(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040618
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】タイヤの陸剛性の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20240318BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145077
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石神 直大
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA22
(57)【要約】
【課題】タイヤの陸剛性の評価方法を提供する。
【解決手段】タイヤの陸剛性の評価方法は、タイヤの接地踏面の画像を複数回撮影することと、撮影された画像における陸に複数の特徴点を設定することと、複数枚の画像から明らかになる複数の特徴点の変位量の時系列変化に基づき、複数の特徴点のうちの少なくとも一部の特徴点の平均滑り速度の時系列変化を算出することと、平均滑り速度の時系列変化のうち、平均滑り速度が0となる粘着域から滑り域に移行した際に現れる平均滑り速度の変化のピーク値を、陸剛性の評価値として算出することと、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの接地踏面の画像を複数回撮影することと、
撮影された画像における陸に複数の特徴点を設定することと、
複数枚の画像から明らかになる前記複数の特徴点の変位量の時系列変化に基づき、前記複数の特徴点のうちの少なくとも一部の特徴点の平均滑り速度の時系列変化を算出することと、
前記平均滑り速度の時系列変化のうち、前記平均滑り速度が0となる粘着域から滑り域に移行した際に現れる前記平均滑り速度の変化のピーク値を、陸剛性の評価値として算出することと、
を含む、タイヤの陸剛性の評価方法。
【請求項2】
前記接地踏面は、タイヤ周方向に延びる第1陸と、前記第1陸とはタイヤ軸方向の異なる位置でタイヤ周方向に延びる第2陸と、を含み、
前記第1陸に含まれる複数の特徴点の前記ピーク値を第1評価値として算出し、
前記第2陸に含まれる複数の特徴点の前記ピーク値を第2評価値として算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接地踏面は、タイヤ周方向に延びる第1陸を含み、
前記第1陸に含まれる前記複数の特徴点は、第1特徴点群と、前記第1特徴点群とは異なる第2特徴点群とを含み、
前記第1特徴点群の前記ピーク値を第1評価値として算出し、
前記第2特徴点群の前記ピーク値を第2評価値として算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1タイヤは、タイヤ周方向に延びる第1陸を有し、
第2タイヤは、タイヤ周方向に延び且つ前記第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸を有し、
前記第1陸に含まれる複数の特徴点の前記ピーク値を第1評価値として算出し、
前記第2陸に含まれる複数の特徴点の前記ピーク値を第2評価値として算出する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤの陸剛性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの滑り挙動の評価方法として、特許文献1には、タイヤの各陸の平均滑り速度の時系列変化が検出可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、検出されたタイヤの各陸の平均滑り速度の時系列変化がタイヤの特性にどのように関連付けることができるかが不明である。
【0005】
本開示は、タイヤの陸剛性の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のタイヤの陸剛性の評価方法は、タイヤの接地踏面の画像を複数回撮影することと、撮影された画像における陸に複数の特徴点を設定することと、複数枚の画像から明らかになる前記複数の特徴点の変位量の時系列変化に基づき、前記複数の特徴点のうちの少なくとも一部の特徴点の平均滑り速度の時系列変化を算出することと、前記平均滑り速度の時系列変化のうち、前記平均滑り速度が0となる粘着域から滑り域に移行した際に現れる前記平均滑り速度の変化のピーク値を、陸剛性の評価値として算出することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の評価装置をタイヤ軸方向から見た図。
【
図2】本実施形態の評価対象のタイヤTのトレッド部分を簡略化して示す図。
【
図3】タイヤの陸剛性の評価方法を示すフローチャート。
【
図4】特徴点の変位量を示す図。実線はある撮影時に撮影されたブロック及び特徴点、破線はその次の撮影時に撮影されたブロック及び特徴点を示す図。
【
図5】タイヤの制動状態での平均滑り速度の時系列変化を示す図。
【
図6】パターン1-1のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図7】パターン1-2のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図8】パターン1-3のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図9】パターン1-4のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図10】パターン1-5のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図11】パターン2-1のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図12】パターン2-2のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図13】パターン2-3のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図14】パターン2-4のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図15】パターン2-5のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図16】パターン2-6のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【
図17】パターン2-7のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0009】
まず、本実施形態のタイヤの滑り挙動の評価に使用される評価装置10について説明する。
図1に示すように、この評価装置10は、空気入りタイヤ(以下「タイヤ」)Tを接地させるための試験台11と、タイヤTを支持する支持部12と、試験面17に接地しているタイヤTの接地踏面を撮影するカメラ13と、カメラ13で撮影した画像の処理等を行う処理装置14とを有している。
【0010】
試験台11の一部には穴15が形成されている。その穴15の上方開口部が、ガラス又はアクリルからなる透明板16によって閉塞されている。透明板16の上面は試験台11の上面と同一平面を形成している。その平面が、タイヤTが接地する試験面17である。試験面17には実路面と同等の凹凸が形成されていても良い。
【0011】
カメラ13は、穴15の内部において上向きで配置されている。そのため、透明板16の上面にタイヤTが接地しているときに、カメラ13が透明板16の下からタイヤTの接地踏面を撮影することができる。このカメラ13に処理装置14が接続されている。処理装置14には入力装置18と表示装置19が接続されている。処理装置14はコンピュータ、入力装置18はキーボードやマウス、表示装置19はディスプレイである。
【0012】
支持部12は、荷重、駆動力、制動力、スリップ角、キャンバー角等をタイヤTに付与するための公知の構成を備えている。この支持部12によりタイヤTが、制動状態、駆動状態、旋回状態、直進状態などの様々な状態に制御される。
【0013】
図2は本実施形態の評価対象のタイヤTのトレッド部分を簡略化して示したものである。
図2に示すように、タイヤTのトレッド部分には、陸として、タイヤ軸方向中央においてタイヤ周方向に並んでいる複数のセンターブロック21と、タイヤ軸方向両側においてタイヤ周方向に並んでいる複数のショルダーブロック23と、センターブロック21とショルダーブロック23との間においてタイヤ周方向に並んでいる複数のクォーターブロック22とが形成されている。
【0014】
次に、本実施形態のタイヤTの陸剛性の評価方法について説明する。
【0015】
図3に示すように、本実施形態の評価方法は、タイヤTの接地踏面に着色点を付与する工程(S1)と、接地踏面の画像を複数回撮影する工程(S2)と、撮影された画像における陸に複数の特徴点を設定する工程(S3)と、複数の特徴点のうちの少なくとも一部の特徴点の平均滑り速度の時系列変化を算出する工程(S4)と、平均滑り速度の変化のピーク値を陸剛性の評価値として算出する工程(S5)と、を含んでいる。
【0016】
工程S1では、
図2に示すようにタイヤTのトレッド部分全体に複数の着色点Mが付与される。着色点Mは接地踏面と異なる色で着色された点である。本実施形態では、複数の着色点Mを付与する方法として、スプレーによって付与する方法が採用されるものとする。ただし、作業者が着色点Mを手作業で付与する等の他の方法で付与しても良い。着色点Mは1つのブロックに複数付与される。
【0017】
図2に示すように、タイヤTのトレッド部分の各ブロック(21、22、23)の間には溝20が形成されている。着色点Mがスプレーによって付与された結果、
図2に示すように着色点Mはブロック(21、22、23)だけでなく溝20の底(以下、溝20の底のことを「溝底」とする)にも付与される場合がある。
【0018】
付与された着色点Mの分布はランダムである(つまり規則性が無い)。また、
図2では全ての着色点Mを同じ形状の点で示してあるが、実際には各着色点Mの形状は様々である。そのため、接地踏面の場所毎に着色点Mの分布や形状が異なり、逆に着色点Mの分布や形状から接地踏面の場所を特定できる。
【0019】
これらの着色点Mは、後述するようにタイヤTの画像に特徴点を設定するために付与される。特徴点とは、後述するトラッキング処理において追尾の対象となる特徴点のことである。特徴点は所定のアルゴリズムを用いて設定されるが、着色点MのないタイヤTの表面の画像はコントラストが小さいため、そのままでは特徴点を設定するのが困難である。そこで、このように着色点Mを付与することにより、タイヤTの表面の画像をコントラストの大きいものとし、特徴点を設定しやすくするのである。
【0020】
次の工程S2では、タイヤTが試験面17上を転動する。タイヤTが透明板16の上を通過している時又はその少し前にタイヤTに制動力が与えられる。そして、タイヤTが透明板16の上を転動している間に、カメラ13がタイヤTの接地踏面の所定範囲(以下この所定範囲を「撮影範囲」とする)の画像を連続して複数回撮影する。
図2に撮影範囲24の一例を二点鎖線で示す。
図2に示すように、撮影範囲24にはそれぞれ複数のセンターブロック21、クォーターブロック22及びショルダーブロック23が含まれる。少なくとも、この撮影範囲24が透明板16に接地し始める直前から透明板16から完全に離れるまでの間、撮影が行われる。本工程S2での撮影の時間間隔(以下「撮影間隔」とする)は、限定されないが、例えば1/24~1/120秒(24分の1秒~120分の1秒)である。
【0021】
撮影された各画像にはトレッドパターン及び着色点Mが写っている。撮影された各画像は処理装置14に取り込まれる。
【0022】
タイヤTの接地踏面が接地している間、タイヤTの表面には滑りが生じている。そこで次の工程S3では、処理装置14は、工程S2で撮影した画像に対して複数の特徴点を設定する。特徴点は、上記の着色点Mに基づき所定のアルゴリズムにより設定される。所定のアルゴリズムとしては、FAST(Features from Accelerated Segment Test)アルゴリズムやSIFT(Scale Invariant Feature Transform)アルゴリズム等の様々なアルゴリズムのうちのいずれかが使用される。ここで、画像中のコーナーを検出するFASTアルゴリズムを使用した場合、1つの着色点Mが大きければ、1つの着色点Mに対して複数の特徴点が設定され得る。また、アルゴリズムによっては、1つの着色点Mに対して1つの特徴点を設定することも可能である。設定された複数の特徴点は、それぞれ、タイヤTの表面に拘束されタイヤTの表面と一体となって動く点であると言える。これらの特徴点は後述するトラッキング処理における追尾の対象となる。
【0023】
次の工程S4では、処理装置14は、工程S2で撮影した複数の画像に基づき、各特徴点の変位量の時系列変化を求める。ここで、特徴点の変位量とは、1枚の画像の撮影時から次の1枚の画像の撮影時までに特徴点が移動した距離のことである。
【0024】
図4は、特徴点の変位量について説明するために、撮影された画像の中の1つのセンターブロック21と、センターブロック21に付与された複数の特徴点のうちの1つ(図中の丸)を示した図である。この図において、実線はある1枚の画像の撮影時に撮影された画像、破線はその次の1枚の画像の撮影時に撮影された画像を表している。この図のように、接地踏面が接地している間、センターブロック21には滑りが生じており、2回の撮影の間に特徴点が滑りによって移動している。図中の矢印はある1つの特徴点の変位のベクトルを表している。特徴点の変位量とはこの矢印の長さのことである。なお、カメラ13 が固定されているため、特徴点の画像中での座標は、特徴点の透明板16上での座標に対応している。そのため、特徴点の画像中での座標の変化量から、特徴点の透明板16上での実際の変位量を求めることができる。
【0025】
以上が特徴点の変位量だが、特徴点の変位量の時系列変化とは、時間の経過に伴う特徴点の変位量の変化のことで、特徴点の変位量の時間依存性と言うこともできる。
【0026】
各特徴点の変位量の時系列変化は、公知のトラッキング処理により求めることができる。トラッキング処理ではそれぞれの特徴点の追尾が行われる。追尾の処理には例えばKLT(Kanade-Lucas-Tomasi)法が用いられる。複数の特徴点の追尾により、それらの特徴点の変位量の時系列変化が求まる。
【0027】
次に、処理装置14は、特徴点の変位量の時系列変化に基づき、各特徴点の各時点での滑り速度を求め、各特徴点の滑り速度の時系列変化を求める。特徴点の滑り速度の時系列変化とは、時間の経過に伴う特徴点の滑り速度の変化のことで、特徴点の滑り速度の時間依存性と言うこともできる。また時点とは、1回の撮影から次の1回の撮影までの間の任意の時点のことであり、例えば、連続する2回の撮影の中間時点、又は連続する2回の撮影のうち前又は後の方の撮影時点のことである。
【0028】
特徴点の各時点での滑り速度は、連続して撮影された2枚の画像間での特徴点の変位量を撮影間隔で割ることにより求めることができる。例えば、第1画像の撮影時から第2画像の撮影時までの間の任意の時点での滑り速度は、第1画像の撮影時から第2画像の撮影時までの特徴点の変位量を、撮影間隔(第1画像の撮影時から第2画像の撮影時までの時間)で割ることにより求めることができる。
【0029】
すなわち、撮影間隔をTとし、撮影間隔の間に特徴点が移動した距離(すなわち変位量)をLとすると、特徴点の滑り速度Vは、V=L/Tの式で表すことができる。
【0030】
処理装置14は、変位量の時系列変化を求めた各特徴点について、このようにして滑り速度Vを求める。また、処理装置14は、撮影範囲24が透明板16に接地し始める直前から透明板16から完全に離れるまでの間を含む時間帯の各時点について、滑り速度Vを求める。それにより、各特徴点の滑り速度Vの時系列変化が求まる。なお、処理装置14が各時点における各特徴点の滑り速度Vを求めることにより、各時点での所定範囲内の滑り速度Vの分布を表示できるようになる。
【0031】
本実施形態では、ここまでの工程で、少なくとも1つのショルダーブロック23を含む範囲の各特徴点について、滑り速度Vを求めたものとする。そして以下では、1つのショルダーブロック23のみに着目し、ショルダーブロック23の特徴点の滑り速度Vの時系列変化のみを使用して、ショルダーブロック23の滑り挙動を見ることとする。
【0032】
ここで、上記の方法で求めた滑り速度Vの時系列変化の実例を
図5に示す。
図5は、
図2のようにショルダーブロック23、クォーターブロック22及びセンターブロック21を有する制動中のタイヤにおけるショルダーブロック23の平均滑り速度の時系列変化を示す図である。ここで、平均滑り速度とは、1つのショルダーブロック23内の複数の特徴点の滑り速度Vの平均値を意味する。
図5は、時間を横軸とし、各時点での複数の特徴点の滑り速度Vの平均値を縦軸として、グラフ化したものである。
【0033】
図5において、Aで示す範囲はショルダーブロック23が接地する前の時間帯である。この時間帯ではショルダーブロック23が接地していないため、計算上、平均滑り速度の絶対値が大きくなっている。また、Bで示す位置はショルダーブロック23が接地した時で、平均滑り速度が若干大きくなっている。また、C及びDで示す範囲はショルダーブロック23が接地している間の時間帯である。Cで示す範囲は特徴点が粘着域にあるときの時間帯で、平均滑り速度が0又はほぼ0になっている。Dで示す範囲は特徴点が滑り域にあるときの時間帯で、Cで示す範囲と比べて平均滑り速度の絶対値が大きくなっている。またEで示す位置はショルダーブロック23が透明板16を離れる時である。このように特徴点は、接地してしばらくは粘着域にありほとんど滑らないが、その後滑り域に入り、透明板16を離れる前に大きく滑る。またFで示す範囲はショルダーブロック23が透明板16から離れた後の時間帯である。この時間帯ではショルダーブロック23が接地していないため、計算上、平均滑り速度の絶対値が大きくなっている。
【0034】
工程S5において、処理装置14は、
図5に示すように平均滑り速度の時系列変化のうち、平均滑り速度が0となる粘着域(C)から滑り域(D)に移行した際に現れる平均滑り速度の変化のピーク値Pを、陸剛性の評価値として算出する。
図5の例では、陸剛性の評価値は、絶対値で3.2と算出する。ピーク値を陸剛性の評価値とする理由は、タイヤの陸が接地する状態(粘着域)から解放される際に陸が変形状態から元に戻ろうとする挙動が、粘着域から滑り域に移行した際に平均滑り速度の変化のピーク値Pとして現れる。このピーク値が陸剛性の評価値として利用可能と考えている。
【0035】
上記ピーク値は単独でも利用可能であるが、次の2パターンで利用することにより、更に有用性が向上すると考える。パターン1は、単一タイヤ内で複数のピーク値を取得して、複数のピーク値を比較することによる評価方法である。パターン2は、基準タイヤ及び比較タイヤのそれぞれで少なくとも1つのピーク値を取得し、基準タイヤのピーク値と比較タイヤのピーク値とを比較することによる評価方法である。以下、具体例を挙げて説明する。パターン1には、パターン1-1からパターン1-5が含まれる。パターン2には、2-1からパターン2-7が含まれる。
【0036】
<パターン1-1>
このパターンは、単一タイヤにおいて、タイヤ軸方向の位置が異なる陸のピーク値を取得して比較する方法である。
図6(A)は、パターン1-1のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図である。
図6(B)は、
図6(A)に示すショルダーブロック23(Sh)、クォーターブロック22(Qr)及びセンターブロック21(Ce)のピーク値Pを示すグラフである。図中でピーク値を得る領域を網掛けで示している。1つのショルダーブロック23(Sh)、1つのクォーターブロック22(Qr)及び1つのセンターブロック21(Ce)それぞれのブロックの全域にピーク値を得る領域が設定されている。そのため、各々のピーク値(P1,P2,P3)は、ブロック単位での評価値といえる。各ブロックはタイヤ周方向位置が重なる関係であるか、対応する関係にある。
図6(A)に示すトレッドパターンは、タイヤの軸方向が異なる複数の陸(第1陸であるショルダーブロック23、第2陸であるクォーターブロック22、第3陸であるセンターブロック21)を有し、第1ピーク値は第1陸の第1評価値といえ、第2ピーク値は、第2陸の第2評価値といえ、第3ピーク値は第3陸の第3評価値といえる。この例では、3つの評価値を算出しているが、少なくとも2つの陸の評価値を得ればよい。
このパターンで得られる複数の評価値によれば、陸の形状(ブロック形状)、サイズ、溝などのバランスの設計に有用な知見を得ることが可能となる。
【0037】
<パターン1-2>
このパターンは、単一タイヤにおいて、タイヤ軸方向の位置が異なる陸のピーク値を取得して比較する方法である。
図7は、パターン1-2のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。ただし、パターン1-1と比較して、ピーク値を得る領域は、ブロックや陸の全体に設定されておらず、陸内(ブロック内)の局所領域に設定され、第1陸の第1評価値、第2陸の第2評価値、第3陸の第3評価値の3つの評価値を算出している。ピーク値を得る領域が設定される各ブロックは、タイヤ周方向位置が重なる関係であるか、対応する関係にある。図の例においてピーク値を得る領域は、2mmの円領域であるが、その大きさや形状は適宜変更可能である。図の例では、ブロックの中央にピーク値を得る領域が設定されているが、踏み込み端部、蹴りだし端部に設定してもよい。
このパターンで得られる複数の評価値によれば、陸の形状(ブロック形状)、サイズ、溝などのバランスの設計に有用な知見を得ることが可能となる。
【0038】
<パターン1-3>
このパターンは、単一タイヤにおいて、同一の陸(ブロック、リブ)における複数のピーク値を取得して比較する方法である。
図8は、パターン1-3のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図8の例では、同一のセンターブロック21(センター陸)に対して、ピーク値を得る領域が複数設けられている。具体的には、ピーク値を得る領域がブロックの中央の1箇所およびブロックの角の4箇所の計5箇所設定され、5つの評価値を算出しているが、これに限定されない。例えば、ブロック内の2以上の箇所にピーク値を得る領域が設けられていればよい。
図8の例では、ブロックであるが、陸はタイヤ周方向に連なるリブであってもよい。リブの場合には、ピーク値を得る領域同士のタイヤ周方向に沿った離間距離が30mm以内であることが好ましい。
このパターンで得られる複数の評価値によれば、陸の形状(ブロック形状)、サイズ、溝などのバランスの設計に有用な知見を得ることが可能となる。
【0039】
<パターン1-4>
このパターンは、単一タイヤにおいて、タイヤ軸方向の位置が異なる陸のピーク値を取得して比較する方法である。このパターン1-4は、リブ基調のトレッドパターンであり、パターン1-1のブロック基調に対応する。
図9は、パターン1-4のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図9の例では、ショルダーリブ123、メディエイトリブ122およびセンターリブ121のそれぞれに、ピーク値を得る領域が設定され、当該領域のタイヤ周方向の寸法が同一であり、且つタイヤ周方向の同位置に設定されている。これにより、第1陸の第1評価値、第2陸の第2評価値、第3陸の第3評価値の3つの評価値を算出しているが、これに限定されない。2以上の陸について、それぞれ1つ以上の評価値が得られればよい。
このパターンで得られる複数の評価値によれば、陸の形状(リブ形状)、サイズ、溝などのバランスの設計に有用な知見を得ることが可能となる。
【0040】
<パターン1-5>
このパターンは、単一タイヤにおいて、タイヤ軸方向の位置が異なる陸のピーク値を取得して比較する方法である。このパターン1-5は、リブ基調のトレッドパターンであり、パターン1-2のブロック基調に対応する。
図10は、パターン1-5のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図10の例では、ショルダーリブ123、クォーターリブ122およびセンターリブ121のそれぞれに、ピーク値を得る領域が陸内の局所領域(直径2mmの円領域)に設定され、当該領域はタイヤ周方向の同位置に設定されている。これにより、第1陸の第1評価値、第2陸の第2評価値、第3陸の第3評価値の3つの評価値を算出しているが、これに限定されない。2以上の陸について、それぞれ1つ以上の評価値が得られればよい。
【0041】
<パターン2-1>
このパターンは、第1タイヤの第1陸のピーク値と、第2タイヤにおいて第1タイヤの第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸のピーク値とを取得して比較する方法である。このパターン2-1は、ブロック基調の第1タイヤ及び第2タイヤの比較である。
図11は、パターン2-1のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図11の例では、第1タイヤのクォーターブロック22及び第2タイヤのクォーターブロック22それぞれの全領域がピーク値を得る領域に設定されており、第1タイヤの1つの評価値と、第2タイヤの1つの評価値とを算出している。この例では、クォーターブロック22同士の比較であるが、これに限定されず、ショルダーブロック23同士の比較としてもよいし、センターブロック21同士の比較としてもよい。
【0042】
<パターン2-2>
このパターンは、第1タイヤの第1陸のピーク値と、第2タイヤにおいて第1タイヤの第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸のピーク値とを取得して比較する方法である。このパターン2-2は、ブロック基調の第1タイヤ及び第2タイヤの比較である。
図12は、パターン2-2のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図12の例では、第1タイヤのクォーターブロック22及び第2タイヤのクォーターブロック22それぞれに、ピーク値を得る1つの領域が設定されている。ピーク値を得る領域が設定される各ブロックは、タイヤ周方向位置が重なる関係であるか、対応する関係にある。図の例においてピーク値を得る領域は、2mmの円領域であるが、その大きさや形状は適宜変更可能である。図の例では、ブロックの中央にピーク値を得る領域が設定されているが、踏み込み端、蹴りだし端に設定してもよい。
【0043】
<パターン2-3>
このパターンは、第1タイヤの第1陸のピーク値と、第2タイヤにおいて第1タイヤの第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸のピーク値とを取得して比較する方法である。このパターン2-3は、リブ基調の第1タイヤ及び第2タイヤの比較である。
図13は、パターン2-3のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図13の例では、第1タイヤのクォーターリブ122及び第2タイヤのクォーターリブ122それぞれに、ピーク値を得る領域が設定される。ピーク値を得る領域のタイヤ周方向の寸法が同一であり、且つタイヤ周方向の同位置に設定されている。これにより、第1タイヤの第1評価値、第2タイヤの第2評価値の2つの評価値を算出しているが、これに限定されない。
【0044】
<パターン2-4>
このパターンは、第1タイヤの第1陸のピーク値と、第2タイヤにおいて第1タイヤの第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸のピーク値とを取得して比較する方法である。このパターン2-4は、リブ基調の第1タイヤ及び第2タイヤの比較である。
図14は、パターン2-4のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図14の例では、第1タイヤのクォーターリブ122及び第2タイヤのクォーターリブ122それぞれに、ピーク値を得る領域が陸内の局所領域(直径2mmの円領域)に設定されている。局所領域は、陸のタイヤ軸方向の中央(リブのタイヤ軸方向中央)に配置される。これにより、第1タイヤの第1評価値、第2タイヤの第2評価値の2つの評価値を算出しているが、これに限定されない。
【0045】
<パターン2-5>
このパターンは、第1タイヤの第1陸のピーク値と、第2タイヤにおいて第1タイヤの第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸のピーク値とを取得して比較する方法である。このパターン2-5は、ブロック基調の第1タイヤ及びリブ基調の第2タイヤの比較である。
図15は、パターン2-5のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図15の例では、第1タイヤのクォーターブロック22及び第2タイヤのクォーターリブ122それぞれに、ピーク値を得る領域が陸内の局所領域(直径2mmの円領域)に設定されている。局所領域は、陸のタイヤ軸方向の中央(ブロックのタイヤ軸方向中央、リブのタイヤ軸方向中央)に配置される。これにより、第1タイヤの第1評価値、第2タイヤの第2評価値の2つの評価値を算出しているが、これに限定されない。
【0046】
<パターン2-6>
このパターンは、第1タイヤの第1陸のピーク値と、第2タイヤにおいて第1タイヤの第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸のピーク値とを取得して比較する方法である。このパターン2-6は、ブロック基調の第1タイヤ及びリブ基調の第2タイヤの比較である。
図16は、パターン2-6のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図16の例では、第1タイヤのクォーターブロック22及び第2タイヤのクォーターリブ122それぞれに、ピーク値を得る領域が設定されている。ピーク値を得る領域は、第1タイヤのクォーターブロック22の全域に設定され、第2タイヤのクォーターリブ122には、第1タイヤのクォーターブロック22に設定された領域と同一又は対応するサイズに設定されている。
【0047】
<パターン2-7>
このパターンは、第1タイヤの所定領域のピーク値と、第2タイヤの所定領域のピーク値とを比較する方法である。パターン2-7は、ブロック基調の第1タイヤ及びリブ基調の第2タイヤの比較である。
図17は、パターン2-7のタイヤトレッドパターン及びピーク値を得る領域の位置を示す模式的な図を示す。
図17の例では、所定領域は、タイヤ軸方向の位置が異なる複数の陸を含み、タイヤ周方向に所定長さを有する枠である。第1タイヤにおいて所定領域の設置位置によって所定領域に含まれるトレッドパターンが異なるため、タイヤ周方向の位置が異なる複数の所定領域それぞれのピーク値を算出して、平均化して第1タイヤの評価値としてもよい。
【0048】
[1]
以上のように、本実施形態のタイヤの陸剛性の評価方法は、タイヤの接地踏面の画像を複数回撮影することと、撮影された画像における陸に複数の特徴点を設定することと、複数枚の画像から明らかになる複数の特徴点の変位量の時系列変化に基づき、複数の特徴点のうちの少なくとも一部の特徴点の平均滑り速度の時系列変化を算出することと、平均滑り速度の時系列変化のうち、平均滑り速度が0となる粘着域から滑り域に移行した際に現れる平均滑り速度の変化のピーク値を、陸剛性の評価値として算出することと、を含む、としてもよい。
【0049】
タイヤの陸が接地する状態(粘着域)から解放される際に陸が変形状態から元に戻ろうとする挙動が、粘着域から滑り域に移行した際に平均滑り速度の変化のピーク値として現れる。よって、上記のように、平均滑り速度の変化のピーク値を、陸剛性の評価値として取得することで、陸剛性の評価が可能となる。
【0050】
[2]
上記[1]に記載のタイヤの陸剛性の評価方法において、接地踏面は、タイヤ周方向に延びる第1陸(ショルダーブロック23、ショルダーリブ123)と、第1陸とはタイヤ軸方向の異なる位置でタイヤ周方向に延びる第2陸(クォーターブロック22、クォーターリブ122)と、を含み、第1陸に含まれる複数の特徴点のピーク値を第1評価値として算出し、第2陸に含まれる複数の特徴点のピーク値を第2評価値として算出する、としてもよい。本実施形態では、パターン1-1,1-2,1-4,1-5が挙げられる。
【0051】
このようにすれば、1つのタイヤの中で、第1陸の第1評価値及び第1陸とはタイヤ軸方向の位置が異なる第2陸の第2評価値を算出するので、第1評価値及び第2評価値を参照してタイヤ内での陸剛性のバランスを評価可能となる。
【0052】
[3]
上記[1]に記載のタイヤの陸剛性の評価方法において、接地踏面は、タイヤ周方向に延びる第1陸(センターブロック21)を含み、第1陸(センターブロック21)に含まれる複数の特徴点は、第1特徴点群(ブロック中央)と、第1特徴点群とは異なる第2特徴点群(ブロック角部)とを含み、第1特徴点群(ブロック中央)のピーク値を第1評価値として算出し、第2特徴点群(ブロック角部)のピーク値を第2評価値として算出する、としてもよい。本実施形態では、パターン1-3が挙げられる。
【0053】
このようにすれば、同一陸内での陸剛性のバランスを評価可能となる。
【0054】
[4]
上記[1]に記載のタイヤの陸剛性の評価方法において、第1タイヤは、タイヤ周方向に延びる第1陸(ショルダーブロック23、ショルダーリブ123)を有し、第2タイヤは、タイヤ周方向に延び且つ第1陸とタイヤ軸方向の位置が同一又は対応する第2陸(ショルダーブロック23、ショルダーリブ123)を有し、第1陸に含まれる複数の特徴点のピーク値を第1評価値として算出し、第2陸に含まれる複数の特徴点のピーク値を第2評価値として算出する、としてもよい。本実施形態では、パターン2-1,2-2,2-3,2-4,2-5,2-6が挙げられる。
【0055】
このようにすれば、異なる第1タイヤと第2タイヤについて、陸剛性の比較評価が可能となる。
【0056】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0057】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0058】
(A)上記実施形態では、タイヤの制動状態の画像を撮影しているが、これに限定されない。例えば、駆動状態の画像を撮影してもよいし、旋回中や直進中の画像を撮影してもよい。
【0059】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0060】
工程S4及びS5を実行する算出部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステムは、一つのコンピュータのプロセッサにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0061】
システムは、プロセッサを含む。例えば、プロセッサは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システムは、システムのデータを格納するためのメモリを含む。一例では、メモリは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステムがアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0062】
10 評価装置。