(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040648
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】電気炉の補修方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20240318BHJP
F27B 14/06 20060101ALI20240318BHJP
F27B 3/14 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F27D1/16 F
F27B14/06
F27B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145122
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】田中 稜也
(72)【発明者】
【氏名】高田 謙三
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 勝
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
【テーマコード(参考)】
4K045
4K046
4K051
【Fターム(参考)】
4K045GB01
4K045RA16
4K046AA01
4K046AA02
4K046AA03
4K046CB08
4K046CB18
4K051AA05
4K051AB03
4K051AB05
4K051BB00
4K051BB03
4K051LC00
4K051LC06
4K051LG01
(57)【要約】
【課題】電気炉を補修する際の耐火物の廃棄量を削減することができる電気炉の補修方法を提供する。
【解決手段】鉄源を溶融させる電気炉において、操業を繰り返すことにより炉体の内張り耐火物に損耗部分が生じた場合に、損耗部分を補修する電気炉の補修方法は、損耗部分に流動性を有する補修用耐火物を充填させる工程と、次いで、電気炉の加熱源により炉体を加熱して補修用耐火物を焼結させる工程とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄源を溶融させる電気炉において、操業を繰り返すことにより炉体の内張り耐火物に損耗部分が生じた場合に、前記損耗部分を補修する電気炉の補修方法であって、
前記損耗部分に流動性を有する補修用耐火物を充填させる工程と、
次いで、前記電気炉の加熱源により前記炉体を加熱して前記補修用耐火物を焼結させる工程と、
を有することを特徴とする電気炉の補修方法。
【請求項2】
前記損耗部分が炉壁を含む場合に、前記補修用耐火物を充填させる工程は、前記炉壁の内側の少なくとも前記損傷部分を含む部分に対応するように鉄製シリンダ部材をセットし、前記鉄製シリンダ部材と前記損傷部分を含む部分の間に前記流動性を有する補修用耐火物を供給することを特徴とする請求項1に記載の電気炉の補修方法。
【請求項3】
前記補修用耐火物を焼結させて前記電気炉を補修した後、操業を繰り返すことにより前記内張り耐火物に損耗部分が再度生じた場合に、前記再度生じた前記損耗部分に前記補修用耐火物を充填させる工程と、前記再度生じた前記損耗部分の前記補修用耐火物を焼結させる工程とをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電気炉の補修方法。
【請求項4】
最初に生じた前記損耗部分および前記再度生じた前記損耗部分が、前記炉壁を含む場合に、
前記最初に生じた前記損耗部分に前記補修用耐火物を充填させる工程は、前記炉壁の内側の少なくとも前記最初に生じた前記損傷部分を含む部分に対応するように第1の鉄製シリンダ部材をセットし、前記第1の鉄製シリンダ部材と前記最初に生じた前記損傷部分を含む部分の間に前記流動性を有する補修用耐火物を供給し、
前記再度生じた前記損耗部分に前記補修用耐火物を充填させる工程は、前記炉壁の内側の少なくとも前記再度生じた前記損傷部分を含む部分に対応するように第2の鉄製シリンダ部材をセットし、前記第2の鉄製シリンダ部材と前記再度生じた前記損傷部分を含む部分の間に前記流動性を有する補修用耐火物を供給することを特徴とする請求項3に記載の電気炉の補修方法。
【請求項5】
前記補修用耐火物はシリカ系耐火物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電気炉の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄源を溶融させる電気炉は、鉄皮に耐火物が内張りされて構成されており、操業を繰り返すうちに内張り耐火物が熱により損耗し、補修が必要となる。従来、電気炉を補修する場合、熱により損耗した耐火物を解体除去し、新しい耐火物を用いて新たに築炉することが一般的である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような技術では解体除去された耐火物は廃棄せざるを得ず、大量の産業廃棄物を発生させてしまい、環境への悪影響を与えるとともに、経済的にも非効率である。
【0005】
そこで、本発明は、電気炉を補修する際の耐火物の廃棄量を削減することができる電気炉の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)~(5)の手段を提供する。
【0007】
(1)鉄源を溶融させる電気炉において、操業を繰り返すことにより炉体の内張り耐火物に損耗部分が生じた場合に、前記損耗部分を補修する電気炉の補修方法であって、
前記損耗部分に流動性を有する補修用耐火物を充填させる工程と、
次いで、前記電気炉の加熱源により前記炉体を加熱して前記補修用耐火物を焼結させる工程と、
を有することを特徴とする電気炉の補修方法。
【0008】
(2)前記損耗部分が炉壁を含む場合に、前記補修用耐火物を充填させる工程は、前記炉壁の内側の少なくとも前記損傷部分を含む部分に対応するように鉄製シリンダ部材をセットし、前記鉄製シリンダ部材と前記損傷部分を含む部分の間に前記流動性を有する補修用耐火物を供給することを特徴とする(1)に記載の電気炉の補修方法。
【0009】
(3)前記補修用耐火物を焼結させて前記電気炉を補修した後、操業を繰り返すことにより前記内張り耐火物に損耗部分が再度生じた場合に、前記再度生じた前記損耗部分に前記補修用耐火物を充填させる工程と、前記再度生じた前記損耗部分の前記補修用耐火物を焼結させる工程とをさらに有することを特徴とする(1)に記載の電気炉の補修方法。
【0010】
(4)最初に生じた前記損耗部分および前記再度生じた前記損耗部分が、前記炉壁を含む場合に、
前記最初に生じた前記損耗部分に前記補修用耐火物を充填させる工程は、前記炉壁の内側の少なくとも前記最初に生じた前記損傷部分を含む部分に対応するように第1の鉄製シリンダ部材をセットし、前記第1の鉄製シリンダ部材と前記最初に生じた前記損傷部分を含む部分の間に前記流動性を有する補修用耐火物を供給し、
前記再度生じた前記損耗部分に前記補修用耐火物を充填させる工程は、前記炉壁の内側の少なくとも前記再度生じた前記損傷部分を含む部分に対応するように第2の鉄製シリンダ部材をセットし、前記第2の鉄製シリンダ部材と前記再度生じた前記損傷部分を含む部分の間に前記流動性を有する補修用耐火物を供給することを特徴とする(3)に記載の電気炉の補修方法。
【0011】
(5)前記補修用耐火物はシリカ系耐火物であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の電気炉の補修方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気炉を補修する際の耐火物の廃棄量を削減することができる電気炉の補修方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気炉の補修方法に適用される電気炉の概略構造を示す断面図である。
【
図2】
図1の電気炉に損耗部分が生じた状態を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電気炉の補修方法を説明するための工程断面図である。
【
図4】炉壁の損耗部分に補修用耐火物を充填させるために、鉄製シリンダ部材をセットした状態を示す断面図である。
【
図5】
図4のように鉄製シリンダ部材をセットした後に、損耗部分を含む部分に補修用耐火物を充填させた状態を示す断面図である。
【
図6】
図5の状態から炉体を加熱して、補修用耐火物を焼結させ、鉄製シリンダ部材を溶融させた状態を示す断面図である。
【
図7】耐火物の炉底に形成された損耗部分に補修用耐火物を充填させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電気炉の補修方法に適用される電気炉の概略構造を示す断面図である。
図1に示すように、電気炉1は、炉体10と、加熱源(図示せず)を有する。炉体10は鉄源を溶解する容器であり、炉壁10aと炉底10bとを有する。鉄皮11に耐火物12が内張りされて構成されている。炉体10の上部開口10cにはフード14が設けられる。加熱源は、炉体10内の鉄源を溶融するものであり、例えば、誘導コイルが用いられる。
【0015】
電気炉1にて操業を繰り返すことにより、内張りされた耐火物12は熱により損耗し、
図2に示すように、耐火物12に予め設定された厚さよりも薄くなった損耗部分15が生じた場合に、電気炉1の補修を行う。
【0016】
従来は、特許文献1に示すように、熱により耐火物に損耗部分が生じた場合は、耐火物を解体除去し、新しい耐火物を用いて新たに築炉することが一般的である。しかし、解体除去された耐火物は廃棄せざるを得ず、大量の産業廃棄物を発生させてしまい、環境への悪影響を与えるとともに、経済的にも非効率である。
【0017】
そこで、本実施形態では、
図3に示すように、損耗部分15を含む部分に流動性を有する補修用耐火物16を充填させ、次いで、電気炉1の図示しない加熱源により炉体10を加熱し、補修用耐火物16を焼結させて焼結耐火物17とする。補修用耐火物16は、例えば流動性を有する粉体の状態で充填される。補修用耐火物16としては、例えば、シリカ系耐火物を用いることができる。
【0018】
このように、本実施形態では、損耗部分15を含む部分を解体せずに、流動性を有する補修用耐火物16の充填と、補修用耐火物16の焼結とにより部分築炉を行う。これにより、電気炉を補修する際の耐火物の廃棄量を削減することができ、環境への悪影響や経済的な非効率性を低減することができる。
【0019】
本実施形態において、耐火物12の損耗部分15が
図2に示すように炉壁10aを含む場合には、そのままでは損耗部分15へ補修用耐火物16を充填させ難い場合があるので、
図4に示すように、炉壁10aの内側の少なくとも損傷部分15を含む部分に対応するように鉄製シリンダ部材20をセットすることが好ましい。そして、
図5に示すように、鉄製シリンダ部材20と損傷部分15を含む部分の間に流動性を有する補修用耐火物16を供給し、充填させる。
【0020】
補修用耐火物16の焼結は、加熱源により鉄の溶融温度以上、例えば1600℃以上に炉体10を加熱することにより行われる。補修用耐火物16の焼結は電気炉1の操業の際に行ってもよい。鉄製シリンダ部材20を用いて補修用耐火物16を充填した場合には、炉体を加熱することにより、
図6に示すように、補修用耐火物16が焼結して焼結耐火物17となり、鉄製シリンダ部材20は溶融して鉄源となる。
【0021】
耐火物12の炉底10bに形成された損耗部分15に対しては、
図7に示すように、鉄製シリンダ部材とは無関係に、単純に補修用耐火物16が充填される。
【0022】
本実施形態の部分築炉により電気炉1の補修を行った後、操業を繰り返すことにより耐火物12に損耗部分が再度生じ、補修が必要となる。この場合は、再度生じた損耗部分に補修用耐火物を充填させ、再度充填された補修用耐火物を焼結させる、従前の手法と同様の部分築炉により電気炉1を補修することができる。このように再度部分築炉による電気炉1の補修を行うことにより、この際にも耐火物の解体による廃棄が生じないので、耐火物の廃棄量をより削減することができる。
【0023】
再度生じた損耗部分が、炉壁を含む場合には、同様に、炉壁10aの内側の少なくとも再度生じた損傷部分を含む部分に対応するように第2の鉄製シリンダ部材をセットし、第2の鉄製シリンダ部材と再度生じた損耗部分を含む部分の間に流動性を有する補修用耐火物を供給すればよい。このとき、損耗部分の位置や大きさの違いに応じて、第2の鉄製シリンダ部材を適宜の形状にすることにより再度の部分築炉が可能となる。
【0024】
このような部分築炉による補修を行う場合には、損耗部分に補修用耐火物を充填する手法をとるため、炉壁や炉底の厚さのコントロール等の問題により、部分築炉の回数は制限されるが、鉄製シリンダ部材の形状の工夫等により、上記のように再度の部分築炉が可能であり、場合によっては3回以上行うことができる。回数が増えるほど耐火物の廃棄量を削減する効果が高くなる。なお、部分築炉を1回または複数回行って、それ以上部分築炉が行えなくなった場合には、耐火物を解体除去し、新たに築炉を行う。
【実施例0025】
以下、本発明の実施例について説明する。
ここでは、電気炉として、炉本体の内径1500mm、高さ3000mmの15t低周波誘導炉を用いた。初期段階で炉壁耐火物の厚さが120mm、炉底耐火物の厚さが300mmであり、操業時の炉電力を2400kWにして鉄源を溶解する操業を行った。78回操業を繰り返し行い、炉電力が2400kWから3000kWになったタイミングで本発明の実施例である部分築炉による電気炉の補修を行った。このときの炉壁耐火物の厚さは76.5mm、炉底低下物の厚さは257mmであった。損耗部分の位置に対応して高さ1500mm、内径1120mmの鉄製シリンダ部材を炉体内に設置し、鉄製シリンダ部材と炉壁との間に、流動性を有する補修用耐火物を流し込み、充填させた。その状態で次の操業を行った。流動性を有する補修用耐火物としては、SiO2に微量のB2O3を添加したものを用いた。SiO2は、流動性を確保するために複数種類のものを配合した。
【0026】
これにより、補修用耐火物が焼結され、補修後の炉壁耐火物の厚さは140mm、炉底耐火物の厚さは257mmとなり、部分築炉が達成された。鉄製シリンダ部材は溶融されて溶鋼の一部となった。