpm))以上である場合には負荷が大きいと判定し、第1速度変動量(例えば500(rpm))未満である場合には負荷が小さいと判定することを例示することができる。
【0045】
また、調整部353は、モータ1100の負荷に応じて多段階的にオーバーラップさせる電気角を調整しても良い。例えば、モータ1100の負荷が大きいときにはオーバーラップさせる電気角を例えば30度とし、負荷が小さいときには電気角をオーバーラップさせないようにし、負荷が大きいときと小さいときの間である中程度のときにはオーバーラップさせる電気角を例えば15度としても良い。
【0046】
例えば、調整部353は、直前の機械角360度における速度ωaの変動量が第1速度変動量(例えば500(rpm))以上である場合には負荷が大きいと判定して、オーバーラップさせる電気角を例えば30度とし、第1速度変動量よりも小さい第2速度変動量(例えば100(rpm))未満である場合には負荷が小さいと判定して、オーバーラップさせないようにする。そして、調整部353は、速度ωaの変動量が第2速度変動量(例えば100(rpm))以上、第1速度変動量(例えば500(rpm))未満である中程度のときには、オーバーラップさせる電気角を例えば15度とすることを例示することができる。
【0047】
そして、通電角設定部351は、調整部353が調整した電気角をオーバーラップさせるように通電角を設定する。言い換えれば、通電角設定部351は、第2機械角範囲における通電角である第2通電角が、第1機械角範囲における通電角である第1通電角よりも大きくなるようにし、モータ1100の負荷に応じて、第2通電角を調整する。例えば、通電角設定部351は、モータ1100の負荷が中程度のときには、第2通電角を電気角135度とする。
【0048】
オーバーラップさせる電気角を例えば15度とするべく第2通電角を電気角135度とする場合、信号出力部52は、トランジスタ141,143,145をON状態からOFF状態に移行するタイミングを、所定角度範囲内において、位置信号取得後の15度とする。
【0049】
以上のように構成された第3実施形態に係る発生部350によれば、インバータユニット140のスイッチング損失を抑制することができるので、電気角をオーバーラップさせることに起因してエネルギーが増加することを抑制することができる。
【0050】
なお、第3実施形態に係る通電角設定部351も、第2実施形態に係る通電角設定部251と同様にモータ1100の速度ωaに応じて所定角度範囲を定めても良い。
【0051】
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態に係る制御装置4の一例を示す図である。
第4実施形態に係る制御装置4は、第1実施形態に係る制御装置1に対して、補正部30に相当する補正部430が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第4実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0052】
補正部430は、モータ1100の速度ωaの変動量に応じてトルク補正量Vcを調整する。例えば、補正部430は、直前の機械角360度における速度ωaの変動量が第1速度変動量(例えば500(rpm))以上である場合には
図2に例示したトルク補正量Vcとし、第1速度変動量(例えば500(rpm))未満である場合にはトルク補正量Vcを全ステートにおいて0とすることを例示することができる。
【0053】
また、補正部430は、モータ1100の速度ωaの変動量に応じて多段階的にトルク補正量Vcを決定しても良い。例えば、補正部430は、直前の機械角360度における速度ωaの変動量が第1速度変動量(例えば500(rpm))以上である場合には
図2に例示したトルク補正量Vcとし、第1速度変動量よりも小さい第2速度変動量(例えば100(rpm))未満である場合にはトルク補正量Vcを全ステートにおいて0とする。そして、補正部430は、速度ωaの変動量が第2速度変動量(例えば100(rpm))以上、第1速度変動量(例えば500(rpm))未満である中程度のときには、トルク補正量Vcを、
図2に例示したトルク補正量Vcより低減する。言い換えれば、補正部430は、トルク補正量Vcを、
図2に例示したトルク補正量Vcの絶対値よりも小さくする。例えば、補正部430は、速度ωaの変動量が中程度のときのトルク補正量Vcを、
図2に例示したトルク補正量Vcの1/2にすることを例示することができる。
【0054】
以上のように構成された第4実施形態に係る補正部430によれば、モータ1100の速度ωaの変動量が小さいとき、言い換えれば、負荷が小さいときに、補正部430がトルク補正量Vcを決定することに起因してモータ1100の電流の最大値が増加することを抑制することができる。
【0055】
なお、第4実施形態に係る補正部430を、第2実施形態に係る制御装置2及び第3実施形態に係る制御装置3に適用しても良い。
【0056】
<第5実施形態>
図9は、第5実施形態に係る制御装置5の一例を示す図である。
第5実施形態に係る制御装置5は、第1実施形態に係る制御装置1に対して、補正部30に相当する補正部530が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第5実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0057】
最終指令値Vtが予め定められた下限値よりも小さい場合、トルク補正量Vcは、正に偏るため、モータ1100の速度ωaが目標速度である速度指令値ωrを上回る弊害が発生する。そのため、補正部530は、最終指令値Vtが予め定められた下限値よりも小さい場合に、トルク補正量Vcを、第1実施形態におけるトルク補正量Vc(例えば
図2に例示したトルク補正量Vc)よりも低減する。例えば、補正部530は、トルク補正量Vcを、第1実施形態におけるトルク補正量Vc(例えば
図2に例示したトルク補正量Vc)に予め定められた所定係数を乗算した値とする。下限値は、17(%)であることを例示することができる。また、所定係数は0.5であることを例示することができる。
【0058】
例えば、補正部530は、最終指令値Vtが下限値よりも小さくなった次のステートから1回転のトルク補正量Vcを第1実施形態におけるトルク補正量Vc(例えば
図2に例示したトルク補正量Vc)よりも小さくすることを例示することができる。
これにより、モータ1100の速度ωaが目標速度である速度指令値ωrを上回るのを抑制することができる。
【0059】
あるいは、補正部530は、最終指令値Vtが下限値よりも小さく、かつ、モータ1100の速度ωaが予め定められた所定速度よりも大きい場合に、トルク補正量Vcを、第1実施形態におけるトルク補正量Vc(例えば
図2に例示したトルク補正量Vc)に所定係数を乗算した値としても良い。所定速度は、速度指令値ωrであることを例示することができる。例えば、補正部530は、速度ωaの平均速度が所定速度よりも大きいか否かを把握するにあたっては直前の機械角360度における速度ωaを用いると良い。
【0060】
これにより、モータ1100の速度ωaが目標速度である速度指令値ωrを上回るのを抑制することができる。また、最終指令値Vtの最小値を大きくすることができるので、速度検出部60によるモータ1100の回転子の位置検出の安定性を高めることができる。その結果、脱調し難くすることができ、高ロバスト化を実現できる。
【0061】
なお、第5実施形態に係る補正部530を、第2実施形態に係る制御装置2及び第3実施形態に係る制御装置3に適用しても良い。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3,4,5…制御装置、10…偏差部、20…比例積分演算部、30,430,530…補正部、40…加算部、50…発生部、51,251,351…通電角設定部、52…信号出力部、60…速度検出部、70…電流検出部、100…制御部、140…インバータユニット、141,142,143,144,145,146…トランジスタ、1000…圧縮機、1100…モータ