(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040650
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】アキシャルギャップ型回転電機、ステータコア、ステータコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/14 20060101AFI20240318BHJP
H02K 21/24 20060101ALI20240318BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H02K1/14 Z
H02K21/24 G
H02K21/24 M
H02K1/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145124
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】木下 創
【テーマコード(参考)】
5H601
5H621
【Fターム(参考)】
5H601AA16
5H601AA25
5H601CC01
5H601CC05
5H601CC15
5H601DD09
5H601DD12
5H601EE19
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB13
5H601GB48
5H601HH02
5H621BB02
5H621BB07
5H621BB10
5H621GA04
5H621GA12
5H621JK03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、ステータコアの磁気特性を改善することが可能なアキシャルギャップ型回転電機を提供することである。
【解決手段】アキシャルギャップ型回転電機100は、回転軸線Laを中心に回転可能なロータ2と、回転軸線Laに平行な軸方向にロータ2と対向して配置されるステータコア4と、ステータコア4に装着されるコイル8と、を備える。ステータコア4は、複数の軟磁性線材41からなる線材集合体42を含み、線材集合体42は、線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された第1部分421を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心に回転可能なロータと、
前記回転軸線に平行な軸方向に前記ロータと対向して配置されるステータコアと、
前記ステータコアに装着されるコイルと、
を備え、
前記ステータコアは、複数の軟磁性線材からなる線材集合体を含み、
前記線材集合体は、線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された第1部分を有する、アキシャルギャップ型回転電機。
【請求項2】
前記第1部分は、磁化容易方向が変化する程度に熱処理が施されている、請求項1に記載のアキシャルギャップ型回転電機。
【請求項3】
前記線材集合体は、前記第1部分とは線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が異なる第2部分を有する、請求項1または2に記載のアキシャルギャップ型回転電機。
【請求項4】
前記第1部分は、軸方向と交差する方向に延びる軟磁性線材の集合体であり、前記第2部分は、軸方向に伸びる軟磁性線材の集合体である、請求項3に記載のアキシャルギャップ型回転電機。
【請求項5】
前記第1部分は、前記第2部分の周りに巻回される軟磁性線材の集合体である、請求項4に記載のアキシャルギャップ型回転電機。
【請求項6】
複数の軟磁性線材からなる線材集合体を含むステータコアであって、
前記線材集合体は、線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された第1部分と、前記第1部分とは線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が異なる第2部分と、を有する、ステータコア。
【請求項7】
請求項6に記載のステータコアの製造方法であって、
軟磁性線材を第1温度で熱処理して前記第1部分となる第1中間体を形成することと、
前記第2部分となる軟磁性線材を所定の形状の第2中間体に加工することと、
前記第1中間体と前記第2中間体を結合させることと、
前記第1中間体と前記第2中間体を前記第1温度より低温の第2温度で熱処理することと、
を含む、ステータコアの製造方法。
【請求項8】
前記第2温度は、800℃未満である、請求項7に記載のステータコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型回転電機、ステータコアおよびステータコアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータとステータとが軸方向に対向配置されたアキシャルギャップ型回転電機が知られている。例えば特許文献1には、ロータと、ロータに対して空隙を介して軸方向に対向配置されたステータとを備えるアキシャルギャップ型回転電機が記載されている。ステータは、周方向に配置された複数のステータコアと、各ステータコアの周囲に巻回された複数のコイルとを含む。ステータコアは、軟磁性材料からなる複数の線材が軸方向に沿って束ねられた束状コアと、複数の線材のうち少なくとも一部が傾斜した変形コアとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転電機の性能を向上する観点から、回転電機の鉄心材料として、透磁率が高く、鉄損が少なく、飽和磁束密度が高いなどの優れた磁気特性を備えた軟磁性材料が求められる。しかし、ステータコアの磁気特性を改善するという観点から、特許文献1は十分な開示がなされていない。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、ステータコアの磁気特性を改善することが可能なアキシャルギャップ型回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のアキシャルギャップ型回転電機は、回転軸線を中心に回転可能なロータと、回転軸線に平行な軸方向にロータと対向して配置されるステータコアと、ステータコアに装着されるコイルと、を備える。ステータコアは、複数の軟磁性線材からなる線材集合体を含む。線材集合体は、線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された第1部分を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステータコアの磁気特性を改善することが可能なアキシャルギャップ型回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るアキシャルギャップ型回転電機を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図1のアキシャルギャップ型回転電機のステータを示す平面図である。
【
図3】
図2のステータのステータコアを示す平面図である。
【
図4】
図3のステータコアのA-A線に沿った断面図である。
【
図6】軟磁性線材の熱処理の温度推移を示す図である。
【
図7】軟磁性線材の熱処理温度と磁化容易方向の変化を示す図である。
【
図8】
図2のステータコアの製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
図面を参照して実施形態に係るアキシャルギャップ型回転電機100(以下、「回転電機100」ということがある)の構成を説明する。なお、本明細書では、回転部を有する電気機械を「回転電機」といい、回転電機は、電動機、発電機、電動機兼発電機を含む。この例の回転電機100は電動機、発電機または電動機兼発電機として使用できる。
【0013】
図1は、回転電機100の一例を模式的に示す側面図である。回転電機100は、ロータ2と、ステータ3を備える。ロータ2は、回転軸線Laを中心に回転可能に設けられる。以下、回転軸線Laに平行な方向を軸方向(図中で上下方向)といい、回転軸線Laと直交する平面において回転軸線Laに直交する方向を径方向といい、回転軸線Laを中心とする円の周方向を「周方向」という。
図1で上側を「上」といい、その反対側を「下」ということがある。このような方向の表記は回転電機100の姿勢を制限するものではなく、回転電機100は任意の姿勢で使用されうる。
【0014】
図1の例では、回転電機100は、2つのロータ2と1つのステータ3を備えるいわゆるダブルロータ構造である。回転電機100では、2つのロータ2が1つのステータ3の上下両側に配置される。ロータ2は、軸受手段28によって、回転軸線Laを中心にして回転可能に支持されている。ロータ2とステータ3とは、軸方向にエアギャップを介して対向する。
【0015】
ロータ2は、ロータヨーク22と、円環状のマグネット24と、シャフト12とを有する。ロータヨーク22は、軟磁性を有する円板である。シャフト12は、回転軸線Laに沿った棒状のステンレス部材で、ロータヨーク22の中心を貫通して配置され、ロータヨーク22に固定される。マグネット24は、ロータヨーク22に接着固定される。マグネット24は、ステータコア4と対向する対向面25に、周方向に所定の間隔で配置された複数(例えば10個)の駆動磁極26を有する。一例として、実施形態のマグネット24は、ネオジウム磁石である。マグネット24は、駆動磁極26から磁路に磁束Fを供給する。駆動磁極26は、磁束Fの矢印の出る側がN極であり、入る側がS極である。
【0016】
例えば、上下2のマグネット24は、一方のマグネット24の駆動磁極26がN極である場合、他方のマグネット24の駆動磁極26がS極になるように配置される。磁束(以下、単に「磁束F」という)は一方のN極から他方のS極に向かって軸方向に流れる。
【0017】
図2も参照してステータ3を説明する。
図2は、回転電機100のステータ3を示す平面図である。ステータ3は、ステータ支持部材33と、複数のステータコア4と、複数のコイル8とを有する。ステータ支持部材33は、非磁性材料からなる円板状の部材である。この非磁性材料として、樹脂素材、炭素素材、ガラス素材、非磁性金属素材、セラミック素材などを採用できる。ステータ支持部材33の中心には軸受手段28が設けられ、軸受手段28にはシャフト12が上下に挿通される。軸受手段28は転がり軸受である。この構成により、ステータ3は、ロータ2を回転可能に支持できる。
【0018】
複数(例えば6個)のステータコア4は、周方向に所定の間隔(例えば60°間隔)でステータ支持部材33に接着固定される。この例では、ステータコア4は、ステータ支持部材33に設けられた孔34に挿通され、ステータ支持部材33の上下に突出する。コイル8は、ステータ支持部材33の上下両側において、ステータコア4それぞれに設けられる。この例のコイル8は、樹脂被覆された銅線がステータコア4に巻回された巻線で、三相電機子巻線として構成される。
【0019】
ステータコア4は、エアギャップを挟んで複数の駆動磁極26と対向する。つまり、ステータコア4は、ロータ2と対向して配置される。ステータコア4は、駆動磁極26からの磁束Fの磁路(磁束Fの通り路)を構成する。複数のコイル8は、複数のステータコア4それぞれに巻回される。複数のコイル8は、ステータコア4を通る磁束Fと鎖交する。ステータコア4とコイル8は電磁石として機能する。
【0020】
図3、
図4、
図5を参照してステータコア4を説明する。
図3は、ステータコア4を示す平面図であり、
図4は、ステータコア4のA-A線に沿った断面図である。
図5は、
図4の円Hの部分を拡大して示す図であり、符号Jで示す磁化容易方向と、符号Fで示す磁束Fの流れを示している。ステータコアを板材や箔材から製造する場合、加工困難性や鉄損増加等の問題を生じることがある。そこで、実施形態のステータコア4は、複数の軟磁性線材41からなる線材集合体42を含んで構成される。
【0021】
軟磁性線材41は、所望の磁気特性を得る観点から、主成分の鉄(Fe)に所定の添加元素を含有できる。この添加元素としては、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)等が挙げられる。この例の軟磁性線材41は、主成分の鉄(Fe)に0.1質量%~6.0質量%のシリコン(Si)を含有する。添加元素の種類と含有率は、所望の特性に応じて、実験またはシミュレーションにより設定できる。
【0022】
軟磁性線材41は、素材を引き抜き加工などの塑性加工によって、所望の太さの線材に延伸して形成できる。軟磁性線材41の外径(断面に外接する円の直径)は、大きすぎると渦電流損が増え、小さすぎると生産性が低下する。これらから、軟磁性線材41の外径は、所望の特性を得るように実験またはシミュレーションにより設定できる。軟磁性線材41の断面形状は、円形、楕円形、多角形等であってもよい。軟磁性線材41の外表面は、渦電流損を減らす観点から絶縁されてもよい。
【0023】
軟磁性線材41は、加工歪みを減らすため、延伸加工後に所定の熱処理が施される。軟磁性線材41は、磁化容易方向(磁気モーメントが向き易い方向)と、磁化困難方向(磁気モーメントが向き難い方向)とが存在する磁気異方性を有する。軟磁性線材41は、延伸加工によって、磁化容易方向が延伸方向に近づく。
【0024】
図6、
図7も参照する。本発明者は、軟磁性線材41の磁化容易方向について研究し、熱処理によって磁化容易方向を制御することが可能であるとの知見を得た。
図6は、軟磁性線材の熱処理における温度推移を示す図である。この図は、4種類の熱処理B、C、D、Eの温度推移を示しており、熱処理B、C、D、Eの保持温度はそれぞれ800℃、850℃、900℃、1000℃である。また、熱処理B、C、D、Eの加熱時間、保持温度を保持する時間、および冷却時間(徐冷時間)は、所望の特性を得るように実験またはシミュレーションにより設定できる。なおこのような温度推移によって、保持温度X℃で熱処理することを「X℃で熱処理する」ということがある。加熱時間、保持時間および冷却時間は、下記の作用を実現可能な範囲で、任意に変更できる。
【0025】
図7は、軟磁性線材の熱処理温度と磁化容易方向の変化を示す図である。
図7(A)は、熱処理前(未処理)の状態を示し、
図7(B)は、熱処理Bを施した状態を示し、
図7(C)は、熱処理Cを施した状態を示し、
図7(D)は、熱処理Dを施した状態を示し、
図7(E)は、熱処理Eを施した状態を示す。
図7において、X0は延伸方向の磁化容易性を示し、Y0は延伸方向に直交する方向の磁化容易性を示す。磁化容易性は1(最も磁束Fを通し難い)~5(最も磁束Fを通しやすい)にランク付けして示される。つまり、磁化容易性ランク(以下、単に「ランク」という)が高い領域は磁束Fを通しやすく、ランクが低い領域は磁束Fを通し難い。
【0026】
図7の符号001、101、111は、ミラー指数による方位を示している。
図7(A)、(B)に示すように、未処理および熱処理Bでは、X0はランク4またはランク5の領域を含み、Y0はランク4またはランク5の領域を殆ど含まない。
図7(C)、(D)、(E)に示すように、熱処理C、D、Eでは、X0はランク4またはランク5の領域を含み、Y0はランク4またはランク5の領域を含む。また、図には示していないが、保持温度950℃では、
図7(D)および(E)と同様の結果であった。
【0027】
つまりこの例では、保持温度850℃未満の熱処理をしたものは、磁化容易方向は、軟磁性線材の延伸方向に存在し、延伸方向に直交する方向には存在しないが、保持温度850℃以上の熱処理をしたものは、軟磁性線材の延伸方向に直交する方向にも磁化容易方向が存在するといえる。なお、この磁化容易方向は、結晶方位[100]方向に平行な方向として把握することが可能である。つまり、熱処理によって磁化容易方向を制御することが可能である。磁化容易方向を制御することは、相変化が発生する変態点以上の高温での熱処理により実現できると考えられる。このように、磁化容易方向を制御することが可能な熱処理の保持温度を第1温度T1ということがある。
【0028】
ステータコア4の磁気特性は、マグネット24からの磁束Fが通る方向に関して良好であることが望ましい。このため、実施形態の線材集合体42は、軟磁性線材41の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された部分(以下、「第1部分421」という)を有する。第1部分421は、未処理に対して、磁化容易方向が変化する程度に熱処理(例えば、保持温度850℃以上の熱処理C、D、E)が施されている。
【0029】
線材集合体42は、部位ごとに異なる磁化容易方向を有する部分を備えてもよい。そこで、実施形態の線材集合体42は、第1部分421とは線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が異なる第2部分422を有する。この例では、第2部分422は、保持温度850℃未満の熱処理(例えば、熱処理B)が施された部分である。第1部分421は、磁化容易方向が変化する保持温度で熱処理されており、
図5で示すように、磁化容易方向Jは線材の延伸方向に対して直交する方向に存在する。第2部分422は、磁化容易方向が変化する温度よりも低い保持温度で熱処理されており、
図5で示すように、磁化容易方向Jは線材の延伸方向に沿った方向に存在する。
【0030】
図3、
図4、
図5を参照して第1部分421と第2部分422を説明する。第2部分422は、軸方向に延伸する軟磁性線材の集合体であり、この例では、ステータコア4の軸方向寸法に切断された軟磁性線材41を束ねた部分である。第1部分421は、軸方向と交差する方向に延びる軟磁性線材の集合体であり、この例では、第2部分422の周りに巻回される軟磁性線材41の集合体である。各ステータコア4の第1部分421は、単一の軟磁性線材41で形成されてもよいし、複数の軟磁性線材41で形成されてもよい。
【0031】
ステータコア4の第1部分421が、駆動磁極26と対向するとき、
図5で示すように、駆動磁極26から供給された磁束Fは、軟磁性線材41の筒状側面から反対側の側面に通過する。この磁束Fの経路は軟磁性線材41の延伸方向に対して直交する方向であるから、磁束Fは軟磁性線材41の磁化容易方向Jに沿って通過する。この結果、第1部分421は、相対的に良好な磁気特性を発揮できる。
【0032】
ステータコア4の第2部分422が、駆動磁極26と対向するとき、
図5で示すように、駆動磁極26から供給された磁束Fは、軟磁性線材41の端面から反対側の端面に通過する。この磁束Fの経路は軟磁性線材41の延伸方向であるから、磁束Fは軟磁性線材41の磁化容易方向Jに通過する。この結果、第2部分422は、相対的に良好な磁気特性を発揮できる。
【0033】
このように構成された回転電機100の動作を説明する。回転電機100が電動機である場合、コイル8には図示しない駆動回路から三相駆動電流が供給される。これにより、ステータコア4の軸方向端面には回転磁界が発生し、この回転磁界とロータ2の駆動磁極26との相互作用により、ロータ2に回転トルクが出力される。
【0034】
回転電機100が発電機である場合、ロータ2が回転すると、駆動磁極26とステータコア4との位置関係が順次変化する。このことにより、駆動磁極26からステータコア4に供給される磁束量(コイル8との磁束鎖交数)が正弦波状に変化し、コイル8から三相交流電圧が出力される。
【0035】
図8を参照して、ステータコア4の製造工程の一例を説明する。
図8は、ステータコア4の製造工程S110を概略的に示すフローチャートである。
【0036】
まず、軟磁性線材41となる素材を準備する(ステップS111)。
【0037】
準備された素材を、引き抜き加工などの塑性加工によって、所望の太さの線材に延伸する(ステップS112)。このステップで、軟磁性線材41が形成される。軟磁性線材41の表面に絶縁被膜を形成してもよい。
【0038】
所定形状に加工した軟磁性線材41を第1温度T1で熱処理して第1部分421となる第1中間体を形成する(ステップS113)。例えば、第1中間体は、軟磁性線材41を巻枠(治具)に巻回した後、巻枠を外すことにより形成できる。変態点は800℃から850℃の間にあると考えられることから、一例として、第1温度T1は800℃以上で好ましくは850℃以上の温度である。
【0039】
軟磁性線材41を所定形状に加工して第2部分422となる第2中間体を形成する(ステップS114)。例えば、第2中間体は、軟磁性線材41を所定の長さの直線線材に切断し、切断後の直線線材を所定数束ねて形成できる。
【0040】
第1中間体と第2中間体を結合させる(ステップS115)。
【0041】
第1中間体と第2中間体を第1温度T1より低温の第2温度T2で熱処理する(ステップS116)。例えば、第2温度T2は800℃未満の温度である。
【0042】
第2温度T2で熱処理された第1中間体と第2中間体の結合体はステータコア4である。
【0043】
製造工程S110の各ステップは例示であり、各種の変形が可能である。また、第1中間体と第2中間体を第2温度T2で熱処理した後に結合してもよい。なお、第1温度T1で熱処理し磁化容易方向を制御したものは、第1温度T1より低温の変態点以下で熱処理しても、磁化容易方向を維持することが判明している。
【0044】
以上のように構成された回転電機100の特徴を説明する。回転電機100は、回転軸線Laを中心に回転可能なロータ2と、回転軸線Laに平行な軸方向にロータ2と対向して配置されるステータコア4と、ステータコア4に装着されるコイル8と、を備える。ステータコア4は、複数の軟磁性線材41からなる線材集合体42を含み、線材集合体42は、線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された第1部分421を有する。
【0045】
この構成によれば、磁化容易方向を制御することにより、磁束Fが通る方向に適した磁気特性を得ることができる。この結果、回転電機100について、効率の向上、出力トルクの増大、小型化などの効果が期待できる。
【0046】
一例として、実施形態の第1部分421は、磁化容易方向が変化する程度に熱処理が施されている。この場合、熱処理により磁化容易方向を変えることにより、磁化容易方向の制御が可能になる。
【0047】
一例として、実施形態の線材集合体42は、第1部分421とは線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が異なる第2部分422を有する。この場合、線材集合体42の各パートについて、磁束Fが通る方向に適する磁化容易方向を選択できる。
【0048】
一例として、実施形態の第1部分421は、軸方向と交差する方向に延びる軟磁性線材41の集合体であり、第2部分422は、軸方向に伸びる軟磁性線材41の集合体である。この場合、第1部分421および第2部分422は、それぞれで磁束Fが通る方向に適した磁化容易方向を選択できる。
【0049】
一例として、実施形態の第1部分421は、第2部分422の周りに巻回される軟磁性線材41の集合体である。この場合、第1部分421と第2部分422の緊密な結合を期待できる。
【0050】
ステータコア4は、複数の軟磁性線材41からなる線材集合体42を含むステータコア4であって、線材集合体42は、線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が制御された第1部分421と、第1部分421とは線材の延伸方向と磁化容易方向との関係が異なる第2部分422と、を有する。
【0051】
この構成によれば、線材集合体42の各パートについて、磁束Fが通る方向に適する磁化容易方向を選択できる。
【0052】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0053】
(変形例)
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0054】
上記の説明では、ステータコア4が第1部分421と第2部分422とで構成される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ステータコアは第1部分のみで構成されてもよい。
【0055】
上記の説明では、第1部分421が、巻回による周回形状を有する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1部分は、直線形状、U字形状、C字形状等であってもよい。
【0056】
上記の説明では、回転電機100がダブルロータ構造である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、回転電機は、1つのロータと1つのステータを備える構造であってもよいし、1つのロータを2つのステータで挟む構造であってもよい。
【0057】
上記の説明では、マグネット24が回転軸線Laを囲む円環部材である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、マグネットは、駆動磁極ごとに分割されたセグメント磁石であってもよい。セグメント磁石の形状としては、円形、楕円形、台形、扇形等を採用できる。
【0058】
上記の説明では、マグネット24がネオジウム磁石である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、マグネットは、ネオジウムとは別の希土類元素を主要な成分とする希土類磁石やフェライト磁石であってもよいし、プラスチック磁石であってもよい。
【0059】
上記の説明では、ステータ支持部材33は、非磁性材料からなる例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ステータ支持部材は、電磁鋼板など軟磁性体を含んでもよい。
【0060】
上記の説明では、軸受手段28が転がり軸受である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、軸受手段は、含油メタル軸受等の滑り軸受であってもよい。
【0061】
これらの各変形例は、実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0062】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0063】
2 ロータ、 3 ステータ、 4 ステータコア、 8 コイル、 24 マグネット、 26 駆動磁極、 41 軟磁性線材、 42 線材集合体、 421 第1部分、 422 第2部分、 100 アキシャルギャップ型回転電機。