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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040655
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】故障予測システムおよび故障予測方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G05B23/02 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145129
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕介
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA11
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF33
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF52
3C223GG01
3C223HH03
3C223HH08
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】機器故障の予測精度に優れた故障予測技術を提供する。
【解決手段】故障予測システム1は、複数回の作動を繰り返す機器10の故障予測を行うものであり、機器10の起動から停止までに要した作動時間tを1回毎に検出する作動時間検出部21と、作動時間検出部21で検出された作動時間tに基づいて機器10の任意の第n回目から第(n+2)回目までの作動時間tの推移情報Iを導出する推移情報導出部22と、推移情報導出部22で導出された推移情報Iに基づいて作動時間tが第n回目から第(n+2)回目まで連続して上昇したと判定したときに機器10の故障発生時期が近いと予測する故障予測部23と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数回の作動を繰り返す機器の故障予測を行う故障予測システムであって、
上記機器の起動から停止までに要した作動時間を1回毎に検出する作動時間検出部と、
上記作動時間検出部で検出された上記作動時間に基づいて上記機器の任意の第n回目から第(n+2)回目までの上記作動時間の推移情報を導出する推移情報導出部と、
上記推移情報導出部で導出された上記推移情報に基づいて上記作動時間が上記第n回目から上記第(n+2)回目まで連続して上昇したと判定したときに上記機器の故障発生時期が近いと予測する故障予測部と、
を備える、故障予測システム。
【請求項2】
上記推移情報導出部は、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出するように構成され、
上記故障予測部は、上記推移情報導出部で導出された上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測するように構成されている、
請求項1に記載の故障予測システム。
【請求項3】
上記推移情報導出部は、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出するように構成され、
上記故障予測部は、上記推移情報導出部で導出された上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれ、且つ上記上昇曲線の延長線上にくると推定される上記第(n+3)回目の上記累積作動時間が予め定められた管理上限値を超えるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測するように構成されている、
請求項1に記載の故障予測システム。
【請求項4】
上記上昇曲線は、二次曲線或いは二次曲線で近似される近似曲線を構成するものである、請求項2または3に記載の故障予測システム。
【請求項5】
上記故障予測部による予測結果をユーザに対して報知出力する報知出力部を備える、請求項2または3に記載の故障予測システム。
【請求項6】
複数回の作動を繰り返す機器の故障予測を行う故障予測方法であって、
上記機器の起動から停止までに要した作動時間を作動時間検出部によって1回毎に検出する作動時間検出ステップと、
上記作動時間検出ステップで検出した上記作動時間に基づいて上記機器の任意の第n回目から第(n+2)回目までの上記作動時間の推移情報を推移情報導出部によって導出する推移情報導出ステップと、
上記推移情報導出ステップで導出した上記推移情報に基づいて上記作動時間が上記第n回目から上記第(n+2)回目まで連続して上昇したと判定したときに上記機器の故障発生時期が近いと故障予測部によって予測する故障予測ステップと、
を有する、故障予測方法。
【請求項7】
上記推移情報導出ステップでは、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出し、
上記故障予測ステップでは、上記推移情報導出ステップで導出した上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測する、
請求項6に記載の故障予測方法。
【請求項8】
上記推移情報導出ステップでは、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出し、
上記故障予測ステップでは、上記推移情報導出ステップで導出した上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれ、且つ上記上昇曲線の延長線上にくると推定される上記第(n+3)回目の上記累積作動時間が予め定められた管理上限値を超えるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測する、
請求項6に記載の故障予測方法。
【請求項9】
上記上昇曲線は、二次曲線或いは二次曲線で近似される近似曲線を構成するものである、請求項7または8に記載の故障予測方法。
【請求項10】
上記故障予測ステップによる予測結果を報知出力部によってユーザに対して報知出力する報知出力ステップを有する、請求項7または8に記載の故障予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の故障を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の生産設備では、繰り返し作動する多数の機器が使用されている。このため、各機器の故障は、生産設備の長時間停止の要因に成り得る。設備故障を管理するために、例えば、下記特許文献1には、設備故障診断方法が開示されている。この設備故障診断方法は、設備の1サイクルの動作状況に基づいて故障の発生を判定したときに、この設備故障に関与した機器を特定して表示する技術である。この設備故障診断方法によれば、故障の発見に要する労力を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-189026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生産設備の長時間停止を避けるためには、機器故障が発生する前に異常を把握して対処する技術が求められる。これに対して、上記の設備故障診断方法は、既に故障に至った機器を特定する技術であって機器が故障に至る前の異常を判定するものではないところ、上述の問題を解決するための対策として採用するのが難しい。また、各機器を事前にメンメンテナンスし、その後の累積作動時間の管理上限値を定めて稼働保証を実施するようにしても、各機器の故障は、累積作動時間の管理上限値に到達するまでの期間であっても関係なく発生し得るため、設備管理上の本質的な問題解決に成り得ない。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、機器故障の予測精度に優れた故障予測技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
複数回の作動を繰り返す機器の故障予測を行う故障予測システムであって、
上記機器の起動から停止までに要した作動時間を1回毎に検出する作動時間検出部と、
上記作動時間検出部で検出された上記作動時間に基づいて上記機器の任意の第n回目から第(n+2)回目までの上記作動時間の推移情報を導出する推移情報導出部と、
上記推移情報導出部で導出された上記推移情報に基づいて上記作動時間が上記第n回目から上記第(n+2)回目まで連続して上昇したと判定したときに上記機器の故障発生時期が近いと予測する故障予測部と、
を備える、故障予測システム、
にある。
【0007】
本発明の別の態様は、
複数回の作動を繰り返す機器の故障予測を行う故障予測方法であって、
上記機器の起動から停止までに要した作動時間を作動時間検出部によって1回毎に検出する作動時間検出ステップと、
上記作動時間検出ステップで検出した上記作動時間に基づいて上記機器の任意の第n回目から第(n+2)回目までの上記作動時間の推移情報を推移情報導出部によって導出する推移情報導出ステップと、
上記推移情報導出ステップで導出した上記推移情報に基づいて上記作動時間が上記第n回目から上記第(n+2)回目まで連続して上昇したと判定したときに上記機器の故障発生時期が近いと故障予測部によって予測する故障予測ステップと、
を有する、故障予測方法、
にある。
【0008】
上述の各態様では、複数回の作動を繰り返す機器の作動時間が1回毎に検出される。また、検出された作動時間に基づいて機器の任意の第n回目から第(n+2)回目までの作動時間の推移情報が導出される。そして、導出した推移情報に基づいて作動時間が第n回目から第(n+2)回目まで3回連続して上昇したと判定したときに機器の故障発生時期が近いと予測する。これにより、機器の直近の連続3回分の作動時間の推移を比較して機器の故障発生を予測することができ、機器の仕様上の保証上限値や、機器のメンテナンス時に設定された保証上限値などに頼らない精度の高い故障予測を行うことが可能になる。その結果、機器の故障発生前に異常に対処することができ、複数の機器を備える生産設備の長時間停止の発生を抑制できる。
【0009】
以上のごとく、上述の各態様によれば、機器故障の予測精度に優れた故障予測技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1の故障予測システムの構成図。
図2図1中の故障予測部における故障予測処理の考え方について説明するための図。
図3図2を部分的に拡大して示す図。
図4】実施形態1の故障予測方法のフローチャートを示す図。
図5】実施形態2について図2に対応した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0012】
上述の態様の故障予測システムにおいて、上記推移情報導出部は、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出するように構成され、上記故障予測部は、上記推移情報導出部で導出された上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測するように構成されているのが好ましい。
【0013】
この故障予測システムによれば、機器の作動時間から導出された散布図を使用して累積作動時間の第n回目から第(n+2)回目まで3点データと上昇曲線との関係に基づいて機器の故障予測を行うことができる。
【0014】
上述の態様の故障予測システムにおいて、上記推移情報導出部は、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出するように構成され、上記故障予測部は、上記推移情報導出部で導出された上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれ、且つ上記上昇曲線の延長線上にくると推定される上記第(n+3)回目の上記累積作動時間が予め定められた管理上限値を超えるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測するように構成されているのが好ましい。
【0015】
この故障予測システムによれば、機器の直近の連続3回分の作動状況に加えて、管理上限値をもその故障予測に反映させることができ、機器の直近の連続3回分の作動状況のみに基づいて分析する場合に比べて、故障予測精度を高めることができる。
【0016】
上述の態様の故障予測システムにおいて、上記上昇曲線は、二次曲線或いは二次曲線で近似される近似曲線を構成するものであるのが好ましい。
【0017】
この故障予測システムによれば、上昇曲線を比較的単純な二次曲線或いはその近似曲線とすることで、累積作動時間の第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれるか否かを判定する処理を簡素化することができる。
【0018】
上述の態様の故障予測システムは、上記故障予測部による予測結果をユーザに対して報知出力する報知出力部を備えるのが好ましい。
【0019】
この故障予測システムによれば、機器の故障発生時期が近いことを生産設備の現場のユーザに速やかに知らせることができる。
【0020】
上述の態様の故障予測方法において、上記推移情報導出ステップでは、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出し、上記故障予測ステップでは、上記推移情報導出ステップで導出した上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測するのが好ましい。
【0021】
この故障予測方法によれば、散布図において累積作動時間の第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データと上昇曲線との関係に基づいて機器の故障予測を行うことができる。
【0022】
上述の態様の故障予測方法において、上記推移情報導出ステップでは、上記機器の作動回数を横軸とし上記作動時間の累積値である累積作動時間を縦軸とする散布図を上記推移情報として導出し、上記故障予測ステップでは、上記推移情報導出ステップで導出した上記散布図において上記累積作動時間の上記第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれ、且つ上記上昇曲線の延長線上にくると推定される上記第(n+3)回目の上記累積作動時間が予め定められた管理上限値を超えるときに上記機器の故障発生時期が近いと予測するのが好ましい。
【0023】
この故障予測方法によれば、機器の直近の連続3回分の作動状況に加えて、管理上限値をもその故障予測に反映させることができ、機器の直近の連続3回分の作動状況のみに基づいて分析する場合に比べて、故障予測精度を高めることができる。
【0024】
上述の態様の故障予測方法において、上記上昇曲線は、二次曲線或いは二次曲線で近似される近似曲線を構成するものであるのが好ましい。
【0025】
この故障予測方法によれば、上昇曲線を比較的単純な二次曲線或いはその近似曲線とすることで、累積作動時間の第n回目から上記第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線で結ばれるか否かを判定する処理を簡素化することができる。
【0026】
上述の態様の故障予測方法は、上記故障予測ステップによる予測結果を報知出力部によってユーザに対して報知出力する報知出力ステップを有するのが好ましい。
【0027】
この故障予測方法によれば、機器の故障発生時期が近いことを生産設備の現場のユーザに速やかに知らせることができる。
【0028】
以下、複数回の作動を繰り返す機器の故障予測を行う技術を具現化するための実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0029】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1にかかる故障予測システム1は、車両の生産設備に設けられるものであり、制御盤11と、データサーバー14と、設備管理装置20と、を備えている。
【0030】
各制御盤11は、制御対象である機器10に電気的に接続されている。機器10として典型的には、モータ、シリンダなどの作動機器が挙げられる。制御盤11には、機器10の起動及び停止を検知する複数のセンサ12が搭載されている。複数のセンサ12によるデータDは、入出力時間計測器13(以下、単に「計測器13」という。)で計測される。計測器13が計測したデータDは、データサーバー14に伝送されて蓄積される。このデータDには、機器10の実際の起動及び停止のタイミングを特定できるセンサ情報(例えば、センサ12から機器10への入力信号の出力時刻、機器10からセンサ12への出力信号の検出時刻、各センサ12のON時間及びOFF時間など)が含まれている。データサーバー14に蓄積されたデータDは、無線方式或いは有線方式の通信回線NTを介して設備管理装置20に伝送される。
【0031】
設備管理装置20は、既知のCPU(Central Processing Unit)、ROM、RAM、外部機器との間での入出力を行うインターフェース等を有するコンピュータ装置である。この設備管理装置20は、デスクトップ型若しくはノート型のパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、モバイル端末などによって構成されるのが好ましい。
【0032】
設備管理装置20は、計測器13が計測したデータDに基づいて、故障予測システム1の本質的な機能、すなわち複数回の作動を繰り返す機器10の故障予測を行う機能を果たすものである。この設備管理装置20は、作動時間検出部21と、推移情報導出部22と、故障予測部23と、報知出力部24と、を備えている。
【0033】
計測器13によれば、機器10の起動から停止までに要した作動時間tに関する情報が作動1回毎に計測される。ここでいう「1回」を「1サイクル」ということもできる。このときの作動時間tは、作動時間検出部21が前述のデータDを用いて演算処理することによって検出される。すなわち、作動時間検出部21は、計測器13との協働によって、機器10の起動から停止までに要した作動時間tを1回毎に検出するように構成されている。推移情報導出部22は、作動時間tの推移情報It(後述の散布図S)を導出するように構成されている。故障予測部23は、後述の所定の判定結果に基づいて、機器10の故障発生時期が近いと予測するように構成されている。報知出力部24は、故障予測部23による予測結果をユーザに対して報知出力するように構成されている。
【0034】
次に、設備管理装置20による具体的な処理内容を、図2図4を参照しつつ説明する。なお、実施形態1の故障予測方法は、機器10の故障予測を行う方法であり、図4の第1ステップS101から第4ステップS104までのステップを順次実行することによって可能になる。本形態では、これらのステップの全てを設備管理装置20が実行するのが好ましい。
【0035】
作動時間検出部21は、図4中の第1ステップS101(作動時間検出ステップ)によって、機器10の作動時間tを検出する。推移情報導出部22は、引き続いて、図4中の第2ステップS102(推移情報導出ステップ)によって、作動時間検出部21で検出された作動時間tに基づいて連続した任意の3回分の作動時間tの推移情報Itを導出する。推移情報導出部22は、機器10の任意の第n回目から第(n+2)回目までの作動時間tの推移情報Itとして散布図S図2を参照)を導出する。そして、故障予測部23は、図4中の第3ステップS103(故障予測ステップ)によって、散布図Sを用いて故障予測処理を行う。
【0036】
ここで、図2中の散布図Sについて説明する。この散布図Sは、機器10の作動回数Nを横軸とし作動時間tの累積値である累積作動時間Tを縦軸とするものである。この散布図Sにおいて、横軸の作動回数Nの間隔は一定である。本形態では、機器10の第(n-1)回目から第(n+3)回目までの作動回数Nについて、作動回数Nと累積作動時間Tとの相関を示す散布図Sが例示されている。
【0037】
この散布図Sにおいて、機器10が異常のない正常な状態で運転されているときには、その機器10の可動部分(図示省略)のあたりが付くまでの初期状態を除いて、各回の累積作動時間Tを結ぶと右肩上がりの直線である基準線Lrになる。すなわち、機器10の作動時間tが全ての回で概ね一定となる。ところが、機器10に異常が出始めると、次回までの累積作動時間Tの上昇分(すなわち、実際に要した作動時間t)が増える。この場合、累積作動時間Tの前回と次回との時間差が正常時の時間差ΔTを上回る。図2では、累積作動時間T(n+1)と累積作動時間T(n)の時間差Aと、累積作動時間T(n+2)と累積作動時間T(n+1)の時間差Bはいずれも、正常時の時間差ΔTを上回っている。
【0038】
故障予測部23による故障予測処理は、図2の散布図Sに基づいて作動時間tが第n回目から第(n+2)回目まで3回連続して上昇したと判定したときに機器10の故障発生時期が近いと予測する処理である。作動時間tが連続して上昇したことの判定は、具体的には、散布図Sにおいて累積作動時間Tの第n回目から第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線Lで結ばれるか否かによって行われる。そして、これら3点データが上昇曲線Lで結ばれるときに機器10の故障発生時期が近いと予測し、そうでない場合には機器10がその後直ぐには故障に至らないと予測する。
【0039】
ここでいう「上昇曲線L」とは、第n回目から第(n+2)回目までの範囲で実質的に下に凸であり且つ微分係数(各プロット点における接線に傾きが)が常に正の曲線をいう。このとき、微分係数は一定でもあっても一定でなくてもよい。この上昇曲線Lは、典型的には、係数が正の二次曲線或いはこの二次曲線で近似される近似曲線を構成するものであるのが好ましい。上昇曲線Lを比較的単純な二次曲線或いはその近似曲線とすることで、上記3点データが上昇曲線Lで結ばれるか否かを判定する処理を簡素化することができる。一方で、上昇曲線Lは、二次曲線やその近似曲線のみに限定されるものではなく、必要に応じてその他の曲線を適用してもよい。
【0040】
上記3点データがこのような上昇曲線Lで結ばれるときには、この上昇曲線Lの延長線上(すなわち、図2中の二点鎖線で示される曲線上)に第(n+3)回目の累積作動時間T(n+3)がプロットされると推定される(図2中の□プロットを参照)。したがって、累積作動時間Tが第(n+3)回目に大幅に増えて、予め定められた管理上限値ULを超える可能性が高い。管理上限値ULとして、典型的には、機器10の仕様上の保証上限値、或いは機器10のメンテナンス時に設定された保証上限値が挙げられる。このため、累積作動時間Tが管理上限値ULを超えると機器10が実際に故障に至る可能性が高い。
【0041】
そこで、本形態は、上記3点データと上昇曲線Lとの関係に基づいて機器10の故障予測を行うものであり、上記3点データが上昇曲線Lで結ばれるときに、機器10の故障発生時期が近いと予測するようにしている。そして、直近の連続3回分の累積作動時間Tを1セットとして予測を継続する。これにより、管理上限値ULを使用することなく、機器10の直近の連続3回分の作動状況を常時に分析して、その分析結果を機器10の故障予測に反映させることができる。
【0042】
また、これに代えて、上記3点データが上昇曲線Lで結ばれ、且つ上昇曲線Lの延長線上にくると推定される第(n+3)回目の累積作動時間T(n+3)と第(n+2)回目の累積作動時間T(n+2)との時間差が時間差B(図2を参照)の2倍以上であるときに、機器10の故障発生時期が近いと予測するようにしてもよい。これにより、機器10の故障予測の精度を高めるのに有効である。
【0043】
或いは、上記3点データが上昇曲線Lで結ばれ、且つ上昇曲線Lの延長線上にくると推定される第(n+3)回目の累積作動時間T(n+3)が管理上限値ULを超えるときに、機器10の故障発生時期が近いと予測するようにしてもよい。これにより、機器10の直近の連続3回分の作動状況に加えて、管理上限値ULをもその故障予測に反映させることができる。この場合、機器10の直近の連続3回分の作動状況のみに基づいて分析する場合に比べて、故障予測精度を高めることができる。
【0044】
これに対して、図2の一部である図3に示されるように、上記3点データが上昇曲線Lで結ばれない例として、例えば、直線Laで結ばれる第1比較例、曲線Lbで結ばれる第2比較例、曲線Lcで結ばれる第3比較例などが挙げられる。
【0045】
第1比較例では、累積作動時間Tが第n回目から第(n+2)回目まで3回連続して上昇しているものの上記3点データが直線Laで結ばれるため、本形態の上昇曲線Lとは本質的に異なる。作動時間Tは第n回目から第(n+2)回目まで一定である。この場合、累積作動時間Tの上昇率は、第n回目の前後で変化しており、第n回目以降で大きくなってはいるが、第n回目から第(n+2)回目まで一定の上昇率で推移しているため、機器10が一義的に異常状態であるとはいえない。
【0046】
第2比較例では、曲線Lbは、上に凸の曲線であり、本形態の上昇曲線Lに該当しない。また、第3比較例では、曲線Lcは、上昇曲線Lと同様に下に凸の曲線であるものの、第n回目から第(n+1)回目までの範囲で曲線Lc微分係数(各プロット点における接線に傾きが)が負であるため、本形態の上昇曲線Lと差別化される。
【0047】
なお、特に図示しないものの、散布図Sにおいて上記3点データが上昇曲線Lで結ばれるか否かの判定は、設備管理装置20に予め実装された既知のプログラムや人工知能によるAIモデル(学習済みモデル)などを使用して自動的に行うのが好ましい。また、これに代えて或いは加えて、ユーザが散布図Sを視認して直に判定するようにしてもよい。
【0048】
報知出力部24は、図4中の第4ステップS104(報知出力ステップ)によって、故障予測部23による予測結果を報知出力する。ここでいう「報知出力」には、画面表示出力、音声出力、警報出力、印字出力などの各種の出力形態が広く包含される。これにより、機器10の故障発生時期が近いことを生産設備の現場のユーザに速やかに知らせることができる。
【0049】
次に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0050】
実施形態1では、複数回の作動を繰り返す機器10の作動時間tが1回毎に検出される。また、検出された作動時間tに基づいて機器10の任意の第n回目から第(n+2)回目までの作動時間tの推移情報Itが導出される。そして、導出した推移情報It(散布図S)に基づいて作動時間tが第n回目から第(n+2)回目まで3回連続して上昇したと判定したときに機器10の故障発生時期が近いと予測する。これにより、機器10の直近の連続3回分の作動時間tの推移を比較して機器10の故障発生を予測することができ、機器10の仕様上の保証上限値ULや、機器のメンテナンス時に設定された保証上限値ULなどに頼らない精度の高い故障予測を行うことが可能になる。その結果、機器10の故障発生前に異常に対処することができ、複数の機器10を備える生産設備の長時間停止の発生を抑制できる。
【0051】
なお、連続2回分の作動時間tの推移を比較するようにすると、異常であるか誤差変動であるかの判別が難しく、また連続4回分以上の作動時間tの推移を比較するようにすると、累積作動時間Tが大きく上昇して機器10が既に故障に至っている可能性が高い。このため、いずれも機器10の故障前に異常を把握する有効な対策に成り得ない。
【0052】
以上のように、実施形態1によれば、機器故障の予測精度に優れた故障予測システム1及び故障予測方法を提供することができる。
【0053】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0054】
(実施形態2)
実施形態2の故障予測システム及び故障予測方法は、実施形態1のものと基本的に同じである。一方で、図5に示されるように、推移情報導出部22が推移情報It(図1を参照)として導出する散布図S’が実施形態1の散布図S図2を参照)とは異なる。
【0055】
散布図S’は、機器10の作動回数Nを横軸とし作動時間tを縦軸とするものである。この散布図S’において、横軸の作動回数Nの間隔は一定である。本形態では、機器10の第(n-1)回目から第(n+3)回目までの作動回数Nについて、作動回数Nと累積作動tとの相関を示す散布図S’が例示されている。
【0056】
この散布図S’において、機器10が異常のない正常な状態で運転されているときには、機器10の作動時間tが全ての回で概ね一定であり、各回の作動時間tを結ぶと水平な基準線Mrになる。ところが、機器10に異常が出始めると、実際に要した作動時間tが増える。この場合、作動時間tの前回と次回との時間差が正の値になる。図2では、作動時間t(n+1)と作動時間t(n)の時間差Aと、作動時t(n+2)と作動時間t(n+1)の時間差Bはいずれも、正の値になっている。
【0057】
故障予測部23(図1を参照)による故障予測処理は、図5の散布図S’に基づいて作動時間tが第n回目から第(n+2)回目まで3回連続して上昇したと判定したときに機器10の故障発生時期が近いと予測する処理である。作動時間tが連続して上昇したことの判定は、具体的には、散布図S’において作動時間tの第n回目から第(n+2)回目まで3点データが上昇曲線Mで結ばれるか否かによって行われる。そして、これら3点データが上昇曲線Mで結ばれるときに機器10の故障発生時期が近いと予測し、そうでない場合には機器10がその後直ぐには故障に至らないと予測する。
【0058】
ここでいう「上昇曲線M」とは、実施形態1の上昇曲線Lと同様に、第n回目から第(n+2)回目までの範囲で実質的に下に凸であり且つ微分係数(各点における接線に傾きが)が常に正の曲線をいう。上記3点データがこのような上昇曲線Mで結ばれるときには、この上昇曲線Mの延長線上(すなわち、図5中の二点鎖線で示される曲線上)に第(n+3)回目の作動時間t(n+3)がプロットされると推定される(図5中の□プロットを参照)。
【0059】
本形態では、実施形態1の場合と同様に、上記3点データが上昇曲線Mで結ばれるときに、機器10の故障発生時期が近いと予測するようにしている。また、これに代えて、上記3点データが上昇曲線Mで結ばれ、且つ上昇曲線Mの延長線上にくると推定される第(n+3)回目の累積作動時間T(n+3)と第(n+2)回目の累積作動時間T(n+2)との時間差が時間差B(図5を参照)の2倍以上であるときに、機器10の故障発生時期が近いと予測するようにしてもよい。或いは、上記3点データが上昇曲線Mで結ばれ、且つ上昇曲線Mの延長線上にくると推定される第(n+3)回目の累積作動時間T(n+3)が管理上限値ULを超えるときに、機器10の故障発生時期が近いと予測するようにしてもよい。
【0060】
その他の構成及び方法は、実施形態1と同様である。
【0061】
実施形態2によれば、機器10の作動時間から導出された散布図S’を使用して作動時間tの第n回目から第(n+2)回目まで3点データと上昇曲線Mとの関係に基づいて機器10の故障予測を行うことができる。
【0062】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0063】
本発明は、上述の形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の各形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0064】
上述の形態では、故障予測部23(故障予測ステップ)による予測結果を報知出力部24(報知出力ステップ)でユーザに報知出力する場合について例示したが、これに代えて、予測結果を単にデータ出力するようにしてもよい。
【0065】
上述の形態では、車両の生産設備で用いる故障予測システム1及び故障予測について例示したが、生産設備の種類は特に限定されるものではなく、これらの技術を車両以外の生産設備における機器故障の予測技術に適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
1 故障予測システム
10 機器
21 作動時間検出部
22 推移情報導出部
23 故障予測部
24 報知出力部
t,t(n-1),t(n),t(n+1),t(n+2),t(n+3) 作動時間
It 作動時間の推移情報
L 上昇曲線
N 作動回
S,S’ 散布図(推移情報)
S101 作動時間検出ステップ
S102 推移情報導出ステップ
S103 故障予測ステップ
S104 報知出力ステップ
T,T(n-1),T(n),T(n+1),T(n+2),T(n+3) 累積作動時間
UL 管理上限値
図1
図2
図3
図4
図5